説明

硬化性樹脂組成物

【課題】表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に、熱成形性に優れた硬化物を生成する硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも一種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも一種以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有する硬化性樹脂組成物。
【化1】


上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に、熱成形性に優れた硬化物を生成する硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等からなる樹脂成型品は、軽量で、透明性、耐衝撃性、成形性に優れており、レンズや光学フィルム、各種メータユニットの保護カバー、電気製品の外装部等に広く利用されている。
【0003】
例えばポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、電気絶縁性、難燃性に優れており、車両のヘッドライトや風防、建築物の外壁板、携帯機器の筐体等に利用されるが、表面硬度が低く、耐摩耗性、耐擦傷性に劣るという欠点を有する。そのため、上記樹脂成型品は表面に紫外線硬化樹脂等からなるハードコート層を形成し、耐摩耗性を改善することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、従来のハードコート層は、伸度が小さいため熱成形性に劣るという欠点を有する。すなわち、ポリカーボネート樹脂からなる成型品の表面にハードコート層を設け、更に二次成形加工した場合、ハードコート層が、基体であるポリカーボネート樹脂の変形に追従できずに白濁やクラックが発生してしまう。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−127635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に熱成形性に優れた硬化物を生成する硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種類以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物が、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に熱成形性に優れた硬化物を生成することを見出した。
【0008】
【化1】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【発明の効果】
【0009】
下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種類以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物は、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に熱成形性に優れた硬化物を生成する。従って、本発明における前記硬化性樹脂組成物から生成する硬化物を樹脂成型品のハードコート層として用いた場合、容易に二次成形加工することができる。
【0010】
【化2】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【0011】
また、下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種類以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物は、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦傷性に優れると共に熱成形性に優れた硬化物を生成する。従って、本発明における前記硬化性樹脂組成物から生成する硬化物を樹脂成型品のハードコート層として用いた場合、容易に二次成形加工することができる。
【0012】
【化3】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の脂肪族環もしくは芳香族環である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における硬化性樹脂組成物は、下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有するものである。
【0014】
【化4】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【0015】
また、本発明における硬化性樹脂組成物は、下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有するものである。
【0016】
【化5】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の脂肪族環もしくは芳香族環である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【0017】
本願におけるアクリロイル化合物とは、下記式Iで示されるようにアクリロイル基を有するものである。
【0018】
【化6】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【0019】
ここで、連結基Yが有していても良い置換基としては、=O、−OH、−CH、−CHCH等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明における硬化性樹脂組成物から硬度の高い硬化物を得るには、前記式Iで示されるアクリロイル化合物が有する置換基Zが、炭素数4〜20の脂肪族環もしくは芳香族環であるアクリロイル化合物を用いることが好ましい。
【0021】
前記アクリロイル化合物の具体例としては、アクリロイルモルフォリン、メタアクリロイルモルフォリン、アクリロダン、1−アクリロイルピロリジン、1−アクリロイルピペリジン、4−アクリロイルチオモルフォリン、アクリロフェノン、2−アクリロイルフェノール、1−アクリロイル−4−メチルピペラジン、1−アクリロイル−4−エチルピペラジン、1−アクリロイル−4−フェニルピペラジン、1−アクリロイル−4−プロピルピペラジン、3‐アクリロイルオキサゾリジン‐2‐オン、2−アクリロイル−1−メチル−1H−インドール、4’−エトキシアクリロフェノン、5−アクリロイル−1,3−ベンゾジオキソール、1−アクリロイル−2−メチレンシクロへキサン、1−アクリロイル−2−メチレンシクロへプタン、3−アクリロイル−2−オキサゾリドン、アクリロイルベンゼンが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの中でも、アクリロイルモルフォリン、メタアクリロイルモルフォリン、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジンが好ましい。
【0022】
本願における多官能性アクリル酸エステルは、分子内に重合性官能基を2以上有するものである、本願における多官能性アクリル酸エステルの具体例としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0023】
なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「メタアクリル」または「アクリル」を示す。同様に、本願において「(メタ)アクリレート」とは、「メタアクリレート」または「アクリレート」を示す。
【0024】
本願における熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン等を用いることができる。本発明における硬化性樹脂組成物を樹脂成型品のハードコート層として使用する場合、樹脂成型品との密着性を考慮して、熱可塑性樹脂を適宜選択して使用することが可能である。特に、本発明における硬化性樹脂組成物をポリカーボネートからなる樹脂成型品のハードコート層として用いる場合には、熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いることが好ましく、特に、重量平均分子量100,000〜400,000のポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いることが好ましい。
【0025】
本願における熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30〜110℃であるものを用いることが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物において、Tgが30℃未満の熱可塑性樹脂を用いると、硬化物の硬度が不足する場合があり好ましくない。一方、本発明の硬化性樹脂組成物において、Tgが110℃を超える熱可塑性樹脂を用いると、熱成形性が低い硬化物が生成する場合があり好ましくない。
【0026】
本発明における硬化性樹脂組成物において、下記式Iで示されるアクリロイル化合物、多官能性アクリル酸エステルおよび熱可塑性樹脂の配合量を合計100重量%とした時に、前記アクリロイル化合物を30〜70重量%、多官能性アクリル酸エステルを20〜40重量%、および熱可塑性樹脂を5〜35重量%の範囲で含有させることが好ましい。
【0027】
【化7】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【0028】
本発明における硬化性樹脂組成物において、上記式Iで示されるアクリロイル化合物、多官能性アクリル酸エステルおよび熱可塑性樹脂の配合量を合計100重量%とした時に、前記アクリロイル化合物の含有量が30重量%未満の組成物を硬化させた場合、熱成形性が低い硬化物が生成することがあり好ましくない。すなわち、前記アクリロイル化合物の含有量が30重量%未満の硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、二次成形加工時にハードコート層が基材の変形に追従できず白濁やクラックが生じることがあり好ましくない。一方、本発明の硬化性樹脂組成物において、前記アクリロイル化合物の含有量が70重量%を超える組成物を硬化させた場合、表面硬度の低い硬化物が生成することがあり好ましくない。すなわち、前記アクリロイル化合物の含有量が70重量%を超える硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、表面硬度が低く、耐摩耗性、耐擦傷性が劣るため樹脂成型品が傷つくことがあり好ましくない。
【0029】
本発明における硬化性樹脂組成物において、多官能性アクリル酸エステルの含有量が20重量%未満の組成物を硬化させた場合、表面硬度の低い硬化物が生成することがあり好ましくない。すなわち、多官能性アクリル酸エステルの含有量が20重量%未満の硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、表面硬度が低く、耐摩耗性、耐擦傷性が劣るため樹脂成型品が傷つくことがあり好ましくない。一方、本発明の硬化性樹脂組成物において、多官能性アクリル酸エステルの含有量が40重量%を超える組成物を硬化させた場合、熱成形性が低い硬化物が生成することがあり好ましくない。すなわち、多官能性アクリル酸エステルの含有量が40重量%を超える硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、二次成形加工時にハードコート層が基材の変形に追従できず白濁やクラックが生じることがあり好ましくない。
【0030】
また、本発明における硬化性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂の含有量が5重量%未満の組成物を硬化させた場合、基材との密着性が劣ることがあり好ましくない。すなわち、熱可塑性樹脂の含有量が5重量%未満の硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、樹脂成型品との密着性が低いためハードコート層が剥離し易くなることがあり好ましくない。特に、このようなハードコート層を設けた樹脂成型品を二次加工する場合、基材の変形に伴ってハードコート層が剥離することがあり好ましくない。一方、熱可塑性樹脂の含有量が35重量%を超える硬化性樹脂組成物を硬化させた場合、硬度の低い硬化物が生成することがあり好ましくない。すなわち、熱硬化性樹脂の含有量が35重量%を超える硬化性樹脂組成物の硬化物を、樹脂成型品のハードコート層として用いると、表面硬度が低く、耐摩耗性、耐擦傷性に劣るため樹脂成型品が傷つくことがあり好ましくない。
【0031】
本願における重合開始剤としては、公知のものを単独でもしくは組み合わせて使用することができ、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、キュメンハイドロパーオキサイト、t−ブチルハイドロパーオキサイト等の熱重合開始剤、或いはベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン類、ベンジル等のアルファ−ジカルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン−1等のアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2、4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のフォスヒンオキサイド類、1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のアルファ−アシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン類の光重合開始剤を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明における硬化性樹脂組成物が含有する重合開始剤としては、生産効率が良く、また、低温で反応し、耐熱性のない基材への塗工ができる点から光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0033】
重合開始剤の添加量としては、上記式Iで示されるアクリロイル化合物、多官能性アクリル酸エステル、および熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、1〜10重量部用いることが好ましい。
【0034】
また、本発明における硬化性樹脂組成物は、所望により、重合調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、スリップ剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含有させることができる。
【0035】
本発明における硬化性樹脂組成物に紫外線吸収剤を含有させる場合、耐久性を考慮すると反応性紫外線吸収剤を用いることが好ましい。前記反応性紫外線吸収剤の具体例としては、反応性UVAであるRUVA−93(大塚化学製)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明における硬化性樹脂組成物は、所望により希釈溶剤で希釈、溶解して調製することができる。前記希釈溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、2−ぺンタノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤を単独又は混合して使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明における硬化性樹脂組成物は、ディッピング法、フローコート法、スプレー法、バーコード法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフ法等の方法で樹脂成型品の表面に塗布し、乾燥、硬化させてハードコート層とすることができる。
【0038】
また、予め本発明の硬化性樹脂組成物を用いてフィルムを作製し、これを樹脂成型品に貼着してハードコート層を形成しても良い。この場合、まず基材フィルム上に、本発明における硬化性樹脂組成物を、フローコート法、スプレー法、バーコード法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフ法等の方法で塗布し、乾燥後、硬化させてハードコート層転写フィルムを作製する。その後、このハードコート層転写フィルムを使用して、ハードコート層を樹脂成型品に転写する。上記基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン6、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂からなるフィルムを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明における硬化性樹脂組成物を樹脂成型品のハードコート層として使用する場合、ハードコート層の厚みを1〜15μmとすることが好ましい。樹脂成型品の二次加工性を考えると、ハードコート層の厚みを1〜10μmとすることがより好ましく、2〜6μmとすることが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0042】
(1)鉛筆硬度試験
以下のとおり、ハードコート層を有するポリカーボネートフィルムを用いて鉛筆硬度試験を行った。JIS K−5600準拠の安田精機製の鉛筆硬度試験機:No.553に三菱鉛筆製の鉛筆硬度試験用鉛筆を装着し、荷重750g、引っ掻き角度45°、引っ掻き速度0.5mm/分にてハードコード層表面の鉛筆硬度試験を実施した。
【0043】
(2)テーバー磨耗試験
以下のとおり、ハードコート層を有するポリカーボネートフィルムを用いてテーバー摩耗試験を行った。テーバー磨耗試験機(東洋精機製、MODEL5130)に摩耗輪CS10Fを取り付け、加重500gで実施例1のハードコート層表面で100回転させた。ガードナー社製ヘイズガードII(JIS K7361[ISO法:積分球補償あり])を使用して、摩耗試験前後におけるヘイズ値の変化を測定した。
【0044】
(3)真空成形試験
熱成形性を評価するために以下のとおり真空成形試験を行った。真空成形機:(成光産業(株)製 「フォーミング480型」)に、ハードコート層を有するポリカーボネートフィルム、および図1に示すような最大絞り深さ15mmのアルミ製金型をセットし、ヒーターを380℃まで昇温させた。次いで、フィルムとヒーターとの距離を10cmに設定し25秒間加熱すると、フィルム表面の温度が150℃以上になりフィルムが軟化した。この状態で、真空ポンプを用いてフィルムを吸引しながら、反対側からフィルムにアルミ製金型を密着させ、絞り深さ15mmの真空成形試験を行った。
【0045】
(実施例1)
硬化性樹脂組成物の調製
紫外線遮断環境下、以下の手順にて硬化性樹脂組成物を調製した。攪拌機を備えたステンレス製の容器に、紫外線吸収剤 RUVA−93(大塚化学製:反応性UVA)1.8g、ヒンダードアミン系光安定剤 チヌビン292(チバスペシャリティケミカル製)0.9g、シリコン系表面調整剤BYK−306(ビッグケミー製)0.6g、熱可塑性樹脂 LR−248(三菱レイヨン製:アクリル樹脂30%溶液)49.3g(15重量%)、重合禁止剤 ハイドロキノンモノメチルエーテル0.09g、希釈溶剤として酢酸ブチル148gおよびイソプロパノール36.9gを投入し、液温度を30〜35℃に保ちながら、15分間攪拌し均一溶液とした。
【0046】
さらに、上記溶液に、多官能性アクリル酸エステルとしてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬製)を34.6g(35重量%)、アクリロイル化合物としてアクリロイルモルフォリン(興人製)を49.5g(50重量%)、光重合開始剤 Irgacure907(チバスペシャリティケミカル製)を2.25g投入し、液温度を30〜35℃に保ちながら15分間攪拌し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0047】
硬化物の作製
グラビアコーターにて60メッシュグラビアロールを用い、塗工速度10m/minになるように設定し、厚さ180μmのポリカーボネートフィルム(サビックイノベーティブプラスチックス製 レキサンPC)に上述の硬化性樹脂組成物を連続塗工した。塗工後、フィルムを80℃で約2分間熱風乾燥させ、高圧水銀ランプによる積算光量1200mj/cmとなるよう紫外線照射を行い硬化させて、ポリカーボネートフィルム上にハードコート層を形成した。このときハードコート層の厚みは3μmであった。
【0048】
(実施例2〜9)
表1に示した配合の硬化性樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリカーボネートフィルム上にハードコート層を形成し実施例2〜9とした。
【0049】
【表1】

ACMO:アクリロイルモルフォリン(興人製)
アクリロイルピペリジン:1-アクリロイルピペリジン
アクリロイルピロリジン:1-アクリロイルピロリジン
DPHA:KAYARAD DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製)
T−1420:KAYARAD T−1420:ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(日本化薬製)
U−15HA:15官能ウレタンアクリレート(新中村化学製)
LR−248:ポリメタクリル酸メチル系樹脂(三菱レイヨン製:重量平均分子量150,000)
M−6664:ポリメタクリル酸i−ブチル、ポリメタクリル酸n−ブチル共重合系樹脂(根上工業製:重量平均分子量180,000)
Irgacure907:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバ・スペシャリティーケミカルズ製)
Irgacure184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ製)
【0050】
表2に示した通り、本発明における硬化性樹脂組成物を用いた実施例1〜9では、鉛筆硬度 H、テーバー摩耗試験におけるヘイズ値上昇も少なく、耐摩耗性、耐擦傷性に優れたハードコート層が形成された。また、実施例1〜9では、熱成形性にも優れた汎用性の高いハードコート層が形成された。
【0051】
【表2】

【0052】
比較例1〜3として、180μmのポリカーボネートフィルムにハードコート層が形成された市販のフィルム(三菱エンジニアリングプラスチックス製 MRG05、およびサビックイノベーティブプラスチックス製 HP−92)、及び上記実施例で用いたポリカーボネートフィルム(レキサンPC)の鉛筆硬度試験、テーバー磨耗試験、真空成形試験を行った。
【0053】
その結果表3に示したとおり、比較例1〜2は鉛筆硬度が高く、耐磨耗性に優れるが、真空成形時に絞り部分が2mm以上ある部位でクラックを生じ、真空成形を行うことができなかった。また、比較例3は、真空成形を行うことができるものの鉛筆硬度が4Bであり、テーバー磨耗性にも劣るものであった。
【0054】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本願における真空成形試験で用いたアルミ製金型の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種類以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【化1】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の置換基である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【請求項2】
下記式Iで示されるアクリロイル化合物を少なくとも1種以上と、多官能性アクリル酸エステルを少なくとも1種類以上と、熱可塑性樹脂と、重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【化2】

上記式中、Rは水素またはメチル基、nは0〜6の整数、Yは置換または非置換のメチレン基である。また、Zは任意に酸素、窒素、イオウから選択される原子を1以上含んでいても良い炭素数4〜20の脂肪族環もしくは芳香族環である。ただしZが酸素原子を含む場合、YはZに含まれる酸素原子と結合することはない。
【請求項3】
重合開始剤が、光重合開始剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
アクリロイル化合物、多官能性アクリル酸エステルおよび熱可塑性樹脂の配合量を合計100重量%とした時に、アクリロイル化合物を30〜70重量%、多官能性アクリル酸エステルを20〜40重量%、および熱可塑性樹脂を5〜35重量%の範囲で含有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリロイル化合物、多官能性アクリル酸エステルおよび熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、重合開始剤を1〜10重量部含むことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
アクリロイル化合物が、アクリロイルモルフォリン、メタアクリロイルモルフォリン、アクリロイルピペリジン、アクリロイルピロリジンからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項7】
多官能性アクリル酸エステルが、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、ポリアクリル酸エステルおよびポリメタクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂が、重量平均分子量100,000〜400,000のポリメタクリル酸メチル(PMMA)であることを特徴とする請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が30〜110℃であることを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
さらに反応性紫外線吸収剤を含むことを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−43150(P2010−43150A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206649(P2008−206649)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】