説明

磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末

【課題】各種の磁気記録装置や電子機器などを磁場や電磁波の悪影響から保護するための磁気シールド層や磁気シールドシートなどの形成に用いられる偏平状Fe基合金粉末を提供する。
【解決手段】原子%で、Al:15〜35%、Ni:0.1〜30%、Cr:0.1〜6%を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、並びに、平均厚さd:0.02〜0.6μm、粒度分布計によって求められた粒径の小さい方から重量を累計して50%になったときの粒径D50:3〜60μm、アスペクト比(D50/d):20〜500に調整された粒度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の磁気記録装置や電子機器などを磁場や電磁波の悪影響から保護するための磁気シールド層や磁気シールドシートなどの形成に用いられる偏平状Fe基合金粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末として、例えば特開平3−295206号公報に記載されるように、原子%で(以下、%は原子%を示す)、
SiおよびAlの内の1種または2種:18〜30%、
Cr:19%以下(0を含まず)、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有し、かつX線回折で体心立方型結晶構造を示すものが知られている。また、上記従来の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末は、その他多くのものが、実用に際して、
平均厚さ(以下、「d」で示す):0.02〜0.6μm、
粒度分布計によって求められた粒径の小さい方から重量を累計して50%になったときの粒径(以下、「D50」で示す):3〜60μm、
アスペクト比(D50/d):20〜500、
の粒度に調整されて使用されることも良く知られるところである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、近年の磁気記録装置や電子機器の多機能化、小型化および高出力化と共にコストダウンに対する要求が激しく、これに伴ない、磁気シールド性能の一段の向上、並びに磁気シールド層および磁気シールドシートなどの一層の薄肉化のため、より高い飽和磁化およびより低い保磁力を示す磁気シールド用粉末を一層低価格で提供するように求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記従来の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末よりも一層高い飽和磁化および一層低い保磁力を示す磁気シールド用粉末を一層低価格で提供すべく研究を行なった結果、
(a)前記従来の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末において、さらにNi:0.1〜30%を含有せしめると、飽和磁化が一層向上すると同時に保磁力が低下し、磁気シールド用粉末として優れた磁気シールド性能を示す、
(b)一般に従来の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末は保磁力を低減させるために偏平化処理後熱処理が施されるが、従来の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末にさらにNi:0.1〜30%を添加すると偏平化処理後に熱処理を施さなくても従来以上の低保磁力を実現でき、熱処理工程の省略によるコストダウンを行うことができる、
(c)前記Ni:0.1〜30%を含有した磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末は、熱処理無しでも従来以上の低保磁力を実現できるが、偏平化処理後の熱処理を行うと、保磁力が一層低減し、飽和磁化が一層向上する、
(d)このNi:0.1〜30%を含む磁気シールド用粉末の粒度は、従来と同じd:0.02〜0.6μm、D50:3〜60μm、D50/d:20〜500の範囲に調整すればよい、などの研究結果を得たのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、
(1)Al:15〜35%、Ni:0.1〜30%、Cr:0.1〜6%を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有する磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末、
(2)Al:15〜35%、Ni:0.1〜30%、Cr:0.1〜6%を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、並びにd:0.02〜0.6μm、D50:3〜60μm、D50/d:20〜500の範囲に調整された粒度を有する磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末は、Al:15〜35%、Ni:0.1〜30%、Cr:0.1〜6%を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金溶湯を水アトマイズ法により粉末化し、得られた粉末に対して、通常の条件で分級、偏平化を行い、必要に応じて熱処理を施しさらに分級を施す。すなわち前記水アトマイズ粉末を分級により50μm以下の粒径とし、これをアトライタで偏平化した後、必要に応じてAr雰囲気中、350〜750℃の温度に所定時間保持の熱処理を施し、引続いて分級を行なって、
d:0.02〜0.6μm、
50:3〜60μm、
50/d:20〜500、
に粒度調整することにより製造することができる。
【0007】
つぎに、この発明の偏平状Fe基合金粉末の組成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a) Al
Alには、偏平化時に保磁力を増大させない作用があるが、その含有量が15%未満では所望の低い保磁力が得られないため、すぐれた磁気シールド性能を確保することができない。一方、その含有量が35%を越えると飽和磁化が急激に低下する。従って、この発明の偏平状Fe基合金粉末に含まれるSiを15〜35%(望ましくは20〜30%)含有するように定めた。
【0008】
(b) Ni
Niには、耐食性を向上させ、もって錆や変色の発生を防止する作用があり、加えてFeと同様に強磁性があるためにFeと置換しても大きく飽和磁化を低下させず、さらに偏平化時に保磁力を増大させない作用があるが、その含有量が0.1%未満では所望の低い保磁力を確保することができず、一方、その含有量が30%を越えると飽和磁化が低下し、所望の高い飽和磁化を得ることが難しくなる。従って、この発明の偏平状Fe基合金粉末に含まれるNi含有量は0.1〜30%(一層望ましくは0.4〜20%)と定めた。
【0009】
(c) Cr
Crは、Niと共存させることにより耐食性を一層向上させ、もって錆や変色の発生を防止する作用があるが、その含有量が0.1%未満では通常の所望のすぐれた耐食性および低い保磁力を確保することができず、一方、その含有量が6%を越えると飽和磁化が低下し、磁気シールド性能の低下が避けられなくなる。従って、この発明の偏平状Fe基合金粉末に含まれるCr含有量は0.1〜6%(一層望ましくは1〜5%)と定めた。
【0010】
(d) 粒度
この発明の偏平状Fe基合金粉末は、従来と同じd:0.02〜0.6μm、D50:3〜60μm、D50/d:20〜500の範囲に調整すればよいが、d:0.05〜0.3μm、D50:5〜20μm、D50/d:50〜300の範囲に調整することが一層好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、この発明の偏平状Fe基合金粉末は、熱処理しなくても保磁力が低く、高い飽和磁化を示すので、熱処理工程を省略することによる製造コストを削減することができ、また、特にすぐれた磁気シールド性能を必要とする場合のみ、熱処理した偏平状Fe基合金粉末を使用すればよく、低価格化と共に磁気シールド性能の一層の向上に寄与するばかりでなく、磁気シールド層や磁気シールドシートなどの薄肉化を可能にするなど電子産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、この発明の偏平状Fe基合金粉末を実施例により具体的に説明する。
実施例1
原料として、Fe−Al合金、Fe−Cr合金、溶解用ニッケル、および電解鉄を用意し、これら原料を高周波誘導炉にてそれぞれ表1に示される成分組成をもったFe基合金溶湯を調製し、この溶湯を水アトマイズ法により粉末化し、分級して40μm以下の粒径を有する粉末とし、ついでこれをアトライタで偏平化した後、ただちに分級を行なって同じく表1に示される粒度に調整することにより本発明偏平状Fe基合金粉末(以下、本発明粉末という)1〜6を製造した。
この結果得られた本発明粉末1〜6の保磁力および飽和磁化を測定し、この測定結果を表1に示した。
従来例1
原料として、Fe−Al合金、Fe−Cr合金および電解鉄を用意し、これら原料を高周波誘導炉にてそれぞれ表1に示される成分組成をもったFe基合金溶湯を調製し、この溶湯を水アトマイズ法により粉末化し、分級して40μm以下の粒径を有する粉末とし、ついでこれをアトライタで偏平化した後、Ar雰囲気中、350〜750℃の範囲内の所定温度に2時間保持の熱処理を施し、さらに分級を行なって同じく表1に示される粒度に調整することにより従来偏平状Fe基合金粉末(以下、従来粉末という)1を製造した。
【0013】
実施例1で得られた本発明粉末1〜6および従来例1で得られた従来粉末1の保磁力および飽和磁化を測定し、この測定結果を表1に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示される結果から、NiおよびCrを共に含有する熱処理無しの本発明粉末1〜6は、Crのみを含有する熱処理を施した従来粉末1に比して、保磁力が低く、一段と高い飽和磁化を示すことが明らかである。
【0016】
実施例2
実施例1で作製した本発明粉末1〜6と同じ成分組成をもったFe基合金溶湯を調製し、アトマイズ法により粉末化し、分級して40μm以下の粒径を有する粉末とし、ついでこれをアトライタで偏平化した後、Ar雰囲気中、350〜750℃の範囲内の所定温度に2時間保持の条件の熱処理を施し、さらに分級を行なって本発明粉末1〜6と同じ表2に示される粒度に調整することにより本発明粉末7〜12を製造し、得られた本発明粉末7〜12の保磁力および飽和磁化を測定し、この測定結果を表2に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
表2に示される結果から、偏平化したのち熱処理して得られた本発明粉末7〜12は、同じ成分組成の熱処理しない本発明粉末1〜6に比べて保磁力が一層低く、飽和磁化が一層向上していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、
Al:15〜35%、
Ni:0.1〜30%、
Cr:0.1〜6%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末。
【請求項2】
原子%で、
Al:15〜35%、
Ni:0.1〜30%、
Cr:0.1〜6%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、並びに、
平均厚さd:0.02〜0.6μm、
粒度分布計によって求められた粒径の小さい方から重量を累計して50%になったときの粒径D50:3〜60μm、
アスペクト比(D50/d):20〜500、
に調整された粒度を有することを特徴とする磁気シールド用偏平状Fe基合金粉末。

【公開番号】特開2009−74176(P2009−74176A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261356(P2008−261356)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【分割の表示】特願平10−263188の分割
【原出願日】平成10年9月17日(1998.9.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】