説明

磁歪力センサ、磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法

【課題】十分な感度を有する磁歪力センサ、これに用いる磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法を提供する。
【解決手段】磁歪力センサは、特定の方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材を備えたものである。
磁歪力センサ用板状部材の製造方法は、長手方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなる磁歪力センサ用板状部材を製造するに際して、一方向に柱状晶組織を形成した凝固部材又は鋳造部材から柱状晶の方向に板状部材を切り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪力センサ、磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法に関する。
更に詳細には、本発明は、所定の磁歪材を備えた磁歪力センサ、これに用いる磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制御分野においては、廉価で小型な力センサの開発が望まれており、力センサの研究開発がされている。例えばブレーキ力が検知できると、車両の総合制御が可能になり、省燃費な車両を実現することができる。
また、トルクセンサについても開発が望まれている。例えば電動パワーステアリングにはトルクセンサが必須であり、変位方式のトルクセンサが採用されているが、低価格化の要望があり、磁歪方式のトルクセンサの研究開発がなされている。更に、次世代のステアリングであるステア・バイ・ワイヤにおいても廉価なトルクセンサの要望がある。
これに対して、センサ感度に優れた磁歪力センサや応力を精度良く検出し得る磁歪力センサが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−26210号公報
【特許文献2】特開2008−268175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載された磁歪力センサについても、実用的なセンサとしては、感度について改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、十分な感度を有する磁歪力センサ、これに用いる磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。そして、その結果、所定の磁歪材を備えたものとすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の磁歪力センサは、特定の方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の磁歪力センサ用板状部材の製造方法は、長手方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなる磁歪力センサ用板状部材を製造するに際して、一方向に柱状晶組織を形成した凝固部材又は鋳造部材から柱状晶の方向に板状部材を切り出すことを特徴とする。
【0009】
本発明の磁歪力センサ用リング状部材は、周方向における磁歪の大きさがその方向に直交する軸方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなるリング状部材であって、柱状晶組織がリング状部材の径方向に向いていることを特徴とする。
【0010】
本発明の磁歪力センサ用リング状部材の製造方法は、周方向における磁歪の大きさがその方向に直交する軸方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなるリング状部材であって、柱状晶組織がリング状部材の径方向に向いている磁歪力センサ用リング状部材を製造するに際して、径方向に柱状晶を形成した鋳造部材からリング状部材を切り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材を備えたものとすることにより、十分な感度を有する磁歪力センサ、これに用いる磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の磁歪力センサの模式的な説明図である。
【図2】従来の他の磁歪力センサの模式的な説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る磁歪力センサに用いる板状部材の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る磁歪力センサ用板状部材の製造方法における応力下熱処理の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る磁歪力センサの説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る磁歪力センサ用リング状部材の製造方法における鋳造部材の模式的な断面説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る磁歪力センサ用リング状部材の模式的な説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る磁歪力センサ用リング状部材の製造方法における応力下熱処理の説明図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る磁歪力センサ用リング状部材の製造方法における拡径変形の説明図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る磁歪力センサ用リング状部材の模式的な説明図である。
【図11】実施例6における磁歪力センサ用リング状部材における磁歪測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の磁歪力センサ、磁歪力センサ用板状部材の製造方法、磁歪力センサ用リング状部材及び磁歪力センサ用リング状部材の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
まず、磁歪力センサの構成について従来例を用いて説明する。
図1は、従来の磁歪力センサの説明図である。特許文献2の図18及び図19に相当する図である。同図に示すように、磁歪板の片側に永久磁石が配置されており、反対側にホールICが配置されている(図1(a)参照。)。永久磁石の漏れ磁束はホールICによって検知される。磁歪板に矢印で示す圧縮力が働くと漏れ磁束が増すので応力が検知できる(図1(b)参照。)。
図2は、従来の他の磁歪力センサの説明図である。特許文献1の図14及び図2に相当する図である。同図に示すように、軸に磁歪リングが勘合して配置されており、周方向に着磁されている。トルクをかけるとリングから漏れ磁束が発生するので、図示したように配置されたホールICによって検知できる(図2(a)参照。)。そして、印加トルクの方向に対応した信号が得られる(図2(b)参照。)。軸に勘合している磁歪リングには周方向に引張応力が働いているので、周方向には着磁成分がより多く残っている。すなわち、応力誘起の磁気異方性を活用しているわけである。
【0015】
次に、本発明の磁歪力センサについて、磁歪材が板状部材である場合を例に挙げて説明する。立方晶金属の場合、凝固の際に熱流の方向に柱状晶が伸びるため、好適に用いることができる。特に、Fe49Co49やFe80Ga15Al、(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5の場合は、<100>方位の方向の柱状晶が熱流の方向に伸びるため好適である。これらの磁歪合金は結晶構造が体心立方晶(BCC)の合金であって、磁化容易方向も<100>である。
ここでは、凝固部材から板状部材を切り出す(図3参照。)。もちろん鋳造部材から切り出してもよい。例えば、合金組成が(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5であり、結晶粒サイズが約50μmであり、柱状晶の方向が図3中の矢印で示す方向であり、幅8mm、長さ12mm、厚さ1mmである板状部材を切り出した後(機械加工後)、550℃で2.5時間熱処理して、板長手方向の磁歪を測定すると、100ppmである。一方、凝固部材の等軸晶部分から同サイズの板状部材を切り出した後、550℃で2.5時間熱処理して、板長手方向の磁歪を測定すると、50ppmとなる。
感度が高くなるとセンサにおける信号処理コストを低下させることができるという観点で有利であり、特に温度特性の確保が容易になる。
さて、ここで、磁歪の測定方法について定義する。板長手方向の磁歪とは、歪ゲージを板長手方向に貼り、磁場を板長手方向に印加して測った磁歪のことである。ここで対象としている材料は磁歪が正なので伸びる(後述するように、この状態にて歪ゲージに対して磁場を印加する方向を直交させて測定するとマイナス(負、縮む)の磁歪となる。)。
【0016】
次に、板状部材に引張応力を付与した状態で熱処理する場合について一例を挙げて説明する。
図4は、磁歪力センサ用板状部材の製造方法における応力下熱処理の断面説明図である。額縁状試料は、両サイドが薄い板状(幅8mm、厚さ1mm)となっている。図中の矢印の方向が柱状晶組織の方向になるように額縁状試料を例えば凝固部材から切り出す。また、額縁状試料に冷やし嵌め状態で入るブロック状部材を、同じ材料から切り出す。なお、ブロック状部材の組織状態は特に問わない。額縁状部材の両サイドの板状部分における引張応力の大きさを約200MPaになるように、ブロック状部材の長さは決定する(額縁状試料の内側長さに対して、約20μm程、ブロック状部材を長くすることにより実現することができる。)。室温にて冷やし嵌めし、真空中、2時間、640℃にて熱処理を行う。
熱処理の温度は、規則相出現温度以上であることが好適である。このFeGa系組成の合金では、FeAlタイプの規則相(BCC)が500℃程度以下では出現することが知られている。
熱処理後、額縁状試料の薄い板状部分より長さ12mmの板状試料をワイヤカットにて切り出し、長手方向の磁歪を測定すると、磁歪の大きさは30ppmとなっており、上記した柱状晶組織のものよりも大幅に減少することになる。一方、幅8mmの方向に磁場を印加して測定した磁歪は−110ppmとなる。比較のために、再度上記応力下熱処理を行っていない柱状晶組織の板状部材に同様な磁場印加モードでの磁歪を測定すると磁歪は−90ppmとなる。したがって、応力下熱処理で、柱状晶方向に対する磁歪の大きさは約22%増加することになる。すなわち、柱状晶方向を向いている磁区の割合が大幅に増していると解釈することができる。
【0017】
図5は、本発明の一実施形態に係る磁歪力センサの説明図であって、応力センサとしての使用状態を示す図である。測定部材(応力を検知したい部材)には、SUS303又はSUS304製のベース部材が例えばロウ付けされている。ベース部材には磁歪材からなる板状部材(磁歪板)が収まっている。磁歪板の両側には永久磁石とホールICが配置されている。測定部材に図示するような力が働くと、磁歪板に圧縮力がかかるため、漏れ磁束が増加し、力が検知できる。なお、応力センサの感度は板長手方向に磁歪が異方化しているものほど高くなる。
【0018】
次に、本発明の磁歪力センサについて、磁歪材がリング状部材である場合を例に挙げて説明する。例えば、(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5合金を銅鋳型に鋳込み、円柱状の鋳造部材を得る。円柱状鋳造部材の軸方向の中央付近における垂直断面を図6に示す。銅鋳型に熱が吸収されるため、径方向に柱状晶ができることになる。図6中の2点鎖線に沿ってリングを切り出すと、柱状晶が径方向に突き抜けたリング状部材(図7(a)参照。)を得ることができる。リング状部材の表面には柱状晶の垂直断面が現れて、粒径はほぼ円形である(図7(b)参照。)。粒サイズは約50μmである。550℃で2.5時間熱処理を行い、軸方向に磁場を印加して磁歪を測定すると、磁歪の大きさは60ppmである。一方、同様に作成したリング状部材(熱処理なし)を、同組成の合金製の軸部材に冷やし嵌めし(図8参照。)、リング状部材における周方向の引張応力を200MPaとした状態(約20μmの冷やし嵌めで達成することができる。)において、真空中、2時間、640℃にて熱処理を行うと、熱処理後の軸方向における磁歪は70ppmに増加(約17%増加)する。
なお、歪ゲージの方向は軸方向である。また、リングの場合には軸方向にしか磁場印加できないという事情がある。
【0019】
このようなリング状部材を磁歪力センサとしたときのねじり感度について説明する。リングを10μmの冷やし嵌めでSUS製の軸に勘合する。そして、軸に約8500A通電することにより、周方向に着磁する。+/−5Nmにて測定すると、ねじり感度はそれぞれ0.5G/Nm、0.6G/Nmとなり、その増加の程度は、ほぼ磁歪量の増加の割合と一致する。
【0020】
次に、(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5合金の場合を例に挙げて、周方向に異方化することについて説明する。図9は、リング状部材を拡径する治具等の説明図である。まず、図7に示すようなリング状部材を作製する。そして、図9に示すようにセットする。例えばホットプレス装置を利用する場合、装置内にセットすると好都合である。700℃に所定の時間(例えば30分間)保持した後に、パンチを押してリング状部材を塑性変形する。なお、700℃はFeGa系組成の合金において規則相が出現する温度よりも高温の状態である。パンチ及び台座は日立金属製マルエージング鋼YAG300を機械加工することにより作製し、時効処理等を施さずに、そのまま用いることができる。なお、パンチの外径をリングの内径より20%大きくすると、20%拡径変形させることができる。このような塑性変形により、リング状部材の表面における結晶粒の形は、図10に示すように周方向に伸びた形となる。なお、この場合における扁平率(楕円の長径と短径の差の短径に対する比率)は約20%となる。
また、リング状部材の形状を整えるために追加の機械加工を施す場合には、熱処理を追加して行うことが好ましい。550℃で2.5時間の熱処理が好適である。また、引き続き、上記説明した引張応力を付与した状態で熱処理を行ってもよい。
なお、拡径変形後、そのままリング状部材として採用できる場合には、パンチを押し込んだまま、更に1時間保持することで熱処理の代わりとすることができる。その場合には、引張応力を付与した状態で熱処理を行った場合と同様の効果を得ることができる。
例えば、円柱状の鋳造部材よりリング状部材を切り出し、700℃にて20%拡径変形した後、直ちに炉冷する。次いで、取り出したリング状部材(リング状部材のみの状態)を550℃で2.5時間熱処理を行うと、リング状部材の軸方向の磁歪の大きさは80ppmとなり、拡径変形しない場合に比べて大幅に増加する。
この状態のリング状部材に対して、更に引張応力下での熱処理(引張応力:200MPa、雰囲気:真空中、時間:2時間、温度:640℃)を行うと、リング状部材の軸方向の磁歪の大きさは95ppmとなり、更に増加する。
一方、700℃における拡径変形後、パンチを押し込んだ状態のまま、更に1時間保持した後に、炉冷して、取り出したリング状部材における軸方向の磁歪の大きさは約95ppmとなり、引張応力下熱処理の場合と同レベルとなる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5合金の凝固部材から図3に示すような柱状晶組織を有する板状部材(幅:8mm、長さ:12mm、厚さ:1mm、結晶粒サイズ:約50μm)を切り出した。なお、比較のために、凝固部材の等軸晶部分からも同サイズの板状部材を切り出した。これらの板状部材を550℃で2.5時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用板状部材(磁歪板)を得た。板状部材の長手方向の磁歪を測定したところ、等軸晶組織の板状部材では磁歪の大きさが50ppmであったが、柱状晶組織の板状部材では磁歪の大きさが100ppmであった。
また、永久磁石としてφ6mm、厚さ1.6mmのSmCo磁石を用意した。なお、磁石単体での端面の磁束密度は約2.1kGであった。また、磁気ピックアップとしてホールICを用意した。
これらを用いて、図5に示す本例の磁歪力センサを作製した。なお、永久磁石は板状部材との間に0.1mmのギャップを設けて取り付けた。また、ホールICは板状部材から約0.5mm位置での磁束を検知している。
柱状晶組織の板状部材の場合に、この磁歪力センサの感度を測定したところ、磁歪板での応力値で換算して、感度は約1G/MPa(図1(b)における傾きに相当。)となっていて、圧縮応力50MPaの範囲で直線的な特性となっていた。また、等軸晶組織の板状部材では感度は約半分であった。
【0023】
(実施例2)
図4に示すような(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5合金の額縁状の試料(両サイドが薄い板状になっている。)に同じ材料ブロック状部材を冷やし嵌めした。このとき、両サイドの板状部分における引張応力の大きさが約200MPaになるように、ブロック状部材の長さを決定した(試料の内側長さに対して、ブロック状部材の長さを約20μm程長くした。)。この試料を真空中、2時間、640℃にて熱処理を行った。両サイドの板状部分から図4に示すような柱状晶組織を有する板状部材(幅:8mm、長さ:12mm、厚さ:1mm)を切り出して、本例で用いる磁歪力センサ用板状部材(磁歪板)を得た。本例で得られた磁歪力センサ用板状部材を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の磁歪力センサを作製した。
この磁歪力センサの感度を測定したところ、磁歪板での応力値で換算して、感度は約1.2G/MPaとなっていた。
【0024】
(実施例3)
Fe80Ga15Al合金の凝固部材から図3に示すような柱状晶組織を有する板状部材(幅:8mm、長さ:12mm、厚さ:1mm、結晶粒サイズ:400μm程度)を切り出した。結晶粒サイズは、上記実施例で用いたものに比して大きいことが分かる。この板状部材を、550℃で2.5時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用板状部材(磁歪板)を得た。本例で得られた磁歪力センサ用板状部材を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の磁歪力センサを作製した。
この磁歪力センサの感度を測定したところ、磁歪板での応力値で換算して、感度は約1.5G/MPaであった。この合金の場合、直線的な特性の圧縮応力範囲が30MPaと狭かった。この合金の機械的な強度が小さいことを反映していると考えられる。
【0025】
(実施例4)
(Fe80Ga15Al99Zr0.50.5合金を銅鋳型に鋳込み、円柱状の鋳造部材を得た。円柱状の鋳造部材の軸方向の中央付近における垂直断面を図6に示す。銅鋳型に熱が吸収されるため、径方向に柱状晶ができていた。次いで、図6の2点鎖線に沿ってリング状部材(内径:12.6mm、外径:14.2mm、長さ:13mm)を切り出した。また、柱状晶は径方向に突き抜けていた(図7(a)参照。)。また、リング状部材の表面には柱状晶の垂直断面が現れており、粒径はほぼ円形であった(図(b)参照。)。また、結晶粒サイズは約50μmであった。このリング状部材を550℃で2.5時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。軸方向に磁場を印加して磁歪を測定したところ、磁歪の大きさは60ppmであった。
一方、同様に作製したリング状部材(熱処理無し)を、同組成の合金製軸に冷やし嵌めした(図8参照。)。リング状部材における周方向の引張応力は、200MPaであった(約20μmの冷やし嵌めで達成することができる。)。この状態で、真空中、2時間、640℃にて熱処理を行って、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。熱処理後の軸方向における磁歪は70ppmに増加していた(約17%増加)。
これらを用いて図2に示すような本例の磁歪力センサを作製した。磁歪力センサ用リング状部材は10μmの冷やし嵌めでSUS303製の軸(軸径:12.6mm)に勘合し、軸に約8500A通電することにより、周方向に着磁した。
これらの磁歪力センサのねじり感度を+/−5Nmにて測定したところ、それぞれ0.5G/Nm、0.6G/Nmであって、その増加の程度は、ほぼ磁歪量の増加割合と一致していた。
【0026】
(実施例5)
実施例4と同様にして、同合金にてリング状部材(内径:10mm、外径:13mm、長さ:15mm)を作製した。次いで、日立金属製マルエージング鋼によって作製したパンチ及び台座を用いて20%の拡径変形を行った。その後、機械加工して、内径12.6mm、外径14.2mm、長さ13mmのリング状部材とした。このリング状部材を550℃で2.5時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。なお、リング状部材の表面における結晶粒サイズは約50μmであって、周方向に約20%伸びた形状となっていた(すなわち、扁平な楕円形状)。
一方、別に用意した機械加工後のリング状部材を同組成の軸部材に冷やし嵌めし、リング部材における周方向の引張応力を200MPaとした状態(約20μmの冷やし嵌めで達成することができる。)において、真空中、2時間、640℃にて熱処理を行って、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。
これを用いて図2に示すような本例の磁歪力センサを作製した。磁歪力センサ用リング状部材は10μmの冷やし嵌めでSUS303製の軸(軸径:12.6mm)勘合し、軸に約8500A通電することにより、周方向に着磁した。
これらの磁歪力センサのねじり感度を+/−5Nmにて測定したところ、それぞれ0.7G/Nm、0.8G/Nmであって、拡径した場合にはねじり感度も向上していた(実施例4参照。)。
【0027】
(実施例6)
Fe49Co49合金を銅鋳型に鋳込み、円柱状の鋳造部材を得た。円柱状の鋳造部材の軸方向の中央付近における垂直断面を図6に示す。銅鋳型に熱が吸収されるため、径方向に柱状晶ができていた。次いで、図6の2点鎖線に沿ってリング状部材(内径:12.6mm、外径:14.2mm、長さ:13mm)を切り出した。また、柱状晶は径方向に突き抜けていた(図7(a)参照。)。また、リング状部材の表面には柱状晶の垂直断面が現れており、粒径はほぼ円形であった(図7(b)参照。)。また、結晶粒サイズは約40μmであった。このリング状部材を850℃で3時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。熱処理後の軸方向の磁歪の大きさは70ppmであった。
一方、同様に作製したリング状部材(熱処理無し)を、同組成の合金製軸に冷やし嵌めした(図8参照。)。リング状部材における周方向の引張応力は100MPaであった(約10μmの冷やし嵌めで達成することができる。)。この状態で、3時間、850℃にて熱処理を行って、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。なお、Fe49Co49合金の場合、規則相FeCoは730℃で出現することが知られている。したがって、熱処理温度は規則相出現温度以上となっている。軸方向磁歪のデータを図11に示す。横軸は磁場印加のために電磁石に流した電流でプロットしてあるが、磁場とみなせる量である。磁場は+/−8kOe印加している。磁場(H)印加の方向はリング軸方向であった。軸方向に貼った歪ゲージの値が軸方向磁歪である(系列1のデータ)。磁場に対して垂直に貼った歪ゲージでの磁歪は−である(系列2のデータ)。図11に示すように、軸方向の磁歪は約90ppmとなっていて、応力下熱処理しない場合に対して約28%増加していることが分かる。
これらを用いて図2に示すような本例の磁歪力センサを作製した。磁歪力センサ用リング状部材は10μmの冷やし嵌めでSUS303製の軸(軸径:12.6mm)に勘合し、軸に約8500A通電することにより、周方向に着磁した。
これらの磁歪力センサのねじり感度を+/−5Nmにて測定したところ、ねじり感度は、それぞれ1.0G/Nm、1.3G/Nmであった。応力下熱処理した場合には約3割ねじり感度も向上していた。
【0028】
(実施例7)
Fe49Co49合金を銅鋳型に鋳込み、円柱状の鋳造部材を得た。円柱状の鋳造部材の軸方向の中央付近における垂直断面を図6に示す。銅鋳型に熱が吸収されるため、径方向に柱状晶ができていた。次いで、図6の2点鎖線に沿ってリング状部材(内径:10mm、外径:13mm、長さ:15mm)を切り出した。次いで、日立金属製マルエージング鋼によって作製したパンチ及び台座を用いて、800℃にて20%の拡径変形を行った。その後、Fe49Co49合金の場合、730℃で規則相が出現するが、この温度より高い温度なので割れることもなく変形させることができた。その後、機械加工して、内径12.6mm、外径14.2mm、長さ13mmのリング状部材とした。このリング状部材を800℃で3時間熱処理して、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。リング表面における結晶粒を観察したところ、周方向に約20%伸びた粒径サイズとなっていた(扁平率約20%)。
一方、同様に作製したリング状部材(熱処理無し)を、同組成の合金製軸に冷やし嵌めした(図8参照。)。リング状部材における周方向の引張応力は、100MPaであった(約10μmの冷やし嵌めで達成することができる。)。この状態で、3時間、800℃にて熱処理を行って、本例で用いる磁歪力センサ用リング状部材を得た。
リング状部材の軸方向磁歪は応力下熱処理なしの場合が約95ppmであり、応力下熱処理ありの場合は約110ppmとなっていた(約16%増加)。
これらを用いて図2に示すような本例の磁歪力センサを作製した。磁歪力センサ用リング状部材は10μmの冷やし嵌めでSUS303製の軸(軸径:12.6mm)に勘合し、軸に約8500A通電することにより、周方向に着磁した。
これらの磁歪力センサのねじり感度を+/−5Nmにて測定したところ、ねじり感度は、それぞれ1.4G/Nm、1.7G/Nmであった。応力下熱処理した場合には約2割ねじり感度も向上していた。
【0029】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、磁気検知部のセンサとしてはホールICのみを例に挙げて説明したが、本発明においては、省電力且つ小型であるGMRやMIセンサを適用することもできる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材を備えたことを特徴とする磁歪力センサ。
【請求項2】
上記磁歪材は、結晶構造が立方晶の合金であることを特徴とする請求項1に記載の磁歪力センサ。
【請求項3】
上記磁歪材は、結晶構造が体心立方晶の合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁歪力センサ。
【請求項4】
上記磁歪材が、FeGaAl合金又はFeCoV合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の磁歪力センサ。
【請求項5】
上記磁歪材が板状部材であって、該板状部材の長手方向が上記特定の方向であることを特徴とする請求項1に記載の磁歪力センサ。
【請求項6】
上記磁歪材からなる板状部材の一方の面に永久磁石が配置され、他方の面に磁気検知部が配置され、
上記板状部材の長手方向に圧縮力が作用したときの漏れ磁束の増加を検知することにより該板状部材に働く応力を検知することを特徴とする請求項5に記載の磁歪力センサ。
【請求項7】
長手方向における磁歪の大きさがその方向に直交する方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなる磁歪力センサ用板状部材を製造するに際して、一方向に柱状晶組織を形成した凝固部材又は鋳造部材から柱状晶の方向に板状部材を切り出すことを特徴とする磁歪力センサ用板状部材の製造方法。
【請求項8】
上記板状部材を製造するに際して、柱状晶の方向に引張応力を付与した状態で熱処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の磁歪力センサ用板状部材の製造方法。
【請求項9】
上記熱処理の温度が規則相出現温度以上であることを特徴とする請求項8に記載の磁歪力センサ用板状部材の製造方法。
【請求項10】
上記磁歪材がリング状部材であって、該リング状部材の周方向が上記特定の方向であることを特徴とする請求項1に記載の磁歪力センサ。
【請求項11】
軸と、上記磁歪材からなるリング状部材と、磁気検知部とを備え、
上記リング状部材が上記軸に勘合して配置され、上記磁気検知部が上記リング状部材に近接配置され、
上記リング状部材が周方向に着磁されており、
上記軸にトルクがかかったときに、上記リング状部材からの磁束漏れの大きさを上記磁気検知部にて検知する非接触方式の磁歪式トルクセンサであることを特徴とする請求項10に記載の磁歪力センサ。
【請求項12】
上記リング状部材の軸方向に磁界を印加して測定した該軸方向の磁歪の大きさが異方性を付与していない場合に比して大きいことを特徴とする請求項11に記載の磁歪力センサ。
【請求項13】
上記軸方向の磁歪の大きさが10%以上大きくなっていることを特徴とする請求項12に記載の磁歪力センサ。
【請求項14】
周方向における磁歪の大きさがその方向に直交する軸方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなるリング状部材であって、柱状晶組織がリング状部材の径方向に向いていることを特徴とする磁歪力センサ用リング状部材。
【請求項15】
上記柱状晶の垂直断面における結晶粒の形がリング状部材の周方向に伸びた形であることを特徴とする請求項14に記載の磁歪力センサ用リング状部材。
【請求項16】
上記柱状晶の扁平度が10%以上であることを特徴とする請求項15に記載の磁歪力センサ用リング状部材。
【請求項17】
周方向における磁歪の大きさがその方向に直交する軸方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなるリング状部材であって、柱状晶組織がリング状部材の径方向に向いている磁歪力センサ用リング状部材を製造するに際して、径方向に柱状晶を形成した鋳造部材からリング状部材を切り出すことを特徴とする磁歪力センサ用リング状部材の製造方法。
【請求項18】
周方向における磁歪の大きさがその方向に直交する軸方向における磁歪の大きさより大きい磁歪材からなるリング状部材であって、柱状晶組織がリング状部材の径方向に向いており、該柱状晶の垂直断面における結晶粒の形がリング状部材の周方向に伸びた形である磁歪力センサ用リング状部材を製造するに際して、径方向に柱状晶を形成した鋳造部材からリング状部材を切り出し、規則相出現温度以上の温度域にて塑性変形を行うことを特徴とする磁歪力センサ用リング状部材の製造方法。
【請求項19】
上記リング状部材を製造するに際して、周方向に引張応力を付与した状態で熱処理を行うことを特徴とする請求項17又は18に記載の磁歪力センサ用リング状部材の製造方法。
【請求項20】
上記熱処理の温度が規則相出現温度以上であることを特徴とする請求項19に記載の磁歪力センサ用リング状部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−98154(P2012−98154A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246051(P2010−246051)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業「育成ステージ」ステア・バイ・ワイヤ用FeGa(Galfenol)力センサの開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)