説明

磁場発生コイル装置

【課題】粘性の低いレジンを用いた場合であってもコイルパターン間の熱伝導性を十分に確保すること。
【解決手段】所定の領域内に磁場を発生するメインコイル41,42,43及びアクティブシールドコイル44,45,46と、冷却水流通用のクールパイプ47と、メインコイル41,42,43、アクティブシールドコイル44,45,46、クールパイプ47を封止する樹脂51と、この樹脂51中に分散配置されたガラス球52とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴現象を利用して被検体の体内情報を体外から測定する磁気共鳴診断装置等に用いる磁場発生コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴現象は、固有の磁気モーメントを持つ核の集団が一様な静磁場中に置かれたときに、特定の周波数で回転する高周波磁場のエネルギを共鳴的に吸収し、そして高周波磁場が切られた後に、吸収したエネルギを放出する現象である。
【0003】
このような現象を利用して、生体内物質の化学的及び構造的な微視的情報を診断上有意義なものとするためには、磁気共鳴信号の出所を識別する必要があり、このための手法として、2次元フーリエ変換法、いわゆる2DFT法が一般的である。
【0004】
この2DFT法では、静磁場中に置かれた被検体に対して、まず高周波磁場パルスをスライス選択用の傾斜磁場と共に印加することにより、所望のスライス内に存在している特定の原子核の磁化だけを選択的に励起して、横磁化成分を発生させる。この高周波磁場パルスの後に、位相エンコード用の傾斜磁場をある時間だけ印加すると、磁化はその場所の磁場に応じた周波数で回転するが、この周波数の違いは当該磁場を切った後にも位相の違いとして保存される。その後、周波数エンコード用の傾斜磁場を印加した状態のままで、磁化の横磁化成分の回転により高周波磁場コイルに誘導される磁気共鳴信号を、受信器を介して受信する。この周波数エンコード用の傾斜磁場によって、磁化はその場所の磁場に応じた周波数で回転するが、この周波数の違いはそのまま磁気共鳴信号の周波数に反映されている。
【0005】
ところで、傾斜磁場の強度としては、撮影時間の短縮化に伴って強くなる方向に向かっている。例えば、1cmあたり2ガウス程度の傾斜が用いられることが多い。このとき、コイルを形成しているワイヤには1mあたり約30kgの力が加わることになる。これによる変形を防止するために、傾斜磁場コイルは強固に保持する必要がある。このため、図3に示すように、傾斜磁場コイル装置(磁場発生コイル装置)100において、傾斜磁場を発生するメインコイル101〜103とアクティブシールドコイル104〜106とをエポキシ系レジン等の樹脂Rで封止して、円筒形状に成形し、必要な剛性を持たせている。
【0006】
また、メインコイル101〜103とアクティブシールドコイル104〜106に電流を流すと、その発熱によって、樹脂の温度が上昇し、軟らかくなり、剛性が低下して、変形することがある。これを防止するために、メインコイル101〜103とアクティブシールドコイル104〜106と共に、冷却水流通用のクールパイプ107を樹脂内に封止するようにしている。
【特許文献1】特開2004−130052号公報(図1)
【特許文献3】特開2001−46353号公報(図1〜4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した傾斜磁場コイル等の磁場発生コイルでは、次のような問題があった。すなわち、撮影時間が長くなったり、メインコイル101〜103をフルパワー駆動するような場合に、温度上昇に冷却能力が追いつかなくなって、樹脂の耐熱温度を超過してしまい、樹脂が変形してしまう可能性があった。
【0008】
一方、コイルは密度が濃く配置されているため、粘性の低いレジンを用いなければパターンの隅々までレジンを浸透させることができない。このため、レジンに熱伝導性を高める材料を混入することができず、パターン間の熱伝導性が低く、十分にコイルを冷却できない、という問題があった。
【0009】
そこで本発明は、粘性の低いレジンを用いた場合であってもコイルパターン間の熱伝導性を十分に確保することができる磁場発生コイル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の磁場発生コイル装置は次のように構成されている。
【0011】
所定の領域内に磁場を発生するコイルと、冷却水流通用のクールパイプと、前記コイル、クールパイプを封止する樹脂部材と、この樹脂部材中に分散配置されたガラス部材とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粘性の低いレジンを用いた場合であってもコイルパターン間の熱伝導性を十分に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係る磁気共鳴映像装置10の構成を示すブロック図、図2は同磁気共鳴映像装置10に組み込まれた傾斜磁場コイル装置(磁場発生コイル装置)30の要部であって、図1中A−A線で切断し矢印方向に見た断面図である。
【0014】
磁気共鳴映像装置10は、架台20と、この架台20を駆動・制御する制御部30とを備えている。架台20には、静磁場磁石21と、シムコイル22と、高周波コイル23とが同軸的に設けられ、さらにシムコイル22と高周波コイル23との間に、傾斜磁場コイル装置40が同軸的に配置されている。
【0015】
静磁場磁石21は、静磁場を発生する磁石であり、一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石21には、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。なお、本実施形態において、傾斜磁場コイル装置40及び静磁場磁石21は円筒形をしており、また、傾斜磁場コイル装置40は所定の支持機構によって真空中に配置される。
【0016】
シムコイル22は、静磁場磁石21の内側に設けられており、能動的に磁場の均一性を高めるためのコイルである。このシムコイル22は、後述するシムコイル電源32により駆動される。
【0017】
このシムコイル22及び傾斜磁場コイル装置40により、図示しない被検体に一様な静磁場と、互いに直交する三方向に線形傾斜磁場分布を持つ傾斜磁場が印加される。
【0018】
高周波コイル(RFコイル)23は、被検体の撮像領域に対して、磁気共鳴信号を発生させるための高周波パルスを印加する送信用高周波コイルと、被検体の近傍、好ましくは密着させた状態で当該被検体を挟むように設置され、被検体から磁気共鳴を受信する受信用高周波コイルとからなる。当該高周波コイル23は、一般的には、部位別に専用の形状を有する。
【0019】
制御部30は、傾斜磁場コイル装置40に電源を供給する傾斜磁場コイル装置電源31と、シムコイル電源32と、送信部33と、受信部34と、データ収集部35と、シーケンス制御部36と、計算機システム37と、コンソール38と、ディスプレイ39とを備えている。
【0020】
送信部33は、発振部、位相選択部、周波数変換部、振幅変調部、高周波電力増幅部を有しており、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信用高周波コイルに送信する。当該送信によって高周波コイル23から発生した高周波によって、被検体の所定の原子核の磁化は、励起状態となる。
【0021】
受信部34は、増幅部、中間周波数変換部、位相検波部、フィルタ、A/D変換器を有する。受信部34は、高周波コイル23から受信した、核の磁化が励起状態から基底状態に緩和するとき放出する磁気共鳴信号(高周波信号)に対して、増幅処理、発信周波数を利用した中間周波数変換処理、位相検波処理、フィルタ処理、A/D変換処理を施す。
【0022】
データ収集部35は、受信部34によってサンプリングされたディジタル信号を収集する。シーケンス制御部36は、傾斜磁場コイル装置電源31、シムコイル電源32、送信部33、受信部34及びデータ収集部35を制御する。
【0023】
計算機システム37は、コンソール38から入力される指令に基づいて、シーケンス制御部36を制御する。また、計算機システム37は、データ収集部35から入力した磁気共鳴信号に対して後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成等を実行し、被検体内の所望核スピンのスペクトルデータあるいは画像データを求める。
【0024】
コンソール38は、オペレータからの各種指示・命令・情報をとりこむため入力装置(マウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等)を有している。ディスプレイ39は、計算機システム37から入力したスペクトルデータあるいは画像データ等を表示する出力手段である。
【0025】
傾斜磁場コイル装置40は、静磁場磁石21の内側に設けられており、傾斜磁場コイル装置電源31から供給されるパルス電流を傾斜磁場に変換する。この傾斜磁場コイル装置40が発生する傾斜磁場によって、信号発生部位(位置)が特定される。
【0026】
傾斜磁場コイル装置40は、図2に示すように、メインコイル41,42,43と、アクティブシールドコイル44,45,46と、冷却水が通流するクールパイプ47と、これらを封止する封止部50とを備えている。封止部50は、エポキシ系レジン等の樹脂51と、この樹脂51内に分散配置されたガラス球(ガラス部材)52とを備えている。なお、樹脂51は、メインコイル41,42,43と、アクティブシールドコイル44,45,46と、冷却水が通流するクールパイプ47がそれぞれ配置される所定幅の樹脂層51a〜51fを有し、ガラス球52の最大径は、樹脂層51a〜51fの幅よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生コイル装置。
【0027】
なお、傾斜磁場コイル装置40は、メインコイル41,42,43と、アクティブシールドコイル44,45,46と、冷却水が通流するクールパイプ47を所定の位置に配置した後、ガラス球52が混入した樹脂51を導入し、硬化させることで形成する。
【0028】
このように構成された磁気共鳴映像装置10では、制御部30により架台20が駆動・制御される。このとき、傾斜磁場コイル装置30においては、メインコイル41,42,43及びアクティブシールドコイル44,45,46に通電されることにより、熱が発生する。発生した熱は、封止部50を介してクールパイプ47に伝わり、外部に排出される。このとき、樹脂51の熱伝導率は約0.2W/m・K、ガラス球52の熱伝導率は約1W/m・Kであるため、樹脂51のみによる伝熱に比較して約5倍の効率で冷却を行うことが可能となる。
【0029】
また、封止部50を形成する際、樹脂51はエポキシ系レジン等の低粘度の樹脂材であるため、メインコイル41,42,43、アクティブシールドコイル44,45,46、クールパイプ47相互間の隙間を確実に封止することができる。したがって、冷却を確実に行うことができる。なお、分散配置されるガラス球52は球或いは楕円球に形成することで、メインコイル41,42,43、アクティブシールドコイル44,45,46、クールパイプ47に引っ掛かることなく、一様に分散させることが可能となる。
【0030】
さらに、ガラス球52の分だけ樹脂51の使用量が減少する。これは、樹脂51が硬化収縮するときに生じる熱応力を減少させることができ、層間剥離やクラック等の発生を防止することができる。
【0031】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した例では、傾斜磁場コイル装置で説明したが、高周波磁場コイル装置に用いてもよい。また、ガラス球の代わりに他の形状のガラス部材を用いてもよく、ガラス部材の大きさ・形状は限定されない。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る傾斜磁場コイル装置が組み込まれた磁気共鳴映像装置の構成を示すブロック図。
【図2】同傾斜磁場コイル装置の要部であって、図1中A−A線で切断し矢印方向に見た断面図。
【図3】一般的な傾斜磁場コイル装置の要部を示す断面図。
【符号の説明】
【0033】
10…磁気共鳴映像装置、20…架台、30…制御部、40…傾斜磁場コイル装置(磁場発生装置)、41,42,43…メインコイル、44,45,46…アクティブシールドコイル、47…クールパイプ、50…封止部、51…樹脂、52…ガラス球(ガラス部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域内に磁場を発生するコイルと、
冷却水流通用のクールパイプと、
前記コイル、クールパイプを封止する樹脂部材と、
この樹脂部材中に分散配置されたガラス部材とを備えていることを特徴とする磁場発生コイル装置。
【請求項2】
上記ガラス部材は、球状又は楕円球状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生コイル装置。
【請求項3】
上記コイルは所定幅の樹脂層間に配置され、上記ガラス部材の最大部は、上記樹脂層の幅よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生コイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−88619(P2010−88619A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260766(P2008−260766)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】