説明

磁気共鳴断層撮影システムの高周波送信装置を検査する方法及び高周波検査装置

【課題】被検体の高周波曝露を確実に監視し、さらに送信アレイを簡単にボリュームコイルモードで動作させることのできる方法及び適切な高周波検査装置を提供する。
【解決手段】被検体の磁気共鳴測定の際に、複数の時点又は期間において、各送信チャネル上の高周波信号強度を表す励起ベクトルを求め、予め決められた検査規則に従い、被検体に吸収された高周波曝露値をそのつど励起ベクトルに基づいて求め、少なくとも1つの高周波曝露値に基づいた曝露検査値が予め決められた限度検査値に達しているか又は超えている場合には、高周波送信装置の機能を制限し、なお検査規則は前記高周波送信装置の現在の送信モードに依存して決められており、励起ベクトルに基づいてそのつど高周波送信装置の送信モードを検査し、送信モードの変化が検出された場合には、検査規則を変更し、及び/又は高周波送信装置の機能を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体を磁気共鳴測定する際に、複数の送信チャネルを有する送信アンテナ系を備えた磁気共鳴断層撮影システムの高周波送信装置を検査する方法に関する。この方法では、複数の時点又は期間にわたって、個々の送信チャネル上での高周波信号の強度を表す励起ベクトルが求められる。そして、これら励起ベクトルに基づいて、被検体の中に吸収された高周波曝露値が所定の検査規則に従って求められ、少なくとも1つの高周波曝露値に基づいた曝露検査値が所定の限度検査値に達しているか限度検査値を超えている場合には、高周波送信装置の機能が制限される、例えば送信出力が低減されたり、又は高周波送信装置が完全に遮断される。さらに本発明は、このような検査方法を実行する相応の高周波検査装置と、このような高周波検査装置を含む磁気共鳴システムと、相応の高周波送信装置を有する磁気共鳴断層撮影システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
ふつう磁気共鳴システムでは、検査される身体は基本界磁石系によって例えば3又は7テスラの比較的高い基本磁場にさらされる。さらに傾斜系によって傾斜磁場が印加される。そして適切なアンテナ装置によって高周波励起信号(HF信号)が高周波送信系を介して送信される。その結果、この高周波場によって共振励起された、所定の核スピンを有する原子は、基本磁場の磁力線に対して所定のフリップ角だけ傾斜させられる。核スピンが緩和するとき、いわゆる磁気共鳴信号である高周波信号が放出される。この高周波信号は適切な受信アンテナで受信され、さらに処理される。最終的に、このようにして得られた生データから所望の画像データを再構成することができる。核スピン磁化のための高周波信号の送出はいわゆる「全身コイル」又は「ボディコイル」によって行われることが多い。しかし、多くの測定では、患者又は被験者に当てられる局所コイルによっても行われる。全身コイルの典型的な構造は、検査中に患者が入る患者スペースの周りに長手軸に平行に配置された複数の送信ロッドから成る鳥籠型アンテナである。正面から見ると、これらのアンテナロッドはそれぞれ環状に相互に容量結合されている。
【0003】
従来、このような全身アンテナは「ボリュームコイル」として大抵はいわゆる「CPモード」で駆動されるのが普通であった。この場合、円形の偏極した高周波信号(HF信号)が、全身アンテナによって包囲された全ボリュームの中へ可能な限り均一に送出される。そのために、送信アンテナのすべてのコンポーネントに、例えば鳥籠型アンテナのすべての送信ロッドに、ただ1つの時間的なHF信号が与えられる。通常、個々のコンポーネントへのパルスの供給は、送信コイルのジオメトリに合わせて位相をずらして行われる。例えば、16個のロッドを有する鳥籠型アンテナの場合、各ロッドをそれぞれ22.5°だけ位相をずらした同じ高周波マグニチュード信号で駆動することができる。
【0004】
このような均一な励起は患者に大域的な高周波曝露(HF曝露)をもたらすが、これは通常の規則に従って制限されなければならない。というのも、大きすぎる高周波曝露が患者を損傷しかねないからである。なおここで、HF曝露は、もたらされるHFエネルギーそのものだけでなく、HF放射によって誘発されるすべての生理学的曝露をも意味している。高周波曝露の一般的な尺度はいわゆるSAR値(SAR=比吸収率)又はSED値(SED=比エネルギー線量)である。SAR値は、所定の高周波パルス出力によってどのくらいの生物学的曝露が患者に作用するのかをW/kgで表したものである。これら両値は互いに換算できる。例えば現在IEC規格の"First Level"において規格化されている4W/kgの制限は、大域的な全身SAR又は患者のHF曝露に適用される。それによれば、6分にわたって平均された時間窓において患者に吸収される出力は全部で4W/kgの値を超えてはならない。このことを保証するために、各測定における高周波曝露は磁気共鳴システムにおいて適切な安全装置によって絶えず監視され、SAR値が所定の基準を超えた場合には、測定は変更又は中止される。
【0005】
新しい磁気共鳴システムでは、個々の送信チャネルに、例えば鳥籠型アンテナの個々のロッドに、イメージングに合わせた個別的なHF信号を印加することが今や可能である。そのために、多チャネルパルス列が送信される。多チャネルパルス列は複数の個別の高周波パルス列から成っており、これら複数の個別の高周波パルスはそれぞれ異なる独立した高周波送信チャネルを介して並列に送信することができる。個々のパルスを並列して送信するゆえに「pTXパルス」とも呼ばれる、このような多チャネルパルス列は、例えば励起パルス、再集束パルス及び/又は反転パルスとして使用することができる。複数の独立した送信チャネルを介してpTXパルスの並列送信を可能にするこのような送信アンテナ系は「送信アレイ」とも呼ばれる。それゆえ以下においても(送信アンテナ系のアーキテクチャの詳細がどうであれ)この概念を採用する。
【0006】
多チャネルパルス列を送信する際、測定空間内で、したがってまた患者の中で、従来の均一な励起に代わって基本的に任意に形成される励起を使用することができる。したがって、最大の高周波曝露を推定するためには、可能な高周波重畳をそれぞれ考慮しなければならない。
【0007】
電場はベクトルとして線形に加算されるので、個別に駆動可能な複数のアンテナ素子上の重畳した電場を監視することが重要である。しかし、局所的な出力の放出、したがってまた各箇所での患者への曝露は結果として生じる電場の平方に比例する。
【0008】
局所的な高周波曝露はしかしふつう直接は測定できない。それゆえ、(複雑な)導電率分布を有する適切な身体モデルを構築し、このモデルによって電場を計算するよう指示される。この電場はモデルの個々の箇所で各アンテナ素子によって呼び出される。このような計算は先行技術においては例えばいわゆるFDTD法(FDTD=有限差分時間領域)によって行われる。その際、被検体はふつう複数のボクセルに分割され、各ボクセルごとに、個々のアンテナ素子によって呼び出される電場強度と、電場の重畳とが求められる。考察すべきボクセルが多数(多くのモデルでは50,000個、その他のモデルでは100,000個をはるかに超え、極端なケースでは数百万ボクセル)ある場合、実行すべき計算の複雑さを勘案すれば、このような方法ではリアルタイム監視ないしオンライン能力は実現不能である。
【0009】
それゆえ特許文献1には、複数の時点又は期間ごとに個々のアンテナ素子の励起ベクトルの相互相関行列を求め、これらの相互相関行列を加算期間にわたって加算する、SAR監視方法及び装置が記載されている。総和行列にはその後複数のホットスポット感度行列が乗じられる。各ホットスポット感度行列は、最大の局所高周波曝露の算出、例えばSARの算出に関して、被検体の多数の点における感度を表している。一般に患者の内部の高周波場にこのような「ホットスポット」が形成されうること、そしてこのようなホットスポットでは、もたらされるHF出力、したがってまた生理学的な高周波曝露が従来の均一な励起から知られている値の数倍になりうることは既に知られている。それゆえ、局所的な高周波曝露が限度値を超えないことを保証するためには、これらのホットスポットを監視する必要がある。特許文献2にはさらに、事前に行った電磁場シミュレーション(例えばFDTD)に基づいてホットスポットを正しく選び出すのを容易にする方法が記載されている。
【0010】
もちろん、送信アレイによってスピン磁化を励起する際の順応性のおかげで、従来のボリュームコイルの場合と同様に、均一な高周波信号をボリューム全体に送信することが可能である。つまり、送信アレイは「ボリュームコイルモード」でも動作することができる。このことは多くの測定ないし検査において十分に意味のあることである。以下では、このような「ボリュームコイルモード」又は「均一モード」は、送信アレイがボリュームコイルと同等に動作する、高周波送信装置の動作モードを意味する、つまり、送信チャネルが振幅関係及び位相関係の固定された高周波信号で駆動される、高周波送信装置の動作モードを意味するものとする。
【0011】
これに相応して、高周波曝露に関する現在の規程ないし規格はまた、送信アレイがボリュームコイルの特性も局所コイルの特性も有すること、また適用される監視規則、特に限度値が送信アレイの使われ方に依存することをも含意している。なお、局所コイルのように使用する場合は、局所SARの監視が明示的に要求されるが、それも比較的狭く設定された低い限度値での監視が要求されるが、ボリュームコイルとして使用する場合は、全身又は露出された身体部位のSARを監視するだけでよい。
【0012】
送信アレイをボリュームコイルとして動作させるために、高周波送信システムの高周波増幅器とアンテナ素子との間で、いわゆる「バトラー行列」を使用することができる。その場合、バトラー行列によるボリュームモードに使用される送信チャネルを除いてすべての送信器が遮断される。このようなバトラー行列は、送信アレイをボリュームコイルとしてハードウェア的に電気接続することに等しい。ただし、このようなハードウェア配線には、個々の送信チャネルの使用可能な高周波増幅器が不均等にしか利用されないという欠点がある。あるチャネルの増幅器は完全な高周波出力を提供しなければならないが、別のチャネルは利用されない。このことは同時に、少なくともボリュームコイルモードで使用されている高周波増幅器と、送信チャネル内の後続するすべてのコンポーネントは、相当高い高周波電圧向けに設計されていなければならないことに通じる。そのためシステムは比較的高価となる。
【0013】
他方では、送信アレイの個々の素子が適切に予め固定的に設定された相対振幅及び相対位相で動作するように個々の送信チャネルの高周波増幅器を純粋にソフトウェア的に駆動することで、送信アレイをボリュームコイルモードで動作させることも技術的に可能である。それゆえ、送信アレイの動作様式は、適切な命令が高周波増幅器へ出力される、すなわちpTXパルスが適切に選択されるという点でしか、個々の不均一場が送信される動作様式と異なっていない。送信側から見ると、送信アレイは技術的に局所コイルとして使用できると評価される。その結果、ボリュームコイルモードでの動作のおかげでそもそも全身SAR限度値を考慮するだけで十分であるにもかかわらず、局所送信コイルで必要とされるような、低すぎる局所SAR限度値が実際には適用される。したがって、ボリュームコイルモードにとっては低すぎる局所SAR限度値は、通常の1チャネルボリュームコイルアプリケーションの動作には許可されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】DE 10 2009 030 721
【特許文献2】DE 10 2010 011 160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の課題は、被検体の高周波曝露を確実に監視し、さらに送信アレイを簡単にボリュームコイルモードで動作させることのできる方法及び適切な高周波検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、一方では請求項1に係る方法によって、他方では請求項12に係る高周波検査装置によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による方法では、冒頭に記載したように、複数の時点又は期間にわたって、それぞれの時点又は期間における個々の送信チャネル上での高周波信号強度を表す励起ベクトルが求められる。これらの励起ベクトルは例えば単純に現在さまざまな送信チャネル上で所定の時点に測定される電圧振幅としてもよい。しかしまた、例えば方向性結合器又は他のセンサ(例えばピックアップコイル)によって求められる、これら電圧に依存する測定値であってもよい。各測定時点における個々のチャネルの測定値は現在の励起ベクトルの要素として扱われる。さらに、通例のように、所定の検査規則に従って、被検体における励起ベクトルに基づいて大域的に又は局所的に例えばホットスポットにおいて存在する高周波曝露値が求められる。高周波送信装置は、少なくとも1つの高周波曝露値に基づく曝露検査値が所定の限度検査値に達するか、この限度検査値を超えた場合には、機能が制限される(例えば現在の出力が低減されるか、又は高周波送信装置が完全に遮断される、すなわち測定が中止される)。この曝露検査値は例えば、高周波曝露値がすでに大域的なSAR値である場合には、そのつど現在の高周波曝露値そのものであってもよい。しかし多くの場合、複数の高周波曝露値に基づいて曝露検査値が求められる。例えば、曝露検査値を求めるために、所定の時間窓内で求められるすべての高周波曝露値を積算したり、前記高周波曝露値から平均値を求めてもよい。その一例は、すでに冒頭で述べた、4W/kgという制限のある大域的な全身SARを6分の時間窓内で平均することがである。同様に、差し当たり、放射されたHF出力(のみ)を表すように高周波曝露値を求める場合、たいてい肉体的な曝露への換算、すなわち例えばSAR値への換算も有効である。この場合、高周波曝露値に基づいて曝露検査値を求める際に、組織へのHF出力の生理学的な作用を考慮することができる。
【0018】
検査規則は高周波送信装置の現在の送信モードに依存して設定されており、本発明によれば、励起ベクトルに基づいて高周波送信装置の送信モードがそのつど検査される、それもその他の通常の送信チャネルの駆動とは無関係に検査される。送信モードの変化が検出された場合には、検査規則は適切に変更される、及び/又は高周波送信装置の機能が制限される。
【0019】
高周波送信装置の送信モードを現在測定されている励起ベクトルに基づいて恒常的に検査することによって、つねにその時の送信モードにとって正しい検査規則、特に正しい限度値が高周波曝露検査に使用される。それゆえ、一方ではどの時点においても患者の安全が保証されており、他方では限度値又は別の検査規則が誤って選択されることによって測定が不必要に中断されることなく、すべての動作様式において送信アレイを柔軟に使用することが可能である。測定が不必要に中断されると、測定を繰り返さなければならない場合に、最終的に全体として患者により大きな曝露がかかることになる。
【0020】
複数の送信チャネルを備えたこのような送信アンテナ系を有する磁気共鳴断層撮影システムの高周波送信装置のための本発明による高周波検査装置は、一方では、個々の送信チャネル上の高周波信号強度を表す励起ベクトルを複数の時点又は期間にわたって把握するための測定値インタフェースを有していなければならない。このような測定値インタフェースは例えば独立した測定装置への測定入力部であってよい。しかし、測定値インタフェースは、個々の送信チャネル上の高周波信号強度を測定する種々のプローブ等を有する測定装置自体であってもよい。例えば、個々の送信チャネル上に又は個々の送信チャネル内に配置された方向性結合器、ピックアップコイル等からなる装置であってよい。
【0021】
他方では、高周波検査装置は検査信号を出力するための検査信号インタフェースを必要とする。例えば、測定を中断するために又は送信電力を低下させるために、この検査信号インタフェースを介して適切な検査信号を必要に応じて生成し、高周波送信装置の他のコンポーネントに、とりわけ高周波増幅器に転送することができる。同様に、検査信号は、各測定のたびにメモリ等から現在の検査規則を、とりわけ現在の限度値を呼び出すための検査信号であってもよい。
【0022】
さらに、高周波検査装置は本発明に従い次のように構成されていなければならない。すなわち、所定の検査規則に従い、被検体に吸収された高周波曝露値がそのつど励起ベクトルに基づいて求められ、少なくとも1つの高周波曝露値に基づいた曝露検査値が所定の限度検査値に達している又は限度検査値を超えている場合に、高周波送信装置の機能が(例えば上記検査信号によって)制限されるように構成されていなければならない。なお、検査規則は高周波送信装置の現在の送信モードに依存して定められている。これに加えて、高周波検査装置は、所定の規則に従って高周波曝露値から曝露検査値を求めるために相応のモジュールを、例えば曝露検査ユニットを有していてもよい。
【0023】
さらに、高周波検査装置は本発明に従い次のように構成されていなければならない。すなわち、励起ベクトルに基づいてそのつど高周波装置の送信モードが点検され、送信モードの変化が検出された場合には、検査規則が変更される及び/又は高周波送信装置の機能を制限するために少なくとも1つの検査信号が生成されるように構成されていなければならない。このために、高周波検査装置は例えば適切なモード検査ユニットを有していてよい。
【0024】
高周波検査装置の主要部品はソフトウェアコンポーネントとして形成されていてよい。このことは特に曝露検査ユニットとモード検査ユニットについて当てはまる。例えば測定値インタフェースも、既に他のユニットによって記録され、ベクトルにまとめられたデータを引き継ぐソフトウェア的に実現されるインタフェースであってよい。同様に、例えば検査信号インタフェースも、検査信号を純粋にソフトウェア的に高周波送信装置の他の制御コンポーネントに伝えるソフトウェアの形態で実現されるインタフェースであってよい。なお、前記制御コンポーネント自体、場合によってはソフトウェアの形態で実現される。しかしまた、これらのインタフェースは部分的にのみソフトウェアの形態で形成されていてもよく、場合によっては既存のコンピュータのハードウェアインタフェースに頼ってもよい。
【0025】
それゆえ本発明は、高周波検査装置上で実行した時に本発明による方法のすべてのステップを実行するプログラムコードを有する、高周波検査装置のメモリに直接ロード可能なコンピュータプログラムも包摂する。このようなソフトウェアによる実現は、プログラム可能な適切なプロセッサとメモリとによって実現された既存の検査装置であっても、本発明に従って動作するようにプログラムの実装によって適切に改変することができるという利点を有している。
【0026】
また、高周波検査装置は個別的なコンポーネントとして高周波送信装置に組み込まれていてもよい。しかし、高周波検査装置は、励起ベクトルを捕捉するための測定値インタフェース、検査信号インタフェース及び上記した別の複数のコンポーネントを有する独立した装置として形成することも可能である。このような独立した高周波検査装置を用いれば、既存の磁気共鳴断層撮影システムをレトロフィットすることができる。
【0027】
磁気共鳴断層撮影システム向けの本発明による高周波送信装置は、独立して制御されるべき複数の送信チャネルと、これら送信チャネルを介して高周波パルスを送信するための高周波電力増幅器とに加えて、上で説明したように本発明に従って形成された少なくとも1つの高周波検査装置を必要とする。
【0028】
これに相応して、本発明による磁気共鳴断層撮影システムは本発明によるそのような高周波送信装置を有する。
【0029】
従属請求項及び以下の説明には、本発明の特に有利な実施形態が含まれている。なお、一方のカテゴリの請求項が他方のカテゴリの従属請求項と類似に実施されてもよい。
【0030】
本発明の意義は、高周波送信装置が仮定された送信モードでまだ送信しているか否かを検査することにある。なぜならば、患者の高周波曝露を検査するための検査規則は現在の送信モードに依存して選ばれるからである。この検査規則には、とりわけ、高周波曝露値を求めるための規則、すなわち、高周波曝露値を励起ベクトルから如何にして求めるかということに関する規則が属している。しかし、曝露検査値を求めるための規則、すなわち、高周波曝露値から如何にして検査値を求めるかということ、特に、どの期間にわたって場合によっては高周波曝露値を求めるか、及び曝露検査値を得るためにこれらの値にどの変換を行うかということに関する規則が属していてもよい。しかし、さらに限度検査値の確定、例えば現在の測定にどのSAR限度値を使用すべきかということも検査規則に属する。一方、これらの限度値は、高周波曝露値又は曝露検査値がどのように求められたか、すなわち、どの規則に従って求められたかに依存する。それゆえ、これらすべての規則は有利には高周波送信装置の送信モードに依存して設定又は変更される。その際、具体的なケースに応じて、これら規則のいつくかだけ、例えば限度検査値だけを変更し、高周波曝露値及び/又は曝露検査値を決定する規則は変更しなくても十分である場合もある。
【0031】
励起ベクトルに基づいた送信モードの検査はさまざまに可能である。1つの有利な実施例では、励起ベクトルに基づいて、送信モードを特徴付けるモード検査値が求められ、モード検査値がある程度モード基準値から偏差している場合には、送信モードの変化が検出される、つまり、検査規則が変更される及び/又は高周波送信装置の機能が制限される。そのためにまず、高周波送信システムが現時点に望まれる送信モードで動作するとした場合に、モード検査値がどのようでなければならないかを定めてもよい。そうすれば、この値がモード基準値である。続いて、さらにモード検査値が求められ、モード基準値と比較される。例えば、現実の実際モードが目標モードから偏差していることをモード検査値が示している場合、モード基準値は原則的に0としてもよい。
【0032】
現在のモード検査値のモード基準値からの偏差がどの程度であれば、送信モードの変化として評価されないのかは、これもさまざまに定めることができる。例えば、絶対的な偏差の程度を選択してもよい。しかしその一方で、偏差の程度は例えば励起ベクトルの強度に比例して選択されてもよい。同様に、これらの評価規則の組合せを考慮してもよい。例えば、信号強度が低い場合には偏差の程度として絶対値を設定し、信号強度が高い場合には、まだ所望の送信モードで動作しているのか否かの評価基準として相対的な偏差を考慮することは、まったく有効である。
【0033】
本発明によれば、原則的に、送信モードが一旦決定されており、そのために例えばモード基準値が求められている限り、任意の各送信モードを検査することができる。しかし、有利には、できるだけ適したSAR限度値を選択することが課題である。なお、ボリュームコイルモードでの動作時に使用しなければならない全身SAR限度値は、送信アレイが個々の不均一な励起パターンを生じさせる場合に規定される局所SAR限度値よりも小さい。したがって、送信モードを検査する際に、高周波送信装置又は送信アンテナ系がボリュームモードで動作しているか否かが検査される。その際、たいていは、従来の鳥かご型全身コイルの場合にそうであるように、高周波送信装置がCPモードで動作しているか否かの検査が行われる。しかしここで、本発明による方法及び高周波検査装置は他の送信モードの検査にも利用できること、特に他のボリュームコイルモード、例えば多くのシステムにおいて用途に応じて使用される一定の楕円偏光モード(EPモード)の検査にも利用できることを指摘しておく。しかしながら、CPモードは最もよく使用されるボリュームコイルモードであるから、以下では(別に断らなければ)、CPモードを監視することが前提とされる。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0034】
有利な実施形態では、高周波送信装置の動作の、ボリュームコイルモードからの偏差を求めるために、単純に特別な射影行列の両側にそのつど現在の励起ベクトルを掛ける(すなわち、励起ベクトルの要素の相互相関を求める)ことにより2次形式を求める。ここで、射影行列は関係するボリュームコイルモードでの動作時に生じた正規化された励起ベクトルに基づいて求められたものである。この射影行列は、励起ベクトルに含まれている信号全体(ベクトルの要素は個々の送信チャネル上の現在の信号強度を表す)を所望の信号に直交する不所望な成分に、すなわち、まさしく現在の励起ベクトルとボリュームコイルモードでの動作時にシステムが有しているべき理想的な励起ベクトルとの間の偏差の量に射影する。それゆえ、モード検査値は単純にこの両側からの掛け算により生じた偏差値に基づいて求めることができる。その際、モード基準値は例えば0に設定してよい。上記方法と射影行列の形成のより詳細な説明は以下においてCPモードの実施例に基づいてさらに行われる。
【0035】
特に有利には、モード検査値はモード検査期間中に求められた複数の連続するその時その時のモード検査部分値に基づいて求めることもできる。例えば、それぞれ励起ベクトルを射影行列の両側に掛けることによりモード検査部分値を求め、モード検査期間内にモード検査部分値を総和ないし積分するか、又は平均値を求めてもよい。
【0036】
1つの有利な実施例において、上で数学的に説明された手続きは、まず1つのモード検査期間内の複数の時点においてそのつど現在の励起ベクトルとその複素共役ベクトルとの外積(すなわちテンソル積の形成)により現在の相互相関行列が求められ、これらの相互相関行列が総和されて相互相関行列和が形成されるように、技術的に特に効果的に実現される。続いて、相互相関行列和は要素ごとに射影行列と掛け合わされ、それにより生じた積の値は各モード検査期間のモード検査値を求めるために使用することができる。例えば、これら積の値を単純に総和又は積分してもよいし、それら積の値の平均値を求めてもよい。
【0037】
この方法の利点は、はじめに例えば各時間間隔がすべて10μsの短い時間間隔で求められた測定データ、すなわち励起ベクトルをまず積算ないし積分し、その後は、新たに現在の励起ベクトルを捕捉するたびに相応して多数の乗算を行う代わりに、モード検査期間全体にわたって一回だけ乗算を行うだけでよいという点にある。それゆえ、計算方法全体が著しく効率的になる。
【0038】
さらに、この方法では、有利なことに、曝露検査値は1つのモード検査期間に関して求められた相互相関行列和に基づいていてよい。もちろん、相互相関行列和は前記モード検査期間における現在の励起ベクトルを含んでいる。例えば、曝露検査値を得るために、冒頭に挙げた特許文献1に記載されている方法の場合と同様に、この相互相関行列和に感度行列を乗じてもよい。この場合、それぞれの相互相関行列は(まずは照射されたHF出力のみを考慮した)高周波曝露値と見なすことができ、曝露検査値を求める際に感度行列との乗算により同時に生理学的(SAR)曝露への換算が行われる。
【0039】
いずれにせよ、冒頭で述べたように、曝露検査値が1つの曝露検査期間内に求められた複数の高周波曝露値に基づいていると特に有利である。曝露検査期間がモード検査期間と一致するように配慮すれば、既に説明した1つのモード検査期間に関して求められた相互相関行列和に基づいて曝露検査値を求める方法によって、これらの条件は自動的に満たされる。
【0040】
モード検査期間及び/又は曝露検査期間は有利には、時間領域において励起ベクトル上を移動する時間窓によりそのつど設定される。つまり、時間領域内を移動するモード検査値又は曝露検査値が求められる。
【0041】
特に有利には、長さの異なる移動時間窓を介してさまざまな検査値が考慮される。例えば、短期検査値は10μsの長さの窓を介して考慮され、長期検査値は360μsの長さの窓を介して考慮される。このようにして、一方では患者のピーク曝露を回避し、他方では全体として高いビーム曝露を生じさせず、つねにぎりぎりピーク限度値未満に留まらせることを保証することができる。
【0042】
以下では、添付した図面を参照し、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による高周波送信装置の実施例とともに磁気共鳴システムの概観を示す。
【図2】高周波送信装置を検査する本発明による方法の一実施例の簡略化されたフローチャートを示す。
【実施例】
【0044】
図1に概略的に示されているコンピュータ断層撮影システム1の主要部分はいわゆるスキャナまたは断層撮影機2であり、これによって本来の測定が行われる。この断層撮影機2内には測定空間3があり、この測定空間3はふつう患者トンネルと呼ばれる。測定空間3内では、患者ないし被検体Oを患者台4上で位置決めすることができる。送信アンテナ系15として、断層撮影機2はここでは、測定空間3内に任意の磁場分布を形成することができるように別個に駆動可能なn個の送信チャネルK1,K2,...,Knないしアンテナ素子を備えた全身コイル15を有している。例えば、この全身コイルは、測定空間3を囲む円筒表面上に互いに平行に配置され、互いに結合されたn個の独立して駆動可能な導体ロッドをアンテナ素子として有する鳥かご型コイルであってよい。しかし、本発明はこのような送信アンテナ系15に限定されるものではなく、任意の送信アレイに使用することができる。特に、送信アンテナ系は全身コイルを形成していなくてもよく、適切に配置された複数のいわゆる局所コイルから成っていてもよいし、さまざまな送信チャネルを有する頭部コイル等であってもよい。
【0045】
通例通り、断層撮影機2内にはさらに磁石系があり、この磁石系は測定空間3内に強い基本磁場を印加するために基本界磁石を有しており、3つの空間方向それぞれに所望の磁場勾配を印加するために複数の勾配磁場コイルを有している。しかし、図を見やすくするために、これらの構成要素は図1には図示されていない。
【0046】
断層撮影機2はシステム制御部5によって駆動される。一方、システム制御部5は磁気共鳴断層撮影システム1全体を操作することのできる端末17に接続されている。断層撮影機2とシステム制御部5との接続は複数のインタフェースを介して行われる。
【0047】
上記インタフェースのうちの1つは高周波送信装置10の高周波電力増幅器11を形成しており、また別の1つのインタフェースは受信インタフェース6である。測定のために、高周波電力増幅器11を介して適切な高周波パルスシーケンスが出力され、受信インタフェース6を介して受信した磁気共鳴生データが受け取られる。(図示されていない)別の実施形態では、電力増幅器11は断層撮影機2に組み込まれており、相応するインタフェースは制御ライン、フィードバックライン及び電源によって形成されている。
【0048】
インタフェースブロック7は断層撮影機2の別の構成要素を駆動制御するために必要な別のインタフェース、例えば勾配磁場コイルの駆動制御や患者台の前進の駆動制御などのためのインタフェースを表している。
【0049】
別の構成要素として、システム制御部5内に、端末19を介してオペレータが駆動制御することのできる測定制御モジュール9と、データメモリ18とが示されている。この測定制御モジュール9は、非常に特定的なパルスシーケンス、つまり高周波パルスシーケンスと、適切な勾配パルスシーケンスとによって測定を行うために、インタフェースを介して適切な信号が断層撮影機2に与えられるように、例えばデータメモリ18に格納されており、オペレータによって変更可能な測定プロトコルに基づいてパラメータを設定することができる。
【0050】
ここでは、システム制御部5はさらに、受信インタフェース6により受信された生データから磁気共鳴画像を再構成する再構成装置8も含んでいる。再構成された磁気共鳴画像はメモリ18に格納してもよいし、及び/又は端末17のディスプレイに出力してもよい。
【0051】
ここで、このような磁気共鳴断層撮影システム1、特にシステム制御部5は、生成された画像を他のステーションにも渡すなどのために、他の多数の構成要素、例えばネットワークに接続するためのインタフェースを有していてよいことを述べておく。しかし、磁気共鳴システムの基本的な構造は当業者には周知であるから、見やすさの理由から、これらすべての構成要素を図1に図示して、ここで詳細に説明することはしなかった。
【0052】
個々のアンテナ素子、すなわち全身コイル15の導体ロッドを別々に駆動制御できるように、高周波送信装置10は通しでn個の別個の送信チャネルK1,K2,...,Knを備えている。つまり、本来の高周波パルス発生システム16はn個の別個の送信モジュール(図示せず)を含んでおり、これらn個の送信モジュールにおいて、例えば個々のチャネルに対して小信号の形で高周波信号が生成される。これらの信号を増幅するために、高周波送信装置はさらに、n個の別個の高周波増幅器を備えた高周波電力増幅装置11を有している。しかし、簡単のために、n個の高周波増幅器はここでは1つのブロックとして図示されている。高周波信号はそこから線路を介して全身コイル15の個々のアンテナ素子へ伝送される。その際、高周波信号は一方ではnチャネル送受信切換装置13とnチャネル方向性結合装置12とを通過する。送受信切換装置13は、送信モードにおいては個々のアンテナ素子への線路が高周波電力増幅装置11と接続され、受信モードでは、すなわち全身コイル15による磁気共鳴信号を検出するためには、全身コイル15のアンテナ素子が受信インタフェース6の適切な受信チャネルと接続されるように切換が行われるように、構成されている。
【0053】
方向性結合装置12は、高周波電力増幅装置11の複数の高周波増幅器から送出された信号から、各送信チャネルK1,K2,...,Kn上のそれぞれの信号強度に比例し、すなわち電圧振幅に比例し、かつ所定の位相を有する信号成分、つまり複素数値である信号成分を出力結合するように、構成されている。所定の時点に測定されたこれらの値は、例えば既に方向性結合装置12において1つの励起ベクトル

(添字は測定時点を表す)にまとめることができる。この励起ベクトルは高周波送信装置10の高周波検査装置20の測定値インタフェース21に送られる。励起ベクトルに関する測定値として、励起電圧の代わりに電流を求めてもよい。
【0054】
この高周波検査装置は、一方では、現在の励起ベクトル

に基づいて検査値を求め、それにより被検体Oの高周波曝露を監視する曝露検査ユニット23を有しており、他方では、現在の励起ベクトル

に基づいて、高周波送信装置10が現在意図されている送信モードで動作しているか否かを検査するモード検査ユニット24を有している。なお、この現在意図されている送信モードに対しては、曝露検査ユニット23が高周波曝露を監視するために現在使用している検査規則が使用される。モード検査ユニット24は曝露検査ユニット23の一部であってもよいし、逆であってもよい。しかし、互いに通信し合う別個のユニットであってもよい。
【0055】
予め決められた曝露限度値が維持されないことが曝露検査ユニット23によって確認された場合には、検査信号インタフェース22を介して検査信号KSが出力される。検査信号KSは高周波送信装置10のHFパルス発生システム16の検査信号入力部14において受け取られ、そこで測定の完全な中断又は出力される高周波信号の信号強度の低減をもたらす。特に、出力電力を低下させるため又はシステム全体を遮断するために、検査信号入力部14から直接、高周波電力増幅装置11に信号を送ってもよい。他の(図示されていない)実施形態では、曝露検査ユニット23、モード検査ユニット24及び他の関連する構成要素21、22は直接、断層撮影機2に組み込まれている。これは特に、増幅装置11が既に断層撮影機2に組み込まれている場合に有利である。
【0056】
意図された送信モードが維持されないことがモード検査ユニット24によって確認された場合には、同様に検査信号インタフェース22を介してHFパルス発生システムの検査信号入力部に検査信号KSが出力され、及び/又は曝露検査ユニット23にこのことが通知されるので、曝露検査ユニット23は他のより適切な検査規則に基づいて、とりわけ、より適切な限度値に基づいて別の曝露検査を行う。
【0057】
高周波検査装置20の内部における正確な動作については、後で図2に基づいてより詳細に説明するので、ここではまず、この方法の理論的背景をいくらか詳しく説明する。
【0058】
既に上で述べたように、高周波送信装置の動作の、ボリュームコイルモードからの偏差を求めるためには、現在の励起ベクトルをそれぞれ特別な射影行列の両側から乗じることによって2次形式を求めなければならない。これは数学的には次のように書ける。
【0059】
【数1】

ここで、

は現在の複素数値の励起ベクトルであり、上付き添字Hはこのベクトルが複素共役転置であることを意味している。
【0060】

は、励起ベクトル

の、ボリュームコイルモードに適さない不所望な成分の「投影器及び検出器」に相当する特別な射影行列である。
【0061】
上記の不所望な成分を検出するこのような射影行列

は以下に説明するようにして得ることができる。ここで再び、所望の励起ベクトルは高周波送信装置が従来的なCPモードで動作するように形成されていることが前提とされる。したがって、以下においては、1に正規化された(すなわち、

が成り立つ)複素数値のnチャネル励起ベクトル

が前提とされる。このnチャネル励起ベクトルはCPモードのための理想的な励起ベクトルを表している。周上にn個のアンテナロッドが均一に分布した鳥かご型コイル又は円筒コイルの場合、このベクトルは次のように書ける。
【0062】
【数2】

ここで、ηは所望の通り確実に1へと正規化する正規化係数であり、ベクトルの終りの上付き添字Tはベクトルが転置されていることを意味する。このような励起ベクトル

の場合、励起はCPモードの従来の共振器の場合と同様にアンテナ構造の回りを円状に回転するので、B1磁場が、すなわち測定にとって望ましい高周波磁場が、所望の通り測定領域内で回転する(B1+、図1も参照せよ)。その際、回転方向が物理的に正しい方向となるように注意しなければならない。
【0063】
ここでも再び、本方法は原則的に他のすべての送信モードにも利用でき、このようなCPモードに限定されないことを述べておく。殊に、以下の考察は上で与えられたCP励起の例を利用しておらず、固定的に設定された任意の振幅比及び位相比を有する励起ベクトルに対しても全く一般的に通用する。したがって以下の考察においても、CPモードという概念又は

という記号は単なる例として理解されなければならない。
【0064】
合成CPモード(CPモードは本来はそれ自体フレキシブルな送信アレイにおいて固定的な位相比及び振幅比を適切に選択することによって設定されており、従来のボリュームコイルモードの場合のように固定的な配線によって設定されるのでないので、「合成」という概念をここでは選択した)では、時間に依存する所望の励起は次のように表すことができる。
【0065】
【数3】

つまり、現在の励起ベクトルをCPモードにおいて維持するには、時間に依存する(一般に複素数値の)前置係数A(t)に時間的に一定の正規化された励起ベクトル

を乗じるだけでよい。
【0066】
任意の励起ベクトル

はつねに、複素数値係数αを除けば

に比例する成分と、それとは線形独立な直交する成分

とに分解される。求めるべき係数αを簡単に求める方法は、任意の励起ベクトル



とのスカラー積によって射影することである。したがって、この意味で現在の励起ベクトルが
【数4】

と表されれば、スカラー積
【数5】

により、求めるべき係数αが得られる。ここで、正規化

と直交性

を利用した。
【0067】
式(4)及び(5)から、励起ベクトルの所望のCP励起からの偏差

が求まる。
【0068】
【数6】

この偏差のパワーに相当する値は
【数7】

であり、この値は熱効果に、すなわち、患者体内に残留し、高周波曝露を生じさせるパワーに関係している。
ここで、

は単位行列(恒等行列)であり、

の部分はいわゆる外積又はテンソル積であり、ベクトル

の成分の要素ごとの積を要素とするn×n行列である。式(7)でもまた正規化

を利用した。
【0069】
式(7)の最後の列の括弧内の部分が求めるべき射影行列である。
【0070】
【数8】

この行列もn×n射影行列であり、任意の励起ベクトル

に関して、2次形式

で現在の送信モードのCPモードからの偏差の平方の大きさを与える。また、この2次形式の時間積分は「パワーに相当する」正のスカラー量である。式(3)の形を有する理想的なCPモードにおける励起の場合、モード検査値MKWとして使用できるスカラー時間積分に対して、条件
【数9】

を課されなければならない。
【0071】
しかし、現実的には、理想的なCPモードからの偏差はつねに小さいことが前提とされ、それに応じて、モード検査値MKWが予め決められた程度に0から偏差しているか否かが検査される。そのために、有利には、モード監視のために、値MKWによって超えられることのない閾値εが適切な期間にわたって定められる。これらの閾値を決定するために、さまざまな基準を考慮又は組合せてよい。
【0072】
例えば、モード検査値MKWが0よりも大きい場合、モード検査値MKWが本来のパルスエネルギーよりも少なくとも明らかに小さくなるように配慮しなければならない。すなわち、パルスは圧倒的にCPモードをもたらさなければならず、偏差はCP状パルスの高さに比べて相対的に小さくなければならない。また一方では、それ自体極端に保守的な安全率で推定された偏差の局所SAR効果は、もし生じたとしても、絶対値で見て、CPモードの許容できる局所SAR値に対して無視できるほど小さくなるように配慮しなければならない。
【0073】
偏差積分の許容できる偏差又はモード検査値のモード基準値からの許容できる偏差の正確な確定は、場合により、それぞれの使用場面に応じて適宜行うべきである。しかし、このことは送信モードの評価及び偏差の根本的なやり方を変更するものではない。
【0074】
既に上で述べたように、実際的には励起ベクトル

は10μsごとに又はもっと頻繁に測定される。また、式(10)に示されているような偏差積分MKWの計算は相対的に計算コストが高いことも明らかである。というのも、各時点tにおいて射影行列

の両側に現在の励起ベクトル

が乗じられ、その後にようやく値の積算(すなわち、積分)が行われるからである。技術的評価の効率をいくらか改善するために、まず個々の励起ベクトル

の要素の相互相関を計算し、これら相互相関を積算ないし積分することにより、同等の計算を実行するようにしてもよい。このようにして求められた(同じくn×n行列である)相互相関行列和
【数10】

を射影行列

と要素ごとに掛け合わせ、最終的に式(10)による値MKWと同等の値に達するように個々の要素を総和するようにしてよい。これは、積分期間全体にわたって、例えば1秒にわたって一回だけ測定値の乗算を行うだけでよいという利点を有している。
【0075】
このことを別にしても、相互相関行列和

は、積分期間内に例えば全身SARを計算するために、曝露検査値の計算に利用することもできる。
【0076】
以下では、図2に基づいてこの実施形態を概観する。ここで示すように、まず第1の方法ステップIにおいて、例えば、高周波曝露値を求めるための規則ALR、曝露検査値を求めるための規則BLRのような検査規則、及び限度検査値GKが設定される。さらに、監視すべき送信モード、例えばCPモードのための射影行列

が計算される、又は既に計算された複数の適切な射影行列から選択される。また、感度行列

も選択される。後で説明するように、この感度行列を用いて曝露検査値BKWiを求めることができる。
【0077】
測定時間中、高周波パルス(図示せず)が時間的に間隔を空けてそれぞれ送出される。さらに、高周波パルスを送出している間、方向性結合装置22が規則的な時間間隔で個々の送信チャネルK1,K2,...,Kn上の電圧振幅を求め、これらの電圧振幅から異なる時点における励起ベクトル

(つまり、ここでは送信振幅ベクトル)を求める。次に、これらの励起ベクトル

から、テンソル乗算
【数11】

により、現在の相互相関行列

が求められる(図2のステップIIを参照せよ)。
【0078】
これらの相互相関行列

は被検体に照射された高周波パワーを表しており、冒頭で述べたように、感度行列を援用することにより、個々の送信チャネルの空間的な重なりを考慮した局所SARの監視を可能にする。したがって、これらの相互相関行列

は高周波曝露値と見なすことができる。所定の時間窓Δt内のすべての相互相関行列

を式(11)に従って積算(ないし積分)することにより、これらの相互相関行列から、時間に依存する相互相関行列和

が形成される。その際、時間窓Δtは求められた送信振幅ベクトル

又は相互相関行列

上を時間と共に移動し、移動する値が得られる。もちろん、その際に、時間窓が(図2に示されているように)そのつど1つの求められた送信振幅ベクトル

の分だけしかシフトされないということは、必須ではない。同様に、時間窓は必ずしも2つの連続する相互相関行列和

とオーバーラップしなくてもよい。
【0079】
相互相関行列和

は二重に利用することができる。一方では、これら相互相関行列和

にそれぞれ要素ごとに所望の射影行列

を乗じ、その値を総和する(図2のステップIIIを参照せよ)ことにより、これら相互相関行列和

を基礎として、式(10)からスカラー値のモード検査値MKW1,MKW2,...,MKWi,...を求めることができる。このようにして求められたモード検査値MKW1,MKW2,...,MKWi,...はつぎにモード基準値と比較される。又は、今のケースでは単純に、モード検査値MKWiが所定の程度を超えて0から偏差しているか否かが検査される。モード検査値MKWiが所定の程度を超えて0から偏差していれば、モード検査信号MKSが送信される。その結果、例えば、限度値GKを厳しくするなど、別の検査規則が設定される(図2のステップIVを参照せよ)。
【0080】
また、相互相関行列和

は、曝露検査値BKW1,BKW2,...,BKWi,...を求めるために、個々の時間窓Δtに対して使用することもできる。このために、局所SARの監視を可能にする感度行列

を相互相関行列和

に乗じてもよい(図2のステップVを参照せよ)。
【0081】
この方法の詳細は、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されており、この点に関して本明細書は上記文献の記載内容の全体を参照する。
【0082】
このようにして求められた曝露検査値BKW1,BKW2,...,BKWi,...はそれぞれ限度検査値GKと比較される(図2のステップVIを参照せよ)。曝露検査値BKWiが限度検査値GKに達しているか又は限度検査値GKを超えていることが確認された場合には、(図1に基づいて既に説明したように)検査信号KSが出力され、高周波電力増幅器の出力電力を低減するよう手配される。
【0083】
つまり、本発明による方法では、従来の監視方法と同じく、測定中に励起電圧が例えば方向性結合器又はピックアップコイルによって測定される。その他のソフトウェアから独立した中央ステーションにおいて、これらの測定値の相互相関を用いて、感度行列の両側から励起ベクトルを乗じた2次形式の時間積分がこれらの測定値から効率的に求められる。なお、上記の2次形式は発生する最大の局所的又は全身SAR値を表している。求められた値は、SAR規準に応じて、本発明によるモード検査のおかげで高い信頼性をもって正しく選択された監視規則に従い、許容できる最大の閾値と比較され、閾値が超過された場合には、測定は中止又は変更される。
【0084】
最後に、以上に説明した方法及び構造の詳細は実施例であり、その基本原理は、請求項によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者によって広い範囲で変更が可能であることを、今一度述べておく。これまで本発明を医療分野における磁気共鳴断層撮影システムを例として説明してきたが、本発明は科学的及び/又は工業的に利用される磁気共鳴断層撮影システムにも適用可能である。完全を期すために、不定冠詞の使用は該当する特徴が複数存在しうることを排除するものではないことも述べておく。同様に、「ユニット」という概念は、「ユニット」が空間的に分散していることもあり得る複数の構成要素から成ることを排除しない。
【符号の説明】
【0085】
1 コンピュータ断層撮影システム
2 断層撮影機
3 測定空間
4 患者台
5 システム制御部
6 受信インタフェース
7 インタフェースブロック
8 再構成装置
9 測定制御モジュール
10 高周波送信装置
11 高周波電力増幅装置
12 方向性結合装置
13 送受信切換装置
14 検査信号入力部
15 送信アンテナ系/全身コイル
16 高周波パルス発生システム
17 端末
18 データメモリ
20 高周波検査装置
21 測定値インタフェース
22 検査信号インタフェース
23 曝露検査ユニット
24 モード検査ユニット
O 患者/被検体
1,K2,...,Kn 送信チャネル
CP 送信モード
KS 検査信号
MKS モード検査信号
Δt 時間窓
KR 検査規則
HLR 高周波曝露値を求めるための規則
BLR 曝露検査値を求めるための規則
GK 限度検査値
MKW1,MKW2,...,MKWi,... モード検査値
BKW1,BKW2,...,BKWi,... 曝露検査値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体(O)の磁気共鳴測定の際に、複数の送信チャネル(K1,K2,...,Kn)を有する送信アンテナ系(15)を備えた磁気共鳴断層撮影システム(1)の高周波送信装置(10)を検査する方法において、
複数の時点又は期間において、前記各送信チャネル(K1,K2,...,Kn)上の高周波信号強度を表す励起ベクトル

を求め、
予め決められた検査規則(KR)に従い、前記被検体(O)に吸収された高周波曝露値をそのつど前記励起ベクトル

に基づいて求め、少なくとも1つの高周波曝露値に基づいた曝露検査値(BKW1,BKW2,...,BKWi,...)が予め決められた限度検査値(GK)に達しているか又は前記限度検査値を超えている場合には、前記高周波送信装置(10)の機能を制限し、なお前記検査規則(KR)は前記高周波送信装置(10)の現在の送信モード(CP)に依存して予め決められており、
前記励起ベクトル

に基づいてそのつど前記高周波送信装置(10)の送信モード(CP)を検査し、送信モードの変化が検出された場合には、前記検査規則(KR)を変更し、及び/又は前記高周波送信装置(10)の機能を制限する、ことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
高周波曝露値を求めるための規則(HLR)及び/又は曝露検査値を求めるための規則(BLR)及び/又は前記限度検査値(GK)を前記高周波送信装置(10)の送信モード(CP)に依存して設定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記励起ベクトル

に基づいて、前記送信モード(CP)を特徴付けるモード検査値(MKW1,MKW2,...,MKWi,...)を求め、該モード検査値(MKW1,MKW2,...,MKWi,...)がモード基準値から所定の程度だけ偏差している場合に、送信モードの変化が検出される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
送信モード(CP)の検査時に、前記高周波送信装置(10)がボリュームコイルモード(CP)で動作しているか否かを検査する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ボリュームコイルモード(CP)はCPモード(CP)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記高周波送信装置(10)の動作の、ボリュームコイルモード(CP)からの偏差を求めるために、射影行列

の両側に現在の励起ベクトル

をそれぞれ乗じることにより前記各励起ベクトルの2次形式を求め、なお前記射影行列

はボリュームコイルモードでの動作時に生じる励起ベクトルに基づいて求められたものである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記モード検査値(MKW1,MKW2,...,MKWi,...)を、モード検査期間中に求めた複数のモード検査部分値に基づいて求める、請求項3から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
モード検査期間内の複数の時点において、まずそのつど現在の励起ベクトル

とそれらの複素共役ベクトルとの外積により現在の相互相関行列

を求め、該相互相関行列

を総和することにより相互相関行列和

を求め、該相互相関行列和

を要素ごとに前記射影行列

と掛け合わせ、それにより生じた積の値を各モード検査期間のモード検査値(MKW1,MKW2,...,MKWi,...)を求めるために使用する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
曝露検査値(BKW1,BKW2,...,BKWi,...)は1つのモード検査期間に関して求められた相互相関行列和

に基づいている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
曝露検査値は1つの曝露検査期間中に求められた複数の高周波曝露値に基づいている、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
モード検査期間及び/又は曝露検査期間は、時間領域内で前記励起ベクトル

上を移動する1つの時間窓(Δt)によりそのつど決定される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
複数の送信チャネル(K1,K2,...,Ki)を有する送信アンテナ系(15)を備えた磁気共鳴断層撮影システム(1)の高周波送信装置(10)を検査する高周波検査装置(20)であって、
該高周波検査装置(20)は少なくとも、前記各送信チャネル(K1,K2,...,Ki)上の高周波信号強度を表す励起ベクトル

を捕捉する測定値インタフェースと、
検査信号(KS)を出力するための検査信号インタフェース(22)とを有しており、前記高周波検査装置(20)は、
予め決められた検査規則(KR)に従い、被検体(O)に吸収された高周波曝露値をそのつど前記励起ベクトル

に基づいて求め、少なくとも1つの高周波曝露値に基づいた曝露検査値(BKW1,BKW2,...,BKWi,...)が予め決められた限度検査値(GK)に達しているか又は前記限度検査値を超えている場合には、前記高周波送信装置(10)の機能を制限し、なお前記検査規則(KR)は前記高周波送信装置(10)の現在の送信モード(CP)に依存して予め決められており、
前記励起ベクトル

に基づいてそのつど前記高周波送信装置(10)の送信モード(CP)を検査し、送信モードの変化が検出された場合には、前記高周波送信装置(10)の機能を制限するために、前記検査規則(KR)を変更し、及び/又は、少なくとも1つの検査信号(KS)を生成するように構成されている、ことを特徴とする高周波検査装置(20)。
【請求項13】
複数の送信チャネル(K1,K2,...,Ki)を有する送信アンテナ系(15)と、前記送信チャネル(K1,K2,...,Ki)を介して高周波パルスを送信する高周波電力増幅器(13)と、請求項12に記載の高周波検査装置(20)とを有することを特徴とする、磁気共鳴断層撮影システム(1)のための高周波送信装置(10)。
【請求項14】
請求項13に記載の高周波検査装置(10)を有することを特徴とする磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項15】
高周波検査装置(20)のメモリに直接ロード可能なコンピュータプログラムであって、前記高周波検査装置(20)において実行したときに、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法のすべてのステップを実行するプログラムコード断片を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187406(P2012−187406A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−53441(P2012−53441)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】