説明

碍子漏洩電流測定装置

【課題】
碍子を介して支持構造体に支持される電線から前記碍子を経る小さな値の漏洩電流を該碍子の支持強度を損なうことなく正確に測定できる碍子漏洩電流測定装置を提供する。
【解決手段】
碍子13を介して支持構造体12に支持された電線11から碍子13を経る漏洩電流を測定する碍子漏洩電流測定装置10である。導電性を有する材料からなり、碍子13を支持構造体12に取り付けるべく該支持構造体と碍子13との間にそれぞれが互いに並列的に配置される複数の支持部材16と、碍子13から各支持部材16を経て支持構造体12に流れる漏洩電流を検出するために各支持部材16のそれぞれを取り巻いて配置され相互に直列に接続された電流感知手段19とを備え、該電流感知手段に流れる電流を測定する。さらに、誘導補正手段23で電線11からの電気的な誘導の影響を排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、碍子を介して鉄塔に支持され、発電所で発電された電力を送電する送電線から前記碍子を経て前記鉄塔に流れる漏洩電流を測定するのに好適な碍子漏洩電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電所で発電された電力を変電所あるいは配電所に送るための送電線は、鉄塔に支持されている。前記送電線は、該送電線が前記鉄塔を経て接地される地絡事故を防止するために、絶縁のための碍子を介して前記鉄塔に取り付けられている。この碍子に大気中に浮遊する海塩粒子あるいは塵埃が付着し、この付着により該碍子の抵抗が低下し、該碍子による絶縁作用を得ることができなくなると、前記送電線が前記鉄塔を経て接地する地絡事故が発生してしまう。
【0003】
この碍子の抵抗の低下による地絡事故の前兆として、該碍子の抵抗の低下により該碍子を経る小さな値の漏洩電流が前記送電線から前記鉄塔へと流れる。この漏洩電流が臨界値を超えたときに地絡事故に至る。この臨界値は、300〜400(mA)と考えられているので、それよりも小さな値の漏洩電流が流れたときに前記碍子を洗浄すれば地絡事故を防止することができる。そこで、前記碍子を前記鉄塔に取り付けるための接続金具を取り巻くように該接続金具に計器用変流器を取り付け、前記接続金具を経て前記碍子から前記鉄塔へと流れる漏洩電流を検出することが考えられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−140194号公報(第1−5頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記鉄塔に前記碍子を取り付ける支持部材として前記碍子毎に設けられた単一の前記接続金具は、前記碍子および前記送電線を支持することができる太さに設定されているので、前記接続金具を取り巻くことが可能な大きな径を有する前記計器用変流器を用いる必要がある。このため、径の大きさに応じて前記送電線からの電磁誘導および静電誘導により発生する誘導電流の大きさが大きくなる前記計器用変流器では、この誘導電流によるノイズ成分が大きくなってしまうことから、漏洩電流を正確に検出することが困難になる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、碍子を介して支持構造体に支持される電線から前記碍子を経る漏洩電流を該碍子の支持強度を損なうことなく正確に測定できる碍子漏洩電流測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、請求項1に記載の碍子漏洩電流測定装置は、碍子を介して支持構造体に支持された電線から前記碍子を経る漏洩電流を測定する碍子漏洩電流測定装置であって、導電性を有する材料からなり、前記碍子を前記支持構造体に取り付けるべく該支持構造体と前記碍子との間にそれぞれが互いに並列的に配置される複数の支持部材と、前記碍子から前記各支持部材を経て前記支持構造体に流れる漏洩電流を検出するために前記各支持部材のそれぞれを取り巻いて配置され相互に直列に接続された電流感知手段とを備え、該電流感知手段に流れる電流を測定することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の碍子漏洩電流測定装置は、請求項1に記載の碍子漏洩電流測定装置において、前記各電流感知手段は、前記支持部材を取り巻くように該支持部材に挿通される環状の芯部と、該芯部の横断面で見て該芯部を取り巻き且つ全体に前記支持部材を取り巻くように前記芯部に巻きつけられた銅線とを有するトロイダルコイルであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の碍子漏洩電流測定装置は、請求項1または請求項2に記載の碍子漏洩電流測定装置において、さらに、前記電流感知手段の近傍位置に該各電流感知手段により検出された電流を交流から直流に変換する第一の変換器を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の碍子漏洩電流測定装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の碍子漏洩電流測定装置において、さらに、前記電線からの電気的な誘導により前記各電流感知手段に流れる誘導電流の影響を排除するための誘導補正手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の碍子漏洩電流測定装置は、請求項4に記載の碍子漏洩電流測定装置において、前記誘導補正手段は、前記電線からの電気的な誘導を受ける誘導電流感知手段と、誘導により該誘導電流感知手段に生じる誘導電流を交流から直流に変換する第二の変換器と、前記電流感知手段に流れる誘導電流を相殺するために前記第二の変換器から出力された誘導電流の大きさを調整する調整器とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の碍子漏洩電流測定装置は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の碍子漏洩電流測定装置において、前記支持構造体は、接地された鉄塔、鉄構あるいは電柱であることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の碍子漏洩電流測定装置では、支持強度を確保すべく複数の並列的に配置された前記支持部材で前記碍子を前記支持構造体に取り付けることにより、従来のように単一の接続金具を用いることに比較して前記各支持部材の径をそれぞれ小さくすることができ、この小さな径の該各支持部材を取り巻くように前記電流感知手段が設けられているので、従来のように大きな径の計器用変流器を用いることに比較して、前記電線からの電気的な誘導により前記電流感知手段に流れる誘導電流の値を小さくすることができる。このため、前記碍子の支持強度を損なうことなく、前記電線から前記碍子を経て前記支持構造体に流れる漏洩電流を正確に測定することができる。
【0013】
請求項2に記載の碍子漏洩電流測定装置では、前記電流感知手段として前記トロイダルコイルが用いられているので、前記芯部が前記支持部材を環状に取り巻くすなわち全周に渡って取り巻くように前記トロイダルコイルを配置することができ、漏洩電流をより正確に測定することができる。
【0014】
請求項3に記載の碍子漏洩電流測定装置では、前記第一の変換器が前記電流感知手段により検出された交流の電流を該電流感知手段の近傍位置で実質的に誘導による影響を受けることのない直流の電流に変換するので、この電流値を測定する際の前記電線からの電気的な誘導による影響を最小限に抑えることができる。
【0015】
請求項4に記載の碍子漏洩電流測定装置では、前記誘導補正手段による補正により、前記電流感知手段に流れる誘導電流の影響を受けることなく前記碍子を経る漏洩電流を測定することができる。
【0016】
請求項5に記載の碍子漏洩電流測定装置では、前記誘導電流感知手段が受けた前記電線からの電気的な誘導に基づいて前記電流感知手段に流れる誘導電流を算出しているので、該電流感知手段が前記電線から受ける電気的な誘導の影響を適切に排除することができる。
【0017】
請求項6に記載の碍子漏洩電流測定装置では、強固に前記電線を支持すべく高い導電性を有する前記鉄塔、前記鉄構あるいは前記電柱を用いても、地絡事故が生じる前に小さな値の漏洩電流を感知することができるので、地絡事故を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る碍子漏洩電流測定装置によれば、それぞれが互いに並列的に配置された前記複数の支持部材で前記碍子を前記支持構造体に取り付けることにより、従来のように単一の接続金具を用いることに比較して、支持強度を損なうことなく前記各支持部材の径をそれぞれ小さくすることができ、該各支持部材のそれぞれを取り巻くように前記電流感知手段が設けられているので、従来のように大きな径の計器用変流器を用いることに比較して、前記電線からの電気的な誘導の影響を低減することができる。このため、前記碍子の支持強度を損なうことなく、前記電線から前記碍子を経て前記支持構造体に流れる漏洩電流を正確に測定することができる。
【0019】
特に、請求項4に記載の碍子漏洩電流測定装置によれば、前記誘導補正手段による補正により前記電流感知手段に流れる誘導電流の影響を排除することができるので、漏洩電流の測定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を図1ないし図6に示した実施例に沿って詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、碍子漏洩電流測定装置10の適用例を概略的に示す。
【0022】
碍子漏洩電流測定装置10は、発電所(図示せず。)で発電された電力を変電所(図示せず。)あるいは配電所(図示せず。)へと送る送電線11を支持する鉄塔12に設けられている。従来良く知られているように、鉄塔12は接地されており、該鉄塔を経て送電線11が接地される地絡事故を防止するために、送電線11は、絶縁のための碍子13を介して鉄塔12に懸垂支持されている。
【0023】
碍子13は、複数の円板状の磁器部材14aが一体になって形成され下端に送電線11が取り付けられる碍子本体14と、鉄塔12に設けられた導電性を有する取付プレート12aに結合される支持碍子フランジ15とを有する。支持碍子フランジ15は、例えば、金属材料の鋳造により形成されており、図2に示すように、碍子本体14に結合された截頭円錐体状の結合部分15aと、該結合部分の上方でそれに一致する軸線を有する円板状のフランジ部分15bとを有する。フランジ部分15bには、その軸線方向で見て互いに直角を為す直径方向に(図3参照。)位置する四つの貫通孔15cが設けられている。支持碍子フランジ15の上方に位置する鉄塔12に固定された取付プレート12aには、各貫通孔15cに適合する位置に貫通孔12bが設けられており、鉄塔12の取付プレート12aおよび支持碍子フランジ15は、該支持碍子フランジのフランジ部分15bの下面側からその各貫通孔15cに挿通され、軸部16aが貫通孔12bで取付プレート12aを貫通する金属製のボルト16により結合される。
【0024】
鉄塔12の取付プレート12aと碍子13の支持碍子フランジ15との間には、各ボルト16のそれぞれを取り巻く四つのトロイダルコイル19と、該各トロイダルコイルの配置のために取付プレート12aおよび支持碍子フランジ15の間隔を確保するスペーサ20と、該スペーサおよび鉄塔12の取付プレート12aを絶縁するためのゴム板21が配置されている。
【0025】
スペーサ20は、金属材料により形成され、支持碍子フランジ15のフランジ部分15bの上面に配置されており、円板形状を呈するスペーサ基部20aと、該スペーサ基部から立ち上がり長尺の直方体を呈する四つのスペーサ本体20bとを有する。スペーサ基部20aは、支持碍子フランジ15のフランジ部分15bを補強するために該フランジ部分と面で当接しており、各ボルト16の貫通を許す貫通孔20cを有する。各スペーサ本体20bは、図3に示すように、その長尺方向がスペーサ基部20aの径方向に沿い、且つスペーサ基部20aの周方向で見て各貫通孔20cと互いに等しい間隔で交互に並ぶように配置されており、各貫通孔20cの近傍位置にスペーサ基部20aから各スペーサ本体20bの高さに至る空間を形成する。
【0026】
図2に示すように、スペーサ20の各スペーサ本体20bの上面には、円板形状を呈し、各ボルト16の貫通を許す貫通孔21aを有し、鉄塔12の取付プレート12aに面当接するゴム板21が配置されている。ゴム板21は、絶縁性を有するゴム材料で形成されており、鉄塔12の取付プレート12aとスペーサ20の各スペーサ本体20bとを絶縁している。この絶縁を確実なものとするために、本実施例では、取付プレート12aとスペーサ20のスペーサ本体20bとが最も近くなる位置における該スペーサ本体の先端部から取付プレート12aに至る沿面距離(図2の矢印A参照。)が10(mm)以上に設定されている。
【0027】
スペーサ20のスペーサ基部20aの上面には、図2に示すように、各ボルト16の挿通を許す環状の(図3参照。)四つのトロイダルコイル19がスペーサ基部20aの貫通孔20cに適合するように配置されている。各トロイダルコイル19は、スペーサ20の各スペーサ本体20bによりスペーサ基部20aおよびゴム板21の間に形成された空間に配置されている。各トロイダルコイル19は芯部19aを有する。芯部19aは、環状を呈し(図3参照。)、環状部分の横断面が矩形である。芯部19aには、図3に示すように、その環状部分の矩形断面を取り巻くように環状部分の周方向に沿う螺旋状に銅線19bが巻き付けられている。各トロイダルコイル19のそれぞれの銅線19bは、それらの巻き付け方向が一致するように相互に直列に接続され、四つのトロイダルコイル19は電気的に直列に接続されている。
【0028】
支持碍子フランジ15のフランジ部分15bの下面側からその各貫通孔15cに挿通された各ボルト16は、その頭部16bがフランジ部分15bに当接し、軸部16aがフランジ部分15bの各貫通孔15c、スペーサ20の各貫通孔20c、各トロイダルコイル19、ゴム板21の各貫通孔21aおよび取付プレート12aの各貫通孔12bを貫通する。各ボルト16の軸部16aには、取付プレート12a上方からワッシャ17およびナット18が挿通され、該各ナットが締め付けられることにより、支持碍子フランジ15のフランジ部分15bと取付プレート12aとが結合され、碍子13は、ゴム板21により各ボルト16を除く部分が電気的に絶縁された状態で該ボルトの締め付けにより鉄塔12に取り付けられる。
【0029】
各トロイダルコイル19の環状の芯部19aにより取り巻かれた各ボルト16に電流が流れ、その電流の向きあるいは大きさが変化すると、従来良く知られているように、各トロイダルコイル19には、各ボルト16に流れる電流により形成される磁束の変化に応じて起電力が生じる。この起電力により各トロイダルコイル19の出力端子間には電位差が生じ、この電位差から電流を検出することで、各ボルト16に流れる電流を検出することができる。
【0030】
各トロイダルコイル19に流れる電流は、図4に示すように、これを測定するための漏洩電流測定手段40に出力される。漏洩電流測定手段40は、整流器から成る第一の変換器22と、各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路が受ける送電線11からの電気的な誘導の影響を排除するための誘導補正手段23とを有する。
【0031】
第一の変換器22は、図1に示すように、各トロイダルコイル19が取り付けられた碍子13の近傍に位置するように鉄塔12に取り付けられ、入力端に各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路の両端が接続されている。各トロイダルコイル19に流れる交流の感知電流は、第一の変換器22へと出力され、該第一の変換器により送電線11からの電気的な誘導の影響を受けやすい交流から、電気的な誘導の影響を実質的に受けることのない直流に整流される。
【0032】
第一の変換器22の出力端は、誘導補正手段23に接続されている。誘導補正手段23は、鉄塔12に取り付けられた誘導電流感知手段であるコイル24と、該コイルの出力端に接続された誘導補正回路25とを有する。本実施例では、コイル24は、図4に示すように、鉄心に銅線が巻かれて構成されたソレノイドコイルである。誘導補正回路25は、コイル24の出力端が接続された第二の変換器26と、該第二の変換器の出力端が接続された調整器27と、該調整器の出力端および第一の変換器22の出力端が接続された加算器28とを有する。
【0033】
第二の変換器26は、整流器である。コイル24に流れた誘導電流は、電気的な誘導の影響をなくすために第二の変換器26により交流から直流に変換されて、調整器27に出力される。
【0034】
調整器27の操作により、第二の変換器26から出力された誘導電流は、その大きさが各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路に生じる誘導電流の大きさに等しくなるように調整され、この調整された誘導電流が調整器27から加算器28に出力される。なお、コイル24により感知された送電線11による誘導電流の大きさが、各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路に生じる誘導電流の大きさに等しいときは、調整器27をなくすこともできる。
【0035】
加算器28は、送電線11からの電気的な誘導により各トロイダルコイル19に流れる誘導電流を相殺するために、第一の変換器22が出力する感知電流から調整器27が出力する誘導電流を減算する。これにより、第一の変換器22が出力した感知電流から各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路で生じた誘導電流が排除され、碍子13を経る漏洩電流に等しい検出電流が生成される。
【0036】
加算器28の出力端は、入力された信号を記録するための記録器29に接続されており、加算器28から出力された検出電流は、記録器29により記録される。
【0037】
誘導補正手段23には、該誘導補正手段に電力を供給するためのソーラーパネル30が接続されており、該ソーラーパネルから供給された光エネルギーが電源回路31およびバッテリ32を経て電気エネルギーに変換されて誘導補正手段23に供給される。誘導補正手段23を構成する誘導補正回路25、記録器29、電源回路31およびバッテリ32は、鉄塔12に取り付けられたケース41に収容されている。
【0038】
本実施例の誘導補正手段23に設けられたコイル24は、図5の表に示すような特性を持っている。図5の表は、コイル24の軸線方向に対して直交する方向に沿う電線に流れた電流値I(A)と、この電線およびコイル24の最短距離r(m)と、前記電線に流れた電流により該電線を取り巻くように生じた磁界の該電線からr(m)離れた位置での強さH(A/m)と、この磁界によりコイル24の両端に生じた電位差E(mV)との相関関係を示している。
【0039】
なお、誘導電流感知手段としてのコイル24は、送電線11からの電気的な誘導を受けることにより誘導電流が流れるものであれば、例えば、各ボルト16に取り付けられた各トロイダルコイル19と同様のトロイダルコイルであってもよく、本実施例に限定されるものではない。また、誘導電流感知手段としてのコイル24は、送電線11の近傍位置に設けることが望ましい。この理由として次のことが考えられる。一般に鉄塔12には、図1に二点鎖線で示すように、送電線11と鉄塔12と中心とした対称位置に送電線11´が設けられている。送電線11および送電線11´には、同じ方向に等しい大きさの電力が同位相で送電されている。このため、送電線11および送電線11´の間では、各送電線から互いに異なる向きの磁界が発生しており、送電線11からの誘導電流を正確に感知することが困難となる。特に、送電線11および送電線11´を結ぶ直線上の中間位置では、互いに等しい大きさの磁界が互いに相殺する向きに発生しており、コイル24が送電線11からの誘導電流を感知することができなくなる。
【0040】
従来良く知られているように、碍子13に大気中に浮遊する海塩粒子あるいは塵埃が付着して該碍子の抵抗が低下すると、該碍子を経て送電線11から鉄塔12に漏洩電流が流れる。この漏洩電流は、碍子13の碍子本体14の表面を伝い、金属製の支持碍子フランジ15に至る。支持碍子フランジ15に至った漏洩電流は、該支持碍子フランジに当接するスペーサ20と鉄塔12の取付プレート12aとがゴム板21により絶縁されていることから、支持碍子フランジ15に当接する四つの並列的に配置された金属製のボルト16の全てを通り、鉄塔12に設けられた取付プレート12aに至る。各ボルト16にはそれぞれトロイダルコイル19が挿通されており、該各トロイダルコイルの直列接続により形成された回路の両端が漏洩電流測定手段40の入力端に接続されているので、四つのボルト16のそれぞれに流れる電流の合計である碍子13を経る漏洩電流は、確実に漏洩電流測定手段40により測定される。さらに、漏洩電流測定手段40は、第一の変換器22および誘導補正手段23が四つのトロイダルコイル19の直列接続により形成された回路から出力された感知電流から送電線11からの電気的な誘導による影響を排除した検出電流を生成し、その検出電流を記録器29が測定する。
【0041】
よって、碍子漏洩電流測定装置10は、碍子13を経て送電線11から鉄塔12に流れる小さな値の漏洩電流を正確に測定することができる。実際に本実施例の碍子漏洩電流測定装置10を鉄塔12に取り付けて測定したところ、図6にグラフで示す測定結果を得ることが出来た。ここで、図6のグラフの縦軸は、記録器29により2秒毎に記録された漏洩電流の内、10分毎に区切られた範囲内における最大値を示す漏洩電流(mA)であり、グラフの横軸は、時間(h)である。図6のグラフに実線で示す特性線は、碍子13に取り付けられた各トロイダルコイル19より検出された漏洩電流の変化を示し、図6のグラフに破線で示す特性線は、碍子13とは異なる位置に配置された碍子13´(図1参照。)に取り付けられた各トロイダルコイル19´より検出された漏洩電流の変化を示す。これにより、碍子漏洩電流測定装置10は、漏洩電流が300〜400(mA)を超えたときに発生する地絡事故の前兆である小さな値の漏洩電流を確実に測定できることが実証されている。
【0042】
なお、本実施例では、漏洩電流の値が、5、10、30(mA)をそれぞれ超えたとき、各段階に応じた警報信号を送信するように設定している。これにより、碍子13の抵抗の低下による地絡事故が発生する前に、碍子13の抵抗の低下を知らせることができ、地絡事故を防止することができる。
【0043】
本実施例の碍子漏洩電流測定装置10では、碍子13を鉄塔12に取り付ける支持部材として並列的に配置された四つのボルト16を用いられているので、碍子13を鉄塔12に取り付けるための従来の単一の接続金具に比較して、碍子13の支持強度を損なうことなくボルト16のそれぞれの径を小さくすることができる。
【0044】
また、碍子漏洩電流測定装置10では、各ボルト16の径が従来の単一の接続金具の径に比較して小さいことから、従来の接続金具を取り巻く計器用変流器に比較して小さな電流感知手段を用いることができるので、送電線11からの電磁誘導および静電誘導により電流感知手段に流れ、ノイズ成分となる誘導電流を小さくすることができる。
【0045】
碍子漏洩電流測定装置10では、各ボルト16に取り付けられた電流感知手段としてトロイダルコイル19が用いられているので、各ボルト16に流れる漏洩電流により該ボルトの軸線を取り巻くように生じる環状の磁界に沿うように環状のコイルが配置されることとなるので、各ボルト16に流れる小さな値の漏洩電流を正確に感知し、測定することができる。
【0046】
さらに、碍子漏洩電流測定装置10では、各トロイダルコイル19により感知された感知電流が該各トロイダルコイルの近傍位置で第一の変換器22により交流から直流に変換されるので、漏洩電流を記録するために各トロイダルコイル19から記録器29に至る電路において、送電線11からの電気的な誘導の影響を受けることを防止することができる。
【0047】
さらに、碍子漏洩電流測定装置10では、誘導補正手段23により各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路で生じた誘導電流が排除されているので、小さな値の漏洩電流を正確に感知し、測定することができる。
【0048】
さらに、碍子漏洩電流測定装置10の誘導補正手段23では、送電線11からの電気的な誘導によりコイル24に流れる誘導電流を調整することにより算出された電流を用いて、各トロイダルコイル19の直列接続により形成された回路で生じる誘導電流を相殺しているので、各トロイダルコイル19により感知された感知電流から送電線11からの電気的な誘導の影響を高い精度で排除することができる。
【0049】
したがって、本発明にかかる碍子漏洩電流測定装置10によれば、碍子13を介して鉄塔12に支持される送電線11から碍子13を経る小さな値の漏洩電流を該碍子の支持強度を損なうことなく正確に測定できる。
【0050】
なお、上記した実施例では、碍子漏洩電流測定装置10を電線としての送電線11を支持する支持構造体である鉄塔12に適用した例を示したが、碍子を介して支持構造体に支持される電線であれば適用することができ、例えば、支持構造体は鉄鋼または電柱であってもよく、上記した実施例に限定されるものではない。
【0051】
上記した実施例では、碍子漏洩電流測定装置10は、送電線11と鉄塔12とを絶縁する碍子13に適用されていたが、上記した実施例に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、ジャンパ線50のための支持碍子51に適用することができる。図7の例では、送電線52は、本線53とジャンパ線50とを有する。本線53は、一対の耐張装置54を介して複数の鉄塔12´(図7には1塔のみを示す)の間に張設されている。ジャンパ線50は、各本線53を鉄塔12´の近傍位置で連絡している。支持碍子51は、ジャンパ線50と鉄塔12´との絶縁間隔を保つために設けられている。他の構成は図1の実施例と同様であり、同じ番号を付している。この適用例においても実施例と同様に、支持碍子51を介して鉄塔12´に支持される送電線11から支持碍子51を経る小さな値の漏洩電流を該碍子の支持強度を損なうことなく正確に測定できる。
【0052】
上記した実施例では、第一の変換器22として、交流を直流に整流する整流器が用いられていたが、各トロイダルコイル19から記録器29に至る電路において送電線11からの電気的な誘導の影響を実質的に無くすことができるものであれば、例えば、各トロイダルコイル19により感知された感知電流から数値を抽出してデジタル化し、デジタル信号を送信するものであってもよく、上記した実施例に限定されるものではない。
【0053】
上記した実施例では、碍子13を支持構造体である鉄塔12に取り付ける複数の支持部材として四つのボルト16が用いられていたが、導電性を有する材料から形成され、互いに並列的に配置されることにより適切な碍子13の支持強度を有するものであればよく、上記した実施例に限定されるものではない。
【0054】
上記した実施例では、電流感知手段としてトロイダルコイル19が用いられていたが、碍子13を鉄塔12に取り付ける複数の支持部材に流れる漏洩電流を感知するために、該複数の支持部材をそれぞれ取り巻いて配置されるものであれば良く、上記した実施例に限定されるものではない。例えば、電流検知手段として、ソレノイドコイルのようなコイルを用いることができ、また、その他の電流検出手段を用いることができる。電流検知手段としてコイルを用いると漏洩電流を正確に測定することができる碍子漏洩電流測定装置10を安価に構成することができる。
【0055】
上記した実施例では、電流感知手段としてトロイダルコイル19が用いられていたが、碍子13を鉄塔12に取り付ける複数の支持部材に流れる漏洩電流を感知するために、該複数の支持部材をそれぞれ取り巻いて配置されるものであれば良く、上記した実施例に限定されるものではない。
【0056】
上記した実施例では、スペーサ20は金属材料により形成されていたが、各トロイダルコイル19を配置するための空間を確保することができる強度を有するものであれば良く、金属材料に限定されるものではない。また、ゴム板21は、スペーサ20と鉄塔12の取付プレート12aとを絶縁するものであるので、スペーサ20が非導電材料により構成された場合にはなくすことができる。
【0057】
上記した実施例では、スペーサ20およびゴム板21が設けられていたが、碍子13が複数の支持部材により鉄塔12に取り付けられ、電流感知手段が前記各支持部材を取り巻いて配置されていれば、碍子13を経る漏洩電流を電流感知手段により検出することができるので、スペーサ20およびゴム板21をなくすことができる。しかしながら、上記した実施例のように碍子漏洩電流測定装置10を構成する場合には、碍子13の支持碍子フランジ15と鉄塔12の取付プレート12aとを適切な結合強度を得るために、各トロイダルコイル19を保護すべく碍子13の支持碍子フランジ15と鉄塔12の取付プレート12aとの間隔を確保するスペーサ20と、該スペーサと取付プレート12aとを絶縁するゴム板21とを設けることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る碍子漏洩電流測定装置10が適用された鉄塔12を示す概略図である。
【図2】碍子13およびその近傍を拡大して示す部分拡大図である。
【図3】図2に記載されたI−I線により得られた断面で示した各トロイダルコイル19と、第一の変換器22との電気的な接続を示す模式図である。
【図4】碍子漏洩電流測定装置10を示す模式図である。
【図5】コイル24の特性を示すデータである。
【図6】碍子漏洩電流測定装置10により測定された漏洩電流を表すグラフである。
【図7】本発明に係る碍子漏洩電流測定装置10の他の適用例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
10 碍子漏洩電流測定装置
11 (電線としての)送電線
12、12´ (支持構造体としての)鉄塔
13、13´ 碍子
16 (複数の支持部材としての)各ボルト
19、19´ (電流感知手段としての)トロイダルコイル
19a 芯部
19b 銅線
22 第一の変換器
23 誘導補正手段
24 (誘導電流感知手段としての)コイル
26 第二の変換器
27 調整器
50 (電線としての)ジャンパ線
51 支持碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
碍子を介して支持構造体に支持された電線から前記碍子を経る漏洩電流を測定する碍子漏洩電流測定装置であって、
導電性を有する材料からなり、前記碍子を前記支持構造体に取り付けるべく該支持構造体と前記碍子との間にそれぞれが互いに並列的に配置される複数の支持部材と、前記碍子から前記各支持部材を経て前記支持構造体に流れる漏洩電流を検出するために前記各支持部材のそれぞれを取り巻いて配置され相互に直列に接続された電流感知手段とを備え、該電流感知手段に流れる電流を測定することを特徴とする碍子漏洩電流測定装置。
【請求項2】
前記各電流感知手段は、前記支持部材を取り巻くように該支持部材に挿通される環状の芯部と、該芯部の横断面で見て該芯部を取り巻き且つ全体に前記支持部材を取り巻くように前記芯部に巻きつけられた銅線とを有するトロイダルコイルであることを特徴とする請求項1に記載の碍子漏洩電流測定装置。
【請求項3】
さらに、前記電流感知手段の近傍位置に該各電流感知手段により検出された電流を交流から直流に変換する第一の変換器を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の碍子漏洩電流測定装置。
【請求項4】
さらに、前記電線からの電気的な誘導により前記各電流感知手段に流れる誘導電流の影響を排除するための誘導補正手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の碍子漏洩電流測定装置。
【請求項5】
前記誘導補正手段は、前記電線からの電気的な誘導を受ける誘導電流感知手段と、誘導により該誘導電流感知手段に生じる誘導電流を交流から直流に変換する第二の変換器と、前記電流感知手段に流れる誘導電流を相殺するために前記第二の変換器から出力された誘導電流の大きさを調整する調整器とを有することを特徴とする請求項4に記載の碍子漏洩電流測定装置。
【請求項6】
前記支持構造体は、接地された鉄塔、鉄構あるいは電柱であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の碍子漏洩電流測定装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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