説明

磁性複合体およびその製造方法、マンノースを表面に有する物質の除去方法及びマンノースを表面に有する物質の濃縮方法

【課題】特定標的物質の分離・収集・濃縮等の処理を簡便且つ短時間で高感度に行う。そのためのナノ磁性体を提供する。
【解決手段】数平均粒径1〜50nmの磁性体ナノ粒子とその粒子表面に固定化された一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物とを含む磁性複合体及びこの磁性複合体を、標的物質を含有する可能性のある被検体に接触後、磁気分離する。
一般式(I)
1O−(CH(R2)CH2O)n−L−X
[R1は、水素原子、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、置換又は無置換のアリール基あるいは複素環基を表す;R2は水素原子又はメチル基を表す;Lは存在しても存在しなくてもよく、存在する場合は置換基又は分岐鎖を有していてもよい炭素鎖長1以上10以下のアルキレン基あるいはアルケニレン基を表す;Xは、水素原子、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を表す;nは1以上10以下の整数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性複合体およびその製造方法、マンノースを表面に有する物質の除去方法及びマンノースを表面に有する物質の濃縮方法に関し、特に、特定の化合物で表面修飾された水中での分散安定性に優れた磁性複合体、及びこれを用いたマンノースを表面に有する物質の除去方法及びマンノースを表面に有する物質の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、標的物質を効率よく収集する手段として、磁性体粒子が提案されている。磁性体粒子は外部磁場を使用することによって簡便に且つ効率よく集めることができるため、生体物質などの検出方法に精度よい検出手段として用いられている。一方、微細環境下の非常に小さいサイズの標的物質、例えば生体内のウイルス分子などを確実に収集するには、捕捉用のナノ粒子の表面積を大きくする必要がある。このため、サイズの小さいナノ粒子を用いたウイルスの分離、濃縮、検出方法や、ワクチンの開発が提案されている(非特許文献1等)。また、特許文献1では、ポリマー粒子内部に磁性体を含有する磁性体粒子であってその表面にレクチンを有する磁性体粒子を用いてウイルスを吸着することを開示している。
【0003】
しかしながら、用いられる磁性体粒子の粒子径が大きいと磁石への応答性はよくなるが、標的物質の吸着量や分析感度が充分でなく、粒子径を数十nm以下に小さくすると磁石への応答性が劣り、精度よく分析することが困難になる。
このため、このようなナノクラスの磁性体ナノ粒子であっても外部磁場に確実に反応できるように、下限臨界溶液温度(LCST)や上限臨界溶液温度(UCST)を有する高分子を利用して、磁性体ナノ粒子同士を凝集させることが提案されている(例えば、特許文献2及び3)。
【特許文献1】特開2002−165591号公報
【特許文献2】国際公開第02/16571号パンフレット
【特許文献3】特開2002−60436号公報
【非特許文献1】バイオマテリアル−生体材料、2004年、第22巻、第6号、p.394−399
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、収集工程において上記の熱刺激応答性高分子等を用いた場合にはウイルス等の標的物質と、ポリマー鎖との非特異的相互作用により分離精製効率の低下等の問題を生ずる可能性がある。
また、ウイルスの捕捉に限らず、簡単な処理で、種々の用途における特定の標的物質を捕捉することができる汎用性のあるナノ磁性体があれば、短時間で高感度な分析等が要求される種々の用途に利用することができる。
【0005】
従って、本発明の目的は、種々の分野で使用することができ、短時間で高感度な分析が可能な利用価値の高いナノ磁性体を提供することである。
また、微細環境下のウイルスなどの特定の標的物質の分離・収集・濃縮等の処理を簡便且つ短時間で、高感度に行うことができる特定標的物質の除去方法及び濃縮方法並びにこれらの方法に使用可能なナノ磁性体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁性複合体は、数平均粒径1〜50nmの磁性体ナノ粒子と、その粒子表面に固定化された一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物とを含む、磁性複合体である。
一般式(I)
1O−(CH(R2)CH2O)n−L−X
[R1は、水素原子、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、置換または無置換のアリール基あるいは複素環基を表す;R2は、水素原子又はメチル基を表す;Lは、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合は、置換基または分岐鎖を有していてよい炭素鎖長1以上10以下のアルキレン基またはアルケニレン基を表す;Xは、水素原子、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を表す;nは、1以上10以下の整数を表す。]
【0007】
ここで固定化とは(以下も同様)、ファンデルワールス力等による物理吸着、および/または化学結合による化学吸着によって、磁性体ナノ粒子の表面に固定化すること意味する。化学吸着の場合は共有結合を介するもの、イオン結合を介するもの、水素結合を介するもの、およびこれらの組み合わせによる化学結合を介するものが含まれる。
【0008】
上記磁性複合体に含まれる磁性体ナノ粒子の表面には、さらに、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物が固定化されていることが好ましい。
上記磁性複合体には、上記一般式(I)で表される化合物、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物を介してさらに、標的物質に対して親和性を有する化合物が結合していることが好ましい。
ここで結合とは(以下も同様)、共有結合、イオン結合、水素結合等の化学結合のみならず、ファンデルワールス力等による物理的結合をも含むが、化学結合がより好ましい。
また、前記磁性体ナノ粒子が、酸化鉄またはフェライトであることが好ましい。
【0009】
本発明のマンノースを表面に有する物質(標的物質)の除去方法は、上記標的物質に対して親和性を有する化合物が結合した磁性複合体と、マンノースを表面に有する物質を含有する可能性のある被検体とを接触させて、該磁性複合体に該マンノースを表面に有する物質を結合させること、該磁性複合体に結合した該マンノースを表面に有する物質を、磁気分離に付して該被検体から除去することを含む方法である。
本発明のマンノースを表面に有する物質(標的物質)の濃縮方法は、上記標的物質に対して親和性を有する化合物が結合した磁性複合体と、マンノースを表面に有する物質を含有する可能性のある被検体とを接触させて、該磁性複合体に該マンノースを表面に有する物質を結合させること、該磁性複合体に結合した該マンノースを表面に有する物質を、磁気分離に付して収集することを含む方法である。
【0010】
本発明の磁性複合体の製造方法は、上記一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物の存在下で、数平均粒径1〜50nmの性体ナノ粒子を表面処理する工程を含む方法である。
上記方法において、さらに、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物との共存下で、前記表面処理を行うことが好ましい。
本発明の被検体は、上記本発明のマンノースを表面に有する物質の除去方法によって得られる、表面マンノース含有標的物質を含有しない被検体である。
【0011】
本発明では、一般式(I)の化合物(以下、本発明に係る表面修飾剤という)の存在下で、好ましくは、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の少なくとも1種の化合物との共存下で磁性体ナノ粒子を処理すると、磁性体ナノ粒子の表面が、種々の分子と高密度に結合可能な多官能性の表面となり、種々の標的物質に対して親和性を有する化合物を結合することができる。また、磁性複合体自体の水溶媒中の分散性及び安定性が向上する。
この結果、標的物質と複数の磁性複合体とが結合することで外部磁場に対する応答性が高まり、特別な凝集工程等を設けることなく、被検体からの標的物質が結合した磁性複合体の分離・収集が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、種々の分野で使用することができ、短時間で高感度な分析が可能な利用価値の高いナノ磁性体を提供することができる。
また、微細環境下の特定の標的物質の分離・収集・濃縮処理を簡便且つ短時間で、高感度に行うことができる特定標的物質の除去方法及び濃縮方法並びにこれらの方法に使用可能なナノ磁性体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の磁性複合体は、数平均粒径1〜50nmの磁性体ナノ粒子と、その粒子表面に固定化された一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物とを含むものである。
【0014】
[1]磁性体ナノ粒子
本発明における磁性体ナノ粒子は、数平均粒子径が1〜50nmの磁性を有するナノ粒子である。数平均粒子径が1nm以上であるので安定可能に作製可能であり、数平均粒子径が50nm以下であるので、例えば細胞内の物質を標的とした場合であっても細胞内まで侵入して標的物質を捉えることができる。また、磁性体ナノ粒子の表面積が大きいため反応効率が高く、極微量の標的物質も迅速に捕集することができる。磁性体ナノ粒子の数平均粒子径は、結晶の安定性および磁力応答性の観点から3〜50nmが好ましく、5〜40nmが特に好ましい。
【0015】
このような磁性体ナノ粒子は、例えば特表2002−517085号等に記載された方法に従って製造することができる。例えば鉄(II)化合物、または鉄(II)化合物および金属(II)化合物を含有する水溶液を、磁性酸化物の形成のために必要な酸化状態下に置き、溶液のpHを7以上の範囲に維持して、酸化鉄またはフェライト磁性体ナノ粒子を形成することができる。また、金属(II)化合物含有の水溶液と鉄(III)含有の水溶液をアルカリ性条件下で混合することによっても、本発明における磁性体ナノ粒子を得ることができる。さらに、バイオカタリシス(Biocatalysis)1991年、第5巻、61〜69頁に記載の方法を用いることもできる。
【0016】
本発明で用いられる好ましい磁性体ナノ粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。また、表面と内部が異なるコアシェル型構造であっても良い。前記式中Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。
このうち、安全性の観点から酸化鉄が好ましい。
【0017】
例えばマグネタイトを形成するためには、溶液中に鉄が2種類の異なる酸化状態、Fe2+およびFe3+で存在することが好ましい。2つの酸化状態は、鉄(II)塩および鉄(III)塩の混合物を、好ましくは所望の磁性酸化物の組成に対してFe(II)塩をFe(III)塩より少し多いモル量で添加すること、または鉄(II)塩もしくは鉄(III)塩を添加して、必要に応じてFe2+またはFe3+の一部を他方の酸化状態に、好ましくは酸化または場合により還元によって変換することにより、溶液中に存在できるようになる。
【0018】
この磁性金属酸化物は、30℃から350℃の温度、好ましくは50℃から300℃の間の温度で熟成することが好ましい。
磁性金属酸化物を形成するために各種の金属イオン間の相互作用を起こさせるには溶液のpHが7以上である必要がある。pHは、適切なバッファー溶液を最初の金属塩の添加時の水溶液として用いるか、または必要な酸化状態にした後に溶液に塩基を添加することによって所望の範囲に維持される。ひとたびpH値としてその7以上の範囲にある特定の値を選択した後は、最終産物の大きさの分布が実質的に均一となることを確保するために、そのpH値を磁性ナノ粒子の調製工程の全体にわたって維持することが好ましい。
【0019】
また磁性ナノ粒子の粒子サイズを制御する目的で、追加の金属塩を溶液に添加する工程を設けてもよい。この場合、次の2つの異なる操作様式にて行うことができる。1つの操作様式は段階的増加によるもので、以後段階的様式の操作と呼ぶが、その操作様式では各成分(金属塩、酸化剤および塩基)を数回に分けて、好ましくは毎回等量で、定めた順序で溶液に連続的に添加し、それらの工程を所望のナノ粒子のサイズが得られるまで必要な回数繰り返し、その各回の添加量は溶液中(すなわち粒子の表面上以外)での金属イオンの重合を実質的に避けることのできる量とする。
他方は、連続した操作様式であり、各成分(金属塩、酸化剤、および塩基を定められた順序で、粒子表面以外の部位での金属イオンの重合を避けるために各成分毎に実質的に均一な流速で、連続的に溶液中に添加する。この段階的又は連続的操作様式を用いることによって、大きさの分布が狭い粒子を形成することができる。
【0020】
[2]表面修飾剤
本発明にかかる一般式(I)の化合物(表面修飾剤)は下記のものである。
一般式(I)
1O−(CH(R2)CH2O)n−L−X
【0021】
式中R1は、水素原子、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、置換または無置換のアリール基あるいは複素環基を表す。炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基は、さらにカルボキシル基、水酸基又はアルコキシル基で置換されていてもよく、分岐鎖を有していてもよい。アリール基あるいは複素環基の置換基としては、カルボキシル基、水酸基、炭素鎖長1以上10以下のアルキル基又は炭素鎖長1以上10以下のアルコキシル基が挙げられる。水系媒体中での分散安定性の観点から好ましくは水素原子、炭素鎖長が1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、無置換あるいはカルボキシル基、水酸基、炭素鎖長1以上10以下のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を挙げることができる。これらのアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基はさらにカルボキシル基や水酸基で置換されていてもよい。
【0022】
式中R2は、水素原子又はメチル基を表し、分散安定性の観点から好ましくは、水素原子である。
式中Lは、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合は、炭素鎖長1以上10以下のアルキレン基またはアルケニレン基を表し、分散安定性の観点から好ましくは炭素鎖長1以上2以下のアルキレン基を表す。このアルキレン基またはアルケニレン基は、置換基または分岐鎖を有していてよく、分岐鎖としてはメチル基を挙げることができる。
【0023】
式中Xは、酸基であって、水素原子、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を表し、多種の分子との結合が容易なカルボン酸基が好ましい。また、これらの酸基は、水系媒体中での溶解性の観点から、アルカリ金属塩、アンモニウム塩で中和されていてもよい。中和させる際に用いられるアルカリ金属塩及びアンモニウム塩としては、Na塩、K塩、NH4塩、テトラメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
式中nは、1以上10以下の整数、磁気分離性の観点から好ましくは1以上6以下の整数である。
【0024】
このような本発明にかかる表面修飾剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。本表面修飾剤として好ましい化合物を以下に挙げるが、これらの化合物に限定されない。なお、化合物(4)におけるn=4.5は、n=4とn=5の化合物の等モル量混合物を意味する。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
このうち、標的物質に対して親和性を有する化合物を結合させやすい観点から本発明における表面修飾剤として特に好ましいのは、(1)〜(14)、(20)〜(27)等である。
【0029】
本発明において、表面修飾剤として一般式(I)の化合物に加えて、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類を併用することができる。その結果、生体にとって優しいこれらの化合物も粒子表面に固定化されている磁性複合体とすることができ、磁性体ナノ粒子の表面が、種々の分子と高密度に結合可能な多官能性の表面となり、種々の標的物質に対して親和性を有する化合物を結合することができる。また、磁性複合体自体の水溶媒中の分散性及び安定性が向上する。
多価カルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などを用いることができる。アミノ酸としては、グリシン、セリン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのα−アミノ酸、β−アラニンなどのβ−アミノ酸、GABAなどのγ−アミノ酸あるいはω−アミノ酸を用いてもよい。タンパクとしては、抗体、レクチン、アルブミンなどの血清タンパク、カゼイン、コラーゲンなどを用いてもよい。ペプチドとしては、ゼラチンおよびその部分加水分解物などのポリペプチド、あるいはより低分子量のオリゴペプチドでもよい。多糖類としては、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イデュロン酸などの酸性糖単位を含むコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリンなどのほかカルボキシメチルセルロースのような合成酸性多糖でもよい。本発明では、これらを単独でまたは2以上を組み合わせて使用することができるが、これらに限定されるものではむろんない。
【0030】
本発明に係る上記の一般式(I)等の表面修飾剤は、磁性体ナノ粒子の表面に、標的物質に対して親和性を有する化合物(以下、連結体という)と結合可能な官能基を多数配置することができる。この磁性体ナノ粒子表面に配置される官能基の密度(従って表面修飾剤の添加量)は、連結体を介して標的物質と結合したときに、外部磁場に対して反応するために充分なサイズとなる量であり、標的物質および磁性体ナノ粒子の種類やサイズによって異なる。粒子表面に結合している表面修飾剤の量は、化学分析によって確認することができ、当業者であれば、適切な分析法を容易に選択することができる。
【0031】
本発明に使用する表面修飾剤は、磁性体ナノ粒子の表面を高濃度に被覆することができるが、全体としての表面修飾剤の量が充分であれば、磁性体ナノ粒子全体を被覆していても、その一部を被覆していてもよい。また、本発明において表面修飾剤は、単独で用いても複数併用してもよい。
【0032】
また本発明においては、上記表面修飾剤に加えて、公知の表面修飾剤(例えば、ポリエチレングリコール、グルコン酸、ヒドロキシプロピオン酸、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、ポリリン酸ナトリウム、ビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウムなど)が磁性ナノ粒子合成時、あるいは合成後共存させてもよい。
【0033】
本発明に係る表面修飾剤の添加量は、磁性体ナノ粒子の粒子サイズ、粒子の濃度、表面修飾剤の種類(大きさ、構造)、標的物質の種類やサイズ等により変動するが、磁性体ナノ粒子に対し、好ましくは0.001〜10倍モル、さらに好ましくは0.01〜2倍モルである。このような添加量であれば、標的物質と結合した際に、外部磁場に応答可能なサイズ、例えば、0.05μm〜10μmほどの全体サイズとなり、分散状態で外部磁場に応答することができる。
また一般式(I)の化合物と併用可能な上述の多価カルボン酸、アミノ鎖、タンパク、ペプチド、多糖類の添加量は、上記表面修飾剤の添加量と同様に、磁性体ナノ粒子に対して、好ましくは0.001〜10倍モル、さらに好ましくは0.01〜2倍モルとすることができる。
【0034】
本発明に係る表面修飾剤は、磁性体ナノ粒子の合成時に添加することも、合成後に添加することもでき、該磁性体ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆(表面修飾)させる。磁性体ナノ粒子合成後表面修飾剤を添加する場合、磁性体ナノ粒子は、磁気分離により精製することが好ましいが、遠心分離やろ過などの常法により洗浄、精製後、本発明に用いられる表面修飾剤を含有する溶媒(好ましくは水や、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−エトキシエタノールなどの親水性有機溶媒)に分散させて被覆してもよい。また、磁性体ナノ粒子合成時に表面修飾剤を添加する場合は、磁気分離、遠心分離、限外ろ過、ゲルろ過、電気泳動など公知の方法で精製することができる。
【0035】
なお、磁性体ナノ粒子の表面が表面修飾剤で被覆されていることは、FE−TEM等の高分解性TEMで観察した際に粒子間に一定の間隔が認められること、および化学分析により確認することができる。
【0036】
本発明に係る一般式(I)で表される表面修飾剤で被覆された磁性体ナノ粒子は活性化されて、その表面修飾剤の末端基である式中のXや、置換基である水酸基やカルボキシル基などを反応基としてアミド化反応等により、さらに後述する連結体と結合することができる。また、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類は、前述のようにその多官能性基を反応基として連結体と結合することができる。
【0037】
アミド化反応は、カルボキシル基あるいはその誘導基(エステル、酸無水物、酸ハロゲン化物など)とアミノ基の縮合により行われる。酸無水物や酸ハロゲン化物を用いる場合には塩基を共存させることが望ましい。カルボン酸のメチルエステルやエチルエステルなどのエステルを用いる場合には、生成するアルコールを除去するために加熱や減圧を行なうことが望ましい。カルボキシル基を直接アミド化する場合には、DCC、Morpho−CDI、WSCなどのアミド化試薬、HBTなどの縮合添加剤、N−ヒドロキシフタルイミド、p−ニトロフェニルトリフルオロアセテート、2,4,5−トリクロロフェノールなどの活性エステル剤などのアミド化反応を促進する物質を共存させたり、予め一般式(I)のXなどの官能基と反応させておいてもよい。また、アミド化反応時、アミド化により結合させる親和性分子のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを常法に従って適当な保護基で保護し、反応後脱保護することが望ましい。
【0038】
アミド化反応により連結体と結合した磁性複合体は、ゲルろ過などの常法により洗浄、精製後、水または親水性溶媒(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、2−エトキシエタノールなど)に分散させて使用する。この分散液中の磁性複合体の濃度は、標的物質および連結体の種類や濃度によって異なるので特に限定されないが、1M〜10-5Mが好ましく、より好ましくは10-1M〜10-4Mである。
【0039】
本発明における磁性体ナノ粒子は、連結体を介して標的物質に結合可能にすることができる。ここで標的物質及び連結体は、本発明における磁性複合体の利用分野によって適宜変更することができる。
【0040】
[3]連結体(リガンド)
このような連結体としては、生体関連分子及び生体関連分子に対して親和性を有する各種有機・無機化合物を挙げることができる。
生体関連分子で「リガンドと標的物質」の親和性相互作用を期待できる組合せとして、核酸同士のハイブリダイゼーション、抗原及び抗体(モノクローナルやポリクローナル)、酵素及び基質、核酸と核酸結合タンパク、アジビン−ビオチン等を挙げることができる。また、リガンドとしての生体関連分子には、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質や多糖類などの親和性分子、更には脂質等を挙げることができる。
例えば、核酸を用いた場合には、種々のタンパク質の中から、種々の塩基配列に対して転写の制御を行うことができる転写制御因子を、迅速且つ容易に分離することができる。その他、種々の物質を用いることによって種々の物質間の関連性、例えば、相互作用の強さ、構造の類似性等を認識することができる。
【0041】
ここで、「核酸」は、狭義には、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)であり、広義には、PNA(Peptide Nucleic Acid)を含めても良い。RNAには、mRNA、tRNA、rRNAがある。また、DNA、RNA全体のみならず、そのDNA、RNAの断片である場合も含む。
更には、標的物質としてウイルス若しくは細菌等の生物体若しくはその一部を挙げることができる。
【0042】
また本発明における連結体としては、被検体中のウイルスを捕捉する観点からマンノース結合性レクチンであることが好ましい。ウイルス、例えばHIV−1は直径100nmのエンベロープを有し、ここには糖タンパク質gp120が存在している。このgp120は糖鎖部位には多量のマンノースが存在しているため、マンノースと認識するレクチンと強く相互作用する。
このようなマンノース結合性レクチンは、主としてアスパラギン結合糖鎖の母核の構成糖であるα−マンノシル残基を認識するレクチンであり、Conavalia ensiformis(ConA)、Lens culinaris (LCA)、 Bowringia midbraedii (BMA)、Dolichos lablab(DLA)、Galanthus nivalis(GNA)、 Gerardia savaglia (GSL)、Machaerium biovulatum (MBA)、Machaeriumu lunatus(MLA)、Narcissus pseudonarcissus (NPA)、Epipactis heleborine (EHA)、Listera ovata (LOA) などがある。機能及び経済性の面から、マンノース結合性レクチンの中でも特に、ConA(コンカナバリンA)が好適である。ConAは通常タチナタマメより精製されるものが利用できる。
【0043】
磁性体ナノ粒子の表面に固定化された表面修飾剤とマンノース結合性レクチン化合物との結合は、例えば、上述した本発明に係る一般式(I)の表面修飾剤のうちXなどの官能基を介して行われる。一般式(I)中Xに該当する官能基にマンノース結合性レクチンを結合させる方法としては、臭化シアン活性化法、カルボジイミド試薬やウッドワード試薬を用いる縮合試薬法、ジアゾニウム化合物を介したジアゾ法、酸アジド誘導体法、ハロゲン化アセチル誘導体法、トリアジニル誘導体法、ハロゲン化メタクリル(アクリル)酸誘導体法、グルタルアルデヒドや両末端エポキシ化合物のような多官能性の架橋剤を用いる架橋法などいずれも可能であり、粒子表面に直接、あるいはスペーサーを介して結合させることができる。
【0044】
このようにして得られるマンノース結合性レクチンが結合した磁性複合体は、その分散媒に乳化剤、分散剤、未反応モノマー、水溶性ポリマー、重合開始剤の分解物などを含んでいる場合がある。これらの物質は、例えば医療診断薬に使用した場合、核酸増幅検査段階において反応阻害物となる可能性が高いため、例えばAdv.Colloid Interface Sci.,81,77〜165 (1999) などに示される方法によってマンノース結合性レクチンが結合した磁性複合体の分散媒から除去することが好ましい。
【0045】
磁性複合体とウイルスとの結合は、一定量の磁性体ナノ粒子の分散液を被検体と混合し、例えば室温で10分程度上下回転しながら反応させればよい。この際、検体中のウイルス濃縮等に応じて適切な緩衝液、キレート剤、または金属イオン等を加えてもよい。
【0046】
本発明において上述したようなマンノース結合性レクチンが結合した磁性複合体は、標的物質として、マンノースを表面に有する物質、即ち表面マンノース含有標的物質の除去方法及び濃縮方法に好ましく用いることができる。
【0047】
次に、本発明に係る表面マンノース含有標的物質の除去方法について説明する。
本発明の表面マンノース含有標的物質の除去方法は、表面マンノース含有物質を標的物質として選択した場合の上記表面修飾剤及び/又は連結体で処理された磁性体ナノ粒子を用いるものであり、上記磁性複合体と表面マンノース含有標的物質を含有する可能性のある被検体とを接触させて、該磁性複合体に表面マンノース含有標的物質を結合させること、磁性複合体に結合した表面マンノース含有標的物質を磁気分離に付して該被検体から除去することを含むものである。
この方法によれば、前述の本発明に係る表面修飾剤及び/又は連結体で処理された磁性体ナノ粒子を用いることによって、被検体中に分散した状態で表面マンノース含有標的物質結合磁性複合体を磁気分離に付すことができ、特別な凝集工程など、ナノ磁性体を外部磁場に応答させるための工程を特別設けることなく、被検体から表面マンノース含有標的物質を効率よく除去することができる。
【0048】
ここで用いられる表面修飾剤による処理によって得られた磁性複合体は、標的となる表面マンノース含有物質に親和性のある化合物を連結体として表面に有するものが好ましく、用いられる連結体の種類は、標的となる表面マンノース含有物質及び/又は被検体の種類等に応じて適宜選択することができる。このような選択は、当業者によって容易に行うことができる。連結体としては、前述したものから選択して適用可能である。
好ましくは、ウイルスに親和性のある化合物が連結体として好ましく、マンノース結合性レクチンを挙げることができ、簡便性や反応性の観点からコンカナバリンAであることが特に好ましい。
【0049】
標的物質となるウイルスは、マンノース結合性レクチンに対して親和性のあるウイルスであれば、特に限定されないが、例えば、エイズウイルス(HIV−1)、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、成人T細胞白血病ウイルスを挙げることができ、エボラ出血熱を引き起こすフィローウイルス、腎症候性出血熱を引き起こすハンタウイルス等であってもよい。
また標的物質を含有する可能性がある被検体は、一般に、血液、リンパ液等の体液や、培養液、液体試薬などを挙げることができ、いずれも本発明に適用できる。
【0050】
表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体の被検体からの分離は、磁気分離によって行われる。
ここで「磁気分離」とは、磁性複合体を含む被検体に対して外部からの磁場を印加する工程を含む。これにより、印加された外部磁場に応答した磁性複合体を、例えば測定環境下の壁面等に吸着させることによって、被検体から容易に分離可能となる。
【0051】
外部磁場の強さとしては、7.96〜1592kA/m(100〜20000Oe)とすることが好ましく、23.9〜1274kA/m(300〜16000Oe)とすることがより好ましい。この範囲の強さであれば、被検物質と結合した磁性複合体が応答することができる。外部磁場は、永久磁石を使用して印加することができる。
また、磁気分離は、被検体と磁性複合体の混合液を一定の速度で外部磁場を通過させながら行ってもよいし、容器の中でバッチ処理的に行ってもよい。
この磁気分離により表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体と被検体とを分離し、被検体のみを回収することによって、表面マンノース含有標的物質を含有しない被検体を効率よく得ることができる。このような表面マンノース含有標的物質の除去方法は、表面マンノース含有標的物質、例えばウイルスによる汚染が疑われる被検体の浄化等に利用することができる。
【0052】
次に本発明の表面マンノース含有標的物質の濃縮方法について説明する。
本発明の濃縮方法は、上記表面マンノース含有標的物質の除去方法と同様に、表面マンノース含有標的物質と磁性複合体との結合工程及び磁気分離工程を含み、磁気分離工程によって収集された表面マンノース含有標的物質結合磁性複合体を回収する工程を含むものである。この結合工程及び分離工程は、前述の表面マンノース含有標的物質除去方法での記載をそのまま適用することができる。
【0053】
表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体は、前述と同様にして被検体から表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体を分離した後、外部磁場の印加を停止又は外部磁場から遮断することによって容易に回収することができる。
回収された試料中には、表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体が高濃度に含まれており、このようにして得られた表面マンノース含有標的物質が結合した磁性複合体の濃縮液は、磁性複合体の磁気分離が可能であるため取り扱いやすく、種々の用途に利用することができる。
【0054】
例えば、ウイルスを表面マンノース含有標的物質とした場合には、収集されたウイルス結合磁性複合体に対して加熱処理を施すことによってウイルスを不活化して、ワクチンを作製することができる。このウイルス結合磁性複合体ワクチンを、経粘膜投与することによって、結合ウイルス特異的抗体(IgA等)を選択的に誘導することができる。
ワクチンとして利用するために必要な加熱処理等の条件については、当業者であれば適宜設定することができる。
【0055】
なお、表面マンノース含有標的物質除去方法及び表面マンノース含有標的物質濃縮方法では、標的物質が、マンノースを表面に有する化合物であればよく、マンノースを表面に有する細菌、カビ、細胞、タンパク質等であってもよい。即ち、表面マンノースを有する物質を含有する可能性のある被検体から、この表面マンノースを有する物質を同様に除去することもでき、また表面マンノースを有する物質を同様に濃縮することができる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0057】
[実施例1]
(磁性体ナノ粒子分散液の調製)
塩化鉄(III)6水和物10.8gおよび塩化鉄(II)4水和物6.4gをそれぞれ1mol/l(1N)−塩酸水溶液80mlに溶解したのち、両者を混合した。得られた溶液を攪拌しながらその中にアンモニア水(28質量%)96mlを2ml/分の速度で添加した。その後、80℃で30分加熱したのち室温に冷却した。得られた凝集物をデカンテーションにより水で精製した。結晶子サイズ約12nmのマグネタイト(Fe34)の生成をX線回折法により確認した。
この凝集物にポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸《例示化合物(4)》2.3gを溶解した水溶液250mlを加えて分散し、磁性体ナノ粒子分散液A(Fe濃度13.2g/L)を調製した。分散液Aをゲルろ過し、マグネタイトを分画したのち乾燥させ赤外吸収スペクトルを測定することにより、マグネタイトへの例示化合物4の固定化を確認した。
【0058】
[実施例2]
磁性体ナノ粒子分散液Aの調製時に用いたポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸2.3gを溶解した水溶液250mlの代わりに、ポリオキシエチレン(2)メチルエーテル酢酸《例示化合物(20)》0.8g及びアスパラギン酸1.3gを溶解した水溶液250mlを加えて分散し、磁性体ナノ粒子分散液Bを調製した。実施例1と同様に、分散液Bをゲルろ過し、マグネタイトを分画したのち乾燥させ赤外吸収スペクトルを測定することにより、マグネタイトへの例示化合物20およびアスパラギン酸の固定化を確認した。
【0059】
[実施例3]
磁性体ナノ粒子分散液Aの調製時に用いたポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸2.3gを溶解した水溶液250mlの代わりに、ポリオキシエチレン(8)フェニルエーテル酢酸《例示化合物(21)》1.2g及びコンドロイチン硫酸0.3gを溶解した水溶液250mlを加えて分散し、磁性体ナノ粒子分散液Cを調製した。実施例1と同様に、分散液Cをゲルろ過し、マグネタイトを分画したのち乾燥させ赤外吸収スペクトルを測定することにより、マグネタイトへの例示化合物21およびコンドロイチン硫酸の固定化を確認した。
【0060】
[実施例4]
磁性体ナノ粒子分散液Aの調製時に用いたポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸2.3gを溶解した水溶液250mlの代わりに、ポリオキシエチレン(5)2−ヒドロキシエトキシエーテル酢酸《例示化合物(23)》0.8g及びクエン酸1.3gを溶解した水溶液250mlを加えて分散し、磁性体ナノ粒子分散液Dを調製した。実施例1と同様に、分散液Dをゲルろ過し、マグネタイトを分画したのち乾燥させ赤外吸収スペクトルを測定することにより、マグネタイトへの例示化合物23およびクエン酸の固定化を確認した。
【0061】
[実施例5]
(ConA連結磁性ナノ粒子の作成)
磁性体ナノ粒子の分散液Aを限外ろ過することにより2.5倍に濃縮した。この濃縮液0.25mlに0.1MのMES緩衝液(pH6.0)を0.75ml、WSC(同仁化学)を1.8mg、Sulfo−NHSを1.6mg、それぞれ加えて室温で30分間反応させ、磁性体ナノ粒子表面のカルボキシル基を活性化した。これに0.1M MES緩衝液(pH6.0)中のConA(Sigma社)1.0mg/mlを1.0ml添加し、4℃で一晩反応させた。反応液はSephadexG-100でカラムクロマトを行い、ConA結合磁性体ナノ粒子を分離・精製した。精製磁性体ナノ粒子に結合したConA量は、BCA Protein Assay kit (PIERCE社) を用い定量した結果、27mg/g粒子という値であった。このConA量であれば、HIVと結合したときに、0.2μm程度のサイズとなるため、外部磁場に対して充分応答することができる。
【0062】
[実施例6]
磁性体ナノ粒子分散液B〜Dについても、実施例5と同様の操作でConAが結合した磁性体ナノ粒子を得た。磁性体ナノ粒子に結合したConA量は、1g粒子あたりそれぞれ31mg、40mg、33mgとなり、磁性体ナノ粒子分散液Aよりも高い値であった。また、各分散液を静置して、経時による沈降性を目視観察することにより分散安定性を評価したところ、磁性体ナノ粒子分散液B〜Dは、いずれも磁性体ナノ粒子分散液Aよりも沈降しにくく、分散安定性が向上していることがわかった。
【0063】
ここで得られたConA結合磁性体ナノ粒子は、例えばHIV−1ウイルスの分離・濃縮に用いることができ、更には、濃縮されたウイルス結合磁性体ナノ粒子は、エイズワクチンとして利用することができる。
【0064】
[比較例]
一般式(I)で表される化合物を用いないで、アスパラギン酸1.3g、コンドロイチン硫酸0.3g、またはクエン酸1.3gをそれぞれ単独で実施例1のマグネタイトナノ粒子の分散を試みたが、分散安定性が悪く、ConA連結磁性体ナノ粒子分散液を得るには至らなかった。一般式(I)で表される化合物が存在することで磁性体ナノ粒子分散液の分散安定性が格段に向上することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒径1〜50nmの磁性体ナノ粒子と、その粒子表面に固定化された一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物とを含む、磁性複合体。
一般式(I)
1O−(CH(R2)CH2O)n−L−X
[R1は、水素原子、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、置換または無置換のアリール基あるいは複素環基を表す;R2は、水素原子又はメチル基を表す;Lは、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合は、置換基または分岐鎖を有していてもよい炭素鎖長1以上10以下のアルキレン基あるいはアルケニレン基を表す;Xは、水素原子、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を表す;nは、1以上10以下の整数を表す。]
【請求項2】
さらに、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物が、前記磁性複合体に含まれる磁性体ナノ粒子の表面に固定化されている請求項1に記載の磁性複合体。
【請求項3】
前記一般式(I)中、Xがカルボン酸基(アルカリ金属塩、アンモニウム塩で中和されていてもよい)であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性複合体。
【請求項4】
さらに、標的物質に対して親和性を有する化合物が、一般式(I)で表される化合物、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物に結合している請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の磁性複合体。
【請求項5】
親和性を有する化合物がマンノース結合性レクチンであることを特徴とする請求項4に記載の磁性複合体。
【請求項6】
マンノース結合性レクチンがコンカナバリンAであることを特徴とする請求項5に記載の磁性複合体。
【請求項7】
磁性体ナノ粒子が酸化鉄またはフェライトであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の磁性複合体。
【請求項8】
請求項4に記載の磁性複合体と、標的物質として、マンノースを表面に有する物質を含有する可能性のある被検体とを接触させて、該磁性複合体に該マンノースを表面に有する物質を結合させること、該磁性複合体に結合した該マンノースを表面に有する物質を、磁気分離に付して該被検体から除去することを含むマンノースを表面に有する物質の除去方法。
【請求項9】
請求項4に記載の磁性複合体と、標的物質として、マンノースを表面に有する物質を含有する可能性のある被検体とを接触させて、該磁性複合体に該マンノースを表面に有する物質を結合させること、該磁性複合体に結合した該マンノースを表面に有する物質を、磁気分離に付して収集することを含むマンノースを表面に有する物質濃縮方法。
【請求項10】
一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物の存在下で、数平均粒径1〜50nmの磁性体ナノ粒子を表面処理する工程を含む、磁性複合体の製造方法。
【請求項11】
さらに、多価カルボン酸、アミノ酸、タンパク、ペプチド、多糖類の中から選択される少なくとも1種の化合物との共存下で、前記表面処理を行うことを特徴とする請求項10に記載の磁性複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法によって得られる、表面マンノース含有標的物質を含有しない被検体。

【公開番号】特開2006−288384(P2006−288384A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31244(P2006−31244)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】