説明

磁気浮上式車両の車輪装置

【目的】 構造が簡易で小スペースで動作可能な磁気浮上式車両の車輪装置を提供する。
【構成】 車輪40をトレーリングアーム43を介して車体50に揺動自由に支持し、トレーリングアーム43と車体50との間に伸縮シリンダ45と圧縮ガスを封入したクッションユニット16とを直列に介装する。伸縮シリンダ45の内部に所定の伸長位置と収縮位置とにおいてピストンの軸方向変位をロックする機構13,14と、これらのロックを解除する機構2A,2Bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気浮上式の鉄道車両に備える走行用車輪装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】誘導反発式の磁気浮上式車両は低速時や停止時に車体を支持案内するためにタイヤのついた車輪を備えている。図4(a)に示す車輪40はその一例で、ここでは車軸40Aが車体に取り付けた台車41にトレーリングアーム43を介して上下方向に揺動自由に支持されている。
【0003】トレーリングアーム43はクッションユニット46に支持される。クッションユニット46はリンク49を介して台車41に連結され、リンク49とクッションユニット46を結合するヒンジ48と台車41との間に伸縮シリンダ47が介装される。クッションユニット46は内部にガスを封入した油圧式のダンパで構成され、ガス圧により常時伸長方向に付勢される。
【0004】車輪40は浮上走行時には図4(b)に示すように油圧シリンダ47を伸長駆動することで走行路面51から格納位置に引き上げられ、走行速度が一定以下に落ちると図4(a)に示すように油圧シリンダ47の伸長により格納位置から降下して走行路面51に接地し、車輪走行を行う。
【0005】
【発明の課題】この車輪装置の場合には、部品の数が多く、動作のために大きな専用スペースを必要とする上に、結節点が多いので摩擦抵抗や振動が大きいという問題があった。
【0006】本発明は、以上の問題点を解決すべくなされたもので、構造が簡易で小スペースで動作可能な磁気浮上式車両の車輪装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を達成するための手段】本発明は、車輪をトレーリングアームを介して車体に揺動自由に支持し、トレーリングアームと車体との間に伸縮シリンダと圧縮ガスを封入したクッションユニットとを直列に介装するとともに、前記伸縮シリンダの内部に所定の伸長位置と収縮位置とにおいてピストンの軸方向変位をロックする機構と、これらのロックを解除する機構とを備えている。
【0008】
【作用】伸縮シリンダの伸長位置と収縮位置においてピストンの軸方向変位をロックすることにより、クッションユニットを介して伸縮シリンダに結合するトレーリングアームが所定の上昇位置と下降位置とに車輪を支持する。また、ロックを解除して伸縮シリンダを伸縮させることにより、トレーリングアームが回動し、車輪を上昇位置と下降位置の間で昇降させる。
【0009】また、車輪走行時にはトレーリングアームと伸縮シリンダの間に介装したクッションユニットが車輪の振動や衝撃を吸収する。
【0010】
【実施例】図1〜図3に本発明の実施例を示す。
【0011】図1と2において、40は磁気浮上式車両の車輪であり、トレーリングアーム43の先端に回転自由に支持される。トレーリングアーム43の基端は車体50に揺動自由に結合する。
【0012】そして、トレーリングアーム43の先端のヒンジ52と車体51を複合シリンダ44が連結する。
【0013】複合シリンダ44は図3に示すように伸縮シリンダ45とクッションユニット16とを直列に結合したもで、伸縮シリンダ45はシリンダチューブ1と、その内側に摺動自由に収装したピストン2と、ピストン2に結合してシリンダチューブ1から突出するピストンロッド3を備える。
【0014】シリンダチューブ1の内側はピストン2によりピストンロッド3側の油室4と反対側の油室5に画成される。
【0015】油室4はシリンダチューブ1に形成されたポート11に連通し、油室5はシリンダチューブ1の基端を密閉するエンドキャップ25に形成されたポート12に連通する。これらのポート11と12は図示されない油圧ポンプとタンクとに選択的に接続される。
【0016】ピストン2はピストンロッド3と一体に形成されたピストン本体部2Cと、その内側に軸方向に摺動自由に収装されたサブピストン2Aと2Bを備える。
【0017】ピストン本体部2Cは油室5に向けて開口した円筒状に形成され、外周部をシリンダチューブ1の内周部に摺接する。
【0018】サブピストン2Aは先端を油室5に向けて開口した状態でピストン本体部2Cの内周部に嵌合し、同様に先端を開口したサブピストン2Bがサブピストン2Aの内側に先端を摺動自由に嵌合する。サブピストン2Bの基端は先端より大径に形成され、ピストン本体部2Cの内周に摺接する。
【0019】サブピストン2Aと2Bはこれらの内側に構成される油室8に配設されたスプリング6により互いに離間方向へ付勢される。
【0020】サブピストン2Aの底部にはオリフィス7が形成され、油室8はこのオリフィス7とピストン本体部2Cの基端に形成された通孔26を介して油室4に常時連通する。
【0021】また、サブピストン2Bの基端のピストン本体部2Cとの摺接部を縦貫して通孔9が形成される。この摺接部とサプピストン2Bの外周とサブピストン2Aの先端とピストン本体部2Cの内周部に囲まれた環状断面の油室10はこの通孔9を介して油室5に常時連通する。
【0022】ピストン本体部2Cの先端と基端にはそれぞれ壁面を貫通する孔部が設けられ、これらの孔部の内側にロックセグメント13と14がピストン2の中心軸に対して直角方向にそれぞれ摺動自由に嵌合する。
【0023】ロックセグメント13と14の横断方向の寸法はいずれもピストン本体部2Cの壁厚よりも長く、したがってこれらのロックセグメント13と14の一端はピストン本体部2Cの内側あるいは外側に必ず突出する。
【0024】先端側のロックセグメント13にはピストン2の伸長方向に向けて外向きに傾斜したテーパ面が形成される。また、基端側のロックセグメント14にはピストン2の収縮方向に向けて外向きに傾斜したテーパ面が形成される。
【0025】一方、サブピストン2Aの基端にはピストン本体部2Cの内側においてロックセグメント14に当接するテーパ面がピストン2の伸長方向に向けて形成される。また、サブピストン2Bの基端にはピストン本体部2Cの内側においてロックセグメント13に当接するテーパ面がピストン2の収縮方向に向けて形成される。
【0026】シリンダチューブ1の基端の内周面にはロックセグメント13を受け入れるロック溝30が形成される。また、シリンダチューブ1の先端には同様にロックセグメント14を受け入れるロック溝31が形成される。
【0027】ピストンロッド3はシリンダチューブ1の先端に設けたベアリング15を介して摺動自由にシリンダチューブ1から突出する。そして、ピストンロッド3のこの突出部にクッションユニット16が取り付けられる。
【0028】クッションユニット16はピストンロッド3の端部に結合する有底の筒状のピストンラム17と、ピストンラム17の外周にガイド19を介して摺動自由に嵌合するラムシリンダ18からなる。ラムシリンダ18の内側にはピストンラム17の先端に取り付けたキャップ20により、ピストンラム17の内側のチャンバ21と、外側のチャンバ22が画成される。これらのチャンバ21と22はキャップ20に形成されたオリフィス23により連通する。
【0029】ラムシリンダ18の基端にはトレーリングアーム43にヒンジ52を介して結合するためのアイ24が形成される。
【0030】チャンバ21と22には圧縮ガスが封入され、ピストンラム17がラムシリンダ18に侵入すると、チャンバ21が収縮し、チャンバ21内の圧縮ガスの一部がオリフィス23を通ってチャンバ22に流入する。
【0031】この構成により、クッションユニット16は圧縮ガスのガスばね機能に加えて、オリフィス23による振動減衰機能を備える。
【0032】次に作用を説明する。
【0033】図3において伸縮シリンダ45は収縮位置にあり、ロックセグメント13がロック溝30に侵入している。
【0034】この収縮位置においてはトレーリングアームは図1の鎖線に示すように、先端を上方へ回動し、車輪40を上昇位置に保持する。
【0035】この状態で、伸縮シリンダ45には車輪やトレーリングアームの自重による伸長荷重が作用する。しかしながら、ロックセグメント13がロック溝30に侵入しており、ロックセグメント13の中心方向への変位はサブピストン2Bにより規制されているため、ピストン2の伸長方向への変位はロックされ、車輪40は引き上げ位置に保持される。浮上走行中、車輪40はこのようにして引き上げ位置に格納される。
【0036】車輪走行を行う場合には、伸縮シリンダ45のポート12を油圧ポンプに、ポート11をタンクに接続する。
【0037】すると、ポート12を介して油室5に作用する油圧により、まずサブピストン2Bが図3の下方へと摺動する。一方、サブピストン2Aはロックセグメント14により下方への変位を規制されているので、結果としてスプリング6に抗して油室8が収縮し、サブピストン2Bがサブピストン2Aに侵入する。収縮する油室8の作動油はオリフィス7と通孔26及び油室4を介してポート11から流出する。
【0038】この結果、サブピストン2Bの基部がロックピストン13より下方に移動すると、ロックピストン13は中心方向への変位が可能となり、ロックピストン13は伸長方向の力の作用に対してテーパ面を滑らせながら中心方向へと変位する。この変位により、ピストン本体部2Cの伸長変位に対するロックが解除され、以後は油室5への作動油の供給に応じてピストン2全体が伸長方向に変位し、ピストンロッド3を伸長させる。これにより、トレーリングアーム43が先端を下向きに回動し、車輪40を走行路面51へと降下させる。
【0039】ピストン2の伸長方向の変位はロックセグメント14がロック溝31に侵入することにより停止する。ピストン2の伸長変位中、サブピストン2Aにはスプリング6による荷重が図の下向きに作用し、ロックセグメント14はサブピストン2Aの基端に形成したテーパ面により常に外向きに付勢されている。
【0040】したがって、ロックセグメント14がロック溝31の正面に到達すると、ロックセグメント14は外側へと変位してロック溝31に侵入する。これに伴い、スプリング6に付勢されたサブピストン2Aが図の下向きに変位し、テーパ面の上方の径の大きな外周部分によりロックセグメント14を外側に押し出した状態で支持する。これにより、伸縮シリンダ45は伸長位置にロックされ、車輪40は図1と2の実線に示すように接地位置に支持される。
【0041】これにより、車輪走行が行われる。走行中の車輪40の振動や衝撃はクッションユニット16に封入された圧縮ガスによるガスばね機能と、クッションユニット16に内蔵したオリフィス7がもたらす減衰作用により吸収される。
【0042】車輪走行から浮上走行に移行する場合は、ポート11に作動油を供給し、ポート12をタンクに接続する。
【0043】ポート11を介して油室4に作用する油圧は、通孔26とオリフィス7を介してサブピストン2Aの両側に作用する。サブピストン2Aは受圧面積差により図の上向きに付勢され、スプリング6に抗して油室8を収縮させつつ、上方へ摺動する。これにより、ロックセグメント14のロックが解除され、ロックセグメント14は中心方向に変位する。この結果、ピストン本体部2Cの収縮方向の変位が可能になり、油室4への作動油の供給に応じてピストン2全体が図の上方へと摺動してピストンロッド3を収縮させ、クッションユニット16に支持された車輪40を引き上げる。
【0044】この間、ロックセグメント13はサブピストン2Bの基端のテーパ面を介して外向きに付勢されているので、ピストンロッド3が図の位置まで収縮すると、ロックセグメント13は再びロック溝30に侵入する。さらに、サブピストン2Aが油室8の圧力とスプリング6の反発力によりピストン本体部2Cの内側を上向きに摺動し、図に示すようにロックセグメント13の中心方向への変位をロックする。これにより、車輪40は引き上げ位置に保持される。
【0045】このようにして、ピストン2は収縮位置と伸長位置とに自動的に位置決めされ、その上でロックされるとともに、収縮位置では伸長方向に、伸長位置では収縮方向にそれぞれ油圧を供給するのみでこのロックが解除される。つまり、ロック操作とロック解除操作を一切必要とせずに、ロックとロック解除が容易かつ確実に行える。また、シリンダチューブ1の外側にロック用の部材やロック解除用の部材が露出しないので、走行中にこれらの部材が損傷する恐れもない。
【0046】
【発明の効果】以上のように本発明は、車輪を支持するトレーリングアームと車体との間に伸縮シリンダと圧縮ガスを封入したクッションユニットとを直列に介装し、所定の伸長位置と収縮位置とにおいてピストンの軸方向変位をロックする機構と、これらのロックを解除する機構とを伸縮シリンダの内部に備えたので、簡易な構造で車輪を所定の上昇位置と下降位置とに支持することができる。
【0047】また、ロック機構とロック解除機構とが外部に露出しないので、走行中にこれらが損傷する恐れがなく、保守点検も容易になる。
【0048】さらに、主要な部材があらかじめクッションユニットを結合した伸縮シリンダとトレーリングアームのみであるために、取り付けスペースを節約でき、取り付け作業が大幅に簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す磁気浮上式鉄道車両の車輪装置の側面図である。
【図2】同じく正面図である。
【図3】伸縮シリンダとクッションユニットの縦断面図である。
【図4】従来例を示す磁気浮上式車両の車輪装置の側面図で(a)は車輪走行時、(b)は浮上走行時を示している。
【符号の説明】
2A,2B サブピストン
13,14 ロックセグメント
16 クッションユニット
40 車輪
43 トレーリングアーム
45 伸縮シリンダ
50 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車輪をトレーリングアームを介して車体に揺動自由に支持し、トレーリングアームと車体との間に伸縮シリンダと圧縮ガスを封入したクッションユニットとを直列に介装するとともに、前記伸縮シリンダの内部に所定の伸長位置と収縮位置とにおいてピストンの軸方向変位をロックする機構と、これらのロックを解除する機構とを備えたことを特徴とする磁気浮上式車両の車輪装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開平6−316261
【公開日】平成6年(1994)11月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−105647
【出願日】平成5年(1993)5月6日
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)