説明

磁性塗り床工法

【課題】
本発明は、電気製品や輸送用製品などの製造現場において、各種工程から発生し空気中に浮遊する10ミクロン以下の金属粉を吸着して再浮遊させない床を得る磁性塗り床工法に関するものであり、また、工場内をフォークリフトや自動走行ロボットなどが走行しても床面が破壊されたり、凹凸が生じたり、傷が生じることがない、耐摩擦性に優れる床を得る磁性塗り床工法に関するものである。
【解決手段】
床面に、二液反応型エポキシ樹脂からなる下塗り剤を塗布し、当該下塗り剤の上面に磁性材料の充填率が80%〜95%の磁性シートを敷設し、さらに磁性シート上面にポリイソシアネート成分とポリオール成分とからなる上塗り剤を塗布したことを特徴とする磁性塗り床工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に浮遊する金属粉を吸着して再浮遊させない床を得る床工法に関するものであり、さらに詳しくは耐摩擦性に優れる磁力を有する床を得る磁性塗り床工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気製品や輸送用製品などの製造現場において、各種工程から金属粉が発生することがある。金属粉には大気中に浮遊する程度の小さな粒状のものも存在し、これらは各種工程で製品に混入したり、付着したりする。そのような製品は不良率が高くなったり外観が悪くなったりなどの不都合をもたらすため、避けるべきである。通常、そのような不純物が付着すると重大な問題を引き起こす製品に関してはクリーンルームで行なうなど、適切な設備を準備し製造するのであるが、これには莫大なコストが必要である。クリーンルームを準備しなければならないほど精密でない工程であっても、金属粉が混入したり付着することは避けなければならない。
【0003】
このような状態を避けるために、床面に磁力を持たせることが考案される。磁力自体は微力であるため、大気中のすべての金属粉を引き寄せて吸着するほどの効力はないが、重力によって舞い降りた金属粉や床面付近の金属粉を吸着し、再度舞い上がらせることがないようにすることができ、金属粉の浮遊を防ぐ簡易手法としては十分効果がある。
【0004】
この手法を用いて、例えば、特許文献1のように公知の磁性シートを床面に貼り付けることがもっとも簡便な方法として考えられるが、工場内を走行するフォークリフトや自動走行ロボットなどがその上を通過すると磁性シートがはがれたり裂けたりなどの破損が生じる。また、有機溶剤などが垂れ落ちた場合に磁気シートが溶けたりするなどの問題が生じる。そのため頻繁に床面のメンテナンスが必要であり、そのたびに生産工程を停止しなくてはならなかったり、コストがかかったりしていた。
【特許文献1】特開2005−146689号公報
【0005】
また、床に塗布する床塗り剤にフェライト粉末などを混練し、床に塗工し、養生硬化させたものに着磁する工法も考えられるが、フェライト粉末の充填率を高くすることができず、また、磁力を均一にすることができないものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述のような欠点のない、金属粉を吸着し再度舞い上がらせることにない床に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、床面に、二液反応型エポキシ樹脂からなる下塗り剤を塗布し、当該下塗り剤の上面に磁性材料の充填率が80%〜95%の磁性シートを敷設し、さらに磁性シート上面にポリイソシアネート成分とポリオール成分とからなる上塗り剤を塗布したことを特徴とする磁性塗り床工法に関するものである。
【0008】
以下、本発明を詳述する。本発明の床工法は既存の床であるモルタルなどのセメント硬化物、また、その表面にすでにエポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの床材が塗工されている床に適用する。まず、床面の下地塗膜表面に付着した汚れ等を機械研磨する。このとき、下地塗膜に剥がれかけていたり割れている箇所がある場合は部分的に除去するのが好ましい。
【0009】
次に二液反応型エポキシ樹脂からなる下塗り剤を塗工する。本発明の下塗り剤は少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤からなる2液反応型エポキシ樹脂接着剤である。該下塗り剤は、エポキシ塗り床材及びコンクリート、モルタルなどのセメント硬化物との接着性が良好であることに加えて、磁性シートとの接着性も良好である。
【0010】
本発明で使用するエポキシ樹脂としてはグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、線状脂肪族エポキシサイド型などのエポキシ樹脂である。可とう性を付与する為に、エポキシ樹脂にゴム変性エポキシ樹脂やウレタン変性エポキシ樹脂を配合してもよい。
【0011】
また、硬化剤としては、ポリアミドアミン、脂肪族及び芳香族ポリアミン、更にそれらの変性物が用いられる。必要に応じて硬化促進剤を使用することも可能である。硬化促進剤としてはフェノール、クレゾールなどのフェノール類やN,N’−ジメチルピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第3級アミン類をあげることができる。このような硬化剤を用いると、使用前は別梱包をしていた2液を使用直前に混合することにより常温で硬化させることができる。
【0012】
ついで、磁性シートを前述の下塗り剤の上面に敷設する。当該磁性シートは磁性材料の充填率が80%〜95%の磁性シートである。磁性シートは磁性材料と合成樹脂材料を混練し、成形したものである。磁性材料としてはBaフェライト、Srフェライトなどのフェライト系、マンガン・アルミニウム系、サマリウム・コバルト系、ネオジウム・鉄・ホウ素系、サマリウム・鉄・窒素系等が挙げられ、これらの粒径は通常0.5〜100μmの範囲で選ばれる。これらの磁性材料は単独で用いても良いし2種以上を組み合わせても良い。
【0013】
磁性シートに用いられる合成樹脂材料としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリアセタール、ポリエーテル樹脂、などが挙げられる。
【0014】
磁性材料と合成樹脂材料とは混練され、押し出し成形、カレンダー成形、射出成形などの成形または有機溶剤希釈による塗工などによりシート化される。磁性材料は組成物全体において重量比で80%〜95%である。80%より少ないと磁力が弱くなってしまい、95%より多いと磁性シートの強度が弱くなってしまい重量物がその上を通過すると破損してしまう。
【0015】
磁性シートは長尺のものを形成してもよいが、必ずしも長尺にする必要はなく、例えば、45×45cmや50×50cmのフロアタイル様に成形されていても良い。むしろ製造コストの面や取り扱い製の良さからフロアタイル様にした方が好ましい。
【0016】
磁性シートを前述の下塗り剤の上面に並べて敷設する。このとき、前記下塗り剤が硬化する前、すなわち未硬化の時に敷設しなければならない。硬化前に敷設することにより下塗り剤を磁性シートの接着剤としての役割を持たせることができ施工が容易である。また、磁性シートは端部が重なり合うと、磁性シートの厚さにより床面に凹凸が生じてしまうので、重ならないように敷設する。多少隙間が空いてしまっても後述する上塗り剤で充填するので特に問題ではない。
【0017】
また、磁性シートは市販のものを使用することができる。磁性シートは表裏で着磁されている面と、非着磁面が存在する場合、着磁面が上方、非着磁面が床面となるように配置する。
【0018】
次いで、磁性シートの上面に上塗り剤を塗工する。本発明で使用する上塗り材は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを主たる樹脂成分とする塗料組成物であって、2液混合性の樹脂である。イソシアネート基と水酸基のウレタン反応、またはイソシアネート基と水分のウレア反応によって重合し、柔軟で強靱な硬化物になる。
【0019】
イソシアネート成分としては通常のポリウレタン樹脂の製造に用いられる種々のものが例示される。具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、およびこれらに水添した化合物、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1−メチル−2,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、1−メチル−2,6−ジイソシアネートシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、カーボネートジオール、等を挙げることができる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール及び1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ビスフェノールA等に、エチレンオキシド又はプロピレンオキシド等が付加した化合物を用いることができる。
【0021】
ポリエステルポリオールは、アルコール成分と酸成分とを反応させて得ることができ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及び1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ビスフェノールA等にエチレンオキシド又はプロピレンオキシド等が付加した化合物、あるいは、ε−カプロラクトンが付加した化合物等をアルコール成分とし、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸等の二塩基酸及びその無水物を酸成分として使用することができる。上記のアルコール成分、酸成分及びε−カプロラクトンの三者を同時に反応させることによって得られる化合物も、ポリエステルポリオールとして使用することができる。また、ヒドロキシル化脂肪酸などのOH基を有するカルボン酸同士のみが縮合した2量体以上のオキシカルボン酸オリゴマー、またはOH基を有するカルボン酸とOH基を有しないカルボン酸とが縮合した2量体以上のオキシカルボン酸オリゴマーと、上述のポリオール成分を反応させたポリエステルポリオールを用いることもできる。
【0022】
また、カーボネートジオールは、例えば、ジフェニルカーボネート、ビス−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、フェニル−トルイル−カーボネート、フェニル−クロロフェニル−カーボネート、2−トリル−4−トリル−カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアリールカーボネート又はジアルキルカーボネートとジオール類、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−メチルプロパンジオール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール又は上記のジオール化合物とシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、ヘキサヒドロフタル酸等のジカルボン酸の反応生成物、又はε−カプロラクトンの反応生成物であるポリエステルジオール等とのエステル交換反応によって得ることができる。このようにして得られるカーボネートジオールは分子中にカーボネート構造を一つ有するモノカーボネートジオール又は分子中にカーボネート構造を二つ以上有するポリカーボネートジオールである。
【0023】
上述のポリオールはあらかじめ前述のイソシアネート成分と予備反応させ、分子中に水酸基を有するウレタンオリゴマーとしても良い。また、イソシアネート成分とポリオール成分との反応には、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズラウレート、オクチル酸亜鉛、有機ビスマス化合物等の金属系触媒、トリエチレンジアミン、モルフォリン系アミン等のアミン系触媒等を使用することができる。
【0024】
本発明の上塗り剤は下塗り剤が流動性を有しない程度に硬化した後に塗工することが好ましい。上塗り剤はへら、コテ、ローラーなどで塗布することができる。上塗り剤塗工後養生し、上塗り剤を硬化させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は電気製品や輸送用製品などの製造現場において、各種工程から発生する金属粉を吸着することができるものである。一度吸着した金属粉を再浮遊させず、製品への混入率を低下させる。また、工場内をフォークリフトや自動走行ロボットなどが走行しても床面が破壊されたり、凹凸が生じたり、傷が生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
コンクリートモルタル製の床にエポキシ系樹脂でトップコートされた床の上に下塗り剤としてA−1二液反応型エポキシ樹脂(スリーボンド製 スリーロンジーF−377)を0.2kg/mの割合で塗布した。該下塗り剤が硬化する前に磁性シートを貼り付けた。磁性シートは磁性面を上面に非磁性面を床面にした。下塗り剤と磁性シートの間に空気が混入しないように磁性シートの上からローラーにより展圧して空気を除去しながら圧着した。
【0027】
12時間の養生後、上塗り剤として、B−1イソシアネート成分とポリオール成分からなる二液反応型ウレタン樹脂(スリーボンド製 スリーロンジーUー600)を1.0kg/mの割合でゴムベラで均一に塗工した。そのまま24時間養生した。
【0028】
比較試験として上述の下塗り剤の代わりに、A−2ウレタン樹脂(スリーボンド製 スリーロンジーUー500)、A−3アクリル系樹脂(アサヒボンド製 速モルプライマー)、A−4一液性アクリルエマルション樹脂(スリーボンド製 スリーロンジーAー210)を用いた。
【0029】
また、比較試験として上述の上塗り剤の代わりに、B−2メチルメタクリレート系樹脂塗り床材(三井化学産資製 R71)、B−3エポキシ系樹脂塗り床材(スリーボンド製 スリーロンジーF−320)、B−4ビニルエステル系樹脂塗り床材(アイカ工業製 ジョリエースJE−2110)、を用いた。
【0030】
上述の各組み合わせで施工した床面に、フォークリフト(株式会社豊田自動織機製 GENEO 1t車)で時速10km/mで走行して、かつブレーキをかけるという工程を繰り返した。その操作を10回行い、表面の状態を調べた。その試験結果を表に示す。ただし、表中Aは塗り床塗膜表面に異常なし、Bは塗膜表面にクラックが発生したが、磁性シートは剥離していないもの、Cは塗膜表面にクラックが発生し、かつ磁性シートと床面が剥離部分が生じたものである。
【0031】
【表1】

【0032】
結果から、下塗り剤としてA−2ウレタン樹脂、A−3アクリル系樹脂、A−4一液性アクリルエマルション樹脂を用いたものは床面と磁性シートが剥離を起こす場合があり、かつ塗膜表面にクラックが生じた。また、上塗り剤としてB−2メチルメタクリレート系樹脂塗り床材、B−3エポキシ系樹脂塗り床材、B−4ビニルエステル系樹脂塗り床材を用いたものは塗膜表面にクラックが生じた。また、上塗り剤と下塗り剤を本発明の組み合わせにしないと表面のクラックや磁性シートの剥離が生じてしまい、本発明の組み合わせののみが有効であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は製造工場などに適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に、二液反応型エポキシ樹脂からなる下塗り剤を塗布し、当該下塗り剤の上面に磁性材料の充填率が80%〜95%の磁性シートを敷設し、さらに磁性シート上面にポリイソシアネート成分とポリオール成分とからなる上塗り剤を塗布したことを特徴とする磁性塗り床工法。


【公開番号】特開2007−77729(P2007−77729A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269426(P2005−269426)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】