説明

磁気ディスク媒体及び磁気ディスク装置

【課題】DTR構造のディスク媒体において、サーボ領域に対して転写成形方法によりサーボパターンを埋め込む場合に、サーボパターンの均一化を図ることができる構造の磁気ディスク媒体を提供することにある。
【解決手段】DTR構造のディスク媒体1において、サーボ領域300の偏差検出用サーボパターン305,306をナル型サーボパターンで構成し、サーボ領域300の磁性領域の占有率をほぼ50%程度になるように構成された磁気ディスク媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、DTR構造の磁気ディスク媒体及び当該磁気ディスク媒体を有する磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブを代表とする磁気ディスク装置(以下ディスクドライブと称す)では、ディスクリート(またはDTR:discrete track recording)構造のパターンドメディアである磁気ディスク媒体(以下単にディスク媒体と称す)が注目されている。
【0003】
DTR構造のディスク媒体は、表面上が磁気記録部として有効な第1の部分と非有効な第2部分とが形成されている(例えば、特許文献1を参照)。第1の部分は、磁性膜が設けられた凸部の磁性領域である。第2の部分は非磁性領域、または凹部で磁気記録ができない領域である。即ち、第2の部分は、磁性膜が形成されている場合でも、凹部により実質的に非磁性領域として構成された部分である。
【0004】
このようなディスク媒体であれば、通常のサーボトラックライタを使用することなく、ディスク媒体上にサーボデータが記録されたサーボ領域を埋め込むことができる。
【0005】
ところで、サーボデータには、セクタ及びトラックアドレス以外に、トラック内の位置偏差を検出するためのサーボパターン(以下偏差検出用サーボパターンと称する場合がある)が含まれている。偏差検出用サーボパターンには、バースト型サーボパターン以外に、ナル(null)型サーボパターンと呼ばれるサーボパターンがある(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
このナル型サーボパターンは、ディスク媒体上において各セクタでのフォーマット効率を改善し、サーボ領域の占有量を削減することが可能である。ナル型サーボパターンは、同期領域と位置エラー領域を含み、非同期型ディジタル復調器を用いることで読出し信号に同期することなく位置エラー信号を得ることができる。
【特許文献1】特開平8−293110号公報
【特許文献2】特表2002−516450号公報(段落番号0020〜0027、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のナル型のサーボパターンは、サーボトラックライタにより、ディスク媒体上に記録される。一方、DTR構造のディスク媒体において、従来のバースト型サーボパターンを埋め込むことが一般的である。しかしながら、DTR構造のディスク媒体では、転写成形方法によりサーボパターンを埋め込む場合に、当該ディスク媒体上のデータ領域との面積比の差が大きいため、転写形成が容易でないことが確認された。具体的には、転写成形工程での加圧比率が不均一となり、サーボパターンの均一化を図ることが困難になっている。このため、サーボパターンを使用したヘッドの位置決め精度の低下を招く問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、DTR構造のディスク媒体において、サーボ領域に対して転写成形方法によりサーボパターンを埋め込む場合に、サーボパターンの均一化を図ることができる構造の磁気ディスク媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の観点は、DTR構造のディスク媒体において、サーボ領域の磁性領域の占有率をほぼ50%程度になるようにして、転写成形方法によりサーボパターンを埋め込む場合にサーボパターンの均一化を図ることが可能な磁気ディスク媒体を提供することにある。
【0010】
本発明の観点に従った磁気ディスク媒体は、磁気ディスク装置の記録媒体として使用されて、サーボデータが記録されたサーボ領域とデータ領域とを含むトラックが周方向に構成された磁気ディスク媒体において、前記データ領域は、隣接するトラック間を分離する非磁性ガード帯を含み、前記サーボ領域は、磁気記録部として有効な第1の部分と非有効な第2の部分とから構成されたサーボパターンが記録されて、当該サーボパターンにはトラック内の位置偏差を検出するためのナル型サーボパターンが含まれる構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁気ディスク媒体であれば、サーボ領域の偏差検出用サーボパターンとしてナル型サーボパターンを構成することにより、サーボ領域に対して転写成形方法によりサーボパターンを埋め込む場合に、安定した転写成形が可能とになる。従って、サーボパターンの均一化を図り、高精度のサーボパターンを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(ディスク媒体の構成)
図1は、本実施形態に関するディスク媒体1の構造及びフォーマットを説明するための図である。
【0014】
本実施形態のディスク媒体1は、図1に示すように、データ領域302が、非磁性領域308のガード帯により、隣接トラックからは磁気的に分離されて、事前に磁性領域307からなるデータトラックとして形成されたディスクリート(またはDTR:discrete track recording)構造である。このようなディスク媒体1は、ディスクリート・パターンドメディアとも呼ばれる。ここで、ディスク媒体1は、トラック(Trk1,Trk2)の磁性帯307の幅と非磁性帯308の幅との比は、2:1のメディアである。
【0015】
ディスク媒体1は、1周分のトラックにおいて、例えば100程度のセクタに分割されている。各セクタの先頭領域には、サーボデータが事前に記録された(埋め込まれた)サーボ領域300が設けられている。サーボデータは、図2に示すように、例えば1ビット分に相当する磁性領域307と非磁性領域308とからなる偏差検出用サーボパターンを含む。
【0016】
ここで、磁性領域307は、磁気記録部として有効な部分であり、磁性膜を有する凸部である。一方、非磁性領域308は、磁性膜を有するが、磁性領域307に対して相対的に凹部であり、磁気記録部として非有効な部分である。但し、非磁性領域308は、非磁性膜からなる場合には、必ずしも凹部である必要はなく、非磁性材が埋め込まれた部分でもよい。
【0017】
サーボ領域300には、基本的に通常のサーボデータと同様に、同期パターン部303、マンチェスタ符号からなるアドレス(セクタ及びトラック)コード部304、及びトラック内のヘッド位置を特定するための偏差検出用サーボパターン305,306が記録されている。
【0018】
同期パターン部303及びアドレスコード部304は、磁性領域307を論理“1”とし、非磁性領域308を論理“0”とするデューティ比50%のパターンである。これらのパターン303,304は、通常のサーボトラックライタにより記録されたものと同様である。同期パターン部303は、リードチャンネルの位相と周波数を、リード信号の位相と周波数に固定するのに使用される。また、アドレスコード部304は、シリンダ情報(トラックアドレス)を有する。同期パターン部303及びアドレスコード部304は、磁性領域307の占有率がほぼ50%である。
【0019】
さらに、本実施形態では、偏差検出用サーボパターン305,306は、ネガマーク(非磁性マーク)による反転バーストパターンである。偏差検出用サーボパターン305,306は、いわゆる市松状にパターンが配置されて、磁気極性が180度ずれて繰返されるパターンを有し、ナル(null)型サーボパターンを構成する。
【0020】
偏差検出用サーボパターン305,306は、偏差検出用サーボパターン305に対して、径方向切替え位相を90度ずらした偏差検出用サーボパターン306を有し、2種バーストパターンで形成されている。この領域305,306は、トラックの中央線に対するヘッドの偏差位置を検出するために使用される。
【0021】
さらに、サーボ領域300とデータ領域302との間には、連続磁性領域301が配置されている。この連続磁性領域301は、通常のデータ領域302の磁性領域307と同様に磁気記録領域として有効な領域である。
【0022】
以上のように本実施形態のDTR構造のディスク媒体1では、偏差検出用サーボパターン305,306として、ナル型サーボパターンが構成されている。従って、サーボ領域300において、偏差検出用サーボパターン305,306での磁性領域307の占有率をほぼ50%程度にすることが可能となる。
【0023】
これにより、ディスク媒体1上に、サーボ領域300のサーボデータを埋め込む処理を転写成形方法により実施する場合に、加圧率をディスク媒体1の全面に対して均一化し、安定な転写成形を行なうことが可能となる。このため、偏差検出用サーボパターン305,306の均一化を実現し、高精度のサーボパターンを形成することができる。
【0024】
具体的には、同期パターン部303及びアドレスコード部304は、磁性領域307の占有率がほぼ50%であり、偏差検出用サーボパターン305,306での磁性領域307の占有率をほぼ50%程度にできるため、安定な転写成形を行なうことが可能となり、高精度のサーボパターンを実現できる。
【0025】
なお、偏差検出用サーボパターンとして、通常のバースト型サーボパターンをサーボ領域300に形成する場合には、当該サーボパターンの磁性領域の占有率が75%程度となり、同期パターン部303及びアドレスコード部304での占有率50%より増大する。また、データ領域302のトラック領域の磁性領域307の占有率は66.6%程度である。
【0026】
従って、通常のバースト型サーボパターンをサーボ領域300に埋め込むための転写成形を行なう場合に、各領域での磁性領域の占有率に差が発生して、ディスク媒体1の全面(全トラック/全セクタ)で、安定なパターン転写成形が困難となる。これにより、結果として、偏差検出用サーボパターンが不均一となり、パターンの精度が低下する。
【0027】
(ディスク媒体の製造方法)
次に、ディスク媒体1の製造方法について、そのプロセスを簡単に説明する。
【0028】
製造プロセスは、転写工程、磁性加工工程、仕上げ工程に大別される。先ず、転写工程に使用するパターンの基となるスタンパの製造方法から説明する。
【0029】
スタンパの製造工程は、描画、現像、電鋳、仕上げに細分化される。パターン描画では、原盤回転型の電子線露光装置を用いて、ディスク媒体で非磁性化させる部位を、レジスト塗布された原盤上に、内周から外周まで露光描画する。
【0030】
次に、これを現像、RIE等の処理を実施して、凹凸パターンを持つ原盤が形成される。この原盤に導電化処理してニッケル(Ni)を表面に電鋳して剥離し、最後に内径/外径を打ち抜き加工することで、Niのディスク状スタンパが形成される。尚、スタンパは、非磁性化させる部位を凸部として形成され、このスタンパを使って、パターンドメディアが製造される。
【0031】
転写工程は、両面同時転写型のインプリント装置を用い、インプリント・リソグラフィー法により転写する。具体的には、垂直記録用ディスク媒体の両表面に、SOGレジスト塗布したディスク媒体を内周穴でチャッキングし、これを裏面用、表面用に準備した2種スタンパで、全面均等押圧で挟み込み、レジスト表面に凹凸転写する。この転写工程により、非磁性化させる部位が、レジストの凹部(310)として形成される。
【0032】
次に、磁性加工工程で、まず凹部レジストを除去し、非磁性化させる部位の磁性体表面を出現させる。この状態では、磁性層を残す部位は、二酸化珪素(SiO2)が凸部(311)として形成された状態になる。ついで、このSiO2をガード層としてイオンミリングすることで、凹部に位置する磁性層のみが除去され、所望のパターンの磁性体に加工される。
【0033】
さらに、SiO2を十分な厚さとなる様にスパッタして表面凹凸をなくし、これを磁性層表面まで逆スパッタする事で、凹部を非磁性体で埋め込み平坦化したパターンドメディアができあがる。
【0034】
最後の仕上げ工程では、この表面平坦度をさらに研磨仕上げして、DLC保護層を形成し、潤滑用ルブを塗布する事で、本実施形態のディスク媒体1が完成する。
【0035】
(ディスクドライブの構成)
本実施形態のディスクドライブは、図6に示すように、ディスク媒体1と、スピンドルモータ(SPM)2と、ヘッド3と、アクチュエータ4と、ヘッドアンプIC6とを含むヘッドディスクアセンブリ(HDA)100、及びプリント回路基板(PCB)200を有する。
【0036】
ディスク媒体1は、前述したように、両面をDTR用に加工した垂直磁気記録の可能な2層構造のパターンドメディアである。ヘッド3は、リードヘッド(例えばGMR素子)30とライトヘッド(例えば単磁極ヘッド)31とが同一スライダ(ABS)上に実装されたものであり、ディスク媒体1の両面のそれぞれに設けられている。即ち、ヘッド3は、ディスク媒体1の上下面のそれぞれに、ダウンヘッド及びアップヘッドとして設けられている。
【0037】
HDA100では、ディスク媒体1は、スピンドルモータ2に取り付けられて回転される。アクチュエータ4は、ヘッド3の移動機構であり、ヘッド3を保持するサスペンション・アーム41と、当該アーム41を回転自在に支持するピボット軸42と、ボイスコイルモータ(VCM)43とを有する。VCM43は、当該アーム41にピボット軸42を回転中心とする回転トルクを発生させて、ヘッド3をディスク媒体1の半径方向に移動させる。
【0038】
ヘッドアンプIC5は、ヘッド3の入出力信号を増幅するためのドライバであり、フレキシブルケーブル(FPC)を介してPCB200と電気的に接続されている。尚、ヘッドアンプIC5は、ヘッド3の入出力信号のSN比の低減化のために、アーム41上に実装される構成が好ましいが、ドライブ本体に固定された構成でも良い。
【0039】
ディスク媒体1は、前述したように表裏があり、ヘッド移動軌跡と、サーボ領域300のサーボパターンの円弧形状が略一致する方向に組み込まれる。ディスク媒体1の仕様は、基本的には通常の例えば垂直磁気記録用ディスク媒体と同様である。但し、サーボ領域300は、ディスク回転中心からピボッド中心までの距離を半径位置として持つ円周上に円弧中心を持ち、円弧半径がピボッド軸42からヘッド3までの距離として形成された円弧形状である。
【0040】
PCB200は、主として4つのシステムLSIを搭載している。即ち、リード/ライト(R/W)チャネルIC6、マイクロプロセッサ(CPU)7、ディスクコントローラ(HDC)8、及びモータドライバIC9である。
【0041】
CPU7は、ディスクドライブのメイン制御装置であり、本実施形態に関するヘッド位置決め制御システムを実現する。なお、CPU7は、動作用ソフトウェア(制御プログラムなど)を保存しているROM、ワークメモリとして使用されるRAM、及びロジック回路を含むものとする。ロジック回路は、ハードウェア回路で構成された演算処理部であり、高速演算処理に用いられる。
【0042】
HDC8は、ディスクドライブとホストシステム(例えばパーソナルコンピュータ)とのインターフェースや、リード/ライトチャネルIC6とのデータ転送制御、及びCPU7、モータドライバIC9との情報交換等を行なう。
【0043】
リード/ライトチャネルIC6は、リード/ライト動作に関連するリード/ライト信号処理部であり、ヘッドアンプIC5のチャネル切替えや、サーボデータ及びユーザデータの記録再生処理を行なう貯めの各種回路を含む。
【0044】
モータドライバIC9は、SPM2及びVCM43を駆動制御するドライバICであり、SPM2の回転駆動制御、及びCPU7からの操作制御量を電流値としてVCM43に与えて、アクチュエータ4を駆動する。
【0045】
(リード/ライトチャネルIC)
リード/ライトチャネルIC6は、図7に示すように、イコライザ(等化器)61と、A/Dコンバータ62と、ディジタルフィルタ(FIR)63と、ビタビデコーダ64と、サーボデコーダ65とを有するリードチャネル(再生処理系)を有する。
【0046】
イコライザ61は、ヘッドアンプIC5から出力されるリード信号RSを入力して、アナログフィルタ処理(長手磁気記録での等化処理)を実行する。リード信号RSは、リードヘッド30により、例えばサーボ領域300から読出された信号波形である。
【0047】
A/Dコンバータ62は、イコライザ61により等化処理されたリード信号をデジタル値としてサンプリングし、FIR63に出力する。
【0048】
ここで、本実施形態のディスク媒体1からの漏れ磁界は、垂直磁化で、かつ、磁性領域307と非磁性領域308とが混在するパターンである。リード/ライトチャネルIC6では、リード信号波形は、ヘッドアンプIC5が有するハイパス特性と、イコライザ61による等化処理とにより、DCオフセット成分が完全に除去されて、ほぼ疑似正弦波となる。ここで、通常の垂直磁気記録用ディスク媒体と比較して、本実施形態のディスク媒体1では、リード信号振幅の大きさが半減している。
【0049】
尚、本ディスク媒体1のようなパターンドメディアに限るものではないが、サーボ領域300の漏れ磁束方向をどちらに取るかで、“1”,“0”を誤認して、チャネルIC6でのコード検出が失敗することが有る。このため、ヘッド極性は、パターン漏れ磁束に合わせて適正に設定される必要がある。
【0050】
チャネルIC6では、その再生信号フェーズに応じて、その処理を切替える。再生信号クロックをディスク媒体1のパターン周期に同期させる同期引込み処理、セクタシリンダコード情報を読み取るアドレス判読処理、オフトラック量を検出するサーボパターン305,306の処理等が実行される。
【0051】
A/Dコンバータ62では、デジタル値をサンプリングするタイミングを、正弦波形状のリード信号と同期させて、かつ、デジタルサンプル値の信号振幅をあるレベルに揃えるAGC処理とが実行される。A/Dコンバータ62は、パターンの“1”,“0”周期を4点でサンプリングする。
【0052】
サーボ領域300のアドレス情報304の再生処理では、チャネルIC6は、デジタルサンプル値をFIR63でノイズを低下させ、ビダビデコーダ64での最尤推定に基づくビタビ復号処理を実行する。サーボデコーダは、ビダビデコーダ64からの検出結果に基づいて、グレイコード逆変換処理を実行し、セクタ及びトラック(シリンダ)情報に変換する。これにより、CPU7は、ヘッド3の位置決め制御に必要なサーボトラック情報(トラック位置情報)が取得できる。
【0053】
さらに、チャネルIC6は、サーボパターン305,306でのオフトラック量の検出処理に移行する。チャネルIC6は、サーボバースト信号パターンA,B,C,Dの順に、各信号振幅をサンプルホールド積分処理する。そして、チャネルIC6は、平均振幅相当の電圧値をCPU7に出力し、CPU7へのサーボ処理割込みを発行する。CPU7は、当該サーボ割込みを受けると、内部のA/Dコンバータにより各バースト信号を時系列に読み込み、ロジック回路に含まれるデジタル信号プロセッサ(DSP)でオフトラック量に変換する処理を行なう。CPU7は、当該オフトラック量と、サーボトラック情報とにより、ヘッドのサーボトラック位置を精密に検出する。
【0054】
(ヘッド位置決め制御システム)
ディスクドライブは、図8に示すようなヘッド位置決め制御システムを組み込んでいる。ヘッド位置決め制御システムは、CPU7、ソフトウェア及びリード/ライトチャネルIC6により実現される。以下、図9も合わせて参照して、ヘッド位置決め制御システムを簡単に説明する。
【0055】
図8において、C,F,P,Sはそれぞれシステム構成要素の伝達関数を意味する。制御対象プラント(P)506は、狭義にはVCM43であり、広義にはVCM43を含むアクチュエータ4に相当する。信号処理部Sは、具体的にはリード/ライトチャネルIC6と、CPU7(オフトラック量検出処理の一部を実行する)により実現される要素である。フィードバックコントローラ(以下第1コントローラ)505及び同期抑圧補償部(第2コントローラ)512は、具体的にはCPU7及びソフトウェアにより実現される。
【0056】
信号処理部Sは、プラント506の駆動に応じたヘッド3の位置(HP)直下のサーボ領域300からのアドレス情報等を含むサーボ再生信号に基づいて、ディスク媒体1上のトラック現在位置(TP)情報を生成する。
【0057】
第1コントローラ505は、ディスク媒体1上の目標トラック位置(RP)とヘッドの現在位置(TP)との位置誤差(E)とに基づいて、位置誤差(E)を解消するようにFB操作値U1を算出する。
【0058】
第2コントローラ512は、ディスク媒体1上のトラック形状やディスク回転に同期した振動等を補正するためのフィードフォワード(FF)補償部であり、事前に較正した回転同期補償値をメモリテーブルに保存している。第2コントローラ512は、通常では位置誤差(E)を使用せず、信号処理部Sから与えられる図示しないサーボセクタ情報に基づいて当該メモリテーブル参照して、FF操作値U2として算出する。
【0059】
制御処理部は、第1及び第2のコントローラ505,512からの出力U1及びU2を加算し、制御操作値Uとしてプラント506に供給する。具体的には、HDC8は、CPU7からの制御操作値Uを、モータドライバIC9を介してVCM43に供給し、ヘッド3を駆動制御する。
【0060】
尚、同期補償値テーブルは、初期動作時に較正処理されるが、位置誤差(E)が設定値以上に大きくなると再較正処理を開始し、同期補償値を更新する処理がなされる。
【0061】
次に、リードヘッド30からの再生信号を使用して、どのように位置偏差を検出するかを、図9を参照して簡単に説明する。
【0062】
ディスク媒体1は、SPM2により一定回転速度で回転している。ヘッド3は、サスペンション・アーム41に設けられたジンバルを介して弾性支持されている。このとき、ヘッド3は、ディスク回転に伴なう空気圧とのバランスで、ディスク媒体1との微小隙間を保持する様な浮上姿勢をとるように設計されている。これにより、リードヘッド30は一定の磁気空隙をもって、ディスク媒体1の磁性層からの漏れ磁束を検出する事ができる。
【0063】
ディスク媒体1上のサーボ領域300の記録信号は、ディスク媒体1の回転により、一定周期でヘッド3直下を通過することになる。ヘッド位置決め制御システムは、リードヘッド30から出力されるサーボ領域300の再生信号から、トラック位置情報を検出することで一定周期のサーボ処理(位置決め制御)を実行できる。
【0064】
HDC8は、一旦、サーボマークと呼ぶサーボ領域300の識別フラグを認識すると、一定周期のため、ヘッド3直下にサーボ領域300が来るタイミングを予測可能となる。そこで、HDC8はヘッド3直下にプリアンブル部が来るタイミングで、チャネルIC6にサーボ処理開始を促す。
【0065】
図9は、サーボ領域300の偏差検出用サーボパターン305,306を処理する偏差検出システムの構成を示すブロック図である。このシステムは、リードヘッド30から出力される再生信号を入力して、ヘッド3のトラック内での位置偏差(PES)を検出する。具体的には、リード/ライトチャネルIC6及びロジック回路を含むCPU7から実現されている。
【0066】
概略的には、当該システムは、再生信号の信号調整(微分処理など)を行なう信号調整器704、振幅判別器700、復調信号生成器701、位相判定器702、及びPES計算器703を含む。
【0067】
振幅判別器700、復調信号生成器701、位相判定器702は、ヘッド3の位置偏差の検出処理を実行し、検出値に相当する電圧値をCPU7に出力し、サーボ処理割込みを発行する。CPU7は、当該サーボ割込みを受けると、PES計算器703に相当するDSPでオフトラック量に変換する処理を実行する。
【0068】
(再生信号の処理と偏差検出処理)
以下図9と共に、図3から図5を参照して、サーボ領域300の偏差検出サーボパターン305,306の再生信号処理と偏差検出処理を具体的に説明する。
【0069】
図3から図5は、ヘッド3がサーボ領域300の偏差検出パターン領域305上を通過したときに、リードヘッド30から出力される再生信号400,500,600及びそれらの微分信号401,501,601を示す図である。
【0070】
図3(A)は、リードヘッド30が、トラックTrk1の中心線とトラックTrk2の中心線との間で、偏差検出パターン領域305上を通過する場合である。図中、左から右に、リードヘッド30が通過する場合、磁性領域307と非磁性領域308の磁化変化を検知する。これにより、図3(B)に示すように、リードヘッド30から再生信号400が出力される。
【0071】
リード/ライトチャネルIC6は、再生信号400に対して微分等化処理を実行して、図3(C)に示すように、信号処理に適した信号波形である微分信号401を生成する。
【0072】
図4(A)は、リードヘッド30が、トラックTrk2の中心線とトラックTrk3の中心線との間で、偏差検出パターン領域305上を通過する場合である。図中、左から右に、リードヘッド30が通過する場合、磁性領域307と非磁性領域308の磁化変化を検知する。これにより、図4(B)に示すように、リードヘッド30から再生信号500が出力される。
【0073】
リード/ライトチャネルIC6は、再生信号500に対して微分等化処理を実行して、図4(C)に示すように、信号処理に適した信号波形である微分信号501を生成する。
【0074】
ここで、当該再生信号500は、図3(A)に示す再生信号400に対して、位相が180度ずれている。従って、CPU7は、リードヘッド30がトラック中央から、いずれの方向に移動したかを、当該位相のずれ方向の正または負に応じて判別することができる。
【0075】
さらに、図5(A)は、リードヘッド30が、トラックTrk2の中心線上で、偏差検出パターン領域305上を通過する場合である。図中、左から右に、リードヘッド30が通過する場合、磁性領域307と非磁性領域308の磁化変化を検知する。これにより、図5(B)に示すように、リードヘッド30から振幅値が実質的にゼロとなる再生信号600が出力される。従って、図5(C)に示すように、リード/ライトチャネルIC6により生成される微分信号601も、振幅値が実質的にゼロの信号となる。
【0076】
以上のように、リードヘッド30が偏差検出パターン305を通過する際、再生信号の振幅と位相がトラック中心に対するヘッドのオフセットの大きさと方向を示す。本実施形態では、偏差検出サーボパターン領域305(306)は、ナル型サーボパターンから構成されている。
【0077】
リードヘッド30がトラック中心線上に位置するとき、再生信号の振幅が理想的にはゼロになるようになっている。ヘッド30が所望の目標トラック中心線上から離れると、再生信号の振幅は増大する。ヘッド30が、目標トラックの中心線と隣接するトラックの中心線との間にあるときは、再生信号は最大の振幅を有する。トラック中心線の片側でのパターンは、反対側のパターンの位相から180度ずれて埋め込まれている。このようにして、再生信号の位相は、ヘッド30のトラック中心線からの位置偏差の方向を示す。
【0078】
なお、偏差検出サーボパターン領域306に関しても同様に、リードヘッド30の位置に対応する再生信号を得ることができる。但し、偏差検出サーボパターン領域306からは、当該パターン領域305に対して、位相が90度ずれた偏差検出情報が得られる。
【0079】
次に、図9を参照して、偏差検出システムにより、偏差検出用サーボパターン305を復調して位置偏差(位置エラー)情報PESを生成する動作を説明する。
【0080】
信号調整器704は、再生信号(400,500,600)の前処理として、微分等化処理を実行し、前述の微分信号401,501,601を出力する。復調信号生成器701は、再生信号の基本成分に対して同じ位相と周波数関係を有する復調信号を生成する。
【0081】
振幅判定器700は、復調信号生成器701により生成される復調信号に従って、位置偏差に応じた再生信号の振幅を判別して振幅値を出力する。位相判定器702は、復調信号生成器701により生成される復調信号に従って、位置偏差に応じた再生信号の位相を判別して位相値を出力する。
【0082】
PES計算機703は、判別された振幅値と位相値に従って、再生信号を出力するリードヘッド30の位置偏差値(偏差検出情報)を算出する。PES計算機703は、偏差検出パターン305からの位置偏差情報及び偏差検出パターン306からの位置偏差情報の両方を使用して、振幅値変化からトラック中心からの位置偏差絶対量を、位相値変化から移動方向を算出する。
【0083】
また、PES計算機703は、振幅判定器700で判別された振幅値のみを用いて、位置偏差を求めることも可能である。即ち、PES計算機703は偏差検出パターン305からの位置誤差量posABと、偏差検出パターン306から位置誤差量posCDを求め、この両者の変化からトラック中心からの位置偏差を算出する。
【0084】
以上のように本実施形態によれば、サーボ領域300の偏差検出用サーボパターン305,306をナル型サーボパターンにより構成することで、結果としてサーボ領域300での磁性領域の占有率をほぼ50%程度にすることが可能となる。従って、特にサーボ領域300でのプリアンブル部とサーボパターン部での磁性領域の占有率が異なることを避けることができる。
【0085】
これにより、パターンドメディア製造工程での、サーボデータの転写成形工程が容易になり、結果として安定したサーボパターン信号を得ることができる。結果として、リードヘッド30のトラック内における位置偏差を高精度に測定できるため、DTR構造のディスク媒体1を使用するディスクドライブにおいて、高精度のヘッド位置決め制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態に関するディスク媒体の構造及びフォーマットを説明するための図。
【図2】本実施形態に関するサーボ領域の構造を説明するための図。
【図3】本実施形態に関するサーボ領域からの再生信号波形を説明するための図。
【図4】本実施形態に関するサーボ領域からの再生信号波形を説明するための図。
【図5】本実施形態に関するサーボ領域からの再生信号波形を説明するための図。
【図6】本実施形態に関するディスクドライブの構成を示すブロック図。
【図7】本実施形態に関するリード/ライトチャネルの要部を示すブロック図。
【図8】本実施形態に関するヘッド位置決め制御システムの構成を示すブロック図。
【図9】本実施形態に関する偏差検出システムの構成を説明するための図。
【符号の説明】
【0087】
1…ディスク媒体、2…スピンドルモータ(SPM)、3…ヘッド、
4…アクチュエータ、5…ヘッドアンプIC、6…リード/ライトチャネルIC、
7…マイクロプロセッサ(CPU)、8…ディスクコントローラ(HDC)、
9…モータドライバIC、30…リードヘッド、31…ライトヘッド、
41…サスペンション・アーム、42…ピボット軸、
43…ボイスコイルモータ(VCM)、100…ヘッドディスクアセンブリ(HDA)、
200…プリント回路基板(PCB)、300…サーボ領域、301…連続磁性領域、
302…データ領域、303…同期パターン部、304…アドレスコード部、
305,306…偏差検出用サーボパターン、307…磁性領域、308…非磁性領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク装置の記録媒体として使用されて、サーボデータが記録されたサーボ領域とデータ領域とを含むトラックが周方向に構成された磁気ディスク媒体において、
前記データ領域は、隣接するトラック間を分離する非磁性ガード帯を含み、
前記サーボ領域は、磁気記録部として有効な第1の部分と非有効な第2の部分とから構成されたサーボパターンが記録されて、当該サーボパターンにはトラック内の位置偏差を検出するためのナル型サーボパターンが含まれることを特徴とする磁気ディスク媒体。
【請求項2】
前記データ領域及び前記サーボ領域は、垂直磁気記録が可能な領域であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク媒体。
【請求項3】
前記サーボ領域は、前記第1の部分の占有率がほぼ50%になるような構成であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の磁気ディスク媒体。
【請求項4】
前記サーボ領域は、少なくとも同期パターン部及びアドレスパターン部を含み、
前記ナル型サーボパターンは、前記アドレスパターン部と前記データ領域との間に配置されて、径方向の切替え位相を90度ずらした偏差検出パターン部を有する構成であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気ディスク媒体。
【請求項5】
前記サーボ領域と前記データ領域との間に連続磁性領域が配置された構成であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気ディスク媒体。
【請求項6】
前記サーボ領域は、前記磁気ディスク装置に設けられたヘッドのアクセス軌跡となる円弧状に形成されて、周方向の長さが半径位置に依存して比例して長くなる様に構成された前記サーボパターンが記録されてることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気ディスク媒体。
【請求項7】
サーボデータが記録されたサーボ領域とデータ領域とを含むトラックが周方向に構成されて、前記データ領域は隣接するトラック間を分離する非磁性ガード帯を含み、前記サーボ領域は、磁気記録部として有効な第1の部分と非有効な第2の部分とから構成されたサーボパターンが記録されて、当該サーボパターンにはトラック内の位置偏差を検出するためのナル型サーボパターンが含まれる磁気ディスク媒体と、
前記磁気ディスク媒体に対して、データの記録再生を行なうヘッドと、
前記ヘッドにより前記サーボ領域から読出されたサーボパターンに基づいて、前記ヘッドの位置決め制御を実行する制御手段と
を具備したことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記磁気ディスク媒体は垂直磁気記録の可能なディスク媒体であり、
前記ヘッドは、垂直磁気記録の可能なライトヘッドを含む構成であることを特徴とする請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記磁気ディスク媒体は、前記サーボ領域での前記第1の部分の占有率がほぼ50%になるような構成であることを特徴とする請求項7又は請求項8のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記磁気ディスク媒体は、
前記サーボ領域が少なくとも同期パターン部及びアドレスパターン部を含み、
前記ナル型サーボパターンは、前記アドレスパターン部と前記データ領域との間に配置されて、径方向の切替え位相を90度ずらした偏差検出パターン部を有する構成であることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記磁気ディスク媒体は、前記サーボ領域と前記データ領域との間に連続磁性領域が配置された構成であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−31847(P2006−31847A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210454(P2004−210454)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】