説明

磁気浮上装置

【課題】 ゼロパワー制御により電磁石への励磁電流を常にゼロに収束させる方式において、定常的な外力に起因する浮上体の位置変動を抑制することができ、且つ動的な外力が作用した場合でも良好な追従性を得る。
【解決手段】 浮上体10と、浮上体10に永久磁石及び電磁石による磁気回路を形成する磁石ユニット23と、磁石ユニット23を固定する可動枠22と、可動枠22を支持する固定枠21と、固定枠21に対して可動枠22を支持すると共に固定枠21と可動枠22との距離を調整可能な可動枠支持機構27と、浮上体10と磁石ユニット23との相対変位を測定する第1のセンサ24と、固定枠21と可動枠22との相対変位を測定する第2のセンサ25と、第1及び第2のセンサ24,25の各出力に応じて電磁石の電流を制御することにより浮上体10を安定的に非接触支持する制御部と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の磁気力で浮上体を非接触で支持する磁気浮上装置に係わり、特に回転体の非接触支持に適した磁気浮上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体を非接触支持する手段として、磁気軸受が広く使用されている。通常、磁気軸受は、回転するロータの回転軸に直交する動きを非接触支持するラジアル軸受と、回転軸に平行な動きを非接触支持するスラスト軸受で構成される。その場合、浮上体であるロータを安定的に非接触支持するために、何れかの軸受に対して電磁石の吸引力を制御する常電導吸引式磁気浮上方式が適用されるのが一般的である。
【0003】
常電導吸引式磁気浮上方式では、浮上体を定常的に非接触支持するために、電磁石にバイアス電流を流すことによって常に所定の吸引力を形成する必要がある。そのため、ロータに作用する外力の有無によらず常に電力を消費することになる。また、常に電磁石のコイルが通電状態となるため発熱が避けられず、何らかの冷却手段を講じる必要がある。
【0004】
少ない電力消費で吸引式磁気浮上を行うために、永久磁石と電磁石で磁石ユニットを構成し、浮上状態の安定性を維持しながら電磁石への励磁電流をゼロに収束させる、いわゆるゼロパワー制御を適用する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。このような構成とすることで、浮上体を非接触支持するために必要な磁力を永久磁石に起因する磁力によってまかなうことができ、定常的に非接触支持するために電磁石に流す必要があるバイアス電流が不要となる。また、浮上体と磁石ユニットとの相対変位が大きい場合でも電磁石への少ない励磁電流で大きな電磁力を制御することができる。
【0005】
しかし、ゼロパワー制御を適用して磁気軸受を構成した場合、電磁石への励磁電流を常にゼロに収束させるように磁気浮上制御が行われるため、励磁電流がゼロに収束すると共に空隙長が変化し、結果的に永久磁石の磁力のみで磁気浮上できる位置で安定となる。従って、ロータの自重や定常的な外力が磁気軸受に作用する場合、ロータの回転中心がその外力に応じて変位することになる。回転中心が変位することによって、例えば、高速回転する機器では振れ回りの問題が生じ、ポンプなどでは回転位置による効率の変動が問題となり、場合によってはロータが容器やパイプに接触する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−102105号公報
【特許文献2】特開2001−19286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、磁気軸受の電力消費を低減させ、磁石ユニットと浮上体との間の相対変位を大きく設計するためには、電磁石と永久磁石で磁石ユニットを構成し、ゼロパワー制御を適用する方法が有効である。しかし、ゼロパワー制御を適用して磁気軸受を構成した場合、定常的な外力が磁気軸受に作用すると、ロータの回転中心がその外力に応じて変位してしまう問題があった。これは、高速回転する機器においては、振れ回りの問題が発生し、効率の低下を招く大きな要因となる。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、ゼロパワー制御により電磁石への励磁電流を常にゼロに収束させる方式において、定常的な外力に起因する浮上体の位置変動を抑制することができ、且つ動的な外力が作用した場合でも良好な追従性を得ることのできる磁気浮上装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係わる磁気浮上装置は、少なくとも一部が強磁性体で形成された浮上体と、永久磁石と電磁石を備え、前記浮上体を挟んで対向配置され、前記浮上体に空隙を介して前記永久磁石に起因する磁束の磁気回路を形成すると共に、前記浮上体に当該空隙を介して前記電磁石に起因する磁束の磁気回路を形成する磁石ユニットと、前記浮上体に前記磁石ユニットが対向するように、前記磁石ユニットが固定された可動枠と、前記可動枠及び前記浮上体にかかる荷重を支持する固定枠と、前記固定枠に対して前記可動枠を支持し、当該固定枠と前記可動枠との距離を調整可能な可動枠支持手段と、前記浮上体と前記磁石ユニットとの相対変位を測定する第1のギャップセンサと、前記固定枠と前記可動枠との相対変位を測定する第2のギャップセンサと、前記第1のギャップセンサと前記第2のギャップセンサの各出力に応じて前記電磁石の電流を制御することにより、前記浮上体を非接触支持する制御手段と、を具備したことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係わる磁気浮上装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】第1の実施形態の磁気浮上装置に用いた縦方向支持装置の構成を示す斜視図。
【図3】図2の縦方向支持装置に取り付けられた磁石ユニットの構成を示す斜視図。
【図4】第1の実施形態の磁気浮上装置に用いた横方向支持装置の構成を示す斜視図。
【図5】第1の実施形態における電磁石電流の制御装置の構成を示す概略図。
【図6】図5の制御装置に用いた制御演算器の回路構成を示すブロック図。
【図7】第1の実施形態における磁気支持特性とばね支持特性との関係を示す特性図。
【図8】第1の実施形態における励磁電流の制御による応答特性を示す図。
【図9】第2の実施形態に係わる磁気浮上装置を説明するためのもので、制御演算器の回路構成を示すブロック図。
【図10】第3の実施形態に係わる磁気浮上装置を説明するためのもので、制御演算器の回路構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述した定常的な外力による浮上体の変位を防止するために、ゼロパワー制御を適用した磁気浮上系に対して、弾性体で支持された可動枠内部に磁石ユニットを配置し、浮上体に作用する外力の大きさに応じて変化する相対変位の変化を機械的に吸収する構成が考えられる。このような構成とすることで、浮上体の絶対位置を所定の位置に維持することができる。
【0012】
一方、電磁石を用いた磁気軸受では、一般に制御対象は回転体のみである。弾性体で支持された可動枠が回転体外周部に配置されている構成においても、制御対象を回転体のみとし、可動枠の動作を弾性体による受動的な動作とすることで、定常的に作用する外力に対して浮上体の絶対位置を所定の位置に維持することはできる。しかし、制御対象を浮上体のみとした場合、動的な外力などが作用した場合には応答に十分に追従できず、一時的に浮上体の絶対位置の変動が大きくなるという問題がある。これによって、再び振れ回りなどが問題となる。
【0013】
そこで本発明の実施の形態では、浮上体のみならず、磁石ユニットが配置された可動枠も制御対象とすることで、動的な外力が作用した場合でも良好に追従し、浮上体の絶対位置の変動を低減すると共に、励磁電流を低減できる磁気浮上装置を提供する。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係わる磁気浮上装置の概略構成を示す斜視図である。
【0016】
本実施形態の磁気浮上装置は、円筒状の浮上体10と、浮上体10をz方向(上下方向)に支持する縦方向支持装置20と、浮上体10をy方向(左右方向)に支持する横方向支持装置30とで構成されている。浮上体10は、x方向の軸芯を中心に回転するものであり、全体が強磁性材料で形成されるか、又は一部が強磁性材料で形成されている。
【0017】
図2に、縦方向支持装置20の構成を示す。縦方向支持装置20は、縦方向固定枠21と、縦方向可動枠22と、縦方向可動枠22の上下内部にそれぞれ配置された磁石ユニット(Z軸磁石ユニット)23、浮上体10と磁石ユニット23との相対変位を測定する第1のギャップセンサ24、縦方向固定枠21と縦方向可動枠22との相対変位を測定する第2のギャップセンサ25、縦方向可動枠22を上下方向に動作可能にするリニアガイド26、及び縦方向可動枠22を弾性的に支持するばね27で構成されている。縦方向可動枠22は、リニアガイド26とばね27を介して縦方向固定枠21に接続されており、上下方向に移動可能な構造となっている。
【0018】
なお、ギャップセンサ24は、上側及び下側の各磁石ユニット23と浮上体10との相対変位を測定するために縦方向可動枠22の上側及び下側の両方に設けても良いが、上下の磁石ユニット23間の距離が一定であり一方のみを測定すれば良いことから、例えば図2に示すように上側のみに配置されている。ギャップセンサ25も同様に、縦方向可動枠22の上端及び下端と縦方向固定枠21との相対変位を測定するために縦方向固定枠21の上側及び下側の両方に設けても良いが、一方のみを測定すれば両方が分かることから、例えば図2に示すように下側のみに配置されている。
【0019】
図3に、磁石ユニット23の構成を示す。磁石ユニット23は、永久磁石41と、継鉄42及び継鉄42に巻かれたコイル43で構成された電磁石44とで構成されている。即ち、永久磁石41の両端に継鉄42がそれぞれ接続され、各々の継鉄42にコイル43が巻回されている。そして、磁石ユニット23は、浮上体10に空隙を介して永久磁石41に起因する磁束の磁気回路を形成すると共に、浮上体10に当該空隙を介して電磁石44に起因する磁束の磁気回路を形成するようになっている。また、コイル43に流す電流の向きに応じて電磁石44によって生成される磁束の向きが変わり、永久磁石41が形成する磁束を強めたり弱めたりすることが可能となっている。
【0020】
図4に、横方向支持装置30の構成を示す。縦方向支持装置20と同様に横方向支持装置30は、横方向固定枠31と、横方向可動枠32と、横方向可動枠32の左右内部にそれぞれ配置された磁石ユニット(Y軸磁石ユニット)33、浮上体10と横方向可動枠32との相対変位を測定する第1のギャップセンサ34、横方向固定枠31と横方向可動枠32との相対変位を測定する第2のギャップセンサ35、横方向可動枠32を左右方向に動作可能にするリニアガイド36、及び横方向可動枠32を弾性的に支持するばね37で構成されている。横方向可動枠32は、リニアガイド36とばね37を介して横方向固定枠31に接続されており、左右方向に移動可能な構造となっている。
【0021】
磁石ユニット33の構成は、磁石ユニット23と同様であり、永久磁石と電磁石で形成されている。ギャップセンサ34は、左側及び右側の各磁石ユニット33と浮上体10との相対変位を測定するために可動枠32の左側及び右側の両方に設けても良いが、左右の磁石ユニット33間の距離が一定であり一方のみを測定すれば良いことから、例えば図4に示すように右側のみに配置されている。ギャップセンサ35も同様に、横方向可動枠32の左端及び右端と横方向固定枠31との相対変位を測定するために横方向固定枠31の左側及び右側の両方に設けても良いが、一方のみを測定すれば両方が分かることから、例えば図4に示すように左側のみに配置されている。また、横方向支持装置30は、位置調整脚38を備えており、上下方向の位置調整が可能となっている。
【0022】
磁石ユニット23は浮上体10をz方向から挟むように対向配置され、磁石ユニット33は浮上体10をy方向から挟むように対向配置される。そして、磁石ユニット23,33は、電磁石44への印加電圧を制御して浮上体10を非接触支持するため、電磁石44のコイル43を制御装置に接続している。図5に、電磁石電流の制御装置の概要構成を示す。縦方向支持装置20と横方向支持装置30は同じ構成で制御を行うため、ここでは縦方向支持装置20の制御装置を例にとって説明する。
【0023】
制御装置は、磁気浮上装置の状態量を検出するセンサ部50と、センサ部50からの信号に応じて浮上体10を安定的に非接触支持するために電磁石44への印加電圧を演算する制御演算器60と、制御演算器60の出力に応じて電磁石44を励磁するパワーアンプ55とで構成されており、これらによって磁石ユニット23と浮上体10との間に発生する磁気力を制御している。センサ部50は、浮上体10と磁石ユニット23との相対変位を測定する第1のギャップセンサ24、縦方向固定枠21と縦方向可動枠22との相対変位を測定する第2のギャップセンサ25、及び電磁石44への励磁電流を検出するための電流センサ51で構成されている。
【0024】
図6に、制御演算器60の具体的構成を示す。制御演算器60は、変位の変動分から速度を算出する微分器61,62と、適切なフィードバックゲインを乗じるためのゲイン補償器63と、電流偏差目標値を設定する電流偏差目標値発生器64と、電磁石44への励磁電流の微小変動分Δizを電流偏差目標値から減じる減算器65と、減算器65の出力値を積分して適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器66と、ゲイン補償器63の出力値の総和を加算する加算器67と、加算器67の出力値を積分補償器66の出力値から減じて電磁石44への制御電圧ezを出力する減算器68とで構成されている。
【0025】
微分器61は、第1のギャップセンサ24の出力値より算出した浮上体10と磁石ユニット23との相対変位の微小変動分Δzrから、浮上体10と磁石ユニット23との相対変位の変化速度の微小変動分Δvrを演算する。微分器62は、第2のギャップセンサ25の出力値より算出した縦方向固定枠21と縦方向可動枠22との相対変位の微小変動分Δzfから、縦方向固定枠21と縦方向可動枠22との相対変位の変化速度の微小変動分Δvfを演算する。ゲイン補償器63は、Δzr,Δvr,Δzf,Δvf,及び電流センサ51の出力値より算出した電磁石44への励磁電流の微小変動分Δizに対し、それぞれ適切なフィードバックゲインを乗じる。
【0026】
ここで、電流偏差目標値発生器64の値をゼロとした場合、浮上体10が非接触で安定的に支持されている状態では、電磁石44への励磁電流をゼロに収束させることができる。これにより、永久磁石41の磁気力のみで浮上体10を安定支持することができるようになり、いわゆるゼロパワー制御を実現することができる。即ち、センサ部50、制御演算器60,パワーアンプ55からなる制御ループにより電磁石44への励磁電流を制御することにより、浮上体10を非接触で安定支持することができる。この状態で、電流偏差目標値をゼロに設定することにより、浮上体10の非接触支持を維持したまま、電磁石44への励磁電流を略ゼロにすることができる。
【0027】
ゼロパワー制御が適用されていると、浮上体10の質量変動や浮上体10にかかる外力変動等による外乱荷重が加わった場合、それら全ての荷重と永久磁石41による磁気力がつり合う位置まで浮上体10と磁石ユニット23との相対変位を変化させるように過渡的に電磁石44に電流を流す必要がある。しかし、安定支持状態になれば、ゼロパワー制御により電磁石44への励磁電流をゼロに収束させ、永久磁石41の磁気力のみでそれら全ての荷重を安定支持することができる。
【0028】
横方向支持装置30の磁石ユニット33に対しても前記図5と同様の制御装置及び前記図6と同様の制御演算器を用いることにより、z方向だけではなくy方向にも上記と同様にゼロパワー制御を実現することができる。これにより、浮上体10を非接触で支持することが可能となる。
【0029】
また、前記構成のように縦方向可動枠22及び横方向可動枠32を、リニアガイド26,36とばね27,37を介して縦方向固定枠21及び横方向固定枠31に接続した場合、ゼロパワー制御によって浮上体10を安定的に非接触支持すると、図7に示すような関係が成り立つ。即ち、ゼロパワー制御によって永久磁石41による磁気力と浮上体10の自重及び作用する外乱加重の総和とがつり合うように、浮上体10と磁石ユニット23,33との相対変位が変化する。さらに、その磁気力による変位−吸引力特性と同等の変位−復元力特性を有するばね27,37によって、磁気支持特性と逆の傾きを有するばね支持特性を合成させることで、結果的に図中の合成支持特性のような荷重−変位特性となり、浮上体10の絶対位置の変動が大幅に低減される。
【0030】
ここで、図7に示すように、磁石による荷重に対する変位は、変位の比較的小さい領域では略リニアである。従って、荷重に対する変位の変化がリニアなばねと組み合わせることにより、磁石による変位をばねで吸収することができる。
【0031】
このように、固定枠21,31に対してリニアガイド26,36及びばね27,37で支持された可動枠22,32を設けることにより、定常的な外力が浮上体10に作用した場合であっても、浮上体10を動かす代わりに可動枠22,32を動かすことにより、浮上体10の回転中心位置が外力に応じて変位してしまうことを防止できる。つまり、外力による浮上体10の変動分を可動枠22,32で吸収させることができる。
【0032】
これに加え本実施形態では、制御演算器60を前記図6に示す構成とし、可動枠と固定枠との相対変位及び速度を制御対象とすることで、Δzr,Δvr,Δiz及びΔizの積分値をフィードバックするゼロパワー制御と比べて、浮上体10の絶対位置の変動及び電磁石44への励磁電流の収束性が向上する。特に、ステップ外力が浮上体10に作用した場合には、図8に示すような高い収束性を得ることができる。
【0033】
これは、次のような理由による。即ち、一般的な制御手法では縦方向可動枠22及び横方向可動枠32がそれぞれ上下方向及び左右方向にはばね27,37により受動的に動作している。これに対して本実施形態の制御手法では、第2のギャップセンサ25,35の出力値からΔzf,Δvfを算出して、縦方向可動枠22及び横方向可動枠32の情報をフィードバックすることにより、ばね27,37による上下方向及び左右方向の受動的な動作が制御されることになるためである。
【0034】
なお、本実施形態では、距離を測定するセンサとして、例えば渦電流式ギャップセンサを用いることにより、高精度での測定を実現することができる。一方、検出対象が金属以外のものである場合には、光学式ギャップセンサを用いることにより、検出対象を金属に限定しない。また、接触式を用いた場合には廉価なシステムが構成できる。なお、パワーアンプの出力指令値は電流、電圧のどちらかに限定されるものではなく、どちらの場合でも同様の構成で効果を得ることができる。これは、後述する第2、3の実施の形態においても同様である。
【0035】
このように本実施形態によれば、固定枠21,31にリニアガイド26,36及びばね27,37を介して可動枠22,32を設け、可動枠22,32に固定した磁石ユニット23,33により浮上体10の磁気浮上制御を行うことにより、定常的な外力による浮上体10の中心ずれを可動枠22,32で吸収することができ、定常的な外力による浮上体の中心ずれを抑制することができる。しかも、可動枠22,32の変位を加味してフィードバック制御することにより、動的な外力などが作用した場合にも良好な追従特性を得ることができる。
【0036】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係わる磁気浮上装置を説明するためのもので、制御演算器の回路構成を示すブロック図である。なお、図6と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0037】
本実施形態が先に説明した第1の実施形態と異なる点は、制御装置の制御演算器60で微分器を用いる代わりに状態観測器を用いたことにある。状態観測器は、必要な運動モデルの計算式を持っており、各種のセンサ情報から必要な情報を推定するものである。本実施形態の状態観測器71は、第1のギャップセンサ24、第2のギャップセンサ25を用いて算出したΔzr,Δzf、電流センサ51を用いて算出したΔizを導入することで、Δvr,Δvfを推定するようになっている。
【0038】
先の第1の実施形態においては、Δzr,Δvr,Δzf,Δvf,Δiz,及びΔizの積分値の6つをフィードバックして制御電圧ezを算出する構成とした。本実施形態においても、基本的には変わらないが、Δvr及びΔvfを求めるためにΔzr及びΔzfの出力値を微分するのではなく、状態観測器71を用いてΔvr及びΔvfを求めている。
【0039】
演算器となっている他の構成については第1の実施の形態と同様に、Δzr,Δvr,Δzf,Δvf,Δizに適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器63と、電流偏差目標値発生器64と、Δizを電流偏差目標値発生器64から減じる減算器65と、減算器65の出力値を積分して適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器66と、ゲイン補償器63の出力値の総和を加算する加算器67と、加算器67の出力値を積分補償器66の出力値から減じて電磁石への制御電圧ezを出力する減算器68で構成されている。
【0040】
本実施形態のように状態観測器71を用いた場合、微分器61,62を用いた場合に比べてノイズに強く、また推定誤差の収束の速さを任意に変えることができるため、より安定的に浮上体10を非接触支持することができる。横方向支持装置30においても同じ構成で制御を行うことができる。
【0041】
このように本実施形態によれば、先の第1の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、変化速度の微小変動分Δvr,Δvfを求める際のノイズが少ないので、浮上体10の浮上制御をより安定して行うことが可能となる。
【0042】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係わる磁気浮上装置を説明するためのもので、制御演算器の概略構成を示すブロック図である。なお、図6と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0043】
本実施形態が先に説明した第1の実施形態と異なる点は、先の第2の実施形態と同様に状態観測器72でΔvr,Δvfを推定することに加え、浮上体10及び縦方向可動枠22にかかる外力を推定し、制御電圧ezにフィードバックすることにある。
【0044】
第1のギャップセンサ24、第2のギャップセンサ25を用いて算出したΔzr,Δzf、電流センサ51を用いて算出したΔizを入力として、状態観測器72は、Δvr,Δvf、浮上体10にかかる外力ur及び縦方向可動枠22にかかる外力ufを推定する。他の構成は、Δzr,Δvr,Δzf,Δvf,Δizに適切なフィードバックゲインを乗じると共に推定された外力ur及びufにフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器63と、電流偏差目標値発生器64と、Δizを電流偏差目標値から減じる減算器65と、減算器65の出力値を積分して適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器66と、ゲイン補償器63の出力値の総和を加算する加算器67と、加算器67の出力値を積分補償器66の出力値から減じて電磁石44への制御電圧ezを出力する減算器68で構成されている。
【0045】
本実施形態のように状態観測器72を用いた場合、浮上体10にかかる外力を推定することによって、推定外力に相当する制御入力を加えることができ、外力の影響を低減することができる。また、縦方向可動枠22には通常、外力がかからないが、縦方向可動枠22にかかる外力を予め推定しておくことによって、例えば縦方向可動枠22に予期せぬ外乱が作用した場合に、浮上体10と縦方向可動枠22が接触するような状態を回避することが可能となる。横方向支持装置30においても同じ構成で制御を行うことができる。
【0046】
このように本実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、可動枠22,32にかかる外力を予め推定しておくことによって、浮上体10と可動枠22,32が接触するような状態を回避することが可能となり、浮上制御の更なる信頼性の向上をはかることができる。
【0047】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。実施形態では、浮上体として回転体を用いたが、浮上体は必ずしも回転体に限らず、一方向のみの支持が必要なものであっても良い。例えば、鋼板を非接触で搬送する用途では、縦方向支持枠のみで良い。
【0048】
また、本発明は実質的に電磁石への励磁電流と共に変位をゼロに制御するものであるが、必ずしも変位は厳密にゼロである必要はなく、前記図7に示すように実質的にゼロとなるものであれば良い。さらに、より厳密な位置制御を行うために、前記図7に示す微小な位置ずれ分を電磁石の微小電流制御によってよりゼロに近付けるように制御することも可能である。
【0049】
また、可動枠を固定枠に支持するための手段としては、螺旋状のばねに限らず板ばねであっても良いし、必ずしもばねに限らず弾性体を用いることができる。さらに、弾性体の代わりにアクチュエータを用いることも可能である。
【0050】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10…浮上体
20…縦方向支持装置
21…縦方向固定枠
22…縦方向可動枠
23,33…磁石ユニット
24,34…第1のギャップセンサ
25,35…第2のギャップセンサ
26,36…リニアガイド
27,37…ばね
30…横方向支持装置
31…横方向固定枠
32…横方向可動枠
38…位置調整脚
41…永久磁石
42…継鉄
43…コイル
44…電磁石
50…センサ部
51…電流センサ
55…パワーアンプ
60…制御演算器
61,62…微分器
63…ゲイン補償器
64…電流偏差目標発生器
65,68…減算器
66…積分補償器
67…加算器
71,72…状態観測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が強磁性体で形成された浮上体と、
永久磁石と電磁石を備え、前記浮上体を挟んで対向配置され、前記浮上体に空隙を介して前記永久磁石に起因する磁束の磁気回路を形成すると共に、前記浮上体に当該空隙を介して前記電磁石に起因する磁束の磁気回路を形成する磁石ユニットと、
前記浮上体に前記磁石ユニットが対向するように、前記磁石ユニットが固定された可動枠と、
前記可動枠及び前記浮上体に加わる荷重を支持する固定枠と、
前記固定枠に対して前記可動枠を支持し、当該固定枠と前記可動枠との距離を調整可能な可動枠支持手段と、
前記浮上体と前記磁石ユニットとの相対変位を測定する第1のギャップセンサと、
前記固定枠と前記可動枠との相対変位を測定する第2のギャップセンサと、
前記第1のギャップセンサと前記第2のギャップセンサの各出力に応じて前記電磁石の電流を制御することにより、前記浮上体を非接触支持する制御手段と、
を具備したことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
前記電磁石への励磁電流を測定する手段と、前記電磁石への励磁電流をゼロに収束させる手段と、を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1のギャップセンサ出力から導出された前記相対変位及び該相対変位の時間変化速度、前記第2のギャップセンサ出力から導出された前記相対変位及び該相対変位の時間変化速度、及び前記電磁石への励磁電流の目標値からの偏差、にそれぞれ所定のゲインをかけて制御出力とするものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気浮上装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1のギャップセンサの出力から前記浮上体と前記磁石ユニットとの相対変位の時間変化速度を求める第1の微分器と、前記第2のギャップセンサの出力から前記固定枠と前記可動枠との相対変位の時間変化速度を求める第2の微分器と、を備えていることを特徴とする請求項3記載の磁気浮上装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1のギャップセンサの出力、前記第2のギャップセンサの出力、及び前記電磁石への励磁電流を入力とし、前記浮上体と前記磁石ユニットとの相対変位の時間変化速度、前記固定枠と前記可動枠との相対変位の時間変化速度を推定する状態観測器と、を備えていることを特徴とする請求項3記載の磁気浮上装置。
【請求項6】
前記状態観測器は、前記各相対変位の時間変化速度と共に、前記浮上体及び前記可動枠に加わる外力を推定するものであり、
前記制御手段は、前記相対変位及び該相対変位の時間変化速度、前記励磁電流の目標値からの偏差と共に、前記外力にそれぞれ所定のゲインをかけて制御出力とするものであることを特徴とする請求項5記載の磁気浮上装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電磁石への励磁電流の目標値を設定する目標値発生器と、前記目標値発生器で設定された目標値と前記電磁石への励磁電流との偏差にゲインをかけて積分する積分補償器と、を備えていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の磁気浮上装置。
【請求項8】
前記可動枠支持手段は、弾性要素を備えていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の磁気浮上装置。
【請求項9】
前記浮上体は回転体であり、
前記磁石ユニットは、前記浮上体を該浮上体の回転軸と直交するY方向から挟む一対のY軸磁石ユニットと、前記浮上体を前記回転軸及びY方向と直交するZ方向から挟む一対のZ軸磁石ユニットとを有し、
前記可動枠は、前記Y軸磁石ユニットを固定するY軸可動枠と、前記Z軸磁石ユニットを固定するZ軸可動枠とを有し、
前記固定枠は、前記Y軸可動枠を支持するY軸固定枠と、前記Z軸可動枠を支持するZ軸固定枠とを有することを特徴とする請求項1記載の磁気浮上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−120337(P2012−120337A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268302(P2010−268302)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】