説明

磁気測定装置

【目的】 測定対象中の欠陥又は測定対象中に含まれる測定目的の分量を高感度に計測できる磁気測定装置を提供する。
【構成】 磁気測定装置は、交流磁場を発生させる印加コイル1−1と、測定対象8によって生じた磁場の変化を検知する磁気センサ5−1と、磁気センサ用計測回路6の出力を検波するロックインアンプ回路7と、測定対象8を設置する試料ステージ10とを備える。また、試料ステージ10には測定対象8中の求める物質として、あらかじめ量が分かっている標準サンプル9を少なくとも1つ以上配置し、試料ステージ10を磁気センサ5−1に対し移動できる可動機構を設け、少なくとも印加コイル1−1、磁気センサ5−1、および、測定対象8と標準サンプル9とを配置した試料ステージ10を磁気シールド12−1で囲い込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に交流磁場を印加し、その応答特性を磁気センサで検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流磁場を金属に印加しその応答特性を検出し、金属の有無を検知する金属探知機が知られている。この金属探知機は、サーチコイルから交流磁場を金属に印加することにより、測定対象の金属表面に渦電流が発生し、印加した磁場に反発するように磁場が発生する。ファラディの電磁誘導法則で表せるように、この磁場はサーチコイルを貫く磁束変化により起電力を変化させるので、金属探知機によりこの信号変化を測定して金属の有無を検知することができる。金属探知機と同じように、渦電流を発生させて鋼管やワイヤロープの欠陥を検査する方法などの非破壊検査なども知られている。金属探知機の応用としてこのほか、テロ防止や防犯として危険物を持ち込まないようにするための金属探知ゲート、食肉や衣服などの商品製造時に紛れ込んだ針などの金属片を検知するものもある。
【0003】
鉄やニッケルなどの金属は強磁性体であり透磁率が高いから、交流磁場を印加した時に渦電流が発生するが、印加した磁場はその強磁性体に引き込まれてしまう。つまり、金属探知機は、測定対象に発生した渦電流だけでなく、透磁率の変化によりサーチコイルを貫く磁束変化も同時に捉える。金属の導電率が非常に低いため、印加した磁場に対して渦電流が発生しない場合、金属探知機は、金属が強磁性体であり透磁率が高いことに起因して磁束が引き込まれる現象により、信号を検知することになる。この場合、印加した磁場の位相と磁気センサによって得られる信号の位相は全く同じになる。一方、金属の導電率が高いため、印加した磁場に対して渦電流が発生する場合、この渦電流の大きさは、測定対象である金属のインピーダンスによって時間的に変化する。尚、渦電流や透磁率の変化などにより複合化した磁気を、印加した交流磁場の周波数変化に対する位相変化によって捕らえることにより、物質をある程度分別することができる。このような実験結果を、本特許出願の発明者らは、特許第3896489号(特許文献1)および論文(非特許文献1)に報告した。
【0004】
物質の磁性には、常磁性、強磁性、反磁性などがある。常磁性の物質は、普段は磁化されていないが、印加した磁場に対して同じ方向に磁化される透磁率が小さい物質である。また、強磁性の物質は、鉄などのように初めから磁化されているが、印加した磁場に対して原子レベルで隣あうスピンが相互作用により同一の方向を向いて大きな磁化となり、その結果大きな透磁率を持つ物質となる。一方、反磁性の物質は、印加した磁場に対して反対方向の磁場を発生する物質であり、多くの物質が反磁性である。しかし、反磁性の物質は透磁率が小さく、発生する磁場も小さい。
【0005】
ところで、水は反磁性物質であり、物質の水分量が増えてくると反磁性特性が強くなると考えられる。この磁気特性を利用して、穀物の水分量を低周波の磁場で測定できることを、本特許出願の発明者らは、論文(非特許文献2)に報告した。従来、物質の水分量を計測する方法には、加熱により水分を蒸発させて、加熱前後の重量変化を計測する加熱方式の水分計測法などがある。これに対し、磁気的に物質の水分量を計測する方法は、非接触でしかも測定対象を変化させないため、長期間にわたって計測していくことができるという特徴がある。この磁気的に計測する方法では、測定対象が金属の場合は導電率が高いため、交流磁場を印加すると渦電流が発生するが、測定対象が水溶液の場合は金属に比べ導電率が低いため、交流磁場を印加しても特に低周波数のときは渦電流が発生しにくい。このため、低周波数の磁場を印加することにより渦電流が作る磁場を無視することができるので、導電率に影響されずに水の反磁性信号だけを測定することができる。反磁性の物質は、印加した磁場に対して反対方向の磁場が発生するので、測定信号としては180度の位相がずれることになる。
【特許文献1】特許第3896489号公報
【非特許文献1】「Magnetic property mapping system for analyzing three-dimensional magnetic components」Keiji Tsukada, et al., Review of Scientific Instrument, Vol. 77, (2006) 063703
【非特許文献2】「Magnetic Measurement of Moisture Content of Grain」 Keiji Tsukada, et al., IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 43, No. 6 (2007) pp. 3683-2685
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、物質の水分量を測定する場合、水は反磁性物質であり、透磁率が非常に小さいため、得られる信号が小さいという問題があった。
【0007】
また、低周波数の磁場を印加することにより物質の水分量を測定する場合、低周波になればなるほど環境雑音が増えるという問題があった。このため、低雑音の計測が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、交流磁場を発生させる印加コイルと、印加コイル用電源と、前記印加コイル面から離して測定対象に近づけるように配置され、前記測定対象によって生じた磁場の変化を検知する磁気センサと、該磁気センサ用の計測回路の出力を、前記印加コイルと同じ周波数で位相が互いに90度異なる2つの信号に検波するロックインアンプ回路と、前記測定対象を設置する試料ステージと、前記測定対象中の物質と同一であって、あらかじめその量が分かっている物質を含み、前記試料ステージに上に配置された少なくとも1つ以上の標準サンプルと、前記試料ステージを前記磁気センサに対して移動させる可動機構と、前記印加コイル、前記磁気センサ、および、前記測定対象と前記標準サンプルとを配置した前記試料ステージを囲む磁気シールドと、を備えて構成した磁気測定装置である。
【0009】
本発明の第2の形態は、前記磁気シールドとして、少なくとも前記印加コイルの中心軸に対して平行になる取り囲んだ面を持っている磁気測定装置である。
【0010】
本発明の第3の形態は、前記磁気センサとして前記印加コイルの中心軸上に配置し、前記印加コイルと前記測定対象との間に、あるいは前記印加コイルと前記測定対象の先に配置した磁気測定装置である。
【0011】
本発明の第4の形態は、前記印加コイルが磁気センサ近傍に作る磁場を減衰させるためのキャンセルコイルを備え、前記キャンセルコイルの面積は、前記磁気センサによる磁気検出に影響を与えない程度に小さく設定され、前記キャンセルコイルを前記磁気センサから前記測定対象に対して反対位置に配置した磁気測定装置である。
【0012】
本発明の第5の形態は、前記可動機構による前記試料ステージの移動方向を、前記印加コイルの中心軸に対して垂直な面上の方向とした磁気測定装置である。
【0013】
本発明の第6の形態は、前記磁気センサが、前記印加コイルの中心軸に対して水平方向の磁気成分を、前記中心軸に垂直方向の一方向で微分することにより計測する磁気測定装置である。
【0014】
本発明の第7の形態は、前記印加コイルとして1対の対向形印加コイルを設け、前記測定対象を前記対向形印加コイルの間に配置した磁気測定装置である。
【0015】
本発明の第8の形態は、前記磁気センサを、ホール素子、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス効果センサ、フラックスゲート又は超伝導量子干渉素子とする磁気測定装置である。
【0016】
本発明の第9の形態は、前記磁気測定装置を用いて、前記測定対象に含まれる水分量を測定する水分量測定装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の形態によれば、ロックインアンプ回路により磁気センサ用計測回路の出力を印加コイルと同じ周波数で位相が互いに90度異なる2つの信号に検波して、物質の磁性の違いや、導電率による渦電流による応答などの信号の位相変化をとらえることができる。すなわち、測定対象が水のような反磁性である場合には、印加した磁場に対して180度位相がシフトする。また、強磁性体であれば、まず印加した磁場と同じ位相の信号となるが、そのほか導電性により渦電流が発生し、その物質のインピーダンスにより位相が、印加した磁場の周波数によって変化する。したがって、ロックインアンプ回路により、上述のように発生機構の異なる磁気信号を含む磁気応答を、多様な情報の形で引き出すことができる。
【0018】
さらに、前記磁気センサを測定対象に近づけて配置したことにより、小さな磁気応答特性の信号を測定することができる。さらに、前記測定対象を設置する試料ステージには、測定対象中の求める物質として、あらかじめ量が分かっている標準サンプルを少なくても1つ以上配置することによって、測定対象の磁気特性と比較することができる。この比較により、信号強度の補正ができるので、小さな磁気応答特性の信号の場合でも、測定精度を上げることができる。
【0019】
さらに、測定対象および標準サンプルを配置した試料ステージと、印加コイルと、磁気センサとを磁気シールドで囲うことにより、環境磁場雑音を減衰させることができ、小さな磁気応答特性の信号の測定精度をより一層上げることができる。
【0020】
本発明の第2の形態によれば、磁気シールドとして少なくとも印加コイルの中心軸に対して平行になる取り囲んだ面を持つようにした。印加コイルの中心軸方向をz方向とすると、磁気シールドの一部あるいは全面がz軸に平行となる磁気シールドとなることを意味している。例えば、円筒状の磁気シールドとして、円筒の中心軸をz軸と平行にすれば、磁気シールド面はz軸に平行となる。また、円筒だけでなく四角形や多角形などの筒にしても磁気シールド面をz軸と平行にすることができる。磁気センサとして、z方向の磁場成分を計測する場合、磁気センサに近い磁気シールドの面はz方向に平行であるので、環境磁場雑音の多くは、磁気センサの方を避けて磁気シールドに集中するようになり、環境雑音の除去効果を向上させることができる。
【0021】
本発明の第3の形態によれば、磁気センサを印加コイルの中心軸上に配置するようにした。印加コイルにより磁場を印加することによって測定対象から新たに磁場が発生し、その磁場強度には分布ができる。まず印加磁場強度が最も強いところは、印加コイルが測定対象から離れている場合には、印加コイルの中心軸上となる。したがって、測定対象を印加コイルの中心軸上に配置した方が、測定対象から発生した磁場が強くなる。また同時に、強度分布も印加コイルの中心軸上で強くなる。測定対象の磁場強度分布から、磁気センサを印加コイルの中心軸上に配置すると最も大きい信号が得られることになる。また、磁気センサは測定対象の前面から測定できるだけでなく、裏面からも測定できるので、どちらの面にも配置することができ、磁気センサが邪魔になることなく、測定対象を交換することが可能となる。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、磁気センサの近傍にキャンセルコイルを設けることにより、雑音成分を効果的に取り除くことができる。磁気センサの近傍では、印加した交流磁場が、測定対象から発生する磁場よりも大きいため雑音となるが、この交流磁場に対するキャンセルコイルを設けることにより、雑音成分を格段に効果的に取り除くことができる。さらに、キャンセルコイルの面積を、磁気センサによる磁気検出に影響を与えない程度に小さく設定することにより、キャンセルコイルが磁場を測定対象に印加することを抑制することができる。キャンセルコイルの面積を印加コイルの面積で割ったコイル面積比を、少なくとも10分の1以下にすることが好ましく、このコイル面積比を小さくすることにより、キャンセルコイルからの距離に対する磁場の減衰率を格段に大きくすることができ、キャンセルコイルが測定対象に与える影響を無視することができる。
【0023】
本発明の第5の形態によれば、可動機構による試料ステージの移動方向を、印加コイルの中心軸に対して垂直な面上の方向とするようにした。この可動機構により、測定対象の磁場分布を計測できるだけでなく、可動により測定対象ばかりでなく標準サンプルのところまで測定することにより、比較測定が可能となる。また、移動方向を印加コイルの中心軸に対して垂直な面上としているので、磁気センサと測定対象および標準サンプルとの間の距離を一定にして磁気測定することが可能となる。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、印加コイルの中心軸に対して水平方向の磁気成分を、中心軸に垂直方向の一方向で微分することにより計測する磁気センサを設けるようにした。環境磁気雑音は、磁気センサおよび測定対象の付近では均一である。一方、測定対象から発生する磁場には、強度分布、つまり磁場勾配ができる。したがって、微分成分を計測できる磁気センサを利用したことにより、環境磁気雑音は磁気センサでは測定されず、測定対象の磁場勾配を測定することが可能となる。ここで、前記試料ステージは可動することができるので磁場勾配を測定することができる。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、印加コイルとして1対の対向形印加コイルを設けることにより、測定対象に対して広い領域で均一な印加磁場分布を与えることができる。したがって、測定対象から均一な磁気信号を得ることができ、磁気応答特性を高精度に測定することができる。
【0026】
本発明の第8の形態によれば、磁気センサとして、ホール素子、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス効果センサ、フラックスゲート又は超伝導量子干渉素子を用いることにより、低周波の交流磁場を印加して磁気応答を検知することができる。好ましくは、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス効果センサ、フラックスゲート又は超伝導量子干渉素子を用いれば、周波数が1kHz以下から数Hz以下までの低周波の交流磁場を印加して磁気応答を検知することができる。より好ましくは、磁気センサとして、超伝導量子干渉素子を用いることにより、低周波および低強度の磁気応答を格段に高精度で測定することができる。
【0027】
本発明の第9の形態によれば、第1〜7の形態の磁気測定装置を用いて測定対象の磁気応答を高感度に測定できるから、穀物や、コンクリート、木材、ポリマー、食品などの水分量を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付する図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
図1は、本発明に係る実施例1の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。印加コイル1−1は、測定対象8中に存在する物質、例えば水の磁気応答の特性を調べるため、磁場を印加する。印加コイル用電源2は、発信器4によって印加磁場の周波数を変えることができる。印加コイル用電源2は、発信器4からの信号で電流源3を駆動し、印加コイル1−1に交流電流を流す。
【0030】
磁気センサ5−1は、磁気抵抗素子から成り、測定対象8によって変化した磁場を検出する。ここで、磁気センサ5−1の検出する磁場成分は図中のz方向とする。尚、本例では、磁場を検出するセンサとして磁気センサ5−1を用いるようにしたが、この磁気センサ5−1の代わりに、ホール素子、磁気インピーダンス効果センサ、フラックスゲート、超伝導量子干渉素子などを用いるようにしてもよい。磁気センサ5−1は、測定対象8からの磁気応答信号を一層大きな値の信号として測定できるように、印加コイル1−1よりも測定対象8に近い位置に配置する。
【0031】
また、測定対象8は、印加コイル1−1の中心軸に対して垂直方向つまりx−y平面上に移動することができるように、移動する試料ステージ10上に設置されている。また、測定対象8中に存在する物質の磁気応答特性を検出する際に測定精度を上げるため、試料ステージ10には、測定対象8中に存在する物質と同じ物質の量が予めわかっている標準サンプル9が配置されており、測定対象8の測定結果と標準サンプル9の測定結果とが比較される。尚、本例では、1つの標準サンプル9を用いるようにしたが、物質の量が異なる複数の標準サンプル9を用いるようにしてもよい。複数の標準サンプル9を用いて、測定対象8の測定結果と複数の標準サンプル9の測定結果とがそれぞれ比較されることにより、測定精度を一層向上させることができる。
【0032】
磁気センサ5−1は、磁気センサ用計測回路6で駆動され、ロックインアンプ回路7は、磁気センサ5−1の出力信号を検波する。具体的には、ロックインアンプ回路7は、印加コイル1−1に流された交流電流の交流周波数に同期した信号だけを検出する。つまり、印加コイル1−1と同じ周波数で位相が互いに90度異なる2つの信号に検波する。解析手段11は、その信号を解析する。ここで、磁気センサ5−1には、地磁気や周辺に存在する電機機器などの環境磁気雑音が入ってきている。このため、測定対象8に発生する磁場が微弱な場合、これらの環境磁気雑音が問題となる。そこで、磁気シールド12−1が、印加コイル1−1、測定対象8および標準サンプル9が設置されている試料ステージ10、および磁気センサ5−1の全てを囲い込むことにより、環境磁気雑音を減衰するようにした。また、印加コイル用電源2、磁気センサ用計測回路6、ロックインアンプ回路7および解析手段11などの計測機器などは、磁気シールド12−1の外に配置した。
【0033】
また、磁気センサ5−1は、磁気シールド12−1によって減衰した環境磁気雑音と、印加コイル1−1から発生した印加磁場とを検出しないように、測定対象8および標準サンプル9から発生した磁場の微分成分を、試料ステージ10が移動するx−y平面の方向で検出できる微分型磁気センサとする。ここで、微分型の磁気センサ5−1は、試料ステージ10をx方向に移動して計測する場合、z成分の磁場をx方向で微分する1次微分型の構成となる。
【0034】
このように、実施例1の磁気測定装置によれば、磁気シールド12−1および微分型の磁気センサ5−1により、環境雑音と磁気センサ5−1に入り込む印加磁場を除去し、測定対象8から発生する微弱磁場を計測することが可能となる。さらに、測定対象8から発生する磁場には強度分布、つまり磁場勾配ができている。試料ステージ10はx−y平面の方向に可動するので、試料ステージ10をx方向に移動させた場合、つまりx方向に測定対象8を動かした場合、x方向を微分方向として微分することにより、測定対象8の磁場分布の勾配を測定することができる。したがって、磁気測定装置により、測定対象8の磁場強度ではなく磁場勾配の測定データを得ることができる。このようにして、金属構造物中の欠陥を計測するだけでなく、信号強度が非常に低い穀物、材木、土壌、食品などを測定対象8として、その中の水分量を計測することが可能となる。
【0035】
[実施例2]
図2は、本発明に係る実施例2の磁気計測装置の基本構成を示す概略図である。実施例2は、実施例1の磁気シールド12−1の構造をより簡単にしたものである。実施例2の磁気シールド12−2は、円筒形をしており内筒と外筒を設けた2重磁気シールドの構造になっている。磁気シールド12−2の円筒の中心軸は、印加コイル1−1の中心軸と一致してz軸上にある。つまり、磁気シールド12−2は、印加コイル1−1の中心軸に対して平行に取り囲んだ面を持っている。磁気センサ5−1は、z方向の磁場の微分成分を測定する。磁気センサ5−1に近い磁気シールド12−2の面はz方向に平行であるので、環境磁場雑音の多くは磁気センサ5−1を避けて磁気シールド12−2に集中するようになる。
【0036】
このように、実施例2の磁気測定装置によれば、環境雑音の除去効果を向上させることができ、測定対象8から発生する磁場が微弱であっても高精度にその磁場を測定することが可能となる。さらに、磁気シールド12−2は解放型なので、作業者は、測定対象8の出し入れや磁気測定装置のメンテナンスなどを容易に行うことができる。
【0037】
[実施例3]
図3は、本発明に係る実施例3の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。実施例3は、実施例1の磁気センサ5−1の代わりに磁気センサ5−2を、測定対象8に対して印加コイル1−1側ではなく反対側に配置したものである。印加コイル1−1が測定対象8に対して磁場を印加すると測定対象8から新たに磁場が発生するが、この磁場は印加コイル1−1側だけでなくその反対側にも出ている。したがって、磁気センサ5−2を測定対象8に対して印加コイル1−1の反対側に設置しても計測は可能である。
【0038】
このように、実施例3の磁気測定装置によれば、作業者は、印加コイル1−1側から試料ステージ10上に測定対象8を設置する場合、磁気センサ5−2が印加コイル1−1側ではなく反対側に配置されているので、磁気センサ5−2が障害とならずに測定対象8を交換することができる。特に、磁気センサ5−2を測定対象8に近づけた方が一層高精度に磁場を計測することができるので、本配置は計測上便利な位置関係となる。
【0039】
[実施例4]
図4は、本発明に係る実施例4の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。実施例4は、実施例1の磁気センサ5−1に相当する磁気センサ5−3の近傍にキャンセルコイル13を配置したものである。実施例1では、磁気センサ5−1を微分型磁気センサの構成として、印加した交流磁場や環境雑音を減衰させたが、実施例4では、磁気センサ5−3は微分型とせず、そのまま磁場を計測できるようになっている。キャンセルコイル13は、印加コイル1−1と磁気センサ5−3との間に配置され、しかも磁気センサ5−3に近づくようにその近傍に配置される。この配置は、実施例3にも適用することができ、この場合は磁気センサ5−3に対して測定対象8と反対側に配置される。
【0040】
このように、実施例4の磁気測定装置によれば、キャンセルコイル13を配置することにより、印加コイル1−1から印加された交流磁場を磁気センサ5−3近傍でキャンセルし、印加された交流磁場が磁気センサ5−3に入ってくることを格段に減衰させることができる。ここでは、キャンセルコイル13の面積を印加コイル1−1の面積で割ったコイル面積比を20分の1とすることにより、磁気センサ5−3による測定対象8からの磁気検出に影響を与えないようにしている。このキャンセルコイル13の面積を印加コイル1−1の面積で割ったコイル面積比が小さいほど、キャンセルコイル13が磁気検出に与える影響を無視することができる。
【0041】
[実施例5]
実施例1〜4では、印加コイル1−1を一つだけ設けた磁気測定装置について説明したが、測定対象8に対して均一な磁場を印加したい場合は、印加磁場のより広い範囲での均一性が求められる。以下、均一な交流磁場を印加することを可能にした実施例について説明する。
【0042】
図5は、本発明に係る実施例5の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。この実施例5の磁気測定装置には、対向形印加コイル1−2,1−3が設けられている。実施例5は、実施例1の印加コイル1−1の代わりに対向形印加コイル1−2,1−3を2つ設け、お互いのコイル面が対向するように配置している。これは、ヘルツホルツコイルとしてよく知られたコイルの組み合わせである。
【0043】
このように、実施例5の磁気測定装置によれば、対向形印加コイル1−2,1−3を配置することにより、正確な磁気応答特性を得ることができる。また、均一な磁場を測定対象8に与えることができるので、測定対象8の各部分について磁気応答を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る実施例1の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る実施例2の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。
【図3】本発明に係る実施例3の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。
【図4】本発明に係る実施例4の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。
【図5】本発明に係る実施例5の磁気測定装置の基本構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1−1 印加コイル
1−2 印加コイル
1−3 印加コイル
2 印加コイル用電源
3 電流源
4 発信器
5−1 磁気センサ
5−2 磁気センサ
5−3 磁気センサ
6 磁気センサ用計測回路
7 ロックインアンプ回路
8 測定対象
9 標準サンプル
10 試料ステージ
11 解析手段
12−1 磁気シールド
12−2 磁気シールド
13 キャンセルコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流磁場を発生させる印加コイルと、印加コイル用電源と、前記印加コイル面から離して測定対象に近づけるように配置され、前記測定対象によって生じた磁場の変化を検知する磁気センサと、該磁気センサ用の計測回路の出力を、前記印加コイルと同じ周波数で位相が互いに90度異なる2つの信号に検波するロックインアンプ回路と、前記測定対象を設置する試料ステージと、前記測定対象中の物質と同一であって、あらかじめその量が分かっている物質を含み、前記試料ステージに上に配置された少なくとも1つ以上の標準サンプルと、前記試料ステージを前記磁気センサに対して移動させる可動機構と、前記印加コイル、前記磁気センサ、および、前記測定対象と前記標準サンプルとを配置した前記試料ステージを囲む磁気シールドと、を備えて構成したことを特徴とする磁気測定装置。
【請求項2】
前記磁気シールドは、少なくとも前記印加コイルの中心軸に対して平行になる取り囲んだ面を持つことを特徴とする請求項1に記載の磁気測定装置。
【請求項3】
前記磁気センサを前記印加コイルの中心軸上に配置し、前記印加コイルと前記測定対象との間に、あるいは前記印加コイルと前記測定対象の先に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気測定装置。
【請求項4】
前記印加コイルが磁気センサ近傍に作る磁場を減衰させるためのキャンセルコイルを備え、該キャンセルコイルの面積は、前記磁気センサによる磁気検出に影響を与えない程度に小さく設定され、前記キャンセルコイルを前記磁気センサから前記測定対象に対して反対位置に配置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気測定装置。
【請求項5】
前記可動機構による前記試料ステージの移動方向を、前記印加コイルの中心軸に対して垂直な面上の方向とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気測定装置。
【請求項6】
前記磁気センサは、前記印加コイルの中心軸に対して水平方向の磁気成分を、前記中心軸に垂直方向の一方向で微分することにより計測することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の磁気測定装置。
【請求項7】
前記印加コイルとして1対の対向形印加コイルを設け、前記測定対象を前記対向形印加コイルの間に配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の磁気測定装置。
【請求項8】
前記磁気センサは、ホール素子、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス効果センサ、フラックスゲート又は超伝導量子干渉素子とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の磁気測定装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の磁気測定装置を用いて、前記測定対象に含まれる水分量を測定することを特徴とする水分量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103534(P2009−103534A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274350(P2007−274350)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構 平成19年度シーズ発掘試験「極低周波を用いた金属深部欠陥の検出と画像化の開発を応用」に関する受託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】