説明

硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びゴム製品

【課題】 高強度で耐薬品性、耐溶剤性に優れた特性を有する硬化物を与える射出成型可能な硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物、及びこの組成物の硬化物からなるゴム製品を提供する。
【解決手段】 (A)分子鎖の両末端にアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有するフッ素変性有機ケイ素化合物
(C)触媒量の白金族化合物
(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、ジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理され、疎水化度が65.0以上である疎水性シリカ粉末
を必須成分とする硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物、及びこの硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物の硬化物からなるゴム製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性に優れる硬化物を与える射出成型可能な硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物、及びこの組成物の硬化物からなるゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性に優れ、かつ低透湿性で液状化可能なゴム材料として、特許第2990646号公報(特許文献1)に記載の硬化性組成物などが提案されているが、この組成物では高強度のゴム物性を得ることが困難であった。
【0003】
一方、自動車用のバルブやダイヤフラムといったゴム製の部品は、近年の潤滑油の高性能化に伴って、高い耐薬品性が求められているのに加え、ある程度の硬度を維持しつつ耐屈曲疲労性等も要求されるため、切断時伸びや引裂き強度なども高くなければならない。一般に、ゴム強度を向上させるにはシリカなどの補強性充填材の量を増量すればよいが、それによって硬化前の組成物粘度が上昇したり、硬化したゴムの硬度が高くなりすぎたりするため、TypeAデュロメーターでの硬さで40〜50前後の低硬度領域を求められるバルブやダイヤフラムといった用途ではこの手法を使うことが難しかった。また、半導体用製造装置に使われるダイヤフラムなどの部品でも同様の耐薬品性やゴム物性が求められており、そのような特性を持つゴム組成物の出現が望まれている。
【0004】
また、近年ゴム成型物の生産において、自動化などによる省力化を行うために射出成型による生産を行うケースが増えている。このようなことから、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性に優れ、高いゴム物性を有する硬化物となり得、射出成型可能なフルオロポリエーテルゴム組成物の出現が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特許第2990646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高強度で耐薬品性、耐溶剤性に優れた特性を有する硬化物を与える射出成型可能な硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物、及びこの組成物の硬化物からなるゴム製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)分子鎖の両末端にアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物、(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有するフッ素変性有機ケイ素化合物、(C)触媒量の白金族化合物、及び(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、ジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理され、疎水化度が65.0以上である疎水性シリカ粉末を必須成分とする硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物が、射出成型可能であり、高強度で耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性に優れた硬化物となり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、
(A)分子鎖の両末端にアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有するフッ素変性有機ケイ素化合物
(C)触媒量の白金族化合物
(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、ジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理され、疎水化度が65.0以上である疎水性シリカ粉末
を必須成分とする硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物、及びこの組成物の硬化物からなるゴム製品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物は、フッ素含有率が高いため耐溶剤性、耐薬品性に優れ、また透湿性も低く、低表面エネルギーを有するため離型性、撥水性に優れる硬化物を与え、種々の用途に利用することができる。また、硬化前の組成物粘度を低く抑えることができるため、射出成型による成型性に優れており、大量のゴム成型品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[(A)ポリフルオロジアルケニル化合物]
本発明の(A)成分であるポリフルオロジアルケニル化合物は、分子鎖の両末端にアルケニル基を有するものであり、下記一般式(1)で表される分岐を有するポリフルオロジアルケニル化合物を用いることが好ましい。
【0011】
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (1)
〔式中、Xは、式:−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(式中、Yは、式:−CH2−又は式:
【化1】

で表される二価の基であり、R1は、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。)で表される二価の基であり、X’は、式:−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR1−Y’−(式中、Y’は、式:−CH2−又は式:
【化2】

で表される二価の基であり、R1は上記と同じである。)で表される二価の基であり、aは独立に0又は1であり、Rf1は、下記一般式(i):
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]uOCF2(CF2)wCF2O[CF(CF3)CF2O]vx2x− (i)
(式中、u及びvは1〜150の整数であって、かつ、uとvの和の平均は2〜200である。また、wは0〜6の整数、xは2又は3である。)
又は下記一般式(ii):
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]y(OCF2zOCx2x− (ii)
(式中、yは1〜200の整数、zは1〜50の整数である。また、xは上記と同じである。)で表される二価の基である。〕
【0012】
ここで、上記式中のX,X’に係るR1としては、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては炭素数1〜12、特に1〜10のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などや、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換一価炭化水素基などが挙げられる。
【0013】
また、Rf1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される二価の基である。
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]uOCF2(CF2)wCF2O[CF(CF3)CF2O]vx2x− (i)
(式中、u及びvは1〜150の整数であって、かつ、uとvの和の平均は2〜200である。また、wは0〜6の整数、xは2又は3である。)
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]y(OCF2zOCx2x− (ii)
(式中、yは1〜200の整数、zは1〜50の整数である。また、xは上記と同じである。)
【0014】
この場合、式(i)の例として、下記式(i’)のものを挙げることができる。
−CF2CF2[OCF2CF(CF3)]rOCF2(CF2)tCF2O[CF(CF3)CF2O]sCF2CF2− (i’)
(式中、r及びsは1以上の整数であって、かつ、r+sの和の平均は2〜200である。また、tは0〜6の整数である。)
【0015】
Rf1基の具体例としては、例えば、下記の3つのものが挙げられる。好ましくは1番目の式に示す構造の二価の基である。
【0016】
【化3】

(式中、m及びnは1以上の整数、かつm+n(平均)=2〜200である。)
【0017】
【化4】

(式中、m及びnは1以上の整数、かつm+n(平均)=2〜200である。)
【0018】
【化5】

(式中、m’は1〜200の整数、かつn’は1〜50の整数である。)
【0019】
次に、上記一般式(1)で表されるポリフルオロジアルケニル化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0020】
【化6】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0021】
(A)成分の回転粘度計により測定した23℃における粘度は、5〜100,000mPa・s、特に5,000〜50,000mPa・sの範囲であることが望ましい。
【0022】
[(B)フッ素変性有機ケイ素化合物]
本発明の(B)成分であるフッ素変性有機ケイ素化合物は、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を二個以上有するものであり、上記(A)成分の架橋剤ないし鎖長延長剤として機能するものである。
【0023】
また、(A)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、一分子中に一個以上の一価のパーフルオロオキシアルキル基、一価のパーフルオロアルキル基、二価のパーフルオロオキシアルキレン基又は二価のパーフルオロアルキレン基を有することが好ましい。このようなフッ素含有基としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
【0024】
k2k+1
(式中、kは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]n''−Ck'2k'
(式中、n’’は2〜200、好ましくは2〜100の整数、k’は1〜3の整数である。)
−Ck''2k''
(式中、k’’は1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−CF(CF3)[OCF2CF(CF3)]mOCF2CF2O[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)−
(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200、好ましくは2〜100の整数である。)
【0025】
このようなフッ素含有基を有する(B)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上混合して用いてもよい。また、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
上記(B)成分の配合量は、(A)成分を硬化する有効量であり、特に本組成物中の上記(A)成分が有するアルケニル基1モルに対し、(B)成分のヒドロシリル基(≡Si−H)を0.5〜5.0モル供給する量であることが望ましく、より望ましくは1.0〜2.0モル供給する量である。少なすぎれば架橋度合いが不十分になる場合があるし、多すぎれば鎖長延長が優先し、硬化が不十分であったり、発泡したり、耐熱性、圧縮永久歪特性等を悪化させる場合がある。また、この架橋剤は均一な硬化物を得るために(A)成分と相溶するものを使用することが好ましい。
【0032】
[(C)白金族化合物]
本発明の(C)成分である白金族金属触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進する触媒である。この白金族金属触媒としては、入手が比較的容易である点から、白金化合物がよく用いられる。該白金化合物としては、例えば、塩化白金酸;塩化白金酸とエチレンなどのオレフィン、アルコール、ビニルシロキサン等との錯体;及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金を挙げることができる。白金化合物以外の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等(なお、前記式中、Phはフェニル基である。)を例示することができる。
【0033】
(C)成分の使用量は、触媒量でよいが、例えば(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜500ppm(白金族金属換算)を配合することが好ましい。
【0034】
[(D)疎水性シリカ粉末]
本発明の(D)成分である疎水性シリカ粉末は、本発明の組成物から得られる硬化物に適切な物理的強度を付与する作用を有するものである。この(D)成分に用いられるシリカ粉末は、シリコーンゴム用充填剤として公知の微粉シリカを用いることができるが、ガス吸着法により測定したBET比表面積が50m2/g以上であることが必須であり、特に50〜400m2/gであることが好ましい。BET比表面積が50m2/g未満であると十分なゴム物性が得られない。
【0035】
また、上記シリカ粉末は、ジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理されていることが必須である。該シロキサンで処理することによって、組成物の粘度を上げることなく、低硬度領域でも硬化物の引張り強度や引裂き強度、切断時伸びなどのゴム物性を向上させることができる。ここで、ジヒドロキシポリシロキサンとしては、下記式(2)で示されるものが好ましい。
【0036】
【化12】

(ただし、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、トリフルオロプロピル基、トリメチルシロキシ基から選ばれる少なくとも1種の基であり、dは2〜5の整数である。)
【0037】
上記式(2)で示されるジヒドロキシポリシロキサンとしては、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジヒドロキシジシロキサン、1,3−ジメチル−1,3−ビス(トリメチルシロキシ)−1,3−ジヒドロキシジシロキサン、1,3,5−トリ(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチル−1,5−ジヒドロキシトリシロキサンなどが例示され、これらの中でも1,3−ジメチル−1,3−ビス(トリメチルシロキシ)−1,3−ジヒドロキシジシロキサンが好ましい。
【0038】
なお、この疎水性シリカ粉末の製造方法は、公知の方法を使用することができ、ケイ素化合物の種類によって最適な方法を選択することができるが、例えば特開2003−171118号公報に詳述された方法で製造できる。
【0039】
更に、上記疎水性シリカ粉末は、後述する方法により測定した疎水化度が65.0以上、好ましくは70.0以上であることが必須である。疎水化度が65.0未満であると十分なゴム物性が得られなかったり、組成物粘度が高くなったりすることがある。
【0040】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜100質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量部の範囲である。10質量部未満の場合には得られる硬化物の物理的特性が低下し、かつ接着性が不安定となる場合がある。100質量部を超えると得られる硬化物の物理的強度も低下する上に、得られる組成物の流動性が悪くなるため、製造が困難になる、射出成型などの成型方法に適さなくなってしまうなどの問題が生ずるおそれがある。
【0041】
[その他の成分]
本組成物においては、上記の(A)〜(D)成分以外にも、各種配合剤を添加することは任意である。例えば、可塑剤、粘度調節剤、離型性付与剤として、下記一般式(3)のポリフルオロモノアルケニル化合物及び/又は下記式(4)、(5)の直鎖状ポリフルオロ化合物を使用することができる。
【0042】
Rf2−(X’)a−CH=CH2 (3)
〔式中、X’及びaは前記と同じであり、Rf2は、下記一般式(iii)
F−[CF(CF3)CF2O]e−Ck'2k'− (iii)
(式中、k’は前記と同じである。eは1〜150の整数であり、かつ、上記(A)成分のRf1基に関するu+v(平均)及びwの和、並びにy及びzの和のいずれの和よりも小さい。)で表される基である。〕
Z−O−(CF2CF2CF2O)f−Z (4)
〔式中、Zは式:Ck2k+1−(kは1〜3)で表される基であり、fは1〜200の整数であり、かつ、前記(A)成分のRf1基に関するu+v(平均)及びwの和、並びにy及びzの和のいずれの和よりも小さい。〕
Z−O−(CF2O)g(CF2CF2O)h−Z (5)
(式中、Zは上記と同じであり、g及びhはそれぞれ1〜200の整数であり、かつ、gとhの和は、前記(A)成分のRf1基に関するu+v(平均)及びwの和、並びにy及びzの和のいずれの和よりも小さい。)
【0043】
上記一般式(3)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる(ただし、下記Mは、上記eの要件を満足するものである)。
【化13】

【0044】
上記一般式(4),(5)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。(ただし、下記P又はPとNの和は、上記f又はg+hの要件を満足するものである。)
CF3O−(CF2CF2CF2O)P−CF2CF3
CF3−[(OCF2CF2P(OCF2N]−O−CF3
【0045】
上記式(3)〜(5)で表されるポリフルオロ化合物の配合量は、その種類や使用目的によって異なるが、本組成物中の上記(A)成分のポリフルオロジアルケニル化合物100質量部に対して0.1〜300質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜250質量部である。また、上記式(3)〜(5)で表されるポリフルオロ化合物の回転粘度計により測定した23℃における粘度は、(A)成分のポリフルオロジアルケニル化合物と同様に、5〜100,000mPa・sの範囲であることが望ましい。
【0046】
また、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤としては、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノールなどのアセチレンアルコールや、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン、トリアリルイソシアヌレート等、あるいはポリビニルシロキサン化合物、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0047】
無機質充填剤としては、例えば石英粉末、溶融石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化珪素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤、有機顔料や酸化防止剤等の有機化合物を添加することができる。
【0048】
なお、これらの配合成分の使用量は、得られる組成物の特性及び硬化物の物性を損なわない限りにおいて任意である。
【0049】
[組成物の調製及びゴム製品]
本発明の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物の製造方法は、(A)成分であるポリフルオロジアルケニル化合物と(D)成分である疎水性シリカ粉末とを、予め加圧ニーダー、プラネタリーミキサー、三本ロールなどで混練・分散処理した上で、その他の成分を添加、混合することにより製造することができる。
【0050】
このようにして得られた硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物は、回転粘度計により測定した23℃における粘度が5,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100〜2,000Pa・sである。組成物の粘度が5,000Pa・sを超えるとLIMSなどの射出成型を行う際に成型性が悪くなる場合がある。
【0051】
本発明においては、上記組成物を加熱することによりゴム弾性体を得ることができる。ここで、本発明の組成物をゴム弾性体とする硬化成形方法としては公知の方法、条件が採用されるが、本発明の組成物は組成物粘度を低く抑えることができるため、LIMSなどの射出成形を行うこともできる。この場合の射出成形条件としては、組成物の物性、成型形状等によって最適化することができる。
なお、本発明組成物の加熱硬化条件としては、組成物の組成内容や成形方法などにより最適化されるものであるが、加熱温度は50〜250℃であることが好ましく、より好ましくは100〜200℃であり、加熱時間は0.1〜48時間であることが好ましく、より好ましくは1〜24時間である。なお、金型を用いた成型のように閉鎖系で加熱成型した場合は、成型後に開放系で追加加熱(ポストキュア)を行うことが、成型品のゴム物性を良好にするという観点から望ましく、この場合、100〜200℃で2〜48時間のポストキュア条件とすることが好ましい。
【0052】
本発明の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物は、この硬化物を種々の用途に利用することができる。すなわち、フッ素含有率が高いため耐溶剤性、耐薬品性に優れ、また、透湿性も低く、低表面エネルギーを有するため離型性、撥水性に優れており、耐油性を要求される自動車用ゴム部品、具体的にはフューエル・レギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラムなどのダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブなどのバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクタ用O−リングなどのO−リング類、あるいはオイルシール、シリンダヘッド用ガスケットなどのシール材など、化学プラント用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、パッキン類、オイルシール、ガスケットなどのシール材など、インクジェットプリンタ用ゴム部品、半導体製造ライン用ゴム部品、具体的には薬品が接触する機器用のダイヤフラム、弁、O−リング、パッキン、ガスケットなどのシール材など、低摩擦耐摩耗性を要求されるバルブなど、分析、理化学機器用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、弁、シール部品(O−リング、パッキンなど)、医療機器用ゴム部品、具体的にはポンプ、バルブ、ジョイント、フェースシールなど、また、テント膜材料、シーラント、成形部品、押出部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、センサー用ポッティング材、航空機用シール材、燃料電池用シール材、積層ゴム布などに有用である。
【0053】
本発明の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物は、硬化前の組成物粘度を低く抑えることができるため、LIMSなどの射出成形による成型性に優れており、大量のゴム成型品を容易に製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、粘度は回転粘度計により測定した23℃における値を示し、BET比表面積はガス吸着法により測定した値を示した。
【0055】
[配合例1]
下記式(6)で示されるポリマー(粘度10,630mPa・s)100質量部に、BET比表面積が180m2/gで、1,3−ジメチル−1,3−ビス(トリメチルシロキシ)−1,3−ジヒドロキシジシロキサンで処理した処理シリカ粉末30質量部をプラネタリーミキサーで配合・混練したのち、170℃、2時間、−0.05MPaの減圧下で熱処理した。次にこの混練物を三本ロールで分散処理して液状ベース(1)を得た。
【0056】
【化14】

【0057】
[配合例2]
上記式(6)で示されるポリマー(粘度10,630mPa・s)100質量部に、BET比表面積が180m2/gで、1,3−ジメチル−1,3−ビス(トリメチルシロキシ)−1,3−ジヒドロキシジシロキサンで処理した処理シリカ粉末20質量部をプラネタリーミキサーで配合・混練したのち、170℃、2時間、−0.05MPaの減圧下で熱処理した。次にこの混練物を三本ロールで分散処理して液状ベース(2)を得た。
【0058】
[配合例3]
上記式(6)で示されるポリマー(粘度10,630mPa・s)100質量部に、トリメチルシロキシ基で処理され、BET比表面積が180m2/gである処理シリカ粉末30質量部をプラネタリーミキサーで配合・混練したのち、170℃、2時間、−0.05MPaの減圧下で熱処理した。次にこの混練物を三本ロールで分散処理して液状ベース(3)を得た。
【0059】
[配合例4]
上記式(6)で示されるポリマー(粘度10,630mPa・s)100質量部に、トリメチルシロキシ基で処理され、BET比表面積が180m2/gである処理シリカ粉末20質量部をプラネタリーミキサーで配合・混練したのち、170℃、2時間、−0.05MPaの減圧下で熱処理した。次にこの混練物を三本ロールで分散処理して液状ベース(4)を得た。
【0060】
[配合例5]
上記式(6)で示されるポリマー(粘度10,630mPa・s)100質量部に、トリメチルシロキシ基とビニルジメチルシロキシ基の比が10:1になるように処理されたBET比表面積が180m2/gである処理シリカ粉末20質量部をプラネタリーミキサーで配合・混練したのち、170℃、2時間、−0.05MPaの減圧下で熱処理した。次にこの混練物を三本ロールで分散処理して液状ベース(5)を得た。
【0061】
[実施例1,2、比較例1〜3]
プラネタリーミキサーを用いて表1に記載した配合で組成物の配合を行った。次にその組成物を用いて下記のような評価を行った。その結果を表2に記載した。
【0062】
[ゴム硬化物の評価]
《フィラー疎水化度》
配合例1〜5で使用したフィラーの疎水化度を以下のような方法で測定した。結果は表2に記載した。
1)攪拌子を入れたビーカーに純水50mlとフィラー0.2gを投入し、攪拌しながらビュレットを用いてメタノールを液中に滴下する。
2)フィラーが液中に完全に分散し、液面の浮遊フィラーが完全に液中に分散した時点を終点とする。
3)終点のメタノール滴下量をV(ml)とし、疎水化度を次式:{V/(50+V)}×100により求める。
【0063】
《硬化前粘度》
実施例及び比較例で配合した硬化前の組成物粘度を、回転粘度計(BS型、ローターNo.7、回転数10rpm)で測定した。結果を表2に示した。
【0064】
《ゴム物性》
組成物を減圧脱泡した後、130×170×2mmの金型枠に入れ、100kgf/cm2の圧力で150℃、10分間プレス硬化した。その後、200℃で4時間硬化させてゴム硬化物を得た。この硬化物を用いて、表2に示すゴム物性をJIS K 6250に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(架橋剤)
【化15】

(制御剤)
【化16】

(触媒)
塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体 トルエン溶液(Pt:0.5質量%)
【0067】
【表2】

【0068】
※測定限界以上のため測定不能
(注1)
【化17】

(注2)
[(CH33Si]2−NH:[CH2=CH(CH32Si]2−NH=10:1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖の両末端にアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有するフッ素変性有機ケイ素化合物
(C)触媒量の白金族化合物
(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、ジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理され、疎水化度が65.0以上である疎水性シリカ粉末
を必須成分とする硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項2】
(A)成分のポリフルオロジアルケニル化合物が、下記一般式(1):
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (1)
〔式中、Xは、式:−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(式中、Yは、式:−CH2−又は式:
【化1】

で表される二価の基であり、R1は、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。)で表される二価の基であり、X’は、式:−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR1−Y’−(式中、Y’は、式:−CH2−又は式:
【化2】

で表される二価の基であり、R1は上記と同じである。)で表される二価の基であり、aは独立に0又は1であり、Rf1は、下記一般式(i):
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]uOCF2(CF2)wCF2O[CF(CF3)CF2O]vx2x− (i)
(式中、u及びvは1〜150の整数であって、かつ、uとvの和の平均は2〜200である。また、wは0〜6の整数、xは2又は3である。)
又は下記一般式(ii):
−Cx2x[OCF2CF(CF3)]y(OCF2zOCx2x− (ii)
(式中、yは1〜200の整数、zは1〜50の整数である。また、xは上記と同じである。)で表される二価の基である。〕
で表される分岐を有するポリフルオロジアルケニル化合物である請求項1記載の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項3】
(B)成分の有機ケイ素化合物が、一分子中に一個以上の一価のパーフルオロオキシアルキル基、一価のパーフルオロアルキル基、二価のパーフルオロオキシアルキレン基又は二価のパーフルオロアルキレン基を有し、かつケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有するものである請求項1又は2に記載の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項4】
(D)成分の疎水性シリカ粉末の疎水化処理剤が、1,3−ジメチル−1,3−ビス(トリメチルシロキシ)−1,3−ジヒドロキシジシロキサンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項5】
硬化性フルオロポリエーテル組成物の23℃における粘度が、5,000Pa・s以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物の硬化物からなるゴム製品。
【請求項7】
自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用又は燃料電池用である請求項6記載のゴム製品。
【請求項8】
ダイヤフラム、バルブ、O−リング、オイルシール、ガスケット、パッキン、ジョイント又はフェースシールである請求項6又は7記載のゴム製品。
【請求項9】
硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物の硬化物が射出成形によって製造されたものである請求項6〜8のいずれか1項に記載のゴム製品。

【公開番号】特開2006−63113(P2006−63113A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244254(P2004−244254)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】