磁性部材および電子部品
【課題】使用時に超常磁性の特性を失って磁気ヒステリシスを生じてしまうことのない磁性部材を提供する。
【解決手段】超常磁性粒子それぞれが変位不能に保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合、超常磁性粒子の磁気応答は、ニール機構による磁化および消磁に依存する。このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する緩和時間τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、外部から印加される信号の周期τSよりも短くなる(τn<τS)ように粒径が定められている。そのため、外部から印加される信号の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【解決手段】超常磁性粒子それぞれが変位不能に保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合、超常磁性粒子の磁気応答は、ニール機構による磁化および消磁に依存する。このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する緩和時間τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、外部から印加される信号の周期τSよりも短くなる(τn<τS)ように粒径が定められている。そのため、外部から印加される信号の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の一部を構成可能な磁性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の超常磁性粒子を固体中に分散させた磁性部材からなる電子部品(磁気センサ)が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−511868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した磁性部材においては、固体により超常磁性粒子それぞれの位置が保持されているため、使用時に外部から交流磁場を印加した場合でも、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁はなされない。この場合、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0005】
ただ、使用時に外部から印加される交流磁場の周期Tが、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τよりも短い場合、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなり、結果的に超常磁性の特性を失い、磁気ヒステリシスを生じてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、使用時に超常磁性の特性を失って磁気ヒステリシスを生じてしまうことのない磁性部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため第1の構成(請求項1)は、電子部品の一部を構成可能であり、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる磁性部材であって、前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、前記電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている。
【0008】
このように構成された磁性部材では、超常磁性粒子それぞれが保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合に、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0009】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、上記構成において、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、使用時に印加される信号の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。そのため、使用時に外部から印加される交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【0010】
この構成において、超常磁性粒子それぞれを保持するためには、例えば、超常磁性粒子それぞれを直接または間接的に密着させることにより変位不能としてもよいし、何らかの基材を用いて変位不能としてもよい。
【0011】
具体的には、例えば、上記構成を以下に示す第2の構成(請求項2)のようにすることが考えられる。この構成において、前記超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持されている。
【0012】
このように構成された磁性部材であれば、超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させることで、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持することができる。
また、この構成において、固体の基材中に超常磁性粒子それぞれを分散させるためには、例えば、第3の構成(請求項3)のようにするとよい。
【0013】
この構成において、前記基材は、非磁性の部材であり、該部材を液化した状態で前記超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することによって、前記超常磁性粒子を保持している。
【0014】
このように構成された磁性部材であれば、液化した部材中に超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することにより、超常磁性粒子それぞれが固体の基材中に分散されたものとすることができる。
【0015】
また、上記第3の構成において、前記超常磁性粒子それぞれは、第4の構成(請求項4)のように、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている。
この構成であれば、超常磁性粒子それぞれに非磁性のコーティング層が形成されているため、この超常磁性粒子それぞれを液化された基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれを固化した基材中に確実に保持することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための第5の構成(請求項5)は、磁心を備えたトランスまたは磁気センサとして用いられる電子部品であって、前記磁心には、第1から第4のいずれかの構成に係る磁性部材が用いられている。この構成であれば、第1から第4のいずれかの構成と同様の作用、効果を得ることができる。
【0017】
また、上記課題を解決するための第5の構成(請求項6)は、磁心を備えたインダクタとして用いられる電子部品であって、前記磁心には、第1から第4のいずれかの構成に係る磁性部材が用いられている。この構成であれば、第1から第4のいずれかの構成と同様の作用、効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】超常磁性粒子における粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【図2】異なる温度、異方性定数における超常磁性粒子の粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【図3】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(1)
【図4】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(2)
【図5】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(3)
【図6】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(4)
【図7】磁気部材を適用したEMIフィルタを示す図
【図8】磁気部材を適用したチップアンテナを示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)磁性部材の特徴
磁性部材は、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる部材であり、電子部品の一部を構成するものである。この超常磁性粒子それぞれの粒径は、磁気応答の速度に応じて定められている。
【0020】
磁気応答は、粒子そのものが反転するブラウン機構、および、粒子における磁気スピンが反転するニール機構それぞれによるものであり、図1に示すように、その速度は、ブラウン機構およびニール機構それぞれにおいて反転が起こる時間(緩和時間)τで決まる。
【0021】
この緩和時間τは、超常磁性粒子の粒径dに応じて長くなるが、ニール機構による緩和時間τnの方が、ブラウン機構による緩和時間τbに比べて粒径による変動幅が大きく、一定の粒径dthを超えるまで緩和時間τbより小さいが、粒径dthを超えた以降、緩和時間τbより大きくなる。つまり、粒径dthを超えなければ、ブラウン機構よりもニール機構における磁気応答の方が速く、ニール機構による磁気応答が優勢になる一方、粒径dthを超えると、ブラウン機構よりもニール機構による磁気応答の方が遅くなり、ブラウン機構による磁気応答が優勢になる。
【0022】
また、ニール機構による緩和時間τnは、以下に示す式1により求められるものであり、定数(定数とみなせるものも含む)を除くと、温度T,異方性定数кおよび粒径Rに応じて決まる値になる。
【0023】
【数1】
図2に、この式1に基づき、複数の温度T(本実施形態では、―40℃(≒233K)、25℃(≒298K)、130℃(≒403K))それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnの変化を表したグラフ(同図(a))と、複数の異方性定数к(本実施形態では、30,41,50,60,70)それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnを表したグラフ(同図(b))と、を示す。なお、この例では、超常磁性粒子として酸化鉄系の材料を使用した場合における基準緩和時間τ0として10^(−9)secを使用している。
【0024】
このグラフをみると、温度Tが高くなるほど、または、異方性定数кが小さくなるほど、同じ粒径Rに対する磁気応答(周波数応答)の性能が悪化することが分かる。また、粒径Rがある程度小さい領域になると、温度Tおよび異方性定数кの違いによる影響が少なくなっているため、この領域の粒径Rを採用すれば、外部環境の温度Tや異方性定数кこれらファクターの影響を受けないようにすることができる。
【0025】
このような特性に照らし、本実施形態では、少なくとも、超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように超常磁性粒子の粒径が定められている。
【0026】
また、超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位が制限(本実施形態では、抑止)されるように保持されており、それぞれが直接または間接的に密着することで保持された構成となっていればよい。ここでいう「間接的に密着」とは、超常磁性粒子表面に被膜を形成したり、何らかの媒体を介在させた状態での密着のことである。
【0027】
また、超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限されるように保持された構成としてもよい。この場合、非磁性の部材(例えば、樹脂材料、セラミックなど)を基材とし、該部材を液化した状態で超常磁性粒子それぞれを分散させて一定の位置関係としてから固化することによって、超常磁性粒子を保持することとすればよい。なお、ブラウン機構による変位を抑制可能であれば、ゲル状や粘性の高い液体を基材として採用することもできる。
【0028】
なお、超常磁性粒子それぞれは、隣接する超常磁性粒子における超常磁性の特性を所定のしきい値以上損なってしまうことのない位置関係となっていればよく、その位置関係が維持される濃度を上限として基材中に分散されている。
【0029】
こうして、超常磁性粒子を基材中に分散させる場合には、各超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層を形成しておくことが、超常磁性粒子と基材との親和性を高めて確実な保持を実現するために望ましい。このコーティング層には、界面活性剤、酸化被膜、有機材料または非磁性の無機材料などを採用することが考えられる。
(2)具体的な適用構成
上述した磁性部材を適用する電子部品としては、例えば、以下に示すようなものが考えられる。
【0030】
まず、図3に示すように、環状に形成した複数の磁性部材1を連ねると共に、それぞれ各磁性部材1の全周にわたって巻き付けられた複数の励磁コイル12と、複数の磁性部材1それぞれをまたがって巻き付けられた検出コイル14と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサでは、複数の磁性部材1における環状部分を通された導線18に流れる電流を検出する。
【0031】
また、図4に示すように、環状に形成した磁性部材2からなり、磁性部材2の一部分に形成されたギャップ22と、このギャップ22内に配置されたホール素子24と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材2における環状部分を通された導線28に流れる電流を検出する。
【0032】
また、図5に示すように、環状に形成した磁性部材3からなり、磁性部材3の全周にわたって巻き付けられた平衡コイル32と、磁性部材3の一部分に形成されたギャップ34と、このギャップ34内に配置されたホール素子36と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材3における環状部分を通された導線38に流れる電流を検出する。
【0033】
また、図6に示すように、環状に形成した磁性部材4からなり、この磁性部材4における環状部分を分割するようにつなぐ連結磁路42と、磁性部材4の全周にわたって巻き付けられた励磁コイル44と、連結磁路42の全長にわたって巻き付けられた検出コイル46と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材4における環状部分を、連結磁路42で分割された一方の領域から他方の領域に抜けるように通された導線48に流れる電流を検出する。
【0034】
また、図7に示すように、筒状に形成した磁性部材5からなり、この筒状部分に導線52を貫通させて用いるフェライトビーズとすることが考えられる。このフェライトビーズであれば、高周波に対して高い透磁率をもつ磁性部材5を用いることで、導体52に急峻なスパイクなどの高周波ノイズが発生したとしても、この高周波ノイズに対して磁性部材5の透磁率に起因する高いインピーダンスを示すため、このような高周波ノイズの導体52への流通を抑制することができる。
【0035】
なお、同様の作用効果が得られる構成としては、上記筒状の磁性部材5に導体52を貫通させた構成に限らず、例えば、リング状の磁性部材に導体を巻き付けた構成、柱状の磁性部材内部に螺旋状の導体を埋設した構成などとしてもよい。
【0036】
また、図8に示すように、矩形の板状に形成した磁性部材7からなり、この板状の表面における下側の領域に左右方向に拡がる接地導体72を設けると共に、それ以外の領域に左右方向に伸びるアンテナ導体74を設けたチップアンテナとすることが考えられる。この実施形態では、アンテナ導体74がF型に形成されているが、アンテナ導体としての形状はこの形状に限定されない。また、アンテナ導体74の一端側が接地導体72と接続されているが、この一端側は必ずしも接地導体72と接続されていなくてもよい。
【0037】
なお、上述した磁性部材を適用する電子部品には、上述した以外に、例えば、トランスや、インダクタなど、磁気センサ以外に採用できることはいうまでもない。
(3)作用,効果
このように構成された磁性部材では、超常磁性粒子それぞれが保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合に、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0038】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、上記構成において、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、使用時に印加される信号の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。そのため、使用時に外部から印加される交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【0039】
また、上記実施形態において、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に超常磁性粒子それぞれを分散させた場合には、超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させた状態でブラウン機構による変位を制限した状態で保持することができる。
【0040】
また、上記実施形態において、非磁性の部材である基材を液化した状態で超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化した場合には、液化した部材中に超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することにより、超常磁性粒子それぞれが固体の基材中に分散されたものとすることができる。
【0041】
また、上記実施形態において、超常磁性粒子それぞれの表面に非磁性のコーティング層が形成されている場合には、非磁性のコーティング層にて超常磁性粒子それぞれを液化された基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれを固化した基材中に確実に保持することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…磁性部材、12…励磁コイル、14…検出コイル、18…導線、2…磁性部材、22…ギャップ、24…ホール素子、28…導線、3…磁性部材、32…平衡コイル、34…ギャップ、36…ホール素子、38…導線、4…磁性部材、42…連結磁路、44…励磁コイル、46…検出コイル、48…導線、5…磁性部材、52…導線、7…磁性部材、72…接地導体、74…アンテナ導体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の一部を構成可能な磁性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の超常磁性粒子を固体中に分散させた磁性部材からなる電子部品(磁気センサ)が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−511868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した磁性部材においては、固体により超常磁性粒子それぞれの位置が保持されているため、使用時に外部から交流磁場を印加した場合でも、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁はなされない。この場合、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0005】
ただ、使用時に外部から印加される交流磁場の周期Tが、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τよりも短い場合、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなり、結果的に超常磁性の特性を失い、磁気ヒステリシスを生じてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、使用時に超常磁性の特性を失って磁気ヒステリシスを生じてしまうことのない磁性部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため第1の構成(請求項1)は、電子部品の一部を構成可能であり、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる磁性部材であって、前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、前記電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている。
【0008】
このように構成された磁性部材では、超常磁性粒子それぞれが保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合に、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0009】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、上記構成において、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、使用時に印加される信号の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。そのため、使用時に外部から印加される交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【0010】
この構成において、超常磁性粒子それぞれを保持するためには、例えば、超常磁性粒子それぞれを直接または間接的に密着させることにより変位不能としてもよいし、何らかの基材を用いて変位不能としてもよい。
【0011】
具体的には、例えば、上記構成を以下に示す第2の構成(請求項2)のようにすることが考えられる。この構成において、前記超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持されている。
【0012】
このように構成された磁性部材であれば、超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させることで、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持することができる。
また、この構成において、固体の基材中に超常磁性粒子それぞれを分散させるためには、例えば、第3の構成(請求項3)のようにするとよい。
【0013】
この構成において、前記基材は、非磁性の部材であり、該部材を液化した状態で前記超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することによって、前記超常磁性粒子を保持している。
【0014】
このように構成された磁性部材であれば、液化した部材中に超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することにより、超常磁性粒子それぞれが固体の基材中に分散されたものとすることができる。
【0015】
また、上記第3の構成において、前記超常磁性粒子それぞれは、第4の構成(請求項4)のように、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている。
この構成であれば、超常磁性粒子それぞれに非磁性のコーティング層が形成されているため、この超常磁性粒子それぞれを液化された基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれを固化した基材中に確実に保持することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための第5の構成(請求項5)は、磁心を備えたトランスまたは磁気センサとして用いられる電子部品であって、前記磁心には、第1から第4のいずれかの構成に係る磁性部材が用いられている。この構成であれば、第1から第4のいずれかの構成と同様の作用、効果を得ることができる。
【0017】
また、上記課題を解決するための第5の構成(請求項6)は、磁心を備えたインダクタとして用いられる電子部品であって、前記磁心には、第1から第4のいずれかの構成に係る磁性部材が用いられている。この構成であれば、第1から第4のいずれかの構成と同様の作用、効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】超常磁性粒子における粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【図2】異なる温度、異方性定数における超常磁性粒子の粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【図3】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(1)
【図4】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(2)
【図5】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(3)
【図6】磁気部材を適用した電流検出用のセンサを示す図(4)
【図7】磁気部材を適用したEMIフィルタを示す図
【図8】磁気部材を適用したチップアンテナを示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)磁性部材の特徴
磁性部材は、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる部材であり、電子部品の一部を構成するものである。この超常磁性粒子それぞれの粒径は、磁気応答の速度に応じて定められている。
【0020】
磁気応答は、粒子そのものが反転するブラウン機構、および、粒子における磁気スピンが反転するニール機構それぞれによるものであり、図1に示すように、その速度は、ブラウン機構およびニール機構それぞれにおいて反転が起こる時間(緩和時間)τで決まる。
【0021】
この緩和時間τは、超常磁性粒子の粒径dに応じて長くなるが、ニール機構による緩和時間τnの方が、ブラウン機構による緩和時間τbに比べて粒径による変動幅が大きく、一定の粒径dthを超えるまで緩和時間τbより小さいが、粒径dthを超えた以降、緩和時間τbより大きくなる。つまり、粒径dthを超えなければ、ブラウン機構よりもニール機構における磁気応答の方が速く、ニール機構による磁気応答が優勢になる一方、粒径dthを超えると、ブラウン機構よりもニール機構による磁気応答の方が遅くなり、ブラウン機構による磁気応答が優勢になる。
【0022】
また、ニール機構による緩和時間τnは、以下に示す式1により求められるものであり、定数(定数とみなせるものも含む)を除くと、温度T,異方性定数кおよび粒径Rに応じて決まる値になる。
【0023】
【数1】
図2に、この式1に基づき、複数の温度T(本実施形態では、―40℃(≒233K)、25℃(≒298K)、130℃(≒403K))それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnの変化を表したグラフ(同図(a))と、複数の異方性定数к(本実施形態では、30,41,50,60,70)それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnを表したグラフ(同図(b))と、を示す。なお、この例では、超常磁性粒子として酸化鉄系の材料を使用した場合における基準緩和時間τ0として10^(−9)secを使用している。
【0024】
このグラフをみると、温度Tが高くなるほど、または、異方性定数кが小さくなるほど、同じ粒径Rに対する磁気応答(周波数応答)の性能が悪化することが分かる。また、粒径Rがある程度小さい領域になると、温度Tおよび異方性定数кの違いによる影響が少なくなっているため、この領域の粒径Rを採用すれば、外部環境の温度Tや異方性定数кこれらファクターの影響を受けないようにすることができる。
【0025】
このような特性に照らし、本実施形態では、少なくとも、超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように超常磁性粒子の粒径が定められている。
【0026】
また、超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位が制限(本実施形態では、抑止)されるように保持されており、それぞれが直接または間接的に密着することで保持された構成となっていればよい。ここでいう「間接的に密着」とは、超常磁性粒子表面に被膜を形成したり、何らかの媒体を介在させた状態での密着のことである。
【0027】
また、超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限されるように保持された構成としてもよい。この場合、非磁性の部材(例えば、樹脂材料、セラミックなど)を基材とし、該部材を液化した状態で超常磁性粒子それぞれを分散させて一定の位置関係としてから固化することによって、超常磁性粒子を保持することとすればよい。なお、ブラウン機構による変位を抑制可能であれば、ゲル状や粘性の高い液体を基材として採用することもできる。
【0028】
なお、超常磁性粒子それぞれは、隣接する超常磁性粒子における超常磁性の特性を所定のしきい値以上損なってしまうことのない位置関係となっていればよく、その位置関係が維持される濃度を上限として基材中に分散されている。
【0029】
こうして、超常磁性粒子を基材中に分散させる場合には、各超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層を形成しておくことが、超常磁性粒子と基材との親和性を高めて確実な保持を実現するために望ましい。このコーティング層には、界面活性剤、酸化被膜、有機材料または非磁性の無機材料などを採用することが考えられる。
(2)具体的な適用構成
上述した磁性部材を適用する電子部品としては、例えば、以下に示すようなものが考えられる。
【0030】
まず、図3に示すように、環状に形成した複数の磁性部材1を連ねると共に、それぞれ各磁性部材1の全周にわたって巻き付けられた複数の励磁コイル12と、複数の磁性部材1それぞれをまたがって巻き付けられた検出コイル14と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサでは、複数の磁性部材1における環状部分を通された導線18に流れる電流を検出する。
【0031】
また、図4に示すように、環状に形成した磁性部材2からなり、磁性部材2の一部分に形成されたギャップ22と、このギャップ22内に配置されたホール素子24と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材2における環状部分を通された導線28に流れる電流を検出する。
【0032】
また、図5に示すように、環状に形成した磁性部材3からなり、磁性部材3の全周にわたって巻き付けられた平衡コイル32と、磁性部材3の一部分に形成されたギャップ34と、このギャップ34内に配置されたホール素子36と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材3における環状部分を通された導線38に流れる電流を検出する。
【0033】
また、図6に示すように、環状に形成した磁性部材4からなり、この磁性部材4における環状部分を分割するようにつなぐ連結磁路42と、磁性部材4の全周にわたって巻き付けられた励磁コイル44と、連結磁路42の全長にわたって巻き付けられた検出コイル46と、を備えた電流検出用のセンサとすることが考えられる。この磁気センサは、磁性部材4における環状部分を、連結磁路42で分割された一方の領域から他方の領域に抜けるように通された導線48に流れる電流を検出する。
【0034】
また、図7に示すように、筒状に形成した磁性部材5からなり、この筒状部分に導線52を貫通させて用いるフェライトビーズとすることが考えられる。このフェライトビーズであれば、高周波に対して高い透磁率をもつ磁性部材5を用いることで、導体52に急峻なスパイクなどの高周波ノイズが発生したとしても、この高周波ノイズに対して磁性部材5の透磁率に起因する高いインピーダンスを示すため、このような高周波ノイズの導体52への流通を抑制することができる。
【0035】
なお、同様の作用効果が得られる構成としては、上記筒状の磁性部材5に導体52を貫通させた構成に限らず、例えば、リング状の磁性部材に導体を巻き付けた構成、柱状の磁性部材内部に螺旋状の導体を埋設した構成などとしてもよい。
【0036】
また、図8に示すように、矩形の板状に形成した磁性部材7からなり、この板状の表面における下側の領域に左右方向に拡がる接地導体72を設けると共に、それ以外の領域に左右方向に伸びるアンテナ導体74を設けたチップアンテナとすることが考えられる。この実施形態では、アンテナ導体74がF型に形成されているが、アンテナ導体としての形状はこの形状に限定されない。また、アンテナ導体74の一端側が接地導体72と接続されているが、この一端側は必ずしも接地導体72と接続されていなくてもよい。
【0037】
なお、上述した磁性部材を適用する電子部品には、上述した以外に、例えば、トランスや、インダクタなど、磁気センサ以外に採用できることはいうまでもない。
(3)作用,効果
このように構成された磁性部材では、超常磁性粒子それぞれが保持されているため、使用時に外部から信号を印加した場合に、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0038】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、上記構成において、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、使用時に印加される信号の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。そのため、使用時に外部から印加される交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることがない。
【0039】
また、上記実施形態において、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に超常磁性粒子それぞれを分散させた場合には、超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させた状態でブラウン機構による変位を制限した状態で保持することができる。
【0040】
また、上記実施形態において、非磁性の部材である基材を液化した状態で超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化した場合には、液化した部材中に超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することにより、超常磁性粒子それぞれが固体の基材中に分散されたものとすることができる。
【0041】
また、上記実施形態において、超常磁性粒子それぞれの表面に非磁性のコーティング層が形成されている場合には、非磁性のコーティング層にて超常磁性粒子それぞれを液化された基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれを固化した基材中に確実に保持することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…磁性部材、12…励磁コイル、14…検出コイル、18…導線、2…磁性部材、22…ギャップ、24…ホール素子、28…導線、3…磁性部材、32…平衡コイル、34…ギャップ、36…ホール素子、38…導線、4…磁性部材、42…連結磁路、44…励磁コイル、46…検出コイル、48…導線、5…磁性部材、52…導線、7…磁性部材、72…接地導体、74…アンテナ導体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の一部を構成可能であり、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる磁性部材であって、
前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、前記電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている
ことを特徴とする磁性部材。
【請求項2】
前記超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁性部材。
【請求項3】
前記基材は、非磁性の部材であり、該部材を液化した状態で前記超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することによって、前記超常磁性粒子を保持している
ことを特徴とする請求項2に記載の磁性部材。
【請求項4】
前記超常磁性粒子それぞれは、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の磁性部材。
【請求項5】
磁心を備えたトランスまたは磁気センサとして用いられる電子部品であって、
前記磁心には、請求項1から4のいずれかに記載の磁性部材が用いられている
ことを特徴とする電子部品。
【請求項6】
磁心を備えたインダクタとして用いられる電子部品であって、
前記磁心には、請求項1から4のいずれかに記載の磁性部材が用いられている
ことを特徴とする電子部品。
【請求項1】
電子部品の一部を構成可能であり、複数の超常磁性粒子それぞれを保持してなる磁性部材であって、
前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、前記電子部品として用いられる際に当該磁性部材に印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている
ことを特徴とする磁性部材。
【請求項2】
前記超常磁性粒子それぞれは、ブラウン機構による変位を抑制可能な基材中に分散させることにより、ブラウン機構による変位が制限された状態で保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁性部材。
【請求項3】
前記基材は、非磁性の部材であり、該部材を液化した状態で前記超常磁性粒子それぞれを分散させてから固化することによって、前記超常磁性粒子を保持している
ことを特徴とする請求項2に記載の磁性部材。
【請求項4】
前記超常磁性粒子それぞれは、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の磁性部材。
【請求項5】
磁心を備えたトランスまたは磁気センサとして用いられる電子部品であって、
前記磁心には、請求項1から4のいずれかに記載の磁性部材が用いられている
ことを特徴とする電子部品。
【請求項6】
磁心を備えたインダクタとして用いられる電子部品であって、
前記磁心には、請求項1から4のいずれかに記載の磁性部材が用いられている
ことを特徴とする電子部品。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1】
【図2】
【図8】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1】
【図2】
【図8】
【公開番号】特開2011−119661(P2011−119661A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215871(P2010−215871)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000229830)株式会社フェローテック (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000229830)株式会社フェローテック (25)
【Fターム(参考)】
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