説明

破砕装置

【課題】モータへの負荷を低減できる回転拘束手段を備えた破砕装置を提供する。
【解決手段】破砕装置の回転拘束手段が、回転軸と傾斜軸との交差位置において傾斜軸に直交する第1軸に関して回動可能に、環状体の外縁に一端が取り付けられた一対の第1部材と、第2軸を軸心とする部材であって、第2軸に関して回動可能に、その両端が一対の第1部材のそれぞれの他端と連結された第2部材と、第2部材の長手方向における中央部分に一端が連結された第3部材と、第3部材の他端に連結された球面部と、球面部を回動可能に支持するとともに装置基台に固定された球面支持部とを有する球面軸受け部と、により構成されるリンク機構を備える。これにより、回転拘束手段により、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、第3部材、および球面軸受け部にて吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、植物の組織や種子類、動物の組織、有機材料、無機材料などを分析するために破砕する破砕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の破砕装置では、微生物や植物の組織などの対象物を破砕用媒体(例えば、微小ビーズ)とともに破砕容器内に収容して、破砕容器に対して複数の方向の往復運動を与えることにより、破砕容器内において破砕用媒体を対象物に衝突させて、対象物を破砕する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の破砕装置の構成について、図8を用いて説明する。
【0004】
図8に示すように、従来の破砕装置は、鉛直方向に配置された回転軸108にその軸心に対し軸心が傾斜した傾斜軸体111に固定し、傾斜軸体111に相対回転自在に軸受けを介して支持された環状体115に環状保持体120を取り付け、環状保持体120の円周方向に対象物と破砕用媒体とを収容した複数の破砕容器130を保持させている。また、環状体115は、磁石116と対極磁石118との間の磁力により、その回転が拘束されている。
【0005】
この状態にて回転軸108を回転させると、傾斜軸体111が回転軸108まわりに回転されるが、傾斜軸体111まわりの環状体115の回転は磁力により拘束されているため、環状体115の周縁部分が周期的に鉛直方向に揺動する。これにより、環状保持体120に保持されているそれぞれの破砕容器130が複数の方向に往復振動されて、その結果、破砕容器130内の対象物が破砕用媒体により効率的に破砕される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−87778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の破砕装置では、傾斜軸体111まわりの環状体115の回転を拘束する手段として、環状体115に固定された磁石116と、装置基台側に固定された対極磁石118との間に生じる磁力が用いられている。このように磁力を用いることにより、環状体115に対して非接触にて回転を拘束することができる。
【0008】
しかしながら、環状体115の回転については磁力により拘束されるものの、環状体115の周縁部分の鉛直方向の揺動は磁力に抗して行われることになる。そのため、環状体115の回転を拘束する手段として磁力を用いるような構成では、回転軸108を回転駆動させるモータに対して常に負荷がかかり、モータの耐久性やエネルギ効率の観点からも好ましくない。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決することにあって、モータへの負荷を低減できる回転拘束手段を備えた破砕装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0011】
本発明の第1態様によれば、モータにより回転駆動される回転軸と、回転軸に対して傾斜して固定された傾斜軸と、傾斜軸まわりに相対回転可能に軸受け部を介して傾斜軸に支持された環状体と、複数の破砕容器を環状体の周方向に配置して保持させる保持部材と、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束する回転拘束手段とを備え、回転拘束手段は、回転軸と傾斜軸との交差位置において傾斜軸に直交する第1軸に関して回動可能に、環状体の外縁に一端が取り付けられた一対の第1部材と、第2軸を軸心とする部材であって、第2軸に関して回動可能に、その両端が一対の第1部材のそれぞれの他端と連結された第2部材と、第2部材の長手方向における中央部分に一端が連結された第3部材と、第3部材の他端に連結された球面部と、球面部を回動可能に支持するとともに装置基台に固定された球面支持部とを有する球面軸受け部と、により構成されるリンク機構であって、回転拘束手段は、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、第3部材、および球面軸受け部にて吸収する、破砕装置を提供する。
【0012】
本発明の第2態様によれば、傾斜軸と平行な第3軸に関して回動可能に、第3部材の一端が第2部材の中央部分に連結されている、第1態様に記載の破砕装置を提供する。
【0013】
本発明の第3態様によれば、回転軸は鉛直方向に配置され、回転拘束手段のリンク機構における第2部材の中央部分は、回転軸と傾斜軸との交差位置よりも低い位置に配置される、第1態様または第2態様に記載の破砕装置を提供する。
【0014】
本発明の第4態様によれば、回転拘束手段のリンク機構において、第1部材、第2部材、第3部材、および球面軸受け部のいずれかの1つの部材が他の1つの部材と弾性部材を介して連結される、第1態様から第3態様のいずれか1つに記載の破砕装置を提供する。
【0015】
本発明の第5態様によれば、モータにより回転駆動される回転軸と、回転軸に対して傾斜して固定された傾斜軸と、傾斜軸まわりに相対回転可能に軸受け部を介して傾斜軸に支持された環状体と、複数の破砕容器を環状体の周方向に配置して保持させる保持部材と、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束する回転拘束手段とを備え、回転拘束手段は、回転軸と傾斜軸との交差位置において傾斜軸に直交する第1軸に関して回動可能に、環状体の外縁に一端が取り付けられた一対の第1部材と、第2軸を軸心とする部材であって、第2軸に関して回動可能に、両端が一対の第1部材のそれぞれの他端と連結された第2部材と、傾斜軸および第1軸と直交する軸に関して第2部材が回動可能に、一端が第2部材の中央部分に連結され、他端が装置基台に支持された第3部材と、により構成されるリンク機構であって、回転拘束手段は、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、および第3部材にて吸収する、破砕装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転拘束手段により、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、および第3部材、あるいはさらに球面軸受け部にて吸収することができる。すなわち、リンク機構における各部材間の連結部分における回動を用いて、環状体の回転拘束および揺動に伴う各部材の動作を吸収することができる。よって、回転軸を駆動するモータへの負荷を低減させながら、環状体の回転を拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一の実施の形態にかかる細胞破砕装置の側面図
【図2】実施の形態の細胞破砕装置の側面図
【図3】実施の形態の細胞破砕装置の平面図
【図4】図2の細胞破砕装置におけるA−A線断面図
【図5】図1の破砕部の拡大側面図
【図6】リンク機構をモデル化した模式図
【図7A】リンク機構の動作説明図
【図7B】リンク機構の動作説明図
【図7C】リンク機構の動作説明図
【図7D】リンク機構の動作説明図
【図8】従来の細胞破砕装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態)
(細胞破砕装置の全体構成)
本発明の一の実施の形態にかかる破砕装置の一例として、細胞破砕装置1の全体構成を図1から図3に示す。図1から図3において、鉛直方向をZ方向、水平面内において互いに直交する2つ方向をX方向およびY方向とする。図1は細胞破砕装置1をY方向から見た側面図(一部断面図)であり、図2はX方向から見た側面図(一部断面図)であり、図3はZ方向から見た平面図である。なお、図1の細胞破砕装置1と、図2の細胞破砕装置1とは、後述する破砕部の回転位置が異なる状態にあり、また、装置構成を理解し易いように後述するホルダの位置などを調整して示している。
【0020】
図1から図3に示すように、本実施の形態の細胞破砕装置1は、装置全体の外装部材2内に配置されたケーシング3と、ケーシング3内に配置された破砕部4と、ケーシング3の外部下方に配置され、回転駆動力を付与可能に破砕部4と連結された駆動部5と、外装部材2の前面に配置され、破砕部4および駆動部5の動作を制御するとともに作業者による操作が行われる制御部6とを備えている。
【0021】
駆動部5は、その駆動軸7aがZ方向(鉛直方向)上向きに配置されたモータ7と、モータ7の駆動軸7aと破砕部4の回転軸10とを連結して、駆動軸7aの回転駆動を回転軸10に伝達するカップリング8と、モータ7およびカップリング8など駆動部5のそれぞれの構成部をケーシング3に支持させる支持部材9とを備えている。
【0022】
破砕部4は、駆動部5のモータ7の駆動軸7aとカップリング8を介して連結されてZ方向に配置された回転軸10と、回転軸10に対して傾斜して固定された傾斜軸11と、傾斜軸11まわりに相対回転可能に軸受け部12を介して傾斜軸11に支持された環状体13とを備えている。傾斜軸11の軸心L11は、Z方向に配置された回転軸10の軸心L10に対して、角度θだけ傾斜して配置されている。環状体13は、平坦面である上面が傾斜軸11の軸心L11に対して直交するように傾斜軸11に軸受け部12を介して外嵌めされているため、環状体13の上面は、水平面に対して角度θだけ傾斜して配置される。なお、回転軸10は、ケーシング3に固定された支持ブロック14に軸受け部15を介して回転可能に支持されている。
【0023】
環状体13は例えば円環形状(リング形状)を有しており、環状体13の円周状外縁部分には、周方向に複数の破砕容器16を保持する環状の保持部材17が脱着可能に取り付けられている。破砕容器16は、例えば、細長い円筒形状の容器であり、蓋部材を螺合させることでその内部がシール部材を介して密閉可能とされている。保持部材17の外縁には、それぞれの破砕容器16をその内部に収容して支持する複数のホルダ18が取り付けられている。なお、ホルダ18内に破砕容器16が収容された状態では、破砕容器16の長手方向が傾斜軸11の軸心L11と平行に配置される。すなわち、破砕容器16は、その長手方向がZ方向に対して角度θだけ傾斜した状態にて、ホルダ18を介して保持部材17に取り付けられる。なお、このような傾斜角度θは、例えば、数度〜十数度程度の範囲の角度に設定される。
【0024】
図3に示すように、本実施の形態の細胞破砕装置1では、保持部材17の円周方向に均等な間隔にて3個のホルダ18が配置されており、3個の破砕容器16を収容することが可能となっている。なお、破砕容器16の収容数量は、装置仕様などに応じて適切な個数に設定され、またその大きさ(容量)についても破砕する対象物の材質や仕様に応じて、例えば、数ml〜数十ml程度の容積のものが用いられる。破砕容器16内には、破砕する対象物と破砕用媒体とが収容されるが、破砕する対象物のみが収容されるような場合であっても良い。なお、本実施の形態では、保持部材17とホルダ18とがそれぞれ別の部材として構成されている場合を例として説明するが、保持部材とホルダとの形態は、その他様々な構成を採り得る。例えば、保持部材17とホルダ18とを一体に構成しても良い。また、ホルダ18内に複数の破砕容器を収容させるような構成を採用しても良い。
【0025】
破砕部4は、回転軸10が軸心L10まわりに回転駆動され、それに伴って傾斜軸11も回転軸10の軸心L10まわりに回転駆動される。このように傾斜軸11が回転駆動されるような場合であっても、軸受け部12を介して傾斜軸11に対して相対回転可能に支持されている環状体14が傾斜軸11まわりに回転しないように、環状体13の回転を拘束する回転拘束手段が、破砕部4には備えられている。本実施の形態の細胞破砕装置1では、この回転拘束手段はリンク機構により実現されており、詳細については後述する。
【0026】
ケーシング3の中央底部には、モータ7の駆動軸7aと破砕部4の回転軸10とを連結するためなどに必要な開口部3aが設けられているが、この開口部3aは必要最小限度として、開口部3aの隙間がゴム部材などを用いて遮蔽されることが好ましい。また、ケーシング3の底部には、ケーシング3の内部を洗浄する際に洗浄水を装置外部に排出する排水管19が設けられている。
【0027】
また、破砕部4のそれぞれのホルダ18には、ホルダ18内に収容された破砕容器16を冷却するための冷却水(あるいは冷却液)を循環させる冷却配管20が接続されており、この冷却配管20は装置外部の冷却水供給源あるいは循環装置などの接続可能とされている。冷却配管20の途中にはバルブ23が設けられており、このバルブ23を操作することにより、冷却水の循環/循環停止などの操作を行うことができる。なお、冷却配管20において、ホルダ18との接箇所の近傍部分は、ホルダ18の動作を阻害しないようにフレキシブル配管が採用されている。
【0028】
制御部6には、破砕部4および駆動部5の動作を制御するための各種制御基板21と、作業者による装置の操作を行うための操作パネル22とが備えられている。
【0029】
このような構成の細胞破砕装置1において、モータ7の駆動軸7aより回転軸10に対して回転駆動力が伝達されると、回転軸10の軸心L10に対して傾斜して配置された傾斜軸11が、回転軸10の軸心L10まわりに回転駆動される。傾斜軸11が回転駆動されると、回転軸10の軸心L10と傾斜軸11の軸心L11との交差位置Pを中心として、傾斜軸11の上方側および下方側の部分が、回転軸10の軸心L10まわりに旋回運動を行う。
【0030】
一方、傾斜軸11まわりに相対回転可能に軸受け部12を介して傾斜軸11に支持されている環状体13は、回転拘束手段によりその回転が拘束されている。そのため、傾斜軸11が回転軸10の軸心L10まわりに旋回(回転)されると、傾斜軸11の旋回運動に合わせて、環状体13の外周縁部が周期的に上下方向に揺動される。これにより、それぞれのホルダ18内に収容されている破砕容器16が上下方向に揺動されて揺れ運動を行う。その結果、破砕容器16内の対象物が破砕用媒体と衝突する動きが繰り返されて、対象物が破砕される。特に、このような揺れ運動では、直線一方向のみではない往復運動(複数方向への往復運動とも言える。)が繰り返されるため、効率的な破砕が可能となる。なお、モータ7の回転数としては、例えば、0回転/分より大きな回転数であって、5000回転/分以下の範囲にて、破砕対象物の仕様などに応じて設定される。
【0031】
(リンク機構の構造)
ここで、破砕部4の構成として、特に回転拘束手段であるリンク機構の構成について詳細に説明する。説明にあたって、図2の細胞破砕装置1におけるA−A線断面図を図4に示し、図1の破砕部4の拡大側面図(一部断面図)を図5に示す。
【0032】
図4および図5に示すように、回転拘束手段であるリンク機構30は、環状体13の外転にそれぞれの一端31aが取り付けられた一対の第1リンク部材(第1部材)31と、その両端32aが一対の第1リンク部材31のそれぞれの他端31bと連結された第2リンク部材(第2部材)32と、第2リンク部材32を可動可能に、長手方向における中央部分にて第2リンク部材32にその一端33aが連結された第3リンク部材(第3部材)33と、第3リンク部材33の他端33bと連結されるとともに、装置基台(例えば、支持ブロック14)に固定された球面軸受け部34とを備えて構成される。なお、一対の第1リンク部材31および第2リンク部材32は、共に棒状部材として構成される。
【0033】
一対の第1リンク部材31は、回転軸10の軸心L10と傾斜軸11の軸心L11との交差位置Pを通過しかつ傾斜軸11の軸心L11(あるいは回転軸10の軸心L10)に直交する第1軸L1に関して回動可能に、第1軸L1が通過する環状体13の外縁部分に、それぞれの一端31aが取り付けられている。
【0034】
第2リンク部材32は、第2軸L2を軸心とするリンク部材であり、第2リンク部材32の両端32aは、一対の第2リンク部材31のそれぞれの他端31bと、第2軸L2まわりに相対回転可能に連結されている。
【0035】
第3リンク部材33は、傾斜軸11の軸心L11と平行(すなわち同じ方向)に配置された第3軸L3に関して相対回転可能に、第2リンク部材32の中央部分にて、その一端33aが連結されている。
【0036】
球面軸受け部34は、球面部34aと、球面部34aを回動可能に支持する環状の球面支持部34bとにより構成されている。球面支持部34bの環状の中心が、回転軸10の軸心L10と傾斜軸11の軸心L11との交差位置Pに向かって配置されるように、球面支持部34bが支持ブロック14に固定されている。第3リンク部材33の他端33bは球面部34aに連結されており、球面部34aとの連結位置を基準として、第3リンク部材33の一端33aが可動可能とされている。
【0037】
また、第2リンク部材32と球面軸受け部34との間には、弾性部材35が介在されており、回転拘束に伴う慣性力をこの弾性部材35にて吸収する。弾性部材35としては、樹脂材料やバネ部材などを採用できる。また、第3リンク部材33と球面軸受け部34との間に、このような弾性部材を配置しても良い。
【0038】
特に図5に示すように、本実施の形態では、第1リンク部材31は水平方向に対して傾斜して配置されており、第1リンク部材31の他端31b(第2リンク部材32との連結側)は、一端31a(環状体13との連結側)よりも低い位置に位置されている。このように配置することにより、環状体13の外周縁部などの揺動部分がリンク機構30と干渉することを防止できる。
【0039】
また、特に図4に示すように、一対の第1リンク部材31の他端31b間の距離は、一端31a間の距離よりも短くなるように、第1リンク部材31は曲げられた構造を有している。このような構成を採用することにより、回転軸10や傾斜軸11の径の大きさなどに影響を受けることなく、第2リンク部材32の長さを短くできる。よって、リンク機構30全体を小型化することができ、リンク機構30が他の構成部材と干渉することを防止できる。
【0040】
(リンク機構の動き)
次に、このような構成のリンク機構30を用いて、環状体13の揺動をリンク機構30における各部材の運動(動作)として吸収しながら、傾斜軸11まわりの環状体13の回転を拘束する、リンク機構30の動きについて説明する。この説明にあたって、リンク機構30の各部材をモデル化した模式構成図を図6に示し、リンク機構30の具体的な動きをモデルにて示す説明図を図7A〜図7Dに示す。
【0041】
まず、図6のリンク機構30のモデル化について説明する。図6に示す模式構成図では、リンク機構30の各部材の動きが理解し易いように、各部材を線状の部材として示してモデル化している。
【0042】
図6の図面中央では、図4にて示したリンク機構30の平面図上にモデル化された各部材を重ねて配置して、モデル化した部材と実際の部材との関係が理解できるように示している。図面中央に対して右側および左側には、一対の第1リンク部材31を側面から見た状態をそれぞれ示している。図面中央に対して下側には、第2リンク部材32を側面(手前側)から見た状態を示している。なお、このモデル化では、一対の第1リンク部材31の一端同士を連結する仮想的なリンク部材として、第0リンク部材36を示している。この第0リンク部材36は、第1軸L1をその軸心とするリンク部材であり、図面中央に対して下側に、第2リンク部材32とともに第0リンク部材36を側面から見た状態を示している。
【0043】
図示実線にて示される各リンク部材の位置はある状態での位置を示しており、図示点線にて各リンク部材の動作範囲を示している。なお、このモデル化においては、一対の第1リンク部材31は直線状のリンク部材として示しており、それに伴って第2リンク部材32の長さも長く示されている。
【0044】
図6に示すように、傾斜軸11が回転方向Rに回転される場合には、リンク機構30の一対の第1リンク部材31より環状体13に対して回り止め力Fが付与され、環状体13の回転が拘束される。環状体13では回転は拘束されているが、傾斜軸11の回転に伴って、その外周縁部が周期的に上下方向に揺動される。具体的には、環状体13の外周縁部における位置Aが高位置、位置Cが低位置となった後、位置Bが高位置、位置Dが低位置となり、その後、位置Cが高位置、位置Aが低位置となり、さらにその後、位置Dが高位置、位置Bが低位置となるというように、傾斜軸11の回転に合わせて、環状体13の外周縁部が回転周期に合わせて揺動されることになる。
【0045】
この環状体13の外周縁部の上下方向の揺動に合わせて、一対の第1リンク部材31、第2リンク部材32、第3リンク部材33、および球面軸受け部34が動作されることになる。このリンク機構30における動作について、図7A〜図7Dの説明図を用いて説明する。
【0046】
まず、図7Aに示す状態では、環状体13の外周縁部が、位置Aが高位置、位置Cが低位置となっている。この状態では、第0リンク部材36、一対の第1リンク部材31、および第2リンク部材32は、平面視(図面中央)にて長方形状態となっている。また、第0リンク部材36と第2リンク部材32とは側面視(図面下側)にて互いに平行な状態にある。さらに、第3リンク部材33は、平面視にて第2軸L2と直交して配置されている。なお、側面視(図面左右側)にて一対の第1リンク部材31の他端31bは、一端31aよりも下方に位置されている。
【0047】
図7Bに示すように、傾斜軸11が回転方向Rに回転されると、環状体13の外周縁部における位置Bが高位置、位置Dが低位置となり、側面視(図示下面)にて第1軸L1を軸心とする第0リンク部材36が、図示右側を高位置、左側を低位置として傾斜される。それに伴い、図示右側の第1リンク部材31の一端31aが上昇し、図示左側の第1リンク部材31の一端31aが下降する。それとともに、右側の第1リンク部材31の他端31bが上昇し、左側の第1リンク部材31の他端31bが下降する。この一対の第1リンク部材31の動きに合わせて、第2リンク部材32の右側端部32aが上昇し、左側端部32aが下降して、側面視(図示下側)にて第2リンク部材32が傾斜した状態となる。
【0048】
上述したように、リンク機構30において、一対の第1リンク部材31を傾斜させているため、第0リンク部材36については、それ自身の中心でもある交差位置Pを基準として傾斜される(回動される)のに対して、第2リンク部材32は、それ自身の中心を基準とするのではなく、側面視(図示下側)にて交差位置Pに相当する位置を基準として回動される。そのため、図7Bの図示下側に示すように、第2リンク部材32の中心である第3リンク部材33の一端33aとの連結位置は右方向に移動することになる。したがって、平面視(図示中央)にて第2リンク部材32は図示右側にスライド移動するとともに、第3リンク部材33の一端33aが図示右側に移動されて、第3リンク部材33が傾斜された状態となる。この第3リンク部材33の傾斜動作は、第2リンク部材32と第3リンク部材33との連結部分の回動動作と球面軸受け部34における球面部34aの回動動作により吸収される。
【0049】
次に図7Cに示すように、傾斜軸11が回転方向Rにさらに回転されると、環状体13の外周縁部における位置Cが高位置、位置Aが低位置となり、側面視(図示下面)にて第0リンク部材36が水平な状態とされる。それに伴い、図示右側の第1リンク部材31の一端31aが下降し、図示左側の第1リンク部材31の一端31aが上昇する。それとともに、右側の第1リンク部材31の他端31bが下降し、左側の第1リンク部材31の他端31bが上昇する。この一対の第1リンク部材31の動きに合わせて、第2リンク部材32の右側端部32aが下降し、左側端部32aが上昇して、側面視(図示下側)にて第2リンク部材32が水平な状態となる。
【0050】
図7Cの図示下側に示すように、第2リンク部材32の中心である第3リンク部材33の一端33aとの連結位置は左方向に移動される。これにより、平面視(図示中央)にて第2リンク部材32は図示左側にスライド移動するとともに、第3リンク部材33の一端33aが図示左側に移動されて、第3リンク部材33が第2軸L2と直交した状態となる。この第3リンク部材33の動作は、第2リンク部材32と第3リンク部材33との連結部分の回動動作と球面軸受け部34における球面部34aの回動動作により吸収される。
【0051】
次に、図7Dに示すように、傾斜軸11が回転方向Rにさらに回転されると、環状体13の外周縁部における位置Dが高位置、位置Bが低位置となり、側面視(図示下面)にて第1軸L1を軸心とする第0リンク部材36が、図示左側を高位置、右側を低位置として傾斜される。それに伴い、図示右側の第1リンク部材31の一端31aが下降し、図示左側の第1リンク部材31の一端31aが上昇する。それとともに、右側の第1リンク部材31の他端31bが下降し、左側の第1リンク部材31の他端31bが上昇する。この一対の第1リンク部材31の動きに合わせて、第2リンク部材32の右側端部32aが下降し、左側端部32aが上昇して、側面視(図示下側)にて第2リンク部材32が傾斜した状態となる。
【0052】
図7Dの図示下側に示すように、第2リンク部材32の中心である第3リンク部材33の一端33aとの連結位置は左方向に移動することになる。したがって、平面視(図示中央)にて第2リンク部材32は図示左側にスライド移動するとともに、第3リンク部材33の一端33aが図示左側に移動されて、第3リンク部材33が傾斜された状態となる。この第3リンク部材33の傾斜動作は、第2リンク部材32と第3リンク部材33との連結部分の回動動作と球面軸受け部34における球面部34aの回動動作により吸収される。
【0053】
その後、傾斜軸11が回転方向Rにさらに回転されると、リンク機構30は再び図7Aに示す状態となる。リンク機構30において、図7A〜図7Dに示す状態が繰り返されることにより、環状体11の回転を確実に拘束しながら、環状体11の外周縁部の揺動を吸収することができる。
【0054】
本実施の形態の回転拘束手段によれば、回転軸10の軸心L10まわりに回転(旋回)する傾斜軸11の動作に伴って、傾斜軸11まわりに回転しようとする環状体13の回転動作と、傾斜軸11の回転(旋回)動作により環状体13の外周縁部が揺動しようとする揺動動作との2つの動作に対して、リンク機構30を用いて、回転動作を確実に拘束しながら、揺動動作を確実に吸収することができる。特に、揺動動作の吸収は、リンク機構30の複数のリンク部材の回動動作により行われる。したがって、回転拘束手段によりモータ7へ与える負荷を大幅に低減することができる。特に、このような細胞破砕装置1では、高回転にてモータ7を駆動して、対象物に対して高い周波数の振動を与えて破砕が行われる。そのため、回転拘束に伴うモータ7への負荷を低減することは、モータ7の寿命や装置のメンテナンスの観点からも効果的である。
【0055】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、上述の実施の形態では、一対の第1リンク部材31が傾斜した構成を例として説明したが、傾斜させずに水平方向に配置された構成としても良い。傾斜軸11の傾斜角度θの大きさや環状体13の大きさなどを考慮して、リンク機構30と環状体13との干渉を防止できるように、一対の第1リンク部材の配置角度を設定することが好ましい。
【0056】
一方、細胞破砕装置1において、ホルダ18に収容された状態の破砕容器16の中心高さ位置が、回転軸10の軸心L10と傾斜軸11の軸心L11との交差位置Pの高さ位置に近づくと破砕容器16での上下方向の変位量(振幅)が大きくなり、交差位置Pの高さ位置より離れると水平方向の変位量が大きくなる。対象物の破砕効果は、破砕容器16での上下方向の動きにより大きく影響される。本実施の形態では、破砕容器16の中心高さ位置を交差位置Pの高さ位置に近づけるように環状体13、保持部材17およびホルダ18の配置関係を構成するとともに、リンク機構30において、それぞれのリンク部材が環状体13などに干渉しないように、一対の第1リンク部材31を傾斜させて配置している。このような配置構成を採用することにより、細胞破砕装置1において、対象物の破砕効果を高めることができる。
【0057】
なお、一対の第1リンク部材を水平方向に配置させた構成(すなわち、第2リンク部材の中央部分が、回転軸10の軸心L10と傾斜軸11の軸心L11との交差位置Pと同じ高さ位置に配置された構成)では、第2リンク部材の左右方向へのスライド移動は生じず、第2リンク部材の中央部分と第3リンク部材の一端との連結位置が移動しないことになる。そのため、第2リンク部材32、第3リンク部材33および球面軸受け部34の連結構成を簡素化でき、例えば、球面軸受け部34を用いずに、1つの軸まわりの回動を吸収できるような連結構成を採用することができる。より具体的には、傾斜軸11の軸心L11および第1軸L1に直交する軸に関して、第2リンク部材が回動可能に、第3リンク部材の一端を第2部材の中央部分に連結し、第3部材の他端を装置基台(支持ブロック14等)に直接的または間接的に支持させて、上記直交する軸に関する第2リンク部材の回動を吸収するような構成を採用できる。なお、第2リンク部材と第3リンク部材とが相対的に回動可能な構成としても良く、あるいは、第2リンク部材の回動に合わせて第3リンク部材が回動され、回転軸受けなどを用いて第3リンク部材を回動可能に支持するような構成としても良い。このような構成では、リンク機構全体の動きを簡単なものにすることができるという利点がある。
【0058】
また、上述の説明では、環状体13が円環形状である場合を例としたが、環状体として、多角形状の形状を採用しても良い。
【0059】
また、細胞破砕装置1において、共振防止部材を介して、破砕部4全体を外装部材2またはケーシング3に支持させるようにしても良い。このような共振防止部材としては、例えばシリコン部材を採用することが効果的である。
【0060】
また、上述の説明では、第2リンク部材32と球面軸受け部34との間に配置された弾性部材35により、回転拘束に伴う慣性力を吸収するような構成について説明したが、慣性力を吸収する構成についてはその他様々な構成を採用できる。例えば、第2リンク部材32と第3リンク部材33との連結位置を、第2軸L2に沿ってスライド移動可能とし、この連結位置と第2リンク部材32の両端32aとの間にバネなどの弾性部材を配置して、慣性力による連結位置のスライド移動をそれぞれのバネにより吸収させるようにしても良い。このような慣性力を吸収する構成は、リンク部材の可動部分に弾性部材を配置するような構成であれば良く、第1リンク部材31、第2リンク部材32、第3リンク部材33、および球面軸受け部34のいずれかの1つの部材が他の1つの部材と弾性部材を介して連結されるような構成を採用できる。
【0061】
また、上述の実施の形態では、破砕装置の一例として細胞破砕装置1を用いて説明しているが、本発明の回転拘束手段を有する破砕装置はこのような場合のみに限定されない。破砕対象物として、微生物、植物の組織や種子類、動物の組織などの他に、有機材料、無機材料などを破砕する破砕装置に対しても適用できる。
【0062】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 細胞破砕装置
2 外装部材
3 ケーシング
3a 開口部
4 破砕部
5 駆動部
6 制御部
7 モータ
7a 駆動軸
8 カップリング
9 支持部材
10 回転軸
L10 軸心
11 傾斜軸
L11 軸心
12 軸受け部
13 環状体
14 支持ブロック
15 軸受け部
16 破砕容器
17 保持部材
18 ホルダ
19 排水管
20 冷却配管
21 制御基板
22 操作パネル
23 バルブ
30 リンク機構
31 第1リンク部材
31a 一端
31b 他端
32 第2リンク部材
32a 両端
33 第3リンク部材
33a 一端
33b 他端
34 球面軸受け部
34a 球面部
34b 球面支持部
35 弾性部材
36 第0リンク部材
P 交差位置
L1〜L3 第1軸〜第3軸
R 回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転駆動される回転軸と、
回転軸に対して傾斜して固定された傾斜軸と、
傾斜軸まわりに相対回転可能に軸受け部を介して傾斜軸に支持された環状体と、
複数の破砕容器を環状体の周方向に配置して保持させる保持部材と、
傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束する回転拘束手段とを備え、
回転拘束手段は、
回転軸と傾斜軸との交差位置において傾斜軸に直交する第1軸に関して回動可能に、環状体の外縁に一端が取り付けられた一対の第1部材と、
第2軸を軸心とする部材であって、第2軸に関して回動可能に、その両端が一対の第1部材のそれぞれの他端と連結された第2部材と、
第2部材の長手方向における中央部分に一端が連結された第3部材と、
第3部材の他端に連結された球面部と、球面部を回動可能に支持するとともに装置基台に固定された球面支持部とを有する球面軸受け部と、により構成されるリンク機構であって、
回転拘束手段は、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、第3部材、および球面軸受け部にて吸収する、破砕装置。
【請求項2】
傾斜軸と平行な第3軸に関して回動可能に、第3部材の一端が第2部材の中央部分に連結されている、請求項1に記載の破砕装置。
【請求項3】
回転軸は鉛直方向に配置され、回転拘束手段のリンク機構における第2部材の中央部分は、回転軸と傾斜軸との交差位置よりも低い位置に配置される、請求項1または2に記載の破砕装置。
【請求項4】
回転拘束手段のリンク機構において、第1部材、第2部材、第3部材、および球面軸受け部のいずれかの1つの部材が他の1つの部材と弾性部材を介して連結される、請求項1から3のいずれか1つに記載の破砕装置。
【請求項5】
モータにより回転駆動される回転軸と、
回転軸に対して傾斜して固定された傾斜軸と、
傾斜軸まわりに相対回転可能に軸受け部を介して傾斜軸に支持された環状体と、
複数の破砕容器を環状体の周方向に配置して保持させる保持部材と、
傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束する回転拘束手段とを備え、
回転拘束手段は、
回転軸と傾斜軸との交差位置において傾斜軸に直交する第1軸に関して回動可能に、環状体の外縁に一端が取り付けられた一対の第1部材と、
第2軸を軸心とする部材であって、第2軸に関して回動可能に、両端が一対の第1部材のそれぞれの他端と連結された第2部材と、
傾斜軸および第1軸と直交する軸に関して第2部材が回動可能に、一端が第2部材の中央部分に連結され、他端が装置基台に支持された第3部材と、により構成されるリンク機構であって、
回転拘束手段は、傾斜軸まわりの環状体の回転を拘束しながら、環状体の揺動を一対の第1部材、第2部材、および第3部材にて吸収する、破砕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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