説明

硬化組成物及び硬化体の製造方法

【課題】本発明は、重量変化、及び、寸法の収縮が小さく、短時間で所定の製品強度を得ることが出来、更に、外観品質や強度等の性能に優れた生産性の高い硬化体の製造方法を提供することを可能にすることを目的としている。
【解決手段】スラグ粉末または製紙スラッジ粉末100重量部と、メタケイ酸ナトリウム含水塩60重量部以上、且つ150重量部以下からなることを特徴とする硬化組成物をドライブレンドした後、熱間プレス成形することを特徴とする硬化体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬化組成物、及びこの硬化組成物を使用して硬化体を製造する方法及びこの硬化体に係り、特に、射撃用標的、建築材料等に用いられる硬化体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、水砕スラグ粉末にアルカリ金属珪酸塩水溶液のようなアルカリ刺激剤を添加、混合して無機質硬化性組成物を硬化させて無機質硬化体を得る方法が一般に知られている。アルカリ金属珪酸塩水溶液だけでは硬化が遅く、長時間室温で放置しても実用に耐えるだけの強度が得られない。硬化を促進するために、水酸化ナトリウム、アルカリ金属水酸化物等の硬化剤を併用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−1337公報
【特許文献2】
特開平5−51244公報
【特許文献3】
特開平5−345654公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の特許文献1では珪酸ナトリウム水溶液にスラグ粉末及び水酸化ナトリウムを加えて混練後成形体を得ているが、硬化の進行と共に成形体の重量が減少し、寸法も収縮する。そのため、成形金型と成形体との寸法差が大きく、成形体組成物と成形体との重量差も大きくなる。成形体の寸法及び重量の製品規格が要求される分野の製品を作製するためには、細かな各工程毎の製造条件の調整が必要となり、生産性を高めることが困難であった。特許文献2、3についても同様の問題があった。
【0005】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、重量変化、及び、寸法の収縮が小さく、短時間で所定の製品強度を得ることが出来、更に、外観品質や強度等の性能に優れた生産性の高い硬化体の製造方法を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者が検討の結果、スラグ粉末或いは製紙スラッジ粉末にメタケイ酸ナトリウム含水塩を混合して熱間プレス成形する硬化体の製造方法とすることにより、前記目的を達成することができることを見出し本発明を完成したものである。
【0007】
本発明は、
(1) スラグ粉末または製紙スラッジ粉末100重量部と、メタケイ酸ナトリウム含水塩60重量部以上、且つ150重量部以下からなることを特徴とする硬化組成物。
(2) (1)に記載の組成物に更に無機質充填材1重量部以上、且つ30重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする(1)に記載の硬化組成物。
(3) (2)に記載の組成物に更に着色剤0.5重量部以上、且つ20重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする(2)に記載の硬化組成物。
(4) (3)に記載の組成物に更に繊維0.1重量部以上、且つ15重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする(3)に記載の硬化組成物。
【0008】
(5) (1)〜(4)のいずれか1項に記載の組成物をドライブレンドした後、熱間プレス成形することを特徴とする硬化体の製造方法。
(6) (1)〜(4)のいずれか1項に記載の組成物をメタケイ酸ナトリウム含水塩を熱溶融して他の各成分を混練した後、熱間プレス成形または冷間プレス成形することを特徴とする硬化体の製造方法。
である。
【0009】
本発明で用いるスラグ粉末は、高炉水砕スラグ粉末、溶融スラグ粉末等が挙げられる。高炉水砕スラグ粉末は、鉄鋼を製造する過程で発生する溶融状態の高炉スラグを水で急冷したものである。本発明において、極めて短時間の加熱プレス成形で所定の製品強度を得ようとするには、水砕スラグが適している。
【0010】
本発明においては、高炉水砕スラグ粉末として、粉末度がブレーン比表面積で2000cm2/g〜8000cm2/gが好ましく、特に3000cm2/g〜6000cm2/gの粉末のものが好ましい。このような高炉水砕スラグ粉末は、粒状または塊状の水砕スラグを粉砕または粉砕及び分級することにより製造出来る。尚、スラグ粉末の代わりに製紙工程で発生した紙粉からなる製紙スラッジ粉末を採用することも出来る。
【0011】
本発明で使用するメタケイ酸ナトリウム含水塩としては、一般式Na2O・SiO2・nH2O(式中、n=5〜9である。)で表され、室温では粉末または粒状である。特に、メタケイ酸ナトリウム9水塩が好ましく、加熱すると約50℃で溶融し、100℃で6分子の結晶水を失った固体となる。結晶水nが0の場合は、100℃で加熱しても溶融せず、結晶水nが多くなると室温では水溶液となる。
【0012】
また、メタケイ酸ナトリウム含水塩(C)に結晶質含水ケイ酸カリウム(D)が一部含まれていても良く、その場合、メタケイ酸ナトリウム含水塩(C)と結晶質含水ケイ酸カリウム(D)との混合比率により溶融温度範囲は50℃〜70℃となる。
【0013】
この結晶質含水ケイ酸カリウムは、メタケイ酸カリウム含水塩3K2O・2SiO2・nH2O(式中、n=3〜10である。)を主体とするもの、セスキケイ酸カリウム含水塩K2O・SiO2・mH2O(式中、m=3〜10である。)を主体とするもの、及びそれらの混合物または共晶体からなるものが挙げられる。
【0014】
本発明のメタケイ酸ナトリウム含水塩の配合量は、高炉水砕スラグ100重量部に対して60重量部以上、且つ150重量部以下が好ましい。60重量部未満であると加熱溶融させた際に硬化体の成形に必要な流動性が得られない。また150重量部を超えると硬化体の耐水性に問題が生じる。
【0015】
本発明で使用する組成物には、必要に応じて、無機質充填材、補強繊維等を添加することが出来る。無機質充填材を添加することにより、硬化体の成形性の向上、ポットライフの延長を図ることが出来る。無機質充填材としては、特に限定されず、例えば、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、石膏、フライアッシュ、微粉珪石、軽量気泡コンクリート破砕粉等が挙げられる。
【0016】
上記無機質充填材としては、平均粒径0.01μm〜1mmのものが好ましい。平均粒径0.01μm以下であると、流動性が小さくなり、成形型に正確に充填することが出来ない。また1mmを超えると強度低下を起こすおそれがある。
【0017】
本発明で着色剤として使用する顔料は酸化黄、ベンガラ、酸化クローム、ウルトラマリン、セメントグリーン、群青、フタロシアニンブルー、紫酸化鉄、鉄黒、カーボンブラック等の無機系または有機系の公知の顔料が使用出来、希望の色に応じて顔料を1種または2種以上混合して用いることが出来る。
【0018】
硬化組成物に対する顔料の添加量は、粉体原料100重量部に対して顔料を0.5重量部以上、且つ20重量部以下の範囲で添加するのが好ましい。0. 5重量部未満では着色が十分でなく、20重量部を超えて添加すると性能が低下する。
【0019】
補強繊維を添加することにより、無機質硬化体の強度向上、クラックの防止を図ることが出来る。例えば、パルプ、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等の有機繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維が挙げられる。補強繊維の添加量は、高炉水砕スラグ100重量部に対して15重量部以下が好ましい。15重量部を超えると、繊維の分散性が低下する。
【0020】
本発明の硬化体の製造方法において、熱間プレス成形して本発明の硬化組成物を加熱硬化させる場合の温度範囲は60℃〜120℃が好ましく、60℃よりも低温では硬化速度が遅く、120℃よりも高温では加熱硬化して得られた硬化体は強度の低いものとなり易い。この温度範囲で硬化組成物を加熱硬化することにより、加熱硬化直後の硬化体に強度が付与され、脱型した際の型崩れを防ぐことが出来、硬化体を量産するのに適したものとなる。
【0021】
熱間プレス成形する場合、硬化組成物をドライブレンドした後、熱間プレス成形する製造方法が、好ましく、成形型の温度を前記硬化組成物の溶融温度より高く設定すると、成形型の表面に触れた硬化組成物の流動性が小さくなり、成形型の表面性状に沿って正確に充填することが出来る。従って、適度な流動性で性状の一定な硬化組成物を成形型に充填出来るので、外観品質や強度等の性能の優れた無機質硬化体を製造出来る。
【0022】
尚、メタケイ酸ナトリウム含水塩を熱溶融して他の各成分を混練した後に、充分な時間を与えれば、熱間プレス成形の代わりに冷間プレス成形を採用することも出来る。
【0023】
本発明の硬化体は、硬化組成物及び製造条件を制御することにより、射撃用標的及び建築材料としての性能を確保することが出来る。例えば、補強繊維及びメタケイ酸ナトリウム含水塩の配合量を調整することで、射撃用標的として要求される強度及び散弾による粉砕挙動をバランス良く製造することが出来、粉砕されて地面に落下した場合でも有害物質を含んでいないので環境問題を起こし得ない、環境に優しい材料となっている。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明に係る硬化組成物、硬化体の製造方法、硬化体及び射撃用標的の一実施形態を具体的に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0025】
<実施例>
ブレーン比表面積3500cm2/gの水砕スラグ粉末600重量部、メタケイ酸ナトリウム9水塩360重量部、繊維としてパルプ5重量部を配合してなる組成物をホバート型ミキサー(マルトー社製)でドライブレンド(乾式混練)した後に熱プレス成形機を用いて温度100℃及び圧力10×105Pa(10kgf/cm2)の条件で5分間かけて熱間プレス成形して、外径が110mm(成形型の内径110mm)、重量106g(原料の重量112g)の射撃用標的である皿型形状のクレーを得た。
【0026】
硬化収縮は無く、重量減少は6gであった。また、このクレーの破壊荷重は250N(25kgf)であった。尚、破壊荷重の測定は、クレーの皿形形状の外径方向に荷重を載荷して行った。24時間水中に浸漬した後の破壊荷重は230N(23kgf)であり、60℃で24時間放置後の破壊荷重は200N(20kgf)であった。
【0027】
<比較例>
ブレーン比表面積3500cm2/gの水砕スラグ粉末600重量部、50%メタケイ酸ナトリウム水溶液720重量部、パルプ5重量部を配合してなる組成物をホバート型ミキサー(マルトー社製)でドライブレンド(乾式混練)した後に熱プレス成形機を用いて温度100℃及び圧力10×105Pa(10kgf/cm2)の条件で5分間かけて熱間プレス成形し、80℃で3時間加熱した。クレーの皿型形状の外径は104mm(成形型の内径110mm)、重量70g(原料の重量105g)のクレーを得た。硬化収縮は6mm、重量減少は35gであった。また、このクレーの破壊荷重は170N(17kgf)であった。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、上述の如き構成と作用とを有するので、短時間で所定の製品強度を得ることが出来、重量変化、及び、寸法の収縮が小さく、耐熱性、耐水性に優れた硬化体、特に、射撃用標的に適した硬化体を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ粉末または製紙スラッジ粉末100重量部と、メタケイ酸ナトリウム含水塩60重量部以上、且つ150重量部以下からなることを特徴とする硬化組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物に更に無機質充填材1重量部以上、且つ30重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の硬化組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物に更に着色剤0.5重量部以上、且つ20重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする請求項2に記載の硬化組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物に更に繊維0.1重量部以上、且つ15重量部以下を加えた組成物からなることを特徴とする請求項3に記載の硬化組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を、ドライブレンドした後、熱間プレス成形することを特徴とする硬化体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を、メタケイ酸ナトリウム含水塩を熱溶融して他の各成分を混練した後、熱間プレス成形または冷間プレス成形することを特徴とする硬化体の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の製造方法により得られることを特徴とする硬化体。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化体からなることを特徴とする射撃用標的。

【公開番号】特開2006−225165(P2006−225165A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−150398(P2003−150398)
【出願日】平成15年5月28日(2003.5.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】