説明

磁性砥粒及びその製造方法

【課題】磁性体による汚染がなく、高効率の精密研磨を可能にする磁性砥粒を提供すること。
【解決手段】樹脂粒子の表面が研磨粒子により被覆されている磁性砥粒であって、該樹脂粒子が磁性体を分散した樹脂粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子であり、該研磨粒子の体積平均粒子径が該磁性砥粒の体積平均粒子径の10分の1であることを特徴とする磁性砥粒、並びに、熱可塑性樹脂及び磁性体を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散する工程、得られた熱可塑性樹脂組成物の微粒子をその融点以下の温度に冷却して、体積平均粒子径が1μm以上500μm以下の略球状であり、かつ磁性体が分散された樹脂粒子を得る工程、及び、得られた磁性体が分散された樹脂粒子の表面を研磨粒子で被覆する工程を含む前記磁性砥粒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気研磨法等に利用される磁性砥粒に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気研磨法は、研磨作用を有する研磨砥粒を磁場の作用により運動させて被加工物の表面を研磨する精密加工方法である。この磁気研磨法は、従来の機械加工では困難な部品の研磨を可能にする方法であり、例えば、複雑形状を有する部品の表面、工具が入らない穴の内面、工具が届かない管の内面等の研磨に利用される。
【0003】
磁気研磨法で利用される研磨砥粒は、磁場の作用により被加工物に対して相対運動するものである。一般的には、磁性を有する研磨粒子を含む磁性砥粒や、磁性を有しない非磁性の研磨粒子と磁性を有する粒子との混合物からなる磁性砥粒が知られている。前者の場合は磁場により研磨粒子自体が運動するが、後者の場合は、磁場により運動するのは磁性を有する粒子であり、研磨粒子は磁性を有する粒子と共に運動して被加工物の表面を研磨する。
したがって、後者の磁性砥粒は、磁性を有する粒子が磨耗して研磨屑になり易く、被加工物の表面が汚染されてしまう等の問題がある。
一方、前者の磁性砥粒にはそうした問題がなく、例えば、磁性粒子と研磨粒子との焼結体を粉砕した磁性砥粒(例えば特許文献1)、磁性粒子の表面に研磨粒子を含有した無電解めっき皮膜を形成した磁性砥粒(例えば特許文献2)、磁性粒子と研磨粒子をバインダーを介して結合させた磁性砥粒(例えば特許文献3)、あるいは樹脂粒子上に研磨粒子を含有する磁性層を設けた磁性砥粒(例えば特許文献4)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−26769号公報
【特許文献2】特開2002−265933号公報
【特許文献3】特開2001−26770号公報
【特許文献4】特開2005−255881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、磁性体による汚染がなく、高効率の精密研磨を可能にする磁性砥粒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の手段<1>及び<11>によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<10>と共に以下に記載する。
<1> 樹脂粒子の表面が研磨粒子により被覆されている磁性砥粒であって、該樹脂粒子が磁性体を分散した樹脂粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子であり、該研磨粒子の体積平均粒子径が該磁性砥粒の体積平均粒子径の10分の1であることを特徴とする磁性砥粒、
<2> 樹脂粒子の内部に研磨粒子をさらに含む上記<1>に記載の磁性砥粒、
<3> 樹脂粒子が熱可塑性樹脂を主成分として含む上記<1>又は<2>に記載の磁性砥粒、
<4> 磁性砥粒の体積平均粒子径が1乃至600μmである上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<5> 磁性体が強磁性体である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<6> 磁性体の体積平均粒子径が0.01μm乃至100μmである上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<7> 磁性体の含有量が磁性砥粒に対し10乃至90重量%である上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<8> 研磨粒子がアルミナ、シリコンカーバイド、ジルコニア、セリア、チタニア、シリカ、ダイアモンドよりなる群から選ばれる材質の粒子を1種以上含む上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<9> 研磨粒子の体積平均粒子径が磁性砥粒の体積平均粒子径の20分の1以下である上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<10> 樹脂粒子の表面における研磨粒子の少なくとも一部が樹脂粒子の樹脂中に埋め込まれている上記<1>〜<9>のいずれか1つに記載の磁性砥粒、
<11> 熱可塑性樹脂及び磁性体を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散する工程、得られた熱可塑性樹脂組成物の微粒子をその融点以下の温度に冷却して、体積平均粒子径が1μm以上500μm以下の略球状であり、かつ磁性体が分散された樹脂粒子を得る工程、及び、得られた磁性体が分散された樹脂粒子の表面を研磨粒子で被覆する工程を含む上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の磁性砥粒の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁性体による汚染がなく、高効率の精密研磨を可能にする磁性砥粒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の磁性砥粒は、樹脂粒子の表面が研磨粒子により被覆されている磁性砥粒であって、該樹脂粒子が磁性体を分散した樹脂粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子であり、該研磨粒子の体積平均粒子径が該磁性砥粒の体積平均粒子径の10分の1であることを特徴とする。
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
【0009】
従来用いられている磁性砥粒、例えば、上述した特開2001−26769号公報や特開2002−265933号公報に記載の磁性砥粒は、その体積の大部分が比重の高い磁性粒子で占められているので重くて大きな研磨効果を有するものの、より精密な研磨加工を行う際には、必要以上に被加工物の表面を研磨してしまうことから必ずしも好ましい研磨砥粒であるとは言えないものであった。
また、特開2001−26770号公報及び特開2005−255881号公報に記載の磁性砥粒においては、砥粒表面は研磨粒子ばかりではなく磁性粒子も混在して覆われているため、必ずしも効率の良い研磨特性が得られなかった。さらに研磨に伴い表面磁性層も磨耗するため被加工物の汚染が問題になることがあった。さらに特開2005−255881号公報に記載の磁性砥粒においては、磁性層が砥粒表面にしか存在しないため磁力による砥粒の固定や移動が十分に行えない場合があった。
これらに対し、本発明の磁性砥粒は、磁性体による汚染がなく、高効率の精密研磨が可能な磁性砥粒である。
【0010】
(構造)
本発明の磁性砥粒は、樹脂粒子の表面が研磨粒子により被覆されている磁性砥粒であって、該樹脂粒子が磁性体を分散した樹脂粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子であり、該研磨粒子の体積平均粒子径が該磁性砥粒の体積平均粒子径の10分の1であることを特徴とする。以下、「磁性体を分散した樹脂粒子」及び/又は「磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子」を単に「樹脂粒子」又は「磁性体含有樹脂粒子」ともいう。
図1は本発明の磁性砥粒の一例を示す断面概略図、及び、前記磁性砥粒表面近傍部分の断面の拡大概略図である。
本発明の磁性砥粒1は、磁性体含有樹脂粒子2及び研磨粒子3から少なくとも形成され、磁性体含有樹脂粒子2の表面が研磨粒子3で被覆されている。
このような構造の磁気砥粒を磁気研磨に適用した場合、磁性体が磨耗することなく、研磨粒子のみが効率よく研磨に寄与するため、磁性体からの被加工物への汚染を防止することができる。また、磁性体を含む樹脂粒子が磁性砥粒のほぼ全体を占めるため、磁場の強弱による磁気砥粒の固定や移動に関する制御性が向上する。また、用途によっては磁性粒子を含む樹脂粒子中に研磨粒子も同時に包含させることが好ましい。
【0011】
本発明の磁性砥粒は、磁性体を分散した樹脂粒子の表面、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子の表面が研磨粒子で被覆されている粒子である。
本発明の磁性砥粒に用いることができる樹脂粒子は、粒子の内部全体に磁性体が分散された粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した粒子であり、また、研磨粒子の接着や前記被覆率の向上の点から、磁性体は樹脂粒子の表面に露出していない、すなわち、樹脂粒子中に包含されていることが好ましい。
本発明の磁性砥粒において、被覆率は平均90%以上であることが好ましく、平均95%以上であることがより好ましい。上記範囲であると、研磨効率が良好であるため好ましい。
なお、前記「被覆率」とは、以下の式で求められる値である。
(被覆率)=(樹脂粒子の表面における研磨粒子により覆われている面積)/(樹脂粒子の全表面積)×100
前記被覆率の測定方法としては、電子顕微鏡もしくは光学顕微鏡写真を用いて研磨粒子の占める面積を公知の画像解析ソフトを用いて実測する画像解析法、画像のハードコピーを用いて被覆部分を切り抜き、重量を測定する重量法等の方法により測定することができる。
また、樹脂粒子の表面において、磁性体が露出している面積は樹脂粒子の全表面積の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0012】
また、図1における磁性砥粒の断面の表面近傍部分Aに示すように、研磨粒子3は、その少なくとも一部が樹脂粒子2の樹脂中に埋め込まれていることが好ましい。研磨粒子の一部が樹脂粒子に埋め込まれることで、磁気研磨中の研磨粒子の脱離が少なくなるため好ましい。
また、研磨粒子は、磁性体を含む樹脂粒子の表面だけでなく、樹脂粒子の内部にさらに含まれることも好ましい。樹脂粒子の内部に研磨粒子を含むことにより、研磨過程で表面粒子が消耗しても内部(特に表面近傍)の研磨粒子が表面に露出し、高い研磨効率を維持することができるであるため好ましい。
【0013】
(磁性砥粒の体積平均粒子径)
精密研磨の目的から、本発明の磁性砥粒の体積平均粒子径は、1乃至600μmであることが好ましく、1乃至120μmがより好ましく、1乃至40μmがさらに好ましい。
【0014】
(樹脂)
本発明における樹脂粒子に用いることができる樹脂は、特に制限はなく、いかなる樹脂をも用いることができるが、特に研磨傷の少ない精密研磨の目的からは熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。一般に機械研磨では砥粒に一定の応力が加わることで研磨が進むとされているが、大きな粒子はしばしば研磨傷の発生の原因となる。しかし、本発明の熱可塑性樹脂を適用した場合、応力発生時の局所的な発熱に伴う熱可塑性樹脂粒子の変形によりこのような研磨傷の発生を低減するものと推定される。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド類(特に各種ナイロン(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46))、ポリエステル類、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリふっ化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアセタール、ポリスルホン、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アクリルニトリル・スチレンコポリマー、EVA(エチレンビニルアセテート共重合体)、EMA(エチレンメタクリル酸共重合体)、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・プロピレンコポリマー、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー)、熱可塑性弾性体(例えば、スチレン・ブタジエンコポリマー)等が例示できる。
また、熱可塑性樹脂としてポリマーアロイを用いてもよい。ポリマーアロイの具体例としては、ポリフェニレンオキサイド(PPO)/ポリスチレン(PS)、ポリベンズイミダゾール(PBI)/ポリイミド(PI)、PPO/ABS、ABS/ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)/PC、PET/PC、PBT/PET、PBI/PI、ナイロン/変性ポリオレフィン、PBT/変性ポリオレフィン、ナイロン/PPO、ABS/ナイロン、ABS/PBT、ナイロン/PPO、ナイロン/ABS、ナイロン/PCを挙げることができ、その他の具体例は、高分子学会編、先端高分子材料シリーズ3「高性能ポリマーアロイ」(平成3年、丸善)等に記載されているものが例示できる。
【0016】
これらの中でも、各種ポリアミド、ポリプロピレン、EVA等が好ましい。また、EVA、EMA等の溶融温度が60℃乃至120℃の樹脂が応力変形しやすいため特に好ましい。
また、本発明に用いることができる樹脂は、2種以上の樹脂の混合物であっても良い。
【0017】
(樹脂粒子の体積平均粒子径)
精密研磨の目的から、磁性体を含む樹脂粒子の体積平均粒子径は、1乃至500μmであることが好ましく、1乃至100μmがより好ましく、1乃至30μmがさらに好ましい。
【0018】
(粒子形状)
本発明の用いることができる樹脂粒子の粒子形状は、必ずしも球形でなくてもよく、球状、略球状又は楕円体状であることが好ましい。
また、樹脂粒子の形状係数SF1が100〜150であることが好ましく、100〜140であることがより好ましい。なお、SF1は、
SF1=(粒子の絶対最大長)2/(粒子の面積)×(π/4)×100
で求められる。形状係数SF1の測定方法としては、公知の方法により測定することができる。
また、本発明の磁性砥粒の粒子形状も、上記と同様であることが好ましい。
【0019】
(磁性体)
樹脂粒子中に含まれる磁性体は、強磁性体であることが好ましい。
強磁性体としては、鉄、ニッケル、コバルトなどの鉄系金属、鉄系金属を含む合金、金属間化合物、各種フェライト、特にマグネタイト、マグヘマイト、マンガンジンクフェライト、ニッケルジンクフェライトマグヘマイトなどが好ましく例示できる。
磁性体は、針状、板状、柱状、粒状、不定形状等、その形状について特に制限はなく、磁性粒子として樹脂粒子中に分散、又は、樹脂により被覆されることが好ましい。
磁性粒子の体積平均粒子径は0.01乃至490μmであることが好ましく、0.1乃至100μmがより好ましく、0.1乃至10μmがさらに好ましい。
樹脂粒子中の磁性体の含有量は、磁気応答性の観点から多いほど好ましいが、樹脂の特性も考慮した場合、10乃至95重量%が好ましく、30乃至90重量%がより好ましく、50乃至90重量%がさらに好ましい。
【0020】
(磁性体を含有した樹脂粒子の製造方法)
樹脂が熱可塑性樹脂の場合、本発明者の一人が開発した溶融分散法(例えば、特開昭61−174229号公報及び特開2001−114901号公報等参照)を好適に用いることができる。
この方法によれば、球状化を目的とする熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒と、磁性体とを熱可塑性樹脂及び分散媒の融点以上の温度に加熱して溶融混練し、球状化した熱可塑性樹脂を含む混合物を作製する。これを分散媒の展開液中に溶解し、固液分離機構を用いて磁性体を含む球状の熱可塑性樹脂を回収することができ、磁性体が分散された樹脂粒子を容易に製造することができる。さらに、研磨粒子を加えて溶融混錬することで、磁性体と研磨粒子とを同時に包含した樹脂粒子が得られる。
【0021】
前記溶融分散法で用いる分散媒は、用いる熱可塑性樹脂と相溶性のないものであればよく、具体的には、前記熱可塑性樹脂の他、ポリアルキレンオキサイド類、例えばポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びその誘導体(アセタール化体等)、ポリブテン、ワックス、天然ゴム、合成ゴム、例えばポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、石油樹脂等を好ましく例示できる。また、分散媒として、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。ポリアルキレンオキサイド類は、異なった重合度のものが市販されており、これらの成分を適宜組み合わせることにより、溶融混練時の温度において分散媒が所望の粘弾性を有するように調節することができる。
【0022】
前記溶融分散法において、熱可塑性樹脂や分散媒の融点は、示差走査熱量測定(DSC)法により測定した融点をいう。種々の熱可塑性樹脂の融点は、ハンドブック類、製造メーカーの技術資料等に記載されている(例えば、実用プラスチック辞典、材料編、増補改訂、320ページ、表1〜4(1993年、産業調査会発行)。例えば、ナイロン12の融点は、約180℃である。前記溶融分散法において、熱可塑性樹脂の融点は30℃以上300℃以下であることが好ましい。溶融混練時の温度は、使用する熱可塑性樹脂の融点よりも、10℃乃至200℃高い温度に加熱し、好ましくは20℃乃至150℃高い温度に加熱し、混合することが好ましい。加熱温度が上記範囲であると、熱可塑性樹脂が粒状に容易に分散され、また、樹脂の熱分解等が起こらないため好ましい。
【0023】
前記溶融分散法おいて、分散媒中に樹脂組成物を分散するための方法・装置は特に限定されない。例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等によって分散することができる。溶融分散法による造粒方法では、湿式撹拌造粒に属すると考えられ、微粒子を分裂する力である、撹拌による剪断力と、微粒子を保持する力である、組成物の粘弾性及び界面張力とのバランスにより、粒子サイズが決定されると考えられる。均一な粒子サイズ分布を得るためには、撹拌による剪断力と組成物の粘弾性を均一にすることが好ましく、このためには、密閉型の分散機を用いて、かつその分散機内部の温度分布を均一にすることが好ましい。
【0024】
前記溶融分散法において、熱可塑性樹脂と分散媒と磁性体の混合物を、融点以下に冷却した後、前記熱可塑性樹脂の貧溶媒でありかつ分散媒の良溶媒である展開溶媒とこの混合物を混合して、磁性体を含む樹脂粒子の懸濁液としても良い。この場合、該混合物を冷却した後、クラッシャー等で粉砕したり、ペレタイザーでペレット化したり、押出機、ロール等でシート状に成形してから展開溶媒中に浸漬してもよい。
【0025】
前記溶融分散法で用いる展開溶媒としては、水、有機溶媒及びこれらの混合物を用いることができる。分散媒として、ポリアルキレンオキシド類を用いると、水を展開溶剤として好ましく使用することができる。樹脂粒子の懸濁液から目的とする樹脂粒子を、遠心分離、濾過、又はこれらの方法を組み合わせて分離することができる。分離した樹脂粒子は、必要に応じて、乾燥してから使用する。
【0026】
(研磨粒子)
研磨粒子としては、一般に研磨粒子として市販されているものが好適に使用できる。例えば、ダイアモンド、アルミナ、シリカ、シリコンカーバイド、ジルコニア、チタニア、セリア等の材質の粒子が好ましく使用できる。
研磨粒子の形状は、針状、板状、柱状、粒状、不定形状等、特に制限はない。
研磨粒子の体積平均粒子径は、安定に被覆する観点から、磁性砥粒の10分の1以下であり、20分の1以下が好ましく、100分の1以下がより好ましい。
また、研磨粒子の体積平均粒子径は0.01乃至50μmとすることが好ましい。
【0027】
(磁性砥粒化)
本発明の磁性砥粒は、磁性体を含む樹脂粒子の表面が研磨粒子で被覆されている粒子である。
磁気研磨中に研磨粒子が樹脂粒子から脱落することを防止する観点からは、研磨粒子は樹脂粒子の表面に強固に接着している状態が好ましい。例えば、研磨粒子の一部が樹脂粒子中に埋め込まれた状態にあることがより好ましい。このような状態は、例えば乳鉢などを用い、研磨粒子と樹脂粒子との共存下、機械的な応力を印加することで容易に実現することができる。また、このような磁性砥粒の量産に適した方法としては、メカノフージョン(ホソカワミクロン(株)製AMS−Lab)やハイブリダイゼイション(奈良機械社製ハイブリダイザーNHS)などの方法が好ましく挙げられる。また、カップリング剤等で研磨粒子の表面を処理して樹脂との接着性を向上させることが好ましい。さらに、バインダー樹脂を用いて接着性を向上させることができる。
【0028】
(磁性砥粒の製造方法)
本発明の磁性砥粒の製造方法は、本発明の磁性砥粒が得られる限り特に制限はないが、下記の製造方法であることが好ましい。
すなわち、本発明の磁性砥粒の製造方法は、熱可塑性樹脂及び磁性体を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散する工程(以下、「分散工程」ともいう。)、得られた熱可塑性樹脂組成物の微粒子をその融点以下の温度に冷却して、体積平均粒子径が1μm以上500μm以下の略球状であり、かつ磁性体が分散された樹脂粒子を得る工程(以下、「分離工程」ともいう。)、及び、得られた磁性体が分散された樹脂粒子の表面を研磨粒子で被覆する工程(以下、「付着工程」ともいう。)を含む製造方法であることが好ましい。
前記分散工程及び前記分離工程としては、前述したような溶融混練法が好ましく挙げられる。
前記付着工程としては、研磨粒子と樹脂粒子との共存下、機械的な応力を印加する方法が好ましく挙げられ、また、乳鉢や自動乳鉢、メカノフージョン装置、ハイブリダイゼイション装置等の器具や装置を好適に使用することができる。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
(磁性体含有樹脂粒子の製造)
15重量部のEVA(東ソー(株)製ウルトラセン541)に75重量部のポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製PEG20000)を加え、これに35重量部のマグネタイト(体積平均粒子径:60μm)を加えて約170℃で溶融混練し、溶融物を押し出し水中に展開した。固形分を洗浄し、分離・乾燥し磁性体含有樹脂粒子を回収した。得られた樹脂粒子の体積平均粒子径は80μmであった。また、光学顕微鏡の透過光下で観察した結果、磁性粒子が樹脂粒子中に包含されていることが確認された。以下の実施例においても同様な観察を行い、磁性体の分散状態の良否を確認した。表1に示した。
【0030】
(磁性砥粒化)
次に、得られた磁性体含有樹脂粒子20重量部に研磨粒子(ホワイトアルミナ:体積平均粒子径1μm)1重量部を加えて、自動乳鉢(愛知電機(株)製 ANM−200WES)にて90分間処理し、磁性砥粒化を行った。得られた磁性砥粒の表面は部分的に樹脂に埋め込まれた状態の研磨粒子で被覆されていることが走査型電子顕微鏡観察で確認された。また、電子顕微鏡写真から重量法により被覆率を測定したところ99%であった。また、以下の実施例においても同様な方法で被覆率を測定し、表2に示した。
【0031】
(着磁性:磁性砥粒の固定、移動等の制御性確認)
次に、得られた磁性砥粒を直径10mmの透明ガラス管中に挿入し、ガラス管の外側から永久磁石を当て、磁石の停止、移動に伴って、磁性砥粒が固定、移動することを確認した。以下の実施例においても同様な方法で着磁性の良否を確認し、表2に示した。
【0032】
(磁性砥粒の研磨機能の確認)
次に、得られた磁性砥粒約10重量部を15重量部の水に分散し水分散磁性砥粒スラリーを作製した。
得られた磁性砥粒スラリーを用いて、図2に示す研磨装置4により、溝加工を行った。被研磨材料として鏡面研磨加工された厚み0.6mmのシリコンウエハから20mm角のテストウエハ5を切り出し厚み1mmのガラス製試料台6の上に固定した。試料台6の裏面近傍に磁極形状が2mm角のネオジ(Nd−Fe−B)製永久磁石7を配置した。ウエハ5上に上記磁性砥粒スラリー8(8a,8b)を乗せ、図2で磁石7a及び磁石7bと示すように、磁石7をウエハ5に対して80rpmで60分間往復運動させウエハ5上に溝加工した。加工後触針式表面粗さ計を用いて溝形状及び表面粗さを測定した結果、溝深さは0.2μm、表面粗さは40nmであった。また、磁性体によるウエハ表面の汚染は見られなかった。また、以下の実施例においても同様な方法で磁性砥粒の研磨機能を確認し、表2に示した。
【0033】
<実施例2>
実施例1において磁性粒子として体積平均粒子径が2μmのマグネタイトを用いた以外は同様な条件で磁性砥粒を作製した。
【0034】
<実施例3>
実施例1において樹脂としてEMA(三井化学・デュポン社製 N1860)を用い、磁性粒子として体積平均粒子径が5μmの純鉄を用いた他は同条件で磁性砥粒を作製した。
【0035】
<実施例4>
実施例2において研磨粒子として体積平均粒子径が0.5μmの酸化セリウムを用いた他は同条件で磁性砥粒を作製した。
【0036】
<比較例1>
マグネタイト(体積平均粒子径:60μm)15重量部に研磨粒子(ホワイトアルミナ:体積平均粒子径1μm)1重量部を混合し、水に分散して磁性粒子と研磨粒子の混合スラリーを作製し、実施例1と同様なテストをした結果、溝深さは0.1μm以下であった。
【0037】
<比較例2>
溶融分散法を用いて体積平均粒子径が60μmの12ナイロン製樹脂粒子を作製した。この樹脂粒子の表面に体積平均粒子径が2μmのマグネタイト粒子を、自動乳鉢(愛知電機(株)製 ANM−200WES)を用いて固着させた。この磁性粒子被覆粒子をマグネタイトの代わりとして用いた他は実施例1と同様な条件で、溶融分散法によりEVA(東ソー(株)製ウルトラセン541)を被覆し、研磨粒子(ホワイトアルミナ:体積平均粒子径1μm)を用いて磁性砥粒化を行い、樹脂粒子内部に一層のマグネタイト粒子層を有する磁性砥粒を作製した。得られた磁性砥粒における各樹脂成分及び磁性体の重量比は、12ナイロン100重量部に対し、マグネタイト1重量部及びEVA130重量部であった。
【0038】
以上の実施例及び比較例において使用した材料の仕様等を表1に、磁性砥粒の研磨特性等を表2に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の磁性砥粒の一例を示す断面概略図、及び、前記磁性砥粒表面近傍部分の断面の拡大概略図である。
【図2】本発明の磁性砥粒を使用した研磨装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1:磁性砥粒
2:磁性体含有樹脂粒子
3:研磨粒子
4:研磨装置
5:テストウエハ
6:試料台
7(7a,7b):永久磁石
8(8a,8b):磁性砥粒スラリー
A:磁性砥粒の断面の表面近傍部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子の表面が研磨粒子により被覆されている磁性砥粒であって、
該樹脂粒子が磁性体を分散した樹脂粒子、又は、磁性体を樹脂により被覆した樹脂粒子であり、
該研磨粒子の体積平均粒子径が該磁性砥粒の体積平均粒子径の10分の1であることを特徴とする
磁性砥粒。
【請求項2】
樹脂粒子の内部に研磨粒子をさらに含む請求項1に記載の磁性砥粒。
【請求項3】
樹脂粒子が熱可塑性樹脂を主成分として含む請求項1又は2に記載の磁性砥粒。
【請求項4】
磁性砥粒の体積平均粒子径が1乃至600μmである請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項5】
磁性体が強磁性体である請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項6】
磁性体の体積平均粒子径が0.01μm乃至100μmである請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項7】
磁性体の含有量が磁性砥粒に対し10乃至90重量%である請求項1〜6のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項8】
研磨粒子がアルミナ、シリコンカーバイド、ジルコニア、セリア、チタニア、シリカ、ダイアモンドよりなる群から選ばれる材質の粒子を1種以上含む請求項1〜7のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項9】
研磨粒子の体積平均粒子径が磁性砥粒の体積平均粒子径の20分の1以下である請求項1〜8のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項10】
樹脂粒子の表面における研磨粒子の少なくとも一部が樹脂粒子の樹脂中に埋め込まれている請求項1〜9のいずれか1つに記載の磁性砥粒。
【請求項11】
熱可塑性樹脂及び磁性体を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散する工程、
得られた熱可塑性樹脂組成物の微粒子をその融点以下の温度に冷却して、体積平均粒子径が1μm以上500μm以下の略球状であり、かつ磁性体が分散された樹脂粒子を得る工程、及び、
得られた磁性体が分散された樹脂粒子の表面を研磨粒子で被覆する工程を含む請求項1〜10のいずれか1つに記載の磁性砥粒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302733(P2007−302733A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130158(P2006−130158)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】