説明

磁心用粉末および磁心用粉末の製造方法

【課題】少なくとも軟磁性粉末の表面に、珪素元素を含有させ、圧粉磁心の損失を低減することができる磁心用粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素元素を含む鉄粉11aの表面に浸珪処理を行う工程を少なくとも含む磁心用粉末の製造方法であって、前記浸珪処理工程において、前記鉄粉11aの表面に、少なくとも二酸化珪素の粉末21aを接触させ、該二酸化珪素の粉末21aを加熱することにより酸化珪素から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記鉄粉21aの表層に浸透拡散させることにより前記浸珪処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末を用いた磁心用粉末およびその製造方法に係り、特に、軟磁性粉末の表面に浸珪処理を行った磁心用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁心用粉末を圧粉成形することにより、圧粉磁心(圧粉成形体)が製造されている。該圧粉磁心は、磁心用粉末を構成する軟磁性粉末同士の絶縁性を確保しつつ、用途に合わせた磁気特性を確保することが重要であり、多くの研究・開発が成されている。
【0003】
例えば、軟磁性粉末として純鉄の鉄系軟磁性粉末(鉄粉)を用いた場合には、圧粉磁心は、最も高い磁束密度を確保することができる。これは、純鉄には不純物が介在していないので鉄粉は軟質であり、該鉄粉により密度の高い圧粉磁心を容易に圧粉成形することができるからである。
【0004】
しかし、純鉄は比抵抗が低いため、該純鉄の軟磁性粉末を圧粉成形した場合には、圧粉磁心の渦電流損失が高くなってしまう。そこで、渦電流を低減させる方法として、鉄粉内部の抵抗を増加させるべく純鉄に珪素元素やアルミニウム元素を添加して、磁心用粉末を製造する場合がある。しかし、これらの元素を純鉄に添加した場合には、鉄の硬度が上昇することにより鉄粉そのものが硬化するため、圧粉磁心の密度が高めることは難しくなる。
【0005】
そこで、純鉄の鉄粉を用いて、該鉄粉の表面に、リン酸処理を施したり、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂を被覆したりする場合がある。例えば、リン酸処理により鉄粉表面に形成されたリン酸塩皮膜は、皮膜厚みが薄いため、純鉄の前記特性を損なうことなく高密度の圧粉磁心を成形することは可能である。しかし、圧粉後の圧粉磁心は、圧粉時のひずみを除去すべく焼鈍されることがあり、前記リン酸塩は、焼鈍温度が500℃を越えた場合には、リン酸塩が鉄に拡散してしまうことから、それ以上に焼鈍温度をあげることができない。その結果、圧粉磁心のひずみを充分に開放することができず、圧粉磁心のヒステリシス損失が大きくなってしまうことがある。
【0006】
また、シリコーン樹脂を被覆した場合には、シリコーン樹脂はリン酸塩よりも高温で安定し、耐熱性も高い。しかし、純鉄の鉄粉にシリコーン樹脂を被覆した場合には、圧粉成形時に、シリコーン樹脂の被膜を確保することが難しい。また、焼鈍温度を600℃程度まで高めるためには、シリコーン樹脂を厚く被覆する必要がある。この結果、被膜厚みの増大に伴い、圧粉磁心の鉄粉の密度は低下してしまい、圧粉磁心の磁束密度を低下させてしまうことがある。
【0007】
ところで、鉄表面に珪素元素を濃化させる浸珪(滲珪)処理が多く試みられている。該浸珪処理は、四塩化珪素ガスを処理ガスとして化学気相成長法(CVD)によりなされることが一般的である。
【0008】
そこで、浸珪処理による磁気特性の向上に着眼し、例えば、軟磁性粉末を四塩化珪素ガスとアルゴンガスの加熱雰囲気下で、前記CVDにより前記浸珪処理を行う磁心用粉末の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。該製造方法によれば、軟磁性粉末の表面に珪素元素の濃度を高めることにより圧粉磁心の透磁率等を上げ、高周波域での磁気特性向上を図っている。
【特許文献1】特開平11−87123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の製造方法により製造した場合には、前記製造方法は、有毒性のある四塩化珪素のガスを使用するため、該製造方法には、安全性を考慮した特殊な製造装置が必要となる。この結果、前記磁心用粉末を製造した場合には、製造コストが他のものに比べて高くなる。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、安全かつ低コストで、珪素元素を鉄粉表面近傍に高い含有率で含有させ、圧粉磁心の損失(鉄損)を低減することができる磁心用粉末およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、軟磁性粉末の表面において、珪素元素の単体が生成されるような化学反応を発生させることにより、生成された珪素元素が、軟磁性粉末に表面から浸透し、主にその表層に拡散するとの知見を得た。
【0012】
本発明は、発明者らが得た前記知見に基づくものであり、本発明に係る磁心用粉末の製造方法は、軟磁性粉末の表面に浸珪処理を行う工程を少なくとも含む磁心用粉末の製造方法であって、前記浸珪処理工程において、前記軟磁性粉末の表面に、少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱することにより前記珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記軟磁性粉末の表層に浸透拡散させることにより前記浸珪処理を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、軟磁性粉末の表面(具体的には浸珪用粉末の接触面)において、珪素化合物から珪素元素を脱離(生成)するので、原子レベルで珪素元素が軟磁性粉末の表面に存在することになる。この結果、珪素元素を、軟磁性粉末の内部に比べて表面近傍の表層に、より高い濃度で含有させることができる。また、前記珪素元素の生成量を適宜調整することにより、軟磁性粉末内への珪素元素の含有量を調整することができる。
【0014】
ここで、本発明にいう「珪素化合物から珪素元素を脱離させる」とは、浸珪用粉末に含まれる珪素化合物を化学的に反応させることにより浸珪用粉末から珪素元素を生成することをいう。具体的には、後述するように、浸珪用粉末を加熱することにより軟磁性粉末の含有成分と浸珪用粉末とを酸化還元反応させて珪素元素を生成する方法や、軟磁性粉末と浸珪用粉末との接触面に処理ガスを流し、少なくとも接触面において該処理ガスと浸珪用粉末とを酸化還元反応させて珪素元素を生成する方法や、浸珪用粉末を加熱することにより、軟磁性粉末と添加混合させた浸珪用粉末を自己分解反応させて珪素元素を生成する方法などが挙げられる。また、本発明にいう「珪素元素を前記軟磁性粉末の表層に浸透拡散させる」とは、珪素元素を軟磁性粉末の表面から浸透させて、少なくとも表層に浸透した珪素元素を拡散させることをいう。
【0015】
また、珪素元素を生成する際には、副生成物としてガス(例えば一酸化炭素ガス等)が生成される。前記浸珪処理が進むと、該ガスの濃度の増加により珪素元素の生成の反応が抑制されてしまうので、本発明に係る磁心用粉末の製造方法は、浸珪用粉末が接触した軟磁性粉末の表面に前記ガス濃度が増加しないように(低ガス濃度雰囲気下(たとえば、一酸化炭素ガスである場合には低一酸化炭素濃度雰囲気下))、前記処理ガスまたは不活性ガスを循環させる、または、生成されたガスを脱気することがより好ましい。
【0016】
なお、前記不活性ガスとしては、アルゴンガスなどの希ガスまたは水素などが挙げられ、前記珪素元素の生成の反応の妨げにならないガスが好ましい。また、前記珪素元素の脱離における加熱温度は、前記軟磁性粉末に鉄系粉末を用いた場合には、1180℃以下が好ましい。加熱温度が1180℃越えた場合には、珪素元素が浸透した鉄系粉末に液相が出現してしまうからである。
【0017】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法は、浸珪処理後の軟磁性粉末に徐酸化処理を行う工程をさらに含むことがより好ましい。本発明によれば、前記徐酸化処理を行うことにより、軟磁性粉末に含有した珪素元素のみを酸化させ、軟磁性粉末表面を含む表層に二酸化珪素を生成することができる。この結果、磁心用粉末の表層には、軟磁性粉末をベース材として二酸化珪素を含む層を形成することができる。このようにして、二酸化珪素が緻密な絶縁層を形成することができ、密度の高い圧粉磁心を製造することが可能となり、圧粉磁心の磁気特性の向上が図れる。
【0018】
なお、本発明でいう「徐酸化処理」とは、大気圧雰囲気よりも相当に酸素濃度(酸素分圧)の低い酸素雰囲気下、より具体的には、不活性ガス等に微量の水蒸気を含む雰囲気下で、浸珪処理後の軟磁性粉末を配置し、該雰囲気化で加熱することにより珪素元素のみを酸化する処理をいい、酸素濃度(水蒸気の量)等は、磁心用粉末の材質、珪素元素の濃度により適宜設定されるものである。
【0019】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、珪素元素の脱離(生成)を効率よく反応させるためには珪素用粉末は微細であることが好ましく、平均粒径が1μm以下であることがより好ましい。なお、製造コスト等を考慮すると、浸珪用粉末の平均粒径は20nm以上がよい。また、浸珪用粉末の平均粒径が1μmよりも大きい場合には、珪素元素の生成される反応速度が遅くなる傾向にある。
【0020】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法は、前記軟磁性粉末として鉄系粉末を用い、前記浸珪処理を、前記磁性粉末の焼鈍処理と共に行うことがより好ましい。発明によれば、前記浸珪処理の加熱を焼鈍処理の加熱条件で行うことにより、軟磁性粉末の結晶粒径の粗大化を同時に図ることができ、この磁心用粉末により圧粉成形された圧粉磁心のヒステリシス損失を低減することができる。
【0021】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記軟磁性粉末として少なくとも炭素元素を含む鉄系粉末を用い、前記浸珪用粉末として少なくとも二酸化珪素を含む粉末を用いることができる。
【0022】
本発明によれば、鉄系粉末に含まれる炭素(C)と珪素化合物である二酸化珪素(SiO)との酸化還元反応により、二酸化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、脱離した珪素元素は、鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。一方、鉄系粉末の表面の炭素元素が一酸化炭素ガスとなり、さらに、鉄系粉末の内部にある炭素元素が表面に向かって拡散し、該拡散した炭素も前記反応により一酸化炭素ガスとなる。この結果、不純物として炭素元素が軟磁性粉末に含有している場合には、炭素元素の含有量を低減することが可能となり、鉄系粉末の高純度化を図ることができる。また、予め軟磁性粉末を浸炭処理などにより炭素元素の含有量を調整しておけば、前記反応に合わせて珪素元素の含有量を調整することができる。また、大気圧以下などの低一酸化炭素濃度雰囲気下で加熱すれば反応は起きるので、浸珪処理工程を容易かつ安価に行うことができる。なお、「低一酸化炭素濃度」とは、前述したように、前記酸化還元反応が発現可能な(浸珪処理が可能な)一酸化炭素化ガスの濃度であり、前記反応を確実に発現させるためには一酸化炭素ガスの濃度は低い方が望ましい。
【0023】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記軟磁性粉末として少なくとも酸素元素を含む鉄系粉末を用い、前記浸珪用粉末として少なくとも炭化珪素を含む粉末を用いることができる。
【0024】
本発明によれば、鉄系粉末に含まれる酸素(O)と珪素化合物である炭化珪素(SiC)との酸化還元反応により、炭化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、前記と同様に、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。一方、鉄系粉末の表面に含有した酸素元素が一酸化炭素ガスとなり、さらに、鉄系粉末の内部にある酸素元素が表面に向かって拡散し、該拡散した酸素元素も前記反応により一酸化炭素ガスとなる。この結果、不純物として介在する酸素元素が軟磁性粉末に含有している場合には、酸素元素の含有量を低減することが可能となり、前記同様に鉄系粉末の高純度化を図ることができる。また、軟磁性粉末を酸化処理(酸素雰囲気下の加熱処理など)により酸素元素の含有量を調整しておけば、前記反応に合わせて珪素元素の含有量を調整することができる。また、大気圧以下などの低一酸化炭素濃度雰囲気下で加熱すれば反応は起きるので、浸珪処理工程を容易に行うことができる。
【0025】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として、少なくとも二酸化珪素の粉末と炭化珪素の粉末とを混合した混合粉末を用いることがより好ましい。本発明によれば、珪素化合物である二酸化珪素(SiO)と炭化珪素(SiC)との酸化還元反応により、二酸化珪素および炭化珪素の双方から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、前記と同様に、脱離した珪素元素は鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末の表層に拡散する。また、大気圧以下などの低一酸化炭素濃度雰囲気下で加熱すれば反応は起きるので、浸珪処理工程を容易かつ安価に行うことができる。また、軟磁性粉末に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、二酸化珪素を含む粉末と炭化珪素の粉末の量を調整することにより、軟磁性粉末に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。
【0026】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として、少なくとも二酸化珪素を含む粉末と、金属炭化物または炭素同素体のいずれか一方または双方を含む粉末と、を混合した混合粉末を用いることができる。
【0027】
本発明によれば、珪素化合物である二酸化珪素(SiO)と金属炭化物または炭素同素体との酸化還元反応により、二酸化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、前記と同様に、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。また、大気圧以下などの低一酸化炭素濃度雰囲気下で加熱すれば反応は起きるので、浸珪処理工程を容易に行うことができる。また、前記のように、二酸化珪素を含む粉末と炭素系の粉末の量を調整することにより、軟磁性粉末に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。さらに、金属炭化物を含む粉末を用いた場合には、金属炭化物から金属元素が脱離するため、該金属元素も軟磁性粉末に浸透させることができる。
【0028】
前記金属炭化物としては、チタンカーバイド(TiC)、タングステンカーバイド(WC)等が挙げられ、徐酸化処理により絶縁性の酸化物が形成され、かつ、磁気特性に悪影響を与えない金属元素であれば特に限定されるものではなく、磁心用粉末の使用特性に合わせて、軟磁性粉末に浸透させたい金属を選定すればよい。また、前記炭素同素体としては、カーボン、グラファイト、DLC、ダイヤモンド等を挙げることができ、炭素を主成分としたものであれば特に限定されるものではない。
【0029】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として、少なくとも炭化珪素を含む粉末と、金属酸化物からなる粉末のうち少なくとも一種の粉末をと、を混合した混合粉末を用いることができる。
【0030】
本発明によれば、珪素化合物である炭化珪素(SiC)と、金属酸化物からなる粉末のうち少なくとも一種の粉末と、の酸化還元反応により、炭化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、前記と同様に、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。また、大気圧以下などの低一酸化炭素濃度雰囲気下で加熱すれば反応は起きるので、浸珪処理工程を容易に行うことができる。また、炭化珪素を含む粉末と金属酸化物を含む粉末の量を調整することにより、軟磁性粉末に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。さらに、金属酸化物を含む粉末を用いた場合には、金属酸化物から金属元素が脱離するため、該金属元素も軟磁性粉末に浸透させることができる。
【0031】
前記金属酸化物としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはホウ酸ナトリウム(Na)等が挙げられ、徐酸化処理により絶縁性の酸化物が形成され、かつ、磁気特性に悪影響を与えない金属元素であれば特に限定されるものではなく、磁心用粉末の使用特性に合わせて、軟磁性粉末に浸透させたい金属を選定すればよい。
【0032】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として少なくとも二酸化珪素を含む粉末を用い、前記浸珪処理を炭化水素系ガス雰囲気下で行うことができる。
【0033】
本発明によれば、軟磁性粉末粉末の表面のうち浸珪用粉末との接触面及びその近傍において、炭化水素系ガスの炭素元素と珪素化合物である二酸化珪素(SiO)との酸化還元反応により、二酸化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、脱離した珪素元素は鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。本発明に係る炭化水素系ガス雰囲気下とはいわゆる浸炭性雰囲気下のことであり、炭化水素系ガスとしては、例えば、ブタンガス、エタンガス、アセチレンガスなどが挙げられ、前記反応を引き起こすことができるのであれば、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として少なくとも炭化珪素を含む粉末を用い、前記浸珪処理を酸化性雰囲気下で行うことができる。
【0035】
本発明によれば、例えば、水蒸気を含むアンモニア分解ガス(露点の高いアンモニア分解ガス)などの酸化性雰囲気下において、前記ガスの酸素元素と珪素化合物である炭化珪素(SiC)との酸化還元反応により、炭化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。この結果、脱離した珪素元素は鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。
【0036】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法では、前記浸珪用粉末として窒化珪素を含む粉末を用いることができる。本発明によれば、窒化珪素(Si)の分解反応により、炭化珪素から珪素元素が脱離する(生成される)と共に、窒素ガスが生成される。この結果、脱離した珪素元素は鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄系粉末表層に拡散する。また、大気圧以下の雰囲気あるいは低窒素濃度雰囲気(低窒素分圧)下で加熱すれば起きるので、浸珪処理工程を容易に行うことができる。また、軟磁性粉末に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、窒化珪素を含む粉末を調整することにより、軟磁性粉末に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。なお、「低窒素濃度」とは、前記分解反応が発現可能な(浸珪処理が可能な)低窒素ガスの濃度(窒素分圧)であり、前記分解反応を確実に発現させるためには窒素ガスの濃度は低い方が望ましい。
【0037】
前記した浸珪処理のうち、炭化水素系ガス雰囲気下または酸化性雰囲気下で行う以外の場合には、本発明に係る磁心用粉末の製造方法は、前記浸珪処理工程を真空雰囲気下で行うことがより好ましい。本発明によれば、真空雰囲気下で行うことにより、反応生成物として生成された一酸化炭素ガスまたは窒素ガス等も排気されるので、前記浸珪処理時の酸化還元反応または分解反応を促進させることができる。また、前記真空雰囲気は、例えば、前記軟磁性粉末と浸珪用粉末とを浸珪処理が可能な密閉空間に投入すると共に、真空引き用のポンプで密閉空間のエアを引くことにより達成することができる。
【0038】
本発明に係る磁心用粉末の製造方法に用いる軟磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、還元法、粉砕法等により製造することができる。より好ましくは、前記磁心用粉末の粉末形状は、前記した平均粒径の範囲の浸珪用粉末と接触させる必要があるため、表面の微細な凹凸は少ない方がより好ましい。また、前記浸珪用粉末と接触することができるのであれば、軟磁性粉末と浸珪用粉末との接触方法は、特に限定されるものではなく、また、軟磁性粉末および浸珪用粉末の形状は、球状、扁平状、多角状など特に限定されるものではない。
【0039】
本発明において、さらに圧粉磁心に好適な磁心用粉末粉末をも開示する。本発明に係る磁心用粉末は、前記いずれかの製造方法により製造された磁心用粉末であって、該磁心用粉末は、表面に少なくとも珪素元素を含む珪素含有層を有する軟磁性粉により形成されており、前記珪素含有層は、粉末内部から表面に沿って珪素元素の濃度が傾斜的に増加しており、前記珪素含有層には、珪素元素が浸透した珪素浸透層が少なくとも形成されていることを特徴とする。
【0040】
本発明によれば、前記珪素浸透層を形成することにより、二酸化珪素の緻密な層を得ることができる。また、本発明の磁心用粉末を圧粉成形した圧粉磁心は、これまでの方法により製造された磁心用粉末の圧粉磁心に比べて、渦電流損失の低減を含む磁気特性を向上を図ることができる。
【0041】
本発明に係る磁心用粉末は、前記珪素含有層に、前記珪素浸透層を囲繞するように、二酸化珪素を含む層がさらに形成されていることがより好ましい。本発明によれば、珪素浸透層を囲繞するように二酸化珪素を含む層を形成することにより、絶縁性の高い磁心用粉末を得ることができる。
【0042】
本発明に係る磁心用粉末は、前記二酸化珪素を含む層が、1nm〜100nmの範囲の厚さの範囲にあることがより好ましい。本発明によれば、前記厚さ範囲の層を形成することにより、より絶縁性の高い磁心用粉末を得ることができる。また、1nmよりも薄い場合には絶縁性が低下してしまい、100nmよりも厚い場合には、圧粉成形時の軟磁性粉末の密度が低下してしまうことがある。
【0043】
さらに、前記製造方法により製造された磁心用粉末または前記磁心用粉末を成形型内に配置し、加圧することにより、圧粉成形した圧粉磁心は、従来のものに比べて磁気特性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、所望の量の珪素元素を軟磁性粉末の表面から浸透させ、該軟磁性粉末の少なくとも表層に所望の量の珪素元素を含有させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るいくつかの実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る磁心用粉末を好適に製造方法ための方法を説明するための図であり、図2は、第一実施形態に係る磁心用粉末の製造方法を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末に二酸化珪素を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、浸珪用粉末に炭化珪素を用いた浸珪処理を説明するための図である。なお、以下に示すいくつかの実施形態は、浸珪処理の処理方法が相違する。
【0046】
図1に示すように、第一実施形態に係る磁心用粉末の製造方法は、鉄系の軟磁性粉末(鉄粉)11の表面に浸珪処理を行う工程と、該浸珪処理された鉄粉11に徐酸化処理を行う工程と、を含んでいる。
【0047】
第一実施形態に係る浸珪処理は、軟磁性粉末に含有した炭素元素または酸素元素を利用して、浸珪用粉末を加熱することにより軟磁性粉末と浸珪用粉末とを酸化還元反応させて珪素元素を軟磁性粉末に浸透拡散(固溶拡散)させる方法である。まず、図2(a)に示すように、炭素元素(C)が含有された鉄粉11aの表面に、珪素化合物として二酸化珪素(SiO)の粉末21aを真空条件下で接触させ、1180℃以下の温度条件で加熱する。具体的には、鉄粉11aと二酸化珪素の粉末21aを混合することにより接触させ、真空引き可能な密閉空間を有した炉内に配置し、前記温度条件でこれらの粉末11a,21aを加熱する。このようにして、図2(a)の化学反応式に示すように、二酸化珪素と炭素元素との酸化還元反応を発生させ、二酸化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素(CO)ガスが生成される。この結果、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、鉄粉11aの内部に拡散(主に表層に拡散)するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。
【0048】
一方、鉄系粉末の表面に含有した炭素元素が一酸化炭素ガスとなり、鉄粉の少なくとも表面層は脱炭化される。そして、鉄粉表面の炭素含有量の減少により、鉄系粉末の内部にある炭素元素が表面に拡散し、該拡散した炭素も前記反応により一酸化炭素ガスとなる。この結果、不純物として炭素元素が軟磁性粉末に含有している場合には、炭素元素の含有量を低減することが可能となり、鉄系粉末の高純度化を図ることができる。また、軟磁性粉末を浸炭処理などにより炭素元素の含有量を調整しておけば、前記反応に合わせて珪素元素の含有量を調整することができる。さらに、鉄粉11aの焼鈍処理が可能な温度条件で前記酸化還元反応をさせれば、鉄粉11aの結晶粒径を粗大化することができ、ヒステリシス損失を低減することができるので好適である。
【0049】
次に、浸珪処理された軟磁性粉末11aに対して、上述したように、徐酸化処理を行う(図1参照)。該徐酸化処理において、露点を制御した不活性ガス雰囲気下に、浸珪処理後の軟磁性粉を配置し、該雰囲気下で加熱することにより、鉄元素を酸化させることなく、珪素元素のみを酸化させることができる。この結果、磁心用粉末10は、珪素含有層14に、前記珪素浸透層12を囲繞するように、二酸化珪素を含む層13がさらに形成される。このようにして製造された磁心用粉末10を用いることにより、緻密に二酸化珪素を含む層13を形成することが可能となり、密度の高い圧粉磁心を製造することができる。
【0050】
また、第一実施形態の変形例としては、図2(b)に示すように、浸珪処理において、酸素元素(O)が含有された鉄粉11bと炭化珪素(SiC)の粉末21bとを混合することにより、鉄粉の表面に、珪素化合物として炭化珪素の粉末を真空雰囲気下で接触させる。そして、混合した粉末を1180℃以下の温度条件で加熱し、図2(b)の化学反応式に示すように、炭化珪素と酸素元素との酸化還元反応を発生させてもよい。この結果、炭化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。そして、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11bの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。
【0051】
図3は、本発明に係る第二実施形態を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末として二酸化珪素および炭化珪素の粉末を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として二酸化珪素の粉末と、炭化チタンの粉末とを用いた浸珪処理を説明するための図であり、(c)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として炭化珪素と、酸化チタンとを用いた浸珪処理を説明するための図である。
【0052】
また、第二実施形態が第一実施形態と相違する点は、第二実施形態の浸珪処理において、異なる二種以上の珪素用粉末を加熱することにより、異種の浸珪用粉末同士を酸化還元反応させて、珪素元素を純鉄からなる鉄粉に浸透拡散させた点である。
【0053】
本実施形態では、図3(a)に示すように、純鉄からなる鉄粉11cの表面に、珪素化合物として二酸化珪素(SiO)および炭化珪素(SiC)の粉末21a,21bを真空雰囲気下で接触させ、1180℃以下の温度条件で加熱する。具体的には、鉄粉11cと二酸化珪素の粉末21aと炭化珪素の粉末21bとを混合することにより接触させ、該混合状態を保持しつつ、真空引き可能な密閉空間を有した炉内に配置し、前記温度条件でこれらの粉末11c,21a,21bを加熱する。このようにして、図3(a)の化学反応式に示すように、二酸化珪素と炭素珪素との酸化還元反応を発生させ、二酸化珪素および炭化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素(CO)ガスが生成される。
【0054】
この結果、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。また、本実施形態によれば、鉄粉に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、二酸化珪素を含む粉末と炭化珪素の粉末の量を調整することにより、鉄粉に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。
【0055】
また、第二実施形態の変形例としては、図3(b)に示すように、浸珪処理において、純鉄の鉄粉11cと、二酸化珪素(SiO)の粉末21aと、炭化チタン(TiC)の粉末21cとを、混合することにより、鉄粉の表面に珪素化合物として二酸化珪素の粉末21aと炭化チタンの粉末21cとを真空雰囲気下で接触させる。そして、混合した粉末を1180℃以下の温度条件で加熱し、図3(b)の化学反応式に示すように、二酸化珪素と炭化元素との酸化還元反応を発生させてもよい。
【0056】
この結果、二酸化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素ガスが生成される。そして、脱離した珪素元素が、鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。さらに、本変形例によれば、鉄粉に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、二酸化珪素の粉末21aと炭化チタンの粉末21cの量を調整することにより、鉄粉に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。炭化チタンの粉末21cを用いたので、炭化チタンからチタン元素も脱離されるため、チタン元素も軟磁性粉末に浸透させることができる。
【0057】
また、別の変形例としては、図3(c)に示すように、浸珪処理において、純鉄の鉄粉11cと、炭化珪素(SiC)の粉末21bと、酸化チタン(TiO)の粉末21dとを、混合することにより、鉄粉の表面に珪素化合物として炭化珪素の粉末21bと酸化チタン(TiO)の粉末21dとを真空雰囲気下で接触させる。そして、混合した粉末を1180℃以下の温度条件で加熱し、図3(c)の化学反応式に示すように、炭化珪素と酸素元素との酸化還元反応を発生させてもよい。
【0058】
この結果、珪素元素が、鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。さらに、本変形例によれば、図3(b)に示す変形例と同様に、鉄粉に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能であるとともに、酸化チタンの粉末21dを用いたので、酸化チタンからチタン元素も脱離するため、チタン元素も軟磁性粉末に浸透させることができる。
【0059】
なお、第二実施形態では、鉄粉11cと異なる種類の浸珪用粉末とを一度に混合したが、まず、異なる種類の浸珪用粉末を混合して混合粉末とし、該混合粉末と鉄粉11cとを混合してもよい。
【0060】
図4は、本発明に係る第三実施形態を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末として二酸化珪素の粉末を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として炭化珪素とを用いた浸珪処理を説明するための図である。
【0061】
また、第三実施形態が第一実施形態と相違する点は、第三実施形態の浸珪処理において、純鉄からなる鉄粉と浸珪用粉末との接触面に処理ガスを流し、該処理ガスと浸珪用粉末とを酸化還元反応させて、珪素元素を鉄粉に浸透拡散させた点である。
【0062】
本実施形態では、図4(a)に示すように、純鉄からなる鉄粉11cの表面に、珪素化合物として二酸化珪素(SiO)を、炭化水素系ガスとしてブタンガスの雰囲気下で接触させ、1180℃以下の温度条件で加熱する。具体的には、鉄粉11cと二酸化珪素の粉末21aとを混合することにより接触させ、該混合状態を保持しつつ、ブタンガスが供給および排気可能な浸炭炉内に配置し、ブタンガスを炉内に供給しながら前記温度条件でこれらの粉末11c,21aを加熱する。このようにして、図4(a)の化学反応式に示すように、二酸化珪素とブタンガスとの酸化還元反応を発生させ、二酸化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、一酸化炭素(CO)ガスおよび水素ガス(H)ガスが生成される。
【0063】
この結果、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。また、本実施形態によれば、鉄粉に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、二酸化珪素を含む粉末と炭化珪素の粉末の量を調整することにより、鉄粉に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。
【0064】
また、第三実施形態の変形例としては、図4(b)に示すように、浸珪処理において、純鉄の鉄粉11cと、炭化珪素(SiC)の粉末21bと混合して、水蒸気を含むアンモニア分解ガス(露点の高いアンモニア分解ガス)を用いた酸化性雰囲気下で接触させる。そして混合粉末を炉内に配置し、1180℃以下の温度条件で加熱して、図4(b)の化学反応式に示すように、炭化珪素と酸素元素との酸化還元反応を発生させてもよい。この結果、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。
【0065】
図5は、本発明に係る第四実施形態を説明するための図である。また、第四実施形態が第一実施形態と相違する点は、第四実施形態の浸珪処理において、珪素用粉末を加熱することにより浸珪用粉末の珪素化合物を自己分解反応させて、珪素元素を鉄粉の内部に浸透拡散させた点である。
【0066】
本実施形態では、図5に示すように、純鉄からなる鉄粉11cの表面に、珪素化合物として窒化珪素(Si)を、大気圧以下の圧力雰囲気で接触させ、1180℃以下の温度条件で加熱する。具体的には、鉄粉11cと窒化珪素の粉末21fとを混合することにより接触させ、該混合状態を保持しつつ炉内に配置し、前記温度条件でこれらの粉末11c,21fを加熱する。このようにして、図5の化学反応式に示すように、窒化珪素の分解反応を発生させ、窒化珪素から珪素元素(Si)が脱離する(生成される)と共に、窒素ガス(N)が生成される。
【0067】
この結果、脱離した珪素元素が鉄系粉末の表面から浸透し、主に鉄粉11cの表層に拡散するので、珪素元素が浸透した珪素浸透層12が形成される。また、本実施形態によれば、鉄粉に含有する炭素含有量、酸素含有量に依存することなく、窒化珪素の粉末の量を調整することにより、鉄粉に浸透させる珪素元素を調整することが容易に可能である。また、前記第一実施形態および第二実施形態をあわせて、本実施形態を行うことも可能である。
【実施例】
【0068】
第一実施形態および四実施形態について、以下に実施例に基づき説明する。
(実施例1)
軟磁性粉末として、組成がFe−0.51%Cのガスアトマイズにより製造された鉄粉を準備した。さらに、この鉄粉の平均粒径180μmとなるように、JIS−Z8801に規定する試験用篩い用いた。浸珪用粉末として平均粒径1μmの二酸化珪素の粉末を準備した。そして、鉄粉の表面に二酸化珪素の粉末が接触するように、鉄粉に二酸化珪素の粉末を添加、混合し炉内に投入後、真空中(具体的には1×10−3Pa程度)で、1100℃の温度条件で4時間均熱となるように加熱し、磁心用粉末を製作した。そして、時間経過に伴う鉄粉中の炭素の含有量(重量ppm)を測定すると共に、軟磁性粉末を切断し、珪素元素の含有量をEPMA、SEM−EDXで観察、分析した。この結果を表1、表2、図6(a)に示す。なお、図6(a)は、白色に近いほうが珪素元素がより含有していることを示している。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
(実施例2)
実施例1と同じ鉄粉を準備し、磁心用粉末を製作した。実施例2のものは、実施例1とは、浸珪用粉末の粒径を変えている。そして、実施例2の軟磁性粉末に対しても、実施例1と同様に、時間経過に伴う鉄粉中の炭素の含有量(重量ppm)を測定すると共に、加熱処理後の珪素元素の含有量を測定した。この結果を表1および表2に示す。また、同様に、珪素元素の濃度をEPMAで分析した。この結果を図6(b)に示す。
【0072】
(実施例3)
実施例2と同じ鉄粉および二酸化珪素の粉末を準備して磁心用粉末を製作した。実施例3のものは、実施例2と浸炭処理パターンを変えている。そして、実施例1と同じようにして、珪素元素の含有量を測定した。この結果を表1に示す。
【0073】
(実施例4)
軟磁性粉末として、平均粒径180μmで、酸素元素を0.294重量%含むガスアトマイズにより製造された鉄粉を準備した。また、浸珪用粉末として平均粒径610nmの炭化珪素の粉末を準備した。そして、鉄粉の表面に二酸化珪素の粉末が接触するように、添加混合し、炉内に投入後、真空中で、1100℃の温度で4時間加熱し、磁心用粉末を製作した。そして、加熱処理後の珪素元素の含有量を測定した。この結果を表1に示す。
【0074】
(実施例5)
軟磁性粉末として、平均粒径180μmで、純鉄(Fe−0.02%C)からなるガスアトマイズにより製造された鉄粉を準備した。また、浸珪用粉末として平均粒径750nmの窒化珪素の粉末を準備した。そして、鉄の表面に窒化珪素の粉末が接触するように、鉄粉に窒化珪素の粉末を添加混合し、炉内に投入後、真空で、1180℃の温度条件で、10時間加熱し、磁心用粉末を製作した。そして、加熱処理後の珪素元素の含有量を測定した。この結果を表1および表2に示す。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同じ軟磁性粉末を準備した。そして、軟磁性粉末の表面をCVD法により浸珪処理を行った。具体的には、処理ガスとして四塩化珪素ガスとアルゴンガスを軟磁性粉末に流すと共に、処理温度850℃で、0.1時間、軟磁性粉末の表面の浸珪処理をおこなった。そして、加熱処理後の珪素元素の含有量を測定した。この結果を表1に示す。
【0076】
(結果1)
表1に示すように、実施例1,2,4と比較例1の磁心用粉末の表面の珪素元素の濃度は同程度であった。また、実施例3,5の磁心用粉末の表面の珪素元素の濃度は、比較例1のものよりも高かった。また、実施例1〜5のいずれもSEM−EDXの結果によれば、珪素元素が、軟磁性粉末の表面から浸透し、その表層に拡散していることが確認できた。また、珪素元素の濃度は、表面から内部に向かって傾斜的に減少していた(内部から表面に向かって珪素元素の濃度が傾斜的に増加していた)。
【0077】
(結果2)
表1に示すように、処理時間が同じであっても、実施例2の磁心用粉末の表面の珪素元素の濃度は、実施例1のものに比べて高かった。また、表2に示すように、実施例2の軟磁性粉末の炭素量は、処理から15分以内に30重量ppm以下になったのに対して、実施例1のものは、4時間で、30重量ppm以下となった。
【0078】
(結果3)
図6(a)および(b)に示すように、実施例1および実施例2の鉄粉の内部への珪素元素の拡散が確認でき、さらに鉄粉の表面を含む表層には、珪素元素の濃化が確認できた。また、実施例2のほうが実施例1に比べて、より珪素元素が濃化していることが確認できた。
【0079】
(考察1)
結果1から、実施例1〜3の磁心用粉末は、粉末表面に珪素元素が観察され、炭素含有量が減少しているので、浸珪用粉末の二酸化珪素と軟磁性粉末中の炭素が反応し、珪素元素と一酸化炭素ガスを生成したと考えられる。これにより磁心用粉末は浸珪され、尚且つ炭素元素の減少により、軟磁性粉末は高純度化されたと考えられる。
【0080】
実施例4も、同様に酸化還元反応により炭化珪素から珪素元素が生成され、実施例5は、窒化珪素の分解反応により窒化珪素から珪素元素が生成され、このようにして生成された珪素元素が、軟磁性粉末に浸透拡散すると考えられる。このように、珪素元素が生成され、生成された珪素元素が、軟磁性粉末の表面から浸透(固溶)して、少なくともその表層に拡散するのであれば、前記した第二実施形態、または、第三実施形態に示すようなものであってもよいと考えられる。
【0081】
(考察2)
結果2,3より、実施例2のように浸珪用粉末をより細かくした方が、軟磁性粉末表面への浸珪用粉末の接触数が増加するので、前記反応が促進され、軟磁性粉末への珪素元素の浸透も促進されたと考えられる。前記平均粒径の浸珪用粉末を用いることにより、より効率よく珪素元素を脱離(生成)することができる。また、実施例1および2の結果から、珪素元素の脱離(生成)を効率よく起こさせるためには、浸珪用粉末の平均粒径はより細かいことが好ましく、数十nm程度がより好ましい。しかしながら、粉末の取り扱いなど製造コスト等を考慮すると20nm以上のものがよい。
【0082】
(実施例6)
実施例3と同じようにして磁心用粉末を製作し、浸珪処理後の軟磁性粉末に対して、水素ガス、アルゴンガス、及びこれらのガスに対して微量の水蒸気を含む雰囲気下で、徐酸化処理を行った。そして、XPSにより、表面の二酸化珪素の強度を測定すると共に、表面から内部の二酸化珪素の濃度を測定した。この結果を図7および図8に示す。なお、比較例1に対しても、同様の測定を行った。この結果を図7および図8に合わせて示す。
【0083】
(結果4)
図7に示すように、実施例6は、二酸化珪素に相当する結合エネルギーの箇所において高い強度を得た。比較例1における該当箇所の強度は低かった。また、図8に示すように、実施例6の二酸化珪素層は表面から100nm程度まで形成していることが観察された。
【0084】
(考察3)
結果4より、実施例6は、軟磁性粉末の表面で珪素元素の生成反応が生じているので、比較例2のように四塩化珪素をCVDにより反応させるものに比べて、珪素元素と鉄元素と化合物が生成することなく、軟磁性粉末に比較例2よりも多くの珪素元素が浸透拡散したと考えられる。この結果、実施例6の磁心用粉末には、緻密な二酸化珪素を含む層が形成されたものと考えられる。
【0085】
(実施例7)
実施例2と同じようにして磁心用粉末を製作した。そして、浸珪処理後の軟磁性粉末に対して、水素ガス、アルゴンガス、及びこれらのガスに対して微量の水蒸気を含む雰囲気下で、徐酸化処理を行った。さらに、製作した磁心用粉末を、金型温度120℃で温間金型潤滑法を用いて、成形面圧1569MPaで、外径39mm、内径30mm、厚み5mmのリング状試験片を製造し、この試験片の磁気特性を評価した。この結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
(実施例8)
実施例3と同じようにして圧粉磁心を製作した。そして、実施例7と同じように徐酸化処理および成形を行ってリング状試験片を製作し、この試験片の磁気特性を評価した。この結果を表3に示す。
【0088】
(比較例2)
比較例1と同じようにして磁心用粉末を製作し、実施例7と同じ条件で、リング状試験片を製作し、この試験片の磁気特性を評価した。この結果を表3に示す。
【0089】
(比較例3)
比較例1と同じようにして磁心用粉末を製作し、磁心用粉末の表面にシリコーン樹脂を0.4%添加した。次に、実施例7と同じ条件で、圧粉磁心を製作し、磁気特性を評価した。この結果を表3に示す。
【0090】
(結果5)
実施例7,8は、比較例2,3に比べて渦電流損失が大幅に低減されている。特に、実施例7では比較例3と同等の磁束密度を得ている。
【0091】
(考察4)
既に述べた結果4と上記結果5から、実施例7,8の方の磁気特性が良かった理由として、実施例7,8の方が、比較例2,3に比べて軟磁性粉末表面に薄く、緻密な二酸化珪素層が形成されているからであると考えられる。
【0092】
以上、本発明に係る磁心用粉末の製造方法のいくつかの実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができるものである。
【0093】
例えば、第一、第二、および第四の実施形態は、珪素元素の脱離(生成)を促進させるために、真空雰囲気下で浸珪処理を行ったが、真空雰囲気下に限定されるものではなく、減圧雰囲気下、あるいは生成したガス分圧が低い、具体的には低一酸化炭素(CO)雰囲気下、あるいは、低窒素(N)雰囲気下で浸珪処理を行ってもよい。
【0094】
また、すべての実施形態では、軟磁性粉末に鉄粉を用いたが、Fe−Si合金、Fe−Al合金、Fe−Si−Al合金などを圧粉磁心として用いることができ、本発明による珪素元素あるいは同時に生成される金属元素(具体的にはTiやAlなど)を浸透させることができればどのような軟磁性粉末であってもよい。また、それぞれの実施形態を併用させてもよい。
【0095】
さらに、本実施形態に係る磁心用粉末の表面に、シリコーン樹脂などの絶縁材被膜をさらに形成し、該被膜を形成した磁心用粉末を圧粉成形することにより、圧粉磁心を成形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る磁心用粉末は、電動機または発電機の鉄心、電磁弁用のソレノイド、その他各種アクチュエータ用のコア部品などに適している。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る磁心用粉末を好適に製造方法ための方法を説明するための図。
【図2】第一実施形態に係る磁心用粉末の製造方法を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末に二酸化珪素を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、浸珪用粉末に炭化珪素を用いた浸珪処理を説明するための図。
【図3】本発明に係る第二実施形態を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末として二酸化珪素および炭化珪素の粉末を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として二酸化珪素の粉末と、炭化チタンの粉末とを用いた浸珪処理を説明するための図であり、(c)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として炭化珪素と、酸化チタンとを用いた浸珪処理を説明するための図。
【図4】本発明に係る第三実施形態を説明するための図であり、(a)は、浸珪用粉末として二酸化珪素の粉末を用いた浸珪処理を説明するための図であり、(b)は、(a)の変形例として、浸珪用粉末として炭化珪素とを用いた浸珪処理を説明するための図。
【図5】本発明に係る第四実施形態を説明するための図。
【図6】磁心用粉末の断面および磁心用粉末の表面から内部に向かって浸透した珪素元素の量を測定した結果を示すEPMA像の写真図であり、(a)は実施例1の磁心用粉末のEPMA像の写真図であり、(b)は実施例2の磁心用粉末のEPMA像の写真図。
【図7】実施例6および比較例1の磁心用粉末の表面の二酸化珪素の強度を分析した図。
【図8】実施例6および比較例1の磁心用粉末の表面から内部における二酸化珪素の濃度分布を分析した図。
【符号の説明】
【0098】
10:磁心用粉末,11a〜11c:鉄粉,12:珪素浸透層,13:二酸化珪素を含む層,14:珪素含有層,21a:二酸化珪素の粉末,21b:炭化珪素の粉末,21c:炭化チタンの粉末,21d:酸化チタンの粉末,21f:窒化珪素の粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末の表面に浸珪処理を行う工程を少なくとも含む磁心用粉末の製造方法であって、
前記浸珪処理工程において、前記軟磁性粉末の表面に、少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱することにより前記珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記軟磁性粉末の表層に浸透拡散させることにより前記浸珪処理を行うことを特徴とする磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、浸珪処理後の軟磁性粉末に徐酸化処理を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記浸珪用粉末として、平均粒径が1μm以下の範囲にある浸珪用粉末を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
前記軟磁性粉末として鉄系粉末を用い、前記浸珪処理を、前記磁性粉末の焼鈍処理と共に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項5】
前記軟磁性粉末として少なくとも炭素元素を含む鉄系粉末を用い、前記浸珪用粉末として少なくとも二酸化珪素を含む粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項6】
前記軟磁性粉末として少なくとも酸素元素を含む鉄系粉末を用い、前記浸珪用粉末として少なくとも炭化珪素を含む粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項7】
前記浸珪用粉末として、少なくとも二酸化珪素の粉末と炭化珪素の粉末とを混合した混合粉末を用いることを特徴とする特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項8】
前記浸珪用粉末として、少なくとも二酸化珪素を含む粉末と、金属炭化物または炭素同素体のいずれか一方または双方を含む粉末と、を混合した混合粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項9】
前記浸珪用粉末として、少なくとも炭化珪素を含む粉末と、金属酸化物からなる粉末のうち少なくとも一種の粉末と、を混合した混合粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項10】
前記浸珪用粉末として少なくとも二酸化珪素を含む粉末を用い、前記浸珪処理を炭化水素系ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項11】
前記浸珪用粉末として少なくとも炭化珪素を含む粉末を用い、前記浸珪処理を酸化性雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項12】
前記浸珪用粉末として窒化珪素を含む粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項13】
前記浸珪処理を真空雰囲気下で行うことを特徴とする6〜9または12に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法により製造された磁心用粉末であって、
該磁心用粉末は、表面に少なくとも珪素元素を含む珪素含有層を有する軟磁性粉末により形成されており、
前記珪素含有層は、軟磁性粉末の内部から表面に向かって珪素元素の濃度が傾斜的に増加しており、前記珪素含有層には、珪素元素が浸透した珪素浸透層が少なくとも形成されていることを特徴とする磁心用粉末。
【請求項15】
前記珪素含有層には、前記珪素浸透層を囲繞するように、二酸化珪素を含む層がさらに形成されていることを特徴とする請求項14に記載の磁心用粉末。
【請求項16】
前記二酸化珪素を含む層は、1nm〜100nmの範囲の厚さの範囲にあることを特徴とする請求項15に記載の磁心用粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−123774(P2009−123774A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293424(P2007−293424)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000220435)株式会社ファインシンター (27)
【Fターム(参考)】