説明

硬化性組成物

【課題】樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れた硬化物を与える硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の硬化性組成物は、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)に由来する構造単位(a1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)に由来する構造単位(a2)と、加水分解性シリル基とを有し、上記構造単位(a1)及び上記構造単位(a2)の含有割合が、共重合体を構成する全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%であるアクリル系共重合体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアクリル系共重合体を含有し、空気中の水分で硬化し、樹脂被覆鋼板の被覆樹脂部等への接着性に優れた硬化物を与える硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、側鎖や末端に官能基を有する重合体は、それ自身で、又は、硬化剤と組み合わせることによって架橋し、接着性、耐熱性、耐久性等に優れた硬化物を与えることが知られている。中でも、架橋性シリル基を有する重合体は、その代表的なものであり、例えば、架橋性シリル基を末端に有する重合体は、適当な硬化剤の存在下、空気中の水分を吸収することにより硬化物を与える。
【0003】
このような、架橋性シリル基を有する重合体の主鎖骨格としては、(メタ)アクリル酸エステル系重合体;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン又はこれらの水素添加物等の炭化水素系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等のポリエステル系重合体等が知られており、主鎖骨格と架橋形式に基づき、様々な用途に用いられている。例えば、下地金属及び表層樹脂の組み合わせにより、耐候性、耐久性、絶縁性、不燃性、防汚性等の機能と、意匠とを兼ね備え、建材、電気機器、車両、雑貨等に好適な複合材である、樹脂被覆鋼板(樹脂化粧鋼板)が広く用いられている。表層樹脂を構成する樹脂成分としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂等が知られている。
【0004】
しかしながら、樹脂被覆鋼板の表層樹脂と、他の部材との接着性に優れた接着剤が求められており、上記に例示した重合体のうち、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む硬化性組成物としては、特許文献1及び2が知られている。
特許文献1には、力学物性及び接着物性に優れた硬化物を与える、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体と、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有し、分子鎖が実質的に、炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位、及び、炭素数7〜9のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位からなる共重合体と、硬化促進剤とを含有する硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、シーリング材としての十分な伸び性や、引張強度を与えるとともに、フッ素樹脂被覆鋼板等の接着しにくい被着体に対して、優れた接着性を与える組成物であって、主鎖が本質的にポリアルキレンオキサイドであり、末端に架橋可能な加水分解性のシリル基を有する重合体と、架橋可能な加水分解性のシリル基を有するアクリル系共重合体と、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物と、からなる室温硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO03/035755号パンフレット
【特許文献2】特開平8−225707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示された硬化性組成物を、表層樹脂に塩化ビニル系樹脂を含む樹脂被覆鋼板に適用した場合、十分な接着性が得られない場合があった。
本発明の目的は、特定のアクリル系共重合体を含有し、空気中の水分で硬化し、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れた硬化物を与える硬化性組成物(湿気硬化性組成物)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)に由来する構造単位(a1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)に由来する構造単位(a2)と、加水分解性シリル基とを有し、上記構造単位(a1)及び上記構造単位(a2)の含有割合が、共重合体を構成する全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%であるアクリル系共重合体を含有することを特徴とする硬化性組成物。
2.上記アクリル系共重合体の数平均分子量が1,000〜10,000である上記1に記載の硬化性組成物。
3.更に、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体を含有する上記1又は2に記載の硬化性組成物。
4.上記アクリル系共重合体及び上記オキシアルキレン系重合体の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜90質量%及び10〜95質量%である上記3に記載の硬化性組成物。
5.上記アクリル系共重合体が、上記アクリル酸アルキルエステル(m1)と、上記アクリル酸アルキルエステル(m2)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物と、重合開始剤とを含む単量体混合物を、連続的に反応系に供給しつつ、150℃〜350℃の温度で重合させて得られた重合体である上記1乃至4のいずれかに記載の硬化性組成物。
6.上記アクリル系共重合体が、上記アクリル酸アルキルエステル(m1)と、上記アクリル酸アルキルエステル(m2)とを含む単量体成分のリビング重合により得られた重合体である上記1乃至4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性組成物によれば、特定のアクリル系共重合体を含有することから、空気中の水分で硬化し、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れた硬化物を得ることができる。
また、本発明の組成物が、更に、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体を含有する場合には、相溶化剤を用いることなく、上記アクリル系共重合体と上記オキシアルキレン系重合体との相溶性に優れた硬化性組成物とすることができる。
【0010】
更に、上記アクリル系共重合体が、特定の製造方法により得られた重合体である場合には、従来、公知の他の重合法等による重合体を用いたときに比べて、物性面から安定な組成物を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
また、重合体の数平均分子量(以下、「Mn」で表すことがある。)及び重量平均分子量(以下、「Mw」で表すことがある。)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された、ポリスチレン換算値である。
【0012】
本発明の硬化性組成物は、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)に由来する構造単位(a1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)に由来する構造単位(a2)と、加水分解性シリル基とを有し、上記構造単位(a1)及び上記構造単位(a2)の含有割合が、共重合体を構成する全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%であるアクリル系共重合体(以下、「アクリル系共重合体(A)」という。)を含有することを特徴とする。
【0013】
上記アクリル系共重合体(A)に含まれる加水分解性シリル基は、珪素原子と、この珪素原子に結合した、ヒドロキシル基及び/又は加水分解性官能基とを有し、加水分解によってシロキサン結合を形成するとともに、架橋構造を形成し得る基である。加水分解性シリル基としては、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される基が好ましい。
【化1】

(式中、Rは、それぞれ、独立に、炭化水素基であり、Xは、それぞれ、独立に、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、メルカプト基、アルケニルオキシ基及びアミノオキシ基より選ばれる反応性基であり、nは、0、1又は2である。)
【0014】
上記一般式(1)において、Rは、好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜0のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基である。n=2のとき、複数のRは、互いに同一であっても、異なってもよい。
また、n=0又は1のとき、複数のXは、互いに同一であっても、異なってもよい。上記一般式(1)におけるXは、好ましくはアルコキシ基である。
【0015】
上記アクリル系共重合体(A)が、加水分解性シリル基を含むと、加水分解縮合により、Si−O−Si結合が形成され、優れた強度を有する膜等の硬化物を形成することができる。
上記一般式(1)におけるXがアルコキシ基であるときの加水分解性シリル基は、アルコキシシリル基であり、例えば、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジメトキシエトキシシリル基等が挙げられる。これらのうち、硬化速度と柔軟性のバランスから、トリメトキシシリル基及びメチルジメトキシシリル基が特に好ましい。
【0016】
上記アクリル系共重合体(A)に含まれる加水分解性シリル基の数の平均値は、被着体への接着性及び硬化物の引張特性の観点から、好ましくは0.2〜4個、より好ましくは0.5〜3個、更に好ましくは0.5〜2個である。加水分解性シリル基の数が0.2個未満では、組成物の硬化が不十分になる場合があり、4個を超えると、硬化物が硬くなりすぎる場合がある。
【0017】
上記アクリル系共重合体(A)に含まれる加水分解性シリル基の位置は、特に限定されず、重合体の側鎖及び/又は末端とすることができる。
上記加水分解性シリル基が、重合体の末端に存在する場合、重合開始剤等の残基、加水分解性シリル基含有チオール化合物、加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等に由来するものとすることができる。
また、上記加水分解性シリル基が、重合体の側鎖に存在する場合、この加水分解性シリル基を含む構造単位は、重合性不飽和結合及び加水分解性シリル基を有する化合物(以下、「加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物」ともいう。)に由来するものとすることができる。
【0018】
重合性不飽和結合及び加水分解性シリル基を有する化合物(加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物)としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、それぞれ、独立に、炭素数1〜20の炭化水素基であり、Zは、直接結合、又は、−COOR−(Rは、炭素数1〜6の2価のアルキレン基)、−CHCHCH−、−CHOCOCCOO(CH−等の2価の有機基であり、Xは、それぞれ、独立に、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、メルカプト基、アルケニルオキシ基及びアミノオキシ基より選ばれる反応性基であり、mは、0、1又は2である。)
【0019】
上記一般式(2)におけるRが示す炭素数1〜20の炭化水素基は、好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜0のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基である。m=2のとき、複数のRは、互いに同一であっても、異なってもよい。
また、m=0又は1のとき、複数のXは、互いに同一であっても、異なってもよい。
【0020】
上記一般式(2)で表される、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物としては、CH=CHSi(CH)(OCH、CH=CHSi(CH)Cl、CH=CHSi(OCH、CH=CHSiCl、CH=CHCOO(CHSi(CH)(OCH、CH=CHCOO(CHSi(OCH、CH=CHCOO(CHSi(CH)Cl、CH=CHCOO(CHSiCl、CH=C(CH)COO(CHSi(CH)(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(CH)(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(CH)Cl、CH=C(CH)COO(CHSiCl、CH=CHCHOC(O)−Ph−COO(CHSi(CH)(OCH、CH=CHCHOC(O)−Ph−COO(CHSi(OCH、CH=CHCHOC(O)−Ph−COO(CHSi(CH)Cl、CH=CHCHOC(O)−Ph−COO(CHSiCl等が挙げられる。尚、「Ph」はパラフェニレン基を意味する。
【0021】
上記アクリル系共重合体(A)は、上記のように、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)に由来する構造単位(a1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)に由来する構造単位(a2)とを含む共重合体である。この共重合体は、ランダム共重合体であってよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0022】
上記構造単位(a1)及び構造単位(a2)の含有割合は、共重合体を構成する全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%であり、好ましくは35〜70質量%及び30〜65質量%である。上記範囲の含有割合の構造単位を有するアクリル系共重合体(A)を用いることにより、空気中の水分で硬化し、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れた硬化性組成物とすることができる。
【0023】
上記アクリル系共重合体(A)は、上記構造単位(a1)及び(a2)に加えて、他の構造単位(以下、「構造単位(a3)」という。)を含んでもよい。上記アクリル系共重合体(A)が構造単位(a3)を含む場合、その含有量の上限は、構造単位の全量を100質量%とした場合に、好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、更に好ましくは30質量%である。
【0024】
上記構造単位(a3)は、重合性不飽和化合物に由来するものであれば、特に限定されず、例えば、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、メタクリル酸アリールエステル、炭素数9以上の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸シクロアルキルエステル、アクリル酸アリールエステル、芳香族ビニル化合物(スチレン等)、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、アルコキシル基含有不飽和化合物、シアノ基含有不飽和化合物、ニトリル基含有不飽和化合物、マレイミド系化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記アクリル系共重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000であり、好ましくは1,000〜8,000、より好ましくは1,000〜5,000である。上記範囲のMnを有するアクリル系共重合体(A)を含む組成物を用いることにより、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れた硬化物を得ることができる。尚、Mnが大きすぎる重合体を用いると、得られる組成物の粘度が高く、組成物を使用する際の作業性が低下する場合がある。一方、Mnが小さすぎる重合体を用いると、硬化物の耐候性の低下や耐熱性の低下を引き起こす場合がある。
【0026】
また、上記アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)から算出される多分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1.1〜5.0、より好ましくは1.1〜4.0である。上記範囲の多分散度を有するアクリル系共重合体(A)を含む組成物を用いることにより、後述する用途等に適用する際の好適な粘度を有し、接着強度及び破断伸びのバランスに優れた硬化物を与える硬化性組成物を得ることができる。
【0027】
上記アクリル系共重合体(A)の粘度は、E型粘度計を用いて、温度25℃及び回転数5rpmの条件で測定した場合、好ましくは1〜1,000Pa・s、より好ましくは1〜100Pa・s、更に好ましくは1〜50Pa・sである。上記アクリル系共重合体(A)の粘度が上記範囲にあると、組成物を調製する際の作業性に優れる。
【0028】
上記アクリル系共重合体(A)の製造方法は、後述される。
【0029】
本発明の硬化性組成物は、上記アクリル系共重合体(A)との併用により、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性のみならず、引張特性に優れた硬化物を形成するために、更に、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体(以下、「オキシアルキレン系重合体(B)」という。)を含有することができる。
【0030】
上記オキシアルキレン系重合体(B)は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を含むものであれば、特に限定されない。
−O−R− (3)
(式中、Rは、2価の炭化水素基である。)
【0031】
上記一般式(3)におけるRとしては、−CH(CH)−CH−、−CH(C)−CH−、−C(CH−CH−、−CHCHCHCH−等が挙げられる。これらのうち、−CH(CH)−CH−が好ましい。尚、上記オキシアルキレン系重合体(B)は、上記繰り返し単位を1種単独で含んでよいし、2種以上の組み合わせで含んでもよい。
【0032】
上記オキシアルキレン系重合体(B)に含まれる加水分解性シリル基は、上記アクリル系共重合体(A)に有する加水分解性シリル基をそのまま適用することができる。
【0033】
上記オキシアルキレン系重合体(B)に含まれる加水分解性シリル基の数の平均値は、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性及び硬化物の引張特性の観点から、好ましくは1〜4個、より好ましくは1.5〜3個である。加水分解性シリル基の数が1個未満では、組成物の硬化が不十分になる場合があり、4個を超えると、硬化物が硬くなりすぎる場合がある。
【0034】
上記オキシアルキレン系重合体(B)に含まれる加水分解性シリル基の位置は、特に限定されず、重合体の側鎖及び/又は末端とすることができる。
また、上記オキシアルキレン系重合体(B)は、直鎖状重合体及び分枝状重合体のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記オキシアルキレン系重合体(B)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、KOHのようなアルカリ触媒による製造方法、遷移金属化合物−ポルフィリン錯体触媒による製造方法、複合金属シアン化物錯体触媒による製造方法、フォスファゼンを用いた製造方法等が挙げられる。これらのうち、複合金属シアン化物錯体触媒による製造方法は、高分子量であり且つ分子量分布が狭い重合体を得るのに適しており、この重合体を、オキシアルキレン系重合体(B)として用いると、組成物の粘度及び硬化物の破断伸びのバランスが優れるため好ましい。
【0036】
上記オキシアルキレン系重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは2,000〜50,000、より好ましくは5,000〜30,000である。上記範囲のMnを有するオキシアルキレン系重合体(B)を含む組成物を用いることにより、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性及び引張特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0037】
本発明の硬化性組成物が、上記オキシアルキレン系重合体(B)を含有する場合、上記アクリル系共重合体(A)及び上記オキシアルキレン系重合体(B)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは5〜90質量%及び10〜95質量%、より好ましくは5〜50質量%及び50〜95質量%である。上記アクリル系共重合体(A)及び上記オキシアルキレン系重合体(B)を上記割合で含む組成物を用いることにより、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性及び引張特性においてより優れた硬化物を得ることができる。
【0038】
本発明の硬化性組成物は、その効果を損なうものでなければ、上記アクリル系共重合体(A)及び上記オキシアルキレン系重合体(B)を除く、他の重合体を含有することができる。他の重合体の含有量の上限は、上記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、通常、50質量部、好ましくは30質量部である。
【0039】
他の重合体としては、上記アクリル系共重合体(A)を除く、(メタ)アクリル系(共)重合体、例えば、上記構造単位(a1)及び(a2)と、加水分解性シリル基とを有し、且つ、1,000未満の又は10,000を超えるMnを有するアクリル系共重合体;上記構造単位(a1)及び(a2)を除く、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、加水分解性シリル基とを有する(メタ)アクリル系共重合体等が挙げられる。
【0040】
本発明の硬化性組成物は、上記の重合体以外に、目的、用途等に応じて、更に、硬化促進剤、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、消泡剤、滑剤、耐候安定剤、光安定剤、熱安定剤、着色剤(顔料、染料等)、蛍光増白剤、密着性付与剤、垂れ防止剤、導電性付与剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、防腐剤、脱水剤等の添加剤や、有機溶剤等を含有したものとすることができる。
【0041】
上記硬化促進剤は、湿気硬化反応を促進する成分であれば、特に限定されない。
上記硬化促進剤としては、有機錫化合物;有機チタン化合物;有機アルミニウム化合物;有機ジルコニウム化合物;有機鉄化合物;有機バナジウム化合物;アミン化合物;酸性リン酸エステル;酸性リン酸エステルとアミン化合物との反応物;飽和又は不飽和の多価カルボン酸及びその酸無水物;カルボン酸化合物とアミン化合物との反応物(塩等)等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記有機錫化合物としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫マレエート、ジブチル錫フタレート、ジブチル錫ビス(アルキルマレエート)等のジブチル錫ジカルボキシレート;オクチル酸錫、オレイン酸錫、ステアリン酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫、バーサチック酸錫等の2価錫カルボン酸塩;ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド等のジアルキル錫のアルコキシド誘導体;ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート等のジアルキル錫の分子内配位性誘導体(キレート化合物);ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応生成物、等のジブチル錫オキサイド及びエステル化合物による反応生成物;ジブチル錫オキサイド及びシリケート化合物による反応生成物等が挙げられる。
【0043】
上記有機チタン化合物としては、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシルチタネート)等のチタンアルコキシド;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート等のキレート化合物;トリエタノールアミンチタネート等が挙げられる。
【0044】
上記有機アルミニウム化合物としては、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート等のアルミニウムアルコキシド;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のキレート化合物等が挙げられる。
【0045】
上記有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムテトライソプロポキサイド、ジルコニウムテトラブトキサイド等のジルコニウムアルコキシド;ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート等のキレート化合物等が挙げられる。
【0046】
上記アミン化合物としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジブチルアミン−2−エチルヘキソエート、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等が挙げられる。
【0047】
上記硬化促進剤としては、硬化速度と保存安定性の観点から、有機錫化合物が好ましい。
【0048】
本発明の硬化性組成物が硬化促進剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。上記硬化促進剤の含有量が上記範囲にあると、硬化反応を効率よく進めることができ、樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性及び引張特性においてより優れた硬化物を得ることができる。
【0049】
上記充填剤としては、軽質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラック、クレー、タルク、フュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、カオリン、硅藻土、ゼオライト、酸化チタン、生石灰、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスバルーン、シラスバルーン、サランバルーン、フェノールバルーン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記充填剤としては、炭酸カルシウムが好ましく、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムを併用することが特に好ましい。
【0050】
本発明の硬化性組成物が充填剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは20〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部である。上記充填剤を、軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムの組合せとする場合には、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム=90/10〜50/50(質量比)であることが好ましい。充填剤の含有量が上記範囲にあると、機械的性質に優れる。
【0051】
上記可塑剤としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、多価アルコールのエステル、エポキシ系可塑剤、高分子型可塑剤、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
上記フタル酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジアミル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ(2−ブトキシエチル)、フタル酸ベンジル2−エチルヘキシル、フタル酸ベンジルn−ブチル、フタル酸ベンジルイソノニル、イソフタル酸ジメチル等が挙げられる。
【0053】
上記トリメリット酸エステルとしては、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。
【0054】
上記ピロメリット酸エステルとしては、ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラヘキシル、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸テトラデシル等が挙げられる。
【0055】
上記脂肪族一塩基酸エステルとしては、オレイン酸ブチル、オレイン酸メチル、オクタン酸メチル、オクタン酸ブチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸ブチル、イソステアリン酸メチル、イソステアリン酸ブチル、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート等が挙げられる。
【0056】
上記脂肪族二塩基酸エステルとしては、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジ−n−プロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ−n−オクチル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(2−ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(ブチルジグリコール)、アジピン酸ヘプチルノニル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ジ−n−オクチル、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−n−オクチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジブチル、フマル酸ジ(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ−n−ブチル、マレイン酸ジ(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0057】
上記リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ−n−アミル、リン酸トリフェニル、リン酸トリ−o−クレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸ジフェニル2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリス(2−ブトキシエチル)、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0058】
上記多価アルコールのエステルとしては、ジエチレングリコールジアセチレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、グリセロールモノオレイエート、グリセロールトリブチレート、グリセロールトリアセテート、グリセリル−トリ(アセチルリシノレート)、トリエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0059】
上記エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化植物油系可塑剤、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。
上記エポキシ化植物油系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。
上記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルとしては、エポキシステアリン酸メチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
その他、エポキシ化ポリブタジエン、トリス(エポキシプロピル)イソシアヌレート、3−(2−キセノキシ)−1,2−エポキシプロパン、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビニルジシクロヘキセンジエポキサイド、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとエピクロルヒドリンの重縮合物等が挙げられる。
【0060】
上記高分子型可塑剤としては、液状ポリウレタン樹脂、ジカルボン酸とグリコールとから得られたポリエステル系可塑剤;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのエーテル化物あるいはエステル化物;スクロース等の糖類多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合した後、エーテル化又はエステル化して得られた糖類系ポリエーテル等のポリエーテル系可塑剤;ポリ−α−メチルスチレン等のポリスチレン系可塑剤、;加水分解性シリル基を有さないポリ(メタ)アクリレート系可塑剤等が挙げられる。
【0061】
上記可塑剤のうち、Mwが1,000〜7,000であり且つガラス転移温度が−10℃以下のポリ(メタ)アクリレート系可塑剤が、硬化物の耐候性等の耐久性を維持する上で特に好ましい。ポリ(メタ)アクリレート系可塑剤としては、東亞合成社製の「ARUFON UP1000」、「ARUFON UP1010」、「ARUFON UP1020」、「ARUFON UP1060」、「ARUFON UP1080」、「ARUFON UP1110」、「ARUFON UH2000」、「ARUFON UH2130」等(以上、商品名。「ARUFON」は東亞合成株式会社の商標である。)が挙げられる。これらの可塑剤は、アクリル系共重合体(A)の製造時に配合することも可能である。
【0062】
本発明の硬化性組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部、より好ましくは0〜70質量部、更に好ましくは5〜50質量部である。
【0063】
上記密着性付与剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ジアミノイソプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の硬化性組成物が密着性付与剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0065】
上記脱水剤は、硬化性組成物を保存している間に水分を除去し、貯蔵安定性を維持するために用いるものであり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明の硬化性組成物が脱水剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0067】
上記有機溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素、酢酸エステル、アルコール等が挙げられる。
【0068】
次に、本発明の硬化性組成物に含まれるアクリル系共重合体(A)の製造方法について説明する。
上記アクリル系共重合体(A)は、上記特定の構成を有するように、従来、公知の製造方法を適用して得られたものとすることができる。本発明の硬化性組成物においては、バッチ重合法を備える製造方法により得られたアクリル系共重合体を含む組成物よりも、下記(x)又は(y)の重合方法を備える製造方法により得られたアクリル系共重合体を含む組成物の方が、物性面から安定である。前者の製造方法では、不純物の混入、着色等の不具合をまねく場合があり、上記特定の構成とするために、より多くの工程が必要となり、後者の製造方法の方が経済性に優れる。
(x)炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物と、重合開始剤とを含む単量体混合物(以下、「単量体混合物(t1)」という。)を、連続的に反応系に供給しつつ、150℃〜350℃の温度で重合させる重合工程を備える方法。
(y)炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)とを含む単量体成分(以下、「単量体成分(t2)」という。)をリビングラジカル重合する重合工程を備える方法。
【0069】
上記方法(x)において、単量体混合物(t1)に含まれる単量体成分は、アクリル酸アルキルエステル(m1)と、アクリル酸アルキルエステル(m2)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物と、必要に応じて用いられる他の重合性不飽和化合物とからなる。これらの化合物の割合は、得られるアクリル系共重合体(A)が、上記特定の構成を有するように、重合転化率等が考慮され、選択される。
【0070】
また、単量体混合物(t1)に含まれる重合開始剤は、特に限定されず、従来、公知の重合開始剤であって、所定の重合温度においてラジカルを発生する重合開始剤を用いることができる。
上記重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、無機過酸化物、レドックス型重合開始剤等が挙げられる。
【0071】
上記有機過酸化物としては、tert−アミル−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル−tert−ヘキシルパーオキサイド、tert−アミル−tert−ヘキシルパーオキサイド、ジ(tert−ブチル)パーオキサイド、ジ(tert−アミル)パーオキサイド、ジ(tert−ヘキシル)パーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0072】
上記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(tert−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0073】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス型重合開始剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0074】
上記重合開始剤としては、開始剤ラジカルが水素原子の引き抜きを起こしにくい、有機過酸化物及びアゾ系化合物が好ましく、特に、ジ(tert−ブチル)パーオキサイド、ジ(tert−アミル)パーオキサイド及びジ(tert−ヘキシル)パーオキサイド、が好ましい。
上記重合開始剤の使用量は、単量体混合物(t1)に含まれる単量体成分100質量部に対して、通常、0.001〜2質量部である。
【0075】
上記単量体混合物(t1)は、有機溶剤を含んでもよい。
上記有機溶剤としては、直鎖状若しくは分枝状の脂肪族炭化水素;脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;これら炭化水素における1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換されてなるハロゲン置換化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル等のオルトカルボン酸エステル;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。アクリル系共重合体の溶解性に優れた有機溶剤を用いると、反応器の壁にスケールが成長する等の、生産上の不具合を抑制することができる。
【0076】
上記有機溶剤の使用量は、単量体混合物(t1)に含まれる単量体成分100質量部に対して、通常、0〜80質量部である。
【0077】
上記方法(x)における重合工程では、単量体混合物(t1)を、連続的に反応系に供給しつつ、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは160℃〜300℃で重合させる。そして、重合反応が安定したところで、単量体混合物(t1)の供給量に見合う量の反応液を抜き出して、回収する。
上記単量体混合物(t1)の重合は、加圧下、大気圧下及び減圧下のいずれで行ってもよい。本発明においては、加圧下で重合することが好ましい。尚、加圧下で重合を行う場合、加圧可能な反応器が用いられ、その圧力は、反応温度と使用する単量体混合物及び溶媒の沸点に依存するもので、反応に影響を及ぼさないが、前記反応温度を維持できる圧力であればよい。
【0078】
上記重合工程において、単量体混合物(t1)は、反応系に連続的に供給され、通常、撹拌下に重合される。
上記単量体混合物(t1)の重合時間(滞留時間)は、好ましくは1〜60分間、より好ましくは2〜40分間である。重合時間(滞留時間)が短すぎると、単量体の重合転化率が低い傾向にある。一方、重合時間(滞留時間)が長すぎると、単量体の重合転化率が高くなるが、生産性が低下する傾向にある。
【0079】
上記方法(x)において、重合工程の後、公知の手段により、反応液から、有機溶剤等の揮発性成分除去工程等を進めることにより、アクリル系共重合体(A)を回収することができる。
この揮発性成分除去工程において用いられる装置としては、例えば、流下式蒸発機、薄膜蒸発機、押出機式乾燥機等が挙げられる。反応液の加熱温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは270℃以下、特に好ましくは250℃以下である。加熱温度が高すぎると、得られるアクリル系共重合体(A)が着色する場合や、分解により低分子量成分が生成する場合がある。また、揮発性成分の除去は、減圧下に行うことが好ましく、例えば、50kPa以下とすることができる。より好ましい圧力は、30kPa以下、特に好ましくは10kPa以下である。上記圧力とすることにより、揮発性成分を十分に除去することができる。
【0080】
一方、上記方法(y)において、単量体成分(t2)は、アクリル酸アルキルエステル(m1)と、アクリル酸アルキルエステル(m2)とを含む単量体成分と、必要に応じて用いられる他の重合性不飽和化合物とからなる。これらの化合物の割合は、方法(x)の場合と同様、得られるアクリル系共重合体(A)が、上記特定の構成を有するように、選択される。尚、他の重合性不飽和化合物としては、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物、上記構造単位(a3)を形成する重合性不飽和化合物として例示した化合物等が挙げられる。
【0081】
上記方法(y)における重合工程は、単量体成分(t2)をリビングラジカル重合する工程である。リビングラジカル重合によれば、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができ、また、特定の官能基を、重合体の任意の場所に導入することができる。
リビングラジカル重合の具体的な方法としては、特開平11−130931号公報に開示される、臭化銅を触媒として用いるATRP法や、特表2000−515181号公報に開示される、チオカルボニルチオ化合物存在下にビニル系モノマーを重合する付加開裂型連鎖移動法(RAFT法)、特表2003−500378号公報で示されるニトロオキサイドラジカルを用いるリビングラジカル重合方法等が挙げられる。なかでも、ニトロオキサイドラジカルを用いるリビングラジカル重合法は、ATRP法のように毒性の高い銅化合物を使用する必要が無いため好ましい。
【0082】
上記方法(y)は、好ましくは、単量体成分(t2)の重合に伴って形成される重合体の片末端に、加水分解性シリル基を存在させたまま、重合を継続するものであり、必要に応じて、重合の最終段階に、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物を添加して、他の末端又はその付近に、この単量体に由来する加水分解性シリル基を配することができる。尚、この方法は、具体的には、リビングラジカル重合開始剤として、下記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物を、加水分解性シリル基を有する化合物として、加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物を、それぞれ、単量体成分(t2)と併用する方法である。この反応系においては、安定なニトロキシフリーラジカルが生成し、これにより、末端が不活性状態にあるものと、活性状態にあるものとが平衡状態のまま、重合成長し、多分散度が調節されたリビング重合体が効率よく製造される。尚、加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物を用いることから、この化合物におけるエポキシ部と、下記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物におけるカルボキシル基とが付加反応するので、片末端に、不活性状態の加水分解性シリル基を残存させた重合体を製造することができる。
【化3】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜2のアルキル基又はニトリル基であり、R10は−(CH−(sは0、1又は2である。)であり、R11は互いに独立して炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0083】
上記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物の使用量は、単量体成分(t2)100質量部に対して、通常、2〜20質量部である。
【0084】
また、上記加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物としては、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、(2−グリシドキシエチル)メチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
【0085】
上記加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物の使用量は、上記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物1モルに対して、好ましくは0.8〜2.0モル、より好ましくは1.0〜1.7モル、特に好ましくは1.1〜1.5モルである。上記使用量とすることにより、効率よく、アクリル系共重合体(A)に含まれる加水分解性シリル基の数を0.5〜4個とすることができる。尚、上記加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物の使用量が少なすぎると、末端に導入される加水分解性シリル基の量が減り、硬化物の引張物性が低下する場合がある。一方、使用量が多すぎると、未反応の架橋性シリル基含有グリシジル化合物が組成物に残り、硬化時に架橋密度を過度に下げ、硬化物の力学的物性を低下させる場合がある。
【0086】
上記方法(y)におけるリビングラジカル重合は、バッチプロセス、セミバッチブロセス、管式連続重合プロセス、連続攪拌槽型プロセス(CSTR)等を適用することができる。好ましい方法は、バッチプロセス、セミバッチブロセス及び管式連続重合プロセスであり、特に好ましくはバッチプロセスである。重合形式は、有機溶剤を用いた溶液重合、有機溶剤を用いないバルク重合等とすることができる。
【0087】
上記方法(y)における好ましい重合工程は、上記ニトロキシド化合物(リビングラジカル重合開始剤)並びに加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物の存在下、単量体成分(t2)を重合する工程である。上記ニトロキシド化合物(リビングラジカル重合開始剤)並びに加水分解性シリル基及びエポキシ結合を有する化合物を用いて、アクリル系共重合体(A)を製造する際には、その生産効率を高めるために、触媒を用いることが好ましい。触媒は、グリシジル基とカルボキシル基の反応を促進し、加水分解性シリル基に影響を与えないものであれば、特に限定されないが、好ましくは、4級アンモニウム塩である。
【0088】
上記4級アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、トリブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0089】
上記触媒の使用量は、生産効率の観点から、上記単量体成分(t2)100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.2〜1質量部、特に好ましくは0.3〜0.5質量部である。尚、上記触媒の使用量が少なすぎると、上記効果が十分に得られない場合がある。一方、触媒の使用量が多すぎると、硬化性組成物とした場合に、沈殿が形成される場合がある。
【0090】
上記方法(y)における好ましい重合工程において、単量体成分(t2)の重合は、通常、有機溶剤中で行われる。
上記有機溶剤としては、直鎖状若しくは分枝状の脂肪族炭化水素;脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;これら炭化水素における1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換されてなるハロゲン置換化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル等のオルトカルボン酸エステル;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
上記有機溶剤の使用量は、単量体成分(t2)100質量部に対して、好ましくは0〜200質量部、より好ましくは0〜100質量部、更に好ましくは5〜35質量部、特に好ましくは10〜20質量部である。上記有機溶剤の使用量が多すぎると、この有機溶剤に起因する連鎖移動反応が発生し、分子量制御、分子量分布制御、末端のリビング性等の重合制御が低下する場合がある。一方、有機溶剤の使用量が少なすぎると、加水分解性シリル基の架橋反応が進行してしまう場合がある。
【0092】
上記方法(y)における重合工程では、反応器に収容した単量体成分(t2)の重合温度は、好ましくは100℃〜150℃、より好ましくは105℃〜135℃、更に好ましくは110℃〜125℃で重合させる。重合温度が低すぎると、重合速度が低下する傾向にある。一方、重合温度が高すぎると、ニトロキシドラジカルが生長ラジカルをキャップできなくなり、生長ラジカル同士の再結合反応や、不均化反応、高分子主鎖からの水素原子の引抜反応、バックバイティング反応からのβ分解反応が生じ、リビング重合性を失い、ラジカル重合を制御できなくなる場合がある。
【0093】
上記単量体成分(t2)の重合は、使用する単量体、有機溶剤の沸点及び反応温度によって大気圧下、加圧下、減圧下で行ってもよく、適宜、重合方法が選択される。
【0094】
上記方法(y)における重合工程では、単量体成分(t2)の重合転化率を、好ましくは70〜99%、より好ましくは85〜98%、特に好ましくは93〜97%とすることが好ましい。重合時間は、単量体の種類、重合温度等に依存するが、通常、0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0095】
上記重合工程では、上記のように、単量体成分(t2)を、アクリル酸アルキルエステル(m1)と、アクリル酸アルキルエステル(m2)とからなるものとして用いてよいし、アクリル酸アルキルエステル(m1)と、アクリル酸アルキルエステル(m2)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物とからなるものとして用いてもよい。後者の場合、アクリル酸アルキルエステル(m1)と、アクリル酸アルキルエステル(m2)とからなる第1単量体を重合させ、その重合転化率が好ましくは70〜99%、より好ましくは85〜98%、更に好ましくは93〜97%となった時点で、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物を反応系に添加し、重合を継続する。重合転化率が、上記範囲内であれば、成長末端又は成長末端近傍に、加水分解性シリル基の導入を効率よく行うことができる。尚、重合転化率が70%未満のときに、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物を添加すると、α末端のシリル基に近くなり、優れた引張物性が得られない場合がある。一方、重合転化率が高すぎるところで、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物を添加すると、共重合率が低下し、高分子鎖に導入されない場合がある。
【0096】
上記方法(y)において、重合工程の後、公知の手段により、反応液から、有機溶剤等の揮発性成分除去工程等を進めることにより、アクリル系共重合体(A)を回収することができる。
この揮発性成分除去工程において用いられる装置としては、例えば、流下式蒸発機、薄膜蒸発機、押出機式乾燥機等が挙げられる。反応液の加熱温度は、好ましくは250℃以下、より好ましくは170℃以下、特に好ましくは100℃以下である。加熱温度を上記のように設定することにより、リビングラジカル重合末端は解離せず、共重合体の分解による低分子量成分の生成が抑制され、好ましい。尚、加熱温度が高すぎると、リビングラジカル重合末端が解離し、高分子鎖が一部、分解し、低分子量成分が生成する場合、更には、得られるアクリル系共重合体(A)が着色する場合がある。また、揮発性成分の除去は、減圧下に行うことが好ましく、例えば、10kPa以下とすることができる。より好ましい圧力は、5kPa以下、特に好ましくは1kPa以下である。上記圧力とすることにより、揮発性成分を十分に除去することができる。
【0097】
本発明の硬化性組成物は、すべての配合成分を予め配合した後、その組成物を密封保存し、そして、使用の際に、密閉を開封し、硬化性組成物の使用後に空気中の湿分を吸収することにより硬化させる1成分型の硬化性組成物とすることができる。
また、本発明におけるアクリル系共重合体(A)を含有しない硬化促進組成物と、硬化促進剤等を含有しない硬化性組成物と、を使用前に混合する2成分型として調製することもできる。
尚、上記硬化促進組成物としては、上記硬化促進剤、上記充填材、及び上記可塑剤等の成分を配合した組成物とすることができる。
これらのうち、取り扱いが容易であり、使用(施工)時の不具合の発生が少ない1成分型がより好ましい。
【0098】
本発明の硬化性組成物は、特定のアクリル系共重合体を含有することから、湿気硬化性に優れる。例えば、組成物を用いて、塗膜等とした後、大気中に暴露すると、水分の作用により、3次元的に網状組織を形成しつつ硬化して、ゴム状弾性を有する硬化物(固体皮膜)が得られる。また、この硬化物は、表皮樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂等により構成された樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れる。従って、本発明の硬化性組成物は、硬化物のこのような性質を生かすべく、土木用、建築用、車両用、電気製品用、電子部品用、雑貨用の接着剤、シーリング剤、コーティング剤及び目止め剤をはじめ、土木用又は建築用樹脂の被覆、木工塗装等のためのプライマー剤等として有用である。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0100】
1.物性測定方法及び評価方法
硬化性組成物及びそれに含まれる重合体成分等に係る物性測定方法及び評価方法は、以下の通りである。
1−1.アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(型式名「HLC−8120」、東ソー社製)を用いて、下記の条件によりMw及びMnを測定し、標準ポリスチレンにより換算した。
<測定条件>
カラム:TSKgel SuperMultipore HZ−M 4本(東ソー社製)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
【0101】
1−2.アクリル系共重合体に含まれる加水分解性シリル基の平均数
加水分解性シリル基であるアルコキシシリル基の数(平均数)fは、共重合体のH−NMR測定により得られたスペクトルにおける積分値から、下記式により算出した。
f=(アルコキシシリル基由来の積分値)/{(単量体由来の積分値)/(重合度)}
1−3.アクリル系共重合体及び組成物の粘度
E型粘度計を用いて、温度25℃±0.5℃の条件で測定した。
【0102】
1−4.接着性
接着性評価のための被着体として、塩化ビニル樹脂被覆鋼板を用いた。この塩化ビニル樹脂被覆鋼板と、硬化性組成物とを用いて、JIS A5758に準じて、H型試験片を作製し、温度23℃、湿度50%RHの条件で1週間養生した。その後、東洋精機製作所社製引張試験機「テンシロン200」(型式名)を使用し、引張速度50mm/分の条件下、引張試験に供した。そして、最大引張強度(単位:N/mm)を測定し、接着強度を評価した。その際に、引張破壊の形態を観察し、接着面積全体に対する、凝集破壊した部分の面積の割合を求めて、凝集破壊率(単位:%)を得た。
【0103】
1−5.作業性
アクリル系共重合体20部と、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体100部とを、プラネタリーミキサーを用いて混合する際の、混合槽への投入のしやすさ、混合のしやすさを、下記基準で判定した。
「○」:良好であった。
「△」:やや劣っていた。
【0104】
2.アクリル系共重合体(A)等の製造
合成例1(共重合体(A−1)の合成)
オイルジャケットを備えた加圧式攪拌槽型反応器の温度を200℃に保った。次いで、反応器内の圧力を一定(2.3MPa)に保ちながら、予め、原料タンクに収容された、25部のアクリル酸メチル(以下、「MA」という。)、67部のアクリル酸n−ブチル(以下、「nBA」という。)と、8部の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」という。)と、23部のメチルエチルケトン(以下、「MEK」という。)と、13部のオルソ酢酸メチル(以下、「MOA」という。)と、1部のジ−tert−ヘキシルパーオキサイド(重合開始剤。以下、「DTBP」という。)とからなる単量体混合物を、供給速度48g/分の条件で、反応器に供給を開始し、攪拌しながら、同時に重合を行った。反応開始直後には、一旦、反応系の温度が低下し、重合熱による温度上昇が認められたが、オイルジャケットを制御することにより、反応系を、温度214℃〜216℃に保持した。
その後、反応器に一定量の反応液が滞留するようにして、滞留時間をほぼ一定(約12分間)に維持させながら、単量体混合物の供給量に相当する量の反応液を、反応器に配設された排出口から連続的に抜き出し、回収した。尚、単量体混合物の供給開始から温度が安定した時点を、重合が安定した時点として、これを、「硬化性組成物に用いるアクリル系共重合体を含有する反応液」の採取開始点とした。そして、上記条件にて重合を進め、「硬化性組成物に用いるアクリル系共重合体を含有する反応液」の1.2kgを回収した。
次いで、「硬化性組成物に用いるアクリル系共重合体を含有する反応液」を、薄膜蒸発器に導入して、未反応モノマー等の揮発性成分を除去して、アクリル系共重合体(A−1)を得た。
アクリル系共重合体(A−1)のMnは1,600、Mwは2,900、Mw/Mnは1.8であった(表1参照)。また、この重合体の高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基の数f(Si)は0.5であった。
【0105】
合成例2〜5(共重合体(A−2)〜(A−5)の合成)
単量体及び重合開始剤を、表1に記載の種類及び使用量をもって、重合に供した以外は、合成例1と同様にして共重合体(A−2)〜(A−5)を得た(表1参照)。
尚、表1において、「iBMA」、「nBA」、「MA」、「EA」及び「2EHA」は、それぞれ、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルである。
【0106】
合成例6(共重合体(A−6)の合成)
単量体混合物の組成を、25部のMA、70部の2EHA、5部のMTMS、12部のイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という。)、8部のMOA、10部のMEK及び0.5部のDTBPとし、反応系の温度を181℃〜183℃に保持して重合に供した以外は合成例1と同様にして共重合体(A−6)を得た(表1参照)。
【0107】
合成例7(共重合体(A−7)の合成)
単量体混合物の組成を、25部のMA、72部の2EHA、3部のMTMS、12部のIPA、8部のMOA、10部のMEK及び0.2部のDTBPとし、反応系の温度を169℃〜171℃に保持して重合に供した以外は合成例1と同様にして共重合体(A−7)を得た(表1参照)。
【0108】
合成例8(共重合体(A−8)の合成)
単量体混合物の組成を、25部のMA、73部の2EHA、2部のMTMS、4部のイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という。)、6部のMOA、10部のMEK及び0.1部のDTBPとし、反応系の温度を168℃〜170℃に保持して重合に供した以外は合成例1と同様にして共重合体(A−8)を得た(表1参照)。
【0109】
合成例9〜12(共重合体(A−9)〜(A−12)の合成)
単量体及び重合開始剤を、表1に記載の種類及び使用量をもって、重合に供した以外は、合成例1と同様にして共重合体(A−9)〜(A−12)を得た(表1参照)。
【0110】
【表1】

【0111】
合成例13(共重合体(A−13)の合成)
オイルジャケットを備えた加圧式攪拌槽型反応器に、27部のMAと、73部の2EHAと、下記に示すリビング重合開始剤8.6部と、MOA10部と、5.3部の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、0.3部のテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドとからなる混合液を仕込んだ。次いで、混合液を、窒素ガスによるバブリングにより十分に脱気させた後、オイルジャケットを制御することにより、反応系の温度を110℃として、攪拌下、重合を開始した。反応系の温度を、110℃のまま維持し、4時間重合させた。この時点でのMAの重合率は99%、2EHAの重合率は98%であった。
【化4】

その後、反応液を冷却して、反応器から抜き出した。そして、反応液を、蒸発器に導入して、減圧度0.3kPa及び温度90℃の条件下、5時間かけて減圧乾燥し、アクリル系共重合体(A−13)を得た。尚、上記リビング重合開始剤のカルボキシル基の反応率は100%であった。
アクリル系共重合体(A−13)のMnは4,500、Mwは7,100、Mw/Mnは1.6であった(表2参照)。また、この重合体の高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基の数f(Si)は1.0であった。
【0112】
合成例14〜15(共重合体(A−14)〜(A−15)の合成)
単量体及び重合開始剤を、表2に記載の種類及び使用量をもって、重合に供した以外は、合成例1と同様にして共重合体(A−14)〜(A−15)を得た(表2参照)。尚、上記リビング重合開始剤のカルボキシル基の反応率は、いずれも100%であった。
【0113】
合成例16(共重合体(A−16)の合成)
オイルジャケットを備えた加圧式攪拌槽型反応器に、25部のMAと、73.8部の2EHAと、合成例13で用いたリビング重合開始剤1.9部と、1.9部のMOAと、1.2部の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、0.3部のテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドとからなる混合液を仕込んだ。次いで、混合液を、窒素ガスによるバブリングにより十分に脱気させた後、オイルジャケットを制御することにより、反応系の温度を110℃として、攪拌下、重合を開始した。反応系の温度を、110℃のまま維持し、4時間経過したところで、1.2部のMTMSを添加した。そして、このまま1.5時間反応させた。この時点でのMAの重合率は96%、2EHAの重合率は94%、MTMSの重合率は95%であった。
その後、合成例13と同様にして、アクリル系共重合体(A−16)を得た(表2参照)。尚、上記リビング重合開始剤のカルボキシル基の反応率は100%であった。
【0114】
【表2】

【0115】
3.硬化性組成物の製造及び評価
実施例1〜12及び比較例1〜5
上記合成例で得られた共重合体(A)と、下記の成分とを用いて、表3に示す割合で、プラネタリーミキサーを用いて、温度60℃及び圧力10Torrの条件で1時間混合し、硬化性組成物を得た。そして、各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0116】
3−1.加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体(B)
末端に加水分解性シリル基を有し、ポリプロピレングリコール骨格の湿気硬化性変成シリコーンポリマー(商品名「ES−S3430」、旭硝子社製)を用いた。Mnは、16,000である。
3−2.可塑剤
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(商品名「UP−1110」、東亞合成社製)を用いた。
3−3.硬化促進剤(D)
ジブチル錫ジアセチルアセトナートを用いた。
3−4.充填剤
(F−1)として、合成炭酸カルシウム(商品名「白艶華CCR」、白石カルシウム社製)を、(F−2)として、酸化チタン(商品名「R−820」、石原産業社製)を用いた。
3−5.脱水剤
ビニルシランを用いた。
3−6.密着性付与剤
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いた。
【0117】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の硬化性組成物は、大気中に暴露すると、水分の作用により、3次元的に網状組織を形成し、硬化して、ゴム状弾性を有する固体に変化する。この硬化物は、表皮樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂等により構成された樹脂被覆鋼板における表層樹脂への接着性に優れる。従って、本発明の硬化性組成物は、硬化物のこのような性質を生かすべく、土木用、建築用、車両用、電気製品用、電子部品用、雑貨用等の接着剤、シーリング剤、コーティング剤及び目止め剤をはじめ、土木用又は建築用樹脂の被覆、木工塗装等のためのプライマー剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m1)に由来する構造単位(a1)と、炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸アルキルエステル(m2)に由来する構造単位(a2)と、加水分解性シリル基とを有し、上記構造単位(a1)及び上記構造単位(a2)の含有割合が、共重合体を構成する全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%であるアクリル系共重合体を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
上記アクリル系共重合体の数平均分子量が1,000〜10,000である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
更に、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体を含有する請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
上記アクリル系共重合体及び上記オキシアルキレン系重合体の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜90質量%及び10〜95質量%である請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
上記アクリル系共重合体が、上記アクリル酸アルキルエステル(m1)と、上記アクリル酸アルキルエステル(m2)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和化合物と、重合開始剤とを含む単量体混合物を、連続的に反応系に供給しつつ、150℃〜350℃の温度で重合させて得られた重合体である請求項1乃至4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
上記アクリル系共重合体が、上記アクリル酸アルキルエステル(m1)と、上記アクリル酸アルキルエステル(m2)とを含む単量体成分のリビング重合により得られた重合体である請求項1乃至4のいずれかに記載の硬化性組成物。

【公開番号】特開2012−77167(P2012−77167A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222679(P2010−222679)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】