磁気変速装置
【課題】動力の伝達態様を変更可能な磁気変速装置を提供する。
【解決手段】同一の軸線Qの周囲に内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が、軸線Qを基準として内側から外側に順に配置されている。内側磁極群及び外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成されている。当該電磁石の励磁状態が制御されることにより、内側磁極群における磁極配列パターンと外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御される。
【解決手段】同一の軸線Qの周囲に内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が、軸線Qを基準として内側から外側に順に配置されている。内側磁極群及び外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成されている。当該電磁石の励磁状態が制御されることにより、内側磁極群における磁極配列パターンと外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周方向に配列された複数のN極及びS極を有するインナーリング及びアウターリングと、周方向に配列された複数の磁性体を有する中間リングとを備えているラジアル型の磁気変速装置が提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。当該変速装置は、当該3つのリングのうち1つのリングに動力が入力され、他の1つのリングから動力が出力されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3378710号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】k.Atallah and D.Howe, “A Novel High-Performance Magnetic Gear” IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.37, NO.4, JULY 2001, p2844-2846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、変速装置による動力の伝達態様が固定されている構成であるため、その応用範囲が限られてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、動力の伝達態様を変更可能な磁気変速装置を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同一の軸線の周囲において当該軸線を基準として内側から外側に順に配置されている内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群と、前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材であって、前記軸線回りに相対的に回転可能に構成されている入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材の組み合わせを構成する3つの部材とを備え、前記入力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力が、前記出力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている磁気変速装置に関する。
【0008】
本発明の磁気変速装置は、前記内側磁極群及び前記外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記内側磁極群における磁極配列パターンと前記外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御されるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の制御により、当該電磁石によるその周辺の磁界(磁力線)の形成態様が変更され、その結果として当該磁界由来の動力の伝達態様が変更されうる。電磁石の励磁状態には、当該電磁石により構成される磁極をN極にする状態及び当該磁極をS極にする状態のほか、無極状態(電磁石として機能させない状態)が含まれる。
【0010】
前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の前記内側磁極群、構成が異なる複数の前記磁性体群又は構成が異なる複数の前記外側磁極群を支持するように構成され、前記軸線の方向に対する前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材の相対変位により、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達するための前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群の組み合わせが変更可能に構成されていることが好ましい。
【0011】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態により磁界の形成態様に加えて、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせが変更されることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0012】
前記磁気変速装置を複数の磁気変速装置として備えている複合型の磁気変速装置において、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記入力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、かつ、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記出力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記複数の磁気変速装置のうち前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達可能な一の磁気変速装置が選択される又は切り替えられるように構成されていることが好ましい。
【0013】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、複数の磁気変速装置のうち1つを選択的に動力伝達装置として機能させることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0014】
前記内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1と、前記外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2との和と、前記磁性体の数N0とが等しいという第1条件、又は、前記内側磁極対数N1及び前記外側磁極対数N2の差の絶対値と前記磁性体の数N0とが等しいという第2条件が満たされている状態で、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力が伝達されるように、前記電磁石の励磁状態が制御されるように構成されていることが好ましい。
【0015】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、第1条件又は第2条件が満たされ、出力伝達部材に発生するコギングトルクの影響が軽減される状態と、第1条件及び第2条件が満たされておらず、出力伝達部材に発生するコギングトルクの影響が顕著になる状態とが切り替えられる。
【0016】
前記内側磁極群、前記外側磁極群及び前記磁性体群のそれぞれが前記軸線回りの回転対称性を有するように前記軸線の周囲に配置されることが好ましい。
【0017】
当該構成の磁気変速装置によれば、入力伝達部材の回転態様と出力伝達部材の回転態様との相関関係が安定に維持されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態としての磁気変速装置の構成説明図。
【図2】内側磁石及び外側磁石の配置態様に関する説明図。
【図3】磁極の配置態様に関する説明図。
【図4】第1実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図5】第1実施例の磁気変速装置の機能に関する説明図。
【図6】第2実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図7】第3実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図8】第4実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図9】第4実施例の磁気変速装置の変速装置能に関する説明図。
【図10】本発明の第2実施形態としての磁気変速装置に関する説明図。
【図11】本発明の第3実施形態としての磁気変速装置に関する説明図。
【図12】本発明の磁気変速装置の応用例に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
(構成)
本発明の第1実施形態としての磁気変速装置は、図1に示されているように、軸線Qの周囲に配列され、当該軸線Qを基準として内側から外側に順に配置されているM1個の内側磁石10により構成される「内側磁石群」と、M2個の磁性体20により構成される「磁性体群」と、M3個の外側磁石30により構成される「外側磁石群」とを備えている。軸線Qに対する遠近に応じて「外」及び「内」が区別されている。内側磁石群が「内側磁極群」を構成し、外側磁石群が「外側磁極群」を構成する。
【0020】
内側磁石10の数M1、磁性体20の数M2及び外側磁石30の数M3の組み合わせは任意に変更されうる。
【0021】
「内側磁石群」は軸線Q回りの回転対称性としてM1回対称性を有するように配置されている。すなわち、内側磁石群が軸線Q回りに(2π/M1)[rad]の整数倍だけ回転された又は位相がずらされた場合、当該回転前の内側磁石群と、当該回転後の内側磁石群とが完全に重なるように、M1個の内側磁石10が当該軸線Qの周囲に配列されている。
【0022】
複数の要素が軸線Q回りに回転対称性を有するように配置されていることは、当該軸線方向から見て当該複数の要素が軸線Qを中心として放射状に、周方向(軸線Q回りの回転方向)に一定間隔で配列される等、周方向に所定のパターンで配列されていることを意味するということもできる。
【0023】
「内側磁石群」の回転対称性と「内側磁極群」の回転対称性とは相違する。たとえば、M1が偶数であり、軸線Q回りの一方向についてN極とS極との対が連続するように配列されている(M1/2)個のN極および(M1/2)個のS極により内側磁極群が構成されている場合、内側磁極群は軸線Q回りの(M1/2)回対称性を有する。また、M1が4の倍数であり、軸線Q回りの一方向について配列態様が同じ合計4個のN極とS極との組が連続するように配列されている、(xM1/4)個のN極(x=1,2,3)および((4−x)M1/4)個のS極により内側磁極群が構成されている場合、内側磁極群は軸線Q回りの(M1/4)回対称性を有する。
【0024】
内側磁石群の回転対称性はm1回対称性(m1はM1の因数である。)であってもよい。内側磁石群又は内側磁極群は回転対称性を有していなくてもよい。各内側磁石10のN極及びS極のうち一方の極が「内側磁極」を構成する。内側磁石10の磁気分極方向は径方向外側(軸線Qに対して垂直な方向について軸線Qから遠ざかる方向)に向かっている。
【0025】
内側磁石10の全部が、電磁鋼板などの磁性部材よりなるコア11にコイル12が巻きつけられて構成されている電磁石により構成されている。各内側磁石10を構成するコイル12に対してスリップリングを通じて外部電源から電力が供給される。各コイル12の通電状態及びこれに応じた各内側磁石10の励磁状態が、コンピュータによって構成されている制御装置によって制御されることにより、内側磁極の配列パターンが調節される。
【0026】
内側磁石10を構成する電磁石の励磁状態が制御されることにより、「内側磁石群」が軸線Q回りの回転対称性を有していない場合でも、軸線Q回りの回転対称性を有するように「内側磁極群」が実現されうる。
【0027】
コア11の外側端部は略台形状であり、その下底部分が軸線Qを中心とする円弧を構成するように外側に膨らんだような形状とされている。図2(a)に示されているコア11のピッチ角度θp1、すなわち、隣接しあうコア11の外側端部の中心点を結ぶ円弧の中心角に対する、コア11の外側端部をなす円弧の中心角θa1の比率は0.5〜0.6の範囲内の数値に設定されている。
【0028】
「磁性体群」を構成するM2個の磁性体20は、軸線Qを基準として内側磁石群よりも外側で、軸線Q回りの回転対称性(M2回対称性)を有するように配列されている。すなわち、磁性体群が軸線Q回りに(2π/M2)[rad]の整数倍だけ回転された場合、当該回転前の磁性体群と、当該回転後の磁性体群とが完全に重なるように、M2個の磁性体20が配置されている。
【0029】
磁性体20の配列態様の回転対称性はm2回対称性(m2はM2の因数である。)であってもよい。磁性体20の配列態様は回転対称性を有していなくてもよい。磁性体20は電磁鋼板等の磁性材料を原料の一部又は全部として製造されている。
【0030】
「外側磁石群」は軸線Q回りの回転対称性としてM3回対称性を有するように配置されている。すなわち、外側磁石群が軸線Q回りに(2π/M3)[rad]の整数倍だけ回転された又は位相がずらされた場合、当該回転前の外側磁石群と、当該回転後の外側磁石群とが完全に重なるように、M3個の外側磁石30が当該軸線Qの周囲に配列されている。
【0031】
「外側磁石群」の回転対称性と「内側磁極群」の回転対称性とは相違する。たとえば、M3が偶数であり、軸線Q回りの一方向についてN極とS極との対が連続するように配列されている(M3/2)個のN極および(M3/2)個のS極により外側磁極群が構成されている場合、外側磁極群は軸線Q回りの(M3/2)回対称性を有する。また、M3が6の倍数であり、軸線Q回りの一方向について配列態様が同じ合計6個のN極とS極との組が連続するように配列されている、(yM1/6)個のN極(y=1,2,3,4,5)および((6−x)M1/6)個のS極により外側磁極群が構成されている場合、外側磁極群は軸線Q回りの(M3/6)回対称性を有する。
【0032】
外側磁石群の回転対称性はm3回対称性(m3はM3の因数である。)であってもよい。外側磁石群又は外側磁極群は回転対称性を有していなくてもよい。各外側磁石30のN極及びS極のうち一方の極が「外側磁極」を構成する。外側磁石30の磁気分極方向は径方向内側(軸線Qに対して垂直な方向について軸線Qに近づく方向)に向かっている。
【0033】
外側磁石30の全部が、電磁鋼板などの磁性部材よりなるコア31にコイル32が巻きつけられて構成されている電磁石により構成されている。各外側磁石30を構成するコイル32に対してスリップリングを通じて外部電源から電力が供給される。各コイル32の通電状態及びこれに応じた各外側磁石30の励磁状態が、コンピュータによって構成されている制御装置によって制御されることにより、外側磁極の配列パターンが調節される。
【0034】
外側磁石30を構成する電磁石の励磁状態が制御されることにより、「外側磁石群」が軸線Q回りの回転対称性を有していない場合でも、軸線Q回りの回転対称性を有するように「外側磁極群」が実現されうる。
【0035】
コア31の内側端部は略台形状であり、その下底部分が軸線Qを中心とする円弧を構成するように内側に窪んだような形状とされている。図2(b)に示されているコア31のピッチ角度θP2、すなわち、隣接しあうコア31の内側端部の中心点を結ぶ円弧の中心角に対する、コア31の内側端部をなす円弧の中心角θa2の比率は0.5〜0.6の範囲内の数値に設定されている。
【0036】
なお、内側磁石10及び外側磁石30のうち一部が電磁石ではなく永久磁石によって構成されていてもよい。
【0037】
磁気変速装置は、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材、すなわち、第1部材1、第2部材2及び第3部材3を備えている。当該3つの部材1、2及び3は、軸線Q回りに相対的に回転可能に構成されている「入力伝達部材(又は第1回転子)」、「固定部材(又は固定子)」及び「出力伝達部材(又は第2回転子)」の組み合わせを構成する。入力伝達部材の固定部材に対する相対的な回転力が、出力伝達部材の固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている。
【0038】
たとえば、第1部材1が入力伝達部材を構成し、第2部材2が固定部材を構成し、第3部材3が出力伝達部材を構成する。第1部材1が入力伝達部材を構成し、第2部材2が出力伝達部材を構成し、第3部材3が固定部材を構成してもよい。第1部材1が出力伝達部材を構成し、第2部材2が固定部材を構成し、第3部材3が入力伝達部材を構成してもよい。
【0039】
第1部材1、第2部材2及び第3部材3のそれぞれは、前記のような配置態様で内側磁石群、磁性体群及び外側磁石群のそれぞれを支持することを条件として、その形状は任意に変更されてもよい。
【0040】
たとえば、図1に示されているように環状の第1部材1の外側に内側磁石10が突出するように配置されている「突極型構造」のほか、環状の第1部材1の外周壁に設けられている凹部に内側磁石10が収納される等、第1部材1の内側に内側磁石10が配置されている「非突極型構造」が採用されてもよい。
【0041】
同様に、図1に示されているように環状の第3部材3の内側に突出するように外側磁石30が配置されている「突極型構造」のほか、環状の第3部材1の内周壁に設けられている凹部に外側磁石30が収納される等、第3部材3の内側に外側磁石30が配置されている「非突極型構造」が採用されてもよい。
【0042】
(機能)
各コイル12の通電状態の制御を通じて各内側磁石10の励磁状態が制御されることにより、内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1が調節される。同様に、各コイル32の通電状態の制御を通じて各外側磁石30の励磁状態が制御されることにより、外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2が調節される。
【0043】
磁極対について、磁極の配列パターンを模擬的に示す図3を用いて説明する。図3によれば、磁石が軸線Q回りの配列順で線分上に配列された点として表わされ、N極が点から上にのびる線分として表わされ、S極が点から下にのびる線分として表わされ、無極が「○」により表わされている。
【0044】
図3(a)に示されているようにN極とこれに隣接するS極との組、図3(b)に示されているように隣接する複数のN極からなるN極群とこれに隣接するS極との組、図3(c)に示されているように隣接する複数のS極からなるS極群とこれに隣接するN極、及び、図3(d)に示されているようにN極群とこれに隣接するS極群との組のそれぞれが「磁極対」に該当する。
【0045】
無極又は隣接する複数の無極により構成される無極群の両隣の2つの磁極は隣接しているとみなされる。このため、たとえば図3(e)に示されているように無極を挟むN極及びS極の組み合わせも磁極対に該当する。また、図3(f)に示されているように無極を挟むN極は同一のN極群を構成する。
【0046】
内側磁極および外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されることにより、内側磁極対数N1と外側磁極対数N2との和が、磁性体数N0に一致するという「第1条件」が満たされるように、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が構成されてもよい。第1条件は関係式(1)により表現される。
【0047】
N0=N1+N2 ‥(1)。
【0048】
第1条件が満たされている場合、第1部材1及び第2部材2のそれぞれの、第3部材3に対する相対角速度は「正」である。すなわち、たとえば第2部材2が固定部材に該当する場合、入力伝達部材としての第1部材1の回転方向と出力伝達部材としての第3部材3の回転方向とは逆になる。第1条件が満たされている状態と、第1条件が満たされていない状態とが選択的に切り替えられるように、内側磁極及び外側磁極の配列パターンが制御されてもよい。
【0049】
内側磁極および外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されることにより、内側磁極対数N1と外側磁極対数N2との差の絶対値が、磁性体数N0に一致するという「第2条件」が満たされるように、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が構成されてもよい。第2条件は関係式(2)により表現される。
【0050】
N0=|N1−N2| ‥(2)。
【0051】
第2条件が満たされている場合、第1部材1及び第3部材3のそれぞれの、第2部材2に対する相対角速度は「正」である。すなわち、たとえば第2部材2が固定部材に該当する場合、入力伝達部材としての第1部材1の回転方向と、出力伝達部材としての第3部材3の回転方向とは同じになる。第2条件が満たされている状態と、第2条件が満たされていない状態とが選択的に切り替えられるように、内側磁極及び外側磁極の配列パターンが制御されてもよい。
【0052】
第1部材1が「入力伝達部材」として機能し、第3部材3が「出力伝達部材」として機能する場合、磁気変速装置は内側磁極対数N1に対する外側磁極対数N2の比「N2/N1」として表現される減速比の減速装置として機能する。これとは逆に第3部材3が「入力伝達部材」として機能し、第1部材1が「出力伝達部材」として機能する場合、磁気変速装置は内側磁極対数N1に対する外側磁極対数N2の比N2/N1として表現される増速比の増速装置として機能する。
【0053】
(第1実施例)
第1実施例として(M1,M2,M3)=(8,14,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図4(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0054】
たとえば、図4(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「4」であり、外側磁極対数N2が「10」である。また、磁性体数N0は「14」である。このため、関係式(1)により表現されている「第1条件」が満たされている。
【0055】
この状態で磁気変速装置は減速比「2.5」の減速装置として機能する。第1部材1のトルクは図5(a)に一点鎖線で示されているように第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(a)に二点鎖線で示されているように第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(a)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。
【0056】
図4(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件は満足されていない。
【0057】
この状態で、磁気変速装置は減速比「5」の減速装置として機能する。第1部材1のトルクは図5(b)に一点鎖線で示されているように第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(b)に二点鎖線で示されているように第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(b)から、第1部材1のトルク(入力トルク)も、第3部材3のトルク(出力トルク)も、図5(a)に示されている例と比較して波形が不規則的になっている(高調波成分が混ざっている)ことがわかる。
【0058】
本発明の第1実施例の変形例として、図示は省略するが、磁性体群は軸線Qの周囲に12回対称を有するように配列されている12個の磁性体20により構成され、その他の構成は変更がないものを考える。
【0059】
この変形例では、磁性体数N0は「12」である。このため、図4(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件は満足されている。この場合、磁気変速装置は減速比「5」の減速装置として機能する。
【0060】
この状態で、第1部材1のトルクは図5(c)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(c)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(c)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。また、第1条件が満たされていることから、図5(b)に示されている例と異なり比較して、第1部材1のトルク(入力トルク)も、第3部材3のトルク(出力トルク)も波形が規則的になっていることがわかる。
【0061】
なお、第1部材1が出力側の動力伝達部材とされ、第3部材3が入力側の動力伝達部材とされることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、減速装置ではなく増速装置として機能する。
【0062】
また、図4(a)の上下に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、増速比「2.5」の増速装置として機能する。さらに、図4(b)の上下に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、増速比「5」の増速装置として機能する。
【0063】
図4(c)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「3」であるため、第1条件は満足されていない。この場合、磁気変速装置は減速比「1.5」の減速装置として機能する。
【0064】
(第2実施例)
第2実施例として(M1,M2,M3)=(16,18,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図6(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0065】
図6(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「8」であり、外側磁極対数N2が「10」である。また、磁性体数N0は「18」であるため、第1条件が満たされている。この場合、磁気変速装置は、減速比「1.25」の減速装置として機能する。
【0066】
図6(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「4」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、磁気変速装置は、減速比「2.5」の減速装置として機能する。
【0067】
(第3実施例)
第3実施例として(M1,M2,M3)=(32,26,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図7(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0068】
図7(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「16」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第3実施形態の磁気変速装置は、増速比「1.6」の増速装置として機能する。
【0069】
図7(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「5」であり、外側磁極対数N2が「5」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、第3実施形態の磁気変速装置は、減速比「1」のカップリング装置として機能する。
【0070】
(第4実施例)
第3実施例として(M1,M2,M3)=(30,20,30)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図8(a)〜(c)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0071】
図8(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「5」であり、外側磁極対数N2が「15」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「3」の減速装置として機能する。
【0072】
この状態で、第1部材1のトルクは図9(a)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図9(a)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図9(a)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。
【0073】
図8(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「7」であり、外側磁極対数N2が「13」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「13/7≒1.85」の減速装置として機能する。
【0074】
図8(c)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「10」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「1」の減速装置として機能する。
【0075】
また、図8(a)に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第4実施形態の磁気変速装置は、増速比「3」の増速装置として機能する。
【0076】
この状態で、第1部材1のトルクは図9(b)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図9(b)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図9(b)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が速い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が弱いことがわかる。
【0077】
第1実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の制御により、当該電磁石によるその周辺の磁界(磁力線)の形成態様が変更され、その結果として当該磁界由来の動力の伝達態様が変更されうる。
【0078】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としての磁気変速装置は、複数の磁気変速装置が組み合わせられた複合型の磁気変速装置として構成されている。複合型の磁気変速装置を構成する磁気変速装置のうち少なくとも一部として、第1実施形態又は後述する第3実施形態の磁気変速装置が採用される。
【0079】
一例として、図10に示されているように、3つの磁気変速装置T1〜T3が組み合わせられて構成されている変速装置について説明する。3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれは、前記の第1、第2及び第3実施例の磁気変速装置のそれぞれにより構成されている。
【0080】
3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれの第1部材1は、連結部材によって連結されている又は一体的に形成されている等、軸線Q回りに一体的に回転可能に構成されている。同様に、3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれの第3部材3は、連結部材によって連結されている又は一体的に形成されている等、軸線Q回りに一体的に回転可能に構成されている。
【0081】
たとえば、3つの磁気変速装置T1〜T3のうち、選択された1つの磁気変速装置のみにおいて入力伝達部材の回転力が出力伝達部材の回転力として伝達されるように、各磁気変速装置を構成する内側磁石10及び外側磁石30の励磁状態が制御される。
【0082】
入力伝達部材の回転力が出力伝達部材の回転力として伝達される動力伝達装置として機能させる1つの磁気変速装置の選択処理と、当該選択に応じた各磁気変速装置を構成する内側磁石10及び外側磁石30の励磁状態の制御処理は、制御装置により実行される。
【0083】
前記のように第1の磁気変速装置T1は、第1条件を満たしながら、減速比「2.5」の減速装置として機能する(図4(a)参照)。第1の磁気変速装置T1は、第1条件を満たさないものの、「5」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図4(b)参照)。
【0084】
また、第2の磁気変速装置T2は、第1条件を満たしながら、減速比「1.25」の減速装置として機能する(図6(a)参照)。また、第2の磁気変速装置T2は、第1条件を満たさないものの、「2.5」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図6(b)参照)。
【0085】
さらに、第3の磁気変速装置T3は、第1条件を満たしながら、増速比「1.6」の増速装置として機能する(図7(a)参照)。また、第3の磁気変速装置T3は、第1条件を満たさないものの、「1」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図7(b)参照)。
【0086】
変速装置として機能させる磁気変速装置を順次切り替えていくことにより、磁気変速装置の変速比を円滑に変化させることができる。磁気変速装置は、車両の変速装置として利用されうる。
【0087】
磁気変速装置が、電磁石に対する励磁状態の制御により第1条件を満足しうる一又は複数の「第1種の磁気変速装置」と、電磁石に対する励磁状態の制御により第2条件を満足しうる一又は複数の「第2種の磁気変速装置」とを備えていてもよい。たとえば、第1種及び第2種の磁気変速装置のそれぞれの第1部材1は、入力軸に連結されるとともに軸Q回りに一体的に回転可能に構成され、第1種及び第2種の磁気変速装置のそれぞれの第3部材3は、出力軸に連結されるとともに軸Q回りに一体的に回転可能に構成される。
【0088】
当該構成の磁気変速装置によれば、第1種及び第2種の磁気変速装置が使い分けられることにより、入力軸の回転方向を一定方向に維持しながら、出力軸の回転方向を反転させることができる。
【0089】
磁気変速装置の変速比として、第1条件が満たされている状態での変速比と、第1条件が満たされていない状態での変速比とが、制御装置により選択されてもよい。第1条件が満たされていない場合、第1条件が満たされている場合と比較して、入力トルクに対する出力トルクの波形は不規則的になる(図5(a)(b)参照)。このように出力トルクに不規則性をもたせることが、当該出力トルクを動力として作動する制御対象にとって適当である場合、第1条件が満たされないような変速比が選択される。
【0090】
第2実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、複数の磁気変速装置のうち1つを選択的に動力伝達装置として機能させることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0091】
(第3実施形態)
入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の内側磁極群、構成が異なる複数の磁性体群又は構成が異なる複数の外側磁極群を支持するように構成され、軸線Qに対して平行な方向に対して入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材が相対的に変位されるように構成されていてもよい。
【0092】
入力伝達部材から出力伝達部材に対して回転力を伝達するための内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターン、ひいては内側磁極対数N1、磁性体数N0及び外側磁極対数N2の組み合わせパターンが変更されうる。
【0093】
内側磁極群の数、磁性体群の数及び外側磁極群の数は相互に同一であってもよく、異なっていてもよい。磁気変速装置は、同時に1つの当該組み合わせパターンのみが成立するように、軸線Qに平行な方向について、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の配列が調整されている。同時に2つ以上の当該組み合わせパターンが成立する一方、クラッチを介して1つの組み合わせパターンに応じたトルクのみが出力軸に伝達されるように構成されていてもよい。
【0094】
たとえば、複合変速装置が、図11(a)に示されているように1個の内側磁石群G1と、3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)と、1個の外側磁石群G3とを備えていてもよい。3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)の構成、すなわちその構成要素である磁性体の数又は配置は相互に異なっている。
【0095】
内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群はアクチュエータにより軸線方向に相対的に動かされる。たとえば、磁性体群G2(1)〜G2(3)が固定される一方、内側磁石群G1と内側磁石群G1とが軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1と内側磁石群G1とは共通のアクチュエータにより駆動されてもよい。
【0096】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1−G2(1)−G3、G1−G2(2)−G3及びG1−G2(3)−G3の3つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0097】
また、複合変速装置が、図11(b)に示されているように2個の内側磁石群G1(1)〜G1(2)と、3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)と、3個の外側磁石群G3(1)〜G3(3)とを備えていてもよい。2個の内側磁石群G1(1)〜G1(2)の構成、すなわちその構成要素である内側磁石の数又は配置は相互に異なっている。3個の外側磁石群G3(1)〜G3(3)の構成、すなわちその構成要素である外側磁石の数又は配置は相互に異なっている。3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)の構成も相互に異なっている。
【0098】
たとえば、磁性体群G2(1)〜G2(3)及び外側磁石群G3(1)〜G3(3)が固定される一方、内側磁石群G1(1)〜G1(2)が軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1(1)〜G1(2)は相互に連結され、共通のアクチュエータによって一体的に動かされてもよく、別個のアクチュエータにより別個に動かされてもよい。
【0099】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1(1)−G2(1)−G3(1)、G1(1)−G2(2)−G3(2)、G1(1)−G2(3)−G3(3)、G1(2)−G2(1)−G3(1)、G1(2)−G2(2)−G3(2)及びG1(2)−G2(3)−G3(3)の6つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0100】
さらに、複合変速装置が、図11(c)に示されているように3個の内側磁石群G1(1)〜G1(3)と、1個の磁性体群G2と、2個の外側磁石群G3(1)〜G3(2)とを備えていてもよい。3個の内側磁石群G1(1)〜G1(3)の構成は相互に異なっている。2個の外側磁石群G3(1)〜G3(2)の構成も相互に異なっている。
【0101】
たとえば、外側磁石群G3(1)〜G3(2)が固定される一方、内側磁石群G1(1)〜G1(3)及び磁性体群G2が軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1(1)〜G1(3)は相互に連結され、共通のアクチュエータによって一体的に動かされてもよく、別個のアクチュエータにより別個に動かされてもよい。
【0102】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1(1)−G2−G3(1)、G1(1)−G2−G3(2)、G1(2)−G2−G3(1)、G1(2)−G2−G3(2)、G1(3)−G2−G3(1)及びG1(3)−G2−G3(2)の6つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0103】
第3実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態により磁界の形成態様に加えて、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせが変更されることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0104】
(応用例)
本発明の磁気変速装置がロボットに搭載され、電動モータから磁気変速装置を介して伝達される力によって、当該ロボットが駆動されてもよい。ロボットとしては、たとえば、人間の肩関節、肘関節、手根関節、股関節、膝関節、足関節等の複数の関節に相当する複数の関節機構において腕部や脚部を屈伸運動させうる構成のロボットが採用される(再表03/090978号公報及び再表03/090979号公報など参照)。
【0105】
一例として、当該構成のロボットに図12(a)〜(c)に時系列的に示されているように、前方から飛んでくるボールを片手で持っているラケットで前方に打ち返すというタスクを実行させる場合について考える(特開2010−005762号公報参照)。
【0106】
たとえば、第1条件又は第2条件が満たされている状態と、第1及び第2条件が満たされていない場合とが切り替えられることにより、ラケットを動かすために必要なトルクとして、前記のように磁気変速装置によって規則的な波形のトルク及び不規則的な波形のトルクが選択的に採用される(図5(a)(b)参照)。
【0107】
これにより、モータの動作は同じであっても、ボールの打ち返し方、さらには打ち返されたボールの軌道パターンに変化の幅を持たせることができる(図12(c)参照)。トルクの波形は、ボールの速度、ラケットによるボールの予測打点位置等の状況がセンサを通じて検知され、当該検知結果に応じて適応的に選択されてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1‥第1部材、2‥第2部材、3‥第3部材、10‥内側磁石、20‥磁性体、30‥外側磁石、Q‥軸線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周方向に配列された複数のN極及びS極を有するインナーリング及びアウターリングと、周方向に配列された複数の磁性体を有する中間リングとを備えているラジアル型の磁気変速装置が提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。当該変速装置は、当該3つのリングのうち1つのリングに動力が入力され、他の1つのリングから動力が出力されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3378710号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】k.Atallah and D.Howe, “A Novel High-Performance Magnetic Gear” IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.37, NO.4, JULY 2001, p2844-2846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、変速装置による動力の伝達態様が固定されている構成であるため、その応用範囲が限られてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、動力の伝達態様を変更可能な磁気変速装置を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同一の軸線の周囲において当該軸線を基準として内側から外側に順に配置されている内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群と、前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材であって、前記軸線回りに相対的に回転可能に構成されている入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材の組み合わせを構成する3つの部材とを備え、前記入力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力が、前記出力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている磁気変速装置に関する。
【0008】
本発明の磁気変速装置は、前記内側磁極群及び前記外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記内側磁極群における磁極配列パターンと前記外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御されるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の制御により、当該電磁石によるその周辺の磁界(磁力線)の形成態様が変更され、その結果として当該磁界由来の動力の伝達態様が変更されうる。電磁石の励磁状態には、当該電磁石により構成される磁極をN極にする状態及び当該磁極をS極にする状態のほか、無極状態(電磁石として機能させない状態)が含まれる。
【0010】
前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の前記内側磁極群、構成が異なる複数の前記磁性体群又は構成が異なる複数の前記外側磁極群を支持するように構成され、前記軸線の方向に対する前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材の相対変位により、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達するための前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群の組み合わせが変更可能に構成されていることが好ましい。
【0011】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態により磁界の形成態様に加えて、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせが変更されることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0012】
前記磁気変速装置を複数の磁気変速装置として備えている複合型の磁気変速装置において、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記入力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、かつ、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記出力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記複数の磁気変速装置のうち前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達可能な一の磁気変速装置が選択される又は切り替えられるように構成されていることが好ましい。
【0013】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、複数の磁気変速装置のうち1つを選択的に動力伝達装置として機能させることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0014】
前記内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1と、前記外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2との和と、前記磁性体の数N0とが等しいという第1条件、又は、前記内側磁極対数N1及び前記外側磁極対数N2の差の絶対値と前記磁性体の数N0とが等しいという第2条件が満たされている状態で、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力が伝達されるように、前記電磁石の励磁状態が制御されるように構成されていることが好ましい。
【0015】
当該構成の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、第1条件又は第2条件が満たされ、出力伝達部材に発生するコギングトルクの影響が軽減される状態と、第1条件及び第2条件が満たされておらず、出力伝達部材に発生するコギングトルクの影響が顕著になる状態とが切り替えられる。
【0016】
前記内側磁極群、前記外側磁極群及び前記磁性体群のそれぞれが前記軸線回りの回転対称性を有するように前記軸線の周囲に配置されることが好ましい。
【0017】
当該構成の磁気変速装置によれば、入力伝達部材の回転態様と出力伝達部材の回転態様との相関関係が安定に維持されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態としての磁気変速装置の構成説明図。
【図2】内側磁石及び外側磁石の配置態様に関する説明図。
【図3】磁極の配置態様に関する説明図。
【図4】第1実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図5】第1実施例の磁気変速装置の機能に関する説明図。
【図6】第2実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図7】第3実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図8】第4実施例の磁気変速装置における内側及び外側磁極の配列パターンに関する説明図。
【図9】第4実施例の磁気変速装置の変速装置能に関する説明図。
【図10】本発明の第2実施形態としての磁気変速装置に関する説明図。
【図11】本発明の第3実施形態としての磁気変速装置に関する説明図。
【図12】本発明の磁気変速装置の応用例に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
(構成)
本発明の第1実施形態としての磁気変速装置は、図1に示されているように、軸線Qの周囲に配列され、当該軸線Qを基準として内側から外側に順に配置されているM1個の内側磁石10により構成される「内側磁石群」と、M2個の磁性体20により構成される「磁性体群」と、M3個の外側磁石30により構成される「外側磁石群」とを備えている。軸線Qに対する遠近に応じて「外」及び「内」が区別されている。内側磁石群が「内側磁極群」を構成し、外側磁石群が「外側磁極群」を構成する。
【0020】
内側磁石10の数M1、磁性体20の数M2及び外側磁石30の数M3の組み合わせは任意に変更されうる。
【0021】
「内側磁石群」は軸線Q回りの回転対称性としてM1回対称性を有するように配置されている。すなわち、内側磁石群が軸線Q回りに(2π/M1)[rad]の整数倍だけ回転された又は位相がずらされた場合、当該回転前の内側磁石群と、当該回転後の内側磁石群とが完全に重なるように、M1個の内側磁石10が当該軸線Qの周囲に配列されている。
【0022】
複数の要素が軸線Q回りに回転対称性を有するように配置されていることは、当該軸線方向から見て当該複数の要素が軸線Qを中心として放射状に、周方向(軸線Q回りの回転方向)に一定間隔で配列される等、周方向に所定のパターンで配列されていることを意味するということもできる。
【0023】
「内側磁石群」の回転対称性と「内側磁極群」の回転対称性とは相違する。たとえば、M1が偶数であり、軸線Q回りの一方向についてN極とS極との対が連続するように配列されている(M1/2)個のN極および(M1/2)個のS極により内側磁極群が構成されている場合、内側磁極群は軸線Q回りの(M1/2)回対称性を有する。また、M1が4の倍数であり、軸線Q回りの一方向について配列態様が同じ合計4個のN極とS極との組が連続するように配列されている、(xM1/4)個のN極(x=1,2,3)および((4−x)M1/4)個のS極により内側磁極群が構成されている場合、内側磁極群は軸線Q回りの(M1/4)回対称性を有する。
【0024】
内側磁石群の回転対称性はm1回対称性(m1はM1の因数である。)であってもよい。内側磁石群又は内側磁極群は回転対称性を有していなくてもよい。各内側磁石10のN極及びS極のうち一方の極が「内側磁極」を構成する。内側磁石10の磁気分極方向は径方向外側(軸線Qに対して垂直な方向について軸線Qから遠ざかる方向)に向かっている。
【0025】
内側磁石10の全部が、電磁鋼板などの磁性部材よりなるコア11にコイル12が巻きつけられて構成されている電磁石により構成されている。各内側磁石10を構成するコイル12に対してスリップリングを通じて外部電源から電力が供給される。各コイル12の通電状態及びこれに応じた各内側磁石10の励磁状態が、コンピュータによって構成されている制御装置によって制御されることにより、内側磁極の配列パターンが調節される。
【0026】
内側磁石10を構成する電磁石の励磁状態が制御されることにより、「内側磁石群」が軸線Q回りの回転対称性を有していない場合でも、軸線Q回りの回転対称性を有するように「内側磁極群」が実現されうる。
【0027】
コア11の外側端部は略台形状であり、その下底部分が軸線Qを中心とする円弧を構成するように外側に膨らんだような形状とされている。図2(a)に示されているコア11のピッチ角度θp1、すなわち、隣接しあうコア11の外側端部の中心点を結ぶ円弧の中心角に対する、コア11の外側端部をなす円弧の中心角θa1の比率は0.5〜0.6の範囲内の数値に設定されている。
【0028】
「磁性体群」を構成するM2個の磁性体20は、軸線Qを基準として内側磁石群よりも外側で、軸線Q回りの回転対称性(M2回対称性)を有するように配列されている。すなわち、磁性体群が軸線Q回りに(2π/M2)[rad]の整数倍だけ回転された場合、当該回転前の磁性体群と、当該回転後の磁性体群とが完全に重なるように、M2個の磁性体20が配置されている。
【0029】
磁性体20の配列態様の回転対称性はm2回対称性(m2はM2の因数である。)であってもよい。磁性体20の配列態様は回転対称性を有していなくてもよい。磁性体20は電磁鋼板等の磁性材料を原料の一部又は全部として製造されている。
【0030】
「外側磁石群」は軸線Q回りの回転対称性としてM3回対称性を有するように配置されている。すなわち、外側磁石群が軸線Q回りに(2π/M3)[rad]の整数倍だけ回転された又は位相がずらされた場合、当該回転前の外側磁石群と、当該回転後の外側磁石群とが完全に重なるように、M3個の外側磁石30が当該軸線Qの周囲に配列されている。
【0031】
「外側磁石群」の回転対称性と「内側磁極群」の回転対称性とは相違する。たとえば、M3が偶数であり、軸線Q回りの一方向についてN極とS極との対が連続するように配列されている(M3/2)個のN極および(M3/2)個のS極により外側磁極群が構成されている場合、外側磁極群は軸線Q回りの(M3/2)回対称性を有する。また、M3が6の倍数であり、軸線Q回りの一方向について配列態様が同じ合計6個のN極とS極との組が連続するように配列されている、(yM1/6)個のN極(y=1,2,3,4,5)および((6−x)M1/6)個のS極により外側磁極群が構成されている場合、外側磁極群は軸線Q回りの(M3/6)回対称性を有する。
【0032】
外側磁石群の回転対称性はm3回対称性(m3はM3の因数である。)であってもよい。外側磁石群又は外側磁極群は回転対称性を有していなくてもよい。各外側磁石30のN極及びS極のうち一方の極が「外側磁極」を構成する。外側磁石30の磁気分極方向は径方向内側(軸線Qに対して垂直な方向について軸線Qに近づく方向)に向かっている。
【0033】
外側磁石30の全部が、電磁鋼板などの磁性部材よりなるコア31にコイル32が巻きつけられて構成されている電磁石により構成されている。各外側磁石30を構成するコイル32に対してスリップリングを通じて外部電源から電力が供給される。各コイル32の通電状態及びこれに応じた各外側磁石30の励磁状態が、コンピュータによって構成されている制御装置によって制御されることにより、外側磁極の配列パターンが調節される。
【0034】
外側磁石30を構成する電磁石の励磁状態が制御されることにより、「外側磁石群」が軸線Q回りの回転対称性を有していない場合でも、軸線Q回りの回転対称性を有するように「外側磁極群」が実現されうる。
【0035】
コア31の内側端部は略台形状であり、その下底部分が軸線Qを中心とする円弧を構成するように内側に窪んだような形状とされている。図2(b)に示されているコア31のピッチ角度θP2、すなわち、隣接しあうコア31の内側端部の中心点を結ぶ円弧の中心角に対する、コア31の内側端部をなす円弧の中心角θa2の比率は0.5〜0.6の範囲内の数値に設定されている。
【0036】
なお、内側磁石10及び外側磁石30のうち一部が電磁石ではなく永久磁石によって構成されていてもよい。
【0037】
磁気変速装置は、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材、すなわち、第1部材1、第2部材2及び第3部材3を備えている。当該3つの部材1、2及び3は、軸線Q回りに相対的に回転可能に構成されている「入力伝達部材(又は第1回転子)」、「固定部材(又は固定子)」及び「出力伝達部材(又は第2回転子)」の組み合わせを構成する。入力伝達部材の固定部材に対する相対的な回転力が、出力伝達部材の固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている。
【0038】
たとえば、第1部材1が入力伝達部材を構成し、第2部材2が固定部材を構成し、第3部材3が出力伝達部材を構成する。第1部材1が入力伝達部材を構成し、第2部材2が出力伝達部材を構成し、第3部材3が固定部材を構成してもよい。第1部材1が出力伝達部材を構成し、第2部材2が固定部材を構成し、第3部材3が入力伝達部材を構成してもよい。
【0039】
第1部材1、第2部材2及び第3部材3のそれぞれは、前記のような配置態様で内側磁石群、磁性体群及び外側磁石群のそれぞれを支持することを条件として、その形状は任意に変更されてもよい。
【0040】
たとえば、図1に示されているように環状の第1部材1の外側に内側磁石10が突出するように配置されている「突極型構造」のほか、環状の第1部材1の外周壁に設けられている凹部に内側磁石10が収納される等、第1部材1の内側に内側磁石10が配置されている「非突極型構造」が採用されてもよい。
【0041】
同様に、図1に示されているように環状の第3部材3の内側に突出するように外側磁石30が配置されている「突極型構造」のほか、環状の第3部材1の内周壁に設けられている凹部に外側磁石30が収納される等、第3部材3の内側に外側磁石30が配置されている「非突極型構造」が採用されてもよい。
【0042】
(機能)
各コイル12の通電状態の制御を通じて各内側磁石10の励磁状態が制御されることにより、内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1が調節される。同様に、各コイル32の通電状態の制御を通じて各外側磁石30の励磁状態が制御されることにより、外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2が調節される。
【0043】
磁極対について、磁極の配列パターンを模擬的に示す図3を用いて説明する。図3によれば、磁石が軸線Q回りの配列順で線分上に配列された点として表わされ、N極が点から上にのびる線分として表わされ、S極が点から下にのびる線分として表わされ、無極が「○」により表わされている。
【0044】
図3(a)に示されているようにN極とこれに隣接するS極との組、図3(b)に示されているように隣接する複数のN極からなるN極群とこれに隣接するS極との組、図3(c)に示されているように隣接する複数のS極からなるS極群とこれに隣接するN極、及び、図3(d)に示されているようにN極群とこれに隣接するS極群との組のそれぞれが「磁極対」に該当する。
【0045】
無極又は隣接する複数の無極により構成される無極群の両隣の2つの磁極は隣接しているとみなされる。このため、たとえば図3(e)に示されているように無極を挟むN極及びS極の組み合わせも磁極対に該当する。また、図3(f)に示されているように無極を挟むN極は同一のN極群を構成する。
【0046】
内側磁極および外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されることにより、内側磁極対数N1と外側磁極対数N2との和が、磁性体数N0に一致するという「第1条件」が満たされるように、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が構成されてもよい。第1条件は関係式(1)により表現される。
【0047】
N0=N1+N2 ‥(1)。
【0048】
第1条件が満たされている場合、第1部材1及び第2部材2のそれぞれの、第3部材3に対する相対角速度は「正」である。すなわち、たとえば第2部材2が固定部材に該当する場合、入力伝達部材としての第1部材1の回転方向と出力伝達部材としての第3部材3の回転方向とは逆になる。第1条件が満たされている状態と、第1条件が満たされていない状態とが選択的に切り替えられるように、内側磁極及び外側磁極の配列パターンが制御されてもよい。
【0049】
内側磁極および外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されることにより、内側磁極対数N1と外側磁極対数N2との差の絶対値が、磁性体数N0に一致するという「第2条件」が満たされるように、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群が構成されてもよい。第2条件は関係式(2)により表現される。
【0050】
N0=|N1−N2| ‥(2)。
【0051】
第2条件が満たされている場合、第1部材1及び第3部材3のそれぞれの、第2部材2に対する相対角速度は「正」である。すなわち、たとえば第2部材2が固定部材に該当する場合、入力伝達部材としての第1部材1の回転方向と、出力伝達部材としての第3部材3の回転方向とは同じになる。第2条件が満たされている状態と、第2条件が満たされていない状態とが選択的に切り替えられるように、内側磁極及び外側磁極の配列パターンが制御されてもよい。
【0052】
第1部材1が「入力伝達部材」として機能し、第3部材3が「出力伝達部材」として機能する場合、磁気変速装置は内側磁極対数N1に対する外側磁極対数N2の比「N2/N1」として表現される減速比の減速装置として機能する。これとは逆に第3部材3が「入力伝達部材」として機能し、第1部材1が「出力伝達部材」として機能する場合、磁気変速装置は内側磁極対数N1に対する外側磁極対数N2の比N2/N1として表現される増速比の増速装置として機能する。
【0053】
(第1実施例)
第1実施例として(M1,M2,M3)=(8,14,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図4(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0054】
たとえば、図4(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「4」であり、外側磁極対数N2が「10」である。また、磁性体数N0は「14」である。このため、関係式(1)により表現されている「第1条件」が満たされている。
【0055】
この状態で磁気変速装置は減速比「2.5」の減速装置として機能する。第1部材1のトルクは図5(a)に一点鎖線で示されているように第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(a)に二点鎖線で示されているように第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(a)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。
【0056】
図4(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件は満足されていない。
【0057】
この状態で、磁気変速装置は減速比「5」の減速装置として機能する。第1部材1のトルクは図5(b)に一点鎖線で示されているように第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(b)に二点鎖線で示されているように第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(b)から、第1部材1のトルク(入力トルク)も、第3部材3のトルク(出力トルク)も、図5(a)に示されている例と比較して波形が不規則的になっている(高調波成分が混ざっている)ことがわかる。
【0058】
本発明の第1実施例の変形例として、図示は省略するが、磁性体群は軸線Qの周囲に12回対称を有するように配列されている12個の磁性体20により構成され、その他の構成は変更がないものを考える。
【0059】
この変形例では、磁性体数N0は「12」である。このため、図4(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件は満足されている。この場合、磁気変速装置は減速比「5」の減速装置として機能する。
【0060】
この状態で、第1部材1のトルクは図5(c)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図5(c)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図5(c)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。また、第1条件が満たされていることから、図5(b)に示されている例と異なり比較して、第1部材1のトルク(入力トルク)も、第3部材3のトルク(出力トルク)も波形が規則的になっていることがわかる。
【0061】
なお、第1部材1が出力側の動力伝達部材とされ、第3部材3が入力側の動力伝達部材とされることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、減速装置ではなく増速装置として機能する。
【0062】
また、図4(a)の上下に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、増速比「2.5」の増速装置として機能する。さらに、図4(b)の上下に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第1実施形態の磁気変速装置は、増速比「5」の増速装置として機能する。
【0063】
図4(c)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「2」であり、外側磁極対数N2が「3」であるため、第1条件は満足されていない。この場合、磁気変速装置は減速比「1.5」の減速装置として機能する。
【0064】
(第2実施例)
第2実施例として(M1,M2,M3)=(16,18,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図6(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0065】
図6(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「8」であり、外側磁極対数N2が「10」である。また、磁性体数N0は「18」であるため、第1条件が満たされている。この場合、磁気変速装置は、減速比「1.25」の減速装置として機能する。
【0066】
図6(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「4」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、磁気変速装置は、減速比「2.5」の減速装置として機能する。
【0067】
(第3実施例)
第3実施例として(M1,M2,M3)=(32,26,20)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図7(a)及び(b)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0068】
図7(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「16」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第3実施形態の磁気変速装置は、増速比「1.6」の増速装置として機能する。
【0069】
図7(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「5」であり、外側磁極対数N2が「5」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、第3実施形態の磁気変速装置は、減速比「1」のカップリング装置として機能する。
【0070】
(第4実施例)
第3実施例として(M1,M2,M3)=(30,20,30)であり、全ての磁石が電磁石により構成されている磁気変速装置について考察する。図8(a)〜(c)には、図3と同様の形式で、上側に内側磁極の配列パターンが示され、下側に外側磁極の配列パターンが示されている。
【0071】
図8(a)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「5」であり、外側磁極対数N2が「15」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「3」の減速装置として機能する。
【0072】
この状態で、第1部材1のトルクは図9(a)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図9(a)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図9(a)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が低い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が強いことがわかる。
【0073】
図8(b)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「7」であり、外側磁極対数N2が「13」であるため、第1条件が満たされている。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「13/7≒1.85」の減速装置として機能する。
【0074】
図8(c)に示されているように内側磁極及び外側磁極のそれぞれの配列パターンが制御されている状態では、内側磁極対数N1が「10」であり、外側磁極対数N2が「10」であるため、第1条件も第2条件も満たされていない。この場合、第4実施形態の磁気変速装置は、減速比「1」の減速装置として機能する。
【0075】
また、図8(a)に示されている内側磁極の配列パターンと、外側磁極の配列パターンとが交換されることにより、第4実施形態の磁気変速装置は、増速比「3」の増速装置として機能する。
【0076】
この状態で、第1部材1のトルクは図9(b)に一点鎖線で示されているように、第1部材1の回転角度に伴って変化する一方、第3部材3のトルクは図9(b)に二点鎖線で示されているように、第3部材3の回転角度とともに変化することが確認された。図9(b)から、第1部材1の回転速度と比較して第3部材3の回転速度が速い一方、第1部材1のトルク(入力トルク)と比較して、第3部材3のトルク(出力トルク)が弱いことがわかる。
【0077】
第1実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の制御により、当該電磁石によるその周辺の磁界(磁力線)の形成態様が変更され、その結果として当該磁界由来の動力の伝達態様が変更されうる。
【0078】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としての磁気変速装置は、複数の磁気変速装置が組み合わせられた複合型の磁気変速装置として構成されている。複合型の磁気変速装置を構成する磁気変速装置のうち少なくとも一部として、第1実施形態又は後述する第3実施形態の磁気変速装置が採用される。
【0079】
一例として、図10に示されているように、3つの磁気変速装置T1〜T3が組み合わせられて構成されている変速装置について説明する。3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれは、前記の第1、第2及び第3実施例の磁気変速装置のそれぞれにより構成されている。
【0080】
3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれの第1部材1は、連結部材によって連結されている又は一体的に形成されている等、軸線Q回りに一体的に回転可能に構成されている。同様に、3つの磁気変速装置T1〜T3のそれぞれの第3部材3は、連結部材によって連結されている又は一体的に形成されている等、軸線Q回りに一体的に回転可能に構成されている。
【0081】
たとえば、3つの磁気変速装置T1〜T3のうち、選択された1つの磁気変速装置のみにおいて入力伝達部材の回転力が出力伝達部材の回転力として伝達されるように、各磁気変速装置を構成する内側磁石10及び外側磁石30の励磁状態が制御される。
【0082】
入力伝達部材の回転力が出力伝達部材の回転力として伝達される動力伝達装置として機能させる1つの磁気変速装置の選択処理と、当該選択に応じた各磁気変速装置を構成する内側磁石10及び外側磁石30の励磁状態の制御処理は、制御装置により実行される。
【0083】
前記のように第1の磁気変速装置T1は、第1条件を満たしながら、減速比「2.5」の減速装置として機能する(図4(a)参照)。第1の磁気変速装置T1は、第1条件を満たさないものの、「5」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図4(b)参照)。
【0084】
また、第2の磁気変速装置T2は、第1条件を満たしながら、減速比「1.25」の減速装置として機能する(図6(a)参照)。また、第2の磁気変速装置T2は、第1条件を満たさないものの、「2.5」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図6(b)参照)。
【0085】
さらに、第3の磁気変速装置T3は、第1条件を満たしながら、増速比「1.6」の増速装置として機能する(図7(a)参照)。また、第3の磁気変速装置T3は、第1条件を満たさないものの、「1」等のさまざまな減速比の減速装置又は増速装置として機能する(図7(b)参照)。
【0086】
変速装置として機能させる磁気変速装置を順次切り替えていくことにより、磁気変速装置の変速比を円滑に変化させることができる。磁気変速装置は、車両の変速装置として利用されうる。
【0087】
磁気変速装置が、電磁石に対する励磁状態の制御により第1条件を満足しうる一又は複数の「第1種の磁気変速装置」と、電磁石に対する励磁状態の制御により第2条件を満足しうる一又は複数の「第2種の磁気変速装置」とを備えていてもよい。たとえば、第1種及び第2種の磁気変速装置のそれぞれの第1部材1は、入力軸に連結されるとともに軸Q回りに一体的に回転可能に構成され、第1種及び第2種の磁気変速装置のそれぞれの第3部材3は、出力軸に連結されるとともに軸Q回りに一体的に回転可能に構成される。
【0088】
当該構成の磁気変速装置によれば、第1種及び第2種の磁気変速装置が使い分けられることにより、入力軸の回転方向を一定方向に維持しながら、出力軸の回転方向を反転させることができる。
【0089】
磁気変速装置の変速比として、第1条件が満たされている状態での変速比と、第1条件が満たされていない状態での変速比とが、制御装置により選択されてもよい。第1条件が満たされていない場合、第1条件が満たされている場合と比較して、入力トルクに対する出力トルクの波形は不規則的になる(図5(a)(b)参照)。このように出力トルクに不規則性をもたせることが、当該出力トルクを動力として作動する制御対象にとって適当である場合、第1条件が満たされないような変速比が選択される。
【0090】
第2実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態の変更によって、複数の磁気変速装置のうち1つを選択的に動力伝達装置として機能させることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0091】
(第3実施形態)
入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の内側磁極群、構成が異なる複数の磁性体群又は構成が異なる複数の外側磁極群を支持するように構成され、軸線Qに対して平行な方向に対して入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材が相対的に変位されるように構成されていてもよい。
【0092】
入力伝達部材から出力伝達部材に対して回転力を伝達するための内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターン、ひいては内側磁極対数N1、磁性体数N0及び外側磁極対数N2の組み合わせパターンが変更されうる。
【0093】
内側磁極群の数、磁性体群の数及び外側磁極群の数は相互に同一であってもよく、異なっていてもよい。磁気変速装置は、同時に1つの当該組み合わせパターンのみが成立するように、軸線Qに平行な方向について、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の配列が調整されている。同時に2つ以上の当該組み合わせパターンが成立する一方、クラッチを介して1つの組み合わせパターンに応じたトルクのみが出力軸に伝達されるように構成されていてもよい。
【0094】
たとえば、複合変速装置が、図11(a)に示されているように1個の内側磁石群G1と、3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)と、1個の外側磁石群G3とを備えていてもよい。3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)の構成、すなわちその構成要素である磁性体の数又は配置は相互に異なっている。
【0095】
内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群はアクチュエータにより軸線方向に相対的に動かされる。たとえば、磁性体群G2(1)〜G2(3)が固定される一方、内側磁石群G1と内側磁石群G1とが軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1と内側磁石群G1とは共通のアクチュエータにより駆動されてもよい。
【0096】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1−G2(1)−G3、G1−G2(2)−G3及びG1−G2(3)−G3の3つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0097】
また、複合変速装置が、図11(b)に示されているように2個の内側磁石群G1(1)〜G1(2)と、3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)と、3個の外側磁石群G3(1)〜G3(3)とを備えていてもよい。2個の内側磁石群G1(1)〜G1(2)の構成、すなわちその構成要素である内側磁石の数又は配置は相互に異なっている。3個の外側磁石群G3(1)〜G3(3)の構成、すなわちその構成要素である外側磁石の数又は配置は相互に異なっている。3個の磁性体群G2(1)〜G2(3)の構成も相互に異なっている。
【0098】
たとえば、磁性体群G2(1)〜G2(3)及び外側磁石群G3(1)〜G3(3)が固定される一方、内側磁石群G1(1)〜G1(2)が軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1(1)〜G1(2)は相互に連結され、共通のアクチュエータによって一体的に動かされてもよく、別個のアクチュエータにより別個に動かされてもよい。
【0099】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1(1)−G2(1)−G3(1)、G1(1)−G2(2)−G3(2)、G1(1)−G2(3)−G3(3)、G1(2)−G2(1)−G3(1)、G1(2)−G2(2)−G3(2)及びG1(2)−G2(3)−G3(3)の6つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0100】
さらに、複合変速装置が、図11(c)に示されているように3個の内側磁石群G1(1)〜G1(3)と、1個の磁性体群G2と、2個の外側磁石群G3(1)〜G3(2)とを備えていてもよい。3個の内側磁石群G1(1)〜G1(3)の構成は相互に異なっている。2個の外側磁石群G3(1)〜G3(2)の構成も相互に異なっている。
【0101】
たとえば、外側磁石群G3(1)〜G3(2)が固定される一方、内側磁石群G1(1)〜G1(3)及び磁性体群G2が軸線方向に動かされる(両矢印参照)。内側磁石群G1(1)〜G1(3)は相互に連結され、共通のアクチュエータによって一体的に動かされてもよく、別個のアクチュエータにより別個に動かされてもよい。
【0102】
これにより、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせパターンとして、G1(1)−G2−G3(1)、G1(1)−G2−G3(2)、G1(2)−G2−G3(1)、G1(2)−G2−G3(2)、G1(3)−G2−G3(1)及びG1(3)−G2−G3(2)の6つのパターンの中から1つが適応的に選択されうる。
【0103】
第3実施形態の磁気変速装置によれば、電磁石の励磁状態により磁界の形成態様に加えて、内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群の組み合わせが変更されることにより、入力伝達部材から出力伝達部材に対する回転力の伝達態様の変更の幅が拡張されうる。
【0104】
(応用例)
本発明の磁気変速装置がロボットに搭載され、電動モータから磁気変速装置を介して伝達される力によって、当該ロボットが駆動されてもよい。ロボットとしては、たとえば、人間の肩関節、肘関節、手根関節、股関節、膝関節、足関節等の複数の関節に相当する複数の関節機構において腕部や脚部を屈伸運動させうる構成のロボットが採用される(再表03/090978号公報及び再表03/090979号公報など参照)。
【0105】
一例として、当該構成のロボットに図12(a)〜(c)に時系列的に示されているように、前方から飛んでくるボールを片手で持っているラケットで前方に打ち返すというタスクを実行させる場合について考える(特開2010−005762号公報参照)。
【0106】
たとえば、第1条件又は第2条件が満たされている状態と、第1及び第2条件が満たされていない場合とが切り替えられることにより、ラケットを動かすために必要なトルクとして、前記のように磁気変速装置によって規則的な波形のトルク及び不規則的な波形のトルクが選択的に採用される(図5(a)(b)参照)。
【0107】
これにより、モータの動作は同じであっても、ボールの打ち返し方、さらには打ち返されたボールの軌道パターンに変化の幅を持たせることができる(図12(c)参照)。トルクの波形は、ボールの速度、ラケットによるボールの予測打点位置等の状況がセンサを通じて検知され、当該検知結果に応じて適応的に選択されてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1‥第1部材、2‥第2部材、3‥第3部材、10‥内側磁石、20‥磁性体、30‥外側磁石、Q‥軸線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の軸線の周囲において当該軸線を基準として内側から外側に順に配置されている内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群と、
前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材であって、前記軸線回りに相対的に回転可能に構成されている入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材の組み合わせを構成する3つの部材とを備え、
前記入力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力が、前記出力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている磁気変速装置であって、
前記内側磁極群及び前記外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記内側磁極群における磁極配列パターンと前記外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御されるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気変速装置において、
前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の前記内側磁極群、構成が異なる複数の前記磁性体群又は構成が異なる複数の前記外側磁極群を支持するように構成され、
前記軸線の方向に対する前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材の相対変位により、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達するための前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群の組み合わせが変更可能に構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気変速装置を複数の磁気変速装置として備えている複合型の磁気変速装置において、
前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記入力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、かつ、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記出力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、
前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記複数の磁気変速装置のうち前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達可能な一の磁気変速装置が選択される又は切り替えられるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の磁気変速装置において、
前記内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1と、前記外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2との和と、前記磁性体の数N0とが等しいという第1条件、又は、前記内側磁極対数N1及び前記外側磁極対数N2の差の絶対値と前記磁性体の数N0とが等しいという第2条件が満たされている状態で、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力が伝達されるように、前記電磁石の励磁状態が制御されるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の磁気変速装置において、
前記内側磁極群、前記外側磁極群及び前記磁性体群のそれぞれが前記軸線回りの回転対称性を有するように前記軸線の周囲に配置されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項1】
同一の軸線の周囲において当該軸線を基準として内側から外側に順に配置されている内側磁極群、磁性体群及び外側磁極群と、
前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群のそれぞれを支持する3つの部材であって、前記軸線回りに相対的に回転可能に構成されている入力伝達部材、固定部材及び出力伝達部材の組み合わせを構成する3つの部材とを備え、
前記入力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力が、前記出力伝達部材の前記固定部材に対する相対的な回転力として伝達されるように構成されている磁気変速装置であって、
前記内側磁極群及び前記外側磁極群のうち少なくとも一部の磁極が電磁石により構成され、前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記内側磁極群における磁極配列パターンと前記外側磁極群における磁極配列パターンとの組み合わせが制御されるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気変速装置において、
前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材のうち少なくとも1つの部材が、構成が異なる複数の前記内側磁極群、構成が異なる複数の前記磁性体群又は構成が異なる複数の前記外側磁極群を支持するように構成され、
前記軸線の方向に対する前記入力伝達部材、前記固定部材及び前記出力伝達部材の相対変位により、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達するための前記内側磁極群、前記磁性体群及び前記外側磁極群の組み合わせが変更可能に構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気変速装置を複数の磁気変速装置として備えている複合型の磁気変速装置において、
前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記入力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、かつ、前記複数の磁気変速装置のそれぞれを構成する前記出力伝達部材が一体的に形成され又は直接的若しくは間接的に連結され、
前記電磁石の励磁状態が制御されることにより、前記複数の磁気変速装置のうち前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力を伝達可能な一の磁気変速装置が選択される又は切り替えられるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の磁気変速装置において、
前記内側磁極群に含まれる磁極対の数である内側磁極対数N1と、前記外側磁極群に含まれる磁極対の数である外側磁極対数N2との和と、前記磁性体の数N0とが等しいという第1条件、又は、前記内側磁極対数N1及び前記外側磁極対数N2の差の絶対値と前記磁性体の数N0とが等しいという第2条件が満たされている状態で、前記入力伝達部材から前記出力伝達部材に対して回転力が伝達されるように、前記電磁石の励磁状態が制御されるように構成されていることを特徴とする磁気変速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の磁気変速装置において、
前記内側磁極群、前記外側磁極群及び前記磁性体群のそれぞれが前記軸線回りの回転対称性を有するように前記軸線の周囲に配置されていることを特徴とする磁気変速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−235554(P2012−235554A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100711(P2011−100711)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(510324908)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(510324908)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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