説明

磁気共鳴を使用して結合している及び結合していない造影剤を識別する方法

ターゲット30の磁気共鳴モニタリングは、検出された磁気共鳴を使用して、オブジェクトに対する造影剤の拡散のような動きを決定し、その動きを使用して、ターゲットに結合している造影剤の部分を、造影剤の残りのものから識別する(50、60)。クリアリング剤のニーズが、回避され又は低減されることができ、それゆえにイメージングは即座である。オブジェクトの「静止スピンマップ」は、さまざまな異なる方向における動きを比較し、それら間の差が所与の閾値より小さいかどうか決定することによって形成されることができる。オブジェクト上の複数の位置についてこのように等方性の動きを決定することによって、マップが生成されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴方法並びに対応する装置及びソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気モーメントを有するいかなる核も、それが位置する磁界の方向とそれ自身を並べようとすることが知られている。しかしながら、その際、核は、特有の角周波数(ラーモア周波数)でこの方向の周りを歳差運動し、これは、磁界の強度及び特定の核種の特性(磁気回転比定数γ)に依存する。この現象を示す核は、「スピン」を有すると言われる。
【0003】
人間組織のような物質が、均一の磁界(分極磁界B)を受けるとき、組織のスピンの個別の磁気モーメントは、この分極磁界と並ぼうと試みるが、それらの特有のラーモア周波数でランダムに磁界方向の周りを歳差運動する。ネットの磁気モーメントMzが、分極磁界の方向に生成されるが、垂直な又は横断方向の面(x−y面)においてランダムに指向された磁気成分は、互いに打ち消しあう。しかしながら、物質又は組織が、x−y面においてこの磁界、励起磁界Bの磁気成分の場合の歳差運動周波数と(ほとんど)同じ周波数で電磁界を受ける場合、ネットの並べられた磁気モーメントは、xy面においてラーモア周波数で回転し又はスピンするネットの横断方向磁気モーメントMtを生成するように、回転され、又はx−y面に「傾けられる」ことができる。励起信号Bが終了されたのち、信号が、励起されたスピンによって放出される。この核磁気共鳴(「NMR」)現象が利用される様々な測定シーケンスがある。
【0004】
画像を生成するためにNMRを利用する場合、いくつかの技法のうちの1つが、被検体内の特定の位置からNMR信号を得るために用いられる。一般に、イメージングされるべき領域(関心領域)は、使用されている特定のローカライゼーション方法に従って変化するNMR測定サイクルのシーケンスによって走査される。結果として得られる受け取られたNMR信号の組は、デジタル化され、多くのよく知られた再構成技法のうちの1つを使用して画像を再構成するように処理される。このような走査を実施するために、当然ながら、NMR信号を被検体内の特定の位置から引き出すことが必要である。これは、個々のx、y及びz軸に沿った磁界勾配(Gx、Gy及びGz)を用いることによって達成されることができる。各々のNMRサイクル中にこれらの勾配の強度を制御することによって、スピン励起の空間分布が制御されることができ、結果として得られるNMR信号の位置が、識別されることができる。
【0005】
取得されるNMR信号がスピンの動きに感受性をもつようにするために、パルスシーケンスの始めに大きい勾配パルスの対を使用することによって、拡散強調イメージングを実施することが知られている。拡散イメージングの原理は、標準的なパルスシーケンスにおいて2つの拡散感受性を有する勾配パルスを組み込むことに基づく。第1の勾配パルスがオンにされると、勾配磁界中のそれぞれ異なる位置におけるスピン位相の異なる歳差運動周波数が、スピンディフェージングをもたらす。第2の「反対の」勾配パルスが、それぞれ異なるスピン位相をリフォーカスする。しかしながら、プロトンの付加のネット分子運動のため、位相は、完全にリフォーカスされることができず、結果的にMR信号の低減をもたらす。標準的なMRシーケンスにおいて、この現象は、小さい役割を果たすだけである。しかしながら、拡散強調シーケンスにおいて、位相の非コヒーレンス又はディフェージングによる信号損失は、画像を生成するために使用される。拡散係数は、さまざまな異なる拡散強調による取得から計算されることができる。拡散強調に関する尺度は、b値である。b値は、2つの拡散感受性を有する勾配パルスの強度、持続時間及び時間区切りとともに増加する。拡散強調MRは、「Water diffusion compartmentation and anisotropy at high b values in the human brain」(Chris A. Clark, Denis Le Bihan. Magnetic Resonance in Medicine, Volume 44, Issue 6, Date: December 2000, Pages: 852-859)及び「Changes in apparent diffusion coefficients of metabolites in rat brain after middle cerebral artery occlusion measured by proton magnetic resonance spectroscopy」(Wolfgang Dreher, Elmar Busch, Dieter Leibfritz. Magn Reson Med Volume 45, Issue 3, Date: March 2001, Pages: 383-389)に示されように、例えば血流の不規則性を研究し、例えば繊維追跡のように組織繊維の方向を決定するために今日使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MRIによる分子イメージングの場合、明確なバイオマーカに特異的に結合する造影剤が、使用されることができる。これらのバイオマーカは、ある疾患及び治療のために特異的に選択される。これらは、ターゲット造影剤tCA(targeted contrast agents)と呼ばれる。薬剤の投与後、tCAのバイオマーカへの結合は、一般に、数時間までの時間期間にわたって起こる。従って、動物又は人体は、一般に、結合している及び結合していないtCAの両方の量を含む。結合しているtCAの割合を特異的に検出するために、1つの知られているストラテジは、自然に発生するプロセスである、結合していない割合の十分な「ウォッシュアウト」を単に待つことである。薬剤のタイプに依存して、このプロセスは、数時間から数日までかかることがあり、これは、明らかに、実際的な臨床応用にとって大きい欠点である。代替例として、「Use of galactosylated-streptavidin as a clearing agent with 111In-labeled, biotinylated antibodies to enhance tumor/non-tumor localization ratios」(Govindan, Serengulam V.; Griffiths, Gary L.; Michel, Rosana B.; Andrews, Philip M.; Goldenberg, David M.; Mattes, M. Jules. Immunomedics, Inc., Morris Plains, NJ, USA. Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals (2002), 17(3), 307-316)から知られているように、ウォッシュアウトのための長い時間を待つことが可能でない場合、いわゆるクリアリング剤が使用されることができる。このような薬剤は、大部分はtCAへの結合によって、結合していないtCAの排出を促す。臨床的なルーチンに関するクリアリング剤の主な不利益は、1つのルーチンのための2回の連続する投与が必要であるということであり、これは、臨床的に好ましくない。この理由のために、このようなプロシージャは、診療所においてはおそらく実現されない。更に、FDA又は他の規制機関による承認は、tCA自身の承認に対して補足的に、クリアリング剤についても必要である。
【0007】
更に、動的平衡が結合している及び結合していないtCAの間に存在する状況が理解されることができる。この場合、結合していないtCAの存在もまた必要であるので、ウォッシュアウトを待つ又はクリアリング剤を使用することが可能でない。
【0008】
例えば水プロトンの引き起こされる緩和レート(1/T又は1/T)の変化のため、tCAが結合されるときにMRI応答が変化する造影剤を使用することは、米国特許第6,861,045号明細書から知られている。
【0009】
本発明の目的は、磁気共鳴及び対応するソフトウェアに関する改善された装置又は方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の見地によれば、本発明は、例えば人間又は動物患者のようなオブジェクトの磁気共鳴モニタリングから得られる造影剤の検出された磁気共鳴に関するデータを処理する方法であって、造影剤の動きに感受性を有する磁気共鳴信号を検出するために磁気共鳴モニタリング方法を使用することを含む方法を提供する。これらの信号は、オブジェクトに結合している造影剤の部分を、結合しておらず、ゆえになお動いている造影剤の残りのものから識別する。造影剤は、ターゲット造影剤でありえ、すなわち、それは、オブジェクト内のターゲットに結合する。
【0011】
本発明は更に、例えば人間又は動物患者のようなオブジェクトの磁気共鳴モニタリングから得られる造影剤の検出された磁気共鳴に関するデータを処理する方法であって、造影剤の磁気共鳴を検出するステップと、検出された磁気共鳴を使用して、オブジェクトに対する造影剤の動きを決定するステップと、決定された動きを使用して、オブジェクトに結合している造影剤の部分を、造影剤の残りのものから識別するステップと、を含む方法を提供する。造影剤は、ターゲット造影剤でありえ、すなわち、それは、オブジェクト内のターゲットに結合する。決定又は動きステップは、造影剤が結合しているターゲットに関連する。
【0012】
本発明は、クリアリング薬剤のニーズが回避され又は低減されることを可能にし、それゆえより即時の測定又はイメージングを可能にすることに関して注目に値する。これは特に、臨床的に関連する情報が結合しているtCAにのみ存在する場合に有用である。本発明は、例えばMRイメージング及びMRスペクトロスコピーに適用されることができる。
【0013】
方法は更に、検出された磁気共鳴信号から、オブジェクトに対して動いている造影剤を決定するステップと、オブジェクトに結合している造影剤の部分を、造影剤の残りのものから識別するステップと、を含む。
【0014】
更に有利な実施例において、磁気共鳴モニタリングは、オブジェクト上の複数の位置において実施され、方法は、モニタリングの結果を使用して、結合している造影剤の画像のうち異方性の動きを有することが見つけられた部分のディエンファシスによって、結合している造影剤の画像を形成することを含む。
【0015】
本発明の更なるフィーチャは、検出された磁気共鳴が、造影剤のスピンをディフェーズするために第1の方向において磁界勾配を印加することによって得られることである。検出された磁気共鳴が、スピンをリフェーズすることによって得られる場合、方法は更に、造影剤の第1の方向における動きを決定するために、リフェージング後の共鳴をディフェージング前の共鳴と比較することを含むことができる。検出された磁気共鳴は更に、他の方向においてディフェージング及びリフェージングのステップを繰り返すことによって得られることができ、方法は、他の方向における造影剤の動きを検出することを含む。これは、例えばマップを生成するために、造影剤の動きに関するより多くの情報を与える利点を提供する。リフェージングは更に、スピンの位相を逆にして、磁気勾配の印加を繰り返すことを含みうる。
【0016】
他のフィーチャにおいて、造影剤の結合している部分を識別することは、方向のいずれかにおける動きが閾値より小さいかどうか決定するステップを含む。
【0017】
他のフィーチャにおいて、等方性の動きを評価するステップは、各位置ごとに、すべての方向における動きを比較し、動きの差が所与の閾値より小さい場合、動きは当該位置について等方性であると決定することによって実施される。
【0018】
別のフィーチャは、等方性の動きが解析されることであり、信号減少が所与の閾値内にある場合、動きは、当該位置について静止している。
【0019】
検出を改善するために、造影剤は、ユニークなMRシグネチャを有することができ、又は水と比較してユニークな化学シフトでプロトン信号を有する。例えば、造影剤は、認識可能なシグネチャを提供するフッ素を含むことができる。
【0020】
別の見地において、本発明は、オブジェクト内の造影剤の磁気共鳴を検出する検出器を有する磁気共鳴モニタリング装置であって、ターゲット造影剤の動きに感受性を有する磁気共鳴信号を検出するために、磁気共鳴をモニタリングする手段と、検出された磁気共鳴を使用してオブジェクトに対する造影剤の動きを決定する検出器と、検出された動きを使用して、オブジェクトに結合している造影剤の部分を造影剤の残りのものから識別する識別器と、を有する装置を提供する。
【0021】
造影剤が、ターゲット造影剤であるとき、識別器は、それ自身をターゲットに結合する造影剤の部分を、造影剤の残りのものから識別するように構成されることができる。
【0022】
他の有利なフィーチャは、身体上の複数の位置をモニタリングする手段と、モニタリングの結果を使用して、結合している造影剤の画像を形成する画像生成器と、を提供することである。
【0023】
本発明の他のフィーチャは、造影剤のスピンをディフェーズするために第1の方向において磁気勾配を印加する磁石コントローラを提供することである。有利には、磁石コントローラは、スピンをディフェーズし、それからリフェーズして、それにより第1の方向における動きを決定するように構成されることができる。
【0024】
本発明の他のフィーチャは、磁石コントローラが、他の方向における動きの検出を可能にするために、他の方向においてディフェージング及びリフェージングのステップを繰り返すように構成されることができることである。
【0025】
例えばノイズに関して、識別を改善するために、識別器は、方向のいずれかにおける動きが閾値より小さいかどうか決定するように構成されることができる。
【0026】
本発明の他のフィーチャにおいて、識別器は、各位置ごとに、すべての方向における動きを比較して、動きが当該位置について等方性であり、等方性の動きの信号損失が所与の閾値を越えないことを決定するように構成される比較器を有し、画像生成器は、識別器の出力から静止スピンについてのマップを形成するように構成される。
【0027】
別の見地は、等方性マップを生成するように造影剤の検出された磁気共鳴を処理する方法であって、複数の方向においてオブジェクトに対する造影剤の動きを決定するために検出された磁気共鳴を使用するステップと、それぞれ異なる方向における動きを比較するステップと、それら間の差が所与の閾値より小さいかどうか決定して、動きが当該位置について等方性であることを決定するステップと、信号強度を、例えば動きに感受性を有しない画像であるベースライン画像の信号強度と比較するステップと、を含む方法を提供する。等方性であってベースライン値に近い信号が、等方性マップを形成するために使用される。
【0028】
このようなマップは、例えばそれ自身をターゲットに結合するターゲット造影剤の領域のような、フィーチャをより明確に示すことができる新しいタイプのパラメトリックマップである。
【0029】
本発明は更に、本発明の方法のいずれかを実施するための磁気共鳴モニタリング装置用の機械可読媒体上のコンピュータプログラムを提供する。
【0030】
本発明の付加のフィーチャ及び他の利点は以下に記述される。
【0031】
付加のフィーチャのいかなるものも、互いに組み合わせられることができるとともに、見地のいかなるものとも組み合わせられることができる。当業者には、特に他の従来技術にまさる他の利点が明らかであろう。多くの変更及び変形が、本発明の請求項から逸脱することなくなされることができる。従って、本発明の形態は説明的なものにすぎず、本発明の範囲を制限することを意図するものではないことが明確に理解されるべきである。
【0032】
本発明がどのように実施されることができるかについて、添付の図面を参照して例示によって記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、特定の実施例に関して及び特定の図面に関して記述されるが、本発明は、それらに制限されず、請求項によってのみ制限される。請求項におけるいかなる参照符号も、範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。記述される図面は、概略的なものにすぎず、非制限的である。図面において、構成要素のいくつかの大きさは、説明の便宜上、誇張されており、一定の縮尺で描かれていないことがある。「有する、含む」なる語が、本記述及び請求項において使用されているが、これは、他の構成要素又はステップを除外しない。単数名詞を述べる際に不定冠詞又は定冠詞が使用されているが、これは、特記されない限り、その名詞の複数の存在を含む。
【0034】
更に、明細書及び請求項における第1、第2、第3等の語は、同様の構成要素の間を区別するために使用されており、必ずしも逐次的な又は時間的な順序を記述するために使用されるものではない。そのように使用される語は、適当な環境下で入れ替わり可能であり、ここに記述される本発明の実施例は、ここに記述され又は図示されるもの以外のシーケンスで動作することができることが理解されるべきである。
【0035】
本発明の実施例は、造影剤の結合していない割合からのMR信号を特異的に抑制し、結合している割合tCAのみからのMR画像を取得し又はもたらすMR走査方法を使用する。造影剤は、一般に、従来の手段によって人間又は動物の患者に投与される。結合していないtCAの存在下で結合しているtCAの割合を特異的に検出することができるMRイメージング及びスペクトロスコピー(MR)方法が、多くの理由により有用である。その理由として、例えば、結合していないtCAのウォッシュアウトを待つことを必要とせず、又は身体からの結合していないtCAの除去を容易にするためにクリアリング剤を使用することを必要としないからである。走査方法は更に、結合しているtCAの即時のMRI又はMRS測定を可能にする。
【0036】
本発明の実施例は、動物又は人体における使用の場合、結合していないtCAが、血液(又は腸の管腔)中になお存在し、動いているという事実を利用することができる。他方、結合しているtCAは、もはや動かない。
【0037】
DWI(拡散強調イメージング)の今日の臨床用途は、それぞれ異なる動き度合い及び組織繊維によって引き起こされる異方性の両方によるコントラストの変化を検出するためであるが、本発明の実施例によれば、DWIは、動いている造影剤の割合を識別し及び/又は無視するために使用される。「拡散」勾配は、動いている造影剤のスピンの信号のネットディフェージングを引き起こすために使用される。次いで、結合しているtCAの信号のみが、完全にリフェーズされ、この信号は、さまざまな目的のために使用されることができる。1つの目的は、結合しているtCAのマップを生成することである。結合しているtCAのリフェージングは、拡散のすべての方向について当てはまる(すなわち等方性である)ので、結合しているtCAのマップは、「静止スピンマップ」(以下に詳しく記述する)と呼ばれることができる。血液(又は腸の管腔)中になお存在する結合していないtCAの場合、結合している及び結合していないtCA間の動き度合いの差が大きく、結果的に小さい勾配だけが必要とされることが期待されうる。DWI用語において、これは、低いb値が十分であることを意味する。b値は、拡散強調画像への勾配の影響を要約的に示す。値bが高いほど、拡散強調は強くなる。低いb値の使用は、TR(繰り返し時間)及びゆえにこの改善された検出方法のための取得時間の増加が、無視できるほど小さくなりうることを意味する。所与のボリュームにおけるフローの方向は、いかなる方向もありうるので、拡散勾配は、複数の空間方向において、好適には典型的な数の方向において、印加されなければならない。方向の数は、一般には3であり、すなわち直交する主方向のそれぞれx、y及びzであり、又はそれ以上である。結合していないtCAのフローの方向に依存して、拡散勾配のいくつかの方向は、他より大きい信号減少をもたらし、すなわち拡散の効果は、異方性である。
【0038】
拡散勾配についてさまざまな異なる向きを有する拡散強調画像から再構成されることができるいくつかのパラメトリック画像があることが知られている。最も一般的なパラメトリック画像は、相対異方性(RA)マップ及び異方性比率(FA)マップである。結合しているtCAの場合、拡散は、全方向において非常に小さい(ゼロ)(すなわち等方性である)が、結合していないtCAの場合、異方性は、結合していないtCAのフローと平行な(並んでいる)拡散方向について最大である。
【0039】
更に、等方性の拡散強調イメージングは、文献(MRM 53:1347-1354(2005MRM 44:731-736)2000)から知られており、その中で、すべての3つの直交する画像の信号強度は、関係√Sx・Sy・Szに従って重み付けされる。この方法において、すべてのボクセルについてのすべての信号強度が、最終の画像において重み付けされる。本発明の実施例において、それぞれ異なる特別な方向についての信号が、最初に別個に分析され、ゼロの拡散勾配をもつベースライン画像(S)と比較される。1又は複数の方向において、拡散強調画像の信号強度が、ベースライン値より小さい場合、これらのボクセル値は、ゼロにセットされる。拡散が等方性であり、信号強度が、ベースライン走査の信号強度に近いという条件を果たすすべてのボクセルについて、等方性の値(√Sx・Sy・Sz)又はベースライン値(S)のいずれかが、「静止スピンマップ」を与えるために使用される。
【0040】
結合していないtCAに対する結合しているtCAの区別が必要とされる第2の状況は、腫瘍の分子イメージングにある。腫瘍の場合、血管は、概して、非常に透過性がある。これは、相対的に大きい分子又は粒子の血管外遊出を可能にする。従って、大きいナノパーティクルでさえ、tCAのベースとして使用されることができる。結合していない管外遊出されたtCAは、結合しているtCAより(僅かに)高い拡散定数を有する。組織が、自然の繊維質である場合、拡散は、ここでも異方性でありうる。一般に、間質における結合していない管外遊出されたtCAに対する結合しているtCAの拡散定数の差は、非常に小さく、b値の細かな微調整を必要とする。
【0041】
記述された方法を適用するための前提条件は、tCAが、好適にはユニークなMR署名、すなわち1H以外の周波数で共鳴する(複数の)核を含み、オブジェクト内に自然には存在しないことである。フッ素19Fが一般に使用される(A.M. Morawski et. al., Mag. Res. Med. 52, 1255 (2004))。別の可能性は、tCAが水と比較してユニークな化学シフトでプロトン信号を有することである。このような造影剤は、トリノ大学によって最近提案されたいわゆるLIPOCEST剤を含む(Silvio Aime, Daniela Delli Castelli, and Enzo Terreno, Angew. Chem. Int. Ed. 44, 5513 (2005))。ここに記述されるMR走査方法は、結合しているtCAのより高速なイメージングを可能にし、クリアリング剤の使用を今日必要としているtCAの場合に特に重要である。
【0042】
図1に示される本発明の第1の実施例は、造影剤が投与された患者に隣接して配置される磁界発生器20を制御する磁石コントローラ10を示している。患者には、造影剤tCA30が引き寄せられ、又は造影剤tCA30が結合する特定のターゲットがある。tCAからの磁気共鳴は、検出器40によって拾われ、結合しているtCAを識別するために、動き検出器50及び識別器60に供給される。これは、例えばオブジェクトの静止スピンマップのような画像を生成する画像生成器70に結合される。動き検出器、識別器及び画像発生器は、通常のハードウェアによって実行される通常の言語のソフトウェアにおいて実現されることができる。磁界発生器20は、3方向の勾配コイル及びRFコイルを一般に含む通常のコイルを使用することができる。勾配コイルは、1つの方向に沿って磁界の線形バリエーションを生成することが可能であり、電流要求及び熱堆積を最小限にするために、高効率、低インダクタンス及び低抵抗を有する。マックスウェルコイルが、通常、z軸に沿って磁界の線形バリエーションを生成し、他の2つの軸においては、例えば、Golayコイルのようなサドルコイルが使用されることができる。核を励起するために使用されるラジオ周波数コイルは、表面コイル及びボリュームコイルを含むことができる。空間符号化の場合、MRIスキャナの勾配コイルサブシステムが、例えばフロー情報、拡散情報及び空間的なタグ付けのための磁化の変調のような、特化したコントラストの符号化する役割を果たす。拡散を生成するために使用される1又は複数の勾配コイルは、空間符号化のために使用されるものと別の1又は複数の勾配コイルである必要はない。拡散強調の程度は、主として、拡散勾配下の領域及び勾配間の間隔に依存する。他のファクタは、空間的ローカライゼーション勾配及びボクセル(すなわち3次元ピクセル)のサイズの効果を含む。
【0043】
検出器40は、一般に、信号を検出するためのコイル、増幅回路、及び核磁気共鳴信号をデジタル信号に変えるアナログ−デジタル変換器を有する。これは、一般に、例えば動き検出器50による更なる処理の前にフーリエ変換のためのプロセッサに送信される。最後に、MRI走査の画像はモニタに表示されることができ、又はスペクトロスコピーの場合、異なる周波数の応答プロファイルが表示されることができる。
【0044】
実施例のいくつかは、MRイメージング及びスペクトロスコピーの両方におけるディフェージング勾配の印加を、ターゲット造影剤と組み合わせることを含む。患者にtCAを投与したのち、特定のMRシーケンスが、tCAの結合していない割合からのMR信号を抑制するために印加される。DWIに基づく実施例のためのパルスシーケンスは、図2に示すようにエコーパルス周辺において付加の拡散勾配を使用する。静止スピンは、第1の勾配によってディフェーズされる。πパルスは、スピンの位相を反転させ、信号は、第2の勾配によってリフェーズされる。拡散勾配の方向において動かなかったスピンは、ディフェージング勾配と同じ強度を有するリフェージング勾配を経験する。従って、信号は、それが拡散勾配を印加せずに有するのと同じ強度を有する。勾配の向きと同じ物理的な方向に動いているスピンは、ディフェージング勾配とは異なる強度を有するリフェージング勾配を経験し、すなわち、スピンは、勾配のアイソセンタ又はゼロポイントに対して別の位置に動く。信号は、拡散勾配の結果として大幅に減少する。
【0045】
「静止スピンマップ」の場合、信号強度は、画像生成器によってそれぞれ異なる拡散方向を有するすべてのDW画像においてピクセルごとに解析され、ゼロに切り替えられる拡散勾配によって記録された画像、例えばベースライン画像、の信号強度と比較される。1又は複数の方向において信号強度の差がある場合、拡散は、異方性の成分を有し、ピクセルは、さまざまな画像の最低信号強度を割り当てられ、又はゼロにセットされる。拡散が、等方性であり、ベースライン値から閾値内にある場合、すなわち、信号への拡散の効果が、いかなる方向においても同じであり、スピンが静止している場合、所与のピクセルに関して、等方性の信号強度(√Sx・Sy・Sz)が表示され、又はベースライン画像の信号強度が表示される。
【0046】
図3は、実施例によるモニタリングの方法のステップの概要を示している。造影剤が、通常の態様で患者に投与されたものとする。ステップ100において、共鳴が、検出器によって検出される。共鳴のこの第1の検出に関するデータは、のちの比較のために、電子的に記憶される。ステップ105において、ディフェージングが実施され、そののちステップ110において位相の反転が行われ、更に、ステップ120において、スピンをリフェーズするために磁気勾配の別の印加が行われる。原則として、勾配は、逆転されることができ、反転は、同じ効果を達成するために除かれることができる。ステップ130において、共鳴の検出の第2のデータ取得が実施される。第2のデータは、電子的に記憶されることができる。共鳴の検出に関する第2のデータは、上述の通りに造影剤tCAの動きを検出するために、第1の測定された共鳴と比較される。ステップ140において、これは、例えばx、y及びz方向のような異なる方向について繰り返される。ステップ150において、さまざまな異なる方向における動きが、等方性の動きを検出するために比較される。上述したように、これらのステップは、信号強度が、画像生成器によってそれぞれ異なる拡散方向に関してピクセル毎に解析され、例えばベースライン画像のようなゼロに切り替えられる拡散勾配によって記録される画像の信号強度と比較されるように、実行される。1又は複数の方向において信号強度の差がある場合、拡散は、異方性の成分を有し、ピクセルは、さまざまな画像の最低信号強度を割り当てられ、又はゼロにセットされる。拡散が、等方性であり、ベースライン値から閾値内にある場合、すなわち、信号への拡散の効果が、いかなる方向においても同じあり、スピンが静止している場合、所与のピクセルに関して、等方性の信号強度(√Sx・Sy・Sz)が表示され、又はベースライン画像の信号強度が表示される。
【0047】
これはすべて、ステップ160において、ターゲットのそれぞれ異なるボクセルについて繰り返される。最後に、ステップ170において、画像は、異方性の動き(結合していないtCAを示す)を有することが見つけられたボクセルのディエンファシスによって形成される。
【0048】
ステップは、他の順序で実施されてもよく、例えばステップ100乃至120は、動きを検出し、等方性の動きを検出するための任意の処理の前に、それぞれ異なる方向及び異なるボクセルについて繰り返されることができる。ベースライン画像との比較は、静止の等方性の値を示す。画像が、形成されることができ、例えばのちの画像と比較されることができる。複数の検出サイクルの平均化が、使用されることができる。異なる勾配持続時間及び振幅(b値)による2又はそれ以上の画像が、使用されることができる。勾配及び閾値が、使用されている造影剤の動き又は拡散の予想されるレートに従ってセットされることができる。T1強調パルスシーケンスは、拡散感受性を有し、従って原則として拡散勾配なしで使用されることができるが、スピンエコーパルスシーケンスにおいて180°リフォーカシングRFパルスの両側に配される2つの強い対称の勾配ローブを有する定量的な拡散パルスシーケンスが、好ましい。これらの対称の勾配ローブは、スピンのディフェージングを高め、それによって、ボクセル内の動きの信号損失を加速する。ディフェージングは、勾配がオンにされる時間(拡散時間)及び印加される勾配磁界の強度の二乗に比例する。従って、より高速であり且つより高い感受性を有するシーケンスを伴う磁界勾配システムの使用は、拡散強調をより有用にすることができる。
【0049】
実施例は、或るタイプのターゲット造影剤(tCA)が使用される場合に使用されることができる。診断の目的で、医師は、結合しているtCAにのみ関心があることが多い。本発明の実施例は、tCAの安定性が、結合していないtCAのウォッシュアウトを待つことを許さない場合、又は特定の量の結合していないtCAの存在が、tCAの一部を結合したままに保つために必要である場合のいずれにおいても特に有用でありうる。
【0050】
上述したように、方法又は装置は、ターゲット上の複数の位置でモニタリングを行い、モニタリングの結果を使用して、結合している造影剤の画像を形成することを含む。方法又は装置は、造影剤のスピンをディフェーズするために第1の方向において磁界勾配を印加し、スピンをリフェーズし、リフェージング後の共鳴をディフェージング前の共鳴と比較して、第1の方向における動きを決定することを含む。ディフェージング及びリフェージングは、他の方向における動きを検出するために、他の方向において繰り返されることができる。造影剤の結合している部分を識別することは、方向のいずれかにおける動きが閾値より小さいかどうかを決定することを含むことができる。リフェージングは、スピンの位相を反転して、磁界勾配の印加を繰り返すことを含むことができる。静止スピンマップは、各位置ごとにすべての方向における動きを比較し、動きの差が所与の閾値より小さい場合、動きは当該位置について等方性であると決定することによって形成されることができる。これらの等方性のボクセルの信号強度が、ベースライン画像における信号強度の所与の閾値内にある場合、静止スピンが表示される。
【0051】
他のバリエーション及び利点が、請求項の範囲内で考えられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】一実施例による磁気共鳴モニタリングシステムのフィーチャのいくつかの概略図。
【図2】一実施例による磁石コントローラによって制御されるRFパルス及び勾配の時間シーケンスを示す図。
【図3】一実施例によるモニタリングの方法のフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェクトの磁気共鳴モニタリングによって得られる造影剤の検出された磁気共鳴に関連するデータを処理する方法であって、
前記オブジェクトに対する前記造影剤の動きに感受性を有する磁気共鳴信号を検出するために磁気共鳴をモニタリングするステップを含む方法。
【請求項2】
前記造影剤は、ターゲット造影剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出された磁気共鳴信号から、前記オブジェクトに対して動いている造影剤を決定するステップと、
前記決定から、前記オブジェクトに結合している前記造影剤の部分を、前記造影剤の残りのものから識別するステップと、
を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁気共鳴をモニタリングする前記ステップは、前記オブジェクト上の複数の位置において実施され、
前記方法が、前記モニタリングの結果を使用して、前記結合している造影剤の画像のうち異方性の動きを有することが見つけられた部分のディエンファシスによって前記結合している造影剤の前記画像を形成するステップを含む、請求項1乃至請求項3のいずか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出された磁気共鳴は、第1の方向において磁場勾配を印加して、前記造影剤のスピンをディフェーズすることによって得られる、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出された磁気共鳴は、前記スピンをリフェーズすることによって得られ、
前記方法が、前記造影剤の前記第1の方向における動きを決定するために、リフェージング後の共鳴をディフェージング前の共鳴と比較するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記検出された磁気共鳴は、他の方向において前記ディフェーズするステップ及び前記リフェーズするステップを繰り返すことによって得られ、
前記方法が、前記他の方向において前記造影剤の動きを検出するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記造影剤の前記結合している部分を識別することは、前記方向のいずれかにおける動きが閾値より小さいかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
各位置ごとにすべての方向おける前記動きを比較し、前記動きの差が所与の閾値より小さい場合、前記動きが当該位置について等方性であると決定することによって、等方性の動きを評価するステップを更に含む、請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記等方性の動きが解析され、信号減少が所与の閾値内にある場合、前記動きは、当該位置について静止している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リフェーズするステップは、前記スピンの位相を反転させ、前記磁気勾配の印加を繰り返すことを含む、請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記造影剤がユニークなMR署名を有し、又は水と比較してユニークな化学シフトのプロトン信号を有する、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記造影剤がフッ素を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
オブジェクト内の造影剤の磁気共鳴を検出する検出器を有する磁気共鳴モニタリング装置であって、
ターゲット造影剤の動きに感受性を有する磁気共鳴信号を検出するために、磁気共鳴をモニタリングする手段と、
前記検出された磁気共鳴を使用して、前記オブジェクトに対する前記造影剤の動きを決定する検出器と、
前記検出された動きを使用して、前記オブジェクトに結合している前記造影剤の部分を前記造影剤の残りのものから識別する識別器と、
を有する装置。
【請求項15】
前記造影剤は、ターゲット造影剤であり、前記識別器は、それ自身を前記ターゲットに結合する前記造影剤の部分を、前記造影剤の残りのものから識別するように構成される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記装置は、身体上の複数の位置をモニタリングするように構成され、前記モニタリングの結果を使用して、前記結合している造影剤の画像を形成する画像生成器を有する、請求項14又は請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記造影剤のスピンをディフェーズするために第1の方向において磁気勾配を印加する磁石コントローラを有する、請求項14乃至請求項16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記磁石コントローラは、前記第1の方向における動きを決定するために、前記スピンをディフェーズし、それからリフェーズするように構成される、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記磁石コントローラは、他の方向における動きの検出を可能にするために、他の方向において前記ディフェーズ及び前記リフェーズを繰り返す、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記識別器は、前記方向のいずれかにおける動きが閾値より小さいかどうか決定するように構成される、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記識別器は、各位置ごとに、すべての方向における前記動きを比較して、前記動きが、当該位置について等方性であり、前記等方性の動きの信号損失が、所与の閾値を越えないことを決定するように構成される比較器を有し、前記画像生成器は、前記識別器の出力から静止スピンのマップを形成するように構成される、請求項15に従属する請求項19に記載の装置。
【請求項22】
静止スピンマップを生成するようにオブジェクト内の造影剤の検出された磁気共鳴を処理する方法であって、
前記検出された磁気共鳴を使用して、複数の方向における前記オブジェクトに対する前記造影剤の動きを決定するステップと、
前記異なる方向における前記動きを比較するステップと、
前記動きが当該位置について等方性であることを決定するために、前記動きの差が所与の閾値より小さいかどうか決定するステップと、
複数の位置について等方性の動きを決定することによって、前記静止スピンマップを形成するステップと、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−517118(P2009−517118A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541882(P2008−541882)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054383
【国際公開番号】WO2007/063454
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】