説明

硫黄含量の測定方法

【課題】塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄成分の捕集を確実に行って、該ガス中の硫黄含量を高感度で精度良く測定する。
【解決手段】塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを酸素の存在下に、周期表8〜10族の各元素の単体及び化合物から選ばれる金属成分を含有する固体と接触させた後、該固体中の硫黄を定量する。上記の固体としては、実質的に上記の金属成分のみからなるものを使用してもよいし、上記の金属成分を担体に担持してなるものを使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄含量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化水素及び/又は塩素を含有するガスは、その調製法や発生源に起因して、硫黄成分を含むことがあるため、その含量に関する規格が定められることが多い。該ガス中の硫黄成分の含量を測定する方法については、塩化水素ないし塩素が腐食性のガスであるため、主に測定機器の腐食防止の観点から、これまでにいくつかの方法が提案されている。例えば、特開2004−163362号公報(特許文献1)には、塩化水素を含有するガス中の硫化水素、硫化カルボニル、二酸化硫黄、二硫化炭素の如き無機化合物の濃度を測定する方法として、該ガス中の塩化水素の濃度を水吸収法や吸着剤法などにより1体積%以下に低減させた後、無機化合物の濃度をガスクロマトグラフィー法や検知管法、赤外線吸収法などにより測定することが開示されている。また、特開2004−163363号公報(特許文献2)には、塩素を含有するガス中の硫化水素、硫化カルボニル、二酸化硫黄、二硫化炭素の如き無機化合物の濃度を測定する方法として、該ガス中の塩素の濃度を金属ヨウ化物溶液吸収法や吸着剤法などにより1体積%以下に低減させた後、無機化合物の濃度をガスクロマトグラフィー法や検知管法、赤外線吸収法などにより測定することが開示されている。さらに、特開2004−170339号公報(特許文献3)には、塩素を含有するガス中の硫黄酸化物の濃度を測定する方法として、該ガスを水と接触させて硫黄酸化物溶液と脱硫黄酸化物ガスとに分離した後、この溶液中の硫黄酸化物の濃度をイオンクロマトグラフィー法や誘導結合型プラズマ発光法(以下、ICP発光法という)などにより測定することが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−163362号公報
【特許文献2】特開2004−163363号公報
【特許文献3】特開2004−170339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の方法では、ガス中の塩化水素の濃度を低減させるために塩化水素を除去する際、硫黄成分がその種類によっては塩化水素と共に除去され易く、塩化水素濃度低減後の試料ガス中に捕集され難いという問題が生じることがある。また、特許文献2に開示の方法でも同様で、ガス中の塩素の濃度を低減させるために塩素を除去する際、硫黄成分がその種類によっては塩素と共に除去され易く、塩素濃度低減後の試料ガス中に捕集され難いという問題が生じることがある。さらに、特許文献3に開示の方法では、測定対象が硫黄酸化物に限られており、他の硫黄成分も対象とする場合、その種類によっては水に吸収され難く、すなわち試料溶液に捕集され難いという問題が生じることがある。そこで、本発明の目的は、塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄成分の捕集を確実に行って、該ガス中の硫黄含量を高感度で精度良く測定しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意研究を行った結果、塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを、酸素の存在下に、所定の金属成分を必須とする固体と接触させた後、この固体中の硫黄を定量し、この定量値から上記ガス中の硫黄含量を求めることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄含量の測定方法であって、該ガスを酸素の存在下に、周期表8〜10族の各元素の単体及び化合物から選ばれる金属成分を含有する固体と接触させた後、該固体中の硫黄を定量することを特徴とする、硫黄含量の測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄含量を、高感度で精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に供することができる塩化水素を含有するガスとしては、例えば、水素と塩素の反応により生成するガスや、塩酸の加熱により発生するガスの他、塩素化合物の熱分解反応又は燃焼反応、ホスゲンによる有機化合物のカルボニル化反応、クロロホルミル化反応又はクロロ化反応、塩素による有機化合物の塩素化反応、クロロアルカンとフッ化水素との反応又はアルカンと塩素とフッ化水素との反応によるクロロフルオロアルカンの製造などにより発生する各種副生ガス、さらには焼却炉から発生する燃焼排ガスなどが挙げられる。また、塩素を含有するガスとしては、例えば、食塩、食塩水又は塩酸の電気分解により生成するガスや、塩化水素の酸素酸化により生成するガス等が挙げられる。また、塩化水素及び塩素を含有するガスとしては、例えば、上記の如き塩化水素を含有するガスと塩素を含有するガスとの混合ガス等が挙げられる。
【0008】
上記の如き塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中には、その調製法や発生源に起因して、硫黄成分、具体的には、硫酸(H2SO4)、三酸化硫黄(SO3)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS2)、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(CH3CH2SH)、硫化ジメチル((CH3)2S)、硫化ジエチル((CH3CH2)2S)、二硫化ジメチル(CH3SSCH3)の如き硫黄化合物や、単体硫黄が含まれることがある。例えば、ホスゲンと有機化合物の反応により副生する塩化水素を含有するガス中には、ホスゲン中の不純物である硫化カルボニルが持ち込まれることがある。また、塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを硫酸で脱水すると、脱水後のガス中には、硫酸がミスト状で同伴されることがある。そして、塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを各種用途に供する場合、その用途によっては硫黄成分に関する規格を定める必要があり、特に該ガスを金属触媒反応に付す場合、例えば塩化水素を含有するガスを酸素酸化反応に付す場合には、触媒被毒成分としての硫黄成分を厳密に管理する必要がある。そこで、本発明では、塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを、酸素の存在下に、周期表8〜10族の各元素の単体及び化合物から選ばれる金属成分を含有する固体と接触させた後、該固体中の硫黄を定量することにより、上記ガス中の硫黄含量を測定する。かかる方法により、上記ガス中の硫黄含量を高感度で精度良く測定することができ、測定機器の腐食も防止することができる。なお、塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄成分は、例えば、硫酸の如くミスト状で含まれていてもよいし、ガス状で含まれていてもよい。
【0009】
上記ガスを酸素の存在下に上記固体と接触させることにより、上記ガス中に含まれうる硫黄成分のうち、硫黄の酸化数が+6未満であるものは、硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物、具体的には三酸化硫黄又は硫酸にまで酸化して、上記固体中に含有させる、具体的には上記固体の内表面又は外表面に吸着又は付着させることができる。また、三酸化硫黄や硫酸の如き硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物は、これ以上酸化することなくそのまま、上記固体中に含有させることができる。
【0010】
酸素は、上記ガス中の硫黄の酸化数が+6未満である硫黄成分を硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物にまで酸化するのに十分な量、存在させる必要がある。ここで、上記ガスが塩化水素を含むものである場合、条件によっては塩化水素が酸化されることにより、酸素が消費されるので、この消費分も考慮する必要があり、他に被酸化成分が含まれる場合も同様である。上記ガス中に十分な量の酸素が含まれていれば、酸素の補充は必要ないが、上記ガス中に酸素が含まれていなかったり、含まれていても少ない場合は、空気や純酸素ガスの如き酸素含有ガスを混合して、酸素を補充する必要がある。存在させる酸素の量は、例えば、上記ガス中の塩化水素及び/又は塩素に対する硫黄成分の含量が、硫黄として1モルppm以下程度と比較的微量であれば、塩化水素及び/又は塩素に対し0.01〜100モル倍程度を目安とすればよい。なお、酸素含有ガスとしては、硫黄成分を含まない高純度品を使用するのがよい。
【0011】
上記ガスと接触させる固体は、周期表8〜10族の各元素、すなわち、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金の各元素の単体及び化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属成分を必須とするものであり、硫黄成分の酸素酸化活性を有するものである。かかる固体は、例えば、実質的に上記金属成分のみからなるものであってもよいし、上記金属成分が担体に担持されてなるものであってもよく、さらに、これらが希釈剤で希釈されたものを使用することもできる。中でも、上記金属成分が担体に担持されてなるものを使用するのが望ましい。
【0012】
上記金属成分の担持に使用される担体としては、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、酸化ニオブの如き酸化物や、活性炭などが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上、例えば上記酸化物の2種以上からなる複合酸化物や混合酸化物などを用いてもよい。また、上記酸化物ないし複合酸化物は、ゼオライト骨格を有するものであってもよい。中でも、アルミナやチタニアが好ましく用いられる。なお、上記希釈剤の例も、これら担体の例と同様である。
【0013】
上記金属成分が担体に担持されてなる固体の調製方法については適宜選択されるが、例えば、上記元素の化合物の水溶液を担体に含浸させた後、乾燥する方法や、上記元素の化合物の水溶液に担体を浸漬して、該化合物を担体に吸着させた後、乾燥する方法などにより、上記元素の化合物が担体に担持されてなる固体を調製することができる。また、この固体を、ヒドラジンの如き還元剤を用いて還元したり、水素の流通下に焼成したりすることにより、上記元素の単体が担体に担持されてなる固体を調製することができる。さらに、これら上記元素の化合物ないし単体が担体に担持されてなる固体を、酸素ないし空気の流通下に焼成することにより、上記元素の酸化物が担体に担持されてなる固体を調製することができる。上記金属成分を担体に担持する場合、その担持率は、上記金属成分及び担体の合計質量に対する質量比で表して、通常0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0014】
上記金属成分として、周期表8〜10族の各元素の化合物を使用する場合、該化合物としては、例えば、ハロゲン化物、酸化物、過塩素酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ハロゲノ酸やその塩、アンミン錯塩、有機酸塩、カルボニル錯体、オキソ酸やその塩などが挙げられ、その水和物を使用してもよい。
【0015】
典型的には、鉄化合物の例として、FeCl2、FeCl3、FeBr2、FeBr3、FeI2の如きハロゲン化物、FeO、Fe34、Fe23の如き酸化物、Fe(ClO4)2、Fe(ClO4)3の如き過塩素酸塩、Fe(NO3)2の如き硝酸塩などが挙げられ、ルテニウム化合物の例として、RuCl3の如きハロゲン化物、RuO2、RuO4の如き酸化物、Ru(NO3)3の如き硝酸塩、H2RuCl6の如きハロゲノ酸などが挙げられ、オスミウム化合物の例として、OsCl4の如きハロゲン化物、OsO4の如き酸化物、K2OsO4の如きオキソ酸塩などが挙げられる。
【0016】
また、コバルト化合物の例として、CoCl2、CoBr2、CoI2の如きハロゲン化物、CoO、Co34、Co23、CoO2の如き酸化物、Co(ClO4)2の如き過塩素酸塩、Co(NO3)2の如き硝酸塩などが挙げられ、ロジウム化合物の例として、RhCl3、RhBr3の如きハロゲン化物、Rh23の如き酸化物、Rh(ClO4)3の如き過塩素酸塩、Rh(NO3)3の如き硝酸塩、H3RhCl6、(NH4)3RhCl6、H3RhBr6の如きハロゲノ酸やその塩、Rh(NH3)6Cl3の如きアンミン錯塩、Rh2(CH3COO)4の如き有機酸塩、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16の如きカルボニル錯体などが挙げられ、イリジウム化合物の例としては、IrCl3、IrBr3、IrCl4の如きハロゲン化物、IrO2の如き酸化物、H2IrCl6、H3IrCl6、H3IrBr6、Na2IrCl6、Na3IrCl6、K2IrCl6、K3IrCl6、(NH4)2IrCl6、K2IrBr6の如きハロゲノ酸やその塩などが挙げられる。
【0017】
また、ニッケル化合物の例として、NiCl2、NiI2の如きハロゲン化物、NiO、Ni34、Ni23、NiO2の如き酸化物、Ni(ClO4)2の如き過塩素酸塩、Ni(NO3)2の如き硝酸塩、NiCO3の如き炭酸塩などが挙げられ、パラジウム化合物の例として、PdCl2の如きハロゲン化物、PdOの如き酸化物が挙げられ、白金化合物の例として、PtCl3、PtCl4の如きハロゲン化物、PtO2の如き酸化物、H2PtCl6、Na2PtCl6、K2PtCl6、(NH4)2PtCl6、H2PtCl4、K2PtCl4、(NH4)2PtCl4、H2PtBr6、K2PtBr6、(NH4)2PtBr6、K2PtBrの如きハロゲノ酸やその塩、Pt(NH3)4Cl2、Pt(NH3)4(NO3)2、Pt(NH3)4CO3、Pt(NH3)4(CH3COO)2の如きアンミン錯塩、H2Pt(OH)6、Na2Pt(OH)6の如きオキソ酸やその塩などが挙げられる。
【0018】
上記金属成分としては、硫黄成分の酸化の効率性の点から、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の各元素の単体及び化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属成分を使用するのが好ましく、該金属成分を担体に担持して使用するのがより好ましい。また、該金属成分としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の各元素の単体や、酸化ルテニウム、ハロゲン化ルテニウムの如きルテニウム化合物、酸化イリジウムの如きイリジウム化合物を使用するのがより好ましく、ルテニウムの単体や化合物を使用するのがさらに好ましい。
【0019】
上記ガスを上記固体と接触させる際の温度は、通常−40〜600℃であり、好ましくは150〜500℃である。接触温度を150℃以上にすることにより、上記ガス中の硫黄成分を効率的に酸化して、上記固体中により確実に捕集することができるが、接触温度が高すぎると、上記固体が揮散し易くなる。また、接触圧力は、通常0.1〜3MPa、好ましくは0.1〜1MPaである。接触圧力が高すぎると、設備面での負担が大きくなり易い。
【0020】
接触方式は、例えば、固定床流通方式であってもよいし、流動床流通方式であってもよいが、流動床流通方式の場合、上記固体がガスに同伴されて飛散し易くなるので、固定床流通方式が好ましい。固定床流通方式の場合、通常、管状容器などに上記固体を充填して充填層(固定床)を形成し、ここに上記ガスを必要により補充される酸素含有ガスと共に供給して接触させればよい。充填物の形状としては、例えば、球状、円柱状、リング状、無定形の粒状などが挙げられる。また、その成型法としては、例えば、押出成型、打錠成型、噴霧成型などが挙げられ、成型後、適度な大きさに粉砕分級して使用してもよい。充填物の径は、硫黄成分の酸化の効率性の点から、5mm以下であるのが好ましいが、小さすぎると、充填層での圧力損失が大きくなるため、通常0.5mm以上である。なお、ここでいう充填物の径とは、球状の場合は球の直径、円柱状の場合は断面の円の直径、その他の形状の場合は任意の断面の最長径を意味する。
【0021】
接触方式が固定床流通方式である場合、ガスの供給速度は、充填層の全体積(充填物及び充填物間の空隙の全体積)に対するガスの体積供給速度(1気圧、0℃換算)、すなわちガス空間速度GHSVで表して、通常1〜100000hr-1、好ましくは500〜10000hr-1である。また、充填層の断面積(ガス供給方向に垂直な断面の面積)に対するガスの体積供給速度(1気圧、0℃換算)、すなわち所謂空塔基準のガス線速度LVは、通常0.01〜10m/secである。
【0022】
上記の如く、塩化水素及び/又は塩素を含有するガスを、酸素の存在下に、周期表8〜10族の各元素の単体及び化合物から選ばれる金属成分を含有する固体と接触させた後、該固体中の硫黄を定量する。この定量方法は適宜選択されるが、本発明によれば、先に述べたように、上記ガス中に含まれうる硫黄成分のうち、硫黄の酸化数が+6未満であるものは、硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物、具体的には三酸化硫黄又は硫酸にまで酸化して、上記固体中に含有させることができ、また、三酸化硫黄や硫酸の如き硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物は、これ以上酸化することなくそのまま、上記固体中に含有させることができるので、上記定量方法としては、上記固体中の硫黄の酸化数が+6である硫黄化合物を、溶媒により硫酸根として抽出し、この溶媒抽出液中の硫酸根をイオンクロマトグラフィー法により硫酸イオンとして定量して、硫黄に換算するのが望ましい。また、別法としては、上記固体を溶融してICP発光法で分析するのが有効であり、例えば、上記固体中に硫黄成分が不十分に酸化された状態で、すなわち硫黄の酸化数が+6未満の状態で含まれる恐れがある場合は、ICP発光法を採用するのがよい。もちろん、イオンクロマトグラフィー法により硫酸根以外の硫黄成分を定量することも可能であり、また、上記の溶媒抽出液中の硫酸根を含む硫黄成分を、ICP発光法や、イオンクロマトグラフィー法以外のクロマトグラフィー法などで分析することも可能である。
【0023】
接触方式が固定床流通方式である場合、上記固体への硫黄成分の捕集が確実に行われていることを確認するには、接触後、上記固体をガス流通方向に複数の層に分割して取り出し、それぞれの層について硫黄の定量を行い、ガス出口側に最も近い層に硫黄成分が実質的に含まれていないことを確認すればよい。かかる処方を採用する場合、予め上記固体を石英ウールなどで仕切って分割充填しておくと、取り出し易くて有利である。なお、硫黄の定量値としては、各層の合計値を求めればよい。
【0024】
こうして求められた固体中の硫黄含量は、該固体に接触させた塩化水素及び/又は塩素を含有するガスの全量中の硫黄含量に相当する。該ガス中の硫黄含量の表し方は適宜選択され、例えば、ガス体積あたりの硫黄の体積やモル量、質量などで表してもよいし、ガス中の塩化水素及び/又は塩素に対する硫黄のモル比などで表してもよい。ガス中の硫黄成分の種類(構造)が分かっていれば、硫黄含量をその成分含量に分子量換算して、ガス中の硫黄成分含量として表すこともできる。なお、本発明の方法は、塩化水素及び塩素を含有しないガス中の硫黄含量の測定にも採用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0026】
参考例1(担持酸化ルテニウムの調製)
酸化チタン〔堺化学(株)製のSTR−60R、100%ルチル型〕とα−アルミナ〔住友化学(株)製のAES−12〕とを、34:66(前者:後者)の質量比で混合し、次いで純水を加えて混練した。この混合物を直径1.5mmφの円柱状に押出し、乾燥した後、長さ2〜4mm程度に破砕した。得られた成型体を空気中、700〜730℃で3時間焼成し、酸化チタンとα−アルミナの混合物からなる担体を得た。この担体に、塩化ルテニウムの水溶液を含浸し、乾燥した後、空気中、250℃で2時間焼成することにより、酸化ルテニウムが2質量%の担持率で上記担体に担持されてなる青灰色の担持酸化ルテニウムを得た。この担持酸化ルテニウムの細孔容積は0.207ml/gであり、BET比表面積は16.7m2/gであった。
【0027】
実施例1
参考例1で得られた担持酸化ルテニウム2.1085gを、内径6mmのガラス管に、ほぼ均等に6分割して充填した(各層間には石英ウールを配置)。各層の充填長さは12〜14mm、総充填長は75mmであり、充填層の全体積は2.12cm3と計算される。この充填層に、硫酸ミストを0.06モルppm含む塩化水素ガスを200ml/min、酸素ガスを100ml/min、及び二酸化硫黄ガスを1モルppm含む窒素ガスを10ml/min(いずれも、1気圧、0℃換算)の速度で常圧下に100時間、連続的に供給して通過させた。その際、ガラス管のまわりの外気温度は313〜340℃とした。供給ガス中の塩化水素に対する硫黄成分(硫酸及び二酸化硫黄)の割合は0.11モルppm、塩化水素ガスの全供給量は53.57mol〔1200L(1気圧、0℃換算)〕と計算され、また、GHSVは8771hr-1、LVは0.18m/secと計算される。
【0028】
ガス供給終了後、充填された担持酸化ルテニウムの各層(ガス入口側から順に1層目、2層目、・・・6層目とする)を取り出し、各層毎に加圧熱水抽出し、該抽出液中の硫酸根をイオンクロマトグラフィーで硫酸イオン(SO42-)として定量した結果を表1に示すと共に、使用前(ガス供給前)の担持酸化ルテニウムについて、同様に硫酸根を定量した結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に記載の結果から、担持酸化ルテニウムに捕集された供給ガス中の硫黄成分に由来する硫酸イオンは540.2μg(5.62μmol)であり、この値から供給ガス中の塩化水素に対する硫黄成分の割合を計算すると、0.105モルppmとなり、前記0.11モルppmと非常に近い値が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素及び/又は塩素を含有するガス中の硫黄含量の測定方法であって、該ガスを酸素の存在下に、周期表8〜10族の各元素の単体及び化合物から選ばれる金属成分を含有する固体と接触させた後、該固体中の硫黄を定量することを特徴とする、硫黄含量の測定方法。
【請求項2】
前記固体が、実質的に前記金属成分のみからなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体が、前記金属成分を担体に担持してなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
担体が、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、酸化ニオブ及び活性炭から選ばれる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属成分が、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の各元素の単体及び化合物から選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ガスと前記固体との接触が、150〜500℃で行われる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ガスと前記固体との接触が、前記固体からなる固定床に前記ガスを流通させることにより行われる請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−292533(P2006−292533A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113163(P2005−113163)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】