磁気共鳴イメージング装置
【課題】内部空間が大きく、冷却能力に優れた傾斜磁場コイルを備えたMRI装置を提供する。
【解決手段】傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体12と、冷却管10とを備える。筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備えている。冷却管10は、筒状の導体の外周領域であって、筒状の導体の内径の長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅2Tの領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されている。これにより、内径が楕円形状等、扁平な形状の傾斜磁場コイルであっても、効率よく冷却することができる。
【解決手段】傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体12と、冷却管10とを備える。筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備えている。冷却管10は、筒状の導体の外周領域であって、筒状の導体の内径の長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅2Tの領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されている。これにより、内径が楕円形状等、扁平な形状の傾斜磁場コイルであっても、効率よく冷却することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIと称す)装置に係わり、特に、高強度の傾斜磁場を発生させ、かつ開放性を高めた傾斜磁場コイルを備える磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒型の磁場発生装置を用いるMRI装置では、被検者の入る空間を最大限に確保し、閉塞感を和らげるために、傾斜磁場コイルの内径を大きくすることが望まれている。
【0003】
特許文献1には、傾斜磁場コイルの内径を楕円形状にして、水平方向の内径を広くしたMRI装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、円筒形の静磁場発生コイルの内側に、上下方向に分割され側方が開放された傾斜磁場コイルを配置した装置が開示されている。これにより、被検者が配置される空間の径は、水平方向が高さ方向よりも大きな楕円形状になっている。また、傾斜磁場コイルをアクティブシールド構造とし、傾斜磁場コイルと、そのシールドコイルと、冷却チャンネルを配置した構成も開示されている。
【0005】
特許文献3には、傾斜磁場コイルの導体に中空領域を設けて、冷媒を流すことにより、冷却用導管を兼用した傾斜磁場コイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-327478号公報
【特許文献2】特開平10-179552号公報
【特許文献3】特開2005-230543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
傾斜磁場コイルの設計では、被検者が配置される内部空間(ボア内部)には所定の強度の傾斜磁場を形成し、逆に外側には漏れ磁場を極力発生させないという電磁気的な設計が必要である。同時に、傾斜磁場コイルに電流を流すことによる発熱を抑制するための冷却機構を備える必要がある。
【0008】
内径を楕円にした傾斜磁場コイルにおいては、長軸方向の肉厚を短軸方向より薄くすることにより、被検者の入る空間を長軸方向にさらに広く確保することができる。しかしながら、傾斜磁場コイルの肉厚を薄くした場合、傾斜磁場コイル内の冷却管を細くするか、又は省略せざるを得ず、十分な冷却効果を確保することが困難になる。そのため、大電流を流すことが困難になり、大きな傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルを設計するのが難しくなる。
【0009】
特許文献2に記載されている傾斜磁場コイルは、上下に分離され、水平方向には開放された構成であるため、長軸方向の傾斜磁場コイルの冷却効果の確保という問題は生じない。このため、楕円形の傾斜磁場コイルには特許文献2に開示されている冷却チャンネルの技術をそのまま適用することはできない。また、特許文献3に記載の冷却用導管を兼用するコイルは、冷媒の流量を増加させるためには導管の中空領域つまりは導体寸法を大きくする必要があるため、傾斜磁場コイルの肉厚低減は困難である。
【0010】
本発明の目的は、内部空間が大きく、冷却能力に優れた傾斜磁場コイルを備えたMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、以下のようなMRI装置が提供される。すなわち、静磁場空間を発生する静磁場発生部と、静磁場発生部の内側に配置され、静磁場空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルとを有する磁気共鳴イメージング装置であって、傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体と、冷却管とを備える。筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備えている。冷却管は、筒状の導体の外周領域であって、筒状の導体の内径の長軸と筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されている。このような領域に冷却管を配置することにより、内径が楕円形状等、扁平な形状の傾斜磁場コイルを効率よく冷却することができる。
【0012】
上記冷却管は、筒状の導体の両端の開口からそれぞれ、筒状の導体の中心軸方向に予め定めた長さの領域のみを覆うように配置されている構成とすることが可能である。これにより、筒状の導体の両端の開口付近の発熱量の大きな領域を効率よく冷却することができる。
【0013】
例えば、上記扁平な筒状の導体は、内径が楕円形とする。
【0014】
筒状の導体は、例えば、絶縁材によって被覆されている構成とし、少なくとも一部の領域の絶縁材には、絶縁材よりも熱伝導率の大きな材料の粒子が混合されているように構成する。絶縁材の熱伝導率を向上させることにより、冷却管が配置されていない領域の筒状導体を効率よく冷却できる。粒子が混合されている絶縁材の領域は、例えば、冷却管が配置されていない長軸と筒状の導体とが交差する位置を中心として周方向に予め定めた幅の領域であって、筒状導体の開口から中心軸方向に少なくとも所定の長さの領域とすることができる。熱伝導率の大きな粒子としては、シリカ、アルミナ、窒化アルミおよび窒化ホウ素のいずれかを用いることができる。
【0015】
筒状の導体の両端にそれぞれ配置された冷却管の間には、静磁場均一度を調整するためのシムコイルを配置することが可能である。
【0016】
上記傾斜磁場コイルは、傾斜磁場を発生する主コイルと、傾斜磁場が静磁場発生部側に漏れるのを防止するシールドコイルとを有する構成とすることができる。この場合、少なくとも主コイルが、内径が扁平な筒状の導体を含む構成とする。冷却管は、主コイルとシールドコイルとの間に配置することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内径が楕円等の扁平な形状の傾斜磁場コイルであっても、厚さの薄い長軸方向には冷却管を配置しないために、内径の開放性を損なうことなく、冷却効率を向上させることができる。また、傾斜磁場コイル導体の伝熱性を利用することで、短軸上に配置した冷却管のみで長軸上の薄肉部の部分をも冷却することができるために、傾斜磁場コイルに大きな電流を流すことができ、高磁場強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のMRI装置の一部構成を示すブロック図。
【図2】実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイル2の開口部の一部形状を示す側面図。
【図3】図2の傾斜磁場コイル2のXY断面図。
【図4】図2の傾斜磁場コイル2のYZ断面図。
【図5】実施形態のMRI装置のY主コイル12とYシールドコイル32の構造を示す説明図。
【図6】図5のY主コイル12の一部を平面状に展開した場合の上面図。
【図7】図5のY主コイル12のYZ側面図。
【図8】図2の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図9】第3の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図10】第4の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図11】第4の実施形態のMRI装置の別の例の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図12】第5の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのYZ断面図。
【図13】第5の実施形態の傾斜磁場コイルの冷却管10の斜視図。
【図14】別の実施形態の傾斜磁場コイルのYZ断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態のMRI装置について図面を参照して詳細に説明する。なお、発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態のMRI装置の一部構成を示す。MRI装置は、均一静磁場領域5を形成する静磁場発生装置1と、均一静磁場領域5にX,Y,Z軸の各方向の傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル2と、均一静磁場領域5内の被検者に高周波磁場を高周波磁場コイル3と、ベッド4とを備えている。静磁場発生装置1は、ここではZ軸方向に中心軸を向けた円筒形のものを用いる。超電導磁石、常伝導磁石および永久磁石のいずれであってもかまわない。図示せぬ被検者は、ベッド4に横たわって均一磁場領域5に配置される。傾斜磁場コイル2は、静磁場発生装置1と均一磁場領域5との間に固定されている。高周波磁場コイル3は、傾斜磁場コイル2と均一磁場領域5との間に固定されている。
【0021】
この他、図1には図示していないが、MRI装置は、被検者に近接配置される受信コイル、シムコイル、傾斜磁場電源、送信系と、受信系と、信号処理系と、シーケンサと、操作部とを備えて構成される。
【0022】
傾斜磁場電源は、所定のタイミングで傾斜磁場コイル2に駆動電流を供給し、傾斜磁場を発生させる。送信系は、高周波パルスを高周波磁場コイル3に供給し、被検者の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴(NMR)を起こさせる高周波磁場パルスを発生させる。受信系は、受信コイルが受信した被検者からのNMR信号を検出し、信号処理系に送る。信号処理系は、受信系から受け取った信号を信号処理し、画像再構成を行う。シーケンサは、傾斜磁場電源、送信系、受信系を制御し、高周波磁場パルスと傾斜磁場パルスを被検者に所定のタイミングで繰り返し照射・印加し、NMR信号を所定のタイミングで受信するパルスシーケンスを実行させる。操作部は、各種制御情報の操作者からの入力を受け付ける。
【0023】
以下、傾斜地場コイル2の構成について図2等を用いて詳細に説明する。
【0024】
傾斜磁場コイル2は、その側面図を図2に示すように、被検者を配置する内部空間を水平方向(X方向)に広く確保するために、外側面が円筒形であり、内側面は長軸がX方向に向けられた楕円形の円筒である。このため傾斜地場コイル2の厚みは、垂直方向よりも水平方向の方が薄くなっている。
【0025】
傾斜磁場コイル2は、そのXY断面図を図3に、YZ断面図(A-A断面図)を図4にそれぞれ示したように、X、Y、Z方向の傾斜磁場をそれぞれ発生する3種類のコイル(Xコイル11,31、Yコイル12,32、Zコイル13,33)と、冷却管10と、各コイルと冷却管10とを一体に固定する絶縁部材15とを含む。
【0026】
3種類のコイルは、撮像空間に傾斜磁場を与える主コイルと、主コイルが発生する磁場が静磁場磁石側に漏洩しないように逆向きの磁場を発生するシールドコイルとを有する。具体的には、Xコイルは、X主コイル11とXシールドコイル31とを含み、Yコイルは、Y主コイル12とYシールドコイル32とを含み、Zコイルは、Z主コイル13とZシールドコイル33とを含む。これらは、撮像空間(均一静磁場領域5)側から、Z主コイル13、X主コイル11、Y主コイル12、冷却管10、Zシールドコイル33、Xシールドコイル31、Yシールドコイル32の順に積層されている。
【0027】
絶縁部材15は、高電圧が印加される各コイル間および各コイルのターン間に充填され、絶縁性を確保するとともに、これらを一体に固め、形状を維持している。また、絶縁材料としては、エポキシ等の樹脂やガラス等の無機材料であって、非磁性材料を用いることができる。
【0028】
Xコイル11,31及びYコイル12,32は、いずれも導体の板をスリット加工することにより製作されている。一方、Zコイル13,33は、管状の導体をZ軸を中心に巻回した構造である。Zコイル13,33の内部に冷却用媒体を通すことにより傾斜磁場コイル2が冷却される。各コイルを構成する導体の素材としては、電気伝導度が高い材料が望ましく、例えば銅が良い。
【0029】
冷却管10は、Xコイル11,31及びYコイル12,32のコイルパターンを考慮して決定された所定領域にのみ配置されている。これにより、傾斜磁場コイル2の内部空間を広く保ちながら、傾斜磁場コイル2の温度上昇を抑制する。
【0030】
図5にYコイルの概略構成図を示す。図5のように、Yコイルは、Y主コイル12とYシールドコイル32からなり、それぞれ4つの導体により構成されている。4つの導体には、所定の渦パターンのスリットがそれぞれ形成されている。なお、図5では、4つの導体の間に空隙を開けて図示しているが、実際には4つの導体は端部において連結され、Y主コイル12は内側の側面が、楕円の円筒を構成し、Yシールドコイル32は円筒を構成している。楕円は、長径と短径にて定義される焦点を有した形状である。
【0031】
図6に、Y主コイル12の一つの導体にスリットにより形成された渦のパターンを、導体を平面に展開した状態で図示する。図6では、隣接するターン間のパターンエッジ22を1本の線として図示しているが、実際にはターン間には所定の幅を持ったスリットが形成されている。また、図6では省略しているが、隣接するターン間を接続して渦巻き形状のパターンとする部分と、中央部からの引き出し線が設けられている。
【0032】
図7に、4つの導体を連結して構成したY主コイル12全体を側面から見た図を示す。図7のように、Y軸方向に向かい合う1対の渦パターンがZ軸方向に2対並べて配置されている。渦パターンは、予め定められたスペックのY方向傾斜磁場を発生可能なように設計されている。図7から明らかなようにY主コイル12のZ軸方向の端部から長さLhの範囲に位置するターンの導体幅が渦全体の中で最も狭い。これは、傾斜磁場コイル2の開口から外部へ磁束が漏れ出る際に磁束が広がることを考慮し、開口近傍のコイルが発生する磁束密度を円筒のZ軸方向の中央部よりも大きくしているためである。これにより、円筒内の傾斜磁場強度が一定の領域をできるだけ広く確保している。
【0033】
このようにY主コイル12においてZ軸方向の端部から長さLhの範囲のターンは、導体幅が狭い。しかも、XおよびY主コイル11,12が楕円形であり、内部空間が円筒形のものよりも広いため、円筒形のものよりも全体のターン数が増加しており、導体幅は円筒形のものよりも狭い。このため、長さLhの範囲のターンは、円筒形のコイルよりも電気抵抗が大きく、電流密度も高く、その発熱量は、一般的に知られているように電気抵抗に比例し、電流の2乗に比例して大きくなる。Z方向のコイル軸長をLcoilとすると、このLhはおおよそ0.1〜0.15×Lcoilであり、発熱量は他の領域に比べて3倍程度高いことがわかっている。
【0034】
一方、X主コイル11は、Y主コイルを90°回転させたコイルである。このため、X主コイル11の高発熱領域もY主コイル12と同じようにZ軸方向の端部から長さLhの範囲に集中する。
【0035】
そこで、本実施形態では、冷却管10を図4、図5のようにX主コイル11およびY主コイル12のZ軸方向の両端部から長さLhの範囲にそれぞれ配置することにより、高発熱領域を冷却する。具体的には、図8にY主コイル12およびX主コイル11の渦パターンおよび冷却管10の平面展開図(図2の0°(X軸方向)から180°の範囲)を示したように、冷却管10はZ軸方向の端部から長さLhの領域に、蛇行した形状に配置されている。なお、図8において、点線は、X主コイル11のパターンエッジ21を示している。
【0036】
図8のように冷却管10は、Z軸方向については端部から長さLhの領域に配置されているが、XおよびY主コイル11,12の周方向については、図2の0°(x軸方向)および180°をそれぞれ中心として、両側に所定の幅T(合計幅2T)の範囲には配置していない。この領域については、XおよびY主コイル11,12を構成する導体の熱伝導によって、図8に示す矢印の経路に沿って熱を伝達し、冷却管10に受け渡す。導体の材料である銅の熱伝導率が390W/m℃程度と高いため、幅2Tの領域において発生する発熱量を、導体の熱伝導で冷却管10まで十分伝導できる。幅2Tおよび長さLhは、XおよびY主コイル11,12の発熱量、導体の熱伝導率、および、冷却管10内の冷媒の流量・温度を考慮して、所望の温度以下に傾斜磁場コイル2を維持できる長さに設計する。
【0037】
なお、冷却管10内部の冷媒は、検査室外部にあるチラーから供給される。冷却管10を導管を兼用するZコイル13,33と並列に接続することも可能である。
【0038】
このように、本実施形態では、冷却用導管を兼用するZコイル13のほかに、冷却管10を配置しているため、XおよびY主コイル11,12の高発熱部を効果的に冷却することができる。このため、円筒形のものと比較して、内部空間が広いためターン数が多く、ターンの導体幅が狭いXおよびY主コイル11,12であっても、冷却能力が高いため、大電流を供給することができる。よって、内部空間が広く、大きな傾斜磁場を印加することのできる傾斜磁場コイル2を実現することができる。
【0039】
しかも、本実施形態では、冷却管10を周方向について0°および180°を中心として所定の幅2Tの範囲については、冷却管10を配置していないため、図3に示すように、0°および180°方向の傾斜磁場コイル2の厚さを薄くすることができる。すなわち、X,Y,Z主コイル11,12,13とX,Y,Zシールドコイル31,32,33との間の絶縁部材15の厚さを、冷却管10の直径よりも小さくすることができる。このような冷却管10の配置とすることにより、傾斜磁場コイル2の長軸方向の肉厚を出来る限り薄くして、長軸方向の内径をできるだけ大きくとり、被検者が配置される空間を水平方向に大きくすることができる。
【0040】
また、図4に示すように、Z軸の両端から長さLhの範囲にのみ冷却管10を配置したことにより、二つの冷却管10に挟まれた中央部の空間にシムコイル14を配置することが可能となる。シムコイル14は、撮影部位の磁化率の違いによる静磁場均一性を補償するためのコイルである。これにより、傾斜磁場コイル2とは別にシムコイル14を配置する場合と比較して、撮像領域を大きく確保することができる。
【0041】
なお、シムコイル14の構造は、公知の構造を用いることができる。例えば、導線を巻線する、若しくは銅板をスリット加工、あるいは基板をエッチング加工することにより製作され、通常数Aの電流が通電される。
【0042】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のMRI装置について説明する。
【0043】
第2の実施形態のMRI装置は、傾斜磁場コイル2の絶縁部材15の少なくとも一部の領域に、シリカ、アルミナ、窒化アルミ、窒化ホウ素等、熱伝導率が絶縁部材よりも大きい粒子が分散されている。他の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0044】
粒子が分散された絶縁部材15を配置する領域は、少なくとも図2の0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tで、Z軸方向に端部から長さLhの領域である。この領域のX,Y,Z主コイル11,12,13の間に粒子が分散された絶縁部材15を配置する。コイルのターン間にも粒子が分散された絶縁部材15を配置することも可能である。この領域のみならず、特に発熱が大きい部分であるZ軸方向の端部から長さLhの領域全体の絶縁部材15や、絶縁部材15の全体に上記粒子を分散させた構成とすることも可能である。
【0045】
本実施形態では、0°および180°を中心に幅2Tの領域の発熱を冷却管10まで伝達する効率を高めることができるため、冷却効率が高まる。これにより、第1の実施形態よりも幅2Tを大きく設定することが可能になり、傾斜磁場コイル2をさらに薄くすることができるため、内部空間を大きくすることができる。
【0046】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態のMRI装置について説明する。
【0047】
第1の実施形態では、図8のように冷却管10をZ軸方向の両端部から長さLhの領域であって、周方向0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域に配置したが、第3の実施形態では、図9のように、0°および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域の全体に冷却管10を配置にする。Z軸方向についてはコイル軸長Lcoilの全領域に配置する。他の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0048】
冷却管10を図9のように、Z軸方向については全領域に配置することにより、より冷却効率が高まるため、傾斜磁場コイルに供給する電流をより大きくすることができる。よって、本実施形態のMRI装置は、被検者の空間を大きく確保しつつ、高傾斜磁場が必要なシーケンスにも対応することができる。
【0049】
(第4の実施形態)
第4の実施形態のMRI装置について説明する。
【0050】
第4の実施形態では、冷却管10を第1の実施形態と同様の領域に配置するが、冷却管10の形状を第1の実施形態とは異なる構造とした。図10に冷却管10をZ軸方向に蛇行させた形状とした例を示す。また、図11には、冷却管10を渦巻き形状に巻線した形状とした例を示す。冷却管10の配置される領域は第1の実施形態と同様に、Z軸方向について両端部から長さLhの領域であって、周方向0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域である。また、冷却管10の構造以外は、第1の実施形態と同様である。
【0051】
冷却管10を図10,図11のような構造にした場合であっても、冷却管10が配置される領域を第1の実施形態と同様の領域にすることにより第1の実施形態のMRI装置と同様の作用および効果を得ることができる。
【0052】
また、図10、図11の冷却管10を、第2の実施形態のように冷却管10をZ軸方向の全領域(コイル軸長Lcoilの全体)であって、周方向0°および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域に配置にすることも可能である。
【0053】
(第5の実施形態)
第5の実施形態のMRI装置について説明する。
【0054】
第5の実施形態では、冷却管10の形状を第1の実施形態とは異なる構造とした。図12に傾斜磁場コイル2のYZ断面図、図13に、冷却管10の斜視図を示す。本実施形態の冷却管10は、0°(X軸)および180°を中心に幅2Tの領域を除き、周方向に循環する輪状に巻回した構成とした。Z軸方向の長さLhは、冷却管10の巻回数や巻回間隔により任意の長さに設計することが可能である。Z軸方向の全長にわたって冷却管10を配置することも可能である。
【0055】
冷却管10を図12,13の輪状の形状にすることにより、冷却管10は、楕円筒のX,Y,Z主コイル11,12,13に近接した位置と、円筒形のX,Y,Zシールドコイル31,32,33に近接した位置に配置することができるため、主コイル11,12,13とシールドコイル31,32,33を同時に冷却することができる。
【0056】
なお、図12では、シールドコイルの積層順を、冷却管10に近い側からX,Y,Zシールドコイル31,32,33の順に配置している。これにより、X,Yシールドコイル31,32を冷却管10と冷却管を兼用するZシールドコイル33で挟んで冷却することができる。主コイルについては、第1の実施形態と同様に、X,Y主コイル11,12を冷却管10と冷却管を兼用するZ主コイル13で挟んで冷却するように積層されている。このような構造とすることにより、主コイルのみならず、シールドコイルも効率よく冷却することができ、大電流を傾斜磁場コイル2を供給して大きな傾斜磁場を発生することができる。
【0057】
なお、主コイルの積層順は、第1および第5実施形態の図4、図12の積層順に限定されるものではなく、図14のように、冷却管10とX,Y主コイル11,12との間に、冷却管を兼用するZ主コイル13を配置する構成にすることも可能である。
【0058】
また、上述の各実施形態では、Z主コイル13およびZシールドコイル33が、冷却管を兼用する構造としたが、本発明は、この構成に限定されるものではなく、Zコイル13,33として導管ではない導線を用いることも可能である。この場合も、本発明では冷却管10が配置されているため、X,Yコイルの高温となる領域を効率よく冷却することができる。
【0059】
上述した各実施形態では、傾斜磁場コイル2の主コイルを楕円の円筒に形成し、シールドコイルを円筒形にした構成について説明したが、本発明は、シールドコイルを円筒形にする例に限定されるものではない。シールドコイルについても楕円形の円筒形状にすることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…静磁場発生装置、2…傾斜磁場コイル、3…高周波磁場コイル、4…ベッド、5…均一磁場領域(撮像空間)、10…冷却管、11…X主コイル、12…Y主コイル、13…Z主コイル、14…シムコイル、15…絶縁材、21…X主コイルのパターンエッジ、22…Y主コイルのパターンエッジ、31…Xシールドコイル、32…Yシールドコイル、33…Zシールドコイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIと称す)装置に係わり、特に、高強度の傾斜磁場を発生させ、かつ開放性を高めた傾斜磁場コイルを備える磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒型の磁場発生装置を用いるMRI装置では、被検者の入る空間を最大限に確保し、閉塞感を和らげるために、傾斜磁場コイルの内径を大きくすることが望まれている。
【0003】
特許文献1には、傾斜磁場コイルの内径を楕円形状にして、水平方向の内径を広くしたMRI装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、円筒形の静磁場発生コイルの内側に、上下方向に分割され側方が開放された傾斜磁場コイルを配置した装置が開示されている。これにより、被検者が配置される空間の径は、水平方向が高さ方向よりも大きな楕円形状になっている。また、傾斜磁場コイルをアクティブシールド構造とし、傾斜磁場コイルと、そのシールドコイルと、冷却チャンネルを配置した構成も開示されている。
【0005】
特許文献3には、傾斜磁場コイルの導体に中空領域を設けて、冷媒を流すことにより、冷却用導管を兼用した傾斜磁場コイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-327478号公報
【特許文献2】特開平10-179552号公報
【特許文献3】特開2005-230543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
傾斜磁場コイルの設計では、被検者が配置される内部空間(ボア内部)には所定の強度の傾斜磁場を形成し、逆に外側には漏れ磁場を極力発生させないという電磁気的な設計が必要である。同時に、傾斜磁場コイルに電流を流すことによる発熱を抑制するための冷却機構を備える必要がある。
【0008】
内径を楕円にした傾斜磁場コイルにおいては、長軸方向の肉厚を短軸方向より薄くすることにより、被検者の入る空間を長軸方向にさらに広く確保することができる。しかしながら、傾斜磁場コイルの肉厚を薄くした場合、傾斜磁場コイル内の冷却管を細くするか、又は省略せざるを得ず、十分な冷却効果を確保することが困難になる。そのため、大電流を流すことが困難になり、大きな傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルを設計するのが難しくなる。
【0009】
特許文献2に記載されている傾斜磁場コイルは、上下に分離され、水平方向には開放された構成であるため、長軸方向の傾斜磁場コイルの冷却効果の確保という問題は生じない。このため、楕円形の傾斜磁場コイルには特許文献2に開示されている冷却チャンネルの技術をそのまま適用することはできない。また、特許文献3に記載の冷却用導管を兼用するコイルは、冷媒の流量を増加させるためには導管の中空領域つまりは導体寸法を大きくする必要があるため、傾斜磁場コイルの肉厚低減は困難である。
【0010】
本発明の目的は、内部空間が大きく、冷却能力に優れた傾斜磁場コイルを備えたMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、以下のようなMRI装置が提供される。すなわち、静磁場空間を発生する静磁場発生部と、静磁場発生部の内側に配置され、静磁場空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルとを有する磁気共鳴イメージング装置であって、傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体と、冷却管とを備える。筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備えている。冷却管は、筒状の導体の外周領域であって、筒状の導体の内径の長軸と筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されている。このような領域に冷却管を配置することにより、内径が楕円形状等、扁平な形状の傾斜磁場コイルを効率よく冷却することができる。
【0012】
上記冷却管は、筒状の導体の両端の開口からそれぞれ、筒状の導体の中心軸方向に予め定めた長さの領域のみを覆うように配置されている構成とすることが可能である。これにより、筒状の導体の両端の開口付近の発熱量の大きな領域を効率よく冷却することができる。
【0013】
例えば、上記扁平な筒状の導体は、内径が楕円形とする。
【0014】
筒状の導体は、例えば、絶縁材によって被覆されている構成とし、少なくとも一部の領域の絶縁材には、絶縁材よりも熱伝導率の大きな材料の粒子が混合されているように構成する。絶縁材の熱伝導率を向上させることにより、冷却管が配置されていない領域の筒状導体を効率よく冷却できる。粒子が混合されている絶縁材の領域は、例えば、冷却管が配置されていない長軸と筒状の導体とが交差する位置を中心として周方向に予め定めた幅の領域であって、筒状導体の開口から中心軸方向に少なくとも所定の長さの領域とすることができる。熱伝導率の大きな粒子としては、シリカ、アルミナ、窒化アルミおよび窒化ホウ素のいずれかを用いることができる。
【0015】
筒状の導体の両端にそれぞれ配置された冷却管の間には、静磁場均一度を調整するためのシムコイルを配置することが可能である。
【0016】
上記傾斜磁場コイルは、傾斜磁場を発生する主コイルと、傾斜磁場が静磁場発生部側に漏れるのを防止するシールドコイルとを有する構成とすることができる。この場合、少なくとも主コイルが、内径が扁平な筒状の導体を含む構成とする。冷却管は、主コイルとシールドコイルとの間に配置することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内径が楕円等の扁平な形状の傾斜磁場コイルであっても、厚さの薄い長軸方向には冷却管を配置しないために、内径の開放性を損なうことなく、冷却効率を向上させることができる。また、傾斜磁場コイル導体の伝熱性を利用することで、短軸上に配置した冷却管のみで長軸上の薄肉部の部分をも冷却することができるために、傾斜磁場コイルに大きな電流を流すことができ、高磁場強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のMRI装置の一部構成を示すブロック図。
【図2】実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイル2の開口部の一部形状を示す側面図。
【図3】図2の傾斜磁場コイル2のXY断面図。
【図4】図2の傾斜磁場コイル2のYZ断面図。
【図5】実施形態のMRI装置のY主コイル12とYシールドコイル32の構造を示す説明図。
【図6】図5のY主コイル12の一部を平面状に展開した場合の上面図。
【図7】図5のY主コイル12のYZ側面図。
【図8】図2の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図9】第3の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図10】第4の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図11】第4の実施形態のMRI装置の別の例の傾斜磁場コイルのX主コイルとY主コイルと冷却管の一部を平面状に展開した状態を示す説明図。
【図12】第5の実施形態のMRI装置の傾斜磁場コイルのYZ断面図。
【図13】第5の実施形態の傾斜磁場コイルの冷却管10の斜視図。
【図14】別の実施形態の傾斜磁場コイルのYZ断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態のMRI装置について図面を参照して詳細に説明する。なお、発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態のMRI装置の一部構成を示す。MRI装置は、均一静磁場領域5を形成する静磁場発生装置1と、均一静磁場領域5にX,Y,Z軸の各方向の傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル2と、均一静磁場領域5内の被検者に高周波磁場を高周波磁場コイル3と、ベッド4とを備えている。静磁場発生装置1は、ここではZ軸方向に中心軸を向けた円筒形のものを用いる。超電導磁石、常伝導磁石および永久磁石のいずれであってもかまわない。図示せぬ被検者は、ベッド4に横たわって均一磁場領域5に配置される。傾斜磁場コイル2は、静磁場発生装置1と均一磁場領域5との間に固定されている。高周波磁場コイル3は、傾斜磁場コイル2と均一磁場領域5との間に固定されている。
【0021】
この他、図1には図示していないが、MRI装置は、被検者に近接配置される受信コイル、シムコイル、傾斜磁場電源、送信系と、受信系と、信号処理系と、シーケンサと、操作部とを備えて構成される。
【0022】
傾斜磁場電源は、所定のタイミングで傾斜磁場コイル2に駆動電流を供給し、傾斜磁場を発生させる。送信系は、高周波パルスを高周波磁場コイル3に供給し、被検者の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴(NMR)を起こさせる高周波磁場パルスを発生させる。受信系は、受信コイルが受信した被検者からのNMR信号を検出し、信号処理系に送る。信号処理系は、受信系から受け取った信号を信号処理し、画像再構成を行う。シーケンサは、傾斜磁場電源、送信系、受信系を制御し、高周波磁場パルスと傾斜磁場パルスを被検者に所定のタイミングで繰り返し照射・印加し、NMR信号を所定のタイミングで受信するパルスシーケンスを実行させる。操作部は、各種制御情報の操作者からの入力を受け付ける。
【0023】
以下、傾斜地場コイル2の構成について図2等を用いて詳細に説明する。
【0024】
傾斜磁場コイル2は、その側面図を図2に示すように、被検者を配置する内部空間を水平方向(X方向)に広く確保するために、外側面が円筒形であり、内側面は長軸がX方向に向けられた楕円形の円筒である。このため傾斜地場コイル2の厚みは、垂直方向よりも水平方向の方が薄くなっている。
【0025】
傾斜磁場コイル2は、そのXY断面図を図3に、YZ断面図(A-A断面図)を図4にそれぞれ示したように、X、Y、Z方向の傾斜磁場をそれぞれ発生する3種類のコイル(Xコイル11,31、Yコイル12,32、Zコイル13,33)と、冷却管10と、各コイルと冷却管10とを一体に固定する絶縁部材15とを含む。
【0026】
3種類のコイルは、撮像空間に傾斜磁場を与える主コイルと、主コイルが発生する磁場が静磁場磁石側に漏洩しないように逆向きの磁場を発生するシールドコイルとを有する。具体的には、Xコイルは、X主コイル11とXシールドコイル31とを含み、Yコイルは、Y主コイル12とYシールドコイル32とを含み、Zコイルは、Z主コイル13とZシールドコイル33とを含む。これらは、撮像空間(均一静磁場領域5)側から、Z主コイル13、X主コイル11、Y主コイル12、冷却管10、Zシールドコイル33、Xシールドコイル31、Yシールドコイル32の順に積層されている。
【0027】
絶縁部材15は、高電圧が印加される各コイル間および各コイルのターン間に充填され、絶縁性を確保するとともに、これらを一体に固め、形状を維持している。また、絶縁材料としては、エポキシ等の樹脂やガラス等の無機材料であって、非磁性材料を用いることができる。
【0028】
Xコイル11,31及びYコイル12,32は、いずれも導体の板をスリット加工することにより製作されている。一方、Zコイル13,33は、管状の導体をZ軸を中心に巻回した構造である。Zコイル13,33の内部に冷却用媒体を通すことにより傾斜磁場コイル2が冷却される。各コイルを構成する導体の素材としては、電気伝導度が高い材料が望ましく、例えば銅が良い。
【0029】
冷却管10は、Xコイル11,31及びYコイル12,32のコイルパターンを考慮して決定された所定領域にのみ配置されている。これにより、傾斜磁場コイル2の内部空間を広く保ちながら、傾斜磁場コイル2の温度上昇を抑制する。
【0030】
図5にYコイルの概略構成図を示す。図5のように、Yコイルは、Y主コイル12とYシールドコイル32からなり、それぞれ4つの導体により構成されている。4つの導体には、所定の渦パターンのスリットがそれぞれ形成されている。なお、図5では、4つの導体の間に空隙を開けて図示しているが、実際には4つの導体は端部において連結され、Y主コイル12は内側の側面が、楕円の円筒を構成し、Yシールドコイル32は円筒を構成している。楕円は、長径と短径にて定義される焦点を有した形状である。
【0031】
図6に、Y主コイル12の一つの導体にスリットにより形成された渦のパターンを、導体を平面に展開した状態で図示する。図6では、隣接するターン間のパターンエッジ22を1本の線として図示しているが、実際にはターン間には所定の幅を持ったスリットが形成されている。また、図6では省略しているが、隣接するターン間を接続して渦巻き形状のパターンとする部分と、中央部からの引き出し線が設けられている。
【0032】
図7に、4つの導体を連結して構成したY主コイル12全体を側面から見た図を示す。図7のように、Y軸方向に向かい合う1対の渦パターンがZ軸方向に2対並べて配置されている。渦パターンは、予め定められたスペックのY方向傾斜磁場を発生可能なように設計されている。図7から明らかなようにY主コイル12のZ軸方向の端部から長さLhの範囲に位置するターンの導体幅が渦全体の中で最も狭い。これは、傾斜磁場コイル2の開口から外部へ磁束が漏れ出る際に磁束が広がることを考慮し、開口近傍のコイルが発生する磁束密度を円筒のZ軸方向の中央部よりも大きくしているためである。これにより、円筒内の傾斜磁場強度が一定の領域をできるだけ広く確保している。
【0033】
このようにY主コイル12においてZ軸方向の端部から長さLhの範囲のターンは、導体幅が狭い。しかも、XおよびY主コイル11,12が楕円形であり、内部空間が円筒形のものよりも広いため、円筒形のものよりも全体のターン数が増加しており、導体幅は円筒形のものよりも狭い。このため、長さLhの範囲のターンは、円筒形のコイルよりも電気抵抗が大きく、電流密度も高く、その発熱量は、一般的に知られているように電気抵抗に比例し、電流の2乗に比例して大きくなる。Z方向のコイル軸長をLcoilとすると、このLhはおおよそ0.1〜0.15×Lcoilであり、発熱量は他の領域に比べて3倍程度高いことがわかっている。
【0034】
一方、X主コイル11は、Y主コイルを90°回転させたコイルである。このため、X主コイル11の高発熱領域もY主コイル12と同じようにZ軸方向の端部から長さLhの範囲に集中する。
【0035】
そこで、本実施形態では、冷却管10を図4、図5のようにX主コイル11およびY主コイル12のZ軸方向の両端部から長さLhの範囲にそれぞれ配置することにより、高発熱領域を冷却する。具体的には、図8にY主コイル12およびX主コイル11の渦パターンおよび冷却管10の平面展開図(図2の0°(X軸方向)から180°の範囲)を示したように、冷却管10はZ軸方向の端部から長さLhの領域に、蛇行した形状に配置されている。なお、図8において、点線は、X主コイル11のパターンエッジ21を示している。
【0036】
図8のように冷却管10は、Z軸方向については端部から長さLhの領域に配置されているが、XおよびY主コイル11,12の周方向については、図2の0°(x軸方向)および180°をそれぞれ中心として、両側に所定の幅T(合計幅2T)の範囲には配置していない。この領域については、XおよびY主コイル11,12を構成する導体の熱伝導によって、図8に示す矢印の経路に沿って熱を伝達し、冷却管10に受け渡す。導体の材料である銅の熱伝導率が390W/m℃程度と高いため、幅2Tの領域において発生する発熱量を、導体の熱伝導で冷却管10まで十分伝導できる。幅2Tおよび長さLhは、XおよびY主コイル11,12の発熱量、導体の熱伝導率、および、冷却管10内の冷媒の流量・温度を考慮して、所望の温度以下に傾斜磁場コイル2を維持できる長さに設計する。
【0037】
なお、冷却管10内部の冷媒は、検査室外部にあるチラーから供給される。冷却管10を導管を兼用するZコイル13,33と並列に接続することも可能である。
【0038】
このように、本実施形態では、冷却用導管を兼用するZコイル13のほかに、冷却管10を配置しているため、XおよびY主コイル11,12の高発熱部を効果的に冷却することができる。このため、円筒形のものと比較して、内部空間が広いためターン数が多く、ターンの導体幅が狭いXおよびY主コイル11,12であっても、冷却能力が高いため、大電流を供給することができる。よって、内部空間が広く、大きな傾斜磁場を印加することのできる傾斜磁場コイル2を実現することができる。
【0039】
しかも、本実施形態では、冷却管10を周方向について0°および180°を中心として所定の幅2Tの範囲については、冷却管10を配置していないため、図3に示すように、0°および180°方向の傾斜磁場コイル2の厚さを薄くすることができる。すなわち、X,Y,Z主コイル11,12,13とX,Y,Zシールドコイル31,32,33との間の絶縁部材15の厚さを、冷却管10の直径よりも小さくすることができる。このような冷却管10の配置とすることにより、傾斜磁場コイル2の長軸方向の肉厚を出来る限り薄くして、長軸方向の内径をできるだけ大きくとり、被検者が配置される空間を水平方向に大きくすることができる。
【0040】
また、図4に示すように、Z軸の両端から長さLhの範囲にのみ冷却管10を配置したことにより、二つの冷却管10に挟まれた中央部の空間にシムコイル14を配置することが可能となる。シムコイル14は、撮影部位の磁化率の違いによる静磁場均一性を補償するためのコイルである。これにより、傾斜磁場コイル2とは別にシムコイル14を配置する場合と比較して、撮像領域を大きく確保することができる。
【0041】
なお、シムコイル14の構造は、公知の構造を用いることができる。例えば、導線を巻線する、若しくは銅板をスリット加工、あるいは基板をエッチング加工することにより製作され、通常数Aの電流が通電される。
【0042】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のMRI装置について説明する。
【0043】
第2の実施形態のMRI装置は、傾斜磁場コイル2の絶縁部材15の少なくとも一部の領域に、シリカ、アルミナ、窒化アルミ、窒化ホウ素等、熱伝導率が絶縁部材よりも大きい粒子が分散されている。他の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0044】
粒子が分散された絶縁部材15を配置する領域は、少なくとも図2の0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tで、Z軸方向に端部から長さLhの領域である。この領域のX,Y,Z主コイル11,12,13の間に粒子が分散された絶縁部材15を配置する。コイルのターン間にも粒子が分散された絶縁部材15を配置することも可能である。この領域のみならず、特に発熱が大きい部分であるZ軸方向の端部から長さLhの領域全体の絶縁部材15や、絶縁部材15の全体に上記粒子を分散させた構成とすることも可能である。
【0045】
本実施形態では、0°および180°を中心に幅2Tの領域の発熱を冷却管10まで伝達する効率を高めることができるため、冷却効率が高まる。これにより、第1の実施形態よりも幅2Tを大きく設定することが可能になり、傾斜磁場コイル2をさらに薄くすることができるため、内部空間を大きくすることができる。
【0046】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態のMRI装置について説明する。
【0047】
第1の実施形態では、図8のように冷却管10をZ軸方向の両端部から長さLhの領域であって、周方向0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域に配置したが、第3の実施形態では、図9のように、0°および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域の全体に冷却管10を配置にする。Z軸方向についてはコイル軸長Lcoilの全領域に配置する。他の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0048】
冷却管10を図9のように、Z軸方向については全領域に配置することにより、より冷却効率が高まるため、傾斜磁場コイルに供給する電流をより大きくすることができる。よって、本実施形態のMRI装置は、被検者の空間を大きく確保しつつ、高傾斜磁場が必要なシーケンスにも対応することができる。
【0049】
(第4の実施形態)
第4の実施形態のMRI装置について説明する。
【0050】
第4の実施形態では、冷却管10を第1の実施形態と同様の領域に配置するが、冷却管10の形状を第1の実施形態とは異なる構造とした。図10に冷却管10をZ軸方向に蛇行させた形状とした例を示す。また、図11には、冷却管10を渦巻き形状に巻線した形状とした例を示す。冷却管10の配置される領域は第1の実施形態と同様に、Z軸方向について両端部から長さLhの領域であって、周方向0°(X軸方向)および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域である。また、冷却管10の構造以外は、第1の実施形態と同様である。
【0051】
冷却管10を図10,図11のような構造にした場合であっても、冷却管10が配置される領域を第1の実施形態と同様の領域にすることにより第1の実施形態のMRI装置と同様の作用および効果を得ることができる。
【0052】
また、図10、図11の冷却管10を、第2の実施形態のように冷却管10をZ軸方向の全領域(コイル軸長Lcoilの全体)であって、周方向0°および180°を中心に幅2Tの領域を除いた領域に配置にすることも可能である。
【0053】
(第5の実施形態)
第5の実施形態のMRI装置について説明する。
【0054】
第5の実施形態では、冷却管10の形状を第1の実施形態とは異なる構造とした。図12に傾斜磁場コイル2のYZ断面図、図13に、冷却管10の斜視図を示す。本実施形態の冷却管10は、0°(X軸)および180°を中心に幅2Tの領域を除き、周方向に循環する輪状に巻回した構成とした。Z軸方向の長さLhは、冷却管10の巻回数や巻回間隔により任意の長さに設計することが可能である。Z軸方向の全長にわたって冷却管10を配置することも可能である。
【0055】
冷却管10を図12,13の輪状の形状にすることにより、冷却管10は、楕円筒のX,Y,Z主コイル11,12,13に近接した位置と、円筒形のX,Y,Zシールドコイル31,32,33に近接した位置に配置することができるため、主コイル11,12,13とシールドコイル31,32,33を同時に冷却することができる。
【0056】
なお、図12では、シールドコイルの積層順を、冷却管10に近い側からX,Y,Zシールドコイル31,32,33の順に配置している。これにより、X,Yシールドコイル31,32を冷却管10と冷却管を兼用するZシールドコイル33で挟んで冷却することができる。主コイルについては、第1の実施形態と同様に、X,Y主コイル11,12を冷却管10と冷却管を兼用するZ主コイル13で挟んで冷却するように積層されている。このような構造とすることにより、主コイルのみならず、シールドコイルも効率よく冷却することができ、大電流を傾斜磁場コイル2を供給して大きな傾斜磁場を発生することができる。
【0057】
なお、主コイルの積層順は、第1および第5実施形態の図4、図12の積層順に限定されるものではなく、図14のように、冷却管10とX,Y主コイル11,12との間に、冷却管を兼用するZ主コイル13を配置する構成にすることも可能である。
【0058】
また、上述の各実施形態では、Z主コイル13およびZシールドコイル33が、冷却管を兼用する構造としたが、本発明は、この構成に限定されるものではなく、Zコイル13,33として導管ではない導線を用いることも可能である。この場合も、本発明では冷却管10が配置されているため、X,Yコイルの高温となる領域を効率よく冷却することができる。
【0059】
上述した各実施形態では、傾斜磁場コイル2の主コイルを楕円の円筒に形成し、シールドコイルを円筒形にした構成について説明したが、本発明は、シールドコイルを円筒形にする例に限定されるものではない。シールドコイルについても楕円形の円筒形状にすることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…静磁場発生装置、2…傾斜磁場コイル、3…高周波磁場コイル、4…ベッド、5…均一磁場領域(撮像空間)、10…冷却管、11…X主コイル、12…Y主コイル、13…Z主コイル、14…シムコイル、15…絶縁材、21…X主コイルのパターンエッジ、22…Y主コイルのパターンエッジ、31…Xシールドコイル、32…Yシールドコイル、33…Zシールドコイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間を発生する静磁場発生部と、前記静磁場発生部の内側に配置され、前記静磁場空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルとを有する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体と、冷却管とを備え、前記筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備え、
該冷却管は、前記筒状の導体の外周領域であって、前記筒状の導体の前記内径の長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記冷却管は、前記筒状の導体の両端の開口からそれぞれ、前記筒状の導体の中心軸方向に予め定めた長さの領域のみを覆うように配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記扁平な筒状の導体の内径は、楕円形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記筒状の導体は、絶縁材によって被覆され、少なくとも一部の領域の前記絶縁材には、該絶縁材よりも熱伝導率の大きな材料の粒子が混合されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記粒子が混合されている前記絶縁材の領域は、前記冷却管が配置されていない前記長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記熱伝導率の大きな粒子は、シリカ、アルミナ、窒化アルミおよび窒化ホウ素のいずれかであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記筒状の導体の両端にそれぞれ配置された前記冷却管の間には、静磁場均一度を調整するためのシムコイルが配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記傾斜磁場コイルは、前記傾斜磁場を発生する主コイルと、前記傾斜磁場が前記静磁場発生部側に漏れるのを防止するシールドコイルとを有し、
少なくとも前記主コイルが、前記内径が扁平な筒状の導体を含み、前記冷却管は、前記主コイルと前記シールドコイルとの間に配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項1】
静磁場空間を発生する静磁場発生部と、前記静磁場発生部の内側に配置され、前記静磁場空間に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルとを有する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記傾斜磁場コイルは、内径が扁平な筒状の導体と、冷却管とを備え、前記筒状の導体は、渦巻き状のスリットを備え、
該冷却管は、前記筒状の導体の外周領域であって、前記筒状の導体の前記内径の長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域を除いた領域の少なくとも一部を覆うように配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記冷却管は、前記筒状の導体の両端の開口からそれぞれ、前記筒状の導体の中心軸方向に予め定めた長さの領域のみを覆うように配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記扁平な筒状の導体の内径は、楕円形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記筒状の導体は、絶縁材によって被覆され、少なくとも一部の領域の前記絶縁材には、該絶縁材よりも熱伝導率の大きな材料の粒子が混合されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記粒子が混合されている前記絶縁材の領域は、前記冷却管が配置されていない前記長軸と前記筒状の導体とが交差する位置を中心として予め定めた幅の領域であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記熱伝導率の大きな粒子は、シリカ、アルミナ、窒化アルミおよび窒化ホウ素のいずれかであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記筒状の導体の両端にそれぞれ配置された前記冷却管の間には、静磁場均一度を調整するためのシムコイルが配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記傾斜磁場コイルは、前記傾斜磁場を発生する主コイルと、前記傾斜磁場が前記静磁場発生部側に漏れるのを防止するシールドコイルとを有し、
少なくとも前記主コイルが、前記内径が扁平な筒状の導体を含み、前記冷却管は、前記主コイルと前記シールドコイルとの間に配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−131009(P2011−131009A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295383(P2009−295383)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]