説明

硬質木片セメント板及びそれの製造方法

【課題】寸法安定性に優れた硬質木片セメント板及びそれの製造方法を提供すること。
【解決手段】セメントと木片を混合して成形した硬質木片セメント板(a)(1)の少なくとも一面に界面活性剤(b)(2)を塗布してなる、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板であって、前記界面活性剤(b)は、次の一般式(1):
RO(AO)H (1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基であり、nは1〜10の数である。)
で示される化合物の1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする硬質木片セメント板など、及びそれの製造方法を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁などの建築材料として用いられる硬質木片セメント板及びそれの製造方法に関し、さらに詳しくは、硬質木片セメント板の少なくとも一面に、特定の界面活性剤を積層してなる、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板及びそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築材料、例えば、硬質木片セメント板は、木質材料の持つ加工性や釘打ち性を併せ持ち、防火性や耐水性に優れていることから、主に建物の外壁等に用いられている。この硬質木片セメント板は、セメント組成物、例えばセメント・モルタルやコンクリートに、木片と水とを混合した後、これら混合物を成形型に供給し、加圧加熱することにより所定の形状に賦形して硬化させることで製造することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
セメント・モルタルやコンクリートなどのセメント組成物の重大な欠陥のひとつとして乾燥ひび割れが発生し易いことがあり、そのひび割れは、セメントの寸法変化の大きいことに起因している。そのため、寸法変化の少ない、すなわち寸法安定性に優れたセメント組成物の出現が望まれている。
従来からアルキレンオキシド付加物は、セメント混和剤として種々の目的に使用されている。例えば、セメント用空気連行剤、モルタル用混和剤、セメント混入ラテックスの乳化安定剤や、セメント混入用繊維の分散剤などとして使用されている。このアルキレンオキシド付加物の特定のものを、セメント用収縮低減剤として、セメント組成物に添加することが、知られている(特許文献2参照。)。
【0004】
一方、硬質木片セメント板は、多量の木片が混入しているために、セメント板表面からの吸水量が増加し、寸法変化が大きくなって、さらに寸法安定性に欠けるという問題がある。そこで、木片自体の添加量を減らすることなどにより寸法安定性の向上が行われている。
しかしながら、一般的に、木片量を減らすと基材(セメント板)の強度低下や施工作業性の悪化を招く。さらに、結晶生成に必要な水分を木が吸収しきれず、セメント組成物に多量の水分が存在することになる。このような状態の非流動性混合物をホットプレスすると、プレス時にセメント組成物が流れ出す現象が起き、組織中に多数の空孔が生じることになる。この結果、大幅な強度低下や寸法安定性の低下を引き起こす。
そのため、木片量を減らすことなく、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板が強く望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−140059号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特公昭56−51148号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板及びそれの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、硬質木片セメント板等に適用できる界面活性剤を選択し、特定の界面活性剤を硬質木片セメント板に塗布したところ、驚くべきことに寸法安定性に優れる硬質木片セメント板が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、セメントと木片を混合して成形した硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に界面活性剤(b)を塗布してなる、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板であって、前記界面活性剤(b)は、次の一般式(1):
RO(AO)H (1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基であり、nは1〜10の数である。)
で示される化合物の1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする硬質木片セメント板が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記一般式(1)で示される化合物は、次の一般式(2)、(3)及び(4):
RO(CO)1〜5H (2)
RO(CO)H (3)
RO(AO)2〜10H (4)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、(AO)2〜10はCOとCOとからなるモル数2〜10のポリオキシアルキレン基である。)
で示される化合物からなる群より選ばれる化合物であることを特徴とする硬質木片セメント板が提供される。
【0009】
本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記(AO)2〜10におけるCOとCOとのモル比は、0.2〜5.0であることを特徴とする硬質木片セメント板が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記界面活性剤(b)は、シャープな分子量分布を有する精製された化合物であることを特徴とする硬質木片セメント板が提供される。
【0010】
一方、本発明の第5の発明によれば、セメントと木片と水とを混合して硬質木片セメント板(a)を成形した後、該硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に、界面活性剤(b)を150〜200g/cmの量で塗布することを特徴とする第1〜4のいずれかの発明に係る硬質木片セメント板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬質木片セメント板によれば、第1の発明においては、特に、寸法変化が低減し、寸法安定性に優れるという効果がある。また、第2〜4の発明においては、界面活性剤がより特定のものであるので、いっそう、寸法安定性に優れるという効果がある。
さらに、本発明の硬質木片セメント板の製造方法によれば、第5の発明の方法により得られた硬質木片セメント板は、寸法変化が低減し、寸法安定性に優れるものであるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、項目毎に詳細に説明する。
本発明の硬質木片セメント板は、図1に示すように、セメントと木片を混合して成形した硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に、特定の界面活性剤(b)を塗布してなることを特徴とし、寸法安定性に優れる。
【0013】
1.硬質木片セメント板(a)
本発明の硬質木片セメント板において用いられる硬質木片セメント板(a)は、セメントと木片と水とを混合して成形してなるものであれば、特に限定されない。
上記セメント又はセメント材料としては、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、特殊ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント)等のポルトランドセメントを始めとする水硬性無機物質;石灰、石膏等の気硬性無機物質などが挙げられる。さらに、成形工程にホットプレス等の加熱工程を使用する場合には、硬化時間を短縮できる熱硬化成分をポルトランドセメントと併用してもよい。
【0014】
上記熱硬化成分としては、例えば、アルミナセメント、無水石膏、半水石膏などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよいし、2種類以上併用されてもよい。これら熱硬化成分は、ポルトランドセメント と併用されることにより、水和したときにエトリンガイトを生成し、硬化反応を促進させる。
【0015】
上記セメント材料には、必要に応じて、カルシウム成分量の調整のために、消石灰、生石灰等の(水)酸化カルシウムが添加されても良い。
【0016】
また、木片も、特に限定されず、新木材および建築廃木材などから作製された木チップを細分化した木片が好適に使用でき、樹種としては例えば、杉、檜、松、栂、さわら、樫、なら、かば、ブナ、オーク、ラワン、ひば、栗、けやき、椎、柳、竹などの材料からなるものが使用できる。
【0017】
上記木片を作製する方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、プレス、回転ロールによる圧搾、スリッターや切断機による切断などが挙げられる。
【0018】
木片の形状は、用途、所望とする強度などに応じて適宜選択されるが、長さ60mm以下、幅20mm以下、厚さ2mm以下のものが好ましい。
【0019】
上記木片の量は、少なすぎると基材層、すなわち硬質木片セメント板(a)の補強効果が小さくなり、強度不足となるとともに、比重が大きくなり、木片セメント板の重量が大きくなり、軽量性が損なわれる。また、多すぎると吸水速度が大きくなり、寸法安定性が低下し、耐火性も低下するので、基材層の総重量に対して5〜15重量%が好ましい。
【0020】
本発明に係る硬質木片セメント板(a)は、通常、上記セメント材料、木片、及び水からなる。さらに、他の添加剤等を用いてもよい。
用いられる水の量は、少なすぎるとセメント材料の水和反応が不十分となり、強度低下を引き起こす。また、多すぎると混合時において、小さな固まりができて均一に混合できなくなり、成形された基材層、すなわち硬質木片セメント板(a)が不均質で低強度のものとなるので、上記セメント材料100重量部に対し、20〜60重量部が好ましい。
【0021】
2.界面活性剤(b)
本発明の硬質木片セメント板において、特定の界面活性剤(b)を、上記の硬質木片セメント板(a)に、塗布することなどにより、積層することに最大の特徴がある。
使用する界面活性剤(b)としては、次の一般式(1)で示される化合物の1種又は2種以上の混合物からなる界面活性剤である。
【0022】
RO(AO)H (1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基であり、nは1〜10の数である。)
【0023】
上記一般式(1)で示される化合物は、通常、炭素数4以下の低級アルコールに、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加させることにより、容易に得られるものである。
一般式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。このような基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基が挙げられる。これらのうち、硬質木片セメント板等の寸法変化低減効果の点から、メチル基が好ましい。
【0024】
一般式(1)において、Aは炭素数2〜3のアルキレン基であり、エチレン基及び/又はプロピレン基が挙げられる。
また、n(アルキレンオキシドの付加モル数)は1〜10である。nは付加させるアルキレンオキシドの種類によって好ましい範囲がある。例えば、アルキレンオキシドとして、エチレンオキシドを使用した場合、寸法変化低減効果から、低級アルコール1モルに対して、1〜5モルが好ましい。また、プロピレンオキシドの付加モル数が2モル以上では、寸法変化低減効果が低下する。さらに、アルキレンオキシドとして、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとを併用した場合の付加モル数は、低級アルコール1モルに対して、通常2〜10モルである。特に、この付加モル数が5〜10モルの範囲内にあるときは、低気泡性となるために、良好な結果を与える。
これら上記知見を一般式で表すと、前記一般式(1)で示される化合物は、次の一般式(2)、(3)及び(4)で示されるものが好ましい。
【0025】
RO(CO)1〜5H (2)
RO(CO)H (3)
RO(AO)2〜10H (4)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、(AO)2〜10はCOとCOとからなるモル数2〜10のポリオキシアルキレン基である。)
【0026】
通常、上記の界面活性剤は、合成の際には、重合度がある範囲で生成するが、これをさらに精製することにより、付加モル数の範囲が狭まり、その結果、寸法変化低減の効果が大幅に高めることができる。
【0027】
3.硬質木片セメントの製造方法
本発明の硬質木片セメントは、上記のように、セメントと木片と水とを混合して成形してなる硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に、特定の界面活性剤(b)を150〜200g/cmの量で塗布することにより、製造することができる。
塗布方法としては、特に限定されずに、公知の方法で塗布することができる。すなわち、任意の従来のコーティング技術、例えば、刷毛、スプレー、ロール、ディッピングなどの塗装手段により塗布することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0029】
[実施例1、2]
公知の方法により得られた、セメントと木片と水とを混合して成形してなる硬質木片セメント板に、実施例1では、界面活性剤として、式:CHO(CO)H (但し、nは2〜4で、n=2が5%、n=3が90%、n=4が5%のもの)で示されるものを、塗布量として200g/mを塗布した。その硬質木片セメント板の界面活性剤塗布品を、JIS A5414「パルプセメント板」の「吸水による長さ変化試験」方法による吸水試験を実施し、長さ変化率(寸法変化率)を測定し、表1に示す結果を得た。
また、実施例2では、界面活性剤として、式:CHO(CO)H (但し、nは1〜9で、n=1が5%、n=2が25%、n=3が30%、n=4が20%、n=5が10%、n=6が5%、n=7が2%、n=8が2%、n=9が1%のもの)で示されるものを用いた以外は、実施例1と同様に、評価した。その評価結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
比較例として、実施例1で用いた硬質木片セメント板のみを、実施例1と同様に、吸水試験を実施し、長さ変化率(寸法変化率)を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記結果から判るように、硬質木片セメント板(a)のみで吸水試験を実施した比較例1では、寸法変化率が大きいのに対し、本発明に係る特定の界面活性剤を塗布した実施例1、2では、寸法変化率が小さく、特に重合度の分布がシャープな実施例1では、寸法変化率が特に小さく、寸法安定性に優れたものであった。
したがって、本発明の硬質木片セメント板は、セメントと木片と水とを混合して成形してなる硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に、界面活性剤(b)を塗布したことを特徴としているので、寸法安定性に優れることは、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による硬質木片セメント板は、寸法変化が低減し、寸法安定性に優れるという効果を発揮するので、建材、床材、舗装材等として各種用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の硬質木片セメント板を示す模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 硬質木片セメント板(a)
2 界面活性剤(b)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと木片を混合して成形した硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に界面活性剤(b)を塗布してなる、寸法安定性に優れた硬質木片セメント板であって、
前記界面活性剤(b)は、次の一般式(1):
RO(AO)H (1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基であり、nは1〜10の数である。)
で示される化合物の1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする硬質木片セメント板。
【請求項2】
前記一般式(1)で示される化合物は、次の一般式(2)、(3)及び(4):
RO(CO)1〜5H (2)
RO(CO)H (3)
RO(AO)2〜10H (4)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、(AO)2〜10はCOとCOとからなるモル数2〜10のポリオキシアルキレン基である。)
で示される化合物からなる群より選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬質木片セメント板。
【請求項3】
前記(AO)2〜10におけるCOとCOとのモル比は、0.2〜5.0であることを特徴とする請求項2に記載の硬質木片セメント板。
【請求項4】
前記界面活性剤(b)は、シャープな分子量分布を有する精製された化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬質木片セメント板。
【請求項5】
セメントと木片と水とを混合して硬質木片セメント板(a)を成形した後、該硬質木片セメント板(a)の少なくとも一面に、界面活性剤(b)を150〜200g/cmの量で塗布することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の硬質木片セメント板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89309(P2006−89309A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274258(P2004−274258)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】