説明

硬化物の成形型および硬化物の製造方法

【課題】気泡混入のない硬化物を好適に製造し得る硬化物の成形型を提供する。
【解決手段】上型10および下型20からなり、硬化性材料30を上型10と下型20とにより挟み込むことによって、表面に素子が形成された硬化物を成形する金型1であって、上型10には突出部40が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化物を製造するための硬化物の成形型および硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の硬化性材料を上型および下型からなる成形型(例えば、金型)で挟み込んで成型して硬化物を製造するとき、当該硬化物にボイド(空洞)ができることがある。これは、以下のような理由による。
【0003】
図5は、従来の硬化物の金型を用いた硬化物の製造方法の流れを示す図である。従来の硬化物の製造方法では、まず、図5(a)に示すように、下型20に硬化性材料30を塗布する。
【0004】
このとき、下型20に塗布された硬化性材料30の上面はフラットな形状となる。図4は、下型20に塗布したときの液状の硬化性材料30の表面の形状(液面形状)の一例を示す図である。図4では、下型に対する接触角が90°であり、比重が1.0であり、容積が5000mm(5cc)である硬化性材料の典型的な液面形状を示す。硬化性材料の表面張力のみを考慮した場合、図4に点線で示すように、液面形状は円形となり得る。しかし、重力も考慮した場合、液面形状は、図4に実線で示すように、上面がほぼフラットな形状となる。
【0005】
続いて、図5(b)に示すように、上型10を硬化性材料30が塗布された下型20に近接させる。上型10が硬化性材料30に接触するまで上型10を下型20に近接させた時、硬化性材料の上面の形状は、ほぼフラットであるため、図5(c)に示すように、上型10と硬化性材料30とは多点で同時に接触する。そのため、上型10の凹凸の形状に応じて、気泡が発生する。この状態のまま、上型10と下型20とを閉じると、図5(d)に示すように、発生した気泡は硬化物内に混入し、製造された硬化物にボイドができてしまう。
【0006】
そこで、特許文献1から4には、気泡の混入を防ぐ技術が提案されている。例えば、特許文献1には、上型を凸状になるように湾曲させ、上型と反応性原料液の表面とを中央部から両端部へと徐々に当接させていくことによって、気泡が外方へ排出させる反応注型成型方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、未硬化の光学材料樹脂に光学部材を押圧して光学材料樹脂を凹凸パターンに押し広げることによって気泡の混入を防止する方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、ガラスレンズの中央部に所定量の放射線硬化型樹脂液を垂らし、当該ガラスレンズの天地を反転させて金型と近接させ、当該ガラスレンズと金型との間に挟まれた樹脂液を硬化させることによって、気泡が入らない樹脂接合型レンズを製造する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、基板と金型の両方に光硬化型樹脂を付着させ、基板と金型が設置された雰囲気を減圧し、両方に付着した光硬化型樹脂から脱泡した後、脱泡した光硬化型樹脂同士を密着させ、硬化させることによって、気泡の混入を防いだ光学素子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−50446号公報(1993年3月2日公開)
【特許文献2】特開2008−46469号公報(2008年2月28日公開)
【特許文献3】特開平6−130209号公報(1994年5月13日公開)
【特許文献4】特開2011−85791号公報(2011年4月28日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の技術では、外力によって上型を湾曲させ、その後、湾曲させた上型を水平に戻すため、製造された成形製品の平坦度等の精度が劣化する恐れがある。
【0012】
また、特許文献2および特許文献3の技術では、レンズに樹脂を塗布する際、当該レンズの天地を反転させる必要があるため、硬化物を成型する際、レンズと下型との位置あわせを都度行う必要があり、製造工程および製造装置が複雑化するといった問題がある。
【0013】
また、特許文献4の技術では、脱泡する際、基板と金型が設置された雰囲気を減圧する必要があるため、製造工程および製造装置が複雑化するといった問題がある。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、簡単に気泡の混入を抑制することができる硬化物の成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る硬化物の成形型は、上記の課題を解決するために、上型および下型からなり、前記下型に塗布された硬化性材料を前記上型と前記下型とにより挟み込むことによって、表面に素子が形成された硬化物を成形する硬化物の成形型であって、前記上型の前記硬化物が挟み込まれる領域には、前記硬化物を成形するための基部となる基材部と、前記素子を成形するための素子部と、前記素子部とは異なる形状の突出部とが設けられており、前記基材部からの前記突出部の高さが、前記基材部からの前記素子部の高さより高いことを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、上型と下型とを合わせるときに、下型上の硬化性材料は、最初に、上型の突出部に接触し、そこから周囲に濡れ広がるため、気泡が外側に向けて押し出されることになり、硬化性材料中に気泡が混入する余地を首尾よく排除することができる。
【0017】
すなわち、下型に塗布された硬化性材料に、上型を近接させることにより、上型の突出部と、硬化性材料とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。このとき、硬化性材料は表面張力により、当該一点から外側へ向かって濡れ広がる。それゆえ、上型と下型との間の気泡が外側に向かって押し出される。結果として、硬化物への気泡の混入を抑制することができる。
【0018】
また、前記成形型において、前記突出部が、一つであることが好ましい。これにより、突出部と硬化性材料とを確実に一点で接触するように接触させることができる。
【0019】
また、前記成形型において、前記突出部が、前記上型の中央部に形成されていてもよい。
【0020】
上型と硬化性材料を塗布した下型とを合わせる時、突出部の直下、つまり下型の中央部には、硬化性材料が存在する。そのため、突出部が、確実に硬化性材料と最初に接触することができる。また、これにより、好適に、中央から周囲に向けて気泡を押し出すことができる。
【0021】
また、前記成形型において、前記素子部が、複数の前記素子を成形するための繰り返し構造であることが好ましい。このように、繰り返し構造を有した成形型であっても、当該成形型に突出部が設けられていることにより、上型の突出部と、硬化性材料とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。
【0022】
また、前記成形型において、前記突出部の幅が、前記繰り返し構造のピッチより狭いことが好ましい。
【0023】
突出部の幅が、前記繰り返し構造のピッチより広い場合、複数の素子に影響を及ぼしてしまう。上記構成によれば、上型における突出部の占める領域を、素子1個分に収めることができる。よって、複数の素子に影響を及ぼすことなく、突出部を形成することができる。
【0024】
また、前記成形型において、前記突出部は、尖形の頂上部分を有することが好ましい。これにより、上型と硬化性材料を塗布した下型とを合わせる時、上型の突出部と、硬化性材料とは、一点で接触しやすくなる。よって、上型と硬化性材料とが多点で同時に接触することをより好適に防ぐことができる。
【0025】
また、前記成形型において、前記突出部は、前記上型に垂直な軸を有する回転体であってもよい。これにより、5軸加工機のような多軸加工機を用いて成形型を加工する場合に、簡単に突出部を有した成形型を加工することができる。
【0026】
また、前記成形型において前記素子が、光学レンズであることが好ましい。本発明の硬化物の成形型は、このような硬化物を製造するために好適に用いることができる。
【0027】
本発明に係る硬化物の製造方法は、前記硬化物の成形型を用いて、硬化物を製造することを特徴としている。前記硬化物の製造方法は、例えば、前記硬化物の成形型を用いて、硬化性材料を前記成形型の下型に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後、前記成形型の上型に形成された突出部が前記硬化性材料に最初に接触するように、前記上型および前記下型を近接させる近接工程と、前記近接工程の後、前記硬化性材料を硬化させることにより前記硬化物を製造する硬化工程と、を含む。
【0028】
上記構成によれば、上型と下型とを合わせるときに、下型の硬化性材料が上型の突出部にほぼ一点において接触し、そこから周囲に濡れ広がるため、硬化性材料中に気泡が混入する余地を首尾よく排除することができる。
【0029】
すなわち、下型に塗布された硬化性材料(塗布工程)に、上型を近接させる(近接工程)ことにより、上型の突出部と、硬化性材料とを、最初ほぼ一点で接触させることができる。このとき、硬化性材料は表面張力により、当該一点から外側へ向かって濡れ広がる。それゆえ、上型と下型内部の気泡が外側に向かって押し出される。結果として、硬化物への気泡の混入を抑制することができる。
【0030】
また、このとき、上型および下型は、離接方向(典型的には、上下方向)にのみ移動させればよい。そのため、硬化物を製造する度に、左右方向の位置合わせ等を行う必要がない。
【0031】
したがって、このような硬化物の製造方法を用いることにより、簡単な方法で気泡の混入を抑制することができる。
【0032】
前記近接工程において、前記上型および前記下型を近接させる速さが、0.02mm/s以下であることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、近接工程において、上型と下型との間隔が製造すべき硬化物の厚さとなるまでに、硬化性材料を十分に上型と下型との間に濡れ広がらせることができるため、首尾よく気泡を外側に向かって押し出して、硬化物の内部への気泡の混入を好適に抑制することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、上型および下型からなり、前記下型に塗布された硬化性材料を前記上型と前記下型とにより挟み込むことによって、表面に素子が形成された硬化物を成形する硬化物の成形型であって、前記上型の前記硬化物が挟み込まれる領域には、前記硬化物を成形するための基部となる基材部と、前記素子を成形するための素子部と、前記素子部とは異なる形状の突出部とが設けられており、前記基材部からの前記突出部の高さが、前記基材部からの前記素子部の高さより高い成形型を用いる。
【0035】
このような硬化物の成形型を用いることにより、簡単に気泡の混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】金型を示す断面概略図である。
【図2】突出部の形状の一例を示す図である。
【図3】ウェハレンズの製造方法の各工程を示す説明図である。
【図4】硬化性材料の表面の形状(液面形状)の一例を示す図である。
【図5】従来の硬化物の製造方法の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、この実施形態に記載されている硬化物の寸法、形状、硬化性材料の種類などは、特に限定的な記載が無い限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0038】
本実施形態では、硬化物として、図3(f)に示すようなウェハレンズ60を例に説明を行う。ウェハレンズ60は、表面に複数の光学レンズ(素子)60aが配列されている基板である。本実施形態では、直径100mm、基板の厚さ0.5mmであり、複数の光学レンズが配列ピッチ(各光学レンズ60aの中心間距離)3mmで格子状配列された円盤状のウェハレンズ60の製造するために使用する成形型(例えば、金型)およびウェハレンズ60の製造方法について説明を行う。なお、硬化物はこれに限定されるものではない。
【0039】
(金型1の構成)
まず、本実施形態における金型(成形型)1について図1を参照して説明する。図1は、金型1の断面概略図である。図1に示すように、金型1は、上型10および下型20からなる。また、上型10は、下側の面(下型20側の面)の硬化性材料を挟み込む領域に、基材部11と、素子部(繰り返し構造)12と、突出部40とを有している。また、下型20は、上側の面(上型10側の面)の硬化性材料を挟み込む領域に、基材部21と、素子部22とを有している。
【0040】
基材部11および基材部21は、ウェハレンズ60における基板を成形するための平坦な部分であり、それぞれ、素子部12および素子部22の基部となっている。素子部12は、基材部11に複数配列されて形成された略半円形状の凹部である。また、素子部22は、基材部21に複数配列されて形成された略半円形状の凹部である。素子部12および素子部22は、ウェハレンズ60における光学レンズ60aを成形する部分であり、光学レンズ60aを成形するための繰り返し構造である。
【0041】
なお、素子部12および素子部22はこれに限定されず、基材部11または基材部21に対し、凸状に形成されていてもよい。素子部12および素子部22が、基材部11または基材部21に対し、凸状に形成される構成の例について、図2に示す。
【0042】
上型10と下型20とを合わせるときに、下型20上の硬化性材料は、最初に、上型10の突出部40に接触し、そこから周囲に濡れ広がるため、気泡が外側に向けて押し出されることになり、硬化性材料中に気泡が混入する余地を首尾よく排除することができる。
【0043】
すなわち、下型20に塗布された硬化性材料に、上型10を近接させることにより、上型10の突出部40と、硬化性材料とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。このとき、硬化性材料は表面張力により、当該一点から外側へ向かって濡れ広がる。それゆえ、上型10と下型20との間の気泡が外側に向かって押し出される。結果として、硬化物への気泡の混入を抑制することができる。
【0044】
また、金型1が、複数の光学レンズ60aを成形するための繰り返し構造の素子部12を有し、突出部40を有していない場合、図5(c)に示すように、上型10と硬化性材料30とは、多点で接触する。しかし、金型1が突出部40を有することにより、上型10の突出部40と、硬化性材料とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。このように、複数の素子部(繰り返し構造)11を有した金型1であっても、当該金型1に突出部40が設けられていることにより、上型10の突出部40と、硬化性材料30とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。
【0045】
(突出部40について)
次に、突出部40について、図1および図2を参照して説明を行う。突出部40は、図1に示すように、上型10の素子部12の基部(基材部11)に形成された略円錐状の突起(凸部)である。突出部40は、上型10に一つ形成されていることが好ましい。また、突出部40は、上型10の中央部(硬化性材料を挟み込む領域の中心からのずれが、光学レンズ60aの配列ピッチ10個以下の範囲)に形成されていることが好ましい。上型10と硬化性材料を塗布した下型20とを合わせた時、突出部40の直下、つまり下型20の中央部には、硬化性材料が存在する。そのため、突出部40が、確実に硬化性材料と最初に接触することができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、突出部40が、上型10の中央部に形成されていることを例に説明を行うが、突出部40の位置はこれに限定されない。突出部40は、上型10上における、ウェハレンズ60内の光学レンズ60aが配置されていない周辺部に相当する位置に形成されてもよい。また、突出部40は、上型10上における、ウェハレンズ60内に配列された複数の光学レンズ60aの間に相当する位置に形成されてもよい。このように突出部40を形成することにより、光学レンズ60aの数(配置数)を減らさずに、ウェハレンズ60を製造することができる。
【0047】
また、突出部40の形状は略円錐状に限定されず、尖形の頂上部分を有する形状であればよい。これにより、上型10と硬化性材料30を塗布した下型20とを合わせる時、上型10の突出部40と、硬化性材料30とは、一点で接触しやすくなる。よって、上型10と硬化性材料30とが多点で同時に接触することをより好適に防ぐことができる。
【0048】
また、突出部40の形状は、上型10に垂直な軸(基材部11に垂直な軸)を有する回転体であってもよい。これにより、5軸加工機のような多軸加工機を用いて金型1を加工する場合に、簡単に突出部40を有した金型1を加工することができる。なお、上型10に垂直な軸とは、上型10と下型20とを近接させる方向に平行な軸であり得る。
【0049】
図2は突出部40の形状の一例を示す図である。突出部40の形状は、図2(a)に示すように、円錐のように、尖形の頂上部分を有する形状であってもよい。これにより、突出部40と、下型20に塗布された硬化性材料とは、一点で接触しやすくなる。
【0050】
ここで、図2(a)に示すように、突出部40の高さをhとし、突出部40の底面の半径をrとする。なお、本明細書において、突出部40の高さとは、素子部(繰り返し構造)12の基部(基材部11)からの、下型20方向への、突出部40の突出幅を指す。h/rが大きいとき、突出部40と、下型20に塗布された硬化性材料とは、より一点で接触しやすくなる。また、h/rが小さいとき、突出部40の表面積はより小さくなるため、ウェハレンズ60を上型10から分離しやすくなる。
【0051】
また、突出部40の形状は、図2(b)に示すように、略円筒状であってもよい。このような金型1は、機械的強度が強い成形型となるため、金型1の加工性および耐久性が高くなる。
【0052】
また、突出部40の形状は、図2(c)に示すように、略球状であってもよい。これにより、突出部40と下型20に塗布された硬化性材料とは、一点で接触することができる。また、このような突出部40を備えた金型1は、機械的強度が強い成形型となる。
【0053】
(突出部40の高さについて)
次に、突出部40の高さhについて説明を行う。突出部40の高さhは、素子部12の高さよりも高いことが好ましい。なお、本明細書において、素子部12の高さとは、素子部(繰り返し構造)12の基部(基材部11)からの、下型20方向への、素子部12の突出幅を指す。例えば、図1に示すように、素子部12が凹状に形成されている場合には、素子部12の高さは0となり、図2に示すように、素子部12が凸状に形成されている場合には、素子部12の高さは、基材部11と、素子部12の頂上部分との間の鉛直方向の幅となる。
【0054】
つまり、図2(a)〜(c)に示すように、素子部12が、基材部11に対し、凸状に形成されている時、素子部12の高さをhとすると、h>hを満たすことが好ましい。これにより、上型10と、硬化性材料を塗布した下型20とを近接させた時、最初に、下型20に塗布された硬化性材料と、突出部40とを接触させることができる。言い換えれば、突出部40は、上型10と硬化性材料を塗布した下型20とを近接させたときに、突出部40と当該硬化性材料とが最初に接触するような形状を有している。つまり、突出部40は、上型10の硬化性材料を挟み込む領域のうちで、上型10と下型20とを対向させたときに最も下型20に近くに位置するように設けられている。
【0055】
また、突出部40の高さhは、製造するウェハレンズ60の厚さより小さいことが好ましい。上型10と下型20とを合わせたとき、突出部40の直下に素子部22のような凹部が存在しない場合、つまり、突出部40の直下が基材部21である場合、突出部40の高さhがウェハレンズ60の厚さより大きいと、突出部と下型とが衝突してしまう。そのため、突出部40の高さhをウェハレンズ60の厚さより小さくすることにより、上型10と下型20とが衝突することなく、確実に上型10と硬化性材料とを接触させることができる。
【0056】
(突出部40の幅について)
次に、突出部40の幅について説明を行う。突出部40の幅は、素子部12のピッチより狭いことが好ましい。つまり、図2(a)〜(c)に示すように、素子部12のピッチ(製造するウェハレンズ60の光学レンズ60aの配列ピッチ)をpとすると、突出部40の底面の半径rは、r<p/2を満たすことが好ましい。突出部40の幅が、光学レンズ60aの配列ピッチより広い場合、複数の光学レンズ60aに影響を及ぼしてしまう。よって、突出部40の幅を、光学レンズ60aの配列ピッチより狭くすることにより、基材部11における突出部40の領域を、光学レンズ60aの1個分に収めることができる。よって、複数の光学レンズ60aに影響を及ぼすことなく、突出部40を形成することができる。
【0057】
(ウェハレンズの製造方法)
次に、図3を参照して、金型1を用いてウェハレンズ60を製造するウェハレンズの製造方法について説明を行う。図3は、ウェハレンズの製造方法の各工程を示す説明図である。
【0058】
なお、本実施形態におけるウェハレンズの製造方法は、熱転写ナノインプリントのように、硬化性材料に対し成形型(例えば、金型)を用いてプレスし、冷却することにより硬化させる方法を採用している。なお、本発明はこれに限定されず、例えば、光ナノインプリントのように、紫外線を照射することによって樹脂を硬化させる方法を用いてもよい。
【0059】
また、硬化性材料を成形する際、硬化性材料は、成形型内に密閉されるのではなく、上下のみが成形型に挟まれる状態であってもよい。つまり、成形型に挟まれたときに、硬化性材料の側面方向がフリー空間となっていてもよい。
【0060】
本実施形態に係るウェハレンズの製造方法では、まず、図3(a)に示すように、ウェハレンズ60を製造するのに必要な量の硬化性材料30を下型20に塗布する(塗布工程)。本実施形態では、硬化性材料30としては、金型1に対する接触角が45°であり、未硬化時の粘度が0.1Pa・sの熱硬化性材料を用いるがこれに限定されない。
【0061】
その後、図3(b)〜(e)に示すように、上型10と下型20との間隔が製造すべきウェハレンズ60の厚さとなるまで、上型10と下型20とを近づける(近接工程)。まず、図3(b)の状態から、突出部40が硬化性材料30に最初に接触するように、上型10を下型20に近づけると、図3(c)に示すように、突出部40と硬化性材料30とがほぼ一点において接触し、表面張力により、拡大図中矢印で示す方向に濡れ広がる。そして、さらに上型10を下型20に近づければ、図3(d)に示すようになる。ここで、図3(d)に示すように、硬化性材料30はほぼ一点から上型10および下型20の間で濡れ広がるので、気泡が外側に向かって押し出されており、気泡の混入が抑制されている。最終的には、図3(e)に示すように、上型10と下型20との間隔が製造すべきウェハレンズ60の厚さになるまで上型10と下型20とを近づける。
【0062】
その後、図3(e)の状態で、硬化性材料30を硬化させることにより、図3(f)に示すような、複数の光学レンズ60aが配列されているとともに、気泡の混入が抑制されたウェハレンズ60を首尾よく製造することができる(硬化工程)。なお、図3(f)に示すように、本実施形態のウェハレンズ60の製造方法によって製造されたウェハレンズ60には、突出部40に対応する凹み60bが形成されている。
【0063】
(近接工程について)
近接工程において、上型10を下型20に近づけることについて説明を行ったが、本発明はこれに限定されず、例えば、下型20を上型10に近づけてもよく、両者を互いに近づけてもよい。つまり、近接工程では、上型10と下型20とを近接させればよい。
【0064】
また、近接工程における上型10と下型20とを近接させる速度は、適宜設定すればよいが、0.02mm/s以下の速度とすることがより好ましい。
【0065】
また、本発明者は、近接工程において、粘度が0.1Pa・sの硬化性材料に対し、上型10と下型20とを0.02mm/sより速く近接させると、気泡が外側に向かって押し出されるより速く上型10と下型20との間隔が製造すべきウェハレンズ60の厚さになるまで近づいてしまい、ウェハレンズ60の内部に気泡が混入してしまう可能性があることを見出した。それゆえ、上型10と下型20とを近接させる速さを、0.02mm/s以下にすることにより、気泡の混入が抑制されたウェハレンズ60を好適に製造することができる。言い換えれば、近接工程において、上型10と下型20との間隔が製造すべき硬化物の厚さとなるまでに、硬化性材料30を十分に上型と下型との間に濡れ広がらせることができるため、首尾よく気泡を外側に向かって押し出して、ウェハレンズ60の内部への気泡の混入を好適に抑制することができる。
【0066】
このように、本実施形態における金型1は、上型10と下型20とを合わせるときに、下型20の硬化性材料30が上型10の突出部40にほぼ一点において接触し、そこから周囲に濡れ広がるため、硬化性材料30中に気泡が混入する余地を首尾よく排除することができる。
【0067】
すなわち、下型20に塗布された硬化性材料30に、上型10を近接させることにより、上型10の突出部40と、硬化性材料30とを、最初ほぼ一点で接触するように接触させることができる。このとき、硬化性材料30は表面張力により、当該一点から外側へ向かって濡れ広がる。それゆえ、上型10と下型20内部の気泡が外側に向かって押し出される。結果として、ウェハレンズ60への気泡の混入を抑制することができる。
【0068】
また、このような金型1を用いたウェハレンズの製造方法も同様の効果を得ることができる。また、ウェハレンズの製造方法における近接工程において、上型10および下型20は、離接方向(典型的には、上下方向)にのみ移動させればよい。そのため、ウェハレンズ60を製造する度に、左右方向の位置合わせ等を行う必要がない。したがって、このようなウェハレンズの製造方法を用いることにより、簡単な方法で気泡の混入を抑制することができる。
【0069】
なお、本発明に係る硬化物の成形型は、表面に複数の素子を成形するための繰り返し構造が設けられている成形型に限定されず、表面に1以上の素子を成形するための凹凸構造が設けられている成形型に適用することができる。
【0070】
また、本発明に係る硬化物の成形型は、上述したようなウェハレンズの成形型に限定されず、表面に1以上の素子が配列されている硬化物の成形型一般に適用することができる。すなわち、本発明は、素子を成形するための凹凸構造が繰り返し設けられている成形型に好適に適用することができる。また、本発明に係る硬化物の成形型は、金型以外にも、石膏型、樹脂型等の一般的な成形型に広く適用することができる。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ウェハレンズなどの硬化物の製造分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 金型(成形型)
10 上型
11 基材部
12 素子部
20 下型
21 基材部
22 素子部(繰り返し構造)
30 硬化性材料
40 突出部
60 ウェハレンズ(基板)
60a 光学レンズ(素子)
60b 凹み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型および下型からなり、前記下型に塗布された硬化性材料を前記上型と前記下型とにより挟み込むことによって、表面に素子が形成された硬化物を成形する硬化物の成形型であって、
前記上型の前記硬化物が挟み込まれる領域には、前記硬化物を成形するための基部となる基材部と、前記素子を成形するための素子部と、前記素子部とは異なる形状の突出部とが設けられており、
前記基材部からの前記突出部の高さが、前記基材部からの前記素子部の高さより高いことを特徴とする硬化物の成形型。
【請求項2】
前記突出部が、一つであることを特徴とする請求項1に記載の硬化物の成形型。
【請求項3】
前記突出部が、前記上型の中央部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の硬化物の成形型。
【請求項4】
前記素子部が、複数の前記素子を成形するための繰り返し構造であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の硬化物の成形型。
【請求項5】
前記突出部の幅が、前記繰り返し構造のピッチより狭いことを特徴とする請求項4に記載の硬化物の成形型。
【請求項6】
前記突出部が、尖形の頂上部分を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の硬化物の成形型。
【請求項7】
前記突出部が、前記上型に垂直な軸を有する回転体であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の硬化物の成形型。
【請求項8】
前記素子が、光学レンズであることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の硬化物の成形型。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の硬化物の成形型を用いて、硬化物を製造することを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項10】
硬化性材料を前記成形型の下型に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、前記成形型の上型に形成された突出部が前記硬化性材料に最初に接触するように、前記上型および前記下型を近接させる近接工程と、
前記近接工程の後、前記硬化性材料を硬化させることにより前記硬化物を製造する硬化工程と、を含むことを特徴とする請求項9に記載の硬化物の製造方法。
【請求項11】
前記近接工程において、前記上型および前記下型を近接させる速さが、0.02mm/s以下であることを特徴とする請求項10に記載の硬化物の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−28149(P2013−28149A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167737(P2011−167737)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】