説明

磁気抵抗材料

【目的】 磁界感度が高く、僅かな磁界変化に対し鋭敏に電気抵抗が変化する磁気抵抗材料を提供する。
【構成】 その原子比組成が(Co1−xFeAg1−y(但し、0.3<x<0.8、0.2<y<0.36)により表される合金、又は(Co1−xFe(Ag1−zCu1−y(但し、0.3<x<0.8、0.2<y<0.36、z≦0.14)により表される合金により、磁気抵抗材料を構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、外部磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗材料に関し、所定の原子比組成のCoFeAg合金(又は、CoFeAgCu合金)により構成され、磁界感度(磁気抵抗変化率MRの磁界による微分値)が高く、僅かな磁界変化に対し電気抵抗が鋭敏に変化する磁気抵抗材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】外部磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗効果(MR効果:Magnetoresistive effect)を示す磁気抵抗材料は、磁気記録再生装置のヘッド及び磁界を検出するためのセンサ等に使用されている。従来、磁気抵抗材料としては、パーマロイ(NiFe合金)等の合金磁気抵抗材料が使用されている。また、析出型磁気抵抗材料として、Cu中にCoを析出させた析出型磁気抵抗材料、Ag中にCoを析出させた析出型磁気抵抗材料及びAg中にFeCo合金を析出させた磁気抵抗材料が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の磁気抵抗材料には、以下に示す問題点がある。即ち、パーマロイ等の合金磁気抵抗材料は、飽和磁化が比較的大きいため、センサ又はヘッドとして使用する場合に分解能を向上させるべく磁気抵抗部材の幅(線幅)を小さくすると、反磁界の影響が強くなり、感度が低下してしまう。つまり、図7(a),(b)に示すように、長手方向に磁気異方性を付与した磁気抵抗部材10に対しその長手方向に電流を流し、直角方向の外部磁界Hexを検出しようとすると、外部磁界Hexによる磁気材料部材10の磁化Mが反磁界Hd として作用して外部磁界Hexを相対的に弱め、結果的に感度が低下する。一方、析出型磁気抵抗材料の場合は、飽和磁化が小さく反磁界の影響を殆ど受けないため、磁気抵抗部材の線幅を狭くしても感度は殆ど低下しないものの、絶対的な磁界感度が低いため、実用に適していない。
【0004】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、磁界感度が高く、僅かな磁界変化に対し電気抵抗が鋭敏に変化する磁気抵抗材料を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る磁気抵抗材料は、その原子比組成が(Co1-xFexyAg1-y(但し、0.3<x<0.8、0.2<y<0.36)で表される合金からなることを特徴とする。
【0006】なお、母相であるAg中には、Cuがその固溶限(14原子%)まで固溶していてもよい。
【0007】
【作用】本願発明者等は、磁界感度(磁気抵抗変化率MRの磁界による微分値)が高い磁気抵抗材料を得るべく、種々実験研究を行った。その結果、Co、Fe及びAg(又は、Co、Fe、Ag及びCu)合金の原子比組成を所定の範囲とすることにより、磁界感度が高い磁気抵抗材料を得ることができるとの知見を得た。本願発明は、このような実験結果に基づいてなされたものである。
【0008】即ち、本発明に係る磁気抵抗材料は、下記化学式1に示される原子比組成の合金により構成されている。
【0009】
【化1】(Co1-xFexyAg1-y但し、0.3<x<0.80.2<y<0.36。
【0010】この化学式1におけるyの値が0.2以下(y≦0.2)の場合又は0.36以上(y≧0.36)の場合は、磁界感度(dMR/dH)が0.01(%/Oe)未満になる。また、xの値が0.3以下(x≦0.3)の場合又は0.8以上(x≧0.8)の場合も、磁界感度を0.01(%/Oe)以上とすることが困難である。MR効果を利用するセンサに使用するためには、磁気抵抗材料の磁界感度が0.01(%/Oe)以上であることが必要である。このため、前記化学式1におけるxの値は0.3<x<0.8とし、yの値は0.2<y<0.36)とすることが必要である。なお、xの値が0.4を超え0.6未満(0.4<x<0.6)であると共に、yの値が0.24乃至0.35(0.24≦y≦0.35)である(Co1-xFexyAg1-y合金は、磁気抵抗材料の磁界感度が約0.05(%/Oe)以上となり、微弱な磁界を検知する磁気ヘッドにも使用することができる。このため、xの値は0.4<x<0.6、yの値は0.24≦y≦0.35とすることがより一層好ましい。
【0011】また、母相であるAg中にCuがその固溶限(14原子%)まで固溶していても、磁界感度は殆ど変化しない。従って、下記化学式2に示す原子比組成の合金であっても、前記化学式1に示す原子比組成の合金と同様の磁界感度を得ることができる。
【0012】
【化2】
(Co1-xFexy(Ag1-zCuz1-y …(2)
但し、0.3<x<0.80.2<y<0.36z≦0.14。
【0013】
【実施例】次に、本発明の実施例について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して説明する。
【0014】平行平板電極型高周波スパッタリング装置を使用し、Ag又はAgCu合金ターゲット上にFeCo合金を載置した複合ターゲットを用いて、ガラス基板上に、幅が1mm、長さが20mm、厚さが1000Åの磁気抵抗膜を形成した。このとき、ターゲット及びFeCo合金の組成を種々変化させて、磁気抵抗膜の原子比組成が相互に異なる複数の試料を形成した。なお、成膜条件は、雰囲気ガスがArガス、圧力が0.4Pa、装置出力が300W、成膜時間が5分間である。また、成膜時のマスクとしては、ステンレス(SUS)製メタルマスクを用いた。
【0015】次に、これらの試料を、Arガス(流量:2リットル/分)中で25℃/分の昇温速度で昇温し、270℃の温度で1時間保持した後、炉中で室温まで冷却した。
【0016】これらの試料の磁界感度を、図3に示す4端子法にて測定した。即ち、電流源Aの電極間距離を19mm、電圧測定器Vの電極間距離を11mmとし、電流密度が100A/mm2 の電流をガラス基板1上の磁気抵抗膜2に流し、外部磁界Hexを−5kOe〜5kOeの範囲で変化させた。外部磁界Hexの変化速度は約5kOe/分とした。このときの外部磁界Hexの変化に対する電圧変化を電圧測定器Vで測定し、磁界の変化に対する抵抗の変化率に換算した。なお、磁界は、測定電流に直角であり、且つ、試料の表面に平行な方向に印加した。また、外部磁界Hexの強度はガウスメータで測定した。
【0017】磁気抵抗膜の原子比組成と磁界感度との関係を下記表1,2及び図1,2に示す。但し、表1及び図1は(Co1-xFexyAg1-y合金により構成された磁気抵抗膜の原子比組成と磁界感度との関係を示し、表2及び図2は(Co0.5Fe0.5y(Ag1-zCuz1-y合金により構成された磁気抵抗膜の原子比組成と磁界感度との関係を示す。また、表1,2中の数値(磁界感度)の単位は、%/Oeである。
【0018】
【表1】


【0019】
【表2】


【0020】表1及び図1から明らかなように、(Co1-xFexyAg1-y合金の場合、xの値を0.3<x<0.8とし、且つ、yの値を0.2<y<0.36とすることにより、磁界感度を確実に0.010(%/Oe)以上とすることができる。また、表2及び図2から明らかなように、母相であるAgの14原子%までをCuに置換しても、磁界感度は殆ど変化せず、良好な磁界感度を示す。
【0021】次に、磁気抵抗膜成膜後の熱処理温度と磁界感度との関係を調べた結果について説明する。上述の方法と同様にしてガラス基板上に磁気抵抗膜を形成し、120乃至360℃の温度で熱処理をした。但し、磁気抵抗膜は(Co0.5Fe0.5yAg1-y(yは、0.24、0.28、0.32又は0.35)合金により形成されたものである。そして、これらの試料に対し、図3に示す方法により磁界感度を調べた。その結果を、表3及び図5に示す。なお、表3中の数値(磁界感度)の単位は、%/Oeである。
【0022】
【表3】


【0023】この表3及び図5から明らかなように、組成により最適な温度範囲が若干異なるものの、本発明に係る磁気抵抗材料は、120乃至330℃の温度で熱処理を施すことにより、熱処理しない場合に比して磁界感度が向上する。
【0024】次に、本発明に係る磁気抵抗材料をMR素子として磁気ヘッドに組み込む場合の構造例について説明する。図4(a),(b)は、夫々磁気ヘッドのギャップ内にMR素子を配置したインギャップタイプ(in gap type)及びギャップの外に両側をシールしたMR素子を配置したピギーバックタイプ(piggy back type)の磁気ヘッドを示す模式的断面図である。この種の磁気ヘッドは、絶縁層13に埋め込まれたコイル14を下コア11a又は11b及び上コア12で挟んで構成されており、インギャップタイプの場合は、下コア11aの先端(リーディングポール)と上コア12の先端(トレーリングポール)との間にピギーバックタイプの場合は、下コア(シールド)11bとシールド16との間にMR素子15が配置されている。
【0025】この磁気ヘッド用のMR素子として、パーマロイ(Ni0.81Fe0.19)により形成されたもの及び(Co0.5Fe0.50.28Ag0.72により形成されたものを用意し、MR素子の線幅を変化させて、図3の方法により磁界感度を調べた。その結果を、下記表4及び図6に示す。なお、表4中の数値(磁界感度)の単位は、%/Oeである。
【0026】
【表4】


【0027】この表4及び図6から、素子線幅10μm以下の場合は、従来の磁気抵抗材料であるパーマロイよりも、本発明に係る磁気抵抗材料の方が磁界感度が高くなることがわかる。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係る磁気抵抗材料は、Co、Fe及びAg(又は、Cu、Fe、Ag及びCu)の原子組成比が所定の範囲の合金により構成されているから、磁界感度が高く、僅かな磁界変化に対し電気抵抗が鋭敏に変化する。このため、本発明に係る磁気抵抗材料は、磁気記録再生装置のヘッド及び磁界検出用センサ等に使用されるMR素子の材料として極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (Co1-xFexyAg1-y合金の原子比組成と磁界感度との関係を示すグラフ図である。
【図2】 (Co0.5Fe0.5y(Ag1-zCuz1-y合金の原子比組成と磁界感度との関係を示すグラフ図である。
【図3】 磁界感度の測定方法を示す模式図である。
【図4】 (a),(b)は、夫々インギャップタイプ及びピギーバックタイプの磁気ヘッドを示す模式的断面図である。
【図5】 (Co0.5Fe0.5yAg1-y合金の熱処理温度と磁界感度との関係を示すグラフ図である。
【図6】 MR素子の線幅と磁界感度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1…ガラス基板、2…磁気抵抗膜、10…磁気抵抗部材、11a、11b…下コア、12…上コア、13…絶縁層、14…コイル、15…MR素子、16…シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 その原子比組成が下記(1)式で表される合金からなることを特徴とする磁気抵抗材料。
(Co1-xFexyAg1-y …(1)
但し、0.3<x<0.80.2<y<0.36
【請求項2】 その原子比組成が下記(2)式で表される合金からなることを特徴とする磁気抵抗材料。
(Co1-xFexy(Ag1-zCuz1-y …(2)
但し、0.3<x<0.80.2<y<0.36z≦0.14

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平7−254510
【公開日】平成7年(1995)10月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−216340
【出願日】平成5年(1993)8月31日
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)