説明

磁気粘性流体を使用したシール手段を有する回転装置

【課題】本発明は、軸線周りで相対的に回転可能となるように同軸状に配設された回転体および固定体を備えた、磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置を提供するものである。
【解決手段】本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置では、前記回転体と前記固定体との一方には、互いの隙間を形成する表面の一部が非磁性体で形成され、前記回転体と前記固定体との他方には、前記隙間を介して前記非磁性体に対して半径方向に対向する位置に磁場発生手段が配設されている。さらに本回転装置では、前記隙間のうち前記非磁性体と前記磁場発生装置に挟まれる領域に磁気粘性流体が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とその軸周りのハウジングや軸受との間の隙間を磁気粘性流体を用いてシールするシール構造を有する回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に軸受装置のような回転装置では、シャフト等の回転軸の軸周りにハウジングや軸受等の固定体が配設され、固定体に対して回転軸が相対的に軸周り回転する構成を有している。このような回転装置において回転軸と固定体との間には環状の隙間が存在し、この隙間を介して周囲の液体や気体が侵入し得る。したがって、回転装置では当該隙間を最適にシールするシール手段が要求されることが多い。
【0003】
従来より上記シール手段の1つとして、回転軸等(以下、総称として「回転体」とも称する)とそのハウジングや軸受等の固定体との隙間に磁場を与えて保持された磁性流体によって、両者をシールするシール構造を有する回転装置が存在する(例えば、特許文献1や特許文献2)。
【0004】
しかしながら、回転装置において、回転軸を鉄のような磁性体で作成し、ハウジング等の
固定体との隙間に磁性流体を保持させるような場合、固定体側から磁性流体に磁場を与えることで回転体と固定体とをひっつけてシールすることは可能となるが、磁場を強めてシール耐圧を強固にしようとすると回転に対する大きな抵抗となってしまい回転に必要なトルクが増大するという問題があった。なお、強固なシール耐圧を得ようとするために磁気粘性流体(例えば、特許文献3)を配置する方法も存在するが(例えば、特許文献4)、回転に対する抵抗が生じるという問題は解決されない。
【0005】
また、上記の回転抵抗の問題は磁性流体が磁性体である回転軸とひっついてしまうことを原因とするものであり回転軸を非磁性体にすることも考えられるが、そもそもここでのシール構造は磁性流体が回転軸とひっつくことで効果を奏するものであり、回転軸として非磁性体を用いることはシール性を損なうことになり本来的な要求を達成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平05−010823号公報
【特許文献2】特開平05−280545号公報
【特許文献3】特表2006−505937号公報
【特許文献4】特開2004−316805号公報
【特許文献5】特開2009−117797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、軸受装置に代表される軸線周りに回転する回転軸等の回転体とハウジング等の固定体とが同軸に配設された回転装置について、大きなトルクを要さないように回転抵抗を低減させつつ、回転体と固定体との隙間への液体や気体の侵入を強固にシールすることが可能な磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置は、軸線周りで相対的に回転可能となるように同軸状に配設された回転体および固定体を備えている。具体的に本回転装置は、前記回転体と前記固定体との一方は、互いの隙間を形成する表面の一部が非磁性体で形成され、前記回転体と前記固定体との他方は、前記隙間を介して前記非磁性体に対して半径方向に対向する位置に磁場発生手段が配設され、前記隙間のうち前記非磁性体と前記磁場発生装置とに挟まれる領域に磁気粘性流体が保持される。
【0009】
また、上記磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置についてさらに具体的には、前記固定体が、前記回転体の外周に同軸に配設され、少なくとも前記回転体の外周面の一部は、非磁性体で形成されることが好ましい。このとき前記磁場発生装置は、前記外周面の一部に対向する前記固定体の内周面内に埋入固定させて、前記回転体の外周面の一部と磁場発生装置との間に位置する隙間に磁気粘性流体を配置させることが好ましい。
【0010】
また、前記回転体は、回転体の軸線をその軸線とするシャフトと、該シャフトの外周に同軸状に配設され該シャフトに対して回転方向に固定された環状のスリーブとを備えもよい。
ここでの前記シャフトは磁性体で構成され、前記スリーブは非磁性体で構成されることが好ましい。
【0011】
さらに、上記磁場発生装置は、前記磁気粘性流体内に軸線方向の磁束を発生させるように、回転体と同軸の環状部材で構成する永久磁石と、該永久磁石を軸線方向に挟み前記回転体と同軸の環状部材で構成する磁性体リング(ヨーク)と、で構成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置によれば、外周の一部を非磁性体で形成した回転体と固定体との隙間に磁気粘性流体を配置し、この隙間に磁場を与えるための磁場発生手段を配設することにより、回転抵抗を低減させることができ、その結果、回転トルクを低減することができる。これは回転体の一部に非磁性体を用いているため磁場発生手段の磁路が回転体を経由せず磁気粘性流体が回転体(磁場発生手段が回転体側に配設される場合には固定体)に吸着しない(吸着力が弱い)からである。
【0013】
また、本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置によれば、上記回転体と固定体との隙間に磁気粘性流体が配置し、磁場発生手段により隙間内の軸線方向に沿った磁束を発生させるとこの磁束により磁気粘性流体の内部応力が増加し、強固なシール耐圧が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置の軸線に沿った断面図である。
【図2】図1のエリアAの拡大図である。
【図3】図1、図2に示すエリアAと同エリアでの変形例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、図1を参照すれば本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置の1つの実施形態が示されている。具体的には、本回転装置の回転軸線に沿った断面図を示している。なお、図1には軸線Xを中心に左右対称であり、左右いずれかに示された部材はこれに対称となる位置の部材も同一の部材を示している。
【0016】
回転体(シャフト等)の構成について
まず、本実施形態の回転装置10では、互いに相対的に軸回転する回転体12と固定体20とで構成されている。具体的には本回転装置10の回転体12は、回転軸としてのシャフト14とこのシャフト14に外挿されるスリーブ16とで同一軸線X上に配設されている。シャフト14は、鉄等の一般的な磁性材料を使用している。スリーブ16は非磁性体として オーステナイト系のステンレスを使用している。なお、スリーブ16は、全体を非磁性体にすることまで要求されないが詳細は後述する。
【0017】
また、スリーブ16は、シャフト14に対して少なくとも軸回転方向に固定する。すなわちシャフト14とスリーブ16とは一体の回転体12として後述の固定体20に対して軸線X周りに回転する。さらに、スリーブ16は、図1の紙面の軸線方向上方から下方にスリーブ前部材16aとスリーブ後部材16bとが配設され、両者が連結されて一体固定している。
【0018】
固定体(ハウジング等)及び磁場発生手段の構成について
次に、スリーブ16には、固定体としてのハウジング20が外挿されるが、スリーブ16の外表面全体16cとハウジング20の内表面全体との間には所定厚さδ(図2参照)の環状の隙間22が形成されている。さらに、スリーブ16とハウジング20との下部(紙面視)において形成された環状の凹部分に転がり軸受24が嵌め込まれている。この転がり軸受24は、スリーブ16とハウジング20との下端部表面で形成された環状の凹部分26に嵌め込まれる。そして、転がり軸受24は、嵌め込まれた状態でから天板30、31を介してスリーブ16とハウジング20との両者にネジ28、29で連結され、固定体20に対する回転体12(シャフト14及びスリーブ16)の軸回転の軸受となる。
【0019】
また、固定体としてのハウジング20は、ここではステンレス等が使用されているが、とりわけ非磁性体に限定されるものではない。なお、本実施形態では固定体12としてスリーブ16に外挿するハウジング20のみを示しているが、他にハウジング20と一体に固定される部材が含まれても良い。
【0020】
次に磁場発生手段2について説明する。
磁場発生手段2は、ハウジング20の内周面に配設されている。具体的に、磁場発生手段2は、永久磁石4とこの永久磁石4のヨークとしての磁性体リング6とで構成されている。図1、図2に示すように永久磁石4は、スリーブ16の外周面及びハウジング20の内周面に沿った環状で断面が矩形の形状をなしており、本実施形態では図示していないが上下に一対に重ねられている。また、磁性体リング6は、断面がスリーブ16方向及び上方向に開放するL字形状の第一磁性体リング6aと、断面が矩形の第二磁性体リング6bとで構成されている。
【0021】
さらに、磁性発生手段2は、ハウジング20の上部内表面側に形成された環状の凹部分20aに上方から嵌め込まれている(紙面視)。そして、磁場発生手段2は、上方から嵌め込まれた状態で天板32を介してハウジング20にネジ29で結合している。なお、上述するようにネジ29については転がり軸受24とハウジング20の下端部との連結にも使用したが、ネジ29はネジ山を有するボルト構造で形成されており、転がり軸受24との連結同様に天板32が上方からハウジング20と磁場発生手段2との両者の上面を押圧して物理的に外れないようにしている。
【0022】
磁気粘性流体について
次に、磁気粘性流体の保持について説明する。図1と図2とに示すように磁気粘性流体8は、本実施形態においては特に(回転体12としての)スリーブ16の外周面と(固定体としての)ハウジング20の内周面との隙間22に保持される。また、具体的にスリーブ16の外表面と磁気粘性流体8とハウジング20の内表面との3者の軸線方向の位置関係(紙面上下方向の位置関係)は、磁場発生手段2が配設される軸線方向に対応するハウジング20の外表面と、これに対向する軸線方向位置にあるスリーブ16の外表面と、その間の隙間8に保持される磁気粘性流体8とで構成される。これにより隙間22に磁気粘性流体8が保持されるとその内部に埃等が侵入することを防止することができる。また、磁気粘性流体8は、本実施形態では前述の特許文献5で開示されたアークプラズマ法で作製したナノサイズの鉄粒子(磁性体)を分散媒に分散させたものを使用しているが、いわゆる磁気粘性流体と称される機能を有する流体であれば他のものでは差し支えない。
【0023】
再び図2に戻ると、磁場発生手段2は次のような磁束が発生する。参照番号Yの矢印に示すように磁束の回路(磁路)Yは、永久磁石4から第一磁性体リング6b方向に向かい天板32に到達する前に隙間22側に曲がる。これは本実施形態では天板32も非磁性体であるステンレスを使用しているので透磁性が非常に小さく、磁束が磁性粒子を含む磁気粘性流体8側に向かうからであり、その後、磁路は透磁性の高い第一磁性体リング6b内を進行する。次に、磁束は磁気粘性流体8内に侵入したら直ちに進路を軸線方向に曲げて磁気粘性流体8内を進行する。これも前述同様、スリーブ16が非磁性体のステンレスを材質とするためステンレス内は透磁性が非常に小さいからである。
【0024】
その意味において、非磁性材料であることを必要とするのは磁気粘性流体8の近傍、すなわち磁場発生手段2に対向するスリーブ16の外表面近傍において非磁性体が配設されていれば足り、スリーブ16を含む回転体12全体としてまで非磁性体であることは要求されない。本実施形態の場合もスリーブ16はステンレスを使用しているがシャフト14は鉄系の磁性体を使用している。
【0025】
さらに、隙間22に保持された磁気粘性流体8内を軸線方向(紙面上下一方向)に進行した磁束は第二磁性体リング6aの近傍まで到達すると再度、第二磁性体リング6a内に進路を曲げてさらに永久磁石4側に曲げて戻され、1つの磁路が形成される。
【0026】
ここで磁束が磁気粘性流体8内を軸線方向に進行している状態について説明する。そもそも磁気粘性流体は、磁化可能な金属粒子を分散媒に分散させてなる液体である。この磁気粘性流体は、磁場の作用のないときには流体として機能する一方、磁場を作用させたときには、金属粒子がクラスターを形成して液体が増粘し、液体の内部応力が増大する。その内部応力の増大により磁気粘性流体は、剛体のように機能してせん断流れや圧力流れに対して抗力を示すようになる。
【0027】
このため磁気粘性流体8は、その内部を軸線方向に進行する磁束に引っついており、上記クラスターの発生による増粘することにより隙間22を高耐圧でシールすることができる。また、親水性の高い界面活性剤を使用した磁性流体を使用した場合にはシール役割の磁性流体が液体に溶解し混合していくためエアのシールにしか使用できなかったが、磁性粘性流体ではこのような問題もなく液体シールにも適している。
【0028】
その一方、回転体12の外表面、すなわちスリーブ16の外表面は非磁性体であるため、固定体20と回転体12との間の軸回転に対しては摩擦力しか作用せず回転抵抗にならない。従って、本発明のように磁場発生装置と磁性粘性流体と非磁性体とを組み合わせたシールの場合、高いシール効果を維持しながら低トルクであるシールを達成することがきる。
【0029】
図3は図1のエリアA内の構造の拡大図である図2の変形例で、図2との違いは永久磁石4のスリーブ側16の内周面の周方向に環状の凹部分4aを設け、スリーブ16の外周面の周方向に凸部分16cを設けてた点である。この構造を付加すると隙間に軸方向にクランク断面形状が形成され、効率の良い磁場を提供することができる。この場合、図3に矢印Zで示すように磁気粘性流体8内の磁路にも屈曲箇所が付加され、さらにシール耐圧が高くなる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の精神と教示との範囲を逸脱しない他の変形例と改良例とが存在することは当業者に明白であろう。具体的には、本実施形態では、回転体12としてシャフト14とスリーブ16とで構成し、スリーブ16を非磁性体としていたが、固定体20との隙間22に対向する部分が非磁性体であれば良く、回転体12は非磁性体のシャフト14のみや他の非磁性体なども考えられる。
【0031】
また、本実施形態では固定体20に磁場発生装置2を設けたために回転体12に非磁性体を使用したが、磁場発生手段2は回転体側12に配設されても良く、その場合は固定体側20に非磁性体を用いる構成となる。また、本実施形態では磁場発生装置2として永久磁石4とこれを挟むヨーク6を使用したが、コイルを用いて電磁石で磁場発生させる方法も考えられる。
【符号の説明】
【0032】
2…磁場発生手段
4…永久磁石
6…磁性体リング(ヨーク)
8…磁気粘性流体
10…回転装置
12…回転体
14…シャフト(回転軸)
16…スリーブ
20…ハウジング(固定体)
22…隙間
24…転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線周りで相対的に回転可能となるように同軸状に配設された回転体および固定体を備えた、回転装置であって、
前記回転体と前記固定体との一方は、互いの隙間を形成する表面の一部が非磁性体で形成され、
前記回転体と前記固定体との他方は、前記隙間を介して前記非磁性体に対して半径方向に対向する位置に磁場発生手段が配設され、
前記隙間のうち前記非磁性体と前記磁場発生装置とに挟まれる領域に磁気粘性流体が保持されることを特徴とする、磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置。
【請求項2】
前記固定体は、前記回転体の外周に同軸に配設され、
少なくとも前記回転体の外周面の一部は、非磁性体で形成され、
前記磁場発生装置は、前記外周面の一部に対向する前記固定体の内周面内に埋入固定させて、
前記回転体の外周面の一部と磁場発生装置との間に位置する隙間に磁気粘性流体を配置させたことを特徴とする、請求項1に記載の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置。
【請求項3】
前記回転体は、回転体の軸線をその軸線とするシャフトと、該シャフトの外周に同軸状に配設され該シャフトに対して回転方向に固定された環状のスリーブとを備え、
前記シャフトは磁性体で構成され、前記スリーブは非磁性体で構成されることを特徴とする請求項2に記載の磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置。
【請求項4】
磁場発生装置は、前記磁気粘性流体内に軸線方向の磁束を発生させるように、回転体と同軸の環状部材で構成する永久磁石と、該永久磁石を軸線方向に挟み前記回転体と同軸の環状部材で構成する磁性体リングと、を含むことを特徴とする磁気粘性流体を用いたシール構造を有する回転装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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