説明

磁気シールド装置

【課題】 外力に強く軽量であり、かつ、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気を効果的にシールドする、特に30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気を最低限50dB減衰させることができる軽量な磁気シールド装置を提供することである。特に、磁性積層部材のコーナー部の機械的強度、磁気特性の改善を図るものである。
【解決手段】 軽量金属材で骨格を形成し、Co基アモルファス合金薄板と樹脂フィルムを順次積み重ねて多層構造とした磁性積層材を多重に配置し磁気シールド空間を画定し、前記Co基アモルファス合金薄板の積層間隔を10μm〜160μmとし、かつ、前記磁性積層材の間隙を10mm〜200mmとし、緩やかなコーナー部を持つ磁気シールド装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SQUID等を使用して生体から発生する微弱磁場を計測する生体磁場計測装置、各種の検査機器、或いは電子ビームを使用する半導体加工装置に使用する磁気シールド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SQUID等により心臓や脳から発生する微弱磁場を計測する生体磁場計測装置では、検出磁場強度は10のマイナス10乗テスラ(T)程度の弱いものであるために、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気でさえも障害となる。このために、地磁気を遮断する磁気シールド装置の必要性が高まっている。
【0003】
従来の磁気シールド装置の基本構造としては、アルミニウムや軽量鉄骨等で構成する箱型の構造フレームに、壁材や床材としてFe−Ni合金である高透磁率のパーマロイの板やケイ素鋼板を隙間なくボルト等で固定して磁気シールド空間を画定している(例えば、特許文献1参照)。また、パーマロイの板に代えて結晶粒界の大きさが100nm以下の超微細結晶組織を持つ軟磁性アモルファス合金の薄膜とポリマーシートとを接着した磁気シールドシートを用いることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−183288号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開2000−077890号公報(第3頁、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される磁気シールド装置では、磁気シールド材料として高透磁率のパーマロイ板を用い、磁気シールドする空間を囲む構造をとっている。この場合、パーマロイ板は約1mm程度の厚さが必要とされ、磁気シールド装置の組み立て構造に合せて、切断、折り曲げ加工する部品加工が必要とされる。しかし、パーマロイ板は、部品加工の際に加わる外力のために機械的強度は影響がないものの磁気特性が極端に劣化すると言う欠点がある。また、据付後、地震等による外力が磁気シールド装置に加わった場合にもパーマロイ板の磁気特性は大幅に低下する。また、パーマロイ板を用いた磁気シールド装置は、各層で使用するパーマロイの板厚が約1mm以上必要であり、2m×2m×2m程度の大きさの磁気シールド装置でも2トン以上の重量に達してしまう。更に、磁気シールド率を高めるためには、パーマロイ板の1層構造では十分でなく多層構造が必要であり、この場合には、磁気シールド装置は数トンもの重量となってしまい、磁気シールド装置の移動等が規制される問題がある。また、磁気シールド装置を設置する建築物の床面も極度に大きい強度が必要になる。設置階も一階に限定される場合もある。一方、特許文献2に開示される磁気シールド装置では、磁気シールド材料としてパーマロイ板に代えて結晶粒界の大きさが100nm以下の超微細結晶組織を持つ軟磁性アモルファス合金の薄膜とポリマーシートとを接着した磁気シールドシートを用いることが提案されている。この場合には、パーマロイ板と異なり多少の外力が加わっても磁気特性が劣化することは無いものの超微細結晶組織を持つ合金部分は機械的強度が弱く外力により容易に破断してしまう。地震等があった場合には、外見上は影響がないように見えても内部の超微細結晶組織を持つ合金部分は機械的破壊が生ずる。また、機械的強度が弱い超微細結晶組織を持つ合金部分を10層以上の多層とすることは、装置の機械的強度を極度に低めることになる。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決し、外力に強く軽量であり、かつ、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気を効果的にシールドする磁気シールド装置を提供することである。特に、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気を最低限50dB減衰させることができる軽量な磁気シールド装置を提供することである。特に、磁性積層部材のコーナー部の機械的強度、磁気特性の改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の磁気シールド装置は、Co基非晶質合金薄板と樹脂フィルムの多層構造を有する磁性積層部材によって磁気シールド空間を画定し、前記磁性積層部材の機械的強度を強度部材によって補うと共に、前記磁性積層部材のコーナー部にはR形状を付与するという技術手段を採用する。
【0008】
好ましくは、前記磁性積層部材のコーナー部のR形状は、曲率Rが10以上である磁気シールド装置である。
【0009】
特に、好ましくは、前記磁性積層部材のコーナー部のR形状は、曲率Rが30〜300である。
【0010】
本発明の磁気シールド装置では、磁気シールド空間を画定する前記磁性積層部材を10mm〜200mmの間隙を介して2層以上配置し、前記磁性積層部材におけるCo基非晶質合金薄板間の間隔を10μm〜160μmとする事が有利である。
【0011】
この場合、前記磁性積層部材におけるCo基非晶質合金薄板の積層数が15層以上である多層構造とすることが好ましい。
【0012】
磁気シールド空間を画定する前記磁性積層部材を一定の間隙を介して2層以上配置する場合には、前記磁性積層部材間の間隙の少なくとも一部には断熱材を充当することが好ましい。前記断熱材には、発泡スチロールを採用すれば、軽量であり強度も十分とすることができる。
【0013】
本発明の磁気シールド装置では、前記磁性積層部材の各々においてCo基非晶質合金薄板と樹脂フィルムを順次積み重ねて、前記Co基非晶質合金薄板の積層数が30層〜300層である多層構造とすることが好ましい。
【0014】
本発明で採用するCo基非晶質合金薄板の合金成分が、組成式:(Co1-x-y-zFexMnyNiz)100-a-b-cMaSibBc[ただし、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cu、Ag、Au、Y、希土類元素のうちから選ばれた少なくとも1種以上の元素]で表され、かつ、xが0〜0.1、aが0〜6、(b+c)が18〜30、yが0〜0.2、bが8〜18、zが0〜0.13、cが7〜18を満足することが好ましい。
【0015】
磁性積層部材と強度部材で予め作製したコーナー部パネル部材と平板パネル部材とを組み合わせ、強度部材で形成した骨組に固定することにより磁気シールド装置を形成することは、装置の組み立てを簡便なものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気シールド装置により、特に、磁性積層部材のコーナー部の機械的強度、磁気特性に優れ、軽量であり、地磁気を効果的に減衰させることができる磁気シールド装置を作ることができる。地震等の外力が加わった場合でも磁気特性の劣化は殆ど発生することが無い。本発明に従って、あらかじめコーナー部パネル部材を作り上げておき、これを平板パネル部材と組み合わせることにより磁気シールド装置を製作することは、製作工程を簡単化でき、組み立て時間も早くできることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気をシールドするための磁性材料としてCo基非晶質合金薄板を用いる。磁気をシールドするための磁性材料としては、ケイ素鋼板、パーマロイ、Fe基非晶質合金、Co基非晶質合金、結晶粒界の大きさが100nm以下の超微細結晶組織を持つ軟磁性Fe基合金、結晶粒界の大きさが100nm以下の超微細結晶組織を持つ軟磁性Co基合金などがあるが、ケイ素鋼板やFe基非晶質合金は、1kHz以下の低周波磁気或いは静磁気をシールドするには、透磁率が小さい過ぎるためにかなり肉厚の厚い板とする必要があり、このために重量が大きくなりすぎて実用的ではない。
【0018】
結晶粒界の大きさが100nm以下の超微細結晶組織を持つ軟磁性合金の透磁率は、ケイ素鋼板やFe基非晶質合金に比べるとかなり大きく、1kHz以下の低周波磁気或いは静磁気をシールドする磁気特性の面では好ましい材料であるが、非晶質合金薄帯を結晶化するための結晶化温度に近い温度での熱処理を経るため、超微細結晶組織を持つ合金部分の機械的強度が比較的に弱く外力によって容易に破断してしまう。地震等があった場合には、外見上は影響がないように見えても超微細結晶組織を持つ合金部分には材料の破断等が生ずる。
【0019】
パーマロイは、加工の際に加わる外力のために磁気特性が極端に劣化し、また、地震等による外力が磁気シールド装置に加わった場合には、大幅に磁気特性が低下するという問題がある。磁気特性の劣化したパーマロイ板の特性を回復するには再度熱処理をするなどの手段を取る必要がある。パーマロイは曲げ加工をすると磁気特性が極端に劣化するという問題があり、また、1mm程度の厚さの材料になると曲げ加工するにはかなりの外力を加えなければならないという問題があるために、磁気シールド装置に適用する場合、パーマロイは平板形状のものだけを使用した。磁気シールド装置のコーナー部については、曲げ加工後に再度熱処理するなどして特別に作製したコーナー部品によって、直角に合わせた2枚の平板形状パーマロイ板で形成する繋ぎ目を蔽うように固定していた。この場合、コーナー部での磁気抵抗の増加、コーナー部形成工事の煩雑さは避け難いものであった。また、パーマロイ板を用いた磁気シールド装置は、使用するパーマロイの板厚が約1mm以上必要であり2m×2m×2m程度の大きさの磁気シールド装置でも2トン以上の重量に達してしまうという問題がある。本発明は、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気をシールドするための磁性材料として、特にCo基非晶質合金薄板がシールド特性の面でも、可撓性の面でも優れるとの知見に基づくものである。
【0020】
磁気シールド率を高めるためには、Co基非晶質合金薄板1層構造では十分でなく多層構造が必要であるが、この場合に、Co基非晶質合金薄板を接着剤によって接合して重ねるだけではCo基非晶質合金薄板間の間隔が不定であり、間隔を望ましい値にすることは困難である。この間隔が小さいと多層構造にしても重量が大きくなる割には磁気シールド効果は大幅には向上しない。本発明では、Co基非晶質合金薄板の間隔を期待する値とするために、一定の厚みの樹脂フィルムを介在して接着剤で接合する手段を採用する。樹脂フィルムを利用して、Co基非晶質合金薄板の間隔を10μm〜160μmの間のほぼ一定の間隔とすることにより、重量を大幅に増加させること無くCo基非晶質合金薄板の磁気シールド特性を最大限に生かすことができ磁気シールド効果の大幅向上を図ることができる。
【0021】
各々の磁性積層部材においてCo基非晶質合金薄板と樹脂フィルムを順次積み重ねてCo基非晶質合金薄板を15層以上の多層構造とすることが好ましい。パーマロイの磁気シールド板と比較して、Co基非晶質合金薄板と樹脂フィルムを順次積み重ねて形成した本発明の磁性積層部材は、より軽量でありながらパーマロイ以上の磁気シールド効果を発揮することができる。磁気シールド空間を確定する磁性積層部材を多重にする場合にも同様の事情があり、磁性積層部材間の間隔を一定の間隔、10mm〜200mmとする必要がある。アルミニウム等の軽量金属材を骨組部材とすることにより、磁気シールド装置全体の軽量化も図る。
【0022】
磁性積層部材間の間隙には、例えば、発泡スチロールを充当して、磁気シールド装置の機械的強度を高めると共に、磁気シールド装置内部空間の空調効率を高めることができる。Co基非晶質合金薄板の積層数は、30層以上とすることにより、容易に、30マイクロテスラ(μT)程度の地磁気を最低限50dB減衰させることができる。さらに高いシールド性能が要求される脳磁計測定装置等に必要な磁気シールド装置では、さらに層数を増やして300層よりも多くすることや、2重以上の多重シールドとすることで、必要な性能を得ることが可能であり、このような方法は、本発明を応用することで可能となる。
【0023】
本発明の磁気シールド装置のコーナー部においてはRを付した(角を丸めたという意味)磁性積層部材を使用する。このためには、Rを付したパネル用強度部材を予め作製しておき、この上に磁性積層部材を固定して作製したR付きコーナー部パネルを利用して平板パネルと組み合わせて装置を形成する方法が簡便である。また、コーナー部にRを付した強度部材の骨組みを予め作製しておき、この上に前記R付き骨組みに沿って磁性積層部材を固定してR付きコーナー部を形成しても良い。このようなコーナー部では、磁気ギャップがなく磁気抵抗も小さなものとすることができる。直方体の頂点に相当するコーナー部のR形成も、予めパネル用強度部材と磁性積層部材で頂点用コーナー部を作製しておき、平板パネルと共に、強度部材で形成する骨組みに固定してゆく方法で磁気シールド空間部を形成するようにすけば工事は簡便である。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて更に説明する。
図1は、本発明の磁気シールド装置に使用する磁性積層部材1の部分斜視図であり、図2は図1に示した磁性積層部材1の層構造を示す部分縦断面図である。図1、図2に示すように、本発明に使用する磁気シールド装置用磁性積層部材1は、例えば、20μmの厚さのCo基非晶質合金薄板11と20μmの厚さの樹脂フィルム13とを接着剤12を介して順次積み重ねてCo基非晶質合金薄板については50層の多層構造としたものである。Co基非晶質合金薄板間の間隔を10μm〜160μmとすることが軽量を保ちながら、磁気シールドの効果を高める。この間隔が狭すぎても、逆に大き過ぎても重量と磁気シールドの効率の両方を有利にすることは難しい。磁性積層部材1の上下両面には樹脂フィルム13が配置されるようにすれば美観も良く、耐食性も高めることができる。
【0025】
これら磁性積層部材1をアルミニウム製の軽量金属骨組部材15に固定し、磁気シールド装置用パネル部材とすれば磁気シールド装置の組立工程を簡便化できる。このようなパネルとしたものの一例につき、その部分断面図を図3に示す。図3に示す磁気シールド装置用パネル部材2の上下に配置する2枚の磁性積層部材1で形成する間隙166には、発泡スチロール板16を充当することにより、重量を殆ど増加することなく磁気シールドパネル2の機械的強度を高めると共に断熱効果を高めることができる。上下に配置した磁性積層部材1間の間隙を10mm〜200mmの間隙とすることにより、上下2枚の磁性積層部材1が相まって磁気シールドの効率を高める。磁気シールドパネル2を磁気シールド装置に組み上げた際に、隣り合う磁気シールドパネル2の磁性積層部材1の端部どうしが密着し磁気的に結合していることが重要である。密着させることにより端部での磁気抵抗を小さくし磁性積層部材1を通る磁束が端部で漏れることを防ぐ。また、磁気的結合を実現するには必ずしも端部どうしを密着させる必要はなく、ギャップがあっても一方の磁性積層部材1から発した磁束が対向する他方の磁性積層部材1に吸収される限りは磁気的に結合しているものとすることができる。若干のギャップがあり磁性積層部材1を通る磁束がそのギャップから磁気シールド空間65側に漏れることがあっても許容値以内であれば実用上問題はないからである。
【0026】
磁気シールド装置のコーナー部にこのようなパネルを使用する場合には、パネルの強度部材のコーナー部には、Rを形成しておき、その上で磁性積層部材をコーナー部でRを形成するように張り合わせ、コーナー部パネル部材として、これを設置すればよい。また、コーナー部パネル部材を予め作製しておかなくとも、軽量金属でコーナー部Rを形成しておいた骨組を作製した後、磁性積層部材をコーナー部でRを形成するように張り合わせて形成することもできる。
【0027】
図4には、これらパネルにより磁気シールド空間65を画定する磁気シールド装置3の一例について模式部分断面図を示した。コーナー部R形状は図では示していない。この磁気シールド装置のコーナー部詳細は、図5に示してある。図4に示されるように、アルミニウム製の骨組部材54により内周壁を形成すると共に、これを磁気シールドパネル2を固定するために利用する。本発明の磁気シールド装置3は、上記のような構成でも良いし、通常の家屋のように、アルミニウムの軽量金属材の骨組部材で装置骨格を形成した後、この装置骨格に磁性積層部材1を張り合わせることにより磁気シールド空間を形成しても良い。隣り合う磁気シールドパネル2の磁性積層部材1の端部どうしを磁気的に結合することにより磁気回路を形成する。外部から侵入した磁束はこの磁気回路を通り再び外部へ抜けるため磁気シールド空間65側に漏れることはない。図4では磁性積層部材1による磁気回路を間隙を介して2重に形成した例を示したが外部の磁場環境や必要とする磁気シールド率に応じて3重以上にすることもできる。磁性積層部材1は、10mm〜200mmの間隙をおいて多重に配置することにより、磁気シールドの効率を一段と高めることができる。
【0028】
図5には、本発明によりコーナ部にR形状を付した磁気シールド装置の角部一部拡大断面図を示す。2層に重ねた磁性積層板1により磁気シールド空間65を画定する。コーナー部R形状は2つの稜線が交差する角部91においては、直交する2つのR部を複合したものとする。図示するように、2つの磁性積層板1と強化材と充当材によりコーナー部材17を予め作製しておいたものを他のパネル部材に嵌合して磁気シールド装置の壁とすることができる。磁気シールド装置のコーナー部にパネル材を使用する場合には、パネルの強度部材のコーナー部には、Rを形成しておき、その上で磁性積層部材をコーナー部でRを形成するように張り合わせ、コーナー部パネル部材として、これを設置すればよい。図5に示されるように、アルミニウム製の骨組部材53により内周壁を形成すると共に、これに複数の磁気シールドパネルを固定して壁を形成することができる。本発明の磁気シールド装置3は、上記のような構成でも良いし、通常の家屋のように、アルミニウムの軽量金属材の骨組部材で装置骨格を形成した後、この装置骨格に磁性積層部材1を張り合わせることにより磁気シールド空間を形成しても良い。磁性積層部材1は、10mm〜200mmの間隙をおいて多重に配置することにより、磁気シールドの効率を一段と高めることができる。また、コーナー部パネル部材を予め作製しておかなくとも、軽量金属でコーナー部Rを形成しておいた骨組を作製した後、磁性積層部材をコーナー部でRを形成するように張り合わせて形成することもできる。
【0029】
このようにして形成した磁気シールド装置内の磁気シールド空間に心磁計や脳磁計を設置して心臓や脳から発生する磁場をSQUIDを使用して測定し、心臓や脳に流れる電流の分布を画像として捉える等の手段により、生体の健康状態を把握することができる。磁気シールド装置の一側面には、人の出入り或いは医療機材搬入のために使用する扉(図示せず)を設けることが好ましい。幅広のCo基非晶質合金薄板とするために、Co基非晶質合金薄板を幅方向に多数配置することにより、一枚の幅広のCo基非晶質合金薄板と同一の効果をえることができる。Co基非晶質合金薄板を幅方向に一部重ね合わせて配置することにより、繋ぎ合わせ部分の磁気抵抗を低く抑えることができる。
【0030】
軽金属の骨組部材としては、アルミニウム材が適切であるが、マグネシウム材など他の軽金属材を用いることもできる。骨組部材を中空構造化することにより強度は落とさずに軽量化をすることができる。軽金属の骨組部材は、磁気シールド装置の全体強度を高めるために使用するが、また、パネル部材において2枚の磁性積層部材間の間隙(間隔)を当該骨組部材により規定することもできる。
【0031】
骨組部材で磁気シールド装置の骨格を形成した後、磁性積層部材を内壁、外壁を形成するように貼り合わせて磁気シールド空間を画定することもできる。また、骨組部材をパネル部材の骨組として予め作製しておいてパネルの両面に磁性積層部材を貼り合わせて磁気シールド装置用の磁気パネルを作ることもできる。磁気シールド装置の内面や外面を保護し、清潔感を持たせるため化粧板を仕上げ材として配置することが好ましい。
【0032】
Co基非晶質合金薄板は、Co基合金の溶解物を急速に回転する冷却ロールの表面に射出することにより、一般には、厚さ8μm〜80μm、通常は、16μm〜40μmの非晶質合金として得られるが、幅は、一般には25mm〜300mmものとして得る。Co基非晶質合金薄板の1kHzに於ける透磁率は約80000以上のものを得る。合金組成としては、好ましくは、組成式:(Co1-x-y-zFexMnyNiz)100-a-b-cMaSibBc[ただし、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cu、Ag、Au、Y、希土類元素のうちから選ばれた少なくとも1種以上の元素]で表され、かつ、xが0〜0.1、aが0〜6、(b+c)が18〜30、yが0〜0.2、bが8〜18、zが0〜0.13、cが7〜18を満足するものである。本発明で使用するCo基非晶質合金薄板は、結晶粒界は無く、全くの非晶質の金属組織を有する。軟磁性非晶質薄膜は、樹脂フィルムを介して接着剤により、積層して使用する。樹脂フィルムの厚さは、10μm〜100μmのものを適宜選択して使用する。
【0033】
本発明の磁気シールド装置の壁には、貫通口又は通気口等を設け、外部からの空気を取り入れたり、電子機器用のケーブル類を通すことができる。貫通口としては、本発明に使用する磁気シールド積層板を丸めて形成した管を挿入することで形成できる。このようにすれば、磁気シールド率を劣化させずに、空気の取り入れができるし、ケーブル類を通すことができる。
【0034】
従来技術で使用されてきたパーマロイの代わりに、Co基非晶質合金薄膜を樹脂フィルムを介して接着剤で接合して積層した磁気シールド積層板は、積層構造にもよるが、一般には、厚さ80μm〜300μmの高透磁率の積層板となる。この磁気シールド積層板は、パーマロイに比較してはるかに軽量であり、磁気シールド効率も高く、また、外力が加わっても磁気特性や機械的強度の劣化は無い。磁気シールド装置の移動や地震等に遭遇しても、大丈夫である。折り曲げ、切り取り加工も容易であり、壁紙を扱うように取り扱うこともできる。
【0035】
従来技術では、壁構造体の主要な部材としてパーマロイ板を用いて、磁気シールド空間を画定していたが、本発明では、磁気シールド装置の骨組部材としてアルミニュウム等の軽金属材を使用し、磁気シールド空間の凡そを画定した後に、磁性シールド部材として上記の磁気シールド積層材を使用すれば、磁気シールド装置を簡便に作製することができる。
Co基非晶質合金薄帯を多層化することにより、厚さ1mm程度のパーマロイと同等な磁気シールド率を実現ができる。ただ単に、複数枚のCo基非晶質合金薄帯を重ね合わせるだけでは磁気シールドの効率は向上しない。Co基非晶質合金薄帯の層間距離を10μm〜160μmとすることが大切である。重ねるCo基非晶質合金薄帯の枚数は10以上が好ましいが、更に好ましくは、積層数が30層〜300層である多層構造としたものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
従来技術のパーマロイを磁気シールド板とする磁気シールド装置は、重量が嵩み、組み立て、移動に困難があるが、本発明の磁気シールド装置は軽量であり、病院内の設置場所の変更に対応できる。また、外力に対して、磁気特性面でも機械的強度の面でも強く、その製作工法も簡便なものとすることができる。内部に設置する機器と外部を結ぶ貫通孔の設置、或いは扉の設置も、切断しやすい材料であるので、容易である。ボルト、接着剤等による装置の組み立ても簡単であるので、産業上の利用性は高い。本発明の磁気シールド装置は軽量なので、床強度もさほど必要は無いので、その構造や材質の選択をする任意性が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に使用する磁気シールド積層板の一部断面図。
【図2】図1に示す磁気シールド積層板の縦断面図。
【図3】本発明に使用する磁気シールドパネルの構造を示す一部断面図。
【図4】本発明の実施例の磁気シールド装置の概略構造を示す一部断面図。
【図5】本発明の実施例の磁気シールド装置のコーナー部概略構造を示す一部断面図。
【符号の説明】
【0038】
1…磁気シールド積層板、2…磁気シールドパネル、3…磁気シールド装置、11…Co基非晶質合金薄帯、12…接着剤、13…樹脂フィルム、15…アルミニウム骨組部材、16…磁性積層部材間間隙、17…コーナー部パネル部材、42…骨組部材外表面、53…アルミニウム骨組部材、54…骨組部材内表面、65…磁気シールド空間、91…コーナー部パネル部材角部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co基非晶質合金薄板と樹脂フィルムの多層構造を有する磁性積層部材によって磁気シールド空間を画定する磁気シールド装置において、前記磁性積層部材の機械的強度を強度部材によって補うと共に、前記磁性積層部材のコーナー部にはR形状を付与したことを特徴とする磁気シールド装置。
【請求項2】
前記磁性積層部材のコーナー部のR形状は、曲率Rが10以上であることを特徴とする請求項1記載の磁気シールド装置。
【請求項3】
前記磁性積層部材のコーナー部のR形状は、曲率Rが30〜300であることを特徴とする請求項2記載の磁気シールド装置。
【請求項4】
磁気シールド空間を画定する前記磁性積層部材を10mm〜200mmの間隙を介して2層以上配置し、前記磁性積層部材におけるCo基非晶質合金薄板間の間隔を10μm〜160μmとしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の磁気シールド装置。
【請求項5】
前記磁性積層部材におけるCo基非晶質合金薄板の積層数が15層以上である多層構造としたことを特徴とする請求項1記載の磁気シールド装置。
【請求項6】
前記磁性積層部材間の間隙の少なくとも一部には断熱材を充当したことを特徴とする請求項4記載の磁気シールド装置。
【請求項7】
前記断熱材が、発泡スチロールであることを特徴とする請求項5記載の磁気シールド装置。
【請求項8】
前記磁性積層部材の各々においてCo基非晶質合金薄板と樹脂フィルムを順次積み重ねて、前記Co基非晶質合金薄板の積層数が30層〜300層である多層構造としたことを特徴とする請求項4記載の磁気シールド装置。
【請求項9】
前記Co基非晶質合金薄板の合金成分が、組成式:(Co1-x-y-zFexMnyNiz)100-a-b-cMaSibBc[ただし、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cu、Ag、Au、Y、希土類元素のうちから選ばれた少なくとも1種以上の元素]で表され、かつ、xが0〜0.1、aが0〜6、(b+c)が18〜30、yが0〜0.2、bが8〜18、zが0〜0.13、cが7〜18を満足することを特徴とする請求項1記載の磁気シールド装置。
【請求項10】
磁性積層部材と強度部材で予め作製したコーナー部パネル部材と平板パネル部材とを組み合わせ、強度部材で形成した骨組に固定することにより形成した請求項1或いは請求項4記載の磁気シールド装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−98324(P2006−98324A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287082(P2004−287082)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】