説明

磁気刺激パターン生成装置、磁気刺激装置、その制御プログラムおよび該制御プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、磁気刺激生成システムならびに制御方法

【課題】外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にする。
【解決手段】小型カメラ2で撮影した物体空間の画像データを取得する画像データ取得部11と、上記画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出する画像処理部32と、画像処理部32で抽出した対象物の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行う磁気刺激パターン生成部33と、磁気刺激装置4に当該磁気刺激パターンを送信する磁気刺激パターン送信部35とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気刺激パターン生成装置、磁気刺激装置、その制御プログラムおよび該制御プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、磁気刺激生成システムならびに制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、緑内障等で視神経または網膜に障害が生じて失明した重症視覚障害者の視覚機能を回復させる試みが行われている。重症視覚障害者に対する視覚機能回復手段として現在実用化されたものは存在しないが、電気刺激により視覚を回復する治療法が臨床治療段階または研究中のものとして存在する。なお、電気刺激により視覚を回復する治療法としては、1)網膜刺激型(Retinal implant)、2)視神経刺激型(Optic nerve implant)、および3)脳刺激型(Cortical implant)のものがある。上記1)〜3)の治療法では、脳などの部位に微小電極を挿入して電気刺激を行うことによって、光覚、眼内閃光などを対象者に誘発することができる。また、4)再生・移植医療技術を用いた網膜レベルでの視覚回復も試みられている。
【0003】
他にも、大脳視覚野に対する経頭蓋磁気刺激により、閃光点などの視覚が対象者に誘発されることも知られている。例えば、非特許文献1では、磁気刺激によって誘発される視覚の閾値が磁気刺激に用いる電流の向きに依存することが開示されている。また、非特許文献2では、ナビゲーションガイドを用いて正確に大脳の視覚野を磁気刺激することにより視覚野のマッピングをする方法について開示されている。
【非特許文献1】Thomas Kammer, Sandra Beck, Michael Erb, Wolfgang Grodd., Clinical Neurophysiology 112, 2015−2021,(2001)
【非特許文献2】E.Fernandez, A.Alfaro, J.M.Tormos, R.Climent, M.Martinez, H.Vilanova, V.Walsh, A.Pascual-Leone., Brain Research Protocols 10, 115−124, (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の1)〜3)に示した視覚機能回復手段は、上述したように、外科的手段を必要とするものであり、上記視覚機能回復手段をうける対象者への侵襲が大きいという問題点を有している。また、上記の4)に示した視覚機能回復手段も、再生・移植医療技術を用いるために外科的手段を必要とし、上記視覚機能回復手段をうける対象者への侵襲が大きいという問題点を同様に有している。
【0005】
一方、非特許文献1および2に記載の上述の大脳視覚野に対する経頭蓋磁気刺激では、非外科的手段によって閃光点などの視覚を対象者に誘発できるものの、外界の視覚情報を認識させることができないという問題点を有している。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にする磁気刺激パターン生成装置、磁気刺激装置、その制御プログラムおよび該制御プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、磁気刺激生成システムならびに制御方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気刺激パターン生成装置は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置であって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データを取得する画像データ取得手段と、上記画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出する対象物情報抽出手段と、上記対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行う磁気刺激パターン生成手段と、上記磁気刺激装置に当該磁気刺激パターンを送信する磁気刺激パターン送信手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の制御方法は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置の制御方法であって、画像データ取得手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データを取得する画像データ取得工程と、対象物情報抽出手段によって、上記画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出する対象物情報抽出工程と、磁気刺激パターン生成手段によって、上記対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行う磁気刺激パターン生成工程と、磁気刺激パターン送信手段によって、上記磁気刺激装置に当該磁気刺激パターンを送信する磁気刺激パターン送信工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
上記の発明によれば、画像データ取得手段で取得した、撮像装置で撮影した物体空間の画像データから、対象物情報抽出手段によって上記物体空間中の対象物の情報を抽出し、抽出した情報に基づいて磁気刺激パターン生成手段で予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することにより、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行うので、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに応じた磁気刺激パターンを生成することが可能になる。また、磁気刺激パターン送信手段によって磁気刺激装置に当該磁気刺激パターンを送信するので、磁気刺激装置で当該磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させて磁気刺激を行うことが可能になる。よって、予め対象物の情報として物体空間中で上記対象物が占める位置の情報を、上記対象物が占める位置に対応した位置に視覚が誘発される磁気刺激を対象者の視覚野に行う磁気刺激パターンと予め対応付けておき、対象物の情報として物体空間中で上記対象物が占める位置の情報を抽出するようにすれば、外科的な処置を上記対象者に施さなくても、物体空間中で上記対象物が占める位置に対応した箇所に上記対象者の視覚を誘発することが可能になる。従って、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることが可能になる。
【0010】
また、本発明の磁気刺激パターン生成装置では、前記磁気刺激パターンは、磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、または前記磁気刺激装置での磁場を発生させる部位の情報のうちの少なくとも1つの情報を含むことが好ましい。
【0011】
これにより、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに応じて、少なくとも磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、または前記磁気刺激装置での磁場を発生させる部位のいずれかを含む磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成手段で生成し、少なくとも磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、または前記磁気刺激装置での磁場を発生させる部位のいずれかに応じた磁場を磁気刺激装置で発生させることが可能になる。
【0012】
また、本発明の磁気刺激パターン生成装置では、前記対象物情報抽出手段は、前記対象物の情報として前記物体空間中で上記対象物が占める位置の情報を抽出することが好ましい。
【0013】
これにより、予め対象物の情報として物体空間中で上記対象物が占める位置の情報を、上記対象物が占める位置に対応した位置に視覚が誘発される磁気刺激を対象者の視覚野に行う磁気刺激パターンと予め対応付けておけば、物体空間中で上記対象物が占める位置に対応した箇所に上記対象者の視覚を誘発することが可能になる。
【0014】
また、本発明の磁気刺激パターン生成装置では、前記画像データ取得手段は、前記撮像装置に前記対象物との間の距離を測定する距離測定手段が備えられている場合に、上記距離測定手段で測定した上記距離の情報を前記画像データに加えて上記撮像装置から取得するとともに、前記磁気刺激パターン生成手段は、上記対象物情報抽出手段で抽出した上記対象物の情報に加え、上記画像データ取得手段で取得した上記距離の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うことが好ましい。
【0015】
これにより、距離測定手段で測定された撮像装置と対象物との間の距離の情報を画像データ取得手段で取得し、磁気刺激パターン生成手段で、対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に加え、上記距離の情報に基づいて、予め対応付けられている対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うので、上記対象物の情報に加えて、さらに上記距離の情報を反映した磁気刺激を行うことが可能になる。従って、外界の視覚情報をさらに正確に重症視覚障害者に認識させることが可能になる。
【0016】
また、本発明の磁気刺激パターン生成装置では、前記画像データ取得手段が、少なくとも2つの前記撮像装置から画像データを取得する場合に、上記少なくとも2台の撮像装置から得られるそれぞれの画像データをもとに、前記対象物と上記撮像装置との間の距離を算出する距離算出手段をさらに備え、前記磁気刺激パターン生成手段は、上記対象物情報抽出手段で抽出した上記対象物の情報に加え、上記距離算出手段で算出した上記距離の情報に基づいて、前記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うことが好ましい。
【0017】
これにより、撮影方向に対して垂直に並んだ2つの撮像装置のそれぞれから画像データ取得手段で取得した画像データに基づいて、距離算出手段で上記撮像装置と対象物との間の距離の情報を算出し、磁気刺激パターン生成手段で、対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に加え、上記距離の情報に基づいて、予め対応付けられている対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うので、上記対象物の情報に加えて、さらに上記距離の情報を反映した磁気刺激を行うことが可能になる。従って、外界の視覚情報をさらに正確に重症視覚障害者に認識させることが可能になる。
【0018】
本発明の磁気刺激装置は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置であって、上記磁場発生手段を複数備えているとともに、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信手段と、上記磁気刺激パターンに基づいて、上記複数の磁場発生手段のうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激手段とを備えることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の制御方法は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置の制御方法であって、磁気刺激パターン受信手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信工程と、磁気刺激手段によって、上記磁気刺激装置に複数備えられている磁場発生手段のうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁場発生手段から、上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激工程とを含むことを特徴としている。
【0020】
上記の発明によれば、磁気刺激パターン受信手段で受信した、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンに応じた磁場を磁気刺激手段によって発生させるので、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに応じた磁気刺激を行うことが可能になる。よって、物体空間中で対象物が占める位置に対応した位置に視覚が誘発される磁気刺激を対象者の視覚野に行う磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成装置で生成するようにすれば、外科的な処置を上記対象者に施さなくても、磁気刺激装置によって、物体空間中で上記対象物が占める位置に対応した箇所に上記対象者の視覚を誘発することが可能になる。従って、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることが可能になる。
【0021】
本発明の磁気刺激装置は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置であって、上記磁場発生手段の上記磁気刺激装置に対しての位置関係を変更させる磁場発生手段位置変更手段と、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信手段と、上記磁気刺激パターンに基づいて、上記磁場発生手段位置変更手段に対して上記磁気刺激パターンに応じた位置に上記磁場発生手段を位置させるよう指示を行うとともに、上記磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激手段とを備えることを特徴としている。
【0022】
また、本発明の制御方法は、上記課題を解決するために、局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置の制御方法であって、磁場発生手段位置変更手段によって、上記磁場発生手段の上記磁気刺激装置に対しての位置関係を変更させる磁場発生手段位置変更工程と、磁気刺激パターン受信手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信工程と、磁気刺激手段によって、上記磁気刺激パターンに基づいて、上記磁場発生手段位置変更手段に対して上記磁気刺激パターンに応じた位置に上記磁場発生手段を位置させるよう指示を行うとともに、上記磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激工程とを含むことを特徴としている。
【0023】
上記の発明によれば、磁気刺激パターン受信手段で受信した、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンに応じた磁場を磁気刺激手段によって発生させるので、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに応じた磁気刺激を行うことが可能になる。また、磁気コイル位置変更手段によって、磁気刺激パターンに応じた位置に磁気コイルを位置させることができるので、物体空間中で対象物が占める位置に対応した位置に視覚が誘発される磁気刺激を対象者の視覚野に行う磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成装置で生成するようにすれば、外科的な処置を上記対象者に施さなくても、磁気刺激装置によって、物体空間中で上記対象物が占める位置に対応した箇所に上記対象者の視覚を誘発することが可能になる。従って、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることが可能になる。
【0024】
ところで、上記磁気刺激パターン生成装置および上記磁気刺激装置は、ハードウェアで実現してもよいし、プログラムをコンピュータに実行させることによって実現してもよい。具体的には、本発明に係る制御プログラムは、上記磁気刺激パターン生成装置または上記磁気刺激装置としてコンピュータを動作させるプログラムであり、本発明に係る記録媒体には、当該プログラムが記録されている。
【0025】
これらの制御プログラムがコンピュータによって実行されると、当該コンピュータは、上記磁気刺激パターン生成装置または上記磁気刺激装置として動作する。従って、上記磁気刺激パターン生成装置または上記磁気刺激装置と同様に、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にする。
【0026】
本発明の磁気刺激生成システムは、上記課題を解決するために、物体空間を撮影する撮像装置と、前記のいずれかの磁気刺激パターン生成装置と、前記のいずれかの磁気刺激装置とを備えることを特徴としている。
【0027】
上記の発明によれば、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに応じた磁気刺激パターンを生成すること、および磁気刺激装置で当該磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させて磁気刺激を行うことが可能になる。よって、外科的な処置を対象者に施さなくても、物体空間中で対象物が占める位置に対応した箇所に上記対象者の視覚を誘発することが可能になる。したがって、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にするという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図1ないし図17(b)に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、以下の説明に用いる図面は、同一の部材または同一の機能のものについては同一の符号を付してある。従って、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0030】
〔1.磁気刺激による視覚の誘発について〕
大脳視覚野に対する径頭蓋磁気刺激により閃光点などの視覚が誘発されることが知られている。また、大脳視覚野への磁気刺激の位置、頻度などの違いによって磁気刺激を受けた被験者に誘発される視覚(誘発視覚)の位置などに一定の傾向があることも知られている。以下では、磁気刺激による誘発視覚について、今回、発明者らが定量的解析を行った結果を図12〜図17(b)を用いて示す。
【0031】
上記定量解析は、健常者11名を被験者として行った。また、上記定量解析は、経頭蓋磁気刺激装置、8字コイル、およびTMS用光学式ナビゲーション装置を用いて行った。なお、経頭蓋磁気刺激装置は、強力なパルス磁場によって経頭蓋的に脳神経を刺激する装置である。具体的には、被験者の頭の上にコイルを置き、コイルに大電流を瞬間的に流すことによって発生するパルス磁場を用いて被験者の脳内に渦電流を誘起させ、この渦電流で脳神経を刺激するものである。また、8字コイルは、経頭蓋磁気刺激装置のコイルとして用いることにより、局所的な磁気刺激を可能にするものである。そして、TMS用光学式ナビゲーション装置は、被験者の脳中の磁気刺激を受けている部位がMRI上でどの位置にあたるのかを、リアルタイムにコンピュータのモニター上に表示する装置である。
【0032】
実際の被験者に対する磁気刺激は、閉眼で座位の被験者に対して行った。また、TMS用光学式ナビゲーション装置を用いて刺激位置を被験者個々のMRI−3D画像上で解剖学的に同定しながら8字コイルを用いて経頭蓋磁気刺激装置によって磁気刺激を行った。
【0033】
最初に、図12を用いて、被験者の後頭部の磁気刺激を行う部位(磁気刺激部位)についての説明を行う。図12は被験者の頭部を後頭部側から見た図であり、磁気刺激部位を示した図である。
【0034】
刺激部位としては、図12に示すように、鳥距溝上のj点、k点、l点の3点を起点とした7箇所がある。j点、k点、l点は後頭部側から見て左から右に等間隔(2cm間隔)で並んでおり、e点はj点から頭頂部側へ2cmずれた位置にあり、g点はl点から頭頂部側へ2cmずれた位置にある。また、o点はj点を挟んでe点と対象になる位置にあり、q点はl点を挟んでg点と対象になる位置にある。なお、鳥距溝は左右の後頭葉が合わさった内側面の領域にあたり、鳥距溝の上下が第1次視覚野と呼ばれる視覚中枢になっている。
【0035】
次に、図13を用いて誘発視覚についての被験者による口述方法の説明を行う。図13は、誘発視覚についての被験者による口述方法を説明した図である。
【0036】
まず、被験者には、誘発視覚の位置、大きさ、色調、形状、その他の特徴を口述させる。誘発視覚の位置の表現方法としては、図12に示すように、被験者から向かって正面のどの方向に認識されたのかを、0または12時から時計回りに11時までの12方向で口述させる。また、被験者から向かって正面の中心点(視野中心)からどれだけ離れた位置に認識されたのかを、中心に近い位置から順にI円からVI円までの6段階で口述させる。具体的な例としては、図13に示す白点が被験者に誘発視覚として認識された場合には、被験者は「点で、8時の方向、III円の位置、白色」といったように口述することになる。
【0037】
続いて、図14〜図17(b)を用いて実際の磁気刺激によって被験者が得た誘発視覚について説明を行う。図14は磁気刺激の頻度と誘発視覚の頻度との関係を示したグラフである。図15(a)〜図15(d)は磁気刺激による誘発視覚の出現位置について示した図である。なお、図中の丸は誘発視覚の出現累積回数が1〜4回、5〜9回、10回以上と増えるのに応じて3種類の大きさに区別されている。また、図16は、磁気刺激の頻度と有色の誘発視覚の割合との関係を示したグラフである。そして、図17(a)および図17(b)は、磁気刺激の頻度と誘発視覚の形状との関係を示したグラフである。磁気刺激としては、8字コイルによる双極刺激を用い、刺激部位としては図12に示したe点、g点、j点、k点、l点、o点、q点の7箇所を用いた。また、刺激強度としては右運動野を刺激したときの手指の運動閾値で行った。そして、磁気刺激の頻度は1Hz、5Hz、20Hz(それぞれ1度の刺激で5回反復刺激)と単発の4種類の頻度で行った。
【0038】
図14に示すように、磁気刺激の頻度が単発、1Hz、5Hz、20Hzと上昇していくにつれて、誘発視覚の出現頻度が上昇する傾向にある。また、鳥距溝(大脳視覚野)の右側(g点、l点、q点)を磁気刺激した場合には、図15(a)に示すように、被験者から見て左側に誘発視覚が得られ、鳥距溝の左側(e点、j点、o点)を磁気刺激した場合には、図15(b)に示すように、被験者から見て右側に誘発視覚が得られる傾向にある。そして、鳥距溝の下側(o点、q点)を磁気刺激した場合には、図15(c)に示すように、被験者から見て上側に誘発視覚が得られ、鳥距溝の上側(e点、g点)を磁気刺激した場合には、図15(a)〜図15(c)ほどではないが、図15(d)に示すように、被験者から見て下側に誘発視覚が得られる傾向にある。なお、上下左右の4方向への誘発視覚でなく、右上、右下、左上、左下の4方向への誘発視覚を磁気刺激によって出現させる場合には、より高精度に4方向それぞれに誘発視覚を出現させることができる。
【0039】
他にも、図16に示すように磁気刺激の頻度が高くなるにつれ、白単独の誘発視覚の出現に対して、白以外の有色の誘発視覚の出現割合が高くなる傾向がある。これは、高頻度刺激では、より低い刺激強度で誘発視覚を得ることができるため、限局した神経細胞を興奮させ、様々な色彩を認識させたことによると考えられる。従って、高頻度刺激によって、様々な色彩を認識させることが可能になる。
【0040】
また、磁気刺激の頻度が高くなるにつれ、図17(a)に示すような単純な点の誘発視覚の出現に対して、図17(b)に示すような点や線ではない複雑な形状の誘発視覚の出現割合が高くなる傾向がある。これは、高頻度刺激では、より低い刺激強度で誘発視覚を得ることができるため、限局した神経細胞を興奮させ、より複雑な形状を認識させたことによると考えられる。従って、高頻度刺激によって、より複雑な形状を認識させることが可能になる。
【0041】
以上のように、大脳視覚野(鳥距溝)の特定の部位を磁気刺激することにより、磁気刺激を受けた上記特定の部位に応じて、磁気刺激を受けた対象者に対して特定の位置に視覚を誘発することができる。具体的には、鳥距溝の右下側(q点)を磁気刺激すれば対象者の視野の左上側に視覚を誘発することが可能であり、鳥距溝の右上側(g点)を磁気刺激すれば対象者の視野の左下側に視覚を誘発することが可能である。また、鳥距溝の左下側(o点)を磁気刺激すれば対象者の視野の右上側に視覚を誘発することが可能であり、鳥距溝の左上側(e点)を磁気刺激すれば対象者の視野の右下側に視覚を誘発することが可能である。さらに、高頻度刺激を特定の部位に行うことによって、様々な色彩および複雑な形状の視覚を誘発できる可能性がある。
【0042】
〔2.システム構成および装置構成について〕
最初に、図2を用いて、本発明の人工視覚生成システムの一実施形態に係る構成について説明する。図2は、人工視覚生成システム(磁気刺激生成システム)1の概略図である。本実施の形態における人工視覚生成システム1は、図2に示すように、小型カメラ(撮像装置)2、磁気刺激パターン生成装置3、および磁気刺激装置4を備えている。
【0043】
まず、小型カメラ2は、対象者(重症視覚障害者)5の頭部に装着可能になっており、対象者5の正面の物体空間7の映像を撮影可能に固定されているものである。そして、対象者5が顔を向けた正面の物体空間7についてその映像が取り込めるようになったものである。また、小型カメラ2は、撮影して取り込んだ映像の画像データを磁気刺激パターン生成装置3に送信するものである。小型カメラ2としては、例えば数万画素の撮像素子を有するCCDカメラ、CMOSセンサを備えた小型カメラなどを用いることが可能である。
【0044】
なお、小型カメラ2は、対象物との距離を測定可能にするために、撮影方向に対してお互いが重ならないように2台以上備えられる構成であってもよい。また、小型カメラ2は、対象物との距離を測定可能にするために、ミリ波を出射することで対象物から反射してきた電波を受信し、伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差などをもとに対象物までの距離を測定するミリ波レーダーのような、対象物と小型カメラ2との間の距離を算出する距離算出部材(距離算出手段)を備える構成であってもよい。また、他にも対象物に向かって照射した赤外線の反射に基づいて距離を測定する赤外線距離センサ、超音波の対象物への伝搬および対象物からの反射の時間によって距離を測定する超音波距離センサなどを対象物との距離を測定するために備える構成であってもよい。
【0045】
続いて、磁気刺激パターン生成装置3は、小型カメラ2から送信されてきた画像データに基づいて、後述する磁気刺激装置4で発生させる磁場による刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成するものである。また、磁気刺激パターン生成装置3は、生成した磁気刺激パターンを磁気刺激装置4に送信するものである。なお、ここで言うところの磁気刺激パターンとは、磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、磁気刺激装置4に備えられている複数の後述する磁気コイル45のうちのどの磁気コイル45から磁場を発生されるのかといった磁場を発生させる部位、後述するパルス電流の波形(磁気刺激の波形)または磁気刺激の時間などの情報が含まれるものであり、磁気刺激装置4の磁気コイル45により行う磁気刺激の位置、頻度、強度などを指示する情報である。
【0046】
そして、磁気刺激装置4は、磁気刺激パターン生成装置3から送信されてきた磁気刺激パターンに基づいて、磁気刺激装置4に複数備えられている磁気コイル45のうちの少なくとも1つの磁気コイル45から磁場を発生させるものである。また、磁気刺激装置4は、磁気コイル45から発生した磁場によって対象者5の大脳視覚野6を磁気刺激することが可能なものである。なお、ここで言うところの大脳視覚野6は、具体的には上述の鳥距溝周辺の部位を表している。
【0047】
次に、図1を用いて磁気刺激パターン生成装置3の構成の概要について説明を行う。図1は本実施の形態における磁気刺激パターン生成装置3の構成を示した機能ブロック図である。磁気刺激パターン生成装置3は、図1に示すように、画像データ取得部(画像データ取得手段)31、画像処理部(対象物情報抽出手段)32、磁気刺激パターン生成部(磁気刺激パターン生成手段)33、テーブル格納部34、および磁気刺激パターン送信部(磁気刺激パターン送信手段)35を備えている。
【0048】
まず、画像データ取得部31は、小型カメラ2で撮影された対象物を含む物体空間7の画像データを取得するものである。また、画像データ取得部31は、小型カメラ2に備えられたミリ波レーダー9などの距離算出部材によって算出された小型カメラ2と上記対象物との距離の情報を取得するものである。そして、画像データ取得部31は、取得した上記画像データを画像処理部32に送るとともに、取得した上記距離の情報を磁気刺激パターン生成部33に送るものである。
【0049】
画像処理部32は、画像データ取得部31で取得した画像データから上記物体空間7中の対象物の情報を抽出するものである。例えば、画像処理部32では、取得した画像データから上記対象物の情報として上記物体空間7中での対象物の輪郭をエッジ抽出処理によって抽出し、上記対象物が上記物体空間7中に占める位置の情報を抽出する。また、画像処理部32は、抽出した対象物の情報を磁気刺激パターン生成部33に送るものである。なお、画像データから抽出する情報としては、対象物が物体空間7中に占める位置の情報の他にも対象物の色彩の情報などを抽出する構成であってもよい。
【0050】
磁気刺激パターン生成部33は、画像処理部32で抽出した対象物の情報に基づいて、テーブル格納部34に予め対応付けられて格納されている上記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、小型カメラ2で撮影された、対象物を含む物体空間の画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行うものである。また、磁気刺激パターン生成部33は、生成した磁気刺激パターンを磁気刺激パターン送信部35に送るものである。続いて、テーブル格納部34は、上記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブルを格納しているものである。なお、上記組み合わせを予め対応付けたテーブルの具体例については、後に詳述する。そして、磁気刺激パターン送信部35は、磁気刺激パターン生成部33から送られてきた磁気刺激パターンを磁気刺激装置4に送信するものである。
【0051】
なお、本実施の形態では、ミリ波レーダー9などの距離算出部材から小型カメラ2と対象物との距離の情報を画像データ取得部31で取得して、上記対象物の情報と上記距離の情報とに基づいて、磁気刺激パターン生成部33での磁気刺激パターンを生成する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ミリ波レーダー9などの距離算出部材から小型カメラ2と対象物との距離の情報を画像データ取得部31で取得せずに、上記対象物の情報のみに基づいて磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成部33で生成する構成であってもよい。この場合、テーブル格納部34には上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブルを格納する構成にすればよい。
【0052】
また、本実施の形態では、ミリ波レーダー9などの距離算出部材から小型カメラ2と対象物との距離の情報を画像データ取得部31で取得する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、小型カメラ2を撮影方向に対して2台(小型カメラ2aおよび小型カメラ2b)垂直に並べることによってステレオカメラとして用い、小型カメラ2aと小型カメラ2bとから得られた画像データから小型カメラ2と対象物との距離の情報を得る構成であってもよい。
【0053】
以下では、上述したステレオカメラである小型カメラ2a・2bから得た画像データから得られる上記距離の情報を用いて磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置3aについて図3を用いて説明を行う。図3は、本実施の形態における磁気刺激パターン生成装置3aの構成を示した機能ブロック図である。磁気刺激パターン生成装置3aは、図3に示すように、画像データ取得部(画像データ取得手段)31a、画像処理部(対象物情報抽出手段)32a、磁気刺激パターン生成部(磁気刺激パターン生成手段)33、テーブル格納部34、磁気刺激パターン送信部(磁気刺激パターン送信手段)35、および距離算出部(距離算出手段)36を備えている。
【0054】
まず、画像データ取得部31aは、小型カメラ2a・2bで撮影された対象物を含む物体空間の画像データを取得するものである。また、画像データ取得部31aは、小型カメラ2a・2bのそれぞれから取得した画像データを画像処理部32と距離算出部36とに送るものである。
【0055】
画像処理部32aは、画像データ取得部31aから送られてきた画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出するものである。例えば、画像処理部32aでは、取得した画像データから上記対象物の情報として上記物体空間中での対象物の輪郭をエッジ抽出処理によって抽出する。また、画像処理部32aは、抽出した対象物の情報を磁気刺激パターン生成部33に送るものである。なお、画像処理部32aでは、画像データ取得部31aから送られてきた小型カメラ2a由来の画像データと小型カメラ2b由来の画像データを1つの画像データに合成して上記物体空間中の対象物の情報を抽出する処理を行う構成であってもよいし、上記小型カメラ2a由来の画像データと上記小型カメラ2b由来の画像データのどちらか1つを選択して上記物体空間中の対象物の情報を抽出する処理を行う構成であってもよい。
【0056】
続いて、距離算出部36は、上記小型カメラ2a由来の画像データと上記小型カメラ2b由来の画像データとの画像のずれをもとに、小型カメラ2a・2bと上記対象物との距離を算出する。なお、距離算出部36では、三角測量の原理を用いた処理によって上記小型カメラ2a由来の画像データと上記小型カメラ2b由来の画像データとの画像のずれをもとに、小型カメラ2a・2bと上記対象物との距離を算出するものとする。
【0057】
次に、図4を用いて磁気刺激装置4の構成の概要について説明を行う。図4は本実施の形態における磁気刺激装置4の構成を示した機能ブロック図である。磁気刺激装置4は、図4に示すように、磁気刺激パターン受信部(磁気刺激パターン受信手段)41、磁気刺激部(磁気刺激手段)42、複数の磁気コイル(磁場発生手段)45(磁気コイル45a〜45d)を備えている。また、磁気刺激部42は、制御部43および電流生成部44を含んでいる。
【0058】
まず、磁気刺激パターン受信部41は、磁気刺激パターン生成装置3・3aから送信されてきた磁気刺激パターンを受信するものである。また、磁気刺激パターン受信部41は、受信した磁気刺激パターンを磁気刺激部42の制御部43に送るものである。
【0059】
磁気刺激部42は、磁気刺激パターン受信部41から送られてきた磁気刺激パターンに基づいて、複数の磁気コイル45a〜45dのうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁気コイル45に上記磁気刺激パターンに応じた電流を送って、磁気コイル45a〜45dのうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁気コイル45から磁場を発生させるようにするものである。なお、制御部43は、磁気刺激パターン受信部41から送られてきた磁気刺激パターンに基づいた指示を電流生成部44に対して行うものである。また、電流生成部44は、公知の手段によって電流(パルス電流)を生成するものである。例えば、電流生成部44は、パルス電流を発生させるパルス波生成装置、パルス電流を増幅する電力増幅器、コンデンサなどを備えることによって所定の強度のパルス電流を発生させることができるようになっている。なお、制御部43は、磁気刺激パターンに含まれる磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、複数ある磁気コイル45a〜45dのうちのどの磁気コイル45から磁場を発生させるのかなどの情報に基づいて、電流生成部44に備えられているパルス波生成装置、電力増幅器、コンデンサなどに指示を行うことによって、パルス電流の発生の頻度、パルス電流の増幅の度合い(強度)、パルス電流の送り先、パルス電流の波形、パルス電流を送り続ける時間を制御している。続いて、磁気コイル45a〜45dは、電流生成部44から電流が送られてきた場合に、送られてきた電流に応じた磁場を発生させるものである。
【0060】
なお、本実施の形態では、磁気刺激装置として4つの磁気コイル45(磁気コイル45a〜45d)を備える磁気刺激装置4を用いる構成を示したが、必ずしもこれに限らず、磁気コイル45の数は任意に変更してもよい。例えば、磁気刺激装置として1つの磁気コイル45だけを備えるものを用いる構成であってもよい。この場合、1つの磁気コイル45によって複数の磁気コイル45を備える場合と同様の範囲を磁気刺激可能にするために、磁気コイル45を上記磁気刺激装置に対して位置変更可能に備え、磁気コイル45の位置変更をさせる駆動手段をさらに備える構成にすればよい。
【0061】
以下では、上述した磁気コイル45を上記磁気刺激装置に対して位置変更可能に備え、磁気コイル45の位置変更をさせる駆動手段をさらに備える磁気刺激装置4aについて図5を用いて説明を行う。図5は、本実施の形態における磁気刺激装置4aの構成を示した機能ブロック図である。磁気刺激装置4aは、図5に示すように、磁気刺激パターン受信部(磁気刺激パターン受信手段)41a、磁気刺激部(磁気刺激手段)42a、磁気コイル45、および駆動部(磁場発生手段位置変更手段)46を備えている。また、磁気刺激部42aは、制御部43、電流生成部44、および駆動制御部47を含んでいる。
【0062】
まず、磁気刺激パターン受信部41aは、磁気刺激パターン生成装置3・3aから送信されてきた磁気刺激パターンを受信するものである。また、磁気刺激パターン受信部41は、受信した磁気刺激パターンを磁気刺激部42aの制御部43および駆動制御部47に送るものである。
【0063】
磁気刺激部42aは、磁気刺激パターン受信部41aから送られてきた磁気刺激パターンに基づいて、駆動部46に対して上記磁気刺激パターンに応じた位置に磁気コイル45を移動させる(位置させる)よう指示(駆動命令)を行うとともに、磁気コイル45から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させるようにするものである。なお、駆動制御部47は、磁気刺激パターン受信部41aから送られてきた磁気刺激パターンに基づいた駆動命令を駆動部46に対して行うものである。なお、駆動制御部47は、磁気刺激パターンに含まれる磁気コイル45を移動させる方向および磁気コイル45を移動させる量の情報に基づいて駆動部46の駆動方向を指示する駆動命令を駆動部46に送ることによって、駆動部46の駆動方向を制御している。そして、駆動部46は、駆動制御部47から駆動命令が送られてきた場合に、送られてきた駆動命令に応じた方向に磁気コイル45を移動させるものである。また、この場合、上述した磁気刺激パターンに含まれる磁場を発生させる部位の情報は、駆動部46によって磁気コイル45を移動させる方向の情報、および上記方向へ移動させる量の情報となる。
【0064】
〔3.処理フロー〕
最初に、図6を用いて人工視覚生成システム1の動作フローの説明を行う。図6は、人工視覚生成システム1の動作フローの一例を示したフローチャートである。
【0065】
まず、ステップS1では、小型カメラ2が対象者5の正面の物体空間7の映像を撮影する。続いて、ステップS2では、小型カメラ2に備えられているミリ波レーダー9によって、小型カメラ2と上記物体空間7中の対象物との距離を測定する。そして、ステップS3では、小型カメラ2で撮影した物体空間7の映像の画像データとミリ波レーダー9で測定した上記距離の情報とを磁気刺激パターン生成装置3が取得し、ステップS4に移る。
【0066】
ステップS4では、取得した上記画像データから磁気刺激パターン生成装置3が、対象物の情報を抽出する。続いてステップS5では、抽出した上記対象物の情報と取得した上記距離の情報とに基づいて、磁気刺激パターン生成装置3が磁気刺激パターンを生成する。そして、ステップS6では、生成した上記磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成装置3が磁気刺激装置4・4aに送信し、ステップS7に移る。ステップS7では、磁気刺激パターン生成装置3から送信されてきた磁気刺激パターンに応じた磁場を磁気刺激装置4・4aが発生させ、フローを終了する。
【0067】
次に、図7を用いて磁気刺激パターン生成装置3の動作フローの説明を行う。図7は、磁気刺激パターン生成装置3の動作フローの一例を示したフローチャートである。
【0068】
まず、ステップS11では、画像データ取得部31が、小型カメラ2から小型カメラ2で撮影した物体空間7の映像の画像データを取得するとともに、小型カメラ2に備えられているミリ波レーダー9からミリ波レーダー9で測定した、小型カメラ2と上記物体空間7中の対象物との距離の情報とを取得し、ステップS12に移る。ステップS12では、画像データ取得部31が、取得した上記画像データを画像処理部32に送るとともに、取得した上記距離の情報を磁気刺激パターン生成部33に送る。
【0069】
続いて、ステップS13では、画像処理部32が画像データ取得部31から送られてきた画像データから対象物の情報を抽出し、ステップS14に移る。ステップS14では、抽出した上記対象物の情報を画像処理部32が磁気刺激パターン生成部33に送りステップS15に移る。ステップS15では、上記対象物の情報と上記距離の情報とに基づいて、磁気刺激パターン生成部33がテーブル格納部34を参照する。そして、ステップS16では、磁気刺激パターン生成部33が、上記対象物の情報と上記距離の情報とに対応した磁気刺激パターンの情報をテーブル格納部34から得る。
【0070】
ここで、テーブル格納部34に格納されているテーブルの一例について図9を用いて説明を行う。図9は、テーブル格納部34に格納されているテーブルの一例を示した図である。ここでは、「対象物の情報」を右上、右下、左上、左下に4分割した物体空間中のどの位置に対象物が存在するのかの情報とし、「距離の情報」を対象物までのメートル数の情報とし、「磁気刺激パターン」を磁気刺激の頻度および磁場発生させる磁気コイル45の情報とした場合を例として説明を行う。図9に示すように、対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報とが予め対応づけられて格納されている。具体的には、「対象物の情報」が右上であって、「距離の情報」が0〜2mであった場合には、「磁気刺激パターン」の情報としては、20Hzの頻度で磁気コイル45aから磁場を発生させるという情報に対応付けられている。すなわち、この場合には、磁気刺激パターン生成部33が「対象物の情報」“右上”と「距離の情報」“1.5m”とに基づいてテーブル格納部34を参照すると、20Hzの頻度で磁気コイル45aから磁場を発生させるという情報がテーブル格納部34から得られることになる。
【0071】
なお、図9で示したテーブルは、磁気コイル45を複数備える磁気刺激装置4に送る磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成部33で生成する場合に参照するテーブルの一例である。従って、磁気コイル45を1つしか備えていない磁気刺激装置4aに送る磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成部33で生成する場合には、図9のテーブルの「磁気刺激パターン」の情報のうちの磁場発生させる磁気コイル45の情報を、駆動部46によって磁気コイル45を移動させる方向および磁気コイル45を移動させる量の情報に入れ替えたテーブルを参照する構成にすればよい。例えば、駆動部46が複数のモーターの回転を利用して磁気コイル45を移動させるものである場合には、回転させるモーターおよびモーターの回転数を、駆動部46によって磁気コイル45を移動させる方向および磁気コイル45を移動させる量の情報とすればよい。
【0072】
続いて、ステップS17では、テーブル格納部34から得られた磁気刺激パターンの情報をもとに、磁気刺激パターン生成部33が磁気刺激パターンを生成し、ステップS18に移る。ステップS18では、生成した磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成部33が磁気刺激パターン送信部35に送り、ステップS19に移る。ステップS19では、磁気刺激パターン生成部33から送られてきた磁気刺激パターンを磁気刺激パターン送信部35が磁気刺激装置4・4aに送信し、フローを終了する。
【0073】
また、図8を用いて磁気刺激パターン生成装置3aの動作フローの説明を行う。図8は、磁気刺激パターン生成装置3の動作フローの一例を示すフローチャートである。
【0074】
まず、ステップS21では、画像データ取得部31aが、小型カメラ2aおよび小型カメラ2bから小型カメラ2a・2bで撮影した物体空間7の映像の画像データを取得し、ステップS22に移る。ステップS22では、画像データ取得部31aが、取得した上記画像データを画像処理部32aに送るとともに、取得した上記画像データを距離算出部36に送る。
【0075】
続いて、ステップS23では、画像処理部32aが画像データ取得部31aから送られてきた画像データから対象物の情報を抽出し、ステップS24に移る。ステップS24では、抽出した上記対象物の情報を画像処理部32aが磁気刺激パターン生成部33に送りステップS25に移る。ステップS25では、上記小型カメラ2a由来の画像データと上記小型カメラ2b由来の画像データとの画像のずれをもとに、距離算出部36が小型カメラ2a・2bと上記対象物との距離を算出し、ステップS26に移る。ステップS26では、算出した距離の情報を距離算出部36が磁気刺激パターン生成部33に送り、ステップS27に移る。
【0076】
ステップS27では、上記対象物の情報と上記距離の情報とに基づいて、磁気刺激パターン生成部33がテーブル格納部34を参照する。そして、ステップS28では、磁気刺激パターン生成部33が、上記対象物の情報と上記距離の情報とに対応した磁気刺激パターンの情報をテーブル格納部34から得る。
【0077】
続いて、ステップS29では、テーブル格納部34から得られた磁気刺激パターンの情報をもとに、磁気刺激パターン生成部33が磁気刺激パターンを生成し、ステップS30に移る。ステップS30では、生成した磁気刺激パターンを磁気刺激パターン生成部33が磁気刺激パターン送信部35に送り、ステップS31に移る。ステップS31では、磁気刺激パターン生成部33から送られてきた磁気刺激パターンを磁気刺激パターン送信部35が磁気刺激装置4・4aに送信し、フローを終了する。
【0078】
次に、図10を用いて磁気刺激装置4の動作フローの説明を行う。図10は、磁気刺激装置4の動作フローの一例を示すフローチャートである。
【0079】
まず、ステップS41では、磁気刺激パターン受信部41が磁気刺激パターン生成装置3・3aから送信されてくる磁気刺激パターンを受信し、ステップS42に移る。ステップS42では、受信した磁気刺激パターンを磁気刺激パターン受信部41が制御部43に送り、ステップS43に移る。ステップS43では、磁気刺激パターン受信部41から送られてきた磁気刺激パターンに基づいて、制御部43が電流生成部44に指示を行う。
【0080】
続いて、ステップS44では、制御部43からの指示に応じて、所定の磁気コイル45に対して、制御部43の指示に応じたパルス電流を電流生成部44が送る。すなわち、磁気刺激パターンで指定のあった頻度、強度、波形、および/または持続時間のパルス電流を、磁気刺激パターンで指定のあった磁気コイル45に対して電流生成部44が送る。そして、ステップS45では、電流生成部44からパルス電流を受けた磁気コイル45が、受けたパルス電流に応じた磁場を発生させ、フローを終了する。
【0081】
また、図11を用いて磁気刺激装置4aの動作フローの説明を行う。図11は、磁気刺激装置4aの動作フローの一例を示すフローチャートである。
【0082】
まず、ステップS51では、磁気刺激パターン受信部41aが磁気刺激パターン生成装置3・3aから送信されてくる磁気刺激パターンを受信し、ステップS52に移る。ステップS52では、受信した磁気刺激パターンを磁気刺激パターン受信部41aが制御部43と駆動制御部47に送り、ステップS53に移る。ステップS53では、磁気刺激パターンに含まれる、磁気コイル45を移動させる方向および磁気コイル45を移動させる量の情報に基づいて、駆動部46の駆動方向および駆動量を指示する駆動命令を駆動制御部47が駆動部46に送り、ステップS54に移る。ステップS54では、駆動制御部47から送られてきた駆動命令に応じた位置に、駆動部46が磁気コイル45を移動させ、ステップS55に移る。ステップS55では、磁気刺激パターン受信部41aから送られてきた磁気刺激パターンに基づいて、制御部43が電流生成部44に指示を行う。
【0083】
続いて、ステップS56では、制御部43からの指示に応じて、制御部43の指示に応じたパルス電流を電流生成部44が送る。すなわち、磁気刺激パターンで指定のあった頻度、強度、波形、および/または持続時間のパルス電流を、電流生成部44が磁気コイル45に対して送る。そして、ステップS57では、電流生成部44からパルス電流を受けた磁気コイル45が、受けたパルス電流に応じた磁場を発生させ、フローを終了する。
【0084】
なお、本実施の形態では、磁気刺激パターン生成部33で距離の情報を扱う場合の動作フローを示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、磁気刺激パターン生成部33で距離の情報を扱わない場合には、人工視覚生成システム1の動作フローではステップS2を省略し、ステップS3およびステップS5で距離の情報を扱わない構成にすればよい。また、磁気刺激パターン生成装置3の動作フローでは、ステップS11、ステップS12、およびステップS15で距離の情報を扱わない構成にし、テーブル格納部34には上述したように対象物の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブルを格納する構成にすればよい。
【0085】
〔4.人工視覚生成システムの装着例〕
まず、小型カメラ2の装着例について説明を行う。小型カメラ2は、対象者5が眼鏡のようにして掛けることのできるバイザーと一体化させることによって対象者5の頭部に装着可能な構成にすればよい。また、対象者が被ることのできるヘルメットタイプのホルダーと一体化させることによって対象者5の頭部に装着可能な構成にしてもよい。
【0086】
続いて、磁気刺激装置4・4aの装着例について説明を行う。磁気刺激装置4・4aは、図12に示した対象者5の後頭部にある鳥距溝周辺の第1次視覚野を磁気コイル45によって磁気刺激可能なように、上記ホルダーと一体化する構成にすればよい。
【0087】
磁気刺激装置4の場合には、例えば、磁気コイル45aが鳥距溝の左下側(図12のo点)、磁気コイル45bが鳥距溝の左上側(図12のe点)、磁気コイル45cが鳥距溝の右下側(図12のq点)、そして、磁気コイル45dが鳥距溝の右上側(図12のg点)を磁気刺激可能になるように対象者5の頭部から空間をもって、または密着して装着される。ただし、より小さい磁気コイル45で対象者の第1次視覚野を刺激できるため、対象者5の頭部の形状に沿った上記ホルダーの面上に平行な方向に対して、対象者の頭部に磁気コイル45が密着するように装着することがより好ましい。
【0088】
また、磁気刺激装置4aの場合には、磁気コイル45が駆動部46によって移動することによって、上述した鳥距溝の左下側(図12のo点)、鳥距溝の左上側(図12のe点)、鳥距溝の右下側(図12のq点)、および鳥距溝の右上側(図12のg点)を磁気刺激可能になるように装着される。具体的な例としては、対象者5の頭部から空間をもって、または密着して磁気コイル45を配置するとともに、複数のモーターを用いることによって対象者5の頭部の形状に沿った上記ホルダーの面上に平行な方向に対して上下左右に磁気コイル45を移動可能なように磁気コイル45を上記ホルダーに配置すればよい。
【0089】
さらに、磁気刺激装置4・4aの加重付加が対象者5に大きい場合には、例えば、磁気コイル45を除く磁気刺激装置4・4aの部分を駆動型台車に設置し、磁気コイル45は上記駆動台車からカウンターバランスにて懸架された上記ホルダーに装着する構成であってもよい。これにより、対象者5は磁気刺激装置4・4a(磁気コイル45を含む)の加重付加を受けずに済むとともに、上記駆動型台車を杖がわりにすることも可能になる。
【0090】
また、磁気刺激パターン生成装置3・3aについては、対象者5の頭部に必ずしも装着されている必要はないので、対象者の体の任意の部位に装着可能な構成にしてもよいし、上記駆動台車に設置する構成にしてもよい。
【0091】
〔5.補足〕
本発明によって得られる効果について、実例を用いて説明を行う。ここでは、磁気刺激パターン生成装置3および磁気刺激装置4を含む人工視覚生成システム1によって磁気刺激を行った場合を例として説明を行う。ここでは、対象者5の前方の物体空間7の左下部分、すなわち対象者5の左方の足元の対象者5の頭部から1.5m離れた場所に障害物が存在した場合を例にして説明を行う。
【0092】
まず、対象者5の頭部に装着された小型カメラ2によって、対象者5の前方の物体空間7中の左下に存在する障害物(対象物)を含む映像を撮影する。また、小型カメラ2に備えられているミリ波レーダー9によって、小型カメラ2と上記対象物との距離が1.5mであることを測定する。続いて、磁気刺激パターン生成装置3が、小型カメラ2から上記対象物を含む映像の画像データを取得し、物体空間7中の左下に対象物が存在するという対象物の情報を抽出する。そして、小型カメラ2と上記対象物との距離が1.5mであるという距離の情報と物体空間7中の左下に対象物が存在するという対象物の情報とに基づいて、例えば図9に示すテーブルを参照して磁気刺激パターン生成装置3が、磁気刺激装置4の磁気コイル45dから20Hzの頻度で磁場を発生させる磁気刺激パターンを生成し、磁気刺激装置4に送信する。最後に、磁気刺激装置4で上記磁気刺激パターンに基づいて、磁気コイル45dから20Hzの頻度で磁場を発生させる。上述したように、磁気コイル45dが対象者の鳥距溝の右上側(図12のg点)を磁気刺激可能になるように対象者5の頭部から空間をもつように、または密着するように磁気刺激装置4が装着されているので、対象者5の鳥距溝の右上側(図12のg点)に20Hzの高頻度の磁気刺激が行われる。その結果、対象者5の正面の物体空間の左下の位置に高頻度に点滅する誘発視覚8が得られる。すなわち、対象物の距離を刺激頻度で代用する(例えば、近い場合には頻度が高く、遠い場合には頻度が低い)ということを対象者に予め学習して貰えば、対象者5は自分の左方の足元の比較的近い位置に障害物があることを視覚によって認識することが可能となる。
【0093】
また、本実施の形態では、予め対応付けたテーブルとして図9に例を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、個々の対象者に対して実際に網羅的に一次視覚野の磁気刺激を行った結果をもとに、個々の対象者での磁気刺激パターンに対する誘発視覚の特性に合わせて予め作成したテーブルであってもよく。テーブル中の項目も、磁気刺激の頻度および磁場を発生させる部位に限らず、磁気刺激の強度、パルス電流の波形(磁気刺激の波形)、磁気刺激の時間などを含むあらゆる組み合わせからなるものであってもよい。
【0094】
なお、本実施の形態では、テーブル格納部34に格納されている対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブル、または対象物の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブルを参照することによって磁気刺激パターン生成部33が磁気刺激パターンを生成する構成になっているが、必ずしもこれに限らない。例えば、対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせ、または対象物の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせを磁気刺激パターン生成部33中で行う演算処理のプログラム中に備えており、テーブル格納部34のテーブルを参照せずに磁気刺激パターン生成部33での演算処理によって磁気刺激パターンを生成する構成であってもよい。
【0095】
しかしながら、対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせのテーブル、または対象物の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせのテーブルを格納するテーブル格納部34を備える構成が好ましい。これは、対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブル、または対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを予め対応付けたテーブルがテーブル格納部34に格納されているので、対象物の情報と距離の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせ、または対象物の情報と磁気刺激パターンの情報との組み合わせに基づいて、磁気刺激パターン生成部33がテーブル格納部34を参照するだけで磁気刺激パターンの情報を得ることができるからである。すなわち、磁気刺激パターン生成部33が簡単な処理によって磁気刺激パターンを生成することが可能になるからである。
【0096】
また、本実施の形態では、小型カメラ2と磁気刺激パターン生成装置3との間でのデータの送受信、および磁気刺激パターン生成装置3と磁気刺激装置4との間でのデータの送受信は、既知の有線ならびに無線の通信のどちらによるものでもよい。しかしながら、無線の通信による構成がより好ましい。これは、人工視覚生成システム1を対象者5が装着して使用する場合に、有線通信に用いるケーブルなどが邪魔にならず、対象者5にとっての人工視覚生成システム1の利便性を向上させることができるためである。ただし、磁気刺激装置4によって無線通信が障害を受ける部分の通信については、有線の通信であることが好ましい。
【0097】
なお、本実施の形態では、磁気刺激パターンに基づいた駆動制御部47からの駆動命令に従って、駆動部46によって磁気コイル45を移動させる構成を示したが、磁気刺激装置4に備えられている複数の磁気コイル45a〜45dのそれぞれを、磁気刺激パターンに基づいた駆動制御部47からの駆動命令に従って、駆動部46によって移動可能な構成であってもよい。
【0098】
また、予め対象物の情報および/または距離の情報と対応付けられる磁気刺激パターンは、てんかん発作誘発等を防ぐため、安全基準枠内での磁気刺激を磁気刺激装置4・4aで行わせるような範囲内の値のみを含むものとする。ただし、安全基準の変更に伴った変更を加えることが可能なように、予め対象物の情報および/または距離の情報と対応付けられる磁気刺激パターンはプログラマブルに変更可能であることが好ましい。
【0099】
なお、磁気刺激装置4・4aの磁気コイル45の加熱を防ぐ冷却部材を、磁気刺激装置4・4aがさらに備える構成であってもよい。これは、磁気コイル45によって高頻度刺激を行う場合には磁気コイル45が加熱される傾向にあるためである。
【0100】
また、磁気刺激パターンのうちの磁気刺激の頻度は、5Hz以上かつ20Hz以下の範囲であることが好ましい。これは、5Hz以上かつ20Hz以下の範囲でもっとも誘発視覚が得られる確率が高いからである。
【0101】
〔6.ソフトウェアによる実現〕
最後に、人工視覚生成システム1が備える磁気刺激パターン生成装置3および磁気刺激装置4の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0102】
すなわち、磁気刺激パターン生成装置3・3aおよび磁気刺激装置4・4aは、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである磁気刺激パターン生成装置3・3aおよび磁気刺激装置4・4aの制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読取り可能に記録した記録媒体を、上記磁気刺激パターン生成装置3・3aおよび磁気刺激装置4・4aに供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0103】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0104】
また、磁気刺激パターン生成装置3・3aおよび磁気刺激装置4・4aを通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0105】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上のように、本発明の磁気刺激パターン生成装置、磁気刺激装置、その制御プログラムおよび該制御プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、磁気刺激生成システムならびに制御方法は、外科的手段を用いずに、外界の視覚情報をより正確に重症視覚障害者に認識させることを可能にする。したがって、本発明は、重度視覚障害者等の患者の視覚回復に関連する臨床医療および医療機器製造業などの分野に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明における磁気刺激パターン生成装置の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明における人工視覚生成システムの実施の一形態を示す概略図である。
【図3】本発明における磁気刺激パターン生成装置のさらに他の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明における磁気刺激装置の概略的構成を示した機能ブロック図である。
【図5】本発明における磁気刺激装置のさらに他の実施の形態を示した機能ブロック図である。
【図6】上記人工視覚生成システムでの動作フローの一例を示すフローチャートである。
【図7】上記磁気刺激パターン生成装置での動作フローの一例を示すフローチャートである。
【図8】上記磁気刺激パターン生成装置での動作フローの一例を示すフローチャートである。
【図9】上記磁気刺激パターン生成装置のテーブル格納部に格納されているテーブルの一例を示した図である。
【図10】上記磁気刺激装置での動作フローの一例を示したフローチャートである。
【図11】上記磁気刺激装置での動作フローの一例を示したフローチャートである。
【図12】被験者の後頭部の磁気刺激部位を示した図である。
【図13】誘発視覚についての被験者による口述方法を説明した図である。
【図14】磁気刺激の頻度と誘発視覚の頻度との関係を示したグラフである。
【図15】(a)〜(d)は、磁気刺激による誘発視覚の出現位置について示した図である。
【図16】磁気刺激の頻度と有色の誘発視覚の割合との関係を示したグラフである。
【図17】(a)および(b)は、磁気刺激の頻度と誘発視覚の形状との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 人工視覚生成システム(磁気刺激生成システム)
2 小型カメラ(撮像装置)
3・3a 磁気刺激パターン生成装置
4・4a 磁気刺激装置
5 対象者
6 検出信号
7 物体空間
8 誘発視覚
9 ミリ波レーダー(距離測定手段)
31・31a 画像データ取得部(画像データ取得手段)
32・32a 画像処理部(対象物情報抽出手段)
33 磁気刺激パターン生成部(磁気刺激パターン生成手段)
34 テーブル格納部
35 磁気刺激パターン送信部(磁気刺激パターン送信手段)
36 距離算出部(距離算出手段)
41・41a 磁気刺激パターン受信部(磁気刺激パターン受信手段)
42・42a 磁気刺激部(磁気刺激手段)
43 制御部
44 電流生成部
45・45a〜45d 磁気コイル(磁場発生手段)
46 駆動部(磁場発生手段位置変更手段)
47 駆動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置であって、
撮像装置で撮影した物体空間の画像データを取得する画像データ取得手段と、
上記画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出する対象物情報抽出手段と、
上記対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行う磁気刺激パターン生成手段と、
上記磁気刺激装置に当該磁気刺激パターンを送信する磁気刺激パターン送信手段とを備えることを特徴とする磁気刺激パターン生成装置。
【請求項2】
前記磁気刺激パターンは、磁気刺激の頻度、磁気刺激の強度、または前記磁気刺激装置での磁場を発生させる部位の情報のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激パターン生成装置。
【請求項3】
前記対象物情報抽出手段は、前記対象物の情報として前記物体空間中で上記対象物が占める位置の情報を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気刺激パターン生成装置。
【請求項4】
前記画像データ取得手段は、前記撮像装置に前記対象物との間の距離を測定する距離測定手段が備えられている場合に、上記距離測定手段で測定した上記距離の情報を前記画像データに加えて上記撮像装置から取得するとともに、
前記磁気刺激パターン生成手段は、上記対象物情報抽出手段で抽出した上記対象物の情報に加え、上記画像データ取得手段で取得した上記距離の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うことを特徴とする請求項1、2または3に記載の磁気刺激パターン生成装置。
【請求項5】
前記画像データ取得手段が、少なくとも2つの前記撮像装置から画像データを取得する場合に、上記少なくとも2台の撮像装置から得られるそれぞれの画像データをもとに、前記対象物と上記撮像装置との間の距離を算出する距離算出手段をさらに備え、
前記磁気刺激パターン生成手段は、上記対象物情報抽出手段で抽出した上記対象物の情報に加え、上記距離算出手段で算出した上記距離の情報に基づいて、前記対象物の情報と上記距離の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記対象物の情報および上記距離の情報に応じた磁気刺激パターンの生成を行うことを特徴とする請求項1、2または3に記載の磁気刺激パターン生成装置。
【請求項6】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置であって、
上記磁場発生手段を複数備えているとともに、
撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信手段と、
上記磁気刺激パターンに基づいて、上記複数の磁場発生手段のうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激手段とを備えることを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項7】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置であって、
上記磁場発生手段の上記磁気刺激装置に対しての位置関係を変更させる磁場発生手段位置変更手段と、
撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信手段と、
上記磁気刺激パターンに基づいて、上記磁場発生手段位置変更手段に対して上記磁気刺激パターンに応じた位置に上記磁場発生手段を位置させるよう指示を行うとともに、上記磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激手段とを備えることを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気刺激パターン生成装置の備える前記各手段としてコンピュータを動作させる制御プログラム。
【請求項9】
請求項6または7に記載の磁気刺激装置の備える前記各手段としてコンピュータを動作させる制御プログラム。
【請求項10】
請求項8または9に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
【請求項11】
物体空間を撮影する撮像装置と、
請求項1〜5に記載の磁気刺激パターン生成装置と、
請求項6または7に記載の磁気刺激装置とを備えることを特徴とする磁気刺激生成システム。
【請求項12】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置の制御方法であって、
画像データ取得手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データを取得する画像データ取得工程と、
対象物情報抽出手段によって、上記画像データから上記物体空間中の対象物の情報を抽出する対象物情報抽出工程と、
磁気刺激パターン生成手段によって、上記対象物情報抽出手段で抽出した対象物の情報に基づいて、予め対応付けられている上記対象物の情報と上記磁気刺激パターンの情報との組み合わせを参照することによって、上記画像データに応じた磁気刺激パターンの生成を行う磁気刺激パターン生成工程と、
磁気刺激パターン送信手段によって、上記磁気刺激装置に当該磁気刺激パターンを送信する磁気刺激パターン送信工程とを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置の制御方法であって、
磁気刺激パターン受信手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信工程と、
磁気刺激手段によって、上記磁気刺激装置に複数備えられている磁場発生手段のうち、上記磁気刺激パターンに応じた磁場発生手段から、上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激工程とを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項14】
局所的に磁場を発生させる磁場発生手段から磁場を発生させることにより磁気刺激を行う磁気刺激装置の制御方法であって、
磁場発生手段位置変更手段によって、上記磁場発生手段の上記磁気刺激装置に対しての位置関係を変更させる磁場発生手段位置変更工程と、
磁気刺激パターン受信手段によって、撮像装置で撮影した物体空間の画像データに基づいて、上記磁気刺激装置での磁気刺激のパターンである磁気刺激パターンを生成する磁気刺激パターン生成装置で生成された磁気刺激パターンを受信する磁気刺激パターン受信工程と、
磁気刺激手段によって、上記磁気刺激パターンに基づいて、上記磁場発生手段位置変更手段に対して上記磁気刺激パターンに応じた位置に上記磁場発生手段を位置させるよう指示を行うとともに、上記磁場発生手段から上記磁気刺激パターンに応じた磁場を発生させる磁気刺激工程とを含むことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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