説明

磁気ディスク用潤滑剤及びその製造方法、並びに、磁気ディスク及びその製造方法

10nm以下の極低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などが防止でき、5400rpm以上の高速回転においても、マイグレーションを抑制し得る付着性の高い潤滑層を形成でき、特にロードアンロード方式用に好適な潤滑層を形成するための潤滑剤及び磁気ディスクを提供する。
パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む潤滑剤を脱気処理した後、精製処理する、または、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む液体状の潤滑剤を気化させ、気化したパーフルオロポリエーテル分子を、その平均自由行程以内の距離で液化させることにより、前記潤滑剤を精製処理する。得られた潤滑剤を、基板上に炭素系保護層まで形成した磁気ディスクの保護層上に成膜することにより潤滑層を形成し、磁気ディスクを得る。磁気ディスク用潤滑剤は、パーフルオロポリエーテルを含み、分子量分散度が1.3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブなどの磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクの潤滑層を形成するための潤滑剤及びその製造方法、並びに、磁気ディスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置においては、停止時には磁気ディスク面の内周領域に設けられた接触摺動用領域(CSS領域)に磁気ヘッドを接触させておき、起動時には磁気ヘッドをCSS領域でディスク面と接触摺動させながら浮上させた後、CSS領域の外側に設けられた記録再生用のディスク領域面で記録再生を行なう、CSS(Contact Startand Stop)方式が採用されてきた。終了動作時には、記録再生用領域からCSS領域に磁気ヘッドを退避させた後に、CSS領域でディスク面と接触摺動させながら着地させ、停止させる。CSS方式において接触摺動の発生する起動動作及び終了動作をCSS動作と呼称する。
このようなCSS方式用磁気ディスクにおいては、ディスク面上にCSS領域と記録再生領域の両方を設ける必要がある。また、磁気ヘッドと磁気ディスクの接触時に両者が吸着してしまわないように、磁気ディスク面上に一定の表面粗さを備える凸凹形状を設ける必要がある。
CSS動作時に起る磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触摺動によるダメージを緩和するために、例えば、特開昭62−66417号公報(特許文献1)などにより、HOCH2-CF2O-(C2F4O)p-(CF2O)q-CH2OHの構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を塗布した磁気記録媒体などが知られている。
また、同様にCSS耐久性の高い磁気記録媒体として、特開平9−282642号公報(特許文献2)や、特開平10−143838号公報(特許文献3)が知られている。さらに、超臨界抽出法により精製した潤滑剤を用いて、良好な摺動特性及びCSS耐久性を持たせた磁気記録媒体として、特開2001−164279号公報(特許文献4)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−66417号公報
【特許文献2】特開平9−282642号公報
【特許文献3】特開平10−143838号公報
【特許文献4】特開2001−164279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、CSS方式に代わってLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式の磁気ディスク装置が導入されつつある。LUL方式では、停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させてから記録再生を行なう。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式はCSS方式に比べて磁気ディスク面上の記録再生用領域を広く確保できるので高情報容量化にとって好ましい。また、磁気ディスク面上にはCSSのための凸凹形状を設ける必要が無いので、磁気ディスク面を極めて平滑化でき、このため磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ好適である。
LUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、10nm以下の極低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。しかしながら、このような極低浮上量で磁気ディスク面上に磁気ヘッドを浮上飛行させると、フライスティクション障害やヘッド腐食障害などが頻発するという問題が発生した。
【0005】
フライスティクション障害とは、磁気ヘッドが浮上飛行時に浮上姿勢や浮上量に変調をきたす障害であり、不規則な再生出力変動を伴う。場合によっては浮上飛行中に磁気ディスクと磁気ヘッドが接触し、ヘッドクラッシュ障害を起こして磁気ディスクを破壊する事がある。
腐食障害とは、磁気ヘッドの素子部が腐食して記録再生に支障をきたす障害であり、場合によっては記録再生が不可能となったり、腐食素子が膨大して、浮上飛行中に磁気ディスク表面にダメージを与えることがある。
また、最近では磁気ディスク装置の応答速度を敏速化するために、磁気ディスクの回転速度を高めることが行なわれている。モバイル用途に好適な小径の2.5インチ型磁気ディスク装置の回転数は従来4200rpm程度であったが、最近では、5400rpm以上の高速で回転させることで応答特性を高めることが行なわれている。
このような高速で磁気ディスクを回転させると、回転に伴う遠心力により潤滑層が移動(マイグレーション)して、磁気ディスク面内で潤滑層膜厚が不均一となる現象が顕在化してきた。
【0006】
ディスク外周側で潤滑層膜厚が肥厚すると、LUL動作時に磁気ヘッドがディスク外周側から進入してくるときに、フライスティクション障害やヘッドクラッシュ障害が発生し易くなり、また内周側で潤滑層膜厚が減少すると、潤滑性能の低下により、ヘッドクラッシュ障害が発生しやすくなる。
従来用いられて来た、前記特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4等に記載の潤滑技術は、主としてCSS動作の改善を主眼として開発されたものであって、LUL方式用磁気ディスクに用いると前記障害発生頻度が高く、最早、最近の磁気ディスク求められる信頼性を満足することが困難となっていた。このため、LUL方式用磁気ディスクの高容量化、高S/N化、高応答性の阻害要因となっていた。
本発明は、このような事情のもとで、例えば10nm以下の極低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などが防止でき、例えば5400rpm以上の高速回転においても、マイグレーションを抑制し得る付着性の高い潤滑層を形成するための潤滑剤、及びこのような潤滑剤を用いて潤滑層を形成した磁気ディスク、特にLUL(ロードアンロード)方式用に好適な潤滑層を形成するための潤滑剤及び磁気ディスクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために、最近の磁気ディスクで顕著化してきた、前述の障害について研究を行ったところ、以下のメカニズムが発生した結果であろうという知見を得た。
磁気ヘッドの浮上量が10nm以下の極低浮上量となると、磁気ヘッドは浮上飛行中に空気分子を介して磁気ディスク面上の潤滑層に断熱圧縮及び断熱膨張を繰り返し作用させるようになり、潤滑層は繰り返し加熱冷却を受けやすくなることを発見した。このため潤滑層を構成する潤滑剤の低分子化が促進され易くなっていることを発見した。
潤滑剤が低分子化すると流動性が高まり保護層との付着が低下する。流動度の高まった潤滑剤は、極狭な位置関係にある磁気ヘッドに移着堆積し、浮上姿勢が不安定となりフライスティクション障害を発生させるものと考察される。
特に、最近導入されてきたNPAB(negative pressure air bearing surface)スライダー、即ち負圧スライダーを備える磁気ヘッドは、磁気ヘッド下面に発生する強い負圧により潤滑剤を吸引し易いので、移着堆積現象を促進していると考えられる。
移着した潤滑剤はフッ酸等の酸を生成する場合があり、磁気ヘッドの素子部を腐食させる場合がある。特に、磁気抵抗効果型素子を搭載するヘッドは腐食され易い。
【0008】
本発明者は、LUL方式が、これら障害の発生を促進していることを発見した。LUL方式の場合ではCSS方式の場合と異なり、磁気ヘッドは磁気ディスク面上を接触摺動することが無いので、一度磁気ヘッドに移着堆積した潤滑剤が磁気ディスク側へ転写除去され難いことが判った。従来のCSS方式の場合にあっては、磁気ヘッドに移着した潤滑剤は磁気ディスクのCSS領域と接触摺動することによりクリーニングされ易いので、これら障害が顕在化していなかったものと考察される。
本発明者は、これらの研究成果に基づき前述の目的に照らして更に研究を進め、潤滑剤に関する詳細な検討を続けた結果、下記構成による本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明者は以下の発明により、前記課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤の製造方法であって、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む潤滑剤を脱気処理した後、精製処理することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
(構成2)磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤の製造方法であって、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む液体状の潤滑剤を気化させ、気化したパーフルオロポリエーテル分子を、その平均自由行程以内の距離で液化させることにより、前記潤滑剤を精製処理することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
(構成3)前記精製処理を減圧環境で行うことを特徴とする構成1又は2記載の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
(構成4)前記潤滑剤は、少なくとも、化学式
【0010】
【化1】

で示される化合物を含むことを特徴とする構成1乃至3の何れかに記載の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
(構成5)構成1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた潤滑剤であって、重量平均分子量が4000〜8000、分子量分散度が1〜1.3であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
(構成6)核磁気共鳴法により測定される前記潤滑剤に主成分として含まれているパーフルオロポリエーテルの含有率が85%よりも高いことを特徴とする構成5記載の磁気ディスク用潤滑剤。
(構成7)基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層を備える磁気ディスクであって、前記潤滑層は、構成1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは構成5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤が前記保護層上に成膜されてなることを特徴とする磁気ディスク。
(構成8)ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする構成7記載の磁気ディスク。
(構成9)基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層をこの順で形成する磁気ディスクの製造方法であって、プラズマCVD法により前記炭素系保護層を形成し、構成1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは構成5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤を成膜することにより前記潤滑層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
(構成10)ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする構成9記載の磁気ディスクの製造方法。
(構成11)磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤であって、パーフルオロポリエーテルを含み、分子量分散度が1.3以下であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
(構成12)構成11に記載の磁気ディスク用潤滑剤であって、重量平均分子量が4000以上8000以下であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
(構成13)構成11又は12に記載の磁気ディスク用潤滑剤であって、パーフルオロポリエーテル主鎖の末端に水酸基を有する化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
(構成14)構成1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは構成5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤或いは構成11乃至13の何れかに記載の磁気ディスク用潤滑剤が表面に成膜され潤滑層が形成されてなることを特徴とする磁気ディスク。
(構成15)負圧スライダーを備える磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする構成14記載の磁気ディスク。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば10nm以下の極低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などを防止でき、例えば5400rpm以上の高速回転においても、マイグレーションを抑制し得る付着性の高い潤滑層を形成することのできる磁気ディスク用潤滑剤が得られる。
また、このような潤滑剤を用いて潤滑層を形成することにより、特にLUL(ロードアンロード)方式用に好適な高信頼性の磁気ディスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】分子蒸留装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の磁気ディスクの一実施の形態の模式的断面図である。
【図3】実施例及び比較例に使用した潤滑剤の重量平均分子量と分子量分散度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明に係る磁気ディスク用潤滑剤の製造方法は、その第1の実施の形態では、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む潤滑剤を脱気処理した後、精製処理することを特徴としている。
潤滑剤として含まれる上記パーフルオロポリエーテルとしては、特にアルコール変性されたパーフルオロポリエーテルが好適である。アルコール変性されたパーフルオロポリエーテルは、後述の炭素系保護層との親和性が高く、適度な付着力を得ることが出来るからである。
アルコール変性されたパーフルオロポリエーテルとしては、モノオール化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、テトラオール化合物などの様々な末端基構造を備える化合物が含まれ、アルコール変性の程度、即ち、パーフルオロポリエーテル主鎖の末端基に結合する水酸基の数の違いによって、潤滑剤分子の潤滑性能や付着力が異なる。従って、モノオール化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、テトラオール化合物など様々なアルコール変性化合物の含有状態や生成状態などにより潤滑剤の特性は異なる。
【0014】
本発明では、テトラオール化合物を主成分として含むパーフルオロポリエーテル潤滑剤が好適である。テトラオール化合物を主成分として含むパーフルオロポリエーテル潤滑剤は、本発明の製造方法を適用することにより、前記課題解決に好ましい潤滑剤特性が得られるからである。
上記末端基がテトラオール構造を備えるパーフルオロポリエーテルとしては、化学式
【0015】
【化2】

で示される化合物(以下、パーフルオロテトラオール化合物と称する)を好ましく例示することができる。
なお、アルコール変性されたパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤に属する市販品としては、ソルベイソレクシス社製のフォンブリンゼットテトラオール(商品名)、フォンブリンゼットドール(商品名)等が挙げられる。前者は上記例示の構造のパーフルオロテトラオール化合物を主成分として含み、後者は末端基がジオール構造を備えるパーフルオロポリエーテルを主成分として含んでいる。これらの潤滑剤に対しても本発明の製造方法を適用することにより、好ましい潤滑剤特性を得ることが出来る。
【0016】
上述のパーフルオロポリエーテルを少なくとも含む潤滑剤を脱気処理することにより、潤滑剤に含まれている不純物ガス等を除去することが出来、続く精製処理により潤滑剤を高度に精製することが出来る。上記潤滑剤は通常、常温では液体状であるため、これを脱気処理する方法としては、減圧環境を利用する方法が簡便である。また、減圧環境を利用することにより、引き続き精製処理を減圧環境で行うことが出来る。具体的には、真空排気装置等を使用して潤滑剤を投入した容器内を所定の減圧状態にすることによって潤滑剤を脱気処理することが出来る。減圧環境を利用して潤滑剤を脱気処理する場合の減圧度については、特に制約される必要は無いが、通常は1〜1×10−3Pa程度の範囲が適当である。また、脱気処理は、潤滑剤に含まれた不純物ガス等が十分に抜けるまで行うことが好ましい。また、脱気処理の際に必要に応じて適当な温度に加温してもよい。
【0017】
上述のようにして脱気処理されたパーフルオロポリエーテルを含む潤滑剤は、続いて精製処理に供される。精製処理の方法としては、後述の分子蒸留法による精製処理が特に好適である。分子蒸留法によれば、特に高真空環境の下で実施すると高い蒸留効率が得られるため、高分子成分を含む磁気ディスク用潤滑剤の精製には好適である。従って、潤滑剤の脱気処理を減圧環境を利用して行った場合、その減圧状態を保ったまま、或いは、脱気処理時の減圧度を更に高真空状態まで高めて、引き続き分子蒸留法による潤滑剤の精製処理を行うのが好適である。
なお、上述の第1の実施の形態では、精製処理の方法として、上記分子蒸留法に特に限定する必要は無いので、その他の方法を挙げるとすれば、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法や、超臨界抽出法などを用いることができる。
【0018】
本発明に係る磁気ディスク用潤滑剤の製造方法は、その第2の実施の形態では、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む液体状の潤滑剤を気化させ、気化したパーフルオロポリエーテル分子を、その平均自由行程以内の距離で液化させることにより、前記潤滑剤を精製処理することを特徴としている。
このように潤滑剤を気化させ、気化した潤滑剤分子が、その平均自由行程以内の距離で液化されるように、つまり気化面(蒸発面)と液化面(凝縮面)を潤滑剤分子(気体)の平均自由行程以内の距離に保って蒸留を行うこと(本明細書では、分子蒸留と呼ぶ)により、気化した潤滑剤分子が分子間衝突により気化面に戻るようなことが少ないため、高い蒸留効率が得られる。要するに、分子蒸留によれば、気化した潤滑剤分子が平均自由行程以内の距離で他の分子と衝突することなく液化されるため、液化面に向かって非平衡状態(気化した潤滑剤分子が液化される方向へ大きく平衡がずれた状態)での蒸留が行える。
【0019】
次に、このような分子蒸留を行うための装置について説明する。
図1は、分子蒸留装置の構成を例示したものである。図1に示す分子蒸留装置20は、フィードフラスコ21、フィードフラスコマントルヒータ22、磁気カップリング撹拌機23、撹拌機コントロールボックス24、蒸留本管25、蒸留本管マントルヒータ26、残留物受けフラスコ27、留出物受けフラスコ28、低沸点物凝縮トラップ29、真空ゲージ30、排気装置32等からなる。なお、符号31は、排気装置32に接続された配管であり、符号33は、装置全体の操作盤である。
分子蒸留を行う潤滑剤は、上記フィードフラスコ21内に投入する。分子蒸留は、必ずしも減圧環境で行う必要は無いが、高分子成分を含む磁気ディスク用潤滑剤の場合、所定の減圧環境で行うことが望ましい。分子蒸留を減圧環境で行わないと、気化した潤滑剤分子が他の分子と衝突する頻度が高まり、平均自由行程以内の距離で液化されるのを妨げるからである。
【0020】
従って、フィードフラスコ21内に潤滑剤を投入した後、上記排気装置32によって装置内を所定の減圧度となるように排気を行う。この際の減圧度は、例えば1×10−2Pa〜1×10−3Pa程度或いはそれ以下の高真空とすることが好ましい。減圧度は、上記真空ゲージ30によって計測することができる。尚、このように高真空とすることにより、前述の脱気処理を前もって行うことができる。潤滑剤に含まれた不純物ガス等は配管34を通って排気装置32側へ流れ、その一部は低沸点物凝縮トラップ29内に溜まる。また、必要に応じて、フィードフラスコマントルヒータ22によってフィードフラスコ21内の潤滑剤を加温してもよい。
装置内を所定の減圧度(真空)にした後、フィードフラスコ21から潤滑剤を蒸留本管25へ流し込む。フィードフラスコ21から蒸留本管25へ流し込む潤滑剤量(フィード量)は、フィードフラスコ21の下端に設けられたコック35の開閉量によって制御することができる。通常は1〜30g/分程度のフィード量が適当である。フィード量が少ないと蒸留に長時間を要し、一方フィード量が多いと蒸留効率が低下する場合がある。
【0021】
蒸留本管25へ流れ込んだ潤滑剤は、円筒型の蒸留本管25の周囲に配置された蒸留本管マントルヒータ26によって所定の温度に加熱される。この場合の加熱温度は、少なくとも潤滑剤が気化される温度であり、潤滑剤の種類によっても異なるが、前述のパーフルオロテトラオール化合物を主成分とする潤滑剤では、概ね100℃〜220℃の範囲が好適である。特に160℃〜200℃の範囲が好適である。尚、潤滑剤の加熱温度の制御は、上記マントルヒータ26の温度制御によって行えるが、蒸留本管25内に温度計を設置することにより、蒸留本管25内の潤滑剤の実際の加熱温度を測定することもできる。
【0022】
なお、上記蒸留本管25内の長手方向に例えば弗素樹脂製のワイパーが配設された磁気カップリング撹拌機23が設けられており、撹拌機コントロールボックス24によって、20〜100rpm程度の回転速度で一定方向に回転している。このワイパー回転により、潤滑剤は蒸留本管25の壁面に薄膜状になり、気化しやすくさせている。気化した潤滑剤は、蒸留本管25内に設けられた冷却棒36に接触して液化され、留出物受けフラスコ28内に溜まる。冷却棒36には、冷却水が下端の流入口36aより導入され、排出口36bから排出されている。なお、気化されずに残留物受けフラスコ27内に溜まった残留物は、蒸留本管マントルヒータ26による加熱温度を変更した後、再度フィードフラスコ21内に投入して、蒸留を繰り返してもよい。
もちろん、図1に示した分子蒸留装置は一例であり、分子蒸留を行うための装置はこれに限定されない。
【0023】
本発明の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法により得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)が4000〜8000であることが好ましく、さらに好ましくは4000〜7000である。また、本発明の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法により得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比で示される分子量分散度が1〜1.3であることが好ましく、さらに好ましくは1〜1.2である。このような重量平均分子量、及び分子量分散度を備えることにより、本発明の作用が特に好適に得られる。
また、本発明の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法により得られた潤滑剤は、該潤滑剤に主成分として含まれているパーフルオロポリエーテルの含有率が85%よりも高いことが好ましい。上記潤滑剤に主成分として含まれているパーフルオロポリエーテルの含有率が85%以下の場合、本発明の作用が好適に得られない場合がある。本発明の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法によれば、主成分として含まれているパーフルオロポリエーテルの含有率が高い潤滑剤を得ることができる。尚、ここでいう含有率は、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)法により測定される値である。
【0024】
また、本発明は、磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤であって、パーフルオロポリエーテルを含み、分子量分散度が1.3以下である磁気ディスク用潤滑剤についても提供する。このようなパーフルオロポリエーテルを含み、分子量分散度が1.3以下であることにより、例えば10nm以下の極低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などを防止でき、例えば5400rpm以上の高速回転においても、マイグレーションを抑制し得る付着性の高い潤滑層を形成することのできる磁気ディスク用潤滑剤が得られる。
ここで、分子量分散度の下限は特に制約される必要はないが、精製処理の負担があまり過大にならないように1以上であることが好ましい。また、分子量分散度が1.25以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.2以下であることが望ましい。最も好ましくは1.15以下である。
また、この磁気ディスク用潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)が4000以上8000以下であることが好ましい。さらに好ましくは4000〜7000である。このような重量平均分子量を備えることにより、本発明の作用が特に好適に得られる。
また、この磁気ディスク用潤滑剤は、パーフルオロポリエーテル主鎖の末端に水酸基を有する化合物を含有することが好ましい。特に、パーフルオロポリエーテル主鎖の両末端に水酸基を有する化合物を含有することが好ましく、さらに好ましくは前記パーフルオロテトラオール化合物を少なくとも含有することが望ましい。このような化合物を含む潤滑剤は、上述の分子量分散度及び/又は重量平均分子量を備えることにより、好ましい潤滑剤特性が得られるからである。
【0025】
本発明の磁気ディスクは、本発明の磁気ディスク用潤滑剤が表面に成膜され、潤滑層が形成されてなる。本発明の磁気ディスクの好ましい実施の形態は、基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層を備え、上記潤滑層は、本発明の磁気ディスク用潤滑剤が上記保護層上に成膜されてなる。上記潤滑層は、炭素系保護層の上に成膜された潤滑層であることが好ましい。
上記潤滑層を形成する方法としては、例えばディップコート法を用いることができる。ディップコート法は、本発明による潤滑剤を例えば弗素系溶媒に分散させた溶液を調製し、保護層まで成膜された磁気ディスクをこの溶液に浸漬させることにより潤滑層を成膜する方法である。本発明による潤滑剤を保護層上に付着させるために、成膜後に磁気ディスクを50℃〜150℃の雰囲気に曝してもよい。
本発明にあっては、潤滑層の膜厚は0.5nm〜1.5nmとするのがよい。0.5nm未満では、潤滑層としての潤滑性能が低下する場合がある。また1.5nmよりも厚いとフライスティクション障害が発生する場合があり、またロードアンロード(LUL)耐久性が低下する場合がある。
【0026】
本発明における保護層としては、炭素系保護層を用いることができる。特にアモルファス炭素保護層が好ましい。このような保護層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテル化合物との親和性が高く、適度な付着力を得ることができる。付着力を調節するためには、炭素保護層を水素化炭素及び/又は窒素化炭素として、水素及び/又は窒素の含有量を調節することにより制御することが可能である。
水素の含有量は水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3〜20at%とするのが好ましい。窒素の含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4〜12at%とするのが好ましい。
【0027】
本発明において炭素系保護層を用いる場合は、プラズマCVD法により成膜されたアモルファス炭素保護層とすることが好ましい。特にプラズマCVD法で成膜したアモルファスの水素化炭素保護層とすることが好適である。プラズマCVD法でこのような炭素系保護層を成膜するにあたっては、低級飽和炭化水素、具体的にはアセチレンなどの炭素数10以下の直鎖低級飽和炭化水素のガスを用いると良い。
磁性層としては高記録密度化に適したCo系磁性層が好ましい。このような磁性層としては例えばCoPt系磁性層、CoCrPt系磁性層を挙げることができる。磁性層の形成方法としてはDCマグネトロンスパッタリング法を好ましく挙げることができる。
本発明によれば、ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適な磁気ディスクが得られる。ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載した場合、例えば10nm以下の極低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などを防止できる。また、本発明の磁気ディスクは、負圧スライダー(NPABスライダー)を備える磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。即ち、負圧スライダーは潤滑剤を吸引し易いので、付着性の高い潤滑層が形成された本発明の磁気ディスクは好適である。また、本発明の磁気ディスクが搭載された磁気ディスク装置は、ロードアンロード方式の磁気ディスク装置として好適である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
図2は、本発明の一実施の形態になる磁気ディスク10である。
磁気ディスク10は、ディスク基板1上に順次、シード層2a及び下地層2bを含む非磁性金属層2、磁性層3、炭素系保護層4、並びに潤滑層5が順次成膜されてなる。潤滑層5は、本発明により得られる潤滑剤が成膜されている。以下詳細に説明する。
(潤滑剤の作製)
潤滑剤の作製方法について説明する。
まず、前記パーフルオロテトラオール化合物を主成分として含有する潤滑剤としてソルベイソレクシス社製のフォンブリンゼットテトラオール(商品名)(以下、潤滑剤Aと呼称する)を選定して準備し、これを前述の分子蒸留法により精製処理を行った。具体的には、図1に示す構造の分子蒸留装置を使用し、上記潤滑剤Aを分子蒸留装置内のフィードフラスコに投入してから、排気装置によって分子蒸留装置内を1×10−3Paになるまで減圧した。また、蒸留本管のマントルヒータの温度を180℃に設定した。なお、分子蒸留装置内の減圧環境を利用して、上記フィードフラスコ内の潤滑剤Aに含まれている不純物ガス等の脱気を予め充分に行った。
【0029】
次に、上記フィードフラスコから潤滑剤を一定のフィード量で蒸留本管に流し込んだ。この際、蒸留本管内のワイパーを所定の回転速度で駆動させた。なお、蒸留本管内の温度は、マントルヒータの設定温度と等しい180℃であった。このようにして、潤滑剤Aの180℃の留出分を得た。
得られた潤滑剤(以下、潤滑剤Bと呼称する)について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、分子量の異なるポリメチルメタクリレートを標準物質として分子量分布を測定したところ、潤滑剤Bは、重量平均分子量(Mw)で5130、数平均分子量(Mn)で4500、分子量分散度で1.14の分子量分布であった。なお、分子量分散度は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比で示される指標である。また、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)法を用いて上記潤滑剤Bを分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されており、その含有率は90%であった。
以上のように得られた潤滑剤Bを、フッ素系溶剤である三井デュポンフロロケミカル社製バートレルXF(商品名)に分散させた潤滑剤塗布液を作製した。
なお、以上の潤滑剤の作製は、クリーンルーム内で行なった。用いたクリーンルームの清浄度クラスは日本工業規格(JIS)B9920規定の清浄度クラス6よりも清浄な雰囲気である。
【0030】
(磁気ディスクの製造)
アルミノシリケートガラスからなる2.5インチ型化学強化ガラスディスク(外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mm)を準備し、ディスク基板1とした。尚、基板1の主表面は、Rmaxが4.8nm、Raが0.43nmに鏡面研磨されている。
このディスク基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により順次、シード層2a、下地層2b、磁性層3を成膜した。
シード層2aは、NiAl合金(Ni:50モル%、Al:50モル%)薄膜を膜厚30nmとなるように成膜した。
下地層2bは、CrMo合金(Cr:80モル%、Mo:20モル%)薄膜を膜厚8nmとなるように成膜した。
磁性層3は、CoCrPtB合金(Co:62モル%、Cr:20モル%、Pt:12モル%、B:6モル%)薄膜を膜厚15nmとなるように成膜した。
【0031】
次に、プラズマCVD法により、アモルファスのダイヤモンドライク炭素からなる保護層4(膜厚5nm)を成膜した。成膜に当たっては、低級飽和炭化水素であるアセチレンガスに窒素ガスを添加した混合ガスを用いた。この保護層4を水素前方散乱法(HFS)により分析したところ、水素が13at%、窒素が8at%含有される水素化窒素化炭素保護層であることが分かった。
次に、先に作製した潤滑剤塗布液を用いてディップコート法で塗布することにより潤滑層5を成膜した。
潤滑層成膜後に、磁気ディスク10を真空焼成炉内で130℃、90分加熱することにより、潤滑剤を保護層4上に付着させた。潤滑層5の膜厚をフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)で測定したところ1nmであった。こうして本実施例の磁気ディスクを得た。
【0032】
(磁気ディスクの評価)
[潤滑層密着性試験]
得られた磁気ディスクを弗素系溶媒(前出のバートレルXF)に1分間浸漬させた。弗素系溶媒に浸漬させることで、付着力の弱い潤滑層部分は溶媒に溶解してしまうが、付着力の強い潤滑層部分は保護層上に残留することができる。次に、磁気ディスクを溶媒中から6cm/分で引き上げ、FTIRで潤滑層膜厚を測定する。溶媒浸漬前の潤滑層膜厚に対する溶媒浸漬後の潤滑層膜厚の比率を潤滑層密着率(ボンデット率)と呼び、ボンデット率が高ければ、保護層に対する潤滑層の密着性が高いことを示す。LUL方式で10nm以下の極低浮上量とすると、ボンデット率は80%よりも高いことが好ましい。本実施例の磁気ディスクでは、ボンデット率は85%であった。
[潤滑層被覆率測定]
潤滑層の被覆率は、X線光電子分光法を用いた潤滑層の平均膜厚測定方法に基づき算出した。本実施例の磁気ディスクでは、潤滑層の被覆率は95%であった。
[LUL耐久性試験]
得られた磁気ディスク10のLUL(ロードアンロード)耐久性を調査するために、LUL耐久性試験を行なった。
LUL方式のHDD(ハードディスクドライブ)(5400rpm回転型)を準備し、浮上量が10nmの磁気ヘッドと本実施例の磁気ディスクを搭載した。磁気ヘッドのスライダーはNPABスライダーであり、再生素子は磁気抵抗効果型素子(GMR素子)を搭載している。シールド部はFeNi系パーマロイ合金である。このLUL方式HDDに連続LUL動作を繰り返させて、故障が発生するまでに磁気ディスクが耐久したLUL回数を計測した。
【0033】
結果、本実施例の磁気ディスクは、障害無く90万回のLUL動作に耐久した。通常のHDDの使用環境下ではLUL回数が40万回を超えるには概ね10年程度の使用が必要と言われているので、本実施例の磁気ディスクは高い信頼性を備えていると言える。
なお、試験を行なった全てのHDDでフライスティクション障害は発生しなかった。
また、LUL耐久性試験後の磁気ヘッド及び磁気ディスクの表面を光学顕微鏡及び電子顕微鏡で詳細に調査したが、傷や腐食現象は観察されなかった。また、磁気ヘッドへの潤滑剤の移着も観察されなかった。
【0034】
(実施例2)
本実施例では、前記潤滑剤Aを分子蒸留により精製処理する際に、分子蒸留装置における前記蒸留本管のマントルヒータの設定温度を200℃とした。この点以外は、実施例1と同様にして本実施例の潤滑剤を作製した。得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)で6900、数平均分子量(Mn)で6000、分子量分散度で1.15の分子量分布であった。また、NMR法を用いて上記潤滑剤を分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されており、その含有率は92%であった。
さらに、得られた潤滑剤を使用して、実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。得られた本実施例の磁気ディスクについて実施例1と同様の性能評価を行ったところ、ボンデット率は84%、潤滑剤被覆率は95%であった。また、LUL耐久性試験の結果、本実施例の磁気ディスクは、障害無く90万回のLUL動作に耐久した。従って、本実施例の磁気ディスクは高い信頼性を備えていると言える。
なお、試験を行なった全てのHDDでフライスティクション障害は発生しなかった。
また、LUL耐久性試験後の磁気ヘッド及び磁気ディスクの表面を光学顕微鏡及び電子顕微鏡で詳細に調査したが、傷や腐食現象は観察されなかった。また、磁気ヘッドへの潤滑剤の移着も観察されなかった。
【0035】
(実施例3)
本実施例では、前記潤滑剤Aを分子蒸留により精製処理する際に、分子蒸留装置における前記蒸留本管のマントルヒータの設定温度を170℃とした。この点以外は、実施例1と同様にして本実施例の潤滑剤を作製した。得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)で4800、数平均分子量(Mn)で4180、分子量分散度で1.15の分子量分布であった。またNMR法を用いて上記潤滑剤を分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されておりその含有率は95%であった。さらに、得られた潤滑剤を使用して実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。得られた本実施例の磁気ディスクについて実施例と同様の性能評価を行ったところ、ボンデッド率は85%、潤滑剤被覆率は92%であった。また、LUL耐久性試験の結果、本実施例の磁気ディスクは障害なく90万回のLUL動作に耐久した。したがって、本実施例の磁気ディスクは高い信頼性を備えている。
【0036】
(実施例4)
本実施例では、前記潤滑剤Aを分子蒸留により精製処理する際に、分子蒸留装置における前記蒸留本管のマントルヒータの設定温度を160℃とした。この点以外は、実施例1と同様にして本実施例の潤滑剤を作製した。得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)で4200、数平均分子量(Mn)で3820、分子量分散度で1.10の分子量分布であった。またNMR法を用いて上記潤滑剤を分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されておりその含有率は86%であった。さらに、得られた潤滑剤を使用して実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。得られた本実施例の磁気ディスクについて実施例と同様の性能評価を行ったところ、ボンデッド率は82%、潤滑剤被覆率は92%であった。また、LUL耐久性試験の結果、本実施例の磁気ディスクは障害なく90万回のLUL動作に耐久した。したがって、本実施例の磁気ディスクは高い信頼性を備えている。
【0037】
次に、以上の実施例に対する比較例を説明する。
(比較例1)
本比較例では、前記潤滑剤Aを超臨界抽出法により精製処理を行った。すなわち、超臨界流体送液装置、温度調整装置、圧力調整装置等から構成される超臨界流体応用装置を用いて、移動相を二酸化炭素の溶離媒体とする超臨界抽出による潤滑剤の精製処理を行なった。このとき、二酸化炭素の圧力は80〜350kgf/cm、温度は35℃〜300℃の範囲に調整すると好ましい二酸化炭素の超臨界状態を出現させることができる。そして、カラムから溶出した潤滑剤のモニタリングを、例えばフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)や、紫外線吸収分光光度計などにより行なった。モニタリングしながら、リテンションタイムに基づいて画分を得ることで、好適な分子量分布に分画することができる。尚、本比較例では、潤滑剤Aの脱気処理は行わなかった。
得られた潤滑剤は、重量平均分子量(Mw)で7340、数平均分子量(Mn)で5600、分子量分散度で1.31の分子量分布であった。また、NMR法を用いて上記潤滑剤を分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されており、その含有率は85%であった。
得られた潤滑剤を使用して、実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。得られた本比較例の磁気ディスクについて実施例1と同様の性能評価を行ったところ、ボンデット率は80%、潤滑剤被覆率は92%であった。また、実施例1と同様にLUL耐久性試験を行ったところ、本比較例の磁気ディスクは、LUL回数が30万回でヘッドクラッシュにより故障した。また、試験したHDDの内、40%のHDDでフライスティクション障害が発生した。
また、LUL耐久性試験後に磁気ヘッド及び磁気ディスクを取り出して調査したところ、磁気ディスク表面及び磁気ヘッド表面にはヘッドクラッシュによる傷が確認された。また、磁気ヘッドのNPABポケット部やABS面に潤滑剤の移着が確認された。
【0038】
(比較例2)
本比較例では、前記潤滑剤Aを精製処理、脱気処理は施さなかった。重量平均分子量(Mw)で6000、数平均分子量(Mn)で4510、分子量分散度で1.33の分子量分布であった。またNMR法を用いて上記潤滑剤を分析したところ、前記パーフルオロテトラオール化合物が主成分として含有されておりその含有率は79%であった。
この潤滑剤を使用して実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。得られた本実施例の磁気ディスクについて実施例1と同様の性能評価を行ったところ、ボンデッド率は78%、潤滑剤被覆率は90%であった。また、実施例1と同様のLUL耐久性試験を行ったところ、本比較例の磁気ディスクは、LUL回数が20万回でヘッドクラッシュにより故障した。また、試験したHDDの内50%のHDDでフライスティクション障害が発生した。
上述の実施例1乃至4及び比較例1、2における磁気ディスクの性能評価試験の結果を纏めて下記表1に示した。また、各実施例及び比較例に使用した潤滑剤の重量平均分子量と分子量分散度との関係を図3に示した。
【0039】
【表1】

上記表1の結果から、本発明の実施例では、LUL方式で10nmの極低浮上量としてもフライスティクション障害の発生を有効に防止でき、またLUL耐久性が非常に優れ、LUL方式に好適であることがわかる。これに対し、比較例では、フライスティクション障害の発生を十分に防止できず、さらにLUL耐久性にも劣り、実用レベルに達していない。
なお、末端基がジオール構造を備えるジオール化合物を含有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤を用いたこと以外は上述の実施例と同様の処理、評価を行ったところ、本発明の作用効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤の製造方法であって、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む潤滑剤を脱気処理した後、精製処理することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
【請求項2】
磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤の製造方法であって、パーフルオロポリエーテルを少なくとも含む液体状の潤滑剤を気化させ、気化したパーフルオロポリエーテル分子を、その平均自由行程以内の距離で液化させることにより、前記潤滑剤を精製処理することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
【請求項3】
前記精製処理を減圧環境で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
【請求項4】
前記潤滑剤は、少なくとも、化学式
【化1】

で示される化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の磁気ディスク用潤滑剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた潤滑剤であって、重量平均分子量が4000〜8000、分子量分散度が1〜1.3であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項6】
核磁気共鳴法により測定される前記潤滑剤に主成分として含まれているパーフルオロポリエーテルの含有率が85%よりも高いことを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項7】
基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層を備える磁気ディスクであって、前記潤滑層は、請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは請求項5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤が前記保護層上に成膜されてなることを特徴とする磁気ディスク。
【請求項8】
ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする請求項7記載の磁気ディスク。
【請求項9】
基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層をこの順で形成する磁気ディスクの製造方法であって、プラズマCVD法により前記炭素系保護層を形成し、請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは請求項5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤を成膜することにより前記潤滑層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項10】
ロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする請求項9記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項11】
磁気ディスク表面に設けられる潤滑層を形成するための潤滑剤であって、パーフルオロポリエーテルを含み、分子量分散度が1.3以下であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気ディスク用潤滑剤であって、重量平均分子量が4000以上8000以下であることを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の磁気ディスク用潤滑剤であって、パーフルオロポリエーテル主鎖の末端に水酸基を有する化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項14】
請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法により得られた磁気ディスク用潤滑剤或いは請求項5又は6記載の磁気ディスク用潤滑剤或いは請求項11乃至13の何れかに記載の磁気ディスク用潤滑剤が表面に成膜され潤滑層が形成されてなることを特徴とする磁気ディスク。
【請求項15】
負圧スライダーを備える磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする請求項14記載の磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/068589
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517030(P2005−517030)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000214
【国際出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】