説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】コントラストの調整のためにRFパルスとして領域選択パルスの印加を伴うイメージングを行う場合において、想定されるコントラストを撮像条件の設定時に容易に把握することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、撮像条件設定手段、確認画像作成手段及びイメージング手段を備える。撮像条件設定手段は、領域選択高周波パルスを含む、コントラストを調整するための複数の高周波プレパルスの印加を伴う撮像条件を設定する。確認画像作成手段は、前記複数の高周波プレパルスの印加領域及び印加回数を含む印加条件に基づいてコントラストを確認するための画像を生成して表示させる。イメージング手段は、前記撮像条件に従って磁気共鳴イメージングを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
MRIでは、所望のコントラストを有する画像を得るために、RFパルスとして様々なプレパルスがデータ収集に先だって印加される。例えば、血管をイメージングする磁気共鳴血管撮影法(MRA: magnetic resonance angiography)では、血流と背景組織とのコントラスト差を得るためにスピンラベリング(標識化)パルス(タグ付けパルスともいう)が印加される。
【0004】
スピンラベリングパルスは、撮像断面に流入する血液や脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)等の流体に含まれるスピンにタグ付けを行うためのプレパルスである。特に血液のスピンラベリングを行うためのスピンラベリングパルスは、ASL (Arterial spin labeling)パルスと呼ばれる。
【0005】
非造影MRAに用いられる代表的なスピンラベリングパルスとしてt-SLIP (TIME-SLIP: time-Spatial Labeling Inversion Pulse)が知られている。t-SLIPは、領域非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスと領域選択IRとで構成される。領域選択IRパルスは撮像領域と独立に任意に設定することが可能である。このため、領域非選択IRパルスでNMR信号を抑制する一方、特定の領域における血液からのNMR信号が強調されるように領域選択IRパルスでラベリング領域をラベリングすると、反転時間(TI: inversion time)後にラベリング領域から流出した血液を高信号部位として選択的に描出することができる。
【0006】
尚、領域非選択IRパルスは、ON/OFFの切換が可能である。領域非選択IRパルスをOFFにすると、領域選択IRパルスの印加によってラベリング領域に含まれる血液からの信号は抑制される。このため、TI後にラベリング領域から流出した血液は低信号部位として描出される。
【0007】
このようなt-SLIPの他、飽和(saturation)パルス等のRFパルスがコントラストの調整のために用いられる。RFプレパルスとして印加されるプレサチュレーション(Presat: presaturation)パルスは、所望の物質のスピンを飽和させることによって所望の物質からの信号を抑制するためのプレパルスである。
【0008】
t-SLIPやPresatパルス等のコントラストの調整のために印加されるRFプレパルスは、互いに組み合わせることが可能である。すなわち、複数の同種又は異種の領域選択RFプレパルス又は領域非選択RFプレパルスをデータ収集に先だって印加することにより、多種多様なコントラストを有するMR画像を収集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−28525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
撮像条件の設定時において単一のRFプレパルスの印加を設定する場合には、容易に目的とするコントラストを把握することができる。すなわち、どのようなコントラストを有する画像が収集されるのかを撮像条件の設定時においてオペレータが容易に把握することができる。
【0011】
しかしながら、領域選択RFプレパルスを含む複数のRFプレパルスの印加を設定する場合には、目的とするコントラストを容易に把握できなくなる可能性がある。例えば、複数の領域選択RFプレパルスの印加領域が異なり、かつ印加領域間にオーバーラップ部分がある場合には、オーバーラップ部分に含まれるスピンが各領域選択RFプレパルスの影響を受ける。更に、180°領域非選択IRパルスが印加されるとスピンの縦磁化が180°反転し、高信号となる部分と低信号となる部分が反転する。
【0012】
この結果、オペレータは、撮像領域の各部分において想定されるコントラストを容易に把握することができなくなる恐れがある。
【0013】
本発明は、コントラストの調整のためにRFパルスとして領域選択パルスの印加を伴うイメージングを行う場合において、想定されるコントラストを撮像条件の設定時に容易に把握することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、撮像条件設定手段、確認画像作成手段及びイメージング手段を備える。撮像条件設定手段は、領域選択高周波パルスを含む、コントラストを調整するための複数の高周波プレパルスの印加を伴う撮像条件を設定する。確認画像作成手段は、前記複数の高周波プレパルスの印加領域及び印加回数を含む印加条件に基づいてコントラストを確認するための画像を生成して表示させる。イメージング手段は、前記撮像条件に従って磁気共鳴イメージングを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により所望のコントラストを得るためのRFプレパルスの印加を伴う撮像条件を設定してイメージングを行う際の流れを示すフローチャート。
【図4】図1に示すコントラスト確認情報作成部におけるコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図。
【図5】図4に示すコントラスト確認画像において血流のコントラストを模擬表示させた例を示す図。
【図6】図1に示すコントラスト確認情報作成部におけるTIの長さに応じたコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図。
【図7】図6に示すIRパルスの印加による縦磁化の時間変化を示す図。
【図8】図1に示すコントラスト確認情報作成部における画像化領域外の領域を含むコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0018】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0019】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0020】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0021】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0022】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0023】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0024】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0025】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0026】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0027】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0028】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0029】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0030】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。以下、ECG信号を取得する場合について述べる。
【0031】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0032】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0033】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。撮像条件設定部40は、プレパルス設定部40A及びコントラスト確認情報作成部40Bを有する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶42及び画像データ記憶部43として機能する。
【0034】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に従ってパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、領域選択RFパルスを含む、コントラストを調整するための複数のRFプレパルスの印加を伴う撮像条件を設定する機能を有している。そのために、撮像条件設定部40は、撮像条件の設定画面を表示装置34に表示させ、撮像条件の設定画面を参照して入力装置33から入力された情報に従って撮像条件を設定するように構成される。
【0035】
例えば、血流やCSF等の流体をイメージングする場合には、3次元(3D: three dimensional)スキャンによって空間領域からNMRデータの収集を実行する3D定常自由歳差運動(SSFP: steady state free precession)シーケンスや3D FASE (fast asymmetric spin echo又はfast advanced spin echo)シーケンスが撮像条件として設定される。
【0036】
更に、MRAにより血流等の周期性を有する対象をイメージングする場合には、ECG信号等の同期信号に同期して所定の心時相においてNMRデータが収集されるようにR波等の基準波からデータ収集時刻までの遅延時間などが撮像条件として設定される。
【0037】
プレパルス設定部40Aは、撮像条件として所望のコントラストを得るために印加すべきRFプレパルスを設定する機能を有する。コントラストを調整するためのRFプレパルスとしては、IRパルス及びPresatパルスが挙げられる。IRパルスは、縦磁化ベクトルを180度反転させるパルスである。またPresatパルスは、縦磁化ベクトルを90度倒してスピンを飽和させるパルスである。
【0038】
また、RFプレパルスには、空間的な印加領域を設定することが可能な領域選択RFプレパルスと、印加領域を設定することができない領域非選択RFプレパルスとがある。領域選択RFプレパルスを印加すれば、印加領域に含まれる血流等の流体をラベリング(タグ付け)することができる。このため、領域選択RFプレパルスの印加後において、領域選択RFプレパルスの印加領域から外部に流出する流体や逆に印加領域の外部から印加領域に流入する流体を選択的に描出することが可能となる。
【0039】
プレパルス設定部40Aでは、所望の数の同種又は異種のRFプレパルスが所望のタイミングで印加されるように撮像条件としてRFプレパルスの印加条件を設定することができる。特に、領域選択IRパルスとON-OFFの切換が可能な非領域選択IRパルスを組合わせたパルスは、t-SLIPパルスと称される。そして、所望のコントラストを得るために領域選択IRパルスを同一又は異なる所望の領域に複数回印加するようにt-SLIPパルスの条件パラメータを設定することができる。また、動脈をラベリングすることによって選択的に描出するRFプレパルスは、ASLパルスと呼ばれる。血液やCSF等の流体をラベリングする場合には、複数のRFプレパルスのうちの少なくとも1つが被検体Pを流れる流体を標識化する領域選択IRパルスや領域選択Presatパルス等の標識化パルスに設定される。
【0040】
コントラスト確認情報作成部40Bは、プレパルス設定部40Aにおいて設定されたRFプレパルスによって得られる画像コントラストをオペレータが視覚的に確認するための画像情報を作成する機能と、作成した画像情報をコントラスト確認情報として撮像条件の設定画面に表示させる機能を有する。
【0041】
より具体的には、コントラスト確認情報作成部40Bは、少なくとも複数のRFプレパルスの印加領域及び印加回数を含む印加条件に基づいてコントラストを確認するための画像を生成して表示させるように構成される。更に、必要に応じて、複数のRFプレパルスの各印加タイミングに基づいて各印加タイミングに応じたT1緩和の影響を表す画像をコントラスト確認情報として生成することもできる。また、想定されるコントラストで流体の流れを表示させる画像を、コントラスト確認情報として生成することもできる。
【0042】
データ処理部41は、シーケンスコントローラ31からNMR信号を取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能及び画像データ記憶部43から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示装置34に表示させる機能を有する。
【0043】
画像処理の例としては、3D画像データを2次元(2D: two dimensional)画像データとして表示させるための最大値投影(MIP: Maximum Intensity Projection)や着目する動脈を選択的に描出するための画像データ間における差分(subtraction)処理などが挙げられる。
【0044】
データ処理部41において生成された位置決め画像データは、撮像条件設定部40における画像化領域やRFプレパルスの印加領域等の撮像条件の設定用に用いられる。更に。データ処理部41において生成された位置決め画像データ等の所望の画像データは、必要に応じてコントラスト確認情報作成部40Bにおいてコントラスト確認情報として画像情報を生成するためのデータとして利用することができる。このため、データ処理部41は、コントラスト確認情報作成部40Bからの要求に応答して必要な画像データを与えるように構成される。
【0045】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0046】
図3は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により所望のコントラストを得るためのRFプレパルスの印加を伴う撮像条件を設定してイメージングを行う際の流れを示すフローチャートである。
【0047】
まず予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0048】
更に、直交3断面画像データ等の基準となる画像データや撮像領域等の撮像条件の設定に必要となる位置決め画像データが予め収集される。
【0049】
そして、ステップS1において、撮像条件設定部40により撮像条件の設定画面が表示装置34に表示される。オペレータは撮像条件の設定画面を参照し、入力装置33を操作することによって撮像条件の各種パラメータの指定情報を撮像条件設定部40に入力する。これにより撮像部位、撮像領域及びパルスシーケンス等の撮像条件が撮像条件設定部40において設定される。また、血流等の周期性を有する流体をイメージングする場合には、ECG同期等のデータ収集タイミングが撮像条件として設定される。
【0050】
更に、入力装置33から入力された情報に従って、コントラスト調整用のRFプレパルスの種類、数、印加領域、印加順序及び印加タイミング等の印加条件がプレパルス設定部40Aにより撮像条件の一部として設定される。RFプレパルスの印加領域は、表示装置34に表示された位置決め画像データ上に設定することができる。
【0051】
次にステップS2において、コントラスト確認情報作成部40Bは、プレパルス設定部40Aにおいて設定されたRFプレパルスの印加条件に基づいて、RFプレパルスの印加によって得られる画像コントラストをオペレータが視覚的に確認するための画像情報を作成する。そして、コントラスト確認情報作成部40Bは、作成した画像情報をコントラスト確認画像情報として撮像条件の設定画面に表示させる。
【0052】
コントラスト確認画像データは、IRパルス及びPresatパルスの印加回数、印加領域及びTIに応じて作成することができる。IRパルスが1回印加されると静磁場の印加によって生じている印加領域の縦磁化ベクトルが反転する。また、Presatパルスが1回印加されると印加領域における縦磁化の絶対値がゼロとなる。そして、RFプレパルスの印加タイミングから時間が経過するにつれて縦(T1)緩和によって縦磁化が回復する。IRパルスの印加タイミングからNMR信号の収集タイミングまでの期間はTIと呼ばれる。
【0053】
画像データの生成に用いられるNMR信号が複素信号の絶対値ではなく正負の値をとり得る実部(real)信号であれば、縦磁化が正の値となっている部位が高信号部位として描出され、縦磁化が負の値となっている部位が低信号部位として描出される。また、グレースケールの輝度表示では、高信号部位は白く、低信号部は黒く表示されることとなる。
【0054】
従って、IRパルスが偶数回印加される領域は、縦磁化が正の値となり白い高信号領域として描出される一方、IRパルスが奇数回印加される領域は、縦磁化が負の値となり黒い低信号領域として描出されることとなる。
【0055】
そこで、IRパルスが偶数回印加される領域を白色で、奇数回印加される領域を黒色でそれぞれ模式的に表示させる画像データをコントラスト確認画像データとして作成することができる。もちろん、IRパルスの印加領域を設定するための位置決め画像データに高信号となる領域及び低信号となる領域を視覚的に識別表示させる画像データをコントラスト確認画像データとして作成ようにしてもよい。作成されたコントラスト確認画像はリアルタイムに表示装置34上の撮像条件の設定画面に表示させることができる。
【0056】
図4は、図1に示すコントラスト確認情報作成部40Bにおけるコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図である。
【0057】
例えば、撮像領域内のTAG1で示される矩形の空間領域を印加領域とする第1の領域選択IRパルスを最初に設定すると、IMAGE1に示すようなコントラスト確認画像が表示される。すなわち、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1には、1回IRパルスが印加される。一方、他の領域はIRパルスが印加されない。従って、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1が黒又は濃い灰色で表示され、他の領域が白又は薄い灰色で表示されたコントラスト確認画像が表示される。
【0058】
次に、TAG2で示される矩形の空間領域を印加領域とする第2の領域選択IRパルスを設定すると、IMAGE1と同様にIMAGE2に示すようなコントラスト確認画像が表示される。第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG2は、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1と異なり、かつ第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1とオーバーラップする部分を有する矩形領域である。
【0059】
更に第2の領域選択IRパルスの印加と第1の領域選択IRパルスの印加とを組合せると、IMAGE3に示すようなコントラスト確認画像が表示される。すなわち、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1及び第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG2のうち互いにオーバーラップしない領域は1回IRパルスが印加される。一方、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1及び第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG2のうち互いにオーバーラップする領域は2回IRパルスが印加される。
【0060】
従って、互いにオーバーラップしない第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1及び第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG2が黒又は濃い灰色で表示され、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1と第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG2とのオーバーラップ領域を含む他の領域が白又は薄い灰色で表示されたコントラスト確認画像が表示される。
【0061】
次に、第2の領域選択IRパルスの印加領域と同一の印加領域TAG2に第3の領域選択IRパルスを設定すると、IMAGE4に示すようなコントラスト確認画像が表示される。そして、第3の領域選択IRパルスを第1及び第2の領域選択IRパルスと組合せる設定を行うと、設定は、視覚的にはIMAGE2に示すようなラベリング効果をIMAGE3に示すようなラベリング効果に追加することに相当する。
【0062】
この場合、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1のうち印加領域TAG2とオーバーラップしない領域は第1の領域選択IRパルスのみが1回が印加される。一方、第2及び第3の領域選択IRパルスの印加領域TAG2のうち印加領域TAG1とオーバーラップしない領域はIRパルスが2回印加される。また、第1、第2及び第3の領域選択IRパルスの印加領域TAG1, TAG2のオーバーラップ領域にはIRパルスが3回印加される。換言すれば、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1には、1回又は3回IRパルスが印加され、他の領域にはIRパルスが印加されないか2回印加される。
【0063】
従って、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG1が黒又は濃い灰色で表示され、第2及び第3の領域選択IRパルスの印加領域TAG2を含む他の領域が白又は薄い灰色で表示されたコントラスト確認画像が表示される。
【0064】
尚、図4の例では、IRパルスが2回印加された領域とIRパルスが印加されない領域とを視覚的に識別できるように、白及び薄い灰色でコントラスト確認画像が色分けされている。すなわち、第2及び第3の領域選択IRパルスの印加領域TAG2のうち印加領域TAG1とオーバーラップしない領域はIRパルスが2回印加されるので白で表示され、領域選択IRパルスが印加されない領域は薄い灰色で表示されている。
【0065】
次に、領域非選択IRパルスの印加を設定すると、IMAGE6に示すようなコントラスト確認画像が表示される。そして、領域非選択IRパルスを第1から第3の領域選択IRパルスと組合せる設定を行うと、設定は、視覚的にはIMAGE5に示すようなラベリング効果をIMAGE4に示すようなラベリング効果に追加することに相当する。
【0066】
この場合、全ての撮像領域においてIRパルスの印加回数が1回増加し、データ収集期間における縦磁化が反転する。従って、IMAGE5に示すコントラスト確認画像の輝度を反転させた画像がIMAGE6に示すコントラスト確認画像となる。
【0067】
但し、図4の例では、領域非選択IRパルスのみが印加される領域と、領域選択IRパルスと領域非選択IRパルスの双方が合計奇数回だけ印加される領域とを視覚的に識別できるように、濃度で色分けされている。すなわち、領域選択IRパルスと領域非選択IRパルスの双方が合計奇数回だけ印加される領域は濃い灰色で表示され、領域非選択IRパルスのみが印加される領域は若干薄い灰色で表示されている。
【0068】
尚、図4は、IRパルスの設定順序に従ってコントラスト確認画像が更新される例を示しており、必ずしもIRパルスの設定順序と設定されたIRパルスの印加順序は一致しない。すなわち、既に設定されたIRパルスよりも時間的に先に印加すべきIRパルスを既に設定されたIRパルスよりも後に設定することができる。
【0069】
また、図4には、IRパルスをRFプレパルスとして印加する場合の例を示したがPresatパルスを印加する場合においても、印加領域を低信号化される領域としてコントラスト確認画像に模式的に表示させることができる。この場合、必要に応じてグレーススケールで信号の強弱を表すこともできる。
【0070】
血流やCSF等の流体をイメージングする場合には、領域選択IRパルスの印加領域への流体のWash-in又は領域選択IRパルスの印加領域からの流体のWash-outによって背景組織と識別できるように流体を選択的に描出することができる。そこで、仮想的な流体の流れを想定されるコントラストでコントラスト確認画像に表示させるようにしてもよい。
【0071】
図5は、図4に示すコントラスト確認画像において血流のコントラストを模擬表示させた例を示す図である。
【0072】
図5(A)は、WB (white blood)画像として血流が描出される様子を模式的に表したコントラスト確認画像である。高信号領域においてラベリングされた血液が低信号領域に流れ込むと、図5(A)に示すように背景組織が黒く描出されるのに対してラベリングされた血液が白く描出される。このため、血流信号と背景信号との間に良好なコントラスト差を有する血流像を得ることができる。
【0073】
一方、図5(B)は、BB (black blood)画像として血流が描出される様子を模式的に表したコントラスト確認画像である。低信号領域においてラベリングされた血液がラベリング領域から流出すると、図5(B)に示すように血液を黒く描出することができる。尚、血液の流出先が高信号領域であれば背景組織が白く描出されるのに対して血液が黒く描出されるため良好なコントラスト差を得ることができる。
【0074】
従って、血液がWBとして描出されるかBBとして描出されるのかは、ラベリング領域と血流が流れる方向に依存している。そこで、流体の流れをコントラスト確認画像に表示させる場合には、コントラスト確認情報作成部40Bが、ラベリング領域、血管の輪郭情報、血流が流れる方向及びIRパルスの印加回数に基づいてWB画像データやBB画像データを模擬的に表示させるコントラスト確認画像データを生成する。
【0075】
この場合、コントラスト確認情報作成部40Bは、まず位置決め画像データ等の予め収集された任意の画像データからラベリング領域の境界を通る血管の輪郭を抽出する。血管の輪郭抽出処理は画素値に対する閾値処理やエッジ抽出処理等の公知の処理を含む画像処理によって行うことができる。
【0076】
特に血流のイメージングの場合には、動脈がイメージングされる場合が多い。動脈は心臓の拡張期に対応する画像データと収縮期に対応する画像データ間における差分処理によって選択的に描出することができる。そこで、拡張期に対応する画像データと収縮期に対応する画像データの差分画像データを用いれば、より明瞭に動脈の輪郭を抽出することができる。
【0077】
次に、コントラスト確認情報作成部40Bは、解剖学情報に基づく判定基準又は経験的な判定基準等の任意の判定処理基準に従って、ラベリング領域の境界を通る血管内を流れる血流の方向を自動判定する。尚、血流の方向の判定対象となる血管をオペレータが入力装置33の操作によって事前に指定するようにしてもよい。
【0078】
そして、コントラスト確認情報作成部40Bは、高信号部位となるラベリング領域から外部の低信号領域に向かって血流が流れる血管及び高信号部位となる外部から低信号部位となるラベリング領域に流入する血管をWB領域として模擬表示させる一方、低信号部位となるラベリング領域から外部の高信号領域に向かって血流が流れる血管及び低信号部位となる外部から高信号部位となるラベリング領域に流入する血管をBB領域として模擬表示させるコントラスト確認画像データを生成する。
【0079】
生成されたコントラスト確認画像データは、表示装置34に表示される。そして、オペレータは、コントラスト確認画像上にてWBとして描出される血管とBBとして描出される血管を把握することができる。
【0080】
このように、RFプレパルスの印加領域の境界を通る血管内を流れる血流の方向を判定し、血流の方向に基づいて血液が白く描出されるのか黒く描出されるのかを表すコントラスト確認画像を生成することができる。
【0081】
尚、オペレータが入力装置33の操作によって血管ごとに血流が流れる方向を手動で指定したり、デフォルトとして自動判定された血流の方向を入力装置33の操作によって修正できるようにしてもよい。
【0082】
図4及び図5に示す例ではIRパルスの印加順序及びT1緩和を考慮せずにIRパルスの印加回数及び印加領域に基づいて簡易にコントラスト確認画像を表示させる場合について説明したが、IRパルスやPresatパルス等の各RFプレパルスの各印加タイミングに基づいて各印加タイミングに応じたT1緩和の影響を表すコントラスト確認画像を生成するようにしてもよい。
【0083】
すなわち、IRパルスの印加領域における信号強度はTIに依存して変化する。同様にPresatパルスの印加タイミングからデータ収集タイミングまでの期間もPresatパルスの印加領域からの信号強度に影響を及ぼす。そこで、TI及びPresatパルスの印加タイミングからデータ収集タイミングまでの期間に応じた相対的な信号強度の指標を模式的に表すコントラスト確認画像を作成することもできる。
【0084】
例えば、最も低信号となる領域を0%とする一方、最も高信号となる領域を100%とする相対的な信号強度の割合を領域ごとに表示させるコントラスト確認画像を作成することができる。信号強度の割合は、割合に応じたグレースケールで表すことができる。また、信号強度の割合自体を数値としてコントラスト確認画像上に表示させるようにしてもよい。換言すれば、最小値を0%とし、最大値を100%とする正規化された相対信号強度のマップをコントラスト確認画像として作成することができる。
【0085】
図6は、図1に示すコントラスト確認情報作成部40BにおけるTIの長さに応じたコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図であり、図7は図6に示すIRパルスの印加による縦磁化の時間変化を示す図である。
【0086】
図7(A), (B), (C)において各横軸は時間tを示し、各縦軸は正規化された縦磁化Mzを示す。図7(A)に示すようにIRパルスの印加前における初期状態t=0では、静磁場の影響によって撮像領域Rの縦磁化Mz0は正の最大値+1となる。
【0087】
そして、例えば図6に示すような印加領域TAG11に、TI=700に設定された第1の領域選択IRパルスの印加が設定される。そうすると、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11における縦磁化Mz11は図7(A)に示すようにデータ収集期間からのTI=700に相当するタイミングにおいて最大値+1から負の最小値-1に反転する。一方、他の撮像領域Rの縦磁化Mz0は正の最大値+1を維持する。
【0088】
従って、第1の領域選択IRパルスの印加直後には、印加領域TAG11から最小の強度を有する信号が発生し、他の撮像領域Rからは最大の強度を有する信号が発生する。つまり、第1の領域選択IRパルスの印加直後の印加領域TAG11の内外間におけるコントラスト差は最大となる。
【0089】
このため、図6に示すように第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11内は黒色で、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11外の撮像領域Rは白色で表示されたIMAGE11がコントラスト確認画像として作成される。また、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11には、0%と表示される。
【0090】
第1の領域選択IRパルスの印加直後からは、T1緩和によって図7(A)の点線に示すように第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11内における縦磁化Mz11が徐々に回復していく。
【0091】
次に、図6に示すように第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11と異なり、かつオーバーラップする印加領域TAG12に、TI=400に設定された第2の領域選択IRパルスの印加が設定される。これは、視覚的にはコントラスト確認画像IMAGE11で表されるラベリング効果がT1緩和による影響を受けた後にコントラスト確認画像IMAGE12で表されるラベリング効果を追加することに相当する。
【0092】
そうすると、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11とオーバーラップしない第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG12における縦磁化Mz12は図7(B)に示すようにTI=400に相当するタイミングにおいて最大値+1から負の値に反転する。一方、第1及び第2の領域選択IRパルスのいずれも印加されない他の撮像領域Rの縦磁化Mz0は正の最大値+1を維持する。
【0093】
更に、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11とオーバーラップする第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG12における縦磁化Mz11_12はTI=700からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11における縦磁化Mz11が反転した値となる。一方、第2の領域選択IRパルスの印加領域TAG12とオーバーラップしない第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11、つまり第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11における縦磁化Mz11は、TI=700からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した値を維持する。
【0094】
尚、図7(B)において実際にはTI=400のタイミングにおける各領域の縦磁化Mz0, Mz11, Mz12, Mz11_12を表すベクトルは重なるが、説明のため重ねずに表示されている。
【0095】
第2の領域選択IRパルスの印加直後には、第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12からは最も小さい強度の信号が発生し、第1及び第2の領域選択IRパルスのいずれも印加されない撮像領域Rからは最大の強度の信号が発生する。第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11からは相対的に強度が小さい信号が発生し、第1及び第2の領域選択IRパルスの双方が印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域からは相対的に強度が大きい信号が発生する。
【0096】
このため、図6に示すように第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12内は黒色で、第1及び第2の領域選択IRパルスのいずれも印加されない撮像領域Rは白色で、第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11内は濃い灰色で、第1及び第2の領域選択IRパルスの双方が印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域は薄い灰色で、それぞれ表示されたIMAGE13がコントラスト確認画像として作成される。
【0097】
また、第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12には0%と、第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11には40%と、第1及び第2の領域選択IRパルスの双方が印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域には80%と、それぞれ相対的な信号強度の割合が数値として表示される。
【0098】
次に、第1及び第2の領域選択IRパルスの印加前のTI=800となるタイミングにおいて領域非選択IRパルスの印加が設定される。これは、視覚的にはコントラスト確認画像IMAGE13で表されるラベリング効果に先だってコントラスト確認画像IMAGE14で表されるラベリング効果を追加することに相当する。
【0099】
そうすると、図7(C)に示すように領域非選択IRパルスの印加直後には、全ての撮像領域Rの縦磁化Mz0が最大値+1から負の最小値-1に反転する。そして、第1の領域選択IRパルスの印加直後には、第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11における縦磁化Mz11が、TI=800からTI=700までの期間におけるT1緩和によって回復した撮像領域Rの縦磁化Mz0が反転した値となる。一方、他の撮像領域Rの縦磁化Mz0はTI=800からTI=700までの期間におけるT1緩和によって回復した値を維持する。
【0100】
更に、第2の領域選択IRパルスの印加直後において、第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12における縦磁化Mz12は、第1及び第2の領域選択IRパルスのいずれも印加されない撮像領域Rの縦磁化Mz0がTI=800からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した反転した値となる。一方、第1及び第2の領域選択IRパルスのいずれも印加されない撮像領域Rの縦磁化Mz0はTI=800からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した値を維持する。
【0101】
また、第2の領域選択IRパルスの印加直後において、第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11における縦磁化Mz11は、TI=700からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した値となる。一方、第1の領域選択IRパルス及び第2の領域選択IRパルスの双方が印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域における縦磁化Mz11_12は、TI=700からTI=400までの期間におけるT1緩和によって回復した第1の領域選択IRパルスの印加領域TAG11における縦磁化Mz11を反転した値となる。
【0102】
この結果、図7(C)に示す例では、データ収集期間において領域非選択IRパルス及び第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11から最も大きい強度の信号が発生し、第1及び第2の領域選択IRパルス並びに領域非選択IRパルスの全てが印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域から最小の強度の信号が発生する。また、領域非選択IRパルスのみが印加される撮像領域Rからは相対的に強度が小さい信号が発生し、領域非選択IRパルス及び第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12からは相対的に強度が大きい信号が発生する。
【0103】
このため、図6に示すように領域非選択IRパルス及び第1の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG11内は白色で、第1及び第2の領域選択IRパルス並びに領域非選択IRパルスの全てが印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域は黒色で、領域非選択IRパルス及び第2の領域選択IRパルスのみが印加される印加領域TAG12内は薄い灰色で、領域非選択IRパルスのみが印加される撮像領域Rは濃い灰色で、それぞれ表示されたIMAGE15がコントラスト確認画像として作成される。
【0104】
また、領域非選択IRパルス及び第1の領域選択IRパルスのみの印加領域TAG11には100%と、領域非選択IRパルス及び第2の領域選択IRパルスのみの印加領域TAG12には80%と、領域非選択IRパルスのみが印加される撮像領域Rには40%と、第1及び第2の領域選択IRパルス並びに領域非選択IRパルスの全てが印加される印加領域TAG11, TAG12のオーバーラップ領域には0%と、それぞれ相対的な信号強度の割合が数値として表示される。
【0105】
このように、TIに応じた領域ごとのT1緩和を考慮した相対信号強度を視覚的に確認できるようにグレースケールや数値で模擬表示させるコントラスト確認画像を生成することができる。相対信号強度を表す数値は、図7に示すように割合とする他、正規化された縦磁化の値や信号強度自体の値としてもよい。
【0106】
尚、位置決め画像等の参照画像上にコントラストを確認するための情報を表示させる画像を、コントラスト確認画像として生成する場合には、様々な方法でコントラストを確認するための情報を表示させることができる。簡易な例としては、領域選択RFプレパルスの印加領域の枠線をコントラストに対応するグレースケールで表示させる例が挙げられる。或いは、グレースケールの参照画像を表示させるためのR(red)信号、G(green)信号及びB(blue)信号のうちの任意の1つ又は2つを想定されるコントラストに合わせて変調させる表示方法も可能である。
【0107】
T1緩和の時定数(T1値)は、物質ごとの固有の値として既知である。従って、TI及びT1値に基づいて各領域における相対信号強度を求めることができる。実際のイメージングにおいては、血液と背景組織のように組織間におけるT1緩和時間の違いを利用し、TIの調整によって血液等の所望の組織からの信号が選択的に強調又は抑制される。そこで、コントラスト確認画像を生成する場合には、各領域を構成する背景組織等の主成分に対応するT1値を用いたり、或いはT1値の加重平均等の代表値を用いて各領域における相対信号強度を近似的に推定することができる。
【0108】
領域毎の物質に応じたT1値を用いる場合には、物質ごとに異なる値となるT1値に応じたT1緩和の影響を表す画像がコントラスト確認画像として生成される。従って、領域毎のT1値を特定することが必要となる。
【0109】
T1値は、物質の特定情報をパラメータとする変数となる。すなわち、T1値は、予め大脳の白質(WM: while matter)、大脳の灰白質(GM: gray matter)、脂肪、心筋、前立腺、肝臓等の物質名と関連付けることができる。また、頭部、腹部、胸部等の撮像部位や領域選択RFプレパルスの印加部位が特定されれば、部位を構成する主要な物質を特定することができる。従って、部位とT1値とを関連付けることもできる。
【0110】
そこで、領域選択RFプレパルスの印加領域及び画像化領域に対応する物質、T1値及び部位の少なくとも1つをオペレータが手動で指定できるようにすることができる。具体例として、入力装置33の操作によってプルダウンメニュー等の選択肢からラベリング対象となる物質又は部位並びに画像化領域における物質又は部位を選択できるようにすることができる。或いは、入力装置33の操作によって領域選択RFプレパルスの印加領域及び画像化領域に対応するT1値の代表値を数値として直接入力するようにしてもよい。
【0111】
そして、コントラスト確認情報作成部40Bが入力装置33から物質の指定情報を取得し、指定された物質のT1値、指定されたT1値及び指定された部位に対応する物質のT1値の少なくとも1つに基づいてT1緩和の影響を表す画像を生成することができる。
【0112】
一方、領域選択RFプレパルスの印加領域及び画像化領域の少なくとも一方に対応するT1値を自動的に設定又は提示するようにすることもできる。例えば、入力装置33の操作によって領域選択RFプレパルスの印加領域が手動で設定された場合には、通常血液等の流体のラベリングが目的であると考えられる。そこで、入力装置33の操作によって設定された領域選択RFプレパルスの印加領域におけるT1値を、血液又はCSFのT1値に自動的に設定することができる。
【0113】
他方、入力装置33の操作によって設定された領域選択RFプレパルスの印加領域以外の領域におけるT1値については、背景組織のT1値に自動設定することができる。但し、背景組織としては、GMや心筋等のように撮像部位に応じて複数の候補があるため選択肢から選択するようにしてもよい。
【0114】
更に、位置決め画像等の参照画像をコントラスト確認画像の生成に用いる場合には、参照画像に対するエッジ抽出処理等の輪郭抽出処理によって領域を抽出することができる。そこで、抽出された領域に対応する物質のT1値に基づいてT1緩和の影響を表す画像を生成することができる。この場合、輪郭抽出処理によって抽出された領域の物質又は部位を特定するために解剖学情報を参照するようにしてもよい。具体的には、解剖学情報とのパターンマッチングや解析処理によって領域ごとの物質又は部位を特定することができる。
【0115】
ところで、図4、図5及び図6には、RFプレパルスによるラベリング領域を撮像領域内に設定する例を示したが、撮像領域の外部にRFプレパルスによるラベリング領域を設定してもよい。この場合には、撮像領域の外部においてラベリングされた血液等の流体が撮像領域に流入することによってラベリングされた流体が描出される。
【0116】
図8は、図1に示すコントラスト確認情報作成部40Bにおける画像化領域外の領域を含むコントラスト確認用の画像情報の作成例を示す図ある。
【0117】
図8に示すように、画像化領域の外部に設定された領域選択RFプレパルスの印加領域及び画像化領域と同一の領域として設定された領域選択高周波パルスの印加領域の少なくとも一方を確認することが可能な画像としてコントラスト確認用の画像情報を作成することができる。図8に示す例では、TAG3で識別される領域選択RFプレパルスの印加領域が画像化領域の外部に設定されていることが確認できる。
【0118】
また、図8に示すコントラスト確認画像の下部に表示されるプルダウンメニューの例のように、領域選択RFプレパルスの印加領域及び画像化領域ごとに物質を指定することができる。これにより、TI及び領域毎のT1値に応じたコントラストを有するコントラスト確認画像を生成及び表示させることができる。
【0119】
更に、血液やCSF等の流体のT1値に基づく明るさを、グレースケールで画像化領域等の任意の位置に模式的に表示させることもできる。図8に示す例では、流体のT1値に基づく明るさが入力装置33の操作によって設定された領域選択RFプレパルスの印加領域以外の画像化領域に表示されている。このため、オペレータは、流体のT1値に基づく明るさを、入力装置33の操作によって設定された領域選択RFプレパルスの印加領域以外の画像化領域に対応するT1値に基づく明るさと比較することができる。
【0120】
次に図3のステップS3において、撮像条件設定部40は、入力装置33からのイメージングスキャンの開始指示の入力待機状態となる。オペレータは、撮像条件の設定画面に表示されたコントラスト確認画像を参照し、RFプレパルスの印加条件を含む撮像条件を再設定することができる。
【0121】
その場合には、ステップS3において撮像条件設定部40によりスキャン開始の指示情報が入力されていないと判定される。そして、再びステップS1において、撮像条件設定部40によりRFプレパルスの印加条件を含む撮像条件の再設定が行われる。
【0122】
一方、オペレータがRFプレパルスの印加条件を含む撮像条件の再設定が不要と判断した場合には、入力装置33から撮像条件設定部40にスキャン開始の指示情報が入力される。このため、ステップS3において撮像条件設定部40によりスキャン開始の指示情報が入力されたと判定される。
【0123】
この場合、ステップS4において、撮像条件設定部40において設定されたRFプレパルスの印加条件を含む撮像条件に従ってMRイメージングスキャンが実行される。
【0124】
すなわち、撮像条件設定部40からパルスシーケンスを含む撮像条件がシーケンスコントローラ31に出力される。シーケンスコントローラ31は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRFプレパルスやRF励起パルス等のRF信号を発生させる。
【0125】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、NMR信号をシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、NMR信号をコンピュータ32に出力する。
【0126】
そうすると、データ処理部41は、シーケンスコントローラ31からNMR信号を取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する。
【0127】
MRAでは、上述したk空間データの収集及び配置がECG信号に同期して実行される場合が多い。その場合には、ECGユニット38により取得されたECG信号がシーケンスコントローラ31に出力されて同期信号として利用される。
【0128】
また、k空間データは、領域選択IRパルスや領域非選択IRパルス等のRFプレパルスによって着目血管内における血流等の特定の対象から信号強度が強調又は抑制されたNMR信号として収集される。
【0129】
次にステップS5において、イメージングスキャンによって収集されたk空間データに基づいて画像データが生成される。すなわち、データ処理部41は、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する。そして、生成された画像データには必要な画像処理が施された後、表示装置34に表示される。
【0130】
この結果、撮像条件の設定画面においてコントラスト確認画像によって予め確認したコントラストを有する血流像等のMR画像が表示装置34に表示される。そして、必要に応じて画像データは画像データ記憶部43に保存される。
【0131】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、所望のコントラストを得るために領域選択RFパルスを含む複数のRFプレパルスの印加を伴う撮像条件を設定する場合において、RFプレパルスの印加領域や印加回数等の印加条件に基づいて画像コントラストを確認するためのコントラスト確認画像を表示するようにしたものである。
【0132】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、関心領域(ROI: region of interest)が低信号領域として濃く描出されるのか高信号領域として白く描出されるのかを事前に確認することができる。この結果、RFプレパルスの印加領域等の撮像条件を容易かつ的確に設定することが可能となる。特に、血管の走行方向に応じたRFプレパルスの印加領域の設定が重要なMRAにおいて有効である。
【0133】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0134】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
40A プレパルス設定部
40B コントラスト確認情報作成部
41 データ処理部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
領域選択高周波パルスを含む、コントラストを調整するための複数の高周波プレパルスの印加を伴う撮像条件を設定する撮像条件設定手段と、
前記複数の高周波プレパルスの印加領域及び印加回数を含む印加条件に基づいてコントラストを確認するための画像を生成して表示させる確認画像作成手段と、
前記撮像条件に従って磁気共鳴イメージングを実行するイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記確認画像作成手段は、前記複数の高周波プレパルスの各印加タイミングに基づいて各印加タイミングに応じた縦緩和の影響を表す画像を生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記確認画像作成手段は、想定されるコントラストで流体の流れを表示させる画像を、前記コントラストを確認するための画像として生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記確認画像作成手段は、高周波プレパルスの印加領域の境界を通る血管内を流れる血流の方向を判定し、前記方向に基づいて血液が白く描出されるのか黒く描出されるのかを表す画像を生成するように構成される請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記撮像条件設定手段は、前記複数の高周波プレパルスのうちの少なくとも1つとして被検体を流れる流体を標識化するための標識化パルスを設定するように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記撮像条件設定手段は、前記標識化パルスとして領域選択反転回復パルスを設定するように構成される請求項5記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記確認画像作成手段は、物質ごとに異なる値となるT1値に応じた縦緩和の影響を表す画像を、前記コントラストを確認するための画像として生成するように構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
領域選択高周波プレパルスの印加領域に対応する物質、T1値及び部位の少なくとも1つを指定する物質指定手段を更に備え、
前記確認画像作成手段は、指定された前記物質のT1値、指定された前記T1値及び指定された前記部位に対応する物質のT1値の少なくとも1つに基づいて前記縦緩和の影響を表す画像を生成するように構成される請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記確認画像作成手段は、入力装置の操作によって設定された領域選択高周波プレパルスの印加領域におけるT1値を、血液のT1値として前記縦緩和の影響を表す画像を生成するように構成される請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記確認画像作成手段は、入力装置の操作によって設定された領域選択高周波プレパルスの印加領域以外の領域におけるT1値を、背景組織のT1値として前記縦緩和の影響を表す画像を生成するように構成される請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記確認画像作成手段は、流体のT1値に基づく明るさを、入力装置の操作によって設定された領域選択高周波プレパルスの印加領域以外の領域に対応するT1値に基づく明るさと比較できるように表示させるように構成される請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記確認画像作成手段は、被検体の参照画像上にコントラストを確認するための情報を表示させる画像を、前記コントラストを確認するための画像として生成するように構成される請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記確認画像作成手段は、前記参照画像に対する輪郭抽出処理によって抽出された領域に対応する物質のT1値に基づいて縦緩和の影響を表す画像を生成するように構成される請求項12記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記確認画像作成手段は、画像化領域の外部に設定された領域選択高周波プレパルスの印加領域及び画像化領域と同一の領域として設定された領域選択高周波プレパルスの印加領域の少なくとも一方を確認することが可能な画像として前記コントラストを確認するための画像を生成するように構成される請求項1乃至13のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−223557(P2012−223557A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47434(P2012−47434)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】