説明

硫化物系固体電解質電池

【課題】硫化水素の発生を抑制できる硫化物系固体電解質電池を提供する。
【解決手段】少なくとも、正極と、負極と、当該正極及び当該負極との間に介在する電解質層とを備える硫化物系固体電解質電池であって、前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質電池中に塩基性材料を含むことを特徴とする、硫化物系固体電解質電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素の発生を抑制できる硫化物系固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、化学反応に伴う化学エネルギーの減少分を電気エネルギーに変換し、放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池である。二次電池の中でも、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高いため、ノート型のパーソナルコンピューターや、携帯電話機等の電源として幅広く応用されている。
【0003】
リチウム二次電池においては、負極活物質としてグラファイト(Cと表現する)を用いた場合、放電時において、負極では下記式(I)の反応が進行する。
LiC→C+xLi+xe (I)
(上記式(I)中、0<x<1である。)
式(I)の反応で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、正極に到達する。そして、式(I)の反応で生じたリチウムイオン(Li)は、負極と正極に挟持された電解質内を、負極側から正極側に電気浸透により移動する。
【0004】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)を用いた場合、放電時において、正極では下記式(II)の反応が進行する。
Li1−xCoO+xLi+xe→LiCoO (II)
(上記式(II)中、0<x<1である。)
充電時においては、負極及び正極において、それぞれ上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行し、負極においてはグラファイトインターカレーションによりリチウムが入り込んだグラファイト(LiC)が、正極においてはコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)が再生するため、再放電が可能となる。
【0005】
リチウム二次電池の中でも、電解質を固体電解質とし、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないため、安全かつ装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。このような固体電解質に用いられる固体電解質材料として、硫化物系固体電解質が知られている。
しかしながら、硫化物系固体電解質材料は水分と反応しやすい性質を持つため、硫化物系固体電解質材料を用いた電池においては硫化水素の発生による劣化が起こりやすく、電池の寿命が短いという課題があった。
【0006】
このような硫化物系固体電解質材料に特有の課題の解決を図る技術は、これまでにも開発されている。特許文献1には、正極と負極の間に固体電解質を介在させてなる全固体電池素子を外装材で被覆した全固体電池であって、固体電解質が硫化物系化合物を含有し、外装材が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる外装体をさらに吸着材及び/又はアルカリ性物質含有材料で被覆したものである全固体電池の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−103283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された全固体電池は、当該文献の明細書の段落[0008]に記載されているように、硫化水素ガスの発生を前提にした設計となっている。したがって、例え外装材によって硫化水素ガスを捕捉できたとしても、電池内に一時的に硫化水素ガスが充満する可能性は回避できない。また、特許文献1に開示された全固体電池においては、硫化水素ガスが外装材に吸着することなく、他の経路から外装材外に漏れ出るおそれがある。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、硫化水素の発生を抑制できる硫化物系固体電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の硫化物系固体電解質電池は、少なくとも、正極と、負極と、当該正極及び当該負極との間に介在する電解質層とを備える硫化物系固体電解質電池であって、前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質電池中に塩基性材料を含むことを特徴とする。
【0010】
このような構成の硫化物系固体電解質電池は、当該電池中に塩基性材料を含む結果、硫化物系固体電解質の潮解時において発生する硫化水素(HS)が、HSへと予めアニオン化することにより、硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0011】
本発明においては、前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが前記硫化物系固体電解質及び前記塩基性材料を含んでいてもよい。
【0012】
このような構成の硫化物系固体電解質電池は、硫化物系固体電解質及び塩基性材料が、電池中の同一の部位に存在することにより、硫化水素抑制の効果をより発揮できる。
【0013】
本発明においては、さらに、前記正極、前記電解質層及び前記負極を備える積層体を挟持するセパレータを備え、前記セパレータが前記塩基性材料を含んでいてもよい。
【0014】
このような構成の硫化物系固体電解質電池は、セパレータに塩基性材料を含む分、正極、負極及び電解質層をいずれも薄くすることができ、イオン伝導性の向上を図ることができる。
【0015】
本発明においては、前記塩基性材料が、NaCO、LiCO、KCO、NaHCO、LiHCO、KHCO、NaOH、LiOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)、Mn(OH)、Sr(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、Zn(OH)、Ba(OH)、Cu(OH)、La(OH)及びAl(OH)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性材料であってもよい。
【0016】
本発明においては、前記塩基性材料が、CuS、LiO及びCuOからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性材料であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、当該電池中に塩基性材料を含む結果、硫化物系固体電解質の潮解時において発生する硫化水素(HS)が、HSへと予めアニオン化することにより、硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る硫化物系固体電解質電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
【図2】実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質のpHを示した棒グラフである。
【図3】実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質の導電率を示した棒グラフである。
【図4】実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質の、大気暴露直後から300秒後までの硫化水素発生量を示したグラフである。
【図5】実施例3−5、比較例2−9の固体電解質の、大気暴露直後から600分後までの硫化水素発生量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の硫化物系固体電解質電池は、少なくとも、正極と、負極と、当該正極及び当該負極との間に介在する電解質層とを備える硫化物系固体電解質電池であって、前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質電池中に塩基性材料を含むことを特徴とする。
【0020】
上述したように、上記特許文献1に記載されたような、外装材に吸着材及び/又はアルカリ性物質含有材料を用いた場合には、電池内に一時的に硫化水素ガスが充満するおそれ、及び、外装材外に漏れ出るおそれがあった。
本発明に係る硫化物系固体電解質電池は、当該電池中に塩基性材料を含む結果、硫化物系固体電解質の潮解時において発生する硫化水素(HS)が、塩基性材料によってプロトンが脱離され、HSへと予めアニオン化することにより、硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0021】
本発明に用いられる硫化物系固体電解質は、電解質分子の分子構造中に硫黄原子を含む電解質であれば特に限定されない。本発明でいう硫化物系固体電解質は、正極、負極及び電解質のうち少なくともいずれか1つに含まれていればよく、特に正極の場合は正極活物質層に、負極の場合は負極活物質層に含まれていることが好ましい。
【0022】
本発明の典型例としては、以下の2つの例を挙げることができる。
本発明に係る硫化物系固体電解質電池の第1の典型例は、硫化物系固体電解質及び塩基性材料が、電池中の同一の部位に存在することにより、硫化水素抑制の効果をより発揮できるという観点から、正極、負極及び電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質及び塩基性材料を含むという構成をとる。
本発明に係る硫化物系固体電解質電池の第2の典型例は、セパレータに塩基性材料を含む分、正極、負極及び電解質層をいずれも薄くすることができ、イオン伝導性の向上を図ることができるという観点から、正極、電解質層及び負極を備える積層体を挟持するセパレータをさらに備え、正極、負極及び電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、セパレータが塩基性材料を含むという構成をとる。
【0023】
本発明に用いられる硫化物系固体電解質としては、具体的には、LiS−P、LiS−P、LiS−P−P、LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−SiS−P、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、LiPS−LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4−xGe1−x等を例示することができる。
【0024】
本発明に用いられる塩基性材料は、硫化水素(HS)のプロトンを脱離させ、HSへとアニオン化できる程度に高い塩基性を有することが好ましい。具体的には、硫化水素の水溶液である硫化水素酸のpKが7.02であるので、塩基性材料としては、1M水溶液(25℃)のpKが7.03〜15の材料を用いることが特に好ましい。
本発明に用いられる塩基性材料としては、具体的には、NaCO、LiCO、KCO、NaHCO、LiHCO、KHCO、NaOH、LiOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)、Mn(OH)、Sr(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、Zn(OH)、Ba(OH)、Cu(OH)、La(OH)、Al(OH)、CuS、LiO及びCuOからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性材料であることが好ましい。
【0025】
特に、潮解した結果塩基性を示す硫化物系固体電解質を使用する場合には、より強い塩基性を示す材料を添加することにより、硫化水素を完全に抑制することができる。以下、潮解した結果塩基性を示す硫化物系固体電解質として、LiS−Pガラスを例にとり説明する。
LiS−Pガラスは、適切なモル比の硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)を、好ましくはメカニカルミリング等の方法により混合することによって合成される硫化物系固体電解質である。
LiS−Pガラスのうち、従来からよく知られる70LiS・30P(Li11)ガラスは、潮解した結果弱塩基性(pH=9)を示すため、NaCOに代表される弱塩基性材料の添加によって、硫化水素の発生を抑制できる。
【0026】
しかし、LiS−Pガラスの一種である75LiS・25Pガラスは、潮解すると強塩基性(pH=10.5)を示すため、NaCOのような弱塩基性材料の添加では、pHを上昇させる効果が無く、硫化水素の発生を完全に抑制できない。
後述する実施例において示すように、75LiS・25Pガラスを使用する場合には、CuO、CuS及びLiO等のように、添加後のpHが11以上となる強塩基性材料を添加することにより、硫化水素の発生を完全に抑制できる。
【0027】
本発明において、硫化物系固体電解質と塩基性材料を予め混合し、当該混合物を電池材料として用いる場合には、当該混合物全体の質量を100質量%としたときの硫化物系固体電解質と塩基性材料の質量比が、硫化物系固体電解質:塩基性材料=20質量%:80質量%〜99質量%:1質量%であることが好ましい。仮に、硫化物系固体電解質が20質量%未満である場合には、電池の充放電に必要なイオン伝導性を確保することができないおそれがある。また仮に、塩基性材料が1質量%未満である場合には、硫化水素ガス発生を抑制する効果が十分に発揮できないおそれがある。
硫化物系固体電解質と塩基性材料との混合物を電池材料として用いる場合には、当該混合物をそれぞれ少量ずつ、5ccのイオン交換水に溶かし、リトマス式pH試験紙を用いて測定したpHが10〜14であることが好ましい。
【0028】
図1は本発明に係る硫化物系固体電解質電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係る硫化物系固体電解質電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
硫化物系固体電解質電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、前記正極6及び前記負極7に挟持される電解質層1を有する。
以下、本発明に係る硫化物系固体電解質電池の構成要素である、正極及び負極、電解質層並びにその他の構成要素(セパレータ等)について、項を分けて説明する。
【0029】
(正極及び負極)
本発明に用いられる正極は、好ましくは、正極集電体、及び、当該正極集電体に直接的に接続した正極リードを備えており、さらに好ましくは正極活物質を含有する正極活物質層を備える。本発明に用いられる負極は、好ましくは、負極集電体、及び、当該負極集電体に直接的に接続した負極リードを備えており、さらに好ましくは負極活物質を含有する負極活物質層を備える。
【0030】
本発明に用いられる正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO、LiNiO、LiMn、LiCoMnO、LiNiMn、LiFe(PO及びLi(PO等を挙げることができる。これらの中でも、本発明においては、LiCoOを正極活物質として用いることが好ましい。
【0031】
本発明に用いられる正極活物質層の厚さは、目的とする硫化物系固体電解質電池の用途等により異なるものであるが、5μm〜250μmの範囲内であるのが好ましく、20μm〜200μmの範囲内であるのが特に好ましく、特に30μm〜150μmの範囲内であることが最も好ましい。
【0032】
正極活物質の平均粒径としては、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも1μm〜20μmの範囲内、特に3μm〜5μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0033】
正極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着材等を含有していても良い。
本発明において用いられる正極活物質層が有する導電化材としては、正極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、正極活物質層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0034】
本発明に用いられる正極活物質層が有する結着材としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、正極活物質層における結着材の含有量は、正極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着材の含有量は、通常1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0035】
本発明に用いられる正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものであれば特に限定されない。したがって、正極活物質層に直接電気的に接続している必要は必ずしもなく、正極活物質層に間接的に接続しているものであっても、正極活物質層からの集電の機能を果たし、充放電経路を構成する導電体であれば、本発明でいう「正極集電体」に含まれる。
正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0036】
本発明に用いられる正極が有する正極用電解質としては、固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、具体的には、上述した硫化物系固体電解質の他、酸化物系固体電解質を用いることもできる。
酸化物系固体電解質としては、具体的には、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、LiPO、LiSiO、LiSiO、Li0.5La0.5TiO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO等を例示することができる。
正極活物質層を形成した後は、電極密度を向上させるために、正極活物質層をプレスしても良い。
【0037】
負極活物質層に用いられる負極活物質としては、金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されるものではない。金属イオンとしてリチウムイオンを用いる場合には、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、及びグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
【0038】
負極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着材等を含有していても良い。
負極活物質層中に用いることができる結着材及び上記導電化材は、上述したものを用いることができる。また、結着材及び導電化材の使用量は、硫化物系固体電解質電池の用途等に応じて、適宜選択することが好ましい。また、負極活物質層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば5μm〜150μmの範囲内、中でも10μm〜80μmの範囲内であることが好ましい。
本発明に用いられる負極が有する負極用電解質としては、固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、具体的には、上述した酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等を用いることができる。
【0039】
負極集電体の材料及び形状としては、上述した正極集電体の材料及び形状と同様のものを採用することができる。
本発明に用いられる負極の製造方法としては、上述したような正極の製造方法と同様の方法を採用することができる。
【0040】
(電解質層)
本発明に用いられる電解質層は、上述した正極活物質及び負極活物質の間で金属イオン交換をおこなう。電解質層中に用いることができる電解質としては、具体的には、上述した酸化物系固体電解質及び硫化物系固体電解質等を挙げることができる。
【0041】
(その他の構成要素)
その他の構成要素として、セパレータを硫化物系固体電解質電池に用いることができる。セパレータは、上述した正極集電体及び上記負極集電体の間に配置されるものであり、通常、正極活物質層と負極活物質層との接触を防止し、電解質層を保持する機能を有する。さらに、上記セパレータは、上記セパレータの材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース及びポリアミド等の樹脂を挙げることができ、中でもポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。また、上記セパレータは、単層構造であっても良く、複層構造であっても良い。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、PP/PE/PPの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。さらに、本発明においては、上記セパレータが、樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等であっても良い。また、上記セパレータの膜厚は、特に限定されるものではなく、一般的な硫化物系固体電解質電池に用いられるセパレータの膜厚と同様である。
また、その他の構成要素として、硫化物系固体電解質電池を収納する電池ケースを用いることもできる。電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【実施例】
【0042】
1.固体電解質の作製
[実施例1]
硫化物系固体電解質の一種である70LiS・30P(Li11)100mgと、塩基性材料の一種であるNaCO75mgとを乳鉢を用いて混合し、その内100mgを4.3ton/cmの圧力でペレット化し、実施例1の固体電解質を作製した。
【0043】
[実施例2]
硫化物系固体電解質の一種である70LiS・30P(Li11)50mgと、塩基性材料の一種であるNaCO75mgとを乳鉢を用いて混合し、その内100mgを4.3ton/cmの圧力でペレット化し、実施例2の固体電解質を作製した。
【0044】
[実施例3]
まず、LlS及びPを準備した。次に、LlSとPの混合比が、LlS:P=75質量%:25質量%となるように混合し、乾燥雰囲気下、当該混合物2g、破砕用ジルコニアボール(φ=5mm)53g、及びヘプタン4gを、45ccZrOポットに入れ、密閉した。その後、容器を遊星型ボールミル装置に取り付け、台盤回転数500rpm、150℃の温度条件下、処理時間1時間の条件でメカニカルミリングを行い、硫化物系固体電解質の一種である75LiS・25Pガラスを合成した。
合成した75LiS・25Pガラス40mgと、塩基性材料の一種であるCuO10mgとを乳鉢を用いて混合し、4.3ton/cmの圧力でペレット化し、実施例3の固体電解質を作製した。
【0045】
[実施例4]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにLiO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、実施例4の固体電解質を作製した。
【0046】
[実施例5]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにCuS10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、実施例5の固体電解質を作製した。
【0047】
[比較例1]
硫化物系固体電解質の一種である70LiS・30P(Li11)100mgを、乳鉢を用いて混合した後、4.3ton/cmの圧力でペレット化し、比較例1の固体電解質を作製した。
【0048】
[比較例2]
塩基性材料を用いず、75LiS・25Pガラスのみを含むペレットを作製したこと以外は、実施例3と同様に、比較例2の固体電解質を作製した。
【0049】
[比較例3]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにLiCO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例3の固体電解質を作製した。
【0050】
[比較例4]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにCuCO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例4の固体電解質を作製した。
【0051】
[比較例5]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにCuS10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例5の固体電解質を作製した。
【0052】
[比較例6]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにNaCO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例6の固体電解質を作製した。
【0053】
[比較例7]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにNaHCO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例7の固体電解質を作製した。
【0054】
[比較例8]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにCuCl10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例8の固体電解質を作製した。
【0055】
[比較例9]
塩基性材料として、CuO10mgの替わりにCuSO10mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に、比較例9の固体電解質を作製した。
【0056】
2.pH測定
実施例1−5、及び比較例1−9の固体電解質をそれぞれ少量ずつ、5ccのイオン交換水に溶かし、リトマス式pH試験紙を用いてpHを測定した。
図2は、実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質のpHを示した棒グラフである。このグラフから分かるように、比較例1の固体電解質のpHは9であったが、実施例1の固体電解質のpHは10であり、実施例2の固体電解質のpHは11であった。
下記表1は実施例3−5、及び比較例2−9の固体電解質のpHをまとめた表である。
【0057】
【表1】

【0058】
上記表1から分かるように、潮解後の実施例3−5の固体電解質は、pH11以上の強塩基性であるのに対し、潮解後の比較例2−9の固体電解質は、pH9〜10.5の弱塩基性である。
【0059】
3.導電率の測定
実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質について、インピーダンスアナライザー(Solartron社製:SI−1260)を用いて、周波数10MHz〜0.01Hzで交流インピーダンス測定を行い、測定結果に基づいて導電率を算出した。
図3は、実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質の導電率を示した棒グラフである。このグラフから分かるように、比較例1の固体電解質の導電率は2.0×10−3S/cmであったが、実施例1の固体電解質の導電率は1.1×10−3S/cmであり、実施例2の固体電解質の導電率は0.5×10−3S/cmであった。これらの結果から、塩基性材料を含む実施例1及び実施例2の固体電解質は、塩基性材料を含むにも関わらず、10−3S/cmオーダーの高い導電率を示すことが分かる。
【0060】
4.硫化水素発生量の測定
実施例1−5、及び比較例1−9の固体電解質を、それぞれ1755ccのデシケータ−内に置き、硫化水素センサ−(株式会社ジコー製、GBL−HS)により硫化水素発生量を測定した。測定は、温度25℃及び湿度50%の空気下で行った。
図4は、実施例1、実施例2及び比較例1の固体電解質の、大気暴露直後から300秒後までの硫化水素発生量を示したグラフである。グラフから分かるように、比較例1の固体電解質は、塩基性材料を一切含んでいないため、大気暴露後200秒後における硫化水素発生量は20cc/gを超えていた。一方、塩基性材料を含む実施例1及び実施例2の固体電解質は、大気暴露後250秒後においても、硫化水素発生量は10cc/g未満であった。また、塩基性材料をより多く含む実施例2の固体電解質は、塩基性材料の含有量がより少ない実施例1の固体電解質よりも、硫化水素発生量が少ない結果となった。
【0061】
図2に示したpH測定結果と、図4に示した硫化水素発生量測定結果から、塩基性材料を一切含まない比較例1の固体電解質は、硫化水素(HS)のプロトンを脱離させることができない程弱いアルカリ性であることから、硫化物系固体電解質が潮解した際に、硫化水素の発生を抑制することは難しいことが分かる。一方、塩基性材料を含む実施例1及び実施例2の固体電解質は、硫化水素(HS)のプロトンを脱離させ、HSとアニオン化できる程強いアルカリ性であることから、硫化水素の発生を抑制できることが分かる。
【0062】
図5は、実施例3−5、比較例2−9の固体電解質の、大気暴露直後から600分後までの硫化水素発生量を示したグラフである。
グラフ中、大気暴露後40分間硫化水素発生量がほぼ0ppmである黒三角のプロットは実施例3の結果を、大気暴露後40分後の硫化水素発生量が10ppm未満である黒菱形のプロットは実施例4の結果を、大気暴露後40分後の硫化水素発生量が20ppm未満である黒四角のプロットは実施例5の結果を、それぞれ示す。また、グラフ中、大気暴露35分後に硫化水素発生量が急激に増加する白丸のプロットは比較例3の結果を、大気暴露20分後に硫化水素発生量が急激に増加する白菱形のプロットは比較例4の結果を、同じく黒四角のプロットは比較例5の結果を、それぞれ示す。さらに、グラフ中、大気暴露10分後に硫化水素発生量が急激に増加する黒菱形のプロットは比較例6の結果を、同じく白三角のプロットは比較例2の結果を、同じく黒三角のプロットは比較例8の結果を、それぞれ示す。また、グラフ中、大気暴露時間にほぼ比例して硫化水素発生量が増加する黒四角のプロットは比較例7の結果を、同じく黒丸のプロットは比較例9の結果を、それぞれ示す。
【0063】
図5から分かるように、比較例2の固体電解質の大気暴露15分後における硫化水素発生量は72.5ppmである。これに対し、比較例7−9の固体電解質の大気暴露15分後における硫化水素発生量は、いずれも100ppmを超える。これらの結果及び上記表1から、75LiS・25Pガラスに、塩基性材料として、NaHCO、CuCl又はCuSOを添加することにより、塩基性材料を全く添加しない場合よりもpHが下がり、その結果硫化水素発生が促進されることが分かる。
一方、比較例6の固体電解質の大気暴露15分後における硫化水素発生量は、比較例2の固体電解質の大気暴露15分後における硫化水素発生量と同程度である。これらの結果及び上記表1から、75LiS・25Pガラスに、塩基性材料としてNaCOを添加することは、硫化水素の発生という観点からは、塩基性材料を全く添加しないこととほぼ変わらないことが分かる。
また、比較例4及び比較例5の固体電解質の大気暴露30分後における硫化水素発生量は80ppm程度であり、比較例3の固体電解質の大気暴露35分後における硫化水素発生量は48.5ppmである。これらの結果及び上記表1から、75LiS・25Pガラスに、塩基性材料としてLiCO、CuCO又はCuSを添加することにより、塩基性材料を全く添加しない場合よりも硫化水素発生が抑制されるが、遅くとも大気暴露35分後には硫化水素の発生量が急激に増加することが分かる。
【0064】
上記比較例2−9の結果に対し、実施例3−5の固体電解質の大気暴露40分後における硫化水素発生量は、それぞれ0ppm(実施例3)、6.5ppm(実施例4)、15.5ppm(実施例5)である。特に、実施例3の固体電解質は、大気暴露580分後における硫化水素発生量が5ppm未満である。これらの結果及び上記表1から、75LiS・25Pガラスに、塩基性材料としてCuO、LiO又はCuSを添加することにより、硫化水素の発生を長時間にわたり抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1 電解質層
2 正極活物質層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極
100 硫化物系固体電解質電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、正極と、負極と、当該正極及び当該負極との間に介在する電解質層とを備える硫化物系固体電解質電池であって、
前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、
前記硫化物系固体電解質電池中に塩基性材料を含むことを特徴とする、硫化物系固体電解質電池。
【請求項2】
前記正極、前記負極及び前記電解質層のうち少なくともいずれか1つが前記硫化物系固体電解質及び前記塩基性材料を含む、請求項1に記載の硫化物系固体電解質電池。
【請求項3】
さらに、前記正極、前記電解質層及び前記負極を備える積層体を挟持するセパレータを備え、
前記セパレータが前記塩基性材料を含む、請求項1に記載の硫化物系固体電解質電池。
【請求項4】
前記塩基性材料が、NaCO、LiCO、KCO、NaHCO、LiHCO、KHCO、NaOH、LiOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)、Mn(OH)、Sr(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、Zn(OH)、Ba(OH)、Cu(OH)、La(OH)及びAl(OH)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性材料である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硫化物系固体電解質電池。
【請求項5】
前記塩基性材料が、CuS、LiO及びCuOからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性材料である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硫化物系固体電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165650(P2011−165650A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247605(P2010−247605)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】