説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【課題】1ng/disk以下のCeO砥粒の残存量を検出することが可能な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化セリウムを含むCeO砥粒を用いて所定の形状に加工した複数のガラス基板を研磨する1又は複数のCeO砥粒研磨工程を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、最後のCeO砥粒研磨工程後、該複数のガラス基板から少なくとも1枚を抜き取って酸と還元剤の混合液への浸漬により該ガラス基板に残存するCeO砥粒の残存量を検出する抜き取り検査工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、特に所定の形状に加工した複数のガラス基板を同時に酸化セリウム(CeO)を主成分とする砥粒を用いて研磨する研磨工程を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ガラス基板は、従来の用途を越えて種々の産業分野において用いられ、例えば、種々の電子デバイスにおいては、用途に応じたガラス基板が用いられている。一例として、パーソナルコンピュータ(PC)などには、外部記憶装置としてハードディスクドライブ(HDD)などが設けられている。通常、このハードディスクドライブには、コンピュータ用ストレージなどとして知られた磁気ディスクが搭載されている。この磁気ディスクは、例えばアルミニウム系合金基板などのような適宜の基板上に、磁性層等が成膜された構成のものである。
【0003】
近年、磁気ディスク用の基板には、脆弱な金属基板に代わって、高強度、かつ、高剛性な材料であるガラス基板が多用されてきている。また、サーバー用途としての磁気ディスク用基板としてガラス基板が注目されてきている。
【0004】
この磁気ディスク用ガラス基板は、磁性層を塗布する表面が平滑である必要があるため、所定の形状に加工した後、酸化セリウムを主成分として含む研磨砥粒(以下、CeO砥粒と呼ぶ。)を用いて複数枚のガラス基板を同時に研磨することが行なわれている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このCeO砥粒は一部がガラス基板の表面に付着し洗浄してもガラス基板の表面に残存することがある。このCeO砥粒の残存量が所定量以上になると、磁性層のはがれ等の要因となり、磁性層の膜質が低下するおそれがある。そのため、CeO砥粒の残存量を検出するため従来から、同時に研磨される複数のガラス基板の中から少なくとも1枚を抜き取って光学式欠陥検査装置(OSA:Optical Surface Analyzer)により抜き取り検査が行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−103061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光学式欠陥検査装置では、概して1ng/diskより多くの残存CeO砥粒しか検出できず、高精度でCeO砥粒を検出するには限界があり、将来的には1ng/disk以下で残存するCeO砥粒を検出する必要性が生じることが想定される。
【0007】
そこで、本発明は、1ng/disk以下のCeO砥粒の残存量を検出することが可能な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を提供するものである。
(1)酸化セリウムを含むCeO砥粒を用いて所定の形状に加工した複数のガラス基板を研磨する1又は複数のCeO砥粒研磨工程を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
最後のCeO砥粒研磨工程後、前記複数のガラス基板から少なくとも1枚を抜き取って酸と還元剤の混合液への浸漬により前記ガラス基板に残存するCeO砥粒の残存量を検出する抜き取り検査工程を含むことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。なお、CeO砥粒研磨工程が1である場合、最後のCeO砥粒研磨工程は当該1のCeO砥粒研磨工程である。
(2)前記ガラス基板に含まれるCeOが30ppm以下であることを特徴とする(1)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(3)前記最後のCeO砥粒研磨工程後、前記CeO砥粒より平均粒径の小さい砥粒を用いて研磨する他の研磨工程をさらに備え、
前記抜き取り検査工程は、前記最後のCeO砥粒研磨工程後、前記他の研磨工程前に行なわれるか、又は、前記他の研磨工程後に行なわれることを特徴とする(1)又は(2)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(4)前記CeO砥粒研磨工程は、異なる平均粒径のCeO砥粒を用いて研磨する複数のCeO砥粒研磨工程から構成され、
前記抜き取り検査工程は、前記複数のCeO砥粒研磨工程間にも行なわれることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(5)前記抜き取り検査工程は、酸と還元剤の混合液中に前記ガラス基板を5分以上浸漬することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(6)前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸、および臭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(7)前記還元剤は、過酸化水素水であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の(1)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、抜き取り検査工程が酸と還元剤の混合液への浸漬によりなされるので、残存するCeO砥粒を溶出させることにより1ng/disk以下であってもCeO砥粒の残存量を検出することができる。なお、溶出したCeOには、ガラス基板に元々含まれるCeOも含まれるが、溶出したCeOの全量からガラス基板に元々含まれエッチングされたガラスから溶出されるCeO量を差し引いた分をCeO砥粒の残存量と推定することで、CeO砥粒の残存量を検出することができる。また、CeO砥粒は表面のみならず端面研磨時に端面に残存するCeO砥粒が後の洗浄工程などに表面に付着することも考えられるが、この酸と還元剤の混合液への浸漬による抜き取り検査工程では、光学式欠陥検査装置では検出できなかった端面に残存するCeO砥粒の量も含めてCeO砥粒の残存量を検出することができ、信頼性の高い磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【0010】
また、(2)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、元々ガラス基板に含まれるCeOの含有量が少ないのでより高精度にCeO砥粒の残存量を検出することができる。
【0011】
また、(3)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、CeO砥粒研磨工程後、他の研磨工程前に抜き取り検査を行なうことで、残存するCeO砥粒により他の研磨工程でガラス表面に傷をつけるのを防止することができ、他の研磨工程後に抜き取り検査を行なうことでCeO砥粒が付着したままのガラス基板が製品として流出するのを防ぐことができる。
【0012】
また、(4)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、平均粒径の大きいCeO砥粒が後に続く平均砥粒の小さいCeO砥粒によるCeO砥粒研磨工程でガラス表面に傷をつけるのを防止することができる。
【0013】
また、(5)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、CeOの含有量の影響を小さくしつつCeO砥粒の残存量を正確に検出することができる。
【0014】
また、(6)及び(7)に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、残存するCeO砥粒を容易に溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る一実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】磁気ディスク用ガラス基板の斜視図である。
【図3】図1の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で使用される両面加工装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0017】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板(以下、ガラス基板と呼ぶ。)105の製造方法は、図1に示すように、
(1)形状加工工程(S1)と、
(2)ラップ工程(S2)と、
(3)第1洗浄工程(S3)と、
(4)第1研磨工程(S4)と、
(5)第2洗浄工程(S5)と、
(6)第2研磨工程(S6)と、
(7)第3洗浄工程(S7)と、
(8)抜き取り検査工程(S8)と、を有している。
【0018】
形状加工工程(S1)は、円形のガラス基板105(例えばノートブックパソコン等に用いられるφ65mmの2.5インチ基板、ポータブルMP3プレーヤなどに用いられるφ48mmの1.8インチ基板)を準備する工程であって、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法などの連続成形法により成形された矩形の板ガラスの中央に貫通孔(内孔)を形成し、図2に示す円形のガラスに加工する切り出し工程と、切り出した円形のガラスのエッジ(主表面と貫通孔を形成する内周端面との交線及び主表面と外周端面との交点)に面取り処理を施す面取り工程と、内周および外周を鏡面に研磨する端面研磨工程と、を有する。ここで、主表面とは、ガラス基板105の表面及び裏面を含めた環状部分をいう。端面研磨工程は、CeO砥粒でガラス基板105の内周および外周を研磨してもよく、他の研磨砥粒を用いてもよい。なお、本明細書におけるCeO砥粒研磨工程は主表面研磨工程に限られず、例えば端面研磨工程も含む。
【0019】
ラップ工程(S2)は、図3に示す両面加工装置10でガラス基板105の厚みを最終製品厚みの110%以下(最終板厚が635μmの場合には699μm以下、最終板厚が800μmの場合には880μm以下)まで整える研削工程である。
【0020】
ここで、両面加工装置10は、図3に示したように、それぞれ所定の回転比率で回転駆動されるインターナルギヤ101とサンギヤ102を有するキャリア装着部と、このキャリア装着部を挟んで互いに逆回転駆動され鋳鉄等の金属からなる上定盤103及び下定盤104とを有する加工部100を備えて構成され、キャリア装着部には、インターナルギヤ101及びサンギヤ102と噛合する複数のキャリア107が装着されている。このキャリア107は自らの中心を軸に自転し、かつサンギヤ102を軸に公転する遊星歯車運動し、この遊星歯車運動によりキャリア107に装着されて、上定盤103と下定盤104との間に保持された複数のガラス基板105の両面が上定盤103及び下定盤104との摩擦で同時に加工される。両面加工装置10は、上下定盤103、104間に供給される砥粒を含むスラリーによりガラス基板105の両面を加工するか、若しくは、砥粒を含有するセラミックもしくは樹脂が上下定盤103、104に固定され、水を主たる成分とするクーラントを供給しながらガラス基板105の両面を加工する。
【0021】
具体的にラップ工程(S2)では、遊離砥粒ラップの場合は平均粒径が3.0μm〜40μmであるアルミナ砥粒、ジルコニア砥粒、炭化珪素砥粒、ダイヤモンド砥粒のいずれかを含有する水を主たる分散媒とするスラリーを供給しながら研削する。固定砥粒ラップの場合は平均粒径が3.0μm〜40μmであるアルミナ砥粒、ジルコニア砥粒、炭化珪素砥粒、ダイヤモンド砥粒のいずれかを含有するセラミックもしくは樹脂が両面加工装置10の上下定盤103、104に固定され、水を主たる成分とするクーラントを流しながらガラス基板105の上下面が研削される。
【0022】
続いて、第1洗浄工程(S3)において、ラップ工程(S2)を終えたガラス基板105を洗浄する。例えば、水、洗剤、強酸もしくは強アルカリを用いた超音波洗浄を行う。
【0023】
第1研磨工程(S4)では、両面加工装置10でCeO砥粒を水に分散させたセリアスラリーを供給しながらガラス基板105の主表面を研磨処理することで、ラップ工程において板状ガラスの主表面に形成されていた微細な凹凸形状を低減させ鏡面化された主表面を得ることができる。より具体的には平均粒径0.1μm〜2.0μmのCeO砥粒を水に分散させたセリアスラリーを用い上下定盤103、104に硬質発泡ウレタンパッドやスエード状ウレタンパッドを貼り付けた両面加工装置10を用いてガラス基板105を研磨し鏡面加工を行う。
【0024】
続いて、第2洗浄工程(S5)において、第1研磨工程(S4)を終えたガラス基板を洗浄する。例えば、水、洗剤、強酸もしくは強アルカリを用いた超音波洗浄を行う。
【0025】
第2研磨工程(S6)では、両面加工装置10にシリカ砥粒を水に分散させたシリカスラリーを供給しながらガラス基板105の主表面を研磨処理することで、主表面の算術平均粗さ(Ra)を0.3nm以下に整える。より具体的には、第1研磨工程で用いたセリアスラリーに含まれるCeO砥粒より平均粒径の小さい平均粒径0.005μm〜0.1μmのコロイダルシリカ砥粒を水に分散させたシリカスラリーを用い上下定盤103、104にスエード状ウレタンパッドを貼り付けた両面加工装置10を用いてガラス基板105を研磨し粗さを整える。
【0026】
続いて、第3洗浄工程(S7)において、第2研磨工程(S6)を終えたガラス基板105を洗浄する。例えば、水、洗剤、強酸もしくは強アルカリを用いた超音波洗浄を行う。
【0027】
抜き取り検査工程(S8)は、第3洗浄工程(S7)後、両面加工装置10で同時に処理された複数のガラス基板105のうち少なくとも10万枚当たり1枚を抜き取って酸と還元剤の混合液への浸漬によりCeO砥粒の残存量を検出する。例えば抜き取り検査工程は、数十枚を同時に研磨できる両面加工装置を数千回稼動した後に10万枚当たり1枚程度の割合で行う。なお、この抜き取り検査工程は、第3洗浄工程(S7)後に代えて、第2洗浄工程(S5)後に行なってもよく、CeO砥粒研磨工程を1回のみ含むのであればその後、CeO砥粒研磨工程を複数回含むのであれば最後のCeO砥粒研磨工程の後に行なわれる。また、この抜き取り検査工程は、最後のCeO砥粒研磨工程の後にコロイダルシリカ研磨工程などCeO砥粒不使用研磨工程がある場合には、最後のCeO砥粒研磨工程とその後のCeO砥粒不使用研磨工程の間に行ってもよく、CeO砥粒不使用研磨工程後に行ってもよい。なお、コロイダルシリカの平均粒径は通常CeO砥粒の平均粒径よりも小さい。
【0028】
この酸と還元剤の混合液への浸漬は、酸と還元剤の混合液にガラス基板105を5分以上浸漬させた際の当該混合液中のCeO量を検出するものである。酸はCeOを選択的に還元して溶解する作用を有し、還元剤は酸で還元されたCeOを水溶性の塩にして溶液中に溶けた状態で存在させる作用を有する。
【0029】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、および臭化水素からなる群より選ばれる1種以上の酸が挙げられる。強酸特に硫酸、塩酸及び硝酸の1種又は2種以上が好適である。硫酸濃度は20wt%以上80wt%以下、好ましくは50wt%以上80wt%以下である。硫酸濃度が20wt%よりも低い場合には基板表面がエッチングされやすくなる。硫酸濃度が80wt%よりも高い場合には上記の酸としての作用が十分に得られない。塩酸、硝酸、リン酸および臭化水素の濃度は10wt%以下、好ましくは5wt%以下である。塩酸、硝酸、リン酸および臭化水素の濃度が10wt%よりも高い場合には基盤表面がエッチングされやすくなる。酸としては塩酸、硫酸、硝酸及び臭化水素が好ましく、硫酸が特に好ましい。
【0030】
還元剤としては、水素、過酸化水素水、水素化ホウ素ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム、ギ酸、アスコルビン酸、シュウ酸、アセトアルデヒド、ヨウ化水素、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、硫酸第一鉄及び塩化第二スズ並びに還元作用を有するキレート剤(例えばカテコール類の酸化物)の少なくとも1種が好適である。この還元剤の濃度は、過酸化水素水の濃度は1wt%以上10wt%以下、好ましくは3wt%以上10t%以下である。過酸化水素水の濃度が1wt%よりも低い場合には上記の還元剤としての作用が十分に得られない。過酸化水素水の濃度を10wt%よりも高くしても上記の還元剤としての作用はあまり向上しない。過酸化水素水以外の還元剤の濃度は、溶解度の制限があり0.01wt%以上5wt%以下、好ましくは0.1wt%以上5wt%以下である。過酸化水素水以外の還元剤の濃度が0.01wt%よりも低い場合には上記の還元剤としての作用が十分に得られない。過酸化水素水以外の還元剤の濃度を5wt%よりも高くしても上記の還元剤としての作用はあまり向上しない。還元剤としてはアスコルビン酸及び過酸化水素が好ましく、過酸化水素が特に好ましい。酸化剤と還元剤の組み合わせは典型的には濃硫酸および過酸化水素である。
【0031】
ここで、磁気ディスク用ガラス基板105としては、リチウムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノリチウムシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス、ホウ珪酸ガラス等が使用され、好ましくはアルミノシリケートガラスが使用される。アルミノシリケートガラスのガラス成分としては、モル%表示で、例えば、SiOを57〜74%、ZnOを0〜2.8%、Alを3〜15%、LiOを7〜16%、NaOを4〜14%、を含有する。また、他のアルミノシリケートガラスのガラス成分としては、質量%表示で、SiOを50〜65%、Alを5〜15%、NaOを2〜7%、KOを4〜9%、MgOを0.5〜5%、CaOを2〜8%、ZrOを1〜6%、を含有する。なお、高いヤング率(100GPa以上)を得るためのガラス成分としては、モル%表示で、SiOを45〜65%、Alを0〜15%、LiOを4〜20%、NaOを1〜8%、CaOを0〜21%、MgOを0〜22%、Yを0〜16%、TiOを1〜15%、及び、ZrOを0〜10%を含有する。
【0032】
ガラスの製造では多くの場合、原料として鉱物が用いられる。鉱物には上述したガラス成分以外に酸化セリウム(CeO)が含まれる場合があり、このことがCeOがガラス中に成分として入る原因となる。また、磁気ディスク用ガラス基板の不良品をカレットとしてガラスの熔解窯に投入してリサイクルする場合があり、このこともCeOがガラス中に成分として入る原因となる。そして、上述した酸と還元剤の混合液への浸漬では、残存するCeO砥粒以外に当該混合液への浸漬でエッチングされたガラス中に元々存在するCeOも溶出すると考えられる。
【0033】
ここで、2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板(表面積:120cm、外径65mm、内径20mm)に元々含まれるCeOの含有量を30ppmと仮定すると、酸と還元剤の混合液への5分間の浸漬でエッチングされるガラス基板の片面当たりのエッチング量を0.01nm、ガラスの比重を2.47g/cmとして、当該混合液への浸漬でエッチングされたガラスに元々含まれていたCeO量は、式1より0.018ngである。
【0034】
[式1]
120cm×0.01nm×2×2.47g/cm×30ppm=0.018ng
【0035】
なお、ガラス中のSiOの重量%をP(単位:wt%)、ガラスの密度をd(単位:g/cm)、当該混合液への浸漬時にディスク単位面積当たりから溶出するSiをL(単位:μg/cm)とすると、ガラス基板の片面当たりのエッチング量(単位:nm)は式2より求まる。
【0036】
[式2]
L/(d×P×(Siの原子量)/(SiOの分子量)/1000)
【0037】
また、ガラス基板105に元々含まれるCeOの含有量は、一定ではなくガラス基板105毎にばらつきがあることが知られており、このばらつきは経験則上、±20%である。従って、ガラス基板105に元々含まれ当該混合液への浸漬でエッチングされたガラスから溶出されるCeO量のばらつきは、±0.0036ngである。前述したように将来的に要求される一枚のガラス基板105に許容されるCeO砥粒の上限値は1ng/diskであり、CeOの含有量のばらつきは、一枚のガラス基板105に許容されるCeO砥粒の上限値に対して、たかだか0.3%〜0.4%に過ぎない。従って、酸と還元剤の混合液への浸漬で検出されたCeO量から予め想定されるエッチングされたガラスに元々含まれているCeO量を差し引いてCeO砥粒の残存量と仮定することで、従来の光学式欠陥検査装置では検出できなかった1ng/disk以下のCeO砥粒の残存量を検出することができる。なお、CeO砥粒の残存量を高精度で検出するためには、ガラス基板105に許容されるCeOの上限値に対し、CeOの含有量のばらつきは、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ばらつきを低減するためには、熔解窯に投入する原料およびカレット中のCeOの量を管理することが好ましい。
【0038】
また、ガラス基板105に含まれるCeOの含有量は少ないほど好ましく、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、抜き取り検査工程が酸と還元剤の混合液への浸漬によりなされるので、残存するCeO砥粒を溶出させることにより1ng/disk以下であってもCeO砥粒の残存量を検出することができる。なお、溶出したCeOには、ガラス基板に元々含まれるCeOも含まれるが、溶出したCeOの全量からガラス基板105に元々含まれエッチングされたガラスから溶出されるCeO量を差し引いた分をCeO砥粒の残存量と推定することで、CeO砥粒の残存量を検出することができる。また、CeO砥粒は表面のみならず端面研磨時に端面に残存するCeO砥粒が後の洗浄工程などに表面に付着することも考えられるが、この酸と還元剤の混合液への浸漬による抜き取り検査工程では、光学式欠陥検査装置では検出できなかった端面に残存するCeO砥粒の量も含めてCeO砥粒の残存量を検出することができ、信頼性の高い磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【0040】
抜き取り検査工程(S8)の結果、一枚のガラス基板に残存するCeO砥粒の上限値を超えている場合には、洗浄工程と抜き取り検査を繰り返し行なって、所望のCeO砥粒の残存量とすることでガラス基板105の信頼度を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、ガラス基板105に含まれるCeOが30ppm以下とすることにより、元々ガラス基板105に含まれるCeOの含有量が少ないのでより高精度にCeO砥粒の残存量を検出することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、最終研磨工程である第2研磨工程後(S7)に抜き取り検査を行うことにより、最終製品における信頼性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、抜き取り検査工程において酸と還元剤からなる溶液中にガラス基板105を5分以上浸漬することにより、CeOの含有量の影響を小さくしつつCeO砥粒の残存量を適切に検出することができる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
例えば、上述した実施形態においては、抜き取り検査工程を最終研磨工程である第2研磨工程後にのみ行なったが、これに加えて、端面研磨工程後に行なってもよい。これにより、端面研磨工程で残存したCeO砥粒が後の研磨工程などにおいてガラス表面105に付着して傷の原因となったり、磁性層のはがれの原因となることを抑制することができる。
【0045】
また、CeO砥粒を用いて研磨する第1研磨工程後、CeO砥粒より平均粒径の小さい砥粒を用いて研磨する第2研磨工程前に行ってもよく、これにより、残存するCeO砥粒により第2研磨工程でガラス表面105に傷をつけるのを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態の製造方法は、所定の形状に加工した複数のガラス基板を酸化セリウムを含むCeO砥粒を用いて研磨する1又は複数のCeO砥粒研磨工程と、最後のCeO砥粒研磨工程後に酸と還元剤の混合液への浸漬によりCeO砥粒の残存量を検出する抜き取り検査工程と、を備えていればよく図1に示す製造方法に限定されるものではない。例えば、最後のCeO砥粒研磨工程の前に、異なる平均粒径のCeO砥粒を用いて研磨する少なくとも1以上のCeO砥粒研磨工程を備えていてもよく、この場合には、最後のCeO砥粒研磨工程後に加えて各CeO砥粒研磨工程間に抜き取り検査を行なってもよい。これにより、平均粒径の大きいCeO砥粒が後に続く平均粒径の小さいCeO砥粒による研磨工程でガラス表面に傷をつけるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 両面加工装置
101 インターナルギヤ
102 サンギヤ
103 上定盤
104 下定盤
105 ガラス基板
107 キャリア
S4 第1研磨工程(CeO砥粒研磨工程)
S6 第2研磨工程(他の研磨工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを含むCeO砥粒を用いて所定の形状に加工した複数のガラス基板を研磨する1又は複数のCeO砥粒研磨工程を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
最後のCeO砥粒研磨工程後、前記複数のガラス基板から少なくとも1枚を抜き取って酸と還元剤の混合液への浸漬により前記ガラス基板に残存するCeO砥粒の残存量を検出する抜き取り検査工程を含むことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基板に含まれるCeOが30ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記最後のCeO砥粒研磨工程後、前記CeO砥粒より平均粒径の小さい砥粒を用いて研磨する他の研磨工程をさらに備え、
前記抜き取り検査工程は、前記最後のCeO砥粒研磨工程後、前記他の研磨工程前に行なわれるか、又は、前記他の研磨工程後に行なわれることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記CeO砥粒研磨工程は、異なる平均粒径のCeO砥粒を用いて研磨する複数のCeO砥粒研磨工程から構成され、
前記抜き取り検査工程は、前記複数のCeO砥粒研磨工程間にも行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記抜き取り検査工程は、酸と還元剤の混合液中に前記ガラス基板を5分以上浸漬することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸および臭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記還元剤は、過酸化水素水であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−22730(P2012−22730A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157948(P2010−157948)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】