磁性多層膜および磁気抵抗効果素子ならびにそれらの製造方法
【構成】 非磁性薄膜を介して2層以上の磁性薄膜を積層して磁性多層膜を形成する。隣合う磁性薄膜の保磁力は互いに異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角形比およびHkを規制し、さらに保磁力の大きな第2の磁性薄膜と非磁性薄膜とを含めて各薄膜の膜厚を規制して第1〜第3の発明を構成する。
【効果】 第1の発明の磁性多層膜は、数Oe〜数十Oeの外部磁場で大きなMR変化率を示し、0磁場で良好なMR変化立ち上がり特性と高い耐熱性とをもつ。第2の発明ではさらに−10〜10Oeの外部磁場でヒステリシス特性とMR傾きが改善され、第3の発明ではこれらに加えて−50〜50Oeの外部磁場での大きなMR傾きと、すぐれたヒステリシス特性と、高周波磁界での大きなMR傾きとをもつ。従って、高感度の磁気抵抗効果型センサや高密度磁気記録可能な磁気ヘッドが実現する。
【効果】 第1の発明の磁性多層膜は、数Oe〜数十Oeの外部磁場で大きなMR変化率を示し、0磁場で良好なMR変化立ち上がり特性と高い耐熱性とをもつ。第2の発明ではさらに−10〜10Oeの外部磁場でヒステリシス特性とMR傾きが改善され、第3の発明ではこれらに加えて−50〜50Oeの外部磁場での大きなMR傾きと、すぐれたヒステリシス特性と、高周波磁界での大きなMR傾きとをもつ。従って、高感度の磁気抵抗効果型センサや高密度磁気記録可能な磁気ヘッドが実現する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気記録媒体等の磁界強度を信号として読み取るための磁気抵抗効果素子のうち、特に小さな磁場変化を大きな電気抵抗変化信号として読み取ることのできる磁気抵抗効果素子と、それに好適な磁性多層膜と、それらの製造方法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気センサの高感度化や磁気記録における高密度化が進められており、これに伴い磁気抵抗変化を用いた磁気抵抗効果型磁気センサ(以下、MRセンサという。)や、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、MRヘッドという。)の開発が盛んに進められている。MRセンサもMRヘッドも、磁性材料を用いた読み取りセンサ部の抵抗変化により、外部磁界信号を読み出すものであるが、MRセンサやMRヘッドでは、記録媒体との相対速度が再生出力に依存しないことから、MRセンサでは高感度が、MRヘッドでは高密度磁気記録においても高い出力が得られるという特長がある。
【0003】しかし、従来の異方性磁気抵抗効果によるNi0.8 Fe0.2 (パーマロイ)やNiCo等磁性体を利用したMRセンサでは、抵抗変化率△R/Rがせいぜい2〜5%位と小さく、数GBPIオーダーの超高密度記録の読み出し用MRヘッド材料としては感度が不足する。
【0004】ところで、金属の原子径オーダーの厚さの薄膜が周期的に積層された構造をもつ人工格子は、バルク状の金属とは異なった特性を示すために、近年注目されてきている。このような人工格子の1種として、基板上に強磁性金属薄膜と反強磁性金属薄膜とを交互に積層した磁性多層膜があり、これまで、鉄−クロム型、コバルト−銅型等の磁性多層膜が知られている。このうち、鉄−クロム型(Fe/Cr)については、超低温(4.2K)において40%を超える磁気抵抗変化を示すという報告がある(Phys. Rev. Lett 第61巻、2472頁、1988年)。しかし、この人工格子磁性多層膜では最大抵抗変化の起きる外部磁場(動作磁界強度)が十数kOe 〜数十kOe と大きく、このままでは実用性がない。この他、Co/Ag等の人工格子磁性多層膜も提案されているが、これらでも動作磁場強度が大きすぎる。
【0005】そこで、このような事情から、非磁性層を介して保磁力の異なる2つの磁性層を積層した誘導フェリ磁性による巨大MR変化を示す3元系人工格子磁性多層膜が、後述する第1の発明の出願優先日前に提案されている。例えば、非磁性層を介して隣合う磁性薄膜のHcが異なっており、各層の厚さが200A 以下であるもの(特開平4−218982号公報;下記f)など、下記の文献が発表されている。
【0006】a.Journal of The Physical Society of Japan, 59(1990)3061T.Shinjo and H.Yamamoto[Co(30)/Cu(50)/NiFe(30)/Cu(50)]×15[( )内は各層の膜厚(A )、×の数値は繰り返り数、以下同]において印加磁場3kOe で9.9%、500Oeでは約8.5%のMR変化率を得ている。
【0007】b.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 99(1991)243H.Ymamamoto, T.Okuyama, H.Dohnomae and T.Shinjoaに加えて構造解析結果、MR変化率や比抵抗の温度変化、外部磁場の角度による変化、MR曲線のマイナーループ、積層回数依存性、Cu層厚依存性、磁化曲線の変化について述べられている。
【0008】c.電気学会マグネティクス研究会資料,MAG−91−161星野、細江、神保、神田、綱島、内山a、bの追試である。Cu層厚依存性、NiFe層厚依存性について追試している。加えて磁化曲線から外挿して疑似的に求めたCoのHcのCu層厚依存性の結果がある。またNiFe(30)−Cu(320)とCo(30)−Cu(320)から求めたそれぞれの磁化曲線を合成してNiFe(30)−Cu(160)−Co(30)−Cu(160)の磁化曲線と比較している。この場合はCu中間厚が3元系人工格子のものと違うので、直接角型比とHcとを比較することはできない。
【0009】d.電気学会マグネティクス研究会資料,MAG−91−242奥山、山本、新庄誘導フェリ磁性による巨大MR変化についての現像論的解析が述べられている。Hcの小さなNiFe層の磁気モーメントの回転につれてMRも同様に変化し、人工的に生成されたスピンの反平行状態によって巨大MR現象が発現することが確認されている。また、この現像はNiFe等の異方性MR効果とは異なることがMRの印加磁場角度変化の違いによって証明されている。
【0010】また、さらに下記の公報および文献も発表されている。
【0011】e.Japanese Journal of Applied Physics, 31(1992)L484H.Sakakima, et al.RFスパッタ法で成膜したNiFeCo/Cu/Co多層膜の微細構造とMR変化率との関連が述べられている。NiFe層とCo層とをともに30A と固定したときのCu層厚によるMR変化率の振動現象を報告しているが、試料成膜時に磁場は印加されてない。
【0012】f.特開平4−218982号公報保磁力の異なる磁性薄膜を非磁性薄膜を介して積層した磁性多層膜に関するものであってNi−FeとCoとをそれぞれ25A または30A とし、これをCu層を介して積層した実施例が開示されている。
【0013】g.特開平4−223306号公報非磁性層を介して隣合う2種類の磁性薄膜のHcが異なっている磁性多層膜であり、1つの磁性層がCoPtを主成分とする材料を用いた開示例が示されている。
【0014】このような3元系人工格子磁性多層膜では、Fe/Cr,Co/Cu,Co/Ag等に比較してMR変化率の大きさは劣るものの、数100Oe以下の印加磁場で10%程度の巨大なMR変化率を示している。しかし、これらの文献等で開示されている内容は数10〜100Oe程度の印加磁場でのMR変化についてのみである。
【0015】ところで、実際の超高密度磁気記録におけるMRヘッド材料としては印加磁場0から40〜50OeまでのMR変化曲線が重要である。しかし、これら従来の3元系人工格子は、印加磁場0でのMR変化はあまり増加しておらず、ほとんど0に近い。MR変化の増加率は60Oe程度で最大となり、このとき9%程度のMR変化率を示す。すなわち、変化曲線の立ち上がりが遅い。一方、パーマロイ(NiFe)の場合は、0磁場におけるMR変化の傾きはほぼ0であり、ほとんどMR変化率はかわらず、MR変化率の微分値は0に近く、磁場感度が低く、超高密度磁気記録の読み出し用MRヘッドとしては適さない。
【0016】このような特性を解決する手段として、NiFe等では、Ti等の比抵抗の小さなシャント層を設けて動作点をシフトさせて用いている。また、このシャント層に加えてCoZrMo、NiFeRh等の比抵抗の大きな軟磁性材料のソフトフィルムバイアス層を設けてバイアス磁界を印加して用いている。しかし、このようなバイアス層をもつ構造は、工程が複雑となり、特性を安定させることが困難であり、コストアップを招く。またMR変化曲線のなだらかなところを使うことになるのでS/Nの低下等を招く。
【0017】さらに、MRヘッド等では、複雑な積層構造をとりパターニング、平坦化等の工程でレジスト材料のベーキングやキュア等の熱処理を必要とし、350℃程度の耐熱性が必要となることがある。しかし、従来の3元系人工格子磁性多層膜では、このような熱処理で特性が劣化してしまう。
【0018】さらに、この出願の優先日以後、下記の諸文献が発表されている。
【0019】h.特開平4−247607号公報(Nix Co1-x )x'Fe1-x'と(Coy Ni1-y )z Fe1-z (x=0.6〜1.0、x’=0.7〜1.0、y=0.4〜1.0、z=0.8〜1.0)とを非磁性層を介して積層した磁性多層膜を開示しており、その実施例では2種の30A の磁性層を50A の非磁性層を介して積層している。
【0020】i.Applied Physics Letters, 61(1992)3187T.Valet, et al.RFスパッタ法で成膜したNi80Fe20/Cu/Co多層膜のCu層厚によるMR変化率の振動現象が述べられている。試料は[NiFe(50)−Cu(x)−Co(20)−Cu(x)]×3(ただし7≦x≦37)である。試料は、RFスパッタ法により無磁場中で成膜されている。ここで、x=33A のときにのみ保磁力の差に起因するMR変化の成分が存在すると述べられている。
【0021】j.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 121(1993)402T.Valet, et al.RFスパッタ法で成膜したNi80Fe20/Cu/Co多層膜の微細構造とMR変化率との関連が述べられている。ここでは[NiFe(50)−Cu(50)−Co(10)−Cu(50)]×12および[NiFe(50)−Cu(50)−Co(100)−Cu(50)]×8の2つの試料についての断面電子顕微鏡写真(TEM)と、[NiFe(50)−Cu(20)−Co(30)−Cu(20)]×18および[NiFe(50)−Cu(20)−Co(30)−Cu(20)]×3の2つの試料についてのMR特性について述べられている。例えば上記18回積層の場合、室温でMR変化が11%であるが、これは保磁力の差のよると述べられている。やはり試料の成膜時には磁場は印加されていない。
【0022】k.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 121(1993)339スパッタ法で成膜した[NiFe(50)−Cu(x)−Co(20)−Cu(x)]×3の磁化反転機構について述べられている。ここではMR特性についてはふれられていないし、また試料成膜時に磁場は印加されていない。
【0023】このように、これらの文献に示される例では、磁場中の成膜を行っておらず、NiFe層に磁気異方性が付与されておらず、その角形比が高いものとなっている。この結果、0磁場を中心に−10〜10Oeの範囲でのMR変化率は大きなヒステリシスを示し、しかもこの範囲でのMR傾きが小さく、磁気ヘッドとして良好かつ安定な再生を行なうことができない。
【0024】また、さらにすぐれた超高密度磁気記録におけるMRヘッド材料として、印加磁場−50〜50OeまでのMR変化曲線も重要である。しかし、これらの文献の開示例では、0磁場を中心に−50〜50Oeの範囲でのMR変化率のヒステリシスが大きく、またこの範囲でのMR傾きも小さい。
【0025】さらにまた、MRヘッドは、高密度記録再生用として1MHz 以上の高周波磁界下で用いられることが要求される。しかし、従来の各種3元系磁性多層膜の膜厚構造では、1MHz 以上の高周波磁界での磁気抵抗変化曲線の傾き(高周波でのMR傾き)を0.08%/Oe以上にして、高い高周波感度を得ることが難しい。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、大きなMR変化率を示し、印加磁場が例えば0〜40Oe程度のきわめて小さい範囲で直線的なMR変化の立ち上がり特性を示し、磁場感度が高く、耐熱温度の高い磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、その製造方法とを提供することである。
【0027】また、第2の目的は、これに加え、印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、ヒステリシス特性とMR傾きが改善された磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、それらの製造方法とを提供することである。
【0028】さらに、第3の目的は、これらに加え、印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上の高い値を示し、すぐれたヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界でのMR傾きが大きな磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、それらの製造方法とを提供することである。
【0029】
【課題を解決するための手段】このような第1〜第3の目的は、それぞれ下記(1)〜(5)の磁性多層膜の第1の発明、(6)の磁性多層膜の第2の発明、(7)〜(12)の磁性多層膜の第3の発明を、それぞれ下記(13)〜(16)の製造方法を用いて成膜し、下記(17)または(18)の磁気抵抗効果素子を下記(19)の製造方法により作製することで、すぐれた磁気抵抗効果素子として実現する。
(1)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、前記磁性薄膜および非磁性薄膜の膜厚がそれぞれ200A 以下である磁性多層膜。
(2)保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1 、t1 ≧t2 である上記(1)の磁性多層膜。
(3)SQ2 /SQ1 が2〜100である上記(1)または(2)の磁性多層膜。
(4)4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 、t1 ≧1.05t2 である上記(2)または(3)の磁性多層膜。
(5)前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが1〜20Oeである上記(1)〜(4)のいずれかの磁性多層膜。
(6)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 である磁性多層膜。
(7)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、t3 <50A である磁性多層膜。
(8)SQ2 /SQ1 が2〜100である上記(7)の磁性多層膜。
(9)前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが3〜20Oeである上記(7)または(8)の磁性多層膜。
(10)磁気抵抗変化曲線が、−50〜50Oeの磁場範囲内に傾きが0.15%/Oe以上である直線部分を有し、さらに最大ヒステリシス幅が20Oe以下である上記(7)〜(9)のいずれかの磁性多層膜。
(11)前記第1の磁性薄膜が、式(Nix Fe1-x )y Co1-y (ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0である。)で表される組成を含む上記(7)〜(10)のいずれかの磁性多層膜。
(12)前記第2の磁性薄膜が、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w (ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0である。)で表される組成を含む上記(7)〜(11)のいずれかの磁性多層膜。
(13)基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜する際に、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の成膜時に膜面内の一方向に外部磁場を印加して上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
(14)前記外部磁場は10〜300Oeの磁界強度である上記(13)の磁性多層膜の製造方法。
(15)上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を成膜したのち、500℃以下の温度で熱処理を行う磁性多層膜の製造方法。
(16)基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜したのち500℃以下の温度で熱処理を行い、上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
(17)基板上に上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を有する磁気抵抗効果素子。
(18)バイアス磁界印加機構をもたない上記(17)の磁気抵抗効果素子。
(19)上記(13)〜(16)のいずれかの製造方法により、基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を形成し、上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【0030】
【作用】3元系人工格子磁性多層膜において、第1の目的である0磁場からのリニアリティーが良好で大きな傾きをもつMR曲線と高い耐熱性を得るためには、上記の文献でa〜d等に示されているHcの差だけでは不十分である。このような良好な立ち上がり特性と高い耐熱性を得るためには、第1の発明に従い、第1および第2の磁性薄膜の角型比SQ1 、SQ2 を規制し、しかもこれらの膜厚t1 、t2 を規制しなければならない。そして、このような本発明の角型比や膜厚の関係は、上記文献a〜gや、上記のこの出願の先願等には記載されていない。
【0031】さらに、第2の発明に従い、磁性薄膜をさらに薄層化すると、第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜との磁気的相互作用が小さくなり、印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性と大きなMR傾きとを示す。このような関係は上記諸文献等にはまったく記載されていない。
【0032】また、第3の目的における印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内で求めた磁気抵抗変化曲線(MRカーブ)の微分曲線から求める微分値の最大値MR傾きが0.15%/Oe以上であり、すぐれたヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界におけるMR傾きが大きい磁性多層膜を得るためには、第3の発明に従い、第1の磁性薄膜の厚さt1 、第2の磁性薄膜の厚さt2 に加え非磁性薄膜の厚さt3 を、50A 未満に規制し、さらに少なくとも第1の磁性薄膜の成膜を磁場中で行なう。このような膜厚の磁場中成膜による磁性多層膜については、上記諸文献等には示されていない。
【0033】
【具体的構成】以下、第1〜第3の発明の具体的構成について詳細に説明する。
【0034】本発明では、非磁性薄膜を介して隣合った磁性薄膜の保磁力は互いに異なっていることが必要である。その理由は、本発明の原理が、隣合った磁性層の磁化の向きがズレているとき、伝導電子がスピンに依存した散乱を受け、抵抗が増え、磁化の向きが互いに逆向きに向いたとき、最大の抵抗を示すことにあるからである。すなわち、本発明では、図2で示すように外部磁場が第1の磁性薄膜の保磁力Hc1 と第2の磁性薄膜層の保磁力Hc2 の間(Hc1 <H<Hc2 )であるとき、隣合った磁性層の磁化の方向が互いに逆向きの成分が生じ、抵抗が増大するのである。
【0035】ここで、3元系人工格子多層磁性膜の外部磁場、保磁力および磁化の方向の関係を説明する。図1は、本発明の実施例である人工格子磁性多層膜1の断面図である。図1において、人工格子磁性多層膜1は、基板4上に磁性薄膜M1 ,M2…,Mn-1 ,Mn を有し、隣接する2層の磁性薄膜の間に、非磁性薄膜N1 ,N2 …,Nn-2 ,Nn-1 を有する。
【0036】今、簡素化して、保磁力の異なる2種類の磁性薄膜のみを有する場合について説明する。図2に示されるように、2種類の磁性薄膜層■、■のHcをそれぞれHc1 およびHc2 とする(0<Hc1 <Hc2 )。また、第1の磁性薄膜■の異方性磁界をHk、第2の磁性薄膜■の磁化が飽和する外部磁界をHm とする。最初、外部磁場Hを、H<−Hm となるようにかけておく。第1および第2磁性薄膜層■、■の磁化方向は、Hと同じ−(負)方向に向いている。次に外部磁場を上げていくと、H<−Hkの領域(I)では、まだ両磁性薄膜の磁化方向は一方向を向いている。外部磁場を上げて−Hk<H<Hkの領域(II)の一部にはいると、磁性薄膜■の1部の磁化方向が反転をはじめ、磁性薄膜■、■の磁化方向は互いに逆向きの成分が生じる。そしてHk<H<Hc2 の範囲で磁性薄膜■、■の磁化方向はほぼ完全に反平行となる。さらに外部磁場を大きくしたHm <Hの領域(III )では、磁性薄膜■、■の磁化方向は、+方向に揃って向く。
【0037】今度は外部磁場Hを減少させると、Hk<Hの領域(IV)では磁性薄膜■、■の磁化方向は+方向のままであるが、−Hk<H<Hkの領域(V)の一部では、磁性薄膜層■の磁化方向は一方向に反転をはじめ、磁性薄膜■、■の磁化方向が互いに逆向きの成分が生じる。さらに、H<−Hm の領域(VI)では、磁性薄膜■、■の磁化方向は一方向に揃って向く。この磁性薄膜■、■の磁化方向が互いに逆向きになっている成分の存在する領域(II)および(V)で、伝導電子がスピンに依存した散乱を受け、抵抗は大きくなる。領域(II)のうち、−Hk<H<Hkの範囲において、磁性薄膜■はほとんど磁化反転はしないが、磁性薄膜■は直線的にその磁化を増加させるため、磁性薄膜■の磁化変化に対応し、スピンに依存した散乱を受ける伝導電子の割合が徐々に大きくなる。すなわち、第1の磁性薄膜■に例えばHcの小さなNi0.8 Fe0.2 (Hc2 数Oe以下)を選び、適当なHkを付与し、第2磁性薄膜層■にHcのやや大きく、かつ角型比の大きい、例えばCo(Hc2 数十Oe)を選ぶことにより、Hk付近以下の数Oe〜数10Oeの範囲の小外部磁場で抵抗変化が直線的、かつ大きな抵抗変化率を示すMR素子が得られる。
【0038】以下、まず第1の発明について説明する。
【0039】第1の発明の磁性薄膜に用いる磁性体の種類は特に制限されないが、具体的には、Fe,Ni,Co,Mn,Cr,Dy,Er,Nd,Tb,Tm,Ce,Gd等が好ましい。また、これらの元素を含む合金や化合物としては、例えば、Fe−Si,Fe−Ni,Fe−Co,Fe−Al,Fe−Al−Si(センダスト等),Fe−Y,Fe−Gd,Fe−Mn,Co−Ni,Cr−Sb,Fe系アモルファス合金、Co系アモルファス合金、Co−Pt,Fe−Al,Fe−C,Mn−Sb,Ni−Mn,Co−O,Ni−O,Fe−O,Fe−Al−Si−N,Ni−F,フェライト等が好ましい。本発明では、これらの磁性材料のうちから保磁力の異なる2種またはそれ以上を選択して磁性薄膜を形成する。
【0040】第1の発明において、各磁性薄膜の膜厚の上限は、200A である。一方、磁性薄膜の厚さの下限は特にないが、4A 未満ではキューリー点が室温より低くなって実用性がなくなってくる。また、厚さを4A 以上とすれば、膜厚を均一に保つことが容易となり、膜質も良好となる。また、飽和磁化の大きさが小さくなりすぎることもない。膜厚を200A より大としても効果は落ちないが、膜厚の増加に伴って効果が増大することもなく、膜の作製上無駄が多く、不経済である。
【0041】各磁性薄膜の保磁力Hcは、適用される素子における外部磁界強度や要求される抵抗変化率等に応じて、例えば0.001Oe〜10kOe 、特に0.01〜1000Oeの範囲から適宜選択すればよい。また、隣接する磁性薄膜の保磁力の比Hc2 /Hc1 は、1.2〜100、特に1.5〜100より好ましくは2〜80、特に3〜60、さらに好ましくは5〜50、特に6〜30であることが好ましい。比が大きすぎるとMR曲線がブロードになってしまい、また小さすぎるとHcの差が近すぎ、反平行状態が有効に働かなくなってしまう。
【0042】なお、Hc等の磁気特性の測定に際しては、磁気抵抗効果素子中に存在する磁性薄膜の磁気特性を直接測定することはできないので、通常、下記のようにして測定する。すなわち、測定すべき磁性薄膜を、磁性薄膜の合計厚さが200〜400A 程度になるまで非磁性薄膜と交互に蒸着して測定用サンプルを作製し、これについて磁気特性を測定する。この際、磁性薄膜の厚さ、非磁性薄膜の厚さおよび非磁性薄膜の組成は、磁気抵抗効果測定素子におけるものと同じものとする。
【0043】第1の発明では、0磁場からリニアリティーの高いMR曲線と高い耐熱性を得るために、Hcの小さい第1の磁性薄膜とHcの大きい第2の磁性薄膜との0磁場での残留磁化Mr、すなわち角型比SQ=Mr/Msを制御する。第1の磁性薄膜では、好ましくは0.01≦SQ1 ≦0.5、より好ましくは0.01≦SQ1 ≦0.4、特に0.01≦SQ1 ≦0.3とし、第2の磁性薄膜では、0.7≦SQ2 ≦1.0とする。第1の磁性薄膜は、0磁場近傍でのMR変化の立ち上がりを規定するものであるので、その角型比SQ1 は小さいほどよい。より詳細には、SQ1 が小さければ0磁場付近で磁化は漸次回転し、反平行状態が漸次増加していくので、0磁場をはさんで直線的なMR曲線とすることができる。そして、SQ1 が0.5より大きくなると直線的なMR変化が得られにくくなる。ただし、SQ1 の製造上の限界は0.01程度までである。
【0044】このような第1の磁性薄膜と組み合わせる第2の磁性薄膜は、0磁場付近で角形比SQ2 が1に近いほどよい。角型比を0.7以上にすれば0磁場近傍でのMR変化の立ち上がりはシャープになり、大きなMR変化率を得ることができる。なお、第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkは1〜20Oe、より好ましくは2〜12Oe、特に3〜10Oeとすることが好ましい。Hk>20では直線性を示す磁場の範囲は広がるが、MR曲線の傾きが小さくなり、分解能が落ちてしまう。またHk<1Oeでは直線性を示す磁場の範囲が狭くなり、MR素子としての機能を果たさなくなってくる。
【0045】なお、SQ2 /SQ1 は2〜100、特に2〜50であることが好ましい。
【0046】そして、さらに第1および第2の磁性薄膜の膜厚を最適化することにより、より積極的に角型比すなわちMR変化曲線の立ち上り特性と耐熱性とを制御することが好ましい。今、上記の文献a〜d等に示されるほとんどの具体例と同様、第1および第2の磁性薄膜の厚さを同一とするときには、膜厚が厚くなるほど両薄膜の角型比はともに1.0に近づく。このため磁化曲線では明確な磁化の折れ曲がりを示さない。その結果、MR変化曲線は数10Oeで始めて立ち上がる0磁場での直線性の悪いものになってしまう。従って、磁性薄膜の膜厚は両方とも薄い方が直線性がよく、良好な立ち上がり特性を示す。ただし、両薄膜とも、例えば10A 程度と薄い場合、耐熱性に問題がある。より具体的には350℃程度で真空中で加熱を行うと、第2の磁性薄膜では角型比の劣化による影響は余り受けないが、第1の磁性薄膜では角型比の劣化が激しい。第1の磁性薄膜は厚くした方が角型比を0.5以下に保つことが容易になる。従って、第2の磁性薄膜とは独立に第1の磁性薄膜を多少厚くした方が、プロセスでの熱処理後のMR特性がよいものが得られる。そして、第1の磁性薄膜の熱処理後の角型比の劣化を抑えて耐熱性を向上させるのである。
【0047】すなわち、第1の発明においては、SQ1 とSQ2 との規制に加えて、第1および第2の磁性薄膜の膜厚をそれぞれt2 およびt1 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1 ≦200A かつt2 ≦t1 、より好ましくは、4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 ≦100A かつt2 <t1 、特に1.05t2 ≦t1 に規制することが好ましい。t2 が30A 以上となると全体の比抵抗が増大し、結果的にMR変化率が小さくなってしまう。ただし、t2 が4A 未満では、前記のとおり連続膜の形成が不可能となる。t1 が20A 未満となると耐熱性が悪化する。なお、t1 の上限は直線性の点で200A 、特に100A が望ましい。さらに、t2 >t1 となると、耐熱性が悪化し、製造プロセス中で熱が加わる工程を通過した後に、MR変化率が小さくなってしまう。
【0048】このように第1および第2の磁性薄膜の角型比と膜厚とを規制することにより、成膜直後の磁性多層膜は、5%以上、特に6〜12%の高いMR変化率とともに、0磁場にてリニアリティーが高く、勾配の大きいMR変化を示す。より具体的には、印加磁場−3Oe〜+3OeまでのMR変化率の差は0.5%以上、通常1〜2%程度となり、超高密度記録の読み出し用のMRヘッドとして十分な特性が得られる。
【0049】また、第1の発明では、上記のとおりt2 、t1 を規制すれば、耐熱性が向上し、熱処理による特性劣化、特にMR変化率の劣化がきわめて少なくなる。すなわち、例えば真空中、250℃以上、350℃程度までの熱処理によってもMR変化率を熱処理前の70%以上に維持することができ、5%以上、特に6%以上のMR変化率を示す。この熱処理は前記のとおり、例えばMRヘッドの製造プロセスにて生じるものであるが、条件を選択すれば、印加磁場−3Oe〜+3OeまでのMR変化率の差で表わされる0磁場での傾きはかえって向上することもあり、熱処理前の25%減から100%増の値とすることができ、超高密度磁気記録の読み出し用MRヘッドに必要な0.5%以上、例えば1〜2%の傾きを熱処理後も示すことができる。なお、熱処理後、SQ1 は0.01〜0.5、SQ2 は0.7〜1.0の値を維持する。
【0050】用いる非磁性薄膜は、保磁力の異なる磁性薄膜間の磁気相互作用を弱める役割をはたす材料であり、その種類に特に制限はなく各種金属ないし半金属非磁性体や非金属非磁性体から適宜選択すればよい。金属非磁性体としては、Au,Ag,Cu,Pt,Al,Mg,Mo,Zn,Nb,Ta,V,Hf,Sb,Zr,Ga,Ti,Sn,Pb等やこれらの合金が好ましい。半金属非磁性体としては、Si,Ge,C,B等やこれらに別の元素を添加したものが好ましい。非金属非磁性体としては、SiO2 ,SiO,SiN,Al2 O3 ,ZnO,MgO,TiN等やこれらに別の元素を添加したものが好ましい。
【0051】第1の発明における非磁性薄膜の厚さは、200A 以下が望ましい。一般に膜厚が200A を超えると、抵抗は非磁性薄膜により決定してしまい、スピン散乱を設ける割合が小さくなってしまい、その結果、磁気抵抗変化率が小さくなってしまう。一方、膜厚が小さすぎると、磁性薄膜間の磁気相互作用が大きくなり過ぎ、両磁性薄膜の磁化方向が相異なる状態が生じにくくなるとともに、連続膜の形成が困難となるので、膜厚は4A 以上が好ましい。なお、磁性薄膜や非磁性薄膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光分析等により測定することができる。また、薄膜の結晶構造は、X線回折や高速電子線回折等により確認することができる。
【0052】次に、第2の発明では、特に第1および第2の磁性薄膜の厚さt1 およびt2を、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 とする。磁性薄膜の厚さをこのように薄層化すると、第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜との間での非磁性薄膜層を介しての磁気的相互作用の影響が小さくなり、それぞれの磁性薄膜が独立して容易に磁化反転することができるようになる。これにより、高いMR変化率を示し、しかも印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性とMR傾きとを示す。t2 が4A 未満では連続膜の形成が不可能となり、t1 <t2 では第1の磁性薄膜層と第2の磁性薄膜層との磁化総量の比率のバランスが悪化するため、スピンに依存した散乱を受ける伝導電子の割合が小さくなり、特性が低下しやすくなる。
【0053】このように、薄層化しても、250℃程度での耐熱性は十分であり、実用上問題はない。なお、磁性薄膜に用いる磁性体の材質、各磁性薄膜の保磁力Hc、角形比SQ2 /SQ1 、異方性磁界Hkおよび非磁性薄膜については第1の発明と同様の条件が好ましい。
【0054】さらに、第3の発明では、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、かつt3 <50A 、より好ましくは6A ≦t2 ≦28A 、8A ≦t1 ≦36A 、t1 >t2 、特にt1 ≧1.05t2 かつ8A ≦t3≦48A である。t2 が30A 以上となると全体の比抵抗が増大し、結果的にMR変化率が小さくなってくる。この場合、t2 が4A 未満では連続膜の形成が不可能となる。t1 が40A より大きいと、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅が20Oeを超えてしまい、例えば、得られた磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドとして用いた場合、出力電圧の変動が大きくなりやすく、特性上好ましくない。t1 が6A 未満となると十分な磁気特性が得られず、MR変化率、MR傾き、耐熱性ともに劣化し、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅も大きくなる傾向がある。さらに、t1 <t2 では第1の磁性薄膜層と第2の磁性薄膜層との磁化総量の比率のバランスが悪化するため、スピンに依存した散乱を受ける伝導電子の割合が小さくなり、特性が低下しやすくなる。
【0055】このような磁性薄膜に用いる磁性体の種類、各磁性薄膜の保磁力Hc、角形比SQ2 /SQ1 について好ましいものは第1の発明と同様である。この場合、上述した薄い層として良好な磁気特性を安定して得るためには、特に第1の磁性薄膜として、式(Nix Fe1-x )y Co1-y (ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0)で表わされる組成を、また第2の磁性薄膜として、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w (ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0)で表わされる組成を、それぞれ70重量%以上含むものが好ましい。
【0056】第3の発明では、非磁性薄膜の膜厚t3 は50A 未満、より好ましくは8A 〜48A であり、膜物性の再現性や安定性の点では30A 〜48A 、特に35A 〜48A であることが量産上好ましい。ただし、コストを無視して製造ができるならば30A 未満、特に10A 〜28A であってもよい。非磁性薄膜の膜厚が50A 以上となると、MR変化率が小さくなり、さらに後述する1MHz の高周波磁界でのMR傾きが小さくなる。非磁性薄膜に用いる材料の種類には特に制限はなく、第1の発明と同様のものが好ましく用いられる。
【0057】各磁性層および非磁性層の膜厚を上記のように規定し、さらに、少なくとも第1の磁性薄膜の成膜時に後述する膜面内の一方向に外部磁場を印加して異方性磁界Hkを3〜20Oe、より好ましくは3〜16Oe、特に3〜12Oe付与することで、上記の薄膜においても、5%以上、特に6〜12%の高いMR変化率とともに高い耐熱性を示し、さらに磁気抵抗変化曲線が、印加磁場−50〜50Oeの範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上、さらに0.18%/Oe以上、通常0.20〜0.60%/Oeが得られ、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅が20Oe以下、さらに16Oe以下、通常0〜14Oeとなる。その上さらに、1MHz の高周波磁界でのMR傾きが0.08%/Oe以上、より好ましくは0.10以上、通常0.10〜0.30%/Oeとすることができ、高密度記録の読み出し用のMRヘッド等に用いる場合、十分な性能を得ることができる。
【0058】異方性磁界Hkが3Oe未満では保磁力と同程度となってしまい、0磁場を中心とした直線的なMR変化曲線が実質的に得られなくなるため、MR素子としての特性が劣化する。また20Oeより大きいとMR傾きが小さくなり、MRヘッド等として用いる際、出力が低下しやすく、かつ分解能が低下する。
【0059】なお、MR変化率は、最大比抵抗をρmax 、最小比抵抗をρsat としたとき、(ρmax −ρsat )×100/ρsat (%)である。また、最大ヒステリシス幅は、特に表示がない限り、−50〜+50Oeで磁気抵抗変化曲線(MRカーブ)を測定して算出したヒステリシス幅の最大値である。さらに、MR傾きは、MRカーブを測定し、その微分曲線を求めて得られた−50〜+50Oeでの微分値の最大値である。そして、高周波MR傾きは、1MHz 5Oeの交流磁場でMR変化率を測定したときの−2〜+2Oe間での傾きである。
【0060】これら、第1〜第3の発明において、人工格子磁性多層膜の繰り返し積層回数nに特に制限はなく、目的とする磁気抵抗変化率等に応じて適宜選択すればよいが、十分な磁気抵抗変化率を得るためには、nを3以上にするのが好ましい。また、積層数を増加するに従って、抵抗変化率も増加するが、生産性が悪くなり、さらにnが大きすぎると素子全体の抵抗が低くなりすぎて実用上の不便が生じることから、通常、nを50以下とするのが好ましい。なお、長周期構造は、小角X線回折パターンにて、くり返し周期に応じた1次2次ピーク等の出現により確認することができる。
【0061】なお、以上の説明では、磁性薄膜として保磁力の異なる2種類の磁性薄膜だけを用いているが、保磁力がそれぞれ異なる3種以上の磁性薄膜を用いれば、磁化方向が逆転する外部磁界を2箇所以上設定でき、動作磁界強度の範囲を拡大することができる。
【0062】また、基板材料と人工格子を構成する材料との表面エネルギーの違いを緩和し、両者のぬれ性を向上し、広い範囲で平坦な界面をもった積層構造を実現させるため、磁性多層膜の下地層として、10〜100A 程度のCr、Fe、Co、Ni、W、Ti、V、Mnあるいはこれらの合金の薄膜を設けてもよい。さらに、最上層の磁性薄膜の表面には、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の酸化防止膜が設けられてもよく、電極引出のための金属導電層が設けられてもよい。
【0063】磁性多層膜の成膜は、蒸着法、スパッタリング法、分子線エピタキシー法(MBE)等の方法で行う。また、基板としては、ガラス、ケイ素、MgO、GaAs、フェライト、アルティック、CaTiO等を用いることができる。成膜に際しては、第1の磁性薄膜成膜時に、膜面内の一方向に好ましくは10〜300Oeの外部磁場を印加することが好ましい。これにより、SQ1 が低下し、Hkが大きくなる。なお、外部磁場の印加方法は、第1の磁性薄膜成膜時のみ、磁場の印加時期を容易に制御できる例えば電磁石等を具えた装置を用いて印加し、第2の磁性薄膜成膜時は印加しない方法であっても、成膜時を通して常に一定の磁場を印加する方法であってもよい。
【0064】図3、図4には、本発明の磁性多層膜を用いて磁気抵抗効果素子、例えばMRヘッドを構成するときの例が示される。両図に示される磁気抵抗効果素子10は、上記の磁性多層膜1を絶縁層5内に形成して、磁性多層膜1に測定電流を流すための例えばCu、Ag、Au等の電極3、3と、例えばTi等のシャント層2とを接続している。絶縁層5としては、SiO2 、SiO、Al2 O3 等、一般に絶縁層として用いられる酸化物等が好ましい。また、磁性多層膜1は、例えばセンダスト、パーマロイ等のシールド6、6で被われている。さらに図4の例では、シャント層2下方に、例えばCoZrMo、NiFeRh等の比抵抗の大きな軟磁性材料のバイアス磁界印加層7が設けられている。ただし、本発明の磁性多層膜では、0磁場での立ち上がり特性が良好であるので、シャント層やバイアス磁界印加手段は設けなくてよい。
【0065】さらに、図5では、本発明の磁性多層膜をヨーク型MRヘッドに応用した例が示される。ここでは、磁束を導くヨーク8、8の一部に切り欠きを設け、その間に磁性多層膜1が薄い絶縁層5を介して形成されている。この磁性多層膜1には、ヨーク8、8で形成される磁路の方向と平行または直角方向に電流を流すための電極(図示せず)が形成されている。また、図4と同様にシャント層2、バイアス磁界印加層7が設けられている。ただし、本発明の磁性多層膜では、0磁場での立ち上がり特性が良好であるので、これらシャント層やバイアス磁界印加手段は設けなくてもよい。
【0066】このような磁気抵抗効果素子の製造にあたっては、工程中パターニング、平坦化等の工程でベーキング、アニーリング、レジストのキュア等の熱処理を必要とする。しかし、本発明の多層膜は耐熱性が良好であるので、第1の発明による磁性多層膜では500℃以下、一般に50〜400℃、50〜350℃間程度の熱処理に十分対応でき、第2および第3の発明による磁性多層膜では500℃以下、200〜400℃で1時間程度の熱処理に十分対応できる。熱処理は通常真空中、不活性ガス雰囲気中、大気中等で行えばよいが、第2および第3の発明による磁性多層膜では、通常10-5〜10-9程度の真空(減圧下)中で行なうことで特性劣化の少ない磁性多層膜が得られる。
【0067】
【実施例】以下、第1〜第3の発明を具体的実施例によりさらに詳細に説明する。まず第1の発明の実施例として実施例1を示す。
【0068】実施例1基板としてガラス基板4を用い、超高真空蒸着装置の中に入れ、10-9〜10-10 Torrまで真空引きを行った。基板温度は室温に保ったまま基板を回転させながら、以下の組成をもつ人工格子磁性多層膜1を作成した。この際、磁界を基板の面内方向に印加しながら、約0.3A /秒の成膜速度で、分子線エピタキシー法(MBE)による蒸着を行った。
【0069】磁性薄膜と非磁性薄膜との多層膜の構成と磁気抵抗変化率を下記表1に示す。なお、表1において、例えばサンプルNo. 3は、[Ni0.8 Fe0.2 (30)/Cu(50)/Co(20)/Cu(50)]×10であって、30A 厚のNi80%−Fe20%のパーマロイ組成(NiFe)合金の第1の磁性薄膜、50A 厚のCuの非磁性薄膜、20A 厚のCoの第2の磁性薄膜および50A 厚のCuの非磁性薄膜を順次蒸着する工程を10回繰り返したことを意味する。各サンプルの繰り返し数はともに10回としたので、これを(Cu,Co/t2 ,NiFe/t1 )の順で(50,20,30)と表1に記載した。なお、各サンプルとも、下地層として50A のCr層を介在させた。
【0070】磁化およびB−Hループの測定は、振動型磁力計により行った。抵抗測定は、表1に示される構成の試料から0.5×10mmの形状のサンプルを作成し、外部磁界を面内に電流と垂直方向になるようにかけながら、−300〜300Oeまで変化させたときの抵抗を4端子法により測定し、その抵抗から比抵抗の最小値ρsat およびMR変化率ΔR/Rを求めた。MR変化率ΔR/Rは、最大比抵抗をρmax 、最小比抵抗をρsat とし、次式により計算した:ΔR/R=(ρmax −ρsat )×100/ρsat (%)。また、印加磁場−3Oe〜3OeまでのMR変化率の差を求め、これを0磁場での傾きとし、立ち上がり特性を評価した。この値は前記のとおり0.5%以上あることが必要である。
【0071】これとは別に、第1の磁性薄膜(NiFe)または第2の磁性薄膜(Co)と、非磁性薄膜(Cu)とを用い、上記の条件で2元系の人工格子を作成し、それぞれの角型比SQ1 、SQ2 とその相対比SQ2 /SQ1 およびNiFeのHkを求めた。これらの結果(初期特性)を表1に示す。なお、表1には、NiFeの成膜時の面内一方向磁場を印加したときの磁界強度を併記する。
【0072】
【表1】
【0073】さらに各サンプルを真空中で350℃、2時間熱処理した。熱処理後の角型比、ρsat と、MR変化率、0磁場の傾き、そしてそれらの変化率を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】表2に示される結果から、初期も熱処理後も、本発明のサンプルNo. 1〜8のみが1%以上の0磁場の傾きと、5%以上のMR変化率を示すことがわかる。
【0076】なお、図6には、サンプルNo. 3を構成する第1および第2の磁性薄膜の成膜直後のB−H曲線が示される。また、図7には、第1の磁性薄膜のHkと0磁場の傾きと比較の関係が示される。さらに、図8、図9R>9にサンプルNo. 3の成膜直後および熱処理後のX線回折パターンを示す。この図から、成膜直後、熱処理後とも長周期構造が維持されていることがわかる。
【0077】次に第2の発明の実施例として実施例2を示す。
【0078】実施例2ガラス基板上に、MBE装置による超高真空多元蒸着法を用いて、3元系人工格子Cr(50)[Cu(50)−Co(10)−Cu(50)−NiFe(10)]×10の磁性多層膜を作成した。到達圧力は4×10-11 Torr、蒸着中圧力8×10-10 とした。蒸着速度は0.2〜0.5A /sec.とし、成膜時に180Oeの磁場を印加した。得られたサンプルのMR変化曲線を測定した。−10〜10Oeの印加磁場範囲で、印加磁場強度を5往復させて得られたチャートを図10に示す。また、MR傾きは0.30%/Oe、MR変化率は5.7%、さらにMR変化曲線の直線部分の磁場幅は約8Oeであった。
【0079】さらに第3の発明の実施例および比較例として、以下の実施例3〜6および比較例1を示す。
【0080】実施例3コーニング7059ガラス基板上に非磁性金属層としてCrを50A 成膜し、下地層とした上にCu/Co/Cu/NiFe(繰り返し積層回数=10)人工格子磁性多層膜を成膜した。成膜条件は、到達圧力2×10-10 Torr、成膜時圧力1×10-9Torr、基板温度40℃程度とし、各材料を0.1〜0.4A /secの成膜速度で、成膜中に磁場を基板の面内方向に印加しながらMBE法による蒸着を行った。
【0081】各層(Cu/t3 、Co/t2 、NiFe/t1 )の膜厚を表3に示すように変化させ、得られた磁性多層膜について、さらに250℃、1時間真空中で熱処理し、サンプル21〜27を得た。得られたサンプルについて表3に示す評価を行った。なお、膜厚の単位はA である。得られた結果をまとめて表3に示す。ただし、サンプル21〜27は、SQ1 が0.01〜0.5、SQ2 が0.7〜1.0、SQ2 /SQ1 が2〜100の範囲であった。
【0082】
【表3】
【0083】比較例1成膜中に磁場を印加せず、他は実施例2と同様にして磁性多層膜を成膜してサンプル31〜35を得た。
【0084】各層(Cu/t3 、Co/t2 、NiFe/t1 )の膜厚を表3に示すように変化させ、得られた膜について、実施例2と同様に熱処理した後、表3に示す評価を行った。なお、膜厚の単位はA である。得られた結果をまとめて表3に示す。ただし、サンプル31〜35のSQ1 はいずれも0.5を超える値であった。
【0085】表3より、成膜中に磁場を印加し、Hkが3〜20では、大きな高周波傾きが得られることがわかる。さらに、Hkが上記の通り付与されていてもt3 ≧50A では高周波傾きが小さい。
【0086】実施例4Co層厚とNiFe層厚とを10A に固定し、Cu層厚を35、42、45、50A に変化させた以外は実施例3と同様に、成膜中に180Oeの磁場を印加して磁性多層膜を成膜し、MR変化率を求めた。結果を図11に示す。
【0087】Cu層厚(t3 )<50A でMR変化率が向上している。なお、このMR変化率は、NiFe層にHkを付与しない場合と比較してはるかに増大していた。
【0088】実施例5Co層厚を10A 、Cu層厚を45A に固定し、NiFe層厚を10、13、15、20、30、40および50A に変化させた以外は実施例3と同様に成膜中に180Oeの磁場を印加して磁性多層膜を成膜した。得られた膜について、−50〜50Oeの磁場範囲でのMR変化曲線を測定し、そのMR変化曲線の開き幅である最大ヒステリシス幅を評価した。結果を図12に示す。
【0089】NiFe層厚が大きくなるとMR変化曲線の最大ヒステリシス幅が大きくなる。
【0090】実施例6成膜中の印加磁場を90Oeとしたほかは、実施例3と同様にしてCr(50)[Cu(42)−Co(10)−Cu(42)−NiFe(13)]×10の磁性多層膜を成膜した。得られたサンプルのMR変化曲線を測定した。−50〜50Oeの印加磁場範囲で印加磁場強度を5往復させて得られたチャートを図13に示す。
【0091】MR変化曲線のヒステリシスはほとんど認められていない。
【0092】実施例7成膜中に180Oeの磁場を印加したもの(磁場中)と、磁場の印加を行わないもの(無磁場中)との2種類、Cr(50)[Cu(42)−Co(10)−Cu(42)−NiFe(13)]×10の磁性多層膜を実施例3と同様にして成膜した。ついで同一基板上から0.5×6mm、およびφ10mmをパターニングして得た磁場中サンプルを、150、200、250、300および400℃の各温度で、無磁場中サンプルを、200、250および300℃の各温度でそれぞれ1時間、真空中で熱処理し、成膜直後の膜を含めてそれぞれのサンプルのMR変化率、MR傾きを得た。MR傾きの結果を図14に示す。図中、成膜直後の膜の値は熱処理温度50℃として表示した。
【0093】磁場中サンプルでは、熱処理によるMR傾きの変化は認められず、無磁場中サンプルは熱処理によりMR傾きが大きく低下している。なお、MR変化率についてもほぼ同様の結果が得られた。
【0094】また、図15に磁場中サンプルの熱処理後の小角X線回折パターンを示す。人工周期に対応した回折ピークの位置、強度ともにほとんど変化がなく、構造が保たれていることがわかる。
【0095】
【発明の効果】第1の発明によれば、数Oe〜数十Oe程度の小さい外部磁場で数%〜数十%の大きい抵抗変化率をもつ磁性多層膜が得られる。しかも、0磁場での立ち上がり特性はきわめて良好であり、きわめて高い耐熱性を示す。また、第2の発明ではさらに加えて印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、ヒステリシス特性とMR傾きが改善された磁性多層膜が得られる。さらに第3の発明によれば、これらに加えて印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上の高い値を示し、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界でのMR傾きが大きな磁性多層膜が得られる。したがって、これらの磁性多層膜を用いた高感度のMRセンサおよび高密度磁気記録が可能なMRヘッド等のすぐれた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁性多層膜の一部省略断面図である。
【図2】本発明の作用を説明するB−H曲線の模式図である。
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の1例を示す一部省略断面図である。
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子の他の例を示す一部省略断面図である。
【図5】本発明の磁気抵抗効果素子をヨーク型MRヘッドに応用した1例を示す一部省略断面図である。
【図6】第1の発明の磁性多層膜を構成する第1および第2の磁性薄膜の成膜直後のB−H曲線を示すグラフである。
【図7】第1の発明の磁性多層膜のMR曲線の0磁場の傾きと第1の磁性薄膜のHkとの関係を示すグラフである。
【図8】第1の発明の磁性多層膜の成膜直後のX線回折パターンを示すグラフである。
【図9】第1の発明の磁性多層膜の熱処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】第2の発明の磁性多層膜を、−10〜10Oeの範囲で磁場を印加したときの、印加磁場とMR変化率との関係を示すチャートである。
【図11】第3の発明の磁性多層膜のCu層厚とMR変化率との関係を示すグラフである。
【図12】第3の発明の磁性多層膜のNiFe層厚とMR変化曲線の最大ヒステリシス幅との関係を示すグラフである。
【図13】第3の発明の磁性多層膜を、−50〜50Oeの範囲で磁場を印加したときの、印加磁場とMR変化率との関係を示すチャートである。
【図14】第3の発明の磁性多層膜と比較例との熱処理温度とMR傾きとの関係を示すグラフである。
【図15】第3の発明の磁性多層膜の各温度で熱処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
【符号の説明】
1 人工格子膜
10 磁気抵抗効果素子
2 シャント層
3 電極
4 基板
5 絶縁層
6 シールド層
7 バイアス印加層
8 ヨーク
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気記録媒体等の磁界強度を信号として読み取るための磁気抵抗効果素子のうち、特に小さな磁場変化を大きな電気抵抗変化信号として読み取ることのできる磁気抵抗効果素子と、それに好適な磁性多層膜と、それらの製造方法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気センサの高感度化や磁気記録における高密度化が進められており、これに伴い磁気抵抗変化を用いた磁気抵抗効果型磁気センサ(以下、MRセンサという。)や、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、MRヘッドという。)の開発が盛んに進められている。MRセンサもMRヘッドも、磁性材料を用いた読み取りセンサ部の抵抗変化により、外部磁界信号を読み出すものであるが、MRセンサやMRヘッドでは、記録媒体との相対速度が再生出力に依存しないことから、MRセンサでは高感度が、MRヘッドでは高密度磁気記録においても高い出力が得られるという特長がある。
【0003】しかし、従来の異方性磁気抵抗効果によるNi0.8 Fe0.2 (パーマロイ)やNiCo等磁性体を利用したMRセンサでは、抵抗変化率△R/Rがせいぜい2〜5%位と小さく、数GBPIオーダーの超高密度記録の読み出し用MRヘッド材料としては感度が不足する。
【0004】ところで、金属の原子径オーダーの厚さの薄膜が周期的に積層された構造をもつ人工格子は、バルク状の金属とは異なった特性を示すために、近年注目されてきている。このような人工格子の1種として、基板上に強磁性金属薄膜と反強磁性金属薄膜とを交互に積層した磁性多層膜があり、これまで、鉄−クロム型、コバルト−銅型等の磁性多層膜が知られている。このうち、鉄−クロム型(Fe/Cr)については、超低温(4.2K)において40%を超える磁気抵抗変化を示すという報告がある(Phys. Rev. Lett 第61巻、2472頁、1988年)。しかし、この人工格子磁性多層膜では最大抵抗変化の起きる外部磁場(動作磁界強度)が十数kOe 〜数十kOe と大きく、このままでは実用性がない。この他、Co/Ag等の人工格子磁性多層膜も提案されているが、これらでも動作磁場強度が大きすぎる。
【0005】そこで、このような事情から、非磁性層を介して保磁力の異なる2つの磁性層を積層した誘導フェリ磁性による巨大MR変化を示す3元系人工格子磁性多層膜が、後述する第1の発明の出願優先日前に提案されている。例えば、非磁性層を介して隣合う磁性薄膜のHcが異なっており、各層の厚さが200A 以下であるもの(特開平4−218982号公報;下記f)など、下記の文献が発表されている。
【0006】a.Journal of The Physical Society of Japan, 59(1990)3061T.Shinjo and H.Yamamoto[Co(30)/Cu(50)/NiFe(30)/Cu(50)]×15[( )内は各層の膜厚(A )、×の数値は繰り返り数、以下同]において印加磁場3kOe で9.9%、500Oeでは約8.5%のMR変化率を得ている。
【0007】b.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 99(1991)243H.Ymamamoto, T.Okuyama, H.Dohnomae and T.Shinjoaに加えて構造解析結果、MR変化率や比抵抗の温度変化、外部磁場の角度による変化、MR曲線のマイナーループ、積層回数依存性、Cu層厚依存性、磁化曲線の変化について述べられている。
【0008】c.電気学会マグネティクス研究会資料,MAG−91−161星野、細江、神保、神田、綱島、内山a、bの追試である。Cu層厚依存性、NiFe層厚依存性について追試している。加えて磁化曲線から外挿して疑似的に求めたCoのHcのCu層厚依存性の結果がある。またNiFe(30)−Cu(320)とCo(30)−Cu(320)から求めたそれぞれの磁化曲線を合成してNiFe(30)−Cu(160)−Co(30)−Cu(160)の磁化曲線と比較している。この場合はCu中間厚が3元系人工格子のものと違うので、直接角型比とHcとを比較することはできない。
【0009】d.電気学会マグネティクス研究会資料,MAG−91−242奥山、山本、新庄誘導フェリ磁性による巨大MR変化についての現像論的解析が述べられている。Hcの小さなNiFe層の磁気モーメントの回転につれてMRも同様に変化し、人工的に生成されたスピンの反平行状態によって巨大MR現象が発現することが確認されている。また、この現像はNiFe等の異方性MR効果とは異なることがMRの印加磁場角度変化の違いによって証明されている。
【0010】また、さらに下記の公報および文献も発表されている。
【0011】e.Japanese Journal of Applied Physics, 31(1992)L484H.Sakakima, et al.RFスパッタ法で成膜したNiFeCo/Cu/Co多層膜の微細構造とMR変化率との関連が述べられている。NiFe層とCo層とをともに30A と固定したときのCu層厚によるMR変化率の振動現象を報告しているが、試料成膜時に磁場は印加されてない。
【0012】f.特開平4−218982号公報保磁力の異なる磁性薄膜を非磁性薄膜を介して積層した磁性多層膜に関するものであってNi−FeとCoとをそれぞれ25A または30A とし、これをCu層を介して積層した実施例が開示されている。
【0013】g.特開平4−223306号公報非磁性層を介して隣合う2種類の磁性薄膜のHcが異なっている磁性多層膜であり、1つの磁性層がCoPtを主成分とする材料を用いた開示例が示されている。
【0014】このような3元系人工格子磁性多層膜では、Fe/Cr,Co/Cu,Co/Ag等に比較してMR変化率の大きさは劣るものの、数100Oe以下の印加磁場で10%程度の巨大なMR変化率を示している。しかし、これらの文献等で開示されている内容は数10〜100Oe程度の印加磁場でのMR変化についてのみである。
【0015】ところで、実際の超高密度磁気記録におけるMRヘッド材料としては印加磁場0から40〜50OeまでのMR変化曲線が重要である。しかし、これら従来の3元系人工格子は、印加磁場0でのMR変化はあまり増加しておらず、ほとんど0に近い。MR変化の増加率は60Oe程度で最大となり、このとき9%程度のMR変化率を示す。すなわち、変化曲線の立ち上がりが遅い。一方、パーマロイ(NiFe)の場合は、0磁場におけるMR変化の傾きはほぼ0であり、ほとんどMR変化率はかわらず、MR変化率の微分値は0に近く、磁場感度が低く、超高密度磁気記録の読み出し用MRヘッドとしては適さない。
【0016】このような特性を解決する手段として、NiFe等では、Ti等の比抵抗の小さなシャント層を設けて動作点をシフトさせて用いている。また、このシャント層に加えてCoZrMo、NiFeRh等の比抵抗の大きな軟磁性材料のソフトフィルムバイアス層を設けてバイアス磁界を印加して用いている。しかし、このようなバイアス層をもつ構造は、工程が複雑となり、特性を安定させることが困難であり、コストアップを招く。またMR変化曲線のなだらかなところを使うことになるのでS/Nの低下等を招く。
【0017】さらに、MRヘッド等では、複雑な積層構造をとりパターニング、平坦化等の工程でレジスト材料のベーキングやキュア等の熱処理を必要とし、350℃程度の耐熱性が必要となることがある。しかし、従来の3元系人工格子磁性多層膜では、このような熱処理で特性が劣化してしまう。
【0018】さらに、この出願の優先日以後、下記の諸文献が発表されている。
【0019】h.特開平4−247607号公報(Nix Co1-x )x'Fe1-x'と(Coy Ni1-y )z Fe1-z (x=0.6〜1.0、x’=0.7〜1.0、y=0.4〜1.0、z=0.8〜1.0)とを非磁性層を介して積層した磁性多層膜を開示しており、その実施例では2種の30A の磁性層を50A の非磁性層を介して積層している。
【0020】i.Applied Physics Letters, 61(1992)3187T.Valet, et al.RFスパッタ法で成膜したNi80Fe20/Cu/Co多層膜のCu層厚によるMR変化率の振動現象が述べられている。試料は[NiFe(50)−Cu(x)−Co(20)−Cu(x)]×3(ただし7≦x≦37)である。試料は、RFスパッタ法により無磁場中で成膜されている。ここで、x=33A のときにのみ保磁力の差に起因するMR変化の成分が存在すると述べられている。
【0021】j.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 121(1993)402T.Valet, et al.RFスパッタ法で成膜したNi80Fe20/Cu/Co多層膜の微細構造とMR変化率との関連が述べられている。ここでは[NiFe(50)−Cu(50)−Co(10)−Cu(50)]×12および[NiFe(50)−Cu(50)−Co(100)−Cu(50)]×8の2つの試料についての断面電子顕微鏡写真(TEM)と、[NiFe(50)−Cu(20)−Co(30)−Cu(20)]×18および[NiFe(50)−Cu(20)−Co(30)−Cu(20)]×3の2つの試料についてのMR特性について述べられている。例えば上記18回積層の場合、室温でMR変化が11%であるが、これは保磁力の差のよると述べられている。やはり試料の成膜時には磁場は印加されていない。
【0022】k.Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 121(1993)339スパッタ法で成膜した[NiFe(50)−Cu(x)−Co(20)−Cu(x)]×3の磁化反転機構について述べられている。ここではMR特性についてはふれられていないし、また試料成膜時に磁場は印加されていない。
【0023】このように、これらの文献に示される例では、磁場中の成膜を行っておらず、NiFe層に磁気異方性が付与されておらず、その角形比が高いものとなっている。この結果、0磁場を中心に−10〜10Oeの範囲でのMR変化率は大きなヒステリシスを示し、しかもこの範囲でのMR傾きが小さく、磁気ヘッドとして良好かつ安定な再生を行なうことができない。
【0024】また、さらにすぐれた超高密度磁気記録におけるMRヘッド材料として、印加磁場−50〜50OeまでのMR変化曲線も重要である。しかし、これらの文献の開示例では、0磁場を中心に−50〜50Oeの範囲でのMR変化率のヒステリシスが大きく、またこの範囲でのMR傾きも小さい。
【0025】さらにまた、MRヘッドは、高密度記録再生用として1MHz 以上の高周波磁界下で用いられることが要求される。しかし、従来の各種3元系磁性多層膜の膜厚構造では、1MHz 以上の高周波磁界での磁気抵抗変化曲線の傾き(高周波でのMR傾き)を0.08%/Oe以上にして、高い高周波感度を得ることが難しい。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、大きなMR変化率を示し、印加磁場が例えば0〜40Oe程度のきわめて小さい範囲で直線的なMR変化の立ち上がり特性を示し、磁場感度が高く、耐熱温度の高い磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、その製造方法とを提供することである。
【0027】また、第2の目的は、これに加え、印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、ヒステリシス特性とMR傾きが改善された磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、それらの製造方法とを提供することである。
【0028】さらに、第3の目的は、これらに加え、印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上の高い値を示し、すぐれたヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界でのMR傾きが大きな磁性多層膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子と、それらの製造方法とを提供することである。
【0029】
【課題を解決するための手段】このような第1〜第3の目的は、それぞれ下記(1)〜(5)の磁性多層膜の第1の発明、(6)の磁性多層膜の第2の発明、(7)〜(12)の磁性多層膜の第3の発明を、それぞれ下記(13)〜(16)の製造方法を用いて成膜し、下記(17)または(18)の磁気抵抗効果素子を下記(19)の製造方法により作製することで、すぐれた磁気抵抗効果素子として実現する。
(1)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、前記磁性薄膜および非磁性薄膜の膜厚がそれぞれ200A 以下である磁性多層膜。
(2)保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1 、t1 ≧t2 である上記(1)の磁性多層膜。
(3)SQ2 /SQ1 が2〜100である上記(1)または(2)の磁性多層膜。
(4)4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 、t1 ≧1.05t2 である上記(2)または(3)の磁性多層膜。
(5)前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが1〜20Oeである上記(1)〜(4)のいずれかの磁性多層膜。
(6)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 である磁性多層膜。
(7)非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、t3 <50A である磁性多層膜。
(8)SQ2 /SQ1 が2〜100である上記(7)の磁性多層膜。
(9)前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが3〜20Oeである上記(7)または(8)の磁性多層膜。
(10)磁気抵抗変化曲線が、−50〜50Oeの磁場範囲内に傾きが0.15%/Oe以上である直線部分を有し、さらに最大ヒステリシス幅が20Oe以下である上記(7)〜(9)のいずれかの磁性多層膜。
(11)前記第1の磁性薄膜が、式(Nix Fe1-x )y Co1-y (ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0である。)で表される組成を含む上記(7)〜(10)のいずれかの磁性多層膜。
(12)前記第2の磁性薄膜が、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w (ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0である。)で表される組成を含む上記(7)〜(11)のいずれかの磁性多層膜。
(13)基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜する際に、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の成膜時に膜面内の一方向に外部磁場を印加して上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
(14)前記外部磁場は10〜300Oeの磁界強度である上記(13)の磁性多層膜の製造方法。
(15)上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を成膜したのち、500℃以下の温度で熱処理を行う磁性多層膜の製造方法。
(16)基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜したのち500℃以下の温度で熱処理を行い、上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
(17)基板上に上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を有する磁気抵抗効果素子。
(18)バイアス磁界印加機構をもたない上記(17)の磁気抵抗効果素子。
(19)上記(13)〜(16)のいずれかの製造方法により、基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を形成し、上記(1)〜(12)のいずれかの磁性多層膜を形成する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【0030】
【作用】3元系人工格子磁性多層膜において、第1の目的である0磁場からのリニアリティーが良好で大きな傾きをもつMR曲線と高い耐熱性を得るためには、上記の文献でa〜d等に示されているHcの差だけでは不十分である。このような良好な立ち上がり特性と高い耐熱性を得るためには、第1の発明に従い、第1および第2の磁性薄膜の角型比SQ1 、SQ2 を規制し、しかもこれらの膜厚t1 、t2 を規制しなければならない。そして、このような本発明の角型比や膜厚の関係は、上記文献a〜gや、上記のこの出願の先願等には記載されていない。
【0031】さらに、第2の発明に従い、磁性薄膜をさらに薄層化すると、第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜との磁気的相互作用が小さくなり、印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性と大きなMR傾きとを示す。このような関係は上記諸文献等にはまったく記載されていない。
【0032】また、第3の目的における印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内で求めた磁気抵抗変化曲線(MRカーブ)の微分曲線から求める微分値の最大値MR傾きが0.15%/Oe以上であり、すぐれたヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界におけるMR傾きが大きい磁性多層膜を得るためには、第3の発明に従い、第1の磁性薄膜の厚さt1 、第2の磁性薄膜の厚さt2 に加え非磁性薄膜の厚さt3 を、50A 未満に規制し、さらに少なくとも第1の磁性薄膜の成膜を磁場中で行なう。このような膜厚の磁場中成膜による磁性多層膜については、上記諸文献等には示されていない。
【0033】
【具体的構成】以下、第1〜第3の発明の具体的構成について詳細に説明する。
【0034】本発明では、非磁性薄膜を介して隣合った磁性薄膜の保磁力は互いに異なっていることが必要である。その理由は、本発明の原理が、隣合った磁性層の磁化の向きがズレているとき、伝導電子がスピンに依存した散乱を受け、抵抗が増え、磁化の向きが互いに逆向きに向いたとき、最大の抵抗を示すことにあるからである。すなわち、本発明では、図2で示すように外部磁場が第1の磁性薄膜の保磁力Hc1 と第2の磁性薄膜層の保磁力Hc2 の間(Hc1 <H<Hc2 )であるとき、隣合った磁性層の磁化の方向が互いに逆向きの成分が生じ、抵抗が増大するのである。
【0035】ここで、3元系人工格子多層磁性膜の外部磁場、保磁力および磁化の方向の関係を説明する。図1は、本発明の実施例である人工格子磁性多層膜1の断面図である。図1において、人工格子磁性多層膜1は、基板4上に磁性薄膜M1 ,M2…,Mn-1 ,Mn を有し、隣接する2層の磁性薄膜の間に、非磁性薄膜N1 ,N2 …,Nn-2 ,Nn-1 を有する。
【0036】今、簡素化して、保磁力の異なる2種類の磁性薄膜のみを有する場合について説明する。図2に示されるように、2種類の磁性薄膜層
【0037】今度は外部磁場Hを減少させると、Hk<Hの領域(IV)では磁性薄膜
【0038】以下、まず第1の発明について説明する。
【0039】第1の発明の磁性薄膜に用いる磁性体の種類は特に制限されないが、具体的には、Fe,Ni,Co,Mn,Cr,Dy,Er,Nd,Tb,Tm,Ce,Gd等が好ましい。また、これらの元素を含む合金や化合物としては、例えば、Fe−Si,Fe−Ni,Fe−Co,Fe−Al,Fe−Al−Si(センダスト等),Fe−Y,Fe−Gd,Fe−Mn,Co−Ni,Cr−Sb,Fe系アモルファス合金、Co系アモルファス合金、Co−Pt,Fe−Al,Fe−C,Mn−Sb,Ni−Mn,Co−O,Ni−O,Fe−O,Fe−Al−Si−N,Ni−F,フェライト等が好ましい。本発明では、これらの磁性材料のうちから保磁力の異なる2種またはそれ以上を選択して磁性薄膜を形成する。
【0040】第1の発明において、各磁性薄膜の膜厚の上限は、200A である。一方、磁性薄膜の厚さの下限は特にないが、4A 未満ではキューリー点が室温より低くなって実用性がなくなってくる。また、厚さを4A 以上とすれば、膜厚を均一に保つことが容易となり、膜質も良好となる。また、飽和磁化の大きさが小さくなりすぎることもない。膜厚を200A より大としても効果は落ちないが、膜厚の増加に伴って効果が増大することもなく、膜の作製上無駄が多く、不経済である。
【0041】各磁性薄膜の保磁力Hcは、適用される素子における外部磁界強度や要求される抵抗変化率等に応じて、例えば0.001Oe〜10kOe 、特に0.01〜1000Oeの範囲から適宜選択すればよい。また、隣接する磁性薄膜の保磁力の比Hc2 /Hc1 は、1.2〜100、特に1.5〜100より好ましくは2〜80、特に3〜60、さらに好ましくは5〜50、特に6〜30であることが好ましい。比が大きすぎるとMR曲線がブロードになってしまい、また小さすぎるとHcの差が近すぎ、反平行状態が有効に働かなくなってしまう。
【0042】なお、Hc等の磁気特性の測定に際しては、磁気抵抗効果素子中に存在する磁性薄膜の磁気特性を直接測定することはできないので、通常、下記のようにして測定する。すなわち、測定すべき磁性薄膜を、磁性薄膜の合計厚さが200〜400A 程度になるまで非磁性薄膜と交互に蒸着して測定用サンプルを作製し、これについて磁気特性を測定する。この際、磁性薄膜の厚さ、非磁性薄膜の厚さおよび非磁性薄膜の組成は、磁気抵抗効果測定素子におけるものと同じものとする。
【0043】第1の発明では、0磁場からリニアリティーの高いMR曲線と高い耐熱性を得るために、Hcの小さい第1の磁性薄膜とHcの大きい第2の磁性薄膜との0磁場での残留磁化Mr、すなわち角型比SQ=Mr/Msを制御する。第1の磁性薄膜では、好ましくは0.01≦SQ1 ≦0.5、より好ましくは0.01≦SQ1 ≦0.4、特に0.01≦SQ1 ≦0.3とし、第2の磁性薄膜では、0.7≦SQ2 ≦1.0とする。第1の磁性薄膜は、0磁場近傍でのMR変化の立ち上がりを規定するものであるので、その角型比SQ1 は小さいほどよい。より詳細には、SQ1 が小さければ0磁場付近で磁化は漸次回転し、反平行状態が漸次増加していくので、0磁場をはさんで直線的なMR曲線とすることができる。そして、SQ1 が0.5より大きくなると直線的なMR変化が得られにくくなる。ただし、SQ1 の製造上の限界は0.01程度までである。
【0044】このような第1の磁性薄膜と組み合わせる第2の磁性薄膜は、0磁場付近で角形比SQ2 が1に近いほどよい。角型比を0.7以上にすれば0磁場近傍でのMR変化の立ち上がりはシャープになり、大きなMR変化率を得ることができる。なお、第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkは1〜20Oe、より好ましくは2〜12Oe、特に3〜10Oeとすることが好ましい。Hk>20では直線性を示す磁場の範囲は広がるが、MR曲線の傾きが小さくなり、分解能が落ちてしまう。またHk<1Oeでは直線性を示す磁場の範囲が狭くなり、MR素子としての機能を果たさなくなってくる。
【0045】なお、SQ2 /SQ1 は2〜100、特に2〜50であることが好ましい。
【0046】そして、さらに第1および第2の磁性薄膜の膜厚を最適化することにより、より積極的に角型比すなわちMR変化曲線の立ち上り特性と耐熱性とを制御することが好ましい。今、上記の文献a〜d等に示されるほとんどの具体例と同様、第1および第2の磁性薄膜の厚さを同一とするときには、膜厚が厚くなるほど両薄膜の角型比はともに1.0に近づく。このため磁化曲線では明確な磁化の折れ曲がりを示さない。その結果、MR変化曲線は数10Oeで始めて立ち上がる0磁場での直線性の悪いものになってしまう。従って、磁性薄膜の膜厚は両方とも薄い方が直線性がよく、良好な立ち上がり特性を示す。ただし、両薄膜とも、例えば10A 程度と薄い場合、耐熱性に問題がある。より具体的には350℃程度で真空中で加熱を行うと、第2の磁性薄膜では角型比の劣化による影響は余り受けないが、第1の磁性薄膜では角型比の劣化が激しい。第1の磁性薄膜は厚くした方が角型比を0.5以下に保つことが容易になる。従って、第2の磁性薄膜とは独立に第1の磁性薄膜を多少厚くした方が、プロセスでの熱処理後のMR特性がよいものが得られる。そして、第1の磁性薄膜の熱処理後の角型比の劣化を抑えて耐熱性を向上させるのである。
【0047】すなわち、第1の発明においては、SQ1 とSQ2 との規制に加えて、第1および第2の磁性薄膜の膜厚をそれぞれt2 およびt1 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1 ≦200A かつt2 ≦t1 、より好ましくは、4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 ≦100A かつt2 <t1 、特に1.05t2 ≦t1 に規制することが好ましい。t2 が30A 以上となると全体の比抵抗が増大し、結果的にMR変化率が小さくなってしまう。ただし、t2 が4A 未満では、前記のとおり連続膜の形成が不可能となる。t1 が20A 未満となると耐熱性が悪化する。なお、t1 の上限は直線性の点で200A 、特に100A が望ましい。さらに、t2 >t1 となると、耐熱性が悪化し、製造プロセス中で熱が加わる工程を通過した後に、MR変化率が小さくなってしまう。
【0048】このように第1および第2の磁性薄膜の角型比と膜厚とを規制することにより、成膜直後の磁性多層膜は、5%以上、特に6〜12%の高いMR変化率とともに、0磁場にてリニアリティーが高く、勾配の大きいMR変化を示す。より具体的には、印加磁場−3Oe〜+3OeまでのMR変化率の差は0.5%以上、通常1〜2%程度となり、超高密度記録の読み出し用のMRヘッドとして十分な特性が得られる。
【0049】また、第1の発明では、上記のとおりt2 、t1 を規制すれば、耐熱性が向上し、熱処理による特性劣化、特にMR変化率の劣化がきわめて少なくなる。すなわち、例えば真空中、250℃以上、350℃程度までの熱処理によってもMR変化率を熱処理前の70%以上に維持することができ、5%以上、特に6%以上のMR変化率を示す。この熱処理は前記のとおり、例えばMRヘッドの製造プロセスにて生じるものであるが、条件を選択すれば、印加磁場−3Oe〜+3OeまでのMR変化率の差で表わされる0磁場での傾きはかえって向上することもあり、熱処理前の25%減から100%増の値とすることができ、超高密度磁気記録の読み出し用MRヘッドに必要な0.5%以上、例えば1〜2%の傾きを熱処理後も示すことができる。なお、熱処理後、SQ1 は0.01〜0.5、SQ2 は0.7〜1.0の値を維持する。
【0050】用いる非磁性薄膜は、保磁力の異なる磁性薄膜間の磁気相互作用を弱める役割をはたす材料であり、その種類に特に制限はなく各種金属ないし半金属非磁性体や非金属非磁性体から適宜選択すればよい。金属非磁性体としては、Au,Ag,Cu,Pt,Al,Mg,Mo,Zn,Nb,Ta,V,Hf,Sb,Zr,Ga,Ti,Sn,Pb等やこれらの合金が好ましい。半金属非磁性体としては、Si,Ge,C,B等やこれらに別の元素を添加したものが好ましい。非金属非磁性体としては、SiO2 ,SiO,SiN,Al2 O3 ,ZnO,MgO,TiN等やこれらに別の元素を添加したものが好ましい。
【0051】第1の発明における非磁性薄膜の厚さは、200A 以下が望ましい。一般に膜厚が200A を超えると、抵抗は非磁性薄膜により決定してしまい、スピン散乱を設ける割合が小さくなってしまい、その結果、磁気抵抗変化率が小さくなってしまう。一方、膜厚が小さすぎると、磁性薄膜間の磁気相互作用が大きくなり過ぎ、両磁性薄膜の磁化方向が相異なる状態が生じにくくなるとともに、連続膜の形成が困難となるので、膜厚は4A 以上が好ましい。なお、磁性薄膜や非磁性薄膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光分析等により測定することができる。また、薄膜の結晶構造は、X線回折や高速電子線回折等により確認することができる。
【0052】次に、第2の発明では、特に第1および第2の磁性薄膜の厚さt1 およびt2を、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 とする。磁性薄膜の厚さをこのように薄層化すると、第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜との間での非磁性薄膜層を介しての磁気的相互作用の影響が小さくなり、それぞれの磁性薄膜が独立して容易に磁化反転することができるようになる。これにより、高いMR変化率を示し、しかも印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性とMR傾きとを示す。t2 が4A 未満では連続膜の形成が不可能となり、t1 <t2 では第1の磁性薄膜層と第2の磁性薄膜層との磁化総量の比率のバランスが悪化するため、スピンに依存した散乱を受ける伝導電子の割合が小さくなり、特性が低下しやすくなる。
【0053】このように、薄層化しても、250℃程度での耐熱性は十分であり、実用上問題はない。なお、磁性薄膜に用いる磁性体の材質、各磁性薄膜の保磁力Hc、角形比SQ2 /SQ1 、異方性磁界Hkおよび非磁性薄膜については第1の発明と同様の条件が好ましい。
【0054】さらに、第3の発明では、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、かつt3 <50A 、より好ましくは6A ≦t2 ≦28A 、8A ≦t1 ≦36A 、t1 >t2 、特にt1 ≧1.05t2 かつ8A ≦t3≦48A である。t2 が30A 以上となると全体の比抵抗が増大し、結果的にMR変化率が小さくなってくる。この場合、t2 が4A 未満では連続膜の形成が不可能となる。t1 が40A より大きいと、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅が20Oeを超えてしまい、例えば、得られた磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドとして用いた場合、出力電圧の変動が大きくなりやすく、特性上好ましくない。t1 が6A 未満となると十分な磁気特性が得られず、MR変化率、MR傾き、耐熱性ともに劣化し、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅も大きくなる傾向がある。さらに、t1 <t2 では第1の磁性薄膜層と第2の磁性薄膜層との磁化総量の比率のバランスが悪化するため、スピンに依存した散乱を受ける伝導電子の割合が小さくなり、特性が低下しやすくなる。
【0055】このような磁性薄膜に用いる磁性体の種類、各磁性薄膜の保磁力Hc、角形比SQ2 /SQ1 について好ましいものは第1の発明と同様である。この場合、上述した薄い層として良好な磁気特性を安定して得るためには、特に第1の磁性薄膜として、式(Nix Fe1-x )y Co1-y (ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0)で表わされる組成を、また第2の磁性薄膜として、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w (ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0)で表わされる組成を、それぞれ70重量%以上含むものが好ましい。
【0056】第3の発明では、非磁性薄膜の膜厚t3 は50A 未満、より好ましくは8A 〜48A であり、膜物性の再現性や安定性の点では30A 〜48A 、特に35A 〜48A であることが量産上好ましい。ただし、コストを無視して製造ができるならば30A 未満、特に10A 〜28A であってもよい。非磁性薄膜の膜厚が50A 以上となると、MR変化率が小さくなり、さらに後述する1MHz の高周波磁界でのMR傾きが小さくなる。非磁性薄膜に用いる材料の種類には特に制限はなく、第1の発明と同様のものが好ましく用いられる。
【0057】各磁性層および非磁性層の膜厚を上記のように規定し、さらに、少なくとも第1の磁性薄膜の成膜時に後述する膜面内の一方向に外部磁場を印加して異方性磁界Hkを3〜20Oe、より好ましくは3〜16Oe、特に3〜12Oe付与することで、上記の薄膜においても、5%以上、特に6〜12%の高いMR変化率とともに高い耐熱性を示し、さらに磁気抵抗変化曲線が、印加磁場−50〜50Oeの範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上、さらに0.18%/Oe以上、通常0.20〜0.60%/Oeが得られ、MR変化曲線の最大ヒステリシス幅が20Oe以下、さらに16Oe以下、通常0〜14Oeとなる。その上さらに、1MHz の高周波磁界でのMR傾きが0.08%/Oe以上、より好ましくは0.10以上、通常0.10〜0.30%/Oeとすることができ、高密度記録の読み出し用のMRヘッド等に用いる場合、十分な性能を得ることができる。
【0058】異方性磁界Hkが3Oe未満では保磁力と同程度となってしまい、0磁場を中心とした直線的なMR変化曲線が実質的に得られなくなるため、MR素子としての特性が劣化する。また20Oeより大きいとMR傾きが小さくなり、MRヘッド等として用いる際、出力が低下しやすく、かつ分解能が低下する。
【0059】なお、MR変化率は、最大比抵抗をρmax 、最小比抵抗をρsat としたとき、(ρmax −ρsat )×100/ρsat (%)である。また、最大ヒステリシス幅は、特に表示がない限り、−50〜+50Oeで磁気抵抗変化曲線(MRカーブ)を測定して算出したヒステリシス幅の最大値である。さらに、MR傾きは、MRカーブを測定し、その微分曲線を求めて得られた−50〜+50Oeでの微分値の最大値である。そして、高周波MR傾きは、1MHz 5Oeの交流磁場でMR変化率を測定したときの−2〜+2Oe間での傾きである。
【0060】これら、第1〜第3の発明において、人工格子磁性多層膜の繰り返し積層回数nに特に制限はなく、目的とする磁気抵抗変化率等に応じて適宜選択すればよいが、十分な磁気抵抗変化率を得るためには、nを3以上にするのが好ましい。また、積層数を増加するに従って、抵抗変化率も増加するが、生産性が悪くなり、さらにnが大きすぎると素子全体の抵抗が低くなりすぎて実用上の不便が生じることから、通常、nを50以下とするのが好ましい。なお、長周期構造は、小角X線回折パターンにて、くり返し周期に応じた1次2次ピーク等の出現により確認することができる。
【0061】なお、以上の説明では、磁性薄膜として保磁力の異なる2種類の磁性薄膜だけを用いているが、保磁力がそれぞれ異なる3種以上の磁性薄膜を用いれば、磁化方向が逆転する外部磁界を2箇所以上設定でき、動作磁界強度の範囲を拡大することができる。
【0062】また、基板材料と人工格子を構成する材料との表面エネルギーの違いを緩和し、両者のぬれ性を向上し、広い範囲で平坦な界面をもった積層構造を実現させるため、磁性多層膜の下地層として、10〜100A 程度のCr、Fe、Co、Ni、W、Ti、V、Mnあるいはこれらの合金の薄膜を設けてもよい。さらに、最上層の磁性薄膜の表面には、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の酸化防止膜が設けられてもよく、電極引出のための金属導電層が設けられてもよい。
【0063】磁性多層膜の成膜は、蒸着法、スパッタリング法、分子線エピタキシー法(MBE)等の方法で行う。また、基板としては、ガラス、ケイ素、MgO、GaAs、フェライト、アルティック、CaTiO等を用いることができる。成膜に際しては、第1の磁性薄膜成膜時に、膜面内の一方向に好ましくは10〜300Oeの外部磁場を印加することが好ましい。これにより、SQ1 が低下し、Hkが大きくなる。なお、外部磁場の印加方法は、第1の磁性薄膜成膜時のみ、磁場の印加時期を容易に制御できる例えば電磁石等を具えた装置を用いて印加し、第2の磁性薄膜成膜時は印加しない方法であっても、成膜時を通して常に一定の磁場を印加する方法であってもよい。
【0064】図3、図4には、本発明の磁性多層膜を用いて磁気抵抗効果素子、例えばMRヘッドを構成するときの例が示される。両図に示される磁気抵抗効果素子10は、上記の磁性多層膜1を絶縁層5内に形成して、磁性多層膜1に測定電流を流すための例えばCu、Ag、Au等の電極3、3と、例えばTi等のシャント層2とを接続している。絶縁層5としては、SiO2 、SiO、Al2 O3 等、一般に絶縁層として用いられる酸化物等が好ましい。また、磁性多層膜1は、例えばセンダスト、パーマロイ等のシールド6、6で被われている。さらに図4の例では、シャント層2下方に、例えばCoZrMo、NiFeRh等の比抵抗の大きな軟磁性材料のバイアス磁界印加層7が設けられている。ただし、本発明の磁性多層膜では、0磁場での立ち上がり特性が良好であるので、シャント層やバイアス磁界印加手段は設けなくてよい。
【0065】さらに、図5では、本発明の磁性多層膜をヨーク型MRヘッドに応用した例が示される。ここでは、磁束を導くヨーク8、8の一部に切り欠きを設け、その間に磁性多層膜1が薄い絶縁層5を介して形成されている。この磁性多層膜1には、ヨーク8、8で形成される磁路の方向と平行または直角方向に電流を流すための電極(図示せず)が形成されている。また、図4と同様にシャント層2、バイアス磁界印加層7が設けられている。ただし、本発明の磁性多層膜では、0磁場での立ち上がり特性が良好であるので、これらシャント層やバイアス磁界印加手段は設けなくてもよい。
【0066】このような磁気抵抗効果素子の製造にあたっては、工程中パターニング、平坦化等の工程でベーキング、アニーリング、レジストのキュア等の熱処理を必要とする。しかし、本発明の多層膜は耐熱性が良好であるので、第1の発明による磁性多層膜では500℃以下、一般に50〜400℃、50〜350℃間程度の熱処理に十分対応でき、第2および第3の発明による磁性多層膜では500℃以下、200〜400℃で1時間程度の熱処理に十分対応できる。熱処理は通常真空中、不活性ガス雰囲気中、大気中等で行えばよいが、第2および第3の発明による磁性多層膜では、通常10-5〜10-9程度の真空(減圧下)中で行なうことで特性劣化の少ない磁性多層膜が得られる。
【0067】
【実施例】以下、第1〜第3の発明を具体的実施例によりさらに詳細に説明する。まず第1の発明の実施例として実施例1を示す。
【0068】実施例1基板としてガラス基板4を用い、超高真空蒸着装置の中に入れ、10-9〜10-10 Torrまで真空引きを行った。基板温度は室温に保ったまま基板を回転させながら、以下の組成をもつ人工格子磁性多層膜1を作成した。この際、磁界を基板の面内方向に印加しながら、約0.3A /秒の成膜速度で、分子線エピタキシー法(MBE)による蒸着を行った。
【0069】磁性薄膜と非磁性薄膜との多層膜の構成と磁気抵抗変化率を下記表1に示す。なお、表1において、例えばサンプルNo. 3は、[Ni0.8 Fe0.2 (30)/Cu(50)/Co(20)/Cu(50)]×10であって、30A 厚のNi80%−Fe20%のパーマロイ組成(NiFe)合金の第1の磁性薄膜、50A 厚のCuの非磁性薄膜、20A 厚のCoの第2の磁性薄膜および50A 厚のCuの非磁性薄膜を順次蒸着する工程を10回繰り返したことを意味する。各サンプルの繰り返し数はともに10回としたので、これを(Cu,Co/t2 ,NiFe/t1 )の順で(50,20,30)と表1に記載した。なお、各サンプルとも、下地層として50A のCr層を介在させた。
【0070】磁化およびB−Hループの測定は、振動型磁力計により行った。抵抗測定は、表1に示される構成の試料から0.5×10mmの形状のサンプルを作成し、外部磁界を面内に電流と垂直方向になるようにかけながら、−300〜300Oeまで変化させたときの抵抗を4端子法により測定し、その抵抗から比抵抗の最小値ρsat およびMR変化率ΔR/Rを求めた。MR変化率ΔR/Rは、最大比抵抗をρmax 、最小比抵抗をρsat とし、次式により計算した:ΔR/R=(ρmax −ρsat )×100/ρsat (%)。また、印加磁場−3Oe〜3OeまでのMR変化率の差を求め、これを0磁場での傾きとし、立ち上がり特性を評価した。この値は前記のとおり0.5%以上あることが必要である。
【0071】これとは別に、第1の磁性薄膜(NiFe)または第2の磁性薄膜(Co)と、非磁性薄膜(Cu)とを用い、上記の条件で2元系の人工格子を作成し、それぞれの角型比SQ1 、SQ2 とその相対比SQ2 /SQ1 およびNiFeのHkを求めた。これらの結果(初期特性)を表1に示す。なお、表1には、NiFeの成膜時の面内一方向磁場を印加したときの磁界強度を併記する。
【0072】
【表1】
【0073】さらに各サンプルを真空中で350℃、2時間熱処理した。熱処理後の角型比、ρsat と、MR変化率、0磁場の傾き、そしてそれらの変化率を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】表2に示される結果から、初期も熱処理後も、本発明のサンプルNo. 1〜8のみが1%以上の0磁場の傾きと、5%以上のMR変化率を示すことがわかる。
【0076】なお、図6には、サンプルNo. 3を構成する第1および第2の磁性薄膜の成膜直後のB−H曲線が示される。また、図7には、第1の磁性薄膜のHkと0磁場の傾きと比較の関係が示される。さらに、図8、図9R>9にサンプルNo. 3の成膜直後および熱処理後のX線回折パターンを示す。この図から、成膜直後、熱処理後とも長周期構造が維持されていることがわかる。
【0077】次に第2の発明の実施例として実施例2を示す。
【0078】実施例2ガラス基板上に、MBE装置による超高真空多元蒸着法を用いて、3元系人工格子Cr(50)[Cu(50)−Co(10)−Cu(50)−NiFe(10)]×10の磁性多層膜を作成した。到達圧力は4×10-11 Torr、蒸着中圧力8×10-10 とした。蒸着速度は0.2〜0.5A /sec.とし、成膜時に180Oeの磁場を印加した。得られたサンプルのMR変化曲線を測定した。−10〜10Oeの印加磁場範囲で、印加磁場強度を5往復させて得られたチャートを図10に示す。また、MR傾きは0.30%/Oe、MR変化率は5.7%、さらにMR変化曲線の直線部分の磁場幅は約8Oeであった。
【0079】さらに第3の発明の実施例および比較例として、以下の実施例3〜6および比較例1を示す。
【0080】実施例3コーニング7059ガラス基板上に非磁性金属層としてCrを50A 成膜し、下地層とした上にCu/Co/Cu/NiFe(繰り返し積層回数=10)人工格子磁性多層膜を成膜した。成膜条件は、到達圧力2×10-10 Torr、成膜時圧力1×10-9Torr、基板温度40℃程度とし、各材料を0.1〜0.4A /secの成膜速度で、成膜中に磁場を基板の面内方向に印加しながらMBE法による蒸着を行った。
【0081】各層(Cu/t3 、Co/t2 、NiFe/t1 )の膜厚を表3に示すように変化させ、得られた磁性多層膜について、さらに250℃、1時間真空中で熱処理し、サンプル21〜27を得た。得られたサンプルについて表3に示す評価を行った。なお、膜厚の単位はA である。得られた結果をまとめて表3に示す。ただし、サンプル21〜27は、SQ1 が0.01〜0.5、SQ2 が0.7〜1.0、SQ2 /SQ1 が2〜100の範囲であった。
【0082】
【表3】
【0083】比較例1成膜中に磁場を印加せず、他は実施例2と同様にして磁性多層膜を成膜してサンプル31〜35を得た。
【0084】各層(Cu/t3 、Co/t2 、NiFe/t1 )の膜厚を表3に示すように変化させ、得られた膜について、実施例2と同様に熱処理した後、表3に示す評価を行った。なお、膜厚の単位はA である。得られた結果をまとめて表3に示す。ただし、サンプル31〜35のSQ1 はいずれも0.5を超える値であった。
【0085】表3より、成膜中に磁場を印加し、Hkが3〜20では、大きな高周波傾きが得られることがわかる。さらに、Hkが上記の通り付与されていてもt3 ≧50A では高周波傾きが小さい。
【0086】実施例4Co層厚とNiFe層厚とを10A に固定し、Cu層厚を35、42、45、50A に変化させた以外は実施例3と同様に、成膜中に180Oeの磁場を印加して磁性多層膜を成膜し、MR変化率を求めた。結果を図11に示す。
【0087】Cu層厚(t3 )<50A でMR変化率が向上している。なお、このMR変化率は、NiFe層にHkを付与しない場合と比較してはるかに増大していた。
【0088】実施例5Co層厚を10A 、Cu層厚を45A に固定し、NiFe層厚を10、13、15、20、30、40および50A に変化させた以外は実施例3と同様に成膜中に180Oeの磁場を印加して磁性多層膜を成膜した。得られた膜について、−50〜50Oeの磁場範囲でのMR変化曲線を測定し、そのMR変化曲線の開き幅である最大ヒステリシス幅を評価した。結果を図12に示す。
【0089】NiFe層厚が大きくなるとMR変化曲線の最大ヒステリシス幅が大きくなる。
【0090】実施例6成膜中の印加磁場を90Oeとしたほかは、実施例3と同様にしてCr(50)[Cu(42)−Co(10)−Cu(42)−NiFe(13)]×10の磁性多層膜を成膜した。得られたサンプルのMR変化曲線を測定した。−50〜50Oeの印加磁場範囲で印加磁場強度を5往復させて得られたチャートを図13に示す。
【0091】MR変化曲線のヒステリシスはほとんど認められていない。
【0092】実施例7成膜中に180Oeの磁場を印加したもの(磁場中)と、磁場の印加を行わないもの(無磁場中)との2種類、Cr(50)[Cu(42)−Co(10)−Cu(42)−NiFe(13)]×10の磁性多層膜を実施例3と同様にして成膜した。ついで同一基板上から0.5×6mm、およびφ10mmをパターニングして得た磁場中サンプルを、150、200、250、300および400℃の各温度で、無磁場中サンプルを、200、250および300℃の各温度でそれぞれ1時間、真空中で熱処理し、成膜直後の膜を含めてそれぞれのサンプルのMR変化率、MR傾きを得た。MR傾きの結果を図14に示す。図中、成膜直後の膜の値は熱処理温度50℃として表示した。
【0093】磁場中サンプルでは、熱処理によるMR傾きの変化は認められず、無磁場中サンプルは熱処理によりMR傾きが大きく低下している。なお、MR変化率についてもほぼ同様の結果が得られた。
【0094】また、図15に磁場中サンプルの熱処理後の小角X線回折パターンを示す。人工周期に対応した回折ピークの位置、強度ともにほとんど変化がなく、構造が保たれていることがわかる。
【0095】
【発明の効果】第1の発明によれば、数Oe〜数十Oe程度の小さい外部磁場で数%〜数十%の大きい抵抗変化率をもつ磁性多層膜が得られる。しかも、0磁場での立ち上がり特性はきわめて良好であり、きわめて高い耐熱性を示す。また、第2の発明ではさらに加えて印加磁場が例えば−10〜10Oe程度の範囲で、ヒステリシス特性とMR傾きが改善された磁性多層膜が得られる。さらに第3の発明によれば、これらに加えて印加磁場が例えば−50〜50Oe程度の範囲内でのMR傾きは0.15%/Oe以上の高い値を示し、すぐれたMR変化率のヒステリシス特性をもち、さらに高周波磁界でのMR傾きが大きな磁性多層膜が得られる。したがって、これらの磁性多層膜を用いた高感度のMRセンサおよび高密度磁気記録が可能なMRヘッド等のすぐれた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁性多層膜の一部省略断面図である。
【図2】本発明の作用を説明するB−H曲線の模式図である。
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の1例を示す一部省略断面図である。
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子の他の例を示す一部省略断面図である。
【図5】本発明の磁気抵抗効果素子をヨーク型MRヘッドに応用した1例を示す一部省略断面図である。
【図6】第1の発明の磁性多層膜を構成する第1および第2の磁性薄膜の成膜直後のB−H曲線を示すグラフである。
【図7】第1の発明の磁性多層膜のMR曲線の0磁場の傾きと第1の磁性薄膜のHkとの関係を示すグラフである。
【図8】第1の発明の磁性多層膜の成膜直後のX線回折パターンを示すグラフである。
【図9】第1の発明の磁性多層膜の熱処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】第2の発明の磁性多層膜を、−10〜10Oeの範囲で磁場を印加したときの、印加磁場とMR変化率との関係を示すチャートである。
【図11】第3の発明の磁性多層膜のCu層厚とMR変化率との関係を示すグラフである。
【図12】第3の発明の磁性多層膜のNiFe層厚とMR変化曲線の最大ヒステリシス幅との関係を示すグラフである。
【図13】第3の発明の磁性多層膜を、−50〜50Oeの範囲で磁場を印加したときの、印加磁場とMR変化率との関係を示すチャートである。
【図14】第3の発明の磁性多層膜と比較例との熱処理温度とMR傾きとの関係を示すグラフである。
【図15】第3の発明の磁性多層膜の各温度で熱処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
【符号の説明】
1 人工格子膜
10 磁気抵抗効果素子
2 シャント層
3 電極
4 基板
5 絶縁層
6 シールド層
7 バイアス印加層
8 ヨーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、前記磁性薄膜および非磁性薄膜の膜厚がそれぞれ200A 以下である磁性多層膜。
【請求項2】 保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1、t1 ≧t2 である請求項1の磁性多層膜。
【請求項3】 SQ2 /SQ1 が2〜100である請求項1または2の磁性多層膜。
【請求項4】 4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 、t1 ≧1.05t2 である請求項2または3の磁性多層膜。
【請求項5】 前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが1〜20Oeである請求項1〜4のいずれかの磁性多層膜。
【請求項6】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 である磁性多層膜。
【請求項7】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、t3 <50A である磁性多層膜。
【請求項8】 SQ2 /SQ1 が2〜100である請求項7の磁性多層膜。
【請求項9】 前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが3〜20Oeである請求項7または8の磁性多層膜。
【請求項10】 磁気抵抗変化曲線が、−50〜50Oeの磁場範囲内に傾きが0.15%/Oe以上である直線部分を有し、さらに最大ヒステリシス幅が20Oe以下である請求項7〜9のいずれかの磁性多層膜。
【請求項11】 前記第1の磁性薄膜が、式(Nix Fe1-x )y Co1-y(ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0である。)で表される組成を含む請求項7〜10のいずれかの磁性多層膜。
【請求項12】 前記第2の磁性薄膜が、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w(ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0である。)で表される組成を含む請求項7〜11のいずれかの磁性多層膜。
【請求項13】 基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜する際に、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の成膜時に膜面内の一方向に外部磁場を印加して請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
【請求項14】 前記外部磁場は10〜300Oeの磁界強度である請求項13の磁性多層膜の製造方法。
【請求項15】 請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を成膜したのち、500℃以下の温度で熱処理を行う磁性多層膜の製造方法。
【請求項16】 基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜したのち500℃以下の温度で熱処理を行い、請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
【請求項17】 基板上に請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を有する磁気抵抗効果素子。
【請求項18】 バイアス磁界印加機構をもたない請求項17の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】 請求項13〜16のいずれかの製造方法により、基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を形成し、請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項1】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、前記磁性薄膜および非磁性薄膜の膜厚がそれぞれ200A 以下である磁性多層膜。
【請求項2】 保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <30A 、20A ≦t1、t1 ≧t2 である請求項1の磁性多層膜。
【請求項3】 SQ2 /SQ1 が2〜100である請求項1または2の磁性多層膜。
【請求項4】 4A ≦t2 ≦28A 、22A ≦t1 、t1 ≧1.05t2 である請求項2または3の磁性多層膜。
【請求項5】 前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが1〜20Oeである請求項1〜4のいずれかの磁性多層膜。
【請求項6】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の厚さをt1 、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の厚さをt2 としたとき、4A ≦t2 <20A 、10A ≦t1 <20A 、t1 ≧t2 である磁性多層膜。
【請求項7】 非磁性薄膜を介して積層された少なくとも2層の磁性薄膜を有し、この非磁性薄膜を介して隣合う磁性薄膜の保磁力が異なっており、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の角型比SQ1 が0.01〜0.5であり、保磁力の大きい第2の磁性薄膜の角型比SQ2 が0.7〜1.0であり、第1の磁性薄膜の厚さをt1 、第2の磁性薄膜の厚さをt2 、非磁性薄膜の厚さをt3 としたとき、4A ≦t2 <30A 、6A ≦t1 ≦40A 、t1 ≧t2 、t3 <50A である磁性多層膜。
【請求項8】 SQ2 /SQ1 が2〜100である請求項7の磁性多層膜。
【請求項9】 前記第1の磁性薄膜の異方性磁界Hkが3〜20Oeである請求項7または8の磁性多層膜。
【請求項10】 磁気抵抗変化曲線が、−50〜50Oeの磁場範囲内に傾きが0.15%/Oe以上である直線部分を有し、さらに最大ヒステリシス幅が20Oe以下である請求項7〜9のいずれかの磁性多層膜。
【請求項11】 前記第1の磁性薄膜が、式(Nix Fe1-x )y Co1-y(ただし、0.7≦x≦0.9、0.5≦y≦1.0である。)で表される組成を含む請求項7〜10のいずれかの磁性多層膜。
【請求項12】 前記第2の磁性薄膜が、式(Coz Ni1-z )w Fe1-w(ただし、0.4≦z≦1.0、0.5≦w≦1.0である。)で表される組成を含む請求項7〜11のいずれかの磁性多層膜。
【請求項13】 基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜する際に、保磁力の小さい第1の磁性薄膜の成膜時に膜面内の一方向に外部磁場を印加して請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
【請求項14】 前記外部磁場は10〜300Oeの磁界強度である請求項13の磁性多層膜の製造方法。
【請求項15】 請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を成膜したのち、500℃以下の温度で熱処理を行う磁性多層膜の製造方法。
【請求項16】 基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を成膜したのち500℃以下の温度で熱処理を行い、請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
【請求項17】 基板上に請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を有する磁気抵抗効果素子。
【請求項18】 バイアス磁界印加機構をもたない請求項17の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】 請求項13〜16のいずれかの製造方法により、基板上に非磁性薄膜を介して少なくとも2層の磁性薄膜を形成し、請求項1〜12のいずれかの磁性多層膜を形成する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図9】
【図10】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図9】
【図10】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開平6−122963
【公開日】平成6年(1994)5月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−203562
【出願日】平成5年(1993)7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1993年3月1日 社団法人日本応用磁気学会発行の「日本応用磁気学会誌Vol.17No.2 1993」に発表
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)
【公開日】平成6年(1994)5月6日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1993年3月1日 社団法人日本応用磁気学会発行の「日本応用磁気学会誌Vol.17No.2 1993」に発表
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)
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