説明

磁気共鳴画像内の位相情報の補正方法および磁気共鳴設備

【課題】 安定性の障害を良好に補正する。
【解決手段】基本磁場が印加され、事前設定されたボリューム区域のMRデータが取得され、MRデータが評価されて、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに位相情報が算出され、検査対象物の運動、またはその生理または前記磁気共鳴設備自体によって引き起こされる、基本磁場の意図しない変化を検出するナビゲータ信号が取得され、ナビゲータ信号を考慮して、位相情報が補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にエコープラナー法により撮影された磁気共鳴画像(MR画像)を作成する際に位相情報を補正する方法に関する。さらに本発明は、これに対応して構成された磁気共鳴設備に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば血液の酸素飽和度を表す機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)は、たとえば活動中の脳を非侵襲的に研究するために広く用いられる方法である。血液の酸素飽和度は、脳内の局所的な活性に依存して変化し、このように変化する酸素飽和に基づいてT2*緩和時間も変化し、ないしは検出される磁気共鳴データ(MRデータ)も変化する。このように、複素値fMRI信号は生理的な情報を含んでいる。
【0003】
fMRIを用いた分析の根底にある前提条件は、測定されたMR信号の空間的および時間的な安定性である。この前提条件は、拡散マップや血流マップを表す別の用途についても当てはまる。空間的な安定性(すなわち、検査対象物の特定の個所でそれぞれ事前設定された磁場強度が生じているという想定)は、たとえば呼吸や心拍によって、あるいは検査対象物の運動によって損なわれる場合がある。時間的な安定性(すなわち、特定の時点で、または事前設定された時間インターバルのあいだ(特定の個所で)事前設定された磁場強度が生じているという想定)は、たとえば磁気共鳴設備の相応のドリフトによって損なわれる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、安定性の障害を従来技術の場合よりも良好に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるとこの課題は、請求項1に記載のMR画像内の位相情報の補正方法、請求項13に記載の磁気共鳴設備、請求項15に記載のコンピュータプログラム製品、および請求項16に記載の電子的に読取り可能なデータ担体によって解決される。
【0006】
本発明の枠内においては、検査対象物の事前設定されたボリューム区域のMR画像(磁気共鳴画像)内の位相情報を磁気共鳴設備により補正する方法が提供される。本方法は、次の各ステップを含んでいる:
・基本磁場(B0)が印加される。
・事前設定されたボリューム区域に対応するK空間が走査されることによって、事前設定されたボリューム区域のMRデータ(磁気共鳴データ)が取得される。
・このMRデータが評価されて、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに位相情報が算出される。このようにして、たとえば振幅情報に追加して、ないしは振幅値に追加して、相応の位相値がピクセルごとに存在する。
・ナビゲータ信号が取得され、このナビゲータ信号を用いて、たとえば検査対象物によって引き起こされる、あるいは磁気共鳴設備自体の相応の不完全さ(ドリフト)によって引き起こされる、基本磁場の(意図しない)変化が検出される。
・このナビゲータ信号により、位相情報内における基本磁場の意図しない変化の影響が考慮されるように、位相情報が補正される。
【0007】
本発明では、位相情報が(従来技術で普通であるようにマグニチュード情報だけではなく)補正されて、基本磁場の意図しない変化が算出ないし補正されることにより、従来技術の場合よりも良好に安定性の障害が補正される。
【0008】
従来技術によると、たとえば機能的MRイメージングでは、振幅情報だけが基本磁場の意図しない変化に依存して相応に補正されて、生理的な情報を導き出すために利用される。そこで本発明では、画像領域内の位相情報も基本磁場の変化に関して補正することが可能となるので、生理的な情報として、画像領域内のMRデータの相応に補正された位相情報、または複素多価の全情報(位相情報および振幅情報)も利用できるという利点がある。
【0009】
画像領域内の正確な位相情報を得るために、補正はK空間内で行うことができ(K空間信号が補正されることによって)、または、画像空間内で行うことができる(たとえばK空間信号をMR画像データに変換した後で)。
【0010】
補正はリアルタイムで行うことができるので、(補正された位相情報を表す)相応のMR画像をリアルタイムで作成することができる。
【0011】
MRデータの取得は、特にエコープラナー法によって実施される。エコープラナー法では、個々の選択的高周波励起に基づいて、1つまたは複数のエコー信号が読み取られる。ここでエコープラナー法とは、K空間をスパイラル状または非デカルト式に(非直線状に)に走査する方法も意味している。
【0012】
エコープラナー法により、高周波励起に基づいて、K空間の複数の行(たとえば正弦波形に振動する勾配磁場の場合)またはK空間全体が走査され、それにより、高周波パルスごとにK空間の1つの行だけが走査される他の方法に比べて、K空間が時間的に迅速に検出されるという利点がある。したがって、機能的MRイメージングのためのエコープラナー法はたとえば脳内の短期的な変化を検出するのに適している。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、走査されるべき事前設定されたボリューム区域に対応するK空間がセグメントごとに走査される。ナビゲータ信号で検出された基本磁場の意図しない変化は、各セグメントのMRデータの取得のとき別途に考慮され、それにより、それぞれのセグメントのMRデータを基本磁場の検出された変化に応じて補正し、その後に特にセグメントのMRデータの位相情報の組み合わせ再構成が行われる。
【0014】
K空間の各セグメントのMRデータが個別的に補正されることによって、K空間のMRデータが組み合わされて再構成に利用されることにより、K空間のMRデータが全体として補正される取組みに比べて、アーティファクトを明らかに低減することができる。
【0015】
ナビゲータ信号としては、内部ナビゲータ信号または外部ナビゲータ信号のいずれかを利用することができる。ここで内部ナビゲータ信号とは、K空間の走査において追加的に(たとえば特定の参照行が追加的に検出されることによって)または黙示的に(たとえばK空間中心に由来するMR信号が使用されることによって)検出されるMR信号を意味している。それに応じて、通常の走査において検出されるK空間信号が、本発明により、同時に内部ナビゲータ信号でもあってよいので、ナビゲータ信号の検出のために追加のMR信号を検出する必要がない。特に内部ナビゲータ信号は、その他の補正(たとえば位相エンコーディング方向での画像重複(「ゴースティング」))のためにも利用することができる。外部ナビゲータ信号とは、たとえば呼吸ベルト(呼吸活動を検出する器具)や心臓モニタによって検出される信号を意味している。磁場センサと相応の校正とによっても、外部ナビゲータ信号を検出することができ、これを用いて、基本磁場のダイナミックな周波数変化に関する情報を検出することができる。
【0016】
本発明による別の実施形態では、位相情報は、第1の基準位相値と、第2の基準位相値と、第1の位相値と、第2の位相値とに依存して補正される。これらの位相値を検出するために、位相エンコーディングされていないナビゲータ信号によって横方向磁化が検出される。換言すると、自由誘導減衰がナビゲータ信号によって測定される。第1の基準位相値は、ナビゲーション信号による基準測定において、高周波励起パルスの後の第1の時間インターバルで測定される。第2の基準位相値は、ナビゲータ信号から生じるエコー信号の横方向磁化が、高周波励起パルスの後の第2の時間インターバルで、K空間の中心において基準測定時に測定されることによって、ナビゲータ信号を用いて決定される。第1の位相値は、位相エンコーディングされていない任意の測定信号により、相応の高周波励起後の第1の時間インターバルの後に自由誘導減衰を用いて、通常の測定において横方向磁化が検出されることによって決定される。第2の位相値は、測定から得られるエコー信号の横方向磁化が、高周波励起後の第2の時間インターバルで、K空間の中心において通常の測定において検出されることによって決定される。
【0017】
この実施形態では、2つの時点での基準位相値と、これと同じ2つの時点での位相値とが検出されるので、基本磁場の変化を補正するために、オフセットおよび当該変化の単位時間あたりの線形変化を考慮することができる。
【0018】
基準位相値の検出は、上に説明した実施形態ではパルス列の変化を意味しているので、得られるエコー信号の横方向磁化が、高周波励起パルスの後の時間インターバルで、K空間の中心において基準測定時に検出されることによって基準位相値だけが決定され、得られたエコー信号の横方向磁化が、高周波励起パルスの後の時間インターバルで、K空間の中心において本来の測定時に検出されることによって位相値だけが決定される実施形態も存在する。この簡素化された実施形態では、基準位相値と位相値とにのみ依存して位相情報が補正される。
【0019】
この簡素化された実施形態では、基本磁場の変化を補正するにあたって、単位時間あたりの線形変化だけが考慮される(オフセットは考慮されない)。
【0020】
本発明によれば、MR画像の作成時における位相情報の補正が重要である。しかしながら基本磁場の検出された変化は、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとにMRデータから算出される振幅情報ないしマグニチュード情報の補正にも利用することができる。そのために、基本磁場の検出された変化をK空間でのMRデータの検出時に、または画像空間でのMRデータの評価(再構成)時に、すでに考慮に入れておいて、振幅情報も相応に補正する。
【0021】
歪みマップ("distortion map")を作成するために、K空間を1回目およ
び引き続いて2回目に走査することができ、両ケースにおいてエコープラナー法が適用される。第2の走査と比較して、エコープラナー法の位相エンコーディング勾配磁場は、小さな追加のグラジエントモーメントを有しており(すなわちこのモーメントは、位相エンコーディング勾配磁場の本来の振幅と比較して小さい振幅の値を有している)、このグラジエントモーメントによって、K空間内で位相エンコーディング勾配磁場に対応する方向に、第1の走査の結果と第2の走査の結果との間で一定のシフトが行われる。ピクセルごとに、第1の走査の結果と第2の走査の結果との間の位相差が算出されることによって、歪みマップが作成される。基本磁場の意図しない変化の影響は、本発明によると、位相差の算出時に補正される。このように歪みマップは、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに、検出された基本磁場の変化を補正するために当該ピクセルの位相値をどれだけ補正すればよいかを表している。
【0022】
磁場マップ("field map")を作成するために、K空間を第1のエコー時間の後
と第2のエコー時間の後とにそのつど(すなわち2重に)走査することができる。第1のエコー時間で検出されたMRデータを用いて第1の位相マップが作成され、第2のエコー時間で検出されたMRデータを用いて第2の位相マップが作成される。位相マップはピクセルごとに、当該ピクセルについてどれだけの位相値が算出されたかを表している。本発明に基づいて位相値が補正され、それによって両位相マップの位相情報が、基本磁場の検出された変化を考慮しているという利点が得られる。磁場マップは第1の位相マップと第2の位相マップとの差から作成され、ピクセルごとに、当該ピクセルについ基本磁場がどれだけ強いかを表している。
【0023】
本発明が磁場マップの作成のために適用されることにより、たとえば生理的なアーティファクトを磁場マップから消去することができる。
【0024】
本発明において、MR画像データを検出するための磁気共鳴設備も提供される。この磁気共鳴設備は、基本磁場磁石と、勾配磁場システムと、高周波アンテナと、勾配磁場システムおよび高周波アンテナを制御し、取得された測定信号を高周波アンテナから受信し、この測定信号を評価し、それによっててMR画像を取得するための制御装置とを含んでいる。そのために磁気共鳴設備は基本磁場を印加し、事前設定されたボリューム区域のMRデータを取得する。磁気共鳴設備はこのMRデータを評価し、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに位相情報を算出する。磁気共鳴設備は、基本磁場の意図しない変化に依存するナビゲータ信号を検出し、このナビゲータ信号によって位相情報を補正する。
【0025】
本発明による磁気共鳴設備の利点は、上に詳細に説明した本発明による方法の利点と基本的に対応しているので、ここで繰り返して述べることはしない。
【0026】
さらに本発明はコンピュータプログラム製品、特にコンピュータプログラムまたはソフトウェアを記載しており、磁気共鳴設備のプログラミング可能な制御部ないし計算ユニットのメモリ内にこれをロードすることができる。このようなコンピュータプログラム製品により、コンピュータプログラム製品が磁気共鳴設備の制御部または制御装置で作動すれば、本発明による方法の上に説明したすべての実施形態または種々の実施形態を実施することができる。場合によりコンピュータプログラム製品は、本方法の相応の実施形態を具体化するために、たとえばライブラリと補助機能のようなプログラム手段とを必要とする。換言すると、コンピュータプログラム製品を対象とする請求項により、特に、上に説明した本発明の方法の実施形態のうちの1つを実行することができる、ないしは当該実施形態を実行する、コンピュータプログラムまたはソフトウェアの権利保護が申請される。このソフトウェアは、まだコンパイル(翻訳)や連係編集されていない、もしくは解釈だけすればよいソースコード(たとえばC++)であってよく、あるいは、実行のために相応の計算ユニットへロードするだけでよい、実行可能なソフトウェアコードであってよい。
【0027】
最後に本発明は、電子的に読取り可能な制御情報が、特にソフトウェア(上記参照)が保存された電子的に読取り可能なデータ担体、たとえばDVD、磁気テープ、またはUSBスティックを開示する。この制御情報(ソフトウェア)がデータ担体から読み取られ、磁気共鳴設備の制御部ないし計算ユニットに保存されれば、上に説明した方法の本発明によるすべての実施形態を実行することができる。
【0028】
本発明は、特に機能的MRイメージングのために、または拡散強調MR画像の作成のために、または灌流強調MR画像の作成のために好適である。当然ながら、本発明はこのような好ましい適用分野だけに限定されるものではない。本発明は、結果が正しい位相情報に依存するどのような用途でも、適用できるという利点があるからである。たとえば脳が特定の情報を処理するときの特定の脳部位間の関係が表される、あるいは機能的結合のMRイメージング(結合性マッピング"connectivity mapping")が適用される、機能的MRイ
メージングの分野における新式の方法も、振幅だけでなく位相も本発明に基づいて補正されることにより、本発明から利点を得る。特にMRイメージング法は、基本磁場の意図しないダイナミックな時間的、空間的な変化が、本発明に基づいて位相情報に関しても検出、補正されることによって、安定性と画像品質の面から利点を得る。
【0029】
次に、図面との関連で本発明に基づく好ましい実施形態を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による磁気共鳴設備を模式的に示す図である。
【図2】エコープラナー法での基準測定と通常の測定とについて、時間に対する位相を示した図である。
【図3】ナビゲータ周波数と位相値とスペクトルとの関係を示す図である。
【図4】本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、(磁気共鳴イメージング機器ないし核スピン断層撮影機器の)磁気共鳴設備5の模式図を示している。基本磁場磁石1は、データ検出のためにテーブル23の上に横たわって磁気共鳴設備5の中に入るたとえば人体の検査されるべき部分(たとえば頭部)のような対象物の検査領域で核スピンを分極ないし整列するために、時間的に一定の強さの磁場を生成する。核スピン共鳴測定に必要となる基本磁場の高い均一性は、典型的には球形である測定ボリュームM内で得られる。均一性の要求を支援するために、および特に時間的に変化しない影響を除去するために、強磁性材料からなるいわゆるシムプレートが適切な個所に取り付けられている。時間的に変化する影響はシムコイル2によってほぼ取り除かれる。
【0032】
基本磁場磁石1には、3つの部分巻線からなる円筒形の勾配磁場コイルシステム3が挿入されている。各部分巻線には、デカルト座標系の各方向へ直線の(時間的に可変の)勾配磁場(傾斜磁場とも呼ばれている)を生成するための電流が増幅器から供給される。勾配磁場システム3の第1の部分巻線はx方向の勾配磁場(傾斜磁場)Gxを生成し、第2の部分巻線はy方向の勾配磁場(傾斜磁場)Gyを生成し、第3の部分巻線はz方向の勾配磁場(傾斜磁場)Gzを生成する。増幅器は、勾配磁場パルスを正しい時点で生成するためにシーケンス制御部18により制御されるデジタル・アナログ変換器を含んでいる。
【0033】
勾配磁場システム3の内部には、1つの(または複数の)高周波アンテナ4があり、これが高周波出力増幅器から放出される高周波パルスを交番磁場に変換して、核を励起するとともに、検査されるべき対象物Oないし対象物Oの検査されるべき領域の核スピンを整列させる。各々の高周波アンテナ4は、1つまたは複数の高周波送信コイルと、1つまたは複数の高周波受信コイルとで構成されており、これらは環状で特に線形またはマトリクス形に配置された部分コイルの形態をとっている。それぞれの高周波アンテナ4の高周波受信コイルにより、歳差運動をする核スピンから発せられる交番磁場も、すなわち、通常は1つまたは複数の高周波パルスと1つまたは複数の勾配磁場パルスとからなるパルスシーケンスにより惹起される核スピン信号も、電圧(測定信号)に変換され、これが増幅器7を介して高周波システム22の高周波受信チャネル8に供給される。さらに高周波システム22は、磁気的な核共鳴を励起するための高周波パルスを生成する送信チャネル9を含んでいる。それぞれの高周波パルスは、設備コンピュータ20により設定されるパルスシーケンスに基づき、シーケンス制御部18で複素数の列としてデジタル式に表される。この数列は実数部分および虚数部分として、それぞれ入力部12を介して高周波システム22のデジタル・アナログ変換器へ供給され、そこから送信チャネル9へ供給される。送信チャネル9では、測定ボリューム内の核スピンの共鳴周波数に一致する基本周波数を有する高周波搬送波信号に、パルスシーケンスが追加されて変調される。
【0034】
送信動作から受信動作への切換は送受信切換器6を介して行われる。1つまたは複数の高周波アンテナ4の高周波送信コイルは、核スピンの励起のために高周波パルスを測定ボリュームMへ送り込み、その結果として生じるエコー信号が高周波受信コイルを介して走査される。こうして得られた核共鳴信号は、高周波システム22の受信チャネル8’(第1の復調器)で位相敏感に中間周波数に復調されて、アナログ・デジタル変換機(ADC)でデジタル化される。この信号がさらに周波数0に復調される。周波数0への復調、および実数部分と虚数部分とへの分割は、デジタル化の後、第2の復調器8のデジタルドメインで行われる。画像コンピュータ17により、こうして得られた測定データからMR画像を再構成することができる。測定データ、画像データ、および制御プログラムの管理は設備コンピュータ20を介して行われる。制御プログラムによる設定に基づき、シーケンス制御部18はそのつど希望されるパルスシーケンスの生成と、k空間の相応の走査とをコントロールする。特にシーケンス制御部18は、正しい時間での勾配磁場の切換、定められた位相振幅での高周波パルスの発信、ならびに核共鳴信号の受信を制御する。高周波システム22およびシーケンス制御部のための時間ベースはシンセサイザ19により提供される。たとえばDVD21に保存されMR画像を生成するための相応の制御プログラムの選択、ならびに生成されたMR画像の表示は、キーボード15と、マウス16と、スクリーン14とを含む端末13を介して行われる。
【0035】
図2には、MRデータを得るための基準測定42および通常の測定41について、K空間内で検出された位相Φ(t)が時間tに対して図示されており、MRデータはエコープラナー法により検出されている。そのために、読取り勾配磁場Groと位相エンエンコーディング勾配磁場Gpeが同一の時間尺度で表示されている。想定しているモデルによれば、基本磁場の意図しない変化に基づいて位相値が時間に対して線形に変化しており、その結果、(時点0における)位相値と周波数オフセットを決定するためには、異なる時点での2つの測定点が必要である。位相値Φは、横方向磁化が位相エンコーディングされていないナビゲータ信号(自由誘導減衰に従う信号)により高周波励起後の第1の時点で測定され、相応のナビゲータ信号により生成されるエコー信号がK空間の中心においてその後の第2の時点で測定されることによって測定される。いずれのケースでも、検出されるべき層全体にわたって積分された信号が走査される。エコー信号がK空間中心で検出されるとき、ナビゲータ信号が読取り方向でもエンコーディングされていてよい。実際には、基準測定のためにナビゲータ信号とエコー信号が信号最大値を用いて検出されて、以後のすべての測定に利用される。
【0036】
基準測定42および本来の測定41の時点T1での位相値ΦR,1およびΦn,1から、および時点T2での位相値ΦR,2およびΦn,2から、次式(1)を用いて、時点0での位相差ΔΦが決定される。
【数1】

【0037】
同一の位相値と時点(時間インターバル)に関して、次式(2)により、基準測定の周波数(位相の傾斜)と本来の測定の周波数(傾斜)との間の周波数変化(傾斜変化)Δωが決定される。
【数2】

【0038】
そして位相差ΔΦと周波数変化Δωとを用いて、K空間内で本来の測定中に検出された信号を、次式(3)に基づく時間tに依存する係数Fとの乗算によって補正することができる。
【数3】

【0039】
簡略化された補正では、K空間中心における基準測定42のためのエコー信号と、時点T(第2の時間インターバルT2に相当)での本来の測定41だけが検出される。このようにして検出された位相値ΦR,Φnおよび時間インターバルTから、次式(4)を通じて、基準測定42の周波数(傾斜)と本来の測定41の周波数(傾斜)との間の周波数変化(傾斜変化)Δωを決定することができる。
【数4】

【0040】
周波数変化Δωを用いて、時間tに依存する係数Fとの乗算により、次式(5)に基づいてK空間信号を補正することができる。
【数5】

【0041】
簡略化された補正のためには、測定中(K空間の走査中)に、位相差ΔΦが実質的に一定に保たれることが前提条件となる。
【0042】
そして式(3)または式(5)の項を用いて補正されたK空間信号から、たとえばフーリエ変換により、K空間信号が検出されるK空間に一致する事前設定されたボリューム区域のボクセルごとに、振幅値および位相値を決定することができる。換言すると、上に説明した両方の補正により、位相情報すなわち事前設定されたボリューム区域のボクセルごとの位相値も、相応に補正される。
【0043】
図3には本発明の結果が示されている。図3のa)には、ナビゲータ周波数31の推移(すなわちナビゲータ信号で検出された周波数変化の推移)が、時間に対して示されている。このナビゲータ周波数31は、上に説明した周波数変化Δωに実質的に相当している。
【0044】
事前設定されたボリューム区域のボクセルの位相値の時間を通じての平均値が図3のb)において、本発明による補正のない例32と、本発明により補正された例33とで図示されている。これからわかるとおり、補正をしないときの推移32は、図のa)の検出された周波数変化31にほぼ相当している。
【0045】
図3のc)には、K空間内で検出された測定信号のスペクトルが、本発明による補正のない例34と、本発明により補正された例35とで示されている。本発明に基づく補正により、呼吸36、心拍37、および磁気共鳴設備の冷却ヘッド38に基づくアーティファクトが除去される。
【0046】
図4には、本発明による方法のフローチャートが示されている。
【0047】
第1のステップS1では、基本磁場B0が印加される。
【0048】
引き続いて次のステップS2で、走査されるべき事前設定されたボリューム区域に対応するK空間がエコープラナー法により走査され、このときナビゲータ信号も検出される。
【0049】
ナビゲータ信号により検出された結果を用いて、ステップS3でK空間測定値が直接的に補正され、またはそこから導き出されるMRデータが画像空間で補正される。
【0050】
補正されたK空間測定値または補正されたMRデータをもとにして、ステップS4で、位相値(および振幅値)が事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに算出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物(O)の事前設定されたボリューム区域の磁気共鳴画像内の位相情報を磁気共鳴設備(5)により補正する方法において、
基本磁場(B0)が印加されるステップと、
事前設定されたボリューム区域の磁気共鳴データが取得されるステップと、
磁気共鳴データが評価されて、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに位相情報が算出されるステップと、
検査対象物の運動または前記磁気共鳴設備(5)自体によって引き起こされる基本磁場の意図しない変化を検出するナビゲータ信号が取得されるステップと、
このナビゲータ信号を考慮して位相情報が補正されるステップと、
を含んでいる磁気共鳴画像内の位相情報の補正方法。
【請求項2】
磁気共鳴データの取得はエコープラナー法により実行され、
エコープラナー法では個々の選択された高周波励起に基づいて1つまたは複数のエコー信号が読み取られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
事前設定されたボリューム区域に対応するK空間がセグメントごとに走査され、
基本磁場の検出された変化は各セグメントのMRデータの検出時に別個に考慮され、それにより各セグメントの磁気共鳴データを補正し、
次いで、位相情報を再構成するために組み合わされたセグメントのMRデータの評価が実行されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ナビゲータ信号は呼吸ベルトまたは心臓モニタによって検出されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
位相エンコーディングされていないナビゲータ信号により自由誘導減衰に基づいて高周波励起後の第1の時間インターバル(T1)で基準測定(42)時に横方向磁化が検出されることによって第1の基準位相値(ΦR,1)が決定され、
前記ナビゲータ信号から生じるエコー信号の横方向磁化が高周波励起後の第2の時間インターバル(T2)でK空間の中心において基準測定(42)時に検出されることによって第2の基準位相値(ΦR,2)が決定され、
位相エンコーディングされていない測定信号により自由誘導減衰に基づいて高周波励起後の第1の時間インターバル(T1)で測定(41)時に横方向磁化が検出されることによって第1の位相値(Φn,1)が決定され、
前記測定信号から生じるエコー信号の横方向磁化が高周波励起後の第2の時間インターバル(T2)でK空間の中心において測定(41)時に検出されることによって第2の位相値(Φn,2)が決定され、
第1の基準位相値(ΦR,1)と、第2の基準位相値(ΦR,2)と、第1の位相値(Φn,1)と、第2の位相値(Φn,2)とに依存してMRデータがK空間の走査時に補正されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
磁気共鳴データが時間tに関係する係数Fを乗算されることによって、MRデータが補正され、
係数Fは次式
【数1】

に基づいて決定され、
ΔΦおよびΔωは次式
【数2】


に基づいて決定される
(ここでΦR,1は第1の基準位相値、ΦR,2は第2の基準位相値、Φn,1は第1の位相値、Φn,2は第2の位相値、T1は第1の時間インターバル、T2は第2の時間インターバルである)ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
生じたエコー信号の横方向磁化が高周波励起後の時間インターバル(T2)でK空間の中心において基準測定時に検出されることによって基準位相値(ΦR,2)が決定され、
生じたエコー信号の横方向磁化が高周波励起後の第2の時間インターバルの後でK空間の中心において測定時に検出されることによって位相値(Φn,2)が決定され、
基準位相値(ΦR,2)と位相値(Φn,2)に依存して磁気共鳴データがK空間の走査時に補正されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
磁気共鳴データが時間に関係する係数Fを乗算されることによって、磁気共鳴データが補正され、
係数Fは次式
【数3】

に基づいて決定され、
Δωは次式
【数4】

に基づいて算出される
(ここでΦRは基準位相値、Φnは位相値、Tは時間インターバルである)ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
磁気共鳴データは事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに振幅情報が算出されるように評価され、
基本磁場の検出された変化はK空間内での磁気共鳴データの検出時および/または磁気共鳴データの評価時に考慮され、それにより振幅情報も補正することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は機能的磁気共鳴イメージングのため、機能的結合の磁気共鳴イメージングのため、拡散強調磁気共鳴画像の生成のため、または灌流強調磁気共鳴画像の生成のために適用されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
K空間は1回目およびこれに続く2回目にそのつどエコープラナー法により走査され、
第2の走査時にエコープラナー法の位相エンコーディング勾配磁場は第1の走査に比較して小さな追加のグラジエントモーメントを有しており、それによってK空間内で位相エンコーディング勾配磁場に相当する方向に沿って第1の走査の結果と第2の走査の結果との間で一定のシフトが行われ、
第1の走査の結果と第2の走査の結果とに基づくピクセルごとの位相差により、基本磁場の変化を考慮するために事前設定されたボリューム区域のピクセルについて算出された位相値がどれだけ補正されるべきであるかを前記事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに表す歪みマップが作成されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
磁気共鳴データが第1のエコー時間の後と第2のエコー時間の後とに検出されることによってK空間が二重に走査され、
第1のエコー時間で検出されたMRデータから第1の位相マップが作成され、第2のエコー時間で検出されたMRデータから第2の位相マップが作成され、位相マップは位相値をピクセルごとに表しており、
第1の位相マップと第2の位相マップとの差から、基本磁場の強さをピクセルごとに決定可能である磁場マップが作成されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
検査対象物(O)の事前設定されたボリューム区域の磁気共鳴画像内の位相情報を補正するための磁気共鳴設備において、
磁気共鳴設備(5)は基本磁場磁石(1)と、勾配磁場システム(3)と、少なくとも1つの高周波アンテナ(4)と、勾配磁場システム(3)および少なくとも1つの高周波アンテナ(4)を制御し、少なくとも1つの高周波アンテナ(4)から取得された測定信号を受信し、当該測定信号を評価するための制御装置(10)とを含み、
磁気共鳴設備(5)は、磁気共鳴設備(5)が基本磁場を印加するように構成され、
磁気共鳴設備(5)は事前設定されたボリューム区域の磁気共鳴データを取得し、磁気共鳴設備(5)は当該磁気共鳴データを評価して、事前設定されたボリューム区域のピクセルごとに位相情報が算出し、磁気共鳴設備(5)は、検査対象物(O)の運動または磁気共鳴設備(5)自体によって引き起こされる基本磁場の意図しない変化を検出するナビゲータ信号を取得し、前記磁気共鳴設備(5)は当該ナビゲータ信号を考慮して位相情報を補正する磁気共鳴設備。
【請求項14】
磁気共鳴設備(5)は、前記磁気共鳴設備(5)が請求項1から12のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の磁気共鳴設備。
【請求項15】
磁気共鳴設備(5)のプログラミング可能な制御装置(10)のメモリ内に直接ロード可能であるコンピュータプログラム製品において、プログラムが磁気共鳴設備(5)の制御装置(10)内で実行されるときに、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法のすべてのステップを実行するためのプログラム手段を有しているコンピュータプログラム製品。
【請求項16】
電子式に読取り可能な制御情報が記憶されている電子式に読取り可能なデータ担体であって、磁気共鳴設備(5)の制御装置(10)内でデータ担体(21)が使用されるときに請求項1から12のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されている電子式に読取り可能なデータ担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205897(P2012−205897A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69388(P2012−69388)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】