説明

磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法

【課題】高速な撮像を実現可能にすると共に、スピンの角周波数に対する感度を向上して被検体の特性データを高精度に取得する。
【解決手段】繰り返し時間TRと、撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって式(1)で規定されるフリップアングルαの高周波磁場を、被検体のスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような短い時間のTRで印加する。そして、スライス選択方向Gsと位相エンコード方向Gpと周波数エンコード方向Grとのそれぞれの勾配磁場における時間積分値がTR内においてゼロになるように勾配磁場のそれぞれを印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置は、医療用途、産業用途などさまざまな分野において利用されている。
【0003】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場に置かれた被検体のスピンを核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)現象によって励起させ、その励起に伴って発生する磁気共鳴(MR)信号に基づいて断層画像を生成する。
【0004】
近年、磁気共鳴イメージング装置においては、ハードウェアの進歩に伴い、高度な撮像方法が開発されている。特に、勾配磁場の形成技術の向上が著しく、繰り返し時間(TR:Time of Repetition)の短縮化が可能となっている。このことを活用した撮像方法として、コヒーレントSSFP(Steady State Free Precession)法が知られている。コヒーレントSSFP法は、True FISP,Balanced SSFP,FIESTAなどの名称の撮像方法として利用されている。(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許2898329号公報
【特許文献2】特開2001−29327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コヒーレントSSFP法は、たとえば、RF(Radio Frequency)パルスを横緩和時間T2よりも短いTRで印加し、被検体のスピンの磁気モーメントにおける横磁化と縦磁化との両者を定常状態とする。ここでは、高い強度のMR信号を得るために、フリップアングルの絶対値が10〜80°になるようにRFパルスが印加される。そして、コヒーレントSSFP法においては、スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向との3方向の勾配磁場における時間積分値のそれぞれがTRの間でゼロになるように、各方向の勾配磁場の全てにリワインダー勾配磁場を印加して横磁化のコヒーレンスを調整し、FID(Free Induction Decay)信号とエコー信号との両者をMR信号として同時に受信する。
【0006】
一般に、磁気共鳴イメージングにおいてTRを短縮化した場合においては、縦磁化の緩和が不十分になって信号強度が低下する。しかし、コヒーレントSSFP法においては、横磁化のコヒーレンスを取り除くためのスポイラー勾配磁場を用いずに、横磁化をリワインドして横磁化のコヒーレンスを利用するように、フリップアングルと、緩和による回復角度と、プリセッションアングルとが釣り合った定常状態にて、MR信号を受信する。このため、コヒーレントSSFP法は、磁気モーメントの大きさが保持されると共に、定常状態において連続的に印加するRFパルスの中間の時点であるエコー時間(TE:echo time)にて横磁化の位相が揃い、MR信号の信号強度を増加することができる。このように、コヒーレントSSFP法は、短いTRによって高速な撮像が実現可能であると共に、横磁化のコヒーレンスを利用してMR信号を収集して高いS/N比のデータを取得することができるため、重用されている。
【0007】
しかしながら、従来において、高速な撮像を実現するためにコヒーレントSSFP法を適用した場合には、スピンの角周波数に対する感度が十分でないために、被検体の画像などの特性データを高精度に取得することが困難な場合があった。特に、被検体のスペクトルデータ、勾配磁場均一化のための補正データなどの測定を実施する場合においては、このような不具合が顕在化する場合があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高速な撮像を実現可能にすると共に、スピンの角周波数に対する感度を向上して被検体の特性データを高精度に取得可能な磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の達成のために本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、静磁場内の被検体の撮影領域におけるスピンを励起する高周波磁場を、前記撮影領域のおけるスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような繰り返し時間で印加する高周波磁場印加手段と、スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場を、それぞれの時間積分値が前記繰り返し時間内においてゼロになるように前記撮影領域に印加する勾配磁場印加手段と、前記高周波磁場印加手段による前記高周波磁場と前記勾配磁場印加手段による前記勾配磁場とが印加された前記撮影領域からの磁気共鳴信号に基づいて前記撮影領域の特性データを生成するデータ生成手段とを有し、前記高周波磁場印加手段は、前記繰り返し時間TRと、前記撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって、下記式(1)で規定されるフリップアングルαになるように前記高周波磁場を印加する。
【0010】
【数1】

【0011】
上記目的の達成のために本発明に係る磁気共鳴イメージング方法は、静磁場内の被検体の撮影領域におけるスピンを励起する高周波磁場を、前記撮影領域のおけるスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような繰り返し時間で印加する高周波磁場印加工程と、スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場を、それぞれの時間積分値が前記繰り返し時間内においてゼロになるように前記撮影領域に印加する勾配磁場印加工程と、前記高周波磁場印加手段による前記高周波磁場と前記勾配磁場印加手段による前記勾配磁場とが印加された前記撮影領域からの磁気共鳴信号に基づいて前記撮影領域の特性データを生成するデータ生成工程とを有し、前記高周波磁場印加工程においては、前記繰り返し時間TRと、前記撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって、下記式(1)で規定されるフリップアングルαになるように前記高周波磁場を印加する。
【0012】
【数2】

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速な撮像を実現可能にすると共に、スピンの角周波数に対する感度を向上して被検体の特性データを高精度に取得可能な磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下より、本発明にかかる実施形態の一例について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置の構成を示す構成図である。
【0016】
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置は、静磁場マグネット部12と、勾配コイル部13と、RFコイル部14と、RF駆動部22と、勾配駆動部23と、データ収集部24と、制御部25と、クレードル26と、データ処理部31と、操作部32と、表示部33とを有する。
【0017】
以下より、各構成要素について、順次、説明する。
【0018】
静磁場マグネット部12は、被検体40を収容し撮影が実施される撮影空間11に静磁場を形成する。静磁場マグネット部12は、たとえば、撮影空間11を挟むように配置されている一対の永久磁石を有し、被検体40の体軸方向に対して垂直な方向に静磁場を形成する。なお、超伝導磁石を用いて構成されていてもよい。
【0019】
勾配コイル部13は、静磁場マグネット部12により静磁場が形成された撮影空間11内の被検体40に勾配磁場を印加し、RFコイル部14が受信するMR信号に空間的な位置情報を付加する。勾配コイル部13は、3系統で構成されており、スライス選択方向Gsと、位相エンコード方向Gpと、周波数エンコード方向Grとの3方向に勾配を持った勾配磁場を印加する。勾配コイル部13は、RFコイル部14により高周波磁場が印加された被検体40のスライス位置を選択するように勾配磁場をスライス選択方向に印加する。つまり、勾配コイル部13は、スライス位置に応じて被検体40のスピンが異なる共鳴周波数になるようにスライス選択方向Gsに勾配磁場を印加して、被検体40のスライス位置を選択可能にする。そして、勾配コイル部13は、その選択されたスライス位置からのMR信号に対して位相エンコードと周波数エンコードとを施すように、位相エンコード方向Gpと周波数エンコード方向Grとのそれぞれに勾配磁場を印加する。また、ここでは、勾配コイル部13は、RFコイル部14がRFパルスを繰り返し送信する際の時間間隔であるTR内において、スライス選択方向Gsと位相エンコード方向Gpと周波数エンコード方向Grとのそれぞれの勾配磁場の時間積分値がゼロになるように被検体40に印加し、各方向の勾配磁場をTRごとにリセットする。
【0020】
RFコイル部14は、被検体40の撮影領域に配置されており、送信用と受信用とを兼用するように構成されている。RFコイル部14は、静磁場マグネット部12により静磁場が形成される撮影空間11内において、電磁波であるRFパルスを被検体40に送信することによって高周波磁場を被検体40に印加し、被検体40内のプロトンのスピンを励起する。ここでは、RFコイル部14は、被検体40のスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるようなTRで高周波磁場を印加する。そして、本実施形態においては、RFコイル部14は、繰り返し時間TRと、被検体の撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって、以下の式(1)で規定されるフリップアングルαになるように、高周波磁場を印加する。
【0021】
【数3】

【0022】
たとえば、被検体の撮影領域におけるスピンにおいて、縦緩和時間T1が315msec、横緩和時間T2が270msec、そして、RFパルスを印加する繰り返し時間TRが6msecである場合には、上記の式(1)により、フリップアングルαが、0.021ラジアン、すなわち、1.2°になるように高周波磁場を印加する。つまり、人体などの生体における縦緩和時間T1および横緩和時間T2と、そして、定常状態となる繰り返し時間TRとを鑑みて、上記の式(1)によりフリップアングルが0.1°以上3.0°以下の絶対値になるように高周波磁場を印加する。そして、その他に、RFコイル部14は、その励起された被検体40内のプロトンから発生する電磁波をMR信号として受信する。なお、RFコイル部14は、本実施形態において送信用と受信用とを兼用しているが、送信用コイルと受信用コイルとを独立して設けてもよい。
【0023】
RF駆動部22は、ゲート変調器(図示なし)とRF電力増幅器(図示なし)とRF発振器(図示なし)とを有し、RFコイル部14を駆動し撮影空間11内に高周波磁場を形成させる。RF駆動部22は、制御部25からの制御信号に基づいて、RF発振器からの信号を、ゲート変調器を用いて所定のタイミングおよび所定の包絡線の信号に変調する。そして、ゲート変調器により変調された信号をRF電力増幅器により増幅した後、RFコイル部14に出力する。
【0024】
勾配駆動部23は、制御部25からの制御信号に基づいて勾配コイル部13を駆動させ、静磁場が形成されている撮影空間11内の被検体40に勾配磁場を印加させる。勾配駆動部23は、勾配コイル部13の3系統の勾配コイルに対応して3系統の駆動回路(図示なし)を有する。
【0025】
データ収集部24は、位相検波器(図示なし)とアナログ/デジタル変換器(図示なし)とを有し、制御部25からの制御信号に基づいて、RFコイル部14が受信するMR信号を収集する。位相検波器は、RFコイル部14が受信するMR信号を、RF駆動部22のRF発振器の出力を参照信号として位相検波し、アナログ/デジタル変換器に出力する。そして、位相検波器から出力されるアナログ信号のMR信号を、アナログ/デジタル変換器がデジタル信号に変換してデータ処理部31に出力する。
【0026】
制御部25は、コンピュータと、そのコンピュータを機能させるプログラムなどにより構成されており、操作部32からデータ処理部31を介して入力される操作信号に基づいて、各部にそれぞれ制御信号を出力して制御を行う。
【0027】
図2は、制御部25の構成を示す図である。
【0028】
図2に示すように、制御部25は、RF制御部251と勾配制御部252とデータ収集制御部253とを有する。各部は、コンピュータに各部の機能を実現させるためのプログラムとして構成されている。制御部25は、オペレータにより操作部32に入力されたパルスシーケンスに基づく操作信号が、操作部32からデータ処理部31を介して入力される。そして、制御部25は、その操作信号に基づいて、RF制御部251と勾配制御部252とデータ収集制御部253とのそれぞれが、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに制御信号を出力し、被検体40に高周波磁場と勾配磁場とを印加して、その被検体40から発生するMR信号を収集するように制御する。本実施形態においては、コヒーレントSSFP法によるパルスシーケンスに基づいて、RF制御部251と勾配制御部252とデータ収集制御部253とのそれぞれは、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに制御信号を出力する。
【0029】
RF制御部251は、RF駆動部22に制御信号を送信してRFコイル部14の駆動を制御し、被検体40のスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるようなTRにて、RFパルスRFを繰り返し送信させて、被検体40に高周波磁場を印加する。そして、本実施形態においては、RF制御部251は、前述の式(1)で規定されるフリップアングルαの高周波磁場をRFコイル部14が印加するように制御する。ここでは、被検体の撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2と、繰り返し時間TRとのデータとを、オペレータが操作部32に入力する。そして、その被検体の撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2と、繰り返し時間TRとの入力データを、操作部32からRF制御部251が受け、上記の式(1)で規定されるフリップアングルαを乗除算器で算出する。そして、その算出したフリップアングルαで高周波磁場を印加するように、RFコイル部14に制御信号を送信して制御する。
【0030】
勾配制御部252は、勾配駆動部23に制御信号を送信して勾配コイル部13を駆動させる。ここでは、勾配制御部252は、RFコイル部14がRFパルスを繰り返し送信する際の時間間隔であるTR内において、スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場の時間積分値がゼロになるように勾配コイル部13を制御して、各方向の勾配磁場を被検体40に印加する。
【0031】
データ収集制御部253は、RFコイル部14が受信するMR信号を収集後、データ処理部31に出力するようにデータ収集部24を制御する。
【0032】
クレードル26は、被検体40を載置する台であり、クレードル駆動部(図示なし)によって、撮影空間11の内部と外部との間を移動し、被検体40を撮影空間11へ搬入する。
【0033】
データ処理部31は、コンピュータにより構成されている。データ処理部31は、操作部32に接続されており、操作部32からの操作信号が入力される。また、データ処理部31は、制御部25に接続されており、オペレータによって操作部32に入力される操作信号を制御部25に出力する。また、データ処理部31は、特性データ生成部331を有する。
【0034】
特性データ生成部331は、高周波磁場と勾配磁場とが印加された被検体40からのMR信号に基づいて、被検体40の特性データを生成する。特性データ生成部331は、データ収集部24に接続されており、データ収集部24が収集し出力するMR信号を取得する。そして、特性データ生成部331は、その取得したMR信号に対してフーリエ変換処理を実施して、被検体40の画像を特性データとして生成する。そして、データ処理部31は、特性データ生成部331が生成した特性データを表示部33に出力する。
【0035】
操作部32は、キーボードやマウスなどの操作デバイスにより構成されている。操作部32は、オペレータによって操作され、その操作に応じた操作信号をデータ処理部31に出力する。操作部32は、たとえば、パルスシーケンスの設定項目などのスキャン条件がオペレータによって入力される。
【0036】
表示部33は、グラフィックディスプレイなどの表示デバイスにより構成されている。表示部33は、被検体40からのMR信号に基づいて生成される被検体40の特性データを表示する。たとえば、表示部33は、被検体40のスペクトルに関する特性データをデータ処理部31から取得し、被検体40のスペクトルを示す画像を表示する。
【0037】
なお、上記の本実施形態の勾配コイル部13と勾配駆動部23と勾配制御部252とは、本発明の勾配磁場印加手段に相当する。また、本実施形態のRFコイル部14とRF駆動部22とRF制御部251とは、本発明の高周波磁場印加手段に相当する。また、本実施形態のデータ生成部331は、本発明のデータ生成手段に相当する。
【0038】
以下より、上記の本実施形態の磁気共鳴イメージング装置を用いて被検体の断層画像の撮影をする磁気共鳴イメージング方法について説明する。
【0039】
始めに、被検体40をクレードル26に載置後、被検体40の撮影領域にRFコイル部14を設置する。そして、オペレータにより操作部32に入力される撮影条件に基づいて、操作部32が操作信号を制御部25にデータ処理部31を介して出力する。ここでは、被検体の撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2,そして、繰り返し時間TR,エコー時間TEなどのスキャン条件がオペレータにより設定される。
【0040】
そして、操作部32に入力されたスキャン条件に基づいて、静磁場が形成されている撮影空間11内に被検体40が載置されているクレードル26を移動して被検体40を撮影空間11の内部に搬入するように、制御部25が制御する。
【0041】
そして、その操作信号に基づいて、RF制御部251と勾配制御部252とデータ収集制御部253とのそれぞれが、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに制御信号を出力し、被検体40に高周波磁場と勾配磁場とを印加して、その被検体40から発生するMR信号を収集するように制御部25が制御する。本実施形態では、コヒーレントSSFP法において前述の式(1)で規定されるフリップアングルの高周波磁場を所定のTRで繰り返し印加するパルスシーケンスを実施するように、RF制御部251と勾配制御部252とデータ収集制御部253とのそれぞれが、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに制御信号を出力する。ここでは、たとえば、縦緩和時間T1が315msec、横緩和時間T2が270msecの撮影領域を、繰り返し時間TRが6msec,フリップアングルαが1.2°になるように高周波磁場を印加して、スキャンする。
【0042】
図3は、制御部25が各部を制御するためのパルスシーケンス図である。図3においては、高周波磁場RFと、スライス選択方向の勾配磁場Gsと、位相エンコード方向の勾配磁場Gpと、周波数エンコード方向の勾配磁場Grとを示しており、縦軸が磁場強度を示し、横軸が時間を示している。
【0043】
まず、図3に示すように、正のフリップアングルのRFパルスRFによる高周波磁場の印加を、RFコイル部14が行う。たとえば、フリップアングルαが、前述の式(1)で規定される1.2°になるように高周波磁場を印加する。そして、この時、被検体40のスライスを選択する第1スライス選択方向勾配磁場Gsを勾配コイル部13が被検体40のスライス選択方向Gsに印加する。これによってNMR現象が起こり、選択された被検体40のスライスにおけるプロトンのスピンが励起されてMR信号が発生する。
【0044】
つぎに、スライス選択方向Gsに勾配がある第2スライス選択方向勾配磁場Gsを勾配コイル部13が印加する。ここでは、第2スライス選択方向勾配磁場Gsは、後述する第3スライス選択方向勾配磁場Gsと同じ時間積分値であり、第1スライス選択方向勾配磁場Gsの時間積分値の絶対値の半分になるように設定される。これにより、第1スライス選択方向勾配磁場Gsが印加され分散された被検体40のスピンの位相が同位相になるように補正される。
【0045】
そして、第2スライス選択方向勾配磁場Gsが印加される際においては、位相エンコード方向Gpに勾配がある第1位相エンコード方向勾配磁場Gpを勾配コイル部13が印加すると共に、周波数エンコード方向Grに勾配がある第1周波数エンコード方向勾配磁場Grを勾配コイル部13が印加する。ここでは、第1位相エンコード方向勾配磁場Gpは、位相エンコードステップに対応する磁場強度で印加され、MR信号を位相エンコード方向にエンコードする。そして、第1周波数エンコード方向勾配磁場Grは、後述する第2周波数エンコード方向勾配磁場Grの時間積分値の絶対値に対して半分の時間積分値であって逆極性の勾配磁場として印加され、読み出し時間TS前にスピンの位相を分散し、エコー時間TEにてスピンが同位相になるように調整する。
【0046】
つぎに、第2周波数エンコード方向勾配磁場Grを勾配コイル部13が印加する。第2周波数エンコード方向勾配磁場Grは、周波数エンコード方向Grに勾配を備えるように読み出し時間TSに印加され、MR信号を周波数エンコード方向にエンコードする。
【0047】
そして、第2周波数エンコード方向勾配磁場Grが印加される際には、制御部25のデータ収集制御部253がデータ収集部24に制御信号を送信し、RFコイル部14が受信するMR信号を、データ収集部24が収集する。ここでは、オペレータによって操作部32に入力された周波数エンコードステップ数に対応するようなサンプリング間隔で、データ収集部24がMR信号を収集する。そして、その収集したMR信号をデータ収集部24がデータ処理部31に出力する。なお、データ収集制御部253は、TR毎にRFパルスが交互に繰り返し送信されて被検体40のスピンが定常状態に至るまでの間においてはMR信号を収集せずに、定常状態に到達後にMR信号を収集するように、データ収集部24を制御する。
【0048】
つぎに、読み出し時間TSの後に、第1スライス選択方向勾配磁場Gsと第2スライス選択方向勾配磁場Gsとをキャンセルするように、勾配コイル部13が第3スライス選択方向勾配磁場Gsを印加する。ここでは、前述の第2スライス選択方向勾配磁場Gsと同じ時間積分値であって、第1スライス選択方向勾配磁場Gsの時間積分値の絶対値の半分の時間積分値になるように、第3スライス選択方向勾配磁場Gsが印加される。つまり、第3スライス選択方向勾配磁場Gsは、リワインダー勾配磁場であり、第1スライス方向勾配磁場Gsを印加する前の状態にスライス選択方向Gsにおける勾配磁場をリワインドしてリセットする。
【0049】
また、第3スライス選択方向勾配磁場Gsを印加する際においては、勾配コイル部13が第2位相エンコード方向勾配磁場Gpを印加すると共に、第3周波数エンコード方向勾配磁場Grを印加する。第2位相エンコード方向勾配磁場Gpは、第3スライス選択方向勾配磁場Gsと同様にリワインダー勾配磁場であり、第1位相エンコード方向勾配磁場Gpをキャンセルするように、位相エンコード方向Gpに印加される。ここでは、第1位相エンコード方向勾配磁場Gpをと同じ時間積分値であって逆極性となるように、勾配コイル部13が第2位相エンコード方向勾配磁場Gpを位相エンコード方向Gpに印加し、第1位相エンコード方向勾配磁場Gpを印加する前の状態になるように位相エンコード方向Gpにおける勾配磁場をリワインドしてリセットする。第3周波数エンコード方向勾配磁場Grも同様に、リワインダー勾配磁場であり、第1周波数エンコード方向勾配磁場Grと第2周波数エンコード方向勾配磁場Grとをキャンセルするように、周波数エンコード方向Grに印加される。ここでは、前述の第1周波数エンコード方向勾配磁場Grと同じ時間積分値であって、第2周波数エンコード方向勾配磁場Grの時間積分値の絶対値の半分の時間積分値になるように、第3周波数エンコード方向勾配磁場Grが印加され、第1周波数エンコード方向勾配磁場Grを印加する前の状態になるように周波数エンコード方向Grにおける勾配磁場をリワインドしてリセットする。
【0050】
つぎに、RFパルスRFの印加からTR経過後に、再度、同様なフリップアングルαのRFパルスRFの印加を行う。ここでは、TRごとに印加する各RFパルスの間での位相の変化であるRF位相増分角(RF phase increment)を、0°になるように設定して、RFパルスRFの印加が実施される。その後、位相エンコード方向Gpの勾配磁場を位相エンコードステップに対応するように変えて、上記に同様なパルスシーケンスを実施する。このようにして、位相エンコードステップに対応させて上記のパルスシーケンスをTRごとに繰り返し、MR信号を収集してk空間を埋める。
【0051】
そして、データ収集部24が収集したMR信号がデータ処理部31のデータ生成部331に出力され、データ生成部331がそのMR信号に対してフーリエ変換処理を施し、被検体40の画像を特性データとして生成する。データ生成部331は、その生成した特性データを表示部33に出力し、データ生成部331が生成した特性データを表示部33が表示する。
【0052】
以上のように、本実施形態は、前述の式(1)で規定されるフリップアングルαの高周波磁場を、被検体40のスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような短い時間のTRで印加する。そして、被検体40のスライス位置を選択するためにスライス選択方向に勾配磁場をTRごとに印加し、その被検体40からのMR信号に対して周波数エンコードと位相エンコードとを施すために周波数エンコード方向と位相エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場をTRごとに印加する。そして、ここでは、スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場における時間積分値が、TR内においてゼロになるように勾配磁場のそれぞれを被検体40に印加している。つまり、本実施形態は、コヒーレントSSFP法において、前述の式(1)で規定される高周波磁場をTRごとに被検体40に印加してMR信号を取得し、被検体40の特性データを生成する。ここでは、生体における縦緩和時間T1および横緩和時間T2と、そして、定常状態となる繰り返し時間TRとを鑑みて、上記の式(1)により、フリップアングルが0.1°以上3.0°以下の絶対値になるように高周波磁場を印加する。
【0053】
図4は、コヒーレントSSFP法における信号強度Iと、TR内でのフリープリセッションアングル(free precession angle)Φ(°)との関係を、フリップアングルα(°)に対応させて示す図である。図4においては、正味磁化Mを1.0とした場合における各フリップアングルでの信号強度Iを縦軸とし、TR内でのプリセッションアングルΦを横軸に示している。図4では、30°,10°,1.2°の3つのフリップアングルαで実施した結果について示している。
【0054】
図4に示すように、フリップアングルαが前述の式(1)で規定した1.2°の場合には、式(1)で規定していない他の30°,10°のフリップアングルの場合と異なって、スピン角周波数が共鳴周波数と一致した時にMR信号を発生しており、スピンの角周波数に対する感度が高くなっている。このような結果は、コヒーレントSSFP法にて、フリップアングルαが式(1)で規定される場合に同様に得られる。なお、この式(1)は、コヒーレントSSFP法の原理および種々の実験結果に基づいて、さまざまな近似が行われて導かれている。
【0055】
このように本実施形態は、コヒーレントSSFP法におけるフリップアングルを前述のような式(1)で規定しているために、緩和による磁化ベクトルの回復角度がフリップアングルに近づき、共鳴周波数およびその共鳴周波数から1/TRの整数倍異なる周波数のスピンのように、プリセッションアングルが小さいスピンを選択的に励起する。このため、本実施形態は、スピンの角周波数に対する感度を向上することができる。したがって、本実施形態は、スピンの角周波数に対する感度が高くなって、被検体の特性データを高精度に取得することができると共に、高速な撮像を実現することができる。
【0056】
なお、本発明の実施に際しては、上記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形形態を採用することができる。
【0057】
たとえば、上記実施形態の他、勾配磁場均一化のための補正データなどの測定に好適に適用することができる。
【0058】
また、上記の実施形態においては、RF位相増分角を0°に設定し、正のフリップアングルの高周波磁場の印加を繰り返す場合について示したが、たとえば、RF位相増分角が180°になるように調整し、正負のフリップアングルで交互に高周波磁場を印加するようにスキャンを実施してもよい。その他に、RF位相増分角が0°と180°以外になるように調整してスキャンを実施し、図4に示すようなMR信号のピーク位置をフリープリセッションアングルに対してシフトさせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明にかかる実施形態の磁気共鳴イメージング装置の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明にかかる実施形態の磁気共鳴イメージング装置における制御部の構成を示す図である。
【図3】図3は、本発明にかかる実施形態の磁気共鳴イメージング装置における制御部が制御するためのパルスシーケンス図である。
【図4】図4は、コヒーレントSSFP法における信号強度Iと、TR内でのフリープリセッションアングルΦとの関係を、フリップアングルαに対応させて示す図である。
【符号の説明】
【0060】
11:撮影空間、
12:静磁場マグネット部、
13:勾配コイル部、
14:RFコイル部、
22:RF駆動部、
23:勾配駆動部、
24:データ収集部、
25:制御部、
26:クレードル、
31:データ処理部、
32:操作部、
33:表示部、
251:RF制御部、
252:勾配制御部、
253:データ収集制御部、
331:データ生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場内の被検体の撮影領域におけるスピンを励起する高周波磁場を、前記撮影領域のおけるスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような繰り返し時間で印加する高周波磁場印加手段と、
スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場を、それぞれの時間積分値が前記繰り返し時間内においてゼロになるように前記撮影領域に印加する勾配磁場印加手段と、
前記高周波磁場印加手段による前記高周波磁場と前記勾配磁場印加手段による前記勾配磁場とが印加された前記撮影領域からの磁気共鳴信号に基づいて前記撮影領域の特性データを生成するデータ生成手段と
を有し、
前記高周波磁場印加手段は、前記繰り返し時間TRと、前記撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって、下記式(1)で規定されるフリップアングルαになるように前記高周波磁場を印加する
磁気共鳴イメージング装置。
【数1】

【請求項2】
静磁場内の被検体の撮影領域におけるスピンを励起する高周波磁場を、前記撮影領域のおけるスピンの横磁化と縦磁化との両者が定常状態になるような繰り返し時間で印加する高周波磁場印加工程と、
スライス選択方向と位相エンコード方向と周波数エンコード方向とのそれぞれの勾配磁場を、それぞれの時間積分値が前記繰り返し時間内においてゼロになるように前記撮影領域に印加する勾配磁場印加工程と、
前記高周波磁場印加手段による前記高周波磁場と前記勾配磁場印加手段による前記勾配磁場とが印加された前記撮影領域からの磁気共鳴信号に基づいて前記撮影領域の特性データを生成するデータ生成工程と
を有し、
前記高周波磁場印加工程においては、前記繰り返し時間TRと、前記撮影領域におけるスピンの縦緩和時間T1および横緩和時間T2とによって、下記式(1)で規定されるフリップアングルαになるように前記高周波磁場を印加する
磁気共鳴イメージング方法。
【数2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−223630(P2006−223630A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42032(P2005−42032)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】