説明

磁性ビーズ移動装置

【課題】吸引管が汚染されない磁性ビーズ移動装置を提供することを課題とする。
【解決手段】磁性ビーズ移動装置10は、水平方向及び上下方向へ移動される移動体11と、移動体11に昇降可能に取付けられる筒体12と、この筒体12の下端に着脱可能に嵌められるキャップ13と、移動体11に取付けられ筒体12を昇降させる筒体昇降手段14と、筒体12に昇降可能に取付けられキャップ13内まで延びる軸体16と、この軸体16の下端に固定され磁性ビーズを吸着する磁力を備えている永久磁石18と、筒体12に取付けられ、軸体16を昇降する軸体昇降手段19と、移動体11、筒体昇降手段14及び軸体昇降手段19の動作を制御する制御部21と、からなる。
【効果】筒体(従来の吸引管に相当)は微生物で汚れる心配はなく、繰り返し使用でき、回収されたキャップは、滅菌処理を施すことで再使用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器の培養液中に沈められ微生物が付着している磁性ビーズを、保存容器へ移す磁性ビーズ移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の付着したビーズを培養容器から保存容器へ移し、微生物を長期間保存する技術が実用に供されている。一般に、培養容器から保存容器へのビーズの移動には、ピンセットが用いられる。
【0003】
ピンセットは小規模なラボに適している。一方、微生物のライブラリ構築が提案されつつある。このライブラリでは、多量のビーズを培養容器から保存容器へ移すことが行われる。このような多量のビーズの移動には、ピンセットは非効率であり、好適とは言えない。
【0004】
そこで、ビーズの移動技術として、ピンセットを使わない移動装置が提案されている(例えば、特許文献1(図3)参照。)。
【0005】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)に示すように、圧力制御手段101で吸引管102内部を負圧にし、ノズル103の先端にビーズ104を吸着する。次に(b)に示すように、寒天培地シャーレ105に形成されたコロニー106上に、ノズル103を移動する。次に(c)に示すように、コロニー106にビーズ104の下半部を浸し、コロニー106を形成する微生物をビーズ104に付着させる。そして、(d)に示すように、ウェル107上にノズル103を移動する。この後、吸引管102を正圧にする。すると、ノズル103からビーズ104が離れ、ウェル107上に落下する。
【0006】
上記した特許文献1の技術では、ビーズ104に局部的に微生物を付着させる。ビーズ104に、より多量の微生物を付着させる要求が発生した場合には、一対策として、ビーズ104を培養液に浸漬させることが考えられる。
【0007】
仮に、培養液に沈んでいるビーズを、特許文献1の吸引管102で吸引させると、培養液が吸引管102内に吸上げられる。この吸上げられた培養液が、次のサイクルでビーズに付着することにより、汚染(コンタミネーション)の問題が起きる。
【0008】
そこで、汚染の問題が解決できる移動技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−210931公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、吸引管が汚染されない磁性ビーズ移動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、培養容器の培養液中に沈められ微生物が付着している磁性ビーズを、保存容器へ移す磁性ビーズ移動装置において、
水平方向及び上下方向へ移動される移動体と、
上下に延びて前記移動体に昇降可能に取付けられる筒体と、
この筒体の下端に着脱可能に嵌められるキャップと、
前記移動体に取付けられ、前記筒体の下端が前記移動体の下面より下方へ所定長さだけ突き出た状態から前記筒体の下端が前記移動体の下面に合致する又は前記筒体の下端が前記移動体に没するまでの間、前記筒体を昇降させる筒体昇降手段と、
前記筒体に昇降可能に取付けられ前記筒体を貫通し且つ前記キャップ内まで延びる軸体と、
この軸体の下端に固定され前記磁性ビーズを吸着する磁力を備えている永久磁石と、
前記筒体に取付けられ、前記永久磁石が前記キャップ内で移動するように前記軸体を昇降する軸体昇降手段と、
キャップストッカに置かれている前記キャップに前記筒体を挿入して、前記キャップを前記キャップストッカからピックアップし、このキャップを前記培養容器に沈めて前記永久磁石の作用で前記キャップの外表面に前記磁性ビーズを付着させ、次にキャップを前記保存容器へ移し、次に前記軸体昇降手段で前記軸体を上昇させることにより前記永久磁石を上昇させて磁気吸着を解除することにより前記磁性ビーズを前記保存容器内へ移し、次に前記筒体昇降手段で前記筒体を上昇させることにより、用済みの前記キャップを前記筒体から分離し、次に前記筒体を前記キャップストッカへ戻す、一連の制御を実施する制御部と、からなることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、培養容器の培養液中に沈められ微生物が付着している磁性ビーズを、保存容器へ移す磁性ビーズ移動装置において、
実験者の手で握られる筒状のグリップと、
このグリップに軸方向移動可能に挿入された外筒と、
この外筒に軸方向移動可能に挿入された筒体と、
この筒体の先端に着脱可能に嵌められるキャップと、
前記筒体に軸方向移動可能に挿入され前記キャップ内まで延びる軸体と、
この軸体の先端に固定され前記磁性ビーズを吸着する磁力を備えている永久磁石と、
前記永久磁石を前記キャップ内に進入させることができるように、前記軸体の基部に取付けられ前記実験者の親指で押される第1指掛け部と、
この第1指掛け部により前進した前記軸体を元の位置に戻すために、前記軸体と前記筒体との間に設けられた第1弾性体と、
前記筒体の先端に前記外筒の先端が揃うまで前記外筒を前進させ、この外筒で前記筒体の先端に嵌められているキャップを外すことできるように、前記外筒に取付けられ前記実験者の親指で前進させる第2指掛け部と、
この第2指掛け部により前進した前記外筒を元の位置に戻すために、前記外筒と前記グリップとの間に設けられた第2弾性体と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、筒体にキャップを被せ、このキャップ内に永久磁石を置き、磁力で磁性ビーズをキャップの外表面に付着させるようにした。
筒体に磁性ビーズが触れないため、筒体は、微生物で汚れる心配はなく、繰り返し使用できる。
一方、微生物が付着したキャップは、筒体昇降手段により、使用後に筒体から外す。外されたキャップは滅菌処理を施すことで再使用が可能となる。
【0014】
このように、本発明によれば、筒体(従来の吸引管に相当。)が汚染されない磁性ビーズ移動装置が提供される。
【0015】
そして、移動体、筒体昇降手段、軸体昇降手段及びこれらの動作を制御する制御部によって、キャップの装着、磁性ビーズの移動、及び、キャップの分離の一連の動作が自動的に行われる。したがって、多量のビーズを迅速に培養容器から保存容器へ移動することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、筒体にキャップを被せ、このキャップ内に永久磁石を置き、磁力で磁性ビーズをキャップの外表面に付着させるようにした。
筒体に磁性ビーズが触れないため、筒体は、微生物で汚れる心配はなく、繰り返し使用できる。
一方、微生物が付着したキャップは、第2指掛け部を押すことにより、使用後に筒体から外す。外されたキャップは滅菌処理を施すことで再使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施例1の磁性ビーズ移動装置の断面図である。
【図2】磁性ビーズ移動装置の作用を説明する図である。
【図3】キャップストッカのキャップを筒体に挿入するまでの作用を説明する図である。
【図4】培養容器内の磁性ビーズを取り出すまでの作用を説明する図である。
【図5】保存容器内へ磁性ビーズを投入するまでの作用を説明する図である。
【図6】用済みのキャップを回収するまでの作用を説明する図である。
【図7】実施例2に係る磁性ビーズ移動装置の断面図である。
【図8】実施例2に係る磁性ビーズ移動装置の作用図である。
【図9】従来のビーズ移動技術の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0019】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、磁性ビーズ移動装置10は、水平方向及び上下方向へ移動される移動体11と、この移動体11に昇降可能に取付けられる筒体12と、この筒体12の下端に着脱可能に嵌められるキャップ13と、移動体11に取付けられる筒体昇降手段14と、筒体12に昇降可能に取付けられる軸体16と、この軸体16の下端に固定され磁性ビーズ(図2、符号17)を吸着する磁力を備えている永久磁石18と、筒体12に取付けられ軸体16を昇降する軸体昇降手段19と、移動体11、筒体昇降手段14及び軸体昇降手段19の動作を制御する制御部21と、からなる。
【0020】
移動体11は、上下に延びるアーム部22と、このアーム部22の下端から側方に延びて筒体12及び筒体昇降手段14を支持する支持部23と、支持部23の下面に設けられ、下方に延びる外筒部24と、からなる。
【0021】
筒体12は、支持部23及び外筒部24を貫通するように上下に延び、支持部23及び外筒部24のそれぞれに設けられる滑り軸受26にガイドされる。筒体12の上端に鍔部27が形成されている。筒体12の外径Dは、キャップ13の内径dよりも少し大きく設定されている。
【0022】
筒体昇降手段14は、本例ではシリンダユニットであり、支持部23と鍔部27の間に配置される。ピストンロッド28は、鍔部27にナット29で固定される。筒体昇降手段14は、筒体12の下端が外筒部24の下端より下方へ所定長さLだけ突き出た状態から、筒体12の下端が外筒部24の下面に合致する又は筒体12の下端が外筒部24に没するまでの間、鍔部27を上下させる。
【0023】
軸体16は、筒体12を貫通し且つ下端がキャップ13内まで延びる。
軸体昇降手段19は、本例ではシリンダユニットであり、鍔部27と連結プレート31の間に配置される。軸体16の上部は、鍔部27よりも上方に延びており、連結プレート31及びナット32、33を用いてピストンロッド34に連結されている。
【0024】
永久磁石18は、円柱形状を呈する。永久磁石18には、ネオジウム磁石又はコバルトサマリウム磁石が好適である。寸法を例示すると、直径D1は、2〜3mm、長さL1は、3〜10mmである。また、永久磁石18の磁力は、3000G(ガウス)程度が適当である。
【0025】
次に、キャップ13、ウェル(培養容器)、磁性ビーズ及び保存用チューブ(保存容器)について説明する。
図2に示すように、クリーンなキャップ13が、キャップストッカ36の穴部37に挿入されている。キャップ13の材質は、使用後のキャップ13の滅菌処理(例えばオ−トクレーブ処理)を考慮すると、耐熱性及び耐薬品性に優れるポリフェニレンスルファイドが好適である。
【0026】
培養容器としてのウェル38は、ウェルプレート39の穴部41に挿入されており、ウェル38の中に所定量(例えば0.25cm)の培養液42が注入されている。培養液42中に、複数の磁性ビーズ17が沈んでいる。
【0027】
磁性ビーズ17は、球状の多孔質体であり、磁性ビーズ17の表面及び内部に、培養液42中の所定の微生物(例えば、細菌、カビ、酵母等)が付着している。例えば、直径2mmの磁性ビーズ1粒当たり、10〜10個の微生物を固定化することが可能である。磁性ビーズ17の材質は、マグネタイトとキトサンの複合体が好適である。また、培養液0.25cmに対し、4〜10個の直径2mmの磁性ビーズ17を沈めるのが適当である。
【0028】
保存容器としての保存用チューブ43は、チューブラック44の穴部46に挿入されており、例えばポリプロピレンからなる。各保存用チューブ43に所定量(例えば0.05cm)の保存液47が注入されている。
【0029】
なお、磁性ビーズ17の入った保存用チューブ43は、L−乾燥法(drying from the liquid state:L−drying)によって4〜5℃で長期間保存される。磁性ビーズ17に固定化した微生物は、長期間保存後であっても培地で培養されることで、必要時に復元できる。
【0030】
次に、磁性ビーズ移動装置の作用について、説明する。
磁性ビーズ移動装置10では、制御部(図1、符号21)により、移動体11、筒体昇降手段14及び軸体昇降手段19が制御される。この制御の具体例は次の通りである。
【0031】
矢印(1)のように、キャップストッカ36からキャップ13をピックアップし、矢印(2)のように、キャップ13をウェルプレート39上に移動する。矢印(3)のように、キャップ13をウェル38内へ降ろす。
【0032】
次に、磁性ビーズ17が付着したキャップ13を、矢印(4)のようにチューブラック44上に移動する。矢印(5)のように、キャップ13を保存用チューブ43内へ降ろし、保存液47中に磁性ビーズ17を投入する。
【0033】
そして、用済みのキャップ13を、矢印(6)のように回収ストッカ48上に移動し、矢印(7)のように降ろす。用済みのキャップ13を回収ストッカ48に置いた後、矢印(8)のように移動体11をキャップストッカ36上に戻す。
【0034】
次に、上記矢印(1)、矢印(3)、矢印(5)及び矢印(7)の動作を、図3〜図6で詳しく説明する。
【0035】
図3(a)に示すように、筒体12の下端を外筒部24よりも所定長さLだけ突出させ、この突出した筒体12の下端をキャップ13に向けて降ろす(矢印(1))。
次に、(b)に示すように、外筒部24の下端がキャップ13の上端に当たるまで、筒体12をキャップ13内に嵌める。このとき、筒体12がキャップ13に圧入されるので、キャップ13が筒体12から外れる心配はない。
そして、(c)に示すように、筒体12を上昇させ、キャップ13をキャップストッカ36の穴部37から抜く(矢印(9))。
【0036】
図4(a)に示すように、ウェル38上にあるキャップ13を降ろす(矢印(3))。
(b)に示すように、キャップ13を培養液42中に沈め、永久磁石18の磁力により、磁性ビーズ17をキャップ13の外表面に付着させる。
そして、(c)に示すように、磁性ビーズ17が付着したキャップ13を上昇させ、磁性ビーズ17をウェル38から取り出す(矢印(10))。
【0037】
このように本例では、筒体12にキャップ13を被せ、このキャップ13内に永久磁石18を置き、磁力で磁性ビーズ17をキャップ13の外表面に付着させるようにした。筒体12に磁性ビーズ17が触れないため、筒体12は、微生物で汚れる心配はなく、繰り返し使用できる。したがって、筒体(従来の吸引管に相当。)12が汚染されない。
【0038】
ここで、本発明で永久磁石を選択した理由を説明する。磁性ビーズ17のキャップ13への吸着には、本例のような永久磁石18を使用する他、電磁石を用いることが考えられる。しかし、電磁石をキャップ13内に収納すると、コイル及び鉄心に発生する熱がキャップ13に伝わる。熱でキャップ13が暖まると、磁性ビーズ17に付着した微生物に影響を与える虞れがある。したがって、本発明では、熱を発生せず、微生物に影響を与えない永久磁石を用いることとした。
【0039】
図5(a)に示すように、保存用チューブ43上にあるキャップ13を降ろす(矢印(5))。
結果、(b)に示すように、キャップ13の底部が保存液47に沈み、磁性ビーズ17も沈む。
(c)に示すように、軸体昇降手段19のピストンロッド32を矢印(11)のように駆動することにより、軸体16及び永久磁石18を上昇させる。すると、永久磁石18と磁性ビーズ17との間に働く磁力が弱まる。結果、磁性ビーズ17がキャップ13の外表面から離れ、保存液47中に残る。
そして、(d)に示すように、キャップ13を上昇させる(矢印(12))。
【0040】
図6(a)に示すように、回収ストッカ48上にあるキャップ13を降ろす(矢印(7)。
(b)に示すように、キャップ13を穴部49に挿入する。
(c)に示すように、キャップ13の上端を外筒24の下端で押さえつつ、筒体昇降手段14のピストロッド28を矢印(13)のように駆動する。すると、筒体12がキャップ13を回収ストッカ48に残したまま、上昇する。筒体12の下端を外筒部24の下面に合致させる又は筒体12の下端を外筒部24に没入させると、キャップ13が筒体12から完全に抜ける。
【0041】
キャップ13を筒体に着脱可能に嵌める手段として、本例のようにキャップ13に筒体12を圧入し、筒体12を外筒部24に対して上下動させる手段の他、コレットチャックを用いて筒体の下端をキャップ内で縮径・拡径させる手段が考えられる。コレットチャック方式では、構造が複雑で筒体の部品コストが高くなる。
【0042】
(d)に示すように、用済みのキャップ13を回収ストッカ48に残し、移動体11を上昇させる(矢印(14))。回収されたキャップ13は、滅菌処理を施すことで再使用が可能となる。
【0043】
移動体11、筒体昇降手段14、軸体昇降手段19及びこれらの動作を制御する制御部(図1、符号21)によって、一連の動作が自動的に行われる。したがって、多量の磁性ビーズ(図2、符号17)を迅速にウェル(図2、符号38)から保存用チューブ(図2、符号43)へ移動することができる。
【0044】
以上に述べた磁性ビーズ移動装置(図1、符号10)は、移動体(図1、符号11)、筒体昇降手段(図1、符号14)、軸体昇降手段(図1、符号19)及びこれらの動作を制御する制御部(図1、符号21)を備える自動装置であって、比較的大規模な研究設備向けの装置である。一方、小規模な研究設備には、より簡便な磁性ビーズ移動装置が求められる。そこで、小規模なラボに好適な磁性ビーズ移動装置の例を次に説明する。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図7に示すように、磁性ビーズ移動装置10Bは、ピペットを使う感覚で使用できるハンドツールであって、筒状のグリップ51と、このグリップ51に軸方向移動可能に挿入された外筒52と、この外筒52に軸方向移動可能に挿入された筒体12Bと、この筒体12Bの基端に着脱可能に嵌められるキャップ13と、筒体12Bに軸方向移動可能に挿入されキャップ13内まで延びる軸体16Bと、この軸体16Bの先端に固定され磁性ビーズ(図8、符号17)を吸着する磁力を備えている永久磁石18と、を主要素とする。
【0046】
また、磁性ビーズ移動装置10Bは、軸体16Bの基端に取付けられる第1指掛け部53と、この第1指掛け部53により前進した軸体16Bを元の位置に戻す第1弾性体54と、筒体12Bの先端に外筒52の先端が揃うまで外筒52を前進させる第2指掛け部56と、この第2指掛け部56により前進した外筒52を元の位置に戻す第2弾性体57と、を備える。
【0047】
グリップ51は、グリップ51の先端で開口する第1内径部58と、この第1内径部58の基端から段差部59を介してグリップ51の基端へ延びる第2内径部61と、を有している。グリップ51の基部周壁に、第2内径部61に開口する長穴62が設けられている。長穴62の長手方向は、グリップ51の軸方向に沿っている。
【0048】
外筒52は、第1内径部58を摺動する小径部63と、この小径部63の基端から段差部64を介してグリップ51の基端へ延び、第2内径部61を摺動する大径部66と、からなる。また、外筒52の内面に、筒体12Bをガイドする滑り軸受67が設けられている。
【0049】
筒体12Bは、外筒52の先端よりも所定長さLだけ突出しており、この突出した部分にキャップ13が装着される。筒体12Bの基部に、段差部68、ばね収納孔69及び鍔状の取付け部71が形成されている。取付け部71は、グリップ51の基端にビス72で締結される。
【0050】
第1指掛け部53は、軸体16Bの基端に設けられ、筒体12Bの取付け部71から突出している。第1指掛け部56は、ばね収納孔69内で摺動可能であり、矢印(15)の向きに押されることで永久磁石18をキャップ13内に進入させる。
【0051】
第1弾性体54は、本例では圧縮コイルばねであって、ばね収納孔69内で軸体16Bの基端に嵌まる。第1弾性体54は、先端が段差部68に支持され、基端が第1指掛け部53に支持されている。第1弾性体54は、第1指掛け部53をグリップ51の基端に向く方向に付勢する。
【0052】
第2指掛け部56は、大径部66にボルト74で締結され長穴62内を移動する締結部76と、この締結部76からグリップ51の基端に延びる操作部77と、からなる。第2指掛け部56は、矢印(16)の向きに押されることで外筒52を前進させる。
【0053】
第2弾性体57は、本例では圧縮コイルばねであって、先端が段差部59に支持され、基端が段差部64に支持される。第2弾性体57は、外筒52をグリップ51の基端に向く方向に付勢する。
【0054】
以上に述べた実施例2の作用を次に述べる。
図8は、磁性ビーズ移動装置10Bの作用図であり、(a)に示すように、実験者は、先ずグリップ51を握り、キャップ13を培養液42内へ沈める。そして、第1指掛け部53を親指で押下げて(矢印(15))、永久磁石18をキャップ13の底部近傍に下げる。すると、永久磁石18の磁力により、磁性ビーズ17がキャップ13の外表面に付着する。
【0055】
次に、(b)に示すように、キャップ13及び磁性ビーズ17を保存用チューブ43に挿入し、親指を第1指掛け部53から離す(矢印(17))。すると、第1弾性体(図7、符号54)の復元力で永久磁石18が上がるため、磁性ビーズ17がキャップ13から離れて保存液47中に沈む。
【0056】
次に、(c)に示すように、回収ストッカ48の穴部49にキャップ13を差し込み、親指で第2指掛け部56を押す(矢印(16))。すると、外筒52の下端がキャップ13を押下げる(矢印(18))。結果、キャップ13が筒体12Bから抜けて回収ストッカ48に残る。そして、実験者は、第2指掛け部56から親指を離し、筒体12Bの下端を再び露出させる。露出した筒体12Bの下端に、新しいキャップ13を装着する。
【0057】
前記(a)〜(c)の一連の操作を繰り返すことにより、磁性ビーズ17をウェル38から保存用チューブ43に片手で容易に移すことができる。磁性ビーズ移動装置10Bであれば、小規模なラボのニーズにも対応できる。
【0058】
実施例2においても、筒体12Bに磁性ビーズ17が触れないため、筒体12Bは、微生物で汚れる心配はなく、繰り返し使用できる。したがって、筒体(従来の吸引管に相当。)12Bが汚染されない。回収されたキャップ13は、滅菌処理を施すことで再使用が可能となる。
【0059】
尚、本発明の磁性ビーズ移動装置は、実施の形態では、球状の磁性ビーズを移動する技術に適用したが、多面体形状、板状、リング状などの磁性ビーズを移動する技術にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の磁性ビーズ移動装置は、球状の磁性ビーズを培養容器から保存容器へ移動する磁性ビーズ移動技術に好適である。
【符号の説明】
【0061】
10、10B…磁性ビーズ移動装置、11…移動体、12、12B…筒体、13…キャップ、14…筒体昇降手段、16、16B…軸体、17…磁性ビーズ、18…永久磁石、19…軸体昇降手段、21…制御部、36…キャップストッカ、38…ウェル(培養容器)、42…培養液、43…保存用チューブ(保存容器)、51…グリップ、52…外筒、53…第1指掛け部、54…第1弾性体、56…第2指掛け部、57…第2弾性体、L…所定長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器の培養液中に沈められ微生物が付着している磁性ビーズを、保存容器へ移す磁性ビーズ移動装置において、
水平方向及び上下方向へ移動される移動体と、
上下に延びて前記移動体に昇降可能に取付けられる筒体と、
この筒体の下端に着脱可能に嵌められるキャップと、
前記移動体に取付けられ、前記筒体の下端が前記移動体の下面より下方へ所定長さだけ突き出た状態から前記筒体の下端が前記移動体の下面に合致する又は前記筒体の下端が前記移動体に没するまでの間、前記筒体を昇降させる筒体昇降手段と、
前記筒体に昇降可能に取付けられ前記筒体を貫通し且つ前記キャップ内まで延びる軸体と、
この軸体の下端に固定され前記磁性ビーズを吸着する磁力を備えている永久磁石と、
前記筒体に取付けられ、前記永久磁石が前記キャップ内で移動するように前記軸体を昇降する軸体昇降手段と、
キャップストッカに置かれている前記キャップに前記筒体を挿入して、前記キャップを前記キャップストッカからピックアップし、このキャップを前記培養容器に沈めて前記永久磁石の作用で前記キャップの外表面に前記磁性ビーズを付着させ、次にキャップを前記保存容器へ移し、次に前記軸体昇降手段で前記軸体を上昇させることにより前記永久磁石を上昇させて磁気吸着を解除することにより前記磁性ビーズを前記保存容器内へ移し、次に前記筒体昇降手段で前記筒体を上昇させることにより、用済みの前記キャップを前記筒体から分離し、次に前記筒体を前記キャップストッカへ戻す、一連の制御を実施する制御部と、からなることを特徴とする磁性ビーズ移動装置。
【請求項2】
培養容器の培養液中に沈められ微生物が付着している磁性ビーズを、保存容器へ移す磁性ビーズ移動装置において、
実験者の手で握られる筒状のグリップと、
このグリップに軸方向移動可能に挿入された外筒と、
この外筒に軸方向移動可能に挿入された筒体と、
この筒体の先端に着脱可能に嵌められるキャップと、
前記筒体に軸方向移動可能に挿入され前記キャップ内まで延びる軸体と、
この軸体の先端に固定され前記磁性ビーズを吸着する磁力を備えている永久磁石と、
前記永久磁石を前記キャップ内に進入させることができるように、前記軸体の基部に取付けられ前記実験者の親指で押される第1指掛け部と、
この第1指掛け部により前進した前記軸体を元の位置に戻すために、前記軸体と前記筒体との間に設けられた第1弾性体と、
前記筒体の先端に前記外筒の先端が揃うまで前記外筒を前進させ、この外筒で前記筒体の先端に嵌められているキャップを外すことできるように、前記外筒に取付けられ前記実験者の親指で前進させる第2指掛け部と、
この第2指掛け部により前進した前記外筒を元の位置に戻すために、前記外筒と前記グリップとの間に設けられた第2弾性体と、からなることを特徴とする磁性ビーズ移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−110279(P2012−110279A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262554(P2010−262554)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(301037213)独立行政法人製品評価技術基盤機構 (25)
【Fターム(参考)】