磁性体アンテナ及びアンテナ装置
【課題】リーダ・ライタ用アンテナとの結合量を低下させることなく、携帯電子機器同士の通信時に不必要に増大するアンテナ間の結合量を抑えて、安定した通信特性が得られるようにした磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置を構成する。
【解決手段】磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13aのループ面の法線はNa方向へ向き、磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13bのループ面の法線はNb方向へ向く。この方向Na,Nbは互いにほぼ平行であり、且つ図中一点鎖線で示す磁性体コアの中心軸に対してはいずれも非平行とする。この二つの磁性体アンテナ22A,22B同士を対向配置した状態で、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向く、コイルのループ面の法線が互いに交差する関係とする。
【解決手段】磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13aのループ面の法線はNa方向へ向き、磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13bのループ面の法線はNb方向へ向く。この方向Na,Nbは互いにほぼ平行であり、且つ図中一点鎖線で示す磁性体コアの中心軸に対してはいずれも非平行とする。この二つの磁性体アンテナ22A,22B同士を対向配置した状態で、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向く、コイルのループ面の法線が互いに交差する関係とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部機器と電磁界信号を介して通信するRFID(Radio FrequencyIdentification)システム等に用いられる磁性体アンテナ及び該磁性体アンテナを備えるアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムで用いられる携帯電子機器に搭載されるアンテナが特許文献1に開示されている。図1(A)は、特許文献1に記載される磁性体アンテナ2の斜視図、図1(B)は、そのフレキシブル基板5の展開平面図である。
【0003】
図1(A)(B)に示すように、コイル導体パターンが形成されたフレキシブル基板5が磁性体コア4a,4bにそれぞれ巻き付けられて、第1のコイル部2a及び第2のコイル部2bが形成されている。この二つのコイル部2a,2bが回路基板21に所定間隔を有して配置(実装)されることによってアンテナ装置が構成される。
【0004】
フレキシブル基板5の平面視した形状は開口部8を有するコの字状である。フレキシブル基板5には、コイル導体6および接続導体7が形成されていて、フレキシブル基板5が磁性体コア4a,4bにそれぞれ巻き付けられた状態で、コイル導体の端部同士(例えば11と12)が接続されて、コイル部2a,2bが構成される。接続導体の両端部は突出部9にまでそれぞれ引き出されて、この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。
【特許文献1】特許第3957000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなRFIDシステムなどに用いられるアンテナ装置を備えた携帯電子機器においては、単にリーダ・ライタにかざして通信を行うだけでなく、同様の携帯電子機器同士を近接させて互いに通信するアプリケーションも可能である。ところが、従来のRFIDシステムなどに用いられる磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置においては、次に述べるような問題があった。
【0006】
図2は携帯電話端末などの携帯電子機器同士での通信状態を示す図である。図2(A)において200a,200bはそれぞれ同様の携帯電子機器であり、これを図2(B)に示すように同一面(例えば表示パネル面及び操作面)同士を対向させて近接配置することによって、内蔵のアンテナ装置同士を結合させて通信できる。
【0007】
図3は上記携帯電子機器同士で通信する状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。携帯電子機器200Aの内部には、磁性体アンテナ2Aと回路基板21とによるアンテナ装置33Aを備え、もう一つの携帯電子機器200Bには、同様に磁性体アンテナ2Bと回路基板21とによるアンテナ装置33Bを備えている。磁性体アンテナ2A、2Bは磁性体コア4a,4bの周囲にコイル部2a,2bをそれぞれ備えている。
【0008】
二つの携帯電子機器200A,200Bを対向配置することによって、図中破線の曲線で示すように、アンテナ装置33A、33Bは互いに磁界結合する。
【0009】
RFIDシステムに適用する携帯電子機器においては、その筺体のほぼ中央部とリーダ・ライタ側アンテナの中央部とをほぼ一致させて通信を行うので、携帯電子機器側のアンテナは、その筺体のほぼ中央部に配置されることになる。したがって二つの携帯電子機器同士を対向配置した状態では、図3に示したようにコイル部2a,2b同士が重なることになり、アンテナ装置33A,33B同士の結合量が必要以上に大きなものとなる。
【0010】
この作用について図4を参照して説明する。図4(A)(B)は、二つの携帯電子機器同士を対向配置した際のアンテナ装置33A,33B同士の結合状態を示す等価回路、図4(C)は、そのアンテナ装置33A,33B同士の結合状態での共振周波数の関係を示す図である。
【0011】
アンテナ装置33A,33Bは等価的には図4(A)(B)に示すとおりLC共振回路であり、それぞれの単独の共振周波数は13.56MHzである。この2つのアンテナ装置33A,33B同士の結合(エネルギーの授受)はコンデンサCoで表すことができ、その結合の大きさはコンデンサCoの容量の大きさで表すことができる。
【0012】
2つの共振回路間でエネルギーの授受がある共振系は、図4(A)(B)に示すように、電流の流れる向きの異なる2つのモードで共振現象が生じる。図4(A)のように偶モードで結合する場合には結合用のコンデンサCo部に電流が流れず、図4(B)のように奇モードで結合する場合には結合用のコンデンサCo部に電流が流れる。そのため、コンデンサCoに電流が流れない偶モードの共振周波数feは、図4(C)に示すように、結合の大きさにかかわらず変化しない。一方、コンデンサCoに電流が流れる奇モードでは、結合が大きくなる程、コンデンサCoの容量成分の増大にともなって、その共振周波数はfo1からfo2へ低下することになる。
【0013】
この2つの結合モードの一方の共振周波数が一定で、他方の共振周波数がシフトすると、2つのアンテナ装置33A,33B同士の結合状態での共振周波数は結合が大きくなる程、低域へシフトすることになる。
【0014】
このように2つのアンテナ装置同士の結合量が大きくなりすぎると、アンテナの共振周波数が大幅に変化することにより、通信に用いる信号の中心周波数から共振周波数がずれて、アンテナ間の通信性能が低下するという問題が生じる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、リーダ・ライタ用アンテナとの結合量を低下させることなく、携帯電子機器同士の通信時に不必要に増大するアンテナ間の結合量を抑えて、安定した通信特性が得られるようにした磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題点を解決するために、本発明は次のように構成する。
(1)磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルのコイル導体の巻回パターン同士を非面対称となるように、第1・第2のコイルを形成する。
【0017】
(2)例えば、前記磁性体コアは矩形平板状をなし、前記第1・第2のコイルは、前記磁性体コアの同一主面同士を対向配置したとき、前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が、互いに交差する関係とする。
【0018】
(3)また、例えば、前記第1・第2のコイルのループ面の法線は互いに平行で且つ磁性体コアの軸に対して非平行とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のような構成によって、同一のアンテナ同士を対向状態で近接させた際に、アンテナ同士が不必要に強く結合することがなく、アンテナの共振周波数がずれることによる通信不能状態が回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
《第1の実施形態》
図5は、第1の実施形態に係る磁性体アンテナの構成、及びそれを用いたアンテナ装置を内蔵する二つの携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナの配置関係を示す図である。
【0021】
図5(A)はフレキシブル基板の展開した平面図、図5(B)は磁性体コア14aの回りを取り巻くように折り曲げた状態での上面図、図5(C)はその正面図、図5(D)は左右方向に反転させた背面図である。図5(B)(C)(D)については磁性体コア14a,14bも含めて表している。
【0022】
図5ではフレキシブル基板15の端面を単線で表しているが、実際には数10μm程度の厚さを有する。フレキシブル基板15の基材はポリイミドフィルムである。その他にガラスエポキシフィルムなどの折り曲げ可能な絶縁体フィルムを用いることもできる。また、後に詳述するコイル導体および接続導体は単線で図示しているが、実際には線幅0.5mm〜1mmで、厚みは0.05mm〜0.1mmである。
【0023】
磁性体コア14a,14bとしては、それぞれ例えば主面の横方向が8mm、縦方向が10mmの矩形で厚さが1.5mmのフェライト板が用いられる。
【0024】
図5(B)に示すように、フレキシブル基板15が磁性体コア14a,14bを取り巻くように折り曲げられた状態で、次のように各コイル導体同士が接続される。
【0025】
図5(A)中の符号p1〜p5,q1〜q5は、フレキシブル基板15に形成されているコイル導体131〜135の端部(接続点)であり、図5(B)に示した状態で、コイル導体131〜134の一方の端部p1〜p4がコイル導体132〜135の他方の端部q1〜q4に対してそれぞれ導通し、コイル導体135の一方の端部p5が接続線路137の端部q5に導通する。
【0026】
コイル導体131の一方の端部はフレキシブル基板15の突出部9にまでそれぞれ引き出されている。この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。
【0027】
フレキシブル基板15には補助導体141,142、143,144が形成されている。これらは、フレキシブル基板の折り曲げ位置に対して、コイル導体131〜135とともに均等(等間隔)に配置されている。仮に、フレキシブル基板の折り曲げ部分に均等(等間隔)に電極パターンが無い場合には、部分的な硬さに差が生じることになり、フレキシブル基板を垂直に折り曲げることが困難となる。これに対して、図5に示したように、折り曲げ部にコイル導体131〜135とともに補助導体が均等(等間隔)に配置されることにより、硬さが均等になり、フレキシブル基板が垂直に折り曲げられるようになる。
【0028】
このように、第1・第2のコイル13a,13bのコイル導体の巻回パターン同士は非面対称の形状としている。
【0029】
図6(A)は磁性体アンテナ22の一方の面から見た平面図、図6(B)は、それを左右方向に反転させた背面面である。
磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13aのループ面の法線はNa方向へ向き、磁性体コア14bの周囲に巻回されたコイル13bのループ面の法線はNb方向へ向く。この方向Na,Nbは互いにほぼ平行であり、且つ図中一点鎖線で示す磁性体コアの中心軸に対してはいずれも非平行である。
【0030】
図6(C)は、二つの磁性体アンテナ22A,22B同士を対向配置した状態での、第1・第2のコイル13a,13bのループ面の法線の関係を示している。一方の磁性体アンテナ22Aは図6(A)に示した向きであり、他方の磁性体アンテナ22Bは図6(B)に示した向きであり、この例では磁性体アンテナ22Aの手前に磁性体アンテナ22Bを配置している。
【0031】
このように、二つの磁性体アンテナ同士を対向配置した状態で、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向くコイルのループ面の法線は互いに交差する関係となる。
【0032】
図7は、携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。携帯電子機器201Aの内部には磁性体アンテナ22Aとそれを実装する回路基板21とによるアンテナ装置43Aを備え、もう一つの携帯電子機器201Bには、磁性体アンテナ22Bとそれを実装する回路基板21とによるアンテナ装置43Bを備えている。この二つの携帯電子機器201A,201Bを対向配置することによって、図中破線の曲線で示すように、磁性体アンテナ22A,22Bは互いに磁界結合する。しかし、図3に示した従来構造のアンテナ装置を備えたものと異なり、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向くコイルのループ面の法線は互いに交差するので、磁性体アンテナ22A,22B同士の結合量が必要以上に大きくならない。
【0033】
そのため、対向するアンテナ同士が不必要に強く結合することがなく、アンテナの共振周波数がずれることによる通信不能状態が回避できる。
【0034】
《第2の実施形態》
図8・図9は第2の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。ここでフレキシブル基板のベース部分は図示せず、フレキシブル基板に形成されたコイル導体・接続線路及び磁性体コアについて図示している。図5・図6に示した磁性体アンテナと異なり、コイル導体131〜136の巻回数を6としている。また、磁性体コア14a,14bの外側端を断面L字状に屈曲した形状としている。この屈曲した外側端を回路基板の縁よりはみ出すように配置することによって磁束の集磁効果を高めることができる。
【0035】
また図9の例では、磁性体コア14a,14bの主面に沿って延びるコイル導体131〜136を途中で部分的に屈曲させて、二つのコイル13a,13b同士を非面対称の関係としている。
【0036】
なお、図8・図9においては二つのコイル13a,13bの間を、接続線路130,137を介して閉ループとして表しているが、この閉ループを接続線路130,137のいずれかの位置で開放して、その開放部を回路基板上の接続部に接続すればよい。
【0037】
《第3の実施形態》
図10〜図12は第3の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。ここでフレキシブル基板のベース部分は図示せず、フレキシブル基板に形成されたコイル導体・接続線路及び磁性体コアについて図示している。
【0038】
第1・第2の実施形態では、いずれもコイル13a,13bを線幅一定のコイル導体の巻回パターンによって形成したが、第3の実施形態では、部分的に線幅の異なったコイル導体を形成して、第1・第2のコイル13a,13bを非面対称としている。
【0039】
図10の例では、第1のコイル13aのコイル導体132〜136が屈曲していないのに対し、第2のコイル13bのコイル導体132〜136は途中で屈曲している。これによって第1・第2のコイル13a,13bを非面対称としている。
【0040】
なお、第1のコイル13aと第2のコイル13bの外側のコイル導体131をそれぞれ太くして、外側端のコイル導体のループ面から外側を向く法線が磁性体コアの屈曲部(図における下方向)を向くようにしている。これにより集磁効果を更に高めることができる。
【0041】
図11に示す例では、第1のコイル13aの外側のコイル導体131を面状に広がるパターンとし、第2のコイル13bの内側のコイル導体136を面状に広がるパターンとしている。
【0042】
また、図12に示す例では、第1・第2のコイル13a,13bのコイル導体131〜136によるループ面が同方向に斜めを向くようにして、第1・第2のコイル13a,13bを非面対称とし、第1のコイル13aについては外側のコイル導体131を面状に広がるパターンとしている。
【0043】
なお、各実施形態では第1・第2のコイル13a,13bを直列に接続した例を示したが、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が加算(合成)される極性であれば、両者を並列に接続してもよい。
【0044】
また、各実施形態では、磁性体コア14a,14bが左右個別に対を成すように配置したが、単一の長形矩形板状のフェライトコアの左右端に第1・第2のコイルを配置してもよい。
【0045】
さらに、磁性体アンテナは回路基板に直接実装する形態に限らず、回路基板に近接配置するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】特許文献1に記載される磁性体アンテナ2の斜視図及びそのフレキシブル基板5の展開平面図である。
【図2】携帯電話端末などの携帯電子機器同士での通信状態を示す図である。
【図3】上記携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。
【図4】二つの携帯電子機器同士を対向配置した際に、アンテナ装置同士が強く結合することによるアンテナ装置の共振周波数の変化の例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る磁性体アンテナの構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態に係る磁性体アンテナを用いたアンテナ装置を内蔵する二つの携帯電子機器同士で通信を行う状態での磁性体アンテナの配置関係を示す図である。
【図7】携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。
【図8】第2の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図9】第2の実施形態に係る別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図10】第3の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図11】第3の実施形態に係る別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図12】第3の実施形態に係るさらに別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
9…突出部
13a,13b…コイル
14a,14b…磁性体コア
15…フレキシブル基板
21…回路基板
22…磁性体アンテナ
33…アンテナ装置
43…アンテナ装置
130,137…接続線路
131〜136…コイル導体
141〜144…補助導体
200A,200B…携帯電子機器
201A,201B…携帯電子機器
Na,Nb…法線方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部機器と電磁界信号を介して通信するRFID(Radio FrequencyIdentification)システム等に用いられる磁性体アンテナ及び該磁性体アンテナを備えるアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムで用いられる携帯電子機器に搭載されるアンテナが特許文献1に開示されている。図1(A)は、特許文献1に記載される磁性体アンテナ2の斜視図、図1(B)は、そのフレキシブル基板5の展開平面図である。
【0003】
図1(A)(B)に示すように、コイル導体パターンが形成されたフレキシブル基板5が磁性体コア4a,4bにそれぞれ巻き付けられて、第1のコイル部2a及び第2のコイル部2bが形成されている。この二つのコイル部2a,2bが回路基板21に所定間隔を有して配置(実装)されることによってアンテナ装置が構成される。
【0004】
フレキシブル基板5の平面視した形状は開口部8を有するコの字状である。フレキシブル基板5には、コイル導体6および接続導体7が形成されていて、フレキシブル基板5が磁性体コア4a,4bにそれぞれ巻き付けられた状態で、コイル導体の端部同士(例えば11と12)が接続されて、コイル部2a,2bが構成される。接続導体の両端部は突出部9にまでそれぞれ引き出されて、この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。
【特許文献1】特許第3957000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなRFIDシステムなどに用いられるアンテナ装置を備えた携帯電子機器においては、単にリーダ・ライタにかざして通信を行うだけでなく、同様の携帯電子機器同士を近接させて互いに通信するアプリケーションも可能である。ところが、従来のRFIDシステムなどに用いられる磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置においては、次に述べるような問題があった。
【0006】
図2は携帯電話端末などの携帯電子機器同士での通信状態を示す図である。図2(A)において200a,200bはそれぞれ同様の携帯電子機器であり、これを図2(B)に示すように同一面(例えば表示パネル面及び操作面)同士を対向させて近接配置することによって、内蔵のアンテナ装置同士を結合させて通信できる。
【0007】
図3は上記携帯電子機器同士で通信する状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。携帯電子機器200Aの内部には、磁性体アンテナ2Aと回路基板21とによるアンテナ装置33Aを備え、もう一つの携帯電子機器200Bには、同様に磁性体アンテナ2Bと回路基板21とによるアンテナ装置33Bを備えている。磁性体アンテナ2A、2Bは磁性体コア4a,4bの周囲にコイル部2a,2bをそれぞれ備えている。
【0008】
二つの携帯電子機器200A,200Bを対向配置することによって、図中破線の曲線で示すように、アンテナ装置33A、33Bは互いに磁界結合する。
【0009】
RFIDシステムに適用する携帯電子機器においては、その筺体のほぼ中央部とリーダ・ライタ側アンテナの中央部とをほぼ一致させて通信を行うので、携帯電子機器側のアンテナは、その筺体のほぼ中央部に配置されることになる。したがって二つの携帯電子機器同士を対向配置した状態では、図3に示したようにコイル部2a,2b同士が重なることになり、アンテナ装置33A,33B同士の結合量が必要以上に大きなものとなる。
【0010】
この作用について図4を参照して説明する。図4(A)(B)は、二つの携帯電子機器同士を対向配置した際のアンテナ装置33A,33B同士の結合状態を示す等価回路、図4(C)は、そのアンテナ装置33A,33B同士の結合状態での共振周波数の関係を示す図である。
【0011】
アンテナ装置33A,33Bは等価的には図4(A)(B)に示すとおりLC共振回路であり、それぞれの単独の共振周波数は13.56MHzである。この2つのアンテナ装置33A,33B同士の結合(エネルギーの授受)はコンデンサCoで表すことができ、その結合の大きさはコンデンサCoの容量の大きさで表すことができる。
【0012】
2つの共振回路間でエネルギーの授受がある共振系は、図4(A)(B)に示すように、電流の流れる向きの異なる2つのモードで共振現象が生じる。図4(A)のように偶モードで結合する場合には結合用のコンデンサCo部に電流が流れず、図4(B)のように奇モードで結合する場合には結合用のコンデンサCo部に電流が流れる。そのため、コンデンサCoに電流が流れない偶モードの共振周波数feは、図4(C)に示すように、結合の大きさにかかわらず変化しない。一方、コンデンサCoに電流が流れる奇モードでは、結合が大きくなる程、コンデンサCoの容量成分の増大にともなって、その共振周波数はfo1からfo2へ低下することになる。
【0013】
この2つの結合モードの一方の共振周波数が一定で、他方の共振周波数がシフトすると、2つのアンテナ装置33A,33B同士の結合状態での共振周波数は結合が大きくなる程、低域へシフトすることになる。
【0014】
このように2つのアンテナ装置同士の結合量が大きくなりすぎると、アンテナの共振周波数が大幅に変化することにより、通信に用いる信号の中心周波数から共振周波数がずれて、アンテナ間の通信性能が低下するという問題が生じる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、リーダ・ライタ用アンテナとの結合量を低下させることなく、携帯電子機器同士の通信時に不必要に増大するアンテナ間の結合量を抑えて、安定した通信特性が得られるようにした磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題点を解決するために、本発明は次のように構成する。
(1)磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルのコイル導体の巻回パターン同士を非面対称となるように、第1・第2のコイルを形成する。
【0017】
(2)例えば、前記磁性体コアは矩形平板状をなし、前記第1・第2のコイルは、前記磁性体コアの同一主面同士を対向配置したとき、前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が、互いに交差する関係とする。
【0018】
(3)また、例えば、前記第1・第2のコイルのループ面の法線は互いに平行で且つ磁性体コアの軸に対して非平行とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のような構成によって、同一のアンテナ同士を対向状態で近接させた際に、アンテナ同士が不必要に強く結合することがなく、アンテナの共振周波数がずれることによる通信不能状態が回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
《第1の実施形態》
図5は、第1の実施形態に係る磁性体アンテナの構成、及びそれを用いたアンテナ装置を内蔵する二つの携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナの配置関係を示す図である。
【0021】
図5(A)はフレキシブル基板の展開した平面図、図5(B)は磁性体コア14aの回りを取り巻くように折り曲げた状態での上面図、図5(C)はその正面図、図5(D)は左右方向に反転させた背面図である。図5(B)(C)(D)については磁性体コア14a,14bも含めて表している。
【0022】
図5ではフレキシブル基板15の端面を単線で表しているが、実際には数10μm程度の厚さを有する。フレキシブル基板15の基材はポリイミドフィルムである。その他にガラスエポキシフィルムなどの折り曲げ可能な絶縁体フィルムを用いることもできる。また、後に詳述するコイル導体および接続導体は単線で図示しているが、実際には線幅0.5mm〜1mmで、厚みは0.05mm〜0.1mmである。
【0023】
磁性体コア14a,14bとしては、それぞれ例えば主面の横方向が8mm、縦方向が10mmの矩形で厚さが1.5mmのフェライト板が用いられる。
【0024】
図5(B)に示すように、フレキシブル基板15が磁性体コア14a,14bを取り巻くように折り曲げられた状態で、次のように各コイル導体同士が接続される。
【0025】
図5(A)中の符号p1〜p5,q1〜q5は、フレキシブル基板15に形成されているコイル導体131〜135の端部(接続点)であり、図5(B)に示した状態で、コイル導体131〜134の一方の端部p1〜p4がコイル導体132〜135の他方の端部q1〜q4に対してそれぞれ導通し、コイル導体135の一方の端部p5が接続線路137の端部q5に導通する。
【0026】
コイル導体131の一方の端部はフレキシブル基板15の突出部9にまでそれぞれ引き出されている。この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。
【0027】
フレキシブル基板15には補助導体141,142、143,144が形成されている。これらは、フレキシブル基板の折り曲げ位置に対して、コイル導体131〜135とともに均等(等間隔)に配置されている。仮に、フレキシブル基板の折り曲げ部分に均等(等間隔)に電極パターンが無い場合には、部分的な硬さに差が生じることになり、フレキシブル基板を垂直に折り曲げることが困難となる。これに対して、図5に示したように、折り曲げ部にコイル導体131〜135とともに補助導体が均等(等間隔)に配置されることにより、硬さが均等になり、フレキシブル基板が垂直に折り曲げられるようになる。
【0028】
このように、第1・第2のコイル13a,13bのコイル導体の巻回パターン同士は非面対称の形状としている。
【0029】
図6(A)は磁性体アンテナ22の一方の面から見た平面図、図6(B)は、それを左右方向に反転させた背面面である。
磁性体コア14aの周囲に巻回されたコイル13aのループ面の法線はNa方向へ向き、磁性体コア14bの周囲に巻回されたコイル13bのループ面の法線はNb方向へ向く。この方向Na,Nbは互いにほぼ平行であり、且つ図中一点鎖線で示す磁性体コアの中心軸に対してはいずれも非平行である。
【0030】
図6(C)は、二つの磁性体アンテナ22A,22B同士を対向配置した状態での、第1・第2のコイル13a,13bのループ面の法線の関係を示している。一方の磁性体アンテナ22Aは図6(A)に示した向きであり、他方の磁性体アンテナ22Bは図6(B)に示した向きであり、この例では磁性体アンテナ22Aの手前に磁性体アンテナ22Bを配置している。
【0031】
このように、二つの磁性体アンテナ同士を対向配置した状態で、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向くコイルのループ面の法線は互いに交差する関係となる。
【0032】
図7は、携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。携帯電子機器201Aの内部には磁性体アンテナ22Aとそれを実装する回路基板21とによるアンテナ装置43Aを備え、もう一つの携帯電子機器201Bには、磁性体アンテナ22Bとそれを実装する回路基板21とによるアンテナ装置43Bを備えている。この二つの携帯電子機器201A,201Bを対向配置することによって、図中破線の曲線で示すように、磁性体アンテナ22A,22Bは互いに磁界結合する。しかし、図3に示した従来構造のアンテナ装置を備えたものと異なり、それぞれの第1・第2のコイル13a,13bの内側端から外側端方向を向くコイルのループ面の法線は互いに交差するので、磁性体アンテナ22A,22B同士の結合量が必要以上に大きくならない。
【0033】
そのため、対向するアンテナ同士が不必要に強く結合することがなく、アンテナの共振周波数がずれることによる通信不能状態が回避できる。
【0034】
《第2の実施形態》
図8・図9は第2の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。ここでフレキシブル基板のベース部分は図示せず、フレキシブル基板に形成されたコイル導体・接続線路及び磁性体コアについて図示している。図5・図6に示した磁性体アンテナと異なり、コイル導体131〜136の巻回数を6としている。また、磁性体コア14a,14bの外側端を断面L字状に屈曲した形状としている。この屈曲した外側端を回路基板の縁よりはみ出すように配置することによって磁束の集磁効果を高めることができる。
【0035】
また図9の例では、磁性体コア14a,14bの主面に沿って延びるコイル導体131〜136を途中で部分的に屈曲させて、二つのコイル13a,13b同士を非面対称の関係としている。
【0036】
なお、図8・図9においては二つのコイル13a,13bの間を、接続線路130,137を介して閉ループとして表しているが、この閉ループを接続線路130,137のいずれかの位置で開放して、その開放部を回路基板上の接続部に接続すればよい。
【0037】
《第3の実施形態》
図10〜図12は第3の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。ここでフレキシブル基板のベース部分は図示せず、フレキシブル基板に形成されたコイル導体・接続線路及び磁性体コアについて図示している。
【0038】
第1・第2の実施形態では、いずれもコイル13a,13bを線幅一定のコイル導体の巻回パターンによって形成したが、第3の実施形態では、部分的に線幅の異なったコイル導体を形成して、第1・第2のコイル13a,13bを非面対称としている。
【0039】
図10の例では、第1のコイル13aのコイル導体132〜136が屈曲していないのに対し、第2のコイル13bのコイル導体132〜136は途中で屈曲している。これによって第1・第2のコイル13a,13bを非面対称としている。
【0040】
なお、第1のコイル13aと第2のコイル13bの外側のコイル導体131をそれぞれ太くして、外側端のコイル導体のループ面から外側を向く法線が磁性体コアの屈曲部(図における下方向)を向くようにしている。これにより集磁効果を更に高めることができる。
【0041】
図11に示す例では、第1のコイル13aの外側のコイル導体131を面状に広がるパターンとし、第2のコイル13bの内側のコイル導体136を面状に広がるパターンとしている。
【0042】
また、図12に示す例では、第1・第2のコイル13a,13bのコイル導体131〜136によるループ面が同方向に斜めを向くようにして、第1・第2のコイル13a,13bを非面対称とし、第1のコイル13aについては外側のコイル導体131を面状に広がるパターンとしている。
【0043】
なお、各実施形態では第1・第2のコイル13a,13bを直列に接続した例を示したが、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が加算(合成)される極性であれば、両者を並列に接続してもよい。
【0044】
また、各実施形態では、磁性体コア14a,14bが左右個別に対を成すように配置したが、単一の長形矩形板状のフェライトコアの左右端に第1・第2のコイルを配置してもよい。
【0045】
さらに、磁性体アンテナは回路基板に直接実装する形態に限らず、回路基板に近接配置するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】特許文献1に記載される磁性体アンテナ2の斜視図及びそのフレキシブル基板5の展開平面図である。
【図2】携帯電話端末などの携帯電子機器同士での通信状態を示す図である。
【図3】上記携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。
【図4】二つの携帯電子機器同士を対向配置した際に、アンテナ装置同士が強く結合することによるアンテナ装置の共振周波数の変化の例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る磁性体アンテナの構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態に係る磁性体アンテナを用いたアンテナ装置を内蔵する二つの携帯電子機器同士で通信を行う状態での磁性体アンテナの配置関係を示す図である。
【図7】携帯電子機器同士で通信を行う状態でのアンテナ装置同士の結合の仕方について示す図である。
【図8】第2の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図9】第2の実施形態に係る別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図10】第3の実施形態に係る磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図11】第3の実施形態に係る別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【図12】第3の実施形態に係るさらに別の磁性体アンテナの主要部の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
9…突出部
13a,13b…コイル
14a,14b…磁性体コア
15…フレキシブル基板
21…回路基板
22…磁性体アンテナ
33…アンテナ装置
43…アンテナ装置
130,137…接続線路
131〜136…コイル導体
141〜144…補助導体
200A,200B…携帯電子機器
201A,201B…携帯電子機器
Na,Nb…法線方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルのコイル導体の巻回パターン同士を非面対称としたことを特徴とする磁性体アンテナ。
【請求項2】
前記磁性体コアは矩形平板状をなし、
前記第1・第2のコイルは、前記磁性体コアの同一主面同士を対向配置したとき、前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が、互いに交差する関係にある請求項1に記載の磁性体アンテナ。
【請求項3】
前記第1・第2のコイルのループ面の法線は互いに平行で且つ磁性体コアの軸に対して非平行である請求項1に記載の磁性体アンテナ。
【請求項1】
磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルのコイル導体の巻回パターン同士を非面対称としたことを特徴とする磁性体アンテナ。
【請求項2】
前記磁性体コアは矩形平板状をなし、
前記第1・第2のコイルは、前記磁性体コアの同一主面同士を対向配置したとき、前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が、互いに交差する関係にある請求項1に記載の磁性体アンテナ。
【請求項3】
前記第1・第2のコイルのループ面の法線は互いに平行で且つ磁性体コアの軸に対して非平行である請求項1に記載の磁性体アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−206975(P2009−206975A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48424(P2008−48424)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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