説明

磁気ヘッド用複合基板およびそれを用いた磁気ヘッドスライダーの製造方法

【課題】スライダー長が1.2mm未満の磁気ヘッドスライダーを従来よりも効率良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】厚さが1.2mm未満の磁気ヘッド用基板11aと、磁気ヘッド用基板11aと熱膨張係数が同等の支持基板12aとを備える磁気ヘッド用複合基板10aを用いて、磁気ヘッドスライダーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッド用複合基板およびそれを用いた磁気ヘッドスライダーの製造方法に関し、特に、スライダー長が1.2mm未満の磁気ヘッドスライダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクに搭載される磁気ヘッドスライダーは、記録密度の向上とともに小型・軽量化が望まれている。
【0003】
磁気ヘッドスライダーは、現在、図8に示すようなプロセスで製造されている。
【0004】
まず、図8(a)に示すように、磁気ヘッド用基板91を用意する。磁気ヘッド用基板91としては、耐摩耗性に優れたAlTiCが広く用いられているが、サファイヤや多結晶SiCが用いられることもある。AlTiC基板(ウエハ)は、良く知られているように、高温高圧焼結技術であるホットプレス法を用いて製造され、表面は平坦かつ平滑(表面粗度が5nm以下)に仕上げられる。磁気ヘッド用基板91の厚さが磁気ヘッドスライダー96のスライダー長となる(図8(e)参照)。
【0005】
次に、図8(b)に示すように、磁気ヘッド用基板91上に、フォトリソグラフィプロセスを用いて磁気回路を含む磁気ヘッド素子部94が多数形成される。
【0006】
その後、図8(c)に示すように、棒状片(Rowといわれる。)91bに切断され、図8(d)に示すように、棒状片91bに浮上面加工が施される。
【0007】
その後、図8(e)に示すように、棒状片を切断し、複数の磁気ヘッドスライダー96が得られる。磁気ヘッドスライダー96の長さ(スライダー長)aは例えば1.2mm、幅bは例えば1.0mm、厚さcは例えば0.3mmである。
【0008】
磁気ヘッドスライダー96の長さaは、薄膜磁気ヘッドの登場により4.0mmから2.0mmへと短くなり、近年では更に薄型化が進行しており、1.2mmおよび0.8mmのスライダー長が主流となっている。また、0.5mmのスライダー長の磁気ヘッドスライダーも検討されてきている。
【0009】
磁気ヘッドスライダー96の長さaは、上述したように、磁気ヘッド用基板91の厚さに相当するので、スライダー長を小さくするためには、磁気ヘッド用基板91の厚さを小さくする必要がある。
【0010】
しかしながら、磁気ヘッド用基板91の厚さが1.2mm未満になると、磁気ヘッド素子部94を形成するための、金属膜(例えば、パーマロイ)の形成時の応力または熱により、磁気ヘッド用基板91が大きく変形するという問題がある。磁気ヘッド用基板91の変形量は、磁気ヘッド用基板91の厚さが小さくなればなるほど大きくなり、歩留まりが大きく低下する。
【0011】
これの問題を回避するために、スライダー長aが0.8mmの磁気ヘッドスライダーを製造する場合であっても、厚さが1.2mmまたは2.0mmの磁気ヘッド用基板91が用いられており、所定のスライダー長を得るために、磁気ヘッドスライダーの製造プロセスの最終工程で、磁気ヘッド素子部94をテープ等で保護した状態で、磁気ヘッドスライダー(磁気ヘッド用基板)の裏面を研削(研磨)している。
【0012】
なお、技術分野が異なるが、半導体チップの製造方法において、半導体基板の補強のために支持基板を貼り合わせる技術が知られている(特許文献1−3)。しかしながら、半導体分野で用いられている、上記特許文献に開示されている支持基板を転用しても、磁気ヘッド用基板との熱膨張係数の違い等による応力の問題を解決することができない。
【特許文献1】特開2002−25948号公報
【特許文献2】特開2002−373871号公報
【特許文献3】特開2005−183689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スライダー長が1.2mm未満の磁気ヘッドスライダーを従来よりも効率良く製造できる製造方法およびそれを実現するための新規な磁気ヘッド用複合基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の磁気ヘッド用複合基板は、厚さが1.2mm未満の磁気ヘッド用基板と、前記磁気ヘッド用基板と熱膨張係数が同等の支持基板とを備えることを特徴とする。
【0015】
ある実施形態において、前記磁気ヘッド用基板および前記支持基板の材料は、AlTiC、サファイヤおよび多結晶SiCからなる群から選択される。特に、AlTiCが好ましい。
【0016】
ある実施形態において、前記磁気ヘッド用基板と前記支持基板の材料は同じである。
【0017】
ある実施形態において、前記支持基板は貫通孔を有し、前記支持基板の前記貫通孔の側面および前記貫通孔内に露出された前記磁気ヘッド用基板の表面に接触する接着層を更に備える。
【0018】
ある実施形態において、前記接着層は、無機材料、金属材料または樹脂材料で形成されている。
【0019】
ある実施形態において、前記磁気ヘッド用基板と前記支持基板とは互いに直接接触している。
【0020】
ある実施形態において、磁気ヘッド用複合基板の厚さは1.2mmまたは2.0mmである。
【0021】
ある実施形態において、前記磁気ヘッド用基板の表面と裏面の表面粗度は、何れも5nm以下である。支持基板の表面と裏面の表面粗度も何れも5nm以下であることが好ましい。磁気ヘッド用基板も支持基板も、表面と裏面の表面粗度は同程度であることが好ましい。表面粗度は、例えばRa(算術平均粗さ)で表され、裏面のRa/表面のRaは、0.3〜3の範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明の薄膜磁気ヘッドの製造方法は、上記のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板を用意する工程(a)と、前記磁気ヘッド用複合基板の前記磁気ヘッド用基板にフォトリソグラフィプロセスを用いて磁気ヘッド素子部の一部を形成する工程(b)と、前記工程(b)の後で、前記支持基板を前記磁気ヘッド用基板から分離する工程(c)とを包含することを特徴とする。
【0023】
ある実施形態において、前記工程(a)は、前記工程(c)で分離された前記支持基板を用いて、前記磁気ヘッド用複合基板を作製する工程を包含する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、スライダー長が1.2mm未満の磁気ヘッドスライダーを従来よりも効率良く製造できる製造方法およびそれを実現するための新規な磁気ヘッド用複合基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明による実施形態の磁気ヘッド用複合基板およびそれを用いた磁気ヘッドスライダーの製造方法を説明する。
【0026】
図1(a)〜(d)は、本発明による実施形態の磁気ヘッド用複合基板10a−10dの模式的な断面図である。なお、磁気ヘッド用複合基板の平面形状は、典型的には円又は矩形(正方形を含む)である。
【0027】
図1(a)に、本発明による実施形態の磁気ヘッド用複合基板10aの模式的な断面図を示す。図1(a)に示す磁気ヘッド用複合基板10aは、厚さaが1.2mm未満の磁気ヘッド用基板11aと、磁気ヘッド用基板と熱膨張係数が同等の支持基板12aとを備える。磁気ヘッド用基板11aの厚さaは、磁気ヘッドスライダーのスライダー長にあわせて、例えば、0.8mmまたは0.5mmとする。また、磁気ヘッド用複合基板10aの全体の厚さa0は、既存の磁気ヘッドスライダーの製造設備に合わせて、例えば、2.0mmまたは1.2mmに設定すれば、既存の設備をそのまま用いることが出来るという利点が得られる。例えば、露光装置の場合、焦点を合わせることができる範囲は、0.2mm程度であり、厚さが2mmの磁気ヘッド用基板に用いていた露光装置を用いて厚さ0.8mmの磁気ヘッド用基板を露光することはできず、大幅な装置の改造が必要になる。また、磁気ヘッドスライダー製造プロセスの装置(例えば、基板保持キャリア、ローダー)も、磁気ヘッド用基板の重さ等に合わせて改造する必要が生じる。
【0028】
磁気ヘッド用基板11aおよび支持基板12aの材料は、AlTiC(アルミナ−炭化チタンの複合材)、サファイヤおよび多結晶SiCからなる群から選択され、特に、AlTiCが好ましい。磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aの材料は同じであることが好ましい。
【0029】
例えば、磁気ヘッド用基板11aの材料がAlTiCの場合、支持基板12aの材料もAlTiCであることが好ましい。更に、熱膨張係数を同等(差が±30%以内)にするために、同程度の組成範囲であることが望ましい。例えば、磁気ヘッド用基板11aのアルミナと炭化チタンとの配合比が7:3の場合、支持基板12aのアルミナと炭化チタンとの配合比も7:3の配合比であることが好ましい。更に、その配合比の差が5wt%以下であることが好ましい。このことにより、熱が付加される工程において、熱膨張係数の差による磁気ヘッド用複合基板の変形を抑制することができる。
【0030】
また、支持基板12aに磁気ヘッド用基板11aと同材質のものを用いることにより、既存の製造設備、製造プロセス、各工程の条件を、そのまま適用できるという利点も得られる。
【0031】
さらに、支持基板12aとしてAlTiC基板を用いると、AlTiCは良導体であるので、支持基板12aの表面に電荷が溜まることがなく、パーティクルの吸着も少なくすることができる。このパーティクルは、磁気ヘッド製造プロセスにおいて歩留まりを低下させる一因である。
【0032】
磁気ヘッド用基板11aの表面(上面)と裏面(下面)の表面粗度は、何れも5nm以下であることが好ましい。表面粗度は、例えばRa(算術平均粗さ)で表され、裏面のRa/表面のRaは、0.3〜3の範囲内であることが好ましく、表面と裏面の表面粗度は同程度(差が±30%以内)であることが更に好ましい。磁気ヘッド用基板11aの表面と裏面とを同じ加工条件で仕上げることにより、加工変質層の差による磁気ヘッド用基板11aの変形を抑制することができる。
【0033】
図2(a)および(b)に支持基板12aの構造を模式的に示す。図2(a)は、支持基板12aの平面図であり、図2(b)は図2(a)の2B−2B’線に沿った断面図である。支持基板12aの表面(上面)と裏面(下面)の表面粗度も、磁気ヘッド用基板11aと同様に、何れも5nm以下であることが好ましく、裏面のRa/表面のRaは、0.3〜3の範囲内であることが好ましく、表面と裏面の表面粗度は同程度(差が±30%以内)であることが更に好ましい。
【0034】
支持基板12aは、図2(a)および(b)に示すように複数の貫通孔12hを有している。支持基板12aの外形は磁気ヘッド用基板11aと同じで同じ大きさである。各貫通孔12hは円形で、直径は1mm〜10mm程度である。貫通孔12hの直径や密度(単位面積あたりの貫通孔12hの数)は、接着層13aによる接着力を考慮して適宜設定され得る。また、貫通孔12hの形状も適宜変更され得る。ただし、貫通孔12hが円形の場合、密着力のバランスを考えると、少なくとも3個以上の貫通孔12hを設けることが好ましい。
【0035】
支持基板12aに代えて、図3(a)および(b)に示す支持基板12a’を用いることもできる。図3(a)は、支持基板12a’の模式的な平面図であり、図3(b)は図3(a)の3B−3B’線に沿った模式的な断面図である。支持基板12a’は、十字状の貫通孔12h’を有している。もちろん、貫通孔12h’に代えて、複数の直線状の貫通孔を形成しても良い。
【0036】
接着層13aによって、十分な接着力が得られる範囲であれば、上記の例に限られず、貫通孔12hの大きさ、形状、密度を変更しても良い。
【0037】
磁気ヘッド用複合基板10aは、支持基板12aの貫通孔12hの側面および貫通孔12h内に露出された磁気ヘッド用基板11aの表面に接触する接着層13aを更に備えている。接着層13aは、例えば、無機材料、金属材料または樹脂材料で形成されている。接着層13aの厚さは比較的小さく、支持基板12aの貫通孔12hを埋めることはなく、貫通孔12hの側面および貫通孔12h内に露出された磁気ヘッド用基板11aの表面にだけ接触している。後述するように、薄膜堆積法で、無機材料または金属材料を用いて比較的薄い接着層13aを形成するとこのような構造が得られる。
【0038】
接着層13aは、薄膜磁気ヘッドスライダーの製造工程で要求される耐熱性および耐薬品(KOH/NaOH)を有することが好ましい。金属材料や無機材料を用いると、優れた耐熱性(例えば250℃以上)を得ることができる。また、樹脂材料を用いると、成膜が容易であるという利点が得られる。耐熱性(例えば120℃以上)および耐薬品性の観点から、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。120℃程度の耐熱性であれば、液状のアクリル系接着剤を使用することができる。この接着剤はせん断力により容易に支持基板11aを分離することができる。
【0039】
磁気ヘッド用複合基板10aにおいて、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとは互いに直接接触している。このような構成を採用すると、磁気ヘッド用複合基板10aの厚さの寸法精度が高く、また、磁気ヘッド用複合基板10a全体が、導電性と高熱伝導性を有するので、さらに歩留まり良く製造することができる。
【0040】
図1(b)に、本発明による実施形態の他の磁気ヘッド用複合基板10bの模式的な断面図を示す。磁気ヘッド用複合基板10bは、支持基板12aが有する貫通孔12hを埋めるように接着層13bが形成されている点で、図1(a)に示した磁気ヘッド用複合基板10aと異なる。磁気ヘッド用複合基板10aと同様の構成で、厚い接着層13bを形成すると、このような構造が得られる。磁気ヘッド用複合基板10bは、上記磁気ヘッド用複合基板10aと同様の利点を有している。
【0041】
図1(c)に、本発明による実施形態のさらに他の磁気ヘッド用複合基板10cの模式的な断面図を示す。磁気ヘッド用複合基板10cは、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとの間にも接着層13cが存在している点で、図1(a)に示した磁気ヘッド用複合基板10aと異なる。この構造は、後述するように、樹脂材料を用いて接着層13cを形成する方法を採用した場合に得られる。磁気ヘッド用複合基板10cにおいては、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとの間に接着層13cの一部が介在するので、寸法安定性や、導電性、熱伝導性の点で、先の磁気ヘッド用複合基板10aおよび10bに劣るが、製造が容易であるという利点が得られる。接着層13cを形成する樹脂材料として、導電性および熱伝導性に優れた材料を選ぶことが好ましいのは言うまでも無い。また、ヘッド用基板11aと支持基板12aとの間に存在する接着層13cの厚さは1μm以下であることが好ましい。
【0042】
また、樹脂材料を用いて接着層13dを形成すると、図1(d)に示す磁気ヘッド用複合基板10dを得ることができる。磁気ヘッド用複合基板10dの支持基板12bは先の例とは異なり、貫通孔を有さず、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12bとは接着層13dを間に介して互いに接着されている。接着層13dを形成する樹脂材料は、導電性および熱伝導性に優れた材料を選ぶことが好ましく、接着層13dの厚さは1μm以下であることが好ましい。また、磁気ヘッド用複合基板10dのように、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12bとを全面で接着すると、支持基板12bを磁気ヘッド用基板11aから剥離(分離)し難い。そこで、図1(d)に示すように、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12bの両方の接着層13d側に面取り部15を設けることが好ましい。面取り部15の形態は、直線であっても曲線であってもよい。面取り部15に先端の尖った治具をひっかけることにより、容易に剥離させることができる。必要に応じて加熱し、樹脂の接着強度を低下させた状態で剥離してもよい。このとき、樹脂のガラス転移温度付近まで加熱することが好ましい。
【0043】
次に、図4〜図7を参照して、本発明による実施形態の磁気ヘッド用複合基板の製造方法および磁気ヘッドスライダーの製造法を説明する。
【0044】
本発明の薄膜磁気ヘッドの製造方法は、上述した磁気ヘッド用複合基板を用意する工程と、磁気ヘッド用複合基板の磁気ヘッド用基板にフォトリソグラフィプロセスを用いて磁気ヘッド素子部の一部を形成する工程と、その後で、支持基板を磁気ヘッド用基板から分離する工程とを包含する。本発明によると、分離された支持基板を再利用して、磁気ヘッド用複合基板を作製することができるので、材料の無駄が無い。即ち、従来の製造方法のように、磁気ヘッド用基板の一部(スライダー長よりも厚い部分)を研削(研磨)によって除去する必要がない。また、研削加工によって、加工歪みが生じることもない。
【0045】
まず、図4から図6を参照して、磁気ヘッド用複合基板10a〜10dの製造方法を説明する。
【0046】
図4(a)に示すように、磁気ヘッド用基板11aと、支持基板12aを用意する。磁気ヘッド用基板11aは、例えば、公知のホットプレス法を用いて製造されたAlTiC基板である。磁気ヘッド用基板11aの表面および裏面は、ともに表面粗度が5nm以下に仕上げられている。支持基板12aは、例えば、磁気ヘッド用基板11aと同様の方法で製造されたAlTiC基板である。加工精度の観点から、支持基板12aの表面および裏面も、表面粗度が5nm以下に仕上げられていることが好ましい。
【0047】
上述したように、磁気ヘッド用基板11aの厚さaは、磁気ヘッドスライダーのスライダー長にあわせて、例えば0.8mmとする。また、磁気ヘッド用複合基板10aの全体の厚さa0が、既存の磁気ヘッドスライダーの製造設備に合わせて、例えば2.0mmとなるように、支持基板12aの厚さを1.2mmに設定する。磁気ヘッド用基板11aおよび支持基板12aの平面形状は例えば円形であり、直径は例えば4インチまたは6インチである。これも既存の設備に合わせる。ここでは、支持基板12aとして、直径が1mmの貫通孔12hを122個、均等に形成したものを用いる。
【0048】
次に、磁気ヘッド用基板11aおよび支持基板12aを洗浄し、脱脂およびパーティクルの除去を行う。
【0049】
その後、図4(b)に示すように、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとを互いに直接接触させ、位置ずれしないように重ね合わせる。そのあと、支持基板12aの裏面側(磁気ヘッド用基板11aとは反対側)に接着層13a’を形成する。
【0050】
接着層13a’は、例えば、スパッタ法で形成される。上記の互いに重ね合わされた磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとをスパッタ装置のチャンバー内にセットする。次いで、チャンバー内を減圧し、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとを密着させる。
【0051】
その後に、例えば、ターゲットパワー7.5kW、Arガス圧2Pa、バイアスボルテージ150Vで約30μmのアモルファスアルミナ膜を形成する。この膜厚は、磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとを十分な強度で接着できるように設定する。
【0052】
接着層13a’は、アルミナ膜に限られず、後の分離工程で除去可能な膜であれば良い。例えば、無機材料、特にSiO2等の酸化物(燐酸等で除去可能)、Ni等の金属材料(塩酸等で除去可能)、無機系接着剤(燐酸等で除去可能)を好適に用いることができる。さらに、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の樹脂材料(剥離液により除去可能)を用いることもできる。樹脂材料を用いる場合は、コーティング法やディッピング法などで成膜することができる。必要に応じて、樹脂材料を溶剤で希釈しても良い。また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、接着層13a’を形成した後、熱硬化を行う。
【0053】
ここでは、スパッタ法を使用して接着層13a’を成膜する例を示したが、無機膜や金属膜の成膜には、CVD法等の他の薄膜堆積法を用いてもよく、さらに、金属膜の成膜には、電気メッキ法や無電解メッキ法を用いてもよい。
【0054】
次に、図4(c)に示すように、接着層13a’の内で、支持基板12aの貫通孔12hの側面および貫通孔12h内に露出された磁気ヘッド用基板11aの表面に接触する部分以外の部分、すなわち、図4(c)中の支持基板12aの最上面に位置する部分を、研磨により除去することが好ましい。支持基板12aの最上面に接着層13a’が残存していると、磁気ヘッド素子部の形成工程で施される研磨工程において、十分な精度が得られないことがある。
【0055】
次に、図5(a)および(b)を参照して、磁気ヘッド用複合基板10bの製造方法を説明する。
【0056】
磁気ヘッド用複合基板10bは、上述したように、支持基板12aが有する貫通孔12hを埋めるように接着層13bが形成されている点で、磁気ヘッド用複合基板10aと異なっている。上述と同様の成膜方法で、図5(a)に示すように、接着層13b’を厚く形成する。その後、図5(b)に示すように、接着層13b’の内で、図5(a)中の支持基板12aの最上面に位置する部分を、研磨により除去することによって、接着層13bを有する磁気ヘッド用複合基板10bが得られる。樹脂材料を用いて接着層13bを形成すると、磁気ヘッド用複合基板10bを容易に得ることができる。
【0057】
樹脂材料を用いて接着層を形成する場合、磁気ヘッド用複合基板10cまたは10dの構成を採用してもよい。
【0058】
まず、図6(a)に示すように、磁気ヘッド用基板11aの表面(磁気ヘッド素子部を形成する面とは反対側の面)に樹脂材料からなる接着層13c’をコーティング法などにより形成する。その後、図6(b)に示すように、接着層13c’を介して磁気ヘッド用基板11a上に支持基板12aを重ね合わせ、樹脂材料を硬化することによって、接着層13cを有する磁気ヘッド用複合基板10cを得ることができる。
【0059】
また、図6(c)に示すように、貫通孔を有しない支持基板12bを用いてもよい。すなわち、接着層13dを介して磁気ヘッド用基板11a上に支持基板12bを重ね合わせ、樹脂材料を硬化することによって、接着層13dを有する磁気ヘッド用複合基板10dを得ることができる。
【0060】
次に、図7(a)および(b)を参照して、上述のようにして得られた磁気ヘッド用複合基板を用いた、磁気ヘッドスライダーの製造方法を説明する。ここでは、磁気ヘッド用複合基板10aを用いる例を説明する。
【0061】
図7(a)に示すように、磁気ヘッド用複合基板10aの表面に、磁気ヘッド素子部24を形成する。磁気ヘッド素子部24は、MR素子またはGMR素子を含み、磁気回路はフォトリソグラフィプロセスで形成される。
【0062】
磁気ヘッド用複合基板10aは、従来の磁気ヘッド用基板と同じ厚さを有しており、且つ、(薄い接着層13aを除き)同じ材料で形成されているので、従来と同じ設備・装置を用いて、従来と同じプロセスで、磁気ヘッド素子部24を形成することができる。また、磁気ヘッド用複合基板10aは、上述したように、磁気ヘッド用基板11aと同じ材料から形成されている支持基板12aを有しているので、金属膜(例えば、パーマロイ)の形成時に、応力または熱により、磁気ヘッド用複合基板10aが変形することも抑制される。従って、磁気ヘッド素子部24の一部を形成するためのフォトリソグラフィプロセスにおいても、十分な精度を得ることができる。すなわち、磁気ヘッド用複合基板10aを用いることによる歩留まりの低下はない。なお、磁気ヘッド素子部24を覆うように保護膜を形成することが好ましい。保護膜(厚さは例えば100nm〜5μm)は、例えば、アルミナを用いて形成される。
【0063】
その後、図7(b)に示すように、支持基板12aを磁気ヘッド用基板11aから分離する。この工程は、例えば、以下のように行われ得る。
【0064】
磁気ヘッド用複合基板10aがアルミナから形成された接着層13aを有しているとき、燐酸(70%)中に磁気ヘッド用複合基板10aを浸漬させ、アルミナを溶解させることによって、磁気ヘッド素子部24が形成された磁気ヘッド用基板11aと支持基板12aとを分離する。なお、燐酸によって磁気ヘッド素子部24が溶解しないように、磁気ヘッド素子部24が燐酸に接触しないように、支持基板12aと接着層13aだけを燐酸に浸漬させる。接着層13aをSiO2などの無機酸化物で形成した場合にも、燐酸を用いて同様の方法で、分離することができる。
【0065】
接着層13aの材料としてNi等の金属を使用した場合は、塩酸により分離することができる。この場合、上述したように、磁気ヘッド素子部24を保護するアルミナ膜を形成しておけば、アルミナは塩酸に対して安定なので、磁気ヘッド素子部24が形成された磁気ヘッド用複合基板10aの全体を塩酸中に浸漬しても良い。
【0066】
また、接着層13aの材料として、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂などの樹脂材料を使用した場合は、それぞれの樹脂材料に適した剥離液に浸漬することによって、分離することができる。言い換えると、剥離液によって除去可能な樹脂材料を用いればよい。アルカリ系の剥離液を用いる場合には、上述と同様に、磁気ヘッド素子部24を保護するアルミナ膜を形成しておけば、磁気ヘッド素子部24が形成された磁気ヘッド用複合基板10aの全体を剥離液中に浸漬しても良い。
【0067】
支持基板12aを磁気ヘッド用基板11aから分離した後は、図8(c)〜(e)を参照して説明したように、磁気ヘッド用基板11aを棒状片に切断し、浮上面加工を施した後、個々の磁気ヘッドスライダーに切断すればよい。
【0068】
ここでは、磁気ヘッド用複合基板10aを用いる例を説明したが、磁気ヘッド用複合基板10bおよび10cを用いる場合も、同様のプロセスで、磁気ヘッドスライダーを製造することができる。磁気ヘッド用複合基板10a〜10cは、支持基板12aが貫通孔12hを有しているので、上述の燐酸や剥離液を用いたウェットプロセスによって、支持基板12aを磁気ヘッド用基板11aから効率的に分離することができる。
【0069】
図1(d)に示した磁気ヘッド用複合基板10dの支持基板12bは貫通孔を有しないので、ウェットプロセスでは分離に時間がかかる。従って、上述したように、磁気ヘッド用基板11aおよび支持基板12bの端部の面取り部15を利用して機械的に剥離することが好ましい。
【0070】
本発明の磁気ヘッドスライダーの製造方法によると、スライダー長が1.2mm未満の磁気ヘッドスライダーを従来よりも効率良く製造できる。また、本発明によると分離された支持基板12aまたは12bを再利用して、磁気ヘッド用複合基板10a〜10dを作製することができるので、材料の無駄が無くなる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、磁気ヘッド用複合基板およびそれを用いた磁気ヘッドスライダーの製造方法に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(a)〜(d)は、本発明による実施形態の磁気ヘッド用複合基板10a−10dの模式的な断面図である。
【図2】(a)は、支持基板12aの模式的な平面図であり、(b)は(a)の2B−2B’線に沿った模式的な断面図である。
【図3】(a)は、支持基板12a’の模式的な平面図であり、(b)は(a)の3B−3B’線に沿った模式的な断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、磁気ヘッド用複合基板10aの製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図5】(a)および(b)は、磁気ヘッド用複合基板10bの製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、磁気ヘッド用複合基板10cおよび10dの製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図7】(a)および(b)は、磁気ヘッド用複合基板10aを用いた、磁気ヘッドスライダーの製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図8】従来の磁気ヘッドスライダーの製造方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0073】
10a、10b、10c、10d 磁気ヘッド用複合基板
11a 磁気ヘッド用基板
12a、12a’、12b 支持基板
12h、12h’ 貫通孔
13a、13a’、13b、13b’、13c、13c’、13d 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1.2mm未満の磁気ヘッド用基板と、前記磁気ヘッド用基板と熱膨張係数が同等の支持基板とを備える、磁気ヘッド用複合基板。
【請求項2】
前記磁気ヘッド用基板および前記支持基板の材料は、AlTiC、サファイヤおよび多結晶SiCからなる群から選択される、請求項1に記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項3】
前記磁気ヘッド用基板と前記支持基板の材料は同じである、請求項1または2に記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項4】
前記支持基板は貫通孔を有し、
前記支持基板の前記貫通孔の側面および前記貫通孔内に露出された前記磁気ヘッド用基板の表面に接触する接着層を更に備える、請求項1から3のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項5】
前記接着層は、無機材料、金属材料または樹脂材料で形成されている、請求項4に記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項6】
前記磁気ヘッド用基板と前記支持基板とは互いに直接接触している、請求項1から5のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項7】
厚さが1.2mmまたは2.0mmである、請求項1から6のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項8】
前記磁気ヘッド用基板の表面と裏面の表面粗度は、何れも5nm以下である、請求項1から7のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の磁気ヘッド用複合基板を用意する工程(a)と、
前記磁気ヘッド用複合基板の前記磁気ヘッド用基板にフォトリソグラフィプロセスを用いて磁気ヘッド素子の一部を形成する工程(b)と、
前記工程(b)の後で、前記支持基板を前記磁気ヘッド用基板から分離する工程(c)と
を包含する、磁気ヘッドスライダーの製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)は、前記工程(c)で分離された前記支持基板を用いて、前記磁気ヘッド用複合基板を作製する工程を包含する、請求項9に記載の磁気ヘッドスライダーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−118108(P2010−118108A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290155(P2008−290155)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】