説明

磁気コア及びこれを利用した電流センサユニット

【課題】容易に加工できると共に、小型化を図ることができ、かつ、エアギャップを通過する磁束を、ホール素子でより確実に検出できる磁気コアを提供すること。
【解決手段】板状の磁性体12を略環状に曲げて磁気コア10を形成する。磁性体12の両端部12a,12bは、その環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすようにして、かつ、所定間隔空けて重なるように配設され、これらの間にエアギャップ14が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被計測電流を検出するための電流センサ用の磁気コア及びこれを利用した電流センサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図14は、電流センサ用の磁気コアの一例を示す図である。
【0003】
この磁気コア510は、略C字状の外観形状を有しており、その両端部が所定間隔空けて対向配置されることで、所定のエアギャップ514が形成された構成とされている。
【0004】
そして、磁気コア510に囲まれた空間内に、所定の電流経路を貫通するようにして配設すると、その電流経路を流れる被計測電流によって発生する磁束が、磁気コア510により形成される磁路内に収束される。この収束された磁束を、エアギャップ514に配設したホール素子520で検出することで、前記被計測電流が検出される。
【0005】
このような磁気コア510は、通常、ケイ素鋼板やパーマロイ等の板材を積層したものや、これらの条材を打ち抜き加工したもの、或いは、パーマロイやフェライト等の粉を固めた粉合材等で形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような磁気コア510では、板材を積層したり、所定太さの条材を打ち抜いたり、また、粉材を固める等の複雑な加工を行う必要があり、製造コスト増を招く。
【0007】
また、板材の積層体や、所定太さの条材の打ち抜き加工体、粉材を固めたもの等で構成されているため、磁気コア510が大型になるという問題もある。
【0008】
特に、上述のような磁気コア510では、両端面510a,510b間のエアギャップ514の磁束を、ホール素子520でより確実に検出するためには、エアギャップ514の断面をある程度大きくする必要があり、そうすると、磁気コア510全体が大型化する傾向にある。
【0009】
すなわち、磁気コア510のエアギャップ514における磁束を検出するためには、該エアギャップ514を通過する磁束がホール素子520を通過するようにする必要がある。そのためには、エアギャップ514の断面(即ち、端面510a,510b)の大きさをホール素子520と略同じかそれよりも大きくすることが要請される。
【0010】
そして、磁気コア510の中間部の断面積を、エアギャップ514(端面510a,510b)の空間断面積よりも小さくしてしまうと、以下の理由により、磁気コア510で磁束が飽和し易くなってしまう。
【0011】
つまり、磁気コア510で生じる起磁力Uは、下記式(1)で表される。
【0012】
U=N・I=Hg・Lg+Σ(Hm・Lm)・・・(1)
(但し、Nは磁気コアに対する電流経路の巻数、Iはその電流経路に流れる電流値、Hgはエアギャップでの磁界の強さ、Lgはエアギャップの長さ、Hmは磁気コアでの磁界の強さ、Lmは磁気コアの長さ)
ここで、磁束密度と透磁率と磁界の強さの間に、Bg=μ0・Hg、Bm=μm・Hm、(但し、Bgはエアギャップでの磁束密度、μ0は真空の透磁率、Bmは磁気コアでの磁束密度、μmは磁気コアの透磁率)の関係があり、式(1)を下記式(2)と表すことができる。
【0013】
U=N・I=Hg・Lg+Σ(Hm・Lm)=Bg・Lg/μ0+Σ(Bm・Lm/μm )・・・(2)
そして、磁気コア510の透磁率μmは、通常、10000〜100000程度であり、真空の透磁率μ0は1.26×10-6、であるから、磁気コア510の長さが十分に短い場合、式(2)の第2項”Σ(Bm・Lm/μm )”は、第1項”Bg・Lg/μ0”と比較して遙かに小さい値なので、相対的に無視できる。
【0014】
とすると、N・I=Bg・Lg/μ0、から、エアギャップ514での磁束密度は、下記式(3)で表される。
【0015】
Bg=N・I×(μ0/Lg)・・・(3)
つまり、エアギャップ514での磁束密度Bgは、磁気コア510に対する電流経路の巻数N、その電流経路に流れる電流値I、エアギャップ514の長さLgに応じた値となる。
【0016】
一方、磁気コア510によって構成される磁気回路において、磁束Φは一定であることから、下記式(4)が成立する。
【0017】
Φ=Bg・Ag=Bm・Am・・・(4)
(但し、Agはエアギャップの空間断面積、Amは磁気コアの断面積)
そして、エアギャップ514の空間断面積Agと、磁気コア510の断面積Amとが等しい場合には、式(4)から、Φ=Bg=Bm、となり、エアギャップ514での磁束密度Bgと、磁気コア510での磁束密度Bm、とは同じとなる。
【0018】
ところが、エアギャップ514の断面積Agと、磁気コア510の断面積Amとが異なる場合には、式(4)から、磁気コア510での磁束密度Bmは、下記式(5)のように表される。
【0019】
Bm=Bg×(Ag/Am)・・・(4)
とすると、エアギャップ514の断面積Agよりも、磁気コア510の断面積Amを小さくすると、磁気コア510で磁束が飽和し易くなってしまう。
【0020】
このため、磁気コア510の断面積Amを、例えばその中間部(端面510a,510bを除く部分)においてエアギャップ514の空間断面積Ag(端面510a,510bの面積と略同じ)よりも小さくするのは好ましくなく、磁気コア510の中間部の断面積を、エアギャップ514の空間断面積Ag(端面510a,510bの面積と略同じ)と略同じか、或いは、それよりも大きくする必要がある。
【0021】
以上より、磁気コア510の中間部の断面積を、ホール素子520の大きさと同じかそれよりも大きな断面積を持たせる必要があり、従って、磁気コア510が大型化することになるのである。
【0022】
そこで、本発明の第1の課題は、容易に加工できかつ小型化を図ることができる磁気コア及びこれを利用した電流センサユニットを提供することであり、第2の課題は、上記第1の課題を前提とした上で、エアギャップにおける磁束を、ホール素子でより確実に検出できる磁気コア及びこれを利用した電流センサユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1の課題を解決するため、この発明に係る磁気コアは、両端部間にエアギャップを形成するようにして略環状に曲げられた板状の磁性体を備えている。
【0024】
また、第2の課題を解決するため、前記磁性体の前記両端部は、前記磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されていてもよい。
【0025】
また、磁性体の前記両端部は、前記磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるように配設されていてもよい。
【0026】
さらに、前記磁性体を複数備え、断面積の合計が増大されるよう、複数の前記磁性体が重ね合わせられて構成されてもよい。
【0027】
さらにまた、複数の前記磁性体のうちいずれかの磁性体の前記エアギャップの部分が省略されてもよい。
【0028】
また、前記磁性体の前記エアギャップと反対側の部分にスリットが形成されてもよい。
【0029】
さらに、少なくとも、略環状の磁気コアと、前記エアギャップに設置されるホール素子とをパッケージに収納し、前記パッケージに、略環状の前記磁気コアの中空部に電流経路を挿通させる挿通孔が形成されてもよい。
【発明の効果】
【0030】
この発明の磁気コアによると、板状の磁性体を曲げることで容易に磁気コアを製造できる上、磁性体の略環状曲げ形態における内外周方向の厚み寸法を小さくして、磁気コアの小型化を図ることができ、第1の課題を達成できる。
【0031】
また、前記磁性体の両端部は、その磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されているため、両端部間で、磁束の通過空間であるエアギャップを広げることができる。このため、エアギャップを通過する磁束を、ホール素子でより確実に検出でき、第2の課題を達成できる。
【0032】
また、前記磁性体の両端部が、前記磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるような位置関係で配設されていると、磁束の通過空間であるエアギャップをより確実に広げることができ、エアギャップを通過する磁束を、ホール素子でより確実に検出できる。
【0033】
さらに、磁気コアの断面積を補足するよう、複数の磁性体を重ね合わせて構成すれば、貫通電流に対する磁束密度の飽和を防止することができる。したがって、貫通電流と磁束密度との比例関係を広い電流範囲で保つことができ、広い電流範囲で電流測定を行うことができる。
【0034】
さらにまた、複数の磁性体のうちいずれかの磁性体のエアギャップの部分が省略されることで、エアギャップの範囲が、省略された磁性体の板厚の分だけ広がることになり、エアギャップを通過する磁束を、ホール素子でより確実に検出できる。
【0035】
また、磁性体のエアギャップと反対側の部分にスリットを形成することで、このスリットが第2のエアギャップとなり、その部分における磁束密度の飽和が防止される。したがって、貫通電流と磁束密度との比例関係を広い電流範囲で保つことができ、広い電流範囲で電流測定を行うことができる。
【0036】
特に、電流経路となるハーネス等への設置を容易にするために、その磁気コアと、そのエアギャップに設置されるホール素子とをパッケージに一体的に収納しておき、パッケージに、略環状の前記磁気コアの中空部に電流経路を挿通させる挿通孔を形成しておく構成を採る場合には、電流センサユニット全体の小型化を図ることができ、またエアギャップを通過する磁束を、ホール素子でより確実に検出し得る電流センサユニットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
{第1の実施の形態}
以下、この発明の第1の実施の形態に係る磁気コアについて説明する。
【0038】
図1は磁気コア10を示す斜視図である。
【0039】
この磁気コア10は、両端部間にエアギャップ14を形成するようにして略環状に曲げられた板状の磁性体12を備えた構成とされている。
【0040】
ここでは、略帯板状の磁性体12を準備し、その両端部間に所定間隔を空けるようにして、該磁性体12を略方形環状に折曲げて、磁気コア10を形成している。板状の磁性体12としては、例えば、ケイ素鋼板やパーマロイなどが用いられる。
【0041】
この磁気コア10は、所定の被測定電流が流れる電流経路25を囲う程度の大きさの環状に形成される。なお、板状の磁性体12は、略円環状、或いは、多角形の環状に曲げられた形態であってもよい。また、磁性体12の板厚や、板幅(電流経路25に沿う方向での長さ寸法)は、任意の寸法に設定できる。例えば、板厚に関して、一般的な流通品であるケイ素鋼板の板厚0.5mm程度としてもよい。
【0042】
また、この磁気コア10の両端部12a,12bは、その略環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されると共に、該略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるように配設されている。そして、その両端部12a,12bが重なり合うように対向する部分間に、エアギャップ14が形成されている。
【0043】
磁気コア10の両端部12a,12bの間隔寸法は、それらの間にホール素子20(或いはホール素子を内蔵したホールIC)を配設可能な程度の大きさに形成されている。また、磁気コア10の両端部12a,12bの重なり合い領域の大きさは、好ましくは、エアギャップ14に配設されることとなるホール素子20(或いはホール素子を内蔵したホールIC)と略同じか或いはそれよりも大きく、より好ましくは略同じに設定されている。
【0044】
このように構成された磁気コア10は、次のようにして用いられる。
【0045】
すなわち、図1の被測定電流が流れる電流経路25周りに、磁気コア10が配設されると共に、そのエアギャップ14内にホール素子20(或いはホール素子を内蔵したホールIC)が配設される。
【0046】
この場合の具体的構成として、この磁気コア10及びホール素子20(或いはホール素子を内蔵したホールIC)は、図2及び図3の如く、ホール素子20に接続される電線20a及びコンデンサ21等の所定の部品とともに、挿通孔22が形成されたパッケージ23内に収納され、電流センサユニット24として一体的に組み付けられて設置される。なお、図2及び図3において符号23aで示す部分はコネクタ部となっている。
【0047】
そして、電流センサユニット24の挿通孔22に、電流経路25となるハーネス25aを挿通させ、ハーネス25aの端部に露出した芯線部28にグランド端子等の所定の端子部材26をかしめ固定する。
【0048】
尚、電流センサ24には、パッケージ23の一側下面より下方に適宜長さ延設配置された断面矩形の支持片部27aが設けられるとともに、支持片部27aの下端部の一側面より一側方に突出されたいわゆる二叉状の左右対の保持片部27bが設けられている。
【0049】
そして、図2及び図3のように、上記保持片部27bでグランド端子等の所定の端子部材26をさらにかしめることで、電流センサユニット24が当該端子部材26に固定されるとともに、ハーネス25aを位置決め支持する。このようにして、電流センサユニット24をハーネス25aに容易に設置できる。また、ハーネス25aを中心軸として電流センサユニット24を自由に回転させることができるため、設置の自由度が大きく、また、端子部材26の向きの自由度も広がるものとなる。
【0050】
あるいは、電流センサユニット24の挿通孔22にハーネス25aを貫通させるだけでよいため、図2及び図3のようにハーネス25aと端子部材26とを接続する部分に電流センサユニット24を設置するのではなく、例えば図4のように、電流センサユニット24をハーネス25aの中間位置に設置することもできる。即ち、電流センサユニット24をハーネス25aに沿ってどこにでも容易に設置できる。尚、図4においては、電流センサユニット24がハーネス25aに遊嵌されるだけでよいため、支持片部27a及び保持片部27bは省略される。
【0051】
この状態で、電流経路25に所定方向に電流が流れると、その周りに磁束が発生し、この磁束は磁気コア10によって形成される磁気回路を通過する。
【0052】
図5は、エアギャップ14における磁束18の分布を示している。同図に示すように、磁性体12の一方側の端部12a側の一方面と、他方側の端部12bの他方面間を結ぶように、磁束18が分布している。このため、両端部12a,12bの重なり合い形状及び大きさに応じて、磁束の通過空間であるエアギャップ14が形成される。そして、この両端部12a,12bの重なり合い部分間のエアギャップ14内に、ホール素子20を配設することで、上記被計測電流によって発生してエアギャップ14を通過する磁束を、ホール素子20で検出できる。この磁束の検出結果に応じて、被計測電流値を求めることができる。
【0053】
以上のように構成された磁気コア10によると、板状の磁性体12を曲げることで容易に磁気コア10を製造できる。また、磁気コア10は板材により形成されているため、その略環状曲げ形態における内外周方向の厚み寸法を小さくすることができるので、磁気コア10の小型化を図ることができる。
【0054】
また、磁性体12の両端部12a,12bは、その略環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されているため、両端部12a,12b間で、磁束の通過空間であるエアギャップ14を広げることができる。このため、エアギャップ14を通過する磁束を、ホール素子20でより確実に検出できる。
【0055】
しかも、磁性体12の両端部12a,12bが、磁性体12の略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるような位置関係で配設されているため、その重なり合いの大きさに応じて、磁束の通過空間であるエアギャップ14をより確実に広げることができる。このため、エアギャップ14における磁束を、ホール素子20でより確実に検出できる。
【0056】
図6は図1に示した第1の実施の形態に関する第1変形例に係る磁気コア110を示す図である。
【0057】
この磁気コア110は、上記磁気コア10と同様に、板状の磁性体112を略方形(正方形及び長方形を含む)環状に曲げて形成したものである。この磁気コア110が、磁気コア10と異なる点は、その両端部112a,112bをその略環状曲げ形態の内外周にずらさずに、対向配置した点である。
【0058】
この磁気コア110の場合でも、板状の磁性体112を曲げることで容易に磁気コア110を製造できる上、磁性体112の略環状曲げ形態における内外周方向の厚み寸法を小さくして、磁気コア110の小型化を図ることができる。
【0059】
図7は図1に示した第1の実施の形態に関する第2変形例に係る磁気コア210を示す図である。
【0060】
この磁気コア210は、上記磁気コア10と同様に、板状の磁性体212を略方形環状に曲げて形成すると共に、その両端部212a,212bを、その曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設している。
【0061】
この磁気コア210が磁気コア10と異なる点は、その両端部212a,212bを、重なり合わないように配設した点である。
【0062】
この磁気コア210の場合でも、板状の磁性体212を曲げることで容易に磁気コア210を製造できるため、磁性体212の略環状曲げ形態における内外周方向の厚み寸法を小さくして、磁気コア210の小型化を図ることができる。
【0063】
また、磁性体212の両端部212a,212bが、その環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されているため、図6に示す場合よりも、磁束218の通過空間であるエアギャップ214を広げることができる。このため、エアギャップ214を通過する磁束218を、該エアギャップ214に配設されたホール素子でより確実に検出できる。
【0064】
以上をまとめると、図1及び図5に示す磁気コア10、図6に示す磁気コア110、図7に示す磁気コア210のいずれによっても、板状の磁性体12,112,212を曲げることで容易に磁気コア10,110,210を製造できる上、その略環状曲げ形態における内外周方向の厚み寸法を小さくして、その小型化を図ることができる。
【0065】
もっとも、図6に示す磁気コア110では、一方側の端部112aの一辺と、他方側の端部112bの他辺とを結ぶようにして、磁束118が分布している。このため、磁束118の分布空間であるエアギャップ114が、比較的小さくなる。
【0066】
そこで、図7に示す磁気コア210のように、磁性体212の両端部212a,212bを、その環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすことで、図6に示す場合よりも、磁束218の通過空間であるエアギャップ214を広げることができる。このため、該エアギャップ214内に収るようにホール素子を配設して、エアギャップ214を通過する磁束218を、該エアギャップ214に配設されたホール素子でより確実に検出できる。
【0067】
そして、さらに、図1及び図5に示す磁気コア10のように、磁性体12の両端部12a,12bを、その略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるように配設することで、磁束18の通過空間であるエアギャップ14をより大きく広げることができる。このため、該エアギャップ14内に収るようにホール素子20を配設して、エアギャップ14を通過する磁束18を、該エアギャップ14に配設されたホール素子20でより確実に検出できる。
【0068】
{第2の実施の形態}
第1の実施の形態においては、磁気コア10の板厚の例として0.5mm程度のものを説明したが、この磁気コア10の板厚が薄いため、狭い電流範囲しか測定することができない。
【0069】
例えば、図8は、第1の実施の形態のように板厚が0.5mm程度の磁気コア10を適用した場合の電流に対する磁束密度の変化を示す図である。図8において、横軸は磁気コア10の中空部を貫通する電流経路25に流れる電流(以下「貫通電流」と称す)、縦軸は磁束密度をそれぞれ示している。
【0070】
図8において、貫通電流が−IsからIsの間は、この貫通電流に対して磁束密度が比例することから、貫通電流と磁束密度の相関曲線は原点Oを通る直線となる。
【0071】
しかしながら、図8において、貫通電流が−IsとIsの部分で変曲点If1,If2が現れることから、貫通電流が−Is以下の状態とIs以上の状態では、原点Oを通る直線L1から遊離してしまい、貫通電流と磁束密度との比例関係が崩れてしまう。これは、図9のように、磁気コア10のエアギャップ14と反対側の部分31を中心として磁束密度の飽和が発生し、この部分31を中心とした飽和が、エアギャップ14における磁束密度に影響を与えるためである。
【0072】
そこで、この発明の第2の実施の形態に係る磁気コア10は、図10〜図12の如く、第1の磁性体41と第2の磁性体42とを重ね合わせて構成することで、磁気コア10の板厚を厚く構成し、この2つの磁性体41,42の複合体である磁気コア10の断面積の合計を増大させることで、貫通電流に対する磁束密度の飽和を防止するよう構成されている。
【0073】
第1の磁性体41は、図11の如く、両端部間にエアギャップ14を形成するようにして略環状に折曲した形状に形成されている点で、図1に示した第1の実施の形態と同様であるが、この磁性体41板厚が例えば1mm程度の厚いケイ素鋼板等が使用されている。そして、このような板厚の厚い硬質な磁性体(ケイ素鋼板等)を略環状に折曲形成するため、折曲部43には丸みを形成することで、硬質な磁性体に割れが生じることがないように形成されている。
【0074】
第2の磁性体42は、図10の如く、第1の磁性体41の内周面に密接して磁気コア10の板厚を補足するためのもので、図12の如く、板厚が例えば0.5mm程度の厚いケイ素鋼板等が使用されて略環状に曲げられて形成されている。このため、第2の磁性体42の折曲部44は、第1の磁性体41の折曲部43の内周に対応して丸みを帯びた形状とされている。
【0075】
また、第2の磁性体42は、第1の磁性体41の全長に亘ってその内周面に設置されるのではなく、貫通電流の実現し得る電流値レンジを考慮した場合に、磁気コア10において磁束密度の飽和が発生する部分を少なくとも含む範囲で設置される。即ち、磁気コア10のエアギャップ14においては、磁束密度の飽和が発生しにくいため、このエアギャップ14に対応する部分45(図12参照)においては第2の磁性体42が省略される。このようにエアギャップ14の対応部分45で第2の磁性体42が省略されることで、図10のように、エアギャップ14の範囲が第2の磁性体42の板厚の分だけ広がることになり、エアギャップ14を通過する磁束を、ホール素子20でより確実に検出できる。
【0076】
尚、単一の磁気コア10の板厚をそのまま厚く形成することが容易であれば、例えばその板厚を1.5mmに増大することにより磁束密度の飽和を防止しても良い。しかし、ケイ素鋼板等は板厚が厚いと折曲することが困難になり、略環状の磁気コア10を形成するためには、その板厚に限界がある。このため、この実施形態では、複数の磁性体41,42を重ね合わせることで、その複合体である磁気コア10の板厚を増大している。
【0077】
かかる構成の磁気コア10は、第1の実施の形態と同様に、図2及び図3または図4の如く、ホール素子20に接続される電線20a及びコンデンサ21等の所定の部品とともに、挿通孔22が形成されたパッケージ23内に収納され、電流センサユニット24として一体的に組み付けられて設置される。
【0078】
この電流センサユニット24の磁気コア10を用いれば、第1の実施の形態の薄厚の磁気コア10において特に磁束密度の飽和が生じ得る部分の厚さ(断面面積)を、第1の磁性体41と第2の磁性体42の板厚の合計値(1.0+0.5=1.5mm)に増大することができる。したがって、磁束密度の飽和を防止することができ、図8において、原点Oを通る直線L1のように、貫通電流と磁束密度との比例関係を広い電流範囲で保つことができ、第1の実施の形態よりも広い電流範囲の電流測定を行うことができる。
【0079】
尚、この実施形態では、第1の磁性体41と第2の磁性体42という2個の部材を重ね合わせることで、その複合体としての磁気コア10の板厚を増大していたが、3個以上の磁性体を重ね合わせることで、磁気コア10の板厚を増大しても差し支えない。
【0080】
{第3の実施の形態}
上述のように、貫通電流が上昇すると、図9の如く、磁気コア10のエアギャップ14と反対側の部分31を中心として磁束密度の飽和が発生し、この部分31を中心とした飽和が、エアギャップ14における磁束密度に影響を与える。
【0081】
このことを考慮し、この発明の第3の実施の形態に係る磁気コア10は、図13の如く、略環状の磁気コア10の磁束密度の飽和が発生する中心部分31にスリット46を形成し、このスリット46を第2のエアギャップとすることで、その部分31における磁束密度の飽和を防止するものである。
【0082】
即ち、この磁気コア10は、エアギャップ14と反対側の部分31にスリット46が形成されることで、磁気コア10が環方向に分断された2個の磁性体47,48により構成されることになる。
【0083】
これにより、図8において、原点Oを通る直線L1のように、貫通電流と磁束密度との比例関係を広い電流範囲で保つことができ、第1の実施の形態よりも広い電流範囲の電流測定を行うことができる。
【0084】
尚、磁気コア10の一部にスリット46を形成すると、貫通電流に対して磁束密度の低下が生じて電流センサとしての感度は低下するが、貫通電流の全レンジにおいて当該貫通電流と磁束密度との比例関係を保つことができ、第1の実施の形態よりも広い電流範囲の電流測定を行うことができる点で有利である。
【0085】
尚、上記の第2の実施の形態と第3の実施の形態とを組み合わせて、図10に示したように複数の磁性体41,42を重ね合わせて磁気コア10を構成しながら、図13の如く、略環状の磁気コア10の磁束密度の飽和が発生する中心部分31にスリット46を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】この発明の第1の実施の形態に係る磁気コアを示す斜視図である。
【図2】この発明の磁気コアを有する電流センサユニットの一例を示す要部斜視図である。
【図3】同斜視図である。
【図4】この発明の磁気コアを有する電流センサユニットの他の例を示す要部斜視図である。
【図5】同上の磁気コアにおける磁束の分布を示す図である。
【図6】第1変形例に係る磁気コア及びその磁束の分布を示す図である。
【図7】第2変形例に係る磁気コア及びその磁束の分布を示す図である。
【図8】磁気コアにおける貫通電流と磁束密度との相関を示す図である。
【図9】磁気コアにおける磁束密度の飽和の発生中心位置を示す斜視図である。
【図10】この発明の第2の実施の形態に係る磁気コアを示す斜視図である。
【図11】磁気コアの一部を構成する第1の磁性体を示す斜視図である。
【図12】磁気コアの一部を構成する第2の磁性体を示す斜視図である。
【図13】この発明の第3の実施の形態に係る磁気コアを示す斜視図である。
【図14】従来の電流センサに使用される磁気コアを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0087】
10,110,210 磁気コア
12,112,212 磁性体
12a,12b,112a,112b,212a,212b 磁性体の端部
14,114,214 エアギャップ
18,118,218 磁束
20 ホール素子
20a 電線
21 コンデンサ
22 挿通孔
23 パッケージ
24 電流センサユニット
25 電流経路
41 第1の磁性体
42 第2の磁性体
46 スリット
47,48 コア部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部間にエアギャップを形成するようにして略環状に曲げられた板状の磁性体を備えた磁気コア。
【請求項2】
請求項1記載の磁気コアであって、
前記磁性体の前記両端部は、前記磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とにずらすように配設されている、磁気コア。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の磁気コアであって、
前記磁性体の前記両端部は、前記磁性体の略環状曲げ形態における内周側と外周側とで所定間隔空けて重なるように配設されている、磁気コア。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の磁気コアであって、
前記磁性体を複数備え、
断面積の合計が増大されるよう、複数の前記磁性体が重ね合わせられて構成された、磁気コア。
【請求項5】
請求項4記載の磁気コアであって、
複数の前記磁性体のうちいずれかの磁性体の前記エアギャップの部分が省略された、磁気コア。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の磁気コアであって、
前記磁性体の前記エアギャップと反対側の部分にスリットが形成された、磁気コア。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の略環状の磁気コアと、
前記エアギャップに設置されるホール素子と、
少なくとも前記磁気コア及び前記ホール素子を収納するパッケージと
を備え、
前記パッケージに、略環状の前記磁気コアの中空部に電流経路を挿通させる挿通孔が形成されたことを特徴とする電流センサユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−17457(P2006−17457A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183981(P2004−183981)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】