説明

磁気シールド装置

【課題】相対的に厚みが厚い磁性体群と相対的に厚みが薄い磁性体群を相互に接合して形成された磁気シールド装置の磁気シールド性能が低下することを可及的に抑制できるようにする。
【解決手段】第1のシールド部材31の長手方向の端部を、第2、第3のシールド部材32、33の厚みと同じ厚みを有して突出させる。そして、第1のシールド部材31の突出している部分の先端面と、第2、第3のシールド部材32、33の長手方向の先端面とを相互に突き合わせる。更に、第1のシールド部材31の突出していない領域のうち、第2、第3のシールド部材32、33が配置される領域を除く領域に合う形状を有する第4〜第7のシールド部材34〜37を、第1のシールド部材31の突出している部分の上下の領域に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気シールド装置に関し、特に、磁界をシールドするために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
MRI(Magnetic Resonance Imaging)等、例えば1[T]〜3[T]程度の強磁場を利用する電子機器は、人体や精密機器に悪影響を与える虞がある。そこで、従来から、そのような電子機器を磁気シールド装置の内部に設置し、電子機器から発生する磁界が磁気シールド装置の外部に漏洩することをシールド(低減)するようにしている。また、磁気シールド装置の近くに大電流が流れていたり、残留磁場のある磁性体があったりする場合には、そこから磁界が発生する。磁気シールド装置を用いれば、このような磁界が磁気シールド装置の内部に進入することを防止することもできる。
【0003】
このような磁気シールド装置として、シールドルームの全面を磁性体の板で覆う密閉型の磁気シールド装置がある。密閉型の磁気シールド装置は、通気性が悪く、内部温度が高くなるという問題点を有する。また、密閉型の磁気シールド装置は、磁性体の板を大量に使用するため、高価なものになるという問題点を有する。また、密閉型の磁気シールド装置では、当該密閉型の磁気シールド装置が適用される部屋の全面が磁性体で覆われるために、部屋に窓を取り付けることが難しいという問題点も有する。更に、例えばMRIが設置されたMRI室に密閉型の磁気シールド装置を採用すると、外部の様子を患者(被検査者)が見ることが難しいために、患者に心理的な不安を与えてしまう虞があるという問題点も有する。
そこで、特許文献1には、複数の磁性体の板を厚み方向に積層した短冊形の磁性体群を、当該磁性体の板の厚み方向で間隔を有するようにすだれ状に並べて構成された開放型の磁気シールド装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3633475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁界発生源(MRI等の電子機器)の設置場所等により、磁気シールド装置における磁界は、場所によって異なる。そこで、磁界が大きい場所に設置される磁性体群の厚みを厚く、磁界が小さい場所に設置される磁性体群の厚みを薄くするようにして開放型の磁気シールド装置を構成すれば、磁気シールド装置をより安価に製造することができるので望ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、磁性体群の厚みについて検討されていない。したがって、相対的に厚い磁性体群と相対的に薄い磁性体群を相互に接合して磁気シールド装置を構成すると、同じ厚みの磁性体群を相互に接合して磁気シールド装置を構成した場合に比べ、磁気シールド装置の磁気シールド性能が低下してしまう虞がある。よって、磁気シールド装置の磁気シールド性能を実用上十分なものにすることが困難になる虞があるという問題点があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、相対的に厚みが厚い磁性体群と相対的に厚みが薄い磁性体群を相互に接合して形成された磁気シールド装置の磁気シールド性能が低下することを可及的に抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気シールド装置は、厚み方向に積み重ねられた複数の磁性体板を用いて構成されたシールド枠体を複数有し、当該複数のシールド枠体のうち、前記磁性体板の厚み方向で相互に隣り合う2つのシールド枠体が、当該磁性体板の板面が相互に対向するように間隔を有して配置された磁気シールド装置であって、前記シールド枠体は、厚み方向に積み重ねられた複数の磁性体板を用いて構成されるシールド部材を複数有し、前記複数のシールド部材は、その長手方向における先端面が相互に接合されている2つの主シールド部材を有し、前記2つの主シールド部材の一方の長手方向における両端部又は一端部を除く部分の厚みは、他方の厚みよりも厚く、前記他方の主シールド部材の厚みは一定であり、前記一方の主シールド部材は、その長手方向における両端部又は一端部が、前記他方の主シールド部材の厚みと同じ厚みを有して突出しており、前記一方の主シールド部材の突出している部分の先端面と前記他方の主シールド部材の長手方向における先端面とが突き合わさることにより、前記2つの主シールド部材の長手方向における先端面が相互に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、相対的に厚みが厚い主シールド部材の長手方向における両端部又は一端部を、相対的に厚みが薄い主シールド部材の厚みと同じ厚みで突出させ、当該相対的に厚みが厚い主シールド部材の突出している部分の先端面と、当該相対的に厚みが薄い主シールド部材の長手方向における先端面とを突き合わせるようにした。したがって、相対的に厚みが厚い主シールド部材(磁性体板群)と相対的に厚みが薄い主シールド部材(磁性体板群)を相互に接合して形成された磁気シールド装置の磁気シールド性能が低下することを可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】磁気シールド装置が設けられたシールドルームの概略構成の一例を示す斜視図である。
【図2】第1のシールド枠体の一部分の構成の一例を示す図である。
【図3】相対的に厚いシールド部材と相対的に薄いシールド部材との接合部分における磁束密度の分布と、当該接合部分付近における漏れ磁場の分布を電磁場解析した結果の一例を示す図である。
【図4】相対的に厚いシールド部材と相対的に薄いシールド部材との接合部分よりも外側における磁束密度の一例を示す図である。
【図5】磁束密度の解析位置を示す図である。
【図6】磁気シールド装置の第1の比較例の構成を示す図である。
【図7】磁気シールド装置の第2の比較例の構成を示す図である。
【図8】第1のシールド部材と第3のシールド部材の変形例を示す図である。
【図9】第1のシールド部材の他の変形例を示す図である。
【図10】磁気シールド装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の磁気シールド装置が設けられたシールドルームの概略構成の一例を示す斜視図である。尚、図1では、説明の都合上、シールドルーム及び磁気シールド装置を簡略化して示している。また、本実施形態では、MRIによる診断を行うためのシールドルームを例に挙げて説明する。
【0011】
図1において、シールドルーム1には、MRI2による測定を行う測定領域1aと、MRI2の操作等を行う操作領域1bとがある。測定領域1aには、MRI2が設置されている。MRI2が動作すると、その中心部には、例えば1.5[T]程度の磁界が発生する。一方、操作領域1bには、MRI2を操作するための装置等が設置されている。
【0012】
また、測定領域1aには、磁気シールド装置3が設置されている。磁気シールド装置3は、第1〜第5のシールド枠体30a〜30eを有している。
第1〜第5のシールド枠体30a〜30eは、第1のシールド部材31a〜31eと、第2のシールド部材32a〜32eと、第3のシールド部材33a〜33eと、第4のシールド部材34a〜34eと、第5のシールド部材35a〜35eと、第6のシールド部材36a〜36eと、第7のシールド部材37a〜37eとを有する。
ここで、第2のシールド部材32と、第3のシールド部材33は同じものであり、また、第4〜第7のシールド部材34〜37も同じものである。また、本実施形態では、これら第1〜第7のシールド部材31〜37が、全て同じ材料、同じ厚みの磁性体板(例えば電磁鋼板)を用いて形成されている場合を例に挙げて説明を行う。
【0013】
図2は、第1のシールド枠体30aの一部分の構成の一例を示す図である。
図2において、第1のシールド部材31aは、矩形状磁性体群311、312と、等脚台形状磁性体群313とを有している。
矩形状磁性体群311、312は、長手方向(横方向)の長さが998[mm]、幅方向(奥行方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に23枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図2(a)を参照)。
【0014】
一方、等脚台形状磁性体群313は、上底の長さが1000[mm]、下底の長さが1100[mm]、幅(高さ)が50[mm]、厚みが0.35[mm]の等脚台形状の磁性体板を厚み方向に19枚積み重ねて構成されるものである。ここで、等脚台形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図2(a)を参照)。
第1のシールド部材31aは、矩形状磁性体群311、312の幅方向の端面と、等脚台形状磁性体群313の上底及び下底に対応する部分の端面とが面一となり、且つ矩形状磁性体群311、312の幅方向の一端面と、等脚台形状磁性体群313の上底に対応する部分の端面との長手方向における位置が、等脚台形状磁性体群313の上底の左右1[mm]の部分を除いて同じとなるように、矩形状磁性体群311、312の間に等脚台形状磁性体群313が配置されることにより形成される。
【0015】
第3のシールド部材33aは、上底の長さが1000[mm]、下底の長さが1050[mm]、幅方向(横方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の直角台形状の磁性体板を厚み方向に19枚積み重ねることにより形成されるものである。ここで、直角台形状の磁性体板の長手方向(奥行方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(横方向)は磁化困難軸方向Cである(図2(a)を参照)。また、直角台形状の磁性体板の斜辺の長さは、第1のシールド部材31aを構成する等脚台形状磁性体群313の斜辺の長さと同じである。特に、本実施形態では、等脚台形状磁性体群313の下底の両端の角度を45[°]、直角台形状の磁性体板の下底の90[°]でない方の一端の角度を45[°]にしている。
【0016】
第6、第7のシールド部材36a、37aは、横方向の長さが50[mm]、奥行方向の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の正方形状の磁性体板(例えば電磁鋼板)を厚み方向に23枚積み重ねて構成されるものである。ここで、正方形状の磁性体板の横方向は磁化容易軸方向Lであり、奥行方向は磁化困難軸方向Cである(図2(a)を参照)。
【0017】
第1のシールド枠体30aを形成する際には、第1のシールド部材31aの等脚台形状磁性体群313の斜辺の部分と、第3のシールド部材33aの斜辺の部分とが相互に接触するように、それらを突き合せるようにする。また、第1のシールド部材31aの矩形状磁性体群311の側面と、第6のシールド部材36aの横方向(L方向)における一側面とが1[mm]程度の間隔を有するように、それらが相互に対向するようにする(図2(b)を参照)。尚、ここでは、1[mm]程度の間隔を有するようにしたが、必ずしも間隔を空ける必要はない。
【0018】
本実施形態では、このようにすることによって、厚みが22.75[mm](=0.35[mm]×(23+19+23))の磁性体板群(第1のシールド部材31)の長手方向における先端面と、厚みが6.65[mm](=0.35[mm]×19)の磁性体板群(第3のシールド部材)の長手方向における先端面とが相互に接合されるようにしている。
尚、第1のシールド部材31aと、第2のシールド部材32aと、第4、第5のシールド部材34a、35aの配置は、第1のシールド部材31aと、第3のシールド部材33aと、第6、第7のシールド部材36a、37aの配置と同じである。したがって、それらの詳細な説明を省略する。
また、第1〜第7のシールド部材31〜37は、夫々、接着剤等を用いて複数枚の磁性体板が相互に接着されることにより、一体で形成される。更に、シールド部材31〜37同士の取り付けは、例えば、接着剤やボルトや磁石等を用いた種々の方法により実現することができる。
以上のように本実施形態では、例えば、第1〜第3のシールド部材31〜33が主シールド部材に対応し、第4〜第7のシールド部材34〜37があて板シールド部材に対応する。
【0019】
磁気シールド装置3は、以上のような第1のシールド枠体30aと、第1のシールド枠体30aと同じ構成を有する第2〜第5のシールド枠体30b〜30eとのうち、高さ方向で相互に隣り合う2つのシールド枠体30を構成するシールド部材31〜37の板面が相互に対向するように、それら2つのシールド枠体30を例えば600[mm]間隔で磁気シールド装置3の高さ方向に配置することにより構成される。特に、本実施形態では、第1のシールド部材31が、測定領域1aと操作領域1bとを区画する面(磁気シールド装置3の前面)に配置されるようにしている。このようにするのは、シールドルーム1では、磁気シールド装置3の側面から外部に漏れる磁界よりも、磁気シールド装置3の前面から外部に漏れる磁界の方が大きいからである。これとは逆に、磁気シールド装置3の側面から外部に漏れる磁界の方が、磁気シールド装置3の前面から外部に漏れる磁界よりも大きい場合には、磁気シールド装置3の両側面に第1のシールド部材31を夫々配置するようにすればよい。
【0020】
本願発明者らは、相対的に厚いシールド部材31と相対的に薄いシールド部材32、33との接合部分における磁束密度の分布と、当該接合部分付近における漏れ磁場の分布を、電磁場解析を行って調査した。図3は、相対的に厚いシールド部材31と相対的に薄いシールド部材33との接合部分における磁束密度の分布と、当該接合部分付近における漏れ磁場の分布を電磁場解析した結果の一例を示す図である。また、図4は、相対的に厚いシールド部材と相対的に薄いシールド部材との接合部分よりも外側における磁束密度の一例を示す図である。具体的に図4(a)は、図5に示す位置501における磁束密度を示すグラフであり、図4(b)は、図5に示す位置502における磁束密度を示すグラフである。尚、図4に示す位置A、B、C、A'、B'、C'は、図5に示す位置A、B、C、A'、B'、C'を示す。
図3において、本実施形態とは、図1、図2に示した磁気シールド装置3(第1の磁気シールド部材31a、第3の磁気シールド部材33a、第6、第7の磁気シールド部材36a、37aの接合部分)における分布を示す。
【0021】
また、図3において、第1の比較例、第2の比較例とは、夫々、図6、図7に示すような状態の接合部分における分布を示す。
図6、図7は、夫々、磁気シールド装置の第1、第2の比較例の構成を示す図である。図6、図7に示す比較例は、図1、図2に示した磁気シールド装置3と同じ材料、同じ厚みの磁性体板(例えば電磁鋼板)を用いて形成されているものとする。また、図6、図7では、図2に示した部分に対応する部分のみを示す。
図6において、第1の比較例の磁気シールド枠体600は、矩形状磁性体板群611〜614を有している。
矩形状磁性体群611、612は、長手方向(横方向)の長さが1100[mm]、幅方向(奥行方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に23枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図6(a)を参照)。
【0022】
また、矩形状磁性体群613は、長手方向(横方向)の長さが998[mm]、幅方向(奥行方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に19枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図6(a)を参照)。
また、矩形状磁性体群614は、長手方向(奥行方向)の長さが1100[mm]、幅方向(横方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に19枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(奥行方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(長手方向)は磁化困難軸方向Cである(図6(a)を参照)。
【0023】
磁気シールド枠体600を形成するに際しては、まず、磁性体板の板面方向が相互に平行になる状態で、矩形状磁性体群613の幅方向の端面と矩形状磁性体群611、612の幅方向の端面とが面一となるように、矩形状磁性体群611、612の間に矩形状磁性体群613を配置する。このとき、矩形状磁性体群611、612の長手方向における側面に対し、矩形状磁性体群413の長手方向における側面が、51[mm]内側に位置するようにする(すなわち、図6(a)に示すように側面が凹んだ状態となるようにする)。
そして、このようにして矩形状磁性体群611〜613が組み合わさることにより長手方向の側面に形成された凹み部に、矩形状磁性体群613の幅方向(C方向)における一側面と矩形状磁性体群614の長手方向(L方向)における一側面(先端面)とが面一となり、且つ、矩形状磁性体群613の長手方向(L方向)における一側面と矩形状磁性体群614の幅方向(C方向)における一側面とが1[mm]程度の間隔を有するように、矩形状磁性体群614を配置することにより、磁気シールド枠体600が形成される。
【0024】
一方、図7において、第2の比較例の磁気シールド枠体700は、矩形状磁性体板群711〜716を有している。
矩形状磁性体群711、712は、長手方向(横方向)の長さが1100[mm]、幅方向(奥行方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に15枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図7(a)を参照)。
【0025】
また、矩形状磁性体群713は、長手方向(横方向)の長さが998[mm]、幅方向(奥行方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に35枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(横方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(奥行方向)は磁化困難軸方向Cである(図7(a)を参照)。
また、矩形状磁性体群714は、長手方向(奥行方向)の長さが1100[mm]、幅方向(横方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に19枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(奥行方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(横方向)は磁化困難軸方向Cである(図7(a)を参照)。
また、矩形状磁性体群715、716は、長手方向(奥行方向)の長さが150[mm]、幅方向(横方向)の長さが50[mm]、厚みが0.35[mm]の矩形状の磁性体板を厚み方向に8枚積み重ねて構成されるものである。ここで、矩形状の磁性体板の長手方向(奥行方向)は磁化容易軸方向Lであり、幅方向(横方向)は磁化困難軸方向Cである(図7(a)を参照)。
【0026】
磁気シールド枠体700を形成するに際しては、まず、磁性体板の板面方向が相互に平行になる状態で、矩形状磁性体群713の幅方向の端面と矩形状磁性体群711、712の幅方向の端面とが面一となるように、矩形状磁性体群711、712の間に矩形状磁性体群713を配置する。このとき、矩形状磁性体群711、712の長手方向における側面に対し、矩形状磁性体群713の長手方向における側面が、51[mm]内側に位置するようにする(すなわち、図7(a)に示すように側面が凹んだ状態となるようにする)。
【0027】
また、磁性体板の板面方向が相互に平行になる状態で、矩形状磁性体群714の長手方向(L方向)における一側面(先端面)と矩形状磁性体群715、716の長手方向(L方向)における一側面(先端面)とが面一となるように、矩形状磁性体群714の上面に矩形状磁性体群715を、矩形状磁性体群714の下面に矩形状磁性体群716を配置する。
そして、矩形状磁性体群711〜713が組み合わさることにより長手方向(L方向)の側面に形成された凹み部に、矩形状磁性体群713の幅方向(C方向)における一側面と矩形状磁性体群714〜716の長手方向(L方向)における一側面(先端面)とが面一となり、且つ、矩形状磁性体群713の長手方向(L方向)における一側面と矩形状磁性体群714〜716の幅方向(C方向)における一側面とが1[mm]程度の間隔を有するように、以上のようにして組み合わされた矩形状磁性体群714〜716を配置することにより、磁気シールド枠体700が形成される。
【0028】
図3、図4を参照すると、以上のような第1、第2の比較例における接合部分よりも、図1、図2に示した本実施形態の磁気シールド装置3の接合部分の方が、磁束密度が小さく、且つ接合部分付近の漏れ磁場(接合部分の外側における磁束密度)が小さいことが分かる。これは、主な磁束が流れる薄い鋼材(図2であれば第3のシールド部材33aと等脚台形状磁性体群313、図6であれば矩形状磁性体板群614、612、図7であれば矩形状磁性体板群714、713)の突合せのあり方が、あて板(第4〜第7のシールド部材34〜37)の存在より大きくなるためといえる。つまり、図2では、45°の角度で、第3のシールド部材33aと等脚台形状磁性体群313とが接しており、主な磁束は、それぞれのL方向(磁化容易軸方向)の流れでわたることができるが、図6、図7では、それぞれの鋼材が直交して接続しているので、C方向(磁化困難軸方向)にも磁束が流れないといけないため、そこの部分での磁束の流れが悪くなって漏れやすくなるため、と考えることができる。漏れ磁場の低減が必要なことなので、少しでも小さい漏れ磁場は実用上有益な磁気シールド性能といえる。ただし、本願発明者らは、第4〜第7のシールド部材34〜37を用いなくても、実用上十分な磁気シールド性能が容易に得られるということを電磁場解析により確認している。
更に、本願発明者らは、以上のものと異なる種々の方法で相対的に厚みが厚いシールド部材と、相対的に厚みが薄いシールド部材とを相互に接合した場合には、以上のものよりも磁気シールド性能が劣り、実用上十分な磁気シールド性能が容易に得られないということを電磁場解析により確認している。
【0029】
以上のように本実施形態では、相対的に厚みが厚い第1のシールド部材31と、相対的に厚みが薄い第2、第3のシールド部材32、33とを相互に接合するに際し、以下のようにする。まず、第1のシールド部材31の長手方向の端部を、第2、第3のシールド部材32、33の厚みと同じ厚みを有して突出させるようにする。そして、第1のシールド部材31の突出している部分の先端面と、第2、第3のシールド部材32、33の長手方向の先端面とを相互に突き合わせるようにする。更に、第1のシールド部材31の突出していない領域のうち、第2、第3のシールド部材32、33が配置される領域を除く領域に合う形状を有する第4〜第7のシールド部材34〜37を、第1のシールド部材31の突出している部分の上下の領域に配置するようにする。以上のようにすることによって、相対的に厚い磁性体群と相対的に薄い磁性体群を相互に接合して形成された磁気シールド装置の磁気シールド性能を実用上十分なものにすることを容易に且つ確実に実現することができる。
【0030】
(第1の変形例)
本実施形態では、第4〜第7のシールド部材34〜37を、第1のシールド部材31の突出している部分の上下の領域に配置するようにした。しかしながら、第4〜第7のシールド部材34〜37の全部又は一部を配置しないようにしてもよい。
【0031】
(第2の変形例)
本実施形態では、第1のシールド部材31の第2、第3のシールド部材32、33と突き合わさる面と、第1のシールド部材31の幅方向の側面とのなす角度を45[°]、135[°]にすると共に、第2、第3のシールド部材32、33の第1のシールド部材31と突き合わさる面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度を45[°]、135[°]にし、第1のシールド部材31と、第2、第3のシールド部材32、33とが突き合わさったときに、第1のシールド部材31の幅方向の側面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度が90[°]になるようにした(図2(a)を参照)。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。
【0032】
図8は、第1のシールド部材31と第3のシールド部材33の変形例を示す図である。具体的に図8(a)は、図1、図2に示した第1のシールド部材31と第3のシールド部材33の接合部分を示す図である。図8では、第6、第7のシールド部材36、37が取り付けられていない状態で、第1のシールド部材31と第3のシールド部材33の接合部分を図2(a)のA方向から見た様子を示している。
【0033】
本変形例では、図8(a)に示すものに対し、例えば、図8(b)〜図8(e)に示すようにしてもよい。すなわち、図8(a)では、第1のシールド部材31と、第2、第3のシールド部材32、33とが突き合わさったときに、第1のシールド部材31の幅方向の側面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度(=α1+α2(=360−(β1+β2))が90[°]になるようにした。
【0034】
しかしながら、図8(b)に示すように、第1のシールド部材31と、第2、第3のシールド部材32、33とが突き合わさったときに、第1のシールド部材31の幅の側面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度が、90[°]よりも大きくなるようにしてもよい。また、これとは逆に、図8(c)に示すように、第1のシールド部材31と、第2、第3のシールド部材32、33とが突き合わさったときに、第1のシールド部材31の幅方向の側面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度が、90[°]よりも小さくなるようにしてもよい。また、図8(d)に示すように、第1のシールド部材31と、第2、第3のシールド部材32、33とが突き合わさったときに、第1のシールド部材31の幅方向の側面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度が、180[°]になるようにしてもよい。
【0035】
また、図8(a)では、第1のシールド部材31の第2、第3のシールド部材32、33と突き合わさる面と、第1のシールド部材31の幅方向の側面とのなす角度α1、α2を同じにすると共に、第2、第3のシールド部材32、33の第1のシールド部材31と突き合わさる面と、第2、第3のシールド部材32、33の幅方向の側面とのなす角度をβ1、β2を同じにするようにした。しかしながら、図8(e)に示すように。角度α1と角度α2(角度β1と角度β2)が異なるようにしてもよい(すなわち、第1のシールド部材31の幅と第2、第3のシールド部材32、33の幅とが異なるようにしてもよい)。
【0036】
(第3の変形例)
本実施形態では、第1のシールド部材31の長手方向の端部が、第1のシールド部材31の厚み方向の中央部分で突出するようにした(図2(a)を参照)。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、図9に示すようにしてもよい。図9は、第1のシールド部材31の他の変形例を示す図である。図9では、図2(a)に対応する部分を示す。また、図9では、第6、第7のシールド部材36、37の図示を省略している。
図9(a)に示すように、第1のシールド部材31の長手方向の端部が、第1のシールド部材31の厚み方向の一端側(上面)で突出するようにしてもよいし、図9(b)に示すように、第1のシールド部材31の厚み方向の他端側(下面)で突出するようにしてもよい。
【0037】
(第4の変形例)
本実施形態では、第1〜第5のシールド枠体30a〜30eを構成する磁性体板の板面が磁気シールド装置3の底面と平行になる状態で、第1〜第5のシールド枠体30a〜30eが磁気シールド装置3の高さ方向に配置されるようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、図10に示すようにしてもよい。図10は、磁気シールド装置の変形例を示す図である。具体的に図10は、図1と対応する図であり、シールドルームの概略構成の変形例を示す斜視図である。図10に示すように、第1〜第5のシールド枠体30a〜30eを構成する磁性体板の板面が磁気シールド装置3の底面と垂直になる状態で、第1〜第5のシールド枠体30a〜30eが磁気シールド装置3の幅(横)方向に配置されるようにしてもよい。
【0038】
(第5の変形例)
また、本実施形態では、等脚台形状の磁性体板(等脚台形状磁性体群313)を用いて第1のシールド部材31を形成するようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、等脚台形状磁性体群313の代わりに、直角台形状の磁性体板を厚み方向に積み重ねたものや、平行四辺形状の磁性体板を厚み方向に積み重ねたものを用いてもよい。直角台形状の磁性体板を厚み方向に積み重ねたものを用いた場合には、第1のシールド部材31の長手方向における一端部に第2、第3のシールド部材32、33が接合されることになる。
また、本実施形態では、直角台形状の磁性体板を用いて第2、第3のシールド部材32、33を形成するようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、平行四辺形状、等脚台形状の磁性体板を用いて第2、第3のシールド部材32、33を形成するようにしてもよい。このようにした場合には、第2、第3のシールド部材32、33の両端部に第1のシールド部材31が接合されることになる。
【0039】
(第6の変形例)
また、本実施形態では、磁気シールド装置3を構成する第1〜第5のシールド枠体30a〜30eが同じものである場合を示したが、各シールド枠体30は同じでなくてもよい、シールド枠体30のうち、少なくとも1つが前述した構成を有していればよい。例えば、第1のシールド部材31の長手方向の端部が、第2、第3のシールド部材32、33の厚みと同じ厚みを有して突出するようにし、第1のシールド部材31の突出している部分の先端面と、第2、第3のシールド部材32、33の長手方向の先端面とを突き合わせている構成を有していればよい。
この他、前述した各変形例を組み合わせることもできる。
【0040】
尚、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 シールドルーム
2 MRI
3 磁気シールド装置
30a〜30e シールド枠体
31〜35 シールド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に積み重ねられた複数の磁性体板を用いて構成されたシールド枠体を複数有し、当該複数のシールド枠体のうち、前記磁性体板の厚み方向で相互に隣り合う2つのシールド枠体が、当該磁性体板の板面が相互に対向するように間隔を有して配置された磁気シールド装置であって、
前記シールド枠体は、厚み方向に積み重ねられた複数の磁性体板を用いて構成されるシールド部材を複数有し、
前記複数のシールド部材は、その長手方向における先端面が相互に接合されている2つの主シールド部材を有し、
前記2つの主シールド部材の一方の長手方向における両端部又は一端部を除く部分の厚みは、他方の厚みよりも厚く、
前記他方の主シールド部材の厚みは一定であり、
前記一方の主シールド部材は、その長手方向における両端部又は一端部が、前記他方の主シールド部材の厚みと同じ厚みを有して突出しており、
前記一方の主シールド部材の突出している部分の先端面と前記他方の主シールド部材の長手方向における先端面とが突き合わさることにより、前記2つの主シールド部材の長手方向における先端面が相互に接合されていることを特徴とする磁気シールド装置。
【請求項2】
前記シールド枠体は、前記一方の主シールド部材の長手方向における端部の突出していない領域の厚みと同じ厚みとなるように厚み方向に積み重ねられた複数の磁性体板を用いて構成されるシールド部材であって、当該領域に、前記主シールド部材の面方向と面方向が平行になるように配置されたあて板シールド部材を更に有することを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド装置。
【請求項3】
前記あて板シールド部材は、前記一方の主シールド部材の長手方向における端部の突出していない領域のうち、前記他方の主シールド部材が配置される領域を除く領域に合う形状を有することを特徴とする請求項2に記載の磁気シールド装置。
【請求項4】
前記一方の主シールド部材の前記他方の主シールド部材と突き合わさる面と、前記一方の主シールド部材の幅方向の端面とのなす角度と、前記他方の主シールド部材の前記一方の主シールド部材と突き合わさる面と、前記他方の主シールド部材の幅方向の端面とのなす角度とが、同じである部分を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気シールド装置。
【請求項5】
前記一方の主シールド部材の幅方向の端面と、前記他方の主シールド部材の幅方向の端面とのなす角度が90[°]である部分を有することを特徴とする請求項4に記載の磁気シールド装置。
【請求項6】
前記一方の主シールド部材は、その長手方向における両端部又は一端部が、当該一方の主シールド部材の厚み方向における中央部分で、前記他方の主シールド部材の厚みと同じ厚みを有して突出していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の磁気シールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−192843(P2010−192843A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38293(P2009−38293)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】