説明

磁性送達デバイス

試薬を細胞内へ送達する方法であって、少なくとも1つの細胞、および試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を、磁気感受性粒子が細胞へ牽引されて細胞と接触するようにハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法、ならびに試薬を送達するための装置を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に試薬を細胞内へ送達するための方法および装置に関する。本発明には、核酸を送達するための磁気感受性粒子を用いて生細胞を核酸でトランスフェクションする際に使用する装置が含まれる。本発明は、そのような装置を用いて試薬を細胞内へ送達する方法(トランスフェクション法を含む)にも関する。
【背景技術】
【0002】
外来試薬を生細胞内へ導入することは、バイオテクノロジーおよび臨床の両方の状況において多くの潜在的な有用性をもつ。そのような試薬を送達するための多数の技術が開発され、それぞれが異なる利点および欠点をもつ。細胞をトランスフェクションする目的で外来核酸を細胞内へ送達する分野において、今日まで多くの研究が行なわれてきた。
【0003】
外来核酸を生細胞内へトランスフェクション法により導入することは、バイオサイエンスおよびバイオテクノロジーの多くの領域において重要な、現在では日常的に行なわれている方法である。小規模の実験室的操作のために、これは当初は裸のDNAベクターのリン酸カルシウム沈殿などの技術により達成されたが、多様な改良技術が急速に開発され、これにはエレクトロポレーション、アスベスト、ポリブレン、DEAE、デキストラン、リポソーム、リポポリアミン、ポリオルニチン、ポリカチオン性ペプチドとの複合体形成、微粒子銃(particle bombardment)、および直接マイクロインジェクションが含まれる(Kucherlapati and Skoultchi (1984) Crit. Rev. Biochem. 16: 349-79; Keown et al. (1990) Methods Enzymol. 185: 527により概説)。最も広く用いられている実験室的な非ウイルストランスフェクション技術はおそらく、エレクトロポレーション、およびカチオン性脂質をベースとする配合物の使用であり、多数の市販製品を入手できる。
【0004】
トランスフェクションの目的が、遺伝子材料を導入し、次いでそれを転写および翻訳することである場合には、適切な細胞タイプにおける遺伝子発現に適応させたいわゆる発現ベクターを使用する。多くの目的のために、真核細胞、しばしば哺乳動物細胞が、適切に設計された真核細胞発現ベクターと共に用いられる。一般にこれらには転写制御配列(プロモーター配列およびエンハンサー配列)が付与され、これらは発現を仲介する。適応には、選択マーカーおよび自律複製配列の付与も含まれ、これらは両方とも宿主細胞におけるベクターの維持を容易にする。自律維持されるベクターはエピソームベクターと呼ばれ、それらは自己複製するため組み込む必要なしに持続するので有用である。
【0005】
ベクターがコードする遺伝子の発現を容易にする適応には、転写終止/ポリアデニル化配列の付与も含まれる。これには、内部リボソーム進入部位(internal ribosome entry site)(IRES)の付与も含まれる;これは、ベクターがコードするバイシストロンまたはマルチ−シストロン発現カセット内に配置された遺伝子の発現を最大にする機能をもつ。大量の細胞を高い効率でトランスフェクションする必要がある特殊な用途、または臨床的遺伝子療法用途には、改変したウイルス、たとえばアデノウイルスまたはレンチウイルスに基づくウイルスベクターがしばしば用いられる。しかし、多くの目的にとって、ウイルスベクターはそれらの製造および使用の両方に際して不必要な複雑さおよび安全性の問題を持ち込み、かつクローニング能力が限定される。
【0006】
これらの技術およびベクターは当技術分野で周知である。発現ベクターの構築および組換えDNA技術全般に関して著しい量の文献が公開されている。Sambrook et al (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, Cold Spring Harbour, NYおよびそれに含まれる参考文献; Marston, F (1987) DNA Cloning Techniques: A Practical Approach Vol III IRL Press, Oxford UK; DNA Cloning: F M Ausubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)を参照されたい。重要性が増しているのは、他の核酸、特に転写を標的干渉するための二本鎖iRNA 10分子、DNAまたはRNAアプタマー、およびリボザイムのトランスフェクションである(An, Cl et al. (2006) RNA 12(5): 710-716; Barrandon, C et al., (2008) Biol Cell. 100(2): 83-95; Nguyen, T et al. (2008) Curr Opin Mol Ther. 10(2): 158-167; Pan W and GA Clawson (2008) Expert Opin Biol Ther. 8(8): 1071-1085)。さらに、他の高分子、たとえばポリペプチドを同様な方法で、核酸と組み合わせて、または単独で、導入することができる。
【0007】
しかし、既知の非ウイルス技術には著しい欠点がある:たとえば(i)初代細胞およびある細胞系においてトランスフェクションのレベルが低いこと、(ii)それらは組織外植体を効果的にトランスフェクションできないこと、(iii)細胞の生存性に対する有害な作用があること(主にエレクトロポレーションについて)、ならびに(iv)インビボ(臨床)用途への移行が難しいこと。したがって、これらの障害を克服しうる非ウイルストランスフェクション技術が求められている。
【0008】
インビトロおよびインビボ両方におけるトランスフェクションの効率を改善するために開発された、より最近の物理的方法のひとつは、磁性ナノ粒子の使用である(Mah et al. (2000) Molecular Therapy 1(5): S239; Mah et al (2002) Molecular Therapy 6: 106-112; Scherer et al, 2002, Gene Therapy 9:102; 国際特許出願WO 02/00870)。この技術は、DNAその他の核酸を、キャリヤーとして用いる生体適合性磁性ナノ粒子に結合させることを伴う。次いでこの遺伝子/粒子複合体を、標的部位に集束させるかまたは培養皿の下方に配置した高勾配希土類(通常はNdFeB)磁石により、細胞にターゲティングする。これらの磁石は、それらの高い磁界の強さ/勾配発生のため粒子に並進力を及ぼし、これが効果的に粒子を“引寄せて(pull)”細胞と接触させる(Dobson (2006) Gene Therapy 13: 283-287)。
【0009】
そのような系は、それぞれその隣とほとんど相互作用しない磁界を発生する小さな円筒形またはディスク状の磁石のアレイを用いる。これらのアレイを、トランスフェクションすべき細胞を入れた受け器、しばしば標準的な96ウェルもしくは24ウェルのプレートまたは一般的な培養フラスコの下方に配置する。これは、発生させうる磁界の勾配および強さにある程度の制限があること、ならびに磁性ナノ粒子および細胞が受ける力はウェルまたはフラスコ内のそれらの位置に応じて著しく変動する可能性があることを意味する。
【0010】
トランスフェクションのためにパルス磁界を使用することが国際特許出願US patent 5,753,477に開示され、運動している磁石により発生する振動磁界を使用することが国際特許出願WO 2006/111770により教示される。
【0011】
国際特許出願WO 2007/018562には、生体分子、たとえばDNAを、付与した磁力により細胞内へ送達するために、特殊な構造をもつ長い磁性ナノ構造体を使用することが開示されている。
【0012】
ハルバッハアレイ(Halbach array)は、図1に示すように隣接する個々の磁石がそれらの極の特殊な配向シーケンスで配列されたものであり、これによりアレイの一方側では磁界に対する相加作用が生じ、これに対し他方側の磁界は効果的に相殺される。正味作用は、効果的に片側磁束をもつアレイとなる(Mallinson, 1973, IEEE Transactions on Magnetics 9: 678; K. Halbach, 1981, Nucl. Inst. and Methods 187. pp.109-117)。発生した磁界は、一般的なアレイにより得られるもののほぼ2倍の強さであるだけでなく、高度に封じ込められており、高い磁界勾配を生じる。このアレイに曝露された磁気感受性粒子に対する極度の力を生じるのは、この強力な磁界と高い勾配の組合わせである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO 02/00870
【特許文献2】US patent 5,753,477
【特許文献3】WO 2006/111770
【特許文献4】WO 2007/018562
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kucherlapati and Skoultchi (1984) Crit. Rev. Biochem. 16: 349-79
【非特許文献2】Keown et al. (1990) Methods Enzymol. 185: 527
【非特許文献3】Sambrook et al (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, Cold Spring Harbour, NY
【非特許文献4】Marston, F (1987) DNA Cloning Techniques: A Practical Approach Vol III IRL Press, Oxford UK; DNA Cloning
【非特許文献5】F M Ausubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)
【非特許文献6】An, Cl et al. (2006) RNA 12(5): 710-716
【非特許文献7】Barrandon, C et al., (2008) Biol Cell. 100(2): 83-95
【非特許文献8】Nguyen, T et al. (2008) Curr Opin Mol Ther. 10(2): 158-167
【非特許文献9】Pan W and GA Clawson (2008) Expert Opin Biol Ther. 8(8): 1071-1085
【非特許文献10】Mah et al. (2000) Molecular Therapy 1(5): S239
【非特許文献11】Mah et al (2002) Molecular Therapy 6: 106-112
【非特許文献12】Scherer et al, 2002, Gene Therapy 9:102
【非特許文献13】Dobson (2006) Gene Therapy 13: 283-287
【非特許文献14】Mallinson, 1973, IEEE Transactions on Magnetics 9: 678
【非特許文献15】K. Halbach, 1981, Nucl. Inst. and Methods 187. pp.109-117
【発明の概要】
【0015】
本発明は、高勾配磁界を用いて細胞への試薬の送達その他の用途に対する著しく改善された性能を得ることができる方法および装置を開示する。このデバイスはハルバッハアレイ(たとえば図1)を含み、これは、試薬、たとえばDNA、RNAまたはその他の核酸に結合した磁気感受性粒子を細胞上へ加速するように構成された永久磁石のアレイであってもよい。このデバイスおよび方法は、一本鎖および二本鎖DNAまたはRNA(iRNAを含む)のほか、多様な他の分子および部分のいずれも、それらを適切な磁気感受性粒子に結合させることにより細胞内へ挿入するために、同等に使用できる。そのような分子には、非コード核酸、たとえばリボザイム、および核酸をベースとするアプタマー、ペプチドおよびタンパク質(特異的な細胞内標的を結合しうるものを含む)、修飾したペプチドおよびタンパク質、または化学的もしくは医薬的な作用を及ぼす分子が含まれる。場合によりそのような分子または部分を、可逆的に、または解離しうる状態で、磁気感受性粒子に結合させる。
【0016】
本発明は、ハルバッハアレイ上方の磁界は均一ではない(図4aを参照)という所見にも基づく。ハルバッハアレイ上方の磁界は、隣接する周囲領域より磁束密度および/または勾配が有意に高い帯域をもつ。本発明は、この磁界をマッピングするための方法、および細胞をこの帯域に配置するための装置を作製する方法を提供することにより、当業者が磁気感受性粒子を高い効率で細胞内へ送達するのを可能にする。
【0017】
1観点において本発明は、試薬を細胞内へ送達する方法であって、少なくとも1つの細胞、および試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を、磁気感受性粒子が細胞へ牽引されて(attracted)細胞と接触するようにハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法を提供する。
【0018】
ある態様において、この方法は、好ましくはさらに磁界を振動させる工程を含む。振動の方向は、磁気感受性粒子がハルバッハアレイへ牽引される方向に対して実質的に直角であってもよい。ある態様において、磁界の振動はハルバッハアレイに振動運動を付与することにより達成される。
【0019】
細胞(1以上)および磁気感受性粒子(1以上)は、好ましくは支持体上に形成された1つまたは複数の個別アドレスに配置される。この方法は、それらの個別アドレスのうち少なくとも1つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合させることを含むことができる。より好ましくは、この方法は、それらの個別アドレスのうち少なくとも2つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の1以上の帯域内に整合させることを含む。この整合により、個別アドレスをそれぞれ数個の帯域と整合させることができる。各アドレスが普通は1つの帯域と整合するにすぎないであろうが、各帯域を1つのアドレスと、または2以上(たとえば数個)のアドレスと整合させることができる。
【0020】
したがって、本発明は、試薬を細胞内へ送達する方法であって、(i)試薬を含む磁気感受性粒子を用意し;(ii)粒子に磁力を及ぼすためのハルバッハアレイを用意し;そして(iii)磁力が粒子を細胞へ向けて推進する(urge)ように粒子および細胞をアレイの磁力場内に配置する工程をもつ方法を提供する。
【0021】
工程(ii)は、場合によりアレイの磁力場内の最高磁束密度および/または勾配の1以上の帯域を判定することを伴うことができ;工程(iii)は、場合により細胞を最高磁束密度および/または勾配の帯域のうちのひとつに配置することを伴うことができる。
【0022】
試薬は、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、RNAi、siRNA、アプタマー、目的遺伝子をコードするDNA、核酸発現構築体、アミノ酸、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、scFv、医薬、炭水化物、脂肪酸または低分子からなる群から選択することができる。試薬は療法薬であってもよい。ある態様において、試薬は核酸であり、この方法により標的細胞の遺伝子形質転換(トランスフェクション)が行なわれる。
【0023】
ある態様において、この方法はインビトロで実施される。他のある態様において、細胞は動物の体内に存在する細胞である。
本発明の他の観点においては、試薬を細胞内へ送達するための装置であって、
i)磁石のハルバッハアレイ;および
ii)細胞をハルバッハアレイの磁界に配置するための支持体
を含む装置が提供される。
【0024】
ある好ましい態様において、装置はさらにハルバッハアレイの磁界を振動させるための手段を含む。
使用する際に、この装置はさらに、支持体の表面に配置された少なくとも1つの細胞、および該細胞と接触しうるように支持体に付与された、試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を含むことができ、その際、ハルバッハアレイの磁界は磁気感受性粒子(1以上)を該表面の方へ牽引するように構成されている。
【0025】
1つまたは複数の個別アドレスを支持体上に設けることができ(方法について前記に述べたと同様に)、粒子に対する力を最大にするために、支持体およびハルバッハアレイは装置内でそれらの個別アドレスのうち少なくとも1つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合させるように相互に構成されている。場合により、それらの個別アドレスのうち少なくとも2つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の1以上の帯域内に整合させる。整合により、個別アドレスをそれぞれ数個の帯域と整合させることができる。各アドレスは普通は1つの帯域と整合するにすぎないであろうが、各帯域を1つのアドレスと、または2以上(たとえば数個)のアドレスと整合させることができる。細胞および粒子を好ましくは個別アドレスのそれぞれに配置する。ある好ましい態様において、支持体はマルチウェルプレートであり、個別アドレスはプレートの選択された個々のウェルにより形成されている。
【0026】
本発明のさらに他の観点においては、試薬を細胞内へ磁気により送達するための装置を製造する方法が提供され、装置はハルバッハアレイおよび細胞をハルバッハアレイの磁界に配置するための支持体を備えており、該方法は
(a)ハルバッハアレイを用意し;
(b)ハルバッハアレイの磁界の磁束密度および/または勾配をマッピングし;
(c)支持体を装置内に組み立てた際にハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合するように空間的に構成された1つまたは複数の個別アドレスを有する細胞支持体を用意し;
(d)ハルバッハアレイおよび支持体を組み立てて、試薬を細胞内へ磁気により送達するための装置を得る
ことを含む。
【0027】
本発明の他の観点においては、処置方法に使用するための試薬に付着した磁気感受性粒子が提供され、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む。
【0028】
本発明のさらに他の観点においては、疾患の処置のための医薬の製造における、試薬に付着した磁気感受性粒子の使用が提供され、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む。
【0029】
本発明のさらに他の観点においては、処置を必要とするヒトまたは動物を処置する方法であって、試薬を動物またはヒト対象の細胞内へ送達することを含み、
(i)試薬に付着した磁気感受性粒子を、処置を必要とする対象の組織に投与し;そして
(ii)磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように、組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置する
工程を含む。
【0030】
療法用途および処置方法のある態様において、処置はさらに磁界を振動させる工程を含む。療法用途および処置方法はさらに、粒子(1以上)に付与される力を最大にするために、組織をハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域のうち少なくとも1つと整合させる工程を含むことができる。たとえばこの処置は、対象をハルバッハアレイに対して固定化し、かつ目的とする組織の少なくとも一部をハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域のうちの少なくとも1つと整合させるように対象を整合させる工程を含むことができる。
【0031】
本発明のこれらおよび他の観点をより詳細に以下に記載する。
以下の図面および実施例を参照して本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】A:ハルバッハアレイにおける磁石の配列の例;B:このアレイにより発生する‘片側磁束’の図示;C:ハルバッハアレイからの磁束パターンの例。この異例の磁束トラッピングの結果、上面に高い勾配が生じる。
【図2】他の作用と比較したハルバッハシステムのトランスフェクション効率(ルシフェラーゼ蛍光に基づく)。ルシフェラーゼの発現レベル(RLUで表示)を下記のものについて示す:対照(“対照”DNAなし);DNAのみを添加した細胞(“DNA”);Lipofectamine2000(商標)でトランスフェクションした細胞(“LF2000”);Polymag(登録商標)プラスDNAで、ただし磁界を付与せずにトランスフェクションした細胞(“PM”);Polymag(登録商標)プラスDNAで、標準的な静止NdFeB磁石を用いてトランスフェクションした細胞(“静止”);およびPolymag(登録商標)プラスDNAで、ハルバッハアレイを用いてトランスフェクションした細胞(“ハルバッハ”)。
【図3】pCIKLuxルシフェラーゼレポーター構築体で、OzBiosciences Polymag(登録商標)粒子を用いて“標準”アレイおよびハルバッハアレイにより、ならびに裸のDNA対照によりトランスフェクションした、NCI−H292ヒト肺上皮細胞におけるルシフェラーゼ活性。トランスフェクションは、96ウェル組織培養プレート内で0.1μgのDNA/ウェルを用いて2時間のトランスフェクション時間で実施された。
【図4】(a)ハルバッハトランスフェクションアレイのアレイ表面上方3mm(細胞トランスフェクションの高さ)のx−y平面における磁束変動。(b)ルシフェラーゼ蛍光により評価した、x−軸に沿ったトランスフェクション効率の平均変動(各点につきy−軸においてN=4ウェル)。
【図5】96ウェルプレート内のすべてのトランスフェクションしたウェルについての、ハルバッハアレイに対するx−y平面における、蛍光強度−対−位置。z位置はハルバッハアレイの上方3mmである。
【図6】静止磁石アレイまたは振動磁石アレイのいずれかでトランスフェクションしたHEK293 T細胞におけるルシフェラーゼ活性を比較したヒストグラム。両例とも、pCIKLuxルシフェラーゼレポーターでコーティングした150nmの磁性ナノ粒子を用いた。
【図7】pCIKLuxルシフェラーゼレポーター構築体でコーティングしたOzBiosciences Polymag(登録商標)でトランスフェクションしたNCI−H292ヒト肺上皮細胞における、静止磁界および振動磁界に応答したルシフェラーゼ活性を示すヒストグラム。すべてのトランスフェクションを96ウェル組織培養プレート内で0.1μgのDNA/ウェルを用いて実施した。Genejuice(GJ)およびLipofectamine 2000(LF2000)トランスフェクションは、製造業者が推奨するプロトコルに従って実施された。データを平均±SEMとして示す(すべてのグループにつきn=6)。磁石直径=6mm。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、試薬を含む磁気感受性粒子を細胞内へ送達するために、粒子を細胞と接触させて配置するための磁界の使用に関する。これは、細胞を磁気感受性粒子と磁界供給源の間に配置することにより達成できる。この配列により粒子は磁界供給源の方へ引張られ(drawn)、これにより細胞と接触する。したがって本発明は、試薬を細胞内へ送達するための方法であって、i)細胞、および試薬を含む磁気感受性粒子を用意し;そしてii)粒子が細胞の方へ引張られて細胞と接触するように磁界を付与する工程を含む方法を提供する。
【0034】
本発明のある観点(ただし、すべてではない)は、磁気感受性粒子(1以上)を細胞(1以上)内へ送達するための振動磁界の使用にも関する。振動磁界の使用により、磁気感受性粒子が細胞内へ送達される効率が増大することが観察された。本発明は理論により拘束または制限されることはないが、効率の増大は、細胞の表面を通って磁気感受性粒子を反復移動させる振動磁界によるもの、すなわち細胞のエンドサイトーシスプロセスによる粒子取込みを促進すると考えられるプロセスによるものであると思われる。したがって本発明はさらに、試薬を細胞内へ送達するための方法であって、i)細胞、および試薬を含む磁気感受性粒子を用意し;そしてii)粒子が細胞の方へ引張られて細胞と接触するように磁界を付与する工程を含み;さらにiii)磁界を振動させる工程を含む方法を提供する。
【0035】
1観点において、磁界は静止していてもよく、振動していてもよく、あるいは静止モードと振動モードの間で変動してもよい。磁気感受性粒子は静止磁界または振動磁界のいずれかの供給源の方へ引張られるであろう。したがって、静止磁界または振動磁界を用いて粒子を細胞と接触した状態にすることができる。続いて、ある態様においては、細胞の表面を通って粒子を移動させるために、磁界を振動させ続け、または振動させ始めてもよい。
【0036】
磁界を振動させる回数および幅は、粒子が細胞内へ送達される効率に影響を及ぼす。3kHzを超える、または5kHzを超える、たとえば10kHzを超えるような高い振動数では、粒子はヒステリシスおよび渦電流効果のため実質的に加熱作用を受けるであろう。そのような粒子加熱は、粒子が接触するいずれかの細胞に対して有害な可能性がある。したがって、振動数は適切な範囲内、たとえば最高(すなわち、それを超えない)3kHz、または最高1kHz、または最高100Hz、たとえば最高10Hz、または最高2Hzに維持すべきである。1観点において、磁界は0から100Hzまで、たとえば1mHzから10Hzまで、または500mHzから5Hzまで、たとえば1Hzから3Hzまで、または2Hzの振動数で振動する。
【0037】
磁界振動の振幅は、磁界内での勾配が磁気感受性粒子を通り越して移動する程度に影響を及ぼし、したがって粒子に作用する力に影響を及ぼす。1態様において、振幅は0から5000μmまで、たとえば10μmから2000μmまで、または20μmから1000μmまで、たとえば50μmから500μmまで、または100μmから300μmまでである。振幅は200μmであってもよい。他の態様において、振幅は最高(すなわち、それを超えない)5000μm、たとえば最高2000μm、または最高1000μm、たとえば最高500μm、または最高200μmである。
【0038】
本発明者らは、磁気感受性粒子が細胞内へ送達される効率は磁界の磁束密度および/または勾配の増大に伴って増大すると考える。より高い磁束密度および/または勾配をもつ磁界はより大きな磁力を磁気感受性粒子に及ぼし、粒子に対するこのより大きな磁力が粒子を細胞内へ送達する効率を高めると考えられる。したがって、本発明に使用するためには、高い磁束密度および/または勾配をもつ磁界を発生する磁界供給源が望ましい。そのような磁界は、1以上の強く磁化した永久磁石(たとえばアレイまたは磁石)により、あるいは、多数のコイル巻数をもつ、および/または高い電流を伝える、1以上の電磁石により、発生させることができる。
【0039】
永久磁石の強さは、それらの構成要素の物理的特性およびそれらのサイズにより制限される。電磁石の強さは、高い巻数のコイルまたは多量の電流を伝えるコイルの加熱作用により制限される。これらの問題はきわめて低い抵抗の導電材料を用いることにより軽減できるが、そのような材料は高価である可能性および/または冷却が必要な可能性がある。
【0040】
強力な永久磁石が必要な場合、それらの質量に対比してきわめて高い磁束密度および勾配をもつ希土類元素磁石、たとえばNdFeB磁石を用いるのが一般的である。一定のサイズについて、達成しうる最大磁束密度および/または勾配は磁石の物理的特性により制限される。
【0041】
特定のタイプの永久磁石が発生する最大磁束密度および/または勾配は、個々の双極磁石をハルバッハアレイとして知られるアレイ状に配列させることによって増大させることができる。これらのハルバッハアレイは、アレイの一方側で減弱し、アレイの反対側で増強する磁界を発生する。この様式で、アレイの増強側の磁束密度および/または勾配は、一般的な非ハルバッハアレイよりはるかに高くなる可能性がある(たとえば、増強側により発生する磁界は一般的アレイにより発生する磁界の強さの約2倍になる可能性がある)。個々の双極電磁石も、ハルバッハアレイ状に配列させて増強した‘片側’磁界を発生させることができる。したがって本発明は、試薬を細胞内へ送達するための、いずれかのタイプのハルバッハアレイの使用に関する。よって本発明は、試薬を細胞内へ送達するための方法であって、i)細胞、および試薬を含む磁気感受性粒子を用意し;そしてii)粒子が細胞の方へ引張られて細胞と接触するように磁界を付与する工程を含む方法を提供する;その際、磁界はハルバッハアレイにより発生する。さらに他の観点においては、ハルバッハアレイにより発生する磁界を振動させることができる。
【0042】
ハルバッハアレイにより発生する磁束密度および/または勾配は、均一ではない可能性がある。たとえば、平面状ハルバッハアレイの上方の磁界はx軸およびy軸の両方において変動する(図4aを参照)。ハルバッハアレイにより発生する磁界の変動により、その磁界の異なる領域に位置する細胞内へ粒子を送達する効率が変動する可能性がある。細胞内へ粒子を送達する効率は、最高磁束密度および/または勾配の帯域で最高であることが観察された。本発明は、これらの最高磁束密度および/または勾配の帯域を確認して細胞をそれらの帯域内に配置することに関する。したがって本発明は、試薬を細胞内へ送達する方法であって、少なくとも1つの細胞、および試薬を含む少なくとも1つの磁気感受性粒子を用意し、そして粒子が細胞の方へ引張られて細胞と接触するように磁界を付与し、その際、細胞および磁気感受性粒子を最高磁束密度および/または勾配の帯域内に配置することを含む方法を提供する。1観点においては、ハルバッハアレイにより発生する磁界を振動させることができる。この振動は、最高磁束密度および/または勾配の帯域の位置が振動するようなものであってよい。
【0043】
1観点においては、ハルバッハアレイの位置を平面のx軸またはy軸のいずれかにおいて、あるいは両軸に沿って、最高磁束密度および/または勾配の帯域の位置が元の位置から移行するように移行させることができる。最高24時間、たとえば最高2時間、または最高1時間、または最高30分、たとえば最高20分の期間、ハルバッハアレイをこの新たな位置に静止させておくことができる。次いで、最高磁束密度および/または勾配の帯域が希望する領域の大部分(たとえば希望する領域の50%より多く、たとえば希望する領域の60%より多く、または70%より多く、または80%より多く)を横切るように、希望に応じてハルバッハアレイの運動を反復することができる。希望する領域は細胞を配置するための支持体(たとえばマルチウェルプレートの領域)であってもよい。磁界を振動させる観点においては、最高磁束密度および/または勾配の帯域それぞれの振動中心を、振動の中心が希望する領域の大部分を横切るように、前記に従って移行させることができる。
【0044】
磁界供給源の周囲の磁界を磁力計によりマッピングすることができる。磁界のマッピングに従って、細胞を最高磁束密度および/または勾配の帯域内に支持するために支持体を用意することができる。1観点において、支持体は複数の個別アドレスを形成しており、その際、それらのアドレスは最高磁束密度および/または勾配の帯域と一致する。したがって本発明は、最高磁束密度および/または勾配の帯域と一致する1つまたは複数の個別アドレスに細胞および磁気感受性粒子を配置する方法を提供する。
【0045】
本発明方法はインビトロまたはインビボで使用できる。用語“インビトロ”は培養状態の細胞についての実験を含むものとし、一方、用語“インビボ”は無傷の多細胞生物についての実験を含むものとする。
【0046】
インビボ態様に関して、本発明は、疾患の処置のための医薬の製造における、試薬に付着した磁気感受性粒子の使用を提供し、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む。
【0047】
本発明は、処置方法に使用するための試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子をも提供し、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む。この処置は、粒子に付与される力を最大にするために、組織の細胞をハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域のうちの1つまたは数個と整合させることをも含むことができる。たとえばこの処置は、対象をハルバッハアレイに対して固定化し、かつ目的とする組織の少なくとも一部をハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域のうちの少なくとも1つと整合させるように対象を整合させる工程を含むことができる。
【0048】
本発明は、処置を必要とするヒトまたは動物を処置する方法であって、試薬を動物またはヒト対象の細胞内へ送達することを含み、
(i)試薬に付着した磁気感受性粒子を、処置を必要とする対象の組織に投与し;そして
(ii)磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように、組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置する
工程を含む方法をも提供する。
【0049】
この処置方法はさらに、本明細書に記載するように磁界を振動させることを含むことができる。
本発明は、広範な疾患および状態の処置に使用できる。処置は、療法薬を標的細胞(1以上)に送達することにより実施できる。広範な療法薬(たとえば核酸、ペプチド、タンパク質、抗体および抗体フラグメント、ならびに低分子薬物)を磁気感受性粒子に付着させることができる。処置は、遺伝子療法、すなわち遺伝子をコードする核酸による細胞のトランスフェクションを伴うことができる。
【0050】
処置される対象は、いずれかの動物またはヒトであってよい。対象は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。対象はヒト以外の哺乳動物であってもよいが、より好ましくはヒトである。対象は雄または雌であってよい。対象は患者であってもよい。
【0051】
本発明は、試薬を細胞内へ送達するための装置であって、i)磁石のハルバッハアレイ;およびii)細胞をハルバッハアレイの磁界に配置するための支持体を含む装置をも提供する。1観点において、この装置はさらにハルバッハアレイを振動させる手段を含む。
【0052】
他の観点において、装置はさらに、支持体の表面に配置された少なくとも1つの細胞、および該細胞と接触しうるように支持体に付与された少なくとも1つの磁気感受性粒子を含み、その際、ハルバッハアレイの磁界は磁気感受性粒子を該表面の方へ牽引するように構成されている。
【0053】
さらに他の観点において、支持体は複数の個別アドレスをもち、それらのアドレスはアレイの磁界内の最高磁束密度の帯域と一致する。好ましくは、各アドレスは、試薬を送達すべき少なくとも1つの細胞を保持および支持するように、かつ磁気感受性粒子が細胞と接触しうるように、構成される。たとえば、アドレスはマルチウェルプレートのウェル、または細胞付着に適切な基体を提供する支持体領域、たとえば細胞の付着および/または培養を可能にするように処理された領域であってもよい。
【0054】
さらに他の観点において、装置はマルチウェルプレートを含む支持体を含み、このプレートは、装置内でハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合するように構成された1つまたは複数のウェル(好ましくは数個、たとえば2以上、5以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、場合により100未満、または場合により400未満)を備えている。関連の観点において、装置は、整合したウェル内に保持された細胞および/または磁気感受性粒子を含むことができる。
【0055】
本発明の他の観点においては、試薬を細胞内へ磁気により送達するのに適切な装置を加工および/または製造する方法が提供され、そのような装置は本明細書に記載する装置および方法に従うものであり、製造方法は、(a)ハルバッハアレイを用意し;(b)ハルバッハアレイの磁界の磁束密度および/または勾配をマッピングし;(c)支持体を装置内に組み立てた際にハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合するように空間的に構成された1つまたは複数の個別アドレスを有する細胞支持体を作製し;(d)ハルバッハアレイおよび支持体を組み立てて、試薬を細胞内へ磁気により送達するのに適切な装置を得ることを含む。
【0056】
マッピング工程(b)から得られる情報を用いて、装置内に組み立てた際に支持体がハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域に配置されたアドレスをもつように細胞支持体を設計することが好ましい。
【0057】
支持体上のアドレスの空間的構成には支持体の表面の三次元構造(x、yおよびz軸における位置)の考慮を含めることができ、そのような表面は場合により細胞付着のための位置を提供する(たとえば細胞培養基体)。したがってこの方法は、ハルバッハアレイの三次元磁束密度および/または磁界勾配をモデリングし、そしてハルバッハアレイから予定の距離に配置した際にハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域に配置される1つまたは複数の個別の細胞培養基体アドレスをもつ支持体を設計する工程を含むこともできる。
【0058】
ハルバッハアレイは、細胞を入れた受け器、特に一般的な実験器具、たとえば6−、24−、96−、192−または384−ウェルプレート、組織培養用のフラスコまたは皿をトランスフェクションすべき位置および細胞タイプに適切な配向で支持することができるように、好都合なスタンドまたはベースに組み込むことができる。ウェルまたはフラスコの底で増殖している接着性細胞について、これは、容器が置かれた本質的に平坦なベース(場合により、プレートまたはフラスコをより確実に保持するように付形した1以上の窪みを備えたもの)にアレイを組み込むことにより達成できる。他の配列、たとえば標準的なサイズの‘エッペンドルフ’型チューブを受けるように設計された穴を含むベースも可能である。ベースまたはスタンドの本体は、いずれか適切な材料、たとえばポリマーまたはプラスチック材料で作製した、非磁性ブロックの形をとることが好都合である。
【0059】
細胞をフラスコまたはマルチウェルプレート内で適切な培地中において培養し、次いでこれをアレイに乗せる。その前または後に、DNAまたはその他の試薬を保有する磁性ナノ粒子を培養物に導入すると、高勾配の磁界が粒子/試薬複合体の沈降を増大させ、それを急速に引張って細胞と接触させる。このタイプのアレイは、市販の一般的なデバイスと比較して、粒子に対して得られる磁界勾配および力を最高25倍増大させ、増大した力はトランスフェクションの時間および効率を共に著しく改善する。
【0060】
本発明は、細胞を磁気トランスフェクションする際に使用するためのデバイスであって、磁石を含み、かつそれらの磁石がハルバッハアレイ状に配列されていることを特徴とするデバイスをも提供する。
【0061】
それらの磁石をベースに収容することができ、これは細胞を入れた受け器を支持することができ、かつ細胞を入れた受け器を受容しうる窪みを備えた本質的に平坦な支持表面を含むことができる。
【0062】
1態様において、ベースは磁石を含む非磁性ブロックを含む。このブロックは、たとえばポリマーもしくはプラスチック材料または非磁性金属(たとえばアルミニウム)のブロックであってもよい。
【0063】
磁石は永久磁石、たとえば希土類磁石、たとえばネオジム−鉄−ホウ素(NdFeB)永久磁石であってもよい。1観点において、アレイは近接表面(これは、使用に際して、細胞を入れた受け器に最も近いかまたは接触した表面を意味する)から1cmにおいて測定して10mT以上、たとえば100mT以上の磁界の強さを付与する。他の観点において、それは130mT以上である。
【0064】
他の観点において、本発明は前記のデバイスを細胞を入れるのに適切な受け器と共に含む装置を提供する。前記に述べたこの受け器は、一般的なマルチウェルプレート、たとえば6−ウェル、12−ウェル、24−ウェル、96−ウェル、192−ウェルまたは384−ウェルプレートであってもよい。あるいは、それは組織培養用のフラスコまたは皿、たとえば標準的な直径35mmの皿またはペトリ皿である。この装置は、使用に際し、細胞表面において測定して10mTを超える、たとえば100mTを超える、または200mTを超える、または300mTを超える、たとえば400mTを超える強さの磁界を細胞に送達することができる。
【0065】
さらに他の観点において、本発明は、細胞をトランスフェクションする方法であって、1以上の核酸またはポリペプチド分子に結合した磁気感受性粒子に細胞を曝露し、そして細胞をハルバッハアレイにより発生する磁界内に配置することを含む方法を提供する。細胞が曝露される磁界の強さは、10mT以上、たとえば100mT以上、たとえば130mTを超え、または300mT以上、たとえば400mT以上であってもよい。
【0066】
さらに他の観点において、本発明は、前記のデバイスまたは装置を、トランスフェクションのための分子または部分、好ましくは核酸またはポリペプチド分子に結合しうる磁気感受性粒子と共に含む、キットを提供する。場合により、そのようなキットは結合試薬、緩衝剤、および対照試薬を含むことができる。
【0067】
試薬
本明細書中で用いる‘試薬’は、細胞内で目的とする機能を果たす薬剤を表わす。試薬は、細胞の特定のプロセスまたは構造のマーカーとして機能することができ、または細胞のプロセスまたは機能を調節することができる。1観点において、試薬は細胞の標的分子に特異的に結合することができる。たとえば、試薬は、細胞プロセス、たとえばタンパク質またはDNAの合成、タンパク質の輸送、呼吸または特定の代謝経路の阻害薬または賦活薬であってもよい。
【0068】
試薬はいずれかの医薬化合物、生物源に由来する分子、または人工的に合成した分子であってもよい。1観点において、試薬はヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、たとえばDNA、RNA、干渉性RNA(たとえばRNAiまたはsiRNA)、ヌクレオチド類似体、ポリヌクレオチド類似体、またはアプタマーを含むことができる。他の観点において、試薬はアミノ酸またはペプチド、たとえばポリペプチド、アミノ酸類似体、ペプチド模倣体、抗体、抗体フラグメント(たとえば一本鎖抗体)、またはscFvを含むことができる。他の観点において、試薬は有機化合物または無機化合物、たとえばヘテロ有機化合物(heterorganic compound)もしくは有機金属化合物、または化合物の塩、エステルもしくは他の医薬的に許容できる形態であってもよい。一般に、そのような化合物は最高10,000グラム/モル(g/mol)、たとえば最高500g/mol、たとえば最高1000g/mol、または最高500g/molの分子量をもつであろう。さらに他の観点において、試薬は疾患、疾病状態または臨床的障害の診断、予防または治療に有用な活性をもつことができる療法薬であってもよい。
【0069】
本発明の1観点においては、試薬をトランスフェクション法、すなわち外来物質を細胞内へ導入する方法に使用する。1観点において、試薬は核酸または核酸類似体、たとえばDNAまたはRNAである。核酸または核酸類似体は、疾病状態に関係するタンパク質または機能性タンパク質フラグメントをコードすることができる。あるいは、それらのタンパク質または機能性タンパク質フラグメントを細胞に直接トランスフェクションすることができる。他の観点においては、それらのタンパク質または機能性タンパク質フラグメントが細胞に存在しないことまたは欠乏することが疾病状態に関与する(たとえば嚢胞性線維症CFTR−1膜タンパク質)。
【0070】
ある態様において、試薬は遺伝子をコードする核酸であって、好ましくは制御配列(たとえばプロモーター)、および場合により他の制御配列、たとえばエンハンサーおよび/またはポリA配列に作動可能な状態で連結して、遺伝子療法用途に有用な発現構築体を提供する。たとえば、遺伝子は、哺乳動物(たとえばヒト)プロモーターに作動可能な状態で連結した野生型CFTR−1膜タンパク質であってもよい。そのような構築体は、遺伝子療法による嚢胞性線維症の処置に有用な可能性がある。後記の例により示すように、本発明の方法および装置を用いてヒト肺上皮細胞をトランスフェクションすることができる。
【0071】
細胞
本明細書中で用いる‘細胞’は、試薬を内部へ送達することが望まれる細胞を表わすために用いる用語である。それを標的細胞と呼ぶことができる。細胞はいずれかの細胞、たとえば細菌、原生動物、真菌、植物または動物の細胞であってよい。1観点において、細胞は哺乳動物細胞、たとえば肺細胞、腎細胞、神経細胞、間葉細胞、筋細胞、肝細胞、赤血球、白血球、膵細胞、上皮細胞、内皮細胞、骨細胞、皮膚細胞、胃腸細胞、膀胱細胞、子宮細胞、内分泌細胞、前立腺細胞、幹細胞、培養系細胞、または腫瘍細胞であってもよい。細胞は、ヒト以外の哺乳動物、たとえばウサギ、モルモット、ラット、マウス、または他のげっ歯類(げっ歯目(Rodentia)のいずれかの動物に由来する細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒト以外の霊長類、またはヒト以外の他の脊椎動物の細胞であってもよい。あるいは、細胞はヒト細胞であってもよい。インビトロ法は、培養細胞を伴うことができる。インビボ法は、ヒトまたは動物の体内に存在する細胞を伴うことができる。
【0072】
細胞は、他の細胞を伴わない単離した細胞であってもよく、あるいは組織または臓器の一部を形成していてもよい。細胞はインビトロまたはインビボのいずれにあってもよい。1観点において、細胞は、接着性細胞層、たとえば一般に細胞培養フラスコの底面で増殖した細胞層の一部を形成する。
【0073】
混合物
試薬および細胞を、それらが互いに接触しうるように供給することができる。そのような配列を、一般に細胞および試薬を含有する混合物と表記する。細胞および試薬を両方とも、溶液中、たとえば培地中に、懸濁して供給することができる。ある態様においては、細胞を支持体に付着させる。そのような状況では、試薬は細胞を浸漬する液体または流体(たとえば培地)中に含有させることができる。
【0074】
磁気感受性粒子
磁気感受性粒子には、磁気感受性粒子(magnetically susceptible particle)、磁化性粒子(magnetisable particle)、あるいは磁界により操作(たとえば移動)および/または配置しうる粒子を含めることができる。磁気感受性粒子は、非磁性であるけれども磁界による操作または配置に対して感受性であってもよく、あるいは磁性(たとえば磁力線の供給源)であってもよい。
【0075】
一般に粒子は、細胞に損傷を与えることなく試薬を細胞内へ送達するのに適切なサイズのものである。1観点において、粒子は10μm〜5nm、たとえば1μm〜10nm、たとえば200nm〜100nmの平均サイズをもつ。他の観点において、磁気感受性粒子は球状ビーズであってもよく、少なくとも約0.05ミクロン、少なくとも約1ミクロン、少なくとも約2.5ミクロン、および一般に約20μm未満の直径をもつことができる。
【0076】
理論によって制限されたくはないが、より大きな粒子は改善された取込みを与えるであろうと考えられる。たとえば、>30nmの磁鉄鉱粒子については、振動磁界において次式により支配されるトルクを受けるであろう:
τ=μB sinθ
式中、τはトルクであり、μは磁気モーメントであり、Bは磁束密度であり、θは付与した磁界と粒子の磁化ベクトルとの間の角度である。たとえば、厳密なトルク量は粒子の形状により影響される。このトルクにより誘発される粒子の運動が粒子を細胞内へ細胞表面を通って‘前進させて(drag)’、未確認のエンドサイトーシス機序による粒子の取込みを誘導すると考えられる。正常な細胞プロセスによる粒子の取込みは、細胞に対する機械的な損傷がなく(たとえばバイオリスティック(biolistic)方法またはエレクトロポレーションと比較して)、したがって粒子送達後の細胞生存率が改善されることを意味する。
【0077】
磁気感受性粒子は、たとえばU.S.Patent Application Publication Nos.20050147963もしくは20050100930、またはU.S.Patent No.5,348,876(これらのそれぞれを全体として本明細書に援用する)に記載された磁気感受性粒子、または市販のビーズ、たとえばDynal AS(Invitrogen Corporation,米国カリフォルニア州カールズバッド)により商品名DYNABEADS(商標)および/またはMYONE(商標)で製造されているものであってもよい。特に、磁気感受性粒子に連結した抗体が、たとえばUnited States Patent Application Nos.20050149169、20050148096、20050142549、20050074748、20050148096、20050106652および20050100930、ならびにU.S.Patent No.5,348,876に記載されており、これらのそれぞれを全体として本明細書に援用する。
【0078】
1観点において、粒子は、常磁性、超常磁性、強磁性および/または反強磁性材料、たとえば元素状の鉄、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、あるいはその化合物および/または組合わせ(たとえばマンガンおよびコバルトフェライト)を含む。たとえば、適切な化合物には鉄塩、たとえば磁鉄鉱(Fe)、磁赤鉄鉱(γFe)、グレイジャイト(greigite)(Fe)および二酸化クロム(CrO)が含まれる。
【0079】
粒子は、ポリマーに、たとえばポリマーマトリックスの細孔内に埋め込まれた磁性材料を含むことができる。あるいは粒子は、生体適合性コーティング、たとえばシリカ、またはポリマー、たとえばデキストラン、ポリビニルアルコールもしくはポリエチレンイミンで囲まれた磁性コアを含むことができる。
【0080】
磁気感受性粒子は試薬を含む。試薬を、共有結合または非共有結合(たとえば水素結合、静電相互作用、イオン結合、親油性相互作用、またはファン−デル−ワールス力)により粒子と会合(たとえばコンジュゲート)させることができる。1観点において、たとえば反応性側鎖、たとえばタンパク質試薬のチロシン残基への連結のためのベンジジン、または炭水化物基への連結のためのペルアイオデートを保有する粒子に試薬を曝露することにより、試薬と粒子を共有結合させる。他の観点においては、結合活性をもつ分子(たとえばアビジン)に粒子を連結させ、この結合性分子のリガンド(たとえばビオチン)に試薬を連結させることができる。これにより粒子と試薬をインビトロで容易にコンジュゲートさせることができる。さらに他の観点において、粒子はマトリックス、たとえばポリマーマトリックス中に吸収された試薬を含むことができる。
【0081】
ハルバッハアレイ
本明細書中で用いる用語‘ハルバッハアレイ’は、一般的なアレイ(すなわち、異なる非ハルバッハシーケンスで配列した、他の点では同一の双極磁石のアレイ)と対比して、アレイの一方側で磁界が増強し、アレイの反対側で磁界が減弱するように、それらの極を特定の配向シーケンスで配列させた双極磁石のアレイを記述するために用いられる。この作用は、John Mallinsonにより最初に認められ[Mallinson, 1973, IEEE Transactions on Magnetics 9: 678]、その後、Klaus Halbachにより発表された[K. Halbach, 1981 , Nucl. Inst, and Methods 187. pp.109-117]。双極磁石は永久磁石または電磁石であってよい。1観点において、磁石はNdFeB永久磁石である。
【0082】
構成要素である双極磁石の配向を示す簡単なハルバッハアレイの例を図1Aに示す。構成要素である双極磁石の磁束線が集約して‘片側’磁束を生じる様子を図1Bに図示する。ハルバッハアレイは、必要な形状およびサイズの磁界を発生させるのに十分ないかなるサイズのものであってもよい。1観点において、ハルバッハアレイは9×12個を超えない双極磁石、たとえば6×8個を超えない双極磁石、たとえば3×4個を超えない双極磁石のアレイを含む。他の観点において、ハルバッハアレイは3〜5個の双極磁石の直線アレイを含む。
【0083】
平面ハルバッハアレイにおいて、磁束のxおよびy成分は平面の上方で同位相にあり、アレイの平面の下方で位相がπ/2ずれる;したがって、無限長さの理想的なアレイの場合、アレイの一方の面における磁束は倍増し、アレイの反対側の面における磁束は相殺される。有限長さのアレイにおいては、反対側の面に若干の浮遊磁界(stray field)が発生するが、磁界は依然として高度に非対称的であり(図1Cを参照)、増強面は一般的なアレイのほぼ2倍の磁束密度をもつ。
【0084】
一般的なアレイと比較して増強された磁界の強さのほか、このアレイの増強面の上方の磁界は高度に封じ込められてもいる;これが高い磁界勾配を生じる。
平面アレイのほか、ハルバッハアレイは円筒状または球状のアレイに配列することができる。これらの観点においては、構成要素である双極磁石を、円筒または球の内面または外面のいずれかで増強された‘片側磁界’を与えるように配列することができる。特定の1観点においては、円筒の内腔内に双極均一磁界をもつようにハルバッハ円筒を配列することができる。あるいは、構成要素である双極磁石を、円筒の内腔内に四極磁界を与えるように配列することができる。
【0085】
最高磁束密度および/または勾配の帯域
本明細書中で用いる‘最高磁束密度および/または勾配の帯域’は、ハルバッハアレイの増強面の上方の磁界において、隣接する周囲磁界のものより有意に高い磁束密度および/または勾配の帯域を意味するために用いられる。これらの帯域は、アレイ表面の上方3mmにおいて測定した磁界の強さが200mTを超える、たとえば300mTを超える帯域、たとえばアレイ表面の上方3mmにおいて400mTを超える帯域に対応する可能性がある。あるいは、これらの帯域は、アレイ表面の上方3mmにおいて測定した磁界勾配が30mT/mmより大きい、たとえば40mT/mmより大きい、たとえば50mT/mm、60mT/mm、70mT/mmまたは80mT/mmより大きい帯域に対応する可能性がある。他の観点において、最高磁束密度および/または勾配の帯域は、ハルバッハアレイにより発生する最大磁束密度および/または勾配の30%以内の磁束密度および/または勾配をもつ帯域である。たとえば、これらの帯域は、ハルバッハアレイにより発生する最大磁束密度および/または勾配の25%以内、あるいは最大磁束密度および/または勾配の20%以内の磁束密度および/または勾配をもつ可能性がある。たとえば、最大磁束密度および/または勾配の20%以内の場合、最大値が100であれば、この帯域は80以上の値をもつであろう。より好ましくは、これらの帯域は最大磁束密度および/または勾配の10%、最大磁束密度および/または勾配の5%、最大磁束密度および/または勾配の3%、最大磁束密度および/または勾配の2%、最大磁束密度および/または勾配の1%のいずれか以内の磁束密度および/または勾配をもつ。
【0086】
ハルバッハアレイの表面の上方の磁界は不均一である。たとえば、磁力線がアレイの表面と出会う帯域(図1Bおよび4aを参照)では、磁束は特に密集しており、方向の逆転も生じる。これによって、これらの帯域では特に高い磁界勾配になる。ハルバッハアレイの表面を横切る磁界変動を図4(a)に図示する;これは、ハルバッハアレイの上方の磁界がx軸およびy軸の両方において変動することを示す;x軸における変動は特に顕著であり、磁界は強いプラスから強いマイナスになり、そして再び逆転する。
【0087】
磁束密度および/または勾配が最高である帯域の位置は、たとえば走査型3軸Hallプローブ磁力計、たとえばRedcliffe Magnetics Magscan 500を用いて、ハルバッハアレイの上方の磁界をマッピングすると確認できる。その後の配置を容易にするために、そのようなマッピングによって最高磁束密度および/または勾配の帯域の位置を記録することができる。
【0088】
磁力
本明細書中で用いる‘磁力’は、磁気感受性粒子が勾配をもつ磁界にある場合に粒子に及ぼされる力を意味する。磁力は、磁気感受性粒子を磁界の供給源の方へ移動させることができる。この場合、この力は並進磁力(translational magnetic force)である。磁界は粒子にトルクを受けさせる可能性もある。
【0089】
ある配列において、磁力は粒子を磁界の供給源から遠ざける方へ移動させる場合がある。これは、粒子が磁気遮断されていて回転できない場合に起きる可能性がある。
磁力場
本明細書中で用いる、磁石または磁性アレイの‘磁力場’は、磁石または磁性アレイを囲む、磁気感受性粒子が磁力を受ける空間の体積について記述するものである。
【0090】
支持体
本明細書中で用いる‘支持体(support)’は、支持体により磁束内に配置された際に磁気感受性粒子に対する磁力が粒子を細胞へ向けて推進するように細胞をハルバッハアレイの磁束密度内に配置するための、いずれかの手段を表わす。
【0091】
1観点において、支持体は細胞を入れた受け器(たとえば組織培養フラスコまたはマルチウェルプレート)を、ハルバッハアレイの増強面の上方に配置する。たとえば、支持体は細胞を入れた受け器を支持するための表面であってもよい。あるいは、支持体は細胞を入れた受け器を保持するためのグリップまたはクランプを含むことができる。この配列では、受け器内のいずれかの磁気感受性粒子が受け器の底面の方へ引き落とされ、その際、粒子は受け器の底面に付着している可能性のあるいずれかの細胞に向けて推進される。
【0092】
他の観点において、支持体は細胞を入れた受け器を受容するための窪みを含む。さらに他の観点において、支持体は複数の窪みを含むことができる。それぞれの窪みは、細胞を入れた受け器1個を支持するように適合させることができる。あるいは、それぞれの窪みは複数の受け器を収容するためのものであってもよい。
【0093】
さらに他の観点において、支持体はアレイの磁力場内に哺乳動物対象を支持するためのものであってもよい。
1観点において、支持体は最高磁束密度および/または勾配の帯域に対応するアドレスをもつことができる。ある態様においては、細胞および磁気感受性粒子を配置するために支持体上に形成された複数の個別アドレスがあってもよく、その際、アドレスは最高磁束密度および/または勾配の帯域と一致する。たとえば、支持体は、細胞が最高磁束密度および/または勾配の帯域に位置するように細胞を入れた受け器を配置しうるマーキングをもつことができる。あるいは、支持体はそれぞれ独自のアドレスをもつ複数の窪みをもつことができ、それらの窪みは指示された最高磁束密度および/または勾配の帯域に対応する。
【0094】
細胞培養基体
本明細書中で用いる‘細胞培養基体(cell culture substrate)’は、その上で細胞が生存および/または増殖しうる基体、たとえば細胞培養フラスコの底面、またはマルチウェルプレートを意味するために用いられる。
【0095】
マルチウェルプレート
本明細書中で用いる‘マルチウェルプレート’は、2以上の個別ウェルをもつプレートを表わす。このプレートは、2より多いウェル、たとえば4、6、12、24、36、48、96、192または384のウェルをもつことができる。これらのウェルは細胞を収容および/または培養するために使用できる。ウェルは、個々のウェルを識別するために独自のアドレスをもつことができる。これらのプレートは使い捨てであってもよい。
【0096】
アレイの表面
本明細書中で用いる‘アレイの表面’は、アレイの増強面上の、構成要素である双極磁石の外面を意味するために用いられる。1観点において、細胞はアレイの表面から10mmより遠くない、たとえば5mmより遠くない、または3mmより遠くない、たとえば2mmより遠くない、または1mmより遠くない位置に配置される。
【0097】
振動磁界
本明細書中で用いる‘振動磁界’は、磁界の運動を表わすために用いられる。1観点において、磁界は粒子をハルバッハアレイに向かう第1方向(牽引の方向)に移動させ、磁界は第1方向に対してある角度の第2方向に振動する。第1方向と第2方向の間の角度は、0°より大きくかつ180°より小さくてよい。好ましくは、それは0°より大きくかつ90°より小さい、たとえば60°より大きくかつ120°より小さい、または70°より大きくかつ110°より小さい;たとえば第1方向と第2方向の間の角度は80°より大きくかつ100°より小さく、または85°より大きくかつ95°より小さくてよい。好ましくは第1方向は第2方向に対して実質的に直角である。
【0098】
1観点においては、磁界を単一軸に沿って振動させる。あるいは、磁界を磁気感受性粒子がハルバッハアレイに牽引される方向に対して平面振動させることができる;たとえば、牽引の方向に対して実質的に直角な平面内での振動。さらに他の観点において、磁界はさらにその平面の内外へ運動してもよい。さらに他の観点において、磁界は回転運動を伴って運動してもよい。
【0099】
磁界は、最高3kHz、たとえば最高1kHz、または最高100Hz、たとえば最高10Hz、または最高2Hzの振動数で振動することができる。1観点において、磁界は0〜100Hz、たとえば1mHz〜10Hz、または500mHz〜5Hz、たとえば1〜3Hz、または2Hzの振動数で振動する。他の態様において、磁界は0.1〜3Hzの振動数で振動することができる。
【0100】
1観点においては、ハルバッハアレイを振動運動により物理的に運動させることによって磁界を振動させる。1観点において、振幅は0〜5000μm、たとえば10〜2000μm、または20〜1000μm、たとえば50〜500μm、または100〜300μmである。振幅は200μmであってもよい。他の観点において、振幅は最高5000μm、たとえば最高2000μm、または最高1000μm、たとえば最高500μm、または最高200μmである。
【0101】
あるいは、構成する電磁石の双極子をアレイ内で振動させることにより磁界を振動させることができる。電磁石の双極子は、極性が交番する電流を電磁石に供給することにより振動させることができる。電流は最高3kHz、たとえば最高1kHz、または最高100Hz、たとえば最高10Hz、または最高2Hzの周波数で交番することができる。1観点において、電流は0〜100Hz、たとえば1mHz〜10Hz、または500mHz〜5Hz、たとえば1〜3Hz、または2Hzの周波数で振動する。他の態様において、電流は0.1〜3Hzの周波数で振動することができる。
【0102】
遺伝子形質転換
本明細書中で用いる遺伝子形質転換は、外来遺伝子材料の取込み、組込みおよび発現により細胞を遺伝子変換するプロセスを記述するものである。形質転換は、一時的または永続的な可能性があり、後代細胞により遺伝するかまたは遺伝しない可能性がある。
【0103】
磁束密度のマッピング
本明細書中で用いる磁束密度のマッピングは、アレイの周囲の磁界の形状および強さを測定する方法を表わす。磁束密度は、磁力計、たとえばRedcliffe Magnetics Magscan 500を用いてマッピングできる。1観点において、磁束密度はアレイ表面の上方の平面にわたってマッピングされる。マッピングした平面はアレイ表面の上方の選択したいずれかの距離、たとえば最高10mm、または最高5mm、たとえば最高3mm、または最高1mmにあってよい。アレイ上方の異なる高さにおいてマッピングすることにより、アレイ表面の上方の三次元空間の種々の地点で磁束密度と磁界勾配の両方を判定することができる。アレイの周囲の磁束密度のマッピングを用いて、細胞を高い磁束密度および/または勾配の帯域に配置する支持体を得ることができる。この支持体により、細胞をアレイの表面からマッピング平面と同じ距離にある平面内の高い磁束密度および/または勾配の帯域に配置することができる。
【0104】
細胞を入れるための受け器/細胞を入れた受け器
本明細書中で用いる‘細胞を入れるための受け器/細胞を入れた受け器’は、細胞を入れるのに適切な受け器または容器、たとえば細胞培養用のフラスコもしくは皿、マルチウェルプレート、ペトリ皿、試験管、ファルコンチューブまたはエッペンドルフチューブを表記するために用いられる。受け器は細胞を培養するためにも適切な可能性がある。
【0105】
ハルバッハアレイを振動させるための手段
本明細書中で用いる‘ハルバッハアレイを振動させるための手段’は、アレイを細胞と相対的に振動させる素子を表わす。この素子はモーター、たとえば電気式のステッピングモーターまたはサーボモーターであってもよい。1観点においては、アレイの振動をコンピューターにより制御することができる。
【0106】
本発明は前記の観点および好ましい特徴の組合わせを含む;ただし、そのような組合わせが明らかに許容できないかまたは明白に回避される場合を除く。
本明細書中で用いたセクション表題は系統立てるためのものにすぎず、記述した主題を限定するためのものと解釈すべきではない。
【0107】
本発明の観点および態様を実施例により、添付の図面を参照して以下に説明する。他の観点および態様は当業者に自明であろう。本明細書中に述べたすべての文献を本明細書に援用する。
【実施例】
【0108】
実施例1
パイロット試験において、図1のように配列した5個のNdFeB磁石(10×10×25mm)を含むハルバッハアレイを、NCI−H292(ヒト肺上皮)細胞を入れた標準的な24−ウェル培養プレートの2×6個のウェルの下方に配置した。細胞を、RPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)中に維持した。細胞を5×10個/ウェルで96ウェル組織培養プレートに播種し、37℃、5%COで一夜インキュベートして細胞を付着させた。SF RPMI培地中でPolymag(登録商標)(OzBiosciences)ナノ粒子を用い、ウェル当たり0.1〜0.5μgのDNAで、製造業者が推奨するプロトコルに従ってトランスフェクションを実施した。試薬の添加後、プレートを37℃、5%COのインキュベーターに移し、ハルバッハアレイの上方に20分間配置した。トランスフェクション後、2時間目に、培地を等体積のRPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)と交換した。トランスフェクション後、48時間目に、培地を各ウェルから除去し、30μLの細胞レポーター溶解用緩衝液(Roche)の添加により細胞を溶解した。ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega)を用いて試料をルシフェラーゼ活性についてアッセイし、BCAアッセイ試薬(Pierce、米国)を用いて総タンパク質濃度を測定した。
【0109】
このハルバッハアレイは細胞表面において498mTの磁界を発生し、一方、標準的なアレイ(直径5mmのNdFeB磁石)は細胞表面において222mTの磁界を発生した。ハルバッハアレイは、標準的なアレイより高い磁界勾配をも発生し、磁性ナノ粒子キャリヤーに対する力をさらに増強させる。
【0110】
ハルバッハアレイを用いるトランスフェクションは、20分後に、標準的な磁石アレイと比較してほぼ2倍、Lipofectamine2000(カチオン脂質剤)と比較して最高100倍、トランスフェクションを改善することが示された(図2)。
【0111】
実施例2
pCIKLuxルシフェラーゼレポーター構築体でOzBiosciences Polymag(登録商標)を用いて“標準的な”アレイおよびハルバッハアレイにより、ならびに裸のDNA対照によりトランスフェクションしたヒト肺上皮細胞において、NCI−H292におけるルシフェラーゼ活性を測定した。
【0112】
NCI−H292(ヒト肺上皮)細胞を、RPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)中に維持した。細胞を5×10個/ウェルで96ウェル組織培養プレートに播種し、37℃、5%COで一夜インキュベートして細胞を付着させた。Polymag(登録商標)トランスフェクション(粒子直径=100〜200nm)を、無血清(SF)RPMI培地中でウェル当たり0.1μgのDNAを用い、製造業者が推奨するプロトコルに従って、DNAのμg当たり1μLのPolymagを基準として実施した。試薬の添加後、プレートを37℃、5%COのインキュベーターに移し、磁石5個の振動(f=2Hz、振幅=200μm)NdFeBハルバッハアレイの上方に2時間配置した。トランスフェクション後、2時間目に、培地を等体積のRPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)と交換した。トランスフェクション後、48時間目に、培地を各ウェルから除去し、30μLの細胞レポーター溶解用緩衝液(Roche)の添加により細胞を溶解した。ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega、米国、マディソン)を用いて試料をルシフェラーゼ活性についてアッセイし、BCAアッセイ試薬(Pierce,英国、クラムリントン)を用いて総タンパク質濃度を測定した。データを平均±SEMとして示す;N=10。データについては図3を参照。
【0113】
実施例3
Redcliffe Magnetics Magscan 500を用いて、ハルバッハアレイの磁束密度をアレイの上方3mmの高さで走査した。これは、アレイの上方に配置したマルチウェルプレート内の細胞と等しい高さである。x−y平面におけるアレイの走査によって最高磁束密度(プラスおよびマイナスの両方)の領域が明らかになり、アレイ上方の種々の高さで走査することによって磁界勾配も測定できる(図4aを参照)。
【0114】
粒子に対する力は、下記の方程式に従って磁束密度および磁界勾配の両方と比例する:
【0115】
【数1】

(Pankhurst et al., 2003)。この関係を磁界走査データと共に用いることにより、各ウェルに最適な力を計算できる。さらに、同じ情報を用いて、より大きな磁石アレイを構築し、特定寸法のハルバッハアレイにつき最適な力条件下にあるウェルの数(またはフラスコの領域)を最大にするように、マルチウェルプレートおよび培養フラスコをアレイ上に配置することができる。この場合、蛍光強度をウェル上の位置に対してプロットした(図4bおよび図5を参照)。
【0116】
NCI−H292(ヒト肺上皮)細胞を、RPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)中に維持した。細胞を5×10個/ウェルで96ウェル組織培養プレートに播種し、37℃、5%COで一夜インキュベートして細胞を付着させた。Polymag(登録商標)トランスフェクション(粒子直径=100〜200nm)を、無血清(SF)RPMI培地中でウェル当たり0.1μgのDNAを用い、製造業者が推奨するプロトコルに従って、DNAのμg当たり1μLのPolymagを基準として実施した。試薬の添加後、プレートを37℃、5%COのインキュベーターに移し、磁石5個の振動(f=2Hz、振幅=200μm)NdFeBハルバッハアレイの上方に2時間配置した。トランスフェクション後、2時間目に、培地を等体積のRPMI 1640培地(10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシン−Bおよび2mMのL−グルタミンを補充したもの)と交換した。トランスフェクション後、48時間目に、培地を各ウェルから除去し、30μLの細胞レポーター溶解用緩衝液(Roche)の添加により細胞を溶解した。ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega、米国、マディソン)を用いて試料をルシフェラーゼ活性についてアッセイし、BCAアッセイ試薬(Pierce,英国、クラムリントン)を用いて総タンパク質濃度を測定した。
【0117】
実施例4
レポーター遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびルシフェラーゼを市販の磁性ナノ粒子に付着させた。レポーター遺伝子を粒子に結合させるために、1800分枝鎖ポリエチレンイミン(PEI)でコーティングした磁性ナノ粒子をDNAと共にインキュベートした。この遺伝子/粒子複合体を、次いでインキュベーター内のHEK293T腎細胞の単層培養物に導入した。培養皿を、インキュベーター内に収容した磁石アレイ上方の注文製ホルダー上に配置した。
【0118】
コンピューターおよび注文設計した制御ソフトウェア(Jon Dobsonにより設計)で制御される高精度の振動式水平駆動システムを用いて、粒子を送達した。このアレイ駆動システムの振幅は数ナノメートルと数ミリメートルの間で変更でき、振動数は静止状態から最高100代のHzまで変更できる。
【0119】
HEK293T細胞を96ウェルプレートに5×10個/ウェルで播種した。PEIでコーティングした、pCIKIux DNAを負荷した150nmのデキストラン/磁鉄鉱複合材料ナノ粒子(結合能は約0.2μg DNA/μg粒子)5μg/ウェルで、細胞をトランスフェクションした。トランスフェクションの後、5段の3×NdFeB 4mm磁石/ウェルを用いて前記に示したように磁界に24時間、細胞を曝露した。運動している磁界に曝露した細胞を2Hzで2時間、200μmの移動により曝露させ、次いで磁石を静止位置に22時間放置した。
【0120】
図6および7に示したデータは平均±SEM(各グループにつきn=12)である。
アルファベットで表示した下記のパラグラフには、本明細書に開示した本発明の技術的特徴の広範な組合わせの記載が含まれる:−
A.細胞の磁気トランスフェクションに使用するためのデバイスであって、磁石を含み、該磁石がハルバッハアレイ状に配列されていることを特徴とするデバイス;
B.パラグラフAに記載のデバイスであって、磁石が細胞を入れた受け器を支持しうるベースに収容されているデバイス;
C.パラグラフAまたはパラグラフBに記載のデバイスであって、ベースが細胞を入れた受け器を支持しうる本質的に平坦な支持表面を含むデバイス;
D.パラグラフCに記載のデバイスであって、ベースが細胞を入れた受け器を受容しうる窪みを含むデバイス;
E.前記のいずれかのパラグラフに記載のデバイスであって、ベースが磁石を含む非磁性ブロックを含むデバイス;
F.パラグラフEに記載のデバイスであって、非磁性ブロックがポリマーまたはプラスチック材料のものであるデバイス;
G.前記のいずれかのパラグラフに記載のデバイスであって、磁石がNdFeB永久磁石であるデバイス;
H.前記のいずれかのパラグラフに記載のデバイスであって、ハルバッハアレイの近接表面から1cmにおける磁界の強さが100mT以上であるデバイス;
I.前記のいずれかのパラグラフに記載のデバイスを、細胞を入れるのに適切な受け器と共に含む装置;
J.パラグラフIに記載の装置であって、使用中に300mT以上の強さの磁界を細胞に送達しうる装置;
K.パラグラフJに記載の装置であって、使用中に400mT以上の強さの磁界を細胞に送達しうる装置;
L.パラグラフA〜Hのいずれかに記載のデバイス、またはI〜Kのいずれかに記載の装置であって、受け器が下記のものからなるリストから選択されるもの:マルチウェルプレート、細胞培養フラスコ、およびペトリ皿;
M..細胞をトランスフェクションする方法であって、1以上の核酸またはポリペプチド分子に結合させた磁化性粒子に細胞を曝露し、細胞をハルバッハアレイにより発生する磁界内に配置することを含む方法;
N.パラグラフMに記載の方法であって、細胞を曝露する磁界の強さが300mT以上である方法;
O.パラグラフNに記載の方法であって、細胞を曝露する磁界の強さが400mT以上である方法;
P.パラグラフA〜Hのいずれかに記載のデバイス、またはI〜Kのいずれかに記載の装置を、トランスフェクションのための分子または部分に結合しうる磁化性粒子と共に含むキット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を細胞内へ送達する方法であって、少なくとも1つの細胞、および試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を、磁気感受性粒子が細胞へ牽引されて細胞と接触するようにハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法。
【請求項2】
さらに磁界を振動させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
振動の方向は、磁気感受性粒子がハルバッハアレイへ牽引される方向に対して実質的に直角である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細胞(1以上)および磁気感受性粒子(1以上)を支持体上に形成された個別アドレスのうちの1つまたは複数に配置し、それらの個別アドレスのうち少なくとも1つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合させることを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞(1以上)および磁気感受性粒子(1以上)を支持体上に形成された個別アドレスのうちの複数に配置し、それらの個別アドレスのうち少なくとも2つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の1以上の帯域内に整合させることを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
標的細胞をアレイの表面の上方5mmを超えない位置に配置する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
標的細胞をアレイの表面の上方3mmを超えない位置に配置する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
試薬を、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、RNAi、siRNA、アプタマー、目的遺伝子をコードするDNA、核酸発現構築体、アミノ酸、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、scFv、医薬、炭水化物、脂肪酸または低分子からなる群から選択する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
試薬が療法薬である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
試薬が核酸であり、該方法により標的細胞の遺伝子形質転換が行なわれる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ハルバッハアレイがNdFeB永久磁石のアレイである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
細胞が細菌、原生動物、真菌、植物または動物の細胞である、請求項1〜11
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
方法をインビトロで実施する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が動物の体内に存在する細胞である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
試薬を細胞内へ送達するための装置であって、
i)磁石のハルバッハアレイ;および
ii)細胞をハルバッハアレイの磁界に配置するための支持体
を含む装置。
【請求項17】
さらにハルバッハアレイの磁界を振動させる手段を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
装置がさらに、支持体の表面に配置された少なくとも1つの細胞、および該細胞と接触しうるように支持体に付与された、試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を含み、その際、ハルバッハアレイの磁界は磁気感受性粒子(1以上)を該表面の方へ牽引するように構成されている、請求項16または17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
装置がさらに、支持体の表面に配置された少なくとも1つの細胞、および該細胞と接触しうるように支持体に付与された、試薬に付着した少なくとも1つの磁気感受性粒子を含み、その際、ハルバッハアレイの磁界は磁気感受性粒子(1以上)を該表面の方へ牽引するように構成されており、かつ該手段は磁気感受性粒子がハルバッハアレイへ牽引される方向に対して実質的に直角の方向に磁界を振動させるように構成されている、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
1つまたは複数の個別アドレスが支持体上に設けられ、支持体およびハルバッハアレイは装置内でそれらの個別アドレスのうち少なくとも1つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合させるように相互に構成されている、請求項16〜19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
1つまたは複数の個別アドレスが支持体上に設けられ、支持体およびハルバッハアレイは装置内でそれらの個別アドレスのうち少なくとも2つをハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域内に整合させるように相互に構成されている、請求項16〜19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
細胞および粒子が個別アドレスのそれぞれに配置されている、請求項20または21に記載の装置。
【請求項23】
支持体がマルチウェルプレートであり、個別アドレスがプレートの選択された個々のウェルにより形成されている、請求項20〜22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
試薬を細胞内へ磁気により送達するための装置を製造する方法であって、装置はハルバッハアレイ、および細胞をハルバッハアレイの磁界に配置するための支持体を備えており、該方法は
(a)ハルバッハアレイを用意し;
(b)ハルバッハアレイの磁界の磁束密度および/または勾配をマッピングし;
(c)支持体を装置内に組み立てた際にハルバッハアレイの最高磁束密度および/または勾配の帯域と整合するように空間的に構成された1つまたは複数の個別アドレスを有する細胞支持体を用意し;
(d)ハルバッハアレイおよび支持体を組み立てて、試薬を細胞内へ磁気により送達するための装置を得る
ことを含む方法。
【請求項25】
処置方法に使用するための試薬に付着した磁気感受性粒子であって、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む、磁気感受性粒子。
【請求項26】
疾患の処置のための医薬の製造における、試薬に付着した磁気感受性粒子の使用であって、その処置は、処置を必要とする対象の組織に磁気感受性粒子を投与し、磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置することを含む方法により、試薬を動物またはヒト対象の細胞(1以上)内へ送達することを含む、使用。
【請求項27】
方法がさらに磁界を振動させる工程を含む、請求項25および26に記載の粒子または使用。
【請求項28】
処置を必要とするヒトまたは動物を処置する方法であって、試薬を動物またはヒト対象の細胞内へ送達することを含み、
(i)試薬に付着した磁気感受性粒子を、処置を必要とする対象の組織に投与し;そして
(ii)磁気感受性粒子が組織の細胞へ牽引されて細胞と接触するように、組織および磁気感受性粒子をハルバッハアレイの磁界に配置する
工程を含む方法。
【請求項29】
方法がさらに磁界を振動させる工程を含む、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−538607(P2010−538607A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523591(P2010−523591)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003069
【国際公開番号】WO2009/034319
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(399045846)キール・ユニバーシティ (4)
【氏名又は名称原語表記】KEELE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】