磁気浮上装置
【課題】ゼロパワー制御の調整作業を簡素化すると共に、ゼロパワー制御の停止に伴う励磁電流の増加を抑制する。
【解決手段】ゼロパワー制御ループL2中に切換え器157を設け、ガイド113への接触をギャップ長範囲検出器135で事前に検出して電流積分器159の入力をゼロにすると共に、その時点でのギャップ長の偏差を記憶器137に記憶する。そして、切換え器167を介してギャップ長偏差積分器169を動作させ、記憶器137の出力に基づいてギャップ長一定制御を開始する。また、状態観測器149によって外力を推定し、その推定値が所定の範囲内に収まったときに記憶器137をリセットする。
【解決手段】ゼロパワー制御ループL2中に切換え器157を設け、ガイド113への接触をギャップ長範囲検出器135で事前に検出して電流積分器159の入力をゼロにすると共に、その時点でのギャップ長の偏差を記憶器137に記憶する。そして、切換え器167を介してギャップ長偏差積分器169を動作させ、記憶器137の出力に基づいてギャップ長一定制御を開始する。また、状態観測器149によって外力を推定し、その推定値が所定の範囲内に収まったときに記憶器137をリセットする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常電導吸引式磁気浮上装置に係り、特に電磁石の励磁電流をゼロに収束させながら対象物を非接触に支持する磁気浮上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引式磁気浮上は、鉄製のガイドレールに対する電磁石の吸引力によって対象物を非接触で支持する技術である。非接触状態の保持は、一般に対象物(浮上体)の浮上ギャップ長や電磁石コイルの電流を検出して、電磁石コイルの吸引力(励磁電流)を制御することによって行う。
【0003】
これに対して、磁石ユニットを永久磁石と電磁石で構成する方式が開発された。この方式は、永久磁石の主磁束と電磁石の主磁束によって形成される磁気回路がガイドレールと磁石ユニット間の空隙で共通の磁路を形成するように磁石ユニットとガイドレールを配置して、浮上状態の安定性を維持しながら電磁石の励磁電流をゼロに収束させる所謂「ゼロパワー制御」により実現される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このゼロパワー制御では、浮上体に加えられる外力が一定のとき、電磁石の励磁電流はゼロに収束しており、外力が変動したときのみ電流が流れることになる。このため、安定状態では、電力をほとんど消費することなく、浮上体を非接触で支持することができる。
【0005】
なお、常温で扱えるので、本方式を用いた磁気浮上装置のことを「常電導吸引式磁気浮上装置」と呼んでいる。
【0006】
このような磁気浮上装置は、ガイドレールと磁石ユニット間の空隙長が大きい場合でも、わずかな励磁電流で大きな電磁力を制御できるといった利点もあり、例えばエレベータの乗りかごなどに適用される(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ここで、ゼロパワー制御には、上述の特許文献1などに見られるように各種の制御方法がある。なかでも、制御系全体のパラメータ変動に対して確実に電磁石の励磁電流をゼロに収束できるという点で、電磁石の励磁電流を積分器を介して制御系にフィードバックする手法を用いる場合が多い。
【0008】
ゼロパワー制御では、浮上体に外力が加わると、励磁電流がゼロに収束するのに伴って永久磁石の吸引力が外力とバランスするような状態が維持される。このため、例えば、強磁性のガイドと浮上体の磁石ユニット間のギャップ長を広げる方向の外力に対しては浮上ギャップ長が減少して安定状態が維持される。
【0009】
このゼロパワー制御独特の応答のため、過大な外力によって磁石ユニットとガイドが接触すると、ガイドからの反力がギャップ長を広げる方向に作用し、ますますギャップ長が減少するように制御が働き、ついには磁石ユニットがガイドに吸着してしまう。磁石ユニットがガイドに吸着した後も、ガイドからの反力によりギャップ長を減少させるように電磁石励磁電流が制御されるため、外力を取り除いても、浮上体を再び非接触支持することは不可能となる。
【0010】
こうした現象は、フィードバック制御系に組み込まれた電流積分器がいつまでも動作していることに起因している。そこで、通常は、電流積分器にリミッタが設けられる(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
すなわち、電流積分器の入力側に電流信号入力とゼロ入力を切り換えるための切換え器を設け、電流積分器の出力値がリミッタの上限を超える場合に、電流積分器に入力される電流信号が負になる場合にのみ電流信号入力を選択し、それ以外ではゼロ入力を選択する。これにより、過大な外力が印加されたときの電流積分器の出力増加を制限して、磁石ユニットのガイドヘの吸着を防止することができる。
【0012】
なお、吸着防止には、磁石ユニットがガイドに吸着した状態をギャップセンサで検出し、そのときに電流積分器の演算結果をゼロにリセットすることも可能である。しかし、このリセット手法では、電流積分器をリセットしたときに電磁石励磁電圧が急変するので、浮上体に大きな揺れが発生してしまう問題がある。これに対し、リミッタを用いる手法は、積分フィードバック制御におけるアンチワインドアップと呼ばれ、浮上体に揺れを生じさせることなく吸着を防止できるといった利点がある。
【0013】
この他、浮上体がガイドに吸着したことをギャップセンサで検知し、電流積分器の演算を初期値ゼロからやり直す手法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法は、電流積分器がリセットされたときに、電磁石励磁電圧が急変し、浮上体に大きな揺れが生じるが、簡便に吸着状態を回避できるといった利点がある。
【0014】
さらに、浮上体の揺れを抑制するため、状態観測器を用いて外力を推定し、その推定した外力を電磁石励磁電圧にフィードバックする手法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。この手法は、前記特許文献2の手法に比べて、浮上体の揺れは大きいが、浮上体への負荷重量の搭載など、他の機械的要因で生じる浮上体の揺れを抑制できるといった利点がある。
【0015】
浮上体の揺れを考慮すると、吸着防止には、前記特許文献2の手法が好ましい。しかし、浮上体を安定化するためのフィードバックゲインに電流積分器の出力が依存するため、浮上状態のチューニングのために制御ゲインを変更すると、リミッタの上下限値を再設定しなければならず、その調整作業に多大な時間を要する。また、こうした調整時間の増大はコストアップにつながる。
【0016】
また、電流積分器にゼロ信号が入力されて、ゼロパワー制御が停止すると、外力の増加と共に浮上ギャップ長が増大し、結果として励磁電流が増加する。励磁電流の増加は電力消費量の増加を招き、電気系の容量アップや発熱量の増加を引き起こすため、装置の信頼性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−102105号公報
【特許文献2】特開平2001−19286号公報
【特許文献3】特開昭62−7304号公報
【特許文献4】特開昭62−7303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、従来の磁気浮上装置にあっては、ゼロパワー制御の作動・停止を電流積分器の出力の大きさで決定していた。このため、制御パラメータを変更すると、電流積分器を再設定しなければならず、浮上状態の調整に多大な時間を要するという問題があった。しかも、こうした問題は調整費を増大させ、装置のコストアップを招いていた。
【0019】
また、ゼロパワー制御が停止すると、外力の印加に伴って電磁石の励磁電流が増大するため、装置の大型化や、発熱による装置の信頼性低下といった問題もあった。
【0020】
本発明は、かかる事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、ゼロパワー制御の調整作業を簡素化すると共に、ゼロパワー制御の停止に伴う励磁電流の増加を抑制して、コストの低減と信頼性の向上を図ることのできる磁気浮上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る磁気浮上装置は、強磁性体のガイドと、このガイドに空隙を介して対向し、当該空隙中において磁路を共有する電磁石と永久磁石で構成される磁石ユニットと、前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力によって非接触で支持される浮上体と、前記電磁石の励磁電流を検出する電流センサと前記浮上体の浮上時における前記磁石ユニットと前記ガイドとの間のギャップ長を検出するギャップセンサとからなるセンサ部と、前記ギャップセンサの出力が予め設定された範囲内にあるか否かを検出するギャップ長範囲検出手段と、このギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、その時点でのギャップ長と基準値との偏差を示すギャップ長偏差を記憶する記憶手段と、前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して、前記浮上体の運動を前記ガイドに対して非接触状態で安定化させる支持制御手段と、この支持制御手段によって前記浮上体が前記ガイドに対して非接触状態で支持されている状態で、前記電流センサの出力に基づいて前記電磁石の励磁電流をゼロに収束させて前記浮上体の運動を安定化させる電流積分器を有するゼロパワー制御手段と、前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差に基づいて前記キャップ長を一定の状態で維持して前記浮上体の運動を安定化させるギャップ長偏差積分器を有するギャップ長一定制御手段と、前記ギャップ長範囲検出手段の出力に基づいて前記ゼロパワー制御手段と前記ギャップ長一定制御手段を切り換えるべく、前記電流積分器および前記ギャップ長偏差積分器の入力を交互にゼロにする積分切換え手段と、前記浮上体に印加される外力を推定する状態観測手段と、この状態観測手段によって推定された外力に基づいて前記記憶手段をリセットするリセット手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ギャップ長を用いてゼロパワー制御のON/OFFを決定することができ、調整作業が簡素化される。これにより、調整時間が短縮されコストの低減を図ることができる。
【0023】
さらに、ゼロパワー制御がOFFするとギャップ長一定制御がONするため、浮上体がガイドに接触しにくくなる他、外力の増大に対して電磁石励磁電流の増加が抑制される。このため、装置が小型化して電力消費が低減されると共に発熱も少なくなり、装置の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明に係る磁気浮上装置の原理を説明するための概略構成図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態における磁気浮上装置に設けられたギャップ長範囲検出器の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は同実施形態における磁気浮上装置に設けられた記憶器の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は本発明の第2の実施形態に係る磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の全体の構成を示す斜視図である。
【図6】図6は同実施形態における磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は同実施形態における磁気浮上装置の磁気ユニット周辺の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は同実施形態における磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す平面図である。
【図9】図9は同実施形態における制御装置の全体的な構成を示すブロック図である。
【図10】図10は同実施形態における制御装置に設けられた制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。
【図11】図11は同実施形態における制御装置に設けられたギャップ長範囲検出器の構成を示すブロック図である。
【図12】図12は同実施形態における制御装置に設けられたx,θモード記憶器の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は同実施形態における制御装置に設けられたy,ξ,ψモード記憶器の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は同実施形態における制御装置に設けられた制御電圧演算回路の他の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は本発明の第3の実施形態に係る磁気浮上装置の全体の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の基本的な原理について説明する。
【0026】
図1は本発明の原理を説明するための磁気浮上装置の基本構成を示す図であり、一質点系の磁気浮上装置の全体構成が符号1で示されている。
【0027】
磁気浮上装置1は、永久磁石103および電磁石105で構成される磁石ユニット107と、磁石ユニット107と負荷荷重109からなる浮上体111と、図示せぬ構造部材で地上に対して固定されるガイド113とを備える。
【0028】
また、この磁気浮上装置1は、磁石ユニット107の吸引力を制御して、浮上体111を安定に非接触支持するための電磁石励磁電圧を演算する励磁電圧演算部115と、この励磁電圧演算部115の出力に基づいて電磁石105を励磁するためのドライバ116とを備える。
【0029】
なお、125は補助支持部である。この補助支持部125は、コの字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定されると共に、例えば図示せぬリニアガイド等の上下方向に力が作用しない案内部で地上側から案内される防振台のテーブルを兼ねている。
【0030】
ここで、磁石ユニット107の磁気的吸引力で浮上体111を非接触で支持するため、ガイド113は強磁性部材で構成されている。
【0031】
電磁石105は鉄心117a,117bにコイル119,119’を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれ鉄心117a,117bが配置されている。コイル119,119’は電磁石105の励磁によってガイド113〜鉄心117a〜永久磁石103〜鉄心117b〜ガイド113で形成される磁路の磁束が強まる(弱まる)ように直列に接続されている。
【0032】
また、励磁電圧演算部115は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長zおよび電流センサ123で得られるコイル電流値つまり励磁電流izに基づいて、電磁石105を励磁する電圧を演算している。ドライバ116は、この励磁電圧演算部115によって演算された励磁電圧に基づいて、リード線128を介してコイル119,119’に励磁電流を供給している。
【0033】
このとき、磁気浮上装置1の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長z0の近傍で線型近似でき、以下の微分方程式で記述される。
【数1】
【0034】
Fzは磁石ユニット107の吸引力、mは浮上体111の質量、Rはコイル119,119’とリード線128を直列に接続したときの電気抵抗(以下、コイル抵抗と称す)、zは浮上ギャップ長、izは電磁石105の励磁電流、φは磁石ユニット107の主磁束、ezは電磁石105の励磁電圧、Nはコイル119,119’の総巻回数である。
【0035】
Δは定常浮上状態(z=z0,iz=iz0(定常浮上状態でコイル電流がゼロの場合はiz=Δiz))からの偏差、記号“・”は時間に関するd/dt(1階微分)、“・・”は同2階微分を表わす。偏微分∂/∂h(h=z,iz)は、定常浮上状態(z=z0,iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏微分値である。Lz0は、L∞をギャップ長無限大とした場合の電磁石105の自己インダクタンスとして、式2のように表せる。
【数2】
【0036】
また、前記式1の浮上系モデルは、下記のような状態方程式となる。
【数3】
【0037】
ただし、状態ベクトルx、システム行列A、制御行列bおよび外乱行列dは、以下のように表される。なお、usは外力である。
【数4】
【0038】
ここで、式4中のパラメータは、以下のようになる。
【数5】
【0039】
式3中のxの各要素が浮上系の状態量である。Cは出力行列であり、励磁電圧ezの計算に用いる状態量の検出方法により決定される。磁気浮上装置1では、ギャップセンサ121と電流センサ123を使用しており、ギャップセンサ121の信号を微分して速度を得る場合に、Cは単位行列となる。ここで、xの比例ゲインFを、
【数6】
【0040】
Kiを積分ゲインとして励磁電圧ezを例えば、
【数7】
【0041】
で与えれば、浮上体111は特許文献1に見られるゼロパワー制御で浮上する。ここで、式6において、右辺第二項がゼロパワー制御を実現するための電流積分器である。なお、この電流積分器については、後に図2で符号159を付して説明する。
【0042】
一方、励磁電圧ezを次の式7で与えると、外力usに対してギャップ長が任意の一定値、例えば、z0+z1に収束する。
【数8】
【0043】
ここで、xの比例ゲインFgは、
【数9】
【0044】
であり、Kgは積分ゲインである。この場合、式7の右辺第二項がギャップ長一定制御を実現するためのギャップ長偏差積分器である。なお、このギャップ長偏差積分器については、後に図2で符号169を付して説明する。
【0045】
さらに、式3のシステムでは、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δizから外力usを推定する状態観測器(オブザーバ)を次の式8のように構成できる。
【数10】
【0046】
ただし、制御出力yは出力行列Cを、
【数11】
【0047】
として、
【数12】
【0048】
である。さらに、
【数13】
【0049】
と定義されており、ここに、α11,α21:オブザーバ設計時に決定されるパラメータ、xd^:オブザーバ出力、z^:オブザーバ内部変数である。
【0050】
なお、「^」の記号は推定値を表し、「ハット」と呼ぶ。実際には、数式中に示されているように、xやzなどのパラメータの真上に付加されるものであるが、文章中では便宜的に右上に付加するものとする。
【0051】
式8は最小次元状態観測器(最小次元オブザーバ)であり、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δizからギャップ長変化速度の推定値Δz’^および外力の推定値us^を演算する。なお、最小次元状態観測器については、後に図2で符号149を付して説明する。
【0052】
ゼロパワー制御が停止しているときに、外力usに対してΔzの定常偏差をなくすには、オブザーバ出力xd^に係るフィードバック定数Feを
【数14】
【0053】
とし、励磁電圧ezを次式で与えてやればよい。
【数15】
【0054】
ただし、
【数16】
【0055】
である。
【0056】
前記特許文献4でも述べられているように、ゼロパワー制御が動作している場合には、外力推定値us^の比例ゲインF4を
【数17】
【0057】
と設定し、励磁電圧を
【数18】
【0058】
で与えると、外力に対するギャップ長の変動が抑制される。
【0059】
一般に、式9と式10の値の差はわずかであり、式9もしくは式10で比例ゲインF4を設定すれば、ゼロパワー制御がOFFのとき、つまり電流積分器が停止中のときにはギャップ長一定制御が作動する。しかし、F4はΔizの比例ゲインF3の値に依存しており、浮上調整の際にF3が変更されると、F4を再設定しなければならない。
【0060】
一方、式7の励磁電圧を
【数19】
【0061】
ただし、
【数20】
【0062】
で与えると、式7のギャップ長一定制御において、外力に対するギャップ長の変動を抑えることができる。
【0063】
いま、kを0<k<1の定数とし、励磁電圧ezを次式で与える場合を考える。
【数21】
【0064】
ここで、nは積分器への入力スイッチであり、ギャップ長が所定の範囲内にあるときは1、そうでないときはゼロとなる。つまり、ゼロパワー制御で浮上する浮上体111に大きな外力が印加され、ギャップ長が減少して所定の範囲から外れ、磁石ユニット107がガイド113に接近すると、nがゼロとなり、電流積分器への入力がゼロになる。
【0065】
このとき、ギャップ長偏差積分器への入力はゼロからギャップ長偏差信号となるので、式13のz1(ギャップ長偏差目標値)の値をギャップ長が所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差Δzuに設定すれば、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御にスムーズに切り替わることができる。なお、通常のΔzと区別するために、所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差をΔzuと表記している。
【0066】
なお、式8の最小次元状態観測器(最小次元オブザーバ)では、ギャップ長が所定の範囲から外れたとき外力が推定されている。
【0067】
ギャップ長が所定の範囲の限界値となる外力推定値をusu^とすれば、このとき演算されている外力推定値us^はus^>usu^の関係にある。ギャップ長一定制御が動作しているので、浮上体111のギャップ長はギャップ長z0+zlで一定となる。これにより、外力が増加しても磁石ユニット107がガイド113に吸着することはない。
【0068】
外力が取り除かれると、オブザーバの演算する外力推定値はus^<usu^の関係となる。この関係が成立した時点で、ギャップ長偏差目標値zlをΔzuからゼロにリセットすると、ギャップ長一定制御の作用で浮上体111は浮上ギャップ長z0に戻ることになる。
【0069】
ギャップ長が戻る途中では、ギャップ長が再び所定の範囲内に入るので、式13のnがゼロから1に代わり、電流積分器への入力がゼロから電流偏差信号になり、同時にギャップ長偏差積分器への信号がギャップ長偏差信号からゼロになる。すると、再びゼロパワー制御が開始され、電磁石105の励磁電流はゼロに収束する。
【0070】
ここで、係数kは式11のゼロパワー制御と式12のギャップ長一定制御の収束の速さを規定する。つまり、係数kが大きければ、励磁電流のゼロヘの収束が早くなり、ギャップ長z0+zlへの収束が遅くなる。多くの場合、大きな外力が印加されるのは緊急の場合であるので、励磁電流をゼロに収束させるゼロパワー制御の特性を生かすため、kは大きめに設定される。
【0071】
このように、電流積分器やギャップ長偏差積分器に条件によってゼロが入力される場合には、式11および式12の右辺第一項のみで磁気浮上系の安定性が維持できるようにFeやFegが設定されており、これらフィードバック定数を含む項が磁気浮上系を安定化させる支持制御手段となる。
【0072】
一般に、ゼロパワー制御における浮上体111のノミナル値は、ギャップ長がz0で、励磁電流がゼロの場合である。ギャップ長一定制御では、ギャップ長がz0+zlで励磁電流がゼロの場合とすることが望ましい。このため、式8の状態観測器は、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用の2組が備えられることになる。図1では、励磁電圧演算部115において、式13とこれら2組の式8が備えられることになる。
【0073】
なお、zlをリセットする外力推定値については、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用のどちらの状態観測器を用いてもよいことはいうまでもない。
【0074】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0075】
(第1の実施形態)
(1)全体構成
図2は本発明の第1の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体構成が1’で示されている。
【0076】
この磁気浮上装置1’は、上述した磁気浮上装置1と同一の構成であり、浮上体111、ガイド113、ドライバ116、ギャップセンサ121、電流センサ123および励磁電圧演算部115を備えている。ここで、電流センサ123で検出される励磁電流izは目標値をゼロとした場合の電流偏差Δizと同じである。
【0077】
この磁気浮上装置1’にあっては、励磁電圧演算部115が次のように構成されている。
【0078】
すなわち、励磁電圧演算部115は、センサ部130と、減算器131と、ゼロパワー制御器133と、ギャップ長範囲検出器135と、記憶器137と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
【0079】
センサ部130は、浮上体の浮上時における磁石ユニット107とガイド113との間のギャップ長を検出するギャップセンサ121と、電磁石105の励磁電流を検出する電流センサ123とからなる。
【0080】
減算器131は、センサ部130から出力されるギャップ長zを入力して、そのギャップ長zとノミナルギャップ長z0とのギャップ長偏差Δzを求める。ノミナルギャップ長z0は、予め浮上の基準値として設定されている。
【0081】
ゼロパワー制御器133は、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130から出力される電流偏差Δizを入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧eiを演算する。
【0082】
ギャップ長範囲検出器135は、センサ部130から出力されるギャップ長zを入力して、そのギャップ長zが所定の範囲内にあるときに1、そうでないときにゼロを出力する。
【0083】
記憶器137は、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzを入力して、ギャップ長範囲検出器135の出力が1からゼロに変わった瞬間のギャップ長偏差Δzの値をz1として記憶する。
【0084】
減算器139は、現在のギャップ長偏差Δzと記憶器137から出力されるギャップ長偏差z1との差分を演算する。
【0085】
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−z1およびセンサ部130から出力される電流偏差Δizを入力して、上述した式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egを演算する。
【0086】
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力eiに所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力egに所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143の出力とゲイン乗算器145の出力とを加算する。
【0087】
なお、ゲイン補償器143,145および加算器147は、ゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算するための線形和演算手段として動作している。この線形和演算手段の出力に基づいて、磁石ユニット107の吸引力が制御される。
【0088】
(2)ゼロパワー制御器133の構成
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備える。
【0089】
最小次元状態観測器149は、減算器131からのギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130からの電流偏差Δizを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定植Δz’^および外力の推定値us^を演算する。
【0090】
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0091】
励磁電流設定器153は、電磁石105の励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0092】
減算器155は、励磁電流設定器153の出力からセンサ部130の出力である励磁電流偏差Δizを減算する。
【0093】
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、ギャップ長範囲検出器135の出力が1のとき、減算器155の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力がゼロのときはゼロを出力する。
【0094】
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0095】
減算器161は、電流積分器159の出力から前記ゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
【0096】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループL1が支持制御手段として用いられる。また、電流センサ123から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至る制御ループL2がゼロパワー制御手段として用いられる。
【0097】
ここで、記憶器137には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器137に記憶されているギャップ長偏差Δzuに代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0098】
(3)ギャップ長一定制御器141の構成
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備える。
【0099】
最小次元状態観測器149’は、減算器139からのギャップ長偏差Δz−z1およびセンサ部130からの電流偏差Δizを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定植Δz’^および外力の推定値us^を演算する。
【0100】
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じて、それらの総和を出力する。
【0101】
ギャップ長設定器163は、浮上ギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0102】
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
【0103】
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、ギャップ長範囲検出器135の出力がゼロのときは減算器165の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力が1のときはゼロを出力する。
【0104】
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0105】
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。この減算器171からギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egが出力される。
【0106】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループL1’が支持制御手段として用いられる。また、減算器131から減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至る制御ループL3がギャップ長一定制御手段として用いられる。
【0107】
なお、同一構成を有する箇所には同一番号を付し、’により区別している。また、ベクトル出力信号は二重線、スカラー出力信号は一重線で区別している。
【0108】
(4)ギャップ長範囲検出器135の構成
図3はギャップ長範囲検出器135の構成の構成を示すブロック図である。
【0109】
ギャップ長範囲検出器135は、最小ギャップ長設定器173と、最大ギャップ長設定器175と、減算器177と、減算器179と、切換え器181と、切換え器183と、乗算器185とを備えている。
【0110】
最小ギャップ長設定器173は、最小ギャップ長を設定する。最大ギャップ長設定器175は、最大ギャップ長を設定する。
【0111】
減算器177は、ギャップセンサ121の信号を入力して最小ギャップ長設計器173の出力を減算する。減算器179は、ギャップセンサ121の信号を入力して最大ギャップ長設計器175の出力を減算する。
【0112】
切換え器181は、減算器177の出力が正のときに1を選択し、減算器177の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。切換え器183は、減算器179の出力が正のときに1を選択し、減算器179の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。乗算器185は、切換え器181の出力と切換え器183の出力とを乗じて出力する。
【0113】
(5)記憶器137の構成
図4は記憶器137の構成を示すブロック図である。
【0114】
記憶器137は、立下り検出器187と、メモリー要素189と、切換え器191と、外力範囲検定器193と、乗算器195とを備えている。
【0115】
立下り検出器187は、ギャップ長範囲検出器135の出力を入力して、当該出力値の0.5に対する立下りを検出したときに1を出力し、そうでないときはゼロを出力する。
【0116】
メモリー要素189は、初期値をゼロとして切換え器191の出力を記憶する。
【0117】
切換え器191は、立下り検出器187が1のときにギャップセンサ121の出力を選択し、立下り検出器187が1でないときにメモリー要素189の出力を選択する。
【0118】
外力範囲検定器193は、最小次元状態観測器149の外力推定値us^を入力して、その外力推定値us^の値が所定の範囲内にあるときはゼロを出力し、そうでないときは1を出力する。乗算器195は、メモリー要素189の出力と外力範囲検定器193の出力を乗算する。外力範囲検定器193および乗算器195は記憶器137の出力を初期値のゼロにするためのリセット手段を構成している。
【0119】
(立下り検出器187の構成)
立下り検出器187は、減算器197と、遅れ要素201と、切換え器203と、切換え器205と、乗算器207と、切換え器209と、切換え器211と、乗算器213とを備えている。
【0120】
減算器197は、ギャップ長範囲検出器135の出力から0.5を減じる。遅れ要素201は、減算器197の出力を例えばデジタル制御において1サンプル時間だけ遅らせて出力する。
【0121】
切換え器203は、遅れ要素201の出力が正のとき1を出力し、そうでないとき−1を選択して出力する。切換え器205は、減算器197の出力が正のときに1を選択し、減算器197の出力が正でないときに−1を選択して出力する。乗算器207は、切換え器203の出力と切換え器205の出力とを乗じて出力する。
【0122】
切換え器209は、乗算器207の出力が正のときにゼロを選択し、乗算器207の出力が正でないときに1を選択して出力する。切換え器211は、減算器197の出力が正のときにゼロを選択し、減算器197の出力が正でないときに1を選択して出力する。乗算器213は、切換え器209の出力と切換え器211の出力とを乗じて出力する。この乗算器213の出力が立ち下がり検出器の出力となっている。
【0123】
(外力範囲検定器193の構成)
外力範囲検定器193は、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0124】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0125】
減算器219は、最小外力設定器215の設定値を最小次元状態観測器149の外力推定値us^から減算する。減算器221は、最大外力設定器217の設定値を最小次元状態観測器の外力推定値us^から減算する。
【0126】
切換え器223は、減算器219の出力が正のときにゼロを選択し、減算器219の出力が正でないときに1を選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のときにゼロを選択し、減算器221の出力が正でないときに1を選択して出力する。
【0127】
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193の出力となっている。
【0128】
(動作説明)
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
【0129】
いま、装置の電源がOFFされて、浮上体111がガイド113に吸着しているとする。この状態で、装置の電源をONすると、浮上体111が吸着状態にあるために、ギャップセンサ121から最小ギャップ長設定器173に設定されている最小ギャップ長より小さい値が出力される。
【0130】
したがって、図3に示したギャップ長範囲検出器135内部において、切換え器181では−0.5が選択され、切換え器183では0.5が選択され、加算器185からゼロが出力される。
【0131】
一方、記憶器137からは初期値ゼロが出力されている。そして、ギャップ長範囲検出器135のゼロ出力が切換え器157,167にそれぞれ入力されるため、電流積分器159にはゼロが入力されることになる。
【0132】
また、ギャップ長偏差積分器169には減算器139の出力Δz−z1(ここで、z1=0)が入力され、ギャップ長一定制御が開始される。このとき、励磁電流設定器153では所定の負の値から時間の経過と共に徐々にゼロに近づく励磁電流目標値が設定され、ギャップ長設定器163では吸着時のギャップ長偏差の値(所定の負の値)から徐々にゼロに近づくギャップ長目標値がそれぞれ設定されている。これにより、浮上体111は穏やかな応答で所定のギャップ長z0に向かって浮上を開始する。
【0133】
やがて、浮上ギャップ長が最小ギャップ長設定器173に設定されている最小ギャップ長より大きくなると、ギャップ長範囲検出器135が1を出力する。これにより、ギャップ長偏差積分器169が積分演算動作を停止すると共に、電流積分器159が積分演算を開始して、ギャップ長一定制御からゼロパワー制御に切り換わる。
【0134】
ここで、ゼロパワー制御で浮上状態にある浮上体111の補助支持部125の上面に負荷荷重が印加されると、永久磁石103の吸引力が浮上体総重力とバランスするため、ギャップ長が減少する。負荷荷重がさらに増加すると、ギャップ長がさらに減少して、ついには最小ギャップ長設定器173に設定された最小ギャップ長よりも小さくなる。
【0135】
このとき、図4に示した記憶器137において、最小次元状態観測器149で推定される外力推定値us^が最大外力設定器217の設定値よりも大きくなっていると、切換え器223にてゼロが選択され、切換え器227にて1が選択されるため、外力範囲検定器193から1が出力される。
【0136】
一方、立下り検出器187では、ギャップ長範囲検出器135の出力が1からゼロに変わる瞬間にのみ1を出力する。このため、ギャップ長が最小ギャップ長の設定値よりも小さくなった瞬間の実際のギャップ長偏差z1が切換え器191を介してメモリー要素189に記憶される。これにより、記憶器137からギャップ長偏差z1が出力される。
【0137】
このとき、ギャップ長が最小ギャップ長の設定値よりも小さくなるため、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御に切り換わる。その後、負荷荷重の増加に対してギャップ長一定制御が継続し、浮上体111がガイド113に接触することはない。また、ギャップ長一定制御が動作するので、フィードバックゲインであるゲイン補償器151,151’の値を変更しても励磁電流が大きく増加することがない。
【0138】
また、負荷荷重が減少し、浮上ギャップ長が最大外力設定値より小さくなると、切換え器225がゼロを選択するため、記憶器137の出力はz1からゼロにリセットされる。これにより、ギャップ長偏差積分器169においてギャップ長偏差Δzが積分されるため、浮上体111は所定のギャップ長z0に向かって移動する。すると、浮上ギャップ長が増加し、最小ギャップ長の設定値よりも大きくなってゼロパワー制御が再開することになる。
【0139】
操作が終了し、装置を停止する場合には、励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163のそれぞれの設定値をゼロから所定の負の値に徐々に収束させればよい。ゼロパワー制御時は電流目標値の減少により、ギャップ長一定性制御時はギャップ長偏差目標値の減少により浮上体111のギャップ長が減少し、やがて浮上体111はガイド113に吸着する。この時点で装置の電源をOFFして装置の運転が終了する。
【0140】
以上のように、本実施形態における磁気浮上装置によれば、ギャップ長を用いてゼロパワー制御のON/OFFを決定することができ、調整作業が簡素化される。これにより、調整時間が短縮されコストの低減を図ることができる。
【0141】
さらに、ゼロパワー制御がOFFするとギャップ長一定制御がONするため、浮上体がガイドに接触しにくくなるほか、外力の増大に対して電磁石励磁電流の増加が抑制される。このため、装置が小型化して電力消費が低減されると共に発熱も少なくなり装置の信頼性向上を図ることができる。
【0142】
なお、本実施形態では、ギャップ長一定制御器141が最小次元状態観測器149’およびゲイン補償器151’を備えているが、磁気浮上系の安定化が図れる場合には最小次元状態観測器149’,ゲイン補償器151’および減算器171を省略してもなんら差し支えない。
【0143】
また、本実施形態では、浮上体111に印加される外力を推定する手段として、式8に基づく最小次元状態観測器を用いているが、これは、状態観測器の形態をなんら限定するものでなく、例えば、同一次元状態観測器や他の外力推定手法を用いてもよい。
【0144】
また、本実施形態では、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzを記憶器137に入力する構成としたが、記憶器137にギャップ長zを記憶した後で、ギャップ長zとノミナルギャップ長z0とのギャップ長偏差Δzを求めることでもよい。
【0145】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0146】
第2の実施形態では、浮上体の運動座標系の各モード毎に励磁電圧、励磁電流を演算することを特徴とする。ここでは、本発明の磁気浮上装置をエレベータに適用した場合を例にして説明する。
【0147】
図5は本発明の第2の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、この磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の構成が全体として符号10で示されている。
【0148】
また、図6はその磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図、図7はその磁気浮上装置の磁石ユニット周辺の構成を示す斜視図、図8はその磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す立面図である。
【0149】
図5に示すように、エレベータシャフト12の内面にガイドレール14,14’と、移動体16と、4つの案内ユニット18a〜18dが構成されている。ガイドレール14,14’は、強磁性部材で構成され、エレベータシャフト12内に所定の取り付け方法で敷設されている。
【0150】
移動体16は、上述した磁気浮上装置の浮上体に相当する。この移動体16は、ガイドレール14,14’に沿って、例えばロープ15の巻上げ機等の図示せぬ駆動機構を介して上下方向に移動する。案内ユニット18a〜18dは、移動体16に取り付けられており、この移動体16をガイドレール14,14’に対して非接触で案内する。
【0151】
移動体16には、乗りかご20と案内ユニット18a〜18dが取り付けられる。移動体16は、案内ユニット18a〜18dの所定の位置関係を保持可能な強度を有するフレーム部22を備えている。図6に示すように、このフレーム部22の四隅には、ガイドレール14,14’と対向する案内ユニット18a〜18dが所定の方法で取り付けられている。
【0152】
案内ユニット18は、図7に示すように、非磁性材料(例えばアルミやステンレス)もしくはプラスチック製の台座24にx方向ギャップセンサ26(26b,26b’)、y方向ギャップセンサ28(28b,28b’)および磁石ユニット30を所定の方法で取り付けて構成されている。
【0153】
磁石ユニット30は、中央鉄心32、永久磁石34,34’、電磁石36,36’で構成されており、図8にも示されているように、永久磁石34,34’の同極同士が中央鉄心32を介して向かい合う状態で全体としてE字形状に組み立てられている。
【0154】
電磁石36,36’は、L字形状の鉄心38(38’)をコイル40(40’)に挿入後、鉄心38(38’)の先端部に平板形状の鉄心42を取り付けて構成されている。中央鉄心32および電磁石36,36’の先端部には、個体潤滑部材43が取付けられている。この個体潤滑部材43は、電磁石36,36’が励磁されていない時に永久磁石34,34’の吸引力で磁石ユニット30がガイドレール14(14’)に吸着して固着することを防止し、かつ、吸着状態でも移動体16の昇降に支障が出ないようにするために設けられている。この個体潤滑部材43としては、例えばテフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料がある。
【0155】
以下では、簡単のために、主要部分を示す番号に案内ユニット18a〜18dのアルファベット(a〜d)を付して説明する。
【0156】
磁石ユニット30bでは、コイル40b,40b’を個別に励磁することでガイドレール14’に作用する吸引力をy方向とx方向に関して独立に制御することができる。この制御方式については、特許文献2に記載されているため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0157】
案内ユニット18a〜18dの各吸引力は、上述した励磁電圧演算部115として用いられる制御装置44により制御され、乗りかご20およびフレーム部22がガイドレール14,14’に対して非接触に案内される。
【0158】
なお、制御装置44は図5の例では分割されているが、例えば図9に示すように、全体として1つに構成されていても良い。
【0159】
図9は同実施形態における制御装置内の構成を示すブロック図、図10はその制御装置内のモード制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。なお、ブロック図において、矢印線は信号経路を、棒線はコイル40周辺の電力経路を示している。
【0160】
この制御装置44は、センサ部61と、演算回路62と、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’とを備えており、これらで4つの磁石ユニット30a〜30dの吸引力をx軸,y軸について独立に制御している。
【0161】
演算回路62は、このセンサ部61からの信号に基づいて移動体16を非接触案内させるべく、各コイル40a,40a’〜40d,40d’を励磁するための印加電圧を演算する励磁電圧演算部として用いられる。パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’は、この演算回路62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する励磁部として用いられる。
【0162】
また、電源46は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に電力を供給すると同時に定電圧発生装置48にも電力を供給している。なお、この電源46は、照明やドアの開閉のために図示せぬ電源線でエレベータシャフト12外から供給される交流をパワーアンプヘの電力供給に適した直流に変換する機能を有している。
【0163】
定電圧発生装置48は、パワーアンプ63への大電流の供給などにより電源46の電圧が変動しても常に一定の電圧で演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’に電力を供給する。これにより、演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は常に正常に動作する。
【0164】
センサ部61は、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’と、各コイル40の励磁電流を検出する電流検出器66a,66a’〜66d,66d’で構成されている。
【0165】
なお、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は、各々のオフセット電圧を調整して、乗りかご20がガイドレール14,14’に対して所定の位置関係で案内されている場合の浮上ギャップ長を基準として、当該浮上ギャップ長からの偏差を出力するように校正されている。
【0166】
加えて、各案内ユニット18に取り付けられている2つのx方向ギャップセンサ出力および2つのy方向ギャップセンサ出力のそれぞれを平均する平均化部27,27’が備えられている。これにより、x,yの各方向における磁石ユニット30とガイドレール14,14’間の浮上ギャップ長偏差Δxa,Δya〜Δxd,Δydが得られることはいうまでもない。
【0167】
演算回路62は、図5に示される運動座標系の各モード毎に移動体16の案内制御を行っている。ここで、前記各モードとは、移動体16の重心のy座標に沿った前後動を表すyモード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表すxモード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表すθモード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表すξモード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表すψモード(ヨーモード)である。
【0168】
また、これらのモードに加え、演算回路62は、ζモード(全吸引モード)、δモード(ねじれモード)、γモード(歪モード)についても案内制御を行っている。すなわち、磁石ユニット30a〜30dがガイドレール14,14’に及ぼす「全吸引力」、磁石ユニット30a〜30dがフレーム部22に及ぼすz軸周りの「ねじれトルク」、磁石ユニット30a,30dがフレーム部22に、磁石ユニット30b,30cがフレーム部22に及ぼす回転トルクでフレーム部22をz軸に対して左右対称に歪ませる「歪力」に関する3つのモードである。
【0169】
以上のような8つのモードに対し、磁石ユニット30a〜30dのコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の偏りが所定の範囲内であればその偏荷重トルクに関わらず永久磁石34の吸引力だけで移動体を安定に支持するゼロパワー制御を行い、偏荷重トルクが大きい場合にはギャップ長一定制御にて案内制御を行っている。
【0170】
演算回路62は、浮上体である移動体16の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させる各コイル40の励磁電流の線形結合で表させるモード別励磁電流を演算する機能と、同じく各コイル40の励磁電圧の線形結合で表させるモード別励磁電圧を演算する機能を備える。具体的には、次のように構成される。
【0171】
すなわち、図9に示すように、演算回路62は、ギャップ長偏差座標変換回路74と、電流偏差座標変換回路83と、制御電圧演算回路84と、制御電圧座標逆変換回路85と、x,θモードギャップ長範囲検出器68と、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69と、x,θモード記憶器70と、y,ξ,ψモード記憶器71とを備えている。
【0172】
ギャップ長偏差座標変換回路74は、ギャップ長偏差信号Δya,Δya’〜Δyd,Δyd’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる位置偏差Δy、x方向の運動に関わる位置偏差Δx、同重心のまわりのローリングに関わる角度偏差Δθ、移動体16のピッチングに関わる角度偏差Δξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる角度偏差Δψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する各偏差Δζ,Δδ,Δγを演算する。
【0173】
電流偏差座標変換回路83は、モード励磁電流演算手段として用いられる。この電流偏差座標変換回路83は、電流偏差信号Δia,Δia’〜Δid,Δid’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる電流偏差Δiy、x方向の運動に関わる電気偏差Δix、同重心のまわりのローリングに関わる電流偏差Δiθ、移動体16のピッチングに関わる電流偏差Δiξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる電流偏差Δiψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する電流偏差Δiζ,Δiδ,Δiγを演算する。
【0174】
ここで、ゼロパワー制御が適用される場合、各電流検出器の検出値を座標変換した演算結果iy〜iγは、そのまま各モードにおけるゼロ目標値からの電流偏差Δiy〜Δiγとなる。
【0175】
制御電庄演算回路84は、モード励磁電圧演算手段として用いられる。この制御電庄演算回路84は、ギャップ長偏差座標変換回路74および前記電流偏差座標変換回路83の出力Δy〜Δγ,Δiy〜Δiγよりy,x,θ,ξ,ψ,ζ,δ,γの各モードにおいて移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγを演算する。
【0176】
制御電圧座標逆変換回路85は、制御電圧演算回路84の出力ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγにより、磁石ユニット30a〜30dのそれぞれの電磁石励磁電圧ea,ea’〜ed,ed’を演算する。この制御電圧座標逆換回路85の演算結果つまりea,ea’〜ed,ed’は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に与えられる。
【0177】
x,θモードギャップ長範囲検出器68およびy,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69は、ギャップ長範囲検出手段として用いられる。
【0178】
x,θモードギャップ長範囲検出器68は、平均化部27からのギャップ長偏差信号Δxa〜Δxdを入力して移動体16のx方向ギャップセンサで検出される各磁石ユニット30のギャップ長偏差が所定の範囲内のときに1を、そうでないときはゼロを出力する。
【0179】
y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69は、平均化部27’からのギャップ長偏差信号Δya〜Δydを入力して移動体16のy方向ギャップセンサで検出される各磁石ユニット30のギャップ長偏差が所定の範囲内のときに1を出力し、そうでないときはゼロを出力する。
【0180】
x,θモード記憶器70は、平均化部27の出力であるギャップ長偏差Δxa〜Δxdを入力して、x,θモードギャップ長範囲検出器68の出力が1からゼロに変わるときのΔxa〜Δxdの値を記憶して出力する。また、このx,θモード記憶器70は、制御電圧演算回路84で演算されるx,θモードにおける外力推定値に基づいて出力の値をゼロにリセットする。
【0181】
y,ξ,ψモード記憶器71は、平均化部27’の出力であるギャップ長偏差Δya〜Δydを入力して前記y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1からゼロに変わるときのΔya〜Δydの値を記憶して出力する。また、この制御電圧演算回路84で演算されるy,ξ,ψモードにおける外力推定値に基づいて出力の値をゼロにリセットする。
【0182】
さらに、制御電圧演算回路84は、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86e、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88b、歪モード制御電圧演算回路88cで構成されている。
【0183】
前後動モード制御電圧演算回路86aは、ΔyおよびΔiyよりyモードの電磁石制御電圧eyを演算する。左右動モード制御電圧演算回路86bは、ΔxおよびΔixよりxモードの電磁石制御電圧exを演算する。ロールモード制御電圧演算回路86cは、ΔθおよびΔiθよりθモードの電磁石制御電圧eθ演算する。ピッチモード制御電圧演算回路86dは、ΔξおよびΔiξよりξモードの電磁石制御電圧eξ演算する。ヨーモード制御電圧演算回路86eは、ΔψおよびΔiψよりψモードの電磁石制御電圧eψ演算する。
【0184】
全吸引モード制御電圧演算回路88aは、Δiζよりζモードの電磁石制御電圧eζを演算する。ねじれモード制御電圧演算回路88bは、Δiδよりδモードの電磁石制御電圧eδを演算する。歪モード制御電圧演算回路88cは、Δiγよりγモードの電磁石制御電圧eγを演算する。
【0185】
これら各モードの制御電圧演算回路86a〜86c,88a〜88cのうち、y,x,θ,ξ,ψのモードについては第1の実施形態における励磁電圧演算部115と同様の構成を備えている。したがって、以下の図中では、同一箇所には同一記号を付して説明は省略する。
【0186】
また、煩雑さを避けるため、各モードのギャップ長偏差Δy,Δx,Δθ,Δξ,Δψ,Δζ,Δδ,ΔγをΔzで表し、同じく電流偏差Δiy,Δix,Δiθ,Δiξ,Δiψ,Δiζ,Δiδ,ΔiγをΔizで表すことにする。
【0187】
いま、前後動モード制御電圧演算回路86aを代表して、その構成を説明する。
図10に示すように、前後動モード制御電圧演算回路86aは、ゼロパワー制御器133と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
【0188】
ゼロパワー制御器133は、ギャップ長偏差座標変換回路74の出力であるギャップ長偏差Δyおよび電流偏差座標変換回路83の出力である電流偏差Δiyを入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧eiを演算する。
【0189】
減算器139は、ギャップ長偏差Δyからy,ξ,ψモード記憶器71の出力zlを減算する。
【0190】
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−zlおよび電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiyを入力して、上述した式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egを演算する。
【0191】
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力eiに所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力egに所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143の出力とゲイン乗算器145の出力とを加算する。
【0192】
なお、本実施形態においても、ゲイン補償器143,145および加算器147はゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算する線形和演算手段として動作している。
【0193】
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eでは、上述した減算器139に入力される信号z1がy,ξ,ψモード記憶器71の出力となる。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cでは、上述した減算器139に入力される信号z1がx,θモード記憶器70の出力となる。
【0194】
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備える。
【0195】
最小次元状態観測器149は、ギャップ長偏差座標変換回路74の出力Δyおよび電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiyを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定値Δy’^および外力の推定値usy^を演算する。
【0196】
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0197】
励磁電流設定器153は、前後動モード励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0198】
減算器155は、励磁電流設定器153の出力から電流偏差座標変換回路83の出力である励磁電流偏差Δiyを減算する。
【0199】
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1のとき、減算器155の値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力がゼロのときはゼロを出力する。
【0200】
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0201】
減算器161は、電流積分器159の出力から前記ゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
【0202】
このような構成において、ギャップ長偏差座標変換回路74および電流偏差座標変換回路83から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループが支持制御手段として用いられる。また、電流偏差座標変換回路83から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至るループがゼロパワー制御手段として用いられる。
【0203】
ここで、y,ξ,ψモード記憶器71には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^(usy^,usξ^,usψ^)が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器71に記憶されているギャップ長偏差Δzu(Δyu,Δξu,Δψu)に代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0204】
一方、x,θモード記憶器70には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^(usx^,usθ^)が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器70に記憶されているギャップ長偏差Δzu(Δxu,Δθu)に代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0205】
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備える。
【0206】
最小次元状態観測器149’は、減算器139の出力および電流偏差座標変換回路83からの電流偏差信号を入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定値Δy’^および外力の推定値usy^を演算する。
【0207】
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0208】
ギャップ長設定器163は、前後動モードギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0209】
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
【0210】
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力がゼロのときは、減算器165の値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1のときはゼロを出力する。
【0211】
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0212】
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。この減算器171からギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egが出力される。
【0213】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループが支持制御手段として用いられる。また、減算器131から減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至るループがギャップ長一定制御手段として用いられる。
【0214】
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eでは、外部から切換え器157,167に入力される信号がy,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力となる。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cでは、外部から切換え器157,167に入力される信号がx,θモードギャップ長範囲検出器68の出力となることはいうまでもない。
【0215】
他の制御電圧演算回路である左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御演算回路86dおよびヨーモード制御演算回路86eについても、上下動モード制御電圧演算回路86aと同様の構成であり、ここでは対応する入出力信号を信号名で示し、その説明は省略するものとする。
【0216】
図11はギャップ長範囲検出器68(69)の構成を示すブロック図である。
【0217】
x,θモードギャップ長範囲検出器68(y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69)は、平均化部27(27’)の4つの出力Δxa〜Δxd(Δya〜Δyd)に対応したギャップ長範囲検出手器135a〜135dと、加算器72と、減算器73と、切換え器75とを備える。
【0218】
ギャップ長範囲検出手器135a〜135dは、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、浮上ギャップ長が所定の範囲内にあるか否かを検出する。加算器72は、これらのギャップ長範囲検出手器135a〜135dの各出力の総和を演算する。減算器73は、加算器72の出力から3.5を減じる。切換え器75は、減算器73の出力が正のとき1を選択し、減算器73の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。
【0219】
なお、切換え器75の出力がx,θモードギャップ長範囲検出器68(y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69)の出力であることは言うまでもない。
【0220】
図12はx,θモード記憶器70の構成を示すブロック図である。
【0221】
x,θモード記憶器70は、立下り検出器187と、2つの切換え器191b,191cと、2つのメモリー要素189b,189cと、外力範囲検定器193’と、2つの乗算器77b,77cと、2つのローパスフィルタ78b,78cとを備える。
【0222】
立下り検出器187は、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、x,θモードギャップ長範囲検出器68の信号を入力する。
【0223】
切換え器191bは、ギャップ長偏差座標変換回路74からΔxを入力すると共にメモリー要素189bの信号を入力して、立下り検出器187の出力が1になったときにΔxを選択し、1でないときにメモリー要素189bの出力を選択する。切換え器191cについても同様であり、立下り検出器187の出力に応じてΔθまたはメモリー要素189cの出力を選択する。
【0224】
メモリー要素189b,189cは、それぞれに初期値をゼロとして切換え器191b,191cの出力を記憶する。
【0225】
外力範囲検定器193’は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usx^およびusθ^の値に基づいて1かゼロを出力する。
【0226】
乗算器77b,77cは、それぞれに外力範囲検定器193’の出力とメモリー要素189b,89cの出力との積を演算する。
【0227】
ローパスフィルタ78b,78cは、それぞれに乗算器77b,77cの信号を入力し、所定の高周波成分を除去する。
【0228】
ここで、ギャップ長偏差座標変換回路74から入力されるx,θモードのギャップ長偏差に対応するローパスフィルタ78b,78cの出力がx,θモードの制御電圧演算回路86b,86cの減算器139にΔxu,Δθuとして入力されていることはいうまでもない。
【0229】
外力範囲検定器193’は、ゲイン乗算器80b,80cと、絶対値加算器79と、ローパスフィルタ76と、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0230】
ゲイン乗算器80b,80cは、それぞれにx,θモードの制御電圧演算回路86b,86cの最小次元状態観測器で推定された外力推定値usx^およびusθ^に所定のゲインを乗じる。
【0231】
絶対値加算器79は、ゲイン乗算器80bの出力の絶対値とゲイン乗算器80cの出力の絶対値とを加算する。
【0232】
ローパスフィルタ76は、絶対値加算器79の信号を入力して所定の高周波成分を除去する。
【0233】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0234】
減算器219は、ローパスフィルタ76の出力から最小外力設定器215の出力を減じる。減算器221は、最大外力設定器215の出力からローパスフィルタ76の出力を減じる。
【0235】
切換え器223は、減算器219の出力が正のとき1を選択し、減算器219の出力が正でないときゼロを選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のとき1を選択し、減算器221の出力が正でないときゼロを選択して出力する、
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193’の出力となっている。
【0236】
図13はy,ξ,ψモード記憶器71の構成を示すブロック図である。
【0237】
y,ξ,ψモード記憶器71は、立下り検出器187と、3つの切換え器191a,191d,191eと、3つのメモリー要素189a,189d,189eと、外力範囲検定器193”と、3つの乗算器77a,77d,77eと、3つのローパスフィルタ78a,78d,78eとを備える。
【0238】
立下り検出器187は、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の信号を入力する。
【0239】
切換え器191aは、ギャップ長偏差座標変換回路74からΔyを入力すると共にメモリー要素189aの信号を入力して、立下り検出器187の出力が1になったときにΔyを選択し、1でないときにメモリー要素189aの出力を選択する。切換え器191d,191eについても同様であり、切換え器191dは立下り検出器187の出力に応じてΔξまたはメモリー要素189dの出力を選択し、切換え器191eは立下り検出器187の出力に応じてΔψまたはメモリー要素189eの出力を選択する。
【0240】
メモリー要素189a,189d,189eは、それぞれに初期値をゼロとして切換え器191a,191d,191eの出力を記憶する。
【0241】
外力範囲検定器193”は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usy^,usξ^およびusψ^の値に基づいて1かゼロを出力する。
【0242】
乗算器77a,77d,77eは、それぞれに外力範囲検定器193”の出力とメモリー要素189a,189d,189eの出力との積を演算する。
【0243】
ローパスフィルタ78a,78d,78eは、それぞれに乗算器77a,77d,77eの信号を入力し、所定の高周波成分を除去する。
【0244】
ここで、ギャップ長偏差座標変換回路74から入力されるy,ξ,ψモードのギャップ長偏差に対応するローパスフィルタ78a,78d,78eの出力がy,ξ,ψモードの制御電圧演算回路86a,86d,86eの減算器139にΔθu,Δξu,Δψuとして入力されていることはいうまでもない。
【0245】
外力範囲検定器193”は、ゲイン乗算器80a,80d,80eと、絶対値加算器79と、ローパスフィルタ76と、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0246】
ゲイン乗算器80a,80d,80eは、それぞれにy,ξ,ψモードの制御電圧演算回路86a,86d,86eの最小次元状態観測器で推定された外力推定値usy^,usξ^,およびusψ^に所定のゲインを乗じる。
【0247】
絶対値加算器79は、ゲイン乗算器80a,80d,80eの各出力の絶対値を加算する。
【0248】
ローパスフィルタ76は、絶対値加算器79の信号を入力して所定の高周波成分を除去する。
【0249】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0250】
減算器219は、ローパスフィルタ76の出力から最小外力設定器215の出力を減じる。減算器221は、最大外力設定器215の出力からローパスフィルタ76の出力を減じる。
【0251】
切換え器223は、減算器219の出力が正のとき1を選択し、減算器219の出力が正でないときゼロを選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のとき1を選択し、減算器221の出力が正でないときゼロを選択して出力する。
【0252】
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193”の出力となっている。
【0253】
x,θモード記憶器70とy,ξ,ψモード記憶器71をこのような構成とすることで、エレベータが稼動中に移動体16が受ける様々な外力、例えば、乗りかご20への台車等の乗り込みや乗りかご20内での人や積載物の移動などに対し、定常的な過大偏荷重トルクの印加とみなせる場合にのみゼロパワー制御からギャップ長一定制御に移行してガイドレール14,14’に対する移動体16の浮上姿勢を固定して接触防止を図ることができる。また、ゼロパワー制御に切換え可能な過大偏荷重トルクの減少を確実に検知することが可能となる。
【0254】
一方、ζ,δおよびγの3つのモードの制御電圧演算回路88a〜88cの構成を図14に示す。制御電圧演算回路88a〜88cは同じ構成であり、また、上下動モード制御電圧演算回路86aと同じ構成要素を有する。ここでは、上下動モード制御電圧演算回路86aと同一部分に同一符号を付し、’を付して区別する。ただし、電流偏差に乗せられるゲインを設定するゲイン補償器についてはスカラー量であるため、ゲイン補償器81とした。
【0255】
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
【0256】
本装置が停止状態にあるとき、磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に接触し、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に接触している。このとき、固体潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降動作が妨げられることはない。
【0257】
この状態で、本装置を起動させると、yモードおよびxモードにおいて励磁電圧調整部99の動作によりギャップセンサを用いた磁気浮上制御が行なわれる。制御装置44は、浮上制御演算部65を通じて永久磁石34が発生する磁束と同じ向きまたは逆向きの磁束を各電磁石36a,36a’〜36d,36d’に発生させると共に、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14,14’との間に所定の空隙長を維持させるべく各コイル40に流す電流を制御する。
【0258】
これによって、図8に示すように、永久磁石34〜鉄心38,42〜空隙G〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mcおよび永久磁石34’〜鉄心38、42〜空隙G’〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mc’が形成される。
【0259】
このとき、空隙G,G’,G”におけるギャップ長は、永久磁石34の起磁力による各磁石ユニット30a〜30dの磁気的吸引力が移動体16の重心に作用するy軸方向前後力、同x方向左右力、移動体16の重心を通るx軸回りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクと丁度釣合うような長さになる。
【0260】
制御装置44は、これらの釣合いを維持すべく、移動体16に外力が作用したときに電磁石36a,36a’〜36d,36d’の励磁電流制御を行う。これによって、所謂ゼロパワー制御がなされ、移動体16の非接触状態が保持される。
【0261】
ここで、乗りかご20内の乗客や積荷の偏り、乗客の乗り降り等が原因で移動体16に過大な外力が加えられたとする。このような場合、ゼロパワー制御では、磁石ユニット30とガイドレール14,14’間のギャップ長が減少し、ついには接触に至ることになる。こうなると、乗りかご20に振動が直接伝播するので、乗り心地が極端に悪化する。
【0262】
これに対し、本発明では、過大な偏荷重トルクが印加されると、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御に切り換わるので、移動体16(磁石ユニット30)がガイドレール14,14’に接触することを防ぐことができる。また、偏荷重トルクが減少すると、再びゼロパワー制御に戻るので、電力が無駄に消費されることもない。
【0263】
さらに、ゼロパワー制御とギャップ長一定制御の切換え時には、x,θモード記憶器70とy,ξ,ψモード記憶器71が備えるローパスフィルタ76,78の作用により、切換えの頻度とギャップ長目標値の急変が防止されるので、良好な乗り心地が維持される。
【0264】
本装置が運転を終えて停止する場合には、目標値設定部74において、yモードおよびxモードの目標値をゼロから徐々に負の値とする。これにより、移動体16はy軸、x軸方向に徐々に移動し、最終的に磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着すると共に、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着する。この状態で本装置を停止させると、目標値設定部74の出力がすべてゼロにリセットされ、移動体16がガイドレール14に吸着する。
【0265】
上述したように、本装置では、最小ギャップ長と最大ギャップ長を設定するだけで、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御への切換え条件を設定できる。したがって、エレベータのように多くの制御軸を有し、移動体が様々な姿勢をとる物体に適用する場合において、切換え調整を簡便にして、調整時間の削減、コストの低減を図ることができる。
【0266】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0267】
前記第1および第2の実施形態では、磁石ユニットが浮上体側に取付けられていたが、これは磁石ユニットの取付け位置をなんら限定するものでなく、図15に示すように、磁石ユニットを地上側に配置しても良い。なお、説明の簡単化のために、以下、第1および第2の実施形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
【0268】
図15は本発明の第3の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体の構成が符号300で示されている。
【0269】
磁気浮上装置300は、補助支持部302、磁石ユニット107、ガイド304、防振台テーブル306、リニアガイド308、励磁電圧演算部115、パワーアンプ313、ギャップセンサ121および電流センサ123を備えている。
【0270】
補助支持部302は、断面がコ字形状をなし、例えばアルミ部材などの非磁性体で形成される。この補助支持部302は地上に設置されており、磁石ユニット107は補助支持部302の上部下面に下向きに取付けられている。
【0271】
ガイド304は、磁石ユニット107に対向する断面がコ字形状をなし、例えば鉄などの強磁性部材で形成されている。防振台テーブル306は、このガイド304を底部上面に備えており、全体としてコ字形状に形成されている。リニアガイド308は、防振台テーブル306の側面に取付けられ、地上に対して垂直方向にのみ動きの自由度を防振台テーブル306に付与している。
【0272】
励磁電圧演算部115は、磁石ユニット107の吸引力を制御して防振テーブル306を非接触で支持するための制御を行う。パワーアンプ313は、励磁電圧演算部115の出力に基づいて磁石ユニット107を励磁するための図示せぬ電源に接続されている。ギャップセンサ121は磁石ユニット107とガイド304間の浮上ギャップ長を防振台テーブル306と補助支持部302間の距離を測定することで検出している。電流センサ123は、磁石ユニット107の励磁電流を検出する。
【0273】
ここで、励磁電圧演算部115は第1の実施形態と同一の構成をとっており、ここでは説明を省略する。
【0274】
本実施形態によれば、磁石ユニット107を地上側に配置したことにより、可動部である防振テーブル306からの配線がなくなり、装置の信頼性が向上するといった利点がある。
【0275】
なお、前記各実施形態では、磁気浮上を行う制御装置(励磁電圧演算部115)がアナログ的な構成として説明されているが、本発明は、アナログの制御方式に限定されるものではなく、デジタル制御にて構成することも可能である。
【0276】
また、励磁部の構成としてパワーアンプを用いているが、これはドライバの方式を何ら限定するものではなく、例えばPWM(Pulse Width Modulation)形のものであって何ら差し支えない。
【0277】
この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。要するに、本発明は前記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0278】
L1,L1’…支持制御手段、L2…ゼロパワー制御手段、L3…ギャップ一定制御手段、1,1’,10,300…磁気浮上装置、103,34,34’…永久磁石、105,36,36’…電磁石、107,30…磁石ユニット、109…負荷荷重、111…浮上体、113,304…ガイド、115…励磁電圧演算部、ドライバ…116、125,302…補助支持部、117,38,38’,42…鉄心、119,119’,40,40’…コイル、121…ギャップセンサ、123…電流センサ、128…リード線、130,61…センサ部、131,139,155,161,165,171,177,179,197,219,221,73…減算器、133…ゼロパワー制御器、135…ギャップ長範囲検出器、137…記憶器、141…ギャップ長一定制御器、143,145,80…ゲイン乗算器、147,227,72…加算器、149,149’…最小次元状態観測器、151,151’,81…ゲイン補償器、153…励磁電流設定器、157,167,75,181,183,191,203,205,209,211,223,225…切換え器、159…電流積分器、163…ギャップ長設定器、169…ギャップ長偏差積分器、173…最小ギャップ長設定器、175…最大ギャップ長設定器、185,195,77,207…乗算器、187…立下り検出器、189…メモリー要素、193,193’,193”…外力範囲検定器、201…遅れ要素、215…最小外力設定器、217…最大外力設定器、12…エレベータシャフト、14,14’…ガイドレール、16…移動体、18a〜18d…案内ユニット、15…ロープ、20…乗りかご、22…フレーム部、24…台座、26…x方向ギャップセンサ、28…y方向ギャップセンサ、32…中央鉄心、43…個体潤滑部材、44…制御装置、62…演算回路、63,63’,313…パワーアンプ、46…電源、48…定電圧発生装置、66…電流検出器、27,27’…平均化部、74…ギャップ長偏差座標変換回路、83…電流偏差座標変換回路、84…制御電圧演算回路、85…制御電圧座標逆変換回路、68…x,θモードギャップ長範囲検出器、69…y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器、70…x,θモード記憶器、71…y,ξ,ψモード記憶器、86a…前後動モード制御電圧演算回路、86b…左右動モード制御電圧演算回路、86c…ロールモード制御電圧演算回路、86d…ピッチモード制御電圧演算回路、86e…ヨーモード制御電圧演算回路、88a…全吸引モード制御電圧演算回路、88b…ねじれモード制御電圧演算回路、88c…歪モード制御電圧演算回路、78,76…ローパスフィルタ、79…絶対値加算器、306…防振台テーブル、308…リニアガイド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、常電導吸引式磁気浮上装置に係り、特に電磁石の励磁電流をゼロに収束させながら対象物を非接触に支持する磁気浮上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引式磁気浮上は、鉄製のガイドレールに対する電磁石の吸引力によって対象物を非接触で支持する技術である。非接触状態の保持は、一般に対象物(浮上体)の浮上ギャップ長や電磁石コイルの電流を検出して、電磁石コイルの吸引力(励磁電流)を制御することによって行う。
【0003】
これに対して、磁石ユニットを永久磁石と電磁石で構成する方式が開発された。この方式は、永久磁石の主磁束と電磁石の主磁束によって形成される磁気回路がガイドレールと磁石ユニット間の空隙で共通の磁路を形成するように磁石ユニットとガイドレールを配置して、浮上状態の安定性を維持しながら電磁石の励磁電流をゼロに収束させる所謂「ゼロパワー制御」により実現される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このゼロパワー制御では、浮上体に加えられる外力が一定のとき、電磁石の励磁電流はゼロに収束しており、外力が変動したときのみ電流が流れることになる。このため、安定状態では、電力をほとんど消費することなく、浮上体を非接触で支持することができる。
【0005】
なお、常温で扱えるので、本方式を用いた磁気浮上装置のことを「常電導吸引式磁気浮上装置」と呼んでいる。
【0006】
このような磁気浮上装置は、ガイドレールと磁石ユニット間の空隙長が大きい場合でも、わずかな励磁電流で大きな電磁力を制御できるといった利点もあり、例えばエレベータの乗りかごなどに適用される(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ここで、ゼロパワー制御には、上述の特許文献1などに見られるように各種の制御方法がある。なかでも、制御系全体のパラメータ変動に対して確実に電磁石の励磁電流をゼロに収束できるという点で、電磁石の励磁電流を積分器を介して制御系にフィードバックする手法を用いる場合が多い。
【0008】
ゼロパワー制御では、浮上体に外力が加わると、励磁電流がゼロに収束するのに伴って永久磁石の吸引力が外力とバランスするような状態が維持される。このため、例えば、強磁性のガイドと浮上体の磁石ユニット間のギャップ長を広げる方向の外力に対しては浮上ギャップ長が減少して安定状態が維持される。
【0009】
このゼロパワー制御独特の応答のため、過大な外力によって磁石ユニットとガイドが接触すると、ガイドからの反力がギャップ長を広げる方向に作用し、ますますギャップ長が減少するように制御が働き、ついには磁石ユニットがガイドに吸着してしまう。磁石ユニットがガイドに吸着した後も、ガイドからの反力によりギャップ長を減少させるように電磁石励磁電流が制御されるため、外力を取り除いても、浮上体を再び非接触支持することは不可能となる。
【0010】
こうした現象は、フィードバック制御系に組み込まれた電流積分器がいつまでも動作していることに起因している。そこで、通常は、電流積分器にリミッタが設けられる(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
すなわち、電流積分器の入力側に電流信号入力とゼロ入力を切り換えるための切換え器を設け、電流積分器の出力値がリミッタの上限を超える場合に、電流積分器に入力される電流信号が負になる場合にのみ電流信号入力を選択し、それ以外ではゼロ入力を選択する。これにより、過大な外力が印加されたときの電流積分器の出力増加を制限して、磁石ユニットのガイドヘの吸着を防止することができる。
【0012】
なお、吸着防止には、磁石ユニットがガイドに吸着した状態をギャップセンサで検出し、そのときに電流積分器の演算結果をゼロにリセットすることも可能である。しかし、このリセット手法では、電流積分器をリセットしたときに電磁石励磁電圧が急変するので、浮上体に大きな揺れが発生してしまう問題がある。これに対し、リミッタを用いる手法は、積分フィードバック制御におけるアンチワインドアップと呼ばれ、浮上体に揺れを生じさせることなく吸着を防止できるといった利点がある。
【0013】
この他、浮上体がガイドに吸着したことをギャップセンサで検知し、電流積分器の演算を初期値ゼロからやり直す手法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法は、電流積分器がリセットされたときに、電磁石励磁電圧が急変し、浮上体に大きな揺れが生じるが、簡便に吸着状態を回避できるといった利点がある。
【0014】
さらに、浮上体の揺れを抑制するため、状態観測器を用いて外力を推定し、その推定した外力を電磁石励磁電圧にフィードバックする手法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。この手法は、前記特許文献2の手法に比べて、浮上体の揺れは大きいが、浮上体への負荷重量の搭載など、他の機械的要因で生じる浮上体の揺れを抑制できるといった利点がある。
【0015】
浮上体の揺れを考慮すると、吸着防止には、前記特許文献2の手法が好ましい。しかし、浮上体を安定化するためのフィードバックゲインに電流積分器の出力が依存するため、浮上状態のチューニングのために制御ゲインを変更すると、リミッタの上下限値を再設定しなければならず、その調整作業に多大な時間を要する。また、こうした調整時間の増大はコストアップにつながる。
【0016】
また、電流積分器にゼロ信号が入力されて、ゼロパワー制御が停止すると、外力の増加と共に浮上ギャップ長が増大し、結果として励磁電流が増加する。励磁電流の増加は電力消費量の増加を招き、電気系の容量アップや発熱量の増加を引き起こすため、装置の信頼性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−102105号公報
【特許文献2】特開平2001−19286号公報
【特許文献3】特開昭62−7304号公報
【特許文献4】特開昭62−7303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、従来の磁気浮上装置にあっては、ゼロパワー制御の作動・停止を電流積分器の出力の大きさで決定していた。このため、制御パラメータを変更すると、電流積分器を再設定しなければならず、浮上状態の調整に多大な時間を要するという問題があった。しかも、こうした問題は調整費を増大させ、装置のコストアップを招いていた。
【0019】
また、ゼロパワー制御が停止すると、外力の印加に伴って電磁石の励磁電流が増大するため、装置の大型化や、発熱による装置の信頼性低下といった問題もあった。
【0020】
本発明は、かかる事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、ゼロパワー制御の調整作業を簡素化すると共に、ゼロパワー制御の停止に伴う励磁電流の増加を抑制して、コストの低減と信頼性の向上を図ることのできる磁気浮上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る磁気浮上装置は、強磁性体のガイドと、このガイドに空隙を介して対向し、当該空隙中において磁路を共有する電磁石と永久磁石で構成される磁石ユニットと、前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力によって非接触で支持される浮上体と、前記電磁石の励磁電流を検出する電流センサと前記浮上体の浮上時における前記磁石ユニットと前記ガイドとの間のギャップ長を検出するギャップセンサとからなるセンサ部と、前記ギャップセンサの出力が予め設定された範囲内にあるか否かを検出するギャップ長範囲検出手段と、このギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、その時点でのギャップ長と基準値との偏差を示すギャップ長偏差を記憶する記憶手段と、前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して、前記浮上体の運動を前記ガイドに対して非接触状態で安定化させる支持制御手段と、この支持制御手段によって前記浮上体が前記ガイドに対して非接触状態で支持されている状態で、前記電流センサの出力に基づいて前記電磁石の励磁電流をゼロに収束させて前記浮上体の運動を安定化させる電流積分器を有するゼロパワー制御手段と、前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差に基づいて前記キャップ長を一定の状態で維持して前記浮上体の運動を安定化させるギャップ長偏差積分器を有するギャップ長一定制御手段と、前記ギャップ長範囲検出手段の出力に基づいて前記ゼロパワー制御手段と前記ギャップ長一定制御手段を切り換えるべく、前記電流積分器および前記ギャップ長偏差積分器の入力を交互にゼロにする積分切換え手段と、前記浮上体に印加される外力を推定する状態観測手段と、この状態観測手段によって推定された外力に基づいて前記記憶手段をリセットするリセット手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ギャップ長を用いてゼロパワー制御のON/OFFを決定することができ、調整作業が簡素化される。これにより、調整時間が短縮されコストの低減を図ることができる。
【0023】
さらに、ゼロパワー制御がOFFするとギャップ長一定制御がONするため、浮上体がガイドに接触しにくくなる他、外力の増大に対して電磁石励磁電流の増加が抑制される。このため、装置が小型化して電力消費が低減されると共に発熱も少なくなり、装置の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明に係る磁気浮上装置の原理を説明するための概略構成図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態における磁気浮上装置に設けられたギャップ長範囲検出器の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は同実施形態における磁気浮上装置に設けられた記憶器の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は本発明の第2の実施形態に係る磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の全体の構成を示す斜視図である。
【図6】図6は同実施形態における磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は同実施形態における磁気浮上装置の磁気ユニット周辺の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は同実施形態における磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す平面図である。
【図9】図9は同実施形態における制御装置の全体的な構成を示すブロック図である。
【図10】図10は同実施形態における制御装置に設けられた制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。
【図11】図11は同実施形態における制御装置に設けられたギャップ長範囲検出器の構成を示すブロック図である。
【図12】図12は同実施形態における制御装置に設けられたx,θモード記憶器の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は同実施形態における制御装置に設けられたy,ξ,ψモード記憶器の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は同実施形態における制御装置に設けられた制御電圧演算回路の他の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は本発明の第3の実施形態に係る磁気浮上装置の全体の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の基本的な原理について説明する。
【0026】
図1は本発明の原理を説明するための磁気浮上装置の基本構成を示す図であり、一質点系の磁気浮上装置の全体構成が符号1で示されている。
【0027】
磁気浮上装置1は、永久磁石103および電磁石105で構成される磁石ユニット107と、磁石ユニット107と負荷荷重109からなる浮上体111と、図示せぬ構造部材で地上に対して固定されるガイド113とを備える。
【0028】
また、この磁気浮上装置1は、磁石ユニット107の吸引力を制御して、浮上体111を安定に非接触支持するための電磁石励磁電圧を演算する励磁電圧演算部115と、この励磁電圧演算部115の出力に基づいて電磁石105を励磁するためのドライバ116とを備える。
【0029】
なお、125は補助支持部である。この補助支持部125は、コの字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定されると共に、例えば図示せぬリニアガイド等の上下方向に力が作用しない案内部で地上側から案内される防振台のテーブルを兼ねている。
【0030】
ここで、磁石ユニット107の磁気的吸引力で浮上体111を非接触で支持するため、ガイド113は強磁性部材で構成されている。
【0031】
電磁石105は鉄心117a,117bにコイル119,119’を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれ鉄心117a,117bが配置されている。コイル119,119’は電磁石105の励磁によってガイド113〜鉄心117a〜永久磁石103〜鉄心117b〜ガイド113で形成される磁路の磁束が強まる(弱まる)ように直列に接続されている。
【0032】
また、励磁電圧演算部115は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長zおよび電流センサ123で得られるコイル電流値つまり励磁電流izに基づいて、電磁石105を励磁する電圧を演算している。ドライバ116は、この励磁電圧演算部115によって演算された励磁電圧に基づいて、リード線128を介してコイル119,119’に励磁電流を供給している。
【0033】
このとき、磁気浮上装置1の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長z0の近傍で線型近似でき、以下の微分方程式で記述される。
【数1】
【0034】
Fzは磁石ユニット107の吸引力、mは浮上体111の質量、Rはコイル119,119’とリード線128を直列に接続したときの電気抵抗(以下、コイル抵抗と称す)、zは浮上ギャップ長、izは電磁石105の励磁電流、φは磁石ユニット107の主磁束、ezは電磁石105の励磁電圧、Nはコイル119,119’の総巻回数である。
【0035】
Δは定常浮上状態(z=z0,iz=iz0(定常浮上状態でコイル電流がゼロの場合はiz=Δiz))からの偏差、記号“・”は時間に関するd/dt(1階微分)、“・・”は同2階微分を表わす。偏微分∂/∂h(h=z,iz)は、定常浮上状態(z=z0,iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏微分値である。Lz0は、L∞をギャップ長無限大とした場合の電磁石105の自己インダクタンスとして、式2のように表せる。
【数2】
【0036】
また、前記式1の浮上系モデルは、下記のような状態方程式となる。
【数3】
【0037】
ただし、状態ベクトルx、システム行列A、制御行列bおよび外乱行列dは、以下のように表される。なお、usは外力である。
【数4】
【0038】
ここで、式4中のパラメータは、以下のようになる。
【数5】
【0039】
式3中のxの各要素が浮上系の状態量である。Cは出力行列であり、励磁電圧ezの計算に用いる状態量の検出方法により決定される。磁気浮上装置1では、ギャップセンサ121と電流センサ123を使用しており、ギャップセンサ121の信号を微分して速度を得る場合に、Cは単位行列となる。ここで、xの比例ゲインFを、
【数6】
【0040】
Kiを積分ゲインとして励磁電圧ezを例えば、
【数7】
【0041】
で与えれば、浮上体111は特許文献1に見られるゼロパワー制御で浮上する。ここで、式6において、右辺第二項がゼロパワー制御を実現するための電流積分器である。なお、この電流積分器については、後に図2で符号159を付して説明する。
【0042】
一方、励磁電圧ezを次の式7で与えると、外力usに対してギャップ長が任意の一定値、例えば、z0+z1に収束する。
【数8】
【0043】
ここで、xの比例ゲインFgは、
【数9】
【0044】
であり、Kgは積分ゲインである。この場合、式7の右辺第二項がギャップ長一定制御を実現するためのギャップ長偏差積分器である。なお、このギャップ長偏差積分器については、後に図2で符号169を付して説明する。
【0045】
さらに、式3のシステムでは、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δizから外力usを推定する状態観測器(オブザーバ)を次の式8のように構成できる。
【数10】
【0046】
ただし、制御出力yは出力行列Cを、
【数11】
【0047】
として、
【数12】
【0048】
である。さらに、
【数13】
【0049】
と定義されており、ここに、α11,α21:オブザーバ設計時に決定されるパラメータ、xd^:オブザーバ出力、z^:オブザーバ内部変数である。
【0050】
なお、「^」の記号は推定値を表し、「ハット」と呼ぶ。実際には、数式中に示されているように、xやzなどのパラメータの真上に付加されるものであるが、文章中では便宜的に右上に付加するものとする。
【0051】
式8は最小次元状態観測器(最小次元オブザーバ)であり、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δizからギャップ長変化速度の推定値Δz’^および外力の推定値us^を演算する。なお、最小次元状態観測器については、後に図2で符号149を付して説明する。
【0052】
ゼロパワー制御が停止しているときに、外力usに対してΔzの定常偏差をなくすには、オブザーバ出力xd^に係るフィードバック定数Feを
【数14】
【0053】
とし、励磁電圧ezを次式で与えてやればよい。
【数15】
【0054】
ただし、
【数16】
【0055】
である。
【0056】
前記特許文献4でも述べられているように、ゼロパワー制御が動作している場合には、外力推定値us^の比例ゲインF4を
【数17】
【0057】
と設定し、励磁電圧を
【数18】
【0058】
で与えると、外力に対するギャップ長の変動が抑制される。
【0059】
一般に、式9と式10の値の差はわずかであり、式9もしくは式10で比例ゲインF4を設定すれば、ゼロパワー制御がOFFのとき、つまり電流積分器が停止中のときにはギャップ長一定制御が作動する。しかし、F4はΔizの比例ゲインF3の値に依存しており、浮上調整の際にF3が変更されると、F4を再設定しなければならない。
【0060】
一方、式7の励磁電圧を
【数19】
【0061】
ただし、
【数20】
【0062】
で与えると、式7のギャップ長一定制御において、外力に対するギャップ長の変動を抑えることができる。
【0063】
いま、kを0<k<1の定数とし、励磁電圧ezを次式で与える場合を考える。
【数21】
【0064】
ここで、nは積分器への入力スイッチであり、ギャップ長が所定の範囲内にあるときは1、そうでないときはゼロとなる。つまり、ゼロパワー制御で浮上する浮上体111に大きな外力が印加され、ギャップ長が減少して所定の範囲から外れ、磁石ユニット107がガイド113に接近すると、nがゼロとなり、電流積分器への入力がゼロになる。
【0065】
このとき、ギャップ長偏差積分器への入力はゼロからギャップ長偏差信号となるので、式13のz1(ギャップ長偏差目標値)の値をギャップ長が所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差Δzuに設定すれば、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御にスムーズに切り替わることができる。なお、通常のΔzと区別するために、所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差をΔzuと表記している。
【0066】
なお、式8の最小次元状態観測器(最小次元オブザーバ)では、ギャップ長が所定の範囲から外れたとき外力が推定されている。
【0067】
ギャップ長が所定の範囲の限界値となる外力推定値をusu^とすれば、このとき演算されている外力推定値us^はus^>usu^の関係にある。ギャップ長一定制御が動作しているので、浮上体111のギャップ長はギャップ長z0+zlで一定となる。これにより、外力が増加しても磁石ユニット107がガイド113に吸着することはない。
【0068】
外力が取り除かれると、オブザーバの演算する外力推定値はus^<usu^の関係となる。この関係が成立した時点で、ギャップ長偏差目標値zlをΔzuからゼロにリセットすると、ギャップ長一定制御の作用で浮上体111は浮上ギャップ長z0に戻ることになる。
【0069】
ギャップ長が戻る途中では、ギャップ長が再び所定の範囲内に入るので、式13のnがゼロから1に代わり、電流積分器への入力がゼロから電流偏差信号になり、同時にギャップ長偏差積分器への信号がギャップ長偏差信号からゼロになる。すると、再びゼロパワー制御が開始され、電磁石105の励磁電流はゼロに収束する。
【0070】
ここで、係数kは式11のゼロパワー制御と式12のギャップ長一定制御の収束の速さを規定する。つまり、係数kが大きければ、励磁電流のゼロヘの収束が早くなり、ギャップ長z0+zlへの収束が遅くなる。多くの場合、大きな外力が印加されるのは緊急の場合であるので、励磁電流をゼロに収束させるゼロパワー制御の特性を生かすため、kは大きめに設定される。
【0071】
このように、電流積分器やギャップ長偏差積分器に条件によってゼロが入力される場合には、式11および式12の右辺第一項のみで磁気浮上系の安定性が維持できるようにFeやFegが設定されており、これらフィードバック定数を含む項が磁気浮上系を安定化させる支持制御手段となる。
【0072】
一般に、ゼロパワー制御における浮上体111のノミナル値は、ギャップ長がz0で、励磁電流がゼロの場合である。ギャップ長一定制御では、ギャップ長がz0+zlで励磁電流がゼロの場合とすることが望ましい。このため、式8の状態観測器は、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用の2組が備えられることになる。図1では、励磁電圧演算部115において、式13とこれら2組の式8が備えられることになる。
【0073】
なお、zlをリセットする外力推定値については、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用のどちらの状態観測器を用いてもよいことはいうまでもない。
【0074】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0075】
(第1の実施形態)
(1)全体構成
図2は本発明の第1の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体構成が1’で示されている。
【0076】
この磁気浮上装置1’は、上述した磁気浮上装置1と同一の構成であり、浮上体111、ガイド113、ドライバ116、ギャップセンサ121、電流センサ123および励磁電圧演算部115を備えている。ここで、電流センサ123で検出される励磁電流izは目標値をゼロとした場合の電流偏差Δizと同じである。
【0077】
この磁気浮上装置1’にあっては、励磁電圧演算部115が次のように構成されている。
【0078】
すなわち、励磁電圧演算部115は、センサ部130と、減算器131と、ゼロパワー制御器133と、ギャップ長範囲検出器135と、記憶器137と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
【0079】
センサ部130は、浮上体の浮上時における磁石ユニット107とガイド113との間のギャップ長を検出するギャップセンサ121と、電磁石105の励磁電流を検出する電流センサ123とからなる。
【0080】
減算器131は、センサ部130から出力されるギャップ長zを入力して、そのギャップ長zとノミナルギャップ長z0とのギャップ長偏差Δzを求める。ノミナルギャップ長z0は、予め浮上の基準値として設定されている。
【0081】
ゼロパワー制御器133は、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130から出力される電流偏差Δizを入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧eiを演算する。
【0082】
ギャップ長範囲検出器135は、センサ部130から出力されるギャップ長zを入力して、そのギャップ長zが所定の範囲内にあるときに1、そうでないときにゼロを出力する。
【0083】
記憶器137は、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzを入力して、ギャップ長範囲検出器135の出力が1からゼロに変わった瞬間のギャップ長偏差Δzの値をz1として記憶する。
【0084】
減算器139は、現在のギャップ長偏差Δzと記憶器137から出力されるギャップ長偏差z1との差分を演算する。
【0085】
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−z1およびセンサ部130から出力される電流偏差Δizを入力して、上述した式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egを演算する。
【0086】
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力eiに所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力egに所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143の出力とゲイン乗算器145の出力とを加算する。
【0087】
なお、ゲイン補償器143,145および加算器147は、ゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算するための線形和演算手段として動作している。この線形和演算手段の出力に基づいて、磁石ユニット107の吸引力が制御される。
【0088】
(2)ゼロパワー制御器133の構成
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備える。
【0089】
最小次元状態観測器149は、減算器131からのギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130からの電流偏差Δizを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定植Δz’^および外力の推定値us^を演算する。
【0090】
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0091】
励磁電流設定器153は、電磁石105の励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0092】
減算器155は、励磁電流設定器153の出力からセンサ部130の出力である励磁電流偏差Δizを減算する。
【0093】
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、ギャップ長範囲検出器135の出力が1のとき、減算器155の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力がゼロのときはゼロを出力する。
【0094】
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0095】
減算器161は、電流積分器159の出力から前記ゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
【0096】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループL1が支持制御手段として用いられる。また、電流センサ123から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至る制御ループL2がゼロパワー制御手段として用いられる。
【0097】
ここで、記憶器137には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器137に記憶されているギャップ長偏差Δzuに代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0098】
(3)ギャップ長一定制御器141の構成
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備える。
【0099】
最小次元状態観測器149’は、減算器139からのギャップ長偏差Δz−z1およびセンサ部130からの電流偏差Δizを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定植Δz’^および外力の推定値us^を演算する。
【0100】
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じて、それらの総和を出力する。
【0101】
ギャップ長設定器163は、浮上ギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0102】
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
【0103】
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、ギャップ長範囲検出器135の出力がゼロのときは減算器165の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力が1のときはゼロを出力する。
【0104】
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0105】
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。この減算器171からギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egが出力される。
【0106】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループL1’が支持制御手段として用いられる。また、減算器131から減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至る制御ループL3がギャップ長一定制御手段として用いられる。
【0107】
なお、同一構成を有する箇所には同一番号を付し、’により区別している。また、ベクトル出力信号は二重線、スカラー出力信号は一重線で区別している。
【0108】
(4)ギャップ長範囲検出器135の構成
図3はギャップ長範囲検出器135の構成の構成を示すブロック図である。
【0109】
ギャップ長範囲検出器135は、最小ギャップ長設定器173と、最大ギャップ長設定器175と、減算器177と、減算器179と、切換え器181と、切換え器183と、乗算器185とを備えている。
【0110】
最小ギャップ長設定器173は、最小ギャップ長を設定する。最大ギャップ長設定器175は、最大ギャップ長を設定する。
【0111】
減算器177は、ギャップセンサ121の信号を入力して最小ギャップ長設計器173の出力を減算する。減算器179は、ギャップセンサ121の信号を入力して最大ギャップ長設計器175の出力を減算する。
【0112】
切換え器181は、減算器177の出力が正のときに1を選択し、減算器177の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。切換え器183は、減算器179の出力が正のときに1を選択し、減算器179の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。乗算器185は、切換え器181の出力と切換え器183の出力とを乗じて出力する。
【0113】
(5)記憶器137の構成
図4は記憶器137の構成を示すブロック図である。
【0114】
記憶器137は、立下り検出器187と、メモリー要素189と、切換え器191と、外力範囲検定器193と、乗算器195とを備えている。
【0115】
立下り検出器187は、ギャップ長範囲検出器135の出力を入力して、当該出力値の0.5に対する立下りを検出したときに1を出力し、そうでないときはゼロを出力する。
【0116】
メモリー要素189は、初期値をゼロとして切換え器191の出力を記憶する。
【0117】
切換え器191は、立下り検出器187が1のときにギャップセンサ121の出力を選択し、立下り検出器187が1でないときにメモリー要素189の出力を選択する。
【0118】
外力範囲検定器193は、最小次元状態観測器149の外力推定値us^を入力して、その外力推定値us^の値が所定の範囲内にあるときはゼロを出力し、そうでないときは1を出力する。乗算器195は、メモリー要素189の出力と外力範囲検定器193の出力を乗算する。外力範囲検定器193および乗算器195は記憶器137の出力を初期値のゼロにするためのリセット手段を構成している。
【0119】
(立下り検出器187の構成)
立下り検出器187は、減算器197と、遅れ要素201と、切換え器203と、切換え器205と、乗算器207と、切換え器209と、切換え器211と、乗算器213とを備えている。
【0120】
減算器197は、ギャップ長範囲検出器135の出力から0.5を減じる。遅れ要素201は、減算器197の出力を例えばデジタル制御において1サンプル時間だけ遅らせて出力する。
【0121】
切換え器203は、遅れ要素201の出力が正のとき1を出力し、そうでないとき−1を選択して出力する。切換え器205は、減算器197の出力が正のときに1を選択し、減算器197の出力が正でないときに−1を選択して出力する。乗算器207は、切換え器203の出力と切換え器205の出力とを乗じて出力する。
【0122】
切換え器209は、乗算器207の出力が正のときにゼロを選択し、乗算器207の出力が正でないときに1を選択して出力する。切換え器211は、減算器197の出力が正のときにゼロを選択し、減算器197の出力が正でないときに1を選択して出力する。乗算器213は、切換え器209の出力と切換え器211の出力とを乗じて出力する。この乗算器213の出力が立ち下がり検出器の出力となっている。
【0123】
(外力範囲検定器193の構成)
外力範囲検定器193は、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0124】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0125】
減算器219は、最小外力設定器215の設定値を最小次元状態観測器149の外力推定値us^から減算する。減算器221は、最大外力設定器217の設定値を最小次元状態観測器の外力推定値us^から減算する。
【0126】
切換え器223は、減算器219の出力が正のときにゼロを選択し、減算器219の出力が正でないときに1を選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のときにゼロを選択し、減算器221の出力が正でないときに1を選択して出力する。
【0127】
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193の出力となっている。
【0128】
(動作説明)
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
【0129】
いま、装置の電源がOFFされて、浮上体111がガイド113に吸着しているとする。この状態で、装置の電源をONすると、浮上体111が吸着状態にあるために、ギャップセンサ121から最小ギャップ長設定器173に設定されている最小ギャップ長より小さい値が出力される。
【0130】
したがって、図3に示したギャップ長範囲検出器135内部において、切換え器181では−0.5が選択され、切換え器183では0.5が選択され、加算器185からゼロが出力される。
【0131】
一方、記憶器137からは初期値ゼロが出力されている。そして、ギャップ長範囲検出器135のゼロ出力が切換え器157,167にそれぞれ入力されるため、電流積分器159にはゼロが入力されることになる。
【0132】
また、ギャップ長偏差積分器169には減算器139の出力Δz−z1(ここで、z1=0)が入力され、ギャップ長一定制御が開始される。このとき、励磁電流設定器153では所定の負の値から時間の経過と共に徐々にゼロに近づく励磁電流目標値が設定され、ギャップ長設定器163では吸着時のギャップ長偏差の値(所定の負の値)から徐々にゼロに近づくギャップ長目標値がそれぞれ設定されている。これにより、浮上体111は穏やかな応答で所定のギャップ長z0に向かって浮上を開始する。
【0133】
やがて、浮上ギャップ長が最小ギャップ長設定器173に設定されている最小ギャップ長より大きくなると、ギャップ長範囲検出器135が1を出力する。これにより、ギャップ長偏差積分器169が積分演算動作を停止すると共に、電流積分器159が積分演算を開始して、ギャップ長一定制御からゼロパワー制御に切り換わる。
【0134】
ここで、ゼロパワー制御で浮上状態にある浮上体111の補助支持部125の上面に負荷荷重が印加されると、永久磁石103の吸引力が浮上体総重力とバランスするため、ギャップ長が減少する。負荷荷重がさらに増加すると、ギャップ長がさらに減少して、ついには最小ギャップ長設定器173に設定された最小ギャップ長よりも小さくなる。
【0135】
このとき、図4に示した記憶器137において、最小次元状態観測器149で推定される外力推定値us^が最大外力設定器217の設定値よりも大きくなっていると、切換え器223にてゼロが選択され、切換え器227にて1が選択されるため、外力範囲検定器193から1が出力される。
【0136】
一方、立下り検出器187では、ギャップ長範囲検出器135の出力が1からゼロに変わる瞬間にのみ1を出力する。このため、ギャップ長が最小ギャップ長の設定値よりも小さくなった瞬間の実際のギャップ長偏差z1が切換え器191を介してメモリー要素189に記憶される。これにより、記憶器137からギャップ長偏差z1が出力される。
【0137】
このとき、ギャップ長が最小ギャップ長の設定値よりも小さくなるため、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御に切り換わる。その後、負荷荷重の増加に対してギャップ長一定制御が継続し、浮上体111がガイド113に接触することはない。また、ギャップ長一定制御が動作するので、フィードバックゲインであるゲイン補償器151,151’の値を変更しても励磁電流が大きく増加することがない。
【0138】
また、負荷荷重が減少し、浮上ギャップ長が最大外力設定値より小さくなると、切換え器225がゼロを選択するため、記憶器137の出力はz1からゼロにリセットされる。これにより、ギャップ長偏差積分器169においてギャップ長偏差Δzが積分されるため、浮上体111は所定のギャップ長z0に向かって移動する。すると、浮上ギャップ長が増加し、最小ギャップ長の設定値よりも大きくなってゼロパワー制御が再開することになる。
【0139】
操作が終了し、装置を停止する場合には、励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163のそれぞれの設定値をゼロから所定の負の値に徐々に収束させればよい。ゼロパワー制御時は電流目標値の減少により、ギャップ長一定性制御時はギャップ長偏差目標値の減少により浮上体111のギャップ長が減少し、やがて浮上体111はガイド113に吸着する。この時点で装置の電源をOFFして装置の運転が終了する。
【0140】
以上のように、本実施形態における磁気浮上装置によれば、ギャップ長を用いてゼロパワー制御のON/OFFを決定することができ、調整作業が簡素化される。これにより、調整時間が短縮されコストの低減を図ることができる。
【0141】
さらに、ゼロパワー制御がOFFするとギャップ長一定制御がONするため、浮上体がガイドに接触しにくくなるほか、外力の増大に対して電磁石励磁電流の増加が抑制される。このため、装置が小型化して電力消費が低減されると共に発熱も少なくなり装置の信頼性向上を図ることができる。
【0142】
なお、本実施形態では、ギャップ長一定制御器141が最小次元状態観測器149’およびゲイン補償器151’を備えているが、磁気浮上系の安定化が図れる場合には最小次元状態観測器149’,ゲイン補償器151’および減算器171を省略してもなんら差し支えない。
【0143】
また、本実施形態では、浮上体111に印加される外力を推定する手段として、式8に基づく最小次元状態観測器を用いているが、これは、状態観測器の形態をなんら限定するものでなく、例えば、同一次元状態観測器や他の外力推定手法を用いてもよい。
【0144】
また、本実施形態では、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzを記憶器137に入力する構成としたが、記憶器137にギャップ長zを記憶した後で、ギャップ長zとノミナルギャップ長z0とのギャップ長偏差Δzを求めることでもよい。
【0145】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0146】
第2の実施形態では、浮上体の運動座標系の各モード毎に励磁電圧、励磁電流を演算することを特徴とする。ここでは、本発明の磁気浮上装置をエレベータに適用した場合を例にして説明する。
【0147】
図5は本発明の第2の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、この磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の構成が全体として符号10で示されている。
【0148】
また、図6はその磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図、図7はその磁気浮上装置の磁石ユニット周辺の構成を示す斜視図、図8はその磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す立面図である。
【0149】
図5に示すように、エレベータシャフト12の内面にガイドレール14,14’と、移動体16と、4つの案内ユニット18a〜18dが構成されている。ガイドレール14,14’は、強磁性部材で構成され、エレベータシャフト12内に所定の取り付け方法で敷設されている。
【0150】
移動体16は、上述した磁気浮上装置の浮上体に相当する。この移動体16は、ガイドレール14,14’に沿って、例えばロープ15の巻上げ機等の図示せぬ駆動機構を介して上下方向に移動する。案内ユニット18a〜18dは、移動体16に取り付けられており、この移動体16をガイドレール14,14’に対して非接触で案内する。
【0151】
移動体16には、乗りかご20と案内ユニット18a〜18dが取り付けられる。移動体16は、案内ユニット18a〜18dの所定の位置関係を保持可能な強度を有するフレーム部22を備えている。図6に示すように、このフレーム部22の四隅には、ガイドレール14,14’と対向する案内ユニット18a〜18dが所定の方法で取り付けられている。
【0152】
案内ユニット18は、図7に示すように、非磁性材料(例えばアルミやステンレス)もしくはプラスチック製の台座24にx方向ギャップセンサ26(26b,26b’)、y方向ギャップセンサ28(28b,28b’)および磁石ユニット30を所定の方法で取り付けて構成されている。
【0153】
磁石ユニット30は、中央鉄心32、永久磁石34,34’、電磁石36,36’で構成されており、図8にも示されているように、永久磁石34,34’の同極同士が中央鉄心32を介して向かい合う状態で全体としてE字形状に組み立てられている。
【0154】
電磁石36,36’は、L字形状の鉄心38(38’)をコイル40(40’)に挿入後、鉄心38(38’)の先端部に平板形状の鉄心42を取り付けて構成されている。中央鉄心32および電磁石36,36’の先端部には、個体潤滑部材43が取付けられている。この個体潤滑部材43は、電磁石36,36’が励磁されていない時に永久磁石34,34’の吸引力で磁石ユニット30がガイドレール14(14’)に吸着して固着することを防止し、かつ、吸着状態でも移動体16の昇降に支障が出ないようにするために設けられている。この個体潤滑部材43としては、例えばテフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料がある。
【0155】
以下では、簡単のために、主要部分を示す番号に案内ユニット18a〜18dのアルファベット(a〜d)を付して説明する。
【0156】
磁石ユニット30bでは、コイル40b,40b’を個別に励磁することでガイドレール14’に作用する吸引力をy方向とx方向に関して独立に制御することができる。この制御方式については、特許文献2に記載されているため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0157】
案内ユニット18a〜18dの各吸引力は、上述した励磁電圧演算部115として用いられる制御装置44により制御され、乗りかご20およびフレーム部22がガイドレール14,14’に対して非接触に案内される。
【0158】
なお、制御装置44は図5の例では分割されているが、例えば図9に示すように、全体として1つに構成されていても良い。
【0159】
図9は同実施形態における制御装置内の構成を示すブロック図、図10はその制御装置内のモード制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。なお、ブロック図において、矢印線は信号経路を、棒線はコイル40周辺の電力経路を示している。
【0160】
この制御装置44は、センサ部61と、演算回路62と、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’とを備えており、これらで4つの磁石ユニット30a〜30dの吸引力をx軸,y軸について独立に制御している。
【0161】
演算回路62は、このセンサ部61からの信号に基づいて移動体16を非接触案内させるべく、各コイル40a,40a’〜40d,40d’を励磁するための印加電圧を演算する励磁電圧演算部として用いられる。パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’は、この演算回路62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する励磁部として用いられる。
【0162】
また、電源46は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に電力を供給すると同時に定電圧発生装置48にも電力を供給している。なお、この電源46は、照明やドアの開閉のために図示せぬ電源線でエレベータシャフト12外から供給される交流をパワーアンプヘの電力供給に適した直流に変換する機能を有している。
【0163】
定電圧発生装置48は、パワーアンプ63への大電流の供給などにより電源46の電圧が変動しても常に一定の電圧で演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’に電力を供給する。これにより、演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は常に正常に動作する。
【0164】
センサ部61は、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’と、各コイル40の励磁電流を検出する電流検出器66a,66a’〜66d,66d’で構成されている。
【0165】
なお、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は、各々のオフセット電圧を調整して、乗りかご20がガイドレール14,14’に対して所定の位置関係で案内されている場合の浮上ギャップ長を基準として、当該浮上ギャップ長からの偏差を出力するように校正されている。
【0166】
加えて、各案内ユニット18に取り付けられている2つのx方向ギャップセンサ出力および2つのy方向ギャップセンサ出力のそれぞれを平均する平均化部27,27’が備えられている。これにより、x,yの各方向における磁石ユニット30とガイドレール14,14’間の浮上ギャップ長偏差Δxa,Δya〜Δxd,Δydが得られることはいうまでもない。
【0167】
演算回路62は、図5に示される運動座標系の各モード毎に移動体16の案内制御を行っている。ここで、前記各モードとは、移動体16の重心のy座標に沿った前後動を表すyモード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表すxモード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表すθモード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表すξモード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表すψモード(ヨーモード)である。
【0168】
また、これらのモードに加え、演算回路62は、ζモード(全吸引モード)、δモード(ねじれモード)、γモード(歪モード)についても案内制御を行っている。すなわち、磁石ユニット30a〜30dがガイドレール14,14’に及ぼす「全吸引力」、磁石ユニット30a〜30dがフレーム部22に及ぼすz軸周りの「ねじれトルク」、磁石ユニット30a,30dがフレーム部22に、磁石ユニット30b,30cがフレーム部22に及ぼす回転トルクでフレーム部22をz軸に対して左右対称に歪ませる「歪力」に関する3つのモードである。
【0169】
以上のような8つのモードに対し、磁石ユニット30a〜30dのコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の偏りが所定の範囲内であればその偏荷重トルクに関わらず永久磁石34の吸引力だけで移動体を安定に支持するゼロパワー制御を行い、偏荷重トルクが大きい場合にはギャップ長一定制御にて案内制御を行っている。
【0170】
演算回路62は、浮上体である移動体16の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させる各コイル40の励磁電流の線形結合で表させるモード別励磁電流を演算する機能と、同じく各コイル40の励磁電圧の線形結合で表させるモード別励磁電圧を演算する機能を備える。具体的には、次のように構成される。
【0171】
すなわち、図9に示すように、演算回路62は、ギャップ長偏差座標変換回路74と、電流偏差座標変換回路83と、制御電圧演算回路84と、制御電圧座標逆変換回路85と、x,θモードギャップ長範囲検出器68と、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69と、x,θモード記憶器70と、y,ξ,ψモード記憶器71とを備えている。
【0172】
ギャップ長偏差座標変換回路74は、ギャップ長偏差信号Δya,Δya’〜Δyd,Δyd’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる位置偏差Δy、x方向の運動に関わる位置偏差Δx、同重心のまわりのローリングに関わる角度偏差Δθ、移動体16のピッチングに関わる角度偏差Δξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる角度偏差Δψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する各偏差Δζ,Δδ,Δγを演算する。
【0173】
電流偏差座標変換回路83は、モード励磁電流演算手段として用いられる。この電流偏差座標変換回路83は、電流偏差信号Δia,Δia’〜Δid,Δid’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる電流偏差Δiy、x方向の運動に関わる電気偏差Δix、同重心のまわりのローリングに関わる電流偏差Δiθ、移動体16のピッチングに関わる電流偏差Δiξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる電流偏差Δiψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する電流偏差Δiζ,Δiδ,Δiγを演算する。
【0174】
ここで、ゼロパワー制御が適用される場合、各電流検出器の検出値を座標変換した演算結果iy〜iγは、そのまま各モードにおけるゼロ目標値からの電流偏差Δiy〜Δiγとなる。
【0175】
制御電庄演算回路84は、モード励磁電圧演算手段として用いられる。この制御電庄演算回路84は、ギャップ長偏差座標変換回路74および前記電流偏差座標変換回路83の出力Δy〜Δγ,Δiy〜Δiγよりy,x,θ,ξ,ψ,ζ,δ,γの各モードにおいて移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγを演算する。
【0176】
制御電圧座標逆変換回路85は、制御電圧演算回路84の出力ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγにより、磁石ユニット30a〜30dのそれぞれの電磁石励磁電圧ea,ea’〜ed,ed’を演算する。この制御電圧座標逆換回路85の演算結果つまりea,ea’〜ed,ed’は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に与えられる。
【0177】
x,θモードギャップ長範囲検出器68およびy,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69は、ギャップ長範囲検出手段として用いられる。
【0178】
x,θモードギャップ長範囲検出器68は、平均化部27からのギャップ長偏差信号Δxa〜Δxdを入力して移動体16のx方向ギャップセンサで検出される各磁石ユニット30のギャップ長偏差が所定の範囲内のときに1を、そうでないときはゼロを出力する。
【0179】
y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69は、平均化部27’からのギャップ長偏差信号Δya〜Δydを入力して移動体16のy方向ギャップセンサで検出される各磁石ユニット30のギャップ長偏差が所定の範囲内のときに1を出力し、そうでないときはゼロを出力する。
【0180】
x,θモード記憶器70は、平均化部27の出力であるギャップ長偏差Δxa〜Δxdを入力して、x,θモードギャップ長範囲検出器68の出力が1からゼロに変わるときのΔxa〜Δxdの値を記憶して出力する。また、このx,θモード記憶器70は、制御電圧演算回路84で演算されるx,θモードにおける外力推定値に基づいて出力の値をゼロにリセットする。
【0181】
y,ξ,ψモード記憶器71は、平均化部27’の出力であるギャップ長偏差Δya〜Δydを入力して前記y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1からゼロに変わるときのΔya〜Δydの値を記憶して出力する。また、この制御電圧演算回路84で演算されるy,ξ,ψモードにおける外力推定値に基づいて出力の値をゼロにリセットする。
【0182】
さらに、制御電圧演算回路84は、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86e、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88b、歪モード制御電圧演算回路88cで構成されている。
【0183】
前後動モード制御電圧演算回路86aは、ΔyおよびΔiyよりyモードの電磁石制御電圧eyを演算する。左右動モード制御電圧演算回路86bは、ΔxおよびΔixよりxモードの電磁石制御電圧exを演算する。ロールモード制御電圧演算回路86cは、ΔθおよびΔiθよりθモードの電磁石制御電圧eθ演算する。ピッチモード制御電圧演算回路86dは、ΔξおよびΔiξよりξモードの電磁石制御電圧eξ演算する。ヨーモード制御電圧演算回路86eは、ΔψおよびΔiψよりψモードの電磁石制御電圧eψ演算する。
【0184】
全吸引モード制御電圧演算回路88aは、Δiζよりζモードの電磁石制御電圧eζを演算する。ねじれモード制御電圧演算回路88bは、Δiδよりδモードの電磁石制御電圧eδを演算する。歪モード制御電圧演算回路88cは、Δiγよりγモードの電磁石制御電圧eγを演算する。
【0185】
これら各モードの制御電圧演算回路86a〜86c,88a〜88cのうち、y,x,θ,ξ,ψのモードについては第1の実施形態における励磁電圧演算部115と同様の構成を備えている。したがって、以下の図中では、同一箇所には同一記号を付して説明は省略する。
【0186】
また、煩雑さを避けるため、各モードのギャップ長偏差Δy,Δx,Δθ,Δξ,Δψ,Δζ,Δδ,ΔγをΔzで表し、同じく電流偏差Δiy,Δix,Δiθ,Δiξ,Δiψ,Δiζ,Δiδ,ΔiγをΔizで表すことにする。
【0187】
いま、前後動モード制御電圧演算回路86aを代表して、その構成を説明する。
図10に示すように、前後動モード制御電圧演算回路86aは、ゼロパワー制御器133と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
【0188】
ゼロパワー制御器133は、ギャップ長偏差座標変換回路74の出力であるギャップ長偏差Δyおよび電流偏差座標変換回路83の出力である電流偏差Δiyを入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧eiを演算する。
【0189】
減算器139は、ギャップ長偏差Δyからy,ξ,ψモード記憶器71の出力zlを減算する。
【0190】
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−zlおよび電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiyを入力して、上述した式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egを演算する。
【0191】
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力eiに所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力egに所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143の出力とゲイン乗算器145の出力とを加算する。
【0192】
なお、本実施形態においても、ゲイン補償器143,145および加算器147はゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算する線形和演算手段として動作している。
【0193】
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eでは、上述した減算器139に入力される信号z1がy,ξ,ψモード記憶器71の出力となる。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cでは、上述した減算器139に入力される信号z1がx,θモード記憶器70の出力となる。
【0194】
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備える。
【0195】
最小次元状態観測器149は、ギャップ長偏差座標変換回路74の出力Δyおよび電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiyを入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定値Δy’^および外力の推定値usy^を演算する。
【0196】
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0197】
励磁電流設定器153は、前後動モード励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0198】
減算器155は、励磁電流設定器153の出力から電流偏差座標変換回路83の出力である励磁電流偏差Δiyを減算する。
【0199】
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1のとき、減算器155の値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力がゼロのときはゼロを出力する。
【0200】
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0201】
減算器161は、電流積分器159の出力から前記ゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
【0202】
このような構成において、ギャップ長偏差座標変換回路74および電流偏差座標変換回路83から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループが支持制御手段として用いられる。また、電流偏差座標変換回路83から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至るループがゼロパワー制御手段として用いられる。
【0203】
ここで、y,ξ,ψモード記憶器71には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^(usy^,usξ^,usψ^)が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器71に記憶されているギャップ長偏差Δzu(Δyu,Δξu,Δψu)に代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0204】
一方、x,θモード記憶器70には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us^(usx^,usθ^)が入力されている。これにより、当該外力推定値us^が所定の範囲内にある場合には、記憶器70に記憶されているギャップ長偏差Δzu(Δxu,Δθu)に代えて、所定の初期値(例えば、ゼロ)が出力されることになる。
【0205】
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備える。
【0206】
最小次元状態観測器149’は、減算器139の出力および電流偏差座標変換回路83からの電流偏差信号を入力して、上述した式8に従ってギャップ長変化速度の推定値Δy’^および外力の推定値usy^を演算する。
【0207】
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
【0208】
ギャップ長設定器163は、前後動モードギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
【0209】
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
【0210】
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力がゼロのときは、減算器165の値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力が1のときはゼロを出力する。
【0211】
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
【0212】
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。この減算器171からギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egが出力される。
【0213】
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループが支持制御手段として用いられる。また、減算器131から減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至るループがギャップ長一定制御手段として用いられる。
【0214】
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eでは、外部から切換え器157,167に入力される信号がy,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力となる。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cでは、外部から切換え器157,167に入力される信号がx,θモードギャップ長範囲検出器68の出力となることはいうまでもない。
【0215】
他の制御電圧演算回路である左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御演算回路86dおよびヨーモード制御演算回路86eについても、上下動モード制御電圧演算回路86aと同様の構成であり、ここでは対応する入出力信号を信号名で示し、その説明は省略するものとする。
【0216】
図11はギャップ長範囲検出器68(69)の構成を示すブロック図である。
【0217】
x,θモードギャップ長範囲検出器68(y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69)は、平均化部27(27’)の4つの出力Δxa〜Δxd(Δya〜Δyd)に対応したギャップ長範囲検出手器135a〜135dと、加算器72と、減算器73と、切換え器75とを備える。
【0218】
ギャップ長範囲検出手器135a〜135dは、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、浮上ギャップ長が所定の範囲内にあるか否かを検出する。加算器72は、これらのギャップ長範囲検出手器135a〜135dの各出力の総和を演算する。減算器73は、加算器72の出力から3.5を減じる。切換え器75は、減算器73の出力が正のとき1を選択し、減算器73の出力が正でないときにゼロを選択して出力する。
【0219】
なお、切換え器75の出力がx,θモードギャップ長範囲検出器68(y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69)の出力であることは言うまでもない。
【0220】
図12はx,θモード記憶器70の構成を示すブロック図である。
【0221】
x,θモード記憶器70は、立下り検出器187と、2つの切換え器191b,191cと、2つのメモリー要素189b,189cと、外力範囲検定器193’と、2つの乗算器77b,77cと、2つのローパスフィルタ78b,78cとを備える。
【0222】
立下り検出器187は、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、x,θモードギャップ長範囲検出器68の信号を入力する。
【0223】
切換え器191bは、ギャップ長偏差座標変換回路74からΔxを入力すると共にメモリー要素189bの信号を入力して、立下り検出器187の出力が1になったときにΔxを選択し、1でないときにメモリー要素189bの出力を選択する。切換え器191cについても同様であり、立下り検出器187の出力に応じてΔθまたはメモリー要素189cの出力を選択する。
【0224】
メモリー要素189b,189cは、それぞれに初期値をゼロとして切換え器191b,191cの出力を記憶する。
【0225】
外力範囲検定器193’は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usx^およびusθ^の値に基づいて1かゼロを出力する。
【0226】
乗算器77b,77cは、それぞれに外力範囲検定器193’の出力とメモリー要素189b,89cの出力との積を演算する。
【0227】
ローパスフィルタ78b,78cは、それぞれに乗算器77b,77cの信号を入力し、所定の高周波成分を除去する。
【0228】
ここで、ギャップ長偏差座標変換回路74から入力されるx,θモードのギャップ長偏差に対応するローパスフィルタ78b,78cの出力がx,θモードの制御電圧演算回路86b,86cの減算器139にΔxu,Δθuとして入力されていることはいうまでもない。
【0229】
外力範囲検定器193’は、ゲイン乗算器80b,80cと、絶対値加算器79と、ローパスフィルタ76と、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0230】
ゲイン乗算器80b,80cは、それぞれにx,θモードの制御電圧演算回路86b,86cの最小次元状態観測器で推定された外力推定値usx^およびusθ^に所定のゲインを乗じる。
【0231】
絶対値加算器79は、ゲイン乗算器80bの出力の絶対値とゲイン乗算器80cの出力の絶対値とを加算する。
【0232】
ローパスフィルタ76は、絶対値加算器79の信号を入力して所定の高周波成分を除去する。
【0233】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0234】
減算器219は、ローパスフィルタ76の出力から最小外力設定器215の出力を減じる。減算器221は、最大外力設定器215の出力からローパスフィルタ76の出力を減じる。
【0235】
切換え器223は、減算器219の出力が正のとき1を選択し、減算器219の出力が正でないときゼロを選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のとき1を選択し、減算器221の出力が正でないときゼロを選択して出力する、
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193’の出力となっている。
【0236】
図13はy,ξ,ψモード記憶器71の構成を示すブロック図である。
【0237】
y,ξ,ψモード記憶器71は、立下り検出器187と、3つの切換え器191a,191d,191eと、3つのメモリー要素189a,189d,189eと、外力範囲検定器193”と、3つの乗算器77a,77d,77eと、3つのローパスフィルタ78a,78d,78eとを備える。
【0238】
立下り検出器187は、前記第1の実施形態と同様の構成を有し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の信号を入力する。
【0239】
切換え器191aは、ギャップ長偏差座標変換回路74からΔyを入力すると共にメモリー要素189aの信号を入力して、立下り検出器187の出力が1になったときにΔyを選択し、1でないときにメモリー要素189aの出力を選択する。切換え器191d,191eについても同様であり、切換え器191dは立下り検出器187の出力に応じてΔξまたはメモリー要素189dの出力を選択し、切換え器191eは立下り検出器187の出力に応じてΔψまたはメモリー要素189eの出力を選択する。
【0240】
メモリー要素189a,189d,189eは、それぞれに初期値をゼロとして切換え器191a,191d,191eの出力を記憶する。
【0241】
外力範囲検定器193”は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usy^,usξ^およびusψ^の値に基づいて1かゼロを出力する。
【0242】
乗算器77a,77d,77eは、それぞれに外力範囲検定器193”の出力とメモリー要素189a,189d,189eの出力との積を演算する。
【0243】
ローパスフィルタ78a,78d,78eは、それぞれに乗算器77a,77d,77eの信号を入力し、所定の高周波成分を除去する。
【0244】
ここで、ギャップ長偏差座標変換回路74から入力されるy,ξ,ψモードのギャップ長偏差に対応するローパスフィルタ78a,78d,78eの出力がy,ξ,ψモードの制御電圧演算回路86a,86d,86eの減算器139にΔθu,Δξu,Δψuとして入力されていることはいうまでもない。
【0245】
外力範囲検定器193”は、ゲイン乗算器80a,80d,80eと、絶対値加算器79と、ローパスフィルタ76と、最小外力設定器215と、最大外力設定器217と、減算器219と、減算器221と、切換え器223と、切換え器225と、加算器227とを備える。
【0246】
ゲイン乗算器80a,80d,80eは、それぞれにy,ξ,ψモードの制御電圧演算回路86a,86d,86eの最小次元状態観測器で推定された外力推定値usy^,usξ^,およびusψ^に所定のゲインを乗じる。
【0247】
絶対値加算器79は、ゲイン乗算器80a,80d,80eの各出力の絶対値を加算する。
【0248】
ローパスフィルタ76は、絶対値加算器79の信号を入力して所定の高周波成分を除去する。
【0249】
最小外力設定器215は、所定の最小外力を設定する。最大外力設定器217は、所定の最大外力を設定する。
【0250】
減算器219は、ローパスフィルタ76の出力から最小外力設定器215の出力を減じる。減算器221は、最大外力設定器215の出力からローパスフィルタ76の出力を減じる。
【0251】
切換え器223は、減算器219の出力が正のとき1を選択し、減算器219の出力が正でないときゼロを選択して出力する。切換え器225は、減算器221の出力が正のとき1を選択し、減算器221の出力が正でないときゼロを選択して出力する。
【0252】
加算器227は、切換え器223の出力と切換え器225の出力とを加算して出力する。この加算器227の出力が外力範囲検定器193”の出力となっている。
【0253】
x,θモード記憶器70とy,ξ,ψモード記憶器71をこのような構成とすることで、エレベータが稼動中に移動体16が受ける様々な外力、例えば、乗りかご20への台車等の乗り込みや乗りかご20内での人や積載物の移動などに対し、定常的な過大偏荷重トルクの印加とみなせる場合にのみゼロパワー制御からギャップ長一定制御に移行してガイドレール14,14’に対する移動体16の浮上姿勢を固定して接触防止を図ることができる。また、ゼロパワー制御に切換え可能な過大偏荷重トルクの減少を確実に検知することが可能となる。
【0254】
一方、ζ,δおよびγの3つのモードの制御電圧演算回路88a〜88cの構成を図14に示す。制御電圧演算回路88a〜88cは同じ構成であり、また、上下動モード制御電圧演算回路86aと同じ構成要素を有する。ここでは、上下動モード制御電圧演算回路86aと同一部分に同一符号を付し、’を付して区別する。ただし、電流偏差に乗せられるゲインを設定するゲイン補償器についてはスカラー量であるため、ゲイン補償器81とした。
【0255】
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
【0256】
本装置が停止状態にあるとき、磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に接触し、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に接触している。このとき、固体潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降動作が妨げられることはない。
【0257】
この状態で、本装置を起動させると、yモードおよびxモードにおいて励磁電圧調整部99の動作によりギャップセンサを用いた磁気浮上制御が行なわれる。制御装置44は、浮上制御演算部65を通じて永久磁石34が発生する磁束と同じ向きまたは逆向きの磁束を各電磁石36a,36a’〜36d,36d’に発生させると共に、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14,14’との間に所定の空隙長を維持させるべく各コイル40に流す電流を制御する。
【0258】
これによって、図8に示すように、永久磁石34〜鉄心38,42〜空隙G〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mcおよび永久磁石34’〜鉄心38、42〜空隙G’〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mc’が形成される。
【0259】
このとき、空隙G,G’,G”におけるギャップ長は、永久磁石34の起磁力による各磁石ユニット30a〜30dの磁気的吸引力が移動体16の重心に作用するy軸方向前後力、同x方向左右力、移動体16の重心を通るx軸回りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクと丁度釣合うような長さになる。
【0260】
制御装置44は、これらの釣合いを維持すべく、移動体16に外力が作用したときに電磁石36a,36a’〜36d,36d’の励磁電流制御を行う。これによって、所謂ゼロパワー制御がなされ、移動体16の非接触状態が保持される。
【0261】
ここで、乗りかご20内の乗客や積荷の偏り、乗客の乗り降り等が原因で移動体16に過大な外力が加えられたとする。このような場合、ゼロパワー制御では、磁石ユニット30とガイドレール14,14’間のギャップ長が減少し、ついには接触に至ることになる。こうなると、乗りかご20に振動が直接伝播するので、乗り心地が極端に悪化する。
【0262】
これに対し、本発明では、過大な偏荷重トルクが印加されると、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御に切り換わるので、移動体16(磁石ユニット30)がガイドレール14,14’に接触することを防ぐことができる。また、偏荷重トルクが減少すると、再びゼロパワー制御に戻るので、電力が無駄に消費されることもない。
【0263】
さらに、ゼロパワー制御とギャップ長一定制御の切換え時には、x,θモード記憶器70とy,ξ,ψモード記憶器71が備えるローパスフィルタ76,78の作用により、切換えの頻度とギャップ長目標値の急変が防止されるので、良好な乗り心地が維持される。
【0264】
本装置が運転を終えて停止する場合には、目標値設定部74において、yモードおよびxモードの目標値をゼロから徐々に負の値とする。これにより、移動体16はy軸、x軸方向に徐々に移動し、最終的に磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着すると共に、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着する。この状態で本装置を停止させると、目標値設定部74の出力がすべてゼロにリセットされ、移動体16がガイドレール14に吸着する。
【0265】
上述したように、本装置では、最小ギャップ長と最大ギャップ長を設定するだけで、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御への切換え条件を設定できる。したがって、エレベータのように多くの制御軸を有し、移動体が様々な姿勢をとる物体に適用する場合において、切換え調整を簡便にして、調整時間の削減、コストの低減を図ることができる。
【0266】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0267】
前記第1および第2の実施形態では、磁石ユニットが浮上体側に取付けられていたが、これは磁石ユニットの取付け位置をなんら限定するものでなく、図15に示すように、磁石ユニットを地上側に配置しても良い。なお、説明の簡単化のために、以下、第1および第2の実施形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
【0268】
図15は本発明の第3の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体の構成が符号300で示されている。
【0269】
磁気浮上装置300は、補助支持部302、磁石ユニット107、ガイド304、防振台テーブル306、リニアガイド308、励磁電圧演算部115、パワーアンプ313、ギャップセンサ121および電流センサ123を備えている。
【0270】
補助支持部302は、断面がコ字形状をなし、例えばアルミ部材などの非磁性体で形成される。この補助支持部302は地上に設置されており、磁石ユニット107は補助支持部302の上部下面に下向きに取付けられている。
【0271】
ガイド304は、磁石ユニット107に対向する断面がコ字形状をなし、例えば鉄などの強磁性部材で形成されている。防振台テーブル306は、このガイド304を底部上面に備えており、全体としてコ字形状に形成されている。リニアガイド308は、防振台テーブル306の側面に取付けられ、地上に対して垂直方向にのみ動きの自由度を防振台テーブル306に付与している。
【0272】
励磁電圧演算部115は、磁石ユニット107の吸引力を制御して防振テーブル306を非接触で支持するための制御を行う。パワーアンプ313は、励磁電圧演算部115の出力に基づいて磁石ユニット107を励磁するための図示せぬ電源に接続されている。ギャップセンサ121は磁石ユニット107とガイド304間の浮上ギャップ長を防振台テーブル306と補助支持部302間の距離を測定することで検出している。電流センサ123は、磁石ユニット107の励磁電流を検出する。
【0273】
ここで、励磁電圧演算部115は第1の実施形態と同一の構成をとっており、ここでは説明を省略する。
【0274】
本実施形態によれば、磁石ユニット107を地上側に配置したことにより、可動部である防振テーブル306からの配線がなくなり、装置の信頼性が向上するといった利点がある。
【0275】
なお、前記各実施形態では、磁気浮上を行う制御装置(励磁電圧演算部115)がアナログ的な構成として説明されているが、本発明は、アナログの制御方式に限定されるものではなく、デジタル制御にて構成することも可能である。
【0276】
また、励磁部の構成としてパワーアンプを用いているが、これはドライバの方式を何ら限定するものではなく、例えばPWM(Pulse Width Modulation)形のものであって何ら差し支えない。
【0277】
この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。要するに、本発明は前記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0278】
L1,L1’…支持制御手段、L2…ゼロパワー制御手段、L3…ギャップ一定制御手段、1,1’,10,300…磁気浮上装置、103,34,34’…永久磁石、105,36,36’…電磁石、107,30…磁石ユニット、109…負荷荷重、111…浮上体、113,304…ガイド、115…励磁電圧演算部、ドライバ…116、125,302…補助支持部、117,38,38’,42…鉄心、119,119’,40,40’…コイル、121…ギャップセンサ、123…電流センサ、128…リード線、130,61…センサ部、131,139,155,161,165,171,177,179,197,219,221,73…減算器、133…ゼロパワー制御器、135…ギャップ長範囲検出器、137…記憶器、141…ギャップ長一定制御器、143,145,80…ゲイン乗算器、147,227,72…加算器、149,149’…最小次元状態観測器、151,151’,81…ゲイン補償器、153…励磁電流設定器、157,167,75,181,183,191,203,205,209,211,223,225…切換え器、159…電流積分器、163…ギャップ長設定器、169…ギャップ長偏差積分器、173…最小ギャップ長設定器、175…最大ギャップ長設定器、185,195,77,207…乗算器、187…立下り検出器、189…メモリー要素、193,193’,193”…外力範囲検定器、201…遅れ要素、215…最小外力設定器、217…最大外力設定器、12…エレベータシャフト、14,14’…ガイドレール、16…移動体、18a〜18d…案内ユニット、15…ロープ、20…乗りかご、22…フレーム部、24…台座、26…x方向ギャップセンサ、28…y方向ギャップセンサ、32…中央鉄心、43…個体潤滑部材、44…制御装置、62…演算回路、63,63’,313…パワーアンプ、46…電源、48…定電圧発生装置、66…電流検出器、27,27’…平均化部、74…ギャップ長偏差座標変換回路、83…電流偏差座標変換回路、84…制御電圧演算回路、85…制御電圧座標逆変換回路、68…x,θモードギャップ長範囲検出器、69…y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器、70…x,θモード記憶器、71…y,ξ,ψモード記憶器、86a…前後動モード制御電圧演算回路、86b…左右動モード制御電圧演算回路、86c…ロールモード制御電圧演算回路、86d…ピッチモード制御電圧演算回路、86e…ヨーモード制御電圧演算回路、88a…全吸引モード制御電圧演算回路、88b…ねじれモード制御電圧演算回路、88c…歪モード制御電圧演算回路、78,76…ローパスフィルタ、79…絶対値加算器、306…防振台テーブル、308…リニアガイド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体のガイドと、
このガイドに空隙を介して対向し、当該空隙中において磁路を共有する電磁石と永久磁石で構成される磁石ユニットと、
前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力によって非接触で支持される浮上体と、
前記電磁石の励磁電流を検出する電流センサと前記浮上体の浮上時における前記磁石ユニットと前記ガイドとの間のギャップ長を検出するギャップセンサとからなるセンサ部と、
前記ギャップセンサの出力が予め設定された範囲内にあるか否かを検出するギャップ長範囲検出手段と、
このギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、その時点でのギャップ長と基準値との偏差を示すギャップ長偏差を記憶する記憶手段と、
前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して、前記浮上体の運動を前記ガイドに対して非接触状態で安定化させる支持制御手段と、
この支持制御手段によって前記浮上体が前記ガイドに対して非接触状態で支持されている状態で、前記電流センサの出力に基づいて前記電磁石の励磁電流をゼロに収束させて前記浮上体の運動を安定化させる電流積分器を有するゼロパワー制御手段と、
前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差に基づいて前記キャップ長を一定の状態で維持して前記浮上体の運動を安定化させるギャップ長偏差積分器を有するギャップ長一定制御手段と、
前記ギャップ長範囲検出手段の出力に基づいて前記ゼロパワー制御手段と前記ギャップ長一定制御手段を切り換えるべく、前記電流積分器および前記ギャップ長偏差積分器の入力を交互にゼロにする積分切換え手段と、
前記浮上体に印加される外力を推定する状態観測手段と、
この状態観測手段によって推定された外力に基づいて前記記憶手段をリセットするリセット手段と
を具備したことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
前記積分切換え手段は、前記ギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、前記電流積分器の入力をゼロにして、前記ゼロパワー制御手段から前記ギャップ長一定制御手段へ切り換えることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項3】
前記ゼロパワー制御手段の出力と前記ギャップ長一定制御手段の出力の線形和を演算する線形和演算手段をさらに具備し、
前記線形和演算手段の出力に基づいて、前記磁石ユニットの吸引力を制御することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項4】
前記状態観測手段によって推定された外力をローパスフィルタを介して前記記憶手段に入力することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差をローパスフィルタを介して出力することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項6】
前記浮上体は、エレベータの乗りかごであることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項1】
強磁性体のガイドと、
このガイドに空隙を介して対向し、当該空隙中において磁路を共有する電磁石と永久磁石で構成される磁石ユニットと、
前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力によって非接触で支持される浮上体と、
前記電磁石の励磁電流を検出する電流センサと前記浮上体の浮上時における前記磁石ユニットと前記ガイドとの間のギャップ長を検出するギャップセンサとからなるセンサ部と、
前記ギャップセンサの出力が予め設定された範囲内にあるか否かを検出するギャップ長範囲検出手段と、
このギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、その時点でのギャップ長と基準値との偏差を示すギャップ長偏差を記憶する記憶手段と、
前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して、前記浮上体の運動を前記ガイドに対して非接触状態で安定化させる支持制御手段と、
この支持制御手段によって前記浮上体が前記ガイドに対して非接触状態で支持されている状態で、前記電流センサの出力に基づいて前記電磁石の励磁電流をゼロに収束させて前記浮上体の運動を安定化させる電流積分器を有するゼロパワー制御手段と、
前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差に基づいて前記キャップ長を一定の状態で維持して前記浮上体の運動を安定化させるギャップ長偏差積分器を有するギャップ長一定制御手段と、
前記ギャップ長範囲検出手段の出力に基づいて前記ゼロパワー制御手段と前記ギャップ長一定制御手段を切り換えるべく、前記電流積分器および前記ギャップ長偏差積分器の入力を交互にゼロにする積分切換え手段と、
前記浮上体に印加される外力を推定する状態観測手段と、
この状態観測手段によって推定された外力に基づいて前記記憶手段をリセットするリセット手段と
を具備したことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
前記積分切換え手段は、前記ギャップ長範囲検出手段によって前記ギャップセンサの出力が前記範囲から外れた状態が検出されたときに、前記電流積分器の入力をゼロにして、前記ゼロパワー制御手段から前記ギャップ長一定制御手段へ切り換えることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項3】
前記ゼロパワー制御手段の出力と前記ギャップ長一定制御手段の出力の線形和を演算する線形和演算手段をさらに具備し、
前記線形和演算手段の出力に基づいて、前記磁石ユニットの吸引力を制御することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項4】
前記状態観測手段によって推定された外力をローパスフィルタを介して前記記憶手段に入力することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶されたギャップ長偏差をローパスフィルタを介して出力することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項6】
前記浮上体は、エレベータの乗りかごであることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−125200(P2011−125200A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283252(P2009−283252)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
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