説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 傾斜磁場コイルや高周波コイルも組み合わせて、閉塞感の少ない磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】 被検体が配置される撮影空間の周りに配置され、前記撮影空間に水平方向の静磁場を発生させる静磁場発生手段と、該静磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、該傾斜磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に高周波磁場を発生させる高周波磁場発生手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記高周波磁場発生手段の前記撮影空間側の断面形状が、上に凸の略三角形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を映像化する核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に、被検体が配置される空間の開放性を高めた磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測され、計測されたNMR信号を2次元又は3次元フーリエ変換することにより画像を再構成する。
【0003】
このMRI装置には、静磁場を発生するための静磁場発生装置が用いられ、その静磁場発生源として超電導コイルが用いられているものがある。以下、このような静磁場発生装置を単に超電導磁石と表記する。この超電導磁石には、主にトンネル型構造のものと対向型構造のものがある。トンネル型超電導磁石は、その内部に円筒形状の空隙空間を有して、その空隙空間に円筒軸方向の均一な静磁場を発生し、この円筒空隙空間内に被検体がその体軸方向と静磁場方向とが一致するように配置されて撮影される。一方、対向型超電導磁石は、空隙空間を間に挟んで一対の超電導コイルを同軸に配置し、その空隙空間に対向方向の均一静磁場を発生し、この空隙空間に被検体がその体軸と静磁場方向とが直交するように配置されて撮影される。
【0004】
しかし、トンネル型超電導磁石の場合、撮影の際に被検体が狭い円筒空間に配置されるために、被検体に閉塞感を与えてしまう。ここでいう閉塞感とは、以下の3つから特徴付けられる。一つ目は、被験者が寝た時の視線方向の距離である。例え横方向が広く開いていたとしても、目の前を遮る壁の様なものが存在すると閉塞感を感じる。2つ目は、被検体の両脇の自由度が妨げられることである、両脇が押さえつけるような構成は閉塞感を与える。3つ目は、サポート要員のアクセス性である。先の2つ以外にも、被検体が周囲からアクセスしにくい位置に配置されていることは、心理的に閉塞感を与えるもととなる。
【0005】
これらの閉塞感の問題は特に閉所恐怖症の被検体にとっては深刻であり、検査を受けることが出来ない場合もある。また、幼児であれば、近くに母親を確認できないと不安になって撮影中に動き出し、撮影が出来ない恐れがある。また、意識不明の被検体や非協力的な被検体に対しては、周囲からサポートする必要があるものの、上述したトンネル型では外部から被検体へのアクセスが困難となる。さらには、撮影を行いながら手技を行ったり、薬剤をカテーテルを介して投与したりするインターベンショナルMRIにおいても、外部からの被検体へのアクセスすることが困難となる。
【0006】
一方、被検体の閉所恐怖感を低減させるために静磁場発生手段の断面形状を略多角形とした磁気共鳴イメージング装置に関する従来技術に特許文献1記載の従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2007/007630号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の従来技術では静磁場発生手段の断面形状のみについての技術しか開示されていず、傾斜磁場コイルや高周波コイルを組み合わせてどのような磁気共鳴イメージング装置が提供できるか開示されていなかった。本発明では、傾斜磁場コイルや高周波コイルも組み合わせて、閉塞感の少ない磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。特に、上述した3つの閉塞感を与える要素のうち、先の2つを解決することを目的とする。つまり、一つは被検体が寝た時の視線方向距離を長く取ることを目的とし、もう一つは、両脇から押さえつけない様な広い患者空間を提供することを目的とする。この2つの目的を同時に解決する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の磁気共鳴イメージング装置は以下のように構成される。即ち、本発明によれば、被検体が配置される撮影空間の周りに配置され、前記撮影空間に水平方向の静磁場を発生させる静磁場発生手段と、該静磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、該傾斜磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に高周波磁場を発生させる高周波磁場発生手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記高周波磁場発生手段の前記撮影空間側の断面形状が、上に凸の略三角形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0010】
また、前記静磁場発生手段は、前記撮影空間側の断面形状が円形であり、前記傾斜磁場発生手段は、その撮影空間側の断面形状が、上に凸の略三角形に形成されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0011】
また、前記静磁場発生手段は、前記撮影空間側の断面形状が、円形であり、前記傾斜磁場発生手段は、その静磁場発生手段側と撮影空間側共に、断面形状が円形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0012】
また、前記傾斜磁場発生手段は、断面が円形のシールドコイルと、断面が上に凸の略三角形状のメインコイルから構成されるアクティブシールド型傾斜磁場コイルである磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0013】
また、前記傾斜磁場発生手段の撮影空間側の内面およびその表面にあるRFシールドと、RFコイルとの間隔が一定でないことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0014】
また、前記高周波磁場発生手段は、RFシールドとの距離が短いところが、導体の密度を増していることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0015】
また、前記高周波磁場発生手段は、RFシールドとの距離が短いところが、導体の長さが長くなっていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、傾斜磁場コイルや高周波コイルも組み合わせて、閉塞感の少ない磁気共鳴イメージング装置を提供できる。
【0017】
特に、被検体の入るボアは上に凸の略三角形状となっており、視線方向距離は従来よりも長く取ることが出来る。また、略三角の底辺に横たわる被検体にとっては、ボア内の横方向の距離は従来より広くなっており、従来よりも開放感を感じることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1を示す図。
【図2】実施例2を示す図。
【図3】ほぼ等間隔のラングによって、RF照射コイルを形成する例を示す図。
【図4】不均等な配置感覚でラング導体を配置する例を示す図。
【図5】ラング導体の長さを異ならせる例を示す図。
【図6】実施例3を示す図。
【図7】MRI装置の一例の全体概要
【図8】静磁場磁石の従来例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置用超電導磁石の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
最初に、MRI装置の一例の全体概要を図7に基づいて説明する。図7に示すMRI装置は、テーブル19に載置された被検体10に印加する静磁場を発生する静磁場磁石12と、被検体10に印加する互いに異なる3方向、例えば、X、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル14が設けられている。これらの3方向のいずれかをスライス方向、位相エンコード方向、周波数エンコード方向として傾斜磁場を印加する。また、被検体10に印加する高周波磁場パルスすなわちRFパルスを発生するRFコイル16と、被検体10から発生するNMR信号すなわちエコー信号を検出するRFプローブ18が備えられている。また、RFプローブ18により得られたエコー信号に基づいて画像を再構成する信号処理部20と、信号処理部20により再構成された画像を表示する表示部22とが設けられている。
【0021】
このように構成されたMRI装置の動作について説明する。静磁場磁石12により被検体10に静磁場が印加される。静磁場を印加された被検体10の観察部位(例えば心臓)に対して、制御部24の指令に基づいた傾斜磁場電源26からの電流に応じて、傾斜磁場コイル14からスライス選択傾斜磁場が印加される。さらに、スライス選択傾斜磁場の印加とともに、制御部24の指令に基づいた高周波送信部28からの高周波電流に応じてRFコイル16からRFパルスが観察部位に対して印加される。その結果、観察部位の構成物質中の原子核(例えば水素原子核)にNMR現象が誘起されてエコー信号が発生する。NMR現象が誘起された観察部位の位置情報を取得するために、傾斜磁場コイル14から位相エンコード傾斜磁場と周波数エンコード傾斜磁場がエコー信号に印加される。このエコー信号が制御部24の指令に基づいてRFプローブ18から信号検出部30により検出される。検出されたエコー信号に基づいて信号処理部20により観察部位の断層像が2次元的又は3次元的に再構成され、再構成された2次元又は3次元画像が表示部22に表示される。
【0022】
上記静磁場磁石12の従来例を図8に示す。図8は軸長Lのトンネル型超電導磁石12aであり、円筒形状の空隙空間50(以下、被検体が配置される静磁場が印加された空隙空間を「被検体空間」と表記する。)内に被検体10が配置されて撮影される。
【実施例1】
【0023】
次に、本発明の実施例1について説明する。実施例1は、少なくとも被検体空間の静磁場方向に垂直な断面形状が略三角形となる形態である。
【0024】
図1に実施例1を示す。図1ではトンネル型超電導磁石は、円筒形状の内筒を持ち、その内側に傾斜磁場コイル14が配置されている。傾斜磁場コイル14は、外側の形状が磁石の内筒に併せて円筒形状である一方で、内側は略三角の形状をしている。ここで言う略三角とは3つの頂点を持つ形状を言うこととし、必ずしもその辺は直線でなくても良い。また、頂点は変曲点であれば良く、図1の様に尖った頂点で無くとも構わない。
【0025】
傾斜磁場コイルの構成については、当業者らにとっては公知の部分が多いので詳細を省略するが、今日の円筒型傾斜磁場コイルは、その殆どがメインコイルとシールドコイルからなるアクティブシールド形の傾斜磁場コイルであり、図1のような傾斜磁場コイルを実装する為には、円筒状の外側のシールドコイルと略三角形状の内側のメインコイルとで形成すればよい。
【0026】
この時の傾斜磁場パターンは公知の多くの技術を用いて最適化することが出来る。
【0027】
傾斜磁場コイルの略三角形の内側の面には、図示していないRFシールドとしての金属箔もしくは金属網が貼り付けられ、そこから等間隔を空けてRF照射コイルが配置される。RF照射コイルの内側に配置されたカバーによって、被験者の空間が形成される。
【0028】
こうして形成された上に凸の略三角形ボアにおいては、図に示す様に、被検体の視線方向距離をより長く取ることが出来る。また、同様に被検体が寝た時の横方向距離も長くなる。
【0029】
こうして、閉塞感を感じさせない被験者空間を提供することができる。
この実施例における超伝導磁石は、既存の磁気共鳴イメージング装置と性能が同等であり、超伝導磁石の高い磁場強度、磁場安定性等の特徴をそのまま享受することができる。
【0030】
磁場均一度の調整手段については、図示していないが傾斜磁場コイル内に配置した鉄片がよく用いられる。図1の様な実施例の場合、傾斜磁場コイルの内径に沿って略三角柱の表面に配置してもよいし、シールドコイル側に円筒形状に沿って配置しても良い。いずれにしても鉄片を配置するのには十分なスペースがあり、本発明の適用によっても十分な均一度を確保する事が出来る。
【実施例2】
【0031】
次に、本発明の実施例2について、図2を用いて説明する。
本実施例では、超伝導磁石および傾斜磁場コイルまでは従来構造と同じであり、RF照射コイルのみが異なる。図2の様に、円筒形状の超伝導磁石ボアに対して、円筒形状の外形、内形を持つ傾斜磁場コイルが配置される。そして傾斜磁場コイルの内側に配置されるRF照射コイルと傾斜磁場コイルとの距離を変えることによって、RF照射コイルの形状が略三角形状となるようにする。具体的には図のように頂部および左右において、傾斜磁場コイルとの距離が狭くなるようにすることで、略三角形状のRF照射コイルの形状を形成することができる。図から明かなように、この様な方法で得た略三角ボアの効果は実施例1と同じである。
【0032】
この際、図3から図5に示すようにRF照射コイルについて次のような工夫をすれば良い。すなわち、実施例1の様に、RF照射コイルと傾斜磁場コイルの内側に配置されるRFシールドの距離が一定な場合は、図3のようにほぼ等間隔のラングによって、RF照射コイルを形成すれば良い。ただし、簡単に表現するためにバードケージ型RF照射コイルの例で示している。
【0033】
これに対して、図2のように傾斜磁場コイルの内側に配置されるRFシールドとRF照射コイル導体の距離が変化している場合は、RFシールドとRF照射コイルの間隔が近接している位置でRF照射コイルの照射効率が互いの干渉により落ちる。これを回避する為に、RF照射コイル導体の密度を高くしたり、もしくはRF照射コイル導体の長さを長くしたりすることによって、被検体への均一な高周波の照射分布を得ることができる。
【0034】
図4、5はその例である。図4では、略三角形の頂点付近で照射効率を高める為にラング導体が不均等な配置間隔で並んでいる。より具体的に、ラング導体の配置間隔を、略三角形の頂点付近で狭めている。図5では、略三角形の頂点付近で照射効率を高める為にラング導体の長さを異ならせている。図5では略三角の頂点付近、すなわち、RFシールドとの距離が近い領域でラング導体の長さを長くしている。
【実施例3】
【0035】
次に、本発明の実施例3について、図6を用いて説明する。
本実施例では、略三角形状の断面を持つ傾斜磁場コイルを用いるのに加え、傾斜磁場コイルとRF照射コイルの距離をさらに変化させている。より具体的には、傾斜磁場コイルの内側の内面の断面形状が頂点の鋭角が少ない略三角形であるのに比して、RF照射コイルの断面形状は、頂点の鋭角の鋭い略三角形とすることにより、傾斜磁場コイルとRF照射コイルの距離を変化させている。このような構成とすることにより、傾斜磁場コイルが頂点の鋭角が少な略三角形である場合に、より撮影空間側のスペースを広くするように、RF照射コイルの形状を形成することができる。
【0036】
以上までが、本発明の傾斜磁場コイルもしくはRF照射コイルの各実施形態の説明である。しかし、本発明の傾斜磁場コイルもしくはRF照射コイルは、上記実施形態の説明で開示された内容にとどまらず、本発明の趣旨を踏まえた上で他の形態を取り得る。
【0037】
例えば、静磁場発生源として超電導コイルを用いる例を説明したが、起磁力を発生させるために、静磁場発生源として永久磁石を用いても、上記と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明はMRI装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 被検体、12 超電導磁石(内筒)、14 傾斜磁場コイル、16 RF照射コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が配置される撮影空間の周りに配置され、前記撮影空間に水平方向の静磁場を発生させる静磁場発生手段と、該静磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、該傾斜磁場発生手段の前記撮影空間側に配置され、該撮影空間に高周波磁場を発生させる高周波磁場発生手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記高周波磁場発生手段の前記撮影空間側の断面形状が、上に凸の略三角形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記静磁場発生手段は、前記撮影空間側の断面形状が円形であり、前記傾斜磁場発生手段は、その撮影空間側の断面形状が、上に凸の略三角形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記静磁場発生手段は、前記撮影空間側の断面形状が、円形であり、前記傾斜磁場発生手段は、その静磁場発生手段側と撮影空間側共に、断面形状が円形であることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記傾斜磁場発生手段は、断面が円形のシールドコイルと、断面が上に凸の略三角形状のメインコイルから構成されるアクティブシールド型傾斜磁場コイルである請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記傾斜磁場発生手段の撮影空間側の内面およびその表面にあるRFシールドと、RFコイルとの間隔が一定でないことを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記高周波磁場発生手段は、RFシールドとの距離が短いところが、導体の密度を増していることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記高周波磁場発生手段は、RFシールドとの距離が短いところが、導体の長さが長くなっていることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−24114(P2012−24114A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162391(P2010−162391)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】