説明

硬質表面用ペルフルオロポリエーテルコーティング組成物

基材、具体的にはセラミックス、金属又はガラスなどの硬質表面を有する基材を、撥水性、撥油性、防染性及び防汚性にするための、組成物、並びに基材の処理方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、具体的にはセラミックス、金属又はガラスなどの硬質表面を有する基材を、撥水性、撥油性、防染性及び防汚性にするための、組成物、並びに基材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化シラン、すなわち、ガラス及びセラミックスなどの基材を撥油性及び撥水性にするための1つ以上のフッ素化基を有するシラン化合物の使用は既知である。例えば、米国特許第5,274,159号は、水溶液から適用可能な壊れやすいフッ素化アルコキシシラン界面活性剤について記載している。国際公開特許第02/30848号は、セラミックスに撥油性及び撥水性を与えるためのフッ素化ポリエーテルシランを含む組成物について記載している。
【0003】
欧州特許第797111号には、光学部品上に防汚層を形成するために、ペルフルオロポリエーテル基を含有するアルコキシシラン化合物の組成物が記載されている。更に、米国特許第6,200,884号は、改善された撥水性及び撥油性並びに防染性を有するフィルムへと硬化する、ペルフルオロポリエーテルで修飾されたアミノシランの組成物について開示している。
【0004】
米国特許第3,646,085号は、ガラス表面又は金属表面に、撥油性及び撥水性を与えるためのフッ素化ポリエーテルシランについて教示している。国際公開特許第99/37720号は、ガラス又はプラスチックなどの基材上の反射防止(antireflective)表面へ防汚コーティングを提供するためのフッ素化ポリエーテルシランについて開示している。米国特許第3,950,588号には、浴室のタイル又は調理器具などのセラミック表面を撥水性及び/又は撥油性にするためのフッ素化ポリエーテルシランの使用が開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、シルセスキオキサンハードコート樹脂成分と下式のペルフルオロポリエーテルシランとを含む硬質表面用コーティング組成物を提供する:
−[−R−Si(Y)3−x(R(I)、式中、
は、一価又は二価のペルフルオロポリエーテル基であり、
は、場合により1個以上のヘテロ原子又は官能基を含有し、場合によりハロゲン化物で置換され、好ましくは約2〜約16個の炭素原子を含有する、二価アルキレン基、アリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、
は、低級アルキル基、例えば、C〜Cアルキル基であり、
Yは加水分解性基であり、
xは0又は1であり、yは1又は2である。
【0006】
撥油性及び撥水性を与える基材処理のための多数のフッ素化シラン組成物が当技術分野において既知であるが、基材処理、特に、セラミックス、ガラス及び石などの硬質表面を有する基材に撥水性及び撥油性を付与し、容易に洗浄できるようにするために、更に改善された組成物を提供するという要望が引き続き存在している。特に眼科分野において、染み、塵及び埃への耐性を付与するために、硬質表面としてのガラス及びプラスチックを処理する必要性がある。
【0007】
本開示は、シルセスキオキサンハードコート樹脂成分とペルフルオロポリエーテルシラン成分とを含む硬質表面用コーティング組成物を目的とする。望ましくは、このような組成物及びそれらを使用する方法により、改善された特性を有するコーティングを得ることができる。具体的には、コーティングの耐久性が改善(例えばコーティングの磨耗耐性の改善)されることが望ましい。更に、使用する洗剤、水又は手作業を減らしながら、このような基材の洗浄の容易さを改善することは、末端消費者による要望であるだけでなく、環境にも正の影響を与える。組成物は、容易かつ安全な方法で都合良く適用することができ、また現在の製造方法と相性が良い。好ましくは、組成物は、処理される基材を製造するために実施される製造プロセスに容易に適合する。またこの組成物は、好ましくは、生態学的に好ましくない構成成分の使用は避けるものである。
【0008】
定義
「アルキル」は、例えば、メチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、ペンチルなどの、1〜約12個の炭素原子を有する、直鎖又は分枝鎖の、環式又は非環式の、飽和した一価の炭化水素ラジカルを意味する。
【0009】
「アルキレン」は、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、2−メチルプロピレン、ペンチレン、ヘキシレンなどの、1〜約12個の炭素原子を有する、直鎖の飽和した二価の炭化水素ラジカル、又は3〜約12個の炭素原子を有する、分枝鎖の飽和した二価の炭化水素ラジカルを意味する。
【0010】
「アルコキシ」は、例えば、CH−O−、C−O−などの、末端酸素原子を有するアルキルを意味する。
【0011】
「硬化した化学組成物」は、化学組成物が乾燥した状態を意味し、すなわち周辺温度より高い温度により、化学組成物が乾燥するまで溶媒が蒸発したことを意味する。本組成物は更に、ペルフルオロポリエーテル化合物とシルセスキオキサンハードコート樹脂成分との間に形成されたシロキサン結合の結果として、架橋され得る。
【0012】
「オキシアルキル」は、1個以上の酸素へテロ原子がアルキル鎖に存在していてもよいことを除いて、アルキルについて上記で与えられた意味を本質的に有し、これらのへテロ原子は、少なくとも1個の炭素により互いに分離されており、例えば、CHCHOCHCH−、CHCHOCHCHOCH(CH)CH−、CCHOCHCH−及びこれらに類するものである。
【0013】
「オキシアルキレン」は、1個又はそれ以上の酸素ヘテロ原子がアルキレン鎖に存在してもよいことを除いて、アルキレンについて上記で与えられた意味を本質的に有し、これらのヘテロ原子は、少なくとも1個の炭素により互いに分離されており、例えば、−CHOCHO−、−CHCHOCHCH−、−CHCHOCHCHCH−及びこれらに類するものである。
【0014】
「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードを意味し、好ましくはフルオロ及びクロロを意味する。
【0015】
「ペルフルオロ化基」は、炭素に結合した水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置換されている有機基を意味し、例えば、ペルフルオロアルキル、ペルフルオロオキシアルキル及びこれらに類するものである。
【0016】
「ペルフルオロアルキル」は、アルキルラジカルの水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置換され、炭素原子の数が1〜約12であることを除き、「アルキル」について上記で与えられた意味を本質的に有し、例えば、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロオクチル及びこれらに類するものである。
【0017】
「ペルフルオロアルキレン」は、アルキレンラジカルの水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置き換えられていることを除いて「アルキレン」として上記で与えられた意味を本質的に有し、例えばペルフルオロプロピレン、ペルフルオロブチレン、ペルフルオロオクチレン及びこれらに類するものである。
【0018】
「ペルフルオロオキシアルキル」は、オキシアルキルラジカルの水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置換され、炭素原子の数が3〜約100個であることを除き、「オキシアルキル」について上記で与えられた意味を本質的に有し、例えば、CFCFOCFCF−、CFCFO(CFCFO)CFCF−、CO(CF(CF)CFO)CF(CF)CF−、(式中sは、(例えば)約1〜約50である)及びこれらに類するものである。
【0019】
「ペルフルオロオキシアルキレン」は、オキシアルキレンラジカルの水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置換され、炭素原子の数が3〜約100個であることを除き、「オキシアルキレン」について上記で与えられた意味を本質的に有し、例えば、−CFOCF−、又は−[CF−CF−O]−[CF(CF)−CF−O]−(式中、b及びcは、(例えば)1〜50の整数である)である。
【0020】
「ペルフルオロエーテル」は、少なくとも1個のペルフルオロオキシアルキレン基を有する基であり、例えばペルフルオロエーテル及びペルフルオロポリエーテルである。
【0021】
「ペルフルオロポリエーテル」は、少なくとも2個のペルフルオロオキシアルキレン基を有する基である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ペルフルオロポリエーテルシラン成分は下式を有する:
−[−R−Si(Y)3−x(R (I)
式中、
は、一価又は二価のペルフルオロポリエーテル基であり、
は、場合により1個以上のヘテロ原子又は官能基を含有し、場合によりハロゲン化物で置換され、好ましくは約2〜約16個の炭素原子を含有する、二価アルキレン基、アリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、
は、低級アルキル基、例えば、C〜Cアルキル基であり、
Yは、アルコキシ、アシルオキシ又はハロ基のような加水分解性基であり、
xは0又は1であり、yは1又は2である。
ペルフルオロポリエーテル基(R)は、直鎖、分枝鎖及び/又は環状構造を含むことができ、飽和又は不飽和で、1個以上の酸素原子で置換されていてもよい。Rは、ペルフルオロ化基である(すなわち、全てのC−H結合が、C−F結合によって置換されている)。より好ましくは、Rは、−(C2nO)−、−(CF(Z)O)−、−(CF(Z)C2nO)−、−(C2nCF(Z)O)−、−(CFCF(Z)O)−及びこれらの組み合わせの群から選択されるペルフルオロ化繰り返し単位を含む。これらの繰り返し単位において、Zは、ペルフルオロアルキル基、酸素置換ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、又は酸素置換ペルフルオロアルコキシ基であり、これら全ては、直鎖、分枝鎖、又は環状であることができ、約1〜約9個の炭素原子及び0〜約4個の酸素原子を有し得、
nは1〜9、好ましくは約1〜約6、より好ましくは1〜4である。
【0023】
これらの繰り返し単位から作製される高分子部分を含有するペルフルオロポリエーテルの例は、米国特許第5,306,758号(Pellerite)に開示されている。好ましくは、ペルフルオロポリエーテル基(R)内の繰り返し単位の数は、少なくとも約500の数平均分子量を有する化合物を形成するのに十分なものであり、より好ましくは少なくとも約1000の数平均分子量を有するペルフルオロポリエーテル基を形成するのに十分なものである。一価ペルフルオロポリエーテル基(上式I中でyは1である)に関して、末端基は、(C2n+1)−、(C2n+1O)−、(X’C2nO)−又は(X’C2n+1)−であることができ、式中、X’はH、Cl又はBrであり、nは1〜6の整数、より好ましくは1〜4の整数である。好ましくは、これらの末端基はペルフルオロ化されている。
【0024】
二価ペルフルオロポリエーテル基に好ましい近似平均構造は、−CFO(CFO)(CO)CF−、−CF(CF)(OCFCF(CF))O(CFO(CF(CF)CFO)−(式中、nは1〜6である)、−CFO(CO)CF−及び−(CFO(CO)(CF−の単位を含み、式中、a、b、c及びdの平均値は0〜約50であり、a、b、c及びdの全てが同じ基中で0であることはできず、a+b+c+dは少なくとも1、好ましくは少なくとも2、最も好ましくは10〜50であり、nは1〜9、好ましくは1〜4である。「(OCFCF(CF))」中の下付文字「c」の値は、「(CF(CF)CFO)」中の下付文字「c」の値から独立して選択されることが理解されるであろう。
【0025】
これらのうちで、特に好ましい平均的構造は概ね、
−CFO(CFO)(CO)CF−、−CFO(CO)CF−及び
−CF(CF)(OCFCF(CF))O(CFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−(式中、a、b、c及びdは0〜約50であり、a、b、c及びdの全てが同じ基中で0であることはできず、a+b+c+dは少なくとも1、好ましくは少なくとも2、最も好ましくは10〜50である)である。
【0026】
一価ペルフルオロポリエーテル基に特に好ましい近似平均構造は、CO(CF(CF)CFO)CF(CF)−及びCFO(CO)CF−を含み、式中、b及びcの平均値は1〜約50、好ましくは少なくとも2、最も好ましくは10〜50である。合成された際、これらの化合物は通常、ポリマー混合物を含む。近似平均構造は、ポリマーの混合物の近似平均であり、数は非整数であってもよい。
【0027】
本発明で有用な剥離剤を製造する際の使用に好適な式Iの化合物は、少なくとも約500、好ましくは少なくとも約1000の分子量(数平均)を有する。典型的には、これらの分子量は約5000以下であるが、これは典型的には、入手可能性、粘度及び硬化の容易さに制限され、所望される粘度及び硬化時間特性に依存して、好ましくは約3000以下である。
【0028】
好ましいペルフルオロポリエーテルシランの例としては、以下の近似平均構造:
XCFO(CFO)(CO)CFX、CO(CF(CF)CFO)CF(CF)X、XCF(CF)(OCFCF(CF))O(CFO(CF(CF)CFO)CF(CF)X、
XCFO(CO)CFX及びCFO(CO)CFX、X(CFO(CO)(CFXが挙げられるが、これらに限定されない。式中、−Xは、式1中で上記に定義されたようなR−Si(Y)3−x(Rであるか又は上記に定義されたようなシラン不含末端基(C2n+1)−若しくは(X’C2nO)−であり、式中、X’はH、Cl又はBrであるが、但し、a、b、c及びdが0〜約50であり、a、b、c及びdの全てが同じ基中で0であることができず、a+b+c+dが少なくとも1、好ましくは少なくとも2、最も好ましくは10〜50である場合、1分子あたり少なくとも1個のX基はシランである。
【0029】
特定の実施形態では、a、b、c及びdの平均値は、それぞれ約1〜約50の範囲内であり、a、b、c及びdの合計は約10〜約50の範囲内である。これらは高分子材料であるので使用に好適である。このような化合物は合成時には混合物として存在する。これらの混合物はまた、これらの合成に用いられる方法の結果として、官能基を有さない(不活性流体)、又は2個を超える末端基を有する(分枝鎖構造)、ペルフルオロポリエーテル鎖を含有してもよい。典型的には、約10重量%未満の非官能化ポリマー(例えば、シラン基を有さないもの)を含有するポリマー物質の混合物を用いることができる。更に、式Iの個々に列挙された化合物の任意の混合物を用いることができる。
【0030】
ペルフルオロポリエーテル化合物は、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)のオリゴマー化により得ることができ、これは、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第3,250,808号(Moore et al.)に記載のようなペルフルオロポリエーテルカルボニルフルオリドを生じる。このフッ化カルボニルを、当業者に周知の反応によって、酸、酸性塩、エステル、アミド又はアルコールに変換させてよい。次いで、フッ化カルボニル若しくは酸、エステル又はそれから誘導されたアルコールを更に反応させ、既知の手順に従って、所望の基を導入してよい。
【0031】
式Iの化合物は、標準的な技術を使用して合成することができる。例えば、米国特許第3,810,874号(Mitsch et al.)によると、市販の又は容易に合成されるペルフルオロポリエーテルエステルを3−アミノプロピルアルコキシシランのような官能化アルコキシシランと組み合わせることができる。この方法の改良が実施例に記載されている。
【0032】
式(I)のペルフルオロポリエーテルの混合物を用いて、フッ素性化学化合物のフッ素化ポリエーテル化合物を調製し得ることは、当業者にとって明白である。一般に、本発明の式(I)によるペルフルオロポリエーテルの製造方法により、異なった分子量を有し、かつ、(1)約750グラム/モル未満の分子量を有するペルフルオロ化ポリエーテル部分を有するフッ素化ポリエーテル化合物も、(2)10,000グラム/モル超の分子量を有するペルフルオロポリエーテル部分を有するフッ素化ポリエーテル化合物も含まない、ペルフルオロポリエーテルの混合物が得られる。
【0033】
一部の実施形態では、式1のモノシラン及びジシランの組み合わせが好ましい。式中、yが1及び2である、式1の化合物の混合物を含む組成物は、予想外にも、個々の化合物それぞれに基づいて行われるコーティングよりも接触角及び剥離に関して有意に良好な性能を示す(例えば、表面エネルギーがより低く、表面洗浄がより容易である)、フッ素含有コーティングの供給を可能にする。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、前述の特定の一官能性及び二官能性ポリフルオロポリエーテルシランの特定の組み合わせは、一緒になって効果的に作用して、基材の表面に対する有効な被覆並びに広範な結合(例えば、共有結合)及びコーティングそれ自体の内部の架橋を可能にし、非常に望ましい構造的一体性(例えば、望ましい耐久性及び曲げ強度)をもたらすと同時に、特定の高フッ素化コーティング表面を可能にすると考えられる。
【0034】
これらの実施形態では、モノシランポリフルオロポリエーテルシラン及びジシランポリフルオロポリエーテルシランの混合物を含むコーティングを含む好ましい実施形態では、モノシランとジシランの重量パーセント比は10:90以上、特に20:80以上、より好ましくは30:70以上、最も好ましくは40:60以上である。このような実施形態は、モノペルフルオロポリエーテルとジペルフルオロポリエーテルの重量パーセント比率が99:1未満、特定的には97:3未満、最も特定的には95:5未満である、モノペルフルオロポリエーテルシラン及びジペルフルオロポリエーテルシランを含むコーティングを含む。
【0035】
約5,000g/モルを超える分子量に相当するペルフルオロポリエーテルを使用すると、加工上の問題が生じる場合がある。これらの問題は、典型的には、高分子量の材料が不溶性にまつわる懸念を導くという事実、並びに、これらの高分子量化合物の蒸気圧の低さに起因する精製の難しさ(分留を介する材料の精製プロセスの効率性を妨害する)に起因する。
【0036】
ペルフルオロポリエーテルシランは、望ましくは、500g/モル未満の分子量を有するペルフルオロポリエーテル部分、及び5000g/モルを超える分子量を有するペルフルオロポリエーテル部分を含まないか、又は実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、分子量範囲外の特定のペルフルオロポリエーテル部分が、組成物中のペルフルオロポリエーテル部分の総重量に基づき、10重量%以下、好ましくは5重量%以下の量で存在することを意味する。これらの部分を含まないか、又は実質的に含まない組成物が好ましいが、これはそれらの有益な環境特性及び更なる反応工程におけるそれらの加工性ゆえである。
【0037】
式Iの二価R基は、飽和又は不飽和であってよい直鎖、分枝鎖、又は環状構造を含むことができる。R基は、1個以上のカテナリーヘテロ原子(例えば、鎖中酸素、窒素又はイオウ)又は1個以上の官能基(例えば、カルボニル、アミド又はスルホンアミド)を含有することができる。R基はまた、ハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されてもよいが、これによって化合物が不安定になることもあるため、望ましいものではない。好ましくは、二価R基は、場合によりヘテロ原子又は官能基を含有し、より好ましくは少なくとも1個の官能基を含有する、炭化水素基であり、好ましくは直鎖アルキレン基である。R基の例としては、−C(O)NH−R−、−CHO−R−及び−(C2n)−が挙げられ、式中、Rは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキレン基であり、場合により1個以上のカテナリー酸素又は窒素原子により置換され、nは約2〜約6である。好ましいR基は−C(O)NH−(C2n)−であり、式中、nは1〜6である。
【0038】
一部の実施形態では、各シランR基は好ましくはカルボキサミド官能基を含む。より特定的には、1分子あたり少なくとも1個のX基は、C(O)NH−R−Si(OR)であり(式中、Rは、メチル、エチル又はこれらの混合物である)、他のX基は、シランではない場合には、−OCF又は−OCである。これらの近似平均構造のa、b、c及びdの値は、物質が少なくとも約500の数平均分子量を有する限り、変化してもよい。
【0039】
本発明者らは、理論に束縛されることを意図しないものの、上式Iの化合物は、基材表面とシルセスキオキサンハードコート樹脂成分についての反応を経て、例えば、共有結合の形成を通して、基材表面のシロキサンコーティングを形成すると考えられる。この文脈では、「シロキサン」は、ペルフルオロポリエーテルセグメント(本明細書の式I中のR基のような)、好ましくはペルフルオロポリエーテルセグメントに付着し、場合によりヘテロ原子又は官能基(本明細書の式I中のR基のような)を含む有機連結基を通してケイ素原子に結合した、−Si−O−Si−結合を指す。硬化したコーティング(又は少なくとも部分的に硬化したコーティング)中で、ペルフルオロポリエーテルセグメントは好ましくは少なくとも約500の数平均分子量を有する。特に好ましい実施形態では、R基は(アミド基中におけるように)窒素原子を含み、コーティング中のフッ素原子と窒素原子の比率は約25〜約150の範囲内である。式Iの化合物を含むコーティング組成物から調製されるコーティングは、未反応又は未縮合のシラノール基も含むことができる。
【0040】
本開示のコーティング組成物は、シルセスキオキサンとナノ粒子シリカの共縮合体であるシルセスキオキサンハードコート樹脂成分を含有する。有用なシルセスキオキサンとしては、例えば、式R10Si(OR11のトリアルコキシシラン(又はその加水分解産物)とナノ粒子シリカの縮合体、式R10Si(OR11のジオルガノオキシシラン(又はその加水分解産物)とトリアルコキシシラン(又はその加水分解産物)とコロイドシリカの共縮合体、及び、式Si(OR11テトラアルコキシシラン(tetralkoxysilanes)とトリアルコキシシラン(又はこれらの加水分解産物)とコロイドシリカの共縮合体、並びにこれらの混合物が挙げられる。これらの縮合体及び共縮合体は、単位式R10SiO3/2を有し、式中、各R10は1〜6個の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基であり、R11は1〜4個の炭素原子を有するアルキルラジカルを表す。
【0041】
より詳細には、こうしたシルセスキオキサンは、1つ以上のテトラアルコキシシランと、場合により1つ以上のトリアルコキシシランと、場合により1つ以上のジアルコキシシランとの、完全又は部分的に加水分解された縮合反応生成物である。このようなシルセスキオキサンは、以下の一般式で表すことができる:
【化1】


式中、
各R11は、個別にH、C〜Cのアルキル、又はアルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオン又はアンモニウムカチオンであり、
各R10は、C〜Cアルキルであり、
zは2〜100、好ましくは3〜15であり、
x及びyはゼロであってもよく、
zは、x+yよりも大きく、
x+y+zは2〜100、好ましくは3〜15である。
【0042】
シルセスキオキサンハードコート樹脂成分の有用な製造方法には、水とアルコール性溶媒の混合液内において、ナノ粒子シリカ分散液の存在下で、アルコキシシランを加水分解することを含む。ナノ粒子シリカ分散液は、好ましくは5nm〜100nm、好ましくは10nm〜30nmの粒径を有する。30ナノメートル以下の小さなナノ粒子は、通常、より良好なコーティング、及び、煙霧に関する外観の向上、及び、コーティング厚さ変動性、コーティングされた基材に対する良好な付着性又は耐久性、及び、洗浄性に関するより良好な性能をもたらす。更に、ナノ粒子が一般に有する表面積は、約150m/グラムを超え、好ましくは200m/グラムを超え、より好ましくは400m/グラムを超える。粒子は、狭い粒度分布を有し、すなわち多分散度が2.0以下、好ましくは1.5以下であることが好ましい。
【0043】
シルセスキオキサンハードコート樹脂成分を調製する別の有用な方法は、ナノ粒子シリカ分散液と、水と、場合により表面活性剤及び有機水混和性溶媒などの物質と、の混合物に、酸性又は塩基性条件下で混合物を撹拌しながら、加水分解性アルコキシシランを添加することを含む。添加できるアルコキシシランの正確な量は、置換基Rに依存して、並びに、使用した界面活性剤がアニオン性であるか若しくはカチオン性であるかに依存して、変化する。シルセスキオキサンの共縮合体中の単位は、ブロック分布で存在してもランダム分布で存在してもよく、アルコキシシランを同時に加水分解することによって形成される。存在するテトラオルガノシラン(例えば、テトラアルコキシシラン及びその加水分解物(例えば、式Si(OH)のテトラアルコキシシラン、及びそのオリゴマー)は、シルセスキオキサン系ハードコート成分の固体分を基準にして10重量%未満、5重量%未満、又は更には約2重量%未満である。加水分解完了後、生成物を追加の溶媒で希釈し、例えば、UV吸収剤、緩衝剤(例えば、メチルトリアセトキシシラン(例えば、塩基性ナノ粒子シリカを用いて作製されたシルセスキオキサン系ハードコート組成物用)、酸化防止剤、硬化触媒(例えば、エチルアミンカルボキシレートのようなアミンカルボキシレート及びベンジルトリメチルアンモニウムアセタートのような四級アンモニウムカルボキシレート)、及びこれらの組み合わせを包含する添加剤を添加してもよい。
【0044】
有用なナノ粒子シリカ分散液は、E.I.duPont及びNalco Chemicalから様々な商品名で市販されており、例えば、E.I.duPont de Nemours and Co.,Inc.(Wilmington,Del.)からのLUDOX(商標)、Nyacol Co.(Ashland,MA)から入手可能なNYACOL(商標)及びNalco Chemical Co.(Oak Brook,Ill.)からのNALCO(商標)が挙げられる。有用なシルセスキオキサンは、参照により組み込まれる米国特許第3,986,997号(Clark)、同第4,624,870号(Anthony)及び同第5,411,807号(Patel et al.)に記載の技術などの様々な技術により作製することができる。
【0045】
シルセスキオキサンハードコート樹脂成分を調製するのに有用なトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、2−エチルブチルトリエトキシシラン、2−エチルブトキシトリエトキシシラン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。類似のジアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランは、前述のように使用され得る。本開示で使用され得る市販のシリコーンハードコート組成物としては、GE Bayer Silicones(Waterford,N.Y)からのSHC−1200(商標)、SHC−5020(商標)及びAS4000(商標)ハードコート、並びに、Momentive Performance Materials(Albany,NY)からのPHC587(商標)が挙げられる。
【0046】
シルセスキオキサン系ハードコート樹脂成分は、ハードコート組成物の総固形分を基準にして約90重量%〜約99.9重量%の量で組成物中に存在する。一般に、シルセスキオキサンハードコート樹脂成分は、1〜20重量%のシリカナノ粒子及び80〜99重量%のシルセスキオキサンを含む。
【0047】
反応生成物の調製におけるペルフルオロポリエーテルシラン化合物(A)とシルセスキオキサンハードコート樹脂成分(B)の重量比は、1:10〜1:100であることが好ましく、特に好ましくは1:20〜1:100であることが好ましい。典型的には、成分(B)は、使用される成分(A及びB)の総重量を基準として90重量パーセント超、より好ましくは95重量パーセント超を構成する。
【0048】
コーティング組成物は、典型的には、0.01〜5重量パーセントのペルフルオロポリエーテルシランと、1〜40重量パーセントのシルセスキオキサンハードコート樹脂成分と、を含有する相対的希釈溶液である。成分の重量パーセントは、一般に、溶媒へのペルフルオロポリエーテルシランの溶解度、並びに、高濃度でのゲルに対するシルセスキオキサン樹脂成分の傾向により制限される。
【0049】
本発明の組成物は、場合により、1種以上の有機溶媒を含む。好ましい有機溶媒又は好ましい複数の有機溶媒のブレンドは、少なくとも0.01%の式Iのペルフルオロポリエーテルエーテルシラン(perfluoropolyetherether silane)を溶解可能でなければならない。加えて、有機溶媒は、希釈可能な非水性濃縮物の粘度を低下させる。好適な有機溶媒又は複数の溶媒の混合物は、極性有機溶媒であり、脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)、ケトン(例えば、アセトン又はメチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル、ぎ酸メチル)並びにエーテル(例えば、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン及びジエチレングリコールジメチルエーテル)、並びに、アミド(例えば、N−メチルピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド)並びにこれらの混合物を挙げることができる。例えば、ヘプタフルオロブタノール、トリフルオロエタノール及びヘキサフルオロイソプロパノールなどのフッ素化溶媒は、単独で、又は、フッ素化ポリエーテルシランの溶解度を高めるために他のフッ素不含有機溶媒と組み合わせて、使用してもよい。
【0050】
好ましい有機溶媒は、脂肪族アルコールである。好ましい脂肪族アルコールの一部の例は、エタノール及びイソプロピルアルコールである。好ましくは、有機溶媒は、水混和性である。また、好ましくは、有機溶媒は200℃より低い沸点を有する。
【0051】
製造の簡便性及びコストの理由から、本発明の組成物は、1種以上のペルフルオロポリエーテルシランとシルセスキオキサンハードコート樹脂との濃縮物を希釈することにより、使用直前に調製することができる。濃縮物は、一般に、有機溶媒中のペルフルオロポリエーテルシランとシルセスキオキサンハードコート樹脂の濃縮された溶液を含む。濃縮物は、数週間、好ましくは少なくとも1ヶ月間、より好ましくは少なくとも3ヶ月間安定であるべきである。
【0052】
コーティング組成物で処理できる好適な基材としては、硬質表面を有する基材が挙げられる。有用な基材としては、セラミックス、光沢セラミックス、ガラス、金属(アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、銅及びこれらに類するもの)、天然及び人工石、熱可塑性材料(ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマーなどのスチレンコポリマー、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル)が挙げられる。
【0053】
一部の実施形態では、金属及び/又は金属合金は、クロム、クロム合金、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、スズ、ステンレス鋼、及び黄銅からなる群から選択される。一部の実施形態では、金属及び/又は金属合金は、金、白金、クロム、アルミニウム、銅、銀、チタン、インジウム、ゲルマニウム、スズ、ニッケル、インジウムスズのうちの少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、表面はステンレス鋼を含む。一部の実施形態では、表面は、金属又は金属酸化物のうちの少なくとも1つを含み、コーティング組成物は表面上に少なくとも部分的な単層を形成する。一部の実施形態では、金属基材の主表面はクロムを含む。金属表面を有する物品は、熱硬化性及び熱可塑性ポリマー、セラミック、磁器、並びに金属化表面を有することができる他の材料が挙げられる、他の材料を含んでよい(例えば、金属表面下に)。金属表面を有する物品の例としては、台所及び浴室の蛇口、タップ、ハンドル、吐水口、流し、排水管、手すり、タオルかけ、カーテン棒、皿洗い機のパネル、冷蔵庫のパネル、料理用レンジ上部、料理用レンジ、オーブン、及び電子レンジのパネル、排気フード、グリル、並びに金属の車輪又は縁が挙げられる。
【0054】
金属基材及び金属化された基材は、台所及び浴室、並びに屋外領域を包含する種々の環境で見られ、そこでこれらの基材は食品、石鹸、及び鉱物(例えば石灰)のような水性残留物と接触し得る。このような沈着物を、例えば、蛇口、シャワーヘッド、手すりから除去するには、頻繁に酸性洗浄剤又は洗剤を用いて激しく擦る必要がある場合が多く、更にこれらの基材の表面の審美的外観及び耐久性に問題を生じることが多い。本開示による組成物、方法、及び物品は、典型的には、容易に洗浄できる金属表面を提供し、これにより激しく擦ったり、強力な酸性洗浄剤を用いたりする必要なく、拭き取り用品で水性及び油性沈着物(例えば、鉱質沈着物及び指紋)を除去でき、この特性は繰り返し拭いても保たれる。本発明による組成物によって提供される容易に洗浄できる特性は、驚くべきことに、米国特許出願公開第2005/0048288号(Flynn et al)に報告されている、他のホスホネート含有ペルフルオロポリエーテルにより提供されるものよりも優れている。本発明による組成物は、金属表面を汚れ耐性にすることができるため、装飾用の金属ストリップ及び鏡上のような金属表面の光学特性をより長く保つことができる。
【0055】
基材を処理することで、処理表面の撥油性及び撥水性により処理表面の汚れの保持力が低くなり、より容易に洗浄できるようになる。本発明の組成物から得ることができる処理表面は高度に耐久性であることから、長時間にわたり露出若しくは使用し、及び洗浄を繰り返した場合にも、これらの所望の特性は維持される。硬化したコーティングを表面に有する硬質基材には、非染み性、簡単な洗浄方法での染み剥離性、撥油性(例えば、指紋耐性)、石灰沈着物耐性、又は着用に起因する、並びに使用、洗浄などの要素による損耗に起因する、すり減り、への耐性のうちの少なくとも1つが見出される。
【0056】
好ましくは、最適な特徴、特に耐久性を得るために、基材は、本発明の組成物を適用する前に、洗浄すべきである。つまり、コーティングすべき基材の表面には、コーティング前に有機及び無機汚染が実質的にあってはならない。洗浄技術は基材のタイプに依存し、例えば、アセトン若しくはエタノールなどの有機溶媒での溶媒洗浄工程、又は、紫外線/オゾンなどの反応性ガス相処理が挙げられる。
【0057】
上記組成物は、特定の基材に適するように調節された従来のコーティング技術を使用して基材にコーティングされる。例えば、これらの組成物は、ローラーコーティング、フラッドコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、ナイフコーティング、及びダイコーティングなどの方法によって様々な固体基材に適用することができる。これらの様々なコーティング法は、基材上に厚さを変えて組成物を定置することを可能にするものであり、これにより組成物はより広い範囲で使用できるようになる。コーティング厚さは、前述のように、様々であってもよい。コーティングされる基材は、典型的には、室温(典型的には約20〜約25℃)にて組成物と接触させることができる。適用後、処理された基材は、乾燥させ、基材の熱安定性に依存して周囲温度又は高温にて、例えば、40〜200℃にて、硬化するのに十分な時間にわたって硬化させることができる。プロセスはまた、過剰な材料を除去するための研磨工程を含んでもよい。
【0058】
コーティングの全体のコーティング厚は、単層より厚い(典型的には厚さは約15オングストロームを超える)。すなわち、好ましくは本発明のコーティングの厚さは少なくとも約20オングストロームであり、より好ましくは少なくとも約30オングストロームである。好ましくは、本発明のコーティングの厚さは、約200オングストローム未満であり、より好ましくは約100オングストローム未満である。コーティング材料は、典型的には、コーティングされた物品の外観を実質的に変化させない量で存在する。
【実施例】
【0059】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。これらの実施例は単にあくまで例示を目的としたものであり、添付した「特許請求の範囲」の範囲に限定するものではない。
【0060】
本明細書の実施例及びその他の部分における全ての部、百分率、比などは特に注記がない限り、重量による。使用される溶媒及び他の試薬は、特に記載のない限り、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から入手した。
【0061】
材料
「PHC−587」:Momentive Performance Materials(Waterford,NY)から購入されたシリコーンハードコート。「PHC−587」は、アルキルアルコール溶媒の混合物中に供給された29重量%のメチルシルセスキオキサン樹脂である。
【0062】
「FMS−9921」なるポリ(トリフルオロプロピルメチルシロキサン)は、Gelest(Morrisville,PA)から入手されたシラノール末端フルオロシリコーンである。
【0063】
「ECC−4000」:ガラス又はセラミック基材に使用できる洗浄が容易なコーティングフルオロポリマー溶液は、3M Company(St.Paul,MN)から入手される。
【0064】
HFPO−は、メチルエステルF(CF(CF)CFO)CF(CF)C(O)OCHの末端基−F(CF(CF)CFO)CF(CF)−を指し、式中、aは平均4〜20であり、参照により本明細書に組み込まれる開示である米国特許第3,250,808号に報告されている方法により調製することができ、部分蒸留による精製を伴う。
【0065】
HFPOジメチルエステル:CHO(O)CCF(CF)(OCFCF(CFOCFCFCFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COOCHは、HCO(O)C−HFPO−C(O)OCH又はHFPO−(C(O)OCHとも称され、式中、b+cの平均は約4〜15であり、FC(O)CFCFC(O)Fを出発物質として使用して、米国特許第3,250,807号(Fritz,et al.)に報告されている方法(HFPOオリゴマービス−酸フッ化物を提供する)に従って調製でき、続いて、米国特許第6,923,921号(Flynn,et.al.)にて記載されているように、メタノリシス及び分別蒸留による低沸点材料の除去による精製を行う。
【0066】
HFPO−CONHCHCHSi(OCH:マグネチックスターラーバー、Nインレット及び還流冷却器を取り付けた100mL三口丸底フラスコにN雰囲気下にてHFPOCOOMe(20g、0.01579モル)及びNHCHCHCH−Si(OCH(2.82g、0.01579モル)を充填した。反応混合物を75℃にて12時間にわたって加熱した。IRにより反応をモニターし、エステルピークの消失後、透明な粘稠油を高圧にて更に8時間にわたって維持し、そのまま使用した。
【0067】
HFPO−CONHCHCH−NH−CHCHSi(OCH:この化合物は、米国特許第3,646,085号に記載の同様の手順を用いて調製した。マグネチックスターラーバー、Nインレット及び還流冷却器を取り付けた100mL三口丸底フラスコにN雰囲気下にてHFPOCOOMe(20g、0.01579モル)及びNHCHCH−NH−CHCH−Si(OCH(3.5g、0.01579モル)を充填した。反応混合物を75℃にて12時間にわたって加熱した。IRにより反応をモニターし、エステルピークの消失後、透明な粘稠油を高圧にて更に8時間にわたって維持し、そのまま使用した。
【0068】
α−ω HFPO−[CONHCHCH−NH−CHCHSi(OCH:この化合物は、米国特許出願公開第2005/0233070(A1)号に記載の同様の手順を使用して、調製した。マグネチックスターラーバー、Nインレット及び還流冷却器を取り付けた100mL三口丸底フラスコにN雰囲気下にてHFPO[COOMe](20g、0.01579モル)及びNHCHCH−NH−CHCH−Si(OCH(3.5g、0.01579モル)を充填した。反応混合物を75℃にて12時間にわたって加熱した。IRにより反応をモニターし、エステルピークの消失後、透明な粘稠油を高圧にて更に8時間にわたって維持し、そのまま使用した。
【0069】
アミノプロピルトリメトキシシランは、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から購入した。
【0070】
試験方法
試験サンプルのコーティング方法
まず、表面上に汚染が全く存在しないようにするために、コーティングされるステンレス鋼パネルをIPAで洗浄した。洗浄したパネルをコーティング前に室温にて乾燥させた。「WALTHER PILOT SPRAYING GUN」(Walther Pilot North America(MI)から入手)を使用して、ステンレス鋼パネルの表面上に、本開示に従って調製されたコーティング組成物をスプレーコーティングした。スプレーノズルとステンレス鋼基材表面の間の距離は、約1.97気圧(2kPa)の圧力下にておよそ20cmであった。2つのコートを作製した(2回のスプレーノズル移動)。コーティングを手で触れるようになるまで乾燥させた後、コーティングしたパネルを130℃のオーブンの中に30分にわたって定置して、コーティング組成物を硬化させた。
【0071】
摩耗(耐久性)試験方法
本発明によるコーティング組成物から得られるコーティングの耐摩耗性を測定するために、コーティングされた(上記方法に従ってコーティングされた)ステンレス鋼プレートを摩耗テスター(BYK−Gardener GmbH(Geretsried,Germany)により商品名「BYK−GARDENER ABRASION TESTER」で入手された)上に固定し、乾燥していた高性能布地(3M Company(St.Paul,MN)から商品名「SCOTCH BRITE」で市販)で3000サイクルにわたって擦った。擦りサイクルは、1kgの力で行った。摩耗前後で接触角を測定した。
【0072】
洗浄しやすさランキング(EZCランク)の測定方法
色付きシャーピーマーカーを用いてサンプルを横断して直線を描図することで、摩耗試験前後の、本発明のコーティング組成物から調製されたコーティング(上記方法に従って調製されたコーティング)のEZCランキングを測定した。次に、シャーピーマーカーのインクを、これらを拭き取ることにより洗浄した。EZCランキングのうち1はサンプルの洗浄が非常に容易だったことを示し、一方、EZCランキングのうち5はサンプルの洗浄が非常に困難だったことを示す。
【0073】
接触角の測定方法
上記方法に従ってステンレス鋼基材上にコーティング組成物をコーティングすることにより、接触角を測定するためのサンプルを調製した。濾過システム(Millipore Corporation(Billerica,MA)から入手)を通して濾過した、受け取ったままの状態での試薬グレードのヘキサデカン及び脱イオン水を用い、ビデオ接触角分析計(Kruss GmbH(Hamburg,Germany)から得られ製品番号「DSA 100E」として入手可能)により、測定を行った。報告される値は、液滴の右側及び左側で測定された少なくとも3滴の測定値の平均である。滴下量は、静的接触角測定については5μL、前進及び後退接触角測定については1〜3μLであった。3つの測定値の平均が報告された。
【0074】
解離(剥離)強度試験方法
「SP−2000 PEEL TESTER」(IMASS,Inc.(Accord,MA)から入手)上で試験を行った。3M Company(St.Paul,MN)から市販されている「3M 845」ブックテープの1.24cm片を、1kgローラーを用いてコーティングされたパネル上に巻き出した。テープ上にローラーを2回通過させた。剥離試験を216cm/60秒にて5秒にわたって行い、0.5秒遅れてテープを引張した。各試験について、動力学的ピーク(最大値)、底(最小値)及び全測定値の平均を記録した。結果をg/cmで表す。
【0075】
指紋耐性試験方法
本発明に従ってステンレス鋼基材上に適用されたコーティングの指紋耐性を測定するために、以下のような測定を行った:0.1gの「MBX−20 PMMA BEADS」(積水化成品工業株式会社(日本)から入手)と0.6gのTriolein(Sigma Chemicals(St.Louis,MO)から入手)と8gのIPA(Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から入手)とを混合することにより、溶液(溶液A)模造指紋組成物を調製した。次に、#5ワイヤ巻ロッドをPETフィルム上に急速に引くことにより、溶液Aをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(DuPont(Wilmington,DE)からの#618)上に適用した。コーティングしたPETフィルムをフード下で少なくとも30分にわたって乾燥させた。#5ゴムストッパー(VWR Scientific(Batavia,IL)から入手)を取り付けた1kgのプランジャ(Summer Optical(Fort Washington,PA)から入手)を、コーティングしたPETに対して押し付けた(ストッパーにインク入れした)。次に、プランジャを上記のように本発明の組成物でコーティングしたステンレス鋼サンプルに対して押し付けた。得られた溶液Aの圧痕を目視観測により評価した。評価のうち1は汚れが全く検出されなかったことを示し、一方、指紋試験評価のうち4は非常に明確な汚れが検出されたことを示す。
【0076】
実施例1〜7並びに比較例A及びB
所望される量のイソプロピルアルコール(IPA)と、「PHC−587」と、記載されたフッ素性化学物質シロキサン(FC)と、を一緒に添加することにより、実施例1〜7並びに比較例A及びBのコーティング組成物を調製した。次に、コーティング組成物を振盪器内で16時間にわたって混合し、その後、濾紙(VWR Scientific(Batavia,IL)から入手した「WHATMAN」No1)を用いて濾過した。各実施例及び比較例についてこのようにして調製したコーティング組成物を、次に、上記のように試験サンプルのコーティング方法を用いステンレス鋼パネル上にコーティングした。次に、各実施例及び比較例用の硬化したコーティング済みサンプルを、洗浄しやすさについてのランキングを決定するために上記プロセスに従って試験した。加えて、各実施例及び比較例A用の硬化したコーティング済みサンプルを、上記のように摩耗試験にかけ、これらの摩耗後のEZCランキングを上記方法を用いて決定した。下表1は、実施例1〜8及び比較例Aのコーティング組成物中の各成分のタイプ及び量、並びに、これらの対応する摩耗前(BA)及び摩耗後(AA)のEZCランキングを要約する。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例8〜20
FC添加剤が全ての実施例について「ECC−4000」であり、かつ「ECC−4000」と「PHC−587」の相対量が変更されたことを除き、上記の実施例1〜7と同様に、実施例8〜20のコーティング組成物を調製した。実施例のそれぞれについてコーティング組成物の一部を室温にて3週間にわたって定置しておき、これらの安定度をモニターした。安定度評価「S」は溶液が安定であったことを意味し、「T」は混濁溶液を意味し、「CL」は一部架橋が存在したことを意味する。下表2は、実施例8〜20のコーティング組成物の、「ECC−4000」と「PHC−587」の相対量、並びに、安定度ランキングを要約する。表2では、PHC−587の量は、イソプロパノール溶液の30重量%分の固形分量である。
【0079】
【表2】

【0080】
試験サンプルのコーティング方法で上記したように、実施例8〜20用のコーティング組成物をステンレス鋼パネル上にコーティングし、硬化させ、次に、上記プロセスに従ってこれらの静的及び動的水接触角(W)並びに静的及び動的ヘキサデカン接触角(H)を測定するために試験した。加えて、実施例9〜21用の硬化したコーティング済みサンプルを上記のように摩耗試験にかけ、上記方法を用いてこれらの摩耗後の水及びヘキサデカン接触角(静的及び動的)を測定した。下表3は、各実施例のコーティング組成物から作製されたコーティングについての静的及び動的(初期及び摩耗後)水接触角並びに静的及び動的(初期及び摩耗後)ヘキサデカン接触角の両方を要約する。対応するコーティング組成物でコーティングを二度(コーティング表面上にスプレーノズルを四回通過)行ったことを除き、実施例8及び9と同様に、実施例8A及び9Aを調製した。
【0081】
【表3】

【0082】
次に、実施例8〜20用の硬化したコーティング済みサンプルを、上記プロセスに従ってこれらの解離(剥離)強度を測定するために試験した。加えて、実施例8〜20及び比較例A用の硬化したコーティング済みサンプルを、上記のように摩耗試験にかけ、これらの摩耗後の解離(剥離)強度を、上記方法を用いて測定した。下表4は、実施例9〜21及び比較例Aのコーティング組成物から作製したコーティングについての解離強度(初期及び摩耗後)を要約する。
【0083】
【表4】

【0084】
動力学的ピークは、剥離試験中の測定データの最高値である。底は、試験中の測定データの最小値である。平均値は、試験の持続時間中に採取された全データの平均である。
【0085】
次に、実施例8〜20及び比較例A用の硬化したコーティング済みサンプルの一部を、上記プロセスに従って指紋染み耐性を測定するために試験した。下表5は、実施例8〜20及び比較例Aのコーティング組成物から作製したコーティングについての指紋染み耐性を要約する。
【0086】
【表5】

【0087】
スチールウール耐久性試験
選択されたサンプルの硬化フィルムの耐摩耗性は、フィルムの表面を横切ってスタイラスに付着したスチールウールシートを振動させることができる機械デバイスを用いて、コーティング方向にクロスウェブに試験された。スタイラスは、210mm/秒(3.5回の摩擦/秒)の速度にて60mmの掃引幅にわたって振動させ、ここで1回の「摩擦」は、1回の60mmの移動として定義される。スタイラスは、直径3.2cmの平らな円筒形ベース部の形状を有していた。このスタイラスは、フィルムの表面に対するスチールウールによる垂直な摩擦力を増加させるために、おもりの取り付けができる設計になっていた。#0000スチールウールシートは、Hut Products(Fulton,MO)から入手可能な「Magic Sand−Sanding Sheets」であった。#0000は、600〜1200グリットのサンドペーパーの規定グリットと同等である。3.2cmのスチールウール円盤を、サンディングシートからダイカットし、3M Brand Scotch Permanent Adhesive Transfer tapeで3.2cmのスタイラスベース部分に接着した。各実施例について単一のサンプルを試験した。試験時には、1kgのおもりと記録されている回数の摩擦が採用された。次に、引っかき傷及び撥インク性についてサンプルを視覚的に検査した。
【0088】
【表6】


IR−撥インク性、PIR−部分的撥インク性、NS−引っかき傷なし、S−引っかき傷、NIR−撥インク性なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング組成物であって、
a)シルセスキオキサンハードコート樹脂成分と、
b)下式のペルフルオロポリエーテルシランと、を含み、
−[−R−Si(Y)3−x(R(I)
式中、
は、一価又は二価のペルフルオロポリエーテル基であり、
は、場合により1個以上のヘテロ原子又は官能基を含み、場合によりハロゲン化物で置換され、好ましくは約2〜約16個の炭素原子を含む、二価アルキレン基、アリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、
は低級アルキル基であり、
Yは加水分解性基であり、
xは0又は1であり、yは1又は2である、コーティング組成物。
【請求項2】
前記ペルフルオロポリエーテルシランのRが下式を有し、
−R−Q−R−、式中、
及びRは、それぞれ独立して、共有結合、−O−、又は二価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、前記アルキレン基は場合により1個以上のカテナリー酸素原子を含有し、
Qは、−CO−、−SO−、−CONR−、−O、−S−、共有結合、−SONR−又は−NR−であり、式中、Rは、水素又はC〜Cアルキルである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
が、
−(C2n)−、−(C2nO)−、−(CF(Z)O)−、−(CF(Z)C2nO)−、−(C2nCF(Z)O)−、−(CFCF(Z)O)−、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるペルフルオロ化繰り返し単位を含むペルフルオロポリエーテル基であり、式中、nは1〜6であり、Zはペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基又はペルフルオロエーテル基である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記ペルフルオロエーテル部分が、−CFO(CFO)(CO)CF−、−CFO(CO)CF−、−CF(CF)O−(CFCF(CF)O)−C2nO−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−及び−(CFO(CO)(CF−からなる群から選択され、a、b、c及びdのそれぞれはゼロであってもよく、a+b+c+dは少なくとも1であり、nは1〜6である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
が一価ペルフルオロポリエーテル基である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記シルセスキオキサンハードコート樹脂成分が、シルセスキオキサンとシリカナノ粒子の共縮合体である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記シルセスキオキサンハードコート樹脂成分が、
a)式R10Si(OR11のトリアルコキシシランとナノ粒子シリカの共縮合体、又は、
b)式R10Si(OR11のジオルガノオキシシランと、トリアルコキシシラン若しくはテトラアルコキシシランと、ナノ粒子シリカと、の共縮合体、及びこれらの混合物を含み、
式中、各R10は独立して1〜6個の炭素原子のアルキル基又はアリール基であり、各R11は独立して1〜4個の炭素原子を有するアルキルラジカルである、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記シルセスキオキサンハードコート樹脂成分が式R10SiO3/2を有し、式中、各R10は1〜6個の炭素原子のアルキル基又はアリール基であり、R11は1〜4個の炭素原子を有するアルキルラジカルを表す、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記シルセスキオキサンハードコート樹脂成分のシルセスキオキサンが一般式:
【化1】


で表され得、式中、
各R11は、個別にH、C〜Cのアルキル、又はアルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオン又はアンモニウムカチオンであり、
各R10は、C〜Cアルキルであり、
zは2〜100であり、
x及びyはゼロであってもよく、
zは、x+yよりも大きく、
x+y+zは2〜100である、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子シリカの平均粒径が100nm以下である、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記反応生成物の調製におけるペルフルオロポリエーテルシラン化合物(A)とシルセスキオキサンハードコート樹脂成分(B)の重量比が、1:10〜1:100である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
モノペルフルオロポリエーテルシランとジペルフルオロポリエーテルシランの混合物を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記シルセスキオキサンハードコート樹脂成分が、1〜20重量%のシリカナノ粒子と80〜99重量%のシルセスキオキサンの共縮合体である、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
1.基材を用意する工程と、
2.ステンレス鋼基材を請求項1に記載のコーティング組成物に接触させる工程と、
3.硬化させる工程と、を含む、基材のコーティング方法。
【請求項15】
前記接触させる工程が溶液コーティングを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記硬化させる工程が加熱を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記接触させる工程が、厚さが200オングストローム未満の前記コーティング組成物のコーティングを提供する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が、セラミックス、光沢セラミックス、ガラス、金属、天然及び人工石、並びに熱可塑性材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記基材がステンレス鋼を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記接触させる工程が、厚さが15オングストロームを超える前記コーティング組成物のコーティングを提供する、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2013−506750(P2013−506750A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533216(P2012−533216)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/050804
【国際公開番号】WO2011/043973
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】