説明

磁束のゼロ点検出装置

【課題】トランスTのコア30内の磁束φが一方向に偏る直流偏磁が生じうること。
【解決手段】コア30は、フェライト等によって構成される。コア30の軸方向において、局所的に、軸方向の直交断面積が小さくなる部分が設けられている。この部分は、コア30の突起部として検出用磁心32が形成されており、これは、検出用コイルWdを貫く。検出用コイルWdに誘起される電圧は、電圧検出回路22を介して制御装置20に出力される。制御装置20では、検出用コイルWdにパルス状の電圧が誘起されるタイミングを、コア30の磁束φのゼロクロスタイミングとして検出する。そして、このタイミング間の間隔に基づき、直流偏磁の有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主コイルを貫くループ経路を構成する磁心内の磁束について、そのゼロ点を検出するゼロ点検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器に対する小型化の要求に伴って、機器に電力を供給するスイッチング電源装置も小型化することが求められている。スイッチング電源装置の小型化を実現するためには、その体格の多くを占める受動部品の体格を低減することが要求される。したがって、受動部品の設計に際しては必要最低限での機能実現に多大な努力が払われている。
【0003】
しかしながら、スイッチング電源装置の出力負荷状態によって素子特性が変化しにくいコンデンサとは異なり、リアクトルやトランスに代表される磁気部品は通電電流の増大によって磁気特性を失う磁気飽和という現象がある。したがって、磁気部品の設計においては必要最低限の設計は安全面や品質確保の面で問題を発生することが多く、多くの場合において十分な通電電流で性能が確保されるよう、性能面で大きなマージンを設けることが一般的に行われてきた。
【0004】
特に、絶縁コンバータに使用されるトランスは、性能面のマージンが大きい部品として知られている。トランスは、磁心内の磁束が交流磁束となるものであるものの、この磁束がいずれかの方向に偏る偏磁現象が生じうる。偏磁現象は磁気飽和の原因となるため、これを速やかに検出して対処することが望ましいものの、磁気飽和が生じる以前に偏磁現象を検出することは困難である。このため、磁気飽和が生じることでこれを検知し、磁気飽和を解消することが一般的である。この場合、磁気飽和の解消動作中には電力変換機能が維持できないため、トランスの設計に際しては、十分まれにしか磁気飽和が起こらないよう特に大きくマージンが設けられていた。このため、トランスに偏磁現象が生じることが、スイッチング電源装置を小型化するうえで大きな障害となっていた。
【0005】
そこで従来、下記特許文献1に見られるように、磁気飽和が発生する前に偏磁を検知する技術も提案されている。これは、トランスに飽和磁束密度が低く、かつ、透磁率がトランスの磁心より高い材料からなる迂回磁路を設け、この迂回磁路に検出コイルを設け、検出コイルに誘起される電圧を検出するものである。
【0006】
すなわち、磁心の磁束がゼロ近傍にあるときには、迂回経路の透磁率がトランスの磁心の透磁率よりも高いため、迂回経路の磁気抵抗よりも磁心の磁気抵抗の方が大きく、磁心内の磁束の一部を迂回磁路に分流させることができる。ここで、迂回経路は、飽和磁束密度が低いため、分流した磁束によって即座に飽和する。迂回経路に磁気飽和が生じると、その透磁率が小さくなるため、迂回磁路の磁気抵抗は磁心の磁気抵抗よりも十分に大きくなり、迂回磁路の磁束の変化が極端に小さくなる。このため、迂回磁路を通過する磁束は、トランスを通過する磁束がごく少ないときにしか変化せず、検出コイルにはパルス状の電圧が誘導される。このパルスが発生した時点は、磁心の磁束がほぼ0となった時点である。このパルスの間隔が不均一となる場合、磁心内の磁束がいずれか一方の方向である期間の方が他方の方向の期間よりも長くなっており、直流の磁束が発生している(偏磁している)と考えられる。このため、磁心が磁気飽和する以前に偏磁を検知することができ、偏磁を検出した場合には、生じている直流磁束をゼロにフィードバック制御することで偏磁を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3518260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、上記技術には、次のような問題がある。
【0009】
まず第1に、迂回磁路を形成するためには、トランスの磁心材料と比べて飽和しやすく、かつ、透磁率が高い材料が別途必要となるという問題である。
【0010】
第2に、磁心の磁束のゼロ点検出のためのパラメータとして、上記検出コイルの誘起電圧を用いることは、その信頼性の点から疑問の余地が残るという問題である。すなわち、この技術の通常動作ではトランスの磁心の飽和を回避しうるものの、万一磁心が磁気飽和に近い状態となった場合には、磁心の透磁率が小さくなることで、磁心と迂回磁路との磁気抵抗の差が小さくなり、磁心から迂回磁路に漏れ磁束が流入することから、迂回磁路の磁束の変化が大きくなる。これにより、磁心の磁束がゼロ点からはなれて大きくなっている状況においても、検出コイルに電圧が誘起されることとなる。
【0011】
第3に、迂回磁路は構造上、トランス上に一体的に成型することが難しく、製造上の工程が増加しやすいという問題がある。
【0012】
第4に、近年トランス磁心に一般的に用いられるフェライト磁心は、脆性を有するため、このような迂回磁路の敷設により構造的な強度が低下するという問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、主コイルを貫くループ経路を構成する磁心内の磁束について、そのゼロ点を検出のための新たな磁束のゼロ点検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0015】
請求項1記載の発明は、主コイルを貫くループ経路を構成する磁心内における磁束のゼロ点検出装置において、前記磁心は、その断面積が縮小した縮小部分を有し、前記縮小部分に対応する前記ループ経路の断面は、前記磁心よりも透磁率の低い部分と、該部分よりも透磁率の高い高透磁率部材を備える部分とを含み、前記ループ経路のうち前記縮小部分に対応する部分の一部であって且つ前記高透磁率部材を含む部分が貫通する検出用コイルと、前記検出用コイルに誘起される電圧を検出する電圧検出手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
磁心内の磁束は、上記ループ経路のうち縮小部分に対応する部分においては、高透磁率部材に集中する。このため、高透磁率部材は、縮小部分以外における磁心が磁気飽和する以前に磁気飽和し、高透磁率部材が磁気飽和した後には、磁心の磁束の増加は、ループ経路のうちの縮小部分に対応する部分においては高透磁率部材以外の部分の磁束の増加につながる。このため、高透磁率部材内の磁束の変化は、縮小部分以外における磁心の磁束がゼロ近傍で変化するときに制限される。このため、検出用コイルに誘起される電圧は、縮小部分以外における磁心の磁束がゼロ近傍で変化する期間に大きくなり、それ以外では小さくなる。このため、検出用コイルの電圧の変化を、縮小部分以外における磁心の磁束のゼロクロスと相関を有するパラメータとすることができる。したがって、上記発明では、電圧検出手段によって検出される電圧に応じてゼロクロスを検出することができる。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記高透磁率部材は、前記磁心と一体的に形成された該磁心の突起であることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、高透磁率部材を磁心の突起とすることで、ループ経路のうち縮小部分に対応する部分に低透磁率部材をはめ込む場合であっても、この突起を利用することで、その位置あわせが容易となる。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記高透磁率部材は、前記磁心とは別体であることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、高透磁率部材を磁心と別体とすることで、この部分に力が加わる場合であっても、磁心の破損を好適に抑制することができる。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記磁心は、金属薄板の積層体であり、前記縮小部分は、前記積層体を構成する金属薄板の一部が削除されて構成されるものであり、前記高透磁率部材は、前記積層体のうち前記削除されなかった残りの金属薄板によって構成されていることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、金属薄板のうち削除するものと、削除しないものとの区別によって、高透磁率部材を形成することができる。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記縮小部分には、基板が埋め込まれており、該基板には、前記高透磁率部材が貫通する孔が形成されて且つ、該孔の周囲に前記検出用コイルが設けられていることを特徴とする。
【0024】
上記発明では、基板に検出用コイルを設けることで、検出用コイルを容易に配置することができる。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記主コイルと前記磁心との間に、ボビンを備え、該ボビンは、前記ループ経路のうち前記縮小部分に対応する部分に埋め込まれる部分を有するとともに、該埋め込まれる部分に、前記検出用コイルが内蔵されていることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、主コイルの配置を容易とするボビン内に検出用コイルを内蔵することで、検出用コイルの配置も容易となる。
【0027】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記磁心は、複数の経路に分岐する構造を有し、前記縮小部分は、前記分岐した磁心のそれぞれに設けられ、前記高透磁率部材および前記検出用コイルは、前記分岐した複数の部分の少なくとも1つに対応して設けられていることを特徴とする。
【0028】
上記発明では、分岐した複数のそれぞれに縮小部分を設けることで、一部に縮小部分を設けない場合と比較して高透磁率部材の磁束の飽和が生じやすくなり、ひいては検出用コイルに誘起される電圧を磁心の磁束のゼロクロスを高精度に表現するパラメータとすることができる。
【0029】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記電圧検出手段は、前記検出用コイルに誘起される電圧の絶対値を出力する絶対値検出手段であることを特徴とする。
【0030】
上記発明では、電圧検出手段の出力信号を入力する手段が、入力可能電圧の極性が一方向に制限されたものであっても、出力信号を容易に入力させることができる。
【0031】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記絶対値検出手段は、前記高透磁率部材内の磁束の変化に応じて誘起される電圧の極性が互いに逆となる端子に整流手段が接続された前記検出用コイルとしての一対のコイルと、該一対のコイルの出力電圧の最大値を選択する最大値選択手段とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる偏磁検出原理を示すタイムチャート。
【図3】第2の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図4】第3の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図5】第4の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図6】第5の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図7】第6の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図8】第7の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図9】第8の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【図10】第9の実施形態にかかるコアの断面構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる磁束のゼロ点検出装置を絶縁型DCDCコンバータに適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0035】
図示されるコンバータは、直流電圧源(バッテリ10)の電圧(入力電圧Vin)を変換して出力電圧Voutとして出力するものである。すなわち、バッテリ10にはコンデンサ12が並列接続され、コンデンサ12の両端に、フルブリッジ回路を構成するスイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW2の直列接続体と、スイッチング素子SW3およびスイッチング素子SW4の直列接続体とが並列接続されている。なお、本実施形態では、スイッチング素子SW1〜SW4として絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を採用するとともに、これらにフリーホイールダイオードFD1〜FD4が逆並列に接続されている。
【0036】
スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW2の接続点とスイッチング素子SW3およびスイッチング素子SW4の接続点との間には、トランスTの1次側コイルW1が接続されている。
【0037】
一方、トランスTの2次側コイルW2は、中点タップを備えており、これが出力用コンデンサ16の負極側に接続されている。また、2次側コイルW2の両端には、それぞれダイオードD1,D2、平滑用インダクタ14を介して、出力用コンデンサ16の正極側が接続されている。さらに、出力用コンデンサ16には、ダイオードD3が逆並列接続されている。
【0038】
制御装置20は、スイッチング素子SW1〜SW4のそれぞれに操作信号ms1〜ms4を出力することで、電圧変換処理を行う。本実施形態では、スイッチング素子SW1,SW4がオン且つスイッチング素子SW2,SW3がオフの状態と、スイッチング素子SW1,SW4がオフ且つスイッチング素子SW2,SW3がオンの状態とを交互に且つ同時間ずつ実現する。そして、この処理の1周期に対するスイッチング素子SW1,SW4がオンとなる時間(スイッチング素子SW2,SW3がオンとなる時間)の比率(時比率D)によって、出力電圧Voutを制御する。なお、時比率Dが「0.5」よりも小さい場合、スイッチング素子SW1,SW4がオン且つスイッチング素子SW2,SW3がオフの状態、およびスイッチング素子SW1,SW4がオフ且つスイッチング素子SW2,SW3がオンの状態の間と、スイッチング素子SW1,SW4がオフ且つスイッチング素子SW2,SW3がオンの状態、およびスイッチング素子SW1,SW4がオン且つスイッチング素子SW2,SW3がオフの状態の間とに、スイッチング素子SW1〜SW4を全てオフとする状態を設ける。そして、これら一対の期間を本実施形態では、同一時間に設定する。
【0039】
上記トランスTは、1次側コイルW1と2次側コイルW2とを、たとえばフェライトからなる磁心(コア30)によって磁気結合させたものである。コア30は、軸方向に直交する断面積が局所的に縮小された部分(検出用磁心32)を備えている。そして、コア30によって案内されるループ経路のうち検出用磁心32が形成される部分に、コア30よりも透磁率の低いプラスチック等の低透磁率部材Lμが埋め込まれている。検出用磁心32は、検出用コイルWdを貫通する。ここで、検出用コイルWdは、コア30のうち検出用磁心32に接続される部分の断面を検出用磁心32に延長したと想定した場合にその全てを貫通することができないように設定されている。これは、コア30によって案内された磁束の全てが検出用コイルWdを貫通することができないようにするための設定である。
【0040】
検出用コイルWdの両端の電圧は、反転増幅回路(電圧検出回路22)に取り込まれ、所定に変換された後、制御装置20に出力される。制御装置20では、電圧検出回路22の出力電圧に基づき、コア30に直流偏磁が生じたか否かを判断する。以下、これについて図2に基づき説明する。
【0041】
図2(a1)および図2(a2)は、1次側コイルW1の電圧の推移を示し、図2(b1)および図2(b2)は、コア30内の磁束φの推移を示し、図2(c1)および図2(c2)は、検出用コイルWdの鎖交磁束の推移を示し、図2(d1)および図2(d2)は、検出用コイルWdに誘起される電圧の推移を示す。
【0042】
ここでは、まず図2(a1)、図2(b1)、図2(c1)および図2(d1)に基づき、コア30に直流偏磁が生じていない場合について説明する。
【0043】
図示されるように、スイッチング素子SW1,SW4がオン且つスイッチング素子SW2,SW3がオフの状態となることで、1次側コイルW1に入力電圧Vinが印加され、コア30内の磁束φが漸増する。また、スイッチング素子SW1,SW4がオフ且つスイッチング素子SW2,SW3がオンの状態となることで、1次側コイルW1に入力電圧Vinとは逆符号の電圧が印加されることで、コア30内の磁束φが漸減する。ここで、本実施形態では、磁束φの漸増期間と漸減期間とのそれぞれにおいて1次側コイルW1に印加される電圧の絶対値が互いに等しいため、磁束φの漸増速度と漸減速度とが互いに等しくなる。そして、磁束φの漸増期間と漸減期間とが等しく設定されているため、漸増総量と漸減総量とも互いに等しくなる。このため、図示されるように、コア30に直流偏磁が生じていない場合、磁束φは、ゼロを中心に双方向に等量だけ変動する。
【0044】
ここで、検出用磁心32の部分については、低透磁率部材Lμと比較して透磁率が十分に大きい。したがって、磁束は低透磁率部材Lμよりも検出用磁心32に集中しやすいため、検出用磁心32以外のコア30内の磁束密度よりも検出用磁心32の磁束密度の方が迅速に大きくなる傾向があり、結果、検出用磁心32は速やかに磁気飽和する。このため、検出用コイルWdを鎖交する磁束は、検出用磁心32以外のコア30内の磁束φがゼロとなる近傍においてのみ大きく変化するものとなる。なお、実際には、検出用コイルWdと検出用磁心32との間に隙間が生じる場合、検出用コイルWdに磁気飽和が生じても検出用コイルWdの鎖交磁束は変化しうるが、これによる磁束の変化は、検出用磁心32以外のコア30内の磁束がゼロ近傍にあるときにおける検出用コイルWdの鎖交磁束の変化に比べて十分に小さいため、図ではこの現象の記載については割愛している。
【0045】
上記のように、検出用コイルWdが速やかに磁気飽和するため、検出用コイルWdに誘起される電圧は、検出用磁心32以外のコア30内の磁束が略ゼロのときに限ってある程度大きい絶対値を有する値となり、それ以外ではほぼゼロとなる。このため、検出用コイルWdに誘起される電圧は、検出用磁心32以外のコア30内の磁束φのゼロ点検出信号となりうる。
【0046】
ここで、本実施形態では、コア30内の磁束φが漸増する期間と漸減する期間とが同一であり、また、漸増する期間に引き続く期間である磁束φが変化しない期間と、漸減する期間に引き続く期間である磁束φが変化しない期間とも同一である。このため、検出用コイルWdに誘起される電圧が大きくなるタイミング(ゼロクロス検出タイミング)は、等しい時間間隔毎に周期的に生じる。
【0047】
これに対し、図2(a2)、図2(b2)、図2(c2)および図2(d2)に、コア30に直流偏磁が生じている場合を示す。この場合、磁束の振幅中心が磁束のゼロ点からずれるため、検出用コイルWdに誘起される電圧が大きくなるタイミングは、等間隔からずれたものとなる。このため、このずれに基づき、直流偏磁を検出することができる。特に、コア30の磁束φが漸増する際のゼロクロスタイミングからコア30の磁束φが漸減する際のゼロクロスタイミングまでの時間間隔の伸長または短縮に応じて、直流成分の方向をも検出可能である。
【0048】
ちなみに、万一、検出用磁心32以外のコア30に磁気飽和が生じたとしても、低透磁率部材Lμの透磁率の変化は小さい。これは、低透磁率部材Lμに仮に磁気飽和が生じたとしても、その透磁率が真空の透磁率を下回ることがないため、低透磁率部材Lμの透磁率の変化は小さく、特に、低透磁率部材Lμが非磁性であれば磁気飽和が発生しないためである。このため、検出用磁心32に磁気飽和が生じているときのその磁気抵抗と低透磁率部材Lμの磁気抵抗との差の変動は抑制される。このため、検出用磁心32以外のコア30に磁気飽和が生じた場合であっても、検出用磁心32の磁束が大きく増大することがなく、ひいては検出用コイルWdに誘起される電圧がゼロクロスタイミングの誤検出につながるほど大きくなることがない。このため、検出用磁心32以外のコア30に磁気飽和が生じた場合であっても、検出用磁心32以外のコア30の磁束φのゼロクロスタイミングを誤検出することを好適に回避することができる。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0050】
(1)コア30に検出用磁心32を備えた。これにより、検出用磁心32を迅速に磁気飽和する部分とすることができるため、コア30内の磁束のゼロ点を好適に検出することができる。
【0051】
(2)検出用磁心32をコア30と一体的に構成した。このため、低透磁率部材Lμの位置決めを検出用磁心32によって行うことが容易となる。
(3)検出用コイルWdの迂回経路を低透磁率部材Lμとすることで、検出用磁心32以外のコア20が磁気飽和した場合であっても迂回経路の磁気抵抗と磁気飽和した検出用磁心32の磁気抵抗との差の変動を抑制することができ、ひいてはゼロクロスタイミングの誤検出を回避することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0052】
図3に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図3において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0053】
図示されるように、本実施形態では、検出用磁心32がコア30に一体的に構成されて、コア30の突起部となっているものの、その先端部とコア30との間に間隙を有する。そしてこの部分には、低透磁率部材Lμが埋め込まれている。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0054】
図4に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図4において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0055】
図4(a)に示すように、本実施形態では、低透磁率部材Lμが埋め込まれる部分において、コア30に突起部が複数設けられている。そして、このうちの1つが検出用磁心32として検出用コイルWdを貫いている。
【0056】
ここで、コア30は、図4(b)に示すように、2つに分割されたものを組み合わせて構成されるものである。また、低透磁率部材Lμは、図4(c)に示すように、上記コア30の突起部のそれぞれに対応する孔hを有するものとなっており、この孔hに突起部が挿入されることで固定配置される。なお、低透磁率部材Lμには、検出用コイルWdが形成されており、低透磁率部材Lμの端部には、検出用コイルWdの端子が引き出されている。なお、本実施形態にかかる低透磁率部材Lμは、プリント基板によって構成されている。このため、検出用コイルWdは、プリント基板上の配線パターンであってもよい。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0057】
図5に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図5において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0058】
図5(a)に示されるように、本実施形態では、低透磁率部材Lμ内に、検出用磁心32が埋め込まれている。すなわち、検出用磁心32は、コア30とは分離された構成である。これにより、コア30と検出用磁心32とが一体的に構成されている場合(検出用磁心32がコア30の突起部とされる場合)と比較して、低透磁率部材Lμ部分等に力が加わったとしても、コア30が破損する事態を回避することができる。
【0059】
ここで、コア30は、図5(b)に示すように、2つに分割されたものを組み合わせて構成されるものである。また、低透磁率部材Lμには、図5(c)に示すように、検出用磁心32の周囲に検出用コイルWdが収納配置されており、検出用コイルWdの端部は、低透磁率部材Lμから引き出されている。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0060】
図6に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図6において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0061】
本実施形態では、コア30を、3つの足30a,30b,30cを有するEEコアとする。そして、その1つの足30bに、1次側コイルW1および2次側コイルW2の双方を貫通させるとともに、検出用磁心32を設ける。なお、コア30は、一対の磁心に分離可能となっており、分離状態で1次側コイルW1および2次側コイルW2がコア30に巻き付けられる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0062】
図7に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図7において先の図6に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0063】
図示されるように、本実施形態では、コア30の3つの足のうち、1次側コイルW1および2次側コイルW2の双方を貫通する足30b以外の一対の足30a,30cにおいて、その軸方向に直交する断面が小さくなる部分を備える。詳しくは、足30aについては、断面がゼロとなる部分を備え、足30cについては、断面が縮小するもののコア30の突起部として検出用磁心32が形成されている。
【0064】
ここで、足30bにおいても低透磁率部材Lμを設けたのは、検出用磁心32を磁気飽和させやすくするためである。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0065】
図8に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図8において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0066】
図8(a)に示されるように、本実施形態では、1次側コイルW1がボビン40に巻かれるとともに、2次側コイルW2がボビン42に巻かれている。これらボビン40,42は、コア30に挿入されるものである。ここで、ボビン42には、検出用コイルWdが収納されている。これは、図8(b)に示されるように、ボビン42の内径が検出用磁心32を挟み込む部分において小さく設定されており、その部分に検出用コイルWdが埋め込まれる孔44が形成されることで実現されている。
【0067】
なお、図示されるように、コア30は、2つの部分に分離されており、ボビン40,42の挿入後、これら一対の部品が組み合わされる。また、ボビン40,42は、コア30と比較して、透磁率が小さい材料によって形成されることが望ましい。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0068】
図9に、本実施形態にかかるコア30等の構成を示す。なお、図9において先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0069】
図示されるように、本実施形態では、コア30を、薄い鋼板の積層体である電磁鋼板にて構成する。そして、鋼板をコア30の軸線方向において局所的に切断するに際し、部分的に切断しない部分を設けてこれを検出用磁心32とする。
<第9の実施形態>
以下、第9の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0070】
図示されるように、本実施形態では、互いに一方の端部同士が接続された一対の検出用コイルWd1,Wd2を備える。これら検出用コイルWd1,Wd2は、検出用磁心32内の磁束変化に対して誘起される電圧の極性が互いに逆となるように設定されている。そして、互いに接続されていない側の端部がそれぞれダイオードD4,D5を介して電圧検出回路22の一方の入力端子に接続され、互いに接続されている側の端部が電圧検出回路22の他方の入力端子に接続されている。
【0071】
こうした構成によれば、検出用磁心32内の磁束の変化方向にかかわらず、電圧検出回路22の出力電圧を一定方向とすることができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0072】
「高透磁率部材について」
検出用コイルを貫く高透磁率部材としては、磁心と同一材料からなるものに限らず、その周囲(低透磁率部材Lμ)と比較して透磁率が高ければよい。ただし、縮小部分以外の磁心の磁束φがゼロ近傍にあるときとゼロ近傍から離れたときとで検出用コイルWdの誘起電圧の差を大きくする観点から、磁気飽和が生じる前後での透磁率の変化量が大きいものであることが望ましい。また、ゼロ点の検出精度を向上させる上では、磁束密度と磁場とのヒステリシスループのヒステリシス幅(磁束密度B=0となる一対の磁場Hの値の差)が極力小さいものを用いることが望ましい。
【0073】
「縮小部分について」
磁束のループ経路のうち縮小部分に対応する部分に埋め込まれる低透磁率部材Lμとしては、プリント基板に限らない。
【0074】
低透磁率部材Lμやボビン42が埋め込まれる部分とするものに限らない。たとえば周囲の気体によって満たされる部分としてもよい。
【0075】
「基板について」
検出用コイルWdが搭載されて且つ電圧検出回路22が搭載されないものに限らず、電圧検出回路22をも搭載するものであってもよい。
【0076】
「複数の経路に分岐する構造を有した磁心について」
上記第6の実施形態において、検出用コイルWdが設けられない低透磁率部材Lμ側についても、検出用磁心32と同様の突起を設けてもよい。また、この突起をも検出用磁心として、検出用コイルWdをこれら一対の検出用磁心によって貫通するようにしてもよい。
【0077】
複数の経路に分岐する構造としては、EEコアに限らない。たとえば、さらに1つ分岐する経路を備えていてもよい。
【0078】
「高透磁率部材の別体構造について」
上記第4の実施形態では、検出用磁心が低透磁率部材Lμに埋め込まれてコア30に接触しない構成を例示したが、接触してもよい。
【0079】
「金属薄板の積層体としての磁心について」
上記第8の実施形態では、金属薄板を切断するに際して切断せずに残した1枚を検出用磁心32としたがこれに限らず、たとえば一部であって且つ複数の金属薄板によって検出用磁心を構成してもよい。また、検出用磁心とするもの以外でも、強度の観点から一部切断されない金属薄板があってもよい。
【0080】
「絶対値検出手段について」
検出用コイルWdを1つとする代わりに、たとえば、これらの一対の端子のそれぞれを2組の配線に接続し、各組のうち一方ずつに、整流手段を備えるようにしてもよい。またたとえば、1つの検出用コイルWdの一対の端子と非反転入力端子および反転入力端子との接続が互いに逆となる2組の比較器と、これら比較器の出力のうち大きい方を選択する回路とを備えてもよい。
【0081】
なお、整流手段としては、ダイオードに限らず、たとえばサイリスタ等であってもよい。
【0082】
「電圧検出手段について」
オペアンプを備えて構成されるものに限らないことについては、「絶対値検出手段について」の欄に記載したとおりである。
【0083】
「偏磁検出手法について」
ゼロクロス検出タイミング間の間隔に基づくものに限らない。ちなみに、たとえば1次側コイルW1に正の電圧を印加する場合と負の電圧を印加する場合とで印加電圧の絶対値が相違する場合等にあっては、ゼロクロス検出タイミング間の間隔が一定であることは偏磁が生じていないことを意味しない。このため、偏磁が生じていないと想定される場合のゼロクロス検出タイミングからのずれに基づき、適宜偏磁の有無を判断することが望ましい。
【0084】
「磁心について」
フェライトや電磁鋼板に限らず、たとえばダストコア等であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
30…コア、32…検出用磁心、Wd…検出用コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主コイルを貫くループ経路を構成する磁心内における磁束のゼロ点検出装置において、
前記磁心は、その断面積が縮小した縮小部分を有し、
前記縮小部分に対応する前記ループ経路の断面は、前記磁心よりも透磁率の低い部分と、該部分よりも透磁率の高い高透磁率部材を備える部分とを含み、
前記ループ経路のうち前記縮小部分に対応する部分の一部であって且つ前記高透磁率部材を含む部分が貫通する検出用コイルと、
前記検出用コイルに誘起される電圧を検出する電圧検出手段とを備えることを特徴とする磁束のゼロ点検出装置。
【請求項2】
前記高透磁率部材は、前記磁心と一体的に形成された該磁心の突起であることを特徴とする請求項1記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項3】
前記高透磁率部材は、前記磁心とは別体であることを特徴とする請求項1記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項4】
前記磁心は、金属薄板の積層体であり、
前記縮小部分は、前記積層体を構成する金属薄板の一部が削除されて構成されるものであり、
前記高透磁率部材は、前記積層体のうち前記削除されなかった残りの金属薄板によって構成されていることを特徴とする請求項1記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項5】
前記縮小部分には、基板が埋め込まれており、
該基板には、前記高透磁率部材が貫通する孔が形成されて且つ、該孔の周囲に前記検出用コイルが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項6】
前記主コイルと前記磁心との間に、ボビンを備え、
該ボビンは、前記ループ経路のうち前記縮小部分に対応する部分に埋め込まれる部分を有するとともに、該埋め込まれる部分に、前記検出用コイルが内蔵されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項7】
前記磁心は、複数の経路に分岐する構造を有し、
前記縮小部分は、前記分岐した磁心のそれぞれに設けられ、
前記高透磁率部材および前記検出用コイルは、前記分岐した複数の部分の少なくとも1つに対応して設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項8】
前記電圧検出手段は、前記検出用コイルに誘起される電圧の絶対値を出力する絶対値検出手段であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁束のゼロ点検出装置。
【請求項9】
前記絶対値検出手段は、前記高透磁率部材内の磁束の変化に応じて誘起される電圧の極性が互いに逆となる端子に整流手段が接続された前記検出用コイルとしての一対のコイルと、該一対のコイルの出力電圧の最大値を選択する最大値選択手段とを備えることを特徴とする請求項8記載の磁束のゼロ点検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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