説明

硫酸の移送装置

【課題】 硫酸の船積み又は揚陸の際における船の移動を吸収する柔軟性を有し、しかも操作が容易でありながら的確に接続を行うことができ、さらに設置及びメンテナンスの費用も低減可能な硫酸の移送装置を提供する。
【解決手段】 ピラー11を中心として旋回及び昇降可能に片持ち梁状に取り付けられたジブ15の先端から垂下されるワイヤ25によりその基端側がバース7側の配管と接続された耐薬品性を有するホース30を少なくとも2ヶ所以上で吊り下げ支持して構成され、ジブ15を旋回及び昇降させると共にワイヤ25の長さを調整することによってホース30の先端側を船1側の配管の接続部まで移動させ、バース7側の配管と船1側の配管との間をホース30で接続することにより潮の干満、積載量の増減による船1のレベルの上下、風等による船1の移動を吸収可能に連結することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸の移送装置に関し、さらに詳しくは、陸側の貯蔵タンクと輸送用の船との間を連結して硫酸を船積み又は揚陸するための硫酸の移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の製錬に用いる鉱石の多くは海外から船舶によって国内に輸入されている一方、銅の製錬に伴って生産される硫酸などの化学物は海外で需要があることから船舶によって輸出されている。従来は、鉱石と硫酸とでは固体と液体などその性状が全く異なるので、それぞれ別の輸送船によって運搬していた。しかし、鉱石を積んだ船舶や、硫酸を積んだ船舶が帰港する際には船倉が空の状態で運行することになり甚だ不経済であることから鉱石と硫酸とを一隻の船で行なうことを可能とする鉱石・硫酸運搬船も提案されている(特開2000−142560)。このように、硫酸の船舶輸送についてはその技術の向上及び効率化が図られている。
【0003】
ここで、液体や気体などの流体を船舶に積み込み又は船舶から積み下ろしする場合には一般的にローディングアームが利用されている。ローディングアームは金属製のパイプをスイベルジョイントなどにより可動可能に連結し、それによって陸側の貯蔵タンクと海上の船舶とをフレキシブルに接続することで流体を移送する装置である(例えば、特許文献1)。そして、従来は、硫酸の船舶への積み込み又は船舶から積み下ろしにおいてもローディングアームを用いて行なわれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−1300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のローディングアームは硫酸の船積み又は揚陸の際における潮の干満、積載量の増減による船のレベルの上下、風等による船の移動を吸収する柔軟性が乏しかった。もちろん、そのような船の移動を吸収するための機構は種々提案されているが、そのような機構を備えたローディングアームはその分コストが高い。加えて、移送する流体が硫酸であるため、従来のローディングアームでは配管を含めた装置を構成する鋼材の腐食によるメンテナンスが大変であった。ここで、周知の通り硫酸は強酸化性・腐食性を持つ無色油状液体で、100%硫酸の比重は1.83で、濃度が約98%のものは濃硫酸と呼ばれている。硫酸は普通の鋼材はもちろんステンレス鋼も腐食させるので荷役作業に細心の注意を払いながら行なっていても腐食による故障も多く、ローディングアームの設置のための費用のみならず修理のための費用も多大なものとなっていた。
【0006】
また、配管の取り回しや接続などの操作も煩雑であったことから陸側の貯蔵タンクから伸びるバース側の配管と輸送用の船との間の接続を容易且つ的確に行うことができる装置が要望されていた。
【0007】
そこで、本発明は、硫酸の船積み又は揚陸の際における潮の干満、積載量の増減による船のレベルの上下、風等による船の移動を吸収する柔軟性を有し、しかも操作が容易でありながら的確に陸側の貯蔵タンクと輸送用の船との間の接続を行うことができる硫酸の移送装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、設置費用が安価でしかもメンテナンスのコストもこれまでより大幅に低減可能な硫酸の移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に記載の本発明は、陸側の貯蔵タンクと輸送用の船との間を連結して硫酸を船積み又は揚陸するための硫酸の移送装置において、バースに設置されたピラーを中心として旋回及び昇降可能に片持ち梁状に取り付けられたジブの先端から垂下されるワイヤを備え、ワイヤは、巻き出し又は巻き取りによってジブの先端からの長さが調整可能とされ、ワイヤによりその基端側が貯蔵タンクから伸びるバース側の配管と接続された耐薬品性を有するホースを少なくとも2ヶ所以上で吊り下げ支持して構成され、ジブを旋回及び昇降させると共にワイヤのジブの先端からの長さを調整することによってホースの先端側を船側の配管の接続部まで移動させ、バース側の配管と船側の配管との間を当該ホースで接続することにより潮の干満、積載量の増減による船のレベルの上下、風等による船の移動を吸収可能に連結することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の硫酸の移送装置において、ジブは、少なくとも満潮時且つ空荷時における船側の配管の接続部の高さ位置よりも高い位置まで上昇可能としたことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の硫酸の移送装置において、ワイヤは、ラチェット機能を有するウインチによって巻き出し及び巻き取り可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る硫酸の移送装置によれば、バース側の配管と船側の配管とを耐薬品性を有するホースによってフレキシブルに接続することとしたので船積み又は揚陸の際における潮の干満、積載量の増減による船のレベルの上下、風等による船の移動を柔軟性に吸収することができるという効果がある。
【0012】
また、本発明に係る硫酸の移送装置によれば、耐薬品性を有するホースを容易且つ的確に適正な位置に配置することができるという効果がある。
【0013】
さらに、本発明に係る硫酸の移送装置によれば、従来のローディングアーム方式の硫酸の移送装置と比べて装置の設置コストを従来の約1/10に低減することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る硫酸の移送装置について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は陸側の貯蔵タンクから輸送用の船に至るまでを示す概要図、図2は本発明に係る硫酸の移送装置の一実施形態の正面図である。
【0015】
初めに、図1に示すように、銅の製錬によって生産された硫酸は貯蔵タンク3に貯えられ、パイプ5によってバース7まで運ばれるようになっている。そして、パイプ5のバース7側の端部に硫酸の移送装置10のホース30の一端を連結すると共に、それとは反対側のホース30の端部を船1側の配管の接続部と連結することで貯蔵タンク3と船1の船倉とを連通させて貯蔵タンク3内にある硫酸を図示しないポンプによって移送し、船1の船倉に送り込むようになっている。
【0016】
図2に示された硫酸の移送装置1は、概略として、バース7に設置されたピラー11と、ピラー11を中心として旋回及び昇降可能に取り付けられたフレーム13と、フレーム13に対して片持ち梁状に取り付けられたジブ15と、巻き出し又は巻き取りによってジブ15の先端からの長さが調整可能とされたワイヤ25と、ワイヤ25により少なくとも2ヶ所以上で吊り下げ支持されたホース30を備えて構成されている。以下、各部について詳説する。
【0017】
ピラー11は、円柱状の鋼製部材であり、バース7の所定位置に取り付け固定される。ピラー11の下部側の周囲には補強板11aが4箇所に配置されている。ここで、ピラー11は海水や潮風に直に曝される場所に設置されていること、移送対象が硫酸であることから耐食性・耐候性を備えた材質で形成することが好ましい。例えば、腐食に強いSUSなどの鋼材にさらにアクリルやポリエチレンなどの合成樹脂により塗膜を形成することで過酷な条件の下であっても的確な動作を確保することが可能な部材を形成することができる。尚、ピラー11に限らず後述する各部材もこれと同様である。また、ピラー11は、ベースプレート11bを介してバース7に立設固定されているが、図示しないアンカー部材によってさらに強固に取り付けられている。本実施形態ではピラー11はバース7に固定されているが、移動可能とすることもできる。
【0018】
ピラー11の上部側には、ピラー11を中心として旋回可能なフレーム13が取り付けられている。フレーム13は、ピラー11の場合と同様に鋼製部材によって筒状に形成されている。フレーム13の旋回は複数のギアを組み合わせた図示しないギアケースによって行なわれるようになっており、その動作は油圧、電動、手動の適宜の動力によって行なわせることができる。また、フレーム13は上下方向に昇降することができるようになっていおり、フレーム13の昇降は、例えば、油圧シリンダやアクチュエータなどによって行なわせることができる。また、旋回の場合と同様に、ギアを介して電動、手動などによって動作するように構成してもよい。ここで、ホース30の接続作業の容易化を図るためにフレーム13の上昇位置は後述するジブ15の高さが少なくとも満潮時で、且つ空荷時における船1側の配管の接続部の高さ位置よりも高い位置まで上昇可能にすることが好ましい。さらに、旋回及び昇降機構にブレーキやストッパを設けることで操作性の向上や安全性を高めることができるのはいいうまでもない。
【0019】
フレーム13の側面には片持ち梁状にジブ15が取り付けられている。ジブ15は、断面がH状の鋼製部材であり、垂直に立設されたフレーム13に対して水平方向に伸びるようにして配置されている。これにより、ジブ15は、フレーム13を介してピラー11を中心として旋回及び昇降可能とされている。ジブ15の天面部には3箇所にシーブ27が取り付けられ、ジブ15の先端側の下部にはシーブ29が取り付けられている。このシーブ27、29には後述するワイヤ25が張架される。
【0020】
ワイヤ25は、ジブ15の先端から垂下されると共に、ジブ15のシーブ27を介してピラー11の基部近傍に至るようにして張架されている。そして、ピラー11とフレーム13に対して平行となるように上下方向に伸びた部分にはワイヤ25をカバーするためのカバー部材20が取り付けられている。ジブ15の先端側から垂下されたワイヤ25の端部にはフック26が取り付けられていると共に、ワイヤ25の反対側の端部はラチェット機構を備えたウインチ23に回巻されている。これにより、ワイヤ25は、巻き出し及び巻き取りが可能とされ、その結果、ジブ15の先端からの長さが適宜調整できるようになっている。尚、ウインチ23の動作は手動、電動のいずれの駆動方法を採用することもできる。
【0021】
ワイヤ25の先端に取り付けられたフック26には2本のチェーン部材25a、25bが取り付けられており、この2本のチェーン部材25a、25bによって後述するホース30が2ヶ所で支持されるようになっている。このように、ホース30を1ヶ所ではなく2ヶ所で支持するのは吊り下げられたホース30の取り回しを容易にするためである。すなわち、ホース30は、バース7と船1との船1の間に介在して硫酸を移送するのであるからある程度の長さがあり、その内部に硫酸を流通させた状態ではかなりの重量となる。そのため、ホース30を1ヶ所のみの支持では地面に接地している部分の取り回しが容易ではない。そのため最低でも2ヶ所、好ましくは2ヶ所以上で支持することでホース30の地面への接地部が少なくなり、その結果、ホース30の取り回しが容易になる。このように、ホース30が地面に接地している部分をできるだけ少なくすることでホース30の取り回しを容易にすることができる。
【0022】
ホース30は、硫酸を移送するものであるため耐薬品性のある材料によって形成されている。すなわち、ホース30は、主材となるポリプロピレン(P.P)に各種の合成樹脂を組み合わせることによって化学薬品に対する耐薬品性を向上させた材料によって形成されている。また。ホース30の内外をワイヤースパイラルで補強した数十層からなる複合構造とされているために可撓性に優れ、繰り返しの曲げにも折損やねじれが起き難くくなっている。また、ホース30の先端にはジョイント31が取り付けられており、船1の船倉とつながる図示しない配管と接続できるようになっている。一方、ホース30のそれとは反対側の端部は、貯蔵タンク3から伸びるパイプ5と接続されたジョイント5aと連結されており、これにより船1の船倉と貯蔵タンク3とが移送装置10のホース30を介して連通されるようになっている。ここで、ホース30の長さは、潮の干満、積載量の増減による船1のレベルの上下、風等による船1の移動を吸収できるような長さを確保することが好ましい。このように、フレキシブルなホース30によって硫酸を移送するようにしたので潮の干満、積載量の増減による船1のレベルの上下、風等による船1の移動を容易に吸収することが可能となる。
【0023】
尚、フレーム13の旋回及び昇降機構を電子的に制御する機構を設けることでジブ15を所定の位置まで自動的に移動させ、その位置で停止させるようにすることもできる。また、ワイヤ25にかかる過重を検知する検知器を取り付けると共に、ワイヤ25に所定の大きさを超える過重がかかったことを検知した場合にはワイヤ25を少しづつ巻き出したり、あるいはジブ15の位置を変化させることにより移送装置10にかかる負担を軽減するような機能を付加することもできる。
【実施例】
【0024】
陸側にある硫酸の貯蔵タンク3から海上に停泊中の船へ硫酸を移送するために、フレーム13の上部までの高さが約4m、ジブ15の長さが約4.4m、ジョイント5aからジョイント31までの長さが約9で内径が15cmホース30をワイヤ25で2ヶ所を支持した移送装置10を用いて硫酸の移送を行なった。長さが約9mで内径が約15cmのホース30に硫酸が流通するとその重さは約300kg以上になるが、ジブ15を旋回及び昇降させながら船1の配管へジョイント31を連結する作業は陸側からの操作で簡単に行うことができた。また、従来のローディングアーム方式の移送装置に比べて故障も少なく、設置コストは約1/10に低減し、メンテナンスのための経費も大幅に減少した。さらに、メンテナンスの割合も年に1回程度で全く問題はなかった。
【0025】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】陸側の貯蔵タンクから輸送用の船に至るまでを示す概要図である。
【図2】本発明に係る硫酸の移送装置の一実施形態の正面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 船
3 貯蔵タンク
5 パイプ
5a ジョイント
7 バース
10 移送装置
11 ピラー
11a 補強板
11b ベースプレート
13 フレーム
15 ジブ
20 カバー部材
23 ウインチ
25 ワイヤ
25a チェーン部材
25b チェーン部材
27 シーブ
29 シーブ
30 ホース
31 ジョイント


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸側の貯蔵タンクと輸送用の船との間を連結して硫酸を船積み又は揚陸するための硫酸の移送装置において、
バースに設置されたピラーを中心として旋回及び昇降可能に片持ち梁状に取り付けられたジブの先端から垂下されるワイヤを備え、前記ワイヤは、巻き出し又は巻き取りによって前記ジブの先端からの長さが調整可能とされ、当該ワイヤによりその基端側が前記貯蔵タンクから伸びるバース側の配管と接続された耐薬品性を有するホースを少なくとも2ヶ所以上で吊り下げ支持して構成され、
前記ジブを旋回及び昇降させると共に前記ワイヤの前記ジブの先端からの長さを調整することによって前記ホースの先端側を前記船側の配管の接続部まで移動させ、バース側の配管と前記船側の配管との間を当該ホースで接続することにより潮の干満、積載量の増減による船のレベルの上下、風等による船の移動を吸収可能に連結することを特徴とする硫酸の移送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の硫酸の移送装置において、
前記ジブは、少なくとも満潮時且つ空荷時における前記船側の配管の接続部の高さ位置よりも高い位置まで上昇可能としたことを特徴とする硫酸の移送装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硫酸の移送装置において、
前記ワイヤは、ラチェット機能を有するウインチによって巻き出し及び巻き取り可能としたことを特徴とする硫酸の移送装置。


【図1】
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【図2】
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