説明

磁気シールド装置

【課題】磁気シールド装置の側面における透視性を確保したまま、磁束の流れを阻害することなく、床面の高さを低く段差をなくすことができまた、磁気シールド装置のコーナー部分における磁束の流れを阻害することなく、磁束を遮蔽する鋼材の使用量を低減することができる磁気シールド装置を提供する。
【解決手段】磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置であって、該磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることを特徴とする磁気シールド装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簾状磁性体により構成された内側層および外側層からなる二層式の磁気シールド装置、および、磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気シールド装置は、例えば、MRI(核磁気共鳴装置)などの励磁体から発生する磁束を遮断して磁場の影響を受け易いセンサーや制御機器を保護する装置であり、この磁気シールド装置に関して従来から種々の提案がなされている。
例えば、特開2002−164686号公報には、有限長磁性体の群を磁界内に、簾状に並べることによって、通気性および透視性のある磁気シールド装置が開示されている。
【0003】
しかし、特開2002−164686号公報に記載された従来技術では、側面のすだれ状の鋼板と床面との直角接合が生じ、この部分で磁束の流れが阻害されるという問題点があった。
また、床面との接合部分における磁束の流れを確保すると磁気シールド装置の床が高くなりフロアに段差が生じるため、ベッドなどの移動に支障が出る一方で、床全体を底上げするには多大な費用がかかるうえ、設置工事に騒音が生じるという問題点があった。
また、特開2002−164686号公報に記載された従来技術では、側面の鋼板と床面や天井の鋼板との直角接合が生じ、この部分で磁束の流れが阻害されるという問題点があった。
さらに、励磁体が磁気シールド装置の中心から偏った位置に設置される場合に、磁気シールド装置全体に均一な密度で鋼材を配置すると鋼材の使用量が不必要に多くなり、製造コストが高くなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−164686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、磁気シールド装置の側面における透視性を確保したまま、磁束の流れを阻害することなく、床面の高さを低く段差をなくすことができ、磁気シールド装置のコーナー部分における磁束の流れを阻害することなく、磁束を遮蔽する鋼材の使用量を低減することができる磁気シールド装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題を解決するために鋭意検討の結果、簾状磁性体により構成された内側層および外側層からなる二層式の磁気シールド装置において、内側層および/または外側層のコーナー部分をツイストさせた構造にすることにより、磁気シールド装置の側面における透視性を確保したまま、磁束の流れを阻害することなく、床面の高さを低く段差をなくすことができ、また、磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置において、磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることによってコーナー部分における磁束の流れを阻害することなく、また、鋼材を配置する密度を場所により変えることによって磁束を遮蔽する鋼材の使用量を低減することができる磁気シールド装置を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置であって、該磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることを特徴とする磁気シールド装置。
(2)前記鋼材は、長手方向に磁化容易軸を有する方向性電磁鋼からなる鋼板または丸鋼であることを特徴とする(1)に記載の磁気シールド装置。
(3)磁束を発生させる励磁体の近傍に鋼材を配置する密度を高くすることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気シールド装置。
(4)前記複数条の鋼材の一部を長手方向にスライドさせて、窓またはドアにすることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の磁気シールド装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簾状磁性体により構成された内側層および外側層からなる二層式の磁気シールド装置において、内側層および/または外側層のコーナー部分をツイストさせた構造にすることにより、磁気シールド装置の側面における透視性を確保したまま、磁束の流れを阻害することなく、床面の高さを低く段差をなくすことができ、また、磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置において、磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることによってコーナー部分における磁束の流れを阻害することなく、また、鋼材を配置する密度を場所により変えて磁束を遮蔽する鋼材の使用量を低減することにより製造コストを低減できる磁気シールド装置を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用する二層式磁気シールド装置を例示する図である。
【図2】本発明を適用する二層式磁気シールド装置の内側層および外側層の構造を例示する図である。
【図3】本発明におけるツイスト構造を説明する図である。
【図4】本発明の磁気シールド装置の実施形態を例示する図である。
【図5】本発明の磁気シールド装置の実施形態を例示する図である。
【図6】本発明の磁気シールド装置の好ましい実施形態を例示する図である。
【図7】本発明の磁気シールド装置に用いる窓またはドアの構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明を実施するための形態について、図1乃至図7を用いて詳細に説明する。
図1および図2は、従来の二層式磁気シールド装置を例示する図であり、励磁体が内側に設置された場合を示す。
図1および図2において、1は内側層、2は外側層、3は励磁体を示す。
本発明を適用する二層式磁気シールド装置は、図1(a)に示す簾状磁性体により構成された内側層1と図1(b)に示す簾状磁性体により構成された外側層2とを組み合わせることによって、磁気シールド装置(c)が構成されている。
図1に示すように、本発明を適用する二層式磁気シールド装置は、例えば、内側層1を垂直の複数層からなり、外側層2を水平の複数層から構成されており、内側層の1層は例えば図2に示すような幅Dが50mm程度の帯鋼で、厚さ方向に方向性電磁鋼板(GO)を積層した板厚(ti)および、外側層2の板厚(to)を約1〜3mmとすることによって、床面との接合部分における磁束の流れを確保することができる。
【0010】
また、図2に示す矢印の方向は、方向性電磁鋼板の磁化容易軸の方向を示す。磁束の流れ方向と磁化容易軸の方向を一致させることによって磁束の流れを円滑にできるので磁気遮蔽効果を向上させることができる。
しかし、図2に示すような構造では、磁気シールド装置の床面が鋼板の幅Dだけ高くなってしまい、フロアに段差が生じるため、ベッドなどの移動に支障が出る一方で、床全体を底上げするには多大な費用がかかるうえ、設置工事に騒音が生じるという問題点があった。
また、図2に示すような構造では、磁気シールド装置のコーナー部分を直角に曲げているため、鋼材に沿って磁束が流れにくく、磁束が磁気シールド装置の内外に漏れる場合があり、また、励磁体が磁気シールド装置の中心から偏った位置に配置されている場合に、磁気シールド装置を構成する鋼材を均等に配置すると、必要以上の鋼材を使用することになり製造コストが高くなるという問題点があった。
【0011】
図4は、本発明の磁気シールド装置の実施形態を例示する図である。
図4において、1は内側層、2は外側層を示す。
本発明は、内側層1および外側層2からなる二層式の磁気シールド装置であって、内側層1および/または外側層2のコーナー部分をツイストさせた構造にすることを特徴とする。
本実施形態においては、図4に示すように、内側層1および外側層2のコーナー部分の鋼板を曲げてツイストさせた構造にすることによって磁気シールド装置の上下面および側面に鋼板の厚さ分の凹凸しか生じないので、側面における透視性を確保しつつ、しかも、磁気シールド装置の下面における床を鋼板の幅Dだけ高くする必要がなくフラットにすることができるうえ、鋼板を切断しないので磁束の流れを連続させることができる。
【0012】
以下にツイスト構造について詳細に説明する。
図2のごとく口の字の鋼板は、例えばX-Y平面にあるとする。横の2本の鋼板もY方向に平行にX-Y平面にあり、上と下の2本の鋼板もX方向に平行にX-Y平面にある。これを図3に示すようなツイスト構造にすると、例えば、上と下の2本の鋼板は、X方向に並行ではあるがその面は、X-Z平面にあることになる。横の2本の鋼板はY方向に平行で、X-Y平面にあるままである。そこで、両者を接合するとすれば、4つのコーナ部分で、X-Y平面にある鋼板を、X-Z平面になるように、ツイストすることになる。つまり、ツイストすることで、口の字状の4本の鋼板が、すべて同一平面にあるのではなく、平行な2本が直交する別の平面にあることを意味する。
【0013】
また、磁気シールド装置の上面および/または下面において、内側層1および外側層2を形成する鋼板を網目構造にすることによって、磁気シールド装置の上面および/または下面をフラットに保ちつつ、強固な構造にすることができる。
ここに、網目構造とは、内側層1および外側層2を形成する鋼板を互い違いに上下させることによって竹細工のような構造にしたものをいう。
また、前記内側層1および外側層2のコーナー部分の鋼板を曲げてツイストさせる位置を磁気シールド装置の側面内とすることによって、ツイスト部が磁気シールド装置内に突出しないようにできるので外観を損なうことがないうえ、ツイスト部を目隠しする壁材を設けることによって使用者からツイスト部が全く見えなくすることもできる。
さらに、前記ツイストさせる箇所に焼鈍処理を施すことによって、ツイストさせる際の曲げ変形によって劣化した磁気特性を、焼鈍処理を施すことによって鋼板の内部応力を開放することによって、低下した鋼板の磁気特性を回復させることができる。
本発明においては、焼鈍処理の方法は問わないが、焼鈍設備が比較的コンパクトであり現場施工性に優れているため、ツイスト部分に局所的な通電加熱を行う方法が好ましい。
【0014】
図5は、本発明の磁気シールド装置の実施形態を例示する図である。
図5において、3は励磁体、4は鋼材を示す。
本発明は、磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置であって、図5に示すように、該磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることを特徴とする。
励磁体3から発生する磁束は、流れやすい場所を選んで進む性質を有しており、従来のようにコーナー部分が直角に曲がっていると磁束が鋼材から磁気シールド装置の内外に漏れ出してしまう場合があるが、図5のように曲線状に曲げることによって、鋼材内を磁束が流れやすくなるので、磁束が鋼材から漏れ出すことを防止することができる。
また、図5に示す矢印は、鋼材の磁化容易方向を示す。
図5に示すように、磁気シールド装置を構成する複数条の鋼材は、長手方向に磁化容易軸を有する方向性電磁鋼(GO)からなる鋼板または丸鋼として、磁束の流れと磁化容易方向とを一致させることによって、さらに磁束の流れを促進することができる。
なお、鋼板は単層でもよいが、複数層の鋼板を積層したものでもよい。
【0015】
図6は、本発明の磁気シールド装置の好ましい実施形態を例示する図である。
図6において、3は励磁体、4は鋼材を示す。
図6に示すように、励磁体3が、磁気シールド装置の中心から偏った位置に設置されている場合に、磁気シールド装置を構成する鋼材を均等に配置すると不必要な鋼材が必要となるため、本実施形態においては、磁束を発生させる励磁体の近傍に鋼材を配置する密度を高くすることを特徴とする。
すなわち、励磁体3の近傍である図6の左半分の鋼材の間隔を狭めて配置する一方で、励磁体3から離れた図6の右半分の鋼材の間隔を広めて配置することによって、磁気シールド装置全体として必要となる鋼材量を著しく低減することができる。
また、鋼材を配置する密度を高くする方法としては、前述のように鋼材の間隔を狭める方法以外に、鋼板の場合には厚さを厚くし、また、丸鋼の場合には径を大きくしてもよい。
なお、図6に示す矢印は、鋼材の磁化容易方向を示す。
図6に示すように、磁気シールド装置を構成する複数条の鋼材は、長手方向に磁化容易軸を有する方向性電磁鋼(GO)からなる鋼板または丸鋼ととして、磁束の流れと磁化容易方向とを一致させることによって、さらに磁束の流れを促進することができる。
なお、鋼板は単層でもよいが、複数層の鋼板を積層したものでもよい。
【0016】
図7は、本発明の磁気シールド装置に用いる窓またはドアの構造を例示する図である。
図7において、4は鋼材、5は窓またはドアを示す。
図7に示すように、矢印で示す複数条の鋼材の一部を長手方向にスライドさせて、窓またはドアにすることによって簡易な構造の窓またはドアを実現することができるうえ、窓またはドアを使用しないときは鋼材の位置を元に戻すことができ、磁束の遮蔽効果を維持することができる。
【符号の説明】
【0017】
1 内側層
2 外側層
3 励磁体
4 鋼材
5 窓またはドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界内に複数条の鋼材を簾状に配置する磁気シールド装置であって、該磁気シールド装置のコーナー部分の鋼材を曲線状に曲げることを特徴とする磁気シールド装置。
【請求項2】
前記鋼材は、長手方向に磁化容易軸を有する方向性電磁鋼からなる鋼板または丸鋼であることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド装置。
【請求項3】
磁束を発生させる励磁体の近傍に鋼材を配置する密度を高くすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気シールド装置。
【請求項4】
前記複数条の鋼材の一部を長手方向にスライドさせて、窓またはドアにすることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の磁気シールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−260363(P2009−260363A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141737(P2009−141737)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【分割の表示】特願2004−205186(P2004−205186)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】