説明

磁性支持体上での加熱による核酸単離方法

【課題】細胞を含有するサンプルから過酷な化学薬品の使用を要求することなく、細胞を迅速かつ効果的に破壊して、核酸を簡便に単離することができる方法を提供すること。
【解決手段】サンプルに含まれる細胞を磁性支持体に結合させ、次いで該磁性支持体をそのサンプル液から固液分離し、該磁性支持体に結合した細胞の細胞膜を80〜120℃で20〜300秒間、加熱して破壊し、これにより遊離した核酸を回収する工程を含む、細胞含有サンプルからの核酸単離方法である。本方法を実施するための核酸単離キット、そのキットに含まれる核酸単離用の器具および装置も提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を含むサンプルから、核酸を分離する方法などに関する。さらに詳しくは磁性支持体に付着させた細胞を加熱により破壊し、放出された核酸を単離する方法およびその方法を実施するためのキット、装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、試料または材料としての核酸の用途は、科学研究、医療、産業界などの各分野に拡大しており、様々な試料から効率的かつ好収率に核酸を抽出、単離できる方法が求められている。
【0003】
細胞を含有する試料から核酸を得る方法としてはフェノール・クロロホルム抽出法が古くから利用されてきた。この古典的な方法はフェノール・クロロホルムを用いてタンパク質、脂質などの水難溶性の検体成分を変性、溶解または沈殿させる一方、核酸を水相に溶解するという溶解度の違いを利用する。かかる有毒な溶媒を使用しない代替方法として、最近、様々な方法が提案されている。
【0004】
ミコバクテリアを、溶菌剤およびその他の溶菌のための条件を使用する代わりに、溶菌に有効な熱を菌に曝して菌核酸を得る方法が開示された(特許文献1参照)。加熱による細胞の溶解として、末梢血単核細胞の水性試料の場合もある(特許文献2参照)。
【0005】
磁性支持体に細胞を結合させ、界面活性剤および/またはカオトロープ試薬を作用させて遊離した核酸を同じ磁性支持体に結合させる核酸単離方法が提案された(特許文献3参照)。また、核酸の単離を自動化するための好適な方法として、固体支持体に試料を結合させ、これに細胞の溶解液(Gentra Systems社)を適用して核酸を遊離させ、これを単離する方法が開示された(特許文献4参照)。この方法では核酸の固体支持体からの溶出を促進するために加熱工程が補助的に含められる。
【0006】
また、核酸含有試料を塗布した加工部材の圧潰分散作用(超音波振動と上下運動に基づく)による破砕および粉砕で核酸を遊離させ、その核酸を核酸抽出担体である磁性担体に結合させ、磁化させた該加工部材と磁性担体と磁気作用を利用して効率的に核酸を抽出分離する方法も知られている(特許文献5参照)。洗浄液としてカオトロピック物質またはエタノールの使用が記載されているが、核酸抽出溶液の詳細は開示されていない。
【0007】
上記のように、有機溶媒、カオトロープ試薬、溶菌剤または界面活性剤を利用して抽出された核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)、SDA(Strand Displacement Amplification)、LCR(Ligase Chain Reaction)、gap LCR、IC
AN(Isothermal and Chimeric Primer-Initiated Amplification of Nucleic acids)
、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、TMA(Transcription-Mediated Amplification)、QβReplicase Amplification、TAS(Transcription Amplification System)、3SR(Self-Sustained Sequence Replication System)、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)などのDNA増幅法の鋳型として使用
するか、あるいは制限酵素で消化する場合、核酸溶液に残存するそうした薬剤が障害となり、それらの除去処理は煩雑を極める。特に微量のサンプルにあってはそうした抽出方法では対応できない。
【0008】
特許文献6および7は、核酸ハイブリダイゼーション阻害物質の除去方法を記載している。すなわち阻害性物質を可溶化でき、細胞から核酸をリリースさせない作用物質に該細
胞を接触させるステップと、該作用物質から該細胞を遠心分離により分離するステップとを含む方法である。
【0009】
このように、生物起源の様々な核酸含有試料から、有毒溶媒または腐食性試薬を使用することなく簡便かつ迅速に核酸を高純度に抽出精製でき、しかも自動化の途も開けている方法は未だない現状であり、切望されている。
【0010】
これに関連し、特許文献8には、唾液を遠心分離(最小4000×G、少なくとも5分間)して、ペレットを洗浄、遠心分離(少なくとも12000×G)した後に、95〜120℃で5〜30分間、加熱して細胞膜を破壊して核酸を単離する方法が提案されている。さらに特許文献9には、固体支持体上の非特異的リガンドに細胞を結合させ、結合した細胞を溶解し、放出された核酸を固体支持体に結合させることによる核酸単離方法が記載されている。
【特許文献1】特許第2625340号
【特許文献2】特許第1975454号
【特許文献3】特開2002-507116号
【特許文献4】特表2001-516731号
【特許文献5】特開2004-337137号
【特許文献6】特開平10-191978号
【特許文献7】特開平11-266899号
【特許文献8】特許第2575290号
【特許文献9】特表2003-520048号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような事情に鑑み本発明者らは鋭意研究を進めた結果、サンプル中の細胞を磁性支持体に結合させ、加熱処理により細胞膜を破壊して核酸を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明による方法に基づいて、検体から核酸を簡便に高純度に分離するためのキットなども提供される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の核酸単離方法は、
細胞含有サンプルから核酸を単離する方法であって、
着脱可能なカバーを付けた磁石と、
1つのテーブルに配置された以下の容器;
(1)細胞含有サンプルと、細胞を付着させ得る磁気ビーズとを混合するための容器1、(2)細胞が付着した磁気ビーズを洗浄するための洗浄槽、および
(3)洗浄後の磁気ビーズを加熱処理するための容器2、
を用いることにより、細胞含有サンプル中の細胞の磁気ビーズへの付着、洗浄、細胞からの核酸の単離までのプロセスが、
細胞含有サンプルの液と磁気ビーズとを容器1内で混合する工程、
容器1から該磁気ビーズを取り出して洗浄する工程、
次いで該磁気ビーズを容器2内で再懸濁バッファー中に懸濁させ、該容器2を80〜120
℃で20〜300秒間、加熱する工程、
を含み、プロセス全体が600秒以内で完了することを特徴としている。
【0013】
前記磁気ビーズをサンプル液と混合する前、混合した後、磁気ビーズの洗浄時のうち、少なくともいずれかの段階において懸濁させることが必要である。また、前記の容器および洗浄槽が長方形または円形のテーブルに処理される順序に配置されていることが望ましい。
【0014】
前記細胞が、好ましくはクラミジア菌(Chlamydia属)、淋菌(Neisseria属)、マイコバクテリア(Mycobacterium属)に属する微生物である。
前記のいずれかに記載の単離方法により得られた核酸を、核酸増幅法により同定することを特徴とする細胞種の同定方法は本発明に含まれる。
【0015】
本発明には、さらに前記の方法を実施するための磁気ビーズ、洗浄バッファー、再懸濁バッファーがそれぞれ容器にあらかじめ封入されていることを特徴とするキットも含まれる。さらに上記の方法を実施するための核酸単離装置も本発明に含まれる。
【0016】
上記の方法により、遺伝子を単離し、マイクロチップを有する装置で核酸を増幅し、検出する段階を含む遺伝子検査方法も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、細胞を含有するサンプルから過酷な化学薬品の使用を要求することなく、細胞を迅速かつ効果的に破壊して、核酸を簡便に単離することができる。
磁気ビーズを移す際に、着脱可能なカバーを付けた磁石を出し入れすることにより該磁気ビーズを操作するため、固液分離操作が簡便であり、しかも核酸の分離過程における試料のロスが少ない。
【0018】
菌類(細菌、真菌類)または酵母などの微生物の遺伝子を検出する場合、サンプル中の対象菌の濃度が極めて薄いとこれを捕捉することが実質的に不可能となるが、本発明の方法では、細胞を磁性支持体に結合させるために、濃縮され、純度が高い核酸を単離することができる。
【0019】
本発明の方法は、簡単な試薬、器材、器具で迅速かつ簡便に行なえることから、キット化することが容易であり、あるいは固液分離機構を機械化、自動化することにより核酸単離装置も実現することもでき、さらに効率的に核酸の単離を実施することができる。
【0020】
本発明の核酸単離器具の容器、磁石カバーなどは、磁気による固液分離が迅速に行なえるような形状を有するとともにディスポーサブルであり、多数のサンプル処理にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
核酸単離方法
本発明の方法は、細胞含有サンプルから核酸を単離する方法であって、
着脱可能なカバーを付けた磁石と、
1つのテーブルに配置された以下の容器;
(1)細胞含有サンプルと、細胞を付着させ得る磁気ビーズとを混合するための容器1、(2)細胞が付着した磁気ビーズを洗浄するための洗浄槽、および
(3)洗浄後の磁気ビーズを加熱処理するための容器2、
を用いることにより、細胞含有サンプル中の細胞の磁気ビーズへの付着、洗浄、細胞からの核酸の単離までのプロセスが、
細胞含有サンプルの液と磁気ビーズとを容器1内で混合する工程、
容器1から該磁気ビーズを取り出して洗浄する工程、
次いで該磁気ビーズを容器2内で再懸濁バッファー中に懸濁させ、該容器2を80〜120
℃で20〜300秒間、加熱する工程、
を含み、プロセス全体が600秒以内で完了することを特徴としている。
【0022】
本発明の方法は、サンプル液中に含まれる細胞を磁性支持体、好ましくは磁気ビーズに吸着、付着もしくは結合(本明細書ではいずれの場合も単に「付着」として表現すること
もある)させ、該細胞をサンプル液、不純物から分離した後、磁性支持体に結合させた状態で、加熱によりその細胞膜を破壊して核酸を細胞外に放出させ、これを回収するものである。その操作手順について、図1にその骨子を示している。
【0023】
細胞含有サンプルと磁性支持体(好ましくは磁気ビーズ)とを混ぜて撹拌し、サンプル液中の細胞をその磁性支持体に吸着、付着もしくは結合させる。その際、磁性支持体への細胞の吸着、付着もしくは結合を促進するために、適当な結合バッファーを使用してもよい。通常、サンプルは液体などの流動体であるが、固体のサンプルは適当な溶媒(例えば結合バッファー)に溶解もしくは分散させる。
【0024】
上記磁性支持体をサンプルから固液分離をすれば、サンプル中に含まれる不純物、不要物などが分離除去され、細胞が付着した磁性支持体を得る。
次いで、該磁性支持体を洗浄バッファーとともに撹拌し、洗浄する操作、引続いて再び固液分離操作をすることにより、磁性支持体に付着する不純物をさらに除去する。このように本発明の方法において固液分離の過程が含まれるが、その固液分離は、磁気または遠心分力の作用により行われる。好ましくは、その磁性支持体を含む容器に外部磁石による磁気を作用させることにより、固液分離が実施される。より好ましい態様は、磁気ビーズの移動に際して、着脱可能なカバーを付けた磁石を出し入れすることにより磁気ビーズを操作するものであり、この点に本方法の特徴がある。
【0025】
細胞を吸着、付着もしくは結合した磁性支持体を再懸濁バッファーに懸濁させ、加熱処理によって細胞膜を破壊する。
次いで上記手段によって固液分離することにより、磁性支持体と、細胞から遊離した核酸を含んでいる再懸濁バッファーとを分離し、そのバッファーを回収し、バッファーから所望する核酸を単離することができる。この方法ではろ過、減圧処置といった操作を含まないために、簡便かつ迅速に核酸を単離することができる。また、前記磁気ビーズをサンプル液と混合する前、混合した後、磁気ビーズの洗浄時のうち、少なくともいずれかの段階において懸濁させることを特徴としている。このように懸濁させる意義は、次のとおりである。混合する前においては、磁気ビーズは、保存中に磁気ビーズ同士の磁力作用で凝集してしまう。そこで懸濁によって磁気ビーズを分散させると、サンプル液と混合する際に磁気ビーズと細胞との接触表面積、接触回数が増大する。サンプルと混合した後にも懸濁状態を保つと、懸濁によってサンプル液中で磁気ビーズが分散し、磁気ビーズと細胞との接触表面積、接触回数が増える。また洗浄時にあっては、懸濁によって洗浄バッファー中で磁気ビーズが分散し、洗浄バッファーの洗浄有効物質と磁気ビーズ(その表面に細胞が付着している)との接触表面積、接触回数が増える。これらの効果によって、それぞれの段階でサンプル液から細胞、核酸を分離し、回収できる量と純度の向上が期待される。
【0026】
以下、本発明の方法をさらに詳しく説明する。
本発明が対象とする細胞は、微生物(細菌、カビ、酵母など)、植物、動物の細胞または細胞培養物のいずれであってもよく、特に限定されない。好ましくは、微生物の細胞であり、特にクラミジア菌(Chlamydia属)、淋菌(Neisseria属)、マイコバクテリア(Mycobacterium属)に属する微生物が望ましい。
【0027】
サンプルは前記細胞を含有するサンプルであり、生体由来の試料であれば、特に制限はないが、例えば全血、血漿、血清、バフィーコート、尿、糞便、唾液、喀痰、脳脊髄液、精液、組織(例えば、癌組織、リンパ節等)、細胞培養物(例えば、哺乳動物細胞培養物及び細菌培養物等)など生体由来のほとんどの試料が該当する。核酸含有試料;微生物などが混入または含有する可能性のある試料、その他核酸が含有されている可能性のあるあらゆる試料(食品、生物学的製剤など)が対象となる。あるいは土壌、排水のような生物を含有する可能性のある環境試料が挙げられる。サンプルの形態は、好ましくは流体の試
料であり、通常は溶液もしくは懸濁液の液体である。サンプルは溶解できる固体であるか、または液体の中に浮遊している固体であってもよい。
【0028】
本発明が単離の対象とする核酸は、DNAまたはRNAであり、DNAとしてゲノムDNA、cDNAなど、またRNAとしてmRNA、tRNA、rRNAなどが含まれる。さらには一本鎖または二本鎖を問わない。単離されるDNA量の好適な範囲として0.001ng〜1mgである。本明細書において「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を
担う核酸、すなわちDNAまたはRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。また「塩基」とは、ヌクレオチドの核酸塩基のことを言う。
【0029】
前記の細胞膜の破壊は、公知の種々の物理的方法を用いることができる。好ましくは熱により細胞膜破壊が行なわれる。これは加熱が簡便であり、上記のように細胞膜破壊に使用した薬剤を後で除く必要がないからである。具体的には、前記の加熱は、核酸が熱により変性しない温度範囲、すなわち70〜120℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは80〜100℃で、20秒〜10分間、好ましくは20秒〜300秒間の加熱による。加熱条件(温度、時間)は細胞または菌の種類(大きさ、細胞膜の組成と厚さなど)によって異なるため、上記の範囲で適宜選択する。加熱は、あらゆる適切な加熱手段により行なわれるが、ドライ・ヒートブロック、湯浴、マイクロウェーブ・オーブン、各種ヒーターなどが例示される。しかし、これらに限定されるものではない。
【0030】
なお上記工程に加えて、熱によって水分を蒸発させることにより遊離した核酸を濃縮する工程をさらに含めてもよい。加える熱は、核酸が熱により変性しない温度範囲内である。上記の細胞膜破壊が加熱により行われるために、熱による細胞膜破壊工程はこの濃縮工程を兼ねることができる。
・磁性支持体
本発明において、目的とする細胞を付着させるために使用される磁性支持体は、水不溶性の担体である。水不溶性の磁性支持体を形成する材料は、水に不溶であればよい。ここでいう水不溶性とは、具体的に水、他のいかなる水可溶性組成を含む水溶液に溶解しない固相を意味する。固体支持体は、固定、分離等用に現在広く使用され、提案されている公知の支持体またはマトリックスのいずれであってもよい。
【0031】
具体的には無機化合物、金属、金属酸化物、有機化合物またはこれらを組み合わせた複合材料を含む。サンプルに含まれる細胞を磁性支持体に付着もしくは結合させるが、磁性支持体は、細胞を吸着、付着もしくは結合させ得るものであれば、材質、形状、サイズは特に限定されない。好ましいのは、細胞の結合、したがって核酸の結合のためには高い表面積を与える材料である。
【0032】
具体的に磁性支持体として使用される材料は、特に限定されるものではないが、一般にポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミド、ラテックスなどのような合成有機高分子、ガラス、シリカ、二酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機物またはステンレス、ジルコニアなどの金属であってもよい。これらのなかでガラス、シリカ、ラテックス、またはポリマー材料が好ましく、なかでも有機ポリマー、特にポリスチレンが好ましい。これらの材料は一般に不規則な表面を持ち、例えば多孔性または粒状、例えば粒子、繊維、ウェブ、焼結体または篩であることができる。
【0033】
よって、本発明の方法に用いられる磁性支持体の形状としては特に限定されるものではないけれども、粒状、棒状、板状、シート、ゲル、膜、繊維、毛細管、ストリップ、フィルターなどが挙げられ、好ましくは粒状である。粒状材料、例えばビーズは、結合能力が
大きいために一般に好ましく、特にポリマーのビーズが好ましい。
【0034】
粒状の形態としては、たとえば球形、楕円体形、錐体、立方形、直方体形などが考えられる。このうち球形粒子の担体は製造がしやすく、使用時に、磁性支持体の回転攪拌がしやすいことからも好ましい。細胞を付着もしくは結合する磁性支持体としてのビーズのサイズは、0.5〜10μm、好ましくは2〜6μmであることが望ましい。平均粒子径が0.5μm未満である場合、当該ビーズ本体が磁性体を含有してなるものは、充分な磁気応答性を発現せず、当該粒子を分離するために相当に長い時間を要し、また、分離するために相当に大きい磁力が必要となる。一方、粒子径が10μmを超える場合には、当該粒子が水性媒体中で沈降しやすいものとなるため、細胞を捕捉する際に媒体を攪拌する操作が必要となる。また、粒子本体の表面積が小さくなるため、充分な量の細胞を捕捉することが困難となることがある。
【0035】
その表面も含めたビーズ全体が同一の材料から構成されている場合のほかに、必要に応じて複数の素材から構成されるハイブリット体であってもよい。例えば分析の自動化に対応することができるために、コア部分は酸化鉄、または酸化クロムのような磁気応答性材料で作られ、その表面を有機合成ポリマーで被覆された複合ビーズが挙げられる。
【0036】
細胞を結合させた磁性支持体をサンプル液から、磁石の磁力によって容易に(固液)分離・粒子の回収をすることができる点で、その磁性支持体が常磁性体、強常磁性体および強磁性体などの磁性体が含有されてなるものであることが好ましく、より好ましくは、常磁性体および強常磁性体の両方またはいずれか一方が含有されてなるものである。特に残留磁化がないかまたは少ない点で、強常磁性体を用いることが好ましい。
【0037】
かかる磁性体の具体例としては、四三酸化鉄(Fe34)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe23)、各種フェライト、鉄、マンガン、コバルト、クロムなどの金属、コバルト、ニッケル、マンガンなどの各種合金を挙げることができ、これらのうち、四三酸化鉄が特に好ましい。
【0038】
本発明において用いられる磁性体は、小粒径の粒子よりなるビーズであって、優れた磁気分離性(すなわち磁気によって短時間で分離する性能)を有し、かつ、ゆるい上下震盪の操作によって再分散し得るものであることが好ましい。
【0039】
磁気ビーズにおける磁性体の含有割合は、非磁性体の有機物質の含有割合が30重量%以上であることから、70重量%以下とされるが、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜70重量%である。この割合が20重量%未満であると、充分な磁気応答性が発現されず、所要の磁力によって短時間で粒子を分離することが困難となることがある。一方、この割合が70重量%を超えると、粒子本体表面に露出する磁性体の量が多くなるため、当該磁性体の構成成分、例えば鉄イオンの溶出などが生じ、使用時に他の材料に悪影響を及ぼすことがあり、また、粒子本体が脆くなって実用的な強度が得られないことがある。
【0040】
本発明の方法では、細胞を含むサンプル液と磁性支持体(好ましくは磁気ビーズ)とを混合し、この混合により細胞が磁性支持体に付着もしくは結合、吸着すると、細胞を効率よくその表面上に集積することができる。細胞が磁性支持体に付着しない場合も磁力または遠心分力で細胞を集積することが可能である。したがって細胞が磁性支持体に吸着することが望ましいが、付着しなくともよい。
【0041】
細胞、特に細菌細胞の中には、磁性支持体に付着しない場合もある。さらに確実に細胞の吸着、付着を促進するため、磁性支持体の表面に細胞に対して親和性を有する基、アミ
ノ基、オキシカルボニルイミダゾール基、N-ヒドロキシコハク酸イミド基といった反応
性に富む官能基、あるいは標的の細胞に特異的に親和性を示す糖、糖タンパク質、抗体、レクチン、細胞接着因子といった「機能性物質」などを結合させるか、その表面構造の改変、結合を促進する適当なコーティングなどを施してもよい。
【0042】
サンプルによっては、それに含まれる細胞、特に対象菌細胞の濃度が薄い場合、大量のサンプル液を処理し、分離、濃縮などの操作が必要となる。細胞を磁性支持体に結合もしくは付着させて、細胞中の核酸を簡便に抽出する本発明の方法によれば、簡便な操作で迅速にそうしたサンプルの処理ができる。特に磁気ビーズと着脱可能なカバーを付けた磁石を利用する本発明における固液分離操作は、サンプルが少量しかない場合にも極めて便利である。かかる場合、分離、抽出などの過程で細胞または核酸のロスが生じて、目的とする核酸の最終収量がその後の分析に好適な量を下回るケースもあるが、本発明の方法では、そうした単離途中でのロスはほとんど生じない。後工程にある核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション、制限酵素反応、検出反応、または電気泳動分析などに悪影響を及ぼすカオトロープ試薬、界面活性剤、または溶菌剤などの薬剤を本発明の方法では使用しないため、単離された核酸はそのまま増幅反応に適用することができる。したがってサンプル量が微量であっても、本発明の方法によれば、細胞から高収量でしかも純度が高い核酸を単離することができる。
【0043】
上記の分離方法により得られた核酸を用いて、細菌細胞の種類を同定する方法も本発明に含まれる。具体的には、サンプルに含まれる細菌細胞から抽出され、単離された核酸を、PCR、SDA、LCR、ICAN、LAMP、TMA、TAS、3SR、NASBAなどのDNA増幅法により増幅し、増幅された核酸の分析、例えば塩基配列決定、ハイブリダイゼーション法、サザンブロット分析などを行なって、標準または対照の塩基配列とを比較することにより細菌細胞の種類を同定することができる。
キット
本発明にかかるキットは、上記の核酸単離方法を実施するためのキットである。すなわち該キットは、本発明の方法を実施するために必要とされる器材一式、具体的には、各種の試薬、磁性支持体(ビーズ)、核酸単離器具を含むものである。これらの試薬の中には、サンプルを溶解(または希釈)するための溶解(または希釈)液、洗浄液、各種緩衝液なども含まれる。本発明の方法を実施するための磁気ビーズ、結合バッファー、洗浄バッファー(洗浄液)、再懸濁バッファー(再懸濁液)がそれぞれ容器にあらかじめ封入されている態様のキットが望ましい。必要な器材一式の中には、さらに細胞を磁性支持体に付着もしくは結合させ、その細胞膜を破壊して内部に含まれる核酸を抽出する専用の器具(すなわち核酸単離器具)が、キット要素として含まれる。これらの核酸単離器具を用いて、上記の本発明の核酸単離方法を実施することができる。
【0044】
本発明の方法を実施するためには上記以外の用具または機器を必要とすることもあるが、これらは適宜、本発明のキットの構成要素として含められる。固液分離には遠心分力を利用してもよいが、その場合小型遠心機などを使用する。
【0045】
本発明の核酸単離方法では、少なくとも2種の緩衝液が使用される。結合バッファーは塩とアルコールとからなり、塩は0.75M酢酸アンモニウム(NH4Ac)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが、またアルコールはイソプロパノール、エタノール、メタノール、n−ブタノールが例示される。洗浄バッファーは、上記結合バッ
ファーを4〜5倍に希釈したものを用いてもよいが、異なる種類のバッファーを別途に用意してもよい。再懸濁バッファーとしては、水が好適である。上記のように、本キットには、従来技術において核酸抽出に用いられてきたクロロホルム、フェノールなどの有機溶媒、カオトロープ試薬、界面活性剤、溶菌剤などは含まれない。
・核酸単離器具
細胞含有サンプルから核酸を単離する本発明方法においては、
着脱可能なカバーを付けた磁石と、
1つのテーブルに配置された以下の容器;
(1)細胞含有サンプルと、細胞を付着させ得る磁気ビーズとを混合するための容器1、(2)細胞が付着した磁気ビーズを洗浄するための洗浄槽、および
(3)洗浄後の磁気ビーズを加熱処理するための容器2、
を用いることにより、細胞含有サンプル中の細胞の磁気ビーズへの付着、洗浄、細胞からの核酸の単離までのプロセスが行なわれる。
【0046】
本発明の方法を実施するための好適な核酸単離器具の概略図を図3および図4に表す。また、図2は、磁性支持体を利用した核酸単離方法における一態様であり、磁性処理による固液分離をより簡便かつ迅速におこなうことができる器具とその使用方法を示す。
【0047】
本発明の方法を実施するための好ましい器具としては、予め液体(好ましくは結合バッファー)中に分散させた磁気ビーズを有して集菌に用いるサンプル容器(容器1)、洗浄に用いる洗浄バッファー入り洗浄容器(すなわち洗浄槽)および加熱、核酸溶出に用いる再懸濁バッファー入り核酸回収容器(容器2)、ならびに磁石および磁石カバーのセットを少なくとも含む。これらの容器は、磁石および磁石カバーのセットを内部に収容できる円筒形状の容器であって、少なくとも加熱、核酸溶出に用いる容器の内部底部ならびに磁石カバーの内部底部は丸底形状であることを特徴とする。
【0048】
容器の材質は、ガラスまたはプラスチックであり、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートといった樹脂が好ましく用いられる。容器の具体的な形状、サイズの例を図3に示す。この場合、集菌、洗浄に用いる容器1と、これよりサイズが小さく、加熱、核酸溶出に用いられる容器2という2種類の容器が使用される。
【0049】
容器2では、核酸を、ロスを少なくして効率的に回収するために容器内部が丸底である形状が好ましい。例えば図3の容器2底部では、内壁、外壁をSR5.75、SR7.25とし、それぞれ半径5.75mm、7.25mmの球状に丸くすることを表している。その底部は、加熱時の熱伝導を少しでも速くするために、他の部分より壁厚を薄くしている。また上部開口から5mm
のところに段部(φ11.5および11.7に対応)を設け、磁石および磁石カバーを挿入する際のその位置決めとしている。その際、容器2の丸底中央にある核酸を抽出する再懸濁バッファー(図3の容器2の場合、50μL)は、壁面付近に都合よく移動するために熱伝導率
が高くなる。
【0050】
図示の容器は一例であり、容器の形状、サイズは必要に応じて適宜選択すればよい。容器に入れる緩衝液については上記したとおりである。
上記の容器1、容器2および洗浄槽は、一つのテーブル、好ましくは1つの長方形もしくは円形のテーブルに処理される順序に配置されていることが望ましい。
【0051】
磁性支持体として磁気ビーズが使用される。磁気ビーズは上記のとおりであるが、好ましい磁性体の構成はポリマーでコーティングした四三酸化鉄(Fe34)ビーズである。この磁気ビーズを、サンプル容器に、好ましくは大きさが0.5〜10μmの磁気ビーズが分散液の状態で1mg/mLの重量となる量が、予め液体に入れられている。したがってサンプル容器に所定量の磁性担体を分注する手間はない。磁気ビーズはビーズ同士で引き付け合い、凝集する性質があるため、通常は液体中で保存することが望ましい。液体中でも沈積し、凝集するが、軽い振動(例えば撹拌により)を加えると液中で分散する。そのための分散媒は中性(pH5〜9)であれば、その組成は問わず、例えば水、5M LiClなどが
挙げられる。
【0052】
磁石カバーは、固液分離する際の磁石を覆うカバーであり、その表面には、内部に装着された磁石の磁気作用で磁気ビーズが吸着される。したがって、磁石の磁力が効果的に磁気ビーズに作用させるためには、磁石の磁力の強さにもよるが薄いほうが望ましく、例えば0.25〜2mm、好ましくは0.25〜1.5mmである。材質は特に限定されないが、使い捨てされることからプラスチックが好ましい。具体的にはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニールなどが例示される。中でも、ポリプロピレンが核酸などの吸着がない点で特に好ましい。磁石カバーの形状は特に問われないが、少なくとも上記容器内の液体から磁石を遮蔽するに充分な大きさがあり、その磁石を覆う形態であるため、磁石の形状にも左右される。例えば、円筒形、柱状などである。なお、カバーは形態が変わらない硬いカバーでもよく、あるいはその内部で磁石を保持するために可撓性があっても良い。硬形であるカバーの場合、カバー内面は、磁石を支持するとともにその着脱が容易である形状とすることが望ましい。サイズは、上記サンプル容器などに挿入されるために容器の内径より小さくする必要があり、さらに磁石のサイズ、容器のサイズ、容器内の液量なども考慮して設計する。
【0053】
図4には、磁石カバーの典型的な一例として、丸底チューブ形状の態様が図示されている。磁石カバー内部に挿入される磁石は、その底部まで挿入されるのではなく、途中で停止させられる。図では、挿入の下限(図中の9.5mm)の位置決めが適切となるように磁石
カバー内面壁に僅かな段部を設けてある。さらにカバーの外面壁にも、位置決めと固定する際に好都合となるように僅かな段部を設けることが好ましい。図3の容器1、容器2、図4の磁石カバーは、磁石を直径8mmの円柱形、サンプル液の量を1mL、洗浄バッファーの量を1mL、再懸濁バッファーの量を50μLとして設計したものである。各液の量にしたがって、すなわち容器1と磁石カバーとの容積差がサンプル液および洗浄バッファーの量と同程度、容器2と磁石カバーとの容積差が再懸濁バッファーの量と同じ程度になるように容器1、容器2、磁石カバーを設計している。容器1に100μL〜2mLのサンプル液または洗浄バッファーを入れた状態で、磁石カバーを容器1に挿入することが可能である。同様に容器2に50〜100μLの再懸濁バッファーを入れた状態で、磁石カバーを容器2に挿入することが可能である。
【0054】
なお、磁石は、磁石カバーから着脱が容易となるように、磁石カバー上面から上方へ突出した態様であることが望ましい。その突出の程度は必要に応じて適宜設定される。
これらの器具一式と上記試薬類を一つのセットとして、本発明の核酸単離方法専用のキットを構成する。いずれの用具も通常は1回分析用の消耗品として構成される。バッファーなどを含む容器は予め滅菌処理され、雑菌の汚染を防止することが望ましい。
【0055】
本発明の方法を実施する際には、上記の消耗品とともに撹拌のためのミキサー、撹拌子、加熱するためのヒーター、磁気処理による固液分離に使用する磁石なども使用される。具体的には、撹拌は試験管ミキサーによる振動、または容器を回転する転倒混和が望ましく、ヒーターとして、温度を精密に調整でき、取り扱いやすいドライ・ヒートブロックが望ましい。磁石は棒磁石であってもよい。磁石の種類は電磁石、永久磁石のどちらでもよいが、簡便性、操作性から永久磁石、特に磁力の強さからネオジム磁石が好ましい。
【0056】
これらは、通常、検査室に備えられている機器であり、それらの機器を本キットとともに使用して本発明方法を実施することができる。さらに必要であれば、そうした機器の一部をキットの構成物として含めてもよい。
【0057】
上記キットを使用した、好ましい核酸単離方法は、次のようにして行われる。
サンプル液の量は、100μL〜5mL、洗浄バッファーの量はサンプル液の量と同程度で250μL〜1mL程度、再懸濁バッファーの量は5〜100μLが好ましい。
【0058】
細胞を付着させることが可能な磁気ビーズと細胞を含むサンプル液とを容器1内で撹拌混合して該細胞を磁気ビーズに吸着させた後、容器1から磁気ビーズを取り出してサンプル液から分離し、次に洗浄槽で洗浄し、次いで
該磁気ビーズを容器2内で再懸濁バッファー中に懸濁させ、該容器2を80〜120℃で20
〜300秒間、加熱する
ことによって核酸を分離する。
【0059】
前記の磁気による固液分離が、前記磁気ビーズを含む容器にカバーの付いた磁石を挿入し、次いで該磁気ビーズをそのカバーに付着させて液から分離する方法により行われる。磁気ビーズに付着した細胞の細胞膜は加熱により破壊され、細胞内の核酸は加熱による細胞溶解と同時に再懸濁バッファー中に溶け込む。そのように加熱した後に磁力で該磁気ビーズを集積して取り出し、取り出した該磁気ビーズは廃棄してもよい。この段階で磁気ビーズを取り出すのは、後に行なわれる核酸増幅反応に該磁気ビーズを持ち込まないようにするためである。
【0060】
このようにして容器2に残る再懸濁バッファーに溶けている核酸が分離され、サンプル中の細胞から遊離した核酸を回収することができる。なお、本発明の方法によれば、核酸単離プロセス全体を600秒以内で完了することができる。
【0061】
図2を参照しながらさらに詳しく説明する。
(1) 細胞含有サンプル(例えば尿)をサンプル容器(上記の容器1)に適当な量入れ、
予め容器に入れられている磁気ビーズと、ミキサーを使用して撹拌しながら混合する。サンプル中の細胞(例えば細菌)が磁気ビーズに付着する。
(2) カバー付き磁石を上記サンプル容器に挿入し、容器内のサンプル液に浸して磁気ビ
ーズをこの磁石の作用により当該カバーの外周表面上に集積させる。これにより磁気ビーズがそのカバーに付着し、該サンプルから固液分離が可能となる。
(3) 磁気ビーズが付着したカバー付き磁石をサンプル容器から抜いて、それを洗浄槽(
すなわち洗浄バッファー入り容器)に移す。
(4) カバーから磁石を外して洗浄槽から引き上げる。該カバーに付いていた磁気ビーズ
はカバーから離れ、洗浄バッファーに再分散させ、該カバーを上下動させるなどして磁気ビーズを洗浄する。
(5) 洗浄槽内にある磁石カバーに再び磁石を挿入し、磁気ビーズを再び磁石カバーの外
表面上に集積させる。
【0062】
(3)と同様にして、カバー付き磁石を抜いて磁気ビーズを、核酸回収容器(上記の容器
2)に移す。
(4)と同様にして、カバーを外して磁石を核酸回収容器から引き上げ、磁気ビーズを再
懸濁バッファー中に再分散させる。この懸濁液を加熱して磁気ビーズに付着した細胞の細胞膜を破壊する(または溶菌する)。
(6) 核酸回収容器内の磁石カバーに磁石を挿入し、磁気ビーズを集積させる。
カバー付き磁石を抜いて、磁石カバーと磁気ビーズを破棄する。
(7) バッファーを回収し、核酸を入手する。図2の(7)には、核酸を含む液を吸引して回収するためのキャピラリー様の管が容器内に挿入されている。
【0063】
上記の一連操作で、単に外部磁石をその磁石カバー内に装着し、次に脱離させることを繰り返すことにより固液分離、移動、洗浄などを容易に実施することができる。また当該磁石は容器内の液体に直接触れないため、多数サンプルの分析において、それぞれの磁石カバーに同じ磁石を装着してもよい。したがって磁石そのものは共用できるため、基本的には1つさえ用意すればよい。
核酸単離装置
上記器具を使用する核酸単離装置における操作が、図5に模式的に表されている。図5(a)における水平移動装置では、磁石および磁石カバーが水平方向に移動して所定の容
器内に出入りするように昇降すると、サンプル内の細胞の処理が順次行われる。磁石および磁石カバーが移動する水平方向には、一つのテーブル(好ましくは長方形テーブル)上に
(1)細胞含有サンプルと、細胞を付着させ得る磁気ビーズとを混合するための容器1、(2)細胞が付着した磁気ビーズを洗浄するための洗浄槽、および
(3)洗浄後の磁気ビーズを加熱処理するための容器2、
が処理される順序に配置されている。
【0064】
なお磁石および磁石カバーを水平および上下の方向に移動させる駆動部は、図5(a)
には示されていない。また、磁石および磁石カバーを同時に移動させ、あるいは必要に応じて磁石のみを移動させる機構を含めてもよい。特に細胞の加熱時には、少なくとも磁石は、熱による磁気損失を回避するために、細胞を保持する容器から抜いておく必要がある。
【0065】
図5(b)における回転移動装置は、(a)のような水平方向ではなく回転方式の装置
である。真中の回転軸の回転により、これに接続された磁石および磁石カバーも周回して所定の容器内に出入りするように昇降する。磁石および磁石カバーが移動する回転方向には、一つのテーブル(好ましくは円形テーブル)上に上記の容器1、洗浄槽および容器2が処理される順序に配置されている。
【0066】
図6は、この回転移動装置の各部の動きがわかるように図示したものである。水平および上下方向に移動させる装置の駆動部は、これらの図でも省略されている。この装置においても、磁石および磁石カバーを同時に移動させ、あるいは必要に応じて磁石のみを移動させる機構を含めてもよい。特に細胞の加熱時には、少なくとも磁石は熱による磁気損失を回避するために、細胞を保持する容器から抜いておく必要がある。
【0067】
なお、この場合も含め、図5の核酸単離装置は、いずれも磁気の作用による固液分離を利用するものであり、(b)の場合でも遠心分力の作用を利用するものではない。
本発明の方法を実施するための核酸単離装置は、容器などの核酸単離器具、磁石およびその磁石カバーを水平および上下の方向に移動させる駆動部、それらの移動を制御する制御装置、温度を制御する温度制御装置などから構成され、必要であればそれらが一体化された装置である。好ましい態様の一例として、予め磁気ビーズおよび結合バッファーが封入されたサンプル容器(容器1)に、細胞含有サンプル液が注入されると、磁石およびその磁石カバーを移動させるための機構的連結、必要であれば制御用の電気的接続もなされて、本装置は作動状態となる。引き続きサンプルおよびバッファー類の混合撹拌、加熱処理、遊離した核酸の分離などの工程が、一連の連続的工程として自動的に実施される。そうした核酸単離装置では、各工程の実施順序、タイミングなどについて予め設定された条件が、磁石およびその磁石カバーの移動機構および温度の制御とともにプログラムとして核酸単離装置に搭載されたソフトウェアに組みこまれ、各工程が円滑に進み、目的とするサンプル処理が実行されるようにコンピュータによる制御がなされることが望ましい。
【0068】
図2〜図6は、本発明の器具、装置を説明するための例示であり、図中の各パーツの形状、配置、サイズはあくまで一例に過ぎない。したがって、本発明の核酸単離器具およびキット内容の全体または一部について、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
遺伝子検査方法
本発明の遺伝子検査方法は、上記の方法によって核酸を単離し、マイクロチップを有する装置で核酸(遺伝子)を増幅し、検出する段階を含む方法である。
【0069】
本発明の遺伝子検査方法を実施するための核酸分析装置として、マイクロチップ形態のものを含んでもよく、これによりハイスループットな分析が可能となる。
・核酸分析装置
本発明の遺伝子検査方法を実施するための核酸分析装置は、マイクロポンプ、マイクロポンプを制御する制御装置、温度を制御する温度制御装置などが一体化された装置本体と、この装置本体に装着可能な核酸増幅検出用マイクロチップとからなる。予め試薬が封入されたマイクロチップの検体受容部に検体液を注入して、そのマイクロチップを核酸分析装置の本体に装着すると、送液ポンプを作動させるための機構的連結、必要であれば制御用の電気的接続もなされる。本体とこのマイクロチップとを接合させると、マイクロチップの流路も作動状態となる。したがって好ましい態様の一例では、操作が開始されると検体および試薬類の送液、混合、核酸の増幅、検出などが、一連の連続的工程として自動的に実施される。
【0070】
送液、混合、温度の各制御に関わる制御系を受け持つユニットは、マイクロポンプとともに本発明の核酸分析装置の本体を構成する。この装置本体は、これに上記マイクロチップを装着することにより検体に対して共通で使用される。上記の液体の混合、送液、核酸増幅、検出などの工程は、送液順序、容量、タイミングなどについて予め設定された条件として、マイクロポンプおよび温度の制御とともにプログラムとして核酸分析装置に搭載されたソフトウェアに組みこまれている。本発明では脱着可能な上記マイクロチップのみ交換すればよい。本発明の核酸分析装置は、いずれのコンポーネントも小型化され、持ち運びに便利な形態としているために、使用する場所および時間に制約されず、作業性、操作性が良好である。送液に使用する多数のマイクロポンプユニットが装置本体側に組み込まれているので、マイクロチップはディスポーサブルタイプとして使用できる。
・核酸増幅検出用のマイクロチップ、マイクロポンプおよびポンプ接続部
核酸増幅検出用マイクロチップの好ましい態様の一例として、図7に掲げる実施形態を説明する。検体受容部20、試薬収容部18について、これらの収容部の内容液を送液するマイクロポンプが設けられている。マイクロポンプは、ポンプ接続部12を介して試薬収容部18の上流側に接続され、マイクロポンプにより駆動液を試薬収容部側へ供給することによって、試薬を流路へ押し出して送液している。マイクロポンプユニットは、核酸増幅検出用マイクロチップとは別途の核酸分析装置本体に組み込まれており、マイクロチップを核酸分析装置本体に装着することによって、ポンプ接続部12からマイクロチップに接続されるようになっている。
【0071】
本実施形態では、マイクロポンプとしてピエゾポンプを用いている。すなわち、
流路抵抗が差圧に応じて変化する第一流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化の割合が該第一流路よりも小さい第二流路と、
該第一流路および該第二流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部の圧力を変化させるためのアクチュエータと
を備えたピエゾポンプである。その詳細は、特開2001-322099号公報、特開2004-108285号公報に記載されている。
【0072】
上記核酸分析装置用として用いられる核酸増幅検出用チップについて、好ましい態様の一例について以下、記載する。その態様のマイクロチップは、少なくとも検体液受容部20、試薬収容部18、廃液貯留部、マイクロポンプ接続部12および微細流路15を有し、各部を微細流路で連通させている。検体液(単離された核酸を含有する液)19を、検体受容部下流に設けられた核酸増幅部位を構成する流路、次いで増幅された核酸を検出する部位を構成する流路へ流して、試薬収容部18の試薬31と混合することによって核酸を分析するとともに、その結果、生じる廃液を該廃液貯留部へ移して閉じ込めることを特徴とするマイクロチップである。さらに各収容部、流路、ポンプ接続部に加えて、送液制
御部、逆流防止部、試薬定量部、混合部などの各エレメントが、機能的に適当な位置に微細加工技術により設置されている。
【0073】
次にマイクロチップの好ましい態様の例を示す。核酸増幅検出用のマイクロチップは、プラスチック樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどの1以上の部材を適宜組み合わせて作製される一枚のマイクロチップである。その縦横のサイズは、通常、数十mmぐらい、高さが数mm程度である。好ましくは、マイクロチップの微細流路および躯体は、加工成型が容易で安価であり、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂で形成される。なかでもポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリスチレンの樹脂は成型性に優れるために望ましい。微細流路は、微細加工技術によりその幅および高さが、約10μm〜数百μmのサイズ、例えば幅100μm、深さ100μm程度に形成される。
・核酸の増幅および検出
単離された核酸は、核酸増幅検出用マイクロチップの核酸増幅部位で増幅され、次いで増幅された核酸が該マイクロチップの検出部位に送られて核酸(遺伝子)の検出が行われる。核酸の増幅は、PCR、SDA、LCR、ICAN、LAMP、TMA、TAS、3SR、NASBAなどのDNA増幅法により増幅する。増幅された核酸の分析を常法、例えばハイブリダイゼーション法、金コロイド吸着法などにより行なう。
【0074】
上記マイクロチップおよび核酸分析装置の全体または一部についても、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
[実施例]
以下の実施例中で用いる装置名及び、使用材料の濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法等はこの発明の範囲内の好適例にすぎない。また、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
ロシュ社コバスアンプリコアSTD-1によってクラミジア陽性と判定された尿100μLを、
図3に示すサンプル容器に入れた。そのサンプル容器には、予めGenpoint AS社BUGS'n BEADS Version Uの磁気ビーズ(chlamCAP Beads)10mg/mL分散液30μLと、結合バッファー(Binding buffer) 200μLとを入れておいた。該サンプル容器に磁石カバーを挿入し、該カバーを横回転して撹拌し、サンプル液を混合した。サンプル容器内にあるカバーに磁石を挿入し、サンプル容器内のサンプル液に浸して磁気ビーズを磁石の作用により該カバーの外周表面上に集積させた。磁気ビーズが付着したカバー付き磁石をサンプル容器から抜いて、洗浄バッファー入り容器に移した。カバーから磁石を外してその磁石を洗浄槽から引き上げ、磁気ビーズを洗浄バッファーに再分散させ、カバーを横回転して磁気ビーズを洗浄した。洗浄槽内にあるカバーに磁石を挿入し、磁気ビーズをカバーの外周表面上に集積させた。カバー付き磁石を洗浄槽から抜いて、再懸濁バッファー(水50μL)入り核酸回
収容器に移した。カバーから磁石を外してその磁石を核酸回収容器から引き上げ、磁気ビーズを再懸濁バッファーに再分散させた。核酸回収容器を100℃で3〜5分間加熱した。核
酸回収容器内のカバーに再び磁石を挿入して、磁気ビーズをカバーの外周表面上に集積させ、カバー付き磁石を抜いて磁石カバーと磁気ビーズを破棄した。核酸回収容器の上清をタカラバイオ社LA Taqを用いて95℃ 5分(95℃ 30秒、60℃ 50秒、72℃ 35秒)40サイク
ル、72℃ 5分の条件で、PCR増幅反応を行った。PCRのプライマーは、GenBank accession
number X06707記載の塩基配列をもとに作製して使用した。その塩基配列は、配列表の
配列番号1および2に示すとおりである。
【0076】
電気泳動の結果、208bpである目的の増幅断片を確認した。以上のプロコルから、PCRによる陽性反応を確認した。
【実施例2】
【0077】
同じくクラミジア陽性と判定された尿100μLとPolyscience社BioMagストレプトアビジ
ン磁気ビーズ(BioMag Streptavidin Particles)5mg/mL分散液30μL、結合バッファー(イソプロパノール、0.75M酢酸アンモニウムNH4Ac)200μLを撹拌して混ぜた。常温で1〜5分間のインキュベーションを行った後、2000G、1分間の遠心または磁石により磁気ビーズを分離して上清を廃液した。4.5倍希釈結合バッファー(すなわち結合バッファーを滅菌
水で4.5倍希釈した溶液)250μLを洗浄バッファーとして添加、撹拌して洗浄した。2000G、1分間の遠心または磁石により磁気ビーズを分離して上清を廃液した。滅菌水100μLを
添加し、94℃で1分間、加熱した。上清を58℃、60分の条件で、ICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification、登録商標)増幅反応、固層プレート
発光法による検出を行った。ICANのキメラオリゴヌクレオチドプライマー、発光検出のプローブは、再公表特許「再表02/052043(WO2002/052043)」実施例6に従って作製した。以上のプロトコルによって、陽性反応を確認した。
【実施例3】
【0078】
同じくクラミジア陽性と判定された尿100μLとGenpoint AS社BUGS'n BEADS Version U
の磁気ビーズ(chlamCAP Beads)10mg/mL分散液30μL、結合バッファー(Binding buffer)
200μLを撹拌して混ぜた。以後は増幅および検出まで、実施例2と同様に行った。すな
わち常温でのインキュベーション、遠心または磁石による分離、上清廃液、4.5倍希釈結
合バッファーによる撹拌洗浄、遠心または磁石による分離、上清廃液、滅菌水の添加、加熱、ICAN、検出を順に行い、陽性反応を確認した。
【実施例4】
【0079】
ロシュ社コバスアンプリコアSTD-1によってクラミジア陰性と判定された尿100μLに増
幅ターゲット部分と同一の塩基配列を持つコントロールプラスミド25コピーを添加し、サンプルとして使用した。実施例3と同じプロトコルでサンプル処理、増幅および検出を行い、陽性反応を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の方法における操作手順の概要を表す。
【図2】図2は、磁気ビーズとカバー付き磁石とを使用する核酸単離キットにおける操作の概念図を表す。工程(1)〜(7)の内容は、本文で説明されている。
【図3】図3は、磁気ビーズを使用する核酸単離器具における各容器の典型例を示す。φは(円の)直径を、Rは(円の)半径を、SRは球の半径を表す。容器1の底部に示すR2は、内側壁を半径2mm円に丸く、R4は、外側壁を半径4mm円に丸くすることを表す。容器2の底部に示す、SR5.75、SR7.25も同様である。
【図4】図4は、核酸単離器具における磁石カバーの一態様を示す。各記号φ、R、SRが表す意味は、図3の場合と同様である。底部に示すSR4.1、SR5.5は、図3における説明と同様である。容器1に磁石カバーを挿入した状態を示す図(下図)において、4.4は、サンプル1mLを入れた場合の液面の高さを表しており、0.35は、磁石および磁石カバーを容器1に挿入した時に上昇する液面の高さを表している。
【図5】図5は、核酸単離器具における、(a)水平移動装置および(b)回転移動装置の概略を示す。
【図6】図6は、図5(b)の回転移動装置における移動を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明の遺伝子検査方法を実施するための核酸分析装置に装着されるマイクロチップの模式図である。
【符号の説明】
【0081】
5 ホトダイオード
6 LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞含有サンプルから核酸を単離する方法であって、
着脱可能なカバーを付けた磁石と、
1つのテーブルに配置された以下の容器;
(1)細胞含有サンプルと、細胞を付着させ得る磁気ビーズとを混合するための容器1、(2)細胞が付着した磁気ビーズを洗浄するための洗浄槽、および
(3)洗浄後の磁気ビーズを加熱処理するための容器2、
を用いることにより、細胞含有サンプル中の細胞の磁気ビーズへの付着、洗浄、細胞からの核酸の単離までのプロセスが、
細胞含有サンプルの液と磁気ビーズとを容器1内で混合する工程、
容器1から該磁気ビーズを取り出して洗浄する工程、
次いで該磁気ビーズを容器2内で再懸濁バッファー中に懸濁させ、該容器2を80〜120
℃で20〜300秒間、加熱する工程、
を含み、プロセス全体が600秒以内で完了することを特徴とする、細胞含有サンプルから
の核酸単離方法。
【請求項2】
前記磁気ビーズをサンプル液と混合する前、混合した後、磁気ビーズの洗浄時のうち、少なくともいずれかの段階において懸濁させることを特徴とする請求項1に記載の核酸単離方法。
【請求項3】
前記細胞がクラミジア菌(Chlamydia属)、淋菌(Neisseria属)、マイコバクテリア(Mycobacterium属)に属する微生物である、請求項1または2に記載の核酸単離方法。
【請求項4】
前記の容器および洗浄槽が長方形または円形のテーブルに処理される順序に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の核酸単離方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の単離方法により得られた核酸を核酸増幅法により同定することを特徴とする細胞種の同定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法を実施するための磁気ビーズ、洗浄バッファー、再懸濁バッファーがそれぞれ容器にあらかじめ封入されていることを特徴とするキット。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの方法を実施するための核酸単離装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかの方法により、遺伝子を単離し、マイクロチップを有する装置で核酸を増幅し、検出する段階を含む遺伝子検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−167722(P2008−167722A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6409(P2007−6409)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】