説明

磁気再生ヘッド及びこれを用いた磁気記録媒体再生装置

【課題】本発明は、確実に高出力・低ノイズ・高分解能を実現できる磁気再生ヘッド及びこれを用いた磁気記録媒体再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】所定の移動方向160に移動する磁気記録媒体150に記録された磁気記録情報を検出する磁気再生ヘッド60であって、
前記移動方向と膜厚t方向が一致し、前記磁気記録媒体との対向面に側面が露出して配置された高透磁率磁性膜からなるフラックスガイド10と、
該フラックスガイドを前記移動方向両側から挟むように配置された非磁性材料からなる保護膜20と、を有し、
前記フラックスガイドの前記磁気記録媒体との対向面における幅Wは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気再生ヘッド及びこれを用いた磁気記録媒体再生装置に関し、特に、所定の移動方向に移動する磁気記録媒体に記録された磁気記録情報を検出する磁気再生ヘッド及びこれを用いた磁気記録媒体再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気光学再生ヘッドによる磁気記録媒体の再生方法として、磁性ガーネット膜を利用した光磁気読み出し方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。かかる非特許文献1に記載の磁気記録媒体の再生方法においては、磁気記録情報を、磁気記録媒体の直上に設置した磁性ガーネットへの磁気転写と、ファラデー効果を利用して光再生している。また、磁気記録媒体に記録されている複数トラックのデータを並列に読み出す再生方式により、高速再生の可能性が示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
図1は、非特許文献1に記載された従来の磁気光学再生ヘッドの構成を示した図である。図1に示すように、参考文献1に記載の磁気光学再生ヘッドにおいては、磁性ガーネット膜と磁気記録媒体との間に、膜厚1.3μmの誘電体多層膜を形成している。かかる誘電体多層膜は、磁性ガーネット膜を保護する保護膜及びレーザー光を反射する反射膜として機能し、磁気記録媒体に記録された磁化パターンの変化(磁気記録情報)を、磁気ファラデー効果を利用して再生する場合には必須であると考えられていた。しかしながら、誘電体多層膜は、保護膜及び反射膜としての性能は厚いほどよく、磁気記録情報の再生感度の向上の観点からは薄いほど性能が高く、膜厚の設定は容易ではないという問題があった。
【0004】
そこで、再生分解能の改善を目的として、磁気記録媒体と転写膜との間に、高透磁率磁性薄膜を介在させる磁気光学再生装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図2は、特許文献1に記載された従来の磁気光学再生装置の構成を示した図である。図2に示すように、磁気記録媒体211と転写膜212との間に、両側をホルダー214で支持された高透磁率磁性薄膜213が設けられている。特許文献1に記載の磁気光学再生装置においては、高透磁率磁性薄膜213を配置することにより、隣接ビット信号の読み取り干渉が抑制され、再生分解能がレーザー光のビーム径で決定されずに、再生分可能を向上できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−8380号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】野村龍男、徳丸春樹、「磁性ガーネット膜を利用した光磁気読み出し」、電子通信学会論文誌、'84/11 Vol.J67−C No.11
【非特許文献2】岸田雅彦、玉城孝彦、林直人、「レーザーを用いた磁気テープ高速再生のための基礎検討」、2006年映像メディア学会冬季大会(ITE Winter Annual Convention 2006)
【非特許文献3】岸田雅彦、林直人、他3名、「磁気転写膜を用いた磁気テープの光再生実験」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の構成では、高透磁率磁性薄膜の高さ(磁気記録媒体から転写膜までの距離)が規定されていないため、隣接ビット信号の読み取り干渉を抑制する効果も明らかとなっておらず、種々の構成・記録方式を有する磁気光学再生装置に対して、必ずしも隣接ビット信号の読み取り干渉を抑制する効果があるとは限らないという問題があった。
【0009】
例えば、VTR(Video Tape Recorder)では、アジマス記録方式が採用されているが、放送用デジタルVTRでは20度に傾斜させて記録されており、アジマス損失による信号出力の低下は30dB程度となる。かかる場合に、特許文献1に記載の「高透磁率磁性薄膜の膜面が磁気記録媒体の走行方向にほぼ直交する方向に延在するように配置する」手段では、高い再生出力を得ることは難しいという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、確実に高出力・低ノイズ・高分解能を実現できる磁気再生ヘッド及びこれを用いた磁気記録媒体再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態に係る磁気再生ヘッドは、所定の移動方向に移動する磁気記録媒体に記録された磁気記録情報を検出する磁気再生ヘッドであって、
前記移動方向と膜厚方向が一致し、前記磁気記録媒体との対向面に側面が露出して配置された高透磁率磁性膜からなるフラックスガイドと、
該フラックスガイドを前記移動方向両側から挟むように配置された非磁性材料からなる保護膜と、を有し、
前記フラックスガイドの前記磁気記録媒体との対向面における幅は、0.5〜1.5μmであることを特徴とする。
【0012】
また、前記フラックスガイドの高さは、1〜5μmであってもよい。
【0013】
また、前記フラックスガイドの前記磁気記録媒体との対向面における膜厚は、前記磁気記録媒体の最短記録ビット長以下であってもよい。
【0014】
また、前記フラックスガイドは、上方に移動するにつれて膜厚が拡大する形状を有してもよい。
【0015】
本発明の他の実施形態に係る磁気記録媒体再生装置は、
前記磁気再生ヘッドと、
該磁気再生ヘッドにレーザー光を照射するレーザー光源と、
前記磁気再生ヘッドから反射された反射光を検出する検出器と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長寿命を実現しつつ、高出力、低ノイズ及び高分解能で磁気記録媒体の再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】非特許文献1に記載された従来の磁気光学再生ヘッドの構成を示した図である。
【図2】特許文献1に記載された従来の磁気光学再生装置の構成を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気再生ヘッドの構成の一例を示した断面図である。
【図4】本実施形態に係る磁気再生ヘッドと磁気記録媒体との関係の詳細説明図である。
【図5】本実施形態に係る磁気再生ヘッドの、記録波長0.77μmにおけるガイド幅Wに対する再生出力の変化を示した図である。
【図6】本実施形態に係る磁気再生ヘッドの、記録波長2.7μmにおけるガイド幅Wに対する再生出力の変化を示した図である
【図7】本実施形態に係る磁気再生ヘッドのフラックスガイドによる効果の説明図である。図7(A)は、比較例として、従来の磁気再生ヘッドの構成を示した断面図である。図7(B)は、本実施形態に係る磁気再生ヘッドの構成を示した断面図である。
【図8】本発明の実施例に係る磁気再生ヘッドの構成を示した図である。
【図9】比較例に係る従来の磁気再生ヘッドのXY面詳細図である。
【図10】比較例に係る磁気再生ヘッドの転写膜の磁束密度のY方向成分Byの計算結果の一例を示した図である。
【図11】比較例に係る磁気再生ヘッドの転写膜の最下面のXZ面コンター図である。
【図12】比較例に係る磁気再生ヘッドの磁束密度Bの転写膜のY方向成分ByのX方向のラインプロファイルを示した図である。
【図13】本実施例に係る磁気再生ヘッドの転写膜の磁束密度のY方向成分Byの計算結果の一例を示した図である。
【図14】本実施例に係る磁気再生ヘッド61の転写膜の最下面における磁束密度BのY方向成分ByのX方向のラインプロファイルを示した図である。
【図15】本実施例に係る磁気再生ヘッドのフラックスガイド11の高さLによる磁気転写膜の飽和磁束密度Byの変化を示した図である。
【図16】本実施気形態に係る磁気再生ヘッドを用いた磁気記録媒体再生装置の全体構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0019】
図3は、本発明の実施形態に係る磁気再生ヘッド60の構成の一例を示した断面図である。図3において、本実施形態に係る磁気再生ヘッド60は、フラックスガイド10と、保護膜20と、転写膜30と、反射膜40と、透明基板50とを有する。また、図3において、関連構成要素として磁気記録媒体150が示されており、磁気記録媒体150の移動方向160が左から右の矢印として示されている。
【0020】
フラックスガイド10は、磁気記録媒体150との対向面に露出して設けられている。フラックスガイド10の磁気記録媒体150の移動方向160と平行な両側には、保護膜20が、やはり磁気記録媒体との対向面に設けられている。フラックスガイド10及び保護膜20の上には、反射膜40が設けられている。反射膜40の上層には、転写膜30が積層され、転写膜30の上には、透明基板50が設けられている。実際の製造プロセスにおいては、透明基板50の上に転写膜30が形成され、その上に反射膜40が形成され、その上にフラックスガイド10及び保護膜20が形成されることになる。磁気再生ヘッド60の使用時には、図3に示すように上下を反転させて用いる。
【0021】
フラックスガイド10は、磁力線又は磁束を導き、磁力線又は磁束の経路として機能するガイド手段であり、高透磁率磁性材料の膜から構成される。高透磁率磁性膜の膜厚方向は、磁気記録媒体150の移動方向160に一致し、図3における水平方向が膜厚方向となる。よって、磁気記録媒体150との対向面には、フラックスガイド10の側面が露出していることになる。フラックスガイド10は、種々の高透磁率磁性材料から構成され得るが、例えば、パーマロイやセンダスト、鉄系又はコバルト系の非晶質材料、鉄やコバルトを主成分とする多結晶軟磁性材料等から構成されてもよい。また、フラックスガイド10は、磁気記録媒体150の磁気記録情報を効率よく検出するために、磁気記録媒体150との対向面に露出して設けられる。
【0022】
保護膜20は、反射膜40及び転写膜30を保護するための膜であり、非磁性材料から構成される。保護膜20に用いられる非磁性材料は、反射膜40及び転写膜30を適切に保護でき、磁性を有しない限り種々の材料を用いることができる。保護膜20には、例えば、カーボン(C)や種々の金属が用いられてよく、二酸化ケイ素(SiO)、タンタル膜等が用いられてもよい。また、保護膜20の磁気記録媒体150との摺動面に、ダイヤモンドライクカーボン等の摩耗特性に優れた材料を複合してもよい。高透磁率磁性膜から構成されるフラックスガイド10の両側を、非磁性材料から構成される保護膜20で挟み込む構成とすることにより、フラックスガイド10が磁力線又は磁束の経路を規制し、隣接する磁化が他の経路を経由して進入することを防ぐことができる。
【0023】
磁気記録媒体150は、磁気信号を記録した磁気記録媒体である。磁気記録媒体150には、長手方向に所定のトラックピッチで磁気信号が記録されており、所定の移動方向160に移動することにより、磁気再生ヘッド60が磁気記録媒体に記録された磁気記録情報を検出することができる。図3においては、磁気記録媒体150が右方向に移動することが示されている。磁気記録情報は、磁気記録媒体150にデジタル信号が記録されている場合には、磁化の方向が磁気記録情報となる。なお、磁気記録媒体150の奥行き方向は、トラック幅となる。
【0024】
転写膜30は、検出した磁気情報を転写するための媒体である。転写膜30は、膜厚が0.1〜数μmで、低保磁力磁性ガーネットから構成される。なお、膜厚0.5μmの磁性ガーネットを用いることにより、記録ビット長0.385μmの信号が明瞭に転写できることが知られているので(例えば、非特許文献3参照)、記録ビット長が0.385μm付近のときには、膜厚0.5μmの磁性ガーネットを転写膜30に用いるようにしてもよい。
【0025】
反射膜40は、磁気記録媒体150の存在位置と反対側から照射されるレーザー光130を反射するための膜である。反射膜40は、例えば、膜厚20〜50nmのアルミニウム膜又は銀合金膜で構成されてもよい。
【0026】
図4は、本発明の実施形態に係る磁気再生ヘッド60と磁気記録媒体150との関係をより詳細に説明するための図である。図4において、フラックスガイド10と、保護膜20と、転写板30と、磁気記録媒体150とが示されている。
【0027】
図4に示すように、フラックスガイド10の膜厚tは、磁気記録媒体150の移動方向160と一致する方向の幅であり、図中の座標におけるX方向である。また、フラックスガイドの幅Wは、磁気記録媒体150の移動方向160に同一平面上で直交する奥行き方向である。図中の座標においては、Z方向である。更に、フラックスガイドの高さLは、磁気記録媒体150がなす平面の法線方向であり、図中の座標ではY方向である。
【0028】
上述のように方向を規定した場合において、フラックスガイド10の幅Wが0.5〜1.5μmのとき、アジマス損失Lθによる信号出力の低下を制御することが可能となる。アジマス損失は、磁気テープの記録、再生系において、記録時のヘッドギャップの角度と再生時のヘッドギャップの角度がずれていることにより、再生出力に生じる損失のことを言い、下記の(1)式で算出される。
【0029】
【数1】

(1)式からも明らかなように、アジマス損失Lθは、記録波長λが長いほど小さい。記録波長λ=2.7μm(アジマス角θ=20度)の場合、アジマス損失Lθは幅W=0.5〜1.5μmにおいて0.1〜0.6dBであり、アジマス損失Lθによる再生出力の低下は大きな問題とはならない。しかし、λがもっと短くなると、Wが大きくなったときのアジマス損失による出力の低下が無視できなくなり、このλに対するWの上限を設定する必要がある。
【0030】
図5は、本実施形態に係る磁気再生ヘッド60の、記録波長λ=0.77μmにおけるガイド幅Wに対する再生出力の変化を示した図である。一般的に、放送用デジタルVTRで使用されているD3フォーマットでは、最短記録波長がλ=0.77μmである。よって、図5においては、D3フォーマットの最短記録波長の再生出力特性を例として示す。図5において、横軸はガイド幅W[μm]、縦軸は再生出力[dB]を示している。図5に示すように、記録波長λ=0.77μmでは、再生出力はガイド幅1μm付近で極大となる。
【0031】
図6は、本実施形態に係る磁気再生ヘッド60の、記録波長λ=2.7μmにおけるガイド幅Wに対する再生出力の変化を示した図である。図6に示すように、D3フォーマットにおける最長記録波長λ=2.7μmでは、ガイド幅Wを広くすることにより、再生出力が大きくなる。
【0032】
図5より、再生出力が−3dB以内(0~−3dB)となるガイド幅Wは0.5〜1.5μmである。よって、記録波長λ=0.77μmにおいては、アジマス記録された記録トラックを再生する場合には、ガイド幅Wを0.5〜1.5μmの範囲とすることが好ましい。
【0033】
一方、図6においては、ガイド幅Wが大きい程再生出力は大きくなるが、上述のように、記録波長λ=2.7μmの場合には、アジマス損失による再生出力の低下は大きな問題とならず、記録波長の長い領域での再生出力の低下は、ガイド幅Wに対する要求条件とはならない。
【0034】
よって、図5において説明したように、最も条件が厳しいλ=0.77μmでのガイド幅W=0.5~1.5μmが、D3フォーマットの全記録波長範囲におけるフラックスガイド10の好ましいガイド幅Wとなる。また、図5において、ガイド幅Wが0.8~1.2μmの範囲では、再生出力が0dB付近となるので、更に好ましい。
【0035】
また、図4において、フラックスガイド10の膜厚tを磁気記録情報の最短ビット長(最短記録波長の1/2)以下とすることにより、転写膜に転写される磁気記録情報は、隣接ビット信号の干渉を受けないようにすることができる。膜厚tが最短記録ビット長より広い場合、磁気記録情報の隣接ビット信号の読み取り干渉によって再生分解能が劣化する。
【0036】
一方、フラックスガイド10の膜厚tが最短記録ビット長より狭い場合、転写膜に転写される磁気記録情報は、隣接ビット信号の干渉を受けないので、レーザー光のスポット径に関係なく、隣接ビット信号の読み取り干渉を無くすことができる。
【0037】
図7は、本実施形態に係る磁気再生ヘッドのフラックスガイド10を設けたことによる効果を説明するための図である。図7(A)は、比較例として、従来の磁気再生ヘッドの構成を示した断面図である。図7(A)に示す従来の磁気再生ヘッドにおいては、フラックスガイド10が設けられておらず、磁気記録媒体150に対向して、保護膜220、反射膜240、転写膜230及び透明基板250が下から順に積層されて配置された構成となっている。また、透明基板250の上方には、レーザー光を導いて反射膜240に照射するためのレンズ系270が設けられている。
【0038】
図7(A)に示した従来技術の構成では、中央のN極で示されるビットの磁界の他、隣接する両隣のS極で示される2つの隣接ビットの磁界も転写膜230に転写されている。そうすると、符号間干渉が発生し、再生出力が低下する。
【0039】
図7(B)は、本実施形態に係る磁気再生ヘッド60の構成を示した断面図である。図7(B)において、フラックスガイド10及び保護膜20が、磁気記録媒体150に対向して設けられており、その上に反射膜40、転写膜30及び透明基板50が積層されて設けられている。また、透明基板50の上方には、レーザー光を導いて反射層40に照射するためのレンズ系70が配置されている。
【0040】
図7(B)において、フラックスガイド10の膜厚tは、最短記録ビット長以下に設定され、中央のN極のビットのみからの磁界を転写膜30に転写しており、隣接するS極のビットからの磁界は転写膜30に転写していない。このように、フラックスガイド10を磁気記録媒体150に対向させて配置し、その膜厚tを最短記録ビット長以下に設定することにより、隣接ビットとの符号間干渉を抑制することができる。これにより、再生分解能が高く、記録信号の読み取りを高精度で行うことが可能となる。
【0041】
なお、図4及び図7(B)において、フラックスガイド10の膜厚tは、磁気記録媒体150との対向面からそれより上方の部分まで総て一定である形状を示しているが、上方に移動するにつれて、膜厚tが増加するような形状であってもよい。膜厚tが最短記録ビット長以下に設定されている部分は、フラックスガイド10の露出最下面、つまり磁気記録媒体150との対向面だけでよく、それより上方は、膜厚tが拡大されていてもよい。磁気記録媒体150からの磁界を規制するのは、磁界の入口であるフラックスガイド10の対向面の形状及び面積であり、入口で磁界が制限されており、同じビットの磁界のみを検出できれば、それ以降は転写領域が拡大されていても符号間干渉は発生しないからである。なお、膜厚tが上方に移動するにつれて拡大する形状は、逆三角形のような直線的な形状であってもよいし、ラッパのように曲線的に拡大する形状であってもよい。
【実施例】
【0042】
以下、磁界シミュレーションにより、本実施形態に係る磁気再生ヘッドの効果を検証した実施例について説明する。なお、今まで説明した構成要素と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
図8は、本発明の実施例に係る磁気再生ヘッド61の構成を示した図である。図8において磁気記録媒体150に対向してフラックスガイド11及び保護膜21が配置され、更にその上方に転写膜31が配置されている。なお、磁界シミュレーションに機能的に関係の無い反射膜は省略され、スペースSとして示されている。
【0044】
本実施例において、磁気記録媒体151は、放送用デジタルVTRで使用されているD3フォーマットの磁気テープ相当とした。また、残留磁束密度4πMs=2750Gauss、角型比Mr/Ms=0.85、保磁力Hc=1600Oeとした。ここで、Msは飽和磁化、Mrは残留磁化を表す。また、記録波長は0.77μmとした。
【0045】
一方、本実施例に係る磁気再生ヘッド61は、フラックスガイド11の飽和磁化Mrは800emu/cc、透磁率μは1000とし、転写膜30の飽和磁化Mrは250emu/cc、透磁率μは6とした。図8においては、計算モデルのXY面(Z=0)での詳細図が示されている。フラックスガイド11の膜厚tを300nm、磁気記録媒体151からフラックスガイド11までの距離を20nm、フラックスガイド11の高さをL、フラックスガイド11から転写膜31までの距離をS、転写膜31の膜厚を500nmとした。また、フラックスガイド11は、X=2160~2460の位置に設けられ、その中心はX=2310である。
【0046】
図9は、比較例に係るフラックスガイド11を有しない従来の磁気再生ヘッド261のXY面(Z=0)における詳細図である。図9において、磁気記録媒体151の対向面には、転写膜231のみが間隔Sを空けて配置されている。また、磁気記録情報を読み取る位置は、X=2310の位置である。
【0047】
図10は、比較例に係る磁気再生ヘッド261における、S=50nmのときの転写膜131の磁束密度BのY方向成分Byの計算結果の一例を示した図である。また、図11は、比較例に係る磁気再生ヘッド261の転写膜231の最下面(Y=3050nm)におけるXZ面でのコンター図(等高線図)である。
【0048】
図10及び図11より、比較例に係る磁気再生ヘッド261では、転写膜231の全面が磁化されており、X=2310からの磁化遷移だけでなく、隣接ビットからの磁界によって磁気転写膜231が磁化されていることが分かる。
【0049】
図12は、比較例に係る磁気再生ヘッド261の転写膜231における磁束密度BのY方向成分ByのX方向のラインプロファイルを示した図である。図12の領域Cで示すように、ビーム径1μmで読み出す場合、信号の高い部分が複数含まれてしまい、隣接ビットの影響でビット間干渉が発生する。それに伴い、再生分解能が低下し、信号レベルが低下する。
【0050】
図13は、本実施例に係る磁気再生ヘッド61において、高さL=3μmのフラックスガイド11を設けた場合の転写膜31の磁束密度BのY方向成分Byの計算結果の一例を示した図である。図13に示されるように、高さL=3μmのフラックスガイド11を設けた場合、磁気記録媒体151の磁化情報がフラックスガイド11を介して転写膜31に伝達されており、隣接ビットからの磁気記録情報は転写膜31に伝達されていない。その結果、転写膜31は、フラックスガイド11の位置と大きさ(幅W×膜厚t)で決定される領域だけが磁化され、隣接ビット信号の干渉を受けない。
【0051】
図14は、本実施例に係る磁気再生ヘッド61の転写膜31の最下面(Y=6030nm)における磁束密度BのY方向成分ByのX方向のラインプロファイルを示した図である。図14の領域Pで示すように、ビーム径1μm、又はそれ以上のビーム径で読み出しても、X=2310からの磁化情報だけで転写膜31は磁化される。
【0052】
なお、本実施例に係る磁気再生ヘッド61は、フラックスガイド11の設置により、比較例に係る磁気再生ヘッド261よりも磁束密度BのY方向成分Byは小さくなるが、再生に使用するレーザー光源の選択により、実用上問題の無い信号レベルで再生可能である。
【0053】
図15は、本実施例に係る磁気再生ヘッド61のS=10nmでのフラックスガイド11の高さLによる磁気転写膜31の飽和磁束密度Byの変化を示した図である。図15に示されるように、L=3μmのときにByの極大値が得られ、L=1~5μmの範囲において、100Gauss以上のByが得られる。飽和磁束密度Byの変化が少ない範囲が許容範囲ということであるから、L=1~5μmとすることが好ましいことが分かる。
【0054】
このように、本実施例に係る磁気再生ヘッド61によれば、隣接ビットとの信号干渉を低減させ、再生分解能を高めることができる。また、高さL=1~5μmのフラックスガイド11を設けることにより、適切なレベルの出力を得ることができる。
【0055】
図16は、本実施気形態に係る磁気再生ヘッド60を用いた磁気記録媒体再生装置の全体構成の一例を示した図である。図16において、本実施形態に係る磁気記録媒体再生装置は、磁気再生ヘッド60と、レンズ系70と、ハーフミラー80と、偏光子90と、レーザー光源100と、検光子110と、光検出器120とを備える。また、磁気再生ヘッド60は、フラックスガイド10と、保護膜20と、転写膜30と、反射膜40と、透明基板50とを備える。また、図16において、レーザー光源100から発射されるレーザー光130が示されている。更に、関連構成要素として、磁気記録媒体150が示されている。また、磁気記録媒体150の移動方向は、矢印160で示されるように、左右方向(X方向)であり、移動の向きは左側から右側(+Xの向き)である。
【0056】
磁気再生ヘッド60は、今まで説明したように、磁気記録媒体150の移動につれて、磁気記録媒体150に記録された磁気記録情報を、フラックスガイド10を介して検出してゆき、転写膜30に磁気記録情報を転写する。レーザー光源100は、レーザー光130を発射し、偏光子90、ハーフミラー80及びレンズ系70を介して磁気再生ヘッド60に照射する。ここで、偏光子90は、自然光を平面偏光に変える素子であり、ハーフミラー80は、偏光方向に応じて、光を反射させたり透過させたりする素子である。レーザー光130は、偏光子90によりハーフミラー80で反射する方向の平面偏光に変換され、ハーフミラー80で磁気再生ヘッド60側の向きに反射される。その後、レーザー光130はレンズ系70で集束され、透明基板50を介して転写膜30を通過し、反射膜40で反射される。反射膜40を通過する際に、ファラデー効果が作用し、磁界によりレーザー光130の偏光面が回転し、ハーフミラー80を通過できる偏光面となる。ハーフミラー80を通過したレーザー光130は、検光子110で偏光が検出され、光検出器120で光量が検出される。あとは、検出した光信号に応じて磁気記録情報を再現すればよい。このようにして、レーザー光130の反射光を検出することにより、磁気記録媒体150に記録された磁気記録情報を再生することができる。
【0057】
以上、説明したように、本実施形態に係る磁気ファラデー効果を利用した磁気再生ヘッド60によれば、磁気記録媒体150の対向面に露出して形成されたフラックスガイド10を配置し、その幅Wを0.5~1.5μmとすることにより、高出力・低ノイズで磁気記録媒体150に記録された磁化パターンの変化(磁気記録情報)を再生することができ、長寿命かつ高出力・低ノイズの再生ヘッドを提供することができる。また、フラックスガイド10の高さを1~5μmとすることにより、隣接ビット信号の干渉を受けない高SN比での再生が可能な再生ヘッドとすることができる。更に、フラックスガイド10の膜厚を記録情報の最短ビット長以下とすることにより、再生分解能が高く、かつ再生感度の高い再生ヘッドとすることができる。また、本実施形態に係る磁気記録媒体再生装置によれば、磁気記録媒体150に記録された磁化情報を、高い再生分解能で、高精度に再生することができる。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、磁気情報を記録した磁気記録媒体を再生する種々の磁気再生ヘッド及び磁気記録媒体再生装置に利用することができ、例えば、VTRなどで記録された磁気テープの再生に利用でき、アナログ記録及びデジタル記録を含めてあらゆるフォーマットの磁気テープの再生に利用することができる。特に、磁気再生ヘッドについては、ハードディスクやフロッピー(登録商標)ディスク等、磁気テープ以外の磁気記録媒体の再生にも利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 フラックスガイド
20 保護膜
30 転写膜
40 反射膜
50 透明基板
60 磁気再生ヘッド
70 レンズ系
80 ハーフミラー
90 偏光子
100 レーザー光源
110 検光子
120 光検出器
130 レーザー光
150 磁気情報記録媒体
160 移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の移動方向に移動する磁気記録媒体に記録された磁気記録情報を検出する磁気再生ヘッドであって、
前記移動方向と膜厚方向が一致し、前記磁気記録媒体との対向面に側面が露出して配置された高透磁率磁性膜からなるフラックスガイドと、
該フラックスガイドを前記移動方向両側から挟むように配置された非磁性材料からなる保護膜と、を有し、
前記フラックスガイドの前記磁気記録媒体との対向面における幅は、0.5〜1.5μmであることを特徴とする磁気再生ヘッド。
【請求項2】
前記フラックスガイドの高さは、1〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気再生ヘッド。
【請求項3】
前記フラックスガイドの前記磁気記録媒体との対向面における膜厚は、前記磁気記録媒体の最短記録ビット長以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気再生ヘッド。
【請求項4】
前記フラックスガイドは、上方に移動するにつれて膜厚が拡大する形状を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気再生ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気再生ヘッドと、
該磁気再生ヘッドにレーザー光を照射するレーザー光源と、
前記磁気再生ヘッドから反射された反射光を検出する検出器と、を有することを特徴とする磁気記録媒体再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate